【実施例】
【0042】
次に、本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
ポリジメチルシラン100質量部にポリボロジフェニルシロキサン0.5質量部を加え、この混合物を窒素雰囲気中、380℃で10時間加熱反応し、重量平均分子量1000のポリカルボシラン約70質量部を合成した。このポリカルボシランにジルコニウムアセチルアセトナートを5質量部添加し、窒素雰囲気中、300℃で3時間加熱反応し、ポリジルコノカルボシランを得た。このポリジルコノカルボシランを400個のマルチホールノズルにより、約250℃で、ポリマーを供給するギアポンプの回転数を20−22rpmの間で周期的に増減させながら、200m/分の速度で、ケンス方式によりカーボン製のトレイ上に直径約40cmの円形状に1000m溶融紡糸した。ついで、空気中、180℃で5時間熱処理することにより不融化を行った。その後、バッチ方式の焼成炉にトレイに乗せた状態でセットし、窒素中1450℃で1時間焼成した。その後、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取り、長手方向に蛇行し、直径が長手方向に変化した繊維束用無機繊維から構成される複合材料用無機繊維束を作製した。
【0044】
得られた複合材料用無機繊維束は、化学組成が、質量割合で、Si:55.5%、O:9.8%、C:34.1%、Zr:0.6%の炭化ケイ素系繊維(平均直径:16.5μm、400本/繊維束、収束剤:ポリエチレンオキサイド)であった。前記した方法により求めた、蛇行ピッチと蛇行巾、及び、最大径と最小径とその差、及び変化のピッチの測定結果を表1に示す。
図2に300mmの長さの繊維の直径を10mm間隔で測定し、繊維の長手方向の直径の変化を測定した一例を示す。
【0045】
また、このようにして得られた複合材料用無機繊維束中の断面を光学顕微鏡により観察した。その顕微鏡写真を
図3の(a)に示す。また、得られた繊維束の引張強度をJISR7601樹脂含浸ストランド法により測定し、その結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
実施例1おいて、ポリマーを供給するギアポンプの回転数を20rpmと一定にし、紡糸速度を400m/分とし、ドラムに連続に巻取りながら溶融紡糸を行った。ついで、空気中、180℃で5時間熱処理することにより不融化を行った。その後、窒素雰囲気中1450℃で、張力200gをかけて連続焼成を行いながら、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取り、複合材料用無機繊維束を作製した。
【0047】
得られた複合材料用無機繊維束は、化学組成が、質量割合で、Si:55.5%、O:9.8%、C:34.1%、Zr:0.6%の炭化ケイ素系繊維(平均直径:14μm、400本/繊維束、収束剤:ポリエチレンオキサイド)であった。実施例1と同じ方法で測定した、蛇行ピッチと蛇行巾、及び、最大径と最小径とその差、及び変化のピッチの測定結果を表1に示す。
【0048】
また、このようにして得られた複合材料用無機繊維束中の断面を光学顕微鏡により観察した。その顕微鏡写真を
図3の(b)に示す。また、得られた繊維束の引張強度をJISR7601樹脂含浸ストランド法により測定し、その結果を表1に示す。
【0049】
実施例2
ポリジメチルシラン100質量部にポリボロジフェニルシロキサン0.5質量部を加え、この混合物を窒素雰囲気中、380℃で10時間加熱反応し、重量平均分子量1000のポリカルボシラン約70質量部を合成した。このポリカルボシランにテトラブチルチタネートを10質量部添加し、窒素雰囲気中、300℃で3時間加熱反応し、ポリチタノカルボシランを得た。このポリチタノカルボシランを400個のマルチホールノズルにより、約270℃で、ポリマーを供給するギアポンプの回転数を20−22rpmの間で周期的に増減させながら、250m/分の速度で、ドラムに連続に巻取りながら溶融紡糸を行った。その後、ドラムに巻かれた紡糸繊維をカーボン製のトレイ上に直径約30cmの円形状に700m垂下した。ついで、空気中、180℃で5時間熱処理することにより不融化を行った。その後、これを10組作製し、プッシャータイプの焼成炉を使用して、窒素中1350℃、送り速度1m/時間で焼成した。その後、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取り、長手方向に蛇行し、直径が長手方向に変化した繊維束用無機繊維から構成される複合材料用無機繊維束を作製した。
【0050】
得られた複合材料用無機繊維束は、化学組成が、質量割合で、Si:54.4%、O:10.2%、C:33.9%、Ti:1.5%の炭化ケイ素系繊維(平均直径:16μm、400本/繊維束、収束剤:ポリエチレンオキサイド)であった。蛇行ピッチと蛇行巾、及び、最大径と最小径とその差、及び変化のピッチの測定結果を表1に示す。
【0051】
また、このようにして得られた複合材料用無機繊維束中の断面を光学顕微鏡により観察した。その顕微鏡写真を
図3の(c)に示す。また、得られた繊維束の引張強度をJISR7601樹脂含浸ストランド法により測定し、その結果を表1に示す。
【0052】
比較例2
実施例2おいて、ポリマーを供給するギアポンプの回転数を20rpmと一定にし、紡糸速度を450m/分とし、ドラムに連続に巻取りながら溶融紡糸を行った。ついで、空気中、180℃で5時間熱処理することにより不融化を行った。その後、窒素雰囲気中1350℃で、張力100gをかけて連続焼成を行いながら、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取り、複合材料用無機繊維束を作製した。
【0053】
得られた複合材料用無機繊維束は、化学組成が、質量割合で、Si:54.4%、O:10.2%、C:33.9%、Ti:1.5%の炭化ケイ素系繊維(平均直径:14.2μm、400本/繊維束、収束剤:ポリエチレンオキサイド)であった。蛇行ピッチと蛇行巾、及び、最大径と最小径とその差、及び変化のピッチの測定結果を表1に示す。
【0054】
また、このようにして得られた複合材料用無機繊維束中の断面を光学顕微鏡により観察した。その顕微鏡写真を
図3の(d)に示す。また、得られた繊維束の引張強度をJISR7601樹脂含浸ストランド法により測定し、その結果を表1に示す。
【0055】
実施例3
ポリジメチルシラン100質量部にポリボロジフェニルシロキサン0.5質量部を加え、この混合物を窒素雰囲気中、380℃で10時間加熱反応し、重量平均分子量1000のポリカルボシラン約70質量部を合成した。このポリカルボシランにアルミニウムトリセカンダリーブトキシドを4質量部添加し、窒素雰囲気中、300℃で3時間加熱反応し、ポリアルミノカルボシランを得た。このポリアルミノカルボシランを400個のマルチホールノズルにより、約250℃で、ポリマーを供給するギアポンプの回転数を20−22rpmの間で周期的に増減させながら、150m/分の速度で、ドラムに連続に巻取りながら、溶融紡糸を行った。ついで、空気中、180℃で5時間熱処理することにより不融化を行った。その後、窒素雰囲気中1400℃で連続焼成を行い、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取った。これにより、Alを1.0質量%、Bを0.2質量%、及び余剰の炭素を1.5質量%含有する非晶質炭化ケイ素系繊維を得た。ついで、カーボン製のトレイ上に直径約30cmの円形状に1000m垂下し、バッチ方式の焼成炉にトレイに乗せた状態でセットし、アルゴン中1800℃で1時間加熱処理し、結晶化させた。その後、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取り、直径が長手方向に変化した繊維束用無機繊維から構成される複合材料用無機繊維束を作製した。
【0056】
得られた複合材料用無機繊維束は、化学組成が、質量割合で、Si:67.8%、C:31%、O:0.3%、Al:0.84%、B:0.06%(原子比Si:C:O:Al=1:1.07:0.008:0.013)の結晶性炭化ケイ素繊維(平均直径:15μm、400本/繊維束、収束剤:ポリエチレンオキサイド)であった。蛇行ピッチと蛇行巾、及び、最大径と最小径とその差、及び変化のピッチの測定結果を表1に示す。
【0057】
また、このようにして得られた複合材料用無機繊維束中の断面を光学顕微鏡により観察した。その顕微鏡写真を
図3の(e)に示す。また、得られた繊維束の引張強度をJISR7601樹脂含浸ストランド法により測定し、その結果を表1に示す。
【0058】
比較例3
実施例3において、ポリマーを供給するギアポンプの回転数を20rpmと一定にし、紡糸速度を500m/分とした。ついで、同様に、不融化と連続焼成を行い、得られた、Alを1.0質量%、Bを0.2質量%、及び余剰の炭素を1.5質量%含有する非晶質炭化ケイ素系繊維を、張力100gをかけてアルゴン中1800℃で連続的に加熱処理しながら結晶化させ、ポリエチレンオキサイドを1質量%添加した水溶液に浸漬し200℃で乾燥させながらボビンに巻取り、複合材料用無機繊維束を作製した。
【0059】
得られた複合材料用無機繊維束は、化学組成が、質量割合で、Si:67.8%、C:31%、O:0.3%、Al:0.84%、B:0.06%(原子比Si:C:O:Al=1:1.07:0.008:0.013)の結晶性炭化ケイ素繊維(平均直径:12.5μm、400本/繊維束、収束剤:ポリエチレンオキサイド)であった。蛇行ピッチと蛇行巾、及び、最大径と最小径とその差、及び変化のピッチの測定結果を表1に示す。
【0060】
このようにして得られた複合材料用無機繊維束中の断面を光学顕微鏡により観察した。その顕微鏡写真を
図3の(f)に示す。また、得られた繊維束の引張強度をJISR7601樹脂含浸ストランド法により測定し、その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1、2、3、および比較例1、2、3で得られた結果について、以下説明する。
図3から、実施例1、2、3はそれぞれ比較例1、2、3と比較して、繊維束は広がっており、長手方向に、本発明の蛇行ピッチ、蛇行巾を付与し、繊維直径を長手方向に、本発明の最大直径と最小直径の差を付与する効果が認められる。一方、比較例1、2、3から、長手方向に蛇行し、長手方向に直径を変化させても、本発明の範囲外では、ほとんど繊維束は広がっておらず、効果のないことがわかる。このように、本発明では、繊維強度を維持しつつ、繊維束中の繊維間隔を大きくかつ適度に広げることが可能であることがわかる。
【0063】
実施例4
実施例1の複合材料用無機繊維束を3次元織物(繊維割合は、X:Y:Z=1:1:0.2)に製織した。ついで、アルゴン中、1000℃でサイジング剤を分解除去後、化学気相蒸着法により窒化ホウ素の界面層、および炭化ケイ素のマトリックスを形成して、セラミックス基複合材料を作製した。界面層は、三塩化ホウ素とアンモニアを原料ガス、アルゴンをキャリアガスとして、減圧下、1000℃で約0.5μmの厚さとした。マトリックスはメチルトリクロロシランを原料ガス、ヘリウムをキャリアガスとして、減圧下、1000℃で緻密化を行った。マトリックス形成後の空隙率は約10%で、繊維堆積率は40%であった。
【0064】
複合化する前の3次元織物の一部をほぐして、繊維束を抽出し、JISR7601樹脂含浸ストランド法により引張強度を測定した。また、作製したセラミックス基複合材料から引張試験片を加工して、室温での引張強度と破断ひずみを測定した。また、大気中1000℃で、室温での引張強度の60%の応力をかけて破断までの時間を測定し、耐久性を評価した。表2に3次元織物から抽出した繊維の引張強度、作製したセラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみ、及び、室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間を示す。
【0065】
実施例5
実施例2の複合材料用無機繊維束を用いて、実施例4と同じ方法で、セラミックス基複合材料を作製した。
【0066】
表2に3次元織物から抽出した繊維の引張強度、作製したセラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみ、及び、室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間を示す。
【0067】
実施例6
実施例3の複合材料用無機繊維束を用いて、実施例4と同じ方法で、セラミックス基複合材料を作製した。
【0068】
表2に3次元織物から抽出した繊維の引張強度、作製したセラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみ、及び、室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間を示す。
【0069】
比較例4
比較例1の複合材料用無機繊維束を用いて、実施例4と同じ方法で、セラミックス基複合材料を作製し、評価を行った。表2に3次元織物から抽出した繊維の引張強度、作製したセラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみ、及び、室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間を示す。
【0070】
比較例5
比較例2の複合材料用無機繊維束を用いて、実施例5と同じ方法で、セラミックス基複合材料を作製し、評価を行った。表2に3次元織物から抽出した繊維の引張強度、作製したセラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみ、及び、室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間を示す。
【0071】
比較例6
比較例3の複合材料用無機繊維束を用いて、実施例6と同じ方法で、セラミックス基複合材料を作製し、評価を行った。表2に3次元織物から抽出した繊維の引張強度、作製したセラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみ、及び、室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間を示す。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例4、5、6と比較例4、5、6で得られた結果について以下説明する。繊維の引張強度については、いずれも低下は認められない。これから、長手方向に蛇行し、長手方向に直径を変化させて、3次元織物のような複雑な製織を行っても、繊維の引張強度は低下しないことがわかる。
【0074】
セラミックス基複合材料の室温での引張強度と破断ひずみについては、実施例4、5、6のセラミックス基複合材料は、引張強度、破断ひずみともに、それぞれ比較例4、5、6よりも高い値を示している。破面観察から、実施例4、6では、繊維束中の繊維同士の接触はなく、窒化ホウ素の界面層も各繊維表面に均一に形成されていることが確認され、繊維のプルアウトも顕著に観察され、界面層が有効に機能していることが確認された。これが、高い強度、破断ひずみが得られた原因と考えられる。実施例5は、実施例2の繊維束の広がりが実施例1、3の繊維束の広がりよりも小さくなっているため、実施例4、6に比べ、繊維束中の一部に繊維同士の接触が認められた。これらの接触箇所では、窒化ホウ素の界面層が形成されておらず、繊維のプルアウトも少なくなっており、やや低い値となった原因と考えられる。
【0075】
比較例4、5、6においては、破面観察から、繊維束中のほとんどの繊維同士が互いに接触しており、接触箇所では界面層が形成されていなかった。また、繊維のプルアウトも少なく、繊維の破断が繊維同士の接触点から発生しており、接触点が応力集中の原因であることが確認された。このように、3次元織物に加工するまでの繊維強度の低下はないが、繊維同士の接触点による応力集中と不均一な界面層が、低い強度と破断ひずみを示す原因と考えられる。
【0076】
セラミックス基複合材料の室温での引張強度の60%の応力をかけた状態で、大気中1000℃での破断までの時間については、実施例4、5、6のセラミックス基複合材料は、実施例5でやや低い値となっているが、それぞれ比較例4、5、6よりも長い破断時間を示している。実施例4、6の破面観察では、繊維のプルアウトが、室温での引張試験後の破面に比べて少ないものの、顕著に観察され、繊維や界面層の酸化によるガラス層形成はわずかであった。実施例5では、実施例4、6に比べ、繊維同士の接触により、ガラス層がやや多く観察され、これが、やや低い値となった原因と考えられる。なお、破断時間は、実施例の中では、実施例6が最も長く、実施例5が最も短くなっている。これは、繊維自身の耐熱性に依存しているためで、実施例3の繊維の耐熱性が最も優れており、実施例2の繊維の耐熱性が最も劣っているためである。
【0077】
比較例4、5、6の破面観察では、繊維束中のほとんどの繊維同士が接触しており、接触点近傍にガラス層が顕著に観察された。これらの大量の優先的なガラス層の形成により、繊維同士が強固に結合して、応力集中の原因となり、脆性的な破壊を起こし、破断時間を短くした原因と考えられる。なお、破断時間は、比較例の中では、比較例6が最も長く、比較例5が最も短くなっている。これは、前記したように繊維自身の耐熱性に依存しているためで、比較例3の繊維の耐熱性が最も優れており、比較例2の繊維の耐熱性が最も劣っているためである。