【実施例】
【0049】
本発明において開発したカルシウムセンサー蛋白質(G−CaMP4)及び従来からあるカルシウムセンサー蛋白質(G−CaMP2)は、培養細胞human embrionic kidney(HEK)293細胞に該蛋白質にかかる遺伝子を導入して、カルシウムセンサーとしての性能評価を行った(
図2)。
【0050】
G−CaMP2及びG−CaMP4をそれぞれHEK293細胞内にて発現させ、次いで細胞内カルシウムイオン濃度を増大させることが既知である因子として、カルバコール(0.1mM)を作用させた。その時の反応例を
図3に示す。従来のカルシウムセンサー蛋白質であるG−CaMP2よりも本発明のカルシウムセンサー蛋白質であるG−CaMP4の方が、より安定に蛍光強度が上昇することがわかる。
【0051】
G−CaMP4を発現させたHEK293細胞でのカルバコールに対する蛍光強度の変化量は、G−CaMP2のそれに比して、2.7倍大きな蛍光変化を確認した(
図4)。
【0052】
このように本発明のカルシウムセンサー蛋白質は、従来のものに比して、より安定かつ高感度であることが証明されている。
【0053】
カルシウムセンサー蛋白質の製法及び測定法
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
【0054】
(A)G−CaMP4の製法
(A−1)細菌発現用および哺乳動物発現用のプラスミド構築
G−CaMP4の細菌発現用であるpRSET
B−GCaMP4および哺乳動物発現用プラスミドであるpN1−GCaMP4は、参考文献1(Proc. Natl. Acad. U.S.A., 103, 4753−4758 (2006))に記載のpRSET
B−GCaMP2およびpN1−GCaMP2を後述のように改変することによって構築した。すなわち、配列番号2で示されるGCaMP2の配列においてSer−31→Arg、Tyr−40→Asn、Asn−106→Thr、およびLys−207→Valにアミノ酸置換されるよう、そのcDNA配列中でSer−31をコードしている5’−TCC−3’を5’−CGC−3’に、Tyr−40をコードしている5’−TAC−3’を5’−AAC−3’に、Asn−106をコードしている5’−AAC−3’を5’−ACC−3’に、およびLys−207をコードしている5’−AAA−3’を5’−GTA−3’に各々変異させて構築した。
【0055】
まず、pN1−GCaMP2をテンプレートとして以下の合成プライマー(Operon)
5’−AAGTTCAGCGTGCGCGGCGAGGGTGAG−3’(EGFP−127;配列番号10)
5’−GGCGATGCCACCAACGGCAAGCTGAC−3’(EGFP−128;配列番号11)
5’−TGAGCACCCAGTCCGTACTTTCGAAAGACCC−3’(EGFP−129;配列番号12)
5’−AGGACGACGGCACCTACAAGACCCG−3’(EGFP−130;配列番号13)
を用いてPCRによる同時多点変異導入を後述の方法で行い、pN1−GCaMP2.2を作成した。
【0056】
次に、pN1−GCaMP2.2を
SalIと
MluIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した0.8kbの断片と、pRSET
B−GCaMP2を
SalIと
MluIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した6.86kbの断片をDNA Ligation Kit(Takara)を用いて結合させて、pRSET
B−GCaMP2.2を作成した。
【0057】
さらに、pRSET
B−GCaMP2.2をテンプレートとして以下の合成プライマー(Operon)
5’−CAACACGGACCAACTGACTGAAGAG−3’(EGFP−166;配列番号14)
5’−AGTTGGTCCGTGTTGTACTCCAGCTT−3’(EGFP−167;配列番号15)
を用いてPCRによる点変異導入を後述の方法で行い、pRSET
B−GCaMP4を作成した。
【0058】
最後に、pRSET
B−GCaMP4を
XhoIと
ClaIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した1.12kbの断片と、pRSET
B−GCaMP2を
XhoIと
ClaIで消化後1%アガロースゲル電気泳動により分離し、MagExtractorにて回収した4.19kbの断片をDNA Ligation Kit(Takara)を用いて結合させて、pN1−GCaMP4を作成した。
【0059】
PCRによる同時多点変異導入にはQuikChange Lightning Multi−Site Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、100ng/μlのpN1−GCaMP2プラスミドを1μl、10xバッファーを2.5μl、2.5mMのdNTPを1μl、各10μMのEGFP−127プライマー、EGFP−128プライマー、EGFP−129プライマー、およびEGFP−130プライマーを各0.6μlずつ、Pfu DNA polymeraseを1μl、水を17μlの混合液を下記の条件に付した。
ステップ1
摂氏95度 1分
ステップ2
摂氏95度 1分
摂氏55度 1分
摂氏65度 12分
上記を30サイクル
【0060】
多点変異を含むプラスミドの上記混合液の全量に20U/μlのDpnI(Stratagene)を1μl加えて摂氏37度で1.5時間処理し、この処理後の多点変異を含むプラスミドは後述のようにXL−10Goldに形質転換して出現したカナマイシン耐性の大腸菌より回収した。
【0061】
PCRによる点変異導入は、33ng/μlのpRSET
B−GCaMP2.2プラスミド0.6μlをテンプレートとして、10μMのEGFP−166プライマーと10μMのEGFP−167プライマーを各0.2μlずつ、PrimeSTAR Max Premix(Takara)を5μl、水を4μlの混合液を下記の条件に付した。
ステップ1
摂氏98度 10秒
ステップ2
摂氏98度 10秒
摂氏55度 10秒
摂氏72度 25秒
上記を30サイクル
ステップ3
摂氏72度 30秒
【0062】
上記混合液に20U/μlの
DpnI(Stratagene)を0.4μl加えて摂氏37度で1時間処理し、KRXに形質転換して出現したアンピシリン耐性の大腸菌より回収した。
【0063】
制限酵素によるDNAの切断は
SalI、
MluI、
XhoI、
ClaI(NEB)のいずれか、および添付バッファーと添付Bovine Serum Albumin(100xBSA)を用いて行った。反応は、1〜2μgのDNAに添付バッファー(3μl)、添付100xBSA(0.3μl)および各制限酵素(10〜20ユニット)を加えて全量を30μlとした中で、摂氏37度で1〜3時間行った。
【0064】
アガロースゲル(Agarose LE、ナカライテスク)は、TAEバッファー(4.98g/l Tris base(ナカライテスク)、1.142ml/l氷酢酸(ナカライテスク)、1mM EDTA(pH8)(Dojindo))にて加熱溶解し、1%または2%となるように調製した。λHindIII digest(Toyobo)または100bp DNA Ladder(Toyobo)をDNAサイズマーカーとして、DNA試料は制限酵素に添付されている10xサンプルバッファーを1/10量と、DMSO(Sigma)にて100倍希釈したSYBR GreenI(Invitrogen)を1/10量加えたものを、TAEバッファーを用いて100Vにて電気泳動を行い、Safe Imager(Invitrogen)を用いて検出した。
【0065】
ゲルからのDNAの回収にはMagExtractor(Toyobo)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、まずアガロースゲル電気泳動後Safe Imager上で目的のバンドをなるべく小さくなるようにメスで切り出し、吸着液を400μl加えて室温に放置してゲルを完全に溶解させた。次に磁性ビーズを30μl加えて時々撹拌しながら室温に2分放置した。DNAを吸着した磁性ビーズはマグネットスタンドを用いて吸着し、上清は捨てた。回収した磁気ビーズに洗浄液を600μl加えてボルテックスミキサーで10秒撹拌し、マグネットスタンドを用いてDNAを吸着した磁性ビーズを同様の手法で回収した。これに75%エタノールを1ml加えてボルテックスミキサーで10秒撹拌し、DNAを吸着した磁性ビーズはマグネットスタンドを用いて回収した。これをスピンダウンして完全に上清捨て、55度で2分間乾燥させた後、水またはTEを25〜100μl加えて時々撹拌しながら、室温で2分間放置した。DNAを解離させた後の磁性ビーズはマグネットスタンドを用いて分離し、DNAを含む上清を回収した。
【0066】
Ligation反応にはDNA Ligation Kit Ver.2(Takara)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、約25fmolのプラスミドベクターおよび約25〜250fmolのインサートDNAの混合溶液に等量のLigation Mixを添加して混和した後、摂氏16度℃で30分間反応させた。
【0067】
形質転換はE.coliコンピテントセルDH5a(Takara)、XL−10Gold(Stratagene)、KRX(Takara)、またはBL21(DE3)pLysS(Takara)を用いて行った。詳細には、100μlのコンピテントセルを氷上にて溶解し、DNA溶液1μlまたはLigation反応液1μlを加えて氷上で30分間放置した後、摂氏42度で45秒間加熱した。その後さらに氷上で5分間放置し、LB培地500μlを加えて摂氏37度で1時間培養後、100μg/mlのアンピシリンまたは50μg/mlのカナマイシン(Wako Chemicals)を含む選択培地(LB培地)に植えて、摂氏37度にて一晩培養した。翌日、コロニーを100μg/mlのアンピシリンまたは50μg/mlのカナマイシンを含む1〜5mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、摂氏37度にて16時間培養した。
【0068】
大腸菌からのプラスミドの回収にはQuickLyse Miniprep Kit(Qiagen)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、まず1〜3mlの大腸菌培養液を約17000xg、1分の遠心に付し、上清をデカンテーションまたはピペティングで除去して大腸菌の沈殿を得た。これに氷冷したLysis solutionを400μl加えて激しく30秒ボルテックスで撹拌し、室温に3分放置して菌体を破砕した。その菌体破砕液をQuickLyse spin columnに移し、約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してプラスミドをカラムに吸着させた。カラムを通り抜けたサンプルはデカンテーションまたはピペッティングにて除去した。次にカラムにQLWバッファーを400μl加えて約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してカラムを洗浄した。カラムを通り抜けたバファーはデカンテーションにて除去した。さらにバッファーを加えずにもう一度約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してカラムに残った液滴を完全に除去した。カラムを新しい回収用マイクロチューブにとりつけ、カラムにQLEバッファーを50μl加えて約17000xg、30秒〜1分の遠心に付してカラムからプラスミドを溶出し回収した。
LB培地の組成
10g/l Bacto−tryptone(ナカライテスク)、5g/l Bacto−yeast extract(ナカライテスク)、5g/l NaCl(ナカライテスク)、1g/l glucose(Wako Chemicals)。オートクレーブにて滅菌する。
LB寒天培地の組成
10g/l Bacto−tryptone(ナカライテスク)、5g/l Bacto−yeast extract(ナカライテスク)、5g/l NaCl(ナカライテスク)、1g/l glucose(Wako Chemicals)、15g/l Agar(ナカライテスク)。オートクレーブにて滅菌後、温度が45度程度まで下がったところで抗生物質(100μg/mlのアンピシリンまたは50μg/mlのカナマイシン(Wako Chemicals))を加え、プラスチックディシュに流し込む。
TE(pH8)(10mM Tris−HCl 1mM EDTA)(Wako Chemicals)
【0069】
(A−2)蛋白質の精製
G−CaMP4蛋白質の精製にはこれらの蛋白質が6xHisタグを持っていることを利用して、6xHisタグに特異的に結合するNi−NTA agarose(Qiagen)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、pRSET
B−GCaMP4をE.coliコンピテントセルBL21(DE3)pLysSに形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB選択培地に植え、摂氏37度で一晩培養した。コロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む10mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、摂氏37度にて16時間培養した。培養液10mlをさらに100μg/mlのアンピシリンを含む200mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、吸光度OD600で0.5〜1となるまで摂氏37度で培養した後、最終濃度が1mMになるようにIPTG(ナカライテスク)を加えて、摂氏27〜28度で4〜5時間さらに培養した。
3000回転15分遠心して(6200遠心機、Kubota)、大腸菌を回収した。1mlのLB培地で大腸菌を懸濁した。摂氏−20度で30分凍らせたのち、室温で30分解凍した。もう1度凍結、解凍を繰り返した。氷上で冷やした40mlのsuspension buffer(25mM Tris−HCl(pH8)(Sigma)、1mM 2−メルカプトエタノール(ナカライテスク)、1〜5μg/mlの蛋白分解酵素阻害剤(ペプスタチンA、アプロチニン(Wako Chemicals))を加え、よく混ぜて大腸菌を懸濁した。摂氏4度にて100,000xgで15分間遠心し、上清を得た。5M NaClを最終濃度が0.3Mとなるように加え、2mlの50% Ni−NTA agarose(Qiagen;蛋白質結合能5〜10mg/mlレジン)をさらに加えて1時間室温でおだやかに混ぜて反応させた。反応液を空のカラム(エコノカラム;カラムサイズ 〜20ml(Bio−Rad))に移し、余分の液がカラムから滴下してなくなるのを待った。10mlの洗浄液(50mM NaH
2PO
4(pH8)(ナカライテスク)、0.3M NaCl、20mM imidazole(ナカライテスク))で2回洗浄した後、3〜4mlの回収液(50mM NaH
2PO
4(pH8)(ナカライテスク)、0.3M NaCl、250mM imidazole(ナカライテスク))にて溶出し、Hisタグ付きの蛋白質をカラムから回収した。次に、回収した液を透析チューブ(Sankoujunyaku)に入れて125mlまたはそれ以上のKMバッファー(0.1M KCl(ナカライテスク)、20mM MOPS−Tris(pH7.5)(Dojindo))で摂氏4度にて透析した。KMバッファーは4〜5時間ごとに交換し、液交換を3回以上行った後、透析チューブから蛋白質の溶液を回収した。
【0070】
蛋白質の濃度測定にはプロテインアッセイキット(Bio−Rad)を用い、操作はそのマニュアルに従ってBradford法(Bradford,M.M. Anal.Biochem.1976,72,248−254.)で測定した。まず、10〜200μg/mlとなるように水で希釈した蛋白質の溶液50μlにBradford試薬を1ml加えて30分後に595nmの吸光度を測定した。蛋白質の基準濃度は牛血清アルブミンを基準蛋白質として用いて測定して求めた。測定は室温にて行った。
【0071】
(B)G−CaMP4を用いた測定法
(B−1)カルシウム結合能の測定
G−CaMP4蛋白質のカルシウム結合能はさまざまなカルシウム濃度溶液中における蛍光強度を測定して得られたカルシウム濃度―蛍光強度の容量反応曲線に基づいて算出した。既述のように精製したG−CaMP4蛋白質はKMバッファーで最終濃度が0.3μMとなるように希釈した。蛍光強度測定には、蛍光分光光度計F−2500(Hitachi)を用い470nmで励起し510nmで蛍光を記録した。まず測定標品に20mM BAPTA((Dojindo))を添加してカルシウム非存在下における測定を行った後、逐次CaCl
2をさまざまな濃度になるように添加して測定した。測定は室温にて行った。
【0072】
(B−2)HEK293細胞の培養とプラスミドの導入
炭酸ガス培養器を用いて、培地(DMEM(Gibco)、10% Fetal Bovine Serum(Gibco)、1xペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco))にてHEK293細胞を摂氏37度で培養し、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて培養細胞にpN1−GCaMP4のプラスミドを導入した。導入操作は試薬のマニュアルに従って行った。まず、血清を含まないDMEM50μlでプラスミド0.8μgを希釈した。次に2μlのLipofectamine 2000を血清を含まないDMEM50μlに加え室温で5分放置した。その後両希釈液を混合して室温で20分放置した。この混合液の全量を24穴培養シャーレ中のHEK293細胞に投与してプラスミドを導入した。プラスミドを導入した後細胞は摂氏37度で1〜3日培養した。
【0073】
(B−3)HEK293細胞での蛍光測定
蛍光測定にはコンピューターにて制御(アクアコスモス(浜松ホトニクス))されたCCDカメラ(ORCA−ER、浜松ホトニクス)を搭載した倒立蛍光顕微鏡(IX70(オリンパス)、NIBAフィルターセット(オリンパス)、対物レンズ20xまたは40x(オリンパス))を用いた。プラスミドを導入した細胞を顕微鏡にセットし、HBSバッファー(107mM NaCl、6mM KCl、1.2mM MgSO
4(ナカライテスク)、2mM CaCl
2、1.2mM KH
2PO
4(ナカライテスク)、11.5mM glucose、20mM HEPES(Dojindo)(pH7.4))を細胞外液として還流し、100μM Carbachol(Sigma)を細胞外に投与して細胞を刺激し、その際に起こる細胞内カルシウム濃度変化を蛍光強度変化として検出した。測定は室温にて行った。