(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668977
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】免震装置の取付構造および取替方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20150122BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04G23/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-32485(P2011-32485)
(22)【出願日】2011年2月17日
(65)【公開番号】特開2012-172314(P2012-172314A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】村上 宏
【審査官】
家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−269006(JP,A)
【文献】
特開2001−146808(JP,A)
【文献】
特開2005−30107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04G 23/02
F16F 15/04−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物と下部構造物との間に設けられる免震装置の取付構造であって、
免震装置と上部構造物との間に設けられ、免震装置の上面に固定され、上部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の下部支持部材と、この下部支持部材の上方において上部構造物の下面に固定され、下部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の上部支持部材と、
外周面にねじが切られ、前記上部支持部材の下部の開口と前記下部支持部材の上部の開口とに上下方向に移動可能にねじ込まれた円柱状の可動部材とを備え、
前記下部支持部材内の下側または前記上部支持部材内の上側には、前記可動部材の進入を許容するための進入許容空間が確保してあり、
前記可動部材を回転して一端側を前記下部支持部材内または前記上部支持部材内にねじ込み、前記可動部材を前記下部支持部材または前記上部支持部材の進入許容空間に進入させることで、前記可動部材の他端側と前記上部支持部材または前記下部支持部材との間に、免震装置を交換するための作業空間を作り出すことができるようにしたことを特徴とする免震装置の取付構造。
【請求項2】
上部構造物と下部構造物との間に設けられる免震装置の取付構造であって、
免震装置と下部構造物との間に設けられ、下部構造物の上面に固定され、上部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の下部支持部材と、この下部支持部材の上方において免震装置の下面に固定され、下部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の上部支持部材と、
外周面にねじが切られ、前記上部支持部材の下部の開口と前記下部支持部材の上部の開口とに上下方向に移動可能にねじ込まれた円柱状の可動部材とを備え、
前記下部支持部材内の下側または前記上部支持部材内の上側には、前記可動部材の進入を許容するための進入許容空間が確保してあり、
前記可動部材を回転して一端側を前記下部支持部材内または前記上部支持部材内にねじ込み、前記可動部材を前記下部支持部材または前記上部支持部材の進入許容空間に進入させることで、前記可動部材の他端側と前記上部支持部材または前記下部支持部材との間に、免震装置を交換するための作業空間を作り出すことができるようにしたことを特徴とする免震装置の取付構造。
【請求項3】
前記可動部材の回転を防止するための回転防止部材を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の免震装置の取付構造。
【請求項4】
前記可動部材を回転操作するための回転用腕を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の免震装置の取付構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の免震装置の取付構造における免震装置を取り替える方法であって、
前記可動部材を回転して一端側を前記下部支持部材内または前記上部支持部材内にねじ込み、前記可動部材の他端側と前記上部支持部材または前記下部支持部材との間に作業空間を作り出し、この作業空間を利用して免震装置を撤去することを特徴とする免震装置の取替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に設置される免震装置の取付構造および取替方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物に設置される免震装置が知られている。
図6に示すように、従来の免震装置2は、基礎版等の躯体4とペデスタル6との間にボルト8a、プレート8bを介して取り付けられ、免震装置2は上下方向の動きが拘束されている。この構造において、建物荷重が掛かった状態で免震装置2を取り替えるには、免震装置2本体を解体してペデスタル6上から撤去し、この部分に新しい免震装置を据え付けるようにしていた。これに対し、予めジャッキアップ装置で躯体を持ち上げて免震装置の上方に隙間を作り、免震装置を交換する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−220947号公報
【特許文献2】特開2008−163636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の従来の免震装置を解体する交換方法では、免震装置を破壊するための作業手間を要する。また、上記の特許文献1、2に示される交換方法では、ジャッキアップ装置を取り付けるための作業手間を要する。この場合、工程数が増してコストを押し上げる問題や、解体に伴って産業廃棄物が発生する等の問題がある。このため、免震装置を容易に取り替えることができる技術の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、免震装置を容易に取り替えることができる免震装置の取付構造および取替方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る免震装置の取付構造は、上部構造物と下部構造物との間に設けられる免震装置の取付構造であって、免震装置と上部構造
物との間に設けられ、
免震装置の上面に固定され、上
部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の
下部支持部材と、
この下部支持部材の上方において上部構造物の下面に固定され、下部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の上部支持部材と、外周面にねじが切られ、前記
上部支持部材の下部の開口と前記下部支持部材の
上部の開口
とに上下方向に移動可能にねじ込まれた円柱状の可動部材とを備え
、前記下部支持部材内の下側または前記上部支持部材内の上側には、前記可動部材の進入を許容するための進入許容空間が確保してあり、前記可動部材を回転して一端側を前記下部支持部材内または前記上部支持部材内にねじ込み、前記可動部材を前記下部支持部材または前記上部支持部材の進入許容空間に進入させることで、前記可動部材の他端側と前記上部支持部材または前記下部支持部材との間に、免震装置を交換するための作業空間を作り出すことができるようにしたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に係る免震装置の取付構造は、
上部構造物と下部構造物との間に設けられる免震装置の取付構造であって、免震装置と下部構造物との間に設けられ、下部構造物の上面に固定され、上部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の下部支持部材と、この下部支持部材の上方において免震装置の下面に固定され、下部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の上部支持部材と、外周面にねじが切られ、前記上部支持部材の下部の開口と前記下部支持部材の上部の開口とに上下方向に移動可能にねじ込まれた円柱状の可動部材とを備え、前記下部支持部材内の下側または前記上部支持部材内の上側には、前記可動部材の進入を許容するための進入許容空間が確保してあり、前記可動部材を回転して一端側を前記下部支持部材内または前記上部支持部材内にねじ込み、前記可動部材を前記下部支持部材または前記上部支持部材の進入許容空間に進入させることで、前記可動部材の他端側と前記上部支持部材または前記下部支持部材との間に、免震装置を交換するための作業空間を作り出すことができるようにしたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係る免震装置の取付構造は、上述した請求項1または2において、前記可動部材の回転を防止するための回転防止部材を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4に係る免震装置の取付構造は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記可動部材を回転操作するための回転用腕を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5に係る免震装置の取替方法は、上述した請求項1〜4のいずれか一つに記載の免震装置の取付構造における免震装置を取り替える方法であって、前記可動部材を回転して一端側を前記
下部支持部材内
または前記上部支持部材内にねじ込み、前記可動部材の他端側
と前記上部支持部材または前記下部支持部材との間に作業空間を作り出し、この作業空間を利用して免震装置を撤去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る免震装置の取付構造によれば、上部構造物と下部構造物との間に設けられる免震装置の取付構造であって、免震装置と上部構造物または下部構造物との間に設けられ、上部または下部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の支持部材と、外周面にねじが切られ、前記支持部材の開口から上下方向に移動可能にねじ込まれた円柱状の可動部材とを備えたので、可動部材を回転して一端側を支持部材内にねじ込むことで可動部材の他端側に作業空間をすぐに作り出せる。この作業空間を利用すれば免震装置を容易に撤去することができる。また、撤去とは逆の手順で新しい免震装置を容易に取り付けることもできる。このため、免震装置を容易に取り替えることができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る免震装置の取替方法によれば、前記可動部材を回転して一端側を前記支持部材内にねじ込み、前記可動部材の他端側の上方または下方に作業空間を作り出し、この作業空間を利用して免震装置を撤去するので、免震装置を容易に撤去することができる。また、撤去とは逆の手順で新しい免震装置を容易に取り付けることもできる。このため、免震装置を容易に取り替えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る免震装置の取付構造の実施例を示す側断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る免震装置の取替方法の手順1の側断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る免震装置の取替方法の手順2の側断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る免震装置の取替方法の手順3の側断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る免震装置の取替方法の手順4の側断面図である。
【
図6】
図6は、従来の免震装置の取付構造の実施例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る免震装置の取付構造および取替方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
[免震装置の取付構造]
まず、本発明に係る免震装置の取付構造について説明する。
図1に示すように、本発明に係る免震装置の取付構造10は、基礎版等の建物躯体12(上部構造物)と免震装置用ペデスタル14(下部構造物)との間に設けられる免震装置16の取付構造である。免震層18は、免震装置16と、円柱状の可動部材20と、円筒状の下部支持部材22および上部支持部材24とから構成される。
【0016】
免震装置18は、円柱状の積層ゴムで構成されており、その上下面にはプレート26、28が設けられている。免震装置18は、下面側のプレート28を介して免震装置用ペデスタル14にボルト32で固定されている。また、上面側のプレート26は下部支持部材22の下面にボルト30で固定されている。
【0017】
下部支持部材22は、プレート26上面に固定され、上部が開口して内周面22aにねじが切られた円筒状の部材であり、可動部材20を下側から支持するものである。また、上部支持部材24は、建物躯体12下面にボルト34で固定され、下部が開口して内周面24aにねじが切られた円筒状の部材であり、可動部材20を上側から支持するものである。
【0018】
可動部材20は、外周面20aにねじが切られており、下部支持部材22の開口および上部支持部材24の開口にねじ込まれている。下部支持部材22内の下側には、可動部材20の進入を許容するための進入許容空間36が確保してある。可動部材20は、上下方向に延びる回転軸Cの周りに回転可能であり、上記ねじに沿って回転しながら下部支持部材22および上部支持部材24の間を上下方向に移動可能である。
【0019】
また、可動部材20の外周には、可動部材20の回転を防止するための回転防止部材38が着脱自在に設けてあり、免震装置16の取替操作時以外は可動部材20が安易に回転しないようにしている。この回転防止部材38は、複数の円弧状プレートからなり、可動部材20の外周に巻回固定された環状部材40と、下部支持部材22の上端22bとに対してそれぞれボルト42、44で固定してある。
【0020】
また、
図2に示すように、回転防止部材38を可動部材20から取り外した場合には、水平棒状の回転用腕48を、環状部材40側のボルト孔46に装着可能としてある。この回転用腕48を回転操作することにより、可動部材20を容易に上下移動させることができる。なお、回転用腕48は、環状部材40側のボルト孔46に装着可能に構成する代わりに、元から回転防止部材38と干渉しない位置に固定した構成としても構わない。
【0021】
図3に示すように、可動部材20を回転して下端側(一端側)を下部支持部材22内にねじ込むことで可動部材20の上端側(他端側)の上方に作業空間50をすぐに作り出せる。この作業空間50を撤去作業用のスペースとして利用すれば免震装置16を容易に撤去することができる。また、撤去とは逆の手順で新しい免震装置を取り付け、再設定することも容易である。
【0022】
このため、本発明によれば、免震装置を解体することなく、免震装置を容易に取り替えることができる。したがって、免震装置の交換作業において工程短縮やコストダウンが図れる。また、免震装置の破壊を伴わないので産業廃棄物の発生を抑制することができるとともに、免震装置の再利用化の途を開くこともできる。
【0023】
上記の実施の形態において、可動部材20、下部支持部材22、上部支持部材24を免震装置16と建物躯体12(上部構造物)との間に設ける場合について説明したが、このようにする代わりに、可動部材20、下部支持部材22、上部支持部材24を免震装置16とペデスタル14(下部構造物)との間に設ける構成としてもよい。この場合、免震装置16の下面側に上部支持部材24を配置し、この下方に可動部材20、下部支持部材22を配置してペデスタル14に固定することができる。
【0024】
また、上記の実施の形態においては、進入許容空間36を下部支持部材22内に設ける場合について説明したが、このようにする代わりに、進入許容空間36を上部支持部材24内の上側に設けてもよく、可動部材22を上部支持部材24側に進入させることで免震装置16を交換するための作業空間50を形成するようにしてもよい。
【0025】
[免震装置の取替方法]
次に、本発明に係る免震装置の取替方法について説明する。
まず、免震層の撤去手順について説明する。
図1に示す取付構造10において、ボルト42、44を取り外して回転防止部材38を撤去する。
【0026】
次いで、
図2に示すように、可動部材20の環状部材40に回転用腕48を装着する。この回転用腕48を回転操作して可動部材20を回転軸Cの周りに回転させる。そして、
図3に示すように、可動部材20の下端側(一端側)を下部支持部材22内の進入許容空間36にねじ込んで下方に移動させる。これにより、可動部材20の上端側(他端側)の上方に作業空間50を容易に作り出すことができる。
【0027】
続いて、上部支持部材24を建物躯体12から撤去すれば、
図4に示すような状態となる。そしてこの状態において、作業空間50を撤去作業用のスペースとして利用することにより、可動部材20、下部支持部材22、免震装置16一式を一体としてテーブルリフター等で撤去すれば、
図5に示すような状態となる。
【0028】
なお、新しい免震装置をこの免震層に取り付ける場合には、上記の撤去手順と逆の手順で取り付ければよい。
【0029】
このように、本発明に係る免震装置の取替方法によれば、免震装置を解体することなく、免震装置を容易に取り替えることができる。したがって、免震装置の交換作業において工程短縮やコストダウンが図れる。また、免震装置の破壊を伴わないので産業廃棄物の発生を抑制することができるとともに、免震装置の再利用化の途を開くことができる。
【0030】
以上説明したように、本発明に係る免震装置の取付構造によれば、上部構造物と下部構造物との間に設けられる免震装置の取付構造であって、免震装置と上部構造物または下部構造物との間に設けられ、上部または下部が開口して内周面にねじが切られた円筒状の支持部材と、外周面にねじが切られ、前記支持部材の開口から上下方向に移動可能にねじ込まれた円柱状の可動部材とを備えたので、可動部材を回転して一端側を支持部材内にねじ込むことで可動部材の他端側に作業空間をすぐに作り出せる。この作業空間を利用すれば免震装置を容易に撤去することができる。また、撤去とは逆の手順で新しい免震装置を容易に取り付けることもできる。このため、免震装置を容易に取り替えることができる。
【0031】
また、本発明に係る免震装置の取替方法によれば、前記可動部材を回転して一端側を前記支持部材内にねじ込み、前記可動部材の他端側の上方または下方に作業空間を作り出し、この作業空間を利用して免震装置を撤去するので、免震装置を容易に撤去することができる。また、撤去とは逆の手順で新しい免震装置を容易に取り付けることもできる。このため、免震装置を容易に取り替えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る免震装置の取付構造および取替方法は、建物に設置される免震装置に有用であり、特に、免震装置を破壊することなく容易に交換するのに適している。
【符号の説明】
【0033】
10 免震装置の取付構造
12 建物躯体(上部構造物)
14 ペデスタル(下部構造物)
16 免震装置
18 免震層
20 可動部材
22 下部支持部材(支持部材)
24 上部支持部材(支持部材)
26,28 プレート
30,32,34,42,44 ボルト
36 進入許容空間
38 回転防止部材
40 環状部材
48 回転用腕
50 作業空間