(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
〈1.第1の実施形態:マクロ多孔性グラファイト電極材〉
以下に、本発明の第1の実施形態に係るマクロ多孔性グラファイト電極材とその製造方法を、
図1A〜
図1Hを参照しながら説明する。
【0015】
[マクロ多孔性グラファイト電極材の構成]
まず、本実施形態例のマクロ多孔性グラファイト電極材の構成とその特性について説明する。本実施形態例のマクロ多孔性グラファイト電極材は、マクロ細孔が3次元的に連結した多孔構造を有し、その細孔壁がグラファイト性カーボンから構成されるマクロ多孔体で構成される。そして、その全比表面積が69m
2g
−1よりも大きく、全比表面積に対するミクロ孔の比表面積の割合が0以上0.74以下で、かつ、ラマンスペクトルのDバンドとGバンドの面積比(D/G面積比)が0以上1.33以下とされている。
ここで、ミクロ孔とは、直径2nm以下の細孔を示す。
【0016】
グラファイト化が進行すると、ミクロ孔の比表面積の全比表面積に対する割合が減少する。本実施形態例では、全比表面積に対するミクロ孔の比表面積の0.74以下となるまでグラファイト化が進行していることが好ましい。D/G面積比も、グラファイト化の進行具合を示すものである。このため、D/G面積比が1.33よりも大きい場合は、グラファイト化が十分でなく、良好な導電性が得られず、また低電位での充放電容量が得られない。これにより、D/G面積比は0以上1.33以下であることが好ましい。
【0017】
[マクロ多孔性グラファイト電極材の製造方法(その1)]
次に、
図1A〜
図1Hを用いて、本実施形態例のマクロ多孔性グラファイト電極材の製造方法について説明する。
【0018】
まず、平均粒子径が100nm以上450nm以下の酸化シリコン(SiO
2)を含有したコロイド溶液を遠心分離し、次いで減圧乾燥させることにより、
図1Aに示すように、平均粒子径が100nm以上450nm以下のSiO
2粒子からなるSiO
2粒子集合体(以下、SiO
2オパール1)を得る。このSiO
2オパール1は、本実施形態において鋳型となるものであり、複数のSiO
2粒子の集合体で構成されている。
【0019】
一方、フェノールとホルムアルデヒドをモル比で1:0.85となるように混合した混合溶液を作製し、この混合溶液に塩酸を少量加えることにより、カーボン源溶液を準備する。
【0020】
次に、
図1Bに示すように、カーボン源溶液2に乾燥したSiO
2オパール1を12時間浸漬させる。その後、カーボン源溶液2に浸漬させたSiO
2オパール1を濾過し、128℃で12時間加熱処理することで水分等を除去するとともにカーボン源を樹脂化し、
図1Cに示すように、フェノール樹脂とSiO
2粒子1の複合体3を作製する。
ここで、フェノール樹脂とは、本発明のカーボン前駆体樹脂に相当するものである。
【0021】
次に、フェノール樹脂とSiO
2オパール1との複合体3をアルゴン雰囲気中において、400℃で5時間加熱処理することで、フェノール樹脂がカーボン化し、
図1Dに示すようにカーボンとSiO
2オパール1の複合体4を得る。
【0022】
次に、HF(フッ化水素)水溶液を用いたウエットエッチングにより
図1Eに示すように、SiO
2オパール1を除去する。これにより、鋳型であるSiO
2オパール1が除去された部分に細孔6が形成され、マクロ多孔カーボン5が形成される。
【0023】
次に、マクロ多孔カーボン5を硝酸ニッケル(II)のメタノール溶液に1時間浸漬させる。この硝酸ニッケルの濃度は、1gのマクロ多孔カーボンに対して3mmol以上15mmol以下とすることが好ましい。その後、マクロ多孔カーボンを約100℃で乾燥させ、
図1Fに示すように硝酸ニッケル7を担持したマクロ多孔カーボン5を調整する。この硝酸ニッケル7は触媒として用いられるものであり、後の工程で除去されるものである。
【0024】
その後、硝酸ニッケル7を担持したマクロ多孔カーボン5をアルゴン雰囲気中において、3時間加熱処理し、マクロ多孔カーボン5をグラファイト化することで、
図1Gにしめすようにグラファイト化多孔カーボン8を得る。このときの熱処理温度Tcは、900℃≦Tc≦1500℃とする。本実施形態例では、マクロ多孔カーボン5に触媒である硝酸ニッケル7が担持されるため、900℃≦Tc≦1500℃の熱処理温度でマクロ多孔カーボン5がグラファイト化する。
【0025】
その後、例えば10%の塩酸により、グラファイト化多孔カーボン8に担持された触媒である硝酸ニッケル7を溶出させる。これにより、マクロ細孔が3次元的に連結した多孔構造を有し、その細孔壁がグラファイト性カーボンから構成されるマクロ多孔体からなるマクロ多孔性グラファイト電極材9が完成する。
【0026】
本実施形態例では、SiO
2粒子からなる鋳型(SiO
2オパール1)を用いて細孔6を形成させているが、鋳型に用いる粒子のサイズにより最終的に得られるマクロ多孔性グラファイト電極材9の細孔6の直径の制御が可能となり、これにより比表面積が制御される。ここでいう粒子のサイズとは、1つのSiO
2粒子のサイズである。すなわち、細孔1個当たりの鋳型はSiO
2粒子であり、多孔構造全体の鋳型はSiO
2オパールである。本実施形態例では、比表面積は、SiO
2オパール1を構成するSiO
2粒子の平均粒子径を100nm以上450nm以下の間で調整することにより最適に調整することができる。
【0027】
また、本実施形態例では、
図1Dに示すように、フェノール樹脂をカーボン化する工程を有するが、このカーボン化する工程を省略してもよい。カーボン化の工程を省略する場合、次の熱処理の工程において、カーボン化とグラファイト化が同時並行あるいは、逐次的に進行する。この場合も、触媒の効果により、グラファイト化の熱処理温度を900℃≦Tc≦1500℃とすることができる。
【0028】
[マクロ多孔性グラファイト電極材の製造方法(その2)]
次に、
図2A〜
図2Eを用いて、本実施形態例のマクロ多孔性グラファイト電極材の製造方法の他の例について説明する。
【0029】
まず、平均粒子径100nm以上450nm以下の酸化シリコン(SiO
2)を含有したコロイド溶液を遠心分離し、次いで減圧乾燥させることにより、
図2Aに示すように、SiO
2粒子からなる鋳型となるSiO
2オパール10を得る。
【0030】
一方、フェノールとホルムアルデヒドをモル比で1:0.85となるように混合した混合溶液を作製し、この混合溶液に塩酸を少量加え、さらに触媒となる硝酸ニッケルを所定の濃度となるように加えることにより、触媒を含むカーボン源溶液を準備する。この硝酸ニッケルの濃度は後の工程においてカーボン源を焼成した際に、硝酸ニッケルが3mmol/g−C以上15mmol/g−Cとなるように設定されるものである。
【0031】
次に、
図2Bに示すように、カーボン源溶液11に乾燥したSiO
2オパール10を12時間浸漬する。その後、カーボン源溶液11に浸漬させたSiO
2オパール10を濾過し、128℃で12時間加熱処理することで水分等を除去するとともにカーボン源を樹脂化し、
図2Cに示すように、フェノール樹脂とSiO
2オパール10と硝酸ニッケルの複合体12を作製する。
【0032】
次に、フェノール樹脂とSiO
2オパール10と硝酸ニッケルの複合体12をアルゴン雰囲気中において3時間加熱処理し、フェノール樹脂をカーボン化と同時にグラファイト化することで、
図2Dに示すように、グラファイト化カーボンとSiO
2オパール10と硝酸ニッケルとの複合体13を得る。このときの熱処理温度Tcは、900℃≦Tc≦1500℃とする。本実施形態例では、カーボン源溶液に触媒となる硝酸ニッケルが含有されていたため、900℃≦Tc≦1500℃の熱処理温度で、フェノール樹脂がカーボン化すると同時にグラファイト化する。
【0033】
その後、HF水溶液を用いたウエットエッチングによりSiO
2オパール10を除去すると共に、Niを除去する。これにより、鋳型であるSiO
2オパール10が除去された部分に細孔15が形成され、マクロ多孔性グラファイト電極材14が完成する。
【0034】
本実施形態例でも、SiO
2粒子からなる鋳型(SiO
2オパール10)を用いて細孔15を形成させているが、鋳型に用いる粒子のサイズにより最終的に得られるマクロ多孔性グラファイト電極材14の細孔15の直径の制御が可能となり、これにより比表面積が制御される。本実施形態例では、比表面積は、鋳型となるSiO
2オパール10を100nm〜450nmの間で調整することにより最適に調整することができる。
【0035】
以上の製造方法(その1、その2)では、全比表面積、全比表面積に対するミクロ孔の比表面積の割合、およびD/G面積比が好適に形成されるので、充放電特性に優れたマクロ多孔性グラファイト電極材が得られる。また、上述の製造方法(その2)では、カーボン源に予め触媒を混合しておくため、製造方法(その1)に比べ、工程数の削減が可能となる。
【0036】
上述の製造方法(その1、その2)では、カーボン源としてフェノール/ホルムアルデヒドを用いる例としたが、その他、レゾルシノール/ホルムアルデヒドやフルフリルアルコール、ポリイミド、ピッチ等を用いることができる。
また、上述の製造方法(その1、その2)では、触媒として硝酸ニッケルを用いる例としたが、その他、ニッケルや鉄、コバルトの金属塩(硝酸塩、酢酸塩、塩化物)や錯体(アセルアセトン錯体など)等を適用することができる。本実施形態例では、触媒の効果により、グラファイト化に必要な熱処理温度を900℃≦Tc≦1500と、比較的低い温度とすることができる。
【0037】
以下に、本発明のマクロ多孔性グラファイト電極材を、実施例および比較例を示してより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
実施例1では、上述した製造方法(その1)を用いてマクロ多孔性グラファイト電極材となる試料を作製した。
【0039】
まず、平均粒子径190nmの酸化シリコン(SiO
2)を含有したコロイド溶液を遠心分離し、次いで減圧乾燥させることにより、SiO
2粒子からなる鋳型となるSiO
2オパールを作製した。
一方、フェノールとホルムアルデヒドをモル比で1:0.85となるように混合した混合溶液を作製し、この混合溶液に塩酸を少量加えることにより、カーボン源溶液を準備した。
【0040】
次に、カーボン源に乾燥したSiO
2オパールを12時間浸漬させた。その後、カーボン源溶液に浸漬させたSiO
2オパールを濾過し、128℃で12時間加熱処理することで水分等を除去しカーボン源を樹脂化し、フェノール樹脂とSiO
2粒子の複合体を作製した。
【0041】
次に、フェノール樹脂とSiO
2オパールとの複合体をアルゴン雰囲気中において、400℃で5時間時間加熱処理することで、カーボンとSiO
2オパールの複合体を得た。
【0042】
次に、HF水溶液を用いたウエットエッチングによりSiO
2オパールを除去し、マクロ多孔カーボンを得た。
【0043】
次に、マクロ多孔カーボンを硝酸ニッケル(II)のメタノール溶液に1時間浸漬させた。この硝酸ニッケルの濃度は、1gのマクロ多孔カーボンに対して3mmolとすることした。その後、マクロ多孔カーボンを100℃で乾燥させ、硝酸ニッケルを担持したマクロ多孔カーボンを調整した。
【0044】
その後、硝酸ニッケルを担持した多孔カーボンをアルゴン雰囲気中において熱処理温度900℃で3時間加熱処理し、マクロ多孔カーボンをグラファイト化することで、マクロ多孔グラファイトを得た。
【0045】
その後、濃度10%の塩酸により、グラファイト化多孔カーボンに担持された触媒である硝酸ニッケルを溶出させ、試料1を得た。
【0046】
また、上述の実施例1において、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して9mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を900℃とすることにより、試料2を得た。
【0047】
また、上述の実施例1において、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を900℃とすることにより、試料3を得た。
【0048】
また、上述の実施例1において、グラファイト化における熱処理温度を1000℃とすることにより、試料4を得た。
【0049】
また、上述の実施例1において、グラファイト化における熱処理温度を1500℃とすることにより、試料5を得た。
【0050】
また、上述の実施例1において、鋳型であるSiO
2オパールを構成するSiO
2粒子として、平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、グラファイト化における熱処理温度を1000℃とすることにより、試料6を得た。
【0051】
また、上述の実施例1において、鋳型として平均粒子径450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を1000℃とすることにより試料7を得た。
【0052】
また、上述の実施例1において、鋳型を構成する粒子として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとすることにより試料8を得た。
【0053】
また、上述の実施例1において、鋳型を構成する粒子として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を1100℃とすることにより試料9を得た。
【0054】
また、上述の実施例1において、鋳型を構成する粒子として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を1200℃とすることにより試料10を得た。
【0055】
また、上述の実施例1において、鋳型を構成する粒子として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を1300℃とすることにより試料11を得た。
【0056】
また、上述の実施例1において、鋳型を構成する粒子として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を1400℃とすることにより試料12を得た。
【0057】
また、上述の実施例1において、鋳型を構成する粒子として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、硝酸ニッケルの濃度を1gのマクロ多孔カーボンに対して15mmolとし、グラファイト化における熱処理温度を1500℃とすることにより試料13を得た。
【0058】
[実施例2]
実施例2では、上述した製造方法(その2)を用いてマクロ多孔性グラファイト電極材となる試料を作製した。
【0059】
まず、平均粒子径190nmの酸化シリコン(SiO
2)を含有したコロイド溶液を遠心分離し、次いで減圧乾燥させることにより、SiO
2粒子からなる、鋳型となるSiO
2オパールを作製した。
【0060】
一方、フェノール6.5gとホルムアルデヒド4.8gを混合した混合溶液を作製し、この混合溶液に塩酸を少量加え、さらに触媒となる硝酸ニッケルを、2.96g加えることにより、触媒を含むカーボン源溶液を準備した。
【0061】
次に、触媒を含むカーボン源溶液に、乾燥したSiO
2オパールを12時間浸漬させた。その後、触媒を含むカーボン源溶液に浸漬させたSiO
2オパールを濾過し、128℃で12時間加熱処理することで水分等を除去するとともにカーボン源を樹脂化し、フェノール樹脂とSiO
2オパールと硝酸ニッケルの複合体を作製した。
【0062】
次に、フェノール樹脂とSiO
2オパールと硝酸ニッケルの複合体をアルゴン雰囲気中において900℃で3時間加熱処理し、フェノール樹脂をカーボン化と同時にグラファイト化することで、グラファイト化多孔カーボンを得た。
【0063】
その後、HF水溶液を用いたウエットエッチングによりSiO
2粒子を除去すると共に、Niを除去することにより、試料14を得た。
【0064】
[比較例]
比較例では、まず、実施例1と同様にして形成した平均粒子径190nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを、ピッチとキノリンからなるカーボン源溶液に導入し、カーボン源溶液とSiO
2オパールの複合体をアルゴン雰囲気下において、1000℃で5時間加熱処理し、ピッチをカーボン化した。これにより、カーボンとSiO
2オパールの複合体が形成された。次に、HF水溶液を用いたウエットエッチングにより、カーボンとSiO
2オパールの複合体からSiO
2オパールを除去し、マクロ多孔カーボンを得た。次に、マクロ多孔カーボンをアルゴン雰囲気中において2500℃で0.5時間加熱処理しマクロ多孔カーボンをグラファイト化することにより、試料15を得た。
すなわち、比較例は触媒を担持させずにマクロ多孔カーボンをグラファイト化した例である。
【0065】
上述の比較例において、2500℃での加熱処理を施さずに試料16(マクロ多孔カーボン)を得た。
【0066】
また、上述の比較例において、カーボン源溶液にフェノールとホルムアルデヒド,および少量の塩酸からなる混合溶液を用い、カーボン化する工程における熱処理温度を900℃とし、2500℃での加熱処理を施さずに試料17を得た。
【0067】
また、上述の比較例において、カーボン源溶液にフェノールとホルムアルデヒドおよび少量の塩酸からなる混合溶液を用い、カーボン化する工程における熱処理温度を1000℃とし、2500℃での加熱処理を施さずに試料18を得た。
【0068】
また、上述の比較例において、カーボン源溶液にフェノールとホルムアルデヒドおよび少量の塩酸からなる混合溶液を用い、鋳型として平均粒子径450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用い、カーボン化する工程における熱処理温度を1000℃とし、2500℃での加熱処理を施さずに試料19を得た。
【0069】
また、上述の比較例において、鋳型として平均粒子径450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用いて試料20を得た。
【0070】
[実施例と比較例の評価]
図3は、試料1、試料2、試料3のX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)パターンである。また、
図4は、試料1、試料4、試料5のX線回折パターンである。また、
図5は、試料14、試料17のX線回折パターンである。また、
図6は、試料6、試料7、試料8、試料19のX線回折パターンである。また、
図7は、試料7〜試料13のX線回折パターンである。また、
図8は、試料7、試料11、試料12、試料13の高角度側のX線回折パターンである。
【0071】
図3〜
図6のそれぞれのX線回折パターンは、CuKα線照射を行いブラッグ・ブレンターノ法で結晶構造を解析したものであり、横軸はCuKα線の入射X線と回折X線のなす角、縦軸は、回折X線強度(任意目盛り)である。
【0072】
図3では、実施例1における触媒量依存性を観察することができる。試料1、試料2、試料3すべてで、明瞭なグラファイト相のピークを確認することができるが、触媒量が少ない試料1では、試料2及び試料3に比較し、アモルファス相に起因するブロードなピークが見られ、グラファイト相とアモルファス相が共存しているといえる。これにより、グラファイト化における熱処理温度が900℃と低温である場合は、触媒量を所望の量だけ増やすことによりグラファイト化することができることがわかる。
【0073】
図4では、実施例1におけるグラファイト化の熱処理温度依存性を観察することができる。試料1、試料4、試料5すべてで、明瞭なグラファイト相のピークが確認することができるが、熱処理温度が低い試料1では、試料4及び試料5に比較し、アモルファス相に起因するブロードなピークが見られ、グラファイト相とアモルファス相が共存しているといえる。すなわち、より高温で熱処理することによりアモルファス相が消失し、大部分がグラファイト化していることを示している。これにより、触媒量が3mmol/g−Cと低濃度の場合には、グラファイト化における熱処理温度を上げることにより、グラファイト化することができることがわかる。
【0074】
図3、
図4より、触媒量、及びグラファイト化における熱処理温度は、2つの関係から好適に導出することができることがわかる。
【0075】
また、
図5に示すように、あらかじめカーボン源に触媒を混合した実施例2における試料14においても、ブロードではあるがグラファイト相由来のピークが見られる。これにより、予めカーボン源に触媒を混合した場合にも、900℃程度の低い熱処理温度において、グラファイト化が可能であることがわかる。一方、触媒を用いず、熱処理温度を900℃とした比較例における試料17では、アモルファス相を示すブロードなピークが見られるもののグラファイト相は見られない。これにより、触媒を用いない場合には、熱処理温度が1000℃程度では、グラファイト化が進行しないことがわかる。
【0076】
また、
図6に示すように、試料6、試料7、試料8すべてで、明瞭なグラファイト相のピークが確認することができるが、触媒を用いない試料19ではグラファイト相のピークは見られず、アモルファス相を示すブロードなピークを確認することができる。これにより、鋳型として平均粒子径が450nmのSiO
2粒子を用いた場合にも、触媒を用いることで、1000℃程度の熱処理温度でグラファイト化が可能であることがわかる。一方、触媒を用いないで作製された試料19では、グラファイト化がなされていないことがわかる。
【0077】
以上のように、X線回折パターンから、触媒を用いた実施例1及び実施例2では、熱処理温度が従来よりも低い900℃〜1500℃においても、グラファイト化が進行していることがわかる。
【0078】
また、
図7に示すように、鋳型として平均粒子径が450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用い、グラファイト化の熱処理温度が900℃〜1500℃の試料7〜試料13の全てで、グラファイト相のピークが見られた。また、
図8に示すように、高角度側のX線回折のピークをみると、1400℃の熱処理温度でグラファイト化した試料12において、(004)面や(103)面などの高次ピークがより強く観察され、特にグラファイト化が進行していることがわかった。
【0079】
図9は、実施例1における試料1の作製において、フェノール樹脂と平均粒子径190nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールとの複合体を400℃で加熱処理した後に、鋳型であるSiO
2オパールを除去して得られた試料のTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)写真である。また
図10Aは、熱処理温度1000℃でグラファイト化することにより作製された試料4のTEM写真であり、
図10Bは、
図10Aの一部(細孔壁部分)を拡大したTEM写真である。
【0080】
図9のTEM写真により、実施例1では、鋳型であるSiO
2オパールが除去されることにより、SiO
2オパールを構成するSiO
2粒子の平均粒子径であった190nmと同程度の径で形成された細孔により多孔構造が形成されていることを確認することができる。
【0081】
また、
図10AのTEM写真により、実施例1において1000℃の熱処理温度で加熱処理して形成した試料4では、130nm〜180nm程度の径で形成されたマクロ細孔により、マクロ細孔が3次元的に連結した多孔構造が形成されていることを確認することができる。また、
図10Bにより、試料4では形成されたマクロ細孔の細孔壁にグラファイト相が生成していることを確認することができる。ここで、マクロ細孔とは直径が50nm以上の細孔を示す。
【0082】
また、
図11は、実施例1を用いた試料6の作製において、フェノール樹脂と平均粒子径450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールとの複合体を400℃で加熱処理した後に、鋳型であるSiO
2オパールを除去して得られた試料のTEM写真である。また
図12Aは、熱処理温度1000℃でグラファイト化することにより作製された試料6のTEM写真であり、
図12Bは、
図12Aの一部(細孔壁部分)を拡大したTEM写真である。
【0083】
図11のTEM写真により、実施例1における試料6の作製では、鋳型であるSiO
2オパールが除去されることにより、SiO
2粒子の平均粒子径であった450nmと同程度の径で形成された細孔により多孔構造が形成されていることを確認することができる。
【0084】
また、
図12AのTEM写真により、1000℃の熱処理温度で加熱処理して形成した試料6では、300〜380nm程度の径で形成されたマクロ細孔により、マクロ細孔が3次元的に連結した多孔構造が形成されていることを確認することができる。また、
図12Bにより、試料6では形成されたマクロ細孔の細孔壁にグラファイト相が生成していることを確認することができる。
【0085】
また、
図13Aは、鋳型として平均粒子径450nmのSiO
2粒子を用い、熱処理温度1400℃でグラファイト化することにより作製した試料12のTEM写真であり、
図13Bは、
図13Aの一部(細孔壁部分)を拡大したTEM写真である。
【0086】
図13A及び
図13BのTEM写真により、鋳型として450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用い、15mmol/g−Cの触媒を担持させ、1400℃でグラファイト化した場合にも、マクロ細孔が3次元的に連結したマクロ多孔構造が形成され、その細孔壁表面にグラファイト相が生成していることを確認することができる。カーボンマクロ細孔表面において、担持した触媒との界面反応により、マクロ細孔表面にグラファイト相が形成されるものと考えられる。そして、この場合にも、300〜380nm程度の径で形成されたマクロ細孔により多孔構造が形成されていることを確認することができる。
【0087】
一方で、比較例で得られた試料15では、グラファイト化の後に形成されるマクロ細孔の径は、90〜130nmであることが確認されている(図示は省略する)。
【0088】
このように、実施例1のように、触媒を用いた場合の細孔の収縮率は、比較例のように、触媒を用いない場合の細孔の収縮率に比較して小さいことがわかる。
【0089】
次に、
図14に試料4及び試料18のラマンスペクトルを示す。また、
図15に、試料2及び試料3のラマンスペクトルを示す。また、
図16に、試料6、試料7、試料8、試料19のラマンスペクトルを示す。
図14〜
図16において、横軸は、ラマンシフト(cm
−1)であり、縦軸は、ラマン散乱強度(任意目盛り)である。
【0090】
グラファイト化が進行すると、ラマンスペクトルにおけるGバンドの強度が大きくなる。一方、Dバンドは、グラファイトの結晶性の低下や、アモルファス相の存在によって見られる。
図14、
図15からわかるように、実施例1で作製した試料2、試料3、試料4は、Gバンドの強度が大きく、グラファイト化が進行していることがわかる。一方、
図14に示すように、比較例で作製した試料18では、実施例1で作製した試料4よりもGバンドの強度が小さく、試料4よりもグラファイト化がなされていないことがわかる。
【0091】
また、
図16では、実施例1の試料6、試料7、試料8において、Gバンドの強度が大きく、そのGバンドの強度に比較し、Dバンドの強度が小さい。これにより、試料6、試料7、試料8では、グラファイト化が進行しており、アモルファス相の影響が小さいことがわかる。一方、比較例で作製された試料19は、Gバンドの強度が試料6、試料7、試料8に比較して小さく、また、Dバンドの強度が大きい。これにより、アモルファス相の影響が大きいということがわかる。
【0092】
次に、上述の実施例1、実施例2、比較例で作製された試料の全比表面積、ミクロ孔の比表面積、全比表面積に対するミクロ孔の比表面積の割合、ラマンスペクトルで得られたDバンドとGバンドの面積比(D/G面積比)、六角炭素網層間距離(d(002))の測定結果を表1に示す。
【0094】
また、上述の実施例1で作製された試料8〜13、及び比較例で作製された試料20の全比表面積、ラマンD/G面積比、六角炭素網層間距離(d(002))、結晶子径の測定結果を表2に示す。
【0096】
ミクロ孔とは、直径が2nm以下の細孔である。
全比表面積及びミクロ孔の比表面積は、77Kで測定した窒素吸着等温線からBET法(BET:Brunauer−Emmett−Teller)を用いて求めた。
D/G面積比は、
図14〜
図16に示すラマンスペクトルにより測定した。
六角炭素網層間距離(d(002))は、X線回折パターンのグラファイト相の層間に対応する回折ピーク(2θで20〜30度の間のピーク)の角度からBragg式より算出した。
【0097】
表1に示すように、実施例1及び実施例2で作製された試料1〜試料8、及び試料14の全比表面積に対するミクロ孔の比表面積の割合は、0以上0.74以下となっており、比較例で、熱処理温度1000℃以下で作製した試料よりも小さい値となっている。グラファイト化が進行するとミクロ細孔の割合が減少することから、試料1〜試料8では、グラファイト化が好適に進行していることがわかる。なお、試料9〜試料13については、ミクロ孔の比表面積は示していないが、
図3〜
図8のX線回折パターンからわかるように、平均粒子径が450nmの粒子からなる鋳型を用いた場合には、190nmの粒子からなる鋳型を用いた場合にもグラファイト化が進行しているため、ミクロ孔の比表面積の割合は、0以上0.74以下を十分に満たすものである。
【0098】
さらに、表1及び表2より、実施例1及び実施例2で作製された試料1〜試料14では、グラファイト相を示すラマンスペクトルのDバンドとGバンドの面積比(D/G面積比)は、0以上1.33以下の値を有している。また、前述したように、D/G面積比によってもグラファイト化の進行具合を見ることができるが、試料1〜試料14では、いずれも、面積比が0以上1.33以下とされグラファイト化が良好になされていることがわかる。
【0099】
このように、いずれのデータからも、実施例1〜実施例2における試料1〜試料14は、比較例1及び2に比べてグラファイト相が良好に形成されていることがわかる。
【0100】
次に、実施例1、2及び比較例で作製された試料の充放電特性を、作用電極、参照電極、対極、非水電解液からなる3極式セルを用いて測定した。作用電極は、各試料に、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)からなる結着剤を10wt%の割合で混合し、ニッケルメッシュに圧着して作製した。参照電極および対極は、ニッケルメッシュに金属リチウムを圧着して作製した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(1:1v/v)に1mol分の電解質LiPF
6を溶解したものを用いた。
【0101】
そして、この3極式セルにおいて、0〜3V(vs.Li/Li
+)の電位範囲で所望の定電流密度[mA/g]にて充放電測定をした。その結果を
図17〜
図24に示す。
【0102】
図17は、実施例1によって作製された試料2の充放電曲線を示した図である。また、
図18は、実施例1によって作製された試料3の充放電曲線を示した図である。また、
図19は、実施例1によって作製された試料4の充放電曲線を示した図である。また、
図20は、実施例1によって作製された試料5の充放電曲線を示した図である。また、
図21は、実施例1によって作製された試料6の充放電曲線を示した図である。また、
図22は、実施例1によって作製された試料7の充放電曲線を示した図である。また、
図23は、比較例によって作製された試料17の充放電曲線を示した図である。また、
図24は、電流密度37.2mA/gにおいて、試料4、試料14、試料15、試料16、試料18の充放電曲線を示した図である。また、
図25は、電流密度37.2mA/gにおいて、試料10、試料12、試料13、試料19、試料20の充放電曲線を示した図である。
図17〜
図25の横軸は単位時間あたりの充放電容量であり、縦軸は、放電電位[Vvs.Li/Li
+]である。また、容量が増加する方向において電位が増加する方の曲線が放電曲線、その逆は充電曲線である。
【0103】
図19と
図20を用いて、実施例1において作製された試料4と試料5の充放電特性を比較する。試料4及び試料5では、
図4のX線回折パターンより、どちらもグラファイト相の明瞭なピークが確認できたが、充放電曲線では、
図19に示す試料4では、放電曲線の0.3V以下に平坦部が見られるものの、
図20に示す試料5では、放電曲線の0.3V以下に平坦部が明瞭に見られない。また、
図20に示すように、試料5では、電流密度を上げると容量が大きく低下する。したがって、実施例1において、グラファイト化するための適正な熱処理温度は1500℃以下の範囲内にあると考えられる。また、前述したX線回折パターンの結果より触媒量を増やすと900℃でもグラファイト化が可能であったことから、熱処理温度は900℃以上1500℃以下であることが好ましい。また、1000℃程度の熱処理温度がより好適である。
【0104】
図17、
図18、
図23を用いて、試料2、試料3、試料17の充放電特性を比較する。
図17、
図18、
図23の充放電曲線を比較すると、比較例で作製した試料17に比較して、実施例1で作製した試料2及び試料3では、放電曲線の0.3V以下の容量が増大しており、グラファイト相へのリチウムイオンの挿入・脱離の寄与が認められる。また、試料2と試料3では、
図3のX線回折パターンにより、どちらもグラファイト相の明瞭なピークが確認できたが、充放電特性では、試料3よりも試料2のほうがレート特性に優れていることがわかる。これにより、触媒の適量は、15mmol/g−C以下にあると考えられる。また、X線回折パターンの結果より、グラファイト化における熱処理温度が900℃の場合には、触媒量が3mmol/g−Cであるとアモルファス相のピークも大きくなることがわかっている。このため、触媒量は、3mmol/g−C以上15mmol/g−C以下であることが好ましい。
【0105】
図21と
図22を用いて、実施例1において作製された試料6と試料7の充放電特性を比較する。
図21と
図22を比較すると、平均粒子径が450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを鋳型として用いた場合には、3mmol/g−Cの触媒を用いた試料6よりも、15mmol/g−Cの触媒を用いた試料7のほうが放電曲線の低電位での平坦部も大きく、容量も大きい。これは、試料6に比較し、試料7の方がD/G面積比が小さく、グラファイト化がより進行していることによるものである。
【0106】
図24を用いて、実施例1、実施例2、及び比較例で作製した試料について比較する。平均粒子径が190nmのSiO
2粒子を鋳型粒子として用いた場合には、触媒を用いずに1000℃の熱処理温度で作製した試料16、試料18は、放電曲線の0.2V〜0.3V付近の平坦部がなく、放電とともに大きく電位が変化する。一方、実施例1で作製した試料4と実施例2で作製した試料14では、どちらも、グラファイト相へのリチウムイオンの挿入・脱離による0.3V以下の平坦部がみられた。
【0107】
リチウムイオン二次電池の負極材料として用いる場合、高い起電力を確保するためには、一定の低電位で放電できることが好ましい。このため、放電曲線の0.3V以下の平坦部を有する試料4及び試料14は、リチウムイオン二次電池の負極材料として用いた場合、充放電特性の優れたリチウムイオン二次電池が得られる。しかしながら、グラファイト化していない試料16、試料18はリチウムイオン二次電池の負極材料には不向きである。
【0108】
同じサイズのSiO
2粒子を鋳型粒子として用いた場合、ピッチから高温の熱処理温度(2500℃)で作製した試料15よりも、触媒を用いて低温の熱処理温度(1000℃)で作製した試料4のほうが、充放電容量が大きいことがわかる。
【0109】
図25を用いて、平均粒子径が450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを鋳型として用いた場合の試料10、試料12、試料13、試料19、試料20について比較する。触媒を担持させない試料20の曲線と比べ、15mmol/g−Cの試料では、低電位側(0.3V以下)にプラトー領域が出現し、熱処理温度の上昇と共に、プラトー領域の拡大、容量の増大が見られる。しかし、熱処理温度が1400℃を超える1500℃でグラファイト化した試料13では、容量が低下する結果となることから、グラファイト化における熱処理温度は1400℃が最適であると考えられ、これは、
図8で示したX線回折の結果とも一致する。
【0110】
また、グラファイト相へのLiイオンの挿入脱離反応は、0.3V以下にLi挿入のステージに依存したプラトー状の充放電曲線を示すことが知られている。
図25より、実施例1で作製した試料10、試料12、試料13は、その0.3V以下のプラトーが明確に観察されている。また、ピッチ原料により2500℃の熱処理温度でグラファイト化した試料20においても、形状の類似した充放電曲線が観察されているが、その容量は、触媒を担持させ、1200℃以上で熱処理したものより小さい。触媒を担持しない試料19は、グラファイト化していないため、低電位でのプラトー領域がなく、また、充放電と共に電位が大きく変化するため、電池の負極材料として利用した場合には、安定な起電力が得られず、放電と共にエネルギー密度が減少する。このため、一定の高い起電力あるいはエネルギー密度が望まれる電池材料としては適さない。
【0111】
次に、
図26、
図27に、試料4、試料6、試料7、試料14、試料15、及び人造黒鉛のレート特性を示す。
図26の横軸は、電流密度[mAg
−1]であり、縦軸は、1Vまでの放電容量[mAhg
−1]である。また、
図27の横軸は、電流密度であり、縦軸は、1Vにおける容量維持率であり、電流密度37.21mAg
−1の容量を1として規格化した値である。
【0112】
図26からわかるように実施例1及び実施例2における試料4、試料6、試料7、試料14では、比較例における試料15よりも高い放電容量を有する。また、電流密度37.21mAg−1における容量が、試料15の容量74mAhg
−1よりも高い。試料15は、[表1]において、ミクロ孔の比表面積の割合やD/G面積比が実施例1及び実施例2と同等の値を有しているにもかかわらず、容量値が小さいことがわかる。これは、全比表面積が174m
2g
−1と小さいためと考えられる。
【0113】
また、
図27からわかるように、実施例1及び実施例2における試料4、試料6、試料7、試料14では、比較例における試料15や黒鉛よりも容量維持率が高く、優れた放電レートを有し、高速充放電特性を有する。
【0114】
次に、
図28、
図29に、試料11、試料12、試料13、試料20、及び人造黒鉛のレート特性を示す。
図28の横軸は、電流密度[mAg
−1]であり、縦軸は、3Vまでの放電容量[mAhg
−1]である。また、
図29の横軸は、電流密度であり、縦軸は、0.5Vまでの放電容量である。
【0115】
鋳型として、平均粒子径450nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用いた場合には、特に、1400℃の熱処理温度でグラファイト化した試料12、試料13は、0〜3V、0〜0.5Vのいずれの範囲においても高い電流密度まで高容量を維持している。また、人造黒鉛は、電流密度が高くなると急激に容量が低下するが、試料20よりは、高速充放電特性にすぐれている。
【0116】
次に、
図30、
図31に、試料3、試料4、試料5、及び試料20のレート特性を示す。
図30の横軸は、電流密度[mAg
−1]であり、縦軸は、3Vまでの放電容量[mAhg
−1]である。また、
図31の横軸は、電流密度であり、縦軸は、0.5Vまでの放電容量である。
【0117】
図30からわかるように、鋳型として平均粒子径が190nmのSiO
2粒子からなるSiO
2オパールを用いた場合、0〜3Vまでの放電容量は大きい。しかしながら、
図31と、
図29を比較すると、190nmの粒子からなる鋳型を用いて得た試料の0〜0.5Vまでの範囲の放電容量(
図31)は、450nmの粒子からなる鋳型を用いて得た試料の放電容量(
図29)よりも小さい。また、
図30、及び
図31からわかるように、190nmの粒子からなる鋳型を用いた場合には、高電流密度では、容量が低下する。前述した
図3、
図4、及び
図8の比較からもわかるように、平均粒子径450nmの粒子からなる鋳型を用い、細孔サイズが大きく形成された試料の方がよりグラファイト化が進行している。すなわち、細孔サイズが小さいと、グラファイト化が不十分なため、低電位での放電容量が小さくなると考えられる。
【0118】
また、
図13A,Bより、平均粒子径450nmのSiO
2粒子からなる鋳型を用いた場合、細孔壁内部までグラファイト化しておらず、細孔表面に、グラファイト相が優先的に生成していることがわかる。細孔サイズがより大きくなると、壁厚がより厚くなるため、同様に細孔表面にグラファイト相が生成するとした場合、細孔サイズが大きくなると全重量当たりのグラファイト相の重量割合は減少することになる。すなわち、単位重量当たりの充放電容量は、むしろ減少すると予測できる。したがって、450nmよりも大きな細孔サイズを有する多孔カーボンから触媒を担持して同様に合成しても、より高い性能を有する材料は、期待しにくいと考えられる。
したがって、本発明では、鋳型となるSiO
2粒子の平均粒子径の上限は、450nmであると考えられる。
【0119】
図32は、実施例で作製した試料11のサイクル特性を示す図である。
図32の横軸は、サイクル回数(測定した回数)であり、縦軸は、電流密度[37.2mA/g]における放電容量[mAhg
−1]である。
図32に示すように、75回までの測定において、放電容量は、安定に保持されている。これにより、電池の負極材料として複数回繰り返し用いる場合にも、安定した特性を得ることができることがわかる。
【0120】
以上の実施例1及び実施例2から、本実施形態例のマクロ多孔性グラファイト電極材では、従来のグラファイト電極材よりも、高電流密度における高い充放電容量を有し、また、高速充放電特性にも優れていることがわかる。
【0121】
従来、グラファイト材料の高性能化においては、低比表面積化を図って、充放電の可逆性を高める開発が行われていた。本実施形態例では、むしろ、高比表面積の材料で高性能化を高めることが実現されている。これにより、高速充放電が可能である。また、従来、フェノール樹脂などのハードカーボン原料は、高温処理してもグラファイト化ができなかったが、本実施形態例では、フェノール樹脂からなるカーボン源であっても、1500℃以下の熱処理温度でグラファイト化が可能となり、製造時のエネルギーの削減が可能となる。
【0122】
〈2.第2の実施形態:リチウムイオン二次電池〉
図33に、本発明の第2の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の概略構成図を示す。本実施形態例のリチウムイオン二次電池20は、正極活物質に第1の実施形態の複合ナノ多孔電極材を用いた例である。
【0123】
本実施形態例のリチウムイオン二次電池20は、ニッケルからなる円筒状の筐体26と、筐体26内に収容されたロール体30と、同じく筐体26内に収容された非水電解液とで構成されている。
筐体26上底部には、正極端子27が形成されている。また、筐体26下底部には、図示しないが、負極端子が形成されている。
【0124】
ロール体30は、帯状の正極部材22と、セパレータ21と、負極部材23が順に積層された積層体がロール状に巻回した構成とされている。正極部材22は、例えば、アルミニウムからなる金属箔に、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能なリチウム遷移金属複合化合物からなる正極活物質と導電剤と結着剤からなる混合剤が圧着された構成とされている。負極部材23は、例えば銅からなる金属箔に、上述した第1の実施形態のマクロ多孔性グラファイト電極材からなる負極活物質と、導電剤と、結着剤からなる混合剤が圧着された構成とされている。また、セパレータ21は、従来用いられている材料を用いることができ、例えば、ポリプロピレン等の高分子フィルムによって構成されている。
ロール体30では、正極部材22と、負極部材23とが、セパレータ21により電気的に分離されている。
【0125】
非水電解液としては、従来から用いられている材料を用いることができ、エチレンカーボネート(EC)等の有機溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)等を溶解した混合溶液が用いられる。非水電解液は、筐体内に含浸される。
【0126】
そして、正極部材22は、筐体26内上底部に形成された正極集電タブ25にリード配線24により接続されており、その正極集電タブ25は、筐体26上底部に構成された正極端子27に電気的に接続されている。また、負極部材23は、筐体26内下底部に形成された負極集電タブ28にリード配線29により接続されており、その負極集電タブ28は、筐体26下底部に構成された負極端子に電気的に接続されている。
【0127】
本実施形態例によれば、負極活物質として上述した本発明のマクロ多孔性グラファイト電極材が用いられているので、高い充放電容量で、かつ、高速充放電が可能な、高性能のリチウムイオン二次電池20が得られる。