(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
特許文献3および非特許文献3で提案された分極超接合(Polarization Super Junction;PSJ)を利用した半導体素子は、Si超接合方式と同じ原理を用いているため、従来より提案されているフィールドプレート方式よりも原理的に超耐圧素子が容易に得られる。しかしながら、本発明者らが独自に行った検討によれば、その動作(ダイナミクス、動特性)は正孔の移動の速度によって制限されることが明らかになってきた。
【0026】
すなわち、特許文献3および非特許文献3の半導体素子における表面p型GaN層は、表面準位と相殺するために導入するものであり、そのアクセプタ総量としては適量値がある。アクセプタ総量が余りに多いと、チャネルの2次元電子ガスのほかにアクセプタに由来する正孔が多量に生成し、チャネルの電子とのチャージバランスが崩れ、耐圧が低下する。しかしながら、p型GaN層の表面の一部には素子の動作に伴い正孔を引き抜き、あるいは導入するp側のオーミック電極(p電極)が形成されているが、表面正孔濃度が低いと良好なオーミック接触が得られない。p電極のオーミック接触抵抗が高いと素子のCR時定数が増大し、動特性が劣化するという現象が現れる。従って、p型GaN層の正孔濃度に関しては、高耐圧化と動特性との間にトレードオフの関係があることが分かった。従来より提案されている分極超接合素子は、超接合領域の最適化と、p電極のコンタクト部との最適化が共に満足するものとはなっていなかった。
【0027】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、特許文献3および非特許文献3で提案された、分極超接合を用いた半導体素子における高耐圧化と高速化との間のトレードオフ関係を容易に打ち破ることができ、高耐圧化と同時に、電流コラプスの発生をなくし、かつ高速動作が可能な低損失の半導体素子および双方向電界効果トランジスタを提供することである。
【0028】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記の半導体素子または双方向電界効果トランジスタを用いた高性能の電気機器を提供することである。
【0029】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、上記の半導体素子または双方向電界効果トランジスタを含む実装構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するために、この発明は、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上の、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層(0.17≦x≦0.35)と、
前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立し、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされたp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaNコンタクト層とオーミック接触したp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される半導体素子である。
【0031】
p型GaNコンタクト層は、p型GaN層と接触していれば、その設け方は特に限定されない。例えば、p型GaNコンタクト層は、p型GaN層上にメサ型で形成されていてもよいし、p型GaN層などに埋め込まれていてもよい。後者に関しては、例えば、アンドープAl
x Ga
1-x N層、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層に少なくともアンドープAl
x Ga
1-x N層に達する深さに溝が設けられ、この溝の内部にp型GaNコンタクト層が埋め込まれ、このp型GaNコンタクト層と2次元正孔ガスとが接合している。
【0032】
この半導体素子においては、典型的には、GaN系半導体のC面成長が可能なベース基板上に、第1のアンドープGaN層、アンドープAl
x Ga
1-x N層、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層が順次成長される。
【0033】
この半導体素子においては、必要に応じて、第1のアンドープGaN層とアンドープAl
x Ga
1-x N層との間、および/または、第2のアンドープGaN層とアンドープAl
x Ga
1-x N層との間に、典型的にはアンドープのAl
u Ga
1-u N層(0<u<1、u>x)、例えばAlN層が設けられる。第2のアンドープGaN層とアンドープAl
x Ga
1-x N層との間にAl
u Ga
1-u N層を設けることで、第2のアンドープGaN層とアンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第2のアンドープGaN層に形成される2次元正孔ガスのアンドープAl
x Ga
1-x N層側への染み込みを少なくすることができ、正孔の移動度を格段に増加させることができる。また、第1のアンドープGaN層とアンドープAl
x Ga
1-x N層との間にAl
u Ga
1-u N層を設けることで、第1のアンドープGaN層とアンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第1のアンドープGaN層に形成される2次元電子ガスのアンドープAl
x Ga
1-x N層側への染み込みを少なくすることができ、電子の移動度を格段に増加させることができる。このAl
u Ga
1-u N層またはAlN層は一般的には十分に薄くてよく、例えば1〜2nm程度で足りる。
【0034】
この半導体素子は種々の素子として用いることができるが、典型的には、電界効果トランジスタ(FET)やダイオードなどとして用いることができる。
【0035】
半導体素子が電界効果トランジスタである場合、電界効果トランジスタは例えば次のように構成することができる。第1の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、p型GaN層上にp型GaNコンタクト層がメサ型で設けられ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層上にソース電極およびドレイン電極が設けられ、ソース電極と第2のアンドープGaN層およびp型GaN層との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層上にゲート電極が設けられ、p型GaNコンタクト層上にp電極が設けられる。第2の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、p型GaN層上にp型GaNコンタクト層がメサ型で設けられ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層上にソース電極およびドレイン電極が設けられ、ソース電極と第2のアンドープGaN層およびp型GaN層との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層上にp電極を兼用するゲート電極が、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層の端面からp型GaNコンタクト層上に延在して設けられる。第3の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、p型GaN層上にp型GaNコンタクト層がメサ型で設けられ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層上にソース電極およびドレイン電極が設けられ、ソース電極と第2のアンドープGaN層およびp型GaN層との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層に溝が第2のアンドープGaN層およびp型GaN層の端面に連なって設けられ、p電極を兼用するゲート電極が、溝の内部に埋め込まれ、さらに第2のアンドープGaN層およびp型GaN層の端面からp型GaNコンタクト層上に延在している。第4の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、p型GaN層上にp型GaNコンタクト層がメサ型で設けられ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層上にソース電極およびドレイン電極が設けられ、p型GaNコンタクト層上にゲート電極を兼用するp電極が設けられる。第5の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層に少なくともアンドープAl
x Ga
1-x N層に達する深さに溝が設けられ、この溝の内部にp型GaNコンタクト層が埋め込まれ、このp型GaNコンタクト層と2次元正孔ガスとが接合する場合において、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層上にソース電極およびドレイン電極が設けられ、p型GaNコンタクト層上にゲート電極を兼用するp電極が設けられる。
【0036】
半導体素子がダイオードである場合、ダイオードは例えば次のように構成することができる。第1の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、p型GaN層上にp型GaNコンタクト層がメサ型で設けられ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアノード電極およびカソード電極が設けられ、アノード電極は少なくともアンドープAl
x Ga
1-x N層に設けられた溝に埋め込まれ、カソード電極はアンドープAl
x Ga
1-x N層上に設けられ、p型GaNコンタクト層上にp電極が設けられ、アノード電極とp電極とは互いに電気的に接続される。第2の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、p型GaN層上にp型GaNコンタクト層がメサ型で設けられ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層上にアノード電極およびカソード電極が設けられ、アノード電極と第2のアンドープGaN層およびp型GaN層との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層に溝が第2のアンドープGaN層およびp型GaN層の端面に連なって設けられ、この溝の内部にp電極が埋め込まれ、さらに第2のアンドープGaN層およびp型GaN層の端面からp型GaNコンタクト層上に延在し、アノード電極と電気的に接続されている。第3の例では、アンドープAl
x Ga
1-x N層、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層に少なくともアンドープAl
x Ga
1-x N層に達する深さに溝が設けられ、この溝の内部にp型GaNコンタクト層が埋め込まれ、このp型GaNコンタクト層と2次元正孔ガスとが接合する場合において、アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層およびp型GaN層はメサ型にパターニングされ、第2のアンドープGaN層およびp型GaN層を挟んでアノード電極およびカソード電極が設けられ、p型GaNコンタクト層に連なって少なくとも第1のアンドープGaN層に達する深さの別の溝が設けられ、ゲート電極は、この別の溝の内部に埋め込まれ、さらにp型GaNコンタクト層上に延在し、カソード電極はアンドープAl
x Ga
1-x N層上に設けられる。
【0037】
また、この発明は、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上のアンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層は、前記第1のアンドープGaN層と、前記第1のアンドープGaN層上の前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層とからなる構造を有する基準HEMTの2次元電子ガス濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下となるAl組成xおよび厚さを有し、かつ、前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、前記基準HEMTの2次元電子ガス濃度を10
12cm
-2を単位としてn
s で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧24.2/(n
s −7.83)+47.4[nm]
が成立し、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされたp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaNコンタクト層とオーミック接触したp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される半導体素子である。
【0038】
この半導体素子の発明においては、その性質に反しない限り、上記の半導体素子の発明に関連して説明したことが成立する。
【0039】
さらに、上記の二つの半導体素子の発明においては、その性質に反しない限り、特許文献3で説明したことが成立する。
【0040】
また、この発明は、
少なくとも一つの半導体素子を有し、
前記半導体素子が、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上の、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層(0.17≦x≦0.35)と、
前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立し、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされたp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaNコンタクト層とオーミック接触したp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される半導体素子である電気機器である。
【0041】
また、この発明は、
少なくとも一つの半導体素子を有し、
前記半導体素子が、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上のアンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層は、前記第1のアンドープGaN層と、前記第1のアンドープGaN層上の前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層とからなる構造を有する基準HEMTの2次元電子ガス濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下となるAl組成xおよび厚さを有し、かつ、前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、前記基準HEMTの2次元電子ガス濃度を10
12cm
-2を単位としてn
s で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧24.2/(n
s −7.83)+47.4[nm]
が成立し、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされたp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaNコンタクト層とオーミック接触したp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される半導体素子である電気機器である。
【0042】
ここで、電気機器は、およそ電気を用いるもの全てを含み、用途、機能、大きさなどを問わないが、例えば、電子機器、移動体、動力装置、建設機械、工作機械などである。電子機器は、ロボット、コンピュータ、ゲーム機器、車載機器、家庭電気製品(エアコンディショナーなど)、工業製品、携帯電話、モバイル機器、IT機器(サーバーなど)、太陽光発電システムで使用するパワーコンディショナー、送電システムなどである。移動体は、鉄道車両、自動車(電動車両など)、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船などである。
【0043】
また、この発明は、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上の、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層(0.17≦x≦0.35)と、
前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層はメサ型の形状を有し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層を挟んで前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上に第1のソース電極および第2のソース電極が設けられており、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第1のp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaN層と接触し、かつ前記第1のp型GaNコンタクト層と分離して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第2のp型GaNコンタクト層と、
前記第1のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第1のゲート電極を構成する第1のp電極と、
前記第2のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第2のゲート電極を構成する第2のp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される双方向電界効果トランジスタである。
【0044】
また、この発明は、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上のアンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層は、前記第1のアンドープGaN層と、前記第1のアンドープGaN層上の前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層とからなる構造を有する基準HEMTの2次元電子ガス濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下となるAl組成xおよび厚さを有し、かつ、前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、前記基準HEMTの2次元電子ガス濃度を10
12cm
-2を単位としてn
s で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧24.2/(n
s −7.83)+47.4[nm]
が成立し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層はメサ型の形状を有し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層を挟んで前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上に第1のソース電極および第2のソース電極が設けられており、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第1のp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaN層と接触し、かつ前記第1のp型GaNコンタクト層と分離して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第2のp型GaNコンタクト層と、
前記第1のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第1のゲート電極を構成する第1のp電極と、
前記第2のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第2のゲート電極を構成する第2のp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される双方向電界効果トランジスタである。
【0045】
また、この発明は、
一つまたは複数の双方向スイッチを有し、
少なくとも一つの前記双方向スイッチが、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上の、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層(0.17≦x≦0.35)と、
前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層はメサ型の形状を有し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層を挟んで前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上に第1のソース電極および第2のソース電極が設けられており、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第1のp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaN層と接触し、かつ前記第1のp型GaNコンタクト層と分離して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第2のp型GaNコンタクト層と、
前記第1のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第1のゲート電極を構成する第1のp電極と、
前記第2のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第2のゲート電極を構成する第2のp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される双方向電界効果トランジスタである電気機器である。
【0046】
また、この発明は、
一つまたは複数の双方向スイッチを有し、
少なくとも一つの前記双方向スイッチが、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上のアンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層は、前記第1のアンドープGaN層と、前記第1のアンドープGaN層上の前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層とからなる構造を有する基準HEMTの2次元電子ガス濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下となるAl組成xおよび厚さを有し、かつ、前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、前記基準HEMTの2次元電子ガス濃度を10
12cm
-2を単位としてn
s で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧24.2/(n
s −7.83)+47.4[nm]
が成立し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層はメサ型の形状を有し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層を挟んで前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上に第1のソース電極および第2のソース電極が設けられており、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第1のp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaN層と接触し、かつ前記第1のp型GaNコンタクト層と分離して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第2のp型GaNコンタクト層と、
前記第1のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第1のゲート電極を構成する第1のp電極と、
前記第2のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第2のゲート電極を構成する第2のp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される双方向電界効果トランジスタである電気機器である。
【0047】
この双方向電界効果トランジスタを用いた電気機器には、既に挙げたもののほか、マトリックスコンバータやマルチレベルインバータなども含まれる。
【0048】
また、この発明は、
半導体素子を構成するチップと、
前記チップがフリップチップ実装された実装基板とを有し、
前記半導体素子が、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上の、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層(0.17≦x≦0.35)と、
前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立し、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされたp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaNコンタクト層とオーミック接触したp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される半導体素子である実装構造体である。
【0049】
また、この発明は、
半導体素子を構成するチップと、
前記チップがフリップチップ実装された実装基板とを有し、
前記半導体素子が、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上のアンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層は、前記第1のアンドープGaN層と、前記第1のアンドープGaN層上の前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層とからなる構造を有する基準HEMTの2次元電子ガス濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下となるAl組成xおよび厚さを有し、かつ、前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、前記基準HEMTの2次元電子ガス濃度を10
12cm
-2を単位としてn
s で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧24.2/(n
s −7.83)+47.4[nm]
が成立し、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされたp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaNコンタクト層とオーミック接触したp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される半導体素子である実装構造体である。
【0050】
また、この発明は、
半導体素子を構成するチップと、
前記チップがフリップチップ実装された実装基板とを有し、
前記半導体素子が、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上の、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層(0.17≦x≦0.35)と、
前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層はメサ型の形状を有し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層を挟んで前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上に第1のソース電極および第2のソース電極が設けられており、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第1のp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaN層と接触し、かつ前記第1のp型GaNコンタクト層と分離して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第2のp型GaNコンタクト層と、
前記第1のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第1のゲート電極を構成する第1のp電極と、
前記第2のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第2のゲート電極を構成する第2のp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される双方向電界効果トランジスタである実装構造体である。
【0051】
また、この発明は、
半導体素子を構成するチップと、
前記チップがフリップチップ実装された実装基板とを有し、
前記半導体素子が、
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有し、
前記分極超接合領域は、
第1のアンドープGaN層と、
前記第1のアンドープGaN層上のアンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層上の第2のアンドープGaN層と、
前記第2のアンドープGaN層上の、Mgがドープされたp型GaN層とを有し、
前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層は、前記第1のアンドープGaN層と、前記第1のアンドープGaN層上の前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層とからなる構造を有する基準HEMTの2次元電子ガス濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下となるAl組成xおよび厚さを有し、かつ、前記第2のアンドープGaN層の厚さをu[nm]、前記p型GaN層の厚さをv[nm]、前記p型GaN層のMg濃度をw[cm
-3]で表し、前記基準HEMTの2次元電子ガス濃度を10
12cm
-2を単位としてn
s で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、
tR≧24.2/(n
s −7.83)+47.4[nm]
が成立し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層はメサ型の形状を有し、
前記第2のアンドープGaN層および前記p型GaN層を挟んで前記アンドープAl
x Ga
1-x N層上に第1のソース電極および第2のソース電極が設けられており、
前記p電極コンタクト領域は、
前記p型GaN層と接触して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第1のp型GaNコンタクト層と、
前記p型GaN層と接触し、かつ前記第1のp型GaNコンタクト層と分離して設けられた、前記p型GaN層よりも高濃度にMgがドープされた第2のp型GaNコンタクト層と、
前記第1のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第1のゲート電極を構成する第1のp電極と、
前記第2のp型GaNコンタクト層とオーミック接触した、第2のゲート電極を構成する第2のp電極とを有し、
非動作時において、前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層と前記第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第2のアンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、かつ、前記第1のアンドープGaN層と前記アンドープまたはドープされたAl
x Ga
1-x N層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記第1のアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成される双方向電界効果トランジスタである実装構造体である。
【0052】
上記の電気機器、双方向電界効果トランジスタおよび実装構造体の発明においては、その性質に反しない限り、上記の二つの半導体素子の発明に関連して説明したことが成立する。実装構造体における実装基板としては、熱伝導が良好な基板が用いられ、従来公知の基板の中から適宜選ばれる。
【発明の効果】
【0053】
この発明によれば、非動作時において、アンドープAl
x Ga
1-x N層と第2のアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における第2のアンドープGaN層に生成される2次元正孔ガスの濃度を1×10
12cm
-2以上にすることができる。これによって、特許文献3および非特許文献3で提案された分極超接合を用いた半導体素子における高耐圧化と高速化との間のトレードオフ関係を容易に打ち破ることができる。これによって、伝導チャネルの局部に発生するピーク電界を根本的に緩和し、高耐圧化と同時に、電流コラプスの発生をなくすことができ、かつ高速動作が可能な低損失の半導体素子および双方向電界効果トランジスタを容易に実現することができる。そして、この半導体素子または双方向電界効果トランジスタを用いて高性能の電気機器を実現することができる。また、実装基板に半導体素子または双方向電界効果トランジスタを構成するチップをフリップチップ実装した実装構造体により、半導体素子または双方向電界効果トランジスタを絶縁基板上に形成した場合においても優れた放熱性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施の形態と言う。)について説明する。
〈1.第1の実施の形態〉
第1の実施の形態によるGaN系半導体素子について説明する。このGaN系半導体素子は分極超接合素子である。このGaN系半導体素子の基本構造を
図6に示す。
【0056】
図6に示すように、このGaN系半導体素子は、分極超接合領域とp電極コンタクト領域領域とを有する。分極超接合領域においては、GaN系半導体がC面成長する、例えばC面サファイア基板などのベース基板(図示せず)上に、アンドープGaN層11、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層12(0.17≦x≦0.35)、アンドープGaN層13およびMgがドープされたp型GaN層14が順次積層されている。p電極コンタクト領域においてはさらに、p型GaN層14と接触してこのp型GaN層14よりもMgが高濃度にドープされたp型GaNコンタクト層(以下、「p
+ 型GaNコンタクト層」と言う。)が設けられている。このp型GaNコンタクト層にp電極が電気的に接続される。
図6においては、一例として、p型GaN層14上にメサ型のp
+ 型GaNコンタクト層15が積層されている場合が示されている。
【0057】
このGaN系半導体素子においては、非動作時において、ピエゾ分極および自発分極により、ベース基板寄りのアンドープGaN層11とアンドープAl
x Ga
1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープAl
x Ga
1-x N層12に正の固定電荷が誘起され、また、ベース基板と反対側のアンドープAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープAl
x Ga
1-x N層12に負の固定電荷が誘起されている。このため、このGaN系半導体素子においては、非動作時に、アンドープAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層13に2次元正孔ガス(2DHG)16が形成され、かつ、アンドープGaN層11とアンドープAl
x Ga
1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層11に2次元電子ガス(2DEG)17が形成されている。
【0058】
図7はこのGaN系半導体素子のエネルギーバンド構造を示す。
図7において、E
v は価電子帯の上端のエネルギー、E
c は伝導帯の下端のエネルギー、E
F はフェルミ準位を示す。アンドープAl
x Ga
1-x N層12の厚さおよびAl組成xのうちの少なくとも一方を従来のHFETより大きく設定することにより、分極により発生する、アンドープAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面およびアンドープGaN層11とアンドープAl
x Ga
1-x N層12との間のヘテロ界面の電位差を大きくし、それによってアンドープAl
x Ga
1-x N層12の価電子帯の上端のエネルギーE
v をフェルミ準位E
F まで引き上げる。この場合、アンドープAl
x Ga
1-x N層12上にアンドープGaN層13しか設けないと、このアンドープGaN層13のみでは、表面準位により分極による負の固定電荷が補償されてしまうため、アンドープAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層13に2DHG16が形成されない。そこで、アンドープGaN層13上にp型GaN層14を設けることにより、p型GaN層14の価電子帯の上端のエネルギーE
v をフェルミ準位E
F まで引き上げている。これによって、アンドープAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層13との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層13に2DHG16が形成される。また、アンドープGaN層11とアンドープAl
x Ga
1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層11に2DEG17が形成される。
【0059】
今仮に、例えば、
図8Aに示すように、p型GaN層14の一端面に2DHG16の位置まで延在するようにアノード電極18を形成するとともに、アンドープAl
x Ga
1-x N層12の一端面に2DEG17の位置まで延在するようにカソード電極19を形成した場合を考える。アノード電極18は例えばNiからなり、カソード電極19は例えばTi/Al/Au多層膜からなる。これらのアノード電極18およびカソード電極19間に逆バイアス電圧を印加する。
図8Bに、このときのアンドープAl
x Ga
1-x N層12に沿った電界分布を示す。
図8Bに示すように、逆バイアス電圧の印加により、2DHG16および2DEG17の濃度がともに等量減少し、2DHG16および2DEG17の両端部が空欠化する。2DHG16および2DEG17の濃度が等量変化しても実質的に電荷の変化量は0となるから、電界分布は超接合の電界分布となり、電界にピークが発生しない。従って、高耐圧性および低電流コラプス性能の向上を図ることができる。
【0060】
次に、2DHG16および2DEG17が同時に存在するこのGaN系半導体素子における構造パラメータについて説明する。
【0061】
すなわち、このGaN系半導体素子においては、アンドープGaN層13の厚さをu[nm]、p型GaN層14の厚さをv[nm]、p型GaN層14のMg濃度をw[cm
-3]で表し、換算厚さtRを
tR=u+v(1+w×10
-18 )
と定義したとき、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層12(0.17≦x≦0.35)に対し、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]
が成立するとき、1×10
12cm
-2以上の濃度の2DHG16を生成することができる。
【0062】
分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを互いに分離して設け、p電極コンタクト領域においてのみp型GaN層14に接してp
+ 型GaNコンタクト層15を設けること、および、tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]と設定する根拠について以下に説明する。
【0063】
p
+ 型GaNコンタクト層の必要条件(アクセプタ濃度および厚さ)を調べるために試料1〜4を作製した。
【0064】
[実験1]
試料1は次のようにして作製した。
図9に示すように、(0001)面、すなわちC面サファイア基板21上に、従来公知のMOCVD(有機金属気相成長)法により、Ga原料としてTMG(トリメチルガリウム)、Al原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、窒素原料としてNH
3 (アンモニア)、キャリアガスとしてN
2 ガスおよびH
2 ガスを用いて、低温成長(530℃)GaNバッファ層(図示せず)を厚さ30nm積層した後、成長温度を1100℃に上昇させ、厚さ800nmのアンドープGaN層22、厚さ47nmでx=0.23のアンドープAl
x Ga
1-x N層23、厚さ25nmのアンドープGaN層24、Mg濃度が1.5×10
19cm
-3で厚さ40nmのMgドープのp型GaN層25およびMg濃度が5.0×10
19cm
-3で厚さ50nmのMgドープのp
+ 型GaNコンタクト層26を成長させた。
【0065】
試料2は、p
+ 型GaNコンタクト層26の厚さが120nmであることを除いて、試料1と同様にして作製した。
【0066】
試料3は試料1、2に対する比較試料であり、次のようにして作製した。
図10に示すように、C面サファイア基板21上に、MOCVD法により、低温成長(530℃)GaNバッファ層(図示せず)を厚さ30nm積層した後、成長温度を1100℃に上昇させ、厚さ800nmのアンドープGaN層22、厚さ47nmでx=0.23のアンドープAl
x Ga
1-x N層23、厚さ25nmのアンドープGaN層24およびMg濃度が5.0×10
19cm
-3で厚さ20nmのMgドープのp型GaN層25を成長させた。
【0067】
試料4は標準試料であり、次のようにして作製した。
図11に示すように、C面サファイア基板21上に、MOCVD法により、低温成長(530℃)GaNバッファ層(図示せず)を厚さ30nm積層した後、成長温度を1100℃に上昇させ、厚さ800nmのアンドープGaN層22、Mg濃度が5.0×10
19cm
-3で厚さ600nmのMgドープのp型GaN層25を成長させた。
【0068】
これらの試料1〜4を用いて、TLM(Transmission Line Method)測定試料を作製した。TLMとは、接触抵抗と導体層の抵抗とを分離・抽出する標準的な方法である。
図12A〜
図12Cに示すように、C面サファイア基板21上のGaN系半導体層27を、エッチングおよび標準的なリソグラフィ技術により、所定の形状にパターニングした後、パターニングされたGaN系半導体層27上に電極E
1 〜E
6 を形成した。ここで、
図12Aは斜視図、
図12Bは
図12AのB−B’線に沿っての断面図、
図12Cは
図12AのC−C’線に沿っての断面図である。GaN系半導体層27は、C面サファイア基板21上に成長された全てのGaN系半導体層を意味する。GaN系半導体層27のエッチング深さは600nmである。電極E
1 〜E
6 はNi/Au電極であり、大きさは200μm×200μmである。電極間距離は、電極E
1 と電極E
2 との間の距離L
1 は7μm、電極E
2 と電極E
3 との間の距離L
2 は10μm、電極E
3 と電極E
4 との間の距離L
3 は15μm、電極E
4 と電極E
5 との間の距離L
4 は30μm、電極E
5 と電極E
6 との間の距離L
5 は50μmである。
【0069】
図13に電極間距離に対する電気抵抗の測定結果を示す。
図13において、得られた直線の傾きが導体層の抵抗の情報を含み、縦軸を貫き横軸との交点の座標値がコンタクト抵抗(接触抵抗)に関する情報を含んでいる。
図13から分かるように、試料1、試料2および試料4は、抵抗は小さくなっている。しかしながら、最上層のp層であるp型GaN層25の厚さが20nmと非常に薄い試料3では、抵抗値は試料1に対して3桁大きかった。
【0070】
本データから、コンタクト抵抗およびシート抵抗を標準的な方法にて抽出した。その結果を表1にまとめて示す。
【表1】
表1から分かるように、試料3はコンタクト抵抗が非常に大きい。これは、同じ表面濃度でも最上層のp型GaN層の厚さとして20nmでは不足しており、また50nmであれば十分であることを示している。これは、低いコンタクト抵抗を得るためには、最上層のp型GaN層の厚さがある程度必要であることを示している。一方、p
+ 型GaNコンタクト層26の厚さが120nmの試料2では、却ってコンタクト抵抗値が大きくなった。試料4では、構造が異なるもののp型GaN層25の厚さが600nmとなってもコンタクト抵抗は低下していなかった。これは、単層のp型GaN層25であり、試料1、2の構造と異なっているためであると考えられる。
【0071】
以上の結果より、p
+ 型GaNコンタクト層26のMg濃度、すなわちアクセプタ濃度が5.0×10
19cm
-3程度のときは、p
+ 型GaNコンタクト層26の厚さとして20nm以上必要であることが分かった。
【0072】
[実験2]
実験1の結果を踏まえて、追加の実験2を行った。実験2では、表面のMg濃度のみを増加させた試料5を作製し、コンタクト抵抗を測定した。具体的には、試料5の構造としては、実験1においてコンタクト抵抗が最も小さかった試料1の構造において、厚さ50nmのp
+ 型GaNコンタクト層26を上下2層に分け、上層/下層=3nm(2×10
20cm
-3)/47nm(5×10
19cm
-3)としたものである。その結果を表2に示す。
【表2】
表2より、試料5によれば、最表面のp
+ 型GaNコンタクト層26をさらに高濃度にすることがコンタクト抵抗の低減に有効であることが分かった。
【0073】
[実験3]
分極超接合領域の必要条件を求めるために実験3を行った。実験3では、ホール(Hall)測定により分極超接合領域の正孔濃度の測定を行った。
【0074】
分極超接合素子は2次元電子ガス(2DEG)と2次元正孔ガス(2DHG)とが分極効果によりほぼ等量生じているときに最大の耐圧を示す。現実には、上部のGaN層がアンドープ層のみである場合、表面準位やアンドープ層がn型化すること等によってバンドエネルギーが影響を受け、2DHGは殆ど生じない。しかし、Mgアクセプタの添加により、表面準位を補償し、かつ表面近傍のバンドを持ち上げることによって2DHGがAlGaN/GaNの上部ヘテロ界面に生じるようになる。
【0075】
理想的には、Mgアクセプタ由来の過剰な正孔は生じずに、2DEG濃度と2DHG濃度とは等しく、かつそれ以外の正孔は存在しない方がよい。従って、そのようなp型GaN層25の設計が必要となる。
【0076】
実験1、2の、特に試料1、2はMgの添加総量が多く、Mgアクセプタ由来の正孔が過剰に存在している。そこで、
図9に示す試料1を用いて、
図14Aおよび
図14B(
図14Bは
図14AのA−A’線に沿っての断面図)に示すホール素子を作製し、p型GaN層25の厚さと正孔濃度および移動度との関係を調べた。
【0077】
図14Aおよび
図14Bに示すように、
図9に示す試料1のアンドープGaN層24、p型GaN層25およびp
+ 型GaNコンタクト層26の四隅をエッチングにより円形にパターニングした後、四隅に露出したアンドープAl
x Ga
1-x N層23の表面にTi/Al/Au電極28を形成し、その内側の四隅のp
+ 型GaNコンタクト層26上にNi/Au電極29を形成し、2次元正孔に対するホール測定と2次元電子に対するホール測定とを可能とした。
【0078】
次に、四隅以外の部分をp
+ 型GaNコンタクト層26の表面からそれぞれ0nm、70nmの深さまでエッチングし、正孔および電子に対してホール測定を行った。ここで、p
+ 型GaNコンタクト層26の表面から70nmの深さまでエッチングした場合は、p
+ 型GaNコンタクト層26に加えてその下のp型GaN層25の上層部も除去したことに対応する。エッチング量が0nmの試料を試料6、エッチング量が70nmの試料を試料7とする。
【0079】
表3に試料6、7の室温における正孔(2DHG)および電子(2DEG)のシート抵抗値、シート濃度および移動度を示す。
【表3】
表3から分かるように、エッチング量が0nmの試料6の正孔濃度は1.12×10
13cm
-2であるのに対して、電子濃度は5.21×10
12cm
-2であった。エッチングを行い、p
+ 型GaNコンタクト層26の厚さを小さくしてゆくと、正孔濃度はp
+ 型GaNコンタクト層26を除去したときに若干減少し、その下のp型GaN層25を20nm除去したところ正孔濃度は減少しなかった。電子濃度の方は、エッチング量にかかわりなく約5.2×10
12cm
-2と一定値を示した。エッチング量が70nmの試料7において、正孔濃度は9.85×10
12cm
-2であった。
【0080】
ここで、得られた正孔のシート濃度について検討を行う。
エッチング量が0nmの試料6について、p
+ 型GaNコンタクト層26およびp型GaN層25の全体の合計のMgドープ量は、[Mg]=5.0×10
19cm
-3×50×10
-7cm+1.5×10
19cm
-3×40×10
-7cm=2.5×10
14cm
-2+6×10
13cm
-2=3.1×10
14cm
-2である。Mgアクセプタの室温の活性化率を1.0%とすると、3.1×10
14×1.0×10
-2=3.1×10
12cm
-2の正孔濃度となる。一方、実験値は表3に示すように1.12×10
13cm
-2であった。従って、正孔濃度は実験値の方が非常に大きく、この差{(11.2−3.1)×10
12cm
-2}=8.1×10
12cm
-2は分極によって生じた正孔である。
【0081】
次に、エッチング量が70nmの試料7については、全体のMg量は、[Mg]=1.5×10
19cm
-3×20×10
-7cm=3.0×10
13cm
-2であり、これによる正孔濃度は、Mgアクセプタの室温の活性化率を1.0%とすると、3.0×10
11cm
-2である。しかし、実験値は9.85×10
12cm
-2であった。実験値との差は(9.85−0.30)×10
12=9.55×10
12cm
-2である。この結果より、この試料7の正孔は(9.55/9.85)×100=97.0%がMg由来でないもの、即ち分極によって生じたものであることが分かる。
【0082】
一方、2次元電子濃度の変化は、p
+ 型GaNコンタクト層26およびp型GaN層25のエッチングによっては殆ど変化せず、5.3×10
12cm
-2程度であった。
【0083】
次に、正孔が分極によって発生した2次元正孔ガス(2DHG)であることを実証するため、低温でのホール測定を行った。Mgアクセプタの準位は価電子帯から160meV程度と深いので、200K以下の温度では正孔はMgアクセプタに落ち込み自由正孔は存在しなくなる。一方、分極由来の2DHGは低温にてもトラップされる準位がなくヘテロ界面に存在し続ける。従って、低温での正孔濃度は分極によって生成した2DHGのみによるものを示している。液体窒素温度(77K)での測定結果を表4に示す。
【表4】
低温において、正孔濃度は、Mg由来の分だけ減少したと考える。低温における2DHG濃度はエッチング量が0nmの試料6で6.5×10
12cm
-2、エッチング量が70nmの試料7では6.0×10
12cm
-2であった。室温測定データから推測した2DHG濃度が、77K測定により実証された。正孔の移動度は、音響散乱の抑制により向上し、52〜57cm
2 /Vsが得られた。
【0084】
[実験4]
次に、Mg量の絞り込み、言い換えると分極超接合素子として必要最小限のMg量の検討を行った。すなわち、Mg量はもっと減らすべきであると考えられるが、どこまで減らすことができるかについて検討を行った。そのために実験4を行った。
【0085】
以上の実験1〜3では、正孔がどの程度のMgドープ量から消失するのかがまだ見えていなかった。そこで、実験4により、p型GaN層の限界実験を行った。限界実験とは、2DHG濃度が測定にかからなくなり、実質的に分極超接合素子としての効能がなくなる状態を検討・探索するものである。
【0086】
分極超接合素子として有効であるのは、2DHGと2DEGとがアンドープAl
x Ga
1-x N層23を挟んで共存し、逆バイアス条件で両者が同時に空乏化することである。しかしながら、これは2DHG濃度と2DEG濃度とが等しいことを要求するものではない。2DHG濃度と2DEG濃度とがアンバランスであると、それに伴い分極超接合効果が減少し、例えば、その極限として、2DHG濃度が全く0cm
-2の場合、通常のAlGaN/GaN HEMT構造と同一となり、その状態ではよく知られているように、逆バイアス時にアノード端にピーク電界が発生する。結局、2DHG濃度と2DEG濃度との量的バランスによってピーク電界の強度が依存することになる。実質的に、分極超接合効果が有効であるのは、すなわち、分極超接合であると言えるのは、2DHG濃度が2DEG濃度の1/10〜1/5の場合であろう。1/10より小さいともはや、通常のHEMTと差異はなくなると推定される。ここでは、2DEG濃度の1/5を2DHG濃度のクライテリア(有効限界値)とおく。
【0087】
そこで、実験的には、まず、通常のAlGaN/GaN HEMT構造を参照試料(レファレンス試料)として作製し、その2DEG濃度を確認し、次に、そのAlGaN層の構造条件においてアンドープGaN層およびp型GaN層を積層して分極超接合構造を作製し、その場合の2DEG濃度を確認すると同時に2DHG濃度を測定する。
【0088】
具体的には、参照試料として、アンドープGaN層24およびp型GaN層25のない構造、すなわち、通常のAlGaN/GaN HEMT構造を基準用として作製した。サファイア基板上に、厚さ47nmでx=0.23のアンドープAl
x Ga
1-x N層23/アンドープGaN層22のHEMT構造で、アンドープGaN層22の厚さをそれぞれ、500nm、600nm、800nmと変化させた3種のHEMT試料(試料A−1、A−2、A−3)を作製し、それらの2DEG濃度を測定した。表5にその結果を示す。
【表5】
表5より、2DEG濃度は下地のアンドープGaN層22の厚さによって多少変化したが、アンドープGaN層22の厚さが600nm以上あれば、2DEG濃度は1.1×10
13cm
-2で一定となることが分かった。
【0089】
さて、新たな試料として、
図15に示す試料を作製した。
図15に示すように、この試料は試料1と同様な構造を有するが、p型GaN層25の厚さは40nmとし、このp型GaN層25のMg濃度を5×10
18cm
-3、2×10
18cm
-3、5×10
17cm
-3、1×10
17cm
-3、0cm
-3と変え、p
+ 型GaNコンタクト層26を、厚さ47nmでMg濃度が5×10
19cm
-3の下部p
+ 型GaNコンタクト層26aおよび厚さ3nmでMg濃度が2×10
20cm
-3の上部p
+ 型GaNコンタクト層26bで構成した5種の試料8〜12を作製した。また、試料10のp型GaN層25をエッチングにより、厚さ20nmまで薄化した試料13を作製した。試料8〜13を用いて
図16に示すようにホール測定試料を作製し、実験4と同じ方法により、ホール測定を行った。その結果を表6に示す。
【表6】
表6に示すように、シート電子濃度は概略5.0×10
12cm
-2〜5.3×10
12cm
-2となり、標準HEMT構造(試料A−1、A−2、A−3)の約1/2に低下していた。アンドープGaN層24、p型GaN層25等が積層されることによって、バンドが上昇し、正孔が発生するとともに電子濃度が低下したものである。
【0090】
次に、アンドープGaN層24の厚さを25nm、p型GaN層25の厚さを20nmとし、Mg濃度をそれぞれ、2×10
18cm
-3、5×10
17cm
-3および0cm
-3とした3種の試料14〜16を作製した。これらの試料14〜16のホール測定の結果を表7に示す。
【表7】
表7より、Mg濃度の少ない試料15および試料16では、非常に高抵抗で正孔濃度の測定は困難であった。電子濃度は(5.5〜6.0)×10
12cm
-2とやや高かった。
【0091】
次に、アンドープGaN層24の厚さを15nm、p型GaN層25の厚さを15nmとし、Mg濃度をそれぞれ、2×10
18cm
-3、5×10
17cm
-3および0cm
-3とした3種の試料17〜19を作製した。これらの試料17〜19のホール測定の結果を表8に示す。
【表8】
表8より、Mg濃度の少ない試料18および試料19では、非常に高抵抗で正孔濃度の測定は困難であった。電子濃度は(5.9〜6.8)×10
12cm
-2であった。
【0092】
[実験5]
次に、アンドープGaN層24の厚さが2DHG濃度に与える影響を確認するために、追加の実験5を行った。具体的には、アンドープGaN層24の厚さの下限を検討するために、アンドープGaN層24の厚さを80nmと厚くした試料20を作製した。
図17に試料20の層の構造を示す。具体的には、C面サファイア基板21上に低温成長(530℃)でGaNバッファ層(図示せず)を厚さ30nm積層した後、成長温度を1100℃に上昇させ、厚さ800nmのアンドープGaN層22、厚さ47nmでx=0.23のアンドープAl
x Ga
1-x N層23、厚さ80nmのアンドープGaN層24、Mg濃度が5.0×10
18cm
-3で厚さ20nmのMgドープのp型GaN層25、Mg濃度が7.0×10
19cm
-3で厚さが37nmのp
+ 型GaNコンタクト層26aおよびMg濃度が2.0×10
20cm
-3で厚さが3nmのMgドープp
+ 型GaNコンタクト層26bを成長させることにより、試料20を作製した。
図18に示すように、試料20のp
+ 型GaNコンタクト層26aおよびp
+ 型GaNコンタクト層26bの中央部を完全にエッチングし、さらにp型GaN層25の中央部をエッチングして厚さ10nmとすることにより試料21を作製した。
図19に示すように、試料20のp型GaN層25、p
+ 型GaNコンタクト層26aおよびp
+ 型GaNコンタクト層26bの中央部を完全にエッチングし、さらにアンドープGaN層24の中央部をエッチングして厚さ75nmとすることにより試料22を作製した。
図20に示すように、試料20のp型GaN層25、p
+ 型GaNコンタクト層26aおよびp
+ 型GaNコンタクト層26bの中央部を完全にエッチングし、さらにアンドープGaN層24をエッチングして厚さ30nmとすることにより試料23を作製した。
【0093】
試料20〜23を用いてホール測定を行った結果を表9に示す。
【表9】
表9に示すように、エッチングなしの試料20の正孔濃度は9.01×10
12cm
-2であったのに対して、試料21および試料22の正孔濃度はそれぞれ5.82×10
12cm
-2および5.1×10
12cm
-2であった。試料23では、高抵抗で電流が流れず正孔の存在を確認できなかった。
【0094】
以上の試料7〜23の構造や2DHG濃度などを表10にまとめて示す。表10では、第1列目に試料番号を、第2〜第4列目に、アンドープGaN層24の厚さ、p型GaN層25の厚さおよびp型GaN層25のMg濃度(1×10
18cm
-3を単位とする)を示した。また、第6列目に、測定された2DHG濃度を示した。第5列目は、実験値を整理するために導入した新しい指標である「換算厚さ(Reduced thickness)」という新しい概念に基づく値である。
【0096】
換算厚さについて説明する。換算厚さをtRと表す。換算厚さtRは次の式で表される量である。アンドープGaN層24の厚さをu[nm]で表し、p型GaN層25の厚さをv[nm]、Mg濃度をw[cm
-3]で表したとき、換算厚さtRは、
tR=u+v(1+w×10
-18 ) (1)
と定義される。この式の右辺の項の意味を説明する。p型GaN層25はフェルミ準位を基準にして、アンドープGaN層24よりもバンドが持ち上がっている。すなわち、表面側AlGaN/GaNヘテロ接合界面のバンドが持ち上がり2DHGを生成する効果は、p型GaN層25の方がアンドープGaN層24よりも大きい。そこで、p型GaN層25中のMgドーパントの効果を考察する。通常Mgドーパントの室温での活性化率は1%程度である。また、GaN層中には深い準位やn型不純物が10
16cm
-3から10
17cm
-3存在し、Mgのアクセプタとしての役割を妨げる。従って、10
17cm
-3台のMg濃度はp型としての役割はそれほど大きくない。従って、Mg濃度が10
17cm
-3よりも低い場合はむしろアンドープ層に近い。従って、p型GaN層25が本構造の2DHG濃度に与える寄与度を評価する場合、それの効果を取り入れる必要があり、それは10
18cm
-3を規格化の値とすることにより与えられることが上記の考察から、第1次近似として導き出される。従って、2DHG濃度は、式(1)で表される換算厚さtRに対して、1次の関係およびその後の飽和曲線になることが期待される。表10の第5列目は、式(1)で計算される換算厚さtRを示したものである。
【0097】
次に、表10の第5列目の換算厚さtRをx軸に、第6列目の2DHG濃度をy軸に図示したものを
図21に示す。また、
図21のうち換算厚さtRが20〜90nmの領域の拡大図を
図22に示す。
図21および
図22中の数値は試料番号を示す。
図21において、2DHG濃度は、換算厚さtRに対して概略比例し、換算厚さtRが大きくなると、2DHG濃度が1×10
13cm
-2付近で飽和する傾向にあることが分かった。2DHG濃度の小さい領域(
図22)では、ホール測定の測定誤差が大きくなるので若干ばらついているが、2DHG濃度は、換算厚さtRに対して概略比例関係にあることが確認できた。換算厚さtRが50nm以下では正孔濃度は測定できなかった。ホール測定の誤差が大きくなる理由は、正孔の移動度が電子のそれの〜1/100と非常に小さいので、測定されるホール(Hall)電圧が小さいこと、および、p型GaN層25へのオーミック電極のコンタクト抵抗値が本来的に高い(実験的には、n型GaN層へのオーミック電極のコンタクト抵抗値の10
5 倍)こと等による。
【0098】
さて、通常HEMT構造の比較試料A−3では、2DEG濃度は概ね1.1×10
13cm
-2であった(表5参照。)。また、本分極超接合構造にした場合の2DEG濃度は、試料8から試料23までを通じて、概ね、(5.1〜6.8)×10
12cm
-2であった。これは、アンドープAl
x Ga
1-x N層23の上の比較的厚いアンドープGaN層24およびp型GaN層25によるバンド持ち上がり効果により、アンドープAl
x Ga
1-x N層23とアンドープGaN層22とにより形成される下側のAlGaN/GaNヘテロ接合の2DEG濃度を減少させるからである。また、換算厚さtRが小さいほど、すなわち、バンドの持ち上がりが少ないほど2DEG濃度は小幅ながら増加していることも理解できることである。そうではあるが、興味深いことに、上部のアンドープGaN層24およびp型GaN層25の組合せ変化に対して、ほぼ一定の2DEG濃度(5.1〜6.8)×10
12cm
-2になっていることの方に注目する。
【0099】
すなわち、本分極超接合構造にした場合の2DEG濃度は、基準HEMTの2DEG濃度の約1/2となっている。このことは、基準HEMTの2DEG濃度が、対応するアンドープAl
x Ga
1-x N層23を持つ分極超接合構造の有効な2DHG濃度の下限(限界2DHG濃度)を規定することができることを意味する。すなわち、この基準HEMT構造の2DEG濃度を基準に用いることができる。
【0100】
さて、分極超接合効果が顕著に得られるためには、有効2DHG濃度は2DEG濃度に対して1/10〜1/5程度以上必要であることを既に説明したが、ここでは、1/5以上を条件とする。基準HEMTの2DEG濃度(1.1×10
13cm
-2)を基準にとると、分極超接合の有効下限2DHG濃度は、2DEG濃度の1/10=1.1×10
12cm
-2である。それを、
図22の横線で示した。さて、
図22を参照すると、2DHG濃度が1.1×10
12cm
-2に対する換算厚さの値はtR=55nmである。即ち、アンドープGaN層24の厚さをu[nm]、p型GaN層25の厚さをv[nm]、そのMg濃度をw[cm
-3]とすると、分極超接合として有効な構造は式(1)のtRにおいて、
tR≧55[nm] (2)
である。
【0101】
以上の換算厚さtRの有効範囲は、アンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xが0.23および厚さが47nmのときに得られたものである。それでは、それと異なるAl組成および厚さのときにはどうなるであろうか。
【0102】
まず、基準となる2DEG濃度を得るために、アンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xおよび厚さを変化させた基準HEMTを作製した。表11にそれを示す。
【表11】
試料A−3は既出の試料である。試料A−4は、Al組成xが0.17で厚さが47nm、試料A−5は、Al組成xが0.37で厚さは47nm、試料A−6は、Al組成xが0.37で厚さが25nmである。実は、試料A−5は、結晶にクラックが発生し、膜が断裂していて測定が不可能であった。もともと、試料A−5は、アンドープAl
x Ga
1-x N層23の厚さが理論的な臨界膜厚を大きく超えているが、厚さを47nmに固定しようと敢えて作製したものである。従って、代替として、試料A−6は、アンドープAl
x Ga
1-x N層23の厚さを25nmと小さくした。2DEG濃度は、それぞれ、試料A−4では0.89×10
13cm
-2、試料A−6では1.7×10
13cm
-2であった。
図23は、Al
x Ga
1-x N層のAl組成xとシートキャリア濃度(2DEG濃度)との関係を掲載している公知の文献(F.Calle et al. Journal of Materials Science:Materials in Electronics 14(2003)271-277)のp.272のFig.1を示すが、これに試料A−3、A−4、A−6のデータ(△、○、☆)を示す。この参考文献では、Al
x Ga
1-x N層のAl組成xを0.16から0.36まで、厚さを17nmから42nmまで変化させている。2DEG濃度はAl組成に対して比例的に増加し、厚さに対しては、厚さを増加すれば歪も増加するので増加傾向にあるが、顕著には増加していないことが見られる。試料A−3、A−4、A−6の2DEG濃度は文献値よりも相対的に大きくなっている。これは、本試料A−3、A−4、A−6の結晶品質が高く、格子緩和の程度が文献の試料より少なく、ヘテロ接合の格子歪が大きくて、分極効果が大きく出ているためであると考えられる。
【0103】
次に、試料A−4のアンドープAl
x Ga
1-x N層23上に、厚さ80nmのアンドープGaN層24、厚さが40nmでMg濃度が1×10
18cm
-3のp型GaN層25、厚さが44nmでMg濃度が5×10
19cm
-3のp
+ 型GaN層26aおよび厚さが3nmでMg濃度が2×10
20cm
-3のp
+ 型GaN層26bを積層して試料24を作製した。この試料24のp型GaN層25をエッチングにより厚さ20nmにして試料25を作製した。この試料24のp型GaN層25をエッチングにより完全に除去した後、アンドープGaN層24を深さ5nmまでエッチングし、厚さを75nmにして試料26を作製した。また、この試料24のp型GaN層25をエッチングにより完全に除去した後、アンドープGaN層24を深さ30nmまでエッチングし、厚さを50nmとして試料27を作製した。これらの試料24〜27のホール測定の結果を表12に示す。
【表12】
試料27の正孔濃度は測定できなかった。2DEG濃度はアンドープGaN層24の厚さが小さくなるにつれて増加し、(3.8〜4.1)×10
12cm
-2であった。この2DEG濃度は、試料A−4の2DEG濃度、8.9×10
12cm
-2の42%から46%であった。
【0104】
次に、試料A−6の上に、試料24と同様なアンドープGaN層24、p型GaN層25、p
+ 型GaN層26aおよびp
+ 型GaN層26bを積層して分極超接合構造の試料28を作製した。同様に、エッチングにより、p型GaN層25の厚さを20nmとした試料29、アンドープGaN層24の厚さを75nmとした試料30、アンドープGaN層24の厚さを46nmとした試料31を作製した。これらの試料28〜31のホール測定の結果を表13に示す。
【表13】
これらの試料28〜31はアンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xが0.35と高いので、すべての試料において2DHG濃度が測定できた。また、2DEG濃度は、(7.4〜8.2)×10
12cm
-2であった。この2DEG濃度は基準HEMT構造の試料A−6の2DEG濃度(1.7×10
13cm
-2)の44%〜48%であった。
【0105】
次に、試料24〜31に対して換算厚さtRを計算した。その結果を表14に示す。
【表14】
図24に、換算厚さtRを横軸に、縦軸に2DHG濃度をグラフとして図示した。
図24内の数値は試料番号である。
図24には、試料8〜23のデータも併せて示した。ただし、それらの試料番号の表示は省略した。
図24において、換算厚さtRと2DHG濃度との関係は、2DHG濃度が1×10
13cm
-2より少ない場合は概略直線関係となっていることが判明した。素子が動作する限界の換算厚さtRを推定するために、
図24の換算厚さtRが0〜150nmの部分を拡大して
図25に示す。
図25に、基準試料である試料A−3、A−4、A−6の2DEG濃度の1/10の値、すなわち、限界2DHG濃度を横線で示した。すなわち、限界2DHG濃度は、試料A−3では1.1×10
12cm
-2、試料A−4では0.89×10
12cm
-2、試料A−6では1.7×10
12cm
-2である。この限界2DHG濃度は,素子が分極超接合素子として動作するに必要な最低限の2DHG濃度である。それは、前に説明した通り、分極超接合素子として有効な2DHG濃度は2DEG濃度とのバランスが重要であり、その値は共存する2DEGの濃度の1/5から1/10であることを述べたが、ここで濃度の高い方向の(厳しい方の)1/5を採用している。
【0106】
図25において、限界2DHG濃度に達する換算厚さtRは、アンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成が0.17、厚さが47nmの試料24〜27では70nm、Al組成が0.23、厚さが47nmの試料8〜23では55nm、Al組成が0.35、厚さが25nmの試料28〜31では50nmとなった。アンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xが0.23の素子のデータについては、
図22より、限界厚さは55nmであった。Al組成xが0.35の試料のアンドープAl
x Ga
1-x N層の厚さは25nmであるが、
図23に見られるように、この厚さの領域(17nmから42nm)では2DEG濃度の厚さ依存性は高々30%程度で、特に本件の実験の厚さ(25nm〜47nm)の範囲では、上記3つの試料グループの限界厚さは、Al組成の違いとして理解することができる。
【0107】
さて、アンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xに対して、限界2DHG濃度に対する換算厚さtRをプロットしたものが
図26である。
図26の3つのデータは各々のAl組成xに対する限界換算厚さである。
図26に、これらの3点を通る曲線を示した。この曲線は、Al組成をx、限界厚さをy[nm]としたとき、下記の式(3)で与えられるものである。
y=a/(x−b)+c (3)
ただし、a=0.864
b=0.134
c=46.0
この式(3)は、アンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xが異なる構造に対して限界厚さを与えるために採用した経験式である。
【0108】
分極超接合構造のアンドープAl
x Ga
1-x N層23のAl組成xが0.17から0.35で、厚さが概ね25nmから47nmにある場合、換算厚さtRが式(3)で示す限界厚さよりも大きいことが必要である。すなわち、Al組成が0.17から0.35、厚さが25nmから47nmの範囲において、適用換算厚さtRは、
tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm] (4)
である。
【0109】
高性能の分極超接合素子を実現させるための設計においては、以上のような低いまたはゼロ(0)のMg量の分極超接合領域においてもp電極の低接触抵抗を実現させることが必要であり、それには、分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを構造的に分離し、p電極コンタクト領域に、p型GaN層25よりも高濃度のアクセプタ濃度(Mg濃度)を有するp
+ 型GaNコンタクト層を設け、このp
+ 型GaNコンタクト層にp電極をコンタクトさせる。
【0110】
図14Aおよび
図14Bや
図16に示すホール測定試料においては、最上層のp
+ 型GaNコンタクト層26の中央部をエッチングすることによって、分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを作製しているが、例えば、
図27または
図28Aおよび
図28Bに示すような方法を用いて分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを作製してもよい。すなわち、
図27に示すように、p型GaN層25まで成長させた後、その上にSiO
2 膜などの誘電体膜からなる成長マスク30を形成し、この成長マスク30の一部をエッチングにより除去して開口を形成し、この開口に露出したp型GaN層25上にp
+ 型GaNコンタクト層26を選択成長させる。あるいは、
図28Aに示すように、p型GaN層25まで成長させた後、その上にSiO
2 膜などの誘電体膜からなる成長マスク30を形成し、この成長マスク30の一部をエッチングにより除去して開口を形成し、この成長マスク30を用いてアンドープAl
x Ga
1-x N層23の途中の深さまでエッチングして溝31を形成する。そして、
図28Bに示すように、成長マスク30を用いてこの溝31の内部にp
+ 型GaNコンタクト層26を選択成長させて埋め込む。
【0111】
次に、この半導体素子を電界効果トランジスタおよびダイオードに適用した具体的な構造例について説明する。
【0112】
[第1の構造例]
図29は4端子構造の電界効果トランジスタを示す。
図29に示すように、アンドープGaN層41、厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層42(0.17≦x≦0.35)、アンドープGaN層43およびp型GaN層44が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42上のアンドープGaN層43およびp型GaN層44はメサ型にパターニングされ、p型GaN層44上にp
+ 型GaNコンタクト層45がメサ型で設けられている。アンドープGaN層43およびp型GaN層44を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にソース電極46およびドレイン電極47が設けられている。ソース電極46およびドレイン電極47は、例えばTi/Al二層膜により構成され、アンドープAl
x Ga
1-x N層42に対してオーミック接触している。ソース電極46とアンドープGaN層43およびp型GaN層44との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にゲート電極48が設けられ、p
+ 型GaNコンタクト層45上にp電極49が設けられている。ゲート電極48は、例えばNi/Au二層膜により構成され、アンドープAl
x Ga
1-x N層42に対してショットキー接触している。p電極49は、例えばNi/Au二層膜により構成され、p
+ 型GaNコンタクト層45に対してオーミック接触している。この電界効果トランジスタは、p電極49とソース電極46とを接続する方式(これは金属フィールドプレート(FP)方式のソースフィールドプレートに相当する)およびp電極49とゲート電極48とを接続する方式(p電極49をベース電極と考えるとこれはベースフィールドプレートに相当する)の両方式に対応できる構造である。なお、
図29においては、ソース電極46とゲート電極48との間、ゲート電極48とアンドープGaN層43との間およびアンドープGaN層43とドレイン電極47との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層42が露出しているが、必要に応じてアンドープAl
x Ga
1-x N層42の表面をアンドープGaN層で覆うことにより露出しないようにすることができる。
【0113】
[第2の構造例]
図30は3端子構造の電界効果トランジスタを示す。
図30に示すように、アンドープGaN層41、アンドープAl
x Ga
1-x N層42、アンドープGaN層43およびp型GaN層44が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42上のアンドープGaN層43およびp型GaN層44はメサ型にパターニングされ、p型GaN層44上にp
+ 型GaNコンタクト層45がメサ型で設けられている。アンドープGaN層43およびp型GaN層44を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にソース電極46およびドレイン電極47が設けられている。ソース電極46とアンドープGaN層43およびp型GaN層44との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にp電極49を兼用するゲート電極48が、アンドープGaN層43およびp型GaN層44の端面からp
+ 型GaNコンタクト層45上に延在して設けられている。ゲート電極48は、例えばNi/Au二層膜からなり、p
+ 型GaNコンタクト層45に対してオーミック接触している。この電界効果トランジスタは、ゲート電極48とp電極49とを一体化した3端子構造を有し、
図25に示す電界効果トランジスタにおいてゲート電極48とp電極49とを一体化したものと等価である。
【0114】
[第3の構造例]
図31はノーマリーオフ型の3端子構造の電界効果トランジスタを示す。
図31に示すように、アンドープGaN層41、アンドープAl
x Ga
1-x N層42、アンドープGaN層43およびp型GaN層44が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42上のアンドープGaN層43およびp型GaN層44はメサ型にパターニングされ、p型GaN層44上にp
+ 型GaNコンタクト層45がメサ型で設けられている。アンドープGaN層43およびp型GaN層44を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にソース電極46およびドレイン電極47が設けられている。ソース電極46とアンドープGaN層43およびp型GaN層44との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層42に溝がアンドープGaN層43およびp型GaN層44の端面に連なって設けられ、p電極49を兼用するゲート電極48が、この溝の内部に埋め込まれ、さらにアンドープGaN層43およびp型GaN層44の端面からp
+ 型GaNコンタクト層45上に延在している。この電界効果トランジスタの閾値電圧の制御は、アンドープAl
x Ga
1-x N層42に設けられた溝の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層42の厚さ、あるいは溝形成時のエッチング残し量によって行う。
【0115】
[第4の構造例]
図32は3端子構造の電界効果トランジスタを示す。
図32に示すように、アンドープGaN層41、アンドープAl
x Ga
1-x N層42、アンドープGaN層43およびp型GaN層44が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42上のアンドープGaN層43およびp型GaN層44はメサ型にパターニングされ、p型GaN層44上にp
+ 型GaNコンタクト層45がメサ型で設けられている。アンドープGaN層43およびp型GaN層44を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にソース電極46およびドレイン電極47が設けられている。p
+ 型GaNコンタクト層45上にゲート電極48を兼用するp電極49が設けられている。この電界効果トランジスタの動作は、閾値電圧が深く(負側にシフト)なるほかは
図31に示す電界効果トランジスタと同様である。
【0116】
[第5の構造例]
図33はノーマリーオフ型の3端子構造の電界効果トランジスタを示す。
図33に示すように、アンドープGaN層41、アンドープAl
x Ga
1-x N層42、アンドープGaN層43およびp型GaN層44が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42上のアンドープGaN層43およびp型GaN層44はメサ型にパターニングされている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42に、アンドープGaN層43およびp型GaN層44の端面に連なって溝が設けられ、この溝の内部にp
+ 型GaNコンタクト層45が埋め込まれ、このp
+ 型GaNコンタクト層45と2次元正孔ガス(図示せず)とが接合している。p
+ 型GaNコンタクト層45は選択再成長により成長させることができる。アンドープGaN層43およびp型GaN層44を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層42上にソース電極46およびドレイン電極47が設けられている。p
+ 型GaNコンタクト層45上にゲート電極48を兼用するp電極49が設けられている。
図31に示す電界効果トランジスタにおいては、ゲート電極48はショットキー接合型であるが、この電界効果トランジスタにおいては、ゲート電極48はp/n接合型である。このようにこの電界効果トランジスタのゲート電極48はp/n接合型であるが、p/n接合の拡散電位が3.4Vであり、ショットキー接合の拡散電位〜1.4Vよりも+2V高く、ゲート閾値電圧を大きく取ることができる。p
+ 型GaNコンタクト層45の下方の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層42を完全に除去し、アンドープGaN層41にp
+ 型GaNコンタクト層45を接触させることも、閾値電圧の向上の観点から良い構造である。
【0117】
[第6の構造例]
図34は3端子構造のダイオードを示す。
図34に示すように、アンドープGaN層51、アンドープAl
x Ga
1-x N層52、アンドープGaN層53およびp型GaN層54が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層52上のアンドープGaN層53およびp型GaN層54はメサ型にパターニングされ、p型GaN層54上にp
+ 型GaNコンタクト層55がメサ型で設けられている。アンドープGaN層53およびp型GaN層54を挟んでアノード電極56およびカソード電極57が設けられている。アノード電極56は、アンドープGaN層51に達する深さに設けられた溝58の内部に埋め込まれ、アンドープGaN層51とアンドープAl
x Ga
1-x N層52との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層51に形成された2DEG(図示せず)と直接接触している。アノード電極56は、例えば、n型GaN系半導体に対しショットキー接触するNi/Au二層膜等で形成される。ソース電極57はアンドープAl
x Ga
1-x N層52上に設けられている。p
+ 型GaNコンタクト層55上にp電極59が設けられている。アノード電極56とp電極59とは互いに電気的に接続されている。このダイオードは、
図25に示す電界効果トランジスタのゲート電極48をその下のアンドープAl
x Ga
1-x N層52をエッチングしてアンドープGaN層51に接触させることによりショットキー接合を形成したものに相当する。必要に応じて、アノード電極56とp電極59とを一体に形成してもよい。
【0118】
[第7の構造例]
図35は2端子構造のダイオードを示す。
図35に示すように、アンドープGaN層51、アンドープAl
x Ga
1-x N層52、アンドープGaN層53およびp型GaN層54が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層52上のアンドープGaN層53およびp型GaN層54はメサ型にパターニングされている。アンドープAl
x Ga
1-x N層52に、アンドープGaN層53およびp型GaN層54の端面に連なって溝が設けられ、この溝の内部にp
+ 型GaNコンタクト層55が埋め込まれ、このp
+ 型GaNコンタクト層55と2次元正孔ガス(図示せず)とが接合している。アンドープGaN層53およびp型GaN層54を挟んでアノード電極56およびカソード電極57が設けられている。p
+ 型GaNコンタクト層55に連なってアンドープGaN層51に達する深さの別の溝58が設けられている。アノード電極56は、この別の溝58の内部に埋め込まれ、さらにp
+ 型GaNコンタクト層55上に延在している。アノード電極56は例えばNi/Au二層膜により形成される。ソース電極57はアンドープAl
x Ga
1-x N層52上に設けられている。
【0119】
[第8の構造例]
図36は2端子構造のダイオードを示す。
図36に示すように、アンドープGaN層51、アンドープAl
x Ga
1-x N層52、アンドープGaN層53およびp型GaN層54が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層52上のアンドープGaN層53およびp型GaN層54はメサ型にパターニングされ、p型GaN層54上にp
+ 型GaNコンタクト層55がメサ型で設けられている。アノード電極56とアンドープGaN層53およびp型GaN層54との間の部分のアンドープAl
x Ga
1-x N層52に溝60がアンドープGaN層53およびp型GaN層54の端面に連なって設けられている。この溝60の内部にp電極59が埋め込まれ、さらにアンドープGaN層53およびp型GaN層54の端面からp
+ 型GaNコンタクト層55上に延在し、アノード電極56と一体になって互いに電気的に接続されている。このダイオードは、
図32に示す、ゲート閾値電圧が0V以上のノーマリーオフ型(エンハンスメントモード)電界効果トランジスタのソース電極46とゲート電極48とを一体化させた構造を有する。カソード電極57に対してアノード電極56に正の電圧を印加するとショットキー接合がオンとなり、オーミック電極であるアノード電極56とカソード電極57との間に順電流が流れる。アノード電極56に負電圧を印加するとショットキー接合がオフとなり、隣に接しているアノード電極56とカソード電極57との間に電流は流れない。
【0120】
次に、
図37に示すような分極超接合構造を適用した電界効果トランジスタを作製し、動作実験を行った結果について説明する。この動作実験により、p電極のコンタクト抵抗がトランジスタのスイッチング特性に与える影響を評価することができる。
【0121】
図37に示すように、この電界効果トランジスタにおいては、アンドープGaN層61、アンドープAl
x Ga
1-x N層62、アンドープGaN層63およびp型GaN層64が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層62上のアンドープGaN層63およびp型GaN層64はメサ型にパターニングされている。アンドープGaN層63およびp型GaN層64を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層62上にソース電極65およびドレイン電極66が設けられている。p型GaN層64上には、p電極を兼用するゲート電極67が設けられている。
図37には、トランジスタがオンの状態の電子および正孔の状態を示す。符号68は2DHG、69は2DEGを示す。
図38に、トランジスタがオフの状態の電子および正孔の状態を示す。
図38では、ゲート電極67に負電圧が印加され、ゲート電極67を通じて正孔(2DHG68)が引き抜かれ、その直下の電子チャネル(2DEG69)が空乏化されている。このように、トランジスタのオン・オフ動作において、正孔(2DHG68)の注入/引抜きが行われる。もし、正孔(2DHG68)の移動に障害があれば、動特性に影響を及ぼす。
【0122】
正孔(2DHG68)の移動に影響を及ぼす要因としては、正孔の移動度がある。正孔の移動度は表3に示したように実験的には15〜30[cm
2 /Vs]程度である。この値は電子の移動度の1/500〜1/1000であり、正孔の移動速度が本トランジスタの速度を支配すると考えられる。とすると、スイッチング速度は通常のHFETの1/1000以下と推定される。従って、分極超接合領域の長さにも依るが、遮断周波数は数MHz〜数10MHz程度と推定される。しかし、Si−IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のスイッチング周波数は高々数10kHzであり、また、Si−パワーMOSFETのそれは数MHzである。超接合を用いたこの電界効果トランジスタは高耐圧パワー素子への適用であり、速度はSi−IGBTおよびSi−パワーMOSFET以上の速度が可能となる。
【0123】
ところで、上記速度を達成するためには、p電極のコンタクト抵抗が上記の正孔の移動速度に影響しないように小さくなければならない。そこで、p電極のコンタクト抵抗の影響を調べるために、コンタクト抵抗が互いに大きく異なる二つのトランジスタ1、2を作製し、動特性を調べた。トランジスタ1は
図39に示すような3端子構造である。
図39に示すように、トランジスタ1の層構造は、アンドープAl
x Ga
1-x N層62は厚さ47nmでx=0.23、アンドープGaN層63の厚さは25nm、p型GaN層64はMg濃度が1.5×10
19cm
-3で厚さ40nmである。トランジスタ2は
図40に示すような3端子構造である。
図40に示すように、トランジスタ2の層構造は、アンドープAl
x Ga
1-x N層62は厚さ47nmでx=0.23、アンドープGaN層63の厚さは25nm、p型GaN層64はMg濃度が1.5×10
19cm
-3で厚さ20nmであり、p型GaN層64上に、Mg濃度が1.5×10
19cm
-3で厚さ20nmのp型GaN層およびMg濃度が5×10
19cm
-3で厚さ40nmのp
+ 型GaNコンタクト層71が順次積層され、メサ型に形成されている。ただし、
図40においては、p型GaN層64上のp型GaN層はp
+ 型GaNコンタクト層71に含ませて図示している。トランジスタ2については、高濃度のp
+ 型GaNコンタクト層71が最表面に付加されているので、p電極を兼用するゲート電極67のコンタクト領域以外のp
+ 型GaNコンタクト層71はエッチングで除去した。エッチング量は60nmである。トランジスタ1のコンタクト抵抗は1.3×10
4 Ωcm
2 、トランジスタ2のコンタクト抵抗は0.84Ωcm
2 である。
【0124】
測定回路を
図41に示す。
図41に示すように、直流電圧源、負荷抵抗および試験用のトランジスタ(トランジスタ1または2)を直列に接続した。電源電圧を200Vに、負荷抵抗を392Ωに設定した。トランジスタ1または2をピンチオフ状態で10秒間保持し、次にゲート電極67に正電圧パルスを印加し、トランジスタ1または2をオンした。ゲート電極67に印加する正電圧のパルス幅は1μsである。なお、
図41においては、PSJ−FETであるトランジスタ1または2を記号で示した。この記号において、○は2DHGを示す。
【0125】
図42および
図43に、ゲート電圧V
g 、ドレイン電圧V
d 、ドレイン電流I
d の波形を示す。オフ状態からオン状態への遷移時には、負荷抵抗に電圧がかかるのでドレイン電圧V
d が低下してゆく。まず、トランジスタ1については、ドレイン電圧V
d の急速な降下の後、それ以上V
d の低下がなく一定値となった。一定に達したV
d 値は69Vであった。これは素子のチャネル抵抗が非常に大きいことを示しており、いわゆる電流コラプス状態となっている。なお、この現象をスイッチングコラプスと言い、通常のHFETでもこれが大きな問題となっている。これの原因は、正孔の注入速度が小さく、p型GaN層64の領域が負イオン化状態のままであり、クーロン的影響によりチャネル狭窄が生じており、小さなドレイン電流I
d と大きなドレイン電圧V
d の状態を生じている。なお、このトランジスタ1でもDC(パルス幅数100ms以上)では電流コラプスは解消されている。一方、オン状態からオフ状態への遷移は、ゲート電極67−ドレイン電極66間は200Vの極めて高い逆バイアス状態となるので、p電極を兼用するゲート電極67のp型GaN層64に対するコンタクト抵抗が高くても正孔は引抜かれ、100ns以下の速さで綺麗なオフ状態となっていることが分かる。
【0126】
次に、トランジスタ2の動特性を見てみる。
図43に示すように、ドレイン電圧V
d は200ns以下でほぼ下がり切っている。これは分極超接合領域が、200ns程度で正孔が注入され、中性化されていることを示している。
【0127】
以上により、p電極のコンタクト抵抗が小さいことが非常に重要であることが分かる。
【0128】
この第1の実施の形態によれば、特許文献3および非特許文献3で提案された、分極超接合を用いた半導体素子における高耐圧化と高速化との間のトレードオフ関係を容易に打ち破ることができ、高耐圧化と同時に、スイッチング時の電流コラプスの発生をなくし、かつ高速動作が可能な低損失のGaN系半導体素子を実現することができる。
【0129】
〈2.第2の実施の形態〉
第2の実施の形態によるGaN系半導体素子について説明する。
【0130】
第1の実施の形態においては、限界換算厚さをアンドープAl
x Ga
1-x N層23(あるいはアンドープAl
x Ga
1-x N層12)の構造(組成・厚さ)に対して求めた。ところで、Al
x Ga
1-x N層のAl組成や厚さを出来上がりの素子で簡便に計測することは容易ではない。ところが、電子濃度の測定は容易であり、従って素子の2DEG濃度と換算厚さtRとの関係を検討することの効用は大きい。そこでそれを検討する。前述してきたように、Al
x Ga
1-x N層の構造と2DEG濃度とは、上記の参考文献にもある通り、一次の関係にあり、換算厚さtRを基準HEMTの2DEG濃度との関係においても求めることができる。基準HEMTは、アンドープGaN層11と、その上に形成された厚さが25nm以上47nm以下のアンドープAl
x Ga
1-x N層12(0.17≦x≦0.35)とからなる構造を有する構造を有するHEMTであり、0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下の2DEG濃度を有する。この基準HEMTの2DEG濃度に対して、対応する分極超接合構造の限界2DHG濃度を与える換算厚さtRを図示すると
図44に示すようになる。
図44に、測定値に一致した1/x曲線を示した。基準HEMTの2DEG濃度を10
12cm
-2を単位としてn
S と表し、限界換算厚さをyと表す。このとき、
式
y=a/(n
S −b)+c (4)
において、実験値に一致する曲線のa、b、cは、a=24.22(丸めて24.2)、b=7.83、c=47.36(丸めて47.4)であった。
【0131】
上記の検討においては、アンドープAl
x Ga
1-x N層12のAl組成xは0.17≦x≦0.35、厚さは25nm以上47nm以下としているが、結晶成長の様々な条件によって、0.89×10
13cm
-2以上1.7×10
13cm
-2以下の2DEG濃度を有する基準HEMTのアンドープAl
x Ga
1-x N層23(あるいはアンドープAl
x Ga
1-x N層12)の構造(組成・厚さ)は変化し得る。そして、0.17≦x≦0.35のAl組成xおよび25nm以上47nm以下の厚さと異なるAl組成および厚さを有するアンドープAl
x Ga
1-x N層23によっても上記の2DEG濃度が得られることは、上記の参考文献と基準HEMTとの2DEG濃度の違いのように明らかである。なぜなら、2DEGは分極によって生じるからであり、アンドープAl
x Ga
1-x N層23はその分極を生じさせるために導入され、その分極度を得るためのアンドープAl
x Ga
1-x N層23の構造(組成・厚さ)は成長装置や温度などの様々な条件によって変化し得るからである。もっとも、そうは言っても、上記の0.17≦x≦0.35のAl組成および25nm以上47nm以下の厚さの範囲を大きく逸脱するものではない。従って、Al
x Ga
1-x N層の上記のAl組成および厚さに代えて、基準HEMTの2DEG濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.7×10
13cm
-2以下となるアンドープAl
x Ga
1-x N層23(0<x<1)に対して適用できる換算厚さtRは
tR≧24.2/(n
S −7.83)+47.4[nm] (5)
である。ただし、基準HEMTの2DEG濃度が0.89×10
13cm
-2以上1.70×10
13cm
-2以下である限り、アンドープAl
x Ga
1-x N層23の代わりにドナー(n型不純物)またはアクセプタ(p型不純物)がドープされたn型またはp型のAl
x Ga
1-x N層、例えばSiがドープされたn型Al
x Ga
1-x N層を用いてもよい。
【0132】
そこで、このGaN系半導体素子においては、換算厚さtRが式(5)を満たすようにアンドープGaN層13の厚さu[nm]、p型GaN層14の厚さv[nm]、p型GaN層14のMg濃度w[cm
-3]ならびにアンドープAl
x Ga
1-x N層12(あるいはドープされたAl
x Ga
1-x N層12)のAl組成および厚さが選ばれる。こうすることで、1×10
12cm
-2以上の濃度の2DHG16を生成することができる。
【0133】
このGaN系半導体素子の上記以外のことは、第1の実施の形態によるGaN系半導体素子と同様である。
【0134】
このGaN系半導体素子の具体的な構造例も、基本的には第1の実施の形態と同様である。
【0135】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0136】
〈3.第3の実施の形態〉
第3の実施の形態によるGaN系双方向電界効果トランジスタ(分極超接合双方向電界効果トランジスタ)について説明する。
【0137】
図45はこのGaN系双方向電界効果トランジスタを示す。
図45に示すように、アンドープGaN層41、アンドープAl
x Ga
1-x N層42、アンドープGaN層43およびp型GaN層44が順次積層されている。アンドープAl
x Ga
1-x N層42上のアンドープGaN層43およびp型GaN層44はメサ型にパターニングされている。p型GaN層44上に二つのp
+ 型GaNコンタクト層45a、45bがメサ型で、かつ互いに分離して設けられている。アンドープGaN層43およびp型GaN層44を挟んでアンドープAl
x Ga
1-x N層42上に二つのソース電極46a、46bが互いに分離して設けられている。p
+ 型GaNコンタクト層45a上にゲート電極として用いられるp電極49aが設けられ、p
+ 型GaNコンタクト層45b上にゲート電極として用いられるp電極49bが設けられている。ソース電極46a、46b、p
+ 型GaNコンタクト層45a、45bおよびp電極49a、49bは、アンドープGaN層43およびp型GaN層44に関して左右対称に形成されている。
【0138】
このGaN系双方向電界効果トランジスタは、ゲート電極として用いられるp電極49a、49bに印加される信号電圧(スイッチ信号)により、入力される交流電圧に対し、順逆両方向の電圧をオン/オフすることができる。この場合、入力される交流電圧の極性に応じて、ソース電極46aまたはソース電極46bがドレイン電極として働く。
【0139】
このGaN系双方向電界効果トランジスタは、マトリックスコンバータの双方向スイッチとして用いて好適なものである。一例を
図46に示す。
図46はマトリックスコンバータCを用いた三相交流誘導電動機Mの電源回路を示す。
図46に示すように、マトリックスコンバータCは、横方向の配線W
1 、W
2 、W
3 と縦方向の配線W
4 、W
5 、W
6 との各交差部に、各交差部で交差する横方向の配線と縦方向の配線とを接続する双方向スイッチSがマトリックス状に設けられている。配線W
1 、W
2 、W
3 には、三相交流電源Pの各相の電圧が入力フィルタFを介して入力される。配線W
4 、W
5 、W
6 は三相交流誘導電動機Mに接続されている。双方向スイッチSとしては、
図45に示すGaN系双方向電界効果トランジスタが用いられる。
【0140】
図46に示す電源回路においては、マトリックスコンバータCの双方向スイッチSを高速でオン/オフすることにより、配線W
1 、W
2 、W
3 に入力される三相交流の各相の電圧を直接、パルス幅変調(PWM)により短冊状に切り出し、それによって得られる任意の電圧および周波数の交流電圧を配線W
4 、W
5 、W
6 に出力し、三相交流誘導電動機Mを駆動する。
【0141】
このGaN系双方向電界効果トランジスタは、マルチレベルインバータの双方向スイッチとして用いても好適なものである。マルチレベルインバータは、例えば、電力変換システムの電力変換効率の向上に有効である(例えば、富士時報 Vol.83 No.6 2010,pp.362-365 参照。)。
【0142】
この第3の実施の形態によるGaN系双方向電界効果トランジスタによれば、双方向に構成されていないGaN系電界効果トランジスタ、例えば
図32に示すGaN系電界効果トランジスタに比べて、ゲート電極にスイッチ信号が入力された時の立ち上がり時間を短縮することができ、高速動作化を図ることができる。このため、このGaN系双方向電界効果トランジスタを
図46に示すマトリックスコンバータCの双方向スイッチSに用いることにより、双方向スイッチSをより高速でスイッチングすることができ、マトリックスコンバータCの高速動作化を図ることができる。これによって、高性能のマトリックスコンバータCを実現することができ、このマトリックスコンバータCを用いることにより高性能の交流電源回路を実現することができる。同様に、高性能のマルチレベルインバータを実現することができ、このマルチレベルインバータを用いることにより高効率の電力変換システムを実現することができる。
【0143】
〈4.第4の実施の形態〉
第4の実施の形態によるGaN系双方向電界効果トランジスタについて説明する。
このGaN系双方向電界効果トランジスタは、式(5)が成立することを除いて、第3の実施の形態によるGaN系双方向電界効果トランジスタと同様な構成を有する。第3の実施の形態によるGaN系双方向電界効果トランジスタと同様に、このGaN系双方向電界効果トランジスタは、
図46に示すマトリックスコンバータCの双方向スイッチSあるいはマルチレベルインバータの双方向スイッチとして用いることができる。
【0144】
この第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0145】
〈5.第5の実施の形態〉
第5の実施の形態においては、第1〜第4の実施の形態のいずれかによるGaN系電界効果トランジスタまたはGaN系双方向電界効果トランジスタを構成するチップを実装基板上にフリップチップ実装した実装構造体について説明する。
【0146】
まず、この実装構造体の意義およびその説明を分かりやすくするために、本発明者が行った考察について説明する。
【0147】
この発明による電界効果トランジスタにおいては、分極接合の利点と超接合の利点とを兼ね備えた分極超接合と呼ばれるものの原理を用いているので、走行チャネル全域に亘って低い均一電界を実現することができる。一例として、サファイア基板上に作製した
図47に示す電界効果トランジスタ(PSJ−FET)のオフ耐圧の、分極超接合領域の長さ(PSJ長(L
psj ))に対する依存性を
図48に示す。この電界効果トランジスタは、
図32に示す電界効果トランジスタとほぼ同様な構造を有する。p型GaN層44上にp
+ 型GaNコンタクト層45がメサ型で設けられているが、
図47においては図示されていない。また、ゲート電極を兼用するp電極49は、アンドープGaN層43、p型GaN層44およびp
+ 型GaNコンタクト層45の端面からp
+ 型GaNコンタクト層45上に延在して設けられている。
図47に示すように、PSJ長L
psj は、ゲート電極を兼用するp電極49のドレイン電極47側の端面とアンドープGaN層43およびp型GaN層44のドレイン電極47側の端面との間の距離である。符号40はサファイア基板を示す。L
psj を10μm、20μm、30μm、40μmと変化させた四種類の電界効果トランジスタを作製した。
図48から分かるように、オフ耐圧は、L
psj =10μmの場合には1800Vが得られ、L
psj =40μmの場合には6000Vも得られた。オフ耐圧はL
psj に比例しており、超接合の効果が実現している。耐圧がL
psj に比例しているから、もし耐圧を2倍にしたければ、L
psj を2倍にすればよい。
【0148】
以上はサファイア基板40上に作製した電界効果トランジスタに関する結果であるが、下地の基板をSi基板にすると、こうはならない。すなわち、
図47に示す構造を有する電界効果トランジスタをSi基板上に作製した場合について考察する。
図49にこの電界効果トランジスタを示す。この電界効果トランジスタは
図32に示す電界効果トランジスタとほぼ同様な構造を有する。
図49に示すように、この電界効果トランジスタにおいては、Si基板80上に厚さが100nmのAlN層81、厚さが1.5μmのAlGaNバッファ層82、厚さが2.5μmのアンドープGaN層83、厚さが40nmのアンドープAl
0.23Ga
0.77N層84、厚さが30nmのアンドープGaN層85およびアクセプタ濃度が1×10
19cm
-3で厚さが20nmのp型GaN層86が順次積層されている。アンドープAl
0.23Ga
0.77N層84上のアンドープGaN層85およびp型GaN層86はメサ型にパターニングされ、p型GaN層86上にアクセプタ濃度が1×10
20cm
-3で厚さが5nmのp
+ 型GaNコンタクト層87がメサ型で設けられている。アンドープGaN層85およびp型GaN層86を挟んでアンドープAl
0.23Ga
0.77N層84上にソース電極88およびドレイン電極89が設けられている。アンドープGaN層85はその両端面がそれぞれソース電極88およびドレイン電極89と接触するように延在している。p
+ 型GaNコンタクト層87上にゲート電極を兼用するp電極90が設けられている。アンドープAl
0.23Ga
0.77N層84とアンドープGaN層85との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層85に2DHG15が形成され、かつ、アンドープGaN層83とアンドープAl
0.23Ga
0.77N層84との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層83に2DEG16が形成されている。この場合、ゲート幅W
g =0.1mm、L
psj =18μmである。
【0149】
図50は、この電界効果トランジスタ(PSJ−FET)のドレイン電流−ドレイン電圧特性の測定結果を示す。ただし、ゲート電圧V
g =−10Vである。
図50の縦軸は対数目盛である。
図50に示すように、この電界効果トランジスタは、ドレイン電圧が800V近辺からドレイン電流が増加している。
図50の縦軸をリニア目盛としたものを
図51に示す。
図51より、ドレイン電圧が950V付近からドレイン電流が急激に増加していることが分かる。すなわち、Si基板80上の電界効果トランジスタ(PSJ−FET)のオフ耐圧は約950Vで、
図47に示すサファイア基板40上の電界効果トランジスタのオフ耐圧に比べて小さい。これは、Si基板80上の電界効果トランジスタでは、動作時に、電子がソース電極88から下地のSi基板80に抜けてからドレイン電極89に達するリーク電流パス、あるいは、電子がソース電極88からSi基板80とAlN層81との界面を経由してドレイン電極89に達するリーク電流パスが存在することによることが判明している。Si基板80の耐圧は0.3MV/cmとGaNの耐圧より一桁小さいことが原因である。
【0150】
Si基板上の電界効果トランジスタのリーク電流の低減を図るためには、Si基板を除去してそこに絶縁性物質をコーティングして絶縁基板上の素子とすればよい。
図52は、Si基板を除去する前の電界効果トランジスタ(試料A)およびSi基板を除去してそこに例としてエポキシ樹脂をコーティングして絶縁基板上の素子とした後の電界効果トランジスタ(試料B)のドレイン電流−ドレイン電圧特性の測定結果を示す。ただし、試料A、Bとも、W
g =1mm、L
psj =25μmである。
図52から分かるように、Si基板を除去してそこにエポキシ樹脂をコーティングして絶縁基板上の素子とした試料Bでは、リーク電流は、Si基板を除去する前の試料Aのリーク電流値の4000分の1に減少した。ただし、試料Aのドレイン電流値=10μA(1×10
-5A)をコンプライアンス電流値とした。電界効果トランジスタが破壊に至る電圧(破壊電圧)については、このときに使用した測定器で印加することができる最大電圧が1100Vであったことにより破壊に至らなかったため不明であるが、以上のことから、Si基板を除去することでGaN本来の超高耐圧性能が得られることが証明された。
【0151】
ところで、従来のフィールドプレート(FP)技術とサファイア基板との組み合わせによって、電界効果トランジスタの高耐圧化と電流コラプス制御とが可能であるか、考察してみる。まず、フィールドプレートによって、フィールドプレートなしの場合よりも耐圧を高めることはできる。その理由は、フィールドプレートによって電界のピークを分割し最高電界を小さくすることができるためである。また、フィールドプレートにより電流コラプスも緩和することが同じ理由で可能である。しかしながら、サファイア基板上のフィールドプレート付きGaN系HFETは電流コラプスの抑制が非常に不十分であることが知られ、現在では、サファイア基板上へのGaN系HFETの実用化開発は高電流応用では断念されている。実際、
図53に示すように、従来のサファイア基板上のGaN系HFETは電流コラプスが非常に大きく、実用的ではない。すなわち、ストレス電圧が50V以上で電流コラプスが生じている。ただし、GaN系HFETは、
図53中の挿入図に示すように、サファイア基板上にアンドープGaN層およびAl
x Ga
1-x N層が順次積層され、Al
x Ga
1-x N層上にゲート電極G、ソース電極Sおよびドレイン電極Dが形成されたものである。これに対して、
図52に示すように、例えば
図32に示す電界効果トランジスタ(PSJ−FET)ではサファイア基板上に形成されたものであっても全く電流コラプスが生じない。すなわち、PSJ−FETでは、ストレス電圧が350Vでも電流コラプスが生じていない。ここで、
図53は電流コラプスを測定した結果であり、横軸はストレス電圧、縦軸はストレス電圧印加前後のチャネル抵抗(オン抵抗)の比、すなわちストレス電圧印加前のチャネル抵抗R
On(印加前)に対するストレス電圧印加後のチャネル抵抗R
On(印加後)の比R
On(印加後)/R
On(印加前)である。ここで、ストレス電圧とは、ゲート電極を負にバイアスしてトランジスタをオフ状態にし、大きなドレイン電圧を印加するときのそのドレイン電圧のことである。ストレス電圧の印加により、ゲート・ドレイン間に大きな電圧(電界)が印加される。電流コラプスの測定方法は次の通りである。ゲート電極にゲート電圧(V
g )として+1Vのオン電圧を印加した状態で、ドレイン電圧(V
d )を0から10V程度まで印加し、ドレイン電流(I
d )を測定する。次に、上記のストレス電圧を1秒間程度印加し、V
d を0V、V
g を+1Vにセットする。次に、V
d を0から10Vまで印加し、I
d を測定する。I
d の勾配(コンダクタンス)の逆数(チャネル抵抗)の比、すなわちR
On(印加後)/R
On(印加前)を求める。こうして求めたR
On(印加後)/R
On(印加前)をストレス電圧に対してプロットしたものが
図53である。
【0152】
図53が示す意味を改めて説明すると、従来のGaN系HFETはチャネル層であるアンドープGaN層の下側(表面電極と反対側)はサファイア基板であり絶縁的であるため電流コラプスが生じてしまい、実用性がないということである。一方、伝導性のSi基板上にGaN系HFETを形成した後、Si基板を除去して高耐圧化を図ろうとすると電流コラプスが生じる。従って、現在では、電流コラプスの抑制の観点から除去することのできないSi基板の耐圧によって、GaN系HFETの実用的な耐圧が数100Vに制限されてしまっている。これに対して、この発明による電界効果トランジスタ(PSJ−FET)では、チャネル層であるアンドープGaN層(より一般的にはアンドープInGaN層)の下側が絶縁基板であっても電流コラプスが生じないので、サファイア基板は勿論、Si基板を結晶成長のベース基板に用いても、それを除去することによって、電流コラプスフリーの高耐圧素子を製造することができる。
【0153】
さて、高耐圧化のために、チャネル層であるアンドープGaN層の下部を絶縁基板とした場合の課題は、放熱性である。サファイアは熱伝導率が概ね30[W/mK]である。Si基板を結晶成長のベース基板とした場合、それを除去し、絶縁基板で支持する構造をとるとき、その熱伝導性が問題となる。実際、ポリイミドやエポキシ樹脂の熱伝導率は0.5から5[W/mK]である。このようにサファイアもポリイミドやエポキシ樹脂も熱伝導性が悪いため、このままでは素子の温度上昇が生じてしまうため、実用化することができない。
【0154】
放熱の問題は、公知の技術であるフリップチップ技術を改良適用することによって解決することができる。フリップチップ技術は、配線技術のカテゴリーに含まれ、ディジタル系高密度実装技術として発展している。通常、パッケージ内の(セラミック)基板とダイ(チップ)との間の配線はワイヤボンディング法によって行われているが、ダイのボンディング領域の縮小化のため、ハンダボールバンプを介して基板とダイパッドとの間をフェース・ツー・フェース(face to face) で直接結合させる。また、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)などの発光素子では、放熱の目的のため、サブマウント基板上にチップのほぼ全面をハンダ接合させるが、これもフリップチップの範疇である。一方、GaN系素子に対するフリップチップ技術は、本発明者の知る限り、電子素子(電子走行素子)に対しては殆ど報告がない。
【0155】
さて、フリップチップ技術においては、チップの放熱を目的とした場合、チップの発熱部に近接した領域でサブマウント基板と接合する必要がある。横型高電流電界効果トランジスタでは通常、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極とも櫛型構造(interdigital structure) をとるが、その櫛の歯のオーミック電極、すなわちソース電極およびドレイン電極にサブマウント基板を直接、熱接触させることが望ましい。
図54にその例を示す。すなわち、
図54に示すように、例えばSi基板上に電界効果トランジスタ(PSJ−FET)(一例として、
図48に示すGaN系電界効果トランジスタの構造を有する場合を示す。)を形成した後、まず公知の方法でSi基板を除去し、露出した面に絶縁層91を形成する。絶縁層91は、例えば、ポリイミドなどの有機系材料やSOG(スピンオングラス)などの無機硝子系材料であればスピンコート法などで塗布することにより形成することができる。サファイア基板上に形成した電界効果トランジスタ(PSJ−FET)であれば、サファイア基板を厚さ100μm程度まで薄化処理することが望ましい。ソース電極88およびドレイン電極89は、メッキ法により数μmから10μm程度の高さの金属ピラー状に形成されている。一方、サブマウント基板92上にソース電極88およびドレイン電極89と概略同じサイズにパターニングされた金属層93、94を形成し、かつその上にハンダ層95(またはハンダボール)を形成したものを用意し、このサブマウント基板92のハンダ層95をソース電極88およびドレイン電極89に位置合わせした状態で接触させる。サブマウント基板92としては、例えば、Si基板、SiC基板、ダイヤモンド基板、BeO基板、CuW基板、CuMo基板、Cu基板、AlN基板などを用いることができる。次に、この状態で加熱することによりハンダ層95を溶融させてソース電極88およびドレイン電極89と金属層93、94とを溶着させる。この溶着のとき、溶融したハンダの表面張力によりソース電極88およびドレイン電極89と金属層93、94とが互いに自己整合するので、合わせ精度を要しない。市販のダイマウンター装置で可能である。なお、オーミック電極幅、すなわちソース電極88およびドレイン電極89の幅は、サブマウント基板92上の金属層93、94のパターンに対して通常のダイマウンターで位置合わせすることが可能な程度の幅を必要とするが、一般的には20μm以上あれば十分である。この実装構造体においては、動作時に電界効果トランジスタから発生する熱は、ソース電極88およびドレイン電極89と金属層93、94とを経由してサブマウント基板92に迅速に伝わり、最終的にサブマウント基板92から外部に放熱が行われる。なお、ソース電極88およびドレイン電極89のうちの一方だけ(例えば、ドレイン電極89だけ)を金属層93または金属層94を介してサブマウント基板92に接続するようにしてもよく、この場合も同様に最終的にサブマウント基板92から放熱を有効に行うことができる。
【0156】
図55に電界効果トランジスタを構成するチップ96とサブマウント基板92との全体像の一例を示す。サブマウント基板92上の金属層93、94はそれぞれ櫛の歯状に形成されており、これらの金属層93、94が、チップ96上に互いに分離したパターンとして形成されているソース電極88およびドレイン電極89とそれぞれ接続されている。チップ96の外側の部分の金属層93、94には、ワイヤボンディング用の幅広の引出し電極パッド部が形成されている。この場合、チップ96に引出し電極パッドを設ける必要がないので、ワイヤーボンディング領域の面積を節約することができ、その分だけチップ96を小型化することが可能であり、ひいては電界効果トランジスタの製造コストの低減を図ることができる。参考のために、ワイヤボンディング法によりパッケージングを行った従来の横型パワートランジスタのチップの一例の写真を
図56に示す。このチップでは、チップにおいて真性領域(素子領域)とは別にワイヤボンディング領域が必要であるため、チップの面積が増大する。
【0157】
以上のように、この第5の実施の形態によれば、第1〜第4の実施の形態によるGaN系電界効果トランジスタ(PSJ−FET)とフリップチップ技術との組み合わせによって新規な実装構造体を実現することができる。この実装構造体によれば、次のような利点を得ることができる。すなわち、サブマウント基板92上にGaN系電界効果トランジスタを構成するチップ96をフリップチップ実装しているため、動作時にチップ96で発熱する熱をサブマウント基板92に迅速に逃がすことができ、このサブマウント基板92から外部に効率的に放熱を行うことができる。このため、チップ96の温度上昇を抑えることができる。また、GaN系電界効果トランジスタ(PSJ−FET)の印加電圧の制限がなくなり、600V以上の超高耐圧GaN系電界効果トランジスタを実現することができる。また、結晶成長に用いるベース基板として、サファイア基板やSi基板などのいずれも用いることができる。また、素子側の引出しパッド電極領域を設ける必要がなくなり、チップサイズを真性領域のサイズに減少させることができる。このように、この第5の実施の形態によれば、横型高電流素子としてのGaN系電界効果トランジスタにこれまでにない新しい価値を生じさせることができる。これは、従来のフィールドプレート技術を用いたGaN系HFETでは決して実現することができないものである。
【0158】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0159】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、形状、材料などを用いてもよい。
【0160】
例えば、
図29〜
図33に示すGaN系電界効果トランジスタにおいて、
図29〜
図33中一点鎖線で示すように、アンドープGaN層43をその端面がドレイン電極47と接触するまで延在させるようにしてもよい。こうすることで、アンドープGaN層43がアンドープAl
x Ga
1-x N層42の表面保護膜(キャップ層)として機能することによりアンドープAl
x Ga
1-x N層42の表面安定性の向上を図ることができ、ひいてはGaN系電界効果トランジスタの特性の向上を図ることができる。
図29に示すGaN系電界効果トランジスタにおいてはさらに、
図29中一点鎖線で示すように、アンドープGaN層43をその端面がゲート電極48と接触するまで延在させるようにしてもよい。また、
図32に示すGaN系電界効果トランジスタにおいてはさらに、
図32中一点鎖線で示すように、アンドープGaN層43をその端面がソース電極46と接触するまで延在させるようにしてもよい。また、
図34〜
図36に示すGaN系ダイオードにおいて、
図34〜
図36中一点鎖線で示すように、アンドープGaN層53をその端面がカソード電極57と接触するまで延在させるようにしてもよい。こうすることで、アンドープGaN層53がアンドープAl
x Ga
1-x N層52の表面保護膜として機能することによりアンドープAl
x Ga
1-x N層52の表面安定性の向上を図ることができ、ひいてはGaN系ダイオードの特性の向上を図ることができる。
図30に示すGaN系ダイオードにおいてはさらに、
図34中一点鎖線で示すように、アンドープGaN層53をその端面がアノード電極56と接触するまで延在させるようにしてもよい。また、
図44に示すGaN系双方向電界効果トランジスタにおいて、
図44中一点鎖線で示すように、アンドープGaN層43をその端面がソース電極46a、46bと接触するまで延在させるようにしてもよい。こうすることで、アンドープGaN層43がアンドープAl
x Ga
1-x N層42の表面保護膜として機能することによりアンドープAl
x Ga
1-x N層42の表面安定性の向上を図ることができ、ひいてはGaN系双方向電界効果トランジスタの特性の向上を図ることができる。必要に応じて、
図29〜
図33に示すGaN系電界効果トランジスタ、
図34〜
図36に示すGaN系ダイオードおよび
図44に示すGaN系双方向電界効果トランジスタにおいて、アンドープAl
x Ga
1-x N層42あるいはアンドープAl
x Ga
1-x N層52の露出した表面の全体がアンドープGaN層43あるいはアンドープGaN層53で覆われるようにしてもよい。
【0161】
また、第1または第2の実施の形態によるGaN系半導体素子のうちのノーマリーオン型の電界効果トランジスタは、安価な低耐圧Siトランジスタとの公知のカスコード回路実装によりノーマリーオフ型化が可能である。
図57Aはこのノーマリーオン型電界効果トランジスタT
1 と低耐圧ノーマリーオフ型SiMOSトランジスタT
2 とを用いたカスコード回路を示す。
図57Bはこのノーマリーオン型電界効果トランジスタT
1 と低耐圧ノーマリーオフ型SiMOSトランジスタT
2 とを用いた変形カスコード回路を示す。
図57Cはこのノーマリーオン型電界効果トランジスタT
1 と低耐圧ノーマリーオフ型SiMOSトランジスタT
2 とショットキーダイオードDと抵抗Rとを用いた変形カスコード回路を示す。
図57Dはこのノーマリーオン型電界効果トランジスタT
1 と低耐圧ノーマリーオフ型SiMOSトランジスタT
3 とキャパシタCと抵抗Rとを用いた変形カスコード回路を示す。
図57Aに示すカスコード回路においては、高耐圧側のノーマリーオン型電界効果トランジスタT
1 のオン時のゲート電圧(V
gs)は0Vになるが、このノーマリーオン型電界効果トランジスタT
1 においては、正のゲート電圧を印加することが有効である。そのために、
図57B、
図57Cまたは
図57Dに示すような変形カスコード回路を用いることが有効である。また、このようにカスコード回路あるいは変形カスコード回路を用いるとともにゲートドライバーを一つのパッケージ内に配置することも、従来公知の技術により可能である。
【課題】分極超接合を用いた半導体素子における高耐圧化と高速化との間のトレードオフ関係を容易に打ち破ることができ、高耐圧化と同時に、電流コラプスの発生をなくし、かつ高速動作が可能な低損失の半導体素子を提供する。
【解決手段】半導体素子は分極超接合領域とp電極コンタクト領域とを有する。分極超接合領域は、アンドープGaN層11、厚さ25nm以上47nm以下、0.17≦x≦0.35のアンドープAl
)と定義したとき、tR≧0.864/(x−0.134)+46.0[nm]が成立する。p電極コンタクト領域は、p型GaN層14と接触して設けられたp型GaNコンタクト層とこれにオーミック接触したp電極とを有する。