(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献3のリチウムイオン電池用電解液によれば、作用極としてグラッシーカーボン等の不溶性電極を用いた電位窓の測定結果においては、Li
2CoPO
4F、Li
2NiPO
4F、LiCoPO
4、LiNiPO
4等の酸化還元電位の高い正極材料の充放電電位にも対応できるはずの電位窓を有しているにもかかわらず、作用極としてこれらの酸化還元電位の高い正極材料を用いた場合、充放電を繰り返すことにより、次第に放電可能な電気量が低下してくるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、電位窓が広く、充放電を繰り返しても、放電可能な電気量が低下し難いリチウムイオン電池用電解液及びリチウムイオン電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、両末端にニトリル基が結合したジニトリル化合物を含んだ有機溶媒を用いたリチウムイオン電池用電解液が、広い電位窓を有するにも係らず、充放電を繰り返すことによって次第に放電可能容量が低下してくる原因について、鋭意試験研究を行なった。その結果、容量の低下は電解液に含まれているリチウム電解質の種類によって異なることを見出した。そして、さらに研究を行った結果、ジニトリル化合物を電解液の溶媒として含んでおり、リチウム塩電解質としてLiBF
4(四フッ化ホウ酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiTFSI(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)、LiPF
6(六フッ化リン酸リチウム)、及びLiBOB(リチウムビスオキサレートボラート)の少なくとも一種を含む電解液であれば、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
【化1】
【0012】
すなわち、本発明のリチウムイオン電池用電解液は、有機溶媒にリチウム塩が溶解しているリチウムイオン電池用電解液であって、前記有機溶媒には両末端にニトリル基が結合したジニトリル化合物が含まれており、前記リチウム塩としてLiBF
4、LiTFSI、LiBETI、LiPF
6及びLiBOBの少なくとも一種を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用電解液では、両末端にニトリル基が結合したジニトリル化合物が含まれている。このため電位窓が広くなり、5V(vs Li/Li+)以上という高電位においても充電が可能となる。好ましいのは、ジニトリル化合物の濃度が2.5容量%以上、80容量%以下である。ニトリル化合物の濃度が2.5容量%未満では電位窓を広げる効果が小さくなる。また、ニトリル化合物の濃度が80容量%を超えると、電解質の溶解度が低くなるとともに、粘度も高くなることから、伝導度が低くなり、ひいては電池の内部抵抗が高くなる。さらに好ましいのは5容量%以上60容量%未満であり、最も好ましいのは7容量%以上50容量%未満である。
【0014】
ジニトリル化合物としては、鎖式飽和炭化水素の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物や、鎖式エーテルの両末端にニトリル基が結合したジシアノエーテル化合物等が挙げられる。
【0015】
有機溶媒には、ジニトリル化合物の他に、環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイト、並びに、環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイトに含まれる水素の一部をフッ素で置換した化合物のうち少なくとも一つが含まれていることが好ましい。
こうであれば、ジニトリル化合物が電位窓を広げる効果を奏すると共に、粘度が低くなり、比伝導度も大きくなる。この場合、広い電位窓を有しない環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイトのうち少なくとも一つを含んでいるにもかかわらず、広い電位窓を有する理由については、必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。すなわち、本発明のリチウムイオン電池用電解液に用いられる有機溶媒のうち、鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物は、電位窓を広げる役割を果たす。また、鎖状カーボネイトは粘度を下げるため、比伝導度を大きくする役割を果たすと推測される。そして、環状カーボネイトや環状エステルは、多くのリチウム塩を溶解する上、カーボン負極上にSEIといわれる保護皮膜を形成することで、耐還元性を向上させつつ、Liイオンを通過させることができる特性を付与することができる。そのため、負側および正側の電位窓拡大に効果を発揮することが可能となると考えられる。
【0016】
以上より、鎖状カーボネイトと環状カーボネイト及び/又は環状エステルとを併用することが好ましい。更に好ましくは、鎖状カーボネイトと環状カーボネイトとの併用である。具体的には、ジメチルカーボネイトとエチレンカーボネイトとを併用する。両者の配合割合は特に限定されないが、同量とすることが好ましい。
また、環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイトに含まれる水素の一部をフッ素で置換した化合物についても用いることができるのは、これらフッ素を含む化合物はフッ素が導入されていない化合物に比べて化学的な安定性を増すので、充電時の正極において高い電位に曝されても、安定に存在することができるからである。
環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイトに含まれる水素の一部をフッ素で置換した化合物としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート,ジフルオロエチレンカーボネート,フルオロプロピレンカーボネート,ジフルオロプロピレンカーボネート,トリフルオロプロピレンカーボネート,フルオロγ−ブチロラクトン,ジフルオロγ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用電解液では、ジニトリル化合物は炭素数が6以上12以下であることが好ましい。こうであれば、高い電位で充電を行なった場合においても充放電容量が低下し難くなる。
【0018】
さらに、リチウム塩がLiTFSI及び/又はLiBETIである場合には、有機溶媒に対するジニトリル化合物の割合は10容量%以上60容量%未満であることが好ましい。リチウム塩がLiTFSI及び/又はLiBETIである場合には、有機溶媒に対するジニトリル化合物の割合が60容量%以上で、容量維持率が低下するからである。
【0019】
また、リチウム塩がLiBOBである場合には、前記ジニトリル化合物は炭素数が6以上12以下であることが好ましい。さらに好ましいのは、ジニトリル化合物は炭素数が10以上12以下である。リチウム塩がLiBOBである場合には、ジニトリル化合物は炭素数が10以上12以下である場合に、ジニトリル化合物の割合が20容量%以下であっても、優れた容量維持率を示すからである。
【0020】
さらに、リチウム塩がLiBOBである場合には、炭素数6以上10未満のジニトリル化合物を溶媒に含む場合、有機溶媒に対するジニトリル化合物の割合は30容量%以上70容量%以下であることが望ましい。このような場合には、有機溶媒に対するジニトリル化合物の割合が30容量%以上70容量%未満の範囲において、優れた容量維持率を示すからである。さらに好ましいのは、40容量%以上60容量%未満であることである。
また、炭素数が10以上のジニトリル化合物を溶媒に含む場合には、有機溶媒に対するジニトリル化合物の割合は10容量%以上80容量%以下であることが望ましい。一方、炭素数が10未満の場合、ニトリル濃度は30容量%以上70容量%未満であることが好ましい。
【0021】
また、リチウム塩がLiPF
6でである場合には、有機溶媒に対するジニトリル化合物の割合は2.5容量%以上20容量%未満であることが好ましい。
【0022】
また、リチウム塩を2種以上混合して用いてもよい。特にリチウム塩としてLiTFSI及び/又はLiBETIを含み、さらにLiBF
4及び/又はLiPF
6を含むことが好ましい。LiTFSIやLiBETIをリチウムイオン電池に用いた場合、電池ケースや集電体を腐食させるおそれがある。しかしながら、LiBF
4やLiPF
6は耐食性皮膜を形成させる働きがあるため、LiTFSI及び/又はLiBETIと、LiBF
4及び/又はLiPF
6とを併用することにより、充放電の繰り返しによる充放電量が低下を防止するとともに、耐食性皮膜の形成による電池ケースや集電体の腐食を抑制することができる。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用電解液は、リチウムイオン電池に適用することができる。こうであれば、充電電位が高い正極活物質であっても、充放電を繰り返すことによる放電可能な電気量の低下現象を効果的に防止することができる。このため、エネルギー密度の高いリチウムイオン電池とすることができる。
【0024】
充電電位が高い正極活物質としては、オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系化合物やオリビンフッ化物系化合物が挙げられる。オリビンフッ化物系化合物とはオリビン型結晶構造を有するリン酸塩系の化合物のリン酸イオンの一部をフッ素で置き換えた化合物である。本発明者らは、LiFePO
4を用いれば、確実に、充放電を繰り返しても放電可能な電気量が低下し難いリチウムイオン電池となることを確認している。また、酸化物系の正極活物質においても、充電電位が高い正極活物質は存在している。例えば、LiMn
2O
4系正極活物質のMnの一部をNiで置換したLiNi
0.5Mn
1.5O
4は放電電位が4.7Vであり、急速充電をおこなう際には過電圧分を加味し、5Vを超える充電電圧を必要とする場合がある。また、LiCoMnO
4は放電電圧が5.2V程度から始まるため、高電圧の充電が必要となる。このような充電電位が高い酸化物系正極活物質に対しても、本発明の電解液は好適に用いることができる。
【0025】
リチウム塩の濃度は0.01mol/L以上であって、飽和状態よりも低い濃度とされていることが好ましい。リチウム塩の濃度が0.01mol/L未満では、解離したLiイオンが少ないため、極端にLiイオン伝導性が小さくなり、Liイオン伝導を確保できない。そのため、過電圧が大きくなり本来の電解液の電位が大きくずれる可能性がある。他方、リチウム塩の濃度が飽和状態とされた場合、温度の変化によって溶解しているリチウム塩が析出し、電極等を変形させたりするおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のリチウムイオン電池用電解液は、有機溶媒として鎖式飽和炭化水素の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物や、鎖式エーテルの両末端にニトリル基が結合したジシアノエーテル化合物等を用いることができる。
鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物としては、例えば、スクシノニトリルNC(CH
2)
2CN、グルタロニトリルNC(CH
2)
3CN、アジポニトリルNC(CH
2)
4CN、ピメロニトリルNC(CH
2)
5CN、スベロニトリルNC(CH
2)
6CN、アゼラニトリルNC(CH
2)
7CN、セバコニトリルNC(CH
2)
8CN、ドデカンジニトリルNC(CH
2)
10CNなどのような直鎖状のジニトリル化合物の他、2−メチルグルタロニトリルNCCH(CH
3)CH
2CH
2CN等のように分枝を有していても良い。これらの鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが、7〜20であることが好ましい。更に好ましくは10〜12である。
また、ジシアノエーテル化合物としては例えばオキシジプロピオニトリル等が挙げられる。
【0027】
有機溶媒には、ジニトリル化合物の他に、環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイト、並びに、環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイトに含まれる水素の一部をフッ素で置換した化合物のうち少なくとも一つが含まれていることが好ましい。環状カーボネイトとしては、例えばエチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、ブチレンカーボネイト等が使用できる。また、鎖状カーボネイトとしては、例えばジメチルカーボネイト、ジエチルカーボネイト、エチルメチルカーボネイト等が使用できる。具体的には、エチレンカーボネイトとジメチルカーボネイトとを併用することが特に好ましい。両者の配合割合は特に限定されない。環状カルボン酸エステルとしてはγ−ブチロラクトンを用いることができる。
また、環状カーボネイト、環状エステル及び鎖状カーボネイトに含まれる水素の一部をフッ素で置換した化合物としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート,ジフルオロエチレンカーボネート,フルオロプロピレンカーボネート,ジフルオロプロピレンカーボネート,トリフルオロプロピレンカーボネート,フルオロγ−ブチロラクトン,ジフルオロγ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0028】
また、リチウム塩としてはLiBF
4、LiTFSI、LiBETI及びLiBOBの少なくとも一種を含むことが必要とされる。これらのリチウム塩が電解液に含まれていることにより、繰り返しの充放電によって放電容量が減少することを抑制することができる。なお、LiBF
4、LiTFSI、LiBETI及びLiBOBの2種以上を電解液に含んでもよく、さらには、下記リチウム塩を含ませてもよい。
LBCB : lithium bis[croconato]borate
LBSB : lithium bis[slicylato(2-)]borate
LCSB : lithium [croconato salicylato]borate
LBBB : lithium bis[1,2-benzenediolato(2-)-O,O']borate
LBNB : lithium bis [2,3-naphthalene-diolato(2-)-O,O']borato
LBBpB : lithium bis[2,2-biphenyldiolato(2-)O,O']borato
【0029】
また、正極活物質としては、オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系化合物及び/又はオリビンフッ化物系化合物が用いられる。オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系化合物としては、例えば、Li
1−xNiPO
4(x=0〜1)、Li
1−xCoPO
4(x=0〜1)、Li
1−xMnPO
4(x=0〜1)、Li
1−xFePO
4(x=0〜1)及びこれらの固溶体(ここで固溶体とは、上記リン酸塩系の正極活物質において金属原子が自由な割合で混合された物質を指す。)を挙げることができる。また、これらのうちの金属原子を他の金属原子でドープしたものも含まれる。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb及びMoの1種又は2種以上を用いることができる(特開2008−130525号参照)。
【0030】
これらのオリビン型結晶構造を有するリン酸塩系化合物の酸化還元電位は、コバルト酸リチウム等の酸化物系の正極活物質とは異なり、300℃未満では発熱反応が小さい上、酸素は発生せず、安全性が高いことから注目されている。また、リン酸塩系のうち、LiCoPO
4系は放電電位が4.8V程度であり、急速充電に際しては5V以上で耐電圧を有する電解液が必要とされる。LiNiPO
4の放電電位は5.2V(vs Li/Li
+)が示唆されている。
【0031】
一方、オリビンフッ化物系化合物としては、Li
2−xNiPO
4F(x=0〜2)、Li
2−xCoPO
4F(x=0〜2)が挙げられr、その他Li
2−xMnPO
4F(x=0〜2)、Li
2−xFePO
4F(x=0〜2)が考えられる。
また、これらの固溶体(ここで固溶体とは、上記オリビンフッ化物系化合物において金属原子が自由な割合で混合された物質を指す。)も挙げることができる。さらに、これらのうちの金属原子を他の金属原子でドープしたものも含まれる。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb及びMoの1種又はそれ以上を用いることができる。
【0032】
これらのオリビンフッ化物系化合物の酸化還元電位は、オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系化合物と同様に、上記酸化物系とは異なり、300℃未満の分解では、発熱反応が小さい上、酸素発生がないため、正極活物質由来の電池発火の影響は小さいと考えられ安全性の面で注目されている。また、電池の電気容量密度(mAh/g)を上記リン酸塩系よりも高くできる(特開2003−229126号公報参照)。しかし、例えばLi
2CoPO
4F系は、平均放電電位が4.8V程度であり、急速充電に際しては5V以上で耐電圧を有する電解液が必要とされる。また、Li
2NiPO
4F系の放電電位は5.2V(vs Li/Li
+)程度であり、5V以上で耐電圧を有する電解液が必要とされる。このため、本発明のリチウムイオン電池用電解液の特徴である、電位窓が広いという利点を効果的に発揮することができ、エネルギー密度の大きなリチウムイオン電池となる。
このような高電位酸化還元正極活物質としては、例えば、Li
2CoPO
4F,Li
2NiPO
4F,LiCoPO
4,LiNiPO
4等が挙げられる。これらの正極活物質はエネルギー密度が高く、容量の大きなリチウムイオン電池とすることができる。例えば、Li
2CoPO
4Fは正極活物質としてのエネルギー密度がLiCoO
2に対して理論値で2倍以上あることが予測されており、十分にポテンシャルを発揮できれば、容量の大きなリチウムイオン電池を作ることができる。また、Li
2CoPO
4Fが酸化される電位は高い電位領域にまで及ぶため、起電力の大きい電池とすることができる。さらに、Li
2CoPO
4Fは熱安定性に優れ、400°Cという高温になっても、発熱反応は示さないことが、熱分析結果から分かっており、電池温度の上昇を防ぐことができる。
【0033】
以下本発明のリチウムイオン電池用電解液を具体化した実施例についてさらに詳細に述べる。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、以下の組成の電解液を調製した。
エチレンカーボネイト(EC)とジメチルカーボネイト(DMC)とセバコニトリル(SB)とを容量比で25:25:50の割合で混合した溶媒を用い、これにリチウム塩としてLiBF
4を1mol/Lとなるように溶解させてリチウムイオン電池用電解液とした。
【0035】
(比較例1)
比較例1のリチウムイオン電池用電解液では、リチウム塩をLiPF
6(1mol/L)とし、その他については実施例1のリチウムイオン電池用電解液と同様の組成とした。
【0036】
<リチウムイオン電池の作製>
上記実施例1及び比較例1のリチウムイオン電池用電解液を用い、以下のようにしてリチウムイオン電池を作製し、充放電特性について測定した。
【0037】
・正極の作製
LiFePO
4の粉末とグラッシーカーボン粉とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉とを70:25:5の重量割合で、メノウ乳鉢にて混合し、冷間圧延してシート状の電極を得た。これを径8mmに打ち抜き、正極ペレットとした。
【0038】
・リチウムイオン電池の組み立て
図1に示すように、有底円筒状のSUS316L製の正極缶11と、有底円筒状で扁平状のSUS316L製の負極キャップ12とを用意する。ついで、
図2に示すように、正極缶11内に、SUS316L製のスペーサー13、正極ペレット14及びセパレータ15を充填する。一方、負極キャップ12内に、SUS316L製の波座金16、SUS316L製のスペーサー17及びリチウム負極18を充填する。そして、正極缶11内に電解液を入れた後、絶縁ガスケット19を介して負極キャップ12を載置してかしめて密封してリチウムイオン電池とした。
【0039】
−電池特性評価−
以上のように構成された実施例1及び比較例1のリチウムイオン電池について、充放電を繰り返してその電池特性を測定した。充電は5.5Vの定電圧充電を175mAh/g(活物質量)まで行った。ただし、比較例1では、充電開始時は定電流制御で充電し、極間電圧が5.5Vに達したところからは、5.5Vの定電圧で充電を行った。一方、放電は放電レート0.05Cでカットオフ電圧は2.5Vで放電を停止した。
【0040】
その結果、正極活物質としてLiBF
4を用いた実施例1のリチウムイオン電池では、
図3に示すように、10回の充放電の繰り返しを行っても、放電容量はほとんど変化しなかった。これに対して、正極活物質としてLiPF
6を用いた比較例1のリチウムイオン電池では、
図4に示すように、充放電を繰り返すごとに、充電電流が減少し、数サイクルの充放電の繰り返しにより、放電量が急激に減少することが分かった。
【0041】
また、実施例1のリチウムイオン電池について、充電レート0.05C、カットオフ電圧4Vとした通常充電、及び、充電開始時に充電レートを10Cとし、6V(vs Li/Li+)に達してから定電位充電し、充電後、放電レート0.01C、カットオフ電圧2.5Vの条件で放電させた。
。その結果、
図5に示すように、どちらの充電方法においても放電容量はほぼ一緒であり、電位窓が広いため、6Vにおける高電圧充電でも充分実用に耐え得ることが分かった。
【0042】
上記実施例1では、エチレンカーボネイト(EC)とジメチルカーボネイト(DMC)とセバコニトリル(SB)とを容量比で25:25:50の割合で混合した溶媒を用い、これにリチウム塩としてLiBF
4を1mol/Lとなるように溶解させてリチウムイオン電池用電解液とした。この電解液以外に、以下のニトリル類とリチウムイオン電解質とを任意に組み合わせたリチウムイオン電池用電解液であっても、繰り返しの充放電による充放電容量の低下を抑制することができる。
・ニトリル類
スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、セバコニトリル、ドデカンジニトリル、2−メチルグルタロニトリル、オキシジプロピオニトリル。
・リチウムイオン電解質
LiBF
4、LiTFSI、LiBETI、LiBOB
【0043】
実施例1では正極活物質としてLiFePO
4を用いたが、その他の正極活物質はオリビン型結晶構造を有するリン酸塩系化合物及び/又はオリビンフッ化物系化合物を用いることができる。例えば、次に示す正極活物質を上記リチウムイオン電解液と組み合わせて用いることにより、起電力が高く、エネルギー密度が大きく、充放電の繰り返しによっても、充放電量の低下が少ないリチウムイオン電池となることは明らかである。
・正極活物質
LiNi
0.5Mn
1.5O
4、Li
2CoPO
4F
【0044】
<各種リチウム電解質及び各種ジニトリル化合物を含む電解液の充放電特性>
実施例として、リチウム電解質にLiBF
4、LiTFSI、LiBETI又はLiBOBを含み、ジニトリル化合物として両端末にニトリル基を有する炭素数4〜炭素数12の直鎖ジニトリル化合物を含む一連の電解液を調製し、その充放電特性を調べた。また、リチウム電解質にLiPF
6を選び、同様にして一連の電解液を調製し、その充放電特性を調べた。以下に、それらの電解液の組成及び充放電特性の測定方法及び結果の詳細を詳述する。
【0045】
(1)リチウム電解質としてLiBF
4を含む電解液
リチウム電解質としてLiBF
4を1mol/L含み、ジニトリル化合物として、両端末にニトリル基を有する炭素数4〜炭素数12の直鎖ジニトリル化合物を含む一連の電解液を調製した。そして、実施例1と同様にしてコインセル型リチウムイオン電池を作製し、その充放電特性を調べた。
充放電特性の試験方法は、まず第1工程として充電レート0.5Cの定電流(CC)で充電し、電圧が4Vに達したら、4Vの定電圧(CV)で150mAh/gとなるまで充電した。そして第2工程として、放電レート0.05Cで定電流にて放電し、電圧が2.5Vに到達したとき放電を停止した。さらに第3工程として、5.5Vで10時間保持したのち、最後に第4工程として、放電レート0.05C、カットオフ電圧2.5Vの条件で定電流放電を行った。
以上の工程における(第4工程で放電した容量密度)を(第2工程で放電した容量密度)で除して、100を乗じた数を容量維持率(%)とした。
(充放電特性の試験方法)
第1工程:CC-CV充電 カットオフ4V 、150mAh/g
第2工程:CC-放電 放電レート0.05C カットオフ2.5V
第3工程:5.5V強制充電 5.5V保持時間 10時間
第4工程:CC-放電 放電レート0.05C カットオフ2.5V
【0046】
代表的な充放電試験における電圧、電流の時間推移を
図6に示す。この図から、第一工程の充電及び第二工程の放電で電池として問題なく作動していることがわかる。これに対し第三工程における5.5Vの強制充電では、充電開始時に大きな充電電流が流れ、活物質に充電されるとともに電流が流れなくなる。10時間保持後に定電流放電を行うと、3.4V付近にプラトーがあり、放電していることがわかる。
【0047】
調製した電解液の組成及び上記充放電特性の試験の結果求められた容量維持率を表1に示す。この表から、リチウム電解質としてLiBF
4を用いた場合には、炭素数が6以上のジニトリル化合物(すなわち炭素数がアジポニトリル以上のジニトリル化合物)で容量維持率が高く、充放電を繰り返しても容量が低下し難く、溶媒中のジニトリル化合物の混合割合が10容量%〜80容量%において、90%以上の容量維持率を示した。
ただし、炭素数が4の場合、ニトリル化合物の濃度は20容量%が望ましかった。
【0049】
(2)リチウム電解質としてLiTFSIを含む電解液
リチウム電解質としてLiTFSIを1mol/L含み、ジニトリル化合物として、両端末にニトリル基を有する炭素数4〜炭素数12の直鎖ジニトリル化合物を含む一連の電解液を調製し、ラミネイト封入タイプのセルを用い、集電体として負極側はSUS316L、正極側はDLCコート基板を使用し、正極及び負極は実施例1の場合と同様のものを用い、リチウムイオン電池を作製し、同様の方法で充放電特性の評価を行った。
【0050】
調製した電解液の組成及び上記充放電特性の試験の結果求められた容量維持率を表2に示す。この表から、リチウム電解質としてLiTFSIを用いた場合には、炭素数が6以上のジニトリル化合物(すなわち炭素数がアジポニトリル以上のジニトリル化合物)が容量維持率が高く、充放電を繰り返しても容量が低下し難いことが分かった。また、溶媒中のジニトリル化合物の混合割合が多くなると容量維持率が低下し、さらには粘度が増大し、リチウムイオン伝導度が低下すること、並びに、ジニトリル化合物の混合割合が小さくなると電解液の耐電圧性が低下することから、ジニトリル化合物の濃度は10容量%以上80容量%未満が好ましく、さらに好ましいのは20重量%以上60容量%未満である。一方、炭素数が4のスクシノニトリル場合、ニトリルの濃度は
20容量%が望ましかった。
【0052】
(3)リチウム電解質としてLiBETIを含む電解液
リチウム電解質としてLiBETIを1mol/L含み、ジニトリル化合物として、両端末にニトリル基を有する炭素数8〜炭素数12の直鎖ジニトリル化合物を含む一連の電解液を調製し、上記リチウム電解質にLiTFSIを用いた電解液の場合と同様の方法によって、その充放電特性を調べた。
【0053】
調製した電解液の組成及び上記充放電特性の試験の結果求められた容量維持率を表3に示す。この表から、溶媒中のジニトリル化合物の混合割合が多くなると容量維持率が小さくなり、さらには粘度が増大し、リチウムイオン伝導度が低下すること、並びに、ジニトリル化合物の混合割合が小さくなると電解液の耐電圧性が低下することから、ジニトリル化合物の濃度は10容量%以上50容量%未満が好ましく、さらに好ましいのは20容量%以上40容量%未満であった。
【0055】
(4)リチウム電解質としてLiBOBを含む電解液
リチウム電解質としてLiBOBを1mol/L含み、ジニトリル化合物として、両端末にニトリル基を有する炭素数4〜炭素数12の直鎖ジニトリル化合物を含む一連の電解液を調製し、上記リチウム電解質にLiBF
4を用いた電解液の場合と同様の方法によって、その充放電特性を調べた。
【0057】
調製した電解液の組成及び上記充放電特性の試験の結果求められた容量維持率を表4に示す。この表から、リチウム電解質としてLiBOBを用いた場合には、炭素数が6以上のジニトリル化合物(すなわち炭素数がアジポニトリル以上のジニトリル化合物)が特に容量維持率が高く、充放電を繰り返しても容量が低下し難いことが分かった。さらに好ましいのは炭素数が10以上のジニトリル化合物(すなわち炭素数がセバコニトリル以上のジニトリル化合物)であった。また、溶媒中のジニトリル化合物の混合割合は、40容量%及び60容量%で優れた容量維持率を示し、炭素数が10以上のジニトリル化合物の場合には、ジニトリル化合物の濃度が10容量%以上80容量%未満が好ましかった。
【0058】
(5)リチウム電解質としてLiPF
6を含む電解液
リチウム電解質としてLiPF
6を1mol/L含み、ジニトリル化合物として両端末にニトリル基を有する炭素数4〜炭素数12の直鎖ジニトリル化合物を含む一連の電解液を調製し、上記リチウム電解質にLiBF
4を用いた電解液の場合と同様の方法によって、その充放電特性を調べた。
【0060】
調製した電解液の組成及び上記充放電特性の試験の結果求められた容量維持率を表5に示す。この表から、リチウム電解質としてLiPF
6を用いた場合には、炭素数が6以上のジニトリルの場合、ジニトリルの顔料が2.5容量%以上20%未満の場合に容量維持率が高かった。また、炭素数が4(スクシノニトリル)を用いた場合には、20容量%の場合が容量維持率が高かった。電解質として、LiPF
6を用いた場合には、ジニトリルの濃度が2.5容量%以上20容量%以下が望ましい。また、ジニトリルがグルタロニトリル又はセバコニトリルの場合、ジニトリルの濃度は2.5容量%以上10容量%未満が望ましい。さらに、ピメロニトリル又はドデカンジニトリルの場合、ジニトリルの濃度は2.5容量%以上、20容量%未満が望ましい。
【0061】
なお、以上の結果からみて、以下の1)及び2)のことがいえる。
1)上記実施例の電解液を混合して新たな電解液とする場合、それら混合する電解液の電解質が同じものであるならば、容量維持率の高い(例えば90%以上)ジニトリル溶液を、2種以上混合しても、容量維持率の高い電解液となる。但し、混合したニトリル濃度は、容量維持率90%以上を維持している範囲内である。
2)上記ニトリル以外の溶媒についての組み合わせは、鎖状カーボネイト、環状カーボネイト、環状エステルの1種類以上のどの組み合わせでも、同様の傾向の容量維持率となっている。このことから、容量維持率の高い電解質、ニトリルの種類及び濃度の組み合わせを選択すれば、鎖状カーボネイト、環状カーボネイト、環状エステルの1種類以上をどの用に組み合わせでも、容量維持率の高い電解液となる。
【0062】
(6)リチウム電解質としてLiPF
6を含む電解液におけるジニトリル濃度及び電解質濃度の影響
リチウム電解質としてLiPF
6を0.5〜1.5mol/L含み、ジニトリル化合物としてスクシノニトリルを10〜30重量%又はアジポニトリルを20重量%含む一連の電解液を調製した。そして、実施例1と同様にしてコインセル型リチウムイオン電池を作製し、その充放電特性を調べた。充放電特性の試験方法は、実施例2〜26の充放電特性の測定法と同様であり、説明を省略する。結果を表6に示す。この表から、γブチルラクトンとスクシノニトリルの混合溶媒の場合、溶媒中のジニトリルの混合割合が10容量%以上で、容量維持率が100%となった。また、ジメチルカーボネイトとスクシノニトリルの混合溶媒の場合、溶媒中のジニトリルの混合割合が20容量%では容量維持率が76%、50容量%では容量維持率が10%となった。さらには、γブチルラクトンとアジポニトリルの混合溶媒の場合、溶媒中のジニトリルの混合割合が20容量%で、容量維持率が100%となった。
【0064】
本発明の電解液はリチウムイオン電池に適用される。
ここに、リチウムイオン電池は電解液、正極、負極、セパレータ及びケースを備えてなる。
【0065】
(電解液)
電解液に各種添加剤(例えば、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト、プロパンサルトン)を0.1−3重量%程度入れることも好ましい。これにより、負極側で耐食性皮膜が形成され、耐食性が向上する。
【0066】
Li塩の濃度は0.01mol/L以上であって、飽和状態よりも低い濃度が好ましい。Li塩の濃度が0.01mol/L未満であると、Liイオンによるイオン伝導が小さくなり、電解液の電気抵抗が高くなるので好ましくない。他方、飽和状態を超えると、温度等の環境変化によって溶解しているLi塩が析出するので好ましくない。
【0067】
なお、電解液中の水分含有量は、できるだけ少なくなるようにすることが好ましい。水分含有量が多いとリチウムイオン電解質が溶解し難くなり、その結果電解液の比電導度が低くなって、電池の内部抵抗や過電圧が高くなるという問題が生ずるからである。このため、電解液調整においては、ゼオライト等の脱水剤によって、溶媒の水分含有量を100ppm以下となるようにしておくことが好ましい。さらに好ましくは50ppm以下であり、最も好ましいのは30ppm以下である。
【0068】
(正極)
正極は正極活物質と集電体とを備える。
(正極活物質)
正極活物質とは「負極よりも高い電位で結晶構造内にリチウムが挿入/離脱され、それに伴って酸化/還元が行われる物質」をいう。
正極活物質としては(1)酸化物系、(2)オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系、(3)オリビンフッ化物系、(4)メタルふっ化物、等を挙げることができる。
【0069】
(1)酸化物系
1−1具体的物質
酸化物系としては、Li
1−xCoO
2(x=0〜1:層状構造)、Li
1−xNiO
2(x=0〜1:層状構造)、Li
1−xMn
2O
4(x=0〜1:スピネル構造)、Li
2−yMnO
3(y=0〜2)及びこれらの固溶体(ここで固溶体とは、上記酸化物系の正極活物質において金属原子が自由な割合で混合された物質を指す。)を挙げることができる。ここでxは充放電にともなうリチウムのインターカレーション−デインターカレーションによって変化する。また、これらのうちの金属原子を他の金属原子でドープしたものも含まれる。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、Li、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb及びMoの1種又はそれ以上を用いることができる。
1−2 特性
この正極活物質の一般的な放電電位は5V (vs Li/Li
+)未満である。但し、LiMn
2O
4系でNiに一部置換した、LiNi
0.5Mn
1.5O
4は、放電電位が4.7Vであり、急速充電をおこなう際には過電圧分を加味し、5Vを超える充電電圧を必要とする場合がある。また、LiCoMnO
4は放電電圧が5.2V程度から始まるため、これも充電電圧は5Vを超える。また、酸化物系は一般に300℃未満で分解し、酸素発生とともに比較的大きな発熱反応がある。このため、過充電が起こらないような制御回路が必要とされる。
【0070】
(2)オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系
2−1具体的物質
オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系としては、Li
1−xNiPO
4(x=0〜1)、Li
1−xCoPO
4(x=0〜1)、Li
1−xMnPO
4(x=0〜1)、Li
1−xFePO
4(x=0〜1)及びこれらの固溶体(ここで固溶体とは、上記リン酸塩系の正極活物質において金属原子が自由な割合で混合された物質を指す。)を挙げることができる。ここでxは充放電にともなうリチウムのインターカレーション−デインターカレーションによって変化する。また、これらのうちの金属原子を他の金属原子でドープしたものも含まれる。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb及びMoの1種又は2種以上を用いることができる(特開2008−130525号参照)。
2−2 特性
この正極活物質の酸化還元電位は、上記酸化物系とは異なり300℃未満では発熱反応が小さい上、酸素は発生せず、安全性が高いことから注目されている。また、リン酸塩系のうち、LiCoPO
4系は放電電位が4.8V程度であり、急速充電に際しては5V以上で耐電圧を有する電解液が必要とされる。LiNiPO
4の放電電位は5.2V(vs Li/Li
+)が示唆されている。
【0071】
(3)オリビンフッ化物系
3−1 具体的物質
Li
2−xNiPO
4F(x=0〜2)、Li
2−xCoPO
4F(x=0〜2)が知られており、その他Li
2−xMnPO
4F(x=0〜2)、Li
2−xFePO
4F(x=0〜2)が考えられる。ここでxは充放電にともなうリチウムのインターカレーション−デインターカレーションによって変化する。
また、これらの固溶体(ここで固溶体とは、上記オリビンフッ化物系の正極活物質において金属原子が自由な割合で混合された物質を指す。)も挙げることができる。さらに、これらのうちの金属原子を他の金属原子でドープしたものも含まれる。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb及びMoの1種又はそれ以上を用いることができる。
3−2 特性
この正極活物質の酸化還元電位はオリビン系と同様に、上記酸化物系とは異なり、300℃未満の分解では、発熱反応が小さい上、酸素発生がないため、正極活物質由来の電池発火の影響は小さいと考えられ安全性の面で注目されている。また、電池の電気容量密度(mAh/g)を上記リン酸塩系よりも高くできる(特開2003−229126号公報参照)。しかし、例えばLi
2CoPO
4F系は、平均放電電位が4.8V程度であり、急速充電に際しては5V以上で耐電圧を有する電解液が必要とされる。また、Li
2NiPO
4F系の放電電位は5.3V(vs Li/Li
+)程度であり、5V以上で耐電圧を有する電解液が必要とされる。
【0072】
(4)メタルふっ化物
4−1 具体的物質及び特性
ペロブスカイト構造を有するFeF
3が挙げられる。この化合物はLiイオンを一分子あたり一個挿入した場合の理論容量密度が220mAh/gと計算され、従来のオリビン型結晶構造を有するリン酸塩系の正極活物質の理論容量密度(例えば、LiFePO
4では170mAh/g)よりも大きなエネルギー密度を有するという利点がある。
また、FeF
3よりもさらに放電電位及びエネルギー密度(Wh/kg)が大きい正極活物質として、(Li
xK
yNa
1−x−y)nMF
3(式中、x,y及びnは0以上1以下の数であり、MはMn,Co及びNiのいずれかであり、該Mの一部はMg,Cu,Co,Mn,Al,Cr,Ga,V及びInの一種又は二種以上で置換されていてもよい)が挙げられる。この正極活物質はフッ素系のペロブスカイト構造を有し、MとしてMnやCoやNiを構成元素としている。完全な充電状態ではMF
3となり、Mは+3価の状態と考えられる。また、完全な放電状態では、n=1となり、Mは+2価の状態と考えられる。この正極活物質はサイクリックボルタンメトリーにおいて4V(vs Li/Li
+)以上という高い電位において酸化還元波が観測され、4V(vs Li/Li
+)を超える高い放電電位を有することとなる。この値は、FeF
3の放電電圧3.3V(vs Li/Li
+)と比べて高いため、エネルギー密度がFeF
3よりも大きい正極活物質となる。さらには、リチウムイオンのみならず、ナトリウムイオンも出入りが可能であるため、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池の正極活物質として駆動させることができる。
(5)その他
その他、リチウム非含有のFeF
3、有機導電性物質を用いた共役系ポリマー、シェブレル相化合物等を用いることもできる。また、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム塩、ニオブ酸化物およびそのリチウム塩、さらには、複数の異なった正極活物質を混合して用いることも可能である。
正極活物質粒子の平均粒径は、特に限定はされないが、10nm〜30μmであることが好ましい。
【0073】
(正極用集電体)
例えば、電解質としてLiPF
6、LiBF
4を使用する場合、オーステナイト系ステンレス、Ni、Al、Ti等を用いることができるが、使用する正極活物質の動作電位を考慮し、適宜選択することが好ましい。例えば、電解質としてLiPF
6を用いる場合は、Li/Li
+電極に対して6Vでも使用することができるが、電解質としてLiBF
4を用いる場合、SUS304はLi/Li
+電極に対し5.8V以下で充放電可能な場合のみ用いることができる。さらに好ましいのは、耐食性向上のためにモリブデンが添加されたSUS316、SUS316L及びSUS317が挙げられる。また、電解質としてLiTFSIを使用する場合、正極集電体表面に耐食性皮膜を形成させるべく、LiPF
6を共存させることが好ましい。LiBETI及びLiTFSもLiTFSIの場合と同様である。
また、Al、Ni、チタン、オーステナイト系ステンレス等の導電金属材料へ導電性DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、グラッシーカーボン、金及び白金のうちの一種又は二種以上からなる導電性の耐食性皮膜が形成されたものを集電体として用いることもできる。電解質がLiBF
4やLiPF
6など、容易にフッ化物皮膜を形成するようなリチウム塩の場合は、アルミニウム上へ厚いフッ化皮膜が形成し、耐食性は向上するものの、電子伝導性が低下し、ひいてはオーミック過電圧増加に伴う、高出力化が阻害されることとなる。Al等の導電金属材料へ導電性DLCを被覆すれば、フッ化物皮膜は導電性DLCの欠陥部分の極わずかな面積でのみ発生するだけである。このため、高電圧化しても電子伝導性の低下は無視できる程度となり、懸念されている高電圧化による出力低下は防ぐことが可能となる。
ここで、導電性ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のSP
3混成軌道結合)とグラファイト結合(炭素同士のSP
2混成軌道結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造をとるカーボンのうち、導電性が1000Ωcm以下のものをいう。ただし、アモルファス構造以外に、部分的にグラファイト構造からなる結晶構造(すなわちSP
2混成軌道結合からなる六方晶系結晶構造)からなる相を有し、これにより導電性が発揮されるものも含まれる。グラファイトとダイヤモンドの中間の性質を有するダイヤモンドライクカーボンは、成膜時にダイヤモンドライクカーボンを構成する炭素原子のSP
2混成軌道結合とSP
3混成軌道結合の比率を調整することで、導電性を調節することができる。
勿論、上記耐食性導電性金属材料を導電性DLCで被覆してもよい。
集電体の形状及び構造は、正極活物質や電池の構造に応じて、任意に設計可能である。
【0074】
(正極の前処理)
リチウムイオン電池用正極は、リチウムイオン電池に組み込む前に、ニトリル化合物を1容量%以上含む有機溶媒中にリチウム塩が溶解した前処理用電解液中に正電極を浸漬する浸漬処理工程を行い、さらに電極に正電圧を付与する正電圧処理工程を行なう。こうして前処理された電極は、ニトリル化合物を全く含まない電解液や、ニトリル化合物の添加量の少ない電解液を用いたリチウムイオン電池に用いても、電位窓が広く、高い電位においても電解液を分解し難くなる(特願2009−180007号参照)。このような広い電位窓の電極となる理由は、電極上に窒素を成分として含む耐食性の皮膜が形成されるためであると推測される。
【0075】
(負極)
負極は負極活物質と集電体とを備える。
(負極活物質)
負極活物質とは「正極よりも低い電位で結晶構造内にリチウムが挿入/離脱され、それに伴って酸化/還元が行われる物質」をいう。
負極活物質としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン等の種々の炭素材料やチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、H
2Ti
12O
25、H
2Ti
6O
13、Fe
2O
3などが挙げられる。また、これらを適宜混合した複合体も挙げることができる。さらには、Si微粒子やSi薄膜、これらのSiがSi−Ni、Si−Cu、Si−Nb、Si−Zn、Si−Sn等のSi系合金となった微粒子や薄膜が挙げられる。さらには、SiO酸化物、Si−SiO
2複合体、Si−SiO
2−カーボンなどの複合体等を挙げることができる。
【0076】
(負極用集電体)
負極用の集電体は汎用的な導電性金属材料、Cu、Al、Ni、Ti、オーステナイト系ステンレス等で形成することができる。
但し、電解液にニトリル化合物を用いたとき(他の有機溶剤との併用を含む)には、電解液中のLi塩に応じて適宜選択する必要がある。すなわち、電解質としてLiPF
6、LiBF
4を使用する場合、オーステナイト系ステンレス、Ni、Al、Ti等の使用が可能となる。ただし、使用する負極活物質の動作電位に応じて、適宜選択する必要がある。負極活物質としてカーボン系やSi系を使用する場合において、電解質としてLiBF
4を使用した場合は、Cu以外のAl、Ni、Ti、オーステナイト系ステンレス等からなる集電体を使用することができる。負極活物質としてチタン酸リチウムやFe
2O
3系の化合物を用いた場合は、Cuを含む上記材料の全てが適用可能である。一方、電解質としてLiPF
6使用時はAl、Ni及びTiが好ましく、オーステナイト系ステンレス及びCuは好ましくない。また、電解質としてLiTFSIや、LiBETI、やLiTFSを使用する場合、Ni、Ti、Al、Cu、オーステナイト系ステンレスの何れも使用することができる。
【0077】
(正極用電子伝導部材)
正極活物質には導電性の小さいものがある。従って、正極活物質と集電体との間に導電性の電子伝導部材を介在させて、両者の間に十分な電子伝導パスを確保することが好ましい。
ここで電子伝導部材は正極活物質と集電体との間に電子伝導パスを形成できればその形態は特に限定されるものではなく、例えばアセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト粉、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン等の導電性粉体(導電助剤)を用いることができる。ダイヤモンドライクカーボン及びグラッシーカーボンは、カーボンブラックやグラファイトよりもはるかに広い電位窓を有しており、高電位を付与した場合の耐食性に優れているため、好適に用いることができる。また、これらの導電助剤に金属微粒子が担持されていることも好ましい。金属微粒子としては、例えばPt、Au、Ni等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、これらの合金であっても良い。
また、正極活物質からなる粒子に、乾式めっき法によって導電性ダイヤモンドライクカーボンを付着させてもよい。こうであれば、導電性ダイヤモンドライクカーボンが導電助剤の役割を果たし、二次電池用正極のために必要な特性である電子伝導性が付与される。さらに、導電性ダイヤモンドライクカーボンは電位窓が広くて高い電位に対する耐久性に優れているため、高い電位で充電反応が行われる、エネルギー密度の高い正極活物質を有効に活用することができる。同様に、ダイヤモンドライクカーボンの代わりにグラッシーカーボンを用いることもできる。
電子伝導材料として、正極活物質を被覆する導電性皮膜(DLC膜等)、正極活物質を埋入させた導電性薄膜(金の薄膜等)を用いることができる。
特に、Li
2NiPO
4F系の正極活物質はそれ自身の及び/又はその表面皮膜の導電性が小さいので、これを集電体へ単に担持させてなるものではリチウムイオン電池の正極として機能しない場合がある。Li
2NiPO
4F系の正極活物質の性能評価のために、これを金等の導電薄膜へハンマー等で物理的に打ち込み、電池の正極を形成することができる。
ここにLi
2NiPO
4F系正極活物質とはLi
2NiPO
4F及びこれへ適宜ドーパントをドープしたものを指す。
【0078】
(負極用電子伝導部材)
正極用電子伝導部材と同様な物を用いることができる。
【0079】
(セパレータ)
セパレータは電解液中へ浸漬され、正極と負極とを分離し両者の短絡を防ぐとともに、Liイオンの通過を許容する。
かかるセパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質フィルムが挙げられる。
【0080】
(ケース)
ケースは電解液に対する耐食性を有する材質で形成される。その形状は、電池の目的用途に応じて任意に設計できる。
リチウム塩が溶解している電解液を使用する場合には、オーステナイト系ステンレスからなる基材、Ti、Ni及び/又はAlからなるケースを用いることができる。但し使用する正極、負極活物質の動作電位により適宜選択しなければならない場合もある。
ケースが集電体を兼ねる場合や集電体に電気的に結合される場合は、各電極の集電体形成材料と同一若しくは同種の材料で形成される。
ケースはAl箔をポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)で覆ったAlラミネートフィルムを用いてもよい。その形状は、電池の目的用途に応じて任意に設計できる。
【0081】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。