特許第5668892号(P5668892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5668892-エステル化水溶性大豆多糖類 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668892
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】エステル化水溶性大豆多糖類
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20150122BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20150122BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20150122BHJP
   A23L 1/035 20060101ALN20150122BHJP
   A23D 7/00 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
   C08B37/00 J
   A61K8/06
   A61K8/97
   A61Q19/00
   A61Q5/00
   A61Q1/00
   A61K9/107
   A61K47/36
   !A23L1/035
   !A23D7/00 504
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-506684(P2014-506684)
(86)(22)【出願日】2013年12月18日
(86)【国際出願番号】JP2013083929
(87)【国際公開番号】WO2014112276
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2014年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-6456(P2013-6456)
(32)【優先日】2013年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰宏
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/027648(WO,A1)
【文献】 特開平06−256402(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/044255(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/149738(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/061570(WO,A1)
【文献】 特開2010−231806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61K
A23L
B01F
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖を構成するアラビノース残基及び/又はガラクトース残基に含まれる水酸基の1つ以上が酢酸エステル化された構造を有する、エステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)
【請求項2】
前記酢酸エステル化された構造が、前記エステル化水溶性大豆多糖類の全量100重量%に対し、遊離酢酸換算で2重量%以上含まれる、請求項1に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)
【請求項3】
前記酢酸エステル化された構造が、前記エステル化水溶性大豆多糖類の全量100重量%に対し、遊離酢酸換算で2重量%以上10重量%以下含まれる、請求項1に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)
【請求項4】
前記酢酸エステル化された構造が、前記エステル化水溶性大豆多糖類の全量100重量%に対し、遊離酢酸換算で3重量%以上含まれる、請求項1に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)
【請求項5】
前記酢酸エステル化された構造が、前記エステル化水溶性大豆多糖類の全量100重量%に対し、遊離酢酸換算で3重量%以上10重量%以下含まれる、請求項1に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)
【請求項6】
水溶性大豆多糖類に対して酢酸エステル化処理を行う工程を含む(水溶性大豆多糖類をアルカリを用いてpH9〜14に調整して脱メチルエステルする工程を除く。)、請求項1〜5の何れか1項に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)を製造する製造方法。
【請求項7】
前記酢酸エステル化処理が、前記水溶性大豆多糖類と無水酢酸又は酢酸ビニルとを混合し反応させることにより行われる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性大豆多糖類の乾燥重量100重量部に対し、無水酢酸又は酢酸ビニルの混合量が1〜50重量部である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性大豆多糖類の乾燥重量100重量部に対し、無水酢酸又は酢酸ビニルの混合量が2〜40重量部である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記水溶性大豆多糖類の乾燥重量100重量部に対し、無水酢酸又は酢酸ビニルの混合量が3〜30重量部である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5の何れか1項に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)を含有する乳化剤。
【請求項12】
請求項11に記載の乳化剤を用いて形成した水中油型乳化物。
【請求項13】
前記水中油型乳化物における油分量1重量部に対して、前記エステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)を0.2〜5重量部含有する、請求項12に記載の水中油型乳化物。
【請求項14】
前記水中油型乳化物における油分量1重量部に対して、前記エステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)を0.5〜3重量部含有する、請求項12に記載の水中油型乳化物。
【請求項15】
請求項1〜5の何れか1項に記載のエステル化水溶性大豆多糖類(ウロン酸に対するメチルエステル含量が30%以下であるものを除く。)の、乳化剤の調製のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化水溶性大豆多糖類に関する。詳細には、側鎖を構成するアラビノース残基又はガラクトース残基に含まれる水酸基の少なくとも一部が酢酸エステル化されたエステル化水溶性大豆多糖類、並びに、それを含有する乳化剤及び乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来知られている高分子乳化剤としては、アラビアガム、水溶性大豆多糖類又はカゼインのような天然物、或いはポリアクリル酸塩又はポリビニルアルコールのような合成品、或いは澱粉に両親媒性を付与したオクテニルコハク酸澱粉のような半合成品が挙げられる。これらの高分子乳化剤は、乳化物を高度に希釈しても乳化状態が破壊されずに保持されるうえ、加熱に対する安定性及び酸性下での安定性に優れているため、飲料のフレーバリングに用いる乳化香料の基材として利用される。
【0003】
アラビアガムは、アラビアガム中の糖鎖が親水基として、糖鎖に結合したポリペプチドが疎水基として機能することにより、水中油型(O/W型)乳化物を安定化する。アラビアガムを用いて調製した乳化物は、糖鎖が油滴界面に厚い親水層を形成し、高度に希釈した場合でもアラビアガムが油滴界面に分離することが少ないため、乳化香料用の優れた乳化剤として利用されている。しかし、安定な乳化状態の乳化香料を得るには、油相20重量%の場合一般的に系中12重量%以上(油分1重量部に対し0.6重量部以上)の高濃度の配合を必要とするうえ、生産国の気候や治安情勢により供給量が変動し市場価格が一
定でない等の問題があり、乳化力及び乳化安定性に優れ、かつ安定供給可能な高分子乳化剤が望まれている(非特許文献1)。
【0004】
Acacia Senegal種に属するアラビアガムを加熱することによって得られる重量平均分子量が90万以上の水溶性改質アラビアガムは、乳化力及び乳化安定化力に優れている。しかし、直径1μm未満の乳化粒子径を有する乳化物を調製するには、高圧ホモジナイザーによる均質化が必要である(特許文献1)。
【0005】
また、従来の水溶性大豆多糖類を用いて安定な乳化香料を得るには、アラビアガムと同様に多量の添加を必要とし、乳化香料の粘度を上昇させてしまう問題点があった。比較的低粘度の物性を有する水溶性大豆多糖類が報告されているが(特許文献2)、乳化力は十分なものでなく、更なる乳化力の向上が望まれている。
【0006】
さらに、合成のポリアクリル酸塩又はポリビニルアルコール等は、乳化力に優れるものの、粘度が高いため、用途が限られる。
【0007】
一方、化工澱粉には、エーテル化澱粉,エステル化澱粉,架橋澱粉,及びグラフト化澱粉等、様々な種類が存在する。その中で、エステル化澱粉の一つであるオクテニルコハク酸エステル化澱粉は、乳化力には優れているが、乳化香料のような高度に希釈した系では乳化安定性が極めて低く、長期間の保存には適さない。
【0008】
さらに、上記以外に酢酸エステルを多く含有する天然多糖類としてカラヤガムがある。カラヤガムは、水に部分的に可溶であるが大部分は分散するに留まり、乳化力及び乳化安定化力を示すものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2006−522202号公報
【特許文献2】特開平5−262802号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】國▲崎▼直道、「食品多糖類 乳化・増粘・ゲル化の知識」、幸書房(2001)77−84頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、アラビアガム等の従来の高分子乳化剤は、十分な乳化力を発揮するため高い添加量を必要とし、その結果、乳化物の粘度が高くなってしまったり、風味が悪化したりするという問題点があった。また、高度希釈に対する耐性及び乳化物の安定性等にも課題があった。そこで本発明は、従来の高分子乳化剤に比べて向上した乳化力を有する高分子乳化剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、側鎖を構成するアラビノース残基又はガラクトース残基の水酸基の1つ以上が酢酸エステル化された構造を有するエステル化水溶性大豆多糖類が、主鎖にのみ酢酸エステル構造を有し得る従来の天然水溶性大豆多糖類と比較して極めて高い乳化力を発揮することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、側鎖を構成するアラビノース残基及び/又はガラクトース残基に含まれる水酸基の1つ以上が酢酸エステル化された構造を有する、エステル化水溶性大豆多糖類を提供する。一実施形態では、酢酸エステル化された構造が、エステル化水溶性大豆多糖類の全量100重量%に対し、遊離酢酸換算で2重量%以上含まれる。
【0014】
本発明はまた、水溶性大豆多糖類に対して酢酸エステル化処理を行う工程を含む、上記エステル化水溶性大豆多糖類を製造する製造方法を提供する。一実施形態では、酢酸エステル化処理が、水溶性大豆多糖類と無水酢酸又は酢酸ビニルとを混合し反応させることにより行われる。他の実施形態では、水溶性大豆多糖類の乾燥重量100重量部に対し、無水酢酸又は酢酸ビニルの混合量が1〜50重量部である。
【0015】
本発明はまた、上記エステル化水溶性大豆多糖類を含有する乳化剤、及び、該乳化剤を用いて形成した水中油型乳化物を提供する。一実施形態では、水中油型乳化物が、上記水中油型乳化物における油分量1重量部に対して、エステル化水溶性大豆多糖類を0.2〜5重量部含有する。
【0016】
本発明はさらに、上記エステル化水溶性大豆多糖類の、乳化剤の調製のための使用を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、従来の水溶性大豆多糖類よりも少量で乳化力及び乳化安定化力を発揮することができる。また、本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、最終製品の粘度上昇や風味悪化を生じさせることなく乳化粒子径を小さくすることができ、かつ、乳化粒子の粒度分布が均一であるため、最終製品への配合の幅を拡げることが可能である。
【0018】
また、アラビアガム等の従来の高分子乳化剤を用いた乳化物の製造に際して、高圧ホモジナイザーによる均一化処理を複数回必要とし、設備面及び作業面での負担が大きかったのに対して、本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、高圧ホモジナイザーによる均質化処理を行うことなく、緩やかな撹拌のみで粒子径を小さくできる、優れた乳化力を発揮できるため、乳化物の製造を容易にすることができる。
【0019】
さらに、本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、得られた乳化物、特に水中油型乳化物が、加熱、長期保存又は経時変化等によって乳化粒子同士が凝集したり合一したりすることを抑制でき、乳化力だけでなく乳化安定性をも向上させることができる。
【0020】
本発明の製造方法によれば、従来の天然水溶性大豆多糖類を容易に酢酸エステル化処理ができ、歩留まりも良く製造コストが抑えられるうえ、製造工程の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、側鎖構成糖のMALDI−TOF−MS分析スペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[エステル化水溶性大豆多糖類]
一実施形態では、エステル化水溶性大豆多糖類が、側鎖を構成するアラビノース残基及び/又はガラクトース残基に含まれる水酸基の1つ以上が酢酸エステル化された構造を有する。エステル化水溶性大豆多糖類は、大豆から得られた水溶性大豆多糖類を原料に製造することができる。
【0023】
(水溶性大豆多糖類)
原料として使用する水溶性大豆多糖類は、既知の種々の方法によって大豆から得られた水溶性多糖類である。例えば、特許第2599477号に記載されたような水溶性大豆多糖類が挙げられる。製造の一例を示せば、豆腐、豆乳又は分離大豆蛋白質の製造時に副産物として得られるオカラ又は脱脂大豆粕(ミール)を原料として、大豆蛋白質の等電点付近である弱酸性域、例えばpH4〜6で、水系で高温抽出し、固液分離により水溶性大豆多糖類を得ることができる。特に分離大豆蛋白質製造時のオカラが、油分及び蛋白質がともに少ないため、原料として好ましい。抽出温度は100℃を超えると抽出効率が高いた
め好ましい。なお、抽出温度の上限は特に規定されないが、極度に高温で行うと副反応が起き、着色しやすくなり好ましくない。したがって、抽出温度は通常190℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下が適当である。
【0024】
原料である水溶性大豆多糖類は、主要な構成糖として少なくともラムノース,フコース,アラビノース,キシロース,ガラクトース,グルコース及びウロン酸を含むものであり、例えばラムノース1〜7重量%、フコース2〜8重量%、アラビノース15〜50重量%、キシロース2〜10重量%、ガラクトース25〜60重量%、グルコース4重量%以下、ウロン酸10〜35重量%の糖組成を有するものが挙げられる。ウロン酸は6位のカルボキシル基がメチルエステル化されたものを含むことがあるが、その割合は特に制限されない。
【0025】
水溶性大豆多糖類は、主鎖と側鎖とから構成された、高度分岐型糖鎖構造を有する。主鎖としては、ガラクツロン酸からなるホモガラクツロナン、並びに、ガラクツロン酸とラムノースと、場合によって他の糖等とからなるラムノガラクツロナンを含む糖鎖から構成される。側鎖は、主鎖のラムノース残基から分岐したアラビナン及びガラクタンからなる側鎖、並びに、主鎖のガラクツロン酸残基から分岐したキシランからなる側鎖から構成されている。このうち、主鎖のガラクツロン酸残基はペクチンと同様、天然に酢酸エステル化されていることがある一方、側鎖には酢酸エステル構造が含まれない。
【0026】
水溶性大豆多糖類は、任意の分子量のものを原料として用いることができるが、重量平均分子量が好ましくは5千〜150万、より好ましくは5万〜100万のものが用いられる。なお、この重量平均分子量は、標準プルラン(昭和電工(株)製)を標準物質としてTSK−GEL G−5000PWXLカラム(東ソー株式会社)を用いたゲル濾過HPLCによって求めた値である。
【0027】
(エステル化水溶性大豆多糖類)
本明細書における「エステル化水溶性大豆多糖類」とは、側鎖を構成するアラビノース残基又はガラクトース残基に含まれる水酸基の1つ以上が酢酸エステル化された構造を分子内に有する水溶性大豆多糖類をいう。上記酢酸エステル化された構造(「酢酸エステル構造」ともいう)は、水溶性大豆多糖類と、例えば酢酸基を生じる化合物とを反応させることによって形成できる。
【0028】
エステル化水溶性大豆多糖類の側鎖におけるアラビノース残基又はガラクトース残基に含まれる水酸基の数に応じて、導入される酢酸エステル構造の最大数は決定されるが、すべての水酸基に酢酸エステル構造が導入されていなくても所望の効果が達成される。所望の乳化力を達成するために、水溶性大豆多糖類の乾燥重量の全量100重量%に対する上記酢酸エステル構造が、遊離酢酸換算で好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。上限については特に限定されないが、10重量%を超えても乳化力に大きな変化がないため、10重量%以下であればよい。なお、エステル化水溶性大豆多糖類に
含まれる酢酸エステル構造の定量方法は後述のとおりである。
【0029】
エステル化水溶性大豆多糖類の重量平均分子量は、原料となる水溶性大豆多糖類の分子量によって異なり得るが、好ましくは5千〜150万、より好ましくは5万〜100万である。なお、この重量平均分子量は、標準プルラン(昭和電工(株)製)を標準物質としてTSK−GEL G−5000PWXLカラム(東ソー株式会社)を用いたゲル濾過HPLCによって求めた値である。
【0030】
エステル化水溶性大豆多糖類は、アラビアガム又はエステル化されていない水溶性大豆多糖類よりも高い乳化力を有し、得られた乳化物の乳化安定性も高い。ここで、「乳化力」とは、水と油とのような混ざり合わない物質同士の界面に吸着し、一方を他方に均一に細かく分散させその状態を維持する能力をいい、例えば乳化粒子径によって評価され得る。一方、「乳化安定性」又は「乳化物が安定すること」とは、保存中に乳化物の乳化粒子径が著しく大きくなるあるいは乳化界面が破壊され乳化されていた物質が遊離するといった状態を生じず、乳化物の状態を維持することをいい、例えば乳化粒子径の経時的変化や、乳化された物質の経時的な遊離の有無によって評価され得る。
【0031】
[エステル化水溶性大豆多糖類の製造方法]
エステル化水溶性大豆多糖類の製造方法は、特に限定されないが、一実施形態では、大豆から得られた水溶性大豆多糖類に対して酢酸エステル化処理を行う工程を含む。
【0032】
(酢酸エステル化処理)
酢酸エステル化処理の原料である水溶性大豆多糖類は、上述したとおりである。天然のものであってもよく、他の処理を行った加工水溶性大豆多糖類であってもよい。また、例えば水溶性大豆多糖類の抽出濾液又は抽出濾液の精製物であってもよく、抽出濾液又はその精製物をさらに乾燥した物であってもよい。
【0033】
酢酸エステル化処理の方法としては例えば、原料の水溶性大豆多糖類の水溶液、又は該水溶液と、アルコール及びアセトン等の極性有機溶媒との混合溶液に、例えば無水酢酸、酢酸ビニル、氷酢酸、塩化アセチル、及びケテン等の、水酸基及び酢酸エステルを形成する物質を混合して反応させることによって行う。上記水酸基及び酢酸エステルを形成する物質の中で、無水酢酸及び酢酸ビニルが生産上の安全性の観点から好ましい。氷酢酸の場合、安全性は高いが反応性が弱い場合がある。塩化アセチルの場合、水と激しく反応する危険性がある。ケテンの場合、有毒な気体のため取り扱いが難しい等の課題がある。酢酸エステル化処理が、水溶性大豆多糖類と無水酢酸又は酢酸ビニルとを混合し反応させることにより行われることが好ましい。
【0034】
反応は、pHを好ましくは5〜10、より好ましくは7〜9(中性から弱アルカリ性)に維持しながら撹拌下に行われる。pHが5よりも低いと水溶性大豆多糖類の酢酸エステル化が十分に行えない場合がある。また、pHが10よりも高くても水溶性大豆多糖類が脱離して、酢酸エステル化が十分に行えない場合がある。反応中に反応溶液のpHが低下するため、pHを中性から弱アルカリ性に維持するため、アルカリ剤を固体若しくは溶液の形態で添加することが好ましい。この際に添加するアルカリ剤としては、例えば水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,及び水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸カリウム,炭酸ナトリウム,炭酸リチウム,及び炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、クエン酸ナトリウム,及びシュウ酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機酸塩、リン酸三ナトリウム等のアルカリ金属の無機酸塩、水酸化カルシウム,及び水酸化マグネシウム等の2価金属の水酸化物、並びに、アンモニア等が挙げられる。
【0035】
反応温度は、反応液中で反応物質が完全に溶解する温度に適宜調整すればよく、好ましくは0℃以上60℃以下、より好ましくは10℃以上50℃以下である。60℃より高い温度になると、例えば無水酢酸の場合、加水分解が早まり、水溶性大豆多糖類と反応しないまま酢酸に分解するものが増える場合がある。
【0036】
酢酸エステル化処理の際に用いられる、水酸基及び酢酸エステルを形成する物質の混合量は、水溶性大豆多糖類の乾燥重量100重量部に対し、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは2〜40重量部、さらに好ましくは3〜30重量部が適当である。混合量が少なすぎる(例えば1重量部未満の量)と、酢酸エステル化が十分に行えない場合がある。また、添加量が多すぎても(例えば50重量部を超える量)酢酸エステル化の効率に差が出ない場合がある。
【0037】
(精製処理及びその他の工程)
酢酸エステル化処理の後に、場合によって、精製処理によって酢酸エステル化処理後の水溶性大豆多糖類を精製する工程を行ってもよい。精製処理は、原料の水溶性大豆多糖類に対して行ってもよい。
【0038】
精製処理としては、酢酸エステル化処理後の水溶性大豆多糖類、好ましくは酢酸エステル化処理後に中和を行った水溶性大豆多糖類に対して、必要に応じて脱塩及び/又は除蛋白等を施すことが挙げられる。
【0039】
脱塩精製の方法は、塩類を分離除去できるいずれの方法でも構わない。メタノール,エタノール,イソプロパノール,及びアセトン等の極性有機溶媒を用いて行う再沈殿法、活性炭処理、樹脂吸着処理、限外濾過法、逆浸透法、ゲル濾過法、透析法、イオン交換樹脂法、電気透析法及びイオン交換膜法が例示でき、これらの一種のみ行ってもよく、二種以上を組み合わせて行ってもよい。除蛋白の方法は、酸又はアルカリで大豆蛋白質の等電点付近にpH調整することで蛋白質を凝集させ、凝集物を圧濾分離、遠心分離、ろ過及び膜分離等によって除去する方法、任意の既知のプロテアーゼを用いて分解する方法、並びに、活性炭若しくは樹脂を用いて吸着除去する方法等が挙げられる。これらの一種、又は二種以上を組み合わせて夾雑蛋白質を除去するのが望ましい。
【0040】
精製処理以外に、未精製又は精製したエステル化水溶性大豆多糖類の溶液は、必要に応じて濃縮処理、並びにプレート殺菌又は蒸気殺菌等の殺菌処理を行ってもよく、さらに乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、凍結乾燥,スプレードライ,ドラムドライヤー乾燥等が例示でき、必要に応じて乾燥後に粉砕することもできる。これらの乾燥方法は、乾燥処理前の水溶性大豆多糖類の状態によって適宜に選択され得る。
【0041】
(酢酸エステル構造の定量方法)
水溶性大豆多糖類における酢酸エステル構造の含有量は、水溶性大豆多糖類全体に対する、酢酸エステル構造の相対的な含有量、ここでは、酢酸量(重量%)にて定量する。定量方法は、例えば水溶性大豆多糖類にエステル結合した酢酸を水解し、遊離した酢酸をイオンクロマトグラフィーによって定量し、以下の式Iにより、エステル化水溶性大豆多糖類中に含まれる酢酸エステルに相当する酢酸量が求められる。すなわち、式Iにより求められる酢酸量を、遊離酢酸換算して求めた「酢酸エステル化された構造の量」とする。
酢酸量=1.4×V2−V1 (式I)
【0042】
上記式中、V1はエステル分解する前の水溶性大豆多糖類についてイオンクロマトグラフィーによって測定した酢酸量であり、試料である水溶性大豆多糖類の例えば0.3重量%溶液の5mlを分子量1万カットのフィルターに通過させた液を試料とし、この試料溶液に含まれる酢酸量をイオンクロマトグラフィーによって測定する。また、V2は例えば同試料の0.3重量%溶液5mlに、0.5N水酸化ナトリウム1mlを加え、40℃,20分間、エステル分解処理を行った後、等量の0.5N塩酸1mlを添加し、中和後に分子量1万カットのフィルターに通過させた液を試料とし、この試料溶液に含まれる酢酸量を同様にイオンクロマトグラフィーによって測定する。「1.4×」は、試料が希釈された量の補正係数((5+1+1)ml/5ml)である。上記の計算式により、水溶性大豆多糖類に含まれる酢酸エステルに由来する酢酸量が求められる。
【0043】
イオンクロマトグラフィーは、例えばコンパクトIC 861(メトロームジャパン製)を用い、カラムはShodex RS Pak KC−811(φ8mm×300mm),50℃,溶離液は1mM過塩素酸(流量1ml/min),検出器に電気伝導度検出器,標準物質に酢酸ナトリウムを用いる。
【0044】
(側鎖を構成する糖の酢酸エステル化の定性分析方法)
得られたエステル化水溶性大豆多糖類における酢酸エステル化の程度は、すなわち、水溶性大豆多糖類の側鎖を構成する糖(本明細書にて場合によって「側鎖構成糖」という)の酢酸エステル化の程度は、質量分析によって分析することができる。例えばエステル化水溶性大豆多糖類を、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で最終濃度0.1%とし、担子菌由来のセルラーゼ酵素剤、例えばDriselase(協和発酵製)を用いて40℃で18時間以上分解する。10分間の煮沸により酵素反応を停止した後、分子量1万カットフィルター(Amicon Ultra Ultracel−10メンブレン;メルク製)を通過させた液を回収し、Somogyi−Nelson法によって測定する還元糖濃度が300μg/ml以上になるまで分解されたことを確認する。フィルター通過液1mlを減圧乾固し、乾燥物を0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル1:1混合溶液10μlに溶解する。溶解液と適当なマトリックスとを混合して分析サンプルとし、例えばMALDI−TOF−MS分析に供する。
【0045】
[エステル化水溶性大豆多糖類の用途]
(乳化剤)
エステル化水溶性大豆多糖類は、従来技術では解決が困難であった少ない配合量での乳化力と乳化物の分散安定性の発揮が可能である。また、高圧ホモジナイザー等の高度のシェアをかける機器を使用することなく緩やかな撹拌だけで乳化力を発揮でき、さらに、風味に及ぼす影響が少ないため、従来よりも多種多様な水中油型(O/W型)乳化物又はW/O/W型乳化物を調製するための乳化剤として、使用することができる。
【0046】
特に、乳化物の分散安定性に優れるために、食品だけでなく、医薬品、医薬部外品、化粧品などの分野においても、水中油型乳化物又はW/O/W型乳化物を調製するための乳化剤として用いることも可能である。
【0047】
エステル化水溶性大豆多糖類の乳化剤としての具体的な用途としては、食品としては、清涼飲料,乳飲料,大豆飲料,果汁飲料,お茶,スポーツ飲料,粉末飲料,及びアルコール飲料等の飲料、キャンディー,グミ,ゼリー,及びチューイングガム等の菓子、アイスクリーム等の冷菓、並びに、ドレッシング,マヨネーズ,ベーカリー製品,水産加工品,畜産加工品,及びレトルト食品等の飲食品等についての乳化、油性香料の乳化並びに、油性色素等の乳化について、乳化剤として用いることができる。また、後述する乳化香料としてこれら飲食品に加えることも有効である。
【0048】
非食品用途としては、シャンプー,及びリンス等の頭髪洗浄料、ヘアトリートメント,ヘアローション,及びワックス等の頭髪化粧料、口紅,化粧水,クレンジングクリーム,シェービングフォーム,洗顔料,乳液,ハンドソープ,ファンデーション,保湿エッセンス,ボディーシャンプー,及びメイク落とし等の各種皮膚用化粧料、塗り薬,及び抗がん剤等の医薬品及び医薬部外品及びそのコーティング剤、入浴剤,衣料用洗剤,及び住居用洗剤等の日用品、殺虫剤,及び除草剤等の農薬、塗料,インキ,及びワックス等の加工剤、その他化成品、飼料、並びに印刷物等の、これらの乳化について、乳化剤として用いることができる。
【0049】
エステル化水溶性大豆多糖類は、溶液の状態のまま、又は乾燥し粉末にして乳化剤として用いることもできるが、他の担体や添加剤を配合して乳化剤とすることも可能である。この場合、使用する担体や添加剤は乳化剤を用いる製品の種類や用途により、適宜選択できる。例えば、水溶性大豆多糖類を、グリセリン等の多価アルコール又はデキストリン及び乳糖等の糖類と混合して使用することも可能である。
【0050】
(乳化香料)
エステル化水溶性大豆多糖類の他の有利な用途として、乳化香料等への使用が例示される。乳化香料は、精製した精油や調合香料を植物油に溶解した疎水性物質からなる相を、乳化剤を用いて乳化した水中油型(O/W型)乳化物である。
【0051】
乳化香料にエステル化水溶性大豆多糖類を使用する場合、含まれる疎水性物質(油分)1重量部に対して、エステル化水溶性大豆多糖類を0.2〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部を添加する。例えば油層を10重量%含む乳化香料の場合、エステル化水溶性大豆多糖類は乳化香料中に2〜50重量%含有することになる。これに対して、従来のアラビアガムでは同油相について12重量%を超える量(油分1重量部に対し0.6重量部以上)を添加しなければ、乳化力不十分により乳化粒子径が経時的に増大し、長期の乳化安定性が損なわれる傾向にある。したがって、本発明のエステル化水溶性大豆多糖類は、油分1重量部に対して0.6重量部未満の添加量であっても十分な乳化力を発揮できる点において、アラビアガムに比較し少量で優れた乳化力及び乳化安定化力を示し、かつ乳化物の粘度上昇を抑えることができるとの顕著な効果を有する。なお、後述するアルコール飲料に用いる乳化香料の場合は、さらに乳化剤を高濃度に使用する場合であってもアラビアガムに比較し顕著な効果を有する。
【0052】
乳化香料中に乳化される疎水性物質は、通常乳化香料の分散相に使用されるものであれば、特に制限されない。具体的には、油性着香料としては、例えばオレンジ,グレープフルーツ,夏みかん,ベルガモット,ライム,レモン,及びユズ等の柑橘類精油、花精油,スペアミント油,及びペパーミント油等の植物精油、オニオン,ガーリック,カルダモン,クミン,クローブ,ジンジャー,セロリ,ナツメグ,バジル,パセリ,パプリカ,ブラックペッパー,ローズマリー,及びローレル等のスパイス類の精油又はオレオレジン類、コーラナッツエキストラクト,コーヒーエキストラクト,ココアエキストラクト,紅茶エ
キストラクト,スパイス類エキストラクト,及びワニラエキストラクト等の油性のエキストラクト及びこれらのオレオレジン類、オイゲノール,ゲラニオール,酢酸,ジアセチル,シトラール,バニリン,プロピオン酸エチル,メントール,酪酸,及びリモネン等のフレーバー物質、合成香料化合物,油性調合香料組成物、並びにこれらの任意の混合物等が挙げられる。
【0053】
上記の油性着香料に添加する動植物油脂類としては、例えば、オリーブ油,カカオ脂,コーン油,胡麻油,小麦胚芽油,米油,米糠油,サフラワー油,大豆油,ツバキ油,菜種油,パーム油,ヒマワリ油,綿実油,ヤシ油,落花生油,牛脂,豚脂,鶏油,魚油,及びバター等が挙げられる。中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドとしては、カプロン酸トリグリセリド,カプリル酸トリグリセリド,カプリン酸トリグリセリド,及びラウリン酸トリグリセリド等の炭素数6〜12のもので加工食用油として用いられるものが挙げられる。油溶性色素類としては、例えば、アナトー色素,クロロフィル,β−カロチン,及びパプリカ色素等の油溶性天然色素類等が挙げられる。油溶性ビタミン類としては、例えば、肝油,ビタミンA,ビタミンA油,ビタミンB2酪酸エステル,ビタミンD3,及び天然ビタミンE混合物等が挙げられる。天然樹脂としては、例えば、エレミ,エステルガム,コーバル,ダンマル,及びロジン等の植物性樹脂類が挙げられる。
【0054】
これら、可食性油性材料はそれぞれ単独、或いは2種以上の混合物の形で用いることができる。
【0055】
エステル化水溶性大豆多糖類を含む乳化香料は、特にアルコール飲料用乳化香料として好ましく用いられる。アルコール飲料とは、エチルアルコールを3〜50容量%、好ましくは3〜10容量%含む任意の飲料をいい、例えば、コンクシロップ、チューハイ、サワー、カクテル、リキュール、及び甘味果実酒等が例示される。従来の高分子乳化香料では、保存中に乳化粒子による濁度を保持しつつ、油浮きを抑制する機能が不足しており、特に20容量%以上のエチルアルコールを含むアルコール飲料のコンクシロップ系で顕著であった。エステル化水溶性大豆多糖類を用いた乳化香料は、通常用いられるアラビアガムに比較し、これらアルコール飲料やそのコンクシロップに用いた場合にその乳化安定性が著しく高く、アルコール飲料用として最適である。
【0056】
(乳化物)
エステル化水溶性大豆多糖類を含む乳化剤を用いて形成した水中油型乳化物は、一般に液体又は固体である。具体例としては、清涼飲料,乳飲料,大豆飲料,果汁飲料,お茶,スポーツ飲料,粉末飲料,アルコール飲料等の飲料、ソース,たれ,ドレッシング,ケチャップ,及びマヨネーズ等の調味ソース類、コーンスープ及びポタージュ等のスープ類、カレールウ及びシチュールウ等のルウ類、野菜ペースト,フルーツペースト,魚介ペースト,フラワーペースト,及び香味ペースト等のペースト類、ジャム,フルーツスプレッド,ミルクスプレッド,及びピーナツバター等のスプレッド類、バター,チーズ,マーガリン,及びクリーム等の乳/油脂製品、アイスクリーム,ソフトクリーム,シャーベット,及びアイスキャンディー等の冷菓類、プリン,ババロア,ゼリー,及びヨーグルト等のデザート類、飴,キャラメル,ガム,グミ,マシュマロ,及びチョコレート等の菓子類が挙げられる。
【0057】
乳化物の調製方法は、既に知られている一般的な方法を用いることができる。一例を示せば、水又は水溶性大豆多糖類を溶解し得る親水性溶媒に水溶性大豆多糖類を溶解し、疎水性物質を加えた後に、場合によって適切な装置を用いて、混合、撹拌、又はホモジナイズ等の処理を行って乳化溶液を調製する。必要に応じて、乳化の前または後に、果糖ブドウ糖液糖及びソルビトール等の糖類、グリセリン及びプロピレングリコール等の多価アルコール、保存料,酸化防止剤,及びpH調整剤等の添加物、塩類、有機酸、果汁、色素、並びに香料等を添加したり、pH調整を行ったりしてもよい。混合、撹拌、又はホモジナイズ等による乳化の際は、溶液を加温又は冷却してもよい。
【0058】
乳化物の製造及び分散安定化するための乳化装置としての機器は種々が使用でき、目的とする水中油型乳化物の粒子の大きさや粘度等に応じて適宜選択することができる。高圧ホモジナイザー,及び超音波ホモジナイザー等の乳化機はもちろん、コロイドミル,ディスパーミル,ホモミキサー,及びプロペラ撹拌機等の混合機だけでも目的を達成できる場合がある。例えば、従来の高分子乳化剤の代表であるアラビアガムでは、予めホモミキサー等で予備乳化し、ある程度の粒子径を持つ乳化物を調製した後、高価な装置である高圧ホモジナイザーによる均質化処理が必要であった。エステル化水溶性大豆多糖類を使用した場合、高圧ホモジナイザーを用いることなく緩やかな撹拌だけで、微細で均一な水中油型乳化物を得ることができ、省力化に繋がる場合がある。そのため、乳化物の製造コストが抑えられるうえ、製造工程の効率化を図ることができる。また、高圧ホモジナイザーを用いることなく予備乳化処理のみで、蛍光塗料やトナー類を粒子径1〜3μmに調製することができ、或いはサラダなどに使用されるドレッシング類については、手で振ってからも暫く安定した粒子径を保持することができる等の利点を有する。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を例示して本発明をより具体的に説明する。なお、例中「%」は特に記載がない限りいずれも「重量%」を意味する。
【0060】
(比較例1)未処理水溶性大豆多糖類の調製
分離大豆蛋白質製造時に生ずるオカラを原料とし、これに加水し、塩酸にてpHを5に調整した。次いで加圧釜を用いて125℃,2時間加熱し、水溶性大豆多糖類の抽出を行った。抽出液を遠心分離(5,000×g,10分間)し、水溶性大豆多糖類を主に含む上清と沈澱に分離した。上清の一部を凍結乾燥し、未処理水溶性大豆多糖類Zを得た。
【0061】
(実施例1)エステル化水溶性大豆多糖類の調製(1)
水溶性大豆多糖類Zの10重量%溶液を調製し、水酸化ナトリウムを加えてpH8に調整した。自動滴定装置にてpH8を保持した状態で撹拌しながら、水溶性大豆多糖類の固形分に対して6重量%の無水酢酸を少量ずつ30分間かけて添加した後、1時間エステル化反応させた。溶液に塩酸を加えてpH5に調整し、2倍量のエタノールを加えて多糖類を沈殿させた。沈殿をエタノールで2回洗浄した後風乾し、エステル化水溶性大豆多糖類Aを得た。
【0062】
(実施例2)エステル化水溶性大豆多糖類の調製(2)
実施例2のエステル化水溶性大豆多糖類Aの製造において、無水酢酸の添加量を8重量%とする以外は実施例1と同様の手順で、エステル化水溶性大豆多糖類Bを得た。
【0063】
(酢酸エステル化程度の定量)
比較例1及び実施例1〜2で得られた各種水溶性大豆多糖類について、酢酸エステル化程度を上記の「酢酸エステル構造の定量方法」にしたがって、イオンクロマトグラフィーによって測定し、式(I)によって計算し定量した。定量した値(酢酸量)を表1に示した。主鎖に天然の酢酸エステル構造を有する水溶性大豆多糖類Zに比べて、側鎖構成糖が酢酸エステル化されたエステル化水溶性大豆多糖類A及びBは、より高い酢酸量を示した。
【0064】
【表1】
【0065】
(側鎖構成糖のMALDI−TOF−MS分析スペクトル)
実施例2で得られたエステル化水溶性大豆多糖類Bについて、上記の「側鎖を構成する糖の酢酸エステル化の定性分析方法」にしたがって、酵素分解物のMALDI−TOF−MS分析を行った。具体的には、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で最終濃度が0.1%のエステル化水溶性大豆多糖類の溶液2.1mlに、担子菌由来のセルラーゼ酵素剤Driselase(協和発酵製)0.9mlを添加し、40℃で18時間以上分解反応させた。10分間の煮沸により酵素反応を停止した後、分子量1万カットフィルター(Amicon Ultra Ultracel−10メンブレン;メルク製)を通過させた液を回収し、Somogyi−Nelson法によって測定する還元糖濃度が300μg/ml以上になるまで分解されたことを確認した。フィルター通過液1mlを減圧乾固し、乾燥物を0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル1:1混合溶液10μlに溶解した。溶解液と適当なマトリックスとを混合して分析サンプルとし、MALDI−TOF−MS分析に供した。分析スペクトルを図1に示した。側鎖構成糖であるアラビノース残基及びガラクトース残基に、1残基或いは2残基の酢酸エステル構造が含まれる構造体に相当する質量のピークが、複数確認された。これらのピークは、酢酸エステル化反応を行っていない比較例1の水溶性大豆多糖類Zの分解物の分析スペクトルには、確認されなかった。
【0066】
(実施例3〜4及び比較例2)乳化組成物の調製
比較例1の水溶性大豆多糖類Z並びに実施例1及び2のエステル化水溶性大豆多糖類A及びBを使用し、下記手順にしたがって実施例3〜4及び比較例2の各乳化組成物を調製した。
【0067】
蒸留水100gにグリセリン16.0gを加え、撹拌しながら、水溶性大豆多糖類Z、及びエステル化水溶性大豆多糖類A〜Bをそれぞれ21.4g溶解させ、50%クエン酸溶液でpH4.0に調整した。次に、レモンオイル,MCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)及びSucrose diacetate hexaisobutyrate(ショ糖二酢酸六イソ酪酸エステル)を2:3:5の重量比となるよう予め混合したもの(比重d 1.010)を各種水溶性大豆多糖類の水溶液に40g添加し、さらに全量を200gになるまで水を添加した後に、45℃で保温した。保温した溶液をホモジナイザー「Polytron」(KINEMATICA社製)で、10,000rpmの条件下で10分間予備撹拌し、さらに高圧ホモジナイザー「ミニラボ8.30H型」(RANNIE社製)を用い、圧力150kgf/cm2(14.71MPa)で2回均質化を行い、実施例3〜4及び比較例2の各乳化組成物を得た。各乳化組成物を冷蔵保管し、調製直後,及び7日目のメディアン粒子径をレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD2000A」(島津製作所)で測定し、結果を表2に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
エステル化水溶性大豆多糖類A及びBを用いた場合、メディアン径0.4μm台の微細な乳化物を調製することができた。粒度分布は均一であり、7日間の冷蔵保管後にも乳化物に大きな変化は生じず安定であった。水溶性大豆多糖類Zを用いた場合、メディアン径は、エステル化水溶性大豆多糖類A又はBを用いた場合のメディアン径よりも大きく、また冷蔵保管に伴って僅かながらさらに大きくなる傾向が認められた。
【0070】
(実施例5〜6及び比較例3) コンクシロップの調製
実施例3〜4及び比較例2の乳化組成物について、酸度及びアルコール濃度が高い条件(アルコール飲料のコンクシロップ段階)での安定性評価を行った。水60gにクエン酸1.14g、クエン酸ナトリウム0.33g、異性化糖11.8gを溶解し、エタノール21mlを加え、水で100mlにメスアップし、コンクシロップとした。このコンクシロップに実施例3〜4及び比較例2の乳化組成物を0.3g添加し、室温で保管したものについて、調製直後及び3日目の油浮き,濁度(OD 680),メディアン粒子径(レーザ回折式粒度分布測定装置)を測定し、その結果を表3に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
エステル化水溶性大豆多糖類A又はBを用いた場合、乳化物のメディアン径は0.4μm台と微細であり、3日後まで油浮きを生ずることなく安定な状態を保持した。水溶性大豆多糖類Zを用いた場合の乳化物は、一般的なアラビアガムの乳化物のメディアン径0.8μmと比較すると小さいものの、エステル化水溶性大豆多糖類A又はBを用いた場合よりも大きいものであった。また、保管中に油浮きを多く生じており、乳化安定性に欠ける
ものであった。
【0073】
(実施例7〜9及び比較例4〜6)乳化組成物の低シェア調製(1)
水溶性大豆多糖類Z及びエステル化水溶性大豆多糖類Bを使用し、下記の手順により高圧ホモジナイザーを使用することなく各乳化組成物を調製した。
【0074】
蒸留水48gにグリセリン8gを加え、撹拌しながら、エステル化水溶性大豆多糖類B又は水溶性大豆多糖類Z16gを溶解し、50重量%クエン酸溶液でpH4.0に調整した。次に、レモンオイル,MCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)及びSucrose diacetate hexaisobutyrate(ショ糖二酢酸六イソ酪酸エステル)を2:3:5の重量比となるよう予め混合したもの(比重d 1.010)を、各種水溶性大豆多糖類溶液に16g添加し、さらに全量を100gになるまで水を添加した後に、氷冷した。氷冷した溶液を、撹拌機「Polytron」(KINEMATICA社製)で、7,500rpmの条件下で60分間撹拌し、実施例7及び比較例4の各乳化組成物を得た。その際、撹拌20分間での乳化状態を確認するため、粒子径の測定に必要な最低限のサンプルを採取した。
【0075】
また、撹拌の回転数を5,000rpm或いは2,500rpmに変更する以外は上記と同様の処方・手順にて、実施例8〜9及び比較例5〜6の各乳化組成物を得た。
【0076】
実施例7〜9及び比較例4〜6の乳化組成物について、調製直後及び冷蔵保管7日目のメディアン粒子径をレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD2000A」(島津製作所)で測定し、その結果を表4に示した。
【0077】
【表4】
【0078】
エステル化水溶性大豆多糖類Bを用いた場合、同じ回転数及び撹拌時間において、水溶性大豆多糖類Zを用いた場合よりもメディアン径の小さい乳化物を調製することができた。20分間の短い撹拌であってもその効果は発揮され、7500rpm、5000rpm及び2500rpmの回転数で、それぞれ約1.4μm、1.7μm、及び2.7μmのメディアン径を持つ乳化物が得られた。60分間の撹拌では、より小さい乳化物が得られ、7500rpmの条件では1μmより小さい乳化物が得られた。乳化物は、7日間の冷蔵保管後においてもメディアン径が変化せず、乳化安定性に優れていた。
【0079】
(実施例10〜11及び比較例7〜10)乳化組成物の低シェア調製(2)
蒸留水48gにグリセリン8gを加え撹拌しながら、エステル化水溶性大豆多糖類B、水溶性大豆多糖類Z又はアラビアガム(「アラビックコールSS」三栄薬品貿易(株)製)16gを溶解し、50%クエン酸溶液でpH4.0に調整した。次に、レモンオイル,MCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)及びSucrose diacetate hexaisobutyrate(ショ糖二酢酸六イソ酪酸エステル)を2:3:5の重量比となるよう予め混合したもの(比重d 1.010)を、上記の各水溶液に16g添加し、さらに全量を100gになるまで水を添加した後に、氷冷した。氷冷した溶液を撹拌機「MAZELA Z」(東京理化器械株式会社製)で、1,000rpmの条件下で60分間撹拌し、実施例10、比較例7及び比較例8の各乳化組成物を得た。その際、撹拌20分間での乳化状態を確認するため、粒子径の測定に必要な最低限のサンプルを採取した。
【0080】
また、撹拌の回転数を500rpmに変更する以外は上記と同様の処方・手順にて、実施例11、比較例9及び比較例10の各乳化組成物を得た。
【0081】
実施例10〜11及び比較例7〜10の乳化組成物について、調製直後及び冷蔵保管7日目のメディアン粒子径をレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD2000A」(島津製作所)で測定し、その結果を表5に示した。
【0082】
【表5】
【0083】
より低い回転数においても、エステル化水溶性大豆多糖類Bを用いた場合、同条件下で水溶性大豆多糖類Z又はアラビアガムを用いた場合よりも、メディアン径の小さい乳化物を調製することができた。20分間の短い撹拌であっても、1,000rpm、及び500rpmの回転数で、それぞれ約4.0μm、及び6.4μmのメディアン径を持つ乳化物が得られた。水溶性大豆多糖類Z或いはアラビアガムを用いた場合は、60分間の撹拌を行った場合でも、エステル化水溶性大豆多糖類Bの乳化物のメディアン径のレベルまで小さくすることはできなかった。
【0084】
以上の実施例及び比較例より、エステル化水溶性大豆多糖類を用いれば、アラビアガム又はエステル化されていない水溶性大豆多糖類よりも高い乳化力を有し、得られた乳化物の乳化安定性も高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、従来の水溶性大豆多糖類よりも少量で乳化力及び乳化安定化力を発揮することができる。本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、最終製品の粘度上昇や風味悪化を生じさせることなく乳化粒子径を小さくすることができ、かつ、乳化粒子の粒度分布が均一であるため、最終製品への配合の幅を拡げることが可能である。
【0086】
また、アラビアガム等の従来の高分子乳化剤を用いた乳化物の製造に際して、高圧ホモジナイザーによる均一化処理を複数回必要とし、設備面及び作業面での負担が大きかったのに対して、本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、高圧ホモジナイザーによる均質化処理を行うことなく、緩やかな撹拌のみで粒子径を小さくできる、優れた乳化力を発揮できるため、乳化物の製造を容易にすることができる。
【0087】
さらに、本発明のエステル化水溶性大豆多糖類によれば、得られた乳化物、特に水中油型乳化物が、加熱、長期保存又は経時変化等によって乳化粒子同士が凝集したり合一したりすることを抑制でき、乳化力だけでなく乳化安定性をも向上させることができる。
【0088】
本発明の製造方法によれば、従来の天然水溶性大豆多糖類を容易に酢酸エステル化処理ができ、歩留まりも良く製造コストが抑えられるうえ、製造工程の効率化を図ることができる。
図1