(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オペレータが搭乗する運転台と、前記運転台を昇降させる昇降装置と、前記運転台から前記オペレータが落下したときに前記オペレータを吊り下げる安全装置とを備える荷役車両において、
前記運転台から前記オペレータが落下したことを検出する落下検出部と、
人の発した音声が入力される音声入力部と、
前記音声入力部に入力された音声から、前記オペレータが発した音声を少なくとも認識する音声認識部と、
前記昇降装置を制御する制御部とを備え、
前記音声認識部は、前記落下検出部により前記オペレータが落下したことを検出したときに音声の受け付け状態となり、
前記制御部は、前記落下検出部が前記オペレータの落下を検出したとき、前記音声認識部により認識された音声に基づいて前記昇降装置を制御することにより、前記運転台を下降させる
ことを特徴とする荷役車両。
前記運転台が昇降する方向である高さ方向において、前記昇降装置により前記運転台を下降させることができる最も低い高さを最低高さとし、前記最低高さよりも所定量だけ高い高さを自動停止高さとし、
前記制御部は、前記自動停止高さに前記運転台が下降したとき、前記運転台の下降を停止させる
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の荷役車両。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(荷役車両)
図面を参照しながら、本発明の荷役車両をピッキングリフトに適用した一実施形態を説明する。
【0023】
図1に示すように、荷役車両であるピッキングリフト10は、車体11、走行装置12、昇降装置20、運転台31、操作部13、ヘッドガード14、及び安全装置40を備える。荷役の作業者であるオペレータPは、高所における荷役のために運転台31に搭乗する。
【0024】
車体11は、走行装置12と、昇降装置20の駆動源である原動機(図示略)を収納する。昇降装置20の原動機は、例えば、油圧ポンプを駆動するための電動モーターにより構成される。この場合、走行装置12の駆動源である原動機が電動モーターにより構成されるときは、ピッキングリフト10の構成の簡素化のために、同一のバッテリーから、走行装置12及び昇降装置20の電動モーターに電力が供給されることが好ましい。
【0025】
走行装置12は、車輪と、車輪を回転させる原動機と、車輪の向きを変える転舵装置とを含む。走行装置12は、昇降装置20とともに運転台31を移動させるために走行する。走行装置12によって鉛直方向Vに対して交差する平面方向においてピッキングリフト10が走行することにより、鉛直方向Vから見た運転台31の位置が変化する。鉛直方向Vは、運転台31が昇降する高さ方向である。
【0026】
昇降装置20は、鉛直方向Vに対して平行に延びる一対のマスト21と、マスト21を伸縮させる原動機とにより構成される。マスト21は、アウターマスト21Aとインナーマスト21Bとにより構成され、アウターマスト21Aは、車体11に対して固定されている。昇降装置20の原動機が、アウターマスト21Aに対してインナーマスト21Bをスライド移動させることにより、マスト21が伸縮する。昇降装置20は、マスト21を伸縮させることによって、オペレータPとともに運転台31を昇降させる。
【0027】
運転台31は、インナーマスト21Bに対して固定され、インナーマスト21Bとともに鉛直方向Vにおいて昇降可能に設けられている。運転台31には、運転台31から後方に向けて延びる一対のフォーク32が設けられている。パレット33は、フォーク32に支持されることにより、鉛直方向Vにおいて運転台31と同じ高さに位置する。
【0028】
操作部13は、走行装置12及び昇降装置20を操作するためのレバー及びボタン等のマンマシンインタフェースにより構成されている。操作部13は、運転台31に設けられている。オペレータPは、操作部13を用いて、ピッキングリフト10を走行させる指示、並びに、運転台31を昇降させる指示をピッキングリフト10に入力する。
【0029】
ヘッドガード14は、運転台31の上方に設けられた格子状の構造物により構成されている。ヘッドガード14は、運転台31に設けられている。オペレータPが運転台31に搭乗している時は、ヘッドガード14によりオペレータPの頭部等が保護される。
【0030】
安全装置40は、安全帯巻取器41と安全帯42とベルト43とにより構成される。安全帯巻取器41は、ヘッドガード14に設けられており、ベルト43は、オペレータPの一部である腰に巻かれる。安全帯42の一端は、安全帯巻取器41に巻き取られるとともに、安全帯42の他端は、ベルト43に取り付けられる。安全帯巻取器41は、安全帯42を巻き取ることにより、安全帯巻取器41からベルト43までの安全帯42の長さを短くすることができる。また、オペレータPは、安全帯巻取器41から安全帯42を引き伸ばすことにより、安全帯巻取器41からベルト43までの安全帯42の長さを長くすることができる。安全装置40は、安全帯巻取器41とベルト43とを繋ぐ安全帯42により、運転台31からオペレータPが落下したときにオペレータPを吊り下げる。
【0031】
次に、
図2を参照して、オペレータPが運転台31から落下したときに、運転台31を下降させる制御を行うための回路構成について説明する。なお、
図2以降においては、
図1に示したオペレータP及び安全装置40の図示を省略する。
【0032】
図2に示すように、ピッキングリフト10は、音声入力部71、騒音入力部72、音声出力部73、報知部74、落下検出部75、送受信部76、及び回路装置80を備えている。回路装置80を構成する構成要素として、ピッキングリフト10は、騒音低減部81、音声認識部82、記憶部83、制御部84、着地判断部85、及び下降障害判断部86を備えている。
図2で示すピッキングリフト10の各部71〜76,81〜86は、それぞれ、
図1で示した車体11及び運転台31のいずれに設けてもよい。
【0033】
音声入力部71は、単一指向性マイクロフォンにより構成され、音声入力部71には、オペレータPの声等、人の発した音声が入力される。音声入力部71を構成するマイクロフォンは、運転台31からオペレータPが落下したときに、安全装置40に吊り下げられるオペレータPに向けられるように配置されている。例えば、
図1に示すように、音声入力部71の単一指向性マイクロフォンは、車体11に設けられ、矢印Mで示す方向に向けられることにより、運転台31の下方空間に向けて設けられる。音声入力部71に入力された音声は、本実施形態においては騒音低減部81を介して、音声認識部82に入力される。
【0034】
騒音入力部72は、音声入力部71を構成するマイクロフォンとは異なる他のマイクロフォンにより構成され、騒音入力部72には、周囲の環境音が騒音として入力される。騒音入力部72に入力された騒音は、騒音低減部81に入力される。
【0035】
音声出力部73は、スピーカーにより構成され、運転台31を下降させるための音声の入力を促す音声を出力する。例えば、音声出力部73は、二者択一の質問形式により運転台31を下降させるか否かを質問する音声や、オペレータP以外の者に運転台31を下降させることが可能であることを報知する音声等を出力する。
【0036】
報知部74は、少なくとも音声の出力により報知動作を行う。報知部74は、例えば、スピーカーと回転灯により構成され、スピーカーで報知音声を出力するとともに回転灯で発光する動作である報知動作を行う。報知動作は、運転台31からオペレータPが落下したことを報知する動作である。
【0037】
落下検出部75は、運転台31からオペレータPが落下したことを検出する。例えば、落下検出部75は、ベルト43により安全帯42が引っ張られる力である張力を検出する張力センサにより構成され、オペレータPが運転台31から落下したときに発生する大きな張力を検出することにより、オペレータPが落下したことを検出する。落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、落下検出部75から制御部84に落下検出信号が入力される。
【0038】
送受信部76は、無線通信モジュールにより構成され、電波によって信号を送受信する。送受信部76から送信される信号は、ピッキングリフト10の外部機器で受信され、送受信部76で受信した信号は、制御部84に入力される。
【0039】
回路装置80は、回路基板と、回路基板上に設けられた電子部品とにより構成され、回路装置80を構成する各部81〜86は、それぞれ異なる集積回路により構成される。これらの各部81〜86は同じ回路基板上に設けられ、例えば、車体11に内蔵される。
【0040】
騒音低減部81は、騒音入力部72に入力された騒音を、音声認識部82での音声の認識精度を向上させるために低減する。即ち、騒音低減部81は、音声入力部71に入力された音声に対して、騒音入力部72に入力された騒音を除去する音声処理を施すことにより、音声入力部71に入力された音声のうち人の発した音声を明瞭にする。
【0041】
音声認識部82は、音声入力部71に入力された音声から、オペレータPが発した音声を少なくとも認識する。音声認識部82は、声紋についての個体識別データに基づいて音声を認識することにより、発声した者を特定することができ、音声認識の精度を高めることができる。音声認識部82は、記憶部83に記憶されている個体識別データに基づいて、音声入力部71に入力された音声から、オペレータPの音声を認識する。また、音声認識部82は、一般的な声紋についてのデータに基づいて、音声入力部71に入力された音声から、オペレータP以外の者が発した音声を認識する。音声認識部82による音声認識の結果を示す信号は、音声認識部82から制御部84に入力される。
【0042】
記憶部83は、例えばEEPROM等の半導体メモリにより構成される。記憶部83は、オペレータPが運転台31から落下する場合に備えて、オペレータPの声紋についての個体識別データを予め記憶している。声紋についての個体識別データには、オペレータPが発する声の音程や周波数等の特徴が含まれる。
【0043】
制御部84は、走行装置12、昇降装置20、音声出力部73、報知部74、送受信部76、及び音声認識部82を制御する。制御部84は、落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、音声認識部82を音声認識可能な受け付け状態とし、音声認識部82により認識された音声に基づいて昇降装置20を制御することにより、運転台31を下降させる。
【0044】
着地判断部85は、安全装置40の態様に基づいてオペレータPが運転台31の下方に着地しているか否かを判断する。例えば、着地判断部85は、落下検出部75を構成する張力センサと、張力センサによる安全帯42の張力の検出結果が入力される集積回路とを含み、安全装置40がオペレータPを吊り下げているときに発生する安全帯42の張力の解消に基づいて、オペレータPが着地していると判断する。オペレータPが着地しているか否かの判断結果を示す信号は、着地判断部85から制御部84に入力される。
【0045】
下降障害判断部86は、運転台31が下降するときに障害物によって運転台31の下降が妨げられるか否かを判断する。例えば、下降障害判断部86は、運転台31及びパレット33の下方を撮影するカメラと、カメラで撮影された画像を解析する集積回路とを含み、カメラで撮影された障害物が運転台31またはパレット33の直下に位置することに基づいて、障害物によって運転台31の下降が妨げられると判断する。運転台31の下降が妨げられるか否かの判断結果を示す信号は、下降障害判断部86から制御部84に入力される。運転台31の下降を妨げる障害物は、例えば、オペレータPが扱う荷物を載置するラック(不図示)である。オペレータPが運転台31から落下した場合、安全帯42がフォーク32に対してパレット33を動かすおそれがあるため、運転台31の上昇時にはパレット33とラックとが干渉しない場合であっても、運転台31の下降時にパレット33とラックとが干渉する可能性がある。従って、運転台31からのオペレータPの落下後における運転台31の下降時に、パレット33と干渉するラックにより、パレット33を支持するフォーク32が設けられた運転台31の下降が妨げられるおそれがある。
【0046】
図3を参照して、回路装置80が行う落下監視処理の流れを説明する。回路装置80は、ピッキングリフト10の稼働の開始から落下監視処理を行い、ピッキングリフト10の稼働が停止されるまで落下監視処理が行われ続ける。
【0047】
落下監視処理において、まず、制御部84は、落下検出部75から入力される落下検出信号に基づいて、落下検出部75により運転台31からのオペレータPの落下を検出したか否かを判断する(ステップS1)。
【0048】
制御部84は、オペレータPの落下を検出していないとステップS1で判断した場合は、所定の監視時間の間隔で、ステップS1の処理を再度行う。即ち、落下検出部75によりオペレータPの落下が検出されない場合は、ステップS1の処理が繰り返されることにより、下記ステップS2以降の処理に移行しない。上記監視時間は、制御部84がオペレータPの落下を素早く検知するために、できる限り微小な時間であることが好ましい。
【0049】
一方、制御部84は、オペレータPの落下を検出したとステップS1で判断した場合には、音声認識部82を起動して受け付け状態とし、音声入力部71に入力された音声から人が発した音声を音声認識部82で認識することが可能な状態とする(ステップS2)。
【0050】
次いで、制御部84は、音声出力部73を制御することにより、音声認識機能が有効であることを音声出力部73にアナウンスさせる(ステップS3)。即ち、ステップS3においては、音声出力部73が、運転台31を下降させるための音声の入力を促す音声を出力する。例えば、音声出力部73は、「あなたの声により運転台を地上に降ろすことができます。運転台を降ろしますか?」といった音声を出力する。
【0051】
次いで、制御部84は、音声入力部71に入力された音声から音声認識部82によりオペレータPの音声を認識したか否かを判断する(ステップS4)。オペレータPの音声を認識したとステップS4で判断された場合は、下記ステップS5〜S10の処理は行われず、後述のステップS11以降の処理が行われる。
【0052】
制御部84は、オペレータPの音声を認識していないとステップS4で判断した場合には、音声出力部73を制御することにより、オペレータPに対して下降する意思の有無を確認する(ステップS5)。即ち、ステップS5においては、音声出力部73が、二者択一の質問形式により運転台31を下降させるか否かを質問する音声を出力する。例えば、音声出力部73は、「運転台を下降させますか?はいかいいえでお答え下さい。」といった音声を出力する。
【0053】
次いで、制御部84は、音声入力部71に入力された音声から音声認識部82によりオペレータPの音声を認識したか否かを判断する(ステップS6)。オペレータPの音声を認識したとステップS6で判断された場合は、下記ステップS7〜S10の処理は行われず、後述のステップS11以降の処理が行われる。
【0054】
制御部84は、オペレータPの音声を認識していないとステップS6で判断した場合には、音声出力部73を制御することにより、周囲の人に下降させるか否かを質問する(ステップS7)。即ち、ステップS7においては、音声出力部73が、オペレータP以外の者に運転台31を下降させることが可能であることを報知する音声を出力する。例えば、音声出力部73は、「今、車両の周囲にいる方はお答え下さい。この車両はただいま音声で運転台を下降させることができます。運転台を下降させますか?はいかいいえでお答え下さい。」といった音声を出力する。
【0055】
次いで、制御部84は、音声入力部71に入力された音声から音声認識部82によりオペレータP以外の者である周囲の人の音声を認識したか否かを判断する(ステップS8)。周囲の人の音声を認識したとステップS8で判断された場合は、下記ステップS9,S10の処理は行われず、後述のステップS11以降の処理が行われる。
【0056】
制御部84は、周囲の人の音声を認識していないとステップS8で判断した場合には、送受信部76を制御することにより、後述の通信端末90(
図5参照)にオペレータPの落下情報を信号として送信する(ステップS9)。即ち、ステップS9においては、制御部84は、落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、通信端末90にオペレータPの落下情報を送信する。
【0057】
次いで、制御部84は、送受信部76により受信した信号に基づいて、通信端末90で下降の指示が入力されたか否かを判断する(ステップS10)。通信端末90で下降の指示が入力されたとステップS10で判断された場合は、下記ステップS12の処理が行われ、通信端末90で下降の指示が入力されなかったとステップS10で判断された場合は、上記ステップS3以降の処理が繰り返し行われる。
【0058】
制御部84は、音声を認識したとステップS4,S6,S8で判断した場合には、運転台31の下降を指示する音声を認識したか否かを判断する(ステップS11)。即ち、ステップS11において、制御部84は、音声認識部82で認識された音声が、運転台31の下降を指示するための音声であるか否かを判断する。運転台31の下降を指示するための音声には、例えば、「降ろせ」及び「降ろして」といった明確な指示の音声だけでなく、「助けて」といった音声や、「うわー」といった落下したオペレータPが発する可能性のある喚き声や叫び声等を含む。従って、本実施形態においては、オペレータPが落下によってショックを受けて明確な言葉を発することができない場合であっても、個体識別データに基づいてオペレータPの喚き声や叫び声が認識されることにより、運転台31の下降を指示する音声が認識されたと判断される。
【0059】
運転台31の下降を指示する音声を認識したとステップS11で判断された場合は、回路装置80は下降運転制御を行い(ステップS12)、下降運転制御が行われた後にピッキングリフト10の稼働が停止される。一方、運転台31の下降を指示しない音声を認識したとステップS11で判断された場合は、上記ステップS12の処理が行われずにピッキングリフト10の稼働が停止される。
【0060】
図4を参照して、ステップS12における下降運転制御の流れを説明する。
まず、下降障害判断部86が、運転台31がそのまま下降する場合に、障害物によって運転台31の下降が妨げられるか否かを判断する(ステップS21)。
【0061】
障害物によって運転台31の下降が妨げられるとステップS21で判断された場合は、制御部84は、障害物を回避するための回避量を算出し(ステップS31)、算出した回避量に基づいて走行装置12を動作させる(ステップS32)。即ち、ステップS32において、制御部30は、走行装置12を制御することにより、ピッキングリフト10を走行させて、障害物によって下降が妨げられない位置まで運転台31を移動させる。また、この場合、制御部84は、音声出力部73を制御することにより、運転台31の下降に障害があることを音声出力部73にアナウンスさせる。即ち、音声出力部73が、運転台31の下降に障害があることを報知する音声を出力する。例えば、音声出力部73は、「パレットがラックと接触する危険があるため、車両を移動させた後に運転台を下降させます」といった音声を出力する。
【0062】
障害物によって運転台31の下降が妨げられないとステップS21で判断された場合、または、ステップS32の処理で運転台31が移動した後は、制御部30が、昇降装置20を制御することにより、運転台31の下降を開始させる(ステップS22)。
【0063】
次いで、制御部30は、報知部74を制御することにより、報知動作を開始させる(ステップS23)。従って、落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、報知部74は、ステップS23において、運転台31を下降させるための音声を音声認識部82が認識した後に報知動作を行う。
【0064】
次いで、着地判断部85が、運転台31から落下したオペレータPが着地しているか否かを判断する(ステップS24)。オペレータPが着地していないとステップS24で判断された場合は、下記ステップS25の処理が行われず、下記ステップS26の処理が行われる。
【0065】
オペレータPが着地しているとステップS24で判断された場合は、制御部84は、昇降装置20を制御することにより、運転台31を低速で下降させる(ステップS25)。即ち、ステップS25において、制御部84は、オペレータPが着地していないと判断される場合に比べて、運転台31の下降の速度を低減させる。このとき、運転台31の下降の速度は、段階的に低減させたり、連続的に徐々に低減させたりすることができる。
【0066】
次いで、昇降装置20を制御する制御部84は、自動停止高さまで運転台31が下降したか否かを判断する(ステップS26)。自動停止高さとは、鉛直方向Vにおいて、昇降装置20により運転台31を下降させることができる最も低い高さを最低高さとしたとき、最低高さよりも所定量だけ高い高さである。自動停止高さは、運転台31の下方においてオペレータPが圧迫されない空間が確保される高さであって、例えば80cmとする。
【0067】
自動停止高さまで運転台31が下降したとステップS26で判断された場合は、制御部84は、昇降装置20を制御することにより運転台31の下降を停止させ(ステップS27)、下降運転制御が完了される。一方、自動停止高さまで運転台31が下降していないとステップS26で判断された場合は、上記ステップS24以降の処理が繰り返し行われる。
【0068】
本実施形態のピッキングリフト10においては以下の効果が得られる。
(1)ピッキングリフト10は、落下検出部75と音声入力部71と音声認識部82と制御部84とを備え、制御部84は、落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、音声認識部82により認識された音声に基づいて昇降装置20を制御することにより、運転台31を下降させる。このため、オペレータPが運転台31から落下して安全装置40によって吊り下げられた状態となった場合に、オペレータPは、ピッキングリフト10に対して声で指示することにより、運転台31を下降させて着地することができる。従って、運転台31から落下したオペレータPは、救助者を待つことなく、吊り下げられた状態から容易に抜け出すことができる。
【0069】
(2)音声認識部83は、落下検出部75によりオペレータPが落下したことを検出したときに音声認識可能な音声の受け付け状態となる。従って、オペレータPが運転台31から落下していないときは、音声認識部83が音声を認識しない状態とすることにより、音声認識部83による音声認識に係る処理負荷を低減することができる。
【0070】
(3)ピッキングリフト10は、記憶部83を備え、音声認識部82は、記憶部83に記憶されている個体識別データに基づいて、音声入力部71に入力された音声から、オペレータPの音声を認識する。このため、音声認識部82は、例えば、「降ろせ」といった運転台31を下降させることを指示する明確な音声からオペレータPの音声を認識するだけでなく、記憶部83に記憶されているオペレータPの声紋についての個体識別データに基づいて、落下したオペレータPが発した「うわー」といった喚き声や叫び声等の音声からオペレータPの音声を認識することが可能となる。従って、オペレータPの音声が認識され易くなるため、ピッキングリフト10に対して運転台31を容易に下降させことができる。
【0071】
(4)ピッキングリフト10は、音声出力部73を備えるため、オペレータPが運転台31から落下した場合に、運転台31を下降させるための音声の入力を促すことができる。従って、オペレータPに対して、声での指示により運転台31を下降させることが可能であることを知らせることができる。
【0072】
(5)音声出力部73は、二者択一の質問形式により運転台31を下降させるか否かを質問する音声を出力する。従って、運転台31から落下したオペレータPに対して、二者択一の質問形式により運転台31を下降させるか否かが質問されるため、運転台31を下降させるために音声入力部71に入力される音声を簡素化させることができ、運転台31を下降させる意思の有無を容易に確認することができる。
【0073】
(6)音声出力部73は、オペレータP以外の者に運転台31を下降させることが可能であることを報知する音声を出力し、音声認識部82は、音声入力部71に入力された音声から、オペレータP以外の者が発した音声を認識する。このため、運転台31から落下したオペレータPが声を発することができないとき、または、落下したオペレータPの音声が認識できないときに、オペレータP以外の者がピッキングリフト10に対して声で指示することにより、運転台31を下降させることができる。
【0074】
(7)ピッキングリフト10は、報知部74を備え、報知部74は、落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、運転台31を下降させるための音声を音声認識部82が認識した後に報知動作を行う。このため、報知部74は、報知動作を行うことによって、オペレータPが運転台31から落下したことをオペレータP以外の者に報知することができる。また、運転台31を下降させるための音声が音声認識部82で認識された後に報知動作が行われるため、音声の出力を伴う報知動作によって音声の認識精度が低下することを防止することができる。
【0075】
(8)音声入力部71は、単一指向性マイクロフォンにより構成されるため、所定方向からの音声をマイクロフォンで拾うときに、音声入力部71が全指向性または無指向性マイクロフォンにより構成される場合に比べて、所定方向以外の方向から音声を拾う感度を低減することができる。従って、運転台31からオペレータPが落下したときにオペレータPが吊り下げられる位置に単一指向性マイクロフォンを向けることにより、周囲の騒音や雑音等によって音声の認識精度が低下することを抑制することができる。
【0076】
(9)ピッキングリフト10は、騒音入力部72と騒音低減部81とを備えるため、騒音低減部81が、騒音入力部72に入力された騒音を低減することにより、音声認識部82での音声の認識精度が向上する。従って、運転台31を下降させる指示を行う者の音声が認識され易くなる。
【0077】
(10)制御部84は、自動停止高さに運転台31が下降したとき、運転台31の下降を停止させる。従って、オペレータPが落下したときに下降する運転台31は、昇降装置20により運転台31を下降させることができる最も低い高さから所定量だけ高い位置で停止する。このため、着地したオペレータPを運転台31が圧迫することを抑制することができる。
【0078】
(11)ピッキングリフト10は、着地判断部85を備え、制御部84は、着地判断部85によりオペレータPが着地していると判断されたとき、運転台31の下降の速度を低減させる。このため、着地したオペレータPを運転台31が圧迫することを抑制することができる。また、一定の速度で運転台31が下降する場合に比べて、オペレータPが着地していると判断されるまでは速やかに運転台31を下降させることができる。
【0079】
(12)ピッキングリフト10は、下降障害判断部86と走行装置12とを備え、制御部84は、下降障害判断部86により障害物によって運転台31の下降が妨げられると判断されたとき、走行装置12を制御することにより、運転台31の下降が障害物によって妨げられない位置まで運転台31を移動させる。このため、運転台31の下降を妨げる障害物が存在する場合であっても、走行装置12が昇降装置20とともに運転台31を移動させることにより、運転台31を下降させることができる。
【0080】
(荷役車両制御システム)
次に、上記ピッキングリフト10を利用した本発明の荷役車両制御システムの一実施形態を説明する。
【0081】
図5に示すように、荷役車両制御システム1は、ピッキングリフト10と、無線によりピッキングリフト10と通信する通信端末90により構成される。ピッキングリフト10と通信端末90との通信は、アクセスポイントを介するインフラストラクチャー通信及びアクセスポイントを介さないアドホック通信のいずれで行ってもよい。
【0082】
通信端末90は、例えばスマートフォンやタブレット端末等の携帯情報端末により構成される。通信端末90は、表示部91、操作部92、送受信部93、及び制御部94を備えている。
【0083】
表示部91は、操作者Qに対して各種情報を表示するディスプレイにより構成され、操作部92は、遠隔からピッキングリフト10の運転台31を下降させるためのタッチパネルにより構成されている。即ち、本実施形態においては、表示部91は操作部92を兼ねている。
【0084】
送受信部93は、無線通信モジュールにより構成され、電波によって信号を送受信する。送受信部93から送信される信号は、ピッキングリフト10で受信され、送受信部93で受信した信号は、制御部94に入力される。
【0085】
制御部94は、集積回路により構成され、表示部91及び送受信部93を制御する。制御部94は、送受信部93によりオペレータPの落下情報を含む信号を受信したとき、運転台31を下降させるための操作を促す画面を表示部91に表示させる。また、制御部94は、運転台31を下降させるために操作部92が操作されたとき、送受信部93を制御することにより、オペレータP以外の者である操作者Qにより下降の指示が入力されたことを示す信号を送信する。このようにして、通信端末90は、運転台31を下降させる指示をピッキングリフト10に対して行う。
【0086】
図6は、表示部91に表示される画面であって、運転台31を下降させるための操作を促す画面の一例を示す図である。
図6に示すように、表示部91には、例えば、ピッキングリフト10の状態を示す図とともに、運転台31を下降させるための操作を促す文字が表示される。
【0087】
本実施形態の荷役車両制御システム1においては、上記落下監視処理において通信端末90で下降の指示が入力されたとステップS10で判断された場合に、回路装置80が下降運転制御を行うため、制御部84は、通信端末90からの指示に基づいて運転台31を下降させる構成となっている。
【0088】
荷役車両制御システム1においては、上記(1)〜(12)の効果に加え、以下の効果が得られる。
(13)荷役車両制御システム1は、ピッキングリフト10と通信端末90とを備え、制御部84は、落下検出部75がオペレータPの落下を検出したとき、通信端末90にオペレータPの落下情報を送信し、通信端末90からの指示に基づいて運転台31を下降させる。このため、オペレータPが運転台31から落下して安全装置40によって吊り下げられた状態となった場合に、通信端末90の操作者Qは、ピッキングリフト10に対して遠隔から無線で指示することにより、運転台31を下降させることができる。
【0089】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態の構成を適宜変更することもできる。例えば、上記構成を以下のように変更して実施することもでき、以下の変更を組み合わせて実施することもできる。
【0090】
・制御部84が、着地判断部85によりオペレータPが着地していると判断されたとき、運転台31の下降を停止させてもよい。このような構成によれば、オペレータPが落下したときに下降する運転台31は、オペレータPが着地していると判断されたときに停止する。このため、着地したオペレータPを運転台31が圧迫することを抑制することができる。
【0091】
図7を参照して、着地判断部85によりオペレータPが着地していると判断された場合において制御部84が運転台31の下降を停止させる下降運転制御を説明する。なお、
図7のステップS21〜S23の処理は、上記実施形態における処理と同じであるため、ステップS21〜S23の説明は省略する。
【0092】
制御部30が運転台31の下降を開始させた後、着地判断部85が、運転台31から落下したオペレータPが着地しているか否かを判断する(ステップS24)。オペレータPが着地しているとステップS24で判断された場合は、制御部84は、昇降装置20を制御することにより運転台31の下降を停止させ(ステップS27)、下降運転制御が完了される。
【0093】
一方、オペレータPが着地していないとステップS24で判断された場合は、昇降装置20を制御する制御部84は、自動停止高さまで運転台31が下降したか否かを判断する(ステップS26)。自動停止高さまで運転台31が下降したとステップS26で判断された場合は、制御部84は、昇降装置20を制御することにより運転台31の下降を停止させ(ステップS27)、下降運転制御が完了される。自動停止高さまで運転台31が下降していないとステップS26で判断された場合は、上記ステップS24の処理が繰り返し行われる。
【0094】
以上のように、
図7に示す下降運転制御においては、オペレータPが着地したと判断されたとき、または、自動停止高さまで運転台31が下降したと判断されたとき、運転台31の下降が停止される。
【0095】
・落下検出部75は、運転台31上のオペレータPを撮影するカメラや、運転台31上のオペレータPを検出する赤外線センサ等により、オペレータPが落下したことを検出してもよい。即ち、オペレータPが落下したことを検出することが可能であれば、落下検出部75の構成は適宜変更してもよい。
【0096】
・着地判断部85は、運転台31の下方を撮影するカメラを用いてオペレータPが着地しているか否かを判断してもよく、また、運転台31の高さに基づいてオペレータPが着地しているか否かを判断してもよい。即ち、オペレータPが運転台31の下方に着地しているか否かを判断することが可能であれば、着地判断部85の構成は適宜変更してもよい。
【0097】
・下降障害判断部86は、赤外線センサやレーダー等を用いて障害物を検出し、障害物によって運転台31の下降が妨げられるか否かを判断してもよい。即ち、障害物によって運転台31の下降が妨げられるか否かを判断することが可能であれば、下降障害判断部86の構成は適宜変更してもよい。
【0098】
・音声入力部71は、全指向性または無指向性マイクロフォンにより構成してもよい。即ち、人の発した音声が入力されることが可能であれば、音声入力部71の構成は適宜変更してもよい。
【0099】
・音声に対して音声処理を施すことにより騒音を除去する騒音低減部81に代えて、消音スピーカーにより騒音低減部を設けることもできる。このような構成においては、騒音入力部72に入力された騒音と逆相の音声を騒音低減部のスピーカーから出力することにより、音声入力部71に入力される音声のうち人の発した音声が明瞭になる。即ち、音声認識部82での音声の認識精度を向上させるために騒音を低減することが可能であれば、騒音低減部の構成は適宜変更してもよい。
【0100】
・回路装置80を構成する各部81〜86の2つ以上を、1つの同じ集積回路により構成してもよい。
・回路装置80を構成する各部81〜86の全てを、1つの同じ回路基板上に設けないように構成してもよい。
【0101】
・運転台31から落下したオペレータPを吊り下げることが可能であれば、安全装置40の構成は適宜変更してもよい。
・フォークを備えない荷役車両に本発明を適用してもよい。