特許第5669038号(P5669038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5669038-球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669038
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/04 20060101AFI20150122BHJP
   C21D 5/00 20060101ALI20150122BHJP
   B22D 13/02 20060101ALI20150122BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C22C37/04 D
   C21D5/00 T
   B22D13/02 501C
   B22D27/20 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-59248(P2010-59248)
(22)【出願日】2010年3月16日
(65)【公開番号】特開2011-190516(P2011-190516A)
(43)【公開日】2011年9月29日
【審査請求日】2013年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】中本 光二
(72)【発明者】
【氏名】堤 親平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和也
(72)【発明者】
【氏名】中道 昇
(72)【発明者】
【氏名】道浦 吉貞
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−266047(JP,A)
【文献】 特開2005−095911(JP,A)
【文献】 特開2003−055731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/00−37/10
C21D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうちの1種または両方をSn(重量%)+Cu(重量%)/10 <0.050となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織におけるパーライトの面積率が60〜80%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数および平均粒径は、粒径3μm以下のものを除いて計測したときの粒数が500個/mm以上、平均粒径が15μm以下である球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項2】
重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうちの1種または両方をSn(重量%)+Cu(重量%)/10 <0.050となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用いて、金型遠心鋳造により管状の半製品を鋳造し、この半製品に対して、900〜1100℃で5〜25分保持した後、20〜30℃/分の冷却速度で680℃以下まで冷却し、さらに700〜720℃で15〜30分加熱保持する熱処理を連続焼鈍炉で行うことにより、前記半製品を請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄管となす球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型遠心鋳造により鋳造される球状黒鉛鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な球状黒鉛鋳鉄には、JIS規格のFCD350、FCD400、FCD450等の高靭性タイプのものと、FCD600、FCD700、FCD800等の高強度タイプのものがあるが、球状黒鉛鋳鉄管に関しては、比較的強度と伸びのバランスのよいFCD450(引張強さ:450MPa以上、伸び:10%以上)に相当する材質のものがよく使用される。
【0003】
ところで、上記FCD450相当の材質の球状黒鉛鋳鉄管を金型遠心鋳造により製造する場合は、通常、その鋳放し組織がパーライト主体の基地にセメンタイトと球状黒鉛が共存した斑組織であるため、鋳造後に連続焼鈍炉で下記のような熱処理(焼鈍)を施して、セメンタイトを分解するとともに基地組織をフェライト化することにより、所望の機械的性質が得られるようにしている。
【0004】
上記金型遠心鋳造後の熱処理は、まず、鋳造された管状の半製品をオーステナイト域(870℃以上)まで加熱し、セメンタイトを完全に分解して、オーステナイトの基地に黒鉛のみが晶出した組織とする。なお、このときには、加熱温度が高いほど短時間でセメンタイトの分解が可能である。その後、共析変態点付近(700〜750℃程度)の温度域で一定時間保持するか、もしくは変態点付近を徐冷することにより、オーステナイトからフェライトを析出させる。このときには、保持時間が長いほど、あるいは冷却速度が遅いほどフェライト析出量が多くなる。そして、基地組織が完全にフェライト化して、フェライトの基地に黒鉛が分散した組織となった場合に、FCD450相当の材質が得られる。
【0005】
一方、近年では、FCD450よりも強度と伸びのバランスがよく、かつ安価に製造できる球状黒鉛鋳鉄管がユーザから強く求められている。そこで、本出願人は、球状黒鉛鋳鉄の基本的な化学成分に、パーライト安定化元素であるSnとCuのうち少なくとも1種を、0.050≦Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 ≦0.089となる範囲で添加し、基地組織にパーライトを50〜90%の面積率で析出させて、基地組織をフェライトとパーライトからなる二相組織とするとともに、基地組織中に微細な黒鉛を多数晶出させることにより、FCD600と同等以上の引張強さとFCD450に匹敵する伸びを同時に達成する技術を提案した(特願2009−35314)。しかし、この技術では、SnおよびCuの含有量の範囲が狭いためその管理が面倒であり、またこれらの成分のコストが高いという難点がある。
【0006】
また、砂型鋳造によって製造される球状黒鉛鋳鉄製品に対しては、鋳造した半製品をオーステナイト域まで加熱して一定時間保持した後、60℃/分程度の冷却速度で急冷してオーステナイトからパーライトを析出させ、さらに670〜760℃で加熱保持する熱処理を行って、パーライトの一部からフェライトを生成させるとともに残りのパーライトの性状を調整することにより、高強度を確保しつつ伸びの改善を図る技術が提案されている(特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、球状黒鉛鋳鉄製品が水道管等の管材である場合、その鋳造方法は砂型鋳造よりも冷却速度がかなり大きい金型遠心鋳造が中心となるため、上記特許文献1に記載の技術を適用することは困難である。すなわち、特許文献1の技術では鋳造時に基地組織にパーライトを生成する冷却速度で冷却されることが前提条件となっているが、それよりも冷却速度の大きい金型遠心鋳造を行った場合には、基地組織にセメンタイトが多く生成してしまうので、特許文献1に記載された熱処理を適用しても望ましい特性を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−55731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高強度と高靭性を兼ね備え、容易かつ安価に製造できる球状黒鉛鋳鉄管とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の球状黒鉛鋳鉄管は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうちの1種または両方をSn(重量%)+Cu(重量%)/10 <0.050となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、基地組織におけるパーライトの面積率が60〜80%であり、基地組織中に晶出している黒鉛の粒数が500個/mm以上、平均粒径が15μm以下であるものとした。
【0011】
ここで、パーライトの面積率とは、所定の大きさの視野において黒鉛を除いた基地組織の面積を100%とした場合のパーライトの面積の割合(%)である。また、黒鉛の粒数および平均粒径は、粒径3μm以下のものを除いて計測した値である。
【0012】
すなわち、本発明では、基地組織におけるパーライト面積率を60〜80%となるように調整するとともに、基地組織中に微細な球状黒鉛を多数晶出させて組織を緻密化することにより、コストの高いSnやCuを多く添加しなくても、高強度と高靭性を同時に達成できるようにしたのである。
【0013】
次に、各合金元素の含有量を上記の範囲に限定した理由について説明する。
【0014】
Cは、本発明に必要な黒鉛量と鋳造性(溶湯の流動性)を確保するために、少なくとも3.20%含むようにした。一方、含有量が4.00%を超えると、黒鉛の晶出が過剰になって高い強度が得られなくなるので、含有量の上限を4.00%とした。
【0015】
Siは、溶湯の流動性を高める作用や黒鉛の晶出を促進する作用を有するが、含有量が1.40%未満ではこれらの作用による効果が十分に得られない。一方、含有量が3.00%を超えると、黒鉛の晶出が過剰になるとともに基地組織のパーライト化を抑える作用が大きくなって高強度が得られなくなるし、製品の外表面にピンホール等の荒れが発生しやすくなる。このため、含有量の範囲を1.40〜3.00%とした。
【0016】
Mnは、Sを固定して無害化する元素であり、その効果を十分に得るために少なくとも0.10%含むようにした。しかし、過剰であれば伸びを低下させるので、含有量の上限を1.00%とした。
【0017】
Mgは、黒鉛を球状化させるのに必要な元素であり、含有量が0.02%未満では十分な効果が得られない一方、0.08%を超えると効果の向上が少なくなるので、含有量の範囲を0.02〜0.08%とした。
【0018】
Crは、通常、不可避的に0.01%以上含まれるが、含有量が0.20%以下であればその影響は小さい
【0019】
SnとCuはともにパーライト安定化元素であり、Cuの効果はSnの約1/10であることが知られている。しかし、基地組織におけるパーライトの面積率を60〜80%に調整するには、必ずしも多量に添加する必要はなく、Sn(重量%)+Cu(重量%)/10 <0.050となる範囲に含有量を抑えることにより、含有量の管理がしやすくなるとともに、コスト低減を図ることができる。
【0020】
上記各合金元素のほかには、P、S等の不可避的不純物が含有されるが、その含有量は少ないほどよい。例えば、Pは0.08%以下、Sは0.015%以下とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%を含有し、さらにSnとCuのうちの1種または両方をSn(重量%)+Cu(重量%)/10 <0.050となる範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の溶湯を用いて、金型遠心鋳造により管状の半製品を鋳造し、この半製品に対して、900〜1100℃で5〜25分保持した後、20〜30℃/分の冷却速度で680℃以下まで冷却し、さらに700〜720℃で15〜30分加熱保持する熱処理を連続焼鈍炉で行うことにより、前記半製品を上述した構成の球状黒鉛鋳鉄管となすものである。
【0022】
すなわち、上記溶湯を用いる金型遠心鋳造と上記条件の熱処理の組み合わせにより、パーライト面積率が60〜80%、かつ黒鉛の粒数が500個/mm以上でその平均粒径が15μm以下となり、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易に製造することができる。このとき、黒鉛粒数が500個/mmを下回ると、上記熱処理を行う際にセメンタイトの分解に時間がかかり、また基地組織に含まれる固溶炭素の黒鉛化が遅れるため、上記範囲のパーライト面積率が得られにくくなるが、黒鉛粒数を500個/mm以上とすることにより、この影響を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明の球状黒鉛鋳鉄管は、SnおよびCuの含有量を抑えながら、基地組織におけるパーライトの面積率を60〜80%とし、基地組織中に微細な球状黒鉛を多く晶出させたものであるから、高強度と高靭性の両方の特性を有し、しかもSnやCuの含有量の管理が容易で成分コストの安いものとなっている。
【0024】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、SnおよびCuの含有量を抑えた溶湯を用いて金型遠心鋳造を行った後、通常の連続焼鈍炉において所定の条件で熱処理を行うものであるから、熱処理設備の改造等を必要とせず、高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】a〜cは、それぞれ実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の材料組織の顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の特性を確認するために行った実験について説明する。実験では、まず、実施形態の球状黒鉛鋳鉄管(実施例1〜3)を製造した。表1は実験に用いた溶湯の化学成分を示す。ここで、記載を省略した残部は、Feおよび不可避的不純物(P:0.04〜0.06%、S:0.002〜0.005%を含む)からなる。なお、化学成分のデータは、それぞれの溶湯から作製した白銑試料を発光分光分析装置で分析した値である。
【0027】
【表1】
【0028】
最初に、表1の組成を有する溶湯をそれぞれ約1300℃で遠心鋳造装置の円筒状金型に注湯して、厚さ約7.0mmの管状の半製品(鋳放し管)を鋳造した。この鋳造の際には、注湯した溶湯を金型水冷により凝固させた後、凝固した管状体を金型から引き抜いて空冷した。
【0029】
そして、各鋳放し管を連続焼鈍炉で下記の条件で熱処理(二段焼鈍)することにより、製品としての球状黒鉛鋳鉄管に仕上げた。
(1段目焼鈍条件)
・加熱保持:900〜1100℃×5〜25分
・冷却速度:25〜30℃/分(実施例1、2)、20〜25℃/分(実施例3)
・冷却温度:650℃程度(680℃以下)
(2段目焼鈍条件)
・加熱保持:700〜720℃×15〜30分
・冷却速度:1〜8℃/分
・冷却温度:600℃程度
【0030】
ここで、1段目の冷却速度は、冷却後の基地組織のほとんどがパーライトとなりフェライトが析出しないように設定したものである。このため、実施例1、2に比べてパーライト安定化元素であるSnおよびCuの含有量が多い(Sn(重量%)+Cu(重量%)/10の値が高い)実施例3では、1段目の冷却速度を実施例1、2よりも遅くしている。そして、2段目の加熱保持により、パーライトからある程度のフェライトを析出させるとともにパーライト性状を調整して、伸びの向上を図っている。
【0031】
このようにして製造した各実施例の鋳鉄管から試験片を採取し、それぞれについて材料組織の性状および機械的性質を調査した。その調査結果を表2、3に示す。また、図1は各実施例の材料組織の顕微鏡写真を示す。ここで、表2の材料組織の性状に関するデータは、いずれも管の厚さ方向中心部の画像解析により計測したもので、そのうちのパーライト面積率は所定の大きさの視野における基地組織の面積を100%とした場合のパーライトの面積の割合であり、黒鉛面積率は所定の大きさの視野全体の面積を100%とした場合の黒鉛の面積の割合である。また、黒鉛に関しては、いずれも粒径が3μm以下のものを除いて計測を行っている。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
図1(a)〜(c)から、各実施例の基地組織はパーライトとフェライトからなる二相組織となっており、微細な黒鉛が多数晶出していることがわかる。そして、表2、3から明らかなように、各実施例のパーライト面積率は60〜80%で、黒鉛の粒数が600個/mm以上、平均粒径が13μm以下であり、いずれの例でも約600MPaの引張強さと13%以上の伸びが確保されている。
【0035】
以上の結果から、各実施例の球状黒鉛鋳鉄管は、基地組織におけるパーライト面積率を60〜80%に調整するとともに、冷却速度の大きい金型遠心鋳造と適切な条件の熱処理とを組み合わせて、基地組織中に微細な黒鉛を多数晶出させることにより、SnやCuの含有量を低く抑えても、FCD600と同等の引張強さとFCD450よりも高い伸びを有する、高強度かつ高靭性のものとなり、容易かつ安価に製造できることが確認された。
図1