(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乾燥脂質フィルムの形成が、前記疎水性高分子の多孔質体を予め減圧しておき、減圧を解除するとともに脂質を含む溶液を導入すること、及び脂質を含む溶液を導入した前記疎水性高分子の多孔質体を減圧下とすることにより前記疎水性高分子の多孔質体に乾燥脂質フィルムを形成することを含む、請求項1記載のリポソームの製造方法。
前記多孔質体の孔に水溶液を導入することが、乾燥脂質フィルムが形成された疎水性高分子の多孔質体に、減圧を解除するともに水溶液を導入することを含む、請求項3記載のリポソームの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、疎水性高分子の多孔質体を用いることによって、体積(直径)等のサイズの均一性に優れるリポソームが簡単に得られるという知見に基づく。また、本発明は、疎水性高分子の多孔質体を用いることによって、好ましくは、所望の内包対象物が内封されたリポソームが効率よく得られうるという知見に基づく。
【0010】
すなわち、本発明によれば、例えば、体積(直径)等のサイズの均一性に優れるリポソームを、煩雑な操作や複雑な機械等を使用することなく製造することができる。また、リポソームの形成の場として疎水性高分子の多孔質体の内部の空隙部(孔)を使用するため、本発明の方法によれば、例えば、所望の内包対象物が内封されたリポソームの製造効率を向上できる。さらに、本発明の方法によれば、例えば、内包対象物として無細胞タンパク質発現系を使用することにより、膜タンパク質を含むリポソームを製造することができる。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1] リポソームの製造方法であって、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に形成した乾燥脂質フィルムからリポソームを形成することを含むリポソームの製造方法;
[2] 前記乾燥脂質フィルムの形成が、前記疎水性高分子の多孔質体を予め減圧しておき、減圧を解除するとともに脂質を含む溶液を導入すること、及び脂質を含む溶液を導入した前記疎水性高分子の多孔質体を減圧下とすることにより前記疎水性高分子の多孔質体に乾燥脂質フィルムを形成することを含む[1]記載のリポソームの製造方法;
[3] 前記リポソームを形成することが、前記乾燥脂質フィルムを形成した多孔質体の孔に水溶液を導入することを含む[1]又は[2]に記載のリポソームの製造方法;
[4] 前記多孔質体の孔に水溶液を導入することが、乾燥脂質フィルムが形成された疎水性高分子の多孔質体に、減圧を解除するともに水溶液を導入することを含む[3]記載のリポソームの製造方法;
[5] 前記疎水性高分子が、ポリジメチルシロキサンである[1]から[4]のいずれかに記載のリポソームの製造方法;
[6] 遠心分離によって前記多孔質体からリポソームを回収することを含む、[1]から[5]のいずれかに記載のリポソームの製造方法;
[7] 少なくとも2種類のリポソームが融合した融合リポソームを製造する方法であって、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔でリポソームを融合させることを含む融合リポソームの製造方法;
[8] 前記リポソームを融合させることが、前記疎水性高分子の多孔質体に少なくとも2種類のリポソームを含むリポソーム懸濁液を導入すること、及び前記リポソーム懸濁液を導入した前記多孔質体を減圧処理して前記疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを形成することを含む[7]記載の融合リポソームの製造方法;
[9] 前記リポソームを融合させることが、前記乾燥脂質フィルムが形成された前記多孔質体の孔に水溶液を導入することを含む[8]記載の融合リポソームの製造方法;
[10] 膜タンパク質を含むリポソームの製造方法であって、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に形成した乾燥脂質フィルムに、無細胞タンパク質発現系と膜タンパク質遺伝子とを含む水溶液を接触させることによりリポソームを形成すること、及び前記リポソーム内において前記無細胞タンパク質発現系で前記膜タンパク質を発現させることを含む膜タンパク質を含むリポソームの製造方法;及び
[11] [10]記載の膜タンパク質を含むリポソームの製造方法により製造された膜タンパク質を含むリポソームが配置された膜タンパク質アレイ;
に関する。
【0012】
[リポソーム]
本明細書において「リポソーム」とは、脂質から構成される膜によって覆われた小胞であって、好ましくは脂質二分子膜(脂質二重層)とその内部の水相とを含む小胞であり、より好ましくは生体膜を構成しうる脂質二分子膜とその内部の水相とを含む小胞である。本発明においてリポソームを形成する膜は、ユニラメラであることが好ましい。また、本明細書において融合リポソームとは、少なくとも2種類のリポソームが融合することにより得られるリポソームのことをいう。
【0013】
[疎水性高分子の多孔質体]
本明細書において「疎水性高分子の多孔質体」とは、疎水性高分子を原料として形成された多孔質体のことをいい、好ましくは連続気泡構造の空隙部(孔)を有するスポンジ状の多孔質体をいう。また、本明細書において「疎水性高分子の多孔質体」は、例えば、内部の空隙部(孔)に、脂質を含む溶液や内包対象物を含む水溶液等を導入可能な性質を有することが好ましい。疎水性高分子の多孔質体は、例えば、可撓性や柔軟性等を有していることが好ましい。
【0014】
多孔質体内の孔のサイズと、形成されるリポソームのサイズとは、相関関係があるとの知見が得られている。このため、サイズの均一性に優れるリポソームを製造する点から、疎水性高分子の多孔質体は、孔のサイズ分布が小さく、孔のサイズが均一であることが好ましい。孔径(直径)は、目的とするリポソームの径等に応じて適宜設定できるが、例えば、100nm〜1000μmであり、好ましくは200nm〜50μmである。また、疎水性高分子の多孔質体の大きさは、通常、5mmx5mmx5mmの直方体であり、好ましくは直径5mmx高さ5mmの円筒状である。疎水性高分子の多孔質体の形状は、特に制限されず、例えば、直方体、立方体、円筒形等が挙げられ、中でも、チューブ等を用いてリポソームを製造する点からは、円筒形が好ましい。なお、疎水性高分子の多孔質体の孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡観察により測定できる。
【0015】
疎水性高分子の多孔質体の孔に均一に溶液を導入する点から、疎水性高分子は、ガス透過性を有することが好ましい。また、疎水性高分子は、脂質を溶解する溶媒に対して耐性を有するものが好ましい。
【0016】
疎水性高分子としては、例えば、ポリシロキサン、ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリフマル酸、ポリスチレン、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。ポリシロキサンとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)等が挙げられる。疎水性高分子としては、有機溶媒耐性が高く、また複雑な構造の内部にまで溶液を浸透させるために、減圧による高分子構造内のガス交換を積極的に利用できる点から、例えば、PDMSが好ましい。
【0017】
疎水性高分子の多孔質体は、例えば、重合前の疎水性高分子と水溶性結晶粒子とを混合して圧縮成形した後、純水中で水溶性結晶を完全に除去することによって製造することができる。この方法は、salt-leaching法として知られている(例えば、L D. Harris et al., J. Biomed. Mater. Res. 42,396-402 (1998)、G. Chen et al., Macromol. Biosci. 2, 67-77 (2002))。水溶性結晶粒子としては、例えば、NaCl、KCl等のアルカリ金属塩化物塩等が使用できる。水溶性結晶粒子は、多孔質体に形成される孔の大きさを均一にし、サイズの均一なリポソームを形成する点から、サイズ分布が小さいものが好ましい。水溶性結晶粒子の径は、目的とするリポソームの径及び多孔質体の孔径等に応じて適宜設定できるが、例えば、100nm〜1000μmであり、好ましくは200nm〜500μmである。
【0018】
また、疎水性高分子の多孔質体を製造するにあたり、水溶性結晶粒子として、例えば、粒子系の異なる水溶性結晶粒子を混合したものを使用してもよい。このような水溶性結晶性粒子を用いて得られた多孔質体を使用することにより、例えば、多孔質体内部への溶液の導入効率を向上させることができ、好ましくはリポソームの製造効率を向上させることができる。また、水溶性結晶粒子として、例えば、比重の異なる水溶性結晶粒子を混合したものを使用し、重合前の疎水性高分子と混合後に遠心分離操作を行った後、重合成形することによって、得られる多孔質体に孔/孔径の密度分布を付与することができる。孔/孔径の密度分布が付与された多孔質体を用いることによって、例えば、特定のサイズのリポソームを複数種類同時に得ることや、サイズ分布の大きなリポソームから特定のサイズのリポソームを分離するデバイスとして利用することができる。
【0019】
[乾燥脂質フィルム]
本明細書において「乾燥脂質フィルム」とは、単層又は複数の層の脂質で構成された膜であって乾燥状態の膜をいい、好ましくは乾燥状態の脂質二分子膜のことをいう。本明細書において「乾燥状態」とは、脂質を溶解する溶媒が除去された状態のことをいい、好ましくは脂質を溶解する溶媒が除去されて乾燥した状態や、真空乾燥後の状態を含む。脂質としては、後述のものが挙げられる。
【0020】
[脂質を含む溶液]
本明細書において「脂質を含む溶液」は、疎水性高分子の多孔質体に乾燥脂質フィルムを形成するための溶液のことをいう。該脂質はリポソームの脂質膜、好ましくは脂質二分子膜を構成する。脂質を含む溶液は、脂質と、脂質を溶解するための溶媒とを含む。溶媒としては脂質を溶解できるものであれば特に制限されず、例えば、公知の有機溶媒等が使用できる。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、デカン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、クロロホルム、メタノール、エタノール、プロパノール等、およびその組み合わせによる混合溶媒が挙げられる。中でも、有機溶媒としては、例えば、多孔質体の孔や表面での脂質溶液の表面エネルギーを下げることで多孔質体の孔や多孔質体表面に溶液中の上記脂質を大きく広げることのできる組成の溶媒が好ましく、例えばクロロホルムとメタノールの混合溶媒等が好ましい。
【0021】
脂質としては、リポソームの脂質膜、好ましくは脂質二分子膜を構成しうる脂質が使用でき、例えば、公知のグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロール及びリン脂質等が挙げられる。
【0022】
グリセロ糖脂質としては、例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、及びグリコシルジグリセリド等が挙げられる。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、及びガングリオシド等が挙げられる。
【0023】
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、及び水素添加リン脂質等の天然または合成のリン脂質が挙げられる。
【0024】
ホスファチジルコリンとしては、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルフォスファチジルコリン、及びジステアロイルホスファチジルコリン等が挙げられる。 ホスファチジルエタノールアミンとしては、ジオレオイルフォスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、及びジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。 ホスファチジルセリンとしては、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、及びジステアロイルホスファチジルセリン等が挙げられる。 ホスファチジルグリセロールとしては、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、及びジステアロイルホスファチジルグリセロール等が挙げられる。 ホスファチジルイノシトールとしては、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、及びジステアロイルホスファチジルイノシトール等が挙げられる。
【0025】
[リポソームの製造方法]
本発明のリポソームの製造方法は、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に形成した乾燥脂質フィルムからリポソームを形成することを含む。本発明のリポソームの製造方法は、例えば、疎水性高分子の多孔質体の表面に形成された乾燥脂質フィルムから形成することを含んでいてもよく、すなわち、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔表面及び該多孔質体の表面に形成された乾燥脂質フィルムから形成することを含みうる。
【0026】
本発明の製造方法は、例えば、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを形成する工程(a)、及び乾燥脂質フィルムを形成した多孔質体の孔に水溶液を導入してリポソームを形成する工程(b)等を含んでいてもよい。
【0027】
工程(a)
工程(a)は、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔(空隙部)に乾燥脂質フィルムを形成する工程である。この工程(a)により、好ましくは、疎水性高分子の多孔質体の空隙部全体に乾燥脂質フィルムを形成することができる。工程(a)において、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔(空隙部)表面のみならず、疎水性高分子の多孔質体表面に乾燥脂質フィルムを形成してもよい。
【0028】
乾燥脂質フィルムは、例えば、疎水性高分子の多孔質体を予め減圧しておき、減圧を解除するとともに脂質を含む溶液を導入すること、及び脂質を含む溶液を導入した前記疎水性高分子の多孔質体を減圧下とすることにより形成することができる。このように、疎水性高分子の多孔質体を予め減圧しておき、減圧を解除するとともに脂質を含む溶液を導入することにより、例えば、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔への脂質を含む溶液の導入効率を向上させることができる。
【0029】
「疎水性高分子の多孔質体を予め減圧する」とは、減圧解除することにより疎水性高分子の多孔質体の空隙部に、脂質を含む溶液を導入可能な程度にまで減圧することを含み、例えば、疎水性高分子の多孔質体を含む容器内の圧力を下げることによって該容器内と容器外とで圧力差を生じさせることを含む。減圧下とする方法は、公知の減圧方法により行うことができ、例えば、疎水性高分子の多孔質体を含む容器内を真空ポンプ等を用いて真空に近い状態とすることにより行うことができる。
【0030】
「減圧を解除する」とは、例えば、上述の圧力差を解消することを含む。工程(a)においては、圧力差の解消とともに、圧力差を用いて疎水性高分子の多孔質体の空隙部に脂質を含む溶液を導入可能な状態とすることを含む。減圧を解除する方法としては、例えば、容器内外の圧力差を用いて多孔質体を含む容器に脂質を含む溶液を吸引させること等が挙げられる。
【0031】
「疎水性高分子の多孔質体を減圧下とする」とは、脂質溶液を含浸させた疎水性高分子の多孔質体を減圧処理することを含み、好ましくは該多孔質体を減圧処理により脂質を溶解した溶媒を除去すること、より好ましくは該多孔質体を真空乾燥することにより行うことができる。脂質溶液を含浸させた疎水性高分子の多孔質体を減圧処理することにより、例えば、該多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを容易に形成することができる。
【0032】
また、乾燥脂質フィルムは、例えば、疎水性高分子の多孔質体を脂質を含む溶液に含浸させた後、疎水性高分子の多孔質体を減圧処理することができる。「脂質溶液を含浸させた疎水性高分子の多孔質体を減圧処理する」とは、空隙部(孔)内の溶媒を除去可能な程度にまで減圧して乾燥させること、より好ましくは真空乾燥させることを含みうる。減圧処理方法は、上述の通りである。
【0033】
工程(b)
工程(b)は、乾燥脂質フィルムを形成した疎水性高分子の多孔質体の孔に水溶液を導入してリポソームを形成する工程である。この工程により、多孔質体に形成された乾燥脂質フィルムが水和し、例えば、多孔質体の孔内でリポソームが形成される。工程(b)において、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔(空隙部)に形成された乾燥脂質フィルムのみならず、疎水性高分子の多孔質体表面に形成された乾燥脂質フィルムからリポソームが形成されてもよい。
【0034】
工程(b)において、疎水性高分子の多孔質体内への水溶液の導入は、簡便かつ効率よくリポソームを製造する点からは、例えば、乾燥脂質フィルムが形成された減圧下の疎水性高分子の多孔質体に、減圧を解除するともに水溶液を導入することが好ましい。
【0035】
「減圧の解除」は、上記工程(a)と同様であり、上記工程(a)に記載した方法と同様に行うことができる。工程(b)においては、圧力差の解消とともに、圧力差を用いて疎水性高分子の多孔質体の内部の空隙部(孔)に水溶液を導入可能な状態とすることを含む。このように疎水性高分子の多孔質体の内部の空隙部に水溶液が導入されることによって、好ましくは、疎水性高分子の多孔質体の空隙部表面に形成された乾燥脂質フィルムが水和し、空隙部(孔)内においてリポソームが形成され得る。
【0036】
疎水性高分子の多孔質体内への水溶液の導入は、例えば、乾燥脂質フィルムを形成した疎水性高分子の多孔質体に水溶液を接触させた状態で電界を印加することによって行ってもよい。電界の印加による水溶液の導入は、例えば、電極が配置されたチャンバー内に、乾燥脂質フィルムを形成した疎水性高分子の多孔質体及び水溶液を収容し、該電極間に電界を印加することによって行うことができる。印加する電界は特に制限されないが、例えば、該電極間に、10Hzで0.5〜5Vの交流電場を印加することにより行うことができる。
【0037】
乾燥脂質フィルムが形成された多孔質体に導入する水溶液は、例えば、リポソームの内部に封入する内包対象物を含んでいてもよい。内包対象物は、製造するリポソームの用途等に応じて適宜決定できる。内包対象物としては、例えば、無細胞タンパク質発現系等が挙げられる。無細胞タンパク質発現系とは、細胞抽出液を用いて試験管内でタンパク質を発現させる系であり、例えば、mRNAの情報を読み取ってリボゾーム上でタンパク質を発現させる無細胞翻訳系、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系と無細胞翻訳系の両者を含む系が挙げられる。上記細胞抽出液としては、リポソーム、tRNA等のタンパク質合成に必要な成分を含む真核細胞や原核細胞の抽出液が使用可能である。真核細胞及び原核細胞としては、公知のものが使用でき、好熱性細菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL−細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞及び出芽酵母などが挙げられる。薬物輸送担体といったリポソーム製剤の場合、例えば、哺乳動物に投与可能な任意の化合物又は組成物等であればよく、造影剤、抗腫瘍剤、カルシウム剤、抗菌剤、抗消炎剤、ホルモン剤、免疫抑制剤、抗リウマチ薬等が例示できる。遺伝子導入担体の場合、例えば、DNA、mRNA等が挙げられる。
【0038】
なお、本発明のリポソームの製造方法は、乾燥脂質フィルムが形成された多孔質体に導入する水溶液として、無細胞タンパク質発現系と膜タンパク質遺伝子とを含む水溶液を用いた場合、膜タンパク質を含むリポソームを製造することができ、好ましくは、膜脂質に膜タンパク質が存在するリポソームを製造することができる。膜タンパク質としては、特に制限されないが、例えば、チトクロムb5等といったC末アンカー型の膜タンパク質、チトクロムb561やムスカリン性アセチルコリン受容体、バクテリオロドプシン等といった数回膜貫通型の膜タンパク質、P450レダクターゼ等といったN末一回膜貫通型の膜タンパク質等が挙げられる。
【0039】
本発明のリポソームの製造方法は、さらに、疎水性高分子の多孔質体からリポソームを回収する工程(c)を含んでいてもよい。リポソームの回収は、例えば、遠心分離や、疎水性高分子の多孔質体を絞ること等を用いて行うことができる。
【0040】
上述のようにして得られたリポソームは、従来公知のリポソームと同様に、例えば、体分子機能解析モデル、薬物輸送担体、遺伝子導入担体等として使用できる。
【0041】
[融合リポソームの製造方法]
本発明の融合リポソームの製造方法は、少なくとも2種類のリポソームが融合した融合リポソームを製造する方法であって、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔でリポソームを融合させることを含む。本発明の融合リポソームの製造方法によれば、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔でリポソームを融合させることを含むため、簡便かつ効率よく融合リポソームを製造することができる。
【0042】
本発明の融合リポソームの製造方法は、例えば、疎水性高分子の多孔質体にリポソーム懸濁液を導入して、該多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを形成する工程(a’)、及び乾燥脂質フィルムを形成した多孔質体の孔に水溶液を導入してリポソームを形成する工程(b’)等を含んでいてもよい。
【0043】
工程(a’)
工程(a’)は、例えば、疎水性高分子の多孔質体に少なくとも2種類のリポソームを含むリポソーム懸濁液を導入すること、及びリポソーム懸濁液を導入した疎水性高分子の多孔質体を減圧処理して疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを形成することを含んでいてもよい。リポソーム懸濁液を導入した疎水性高分子の多孔質体を減圧処理することにより、効率よく疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを形成することができる。
【0044】
疎水性高分子の多孔質体へのリポソーム懸濁液の導入は、例えば、疎水性高分子の多孔質体の内部の空隙部(孔)へのリポソーム懸濁液の導入効率の点からは、減圧下の疎水性高分子の多孔質体に、減圧を解除するとともに少なくとも2種類のリポソームを含むリポソーム懸濁液を導入することにより行うことが好ましい。工程(a’)における減圧及び減圧解除は、上述のリポソームの製造方法における工程(a)と同様である。
【0045】
リポソームの懸濁液は、例えば、少なくとも2種類のリポソームを含み、少なくとも2種類のリポソームが液体中で分散した状態のことをいう。少なくとも2種類のリポソームを含むリポソーム懸濁液は、リポソーム内に封入された物質の種類が異なるリポソームを少なくとも2種類含むことが好ましい。物質の種類が異なるとは、例えば、組成、機能、性質等が異なる物質のことをいう。リポソーム内に封入された物質としては、例えば、上記の内包対象物が挙げられる。
【0046】
乾燥脂質フィルムは、例えば、リポソーム懸濁液を導入した疎水性高分子の多孔質体を減圧処理することにより形成することができ、好ましくは該多孔質体を減圧処理によりリポソーム懸濁液に含まれる溶液を除去すること、より好ましくは該多孔質体を真空乾燥することにより行うことができる。リポソーム懸濁液を導入した疎水性高分子の多孔質体を減圧処理することにより、例えば、該多孔質体の内部の孔に乾燥脂質フィルムを容易に形成することができる。減圧処理は、本発明のリポソームの製造方法の工程(a)と同様に行うことができる。
【0047】
工程(b’)
工程(b’)は、乾燥脂質フィルムを形成した多孔質体の孔に水溶液を導入してリポソームを形成する工程である。疎水性高分子の多孔質体の内部の空隙部(孔)に水溶液が導入されることによって、好ましくは、疎水性高分子の多孔質体の内部の孔に形成された乾燥乾燥脂質フィルムが水和し、空隙部(孔)内においてリポソームが融合されて融合リポソームが形成され得る。リポソームが融合するとは、例えば、別々のリポソームそれぞれに含まれていた物質を内部に有する1つのリポソームとすることを含む。水溶液の導入は、例えば、本発明のリポソームの製造方法における工程(b)と同様に行うことができる。
【0048】
本発明の融合リポソームの製造方法は、工程(a’)及び工程(b’)を繰り返し行ってもよい。繰り返し行うことにより、好ましくは、異なる種類の物質が複数内封されたリポソームを製造することができる。
【0049】
本発明の融合リポソームの製造方法は、さらに、疎水性高分子の多孔質体から融合リポソームを回収する工程(c’)を含んでいてもよい。融合リポソームの回収は、例えば、遠心分離や、疎水性高分子の多孔質体を絞ること等を用いて行うことができる。
【0050】
上述のようにして得られた融合リポソームは、従来公知のリポソームと同様に、例えば、体分子機能解析モデル、薬物輸送担体、遺伝子導入担体等として使用できる。
【0051】
[膜タンパク質アレイ]
本発明は、さらにその他の態様として、本発明のリポソームの製造方法により製造された膜タンパク質を含むリポソームが配置された膜タンパク質アレイに関する。本発明の膜タンパク質アレイによれば、例えば、膜タンパク質の機能解析や様々なスクリーニング等を行うことができる。
【0052】
膜タンパク質アレイにおいて、配置される膜タンパク質を含むリポソームの数は特に制限されず、例えば、基板の大きさ、検出目的、検出方法等に応じて適宜設定できる。膜タンパク質アレイにおいて、膜タンパク質を含むリポソームは、例えば、基板上に固定化されていることが好ましい。リポソームの基板への固定化は、公知の方法により行うことができる。膜タンパク質アレイは、従来公知のタンパク質アレイやDNAアレイ等と同様の方法により製造することができる。
【0053】
以下に、本発明を好適な実施の形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施の形態に限定されない。
【0054】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、PDMSの多孔質体を用いてリポソームの製造方法を例にとり説明する。
【0055】
まず、PDMSの多孔質体(以下、「マイクロスポンジ」ともいう)を準備する。多孔質体としては、市販のものを使用してもよいし、上述した方法により製造してもよい。本実施の形態1では、多孔質体として
図1に示す構造のものを使用した。
図1Aは、PDMSで形成した多孔質体の一例を示す模式図であり、
図1Bは、その多孔質体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真の一例である。
図1に示すように、多孔質体は、連続気泡構造を有しており、孔のサイズの大きさが略均一であることが好ましい。
【0056】
次に、マイクロスポンジを容器に入れ、容器内を減圧する。減圧は、例えば、デシケータや真空チャンバー内で真空ポンプ用いて行うことができる。減圧処理条件は、容器の大きさ等に応じて適宜決定できるが、1.5mL容量の樹脂製マイクロチューブを用いる場合は、例えば、100kPa以下、好ましくは0.1kPa〜100kPaで30分行うことで実現される。
【0057】
ついで、マイクロスポンジを含む容器内の減圧を解除するとともに、マイクロスポンジを含む容器内に脂質を含む溶液を導入する。このとき、上記のようにマイクロスポンジを含む容器を減圧することによって、マイクロスポンジ内の空隙部(孔)も減圧状態となってことから、減圧が解除されることにより圧力差によって、脂質を含む溶液が容器内に導入されるとともに、マイクロスポンジ内の空隙部(孔)の全体に脂質を含む溶液が導入される。なお、マイクロスポンジ内の空隙部(孔)の全体に脂質を含む溶液が導入する点からは、脂質を含む溶液の導入は、マイクロスポンジ内の空隙部(孔)の減圧状態が維持された状態で行うことが好ましい。
【0058】
ついで、マイクロスポンジ内の空隙部(孔)内に脂質を含む溶液が導入された状態で、マイクロスポンジを含む容器を減圧することによって真空乾燥させて、脂質を溶解する溶媒を除去する。これにより、マイクロスポンジ内の空隙部(孔)の表面が乾燥脂質フィルムによって覆われる。
【0059】
そして、マイクロスポンジを含む容器内の減圧状態を解除するとともに、乾燥脂質フィルムで空隙部(孔)の表面が覆われたマイクロスポンジを含む容器に、内包対象物を含む水溶液を導入する。これにより、減圧状態となったマイクロスポンジ内の空隙部(孔)全体に、内包対象物を含む水溶液が導入され、空隙部(孔)の表面を覆う乾燥脂質フィルムが水和されることにより、マイクロスポンジの内部においてリポソームが形成されるとともに、リポソームの内部に内包対象物が封入される。これにより、内部に内包対象物が封入されたリポソームを得ることができる。
【0060】
また、上記減圧状態の解除及び溶液の導入は、操作性の点から、例えば、三方コックを使用し、三方コックの1つをマクロスポンジを入れた容器、1つをマイクロスポンジ内に導入する溶液等を含む容器、1つを真空ポンプにそれぞれつなぎ、コックを動かすことによって行うことが好ましい。三方コックのコックを移動させることにより、減圧の解除及び溶液の導入を容易に行うことができる。
【0061】
マイクロスポンジからのリポソームの回収は、例えば、遠心分離、マイクロスポンジを絞ること等に行うことができる。
【0062】
上記のようにして、本実施の形態1の方法によれば、マイクロスポンジの減圧及び大気圧開放による溶液導入によって、サイズが均一なリポソームを簡単に製造することができる。また、本実施の形態1の方法によれば、多孔質構造のマイクロスポンジ内でリポソームの形成を行うため、短時間で水和させることが可能となり、また、目的の内包対象物が封入されたリポソームの製造効率を向上することができる。
【0063】
マイクロスポンジの孔径を変化させることによって所望の径のリポソームを得ることができるが、得られるリポソームの径は、一般的には、20nm〜100μmであり、好ましくは200nm〜10μmである。
【0064】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、膜タンパク質を含むリポソームの製造方法について説明する。
【0065】
まず、無細胞タンパク質発現系と無細胞タンパク質発現系で発現可能な膜タンパク質遺伝子とを内包するリポソームを形成する。リポソームの形成は、多孔質体の空隙部を覆う乾燥脂質フィルムを水和させる際の水溶液として、無細胞タンパク質発現系と無細胞タンパク質発現系で発現可能な膜タンパク質遺伝子とを含む水溶液を使用する以外は、実施の形態1のリポソームの製造方法と同様にして行うことができる。
【0066】
ついで、リポソーム内において、無細胞タンパク質発現系で膜タンパク質を発現させる。膜タンパク質の発現は、多孔質体内で行ってもよいし、リポソームを多孔質体から回収した後に行ってもよいが、好ましくは多孔質体内で膜タンパク質を発現させた後、多孔質体からリポソームを回収することが好ましい。リポソームの回収は、実施の形態1と同様にして行うことができる。
【0067】
リポソームで発現した膜タンパク質は、リポソームから回収してもよいし、そのままの状態でアレイ等に用いてもよい。
【0068】
リポソームからの膜タンパク質の回収は、公知の方法により行うことができる。例えば、リポソームと無細胞タンパク質発現系とを分離した後、リポソームを溶解すること等により行うことができる。分離は、例えば、遠心分離、ゲルろ過、ショ糖密度勾配遠心法等により行うことができる。また、リポソームの溶解は、例えば、界面活性剤等により行うことができる。
【0069】
本実施の形態2の方法によれば、リポソームに目的の膜タンパク質のみを発現させることができるため、機能が知られていない膜タンパク質の機能解析等のために有用である。
【0070】
また、本実施の形態2の方法によれば、好ましくは、膜脂質に膜タンパク質が存在するリポソームを製造することができうる。このため、本実施の形態2の方法を用いて異なる膜タンパク質を発現させたリポソームを複数種類製造し、そのリポソームを基板等に配置することによって膜タンパク質アレイを製造することができる。
【0071】
以下に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
〔リポソームの調製〕
PDMSにサイズ分布の小さいKCl顆粒を埋め込み硬化させた後、純水中で超音波洗浄を繰り返し行い、多孔質体を示すマイクロスポンジ(孔径:50〜200μm、含水率:67〜76%)(以下、「GVR」ともいう)を作製した。
【0073】
得られたGVRをマイクロチューブに入れ、真空乾燥させた。この状態で、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)の有機溶媒(CHCl
3/MeOH=1/50)溶液を添加し、真空乾燥により溶媒を蒸発させた。これにより、GVR内の孔を含むスポンジ表面を乾燥脂質フィルムでコートした。ついで、減圧下のマイクロチューブ内にHEPES緩衝液(10mM、pH=7.0)を添加することによって該溶液をGVR内部に導入した。これにより、GVRをコートする脂質フィルムが水和されることによってリポソームが形成される。そして、遠心分離を行うことにより形成されたリポソームを回収した。
【0074】
実施例1の方法で得られたリポソームの孔径は10〜30μmであり、得られたリポソームの孔径とGVRの孔径との間に相関関係が見られた。
【0075】
(実施例2)
〔GFPを発現するリポソームの調製〕
実施例1と同様の方法で、乾燥脂質フィルムでコートされたGVRを調製した。ついで、GFPをコードしたプラスミドを添加した無細胞タンパク質発現系溶液を添加し、37℃で2時間静置した。これにより、GVRの内部にリポソームを形成させた。
【0076】
(比較例1)
比較例1として、薄膜Voltex法によりリポソームを調製した。すなわち、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)の有機溶媒(CHCl
3/MeOH=1/50)溶液をマイクロチューブに入れ、真空乾燥により溶媒を蒸発させた。ついで、GFPをコードしたプラスミドを添加した無細胞タンパク質発現系溶液を添加し、Vortexミキサーを用いて撹拌することによってリポソームを得た。
【0077】
実施例2により得られたリポソームについてレーザー共焦点顕微鏡による顕微鏡観察を行った。その顕微鏡写真の一例を
図2に示す。
図2は、GVR内に形成されたリポソームにおいて発現したGFPの顕微鏡写真の一例である。
図2に示すように、形成されたすべてのリポソームにおいてGFPの蛍光が確認された。
【0078】
また、実施例2及び比較例1により得られたリポソームそれぞれについてレーザー共焦点顕微鏡による顕微鏡観察を行い、GFP発現を行うリポソームの数を定量したところ、乾燥脂質フィルムでコートされたGVRを用いた実施例2の方法によれば、比較例1の方法と比べて、約7倍の封入効率でリポソームを調製することができた。つまり、本発明の方法は、Voltex法と比較して効率よくリポソームを合成できることが確認できた。
【0079】
(実施例3)
〔リポソームにおける膜タンパク質の発現〕
膜タンパク質Connexin43(Cx43)をコードしたプラスミドをウサギ網状赤血球の抽出系である無細胞タンパク質合成溶液(商品名:TnT(登録商標) quick、PROMEGA製)と混合した。それを、実施例1と同様の方法で調製した乾燥脂質フィルムでコートされたGVR(孔径:500μm)を含む容器に添加し、37℃で5時間反応させた後、4℃で保存した。
【0080】
得られたサンプル50μLにSDS−buffer(100mM DTTを含む)200μLを添加し、室温混合した後,直ちに4℃で保存した。Tris−Glycine−SDS−bufferでPAGE(12.5% PAGEL、40mA定電流、1時間)を行った後、ウエスタンブロッティングを行い、SNAP i.d.(登録商標)(商品名、Millipore製)で下記の条件で抗体反応を行った。ついで、ECL plus(商品名、GEヘルスケア製)で5分間発色した後、LAS 4000(商品名、富士フイルム社製)で化学発光を検出した。その結果を
図3に示す。
(抗体反応条件)
ブロッキング:0.25%Skimmilk
1次抗体:Anti−Cx43 mouse IgG(SantaCruz)、1/100(v/v)、10分
2次抗体:Anti−mouse IgG Gort、HRP conjugate(BD)、1/100(v/v)、10分
なお、洗浄用を含むバッファは全てTBS−T(Biorad社製,0.2%(v/v)Tween−20)を用いた。
【0081】
(比較例2)
比較例2として、薄膜静置水和法を用いてリポソームの形成を行った。すなわち、乾燥脂質フィルムでコートされたGVR(孔径:500μm)に替えて、DOPCの有機溶媒をマイクロチューブに入れて真空乾燥により溶媒を蒸発させたものを使用した以外は、実施例3と同様にして行った。その結果を
図3に示す。
【0082】
図3は、実施例3及び比較例2における膜タンパク質(Cx43)の発現のWesternblottingの結果の一例を示す写真である。
図3において左側のバンドが実施例3の結果、右側が比較例2の結果をそれぞれ示す。
図3に示すように、乾燥脂質フィルムでコートされたGVRを用いた実施例3での膜タンパク質(Cx43)の発現量は、薄膜静置水和法を用いた比較例2の発現量の1.3〜1.5倍であった。したがって、本発明の方法は、膜タンパク質の発現を行う上で、効率のよいリポソーム合成系であることが確認できた。
【0083】
(実施例4)
〔リポソームのサイズ分布の確認〕
多孔質体を示すマイクロスポンジの作製においてPDMS 1gに下記表1に示すNaCl顆粒又はKCl顆粒を埋め込み硬化させたこと、リポソーム形成においてHEPES緩衝液に替えて水溶性蛍光色素Calcein(0.2mM)を含むHEPES緩衝液(10mM、pH=7.0)を使用した以外は、実施例1と同様にしてリポソームを調製した。得られたGVRの孔径及びリポソームサイズの平均値を下記表1に示す。なお、リポソームサイズ分布の測定は、調製後のリポソーム溶液に、Co(II)Cl
2 50mMの水溶液を添加して外部のCalceinの蛍光を消光した後、蛍光顕微鏡により観察して行った。また、GVRの孔径は、断面に対してCr蒸着を行った後、走査型電子顕微鏡(商品名:JCM−5000、JEOL製、10kV)観察により測定した。
【0084】
(比較例3)
比較例3として、公知の薄膜静置水和法を用いてリポソームを形成した。その結果を下記表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
上記表1に示すように、乾燥脂質フィルムでコートされたGVRを用いた実施例4−1〜4−3の方法により得られたリポソームは偏差幅が平均値よりも小さいことから、本発明の方法によって正規分布近似が可能であることが確認できた。また、上記表1に示すように、本発明の方法によれば、GVRの孔径を調節することによって、所望のサイズのリポソームを形成できることが確認できた。
【0087】
(実施例5)
〔リポソーム融合試験〕
まず、Texas−Red(登録商標) DHPE(商品名、Biotium製)を内部に導入したDOPCリポソームと、NBD−PE(商品名、Biotium製)を内部に導入したDOPCリポソームとそれぞれ0.1mol%含むDOPCリポソーム溶液を準備した。なお、リポソーム形成のための水和には純水を使用した。実施例1と同様の方法でGVRを調製し、得られたGVRを真空乾燥した。ついで、上記DOPCリポソーム溶液を添加し、真空乾燥を行った。そして、HEPES溶液(10mM、pH=7.0)を添加して再水和することによりGVR内でリポソームを融合させた。
【0088】
リポソーム融合効率を蛍光分光光度計及び共焦点顕微鏡による観察から求めた。その結果
図4に示す。
図4は、Texas−Red(登録商標)及びNBDの相対蛍光強度を示すグラフであって、縦軸がTexas−Red(登録商標)、横軸がNBDを示す。左側のグラフはGVR内のリポソーム、右側のグラフはGVR外のリポソームの結果を示す。
図4に示すように、GVR内(左側のグラフ)では2種の蛍光分子の位置の相関がGVR外のリポソーム(右側のグラフ)と比べてより強いことから、真空乾燥・再水和等を行うことにより、GVR内においてリポソームを融合し、融合リポソームを形成できることが確認できた。