【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業(押した位置を検知できる柔らかい布製タッチパネルの開発)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の布によるセンサでは、カバリング糸自体が細いため圧力による絶縁体の変形量が小さく、高感度に圧力を検出することが難しいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、汎用の導電糸を利用した低コストでかつ高感度に圧力を検知できる、導電性繊維を織り込んだ導電性織物を実現することである。また、高感度であり、かつ、タッチ位置の検出が容易な織り構造を有する導電性織物を提供するとともに、該導電性織物の構造に適した信号検出回路を備え、該導電性織物をタッチセンサとして使用するタッチセンサ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる導電性織物及び導電性織物を使用したタッチセンサ装置は次の手段をとる。
本発明の第1の発明は、
導電性を備える導電糸と、電気的に絶縁性を備える絶縁糸とを用いて織られた導電布を少なくとも2枚設け、
これらの導電布が面合わせに重ね合わされて一体化され
、
各導電布の導電糸同士間の静電容量の変化を利用して、各導電布間に加えられる圧力変化を検出するタッチセンサとして機能させる導電性織物である。
この第1の発明によれば、導電布を2枚重ねることにより、平織物に比べて、各布の導電糸間の距離が平均して大きくなるので、導電性織物に圧力が加わった時の導電糸の歪み量を平織物に比べて大きくすることができ、その結果大きな静電容量の変化を得ることができるので、高感度に圧力を検知することができる。そして、一般的な導電糸を用いることができる構造なので、球面や自由曲面へ追随できるフレキシブル性を有している。また、各導電布には、導電性繊維を絶縁体で覆った導電糸等、一般的な導電糸を用いることができるので、低コストで導電性織物を実現することができる。
【0007】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る導電性織物であって、
前記導電糸は導電性繊維を絶縁体で覆った導電糸であり、この導電糸を使って少なくとも2枚の導電布を織り、それらの導電布を面合わせに重ね合わせ、各布の導電糸が互いに重なる部分の少なくとも一部を除いて、各導電布を絶縁糸で結束して一体化したことを特徴とする。
第2の発明によれば、導電性繊維を絶縁体で覆った導電糸を使って導電布が織られており、上記第1発明に比べて、導電性織物に圧力が加わった時各布の導電糸間の距離の変化に基づく静電容量の変化の他に、導電繊維の回りにある絶縁体の変形による静電容量の変化も加わるので、大きな静電容量の変化を得ることができ、高感度に圧力を検知することができる。
【0008】
本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係る導電性織物であって、
前記各導電布がパイル糸で結びつけられて、立体構造とされたことを特徴とする。
この第3の発明によれば、導電性織物は、各導電布がパイル糸で結びつけられて立体構造とされているので、導電性織物に圧力が加わった時、圧力によりパイル糸がたわみ、各布の導電糸間の距離及び静電容量が大きく変化し、より高感度に圧力を検知することができる。そして、導電布をパイル糸で結びつけた立体構造なので、球面や自由曲面へ追随できるフレキシブル性は保たれている。
【0009】
本発明の第4の発明は、上記第1の発明ないし第3の発明のいずれかに係る導電性織物であって、前記導電性織物の表面または前記各導電布の間に樹脂を含浸させたことを特徴とする。
この第4の発明によれば、導電性織物の表面に樹脂を含浸させることにより、導電性織物の耐水性の向上をはかることができる。そして、導電性織物の内部の導電布の間に樹脂を含浸させることにより、導電性織物の強度や復元性の向上をはかることができる。また、含浸させた樹脂の化学物質吸収性などの特性を、導電性織物の特性として付加することができる。
【0010】
本発明の第5の発明は、上記第1の発明ないし第4の発明のいずれかの発明に係る導電性織物であって、
前記各導電布を形成する縦糸と横糸のうちいずれか一方の糸は、複数の導電糸を並べた導電糸域と、複数の絶縁糸を並べた絶縁糸域とが、交互に並べられた構成とされ、縦糸と横糸の内の他方の糸は絶縁糸のみが並べられた構成とされており、
前記各導電布は導電糸が互いに交差する方向で面合わせに重ね合わされて一体化されており、該各導電布の導電糸域が交差する領域であるセルを、タッチセンサとして機能させることを特徴とする。
この第5の発明によれば、各導電布の導電糸域が交差する領域のセルでは、縦横2方向の導電糸同士が他の部分に比べて導電布の面方向で接近しているので、セルにタッチした場合は他の部位にタッチした場合に比べて静電容量の変化が大きい。この導電性織物の構造による容量変化特性を利用して、導電性織物のセルをタッチセンサとして機能させることが可能となる。
【0011】
本発明の第6の発明は、上記第5の発明に係る導電性織物をタッチセンサとして使用するタッチセンサ装置であって、
前記各導電布のいずれかの導電布の導電糸域の導電糸に導電糸域毎に相互に区別が可能な周期信号を印加し、
周期信号を印加した導電布の導電糸域毎の導電糸との間の静電容量を介して周期信号を印加しなかった導電布の導電糸域の導電糸から出力される信号を取出し、
取出した信号と印加信号との信号差を検出することにより、タッチされたセルを検出する信号検出回路を備えたことを特徴とする。
この第6の発明によれば、各セルにおける正確な静電容量の変化の信号が得られる。よって、導電性織物の各セルについてタッチされたか否かを検出することが可能となり、導電性織物をタッチセンサとして使用するタッチセンサ装置を提供することができる。
【0012】
本発明の第7の発明は、上記第6の発明に係るタッチセンサ装置であって、前記各導電布のいずれかの導電布の導電糸域の導電糸に印加される周期信号は、導電糸域毎に周波数が異なっていることを特徴とする。
この第7の発明によれば、周期信号を印加しなかった導電布の導電糸域の導電糸から出力される信号を取出し、周波数毎に信号差を検出することで、各導電布の導電糸域が交差する各セルにおける正確な静電容量の変化の信号を得ることができ、各セルへのタッチの有無を検出することができる。
【0013】
本発明の第8の発明は、上記第6の発明に係るタッチセンサ装置であって、前記各導電布のいずれかの導電布の導電糸域の導電糸に印加される周期信号は、各導電糸域に対して時分割で印加されることを特徴とする。
この第8の発明によれば、周期信号を印加しなかった導電布の導電糸域の導電糸から出力される信号を取出し、時分割で信号差を検出することで、各導電布の導電糸域が交差する各セルにおける正確な静電容量の変化の信号を得ることができ、各セルへのタッチの有無を検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0016】
[導電性織物の構成]
始めに、本発明の実施例1におけるタッチセンサ装置30(
図5参照)で使用する導電性織物10の構成について説明する。
図1に導電性織物10の写真を示す。導電性織物10は、導電糸12が織り込まれた2枚の導電布(導電上布20と導電下布22)が上下に面合わせに重ね合わされて、パイル糸で結びつけられた立体構造とされている。導電糸12は
図1では灰色で表されており、絶縁糸14は
図1では白色で表されている。
導電性織物10を構成する各導電布20、22を形成する縦糸は、複数の導電糸12を並べた導電糸域16と、複数の絶縁糸14を並べた絶縁糸域18とが、交互に並べられた構成とされ、横糸は絶縁糸14のみが並べられた構成とされている。なお、横糸を導電糸域16と絶縁糸域18が交互に並べられた構成として、縦糸を絶縁糸14のみが並べられた構成としても良い。縦糸に導電糸12を配する場合は、横糸には絶縁糸14のみを用いるので、布を織る過程で横糸を取り換える必要がない。また、横糸に導電糸12を配する場合は、布を織る過程で、導電糸域16の幅を調整することが可能となる。
なお、製織方法については、ドビー織機、ジャガード織機による製織方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
そして、縦糸と横糸のうちいずれか一方の糸により導電糸域16が形成された導電布を適宜のサイズに切断して、導電上布20、及び導電下布22とする。実施例1では、
図1に示すとおり、導電上布20には導電糸域16が横向きとなるように3箇所に形成された構成とされている。なお、導電上布20における導電糸域16の幅及び導電糸域16同士の間隔は、それぞれ、1センチメートルである。
そして、導電上布20の導電糸域16の右側端部には、マルチプレクサ32(
図5参照)を取り付けるための上布電極21が形成されており、導電下布22の導電糸域16の下側端部には周期信号を印加するための下布電極23が形成されている。
なお、実施例1では、絶縁糸14としてポリプロピレン、導電糸12としてサンダーロン(日本蚕毛染色製)、パイル糸としてポリプロピレンを使用した。
【0018】
そして、導電上布20及び導電下布22の2枚の導電布は、導電糸12が互いに交差する方向で上下に重ね合わされて、パイル糸で結びつけられている。
図2は、導電性織物10において、導電上布20と導電下布22の導電糸域16が交差する態様で重ね合わされている様子を、模式的に示したものである。そして、
図1に示すように、導電上布20の導電糸域16と導電下布22の導電糸域16が交差する領域をセル24と名付けている。
図3には、導電性織物10の断面を示す。導電性織物10の導電上布20と導電下布22の間には、導電上布20と導電下布22を結びつけるパイル糸によりパイル糸層26が形成されている。このパイル糸層26は、隙間を有し弾発性を備えた層である。
【0019】
[導電性織物の特性]
導電性織物10は、
図1、
図2、
図3に示すように、導電糸域16が横向きとなるように形成されている導電上布20と、導電糸域16が縦向きとなるように形成された導電下布22がパイル糸層26で結びつけられている。
そのため、導電上布20の導電糸域16と導電下布22の導電糸域16が交差するセル24と名付けた領域では、導電性織物10の他の部分に比べて導電上布20の導電糸12と導電下布22の導電糸12が導電布20,22の面方向で接近しているので、導電性織物10の変形による静電容量の変化が大きい。そして、導電性織物10は導電上布20と導電下布22がパイル糸層26で結びつけられて立体構造とされているので、導電性織物10に圧力が加わった時、圧力によりパイル糸層26のパイル糸が歪み、導電上布20と導電下布22が接近して、導電上布20の導電糸12と導電下布22の導電糸12との間の静電容量が大きく変化する。よって、導電性織物10は、高感度に圧力を検知することができると考えられる。
【0020】
[タッチセンサ装置の構成]
次に、実施例1におけるタッチセンサ装置について説明する。
図5に実施例1における導電性織物10を使用したタッチセンサ装置30の構成を示す。
図5に示すように、タッチセンサ装置30を構成する導電性織物10の導電下布22の3箇所の導電糸域16a、導電糸域16b、導電糸域16cには、それぞれ、各導電糸域の導電糸に周期信号を印加する第1発振器40、第2発振器42、第3発振器44が接続されている。そして、導電性織物10の導電上布20の3箇所の導電糸域16d、導電糸域16e、導電糸域16fには、各導電糸域の導電糸から出力される信号を取出すマルチプレクサ32が接続されている。
そして、マルチプレクサ32には、導電上布20の導電糸から取出した信号と印加した周期信号との信号差を検出する信号差検出回路34が接続されている。そして信号差検出回路34は、周期信号を基準信号として取り込むために、第1発振器40、第2発振器42および第3発振器44に接続されるとともに、タッチパネル装置30の動作を制御する動作処理回路36に接続されている。
【0021】
[タッチされたセルの検出方法]
次に、タッチされたセル24の検出方法を説明する。第1発振器40からは、
図5にf1で示した1メガヘルツのサイン波が導電下布22の導電糸域16aの導電糸に対して印加されると共に、信号差検出回路34に1メガヘルツのサイン波が基準信号として送られる。第2発振器42からは、
図5にf2で示した1.5メガヘルツのサイン波が導電下布22の導電糸域16bの導電糸に対して印加されると共に、信号差検出回路34に1.5メガヘルツのサイン波が基準信号として送られる。そして、第3発振器44からは、
図5にf3で示した3.9メガヘルツのサイン波が導電下布22の導電糸域16cの導電糸に対して印加されると共に、信号差検出回路34に3.9メガヘルツのサイン波が基準信号として送られる。なお、導電下布22の各導電糸域の導電糸に印加されるサイン波の周波数f1、f2、f3は、互いに干渉しない周波数が選択されている。
【0022】
そして、マルチプレクサ32は、導電上布20の導電糸域16d、導電糸域16e及び導電糸域16cの導電糸から取出した信号を、導電糸域毎に分離した状態で、信号差検出回路34に送り出す。
セル24にタッチして、セル24の静電容量が変化すると、セル24に印加されている周期信号の位相及び振幅が変化する。そこで、セル24から取出した周期信号の位相あるいは振幅の、印加信号との差を調べることで静電容量の変化を生じたセルを知ることができる。
実施例1では、信号差検出回路34は、導電上布20の各導電糸域から取込んだ3系列の信号について、サイン波の周波数毎に各発振器から取込んだ基準信号との信号差から、位相差の検出を行う。そして、検出された位相差から、回路上の混線なく、各セル24毎の正確な静電容量の変化を検出し、タッチされたセル24を特定する。
【0023】
例えば、導電上布20の各導電糸域から取込んだ3系列の信号について、サイン波の周波数毎に基準信号との位相差の検出を行った結果、導電糸域16fから取得した1メガヘルツのサイン波で位相差の変化に対応する静電容量の変化が最大であれば、タッチ信号が与えられたセル24は、導電糸域16f上のセル24であり、かつ、1メガヘルツのサイン波が印加された導電糸域16a上のセル24であることがわかるので、タッチ信号が与えられたセルは、導電糸域16aと導電糸域16fが交差する
図5の左下のセル24であることが特定できる。
図6は、タッチセンサ装置30を用いて導電性織物10のセル24の位置に対応したLEDがタッチ信号により点灯するタッチ位置表示器48を実現した例である。
【0024】
[変形例]
実施例1では、信号差検出回路34により、導電糸域から取込んだ信号と基準信号の信号差のうち、位相差を検出することで各セル24の静電容量の変化を検出したが、信号差検出回路34により、信号差のうちの振幅差を検出して、各セル24の静電容量の変化を検出しても良い。また、信号差検出回路34により、位相差と振幅差の双方を検出することで各セル24の静電容量の変化を検出しても良い。
また、実施例1では、周期信号としてサイン波を使用しているが、周期信号として矩形波を使用しても良い。
【0025】
[効果]
実施例1で用いた導電性織物10によれば、導電糸12が織り込まれた2枚の導電布(導電上布20及び導電下布22)が上下に重ね合わされ、パイル糸で結びつけられて立体構造とされているので、導電性織物10に圧力が加わった時の導電糸12の歪み量を大きくすることができる。よって、高感度に圧力を検知することができる。そして、導電布をパイル糸で結びつけた立体構造なので、球面や自由曲面へ追随できるフレキシブル性を有している。また、各導電布には、サンダーロン(日本蚕毛染色製)のような導電性繊維を用いた、一般的な導電糸を用いることができるので、低コストで導電性織物10を実現することができる。
そして、2枚の導電布の導電糸域が交差する領域のセル24では、2方向の導電糸が他の部分に比べて導電布の面方向で接近しているので、セルにタッチした場合は他の部位にタッチした場合に比べて静電容量の変化が大きい。この、導電性織物10の構造による静電容量の変化特性を利用して、導電性織物10のセル24をタッチセンサとして機能させることが可能となる。
【0026】
そして、導電下布22の導電糸域の導電糸に導電糸域毎に周波数が異なる周期信号を印加し、周期信号を印加した導電下布22の導電糸域毎の導電糸との間の静電容量を介して周期信号を印加しなかった導電上布20の導電糸域の導電糸から出力される信号を取出す。そして、周期信号の周波数毎に、取出した信号と印加信号との信号差のうち位相差または振幅差、あるいは位相差と振幅差の双方を検出する。これにより、回路上の混線なく、各セル24における正確な静電容量の変化の信号が得られる。よって、導電性織物10の各セル24についてタッチされたか否かを検出することが可能となり、導電性織物10をタッチセンサとして使用するタッチセンサ装置30を提供することができる。
【実施例2】
【0027】
次に、実施例2について説明する。
図7に、実施例2におけるタッチパネル装置30Aの構成を示す。実施例2の実施例1との違いは、周期信号として、発振器58が発生する単一の周波数の信号を、分配マルチプレクサ56により、時分割して、導電下布22の導電糸域16a、導電糸域16b及び導電糸域16cに印加している点にある。
そして、マルチプレクサ50は、導電上布20の導電糸域16d、導電糸域16e及び導電糸域16fから取出した信号を、導電糸域毎に3系列に分離した状態で、信号差検出回路52に送り出す。そして、信号差検出回路52では、導電糸域毎に取込んだ信号について、時分割された時間帯毎に発振器58から取込んだ基準信号との信号差から、位相差の検出を行い、回路上の混線なく、各セル24毎の正確な静電容量の変化を検出し、タッチされたセル24を特定する。
なお、信号差検出回路52に接続された動作処理回路54は、実施例1と同様に、タッチパネル装置30Aの動作を制御する。
なお、信号差から振幅差を検出しても良い点、周期信号が矩形波でも良い点は実施例1と同様である。
【0028】
実施例2によれば、実施例1と同様に、導電性織物10を用いたフレキシブルで感度の高いタッチセンサ装置を提供することができる。また、発振器を1台で済ますことができるため、タッチパネル装置のコストを低減することができる。
【0029】
[変形例]
上記の各実施例では、絶縁糸にポリプロピレンを用いたが、絶縁糸については、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン等の合成繊維を用いても良く、天然繊維のウールを用いても良い。
そして、導電糸については、銅、アルミ、鉄、ステンレス、ニクロム、金、銀、チタンニッケル合金等の金属繊維、PAN系、ピッチ系の炭素繊維を用いても良い。また、導電糸として、絶縁糸に使用するポリエステル、ナイロン、レーヨン等の樹脂に導電成分としてカーボン、グラファイト、カーボナノチューブ等を混練後に紡糸した糸を用いることもできる。また、導電糸として、絶縁糸の表面に導電成分として銅、アルミ、銀、金等を金属メッキ手法により被覆した糸を用いることもできる。また、導電糸として、導電糸に絶縁糸を撚糸した構造の導電糸や導電糸に絶縁性の樹脂をコーティングした構造の導電糸を用いることもできる。特に樹脂をコーティングした構造のものは、耐湿性・耐水性を向上することができるため、センサ性能の安定性向上や誤作動を防ぐことができる。
【0030】
上記の各実施例では、導電下布22の導電糸域の導電糸に周期信号を印加し、導電上布20の導電糸域の導電糸から信号を取出す構成としたが、導電上布20の導電糸域の導電糸に周期信号を印加し、導電下布22の導電糸域の導電糸から出力される信号を取出す構成としても良い。
そして、上記の各実施例では、導電性織物の各導電布には、導電糸域がそれぞれ3箇所形成された構成としているが、導電糸域の数はこれに限定されない。
そして、上記の各実施例について、導電性織物10の表面に樹脂を含浸させて、導電性織物の耐水性を向上させることができる。そして、パイル糸層26に樹脂を含浸させて、導電性織物10の強度や復元性を向上させることができる。また、含浸させる樹脂の化学物質吸収性などの特性を、導電性織物10の特性として付加することができる。
【0031】
上記の各実施例では、導電性織物は2枚の導電布を上下にパイル糸で結びつけた構成としているが、重ね合わせた2枚の導電布を、その周囲及び双方の絶縁糸域が交差する箇所でポリプロピレン等による絶縁糸で縫い合わせて横ずれを防止した構成としても良い。また、2枚の導電布を弾発性を有する樹脂で接着して導電性織物を構成しても良い。これらの構成によっても、導電性織物をタッチセンサとして機能させることができる。
また、タッチ位置の判定は不要でタッチ圧を高感度で検出する目的であれば、縦糸または横糸の少なくとも一方の糸の全てを導電糸で構成した導電布を、上下に重ね合わせて、普通の糸で要所を縫い合わせてずれ止めをするか、またはパイル糸で結びつけた構成とすることもできる。
【実施例3】
【0032】
次に
図8〜10に基づいて実施例3について説明する。実施例3の特徴は、導電布を構成する導電糸として導電性繊維を絶縁体で覆った、所謂カバリング糸を使用している点、並びに2枚の導電布をパイル糸を使用せず、一般的な絶縁糸で結合した点にある。実施例3の導電性織物60を構成する各導電布61、62は、実施例1の場合と同様に構成されており、各導電布61、62を形成する縦糸は、複数の導電糸を並べた導電糸域63と、複数の絶縁糸を並べた絶縁糸域64とが、交互に並べられた構成とされ、横糸は絶縁糸のみが並べられた構成とされている。各導電布61、62は、
図8及び
図9に示されるように両者の導電糸域63同士が互いに交差する態様で面合わせで重ね合わされている。そして導電糸域63同士が互いに交差する領域がセル65とされている。両導電布61、62はセル65以外の領域において一般的な絶縁糸で結束されて結合されている。
図10には、セル65においてカバリング糸と絶縁糸とが平織された導電布同士が上下に重ね合わされ、セル65の両側に隣接する領域66では、カバリング糸と絶縁糸とが平織された導電布、並びに絶縁糸同士が平織された絶縁布が上下に重ね合わされ、更に絶縁糸67で両布が結束された様子が示されている。
【0033】
以上の導電性織物60を使用してタッチセンサ装置とするための構成は実施例1の場合と全く同様である。
図9に示されるように導電布61の導電糸域63a,63b,63cには、それぞれ周期信号を印加する第1〜第3発信器(不図示)が接続されている。また、導電布62の導電糸域63d,63e,63fには、各導電糸域の導電糸から出力される信号を取出すマルチプレクサ(不図示)が接続されている。
導電性織物60をタッチセンサ装置として機能させるための回路は、実施例1の場合と全く同一であり、説明は繰り返しとなるため、ここでは省略する。
【0034】
以上の構成によれば、圧力が加えられたセル65の静電容量が変化し、それを実施例1と同様の処理回路により電気信号として取出すことができる。このセル65における静電容量の変化は低圧力域ではセル65における上下のカバリング糸同士の離間距離が短くなることにより生じる。また、高圧力域では、それに加えて導電糸やカバリング糸の導電性繊維を覆っている絶縁体の周りの絶縁糸の変形や歪みにより静電容量の変化が生じる。
実施例3によれば、カバリング糸を使って導電布が織られており、実施例1のようにパイル糸を使用していないため、タッチセンサとして使用したときにパイル糸の剛性の影響を受けることがなくなり、低圧力域でも高感度に圧力検出ができる。
【0035】
実施例3において、絶縁糸64及び67は綿、カバリング糸の導電性繊維はサンダーロン(日本蚕毛染色製)、カバリング糸の絶縁体はポリエステルを使用した。絶縁糸は絶縁性のある糸であれば何を用いても良い。例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリウレタン等の合成繊維でも良い。また、ウール等の天然繊維でも良い。
導電性繊維は導電性のある糸であれば何を用いても良い。例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニクロム、金、銀、チタンニッケル合金等の金属繊維でも良い。また、PAN系、ピッチ系の炭素繊維でも良い。カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブ等をポリエステル、ナイロン、レーヨン等に混練し紡糸した糸でも良い。
【実施例4】
【0036】
次に
図11〜13に基づいて実施例4について説明する。実施例4の特徴は、実施例3に比べて、カバリング糸を使った導電糸域73を互いに交差させて格子状に織り込んだ布71、72を、交差部であるセル75同士が重なるように面合わせで重ね合わされている点にある。重ね合わされた2枚の布71、72は、セル75以外の領域において一般的な絶縁糸で結束されて結合されている。
図13には、セル75においてカバリング糸同士が平織された導電布同士が上下に重ね合わされ、セル75の両側に隣接する領域76では、カバリング糸と絶縁糸とが平織された導電布同士が上下に重ね合わされ、更に絶縁糸77で両布が結束された様子が示されている。
【0037】
以上の導電性織物70を使用してタッチセンサ装置とするための構成は実施例1の場合と全く同様である。
図12に示されるように導電布71と導電布72のそれぞれの導電糸域73a同士,導電糸域73b同士,導電糸域73c同士が互いに接続された状態で、各導電糸域73a,73b,73cには、それぞれ周期信号を印加する第1〜第3発信器(不図示)が接続されている。また、導電布71と導電布72のそれぞれの導電糸域73d同士,導電糸域73e同士,導電糸域73f同士が互いに接続された状態で、各導電糸域73d,73e,73fには、各導電糸域の導電糸から出力される信号を取出すマルチプレクサ(不図示)が接続されている。
導電性織物70をタッチセンサ装置として機能させるための回路は、実施例1の場合と全く同一であり、説明は繰り返しとなるため、ここでは省略する。
【0038】
以上の構成によれば、圧力が加えられたセル75の静電容量が変化し、それを実施例1と同様の処理回路により電気信号として取出すことができる。このセル75における静電容量の変化は低圧力域ではセル75における上下のカバリング糸同士の離間距離が短くなることにより生じる。また、高圧力域では、それに加えてカバリング糸の導電性繊維を覆っている絶縁体の変形や歪みにより静電容量の変化が生じる。
実施例4において、タッチセンサ装置としての主要部を成すセル75部分の上下の導電布71、72は導電糸73同士が織り込まれたものであり、実施例3の対応部分が導電糸と絶縁糸とが織り込まれたものであるのに比べて、コンデンサとしての電極の面積が実質的に広くなるため、静電容量は大きくなり、その変化量も大きくなる。従って、実施例4の方が実施例3のセンサに比べて高感度とすることができる。
【実施例5】
【0039】
次に
図14〜16に基づいて実施例5について説明する。実施例5の特徴は、実施例4
の上下の導電布の導電糸域間に別途用意されたカバリング糸を挿入した点にある。具体的には、
図14に示されるように、上下の導電布の各導電糸域83d同士間,83e同士間,83f同士間に、それぞれカバリング糸86が複数本並べられた導電糸域86a,86b,86cが挿入されている。上下に重ね合わされた2枚の布は、セル85以外の領域において一般的な絶縁糸で結束されて結合されている。
図16には、セル85においてカバリング糸同士が平織された導電布同士が上下に重ね合わされ、それらの導電布同士間にカバリング糸86が挿入された様子が示されている。また、セル75の両側に隣接する領域87では、カバリング糸と絶縁糸とが平織された導電布同士が上下に重ね合わされ、更に絶縁糸88で両布が結束された様子が示されている。
なお、カバリング糸86は上下の導電布の各導電糸域83a同士間,83b同士間,83c同士間に導電糸域86a,86b,86cが挿入される構成としても良い。また、カバリング糸86は絶縁糸と組合わせて平織された布とされても良い。
【0040】
以上の導電性織物80を使用してタッチセンサ装置とするための構成は実施例1の場合と全く同様である。
図14に示されるように各導電糸域86a,86b,86cには、それぞれ周期信号を印加する第1〜第3発信器(不図示)が接続されている。また、上下の導電布の導電糸域83a同士,導電糸域83b同士,導電糸域83c同士が互いに接続された状態で、更に上下の導電布の導電糸域83f,導電糸域83e,導電糸域83dにそれぞれ接続され、それらの導電糸域には各導電糸域の導電糸から出力される信号を取出すマルチプレクサ(不図示)が接続されている。
図15には一つのセル85の等価回路図が示されており、導電糸域86aには第1発信器40が接続され、上下の導電糸域83dが結合されたものと上下の導電糸域83aが結合されたものとが互いに接続された状態で、出力端子Voutを介してマルチプレクサ32に接続されている。
図15において、C
1は導電糸域86aと上の導電糸域83dとの間の静電容量、並びに導電糸域86aと下の導電糸域83dとの間の静電容量の合成静電容量を示し、C
2は導電糸域86aと上の導電糸域83aとの間の静電容量、並びに導電糸域86aと下の導電糸域83aとの間の静電容量の合成静電容量を示している。
導電性織物80をタッチセンサ装置として機能させるための回路は、実施例1の場合と全く同一であり、説明は繰り返しとなるため、ここでは省略する。
【0041】
以上の構成によれば、圧力が加えられたセル85の静電容量が変化し、それを処理回路により電気信号として取出すことができる。このセル85における静電容量の変化は低圧力域ではセル85における上下のカバリング糸83と両者間に挿入されたカバリング糸86との各離間距離が短くなることにより生じる。また、高圧力域では、それに加えて各カバリング糸の導電性繊維を覆っている絶縁糸の変形や歪みにより静電容量の変化が生じる。
実施例5では、上側の導電布を構成するカバリング糸83と挿入されたカバリング糸86との間での容量変化と、下側の導電布を構成するカバリング糸83と挿入されたカバリング糸86との間での容量変化とが合成されるため、静電容量変化量は大きくなる。従って、実施例5の方が実施例1のセンサに比べて高感度とすることができる。
【0042】
実施例1及び実施例3〜5の導電性織物10、60、70及び80の圧力検出特性を評価する試験を行った。試験は、導電性織物10、60、70及び80の中央のセル24、65、75及び85に静電容量を検出するようにLCRメーターを接続し、中央のセル24、65、75及び85に加える圧力を変化させながら、中央のセル24、65、75及び85の静電容量を測定した。そして、比較のために、特許文献1に記載されたものと同等の導電性の平織物についても、圧力検出特性を評価する試験を行った。
図4に、圧力検査特性を評価した結果を示す。図中の横軸は加えた圧力を示し、縦軸は静電容量の変化量を示している。
図4の白三角(△)印は特許文献1に記載されたものと同等の導電性の平織物の特性を示し、白四角(□)印は実施例1の導電性織物10の特性を示している。また、黒三角(▲)印は実施例3、黒四角(■)印は実施例4、黒丸(●)印は実施例5のそれぞれ導電性織物60、70、80の各特性を示している。
図4から、導電性織物10、60、70及び80では、圧力が増加するに連れて、静電容量が大きく変化することが確認できる。一方、特許文献1に記載されたものと同等の導電性の平織物では、圧力の変化により静電容量の変化は各実施例のものに比べて僅かである。このグラフから、導電性織物10、60、70及び80は、導電性の平織物に比べて、布にかかる圧力を高感度で検出できることが確認できる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について各実施例に従って説明したが、本発明に係る導電性織物及び導電性織物を使用したタッチセンサ装置は、その発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。例えば、各実施例の導電性織物は、導電布が2枚重ねられた2重織、若しくは2重織の布間に導電糸を挿入した3重織としたが、4重織、5重織のような多重織とすることができる。また、布の織り方は、平織に限らず、綾織、朱子織など各種のものが採用できる。