(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669006
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】帯状ガラスフィルム製造方法及び帯状ガラスフィルム製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20150122BHJP
C03B 35/16 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
C03B17/06
C03B35/16
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-234521(P2010-234521)
(22)【出願日】2010年10月19日
(65)【公開番号】特開2012-87004(P2012-87004A)
(43)【公開日】2012年5月10日
【審査請求日】2013年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆英
(72)【発明者】
【氏名】藤原 克利
(72)【発明者】
【氏名】江田 道治
【審査官】
正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−105882(JP,A)
【文献】
特開2010−215428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
C03B 25/00
C03B 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状ガラスフィルムを下降させながら成形する成形工程と、該成形工程の実行後に帯状ガラスフィルムをアニーラ内で下降させながら徐冷して内部歪を除去するアニール工程と、該アニール工程の実行後に幅方向両端部を除く中央部の厚みが300μm以下となった帯状ガラスフィルムを切断する切断工程とを有する帯状ガラスフィルム製造方法であって、
前記アニール工程の実行以後であり且つ前記切断工程の実行以前に、下降している帯状ガラスフィルムを、主たる引張ローラとしての役割を果たす主引張ローラが把持して駆動回転することによって、且つ、前記アニーラ内では、帯状ガラスフィルムを把持するローラが存在していないか又はローラが前記主引張ローラよりも小さい力で前記帯状ガラスフィルムを把持することによって、少なくとも前記アニーラ内の帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせることを特徴とする帯状ガラスフィルム製造方法。
【請求項2】
前記主引張ローラは、前記アニーラの外部上方に配設されている冷却ローラとの間で、または前記アニーラ内に配設され且つ前記主引張ローラよりも小さい力で前記帯状ガラスフィルムを把持している前記ローラとの間で、前記帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせることを特徴とする請求項1に記載の帯状ガラスフィルム製造方法。
【請求項3】
前記アニーラ内には、前記帯状ガラスフィルムの表裏両側に、該帯状ガラスフィルムの厚みよりも相互間離間寸法が長いガイドローラが対向配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の帯状ガラスフィルム製造方法。
【請求項4】
前記アニール工程が終了してから前記切断工程が開始されるまでの間に、下降している帯状ガラスフィルムの送り方向を横方向に変換する方向変換工程が実行されると共に、前記アニール工程の実行以後であり且つ前記方向変換工程の実行以前に、下降している帯状ガラスフィルムを、前記主引張ローラが把持することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の帯状ガラスフィルム製造方法。
【請求項5】
前記主引張ローラは、前記帯状ガラスフィルムを把持したときに該帯状ガラスフィルムに接触する外周部が、該帯状ガラスフィルムよりも低硬度の材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の帯状ガラスフィルム製造方法。
【請求項6】
前記主引張ローラの外周部は、合成ゴムで形成されていることを特徴とする請求項5に記載の帯状ガラスフィルム製造方法。
【請求項7】
帯状ガラスフィルムを下降させながら成形する成形手段と、その成形された帯状ガラスフィルムを下降させながらアニーラ内で徐冷して内部歪を除去するアニール手段と、その徐冷が終了し且つ幅方向両端部を除く中央領域の厚みが300μm以下となった帯状ガラスフィルムを切断する切断手段とを有する帯状ガラスフィルム製造装置であって、
前記アニール手段を経てから前記切断手段に至るまでの帯状ガラスフィルムの送り経路の途中で、下降している帯状ガラスガラスフィルムを、主たる引張ローラとしての役割を果たす主引張ローラが把持して駆動回転することにより、少なくとも前記アニーラ内の帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせるように構成したことを特徴とする帯状ガラスフィルム製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状ガラスフィルムの製造方法及びその装置に係り、詳しくは、厚みが300μm以下の帯状ガラスフィルムを、成形、アニール、切断の各工程あるいは各手段を通じて、適切に製造するための技術的思想に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、或いはフロート法や、リドロー法等によって成形された帯状のガラスリボンは、所定の寸法に切断されて、略矩形状をなすガラス基板として製品化される。この種のガラス基板は、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、有機ELディスプレイ(OLED)などに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)、或いは太陽電池や2次電池などの製作に使用されているのが実情である。
【0003】
これらのFPD等は、その軽量化が推進されていることから、当該FPD等の主要構成要素として使用されるガラス基板は、薄板化の一途を辿っているのが現状である。特に、有機ELは、OLEDのように微細な三原色をTFTにより明滅させるディスプレイだけでなく、単色(例えば白色)のみで発光させてLCDのバックライトや屋内照明の光源などの平面光源としても利用されつつある。そして、有機ELの照明装置は、ガラス基板が可撓性を有すれば、自由に発光面を変形させることが可能であることから、この照明装置に使用されるガラス基板も、充分な可撓性確保の観点から大幅な薄板化が推進されている。
【0004】
これらのFPDや照明装置等に使用される薄肉のガラス基板の製造方法としては、上述のオーバーフローダウンドロー法やスロットダウンドロー法さらにはリドロー法に代表されるダウンドロー法が好適であるとされている。このダウンドロー法は、オーバーフローダウンドロー法及びスロットダウンドロー法については、溶融ガラスを成形部から帯状(板状)に流下させてその幅方向両端部を冷却ローラで冷却することによりガラスリボンを成形する成形工程を有し、リドロー法については、板ガラスを再加熱して軟化させ且つ下降させることによりガラスリボンを成形する成形工程を有する。そして、何れのダウンドロー法についても、成形工程の実行後にガラスリボンを下降させながらアニーラ内で徐冷して内部歪を除去するアニール工程と、該アニール工程の実行後にガラスリボンを切断する切断工程とを有する。
【0005】
このダウンドロー法について詳述すると、特許文献1には、アニール工程を実行する際に、アニーラ内のガラスリボンが、アニーラの最下段に配設された引張ローラによって下方向に引っ張られる構成が開示されている。この特許文献1の請求項1には、ガラス基板の厚みが0.7mm以下と記載されているが、この文献の[0051]及び[0053]にはそれぞれ、幅方向中央部の厚みが0.7mmであること、及び幅方向中央部の厚みが0.63mmであることが記載されているため、この文献に記載のダウンドロー法は、厚みが概ね0.6〜0.7mmのガラスリボンを成形対象にしているものと解される。
【0006】
また、特許文献2には、アニール工程を実行する際に、アニーラ内のガラスリボンが、アニーラに上下複数段(三段)に配設された全ての引張ローラによって下方向に引っ張られる構成が開示されている。この文献の[0004]及び[0042]には、ガラスリボン(シートガラス)の厚みが0.7mmであることが記載されているため、この文献に記載のダウンドロー法は、厚みが概ね0.7mmのガラスリボンを成形対象にしているものと解される。
【0007】
更に、特許文献3,4には、アニーラ内に上下複数段に配設された引張ローラの全てがガラスリボンを下方向に牽引すると共に、アニーラの下方に存する冷却室内に上下複数段に配設された引張ローラも全てがガラスリボンを下方向に牽引する構成が開示されている。これらの文献には、ガラス基板ないしガラスリボンの厚みについての記載がなされていないが、同各文献の発明の詳細な説明の欄には、実質上、液晶ディスプレイ用のガラス基板のみが記載されているに過ぎないため、その出願当時の技術水準を参酌すれば、これらの文献に記載のダウンドロー法も、厚みが概ね0.7mmのガラスリボンを成形対象にしているものと解される。
【0008】
加えて、特許文献5には、ガラスリボンの幅方向両端部の厚みよりも相互間離間寸法が長尺なガイドローラを、アニーラ内に上下複数段に配設し、ガラスリボンがガイドローラによって把持されることなく下方向に案内される構成が開示されている。この文献に記載のダウンドロー法は、厚みが500μm以下さらには200μm以下のガラスリボン(帯状ガラスフィルム)を成形対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−51027号公報
【特許文献2】特開2001−31435号公報
【特許文献3】特開2009−173524号公報
【特許文献4】特開2009−173525号公報
【特許文献5】特開2008−105882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年においては、上述のようにガラス基板の大幅な薄肉化が図られるに至ったことから、厚みが300μm以下のガラス基板(ガラスフィルム)が実用に供されているが、この種のガラス基板を上述の特許文献1〜5に記載されたダウンドロー法で作製しようとした場合には、以下に示すような問題が生じる。
【0011】
すなわち、特許文献1〜4に記載のダウンドロー法は、厚みが300μmを大幅に超えるガラスリボンを成形対象としているために、アニーラ内で引張ローラによりガラスリボンを把持しても大きな問題とはならない。しかしながら、その成形対象が300μm以下の帯状ガラスフィルムであると、引張ローラにより帯状ガラスフィルムを把持する把持力の影響が大きくなって、帯状ガラスフィルムの表裏面に不可視の微小傷が生じる。その結果、帯状ガラスフィルムが、この微小傷を起点として損傷あるいは破損するという不具合を招き得る。
【0012】
この場合、特許文献3,4に記載のダウンドロー法は、アニーラの下方の冷却室内にも引張ローラが配設されているが、この冷却室内の引張ローラと上述のアニーラ内の引張ローラとは主従の関係がない。つまり、前者と後者との何れか一方の引張ローラが主たるものであり且つ他方の引張ローラが補助的なものであるとの区別がなされていない。そのため、全ての引張ローラが、帯状ガラスフィルムに対して実質的に同等の把持力による影響を及ぼすことになる。その結果、帯状ガラスフィルムの厚みが仮に300μm以下であると、アニーラ内の引張ローラがその帯状ガラスフィルムを把持する把持力の影響を小さくすることができず、上述のような微小傷の発生及びこれに起因する破損等の不具合を回避できなくなる。
【0013】
一方、特許文献5に記載のダウンドロー法は、厚みが300μm以下の帯状ガラスフィルムを成形対象としているものの、アニーラ内では帯状ガラスフィルムがガイドローラによって案内されているだけで把持はされていない。この場合、アニーラ内には、その下方から流入する空気による空気流が発生しているため、帯状ガラスフィルムが薄肉であるが故にその空気流によって該帯状ガラスフィルムが揺れることによる所謂振れが生じる。そして、このようにアニーラ内で帯状ガラスフィルムに振れが生じると、アニーラ内の温度維持のためのヒータと帯状ガラスフィルムとの間の距離が不安定となり、これに起因して帯状ガラスフィルムの熱履歴が不安定となるため、その内部歪の除去作用に支障が生じるという致命的な問題を招く。しかも、帯状ガラスフィルムに生じる振れが大きくなると、帯状ガラスフィルムが不当に変形するなどして、破損原因にもなり兼ねない。
【0014】
なお、この特許文献5には、アニーラ内の最下段のアニーラローラを引張ローラとすることが記載されているが、そのようにした場合であっても、上記の問題を確実に回避することはできない。すなわち、アニーラ内の温度は、比較的高温であるために、セラミックス製などのアニーラローラが使用されているのが通例であって、この種のアニーラローラのみを引張ローラとして使用したのでは、帯状ガラスフィルムに充分な張りをもたせることができない。なぜなら、アニーラ内で帯状ガラスフィルムを把持して充分な引張作用を行わせようとした場合には、引張ローラの材質の不適切化等が原因になるなどして、帯状ガラスフィルムに微小傷が発生する等の不具合を招くため、上記の振れを防止できる程度まで帯状ガラスフィルムに張りをもたせることが困難となるからである。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑み、厚みが300μm以下の帯状ガラスフィルムを成形対象とするダウンドロー法を採用した場合に、アニーラ内での微小傷の発生を可及的に抑制した上で、アニーラ内に発生する空気流に伴う帯状ガラスフィルムの振れによる問題を回避することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、帯状ガラスフィルムを下降させながら成形する成形工程と、該成形工程の実行後に帯状ガラスフィルムをアニーラ内で下降させながら徐冷して内部歪を除去するアニール工程と、該アニール工程の実行後に幅方向両端部を除く中央部の厚みが300μm以下となった帯状ガラスフィルムを切断する切断工程とを有する帯状ガラスフィルム製造方法であって、前記アニール工程の実行以後であり且つ前記切断工程の実行以前に、下降している帯状ガラスフィルムを、主たる引張ローラとしての役割を果たす主引張ローラが把持して駆動回転することによ
って、且つ、前記アニーラ内では、前記帯状ガラスフィルムを把持するローラが存在していないか又はローラが前記主引張ローラよりも小さい力で前記帯状ガラスフィルムを把持することによって、少なくとも前記アニーラ内の帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせることに特徴づけられる。ここで、上記の「張りをもたせる」とは、帯状ガラスフィルムに張力を付与するか否かに拘らず、帯状ガラスフィルムを弛ませることなく張られた状態にすることを意味する。また、厳密には、上記の引張ローラ及び後述する各種のローラは全て、帯状ガラスフィルムの幅方向両端部であって且つ該帯状ガラスフィルムの表裏両側にそれぞれ配設される。
【0017】
このような方法によれば、アニール工程の実行以後であり且つ切断工程の実行以前、つまり帯状ガラスフィルムの送り経路におけるアニーラよりも下流側で且つ切断手段よりも上流側に、主たる引張ローラとしての役割を果たす主引張ローラが配置され、この主引張ローラが、アニーラの下端から下方向、好ましくは鉛直下方向に下降している帯状ガラスフィルムを把持して駆動回転することになる。このように、アニーラの外部下方に主引張ローラが配置されているため、アニーラ内に、主引張ローラと同等の役割を果たすローラを設ける必要がなくなる。したがって、アニーラ内では、帯状ガラスフィルムに対してローラの把持力が大きな影響を及ぼさなくなる。換言すれば、アニーラ内には、帯状ガラスフィルムを把持するローラがなくてもよく、或いは、主引張ローラよりも小さい力で帯状ガラスフィルムを把持するローラを設けてもよいが、主引張ローラと同等の強い力で帯状ガラスフィルムを把持するローラは設けなくてもよいことになる。これにより、アニーラ内での微小傷の発生に起因する帯状ガラスフィルムの損傷や破損等が生じ難くなる。そして、アニーラの外部下方に配置された主引張ローラが、アニーラ内の帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせるため、空気流に起因する帯状ガラスフィルムの振れは生じ難くなる。その結果、アニーラ内の温度を維持するためのヒータと帯状ガラスフィルムとの間の距離が近づき過ぎたり或いは遠ざかり過ぎたり等により変動して帯状ガラスフィルムに適切な内部歪除去作用が行われなくなるという不具合が好適に回避され得る。なお、上記の主引張ローラのみによる引張作用では充分に帯状ガラスフィルムの振れを防止できないことも有り得るが、そのような場合には、アニーラ内に補助的な引張ローラを設けるようにしてもよい。この補助的な引張ローラは、帯状ガラスフィルムへの微小傷の発生による問題が生じない程度に、主引張ローラに比して、帯状ガラスフィルムに対する把持力を充分に小さくすることが肝要である。
【0018】
この場合、前記主引張ローラは、前記アニーラの外部上方に配設されている冷却ローラ
との間で、または前記アニーラ内に配設され
且つ前記主引張ローラよりも小さい力で前記帯状ガラスフィルムを把持している
前記ローラとの間で、前記帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、主引張ローラが、冷却ローラとの間で、帯状ガラスフィルムに張りをもたせる場合には、アニーラ内の上下方向全域に亘って、帯状ガラスフィルムに張りをもたせることができる。また、主引張ローラが、アニーラ内に配設されているローラ、つまりアニーラ内で帯状ガラスフィルムを
主引張ローラよりも小さい把持力で把持するようにしたローラとの間で、帯状ガラスフィルムに張りをもたせる場合には、アニーラの当該ローラよりも下部領域において、帯状ガラスフィルムに張りをもたせることができる。なお、この場合には、当該ローラは、アニーラ内の上端近傍に位置していることが好ましく、例えばアニーラ内に上下複数段にローラを設ける場合には、最上段のローラのみが帯状ガラスフィルムを把持するように構成することが好ましい。更に、この場合には、アニーラ内で帯状ガラスフィルムに空気流に起因する振れが生じ易い領域を含むように、当該ローラの位置を選択或いは調整することができるのみならず、当該ローラの周速度を冷却ローラの周速度と同一またはそれよりも高速とすることにより、当該ローラと冷却ローラとの間においても、上記の振れによる問題を回避し得る。但し、何れの場合にしても、アニーラローラによる把持力は、主引張ローラによる把持力よりも小さくすることが肝要である。
【0020】
また、前記アニーラ内には、前記帯状ガラスフィルムの表裏両側に、該帯状ガラスフィルムの厚みよりも相互間離間寸法が長いガイドローラが対向配置されていることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、アニーラ内では、帯状ガラスフィルムの面とガイドローラとの間に隙間が形成されて、帯状ガラスフィルムがガイドローラにより把持されることがなくなるため、微小傷の発生を回避しつつ帯状ガラスフィルムの下方向への移動が安定して行われ得る。この場合、アニーラ内に上下複数段にローラが配設される構成であれば、その全てがガイドローラであってもよく、また一段(好ましくは最上段)を除く他のローラの全てがガイドローラであってもよい。このような構成としたならば、前者の場合には、アニーラの外部上方に配置されている冷却ローラと主引張ローラとの間で、帯状ガラスフィルムに張りがもたされ、後者の場合には、アニーラ内の適所一段のローラと主引張ローラとの間で、帯状ガラスフィルムに張りがもたされる。なお、ガイドローラは、帯状ガラスフィルムと接触した場合における接触傷の発生を回避する観点から、その周速度が、帯状ガラスフィルムの下降速度と実質的に同一となるように駆動回転することが好ましい。
【0022】
以上の方法においては、前記アニール工程が終了してから前記切断工程が開始されるまでの間に、下降している帯状ガラスフィルムの送り方向を横方向に変換する方向変換工程が実行されると共に、前記アニール工程の実行以後であり且つ前記方向変換工程の実行以前に、下降している帯状ガラスフィルムを、前記主引張ローラが把持して駆動回転するようにしてもよい。
【0023】
このようにすれば、方向変換工程の実行時、つまり帯状ガラスフィルムの送り方向が下方向から横方向に変換される際には、その強制的な方向変換に起因して、張りをもたせるための一定の力をアニーラ内の帯状ガラスフィルムに付与することが困難となり、その力に脈動などの波が生じるおそれがある。このような事態が生じると、アニーラ内の温度維持のためのヒータと帯状ガラスフィルムとの間の距離が変動して不安定となり、内部歪除去作用に支障が生じる。これに対しては、方向変換工程の実行以前で且つアニール工程の実行以後に、帯状ガラスフィルムを主引張ローラが把持して駆動回転することにより、方向変換工程の実行時における上記の不具合が効果的に回避される。この場合、帯状ガラスフィルムの送り経路の不当な長尺化を阻止する要請に応じるために、主引張ローラは、方向変換工程が開始される部位もしくはその近傍に配置されることが好ましい。
【0024】
また、前記主引張ローラは、前記帯状ガラスフィルムを把持したときに該帯状ガラスフィルムに接触する外周部が、該帯状ガラスフィルムよりも低硬度の材料で形成されていることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、主引張ローラが固化された帯状ガラスフィルムを強い把持力で把持しても、主引張ローラの方が相対的に硬度が低いため、帯状ガラスフィルムには、微小傷が発生し難くなり、高品位の帯状ガラスフィルムを得ることが可能となる。
【0026】
この場合、前記主引張ローラの外周部は、合成ゴムで形成されていることが好ましい。ここで言う「合成ゴム」は、エラストマーを指している。なお、この合成ゴムは、静摩擦係数が1.00以上であり、また耐熱温度が300℃以上であることがより好ましい。
【0027】
このようにすれば、摩擦特性に優れた合成ゴムを使用することにより、帯状ガラスフィルムと主引張ローラとの間に滑りが生じ難くなるため、不当に強い接触圧を帯状ガラスフィルムに付与して引張作用を行わせる必要がなくなる。これにより、強い接触圧に起因して帯状ガラスフィルムに無用の内部応力が発生するという事態を回避することができる。しかも、耐熱性に優れた合成ゴムを使用することにより、比較的高温な部位であるアニーラの下端部位にできるだけ近い位置に主引張ローラを配設することができ、帯状ガラスフィルムに対する把持部相互間の距離を短くすることができるため、アニーラ内での帯状ガラスフィルムの空気流による振れの振幅を小さくする上で有利となる。
【0028】
また、上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、帯状ガラスフィルムを下降させながら成形する成形手段と、その成形された帯状ガラスフィルムを下降させながらアニーラ内で徐冷して内部歪を除去するアニール手段と、その徐冷をされ且つ幅方向両端部を除く中央領域の厚みが300μm以下となった帯状ガラスフィルムを切断する切断手段とを有する帯状ガラスフィルム製造装置であって、前記アニール手段を経てから前記切断手段に至るまでの帯状ガラスフィルムの送り経路の途中で、下降している帯状ガラスフィルムを、主たる引張ローラとしての役割を果たす主引張ローラが把持して駆動回転することにより、少なくとも前記アニーラ内の帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせるように構成したことに特徴づけられる。
【0029】
この装置の構成は、上述の本発明に係る方法のうち冒頭で述べた方法の構成と実質的に同一であるので、作用効果を含む説明事項は、当該方法について既に述べた説明事項と実質的に同一である。
【発明の効果】
【0030】
以上のように本発明によれば、アニーラ内に、主引張ローラと同等の役割を果たすローラを設けなくてもよくなるため、不可視の微小傷の発生に起因する帯状ガラスフィルムの損傷や破損等を回避できると共に、主引張ローラがアニーラ内の帯状ガラスフィルムに対して上下方向に張りをもたせることにより、空気流に起因する帯状ガラスフィルムの振れを防止することができる。この結果、アニーラ内でヒータと帯状ガラスフィルムとの間の距離が変動することにより生じる内部歪除去作用の不適切化が回避され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置(その製造方法の実施状況)の全体構成を示す概略縦断側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置(その製造方法の実施状況)の要部構成を示す概略縦断側面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置(その製造方法の実施状況)の要部構成を示す概略正面図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の第1実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置の構成要素である主引張ローラの一例を示す拡大斜視図であり、
図4(b)は、同じく主引張ローラの他の例を示す拡大斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置(その製造方法の実施状況)の要部構成を示す概略縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態においては、帯状ガラスフィルムの成形にオーバーフローダウンドロー法を採用した場合における本発明の適用を例示する。
【0033】
図1は、本発明の第1実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置1(帯状ガラスフィルム製造方法の実施状況)を例示している。同図に示すように、この製造装置1の基本的構成は、上方から順に、溶融ガラス2を帯状ガラスフィルム3に成形する成形炉4と、成形炉4を出た帯状ガラスフィルム3を徐冷して内部歪を除去するアニーラ(アニール炉)5と、アニーラ5を出た帯状ガラスフィルム3を冷却する冷却室6と、冷却室6を出た帯状ガラスフィルム3を長手方向に沿うように切断してガラスロール7を作製する切断室8とを有する。
【0034】
成形炉4内には、縦断面形状が楔状をなし且つ頂部にオーバーフロー溝4xが形成された成形体4aと、成形体4aの頂部から溢れ出てその下端部で融合した溶融ガラス2の幅方向両端部を冷却しつつ幅方向中央側への収縮を抑止して帯状ガラスフィルム3を下降させながら成形する冷却ローラ4Rとが収容されている。したがって、この製造装置1における成形手段は、成形炉4と、成形体4aと、冷却ローラ4Rとを主たる構成要素としている。
【0035】
この場合、冷却ローラ4R(エッジローラまたはナールロールともいう)は、その外周面にローラ軸と平行な複数の凸部が形成されて歯車形状を呈しているため、帯状ガラスフィルム3の幅方向収縮を抑止すべく、冷却ローラ4Rから帯状ガラスフィルム3の両端部には幅方向外方側への引張力が作用する。そのため、帯状ガラスフィルム3の幅方向両端部には、その中央側の領域よりも厚みが大きい耳部が形成される。そして、この耳部の幅方向中央側の領域が、有効領域とされる。
【0036】
アニーラ5内には、上下複数段(図例では3段)に配設され且つ主として成形炉4を出た帯状ガラスフィルム3の下降を案内する役割を果たすアニーラローラ5Rと、帯状ガラスフィルム3の表裏両側にそれぞれ離間して配設され且つアニーラ5内の温度を維持するヒータ(図示略)とが収容されている。したがって、この製造装置1におけるアニール手段は、アニーラ5と、アニーラローラ5Rと、ヒータとを主たる構成要素としている。
【0037】
この場合、アニーラ5内は、500℃前後の温度であるため、アニーラローラ5Rは、耐熱性確保等の観点から、セラミックス製とされている。そして、このアニーラローラ5Rは、帯状ガラスフィルム3の幅方向両端部における耳部よりも中央側の位置に配設されている。また、アニーラ5内は、所定の温度勾配を有するように温度設定がされており、帯状ガラスフィルム3が下降するに連れて徐々に温度が低下し、これにより内部歪(熱歪)が除去される構成とされている。そして、このアニーラ5内では、下端部から侵入した空気が上方に向かうことに起因して空気流が発生している。
【0038】
冷却室6内には、上下複数段(図例では4段)に配設され且つ主としてアニーラ5を出た帯状ガラスフィルム3を積極的に下降させる役割を果たす下部ローラ6Rが配設されている。したがって、この製造装置1における冷却手段は、冷却室6と、下部ローラ6Rとを主たる構成要素としている。
【0039】
切断室8内には、冷却室6を出て下降している帯状ガラスフィルム3を湾曲させつつ横方向の送りに変換する方向変換手段9と、方向変換後に横方向に送られている帯状ガラスフィルム3を長手方向に沿うように切断する切断手段10と、切断後の帯状ガラスフィルム3を巻芯7aの廻りに巻き取る巻き取り手段11とが収容されている。ここで、冷却室6を出て切断室8に至った帯状ガラスフィルム3の耳部を除く中央部の厚みは、300μm以下(好ましくは200μm以下)になる。
【0040】
この場合、方向変換手段9は、所定の曲率で湾曲した状態に配列され且つ帯状ガラスフィルム3を接触支持または非接触支持する複数のローラ9Rで構成され、この方向変換手段9による方向変換後の帯状ガラスフィルム3の送り方向は、水平方向、もしくは進行方向前側が下降傾斜する横方向とされている。また、切断手段10は、横方向に送られている帯状ガラスフィルム3の表面側からレーザービームを照射して局部加熱を施した後、その加熱された加熱領域に表面側から冷却水を噴射して、帯状ガラスフィルム3を長手方向にレーザー割断する構成とされている。更に、巻き取り手段11は、切断後の帯状ガラスフィルム3の外周面側(裏面側)に、シートロール12から引き出される保護シート13を重ね合わせて巻芯7aの廻りに巻き取ることによりガラスロール7を得るように構成されている。
【0041】
而して、
図2及び
図3に示すように、冷却室6内に配設されている上下4段の下部ローラ6Rのうち、最上段の下部ローラ6Rは、アニーラ5から出て冷却室6内を下降している帯状ガラスフィルム3を把持するものであって、且つ、主たる引張ローラとしての役割を果たす主引張ローラとされている。この主引張ローラ6Rは、アニーラ5内を下降している帯状ガラスフィルム3に張りをもたせるように、本実施形態ではアニーラ5内で帯状ガラスフィルム3に上下方向の張力が付与されるように駆動回転する構成とされている。
【0042】
詳述すると、アニーラ5内に上下3段に配設されているアニーラローラ5Rは、何れもが、基本的には、帯状ガラスフィルム3に接触せずにその下動を案内するガイドローラとされている。すなわち、帯状ガラスフィルム3の表裏両側に位置しているアニーラローラ5Rの相互間離間寸法Tは、帯状ガラスフィルム3の厚み(耳部の厚み)tよりも長くなるように設定されている。具体的には、帯状ガラスフィルム3の表裏面と、その両側に配置されているアニーラローラ5Rとのそれぞれの間の隙間は、50〜4000μm程度になるように設定されている。また、アニーラローラ5Rの周速度は、帯状ガラスフィルム3の下降速度と実質的に同一になるように設定されている。
【0043】
このような条件でアニーラローラ5Rが配設されていると、帯状ガラスフィルム3が薄肉であるが故に、アニーラ5内に発生している空気流の影響を受けて、帯状ガラスフィルム3にアニーラ5内で揺れに起因する振れが発生し得る状態となっている。しかしながら、冷却室6内に存する主引張ローラ6Rと、成形炉4内で帯状ガラスフィルム3を把持している冷却ローラ4Rとの間で、帯状ガラスフィルム3が引っ張られることに伴って、アニーラ5内では帯状ガラスフィルム3が張られた状態となっている。この場合、主引張ローラ6Rの周速度は、冷却ローラ4Rの周速度と実質的に同一またはそれよりも高速度で駆動回転するように構成されている。
【0044】
本実施形態では、主引張ローラ6Rを除く下部ローラ6Rは、相互間離間寸法T´が帯状ガラスフィルム3の厚みtよりも長いガイドローラとされている。なお、主引張ローラ6Rは、最上段の下部ローラ6Rであることに限定されるわけではなく、それよりも下段の下部ローラ6Rであってもよく、また二段や三段等の複数段に配設される下部ローラ6Rであってもよい。
【0045】
また、本実施形態では、冷却ローラ4R、アニーラローラ5R及び下部ローラ6Rは、何れもが、幅方向の両側に存する壁部14に両端支持される1本のローラ軸ごとに2個ずつ装着され、帯状ガラスフィルム3の幅方向両端部における耳部の僅か中央側位置であって、帯状ガラスフィルム3の表裏両側にそれぞれ配設されている。なお、これらのローラ4R、5R、6Rは、両壁部14にそれぞれ片持ち支持されるようにしてもよい。
【0046】
ここで、主引張ローラ6Rの構造を詳述すると、
図4(a)に示すように、ローラ軸6xの外周側に合成ゴム(エラストマー)からなる円筒状のローラ体6aが嵌合固定されている。したがって、合成ゴムからなるローラ体6aの外周面が、帯状ガラスフィルム3の表裏面に接触して把持力を作用させる構成とされている。合成ゴムは、ガラスよりも低硬度であるが、その硬度や柔軟性さらには表面平滑性等の物性を適切にコントロールできるため、帯状ガラスフィルム3を的確に把持できる材質とすることが容易であり、この合成ゴムを主引張ローラ6R(ローラ体6a)に使用すれば、主引張ローラ6Rと帯状ガラスフィルム3との滑りをなくして、アニーラ5内で帯状ガラスフィルム3に安定して張りをもたせることができる。
【0047】
ローラ体6aを構成する合成ゴムは、本実施形態での使用態様であれば、ガラスとの静摩擦係数が1.00以上であることが好ましい。このような合成ゴムとすれば、主引張ローラ6Rの外周部が、帯状ガラスフィルム3の表裏面との間で確実に滑りを生じることなく、帯状ガラスフィルム3を適切に把持することができるため、帯状ガラスフィルム3の表裏面に大きな接触圧を作用させる必要がなくなり、帯状ガラスフィルム3に無用な内部応力が生じるという不具合を可及的に回避することが可能となる。なお、上記の静摩擦係数の数値は、ガラス板上に当該合成ゴム材を載置した状態でそのガラス板を徐々に傾斜させ、当該合成ゴム材が滑り始めたときの角度をθとした場合に、tanθを静摩擦係数とする方法(所謂傾斜方法)で測定した値であって、且つ、室温での測定値である。
【0048】
更に、この合成ゴムは、本実施例における主引張ローラ6Rの配置条件であれば、耐熱温度が300℃以上であることが好ましい。すなわち、主引張ローラ6Rは、アニーラ5の外部下方であれば、どこに配置してもその役割を果たすことが可能であるが、できる限りアニーラ5に近い位置に配置した方が、把持部相互間の距離を短くすることができるため、アニーラ5内で帯状ガラスフィルム3に適切な張りをもたせる上で有利となる。その場合、アニーラ5を出た直後の帯状ガラスフィルム3の温度は、250℃以上であるため、耐熱温度が低い合成ゴム(例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム等)を使用した場合には、帯状ガラスフィルム3と接触するローラ体6aの外周部の熱変形を阻止するために、その外周部を冷却する装置等が別途必要となったり、或いは帯状ガラスフィルム3の温度が充分に降温された部位つまりアニーラ5から遠く離れた部位に主引張ローラ6Rを配置せねばならなくなるという制約を受ける。
【0049】
しかし、上記のように耐熱温度が300℃以上の合成ゴムを使用すれば、冷却装置等を別途設けたり或いは主引張ローラ6Rの配設位置をアニーラ5から不当に遠ざけたりする必要がなくなる。ここで、耐熱温度とは、合成ゴムが、熱により変形を来たすことなく且つ熱により無用の粘着性を有することなく、室温での物性をそのまま維持できる範囲内での最高温度を意味する。以上の事項を勘案すれば、ローラ体6aの合成ゴムとしては、シリコーンゴムまたはフッ素ゴムを使用することが好ましい。但し、その使用の態様によっては、既述のニトリルゴム等のように耐熱温度が低い合成ゴムであっても、充分な効果を発揮することができる。
【0050】
図4(b)は、主引張ローラ6Rの他の構造を詳細に例示するもので、ローラ軸6xの外周側に円筒状の芯部6bを嵌合固定し、この芯部6bの外周側に合成ゴムからなる円筒状のローラ体6aを嵌合固定したものである。このように構成した場合にも、帯状ガラスフィルム3の表裏両面に、ローラ体6aを構成する合成ゴムが接触することになる。そして、合成ゴムに関する特性や利点は、
図4(a)に基づいて説明した事項と同一であるので、ここではその説明を省略する。
【0051】
次に、以上の構成を備えた本発明の第1実施形態に係る製造装置1の作用(製造方法)を説明する。
【0052】
帯状ガラスフィルム製造方法としては、先ず、成形炉4内において成形体4a及び冷却ローラ4Rの主たる作用によって溶融ガラスを帯状ガラスフィルム3に成形して下降させる成形工程を実行した後、アニーラ5内において帯状ガラスフィルム3をアニーラローラ(ガイドローラ)5Rによって案内して下降させつつ内部歪の除去を行うアニール工程が実行される。そして、この後に、アニール工程を終了した帯状ガラスフィルム3を冷却室6内において内部ローラ6Rによって下方に引っ張りつつ案内をして室温に降温させる冷却工程を実行した後、切断室8内において、帯状ガラスフィルム3の送り方向を下方向から横方向に変換する方向変換工程を実行すると共に、その後に帯状ガラスフィルム3の耳部を切除する切断工程が実行される。更に、この後に、巻き取り手段11により、耳部を切除された帯状ガラスフィルム3が保護シート13と重ね合わされた状態で巻芯7aの廻りに巻き取られることによりガラスロール7が得られる。
【0053】
この場合、アニール工程の実行時には、アニーラ5内の帯状ガラスフィルム3が、その全域に亘って、成形炉4内の冷却ローラ4Rと、冷却室6内の主引張ローラ6Rとの間で張りをもたされた状態となっているため、アニーラ5内に空気流が発生しているにも拘らず、当該帯状ガラスフィルム3には揺れひいては振れが発生し難くなる。そして、主引張ローラ6Rの外周部は、合成ゴムで構成されているため、冷却室6内の帯状ガラスフィルム3に微小傷を付けることなく且つ滑りを生じることなく、アニーラ5内の帯状ガラスフィルム3に安定した状態で張りをもたせることができる。
【0054】
そして、主引張ローラ6Rのローラ体6aを構成する合成ゴムの静摩擦係数が1.00以上であることにより、主引張ローラ6Rは、帯状ガラスフィルム3を滑りを生じることなく確実に把持することができるため、アニーラ5内の帯状ガラスフィルム3に対して確実に振れが生じない程度の張りをもたせることが可能となる。
【0055】
しかも、アニーラ5内のアニーラローラ5Rは、全てがガイドローラであって、それらの周速度が帯状ガラスフィルム3の下降速度と実質的に同一であるため、帯状ガラスフィルム3が下降時にアニーラローラ5Rと接触しても、接触に起因する微小傷の発生が可及的に抑制される。なお、アニーラローラ5Rは、アニーラ5内の温度の関係上、高硬度のセラミックス製とされているが、上述のように全てがガイドローラであって周速度が適切であるため、帯状ガラスフィルム3に微小傷を発生させる要因とはならない。
【0056】
以上のような動作が行われることにより、帯状ガラスフィルム3に微小傷が発生することによる破損等の問題が効果的に抑止された上で、アニーラ5内に発生している空気流の影響を受けて帯状ガラスフィルム3に振れが生じるという事態が回避される。これにより、アニーラ5内での振れの発生に起因する帯状ガラスフィルム3の熱履歴の不安定化が解消すると共に、アニーラ5内のヒータに帯状ガラスフィルム3が近づき過ぎたり或いは遠ざかり過ぎたり等に起因して、内部歪除去作用に支障が生じるという事態が回避され、アニール工程の実行が極めて適切化される。
【0057】
図5は、本発明の第2実施形態に係る帯状ガラスフィルム製造装置1(帯状ガラスフィルム製造方法の実施状況)を例示している。この第2実施形態に係る製造装置1が、上述の第1実施形態に係るそれと相違しているところは、冷却室6よりも下方であり且つ方向変換手段9により帯状ガラスフィルム3が方向変換を開始する手前(図例では方向変換の開始点またはその近傍)に、主引張ローラ6Rを配設した点にある。なお、この主引張ローラは、冷却室6内に配設されていてもよいが、帯状ガラスフィルム3が方向変換を開始する手前、好ましくは方向変換の開始点またはその近傍に、主引張ローラ6Rを配設することが肝要である。
【0058】
このような構成によれば、アニーラ5内では帯状ガラスフィルム3を把持していないため、強制的な方向変換に起因して帯状ガラスフィルム3の引張作用に波が生じても、主引張ローラ6Rの作用によりその波が消失された上で、アニーラ5内の帯状ガラスフィルム3に張りをもたせることができる。しかも、主引張ローラ6Rを、帯状ガラスフィルム3の方向変換の開始点またはその近傍に配置すれば、帯状ガラスフィルム3の送り経路を可及的に短くすることができ、小スペース化を図ることができる。
【0059】
その他の構成及び作用効果は、上述の第1実施形態と同一であるので、両実施形態に共通の構成要件については同一符号を使用し、その説明を省略する。
【0060】
なお、以上の第1、第2実施形態では、冷却ローラ4Rと主引張ローラ6Rとの間で、アニーラ5内の帯状ガラスフィルム3に張りをもたせるようにしたが、アニーラ5内に配設されている最上段のアニーラローラ5Rが帯状ガラスフィルム3を把持するようにして、そのアニーラローラ5Rと主引張ローラ6Rとの間で、アニーラ5内の帯状ガラスフィルム3に張りをもたせるようにしてもよい。このようにした場合には、最上段のアニーラローラ5Rの周速度を、冷却ローラ4Rの周速度と同一またはそれよりも高速度にした上で、主引張ローラ6Rの周速度を、最上段のアニーラローラ5Rの周速度と同一またはそれよりも高速度にすることが肝要である。また、アニーラ5内で帯状ガラスフィルム3を把持するアニーラローラ5Rは、最上段のものに限定されるわけではなく、それよりも下段のアニーラローラ5Rであってもよいが、当該アニーラローラ5Rと冷却ローラ4Rと主引張ローラとのそれぞれの周速度の関係は、上述の場合と同一にすることが肝要である。
【0061】
また、以上の第1、第2実施形態では、引張ローラとしては主引張ローラ6Rのみを配置する構成としたが、例えばアニーラ5内に、主引張ローラ6Rよりも把持力が小さく且つ周速度が主引張ローラ6Rと同等の補助的な引張ローラを配設するようにしてもよい。
【0062】
更に、以上の第1、第2実施形態では、帯状ガラスフィルムの成形にオーバーフローダウンドロー法を採用した場合に本発明を適用したが、スロットダウンドロー法やリドロー法を採用した場合にも、同様にして本発明を適用することが可能である。但し、リドロー法を採用した場合には、既述の冷却ローラの配設位置が、母材となる板ガラスの未加熱位置に相当することになる。
【0063】
また、以上の第1、第2実施形態では、切断工程でレーザー割断を使用して帯状ガラスフィルム3の長手方向に沿うように切断を行い、ガラスロール7を得るようにしたが、帯状ガラスフィルム3の幅方向に沿うようにスクライブを施してこのスクライブを基線として切断を行い、複数枚のガラス基板としてのガラスフィルムを得るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 帯状ガラスフィルム製造装置
2 溶融ガラス
3 帯状ガラスフィルム
4 成形炉
4R 冷却ローラ
5 アニーラ
5R アニーラローラ(ガイドローラ)
6 冷却室
6a 合成ゴム
6R 主引張ローラ(下部ローラ)
7 ガラスロール
9 方向変換手段
10 切断手段