(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
干渉性を有し、試料を励起させる励起光を対物レンズにより平行光にして、平行光にされた前記励起光を前記試料に照射したときに蛍光した戻り光を検出して観察するときに、 前記試料を搭載する試料搭載部に形成された反射面で反射した反射光と前記対物レンズから直接的に入射する前記励起光とを干渉させて前記励起光による定在波を発生させるとともに、前記戻り光が前記反射面で反射される光と前記対物レンズに直接入射する前記戻り光とを干渉させて前記戻り光による定在波を発生させ、
前記励起光による定在波と前記戻り光による定在波の相乗効果により検出される戻り光の強度が極大となる領域のうち、前記反射面に最も近い領域のみを観察対象とする
ことを特徴とする観察方法。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素や蛍光タンパク等を導入した試料に対して照明光を照射して蛍光を発生させ、発生した蛍光に基づいて試料の観察を行う顕微鏡装置が従来から用いられている。この顕微鏡として、特許文献1に開示されるI
5M顕微鏡が用いられている。I
5M顕微鏡は、光軸方向に高解像度の画像を生成するために用いられる顕微鏡であり、試料を挟んで相互に反対側に対物レンズを配置している。
【0003】
試料を挟んだ2枚の対物レンズは相互に焦点位置が重なるように対向配置している。光ファイバにより導光された光は可干渉距離の短い励起光となっており、対物レンズにより平行光にされる。そして、各対物レンズの焦点面において2つの励起光を干渉させて試料を励起させる。この干渉により、焦点面近傍で定在波が発生すると共に、中心面における光強度が極大になる。
【0004】
試料に入射する励起光は平行光であり、相互に干渉していることから、中心面に明暗の干渉縞が発生する。このときの、明となっている縞の間隔はλ/2となっていることから、狭小な領域を照明することができ、分解能を高くしている。
【0005】
励起光が入射した試料は蛍光色素や蛍光タンパク等が励起して蛍光が発生する。この発生した蛍光は2つの対物レンズから回収されて、撮像素子に投影がされる。これにより、試料の像を観察している。このときに、2つの対物レンズから回収された蛍光を干渉させている。これにより、光軸方向の分解能をさらに向上させている。
【0006】
また、I
5M顕微鏡以外の技術としては、特許文献2に開示されている顕微鏡がある。この顕微鏡(Standing Wave Microscopy)は、2つの干渉光を用いて焦点面の近傍に定在波を発生させている。そして、この定在波の間隔を変化させて複数の画像を取得し、取得した画像を用いて計算を行うことにより特定の断面の画像を抽出している。
【0007】
また、光軸方向に高い分解能を得ている顕微鏡としては全反射蛍光顕微鏡(TIRF顕微鏡)がある。このTIRF顕微鏡では、励起光としてエバネッセント光を用いて、エバネッセント場を利用した局所的な励起を行っている。これにより、極めて被写体の深度を浅くすることができ、光軸方向の分解能を高くしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したI
5M顕微鏡は、試料を挟んで対向配置した2つの対物レンズから入射する励起光を干渉させて定在波を発生させている。このために、2つの対物レンズの焦点位置が正確に重なるように配置しなければならない。また、2つの対物レンズから回収された蛍光を干渉させているため、2つの蛍光の光路を重ね合わせる必要がある。従って、顕微鏡全体の光学調整を極めて厳格に行う必要があり、過剰に高い光学調整の精度が要求される。
【0010】
また、Standing Wave Microscopy顕微鏡においては、特定の断面の画像を抽出するために、定在波の間隔が異なる多くの画像取得が必要になる。このため、画像取得動作が煩雑になり、複雑な演算処理を行わなければならない。
【0011】
さらに、TIRF顕微鏡の場合には、エバネッセント場が発生する極めて限定された領域の画像が得られる。つまり、試料の厚さ数百ナノメートルでのみ励起光によって蛍光を発生するため、観察対象となる領域は深さ方向(Z方向)において非常に限定された領域になる。これにより、深さ方向における観察の自由度が低下する。
【0012】
そこで、本発明は、簡単な光学調整および演算処理で高解像度の試料の画像を得ると共に、光軸方向に自由度を持たせた観察を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の顕微鏡装置は、干渉性を有し、試料を励起させる励起光を発振する光源と、前記試料に前記励起光を照射したときに蛍光した戻り光を検出する検出部と、前記励起光を平行光として前記試料に入射させる対物レンズと、この対物レンズから直接的に入射する前記励起光と干渉させるための反射光を発生させ
て前記励起光による定在波を生じさせる反射面を前記対物レンズの焦点の範囲内に配置して、前記反射面に前記試料を搭載した試料搭載部と、を備え、前記戻り光が前記反射面で反射される光と前記対物レンズに直接入射する前記戻り光とを干渉させ
て前記戻り光による定在波を発生させ、前記励起光による定在波と前記戻り光による定在波の相乗効果により前記検出部により検出される戻り光の強度が極大となる領域のうち、前記反射面に最も近い領域のみを観察対象とすることを特徴とする。
【0014】
この顕微鏡装置によれば、試料搭載部に反射面を形成している。これにより、レンズから直接的に入射する平行光の励起光と反射面で反射した平行光の励起光とが干渉して、光軸方向に分解能を高くすることができる。対物レンズは1つを用いているため、簡単な光学調整で行うことができ、多くの画像を取得して複雑な演算処理を行う必要もない。また、エバネッセント光を用いていないため、光軸方向に高い自由度で観察を行うことができる。
【0015】
また、前記励起光が集光する位置を前記対物レンズの瞳位置の中心からずれた位置に配置したことを特徴とする。これにより、干渉により励起光が強め合う領域と干渉により戻り光が強め合う領域との間にずれを生じる。よって、これらの領域が重なった領域が画像化されるため、分解能を高くすることができる。
【0016】
また、前記対物レンズに入射する前記励起光をS偏光に変換する偏光変換部を備えたことを特徴とする。これにより、励起光はS偏光の成分のみに変換されるため、干渉の効率を向上させて、分解能を高くすることができる。
【0017】
本発明の顕微鏡装置は、
干渉性を有し、試料を励起させる励起光を発振する光源と、前記試料に前記励起光を照射したときに蛍光した戻り光を検出する検出部と、前記励起光を平行光として前記試料に入射させる対物レンズと、この対物レンズから直接的に入射する前記励起光と干渉させるための反射光を発生させる反射面を前記対物レンズの焦点の範囲内に配置して、前記反射面に前記試料を搭載した試料搭載部と、前記対物レンズに入射する前記励起光をS偏光に変換する偏光変換部と、前記対物レンズの焦点の範囲内の前記戻り光のみを前記検出部に通過させるピンホールと、前記戻り光を光軸方向に直交する方向に走査する走査部と、を備え
、前記励起光が集光する位置を前記対物レンズの瞳位置の中心からずれた位置に配置したことを特徴とする。これにより、顕微鏡装置を共焦点顕微鏡として用いることができ、光軸方向に高い分解能を得ることができる。
【0018】
また、前記光源からの前記励起光を回折する回折格子と、この回折格子を前記励起光の光軸と直交する方向に移動および前記光軸を中心として回転させる回折格子駆動部と、この回折格子駆動部により前記回折部を移動および回転させたときに前記検出部が検出した複数の前記戻り光の像に基づいて1つの画像を生成する演算を行う演算部と、を備えたことを特徴とする。これにより、顕微鏡装置を構造化照明顕微鏡として用いることができる。従って、光軸方向に直交する方向に高い分解能を得ることができ、3次元に分解能を高くすることができる。
【0019】
また、前記光源は、蛍光可能な状態と不可能な状態とを切り替え可能な蛍光分子が導入された前記試料に対してスイッチング用のレーザ光を発振することを特徴とする。これにより、顕微鏡装置をPALMに適用することができる。PALMでは個々の蛍光分子が蛍光するため、光軸に直交する方向の分解能が高くなる。従って、3次元に分解能の高い画像生成を行うことができる。
【0020】
また、本発明の観察方法は、干渉性を有し、試料を励起させる励起光を対物レンズにより平行光にして、平行光にされた前記励起光を前記試料に照射したときに蛍光した戻り光を検出して観察するときに、前記試料を搭載する試料搭載部に形成された反射面で反射した反射光と前記対物レンズから直接的に入射する前記励起光とを干渉させ
て前記励起光による定在波を発生させるとともに、前記戻り光が前記反射面で反射される光と前記対物レンズに直接入射する前記戻り光とを干渉させ
て前記戻り光による定在波を発生させ、前記励起光による定在波と前記戻り光による定在波の相乗効果により検出される戻り光の強度が極大となる領域のうち、前記反射面に最も近い領域のみを観察対象とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、試料搭載部の試料を搭載する面を反射面として、対物レンズにより平行光にされた励起光を入射している。これにより、対物レンズから直接的に入射した励起光と反射面で反射した励起光とを干渉させて光軸方向の分解能を高くしている。また、戻り光においても干渉させていることから、光軸方向に高い分解能の画像を生成することができる。対物レンズは1枚を用いているため、簡単な光学調整で実現することができる。また、多くの画像を取得して複雑な演算処理を行う必要もない。さらに、エバネッセント光を用いていないため、光軸方向に高い自由度で観察を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は顕微鏡装置1を示している。顕微鏡装置1はランプ光源2と集光レンズ3とピンホール4と励起フィルタ5と投影レンズ6とダイクロイックミラー7と対物レンズ8と試料搭載部9と蛍光フィルタ10と結像レンズ11と撮像素子12と計算機13とを備えて構成している。
【0025】
ランプ光源2は可視光の波長域の光(白色光)を励起光ELとして照射する光源である。
図1において、励起光ELの光路は破線で示している。集光レンズ3はランプ光源2が放出した励起光ELを集光させる。ピンホール4は集光レンズ3の集光点に配置されている。励起フィルタ5は励起光ELの波長域の光を選択的に透過するフィルタである。
【0026】
投影レンズ6は励起フィルタ5を透過した励起光ELを集光させる。この励起光ELの光路にダイクロイックミラー7を配置している。ダイクロイックミラー7は励起光ELの波長域の光を透過し、後述する戻り光RLの波長域の光を反射する特性を有する光学部品である。励起光ELはダイクロイックミラー7を透過して対物レンズ8に入射する。
【0027】
投影レンズ6により励起光ELは集光する。このときの集光位置は対物レンズ8の瞳位置(後ろ側焦点)になる。これにより、対物レンズ8により励起光ELは平行光に変換される。この平行光となった励起光ELが試料搭載部9に搭載された試料Sに入射する。試料Sには蛍光色素や蛍光タンパク等が導入されており、励起光ELの波長により励起されて蛍光を発生する。この蛍光が戻り光RLとなる。
【0028】
試料搭載機構としての試料搭載部9は皿状になっている。そして、励起光ELが入射する側の面を反射面9aとしており、この反射面9aに試料Sを搭載している。反射面9aは励起光ELおよび戻り光RLを反射(全反射)する特性を有している。従って、反射面9aは励起光ELおよび戻り光RLの波長の光を反射すれば、他の波長域の光は透過するものであってもよい。反射面9aは対物レンズ8の焦点面近傍(焦点Fの範囲内)に配置するようにしている。
【0029】
反射面9aとしてはアルミニウムや金等の金属を用いたミラーコーティングを用いることもでき、励起光ELおよび戻り光RLを反射する誘電体多層膜を用いることもできる。なお、反射面9aには保護層を形成してもよい。
【0030】
試料Sが蛍光して発生した戻り光RL(
図1の実線の光路)は対物レンズ8によって回収される。試料Sは対物レンズ8の焦点F(前側の焦点)位置に配置している。このため、試料Sからの戻り光RLは対物レンズ8により平行光に変換される。この平行光となった戻り光RLはダイクロイックミラー7で反射する。そして、ダイクロイックミラー7で反射した戻り光RLは蛍光フィルタ10に入射する。
【0031】
蛍光フィルタ10は戻り光RL(蛍光)の波長域の光のみ透過させる。この蛍光フィルタ10を透過した戻り光RLが結像レンズ11により撮像素子12に結像される。撮像素子12は相互に直交する方向にCCDを配置しており、戻り光RLを平面で受光する。なお、撮像素子12はカメラ等であってもよい。
【0032】
撮像素子12は受光した戻り光RLの像を光電変換してデジタルデータ(光量データ)を生成する検出部になる。撮像素子12が生成する光量データは計算機13に出力される。計算機13は演算部であり、コンピュータ等を適用できる。計算機13は光量データに対して所定の演算処理を行うことで、試料Sの画像生成を行う。
【0033】
次に、動作について説明する。ランプ光源2は干渉性を有する励起光ELを照射して、この励起光ELが集光レンズ3とピンホール4と励起フィルタ5と投影レンズ6とダイクロイックミラー7とを経て、対物レンズ8に入射する。対物レンズ8により励起光ELは平行光にされて試料搭載部9に搭載された試料Sに入射する。
【0034】
対物レンズ8に光軸に沿った平行光を導入した際にできる焦点の形状を
図2のFに示す。このように焦点Fは楕円形の領域になっており、焦点Fの中心が反射面9aと一致するように対物レンズ8を調整している。また、焦点Fの近傍では励起光ELは平行光になっている。このため、励起光ELは反射面9aに直接的に入射する光(直接光)と反射面9aで反射した光(反射光)との2つの光が生じる。これら直接光と反射光とが干渉して試料S上に定在波を発生させる。
【0035】
反射光は反射面9aで反射しているため、直接光に対して位相が180度(λ/2相当)シフトする。反射光と直接光とは相互に向きが異なるため、直接光と反射光とが干渉して定在波(定常波)が発生する。この定在波により、反射面9aからZ方向(光軸方向)において「λ/4」の領域(
図2の領域F1)では直接光と反射光とが強め合うように干渉する。領域F1は直接光と反射光との光路差が「λ/4+λ/4+λ/2=λ」と1波長分になることから定在波の「腹」になり、強度が高くなる。
【0036】
一方、反射面9aから光軸方向において「λ/2」の領域(図示せず)では直接光と反射光とにより弱め合うような干渉が生じる。この領域は、直接光と反射光との光路差が「λ/2+λ/2+λ/2=λ」と3/2波長分になることから、定在波の「節」になる。このために、強度が弱め合って、打ち消される。これにより、当該領域では蛍光(戻り光RL)が発生しなくなる。
【0037】
また、反射面9aから光軸方向において「(3/4)×λ」の領域(
図2の領域F2)では直接光と反射光とが干渉して強め合う。これは、領域F2では直接光と反射光との光路差が「(3/4)×λ+(3/4)×λ+λ/2=2×λ」と2波長分になるためである。ただし、この領域F2の部分は反射面9aからF1よりも離れた位置になっている。ここでランプ光源2から発せられる光は干渉距離が短いため、直接光と反射光とに光路差が生じるにつれて干渉強度が弱くなり、領域F2は領域F1に比べて強度が弱くなっている。従って、領域F2はF1よりも暗い領域となる。
【0038】
さらに、反射面9aから光軸方向においてλの領域(図示せず)では直接光と反射光とが弱め合うような干渉が生じ、打ち消される。つまり、当該領域では直接光と反射光との光路差が「λ+λ+λ/2=(5/2)×λ」と5/2波長分となっている。これにより、弱め合って打ち消される。このため、蛍光(戻り光RL)が発生しなくなる。
【0039】
また、反射面9aから光軸方向において「(5/4)×λ」の領域(
図2の領域F3)では直接光と反射光とが干渉して強め合う。これは、領域F3では直接光と反射光との光路差が「(5/4)×λ+(5/4)×λ+λ/2=3×λ」と3波長分になるためである。ただし、この領域F3の部分は反射面9aからF2よりも離れた位置になっている。ここでランプ光源2から発せられる光は干渉距離が短いため、直接光と反射光とに光路差が生じるにつれて干渉強度が弱くなり、領域F3は領域F2に比べて強度が弱くなっている。従って、領域F3はF2よりも暗い領域となる。
【0040】
従って、定在波によって励起光ELが強め合う領域F1、F2、F3と弱め合う領域(領域F1、F2、F3以外の領域)とが発生する。
図2では定在波により強め合う領域はF1、F2、F3となっているが、これが連続して、明暗の縞を構成する。これにより、励起光ELが明るくなっている領域を狭小な領域とすることができる。つまり、全体の領域に対して「明」の領域が限定的になっている。
【0041】
従って、Z方向に分解能を高くすることができる。
図3は励起光ELのZ方向の光の強度分布を示しており、この図に示すように、3つの領域(F1、F2、F3)の強度が強くなっている。なお、図中において「光強度」は光の強度を示している。
【0042】
一方、励起光ELによって試料Sの蛍光色素や蛍光タンパク等が励起されて、蛍光することにより戻り光RLが発生する。この戻り光RLは対物レンズ8により回収されて、ダイクロイックミラー7で反射する。そして、蛍光フィルタ10で反射して、結像レンズ11により撮像素子12に結像される。この撮像素子12には対物レンズ8の焦点Fの範囲内で蛍光した戻り光RLが検出される。
【0043】
そして、対物レンズ8の焦点Fの中心が反射面9aの中心となるようにしている。このため、試料Sが蛍光したときの戻り光RLは直接的に対物レンズ8に入射する光(直接光)と反射面9aで反射した後に対物レンズ8に入射する光(反射光)との2つが生じる。焦点Fで蛍光した戻り光RLのうち領域F1およびF2の光は、それぞれ直接光と反射光との光路差がλおよび2×λとなる。
【0044】
試料Sが蛍光した戻り光RLは干渉性を有している。よって、戻り光RLの直接光と反射光とが干渉して、強め合う領域と弱め合う領域とが発生する。撮像素子12では焦点Fの範囲内の光を検出するため、焦点Fから外れた位置にある領域F3の戻り光RLは撮像素子12では検出されない。
【0045】
従って、焦点Fのうち領域F1、F2の戻り光RLのみが撮像素子12に検出される。このときの戻り光RLについての強度分布は
図4に示すようになっている。つまり、2つの領域(F1、F2)の強度が高くなっているが、それ以外の領域での強度は低くなっている。また、領域F1の部分は領域F2よりも反射面9aに近い位置になっている。ここで発せられる蛍光も干渉距離が短いため、直接光と反射光とに光路差が生じるにつれて干渉強度が弱くなり、領域F1は領域F2に比べて強度が強くなっている。
【0046】
図4は戻り光RLについてのみの強度分布になっている。この点、励起光ELおよび戻り光RLの両方について干渉の効果を生じる。そして、励起光ELおよび戻り光RLの両方で干渉の効果を生じた光が撮像素子12に結像される。従って、撮像素子12に結像される戻り光RLは、励起光ELおよび戻り光RLの両者の相乗効果により、
図5のような強度分布になる。つまり、
図3および
図4のガウシアン分布よりもシャープな形になり、2つの領域(F1、F2)と他の領域との強度に明確な差を生じる。
【0047】
つまり、励起光ELと戻り光RLとの両者を干渉させることで、Z方向に分解能を高くすることができる。また、これまでは対物レンズ8に光軸に沿った平行光を導入した際にできる焦点Fについて着目して説明を行ったが、これは反射面9aに沿った焦点面についても同様の現象が発生する。これらの焦点面の情報は撮像素子12に結像される。これにより、撮像素子12が検出する戻り光RLの分解能が高くなる。計算機13は撮像素子12が検出した戻り光RLの光量データに基づいて画像生成を行う。よって、Z方向の分解能が高くなるために、生成される試料Sの画像を高解像度にすることができる。
【0048】
ところで、撮像素子12が受光した光のうち観察対象となるのは狭小な領域F1であり、領域F2は観察対象にはなっていない。この点、
図5にも示すように、領域F2についても僅かな強度が生じている。そこで、領域F2の影響を取り除くデコンボルーション処理を行う。
【0049】
このデコンボルーション処理は、計算機13が行う。計算機13は撮像素子12に受光された戻り光RLについて、点像分布関数(PSF)を用いて、領域F2を除去する演算を行う。或いは、戻り光RLを実測して領域F2を除去するように処理を行う。このデコンボルーション処理を行うことで、領域F1のみの蛍光を観察することができ、より狭小な領域の戻り光RLを検出できる。これにより、分解能を高くすることができる。
【0050】
従って、Z方向において高い分解能で試料Sを観察することができる。以上において励起光ELとして単色光を用いてもよい。この場合には、ランプ光源2ではなくLED光源等が考えられる。LED光源を用いる場合には、複数のLED光源を用いて複数波長の単色光を選択的に使用可能な構成とし、蛍光色素の色に応じた波長を持つLED光源を用いる。従って、蛍光色素の色を変えたときには、LED光源から発せられる単色光は蛍光色素の色に応じた波長とする。これにより、複数の色の蛍光色素の画像取得を行うことができる。また、励起光ELをSLD(Super Luminescent Diode)光源としても同様の効果が得られる。
【0051】
次に、変形例1について説明する。
図6に示すように、変形例1では、ランプ光源2と集光レンズ3とピンホール4と励起フィルタ5と投影レンズ6とを一体的な励起光学ユニット21として構成している。また、励起光学ユニット21を光軸方向と直交する方向に移動させる集光位置移動部を光学ユニット移動機構22として設けている。また、励起フィルタ5と投影レンズ6との間に偏光板23を挿入している。
【0052】
偏光変換部としての偏光板23は励起光ELをS偏光光に変換する光学部品である。S偏光は偏光面が入射面(励起光ELと反射面9aの法線とにより形成される面)と直交する方向の面を振動する偏光成分の光となる。偏光板23は単体の光学部品として設けてもよいし、偏光板23の機能(例えば、偏光分離膜)を励起フィルタ5に形成するものであってもよい。
【0053】
光学ユニット移動機構22は励起光学ユニット21をZ軸と直交する方向(図中の矢印の方向)に移動させる集光位置移動部である。励起光ELは投影レンズ6により集光されており、光学ユニット移動機構22が励起光額ユニット21を移動させることにより、励起光ELが集光する位置が対物レンズ8の瞳位置の中心から移動してずれた位置になる。これにより、励起光ELはZ方向に対して斜め方向に進行する平行光に変換される。よって、試料Sには斜め方向から励起光ELが入射する。
【0054】
このとき、励起光ELは対物レンズ8から直接的に入射する直接光と反射面9aで反射した反射光とが干渉して定在波を発生する。ただし、励起光ELはZ軸に対して斜めの方向から入射しているため、
図7に示すように、励起光ELが干渉により強め合う領域F1と領域F2との間隔は
図2の場合と比較して広くなっている。
【0055】
励起光ELにより、対物レンズ8の焦点Fにおいて試料Sは蛍光する。そして、直接的に対物レンズ8に回収される直接光と反射面9aで反射した後に対物レンズ8に回収される反射光とにより干渉が生じる。ただし、励起光ELは斜め方向から試料Sに入射しているため、干渉する領域は
図7の領域F1、F2とは一致しない。
【0056】
図7の領域F3は励起光ELの領域F1によって蛍光する戻り光RLの領域になり、領域F4は励起光ELの領域F2によって蛍光する戻り光RLの領域になる。励起光ELが斜め方向から入射しているため、領域F1とF3とは一致せず、領域F2とF4とは一致しない。つまり、焦点Fの領域F3、F4は領域F1、F2からZ方向にずれた位置になっている。
【0057】
従って、励起光ELと戻り光RLとで干渉する領域にずれを生じる。このため、戻り光RLが実際に蛍光する領域は領域F1とF3とが重なった領域になる。この領域は領域F1およびF3と比較して狭小な領域になる。つまり、戻り光RLの強め合う領域を非常に狭小な領域とすることができる。また、これは反射面9aに沿った焦点面についても同様の現象が発生し、これらは撮像素子12に結像される。これにより焦点面について高い分解能を得ることができ、試料Sの画像を高解像度にすることができる。
【0058】
また、
図7に示すように、領域F2とF4とは重なる領域が生じていない。従って、領域F2およびF4は強度が高くはならない。領域F2とF4とが重なる領域を生じると、この重なる領域の強度が検出されるため、PSFに基づいてデコンボルーション処理を行って、当該領域の強度を除去するようにする。
【0059】
この点、励起光ELを斜め方向から入射しているため、領域F2とF4とに重なりを生じない。よって、格別なデコンボルーション処理を行う必要がなくなり、演算のための手間・時間を要しなくなる。なお、領域F2とF4とに重なりを生じるような場合には、PSFに基づいてデコンボルーション処理を行うようにしてもよい。
【0060】
次に、変形例2について説明する。
図8は変形例2の顕微鏡装置1を示している。この変形例2の顕微鏡装置1は、
図6に示した実施例1を変形した顕微鏡装置1であり、新たにリレーレンズ31、32と光走査ユニット33と蛍光フィルタ34と集光レンズ35とピンホール36と検出器37とを新たに追加している。
【0061】
リレーレンズ31、32はダイクロイックミラー7で反射した戻り光RLをリレーする。リレーされた戻り光RLの位置には光走査ユニット33が配置されている。光走査ユニット33はガルバノミラー33a、33bを有して構成されており、リレーされた戻り光RLを走査する。
【0062】
走査された戻り光RLは蛍光フィルタ34により戻り光RLの波長域のみが透過され、集光レンズ35に入射する。集光レンズ35は戻り光RLをピンホール36に集光させるように調整しており、ピンホール36により焦点Fのみの戻り光RLが通過されるようにしている。
【0063】
そして、ピンホール36を通過した戻り光RLが検出部としての検出器37で検出される。検出器37は前述した撮像素子12とは異なり、点として戻り光RLを受光する。例えば、検出器37としてはフォトディテクタを適用できる。試料Sからの戻り光RLは光走査ユニット33により走査されて、ピンホール36を通過して検出器37で検出される。つまり、焦点Fの領域に限定した試料Sの画像を観察する共焦点顕微鏡として用いることができる。従って、検出器37が検出した戻り光に基づいて共焦点画像を生成することができるため、Z方向の分解能を高くすることができる。
【0064】
次に、変形例3について説明する。変形例3では顕微鏡装置1を構造化照明顕微鏡(Structured Illumination Microscopy)として用いている。ここでは、ランプ光源2ではなくLED41を用いている。また、
図1の実施形態の集光レンズ3とピンホール4と励起フィルタ5とを備えていないが、新たにコリメートレンズ42と回折格子43と回折格子駆動部44とを備えている。
【0065】
LED41が放出した励起光ELはコリメートレンズ42に入射する。コリメートレンズ42は励起光ELを平行光に変換する。そして、平行光に変換された励起光ELが回折格子43に入射する。回折格子43の回折効果によって、励起光ELは+1次光、0次光、−1次光の3つに分岐する。そして、分岐した3つの励起光ELが試料Sに入射する。
【0066】
回折された3つの励起光ELは相互に干渉することによって複雑な干渉パターンを形成する。これにより、反射面9aに平行な方向(
図9の3つの励起光ELが配列した方向)に干渉縞を生じる。この干渉縞の縞方向成分(干渉縞の明暗を生じる方向、つまり3つの励起光ELが配列した方向)に回折限界以下のモアレを生じ、干渉縞を反射面9aの近傍で観察できる。
【0067】
このときに、回折格子駆動部44は回折格子43をZ軸に直交する方向に移動およびZ軸を中心とした回転を行う。回折格子駆動部44は干渉縞の位相が120度ずつずれるように回折格子43を移動させる。つまり、3回の移動を行う。また、回折格子駆動部44はZ軸を中心として120度ずつ回転させる。つまり、3回の回転を行う。
【0068】
回折格子駆動部44は1回の回転を行う毎に3回の移動を行う。従って、移動および回転により合計9回の回折格子43の駆動を行う。1回の駆動ごとに撮像素子12に結像される戻り光RLの像を検出して、演算部としての計算機13が試料Sの画像生成を行う。従って、合計9枚の画像が生成される。
【0069】
計算機13は生成された9枚の画像を用いて数学的に演算を行うことにより1枚の高分解能画像を抽出する。この抽出された試料Sの画像はXY方向に高い分解能の画像となる。このとき、回折された3つの励起光ELはそれぞれ反射面9aで反射し、直接光と反射光とが干渉して定在波を発生する。また、戻り光RLにおいても干渉をする。これにより、Z方向の分解能が高くなる。
【0070】
従って、XY方向の分解能が高くなり、Z方向の分解能も高くなることから、3次元に分解能を高くすることができる。つまり、立体的に試料Sの高解像度の画像を得ることができる。なお、回折格子43は励起光ELを3つに分岐していたが、5つ以上に分岐するものであってもよい。
【0071】
次に、変形例4について説明する。変形例4はPALM(Photoactivated localization microscope)という手法に顕微鏡装置1を適用している。ここでは、ランプ光源ではなくレーザ光源を用い、且つ当該レーザ光源は2色のレーザ光を発振するものを用いる。このうち、1つはスイッチング用のレーザ光であり、もう1つは蛍光取得用のレーザ光である。
【0072】
また、蛍光分子を個別に発光させるために、蛍光のON(蛍光可能な状態)とOFF(蛍光不可能な状態)とを切り替えることが可能な蛍光タンパク質(蛍光プローブ)を用いる。この蛍光プローブを蛍光がOFFの状態で試料Sに導入する。この状態で非常に微弱なスイッチング用のレーザ光で蛍光プローブのスイッチングを行う。このときに、試料Sの各蛍光分子の距離が充分に離れた少数の蛍光分子だけがONにされる条件下でスイッチングを行う。
【0073】
その後に、蛍光取得用のレーザ光で計測された蛍光分子の点像分布にガウス関数によるフィッティングを行う。そして、その中心位置を分子の位置として記録する。続けて、このONの状態の蛍光分子を退色させた後に、別の蛍光分子のスイッチングを行い、この方法を繰り返す。これにより、XY方向の分解能が極めて優れた画像を取得することができる。
【0074】
このときに、励起光ELとしてのレーザ光が反射面9aで反射した反射光と対物レンズ8から直接的に入射した直接光とが干渉して定在波を発生している。また、戻り光RLにおいても直接光と反射光とが干渉する。これにより、Z方向の分解能を高くすることができる。従って、XY方向およびZ方向において分解能を高くすることができ、3次元に高解像度の画像を得ることができる。