(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668924
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ホスフィン化合物、その製造方法およびそれを用いた過酸化物捕捉剤
(51)【国際特許分類】
C07F 9/54 20060101AFI20150122BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
C07F9/54CSP
G01N21/78 C
【請求項の数】1
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2010-502833(P2010-502833)
(86)(22)【出願日】2009年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2009054551
(87)【国際公開番号】WO2009113543
(87)【国際公開日】20090917
【審査請求日】2012年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2008-60715(P2008-60715)
(32)【優先日】2008年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147131
【弁理士】
【氏名又は名称】今里 崇之
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】塩路 幸生
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】大熊 健太郎
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2007年,Vol. 17,2055-2058
【文献】
FEBS Letters,2000年,Vol. 474,137-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/54
G01N 21/78
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[3−(4−フェノキシフェニルホスフィノピレニルホスフィノ)プロピル]トリフェニルホスホニウムヨ−ダイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホスフィン化合物およびそれを用いた過酸化物捕捉剤に関するものであり、更に詳細には、この発明は、ホスフィン化合物およびそれを用いた過酸化物捕捉剤であってミトコンドリアに局在化する過酸化物捕捉剤に関するものである。また、この発明は、ミトコンドリアに局在化する新規なホスフィン化合物ならびにその製造方法およびそれを用いた過酸化物捕捉方法に関するものである。さらに、この発明は、ホスフィン化合物の酸化生成物であるホスフィニル化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスは、生体内で生成する活性酸素群の酸化損傷力と、生体内の抗酸化システムの抗酸化ポテンシャルとの差として定義されている。活性酸素群は、本来、エネルギー生産、侵入異物攻撃、不要な細胞の処理、細胞情報伝達などに際して生産される有用なものである。しかし、生体内の抗酸化システムで捕捉し切れない余剰な活性酸素群が生じる場合、生体の構造や機能を担っている脂質、タンパク質、酵素や、遺伝情報を担う遺伝子DNAを酸化し損傷を与え、生体の構造や機能を乱し、がんや生活習慣病などの病気を引き起こしたり、老化を早めたりする(非特許文献1)。
体内では、呼吸で取り入れた酸素をミトコンドリアの電子伝達系で使用してH
2Oが生成されるときに産生する活性酸素などの過酸化物は、酸化ストレスを増加させると考えられている。ミトコンドリアは、ATPを構成し細胞の生命を維持するだけでなく、アボトーシス(細胞死)に中心的な役割を果たしている。なお、酸化LDL、酸化RLPなどは血管内皮細胞の酸化ストレスを増加させることが知られている。
【0003】
このように、ミトコンドリアは、活性酸素の発生源である一方、酸化ストレスを最も大きく受けやすい微小器官の1つである。したがって、ミトコンドリアでの酸化ストレスの状態を解析することは、酸化ストレスに起因する多くの疾病の機構を解明することに大きな助けとなる。そのために、ミトコンドリアの酸化ストレスの程度を視覚化する機能性分子を生成することは極めて有用である。
【0004】
これまで過酸化物捕捉剤が開発されてきたが、過酸化物だけを捕捉する試薬は未だ開発されていない(非特許文献2)。またミトコンドリアに局在化する過酸化物捕捉剤も未だ開発されていない(非特許文献3)。
【非特許文献1】日本抗酸化学会ホームページ(http://www.jsa-site.com/sanka_storesu.htm)
【非特許文献2】Suzuki,B., et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2007, 2055-2058
【非特許文献3】Okimoto,Y., et al., FEBS Lett., 2000, 474, 137-140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景技術に鑑みて、本発明者らは、ミトコンドリアに局在化する置換基であるジフェニルモノピレニルホスフィン化合物を、過酸化物のみを捕捉する蛍光プローブとして導入した新しい過酸化物捕捉剤を見出して、この発明を完成した。
【0006】
したがって、この発明は、1つの形態として、下記一般式[I]で表されるホスフィン化合物およびその製造方法を提供すること目的としている。
【0007】
この発明は、別の形態として、上記過酸化物捕捉剤がホスフィン化合物[I]である新規過酸化物捕捉剤およびその使用方法を提供することを目的としている。
【0008】
また、この発明は、別の形態として、下記一般式[I]で表されるホスフィン化合物である新規過酸化物捕捉剤が酸化されて生成する酸化生成物である下記一般式[I’]で表されるホスフィニル化合物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明は、下記一般式[I]:
【0010】
【化1】
(式中、Z
1およびZ
2はいずれも環式基を意味し、
Arはアリレン基を意味し、
Rは脂肪族炭化水素基を意味し、
Yはリン(P)、窒素(N)またはビスマス(Bi)を意味し、
R
1、R
2およびR
3はいずれも環式基を意味する)
で表されるホスフィン化合物を提供する。
【0011】
この発明は、好ましい態様として、上記ホスフィン化合物であって、Z
1およびZ
2で表される環式基はいずれも、非置換もしくは置換の単環式炭化水素基もしくは多環式炭化水素基または複素単環式基もしくは複素多環式基であり;
Arで表されるアリレン基は、非置換もしくは置換の単環式炭化水素基または2環式炭化水素基であり;
Rで表される脂肪族炭化水素基は、炭素原子数が1〜8個の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、
R
1、R
2およびR
3で表される環式基がそれぞれ、同一かまたは異なっていてもよく、非置換もしくは置換の単環式炭化水素基もしくは多環式炭化水素基または複素単環式基もしくは複素多環式基を意味し、
ただし、Z
1およびZ
2のいずれか一方の環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基であり、他方の環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基であり、および/またはR
1、R
2およびR
3のいずれか一方の環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基であり、他方の環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基である、
ホスフィン化合物を提供する。
【0012】
この発明のより好ましい態様としては、一般式[I]で表されるホスフィン化合物において、Z
1およびZ
2のいずれか一つの環式基が多環式炭化水素基または複素多環式基であり、他方の単環式基が単環式炭化水素基または複素単環式基であり、R
1、R
2およびR
3の全ての環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基である、またはZ
1およびZ
2の全ての環式基が単環式基が単環式炭化水素基または複素単環式基であり、R
1、R
2およびR
3のいずれか一つの環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基であり、他の環式基が単環式炭化水素基または複素単環式基であるホスフィン化合物を提供することである。
【0013】
この発明は、さらに好ましい態様として、上記一般式[I]で表されるホスフィン化合物であって、Z
1およびZ
2でいずれも表される環式基のうち、単環式炭化水素基が、例えば、フェニル基などであり;多環式炭化水素基としては、2環式炭化水素基が、例えば、インダニル基、インデニル基、ペンタレニル基、アズレニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基など;3環式炭化水素基が、例えば、アントラセニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントレニル基など;4環式炭化水素基が、例えば、ピレニル基、ナフタセニル基、クリセニル基など;5環式炭化水素基が、例えば、ペリレニル基、ピセニル基、ペンタセニル基など;6環式炭化水素基が、例えば、ナフトビレニル基など;7環式炭化水素基が、例えば、コロネニル基などであり;また複素環式基の複素単環式基としては、N含有複素単環式基が、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピペリジル基、トリアジニル基など;O含有複素単環式基が、例えば、フラニル基、ピラニル基など;S含有複素多環式基が、例えば、チオフェニル基など;N/O/S含有複素単環式基が、例えば、オキサゾリル基、チアゾリル基、モルホリニル基等のなどであり;また複素多環式基としては、N含有複素多環式基が、例えば、インドリル基、インドリニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、プテリジニル基、プリニル基等のN含有複素2環式基;アクリジニル基、カルバゾリル基、フェナントリジニル基、フェナジニル基、ベンゾイソキノリニル基等のN含有複素3環式基など;O含有複素多環式基が、例えば、ベンゾフラニル基、クロマニル基、クロメニル基、イソクロマニル基等のO含有複素2環式基、キサンテニル基等のO含有複素3環式基など;ジチアナフチル基等のS含有複素3環式基、チアントレニル基等のS含有複素3環式基等のS含有複素多環式基;ピリドオキサゾリル基、チエノフラニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ピラゾロオキサゾリル基等のN/O/S含有複素多環式基などであり;置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素原子数が1〜6個の低級脂肪族炭化水素基であり;
【0014】
Arで表されるアリレン基がフェニレン基、トリレン基、ナフタレン基であり;
Rで表される炭素原子数が1〜8個の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基がメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基またはメチルブチレン基であり;
【0015】
Aで表されるカチオン基のR
1、R
2およびR
3でいずれも表される環式基のうち、単環式炭化水素基が、例えば、フェニル基などであり;多環式炭化水素基としては、2環式炭化水素基が、例えば、インダニル基、インデニル基、ペンタレニル基、アズレニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基など;3環式炭化水素基が、例えば、アントラセニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントレニル基など;4環式炭化水素基が、例えば、ピレニル基、ナフタセニル基、クリセニル基など;5環式炭化水素基が、例えば、ペリレニル基、ピセニル基、ペンタセニル基など;6環式炭化水素基が、例えば、ナフトビレニル基など;7環式炭化水素基が、例えば、コロネニル基などであり;また複素環式基の複素単環式基としては、N含有複素単環式基が、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピペリジル基、トリアジニル基など;O含有複素単環式基が、例えば、フラニル基、ピラニル基など;S含有複素多環式基が、例えば、チオフェニル基など;N/O/S含有複素単環式基が、例えば、オキサゾリル基、チアゾリル基、モルホリニル基等のなどであり;また複素多環式基としては、N含有複素多環式基が、例えば、インドリル基、インドリニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、プテリジニル基、プリニル基等のN含有複素2環式基;アクリジニル基、カルバゾリル基、フェナントリジニル基、フェナジニル基、ベンゾイソキノリニル基等のN含有複素3環式基など;O含有複素多環式基が、例えば、ベンゾフラニル基、クロマニル基、クロメニル基、イソクロマニル基等のO含有複素2環式基、キサンテニル基等のO含有複素3環式基など;ジチアナフチル基等のS含有複素3環式基、チアントレニル基等のS含有複素3環式基等のS含有複素多環式基;ピリドオキサゾリル基、チエノフラニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ピラゾロオキサゾリル基等のN/O/S含有複素多環式基などであり;置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素原子数が1〜6個の低級脂肪族炭化水素基であるホスフィン化合物を提供する。
【0016】
上記一般式[I]で表されるホスフィン化合物は、カチオンの状態であるので、下記一般式[I]で示すように、アニオンと結合する形態であるのがよい。かかるカチオンとしては、例えば、塩素、臭素またはよう素イオン等のハロゲン原子イオンなどが挙げられ、当然のことながら、アニオンとの結合状態の化合物もこの発明の1態様である。
【0017】
【化2】
(式中、Xはハロゲン原子を意味する)。
【0018】
この発明は、別の形態として、一般式[I]で表されるホスフィン化合物の製造方法を提供する。更に具体的には、この発明のホスフィン化合物[I]は、一般式[II]:
【化3】
(式中、Z
1は環式基を意味し、X
1はハロゲン原子を意味する)
で表されるハライド化合物と、
【0019】
一般式[III]:
【化4】
(式中、Z
2 は環式基を意味し、X
2およびX
3はハロゲン原子をそれぞれ意味する)
で表されるジハロホスフィン化合物と、
【0020】
一般式[IV]:
【化5】
(式中、X
4はハロゲン原子を意味し、Arはアリレン基を意味する)
で表されるメトキシアリール金属マグネシウムハライドを反応させて、
【0021】
一般式[V]:
【化6】
(式中、Z
1、Z
2およびArはいずれも前記と同じ意味を有する)
で表されるメトキシアリールホスフィン化合物を得る工程1aと;
【0022】
上記工程1aで得られたメトキシアリールホスフィン化合物[V]を酸化剤と反応させて一般式[VI]:
【化7】
(式中、Z
1、Z
2およびArはいずれも前記と同じ意味を有する)
で表されるメトキシアリールホスフィンオキシド化合物を得る工程2と;
【0023】
上記工程2で得られたメトキシアリールホスフィンオキシド化合物[VI]を脱メチル化試薬で脱メチル化して一般式[VII]:
【化8】
(式中、Z
1、Z
2およびArはいずれも前記と同じ意味を有する)
で表されるヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物を得る工程3と;
【0024】
上記工程3で得られたヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物[VII] をボラン化合物と反応させて一般式[VIII]:
【化9】
(式中、Z
1、Z
2およびArはいずれも前記と同じ意味を有する)
で表されるヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物を得る工程4と;
【0025】
上記工程4で得られたヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物[VIII]を一般式[IX]:
【化10】
(式中、X
5 はハロゲン原子を意味し、
Rは脂肪族炭化水素基を意味し、
Yはリン(P)、窒素(N)またはビスマス(Bi)を意味し、
R
1、R
2およびR
3はいずれも環式基を意味する)
で表されるハライド化合物[IX]と反応させて、
【0026】
一般式[X]:
【化11】
(式中、Z
1、Z
2、Ar、R、Y、R
1、R
2およびR
3はいずれも前記と同じ意味を有する)
で表されるホスフィンボラン化合物を得る工程5と;
【0027】
上記工程5で得られたホスフィンボラン化合物[X]の保護基を脱保護して一般式[I]で表されるホスフィン化合物を得る工程6と、からなる方法;または
【0028】
上記一般式[II]で表されるハライド化合物と、一般式[XI]:
【化12】
(式中、Z
2 およびArは前記と同じ意味を有する)
で表されるメトキシアリールホスフィンオキシド化合物と反応させて、一般式[VI]で表されるメトキシアリールホスフィンオキシド化合物を得る工程1bと;
【0029】
上記工程1bで得られたメトキシアリールホスフィンオキシド化合物[VI]を脱メチル化試薬で脱メチル化してヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物[VII]を得る工程3と;
【0030】
上記工程3で得られたヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物[VII]をボラン化合物と反応させてヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物[VIII]を得る工程4と;
【0031】
上記工程4で得られたヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物[VIII]をハライド化合物[IX]と反応させて、ホスフィンボラン化合物[X]を得る工程5と;
【0032】
上記工程5で得られたホスフィンボラン化合物[X]の保護基を脱保護して一般式[I]で表されるホスフィン化合物を得る工程6と、からなる方法;または
【0033】
一般式[XII]:
【化13】
(式中、X
6はハロゲン原子を意味し、R
1は前記と同じ意味を有する)
で表されハライド化合物と、一般式[XIII]:
【0034】
【化14】
(式中、X
7はハロゲン原子を意味し、R
2およびR
3は前記と同じ意味を有する)
で表されるハライド化合物を反応させて、一般式[XIV]:
【0035】
【化15】
(式中、R
1、R
2およびR
3は前記と同じ意味を有する)
で表される化合物を得る工程7と;
工程7で得られた上記化合物[XIV]と、一般式[XV]:
【0036】
【化16】
(式中、X
8およびX
9はいずれもハロゲン原子を意味する)
で表されるジハロ化合物を反応させて一般式[XVI]:
【0037】
【化17】
(式中、R
1、R
2、R
3、X
8およびX
9は前記と同じ意味を有する)
で表されるハロ化合物を得る工程8と;
工程8で得られた上記ハロ化合物[XVI]を、上記工程4で得られた上記一般式 [VIII]:
【0038】
【化18】
(式中、Z
1、Z
2およびArはいずれも前記と同じ意味を有する)
で表されるヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物と反応させて一般式[XVII]:
【0039】
【化19】
(式中、Z
1、Z
2、Ar、R、R
1、R
2、R
3およびX
9は前記と同じ意味を有する)
で表されるホスフィンボラン化合物を得る工程9と;
工程9で得られたホスフィンボラン化合物[XVII]を脱保護することによって一般式[XVIII]:
【0040】
【化20】
(式中、Z
1、Z
2、Ar、R、R、R
1、R
2、R
3およびX
9は前記と同じ意味を有する)
で表されるホスフィン化合物[I]を得る工程10と、からなる方法;
によってホスフィン化合物[I]を製造することからなるホスフィン化合物の製造方法を提供する。
【0041】
この発明は、別の形態として、一般式[I]で表されるホスフィン化合物を含む過酸化物捕捉剤およびその使用方法を提供する。
【0042】
この発明は、さらに別の形態として、一般式[I]で表されるホスフィン化合物を用いて過酸化物を捕捉することからなる過酸化物捕捉方法を提供する。
【0043】
この発明は、この形態の好ましい態様として、過酸化物が、例えば、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル等のラジカル種、過酸化水素、一重項酸素等のノンラジカル種などであることからなる過酸化物捕捉方法を提供する。
【0044】
また、この発明は、別の形態として、一般式[I]で表されるホスフィン化合物が酸化されて生成する酸化生成物を提供する。具体的には、この発明は、一般式 [I] で表されるホスフィン化合物が酸化生成される酸化生成物が
【0045】
一般式 [I’]:
【化21】
(式中、Z
1’およびZ
2’は、上記Z
1、およびZ
2とそれぞれ同じ意味を有し、ただし、R
1、R
2およびR
3の全てが単環式炭化水素基である場合は、そのいずれか一方は、単環式炭化水素基以外の環式基であり、またZ
1’およびZ
2’がいずれも単環式炭化水素基である場合は、R
1、R
2およびR
3の1つは、単環式炭化水素基以外の環式基を意味する)
で表されるホスフィニル化合物を提供する。
【発明の効果】
【0046】
この発明に係るホスフィン化合物は、活性酸素の発生源である一方、酸化ストレスを最も大きく受けやすい微小器官の1つであるミトコンドリアでの酸化ストレスの状態を視覚化することができる機能性分子を生成することができ、それによって酸化ストレスに起因する多くの疾病の機構を解明できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、MitoDPPPについての過酸化水素による酸化反応の蛍光強度の経時変化を示す図である。(実施例4)
【
図2】
図2は、MitoDPPPのHep G2細胞への導入についての図である。(実施例5)
【
図3】
図3は、MitoDPPPのHep G2細胞への導入および tert−ブトキシヒドロパーオキサイド(tBHP)刺激による酸化についての図である。(実施例6)
【
図4】
図4は、過酸化水素およびtBHPによるHep G2細胞内 MitoDPPP の酸化の比較した結果を示す図である。(実施例7)
【
図5】
図5は、MitoDPPPの水溶液での蛍光強度の経時変化を示す図。(実施例9)
【
図6】
図6は、アスコルビン酸存在下における細胞中でのMitoDPPPの酸化による蛍光強度の経時変化を示す図。(実施例9)
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
この発明は、下記一般式[I]:
【化22】
(式中、Z
1およびZ
2はいずれも環式基を意味し、
Arはアリレン基を意味し、
Rは脂肪族炭化水素基を意味し、
Yはリン(P)、窒素(N)またはビスマス(Bi)を意味し、
R
1、R
2およびR
3はいずれも環式基を意味する)
で表されるホスフィン化合物に関するものである。
【0049】
この発明に係るホスフィン化合物[I]において、Z
1およびZ
2で表される環式基はいずれも、非置換もしくは置換の単環式炭化水素基もしくは多環式炭化水素基または複素単環式基もしくは複素多環式基であり;
Arで表されるアリレン基は、非置換もしくは置換の単環式炭化水素基または2環式炭化水素基であり;
Rで表される脂肪族炭化水素基は、炭素原子数が1〜8個の直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基であり、
R
1、R
2およびR
3で表される環式基がそれぞれ、同一かまたは異なっていてもよく、非置換もしくは置換の単環式炭化水素基もしくは多環式炭化水素基または複素単環式基もしくは複素多環式基を意味する)で表されるカチオン基であり、
ただし、Z
1およびZ
2のいずれか一方の環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基であり、他方の環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基であり、および/またはR
1、R
2およびR
3のいずれか一方の環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基であり、他方の環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基である。
【0050】
この発明の更に好ましい態様においては、一般式[I]で表されるホスフィン化合物において、Z
1およびZ
2のいずれか一つの環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基であり、他方の単環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基であり、R
1、R
2およびR
3の全ての環式基は単環式炭化水素基または複素単環式基である、またはZ
1およびZ
2の全ての環式基は単環式基が単環式炭化水素基または複素単環式基であり、R
1、R
2およびR
3のいずれか一つの環式基は多環式炭化水素基または複素多環式基であり、他の環式基が単環式炭化水素基または複素単環式基であるのがよい。
【0051】
更に詳細には、上記一般式[I]で表されるホスフィン化合物であって、Z
1およびZ
2でいずれも表される環式基のうち、単環式炭化水素基は、例えば、フェニル基などであり;多環式炭化水素基としては、2環式炭化水素基は、例えば、インダニル基、インデニル基、ペンタレニル基、アズレニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基など;3環式炭化水素基は、例えば、アントラセニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントレニル基など;4環式炭化水素基は、例えば、ピレニル基、ナフタセニル基、クリセニル基など;5環式炭化水素基は、例えば、ペリレニル基、ピセニル基、ペンタセニル基など;6環式炭化水素基は、例えば、ナフトビレニル基など;7環式炭化水素基は、例えば、コロネニル基などであり;また複素環式基の複素単環式基としては、N含有複素単環式基は、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピペリジル基、トリアジニル基など;O含有複素単環式基は、例えば、フラニル基、ピラニル基など;S含有複素多環式基は、例えば、チオフェニル基など;N/O/S含有複素単環式基は、例えば、オキサゾリル基、チアゾリル基、モルホリニル基等のなどであり;また複素多環式基としては、N含有複素多環式基は、例えば、インドリル基、インドリニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、プテリジニル基、プリニル基等のN含有複素2環式基;アクリジニル基、カルバゾリル基、フェナントリジニル基、フェナジニル基、ベンゾイソキノリニル基等のN含有複素3環式基など;O含有複素多環式基は、例えば、ベンゾフラニル基、クロマニル基、クロメニル基、イソクロマニル基等のO含有複素2環式基、キサンテニル基等のO含有複素3環式基など;ジチアナフチル基等のS含有複素3環式基、チアントレニル基等のS含有複素3環式基等のS含有複素多環式基;ピリドオキサゾリル基、チエノフラニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ピラゾロオキサゾリル基等のN/O/S含有複素多環式基などである。また、これらの環式基は、置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素原子数が1〜6個の低級脂肪族炭化水素基などを有していてもよい。
【0052】
Arで表されるアリレン基はフェニレン基、ナフタレン基などであり、またRで表される直鎖状または分岐状の2価脂肪族炭化水素基はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基またはメチルブチレン基などである。
【0053】
Aで表されるカチオン基のR
1、R
2およびR
3でいずれも表される環式基のうち、単環式炭化水素基は、例えば、フェニル基などであり;多環式炭化水素基としては、2環式炭化水素基は、例えば、インダニル基、インデニル基、ペンタレニル基、アズレニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基など;3環式炭化水素基は、例えば、アントラセニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントレニル基など;4環式炭化水素基は、例えば、ピレニル基、ナフタセニル基、クリセニル基など;5環式炭化水素基は、例えば、ペリレニル基、ピセニル基、ペンタセニル基など;6環式炭化水素基は、例えば、ナフトビレニル基など;7環式炭化水素基は、例えば、コロネニル基などであり;また複素環式基の複素単環式基としては、N含有複素単環式基は、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピペリジル基、トリアジニル基など;O含有複素単環式基は、例えば、フラニル基、ピラニル基など;S含有複素多環式基は、例えば、チオフェニル基など;N/O/S含有複素単環式基は、例えば、オキサゾリル基、チアゾリル基、モルホリニル基等のなどであり;また複素多環式基としては、N含有複素多環式基は、例えば、インドリル基、インドリニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、プテリジニル基、プリニル基等のN含有複素2環式基;アクリジニル基、カルバゾリル基、フェナントリジニル基、フェナジニル基、ベンゾイソキノリニル基等のN含有複素3環式基など;O含有複素多環式基は、例えば、ベンゾフラニル基、クロマニル基、クロメニル基、イソクロマニル基等のO含有複素2環式基、キサンテニル基等のO含有複素3環式基など;ジチアナフチル基等のS含有複素3環式基、チアントレニル基等のS含有複素3環式基等のS含有複素多環式基;ピリドオキサゾリル基、チエノフラニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ピラゾロオキサゾリル基等のN/O/S含有複素多環式基などである。また、これらの環式基は、置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素原子数が1〜6個の低級脂肪族炭化水素基などを有していてもよい。
【0054】
上記一般式[I]で表されるホスフィン化合物は、カチオンの状態であるので、アニオンと結合する形態であるのがよい。かかるカチオンとしては、例えば、塩素、臭素またはよう素イオン等のハロゲン原子イオンなどが挙げられ、当然のことながら、アニオンとの結合状態の化合物もこの発明に包含される1形態である。
【0055】
この発明に係るホスフィン化合物[I]は、それ自体当該技術分野にて既知の方法によって製造することができる。その製造方法を下記反応工程に従って更に詳しく説明する。
【0056】
【化23】
【0057】
上記反応工程に示すように、工程1aは、ハライド化合物[II]と、ジハロホスフィン化合物[III]と、メトキシアリール金属マグネシウムハライド[IV]とを反応させて、メトキシアリールホスフィン化合物[V]を得る工程である。
工程1で使用されるハライド化合物[II]のハロゲン原子としては、例えば、臭素、ヨウ素、塩素などが挙げられ、ハライド化合物[II]としては、例えば、フェニルブロミド、トリルクロリド、ナフチルブロミド、アントラセニルブロミド、ピレニルブロミド、ペリレニルブロミドなどが挙げられる。
ジハロホスフィン化合物[III]としては、例えば、ジクロロフェニルホスフィン、ジブロモフェニルホスフィン、ジヨードフェニルホスフィンなどが挙げられる。ジハロホスフィン化合物[III]の置換基としては、例えば、炭素原子数が1から6個、好ましくは炭素原子数が1から3個の脂肪族炭化水素基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
メトキシアリール金属マグネシウムハライド[IV]としては、例えば、メトキシフェニルマグネシウムクロライド、メトキシフェニルマグネシウムブロマイド、メトキシフェニルマグネシウムヨーダイドなどが挙げられ、置換基としては、例えば、炭素原子数が1から6個、好ましくは炭素原子数が1から6個の脂肪族炭化水素基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。また、置換基の数および位置は特に限定されるものではなく、反応に支障がない限り任意であってよい。
【0058】
工程1における反応は溶媒中で行うのがよく、溶媒としては、例えば、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテルなどを使用することができる。また、反応温度は、例えば、0℃〜-100℃、好ましくは-40℃〜-80℃であって、反応時間は、例えば、1〜24時間、好ましくは5〜15時間程度であるのがよい。
【0059】
工程2は、工程1aで得られたメトキシアリールホスフィン化合物[V] の酸化反応であって、メトキシアリールホスフィンオキシド化合物[VI]を得る工程である。この酸化反応は溶媒中で酸化剤を使用して行うことができる。使用できる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、モノ化硫酸水素カリウムなどが挙げられる。溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルキル、などの有機溶媒を使用することができる。反応温度は室温から60℃程度、好ましくは40℃〜45℃であって、反応時間は10分〜1時間程度、好ましくは15分〜25分程度であるのがよい。
【0060】
また、メトキシアリールホスフィンオキシド化合物[VI]は、上記反応工程に示すように、工程1bによっても製造できる。つまり、上記ハライド化合物[II]と、メトキシアリールホスフィンオキシド[XI]とを反応させることによっても製造することができる。工程1bの反応は、例えば、酢酸パラジウムなどのパラジウム化合物と1.3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンとジイソプロピルエチルアミンなどのアミン類の存在下でジメチルスルホンオキシド、ジメチルホルムアミドなどの溶媒中で行うのがよい。反応温度は加熱下、例えば室温〜160℃、好ましくは150℃で、反応時間は10〜24時間程度、好ましくは12時間〜18時間である。
【0061】
工程3は、工程2で得られたメトキシアリールホスフィンオキシド化合物[VI]の保護基の脱保護反応であって、ヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物[VII]を得る工程である。この脱保護反応によって、メトキシアリールホスフィンオキシド化合物[VI]におけるメトキシフェニル基のメトキシ基が脱保護されてヒドロキシ基に変換することができる。この脱保護反応は脱保護化剤を使用して溶媒下で行うのがよい。かかる脱保護化剤としては、例えば、ボラントリブロミド等の脱メチル化試薬などが使用できる。溶媒としては、非プロトン性溶媒、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化アルキルなどが使用できる。反応温度はー50℃〜0℃程度、好ましくは-20℃〜-10℃程度であって、反応時間は1時間〜24時間程度、好ましくは10時間〜20時間程度であるのがよい。
【0062】
工程4は、上記工程3で得られたヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物[VII]を保護試剤と反応させて保護基を導入してヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物[VIII]を得る工程である。この工程での反応は、ジ環式基置換ヒドロキシアリールホスフィンオキシド化合物[VII]を保護試剤と、溶媒中で反応させて、ボラン保護基を導入する。この工程で使用できる保護試剤としては、例えば、モノボラン、などの水素化ホウ素化合物が挙げられる。溶媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミンなどを使用することができる。反応温度は-50℃〜200℃程度、好ましくは-20℃〜150℃程度であって、反応時間は10分間〜24時間程度、好ましくは30分間〜20時間程度であるのがよい。
【0063】
工程5は、上記工程4で得られたヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物[VIII]を置換アルキルハライド[IX]と反応させてホスフィンボラン化合物[X]を得るアルキル化工程である。このエーテル結合生成反応は、ホルムアミド例えばジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中でたとえばナトリウムハイドライドなどの塩基存在下-50℃〜0℃程度、好ましくは-20℃〜0℃程度の反応温度で、10分間〜24時間程度、好ましくは30分間〜20時間程度の反応時間行うのがよい。
【0064】
工程6は、工程5で得られたトリ置換ホスフィンボラン化合物[X]のボラン保護基を脱保護して、ホスフィン化合物[I]を得る工程である。この脱保護反応は、この脱保護反応は脱保護化剤を使用して溶媒下で行うのがよい。かかる脱保護化剤としては、例えば、ジエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の脱ボラン化試薬などが使用できる。溶媒としては、非プロトン性溶媒、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキルなどが使用できる。反応温度は0℃〜60℃程度、好ましくは30℃〜40℃程度であって、反応時間は1時間〜24時間程度、好ましくは10時間〜15時間程度であるのがよい。
【0065】
また、この発明に係るホスフィン化合物[I]は、次のような工程からなる方法によっても製造することもできる。なお、下記反応スキームにおいては、ホスフィン化合物[I]は、一般式[XVIII]で表されている。
【0066】
【化24】
【0067】
工程7はハライド化合物[XII]と、モノハロホスフィン化合物[XIII]とをアルキルリチウム、たとえばブチルリチウムの存在下で反応させて、トリアリールホスフィン化合物[XIV]を得る工程である。
工程7で使用されるハライド[XII]のハロゲン原子としては、例えば、臭素、ヨウ素、塩素などが挙げられ、ハライド化合物[XII]としては、例えば、フェニルブロミド、トリルクロリド、ナフチルブロミド、アントラセニルブロミド、ピレニルブロミド、ペリレニルブロミドなどが挙げられる。
モノハロホスフィン化合物[XIII]としては、例えば、クロロフェニルホスフィン、ブロモフェニルホスフィン、ヨードフェニルホスフィンなどが挙げられる。ハロホスフィン化合物[XIII]の置換基としては、例えば、炭素原子数が1から6個、好ましくは炭素原子数が1から3個の脂肪族炭化水素基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。また、置換基の数および位置は特に限定されるものではなく、反応に支障がない限り任意であってよい。
工程7における反応は溶媒中で行うのがよく、溶媒としては、例えば、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテルなどを使用することができる。また、反応温度は、例えば、0℃〜-100℃、好ましくは-40℃〜-80℃であって、反応時間は、例えば、1〜24時間、好ましくは5〜15時間程度であるのがよい。
【0068】
工程8はアルキルジハライド[XVI]とトリアリールホスフィン[XIV]を反応させて置換アルキルハライド[XVI]を得る工程である。このアルキル化反応は芳香族炭化水素、例えばトルエンなどの有機溶媒中で-50℃〜200℃程度、好ましくは-20℃〜150℃程度の反応温度で、10分間〜24時間程度、好ましくは30分間〜20時間程度の反応時間行うのがよい。
【0069】
工程9は、上記工程1a、工程2、工程3および工程4で得られたヒドロキシアリールホスフィンボラン化合物[VIII]を置換アルキルハライド[XVI]と反応させてホスフィンボラン化合物[XVII]を得るアルキル化工程である。このエーテル結合生成反応は、ホルムアミド、例えばジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中で、たとえばナトリウムハイドライドなどの塩基存在下-50℃〜0℃程度、好ましくは-20℃〜0℃程度の反応温度で、10分間〜24時間程度、好ましくは30分間〜20時間程度の反応時間行うのがよい。
【0070】
工程10は、工程9で得られたトリ置換ホスフィンボラン化合物[XVII]のボラン保護基を脱保護して、ホスフィン化合物[XVIII]を得る工程である。この脱保護反応は、この脱保護反応は脱保護化剤を使用して溶媒下で行うのがよい。かかる脱保護化剤としては、例えば、ジエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の脱ボラン化試薬などが使用できる。溶媒としては、非プロトン性溶媒、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキルなどが使用できる。反応温度は0℃〜60℃程度、好ましくは 30℃〜40℃程度であって、反応時間は1時間〜24時間程度、好ましくは10時間〜15時間程度であるのがよい。
【0071】
この発明に係るホスフィン化合物[I]は、酸化されると速やかにホスホニウムオキシド塩[I’]となって蛍光強度を増加する。ホスホニウムオキシド塩[I’]とミトコンドリア蛍光マーカーとの二重染色により、ホスホニウムオキシド塩[I’]がミトコンドリアに局在していることが確認された。ホスフィン化合物[I]を水溶液中で過酸化水素およびtert−ブトキシヒドロパーオキサイド(tBHP)により酸化すると、どちらの酸化剤でも蛍光強度の増大が確認された。一方、ミトコンドリアに局在しているホスフィン化合物[I]は、同様に酸化すると、tBHPを使用したときのみにホスホニウムオキシド塩[I’]の蛍光が観察されている。
【0072】
ホスフィン化合物[I]は、酸化されて上記に示すようにホスホニウムオキシド塩[I’]になる。つまり、ホスホニウムオキシド塩[I’]は、一般式[I’]:
【化25】
(式中、Z
1’およびZ
2 ’は、上記Z
1、およびZ
2とそれぞれ同じ意味を有し、ただし、R
1、R
2およびR
3の全てが単環式炭化水素基である場合は、そのいずれか一方は、単環式炭化水素基以外の環式基であり、またZ
1’およびZ
2 ’がいずれも単環式炭化水素基である場合は、R
1、R
2およびR
3の1つは、単環式炭化水素基以外の環式基を意味する)
で表される化合物である。
【0073】
これらの結果から、この発明のホスフィン化合物[I]は、生体細胞、特にミトコンドリアに局在して、ミトコンドリア内に発生する活性酸素などの過酸化物を捕捉することができる。したがって、この発明のホスフィン化合物[I]は、ミトコンドリアに局在して過酸化物を捕捉することができることから、ミトコンドリアの過酸化物捕捉剤として使用することができる。
【実施例1】
【0074】
この発明に係る[3−(4−フェノキシフェニルホスフィノピレニルホスフィノ)ブロピル]トリフェニルホスホニウムヨ−ダイド[Ia](MitoDPPP)の反応スキームは次の通りである。
【0075】
【化26】
【0076】
上記反応スキームの各工程について詳細に説明する。
工程1c:4−メトキシフェニルフェニルピレニルホスフィン[Va]の合成
ピレンブロミド[IIa](3.28g, 15mmol)を70mLのTHFに溶かし、-78℃でn-BuLi(6.11mL, 2.7M,
16.5mmol, 1.1eq)を15分間滴下し、3時間撹拌した。この反応物をTHF
6mLに溶かしたジクロロフェニルホスフィン[IIIa](2.03mL, 15mmol, 1eq)へ15分間滴下した(-78℃)。一晩撹拌した後、4−メトキシフェニルマグネシウムブロミド[IVa](45mL, 0.5M, 22.5mmol, 1.5eq)を-78℃にて15分間滴下した。6時間撹拌した後、50mLの飽和塩化アンモニウム水溶液にてクエンチした。その際生じた無機塩を吸引ろ過にて除去し、ジクロロメタン(100mL×3)にて抽出した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥後、エバポレーターにて濃縮した。精製はカラムクロマトグラフィーを展開溶媒(ジクロロメタン:へキサン=1:2)にて行った。得られた淡黄色の結晶が収率32%で得られた。得られた淡黄色の結晶は
1H-NMR、
31P-NMR、
13C-NMR、H-H COSYおよびC-H COSYにて同定した。
【0077】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ
3.78 (s, 3H), 6.89 (d, J = 8.8 Hz,2H), 7.28-7.34 (m, 7H), 7.54 (dd, J = 8.0, 4.4 Hz, 1H), 7.98-8.10 (m, 5H), 8.17-8.20 (m,
2H), 8.73 (dd, 8.0, 4.4 Hz, 1H).
31P NMR
(CDCl
3, 162 MHz) δ -14.23.
13C NMR (CDCl
3, 100 Hz) δ
114.36, 114.38, 114.62, 114.71, 124.78, 124.80, 124.88, 124.93, 124.99, 125.54,
125.60, 125.74, 125.81, 126.29, 127.29, 127.36, 127.64, 127.95, 127.98, 128.29,
128.49、128.55,
128.78, 128.83, 128.49, 130.98, 131.09, 131.55, 131.94, 132.26, 132.41, 132.43,
133.94, 134.03, 134.13, 134.26, 134.76, 134.97, 136.07, 136.29, 137.68, 137.78,
160.69.
【0078】
工程2a:4−メトキシフェニルフェニルピレニルホスフィンオキシド[VIa]の合成
ピレニル−フェニル−4−メトキシフェニルホスフィン[Va](1.68g, 4.03mmol)をクロロホルム25mLに溶かし、5mLの過酸化水素をゆっくり滴下する。5分間撹拌し、10%チオ硫酸ナトリウム25mLにてクエンチする。クロロホルム(20mL×3)にて抽出した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥し、エバポレーターにて濃縮して白色結晶を収率97%で得た。得られた白色結晶は
1H-NMR、
31P-NMRおよび
13C-NMRにて同定した。
【0079】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ 3.82 (s, 3H), 6.97 (d, J = 11.2 Hz, 2H), 7.43-7.49 (m,
2H), 7.52-7.56 (m, 1H), 7.60-7.78 (m, 5H), 8.00-8.08 (m, 4H), 8.15-8.23 (m,
3H), 8.94 (d, J = 9.6 Hz, 1H).
31P NMR (CDCl
3, 162 MHz) δ
33.93.
13C NMR (CDCl
3, 100 Hz) δ
114.37, 114.50, 123.68, 123.82, 124.03, 124.43, 125.14, 125.27, 125.32, 125.37,
126.35, 126.59, 126.67, 127.36, 128.74, 128.86, 129.06, 130.01, 130.66, 131.24,
131.35, 131.48, 131.98, 132.01, 132.33, 132.43, 133.51, 134.24, 134.28, 134.35,
134.38, 134.55, 162.66, 162.69.
【0080】
工程3a:4−メトキシフェニルフェニルピレニルホスフィンオキシド[VIIa]の合成
ピレニル−フェニル−4−メトキシフェニルホスフィンオキシド[VIa](1.7g, 3.9mmol)をジクロロメタン100mLに溶かし、-78℃にてボラントリブロミド(11mL, 11mmol, 4eq)を滴下した。18時間撹拌後、40mLのH
2Oにてクエンチした。そのとき生じた白色の沈殿物を吸引ろ過した。得られた結晶を一晩ピストル乾燥して白色結晶を収率94%で得た。得られた白色結晶は
1H-NMRおよび
31P-NMRにて同定した。
【0081】
1H NMR (DMSO-d
6, 400 MHz) δ6.92
(d, J = 10.8 Hz, 2H), 7.40-7.45 (m, 2H), 7.52-7.61 (m, 5H), 7.69 (dd, J = 12.0, 7.6 Hz, 1H), 8.11-8.40 (m, 7H), 8.83 (d, J =
9.2 Hz, 1H), 10.34 (br).
31P NMR (DMSO-d
6,
162 MHz) δ31.10.
【0082】
工程4a:4−ヒドロキシフェニルフェニルピレニルホスフィンボラン[VIIIa]の合成
ピレニル−フェニル−4−メトキシフェニルホスフィンオキシド[VIIa](1.2g, 3.1 mmol)にトルエン100mLに溶かしトリエチルアミン(1.79mL,
13mmol, 4eq)を滴下し、氷溶中にて撹拌する。トリクロロシラン(1.2mL,
12mmol, 4eq)を10分間滴下し110℃で還流する。18時間撹拌後、氷溶中にてボランTHFコンプレックス(3.00mL,
3.1mmol, 1eq)を10分間滴下する。15分間撹拌後、5mLのメタノールにてクエンチした。白色の沈殿物を吸引ろ過し、ろ液をエバポレーターにて濃縮して淡黄色の結晶を収率88%で得た。得られた淡黄色の結晶を展開溶媒(酢酸エチル:へキサン=1:2)にてカラムクロマトグラフィーを行って淡黄色の結晶を得た。得られた淡黄色の結晶は
1H-NMRおよび
31P-NMRにて同定した。
【0083】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ
6.88 (d, 8.4 Hz,2H),7.40-7.44 (m, 2H), 7.49-7.58 (m, 3H), 7.65-7.74 (m, 3H),
7.96-8.06 (m, 4H), 8.11-8.24 (m, 3H), 8.40 (d, J = 9.2 Hz, 1H).
31P
NMR (CDCl
3, 162 MHz) δ 20.40 (br).
13C
NMR (CDCl
3, 100 Hz) δ 116.41, 116.51, 119.96, 120.58, 122.39, 122.94, 124.38,
124.42, 124.53, 125.36, 125.44, 126.37, 126.61, 126.67, 126.72, 127.35, 128.35,
129.13, 129.24, 129.74, 130.02, 130.55, 130.61, 131.27, 131.45, 131.47, 131.96,
13204, 133.43, 133.48, 133.53, 133.57, 133.96, 133.98, 135.69, 135.79, 158.66,
158.68. IR 830.91, 1102.58, 1175.52, 1435.70, 1500.34, 1580.50, 2375.59,
3405.33.
【0084】
工程5a:ホスフィンボラン[Xa]の合成
グローボックス内にてナトリウムハイドライド[VIIIa](192mg, 2.9mmol, 1.1eq)をヘキサン(1mL×3)にて洗浄し、5mLのDMFを滴下し10分間撹拌する。5mLのDMFに溶かしたピレニル−フェニル−4−フェノキシホスフィンボラン(1.14g,
2.7mmol, 1eq)を5分間滴下する。3時間撹拌後、-15℃にて5mLのDMFに溶かしたヨ−ドプロパントリフェニルホスホニウムヨ−ダイド[IXa](1.51g, 2.7mmol, 1eq)を5分間滴下した。6時間撹拌後、反応溶液はオレンジ色の混濁液から黄色の透明溶液になった。そのとき飽和塩化アンモニウム水溶液5mLにてクエンチした。ジクロロメタン(10mL×3)にて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥した。エバポレーターにて濃縮し、黄色のオイルが得られた。この黄色のオイルを展開溶媒(ジクロロメタン:酢酸エチル=3:7)を用いてカラムクロマトグラフィーで精製した。得られた黄色の結晶を少量のジクロロメタンに溶かし、酢酸エチルを加えると白色の沈殿物が沈降した。上層をデカンテーションにて取り除き、オイルポンプを引くと白色の結晶を収率33%で得た。得られた白色結晶は
1H-NMR、
31P-NMRおよびESI-MSにて同定した。
【0085】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ 2.16-2.18 (m, 2H), 4.05-4.13 (m, 2H) 4.38-4.41 (m, 2H), 6.92 (d, J = 8.0
Hz, 2H), 7.27-7.44 (m, 2H), 7.49-7.57 (m, 3H), 7.65-7.86 (m, 18H), 7.95-8.08
(m, 4H), 8.12-8.22 (m, 3H), 8.39 (d, J = 9.2 Hz, 1H),
31P NMR (CDCl
3,
162 MHz) δ 20.26 (br), 25.90
13C NMR (CDCl
3,
100 Hz) δ 19.95 (d, JCP = 52.60 Hz), 23.01 (s), 66.99 (d, JCP = 16.80 Hz),
115.48, 115.59, 117.87, 118.73, 120.13, 120.76, 122.41, 122.96, 124.38, 124.49,
124.59, 125.32, 125.41, 126.35, 126.56, 126.61, 126.68, 127.41, 128.31, 129.13,
129.23, 129.69, 129.93, 130.51, 130.67, 130.80, 131.26, 131.45, 131.47, 132.01,
132.10, 133.36, 133.43, 133.52, 133.87, 133.97, 135.32, 135.35, 135.41, 135.51,
160.97, 160.99. IR 688.37, 738.36, 1105.66, 1247.54, 1435.83, 1498.61, 1592.29,
2377.83. ESI-MS (C
49H
42BOP
2+) : 計算値:719; 測定値:721.
元素分析(C
49H
42BIOP
2);計算値:C, 69.52; H, 5.00; 測定値: C, 69.37; H, 5.28.
【0086】
工程6a:[3−(4−フェノキシフェニルホスフィノピレニルホスフィノ)ブロピル]トリフェニルホスホニウムヨ−ダイド[Ia]の合成
[ピレニル−フェニル−4−フェノキシホスフィンボラン]トリフェニルホスホニウムダイド[Xa](167mg, 0.21mmol)をクロロホルム1mLに溶かし、ジエチルアミン(102μL, 0.84mmol, 4eq)を滴下した。水浴にて40℃で一晩撹拌した。溶媒をエバポレーターにて濃縮し、展開溶媒(ジクロロメタン:メタノール=13:1)を用いてカラムクロマトグラフィーで精製すると、白色の結晶が収率51%で得られた。この白色結晶は
1H-NMRおよび
31P-NMRにて同定した。
【0087】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ 2.15-2.19(m, 2H), 4.08-4.15 (m, 2H), 4.34 (t, J = 5.6 Hz, 2H), 6.82 (d,
J = 8.8 Hz, 2H), 7.21-7.33 (m, 7H), 7.52 (dd, J =
7.6, 4.4 Hz, 1H), 7.63-7.87 (m, 15H), 7.97-8.09 (m, 5H), 8.16-8.19 (m, 2H),
8.71 (dd, J = 9.2 Hz, 4.4 Hz, 1H).
31P NMR
(CDCl
3, 162 MHz) δ -13.76, 26.07.
13C NMR (CDCl
3,
100 Hz) δ 19.96 (d, JCP = 51.9 Hz), 23.15 (s), 66.75 (d, JCP = 16.0 Hz),
115.22, 115.31, 118.05, 118.90, 124.76, 124.84, 124.89, 125.06, 125.50, 125.58,
125.70, 125.77, 126.26, 127.68, 127.74, 127.81, 127.90, 127.933, 128.25,
128.78, 128.85, 130.62, 130.74, 131.01, 131.06, 131.54, 131.91, 132.20, 132.34,
133.91, 134.01, 134.09, 134.18, 135.22, 135.25, 136.09, 136.30, 137.48, 137.58,
159.29. IR 687.78, 1110.48, 1241.25, 1434.81, 1588.94. ESI-MS for C
49H
39OP
2+:
計算値:705; 測定値: 705
【実施例2】
【0088】
実施例2はMitoPeDPPの合成方法である。
【化27】
【0089】
ペリレンブロミドの合成
ペリレン3.0g(11mmol)をジクロロメタン700mLに溶かし5分間攪拌した。そこへ、N−ブロモサクシンイミド2.11g(12mmol,
1.1eq)を室温でゆっくり滴下し一晩攪拌した。反応溶液を展開溶媒ジクロロメタン:ヘキサン=1:1に調整したシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、N−ブロモサクシンイミドを取り除いた。溶媒を濃縮後、黄色の結晶(収率90%)を得た。化合物の同定は
1H-NMR、ESI-MSより行った。
【0090】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ 7.46-7.51
(m, 2H), 7.59 (t, J = 4.4 Hz,1H), 7.68-7.72 (m, 2H), 7.78-7.80 (m, 1H),
7.98-8.04 (m, 1H), 8.09-8.14 (m, 1H), 8.17-8.28 (m, 3H). ESI-MS (C
20H
11Br):計算値:330.00;
測定値: 331.9.
【0091】
アニシルフェニルホスフィンオキシドの合成
ヘキサン30mlにピリジン3.2mL(40mmol, 2eq)を加え、そこへジクロロフェニルホスフィン2.7mL(20mmol)をゆっくり滴下した。そこへジエチルアミン4.18mL(40mmol, 2eq)をゆっくり滴下後、3時間還流した。溶媒を除去後、淡黄色の油状物質(収率60%)を得た。
【0092】
得られた粗生成物を35mLのテトラヒドロフランに溶かし、−15℃のアイスバスにて15分間撹拌した。そこへアニシルマグネシウムブロミド24mL(12mmol,1eq)をゆっくり滴下し一晩撹拌した。2N塩酸水溶液15mLを室温にて滴下した。エーテルにより抽出し(30mL×3回)、硫酸ナトリウムにより乾燥後、溶媒を除去して粗アニシルフェニルホスフィンオキシド(収率40%)を得た。
【0093】
4−メトキシフェニルフェニルペリレニルホスフィンオキシド(3)の合成
ペリレンブロミド780mg(2.35mmol)とアニシルフェニルホスフィンオキシド1.1g(4.7mmol, 2eq)と酢酸パラジウム53mg(0.24mmol, 0.05eq)と1.3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン99mg(0.24mmol,
0.05eq)の混合物に17mLのDMSOに溶かしたジイソプロピルエチルアミン1.2g(9.4
mmol, 4eq)を滴下した。反応温度を150℃に上げ一晩撹拌する。TLCにて反応を確認後、酢酸エチル50mLを加えて薄め、H
2O、飽和NaCl水溶液にて3回洗浄した(30ml×3回)。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を除去後、淡黄色の結晶を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:エチルアセテート=1:1)により行った(収率70%)。化合物の同定は
1H-NMR、
31P-NMR、
13C-NMR、IR、ESI-MS、UVより行なった。
【0094】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ 3.86 (s,
3H), 6.99 (d, J = 4.4 Hz, 2H), 7.24-7.29 (m, 1H), 7.30-8.06 (m, 12H), 8.08 (d,
J = 2 Hz, 1H), 8.20-8.24 (m, 3H), 8.49 (d, J = 4.2 Hz, 1H).
31P NMR
(CDCl
3, 162 MHz) δ
33.60.
13C NMR (CDCl
3, 100 Hz) δ 55.59, 114.43, 114.56, 118.52,
118.67, 121.03, 121.19, 121.84, 124.32, 126.81, 127.09, 127.77, 127.83, 127.94,
128.44, 128.57, 128.67, 128.79, 128.91, 129.57, 130.37, 131.13, 131.83, 132.11,
132.29, 132.38, 133.78, 134.20, 134.32, 134.50, 134.61, 134.68, 135.61, 135.97,
162.78. IR 758.72, 809.70, 117.79, 1170.46, 1254.81, 1501.34, 1595.92, 3048.39.
ESI−MS (C
33H
23O
2P+H):計算値:483.15;
測定値: 483.11;UV 427 nm, 453 nm.
【0095】
4−ヒドロキシフェニルフェニルペリレニルホスフィンオキシド(4)の合成
4−メトキシフェニルフェニルペリレニルホスフィンオキシド(400mg,
0.83mmol)をジクロロメタン30mLに溶かし、-78℃にてボラントリブロミド(2.5mL,
2.5mmol, 4eq)を滴下する。18時間撹拌後、10mLのH
2Oを加えて反応を終了した。そのとき生じた赤褐色の沈殿物を吸引ろ過した。得られた結晶を一晩ピストル乾燥して赤褐色の結晶(収率77%)を得た。得られた結晶は
1H-NMR、
31P-NMR、IR、ESI-MS、UVにて同定した。
【0096】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ 6.92 (d, J
= 3.6 Hz, 2H), 7.21 (dd, J = 3.8, 15 Hz, 1H),
7.41-7.63 (m, 10H), 7.84-7.90 (m, 2H), 8.35-8.42 (d, J = 2 Hz, 5H), 10.24 (br, 1H).
31P NMR (CDCl
3, 162 MHz) δ 30.59. IR 757.64, 805.41, 118.60,
114.94, 1292.26, 1437.65, 1505.70, 1579.50, 3050.38. ESI−MS (C
32H
21O
2P+K):計算値:509.09;
測定値:: 509.12;UV 427 nm, 453 nm.
【0097】
4−ヒドロキシフェニルフェニルペリレニルホスフィンボラン(5)の合成
4−ヒドロキシフェニルフェニルペリレニルホスフィンオキシド(293mg,
0.63mmol)にトルエン20mLに溶かし、トリエチルアミン(900μL, 6.26mmol, 8eq)を滴下し、氷溶中にて撹拌する。トリクロロシラン(780μL, 7.8mmol, 12eq)を10min滴下し110℃で還流する。18時間撹拌後、氷溶中にてボランTHFコンプレツクス(1.23mL, 1.2mmol, 2eq)を10分間滴下する。15分間撹拌後、10mLのメタノールを加えて反応を終了させた。黄色の沈殿物を吸引ろ過し、ろ液をエバポレーターにて濃縮した。得られた赤褐色の結晶を展開溶媒(ジクロロメタン)にてカラムクロマトグラフィーを行って淡黄色の結晶(収率83%)を得た。得られた結晶は
1H-NMR、
31P-NMR、
13C-NMR、IR、UVにて同定した。
【0098】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ 6.92 (d, J = 3.6 Hz, 2H), 7.20-7.23 (m, 1H), 7.37 (t, J = 8.2 Hz, 1H),
7.45-7.76 (m, 11H), 7.99-8.07 (m, 2H), 8.16-8.20 (m, 3H).
31P NMR
(CDCl
3, 162 MHz) δ 20.12 (br).
13C
NMR (CDCl
3, 100 Hz) δ116.45, 116.56, 116.63, 119.15, 119.27, 119.76,
120.90, 121.09, 121.63, 125.05, 125.60, 126.79, 126.98, 127.12, 127.80, 127.87,
128.40, 129.10, 129.20, 129.33, 129.41, 129.48, 129.53, 130.11, 130.25, 130.95,
131.44, 131.93, 132.84, 132.94, 133.44, 133.54, 134.56, 134.93, 134.99, 135.09,
135.24, 135.35, 135.63, 135.74, 158.94.IR 810.14, 1100.33, 1170.57, 1253.73,
1498.76, 1595.37, 2927.87, 3050.72;UV
428 nm, 454 nm.
【0099】
MitoPeDPPB(6)の合成
ナトリウムハイドライド38.4mg(1.1eq,
0.58mmol)をグローブボックス内でヘキサン(1mL)を用いて3回洗浄した。残ったヘキサンをオイルポンプを用いて乾燥後、DMF
2mLを加え室温で10分間撹拌した。その混合溶液に4−ヒドロキシフェニルフェニルペリレニルホスフィンボラン245mg(0.52mmol)のDMF(2mL)溶液をゆっくり滴下し、2.5時間室温で撹拌した。反応溶液は次第に深赤色の混濁液になり、同時に気泡が発生した。この反応溶液をアイスバスにより−15℃に冷やし、ヨードプロピルホスホニウムヨーダイド290mg(1eq, 0.52mmol)のDMF(1mL)溶液をゆっくり滴下した。徐々に室温に戻し、一晩撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより反応の進行を確認後、飽和塩化アンモニウム水溶液を5mLゆっくり滴下した。ジクロロメタンにより抽出後、硫酸ナトリウムにより乾燥した。溶媒を除去し深赤色のオイルを得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:エチルアセテート=3:7)により行なった(収率41%)。得られた化合物の同定は
1H-NMR、
31P-NMR、IR、ESI-MS、元素分析より行なった。
【0100】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz)δ
2.22 (m, 2H), 4.04 (m, 2H), 4.41 (m, 2H), 6.95 (d, J = 3.4 Hz, 2H), 7.35 (t, J
= 4 Hz, 1H), 7.39-7.59 (m, 8H), 7.65-7.87 (m, 22H), 8.01 (d, J = 4.2 Hz, 1H),
8.10 (d, J = 3.8 Hz, 1H), 8.20 (d, J = 3.6 Hz, 3H).
13C NMR (CDCl
3,
100 Hz) δ20.24,Jcp = 43.722.98, 67.01 (d, Jcp = 8.4), 115.50, 115.62, 117.60, 118.46, 119.27, 119.38,
119.71, 120.34, 120.90, 121.11, 121.71, 124.98, 125.54, 126.86, 126.99, 127.13,
127.71, 127.79, 128.38, 128.44, 129.14, 129.24, 129.35, 129.48, 129.95, 130.22,
130.77, 130.90, 131.54, 131.96, 133.40, 133.50, 133.86, 133.97, 134.54, 134.96,
135.07, 135.24, 135.38, 135.49, 160.97.
31P NMR (CDCl
3,
162 MHz) δ 19.94 (br),
25.91. IR 687.41, 737.06, 1105.67, 1253.35, 1435.94, 1498.13, 1590.88, 2380.33.
ESI−MS for C
53H
41O
2P
2:
計算値:755.26; 測定値: 755.29;元素分析(C
53H
44BIOP
2・2H
2O):計算値:C, 68.26. H, 5.19; 測定値:C, 68.21. H, 5.07.
【0101】
MitoPeDPP(7)の合成
MitoPeDPPB(60mg,
0.067mmol)をクロロホルム1mLに溶かし、ジエチルアミン(52μL,
0.52mmol, 8eq)を滴下する。ウォーターバスにて40℃で一晩撹拌した。溶媒をエバポレーターにて濃縮した。精製は展開溶媒(ジクロロメタン:メタノール=20:1)にてシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。溶媒を濃縮し、赤褐色の結晶(収率62%)を得た。化合物の同定は
1H-NMR、
31P-NMR、
13C-NMR、IR、ESI-MS、UVより行った。
【0102】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ2.17 (m, 2H),
3.92-3.99 (m, 2H), 4.31 (m, 2H), 6.84 (d, J = 4.2 Hz, 2H), 6.93-7.00 (m, 1H),
7.11-7.53 (m, 12H), 7.63-7.83 (m, 21H), 8.02 (d, J = 3.8 Hz, 1H), 8.10 (d, J =
3.8 Hz, 1H), 8.14-8.23 (m, 3H).
31P NMR (CDCl
3, 162 MHz)
δ-13.85, 25.78
13C NMR (CDCl
3, 100 Hz) δ20.20Jcp = 26.3
Hz 23.08, 66.84, 115.31, 115.39, 117.74, 118.60, 120.72, 120.83, 126.08,
126.35, 126.87, 127.04, 128.20, 128.47, 128.65, 128.86, 128.93, 129.18, 130.71,
130.84, 131.06, 131.35, 131.86, 132.45, 132.80, 133.88, 133.98, 134.21, 134.77,
135.41, 136.15, 136.36, 136.68, 159.48 IR 686.99, 810.59, 1109.21, 1239.95,
1434.91, 1494.37, 1588.13, 3048.96. ESI−MS (C
53H
41O
2P
2):計算値: 755.26; 測定値:755.36;UV 433 nm,
463 nm
【実施例3】
【0103】
ヨードプロパンジフェニルピレニルホスホニウムヨーダイドの合成
【化28】
【0104】
ブロモピレン(5mmol,
1.41g)を入れTHF(25ml)に溶かした。これを−78℃に冷やしておき、ここにn-BuLi(5.5mmol, 2.08ml, 2.64M, 1.1eq)をゆっくり滴下し2時間攪拌し、ジフェニルホスフィンクロリド(5mmol,
0.92ml, 1eq)をゆっくり滴下し、一晩攪拌した。飽和NH
4Cl(10mL)を加え、THF層と水層を分け、水層をジクロロメタン(50mL×3)で抽出し、有機層とTHF層を混ぜ、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。エバポレーターを用いて濃縮した。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、ジクロロメタン:ヘキサン=1:3)によって行った。これより白黄色の結晶であるジフェニルピレニルホスフィン(DPPP)を得た(収率39%)。この結晶の同定は
1H-NMR、
31P-NMRにて行った。
【0105】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ7.33-7.37 (m, 10H), 7.53-7.56 (dd, J =
7.8 Hz, 1H), 7.98-8.10 (m, 5H), 8.17-8.20 (m, 2H), 8.75-8.78 (dd, J = 7.9Hz, 1H)
31P NMR (CDCl
3,
162 MHz) δ-12.84
【0106】
ジヨードプロパン(0.6mmol,
175mg)をトルエン(1mL)に溶かし還留させ、そこに得られたジピレニルホスフィン(0.6mmol,
232mg, 1eq)をトルエン(1mL)に溶かしたものをゆっくり滴下した。一晩攪拌させ、析出した黄色い沈殿物を吸引ろ過によってとりだし、熱トルエンで3回洗浄した。この結晶を乾燥させヨードプロパンジフェニルピレニルホスホニウムヨーダイドを得た(収率63%)。
1H-NMR、
31P-NMR、
13C-NMR、ESI-MS、IR、元素分析にて同定した。
【0107】
m. p. 157-158℃
1H NMR (CD
3OD, 400 MHz) δ2.14-2.16
(m, 2H), 3.38-3.41 (t, J = 3.2 Hz, 2H), 3.82-3.83 (m, 2H), 7.77-7.79 (m, 4H),
7.89-7.97 (m, 7H), 8.21-8.33 (m, 3H), 8.43-8.45 (d, J = 7.6 Mz,
1H), 8.47-8.53 (m, 4H)
31P NMR (CD
3OD, 162 MHz) δ24.06.
13C
NMR (DMSO-d6, 100MHz) δ6.40-6.61,
24.79-25.30, 28.06, 108.40, 109.25, 119.44, 120.28, 123.51, 124.34, 126.12, 126.25,
127.81, 128.44, 128.79, 128.91, 130.02, 131.15, 131.28, 131.54, 132.48, 13367,
133.93, 134.12, 134.22, 135.70, 136.70. IR 481.80, 2878.23, 3039.23, 3398.25.
ESI-MS (C
31H
25IP):計算値:555.41;
測定値:555.03. 元素分析(C
31H
25IP):計算値:C, 54.57 H, 3.69、測定値:C,
54.50 H, 4.06.
【0108】
[ジフェニル−4−フェノキシホスフィノ]ジフェニルピレニルホスホニウムヨーダイド(PyMitoTP)の合成
まず、ジフェニル−4−メトキシフェニルホスフィンを下記のように合成した。
【0109】
【化29】
【0110】
ジフェニルホスフィンクロリド(5mmol ,0.92ml)をTHF(25ml)に溶かし、0℃に冷やした。ここに4−メトキシフェニルマグネシウムブロミド(6.5mmol,
19ml, 1.3eq)を20分間滴下した。3時間攪拌させ室温に戻し、さらに5時間攪拌後飽和NH
4Cl(20ml)で反応を終了させた。無機塩を吸引ろ過で除去し、ろ液をジクロロメタン(40ml×3)で抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥させ、エバポレーター、オイルポンプを用いて濃縮しジフェニル−4−メトキシフェニルホスフィンを得た。
【0111】
次に、得られたジフェニル−4−メトキシフェニルホスフィンをMitoDPPPの合成と同様に処理して、下記ホスフィンボラン(収率20%)を得た。
【化30】
【0112】
1H
NMR (CDCl
3, 400 MHz)δ
2.23-2.24 (d, J = 5.2, 2H), 4.29-4.30 (dd, 3.6, 2H),
4.40-4.42 (m, 2H), 6.88-6.90 (d, J = 8.8, 2H), 7.39-7.55 (m, 12H), 7.65-7.70
(m, 4H), 7.77-7.80 (m, 2H), 7.93-7.98 (m, 5H), 8.15-8.23 (m, 3H), 8.34-8.43 (m,
5H)
31P NMR (CDCl
3, 162 MHz) δ 19.98, 25.68. ESI-MS (C
49H
42BIOP
2):計算値:706.52 測定値:706.15.
【0113】
上で得たホスフィンボランから下記のようにして[ジフェニル−4−フェノキシホスフィノ]ジフェニルピレニルホスホニウム ヨーダイド(PyMitoTP)を合成した。
【化31】
【0114】
ホスフィンボラン(20mg,
0.02mmol)をCHCl
3(2ml)に溶か、CHCl
3(1ml)に溶かしたDABCO(2mg, 0.02mmol, 1eq)を滴下した。40℃で一晩攪拌させた。溶媒をエバポレーター、オイルポンプで濃縮した。精製はカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン:メタノール=40:1)にて行った(収率10%)。同定は
1H-NMR、
31P-NMRにて同定した。
【0115】
1H NMR (CDCl
3, 400
MHz) δ2.22 (s, 2H), 4.28-4.29 (d, J = 3.6, 2H), 4.32-4.33 (d, J = 5.2, 2H),
6.80-6.82 (d, J = 8.4, 2H), 7.18-7.23 (t, J = 10, 2H), 7.30-7.60 (m, 10H),
7.67-7.70 (m, 4H), 7.76-7.78 (m, 2H), 7.94-7.99 (m, 5H), 8.15-8.23 (m, 3H),
8.34-8.43 (m, 5H)
31P NMR (CDCl
3, 162 MHz) δ -5.96, 25.71.
【実施例4】
【0116】
実施例1で得られた[3−(4−フェノキシフェニルホスフィノピレニルホスフィノ)ブロピル]トリフェニルホスホニウムヨ−ダイド[Ia](MitoDPPP)について、過酸化水素による酸化反応の蛍光強度の経時変化について調べた。
MitoDPPP(16μM)のジメチルスルホキシド溶液に10mM H
2O
2を滴下して、蛍光波長380nmの蛍光強度を10分間測定した。その結果を
図1に示す。
図1に示すように、MitoDPPPが徐々に酸化されてその蛍光強度が増加していることが分かる。
【0117】
MitoDPPP[Ia]からMitoDPPP[XIa]への酸化反応スキームを下記に示す。
【化32】
【実施例5】
【0118】
MitoDPPPのHepG2細胞への導入について調べた。MitoDPPP(16μM)の20% ジメチルスルホキシド溶液を調製し、HepG2細胞に10分間ロードして細胞を染色した。PBSで洗浄後、蛍光顕微鏡を用いて観測した結果を
図2に示す。図に示すように、ミトコンドリア蛍光染色剤 Mito Tracker Green FMと比較した結果、MitoDPPPがミトコンドリアに局在していることが分かった。
図2(a)は、ミトコンドリア蛍光染色剤Mito Tracker Green FMで染色した図であって、右側は左側の丸印の部分の拡大図である。
図2(b)は、MitoDPPPで染色した図であって、右側は左側の丸印の部分の拡大図である。
【実施例6】
【0119】
MitoDPPPのHep G2細胞への導入およびtert−ブトキシヒドロパーオキサイド(tBHP)刺激による酸化について調べた。MitoDPPP(16μM)の0.1%ジメチルスルホキシド溶液を調製し、Hep G2細胞に2分間ロードして細胞を染色した。PBSで洗浄後、蛍光顕微鏡を用いて観測した。次に、tert−ブトキシヒドロパーオキサイド(tBHP)を添加して10分後に蛍光顕微鏡で観察した。その結果を
図3で示す。図中、(a)はtBHP導入前のMitoDPPP染色細胞、(b)はtBHP導入後のMitoDPPP染色細胞、(c)は(a)の輝度分布、(d)は(b)の輝度分布を示している。これらの結果から、Hep G2細胞中のミトコンドリアに局在する MitoDPPPがtBHPにより酸化を受けて(a)の輝度よりも(b)の輝度が増加していることが分かった。
【実施例7】
【0120】
過酸化水素およびtBHPによるHepG2細胞内MitoDPPPの酸化の比較を調べた。MitoDPPP(16μM)の0.1%ジメチルスルホキシド溶液を調製し、Hep G2細胞に10分間ロードし、PBSで洗浄後、過酸化水素を添加してマイクロプレートリーダーにより蛍光強度の増加を追跡した。その結果を
図4に示した。その結果、水溶液中での MitoDPPPの酸化は、過酸化水素でもtBHPでもいずれを用いても速やかに酸化が進行するが、それに対してHep G2細胞に導入したMitoDPPPは過酸化水素では酸化されないことが分かった。
【実施例8】
【0121】
MitoDPPP(1.6μM)、アスコルビン酸およびアスコルビン酸誘導体(25μM)、AAPH(25μM)が入った1%DMSO含有Dulbecco’sリン酸緩衝溶液を調製し、37℃に加温し、蛍光分光計にて蛍光強度の変化を追跡した。
次に、HepG2細胞を表面に培養したガラスプレートを石英セルの中心に斜めに固定し、DPBS
3mLを加え、自家蛍光(励起波長:281nm、蛍光波長:340nm付近)を測定した。自家蛍光を測定したプレートをシャーレに移し、PBS
1mLで2回洗浄し、MitoDPPP(16μM)溶液2mLをシャーレに注ぎ、37℃で20分間インキュベートした。その後、溶液を取り除きDPBS 1mLで2回洗浄した。次いで、アスコルビン酸(25μM)の溶液、6−O−アセチルアスコルビン酸(25μM)の溶液、6−O−ヘキサノイルアスコルビン酸(25μM)の溶液、5,6−O−イソプロピリデン−L−asukorubin酸(25μM)の溶液をそれぞれ2mL調整し、シャーレに注ぎ37℃で30分間インキュベートした。ロード後、溶液を取り除きPBS 1mLで2回洗浄した。石英セルに37℃に加温したDPBS 1980μLを注ぎ、マグネットを用いて石英セルの中心にプレートを立て蛍光強度(励起波長:353nm、蛍光波長:380nm)を測定した。AAPH(25μM)をDPBS 1mLに溶かし冷やしておいた溶液20μL(最終濃度250μM)を加え、37℃に加温し蛍光分光計にて蛍光強度の増加を追跡した。その結果を
図5および
図6に示す。
【実施例9】
【0122】
抗酸化剤の細胞中での抗酸化力の比較
まず、ラジカル開始剤であるAAPHを用いてMitoDPPPを酸化する。その反応中にアスコルビン酸およびその誘導体を加えると、蛍光強度の増大が抑制される。この抑制の度合いがアスコルビン酸およびその誘導体の抗酸化力となる。
図5は水溶液での蛍光強度の経時変化を示す。
【0123】
次に、アスコルビン酸および合成した脂溶性誘導体のHepG2細胞中での抗酸化作用を比較した。ガラスプレート上にHepG2細胞を培養し、そのプレート上の細胞自身が持つ自家蛍光を測定し、次にMitoDPPPとアスコルビン酸誘導体を導入、次にAAPHを導入することで反応を開始する。測定した蛍光強度を自家蛍光で割ることにより蛍光強度の増大を規格化した。
図6は、アスコルビン酸存在下における細胞中でのMitoDPPPの酸化による蛍光強度の経時変化を示す。
【産業上の利用可能性】
【0124】
この発明に係るホスフィン化合物は、特に酸化ストレスを受けやすいミトコンドリアに局在化する過酸化物を捕捉することができるとともに、ミトコンドリアの膜機能に障害を惹起し、アトポーシスを引き起こす酸化ストレスの程度を蛍光プローブにより視覚化することができることから、ミトコンドリアの過酸化物捕捉剤として有用である。