【実施例】
【0021】
2箇所の製紙工場からPS灰のサンプル(それぞれ「OTo灰」及び「OTs灰」という。)を採取して、その化学組成、密度、ブレーン比表面積及び材料構造の特徴を評価した。
【0022】
次に、PS灰とアルカリ活性剤と汚染水の三者を混合することを想定してジオポリマー固化体(以下「PS灰ジオポリマー」という。)を作製した。型枠寸法は2×2×8cmの3個取である。各例におけるPS灰ジオポリマーの配合を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
アルカリ溶液としては、0号液及び1号液の2種類を用いた。0号液とは、1号水ガラス水溶液(比重1.27、濃度Na
2O・2SiO
2として24%)と苛性ソーダ水溶液(比重1.33、濃度32%、モル濃度10M)を3:1の体積比で混合したものである。1号液とは、上記1号水ガラス水溶液のみからなるものである。なお、これらのアルカリ溶液の溶媒は、実際には汚染水とする。
【0025】
ジオポリマー固化体(PS灰ジオポリマー)の放射性核種固定率を試験するために、非放射性のストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)の硝酸塩粉末をPS灰100質量部に対してそれぞれ外割で1質量部混合し、表1に示した液固比で上記の0号液及び1号液をそれぞれ加え、十分混練した後に型枠に流し込んだ。このやり方に従えば、液固比が1より大きくなるにつれて、対汚染水の模擬核種濃度は少しずつ低下するが、実汚染水の再現には優に十分過ぎる量であり、模擬核種固定率の計算を単純に行うことができる利点がある。この添加量を原子換算すると、Sr=0.4140%、Cs=0.6819%に相当する。(注:福島第一原発の事故で想定される汚染水の最高放射線量は10
9Bqのオーダーである。本実施例では10
12Bqオーダーに相当する模擬核種を混合した。)
【0026】
本実施例では、OTo灰を用いた例では、Sr、Csを単独で添加し、OTs灰を用いた例では、Sr及びCsを同時に添加した。
【0027】
なお、実操業においては、放射性核種で汚染された汚染水を用いるわけであるから、アルカリ溶液として、前もって上記のような0号液及び1号液を調製して用いると反応沈殿を生ずる恐れがある。それを避けるために、0号液及び1号液に使用するアルカリ活性剤は粉末あるいはペレット(粒状体)の形態で所定量加えることが好ましい。また、アルカリ溶液としては、総合的に0号液の組成がより好ましいが、これに限定されるものではない。
【0028】
作製した曲げ試験体を飽和湿度の大気中に20℃の室温に保持し、一晩経過してから脱型し、その後、材齢28日まで養生を続けた。28日材齢の密度と曲げ強度をそれぞれ測定し、各3本の供試体の平均値を用いて密度と曲げ強度を評価した。
【0029】
また、曲げ試験後の供試体を更に14日間、常温の大気中に放置し養生した。その後、4mmアンダーに粉砕して12.5gの粉粒体を採取し、酸性雨を想定してpH4.01の液を使い、液固比が10の条件で6時間振盪し、ICP−AESによってストロンチウムとセシウムの溶出量を評価した。
【0030】
以下、評価結果を説明する。
【0031】
(1)PS灰の物理・化学特性
2箇所の製紙工場で発生したPS灰(OTo灰及びOTs灰)の密度、比表面積及び化学組成を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
PS灰は、密度と粉末度(ブレーン比表面積)がJISII種フライアッシュと同程度であり、主な成分がSiO
2,Al
2O
3及びCaOである。すなわち、PS灰は、ジオポリマー固化体の作製に必須の活性成分SiO
2,Al
2O
3を有するため、活性フィラーとして使うことができる。PS灰の主成分を従来一般的に知られている活性フィラーと対比して、CaO−SiO
2−Al
2O
3三成分系の三角座標で示すと
図1のようになる。
【0034】
PS灰を活性フィラーとしてジオポリマー固化体を作製する場合、一般的な活性フィラーを用いるのに比べ、液固比を高くする必要があった(表1参照)。すなわち、PS灰ジオポリマーを作製するには、従来に比べ多くの液体が必要であった。このメカニズムを解明するために、SEM(走査型電子顕微鏡)によってPS灰の構造を観察した。PS灰のSEM写真を
図2に示す。PS灰は巣状多孔構造を有する。この巣状多孔構造のためPS灰が高い吸水性を示し、結果として、PS灰ジオポリマーの作製に多くの液体が必要になると推測される。
【0035】
(2)PS灰ジオポリマーの力学性能及び放射性核種の添加の影響
表1に示した各配合のPS灰ジオポリマーの28日材齢における力学性能、及びストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)の添加有無の影響を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
アルカリ溶液として1号液を用いた場合、0号液を用いた場合に比べ強度と嵩密度は高いが、可使時間が約3分であった。可使時間が短いと、成型が難しくなる。ただし、PS灰との混練と成型の作業を機械的に連続して行えるようにすれば、約3分という可使時間は問題とはならない。
【0038】
一方、アルカリ溶液として0号液を用いた場合、可使時間は約15分で、非連続的な作業の場合でも成型は問題なく行える。曲げ強度は1MPa弱(推定圧縮強度は5MPa弱)と、1号液を用いた場合に比べ低下しているが、本発明におけるPS灰ジオポリマーの使途は構造用ではなく汚染水の処理用であるから、汚染水を閉じ込めて固化している状態であればよく、高い強度は必要ではない。また、この0号液を用いた場合のPS灰ジオポリマーの強度は、通常の気泡コンクリート(ALC)と同程度である。PS灰ジオポリマーの密度を1.6g/cm
3とした試算によると、PS灰ジオポリマーのブロックを300mまで積み上げても、自重で最下層のブロックが壊れることはない。
【0039】
また、ストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)の硝酸塩を添加した場合の影響であるが、無添加の場合に比べ、セシウムを添加した場合にやや強度が低下する傾向が認められたが、力学性能を損なう程のものではない。また、実際の汚染水濃度は本模擬実験の濃度より遥かに低いので問題にならない。
【0040】
(3)PS灰ジオポリマーから放射性核種の溶出
ストロンチウムとセシウムの溶出試験結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
ストロンチウム(Sr)の固定率は、Srの単独添加、Sr,Csの同時添加を問わず、アルカリ溶液として0号液を用いた場合に、OTo灰、OTs灰双方とも99.99%以上と高く、良好な結果であった。一方、アルカリ溶液として1号液を用いた場合、ストロンチウムの固定率は、OTo灰は99.46%で、OTS灰は96.76%であった。
【0043】
セシウム(Cs)の固定率は、Csの単独添加、Sr,Csの同時添加を問わず、0号液と1号液共に95%前後で、ストロンチウムの固定率に比べて低かった。しかし、固定率が95%であっても、天水や地下水に浸さなければ溶出しないので安全は維持される。
【0044】
以上の結果をまとめると、以下のとおりである。
1)PS灰を活性フィラーとしてジオポリマーを製造できる。
2)PS灰は多孔質構造を有し、水分吸着量が多い。また、ジオポリマーは金属イオンを固定する特徴がある。このため、PS灰と汚染水を溶媒とするアルカリ溶液でジオポリマー固化体を作製することよって放射能汚染水を処理できる。
3)苛性ソーダを使わない低廉な1号液を用いた場合、PS灰ジオポリマーの可使時間がかなり短くなることから、PS灰ジオポリマー化のアルカリ溶液としては苛性ソーダを使う0号液が好適である。
4)一般に、PS灰ジオポリマーの強度は、ストロンチウムの添加によって低下しないが、セシウムの添加では強度がやや低下する場合がある。しかし、強度を損なうほどではなく問題ではない。
5)PS灰ジオポリマーにおけるストロンチウムとセシウムの固定率は、それぞれ99%以上と95%以上を達成することができる。1号液に比べ、0号液を用いたPS灰ジオポリマーのストロンチウム固定率は高く、ストロンチウムはほとんど溶出しない(固定率は99.99%以上)。また、同じアルカリ溶液を使う場合、固定率の測定結果は、セシウムよりストロンチウムの方が高い。仮にセシウムは若干溶出して環境基準をクリアできなければ、後述する措置(非常用ミニ処理システムの稼動)を講じることによって、PS灰ジオポリマー化で放射能汚染水を問題なく処理することができる。
【0045】
図3は、本発明を適用した放射能汚染水の処理フローの一例を示す。これは、福島第一原子力発電所で発生している放射能汚染水の処理を想定したものである。
【0046】
まず、PS灰にアルカリ活性剤を加えて混合し、更に汚染水を加え練り混ぜて型枠に流し込み、ジオポリマーブロック(PS灰GPブロック)を作製する。脱型は一晩経過した段階で可能である。
【0047】
次に、PS灰GPブロックを積んで、ダムの形でブロックを放置・管理する。このPS灰GPブロックによるダムは、半地下管理、地上管理あるいは廃船流用の洋上管理のいずれもできる。風雨に曝されないように、ダムの頂上には天蓋(キャップ)を設置する。また、水と水蒸気の進入を阻止するために、ダムの壁面には防水仕上げを施す。ダムの頂上からの水蒸気の放出に伴って、トリチウムは放出するが、現在の環境基準はクリアするから問題とならない。なお、ガスクロマト装置等によりトリチウムを安価かつ容易に回収することもできる。
【0048】
このようなダムによる管理方法では、当該ダムからの水漏れは想定されないが、何らかの原因でダムが浸水した場合、セシウムが少し溶出する恐れがある。そこで、万全を期すために、ダムの底面において浸出水の非常用ミニ処理システムを設置する。収集した浸出水は線量に応じて従来の吸着法で処理して放流する。
【0049】
また、将来、仮にダム壁に亀裂が生じてダム側面から水が漏出した場合に備えて、ダム底面の周囲に粉末バリアーを設けており、これにより放射性核種の拡散を食い止めることができる。
【0050】
上に述べた方法で液体の汚染水自体をタンク管理するよりは固体で管理した方がはるかに安価かつ安全であるが、汚染水の排出が続く限り、タンク群と同様にダム群も増え続けることに変わりはない。これを打破するために、PS灰GPブロックがある程度乾いた段階で溶融しスラグ化し、いわゆる浅所埋設管理(Shallow burial)を行うのが好ましい。この方法は原発の低レベル廃棄物の処理方法(下記参考文献)と同様である。
【0051】
参考文献
N. G. Vasil’eva, N. N. Anshits, O. M. Sharonova, M. V. Burdin, and A. G. Anshits:Immobilization of cesium and strontium radionuclides in framework aluminosilicates with the use of porous glass-ceramic materials based on coal fly ash cenospheres. Glass Physics and Chemistry, Vol.31, No. 5, pp. 637-647, 2005.