(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部の空洞に連通するように上面、底面、前面及び後面に開口部をそれぞれ有し消波性能を備える透過型の堤体と、前記堤体を支持する基礎杭を備える基礎構造と、から構成される透過式海域制御構造物を構築する方法であって、
前記透過型の堤体の前記上面の開口部を除いた前記各開口部を止水板により閉塞し、前記止水板には前記止水板の内外を連通可能な連通機構が取り付けられており、
前記堤体を浮力により浮上させた状態で設置対象の水域まで運搬し、
前記連通機構を開放して前記止水板の外側から前記空洞へ水を流入させることで前記堤体を水中へ沈下させて前記堤体を設置することを特徴とする透過式海域制御構造物の構築方法。
前記基礎杭をあらかじめ打設し、前記空洞へ水を流入させることで前記堤体を沈下させ、前記打設された基礎杭を前記堤体側と接合する請求項1に記載の透過式海域制御構造物の構築方法。
前記空洞における空気により前記堤体を水中浮遊状態に保ち、打設された前記基礎杭が前記堤体に挿入された状態で、前記基礎杭に前記堤体を受けるための受け部材を取り付ける請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透過式海域制御構造物の構築方法。
【背景技術】
【0002】
港湾の静穏度を確保するためには、沖側に不透過型の防波堤(陸側への透過波を防ぐ)を構築することが効果的である。しかしながら、砂浜などの海岸浸食を防ぐには、不透過型の防波堤は不向きである。この海岸浸食が発生するか否かは、主に砂の特性(比重や形状)や常時波浪特性により決定される。したがって、数年〜数十年間に一度の割合で来襲する波浪(暴風時)による浸食の影響は、長期的に見ると少ないと考えられている。
【0003】
海岸浸食が卓越する地点に防波堤を構築すると、防波堤前面の反射率が大きくなるため設置地点の沖側の砂が浸食される。一方で、陸側には砂が堆積するため、前面の浸食及び背面の堆積対策が新たに必要となる。海岸浸食を防ぐには、常時波浪に対して対象地点周辺の透過・反射率をともに低減(消波性能)させる透過式の構造物が有効である。例えば、
図21のように、透過式構造物Aを構築し、沖側から入射波が透過式構造物Aに到来したとき、透過式構造物Aにおいて、入射波によって生じる反射波及び透過波をともに低減させることで、前面の砂の浸食及び背面の砂の堆積を減らすことができる。かかる透過式構造物Aは、内部が空洞であるため、通常の防波堤などのような重量式では安定性が保てないため、基礎杭Bを打ち込んで固定される。
【0004】
上述のような透過式構造物として、例えば、特許文献1は透過型海域制御構造物およびその構築方法を開示し、特許文献2は海域制御構造物を開示する。いずれの構造物も、その周囲の部材に開口があり、内部の空洞と連通している。
【0005】
従来の透過型海域制御構造物の施工方法は、基礎杭を打ち込んだ後に、起重機船を用いて上部の堤体を据え付け、据え付けた堤体と基礎杭をモルタルグラウト等を施工して連結させる。堤体は一体化もしくは水平方向に分割した構造で数回に分けて据え付ける方法がある。
【0006】
従来の透過型海域制御構造物の施工手順の一例について説明する。
(1)〔ガイド管設置〕工場で製作したガイド管を製作ヤードに運搬し、所定の位置に設置・固定する。(2)〔堤体製作〕ガイド管を骨組みとし、鉄筋コンクリートによる堤体を製作する。(3)〔鋼管杭打設〕ブラケットを取り付けた鋼管杭をバイブロハンマにより海底に打設する。(4)〔堤体据付〕堤体を大型起重機船で運搬し、鋼管杭のブラケット上に据え付ける。(5)〔間詰モルタル充填〕鋼管杭とガイド管の隙間にモルタルグラウト等を充填し堤体を固定する。
【0007】
引用文献3は、ケーソン等の水中基礎の構築方法を開示し、引用文献4は、ケーソン等の水中堤体構造物の建築方法を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
透過型海域制御構造物の上部の堤体を据え付ける際に使用する起重機船は、
図22のように、
図21のような透過式構造物Aを構成する堤体A1の重量が大きいため大型の起重機船100を使用しなければならない。大型の起重機船を使用しないで、複数隻による据え付けを行う方法もあるが、安全面や経済面、海域占有面積増加の面で不利である。
【0010】
しかし、大型の起重機船100は、クレーン高が非常に高く(70〜100m程度)、またブーム高Hの調整が殆どできないため、空港近隣で高度制限の制約がかかる地点や電線、橋脚などが近辺に存在する地点では、大型の起重機船による施工が困難となる。また、高度制限の制約で据え付けが夜間作業になる場合は、視界が悪いため安全面、設置精度面において大いに不利となる。
【0011】
ケーソンなどの不透過型の構造物は、特許文献3のように堤体内部を空洞にした浮遊状態で運搬・据付を行う施工方法を採用でき、その場合には大型の起重機船を必要としない。一方、透過型海域制御構造物はその周囲に貫通した開口を有するため、その施工方法を適用できない。
【0012】
透過型海域制御構造物をあらかじめ分割する方法で起重機船の縮小化を図ることで、クレーン高の低い船舶を用いることも可能であるが、海上での作業期間が大幅に増加するため、安全面や経済面で大いに不利となる。
【0013】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、開口部を有する透過型の堤体から構成される透過型海域制御構造物を大型の起重機船を使用せずに安全面及び経済面で有利に構築可能な透過式海域制御構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための透過式海域制御構造物の構築方法は、内部の空洞に連通するように上面、底面、前面及び後面に開口部をそれぞれ有し消波性能を備える透過型の堤体と、前記堤体を支持する基礎杭を備える基礎構造と、から構成される透過式海域制御構造物を構築する方法であって、前記透過型の堤体の
前記上面の開口部を除いた前記各開口部を
止水板により閉塞し、
前記止水板には前記止水板の内外を連通可能な連通機構が取り付けられており、前記堤体を浮力により浮上させた状態で設置対象の水域まで運搬し、
前記連通機構を開放して前記止水板の外側から前記空洞へ水を流入させることで前記堤体を水中へ沈下させて前記堤体を設置することを特徴とする。
【0015】
この透過式海域制御構造物の構築方法によれば、堤体の各開口部を閉塞することにより堤体を浮力により浮上させた状態で堤体を設置対象の水域まで運搬することができるとともに、設置位置で止水
板の連通機構を用いて堤体内の空洞へ水を流入させることで堤体を水中へ沈下させることができる。このようにして堤体を簡単な工程で運搬し設置することができるので、従来のような大型の起重機船を必要とせず、安全にかつ低コストで透過式海域制御構造物を構築することができる。
上面の開口部の閉塞は省略
される。
【0016】
上記構築方法において、前記基礎杭をあらかじめ打設し、前記空洞内に水を流入させることで前記堤体を沈下させ、前記打設された基礎杭を前記堤体側と接合することが好ましい。
【0017】
この場合、あらかじめ打設した基礎杭と堤体に挿入された別の基礎杭とを連結して一体化することができる。また、あらかじめ打設した基礎杭を堤体に挿入し、その後、堤体の上部からコンクリートを打設することで堤体の支持力を得るようにしてもよい。
【0018】
また、前記空洞から空気を排出することで前記堤体を沈下させてから前記基礎杭を打設するようにしてもよい。
【0019】
この場合、堤体に基礎杭を仮止めして運搬し、設置位置で基礎杭を落下させてから打設することができる。また、水底を均した均し面に堤体を設置してから、基礎杭を打設するようにしてもよい。
【0020】
また、前記空洞における空気により前記堤体を水中浮遊状態に保ち、打設された前記基礎杭が前記堤体に挿入された状態で、前記基礎杭に前記堤体を受けるための受け部材を取り付けることができる。打設された基礎杭が堤体に挿入されているので、堤体が水平方向に動くことがなく、また、堤体が水中浮遊状態であるので、受け部材の取り付けに支障が生じない。
【0021】
また、
前記連通機構は、前記止水板に設けられ
たバルブ
を備えることが好ましい。この場合、上記連通機構を構成するバルブの開閉で水の流入及び空気の排出を制御することができる。なお、注水機構としてはポンプなどを用いることができる。
【0022】
また、前記各開口部のうち前記上面の開口部を閉塞しない
。すなわち、上面の開口部は必ずしも閉塞する必要がなく、上面の開口部を除いた各開口部を閉塞する
。
【発明の効果】
【0023】
本発明の透過式海域制御構造物の構築方法によれば、開口部を有する透過型の堤体から構成される透過型海域制御構造物を大型の起重機船を使用せずに簡単な工程で構築することができ、安全面及び経済面で有利な構築方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態の構築方法を適用可能な透過式海域制御構造物の一例を示す図であり、平面図(a)、正面図(b)、側面図(c)及び後面図(d)である。
図2は
図1の透過式海域制御構造物の底面図(a)及び
図1(b)のII-II線に沿って切断してみた断面図(b)である。
【0026】
図1,
図2の透過式海域制御構造物10は、消波性能を有する透過型の堤体11と、堤体11を支持する複数本の基礎杭29a,29bを備える基礎構造12とから構成される。複数本の基礎杭29aは前面側(沖側)に配置され、複数本の基礎杭29bは後面側(陸側)に配置される。
【0027】
堤体11は、前面側(沖側)に位置し鉛直方向に延びた前面鉛直壁13と、前面鉛直壁13の上端から傾斜する前面傾斜壁14とを有し、後面側(陸側)に位置し鉛直方向に延びた後面壁15を有し、前面と後面との間に前面鉛直壁13に平行な中間壁16を有し、両側面に側面壁17,18を有する。また、堤体11は、上面の頂版19と、底面の底版20と、を有する。
【0028】
前面鉛直壁13には、水平方向に延びて壁面の中間に開口した前面鉛直壁開口部21が左右に設けられ、前面傾斜壁14には、水平方向に延びて斜面の中間に開口した前面傾斜壁開口部22が設けられている。後面壁15には、複数の後面壁開口部23が水平方向に左右に設けられている。中間壁16には、複数の中間壁開口部24が縦方向に設けられている。さらに、頂版19には上面開口部25が設けられ、底版20には、複数の底面開口部26が設けられている。また、側面壁17,18には凹部18aが形成され、開口部が設けられていないが、開口部を設けてもよい。
【0029】
なお、堤体11において、各開口部の好ましい開口率(部材面積に対する開口面積の割合)は、前面鉛直壁13と前面傾斜壁14とで15〜40%、後面壁15で20〜40%、頂版19、底版20の各水平版ではそれぞれ10〜35%である。
【0030】
上述のように、堤体11は、内部に中間壁開口部24のある中間壁16があるが、全体として内部が空洞となっており、周囲の部材、内部に設けられた各開口部21,22,23,24,25,26により水が透過可能な透過式の構造体となっている。
【0031】
堤体11の各基礎杭29a、29bが位置する部分には、基礎杭29a、29bが差し込まれるようにガイド管が配置されている。堤体11のガイド管に基礎杭29a、29bが挿入され一体化されることで基礎構造12が構築され、堤体11が基礎構造12によって支持される。
【0032】
上述の透過式海域制御構造物10は、天端高または突堤部高さが満潮時の海水面程度の高さでありかつ開口部より水の通過を許容する低天端透過式となっている。なお、堤体11の主な寸法は、例えば、海岸線に平行な横幅が16m、高さ8m、海岸線に垂直な奥行きが9.5mであるが、これらの寸法は一例であって、適宜変更可能である。また、堤体11の底版20と水底Gとの間隔は0〜2m程度が好ましい。すなわち、水底Gに対し間隔をあけて堤体11を設置する場合は、2m以下が好ましい。
【0033】
図1,
図2の透過式海域制御構造物10によれば、沖側からの入射波の越波(堤体11の上部を越えようとする波)に伴う砕波によるエネルギー損失、前面傾斜壁14の前面傾斜壁開口部22における流出水、流入水による乱れによるエネルギー損失、中間壁開口部24、後面壁開口部23、底面開口部26の各開口部により、向きが互いに反対に発生する渦によるエネルギー損失などの各エネルギー損失効果が相乗して消波を促進し、エネルギー損失による消波性能を向上させることができる。
【0034】
次に、上述の堤体11を水上に浮上させ沈下させるための方法について
図3を参照して説明する。
図3は、本実施形態による透過式海域制御構造物の堤体を浮上させ沈下させる方法を説明するための図面(a)、その一部拡大図(b)及び止水装置を堤体に取り付ける構成例を示す図(c)である。
【0035】
図3(a)のように、堤体11の前面鉛直壁開口部21,前面傾斜壁開口部22,後面壁開口部23及び底面開口部26を閉塞する。ただし、頂版19の上面開口部25は閉塞しない。すなわち、例えば、
図3(b)のように、各開口部を覆う止水板31と、止水板31と堤体11の部材との間に配置される漏洩防止のためのゴム材料等からなるパッキン32と、止水板31に設けられた開閉バルブ33と、を備える止水装置30を用いて各開口部21,22,23,26を閉塞する。開閉バルブ33が止水板31の内と外とを連通可能にする連通機構を構成する。なお、側面壁17,18に開口部を設けた場合には同様に閉塞する。
【0036】
止水装置30の堤体11への取り付けのために、例えば、
図3(c)のように、堤体11の各開口部の周囲に埋め込みアンカーACを設けておき、ボルトBTを用いて止水板31をボルト締めにより堤体11に固定することで止水装置30を取り付ける。なお、取り外しの際には潜水士によりボルトBTを取り外し、止水装置30を取り外すことができる。また、止水装置30の堤体11への取り付け手段は、
図3(c)の構成に限定されず、他の公知手段を用いてもよい。
【0037】
図3(a)(b)のように、止水板31,パッキン32,バルブ33から構成された止水装置30により、堤体11の上面開口部25を除いた各開口部を閉塞した状態で、堤体11を水面Sに浮上させることができる。また、堤体11の底部にポンプPを排水機構として設置し、堤体11が水中へと沈下した状態でポンプPにより堤体11の空洞Cの水を排出することで、堤体11を方向a’へと再浮上させることができる。ポンプPは水中ポンプ等から構成でき、空洞Cに対する排水機構または注水機構として用いることができる。
【0038】
また、
図3(a)の堤体11が浮上した状態から、止水装置30のバルブ33を開くことで、水中に没したバルブ33から水が堤体11の空洞Cへ流入するとともに、水面Sから出たバルブ33、上面開口部25から空気が排出される。このように、連通機構としてのバルブ33を開放することで、堤体11を水面Sから方向b’へと水中へ沈下させることができる。また、ポンプPを注水機構として空洞Cへ注水するようにしてもよい。
【0039】
上述のように、堤体11の上面開口部25を除いた各開口部を閉塞した状態で堤体11内の空洞Cに対する水の流出・流入により堤体11の浮上及び沈下を制御することができる。すなわち、
図3(a)のように、堤体11の上面開口部25を除いた各開口部を止水装置30により閉塞した状態で、堤体11内の空洞Cに対して水を排出させ、また、流入させることで、堤体11の浮上・沈下を簡単に行うことができる。
【0040】
さらに、堤体11の空洞Cにおける水の流入量・排出量をバルブ33の開閉時間やポンプP等により制御することで、堤体11の浮上状態、沈下状態を適宜制御することができる。これにより、堤体11を、水面から沈下するが水中で浮遊する状態に保つことができる。
【0041】
透過型の堤体11は、その構造上、各部材に、堤体11内の空洞Cに連通する開口部を有するため、水面に浮上させて運搬することが困難であったが、堤体11を製作した製作ヤードから
図3(a)の方法により簡単に浮上させて運搬することができる。さらに、堤体11を据え付け設置のために水底へと沈下させる場合もかかる沈下を簡単に行うことができる。このため、堤体11の設置を従来のような大型の起重機船を必要とせずに行うことができ、しかも安全にかつ低コストで可能である。
【0042】
また、堤体11の底面開口部26を閉塞することで、堤体11が浮上状態のとき、ポンプPで空洞Cに対し注排水を行うことで、簡便に安定状態を保つことができ、曳航中に注水を行うことも可能である。また、止水装置30のバルブ33で調整しなくてもポンプPのみで浮上・沈下を調整できる。このため、潜水士の作業が少なくなる。
【0043】
また、堤体11の浮遊状態での安定性を保つために、空洞C内に注水することで復元力を増加させることが可能である。この場合、堤体11の底部にカウンターウェイト等を設置してもよい。また、水底地盤が浅い場所を曳航する際などは、喫水を少なくするために補助浮材を取付けるようにしてもよい。
【0044】
次に、
図1,
図2の透過式海域制御構造物10を構築する第1〜第4の構築方法について説明する。
【0045】
〈第1の構築方法〉
本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法について
図4〜
図8を参照して説明する。
【0046】
図4は、本実施形態による透過式海域制御構造物の第1の構築方法における工程S01〜S07を説明するためのブロック図である。
図5は第1の構築方法で堤体の曳航状態を示す図である。
図6は第1の構築方法で基礎杭の落下状態を示す図である。
図7は第1の構築方法で堤体の内部への注水状態を示す図である。
図8は第1の構築方法で基礎杭の打設状態を示す図である。
【0047】
まず、堤体11の上面開口部25以外の各開口部を、
図3(a)〜(c)のように止水装置30を用いて閉塞してから、堤体11を吊り降ろして水面Sに浮上させる(S01)。
【0048】
次に、浮上させた堤体11を、
図5のように、透過式海域制御構造物10を構築する水域へと曳航船Fによって曳航する(S02)。この場合、堤体11の空洞Cの底部には図のハッチングのように若干注水し、復元力を増加させて堤体11の安定性を保つ。また、基礎杭29a,29bはあらかじめ堤体11のガイド管にセットされている。すなわち、
図5のように、ストッパ28a、28bを用いて基礎杭29a,29bが堤体11のガイド管に差し込まれ仮止めされた状態で保持されている。
【0049】
次に、浮上させた堤体11を、透過式海域制御構造物10の設置位置まで曳航したら、
図6のように、あらかじめ堤体11のガイド管にセットしていた基礎杭29a、29を降ろす(S03)。すなわち、ストッパ28a、28bを解除することで、基礎杭29a、29bを落下させる。
図6の水底Gにおける位置G1,G2が基礎杭29a、29bの打設位置である。
【0050】
次に、基礎杭29a、29bを落下させた後、再びストッパ28a、28bを装着し、基礎杭29a、29bと堤体11とを暫定的に一体化させる(S04)。
【0051】
次に、止水装置30のバルブ33を開放し、堤体11の空洞Cから空気を排出し空洞Cへ水を流入させることで、
図7のように、堤体11と基礎杭29a、29bとを一体的に水底Gへと沈下させる(S05)。この場合、基礎杭29a、29bと堤体11とを一体化させたことで基礎杭29a、29bに下向きの力が発生し、安定性が増加する。堤体11は、このとき、空洞Cに残った空気による浮力で水中浮遊状態になって水底Gに達していない。
【0052】
次に、ストッパ28a、28bを解除し、
図8のように、基礎杭29a、29bを杭打ち船Dにより水底Gへと打設し所定深さまで打ち込む(S06)。
【0053】
次に、基礎杭29a、29bに仮受けブラケット27を堤体11の底版20の下側に取り付ける(S07)。仮受けブラケット27は、公知のバンド等を用いて基礎杭29a,29bに設置することができる。堤体11の底版20が仮受けブラケット27で受けられ、堤体11が底版20と水底Gとの間で所定の隙間を保つことができ、堤体11の設置が完了する。なお、堤体11内の空洞Cに空気が残っている場合、バルブ33を通して適宜水を流入させる。
【0054】
その後、止水装置30を取り外すことで、透過式海域制御構造物10の所定の設置位置での構築が完成する。
【0055】
〈第2の構築方法〉
本実施形態による透過式海域制御構造物の第2の構築方法について
図9〜
図12を参照して説明する。
【0056】
図9は、本実施形態による透過式海域制御構造物の第2の構築方法における工程S11〜S14を説明するためのブロック図である。
図10は第2の構築方法で設置地盤均し及び堤体の曳航状態を示す図である。
図11は第2の構築方法で堤体の沈下状態を示す図である。
図12は第2の構築方法で基礎杭の打設状態を示す図である。
【0057】
まず、
図10のように、透過式海域制御構造物を設置する水底Gの地盤が不陸状態であれば、あらかじめ均して均し面Gaを形成する(S11)。このとき、均し面Gaにおいて堤体11が載る部分に石を設置し、均し面Gaから突き出た山部Gbを形成する。
【0058】
次に、堤体11の上面開口部25以外の各開口部を、
図3(a)〜(c)のように止水装置30を用いて閉塞してから、堤体11を吊り降ろして水面Sに浮上させ、堤体11を、
図10のように、透過式海域制御構造物10を構築する水域へと曳航船Fによって曳航する(S12)。この場合、堤体11の空洞Cの底部には図のハッチングのように若干注水し、復元力を増加させて堤体11の安定性を保つ。
【0059】
次に、浮上させた堤体11を、透過式海域制御構造物10の設置位置まで曳航したら、
図11のように、止水装置30のバルブ33を開放し、堤体11の空洞Cから空気を排出し空洞Cへ水を流入させることで、堤体11の位置調整を行いながら堤体11を水底Gの均し面Ga上の山部Gbへと沈下させる(S13)。
【0060】
次に、堤体11の設置が完了したら、
図12のように、基礎杭29a、29bを杭打ち船Dにより水底Gへと打設し所定深さまで打ち込む(S14)。これにより、堤体11の設置が完了する。
【0061】
その後、止水装置30を取り外すことで、透過式海域制御構造物10の所定の設置位置での構築が完成する。
【0062】
〈第3の構築方法〉
本実施形態による透過式海域制御構造物の第3の構築方法について
図13〜
図16を参照して説明する。
【0063】
図13は、本実施形態による透過式海域制御構造物の第3の構築方法における工程S21〜S25を説明するためのブロック図である。
図14は第3の構築方法で基礎杭の打設及び堤体の曳航状態を示す図である。
図15は第3の構築方法で基礎杭の連結状態を示す図である。
図16は第3の構築方法で堤体の設置状態を示す図である。
【0064】
まず、
図14のように、透過式海域制御構造物10の設置位置の水底Gに、あらかじめ基礎杭29c、29dを杭打ち船により打設し所定深さまで打ち込んでおく(S21)。この場合、基礎杭29c,29dは、次工程の堤体11の曳航に支障が生じない高さまで打ち込むことが好ましい。
【0065】
次に、堤体11の上面開口部25以外の各開口部を、
図3(a)〜(c)のように止水装置30を用いて閉塞してから、堤体11を吊り降ろして水面Sに浮上させ、堤体11を、
図14のように、透過式海域制御構造物10を構築する水域へと曳航船Fによって曳航する(S22)。この場合、堤体11の空洞Cの底部には図のハッチングのように若干注水し、復元力を増加させて堤体11の安定性を保つ。また、基礎杭29a,29bはあらかじめ堤体11のガイド管にセットされている。すなわち、
図14のように、ストッパ28a、28bを用いて基礎杭29a,29bが堤体11のガイド管に差し込まれ仮止めされた状態で保持されている。
【0066】
次に、
図15のように、堤体11を所定位置に位置決めた状態で、ストッパ28a、28bを解除することで基礎杭29a、29bを降ろし、先に打設した基礎杭29c、29bとの間で、基礎杭29aと29c、基礎杭29bと29dを、それぞれ連結部29e(
図15のハッチングで示す)で水中溶接等の公知の連結手段により連結し一体化する(S23)。このとき、堤体11は浮上し水中浮遊状態である。
【0067】
次に、
図16のように、基礎杭29aまたは29c、29bまたは29dに仮受けブラケット27を堤体11の底版20の下側の所定位置に取り付ける(S24)。仮受けブラケット27は、公知のバンド等を用いて基礎杭に設置することができる。
【0068】
次に、
図16のように、止水装置30のバルブ33を開き、堤体11の空洞Cから空気を排出し空洞Cへ水を流入させることで、堤体11を沈下させ、底版20が仮受けブラケット27で受けられ、堤体11が底版20と水底Gとの間で所定の隙間を保つことができ、堤体11の設置が完了する(S25)。
【0069】
その後、止水装置30を取り外すことで、透過式海域制御構造物10の所定の設置位置での構築が完成する。
【0070】
〈第4の構築方法〉
本実施形態による透過式海域制御構造物の第4の構築方法について
図17〜
図20を参照して説明する。
【0071】
図17は、本実施形態による透過式海域制御構造物の第4の構築方法における工程S31〜S35を説明するためのブロック図である。
図18は第4の構築方法で基礎杭の打設及び堤体の曳航状態を示す図である。
図19は第4の構築方法で基礎杭の連結状態を示す図である。
図20は第4の構築方法で堤体の設置状態を示す図である。
【0072】
まず、
図18のように、透過式海域制御構造物10の設置位置の水底Gに、あらかじめ基礎杭29a、29bを杭打ち船により打設し所定深さまで打ち込んでおく(S31)。この場合、基礎杭29a,29bは、次工程の堤体11の曳航に支障が生じない高さまで打ち込むことが好ましい。
【0073】
次に、
図18のように、基礎杭29a,29bに仮受けブラケット27をそれぞれ取り付ける(S32)。仮受けブラケット27は、公知のバンド等を用いて基礎杭に設置することができる。
【0074】
次に、堤体11の上面開口部25以外の各開口部を、
図3(a)〜(c)のように止水装置30を用いて閉塞してから、堤体11を吊り降ろして水面Sに浮上させ、堤体11を、
図18のように、透過式海域制御構造物10を構築する水域へと曳航船Fによって曳航する(S33)。この場合、堤体11の空洞Cの底部には図のハッチングのように若干注水し、復元力を増加させて堤体11の安定性を保つ。
【0075】
次に、堤体11を所定位置に位置決めた状態で、
図19のように、止水装置30のバルブ33を開き、堤体11の空洞Cから空気を排出し空洞Cへ水を流入させることで、堤体11を沈下させ、堤体11のガイド管に、打設された基礎杭29a、29bを挿入することで、堤体11と基礎杭29a、29bとを接合する。さらに、堤体11を沈下させることで、底版20が仮受けブラケット27で受けられ、堤体11が設置される(S34)。これにより、堤体11が底版20と水底Gとの間で所定の隙間を保つことができる。
【0076】
次に、
図20のように、堤体11の上部からガイド管内にコンクリートまたはモルタルを打設し基礎杭29a、29bの杭頭部まで充填し、基礎杭補填部29f、29g(
図20のハッチングで示す)を形成することで、下部の基礎杭29a、29bとともに堤体11の支持力を確保する(S35)。
【0077】
その後、止水装置30を取り外すことで、透過式海域制御構造物10の所定の設置位置での構築が完成する。
【0078】
以上のように、本実施形態の第1〜第4の構築方法によれば、上面開口部25を除いた各開口部を閉塞することにより堤体11を浮力により浮上させた状態で設置対象の水域まで運搬することができるとともに、設置位置で堤体11内の空洞へバルブ33から水を流入させて堤体11を水中へ沈下させることができる。このようにして堤体11を簡単な工程で設置することができるので、従来のような大型の起重機船を必要とせず、安全にかつ低コストで透過式海域制御構造物10を構築することができる。
【0079】
なお、堤体11を水中へ沈下させるとき、止水装置30のバルブ33を通して堤体の空洞内に注水したが、ポンプPを用いて注水してもよい。また、バルブ33とポンプPとを併用して注水してもよい。
【0080】
また、第1〜第4の構築方法における止水装置30の回収は、
図24のように、ワイヤWの先端に止水装置30をつなぎ、ウインチVを用いて、巻き上げて回収することができる。
【0081】
また、第1〜第3の構築方法において堤体の設置後、堤体11のガイド管と基礎杭との間の隙間にモルタルグラウトを充填し堤体と基礎杭との一体化を図ることが好ましい。また、仮受けブラケット27を取り付けた場合、仮受けブラケット27は取り外してもよいが、残してもよく、残す場合には水中溶接等で基礎杭に取り付けることができる。
【0082】
次に、底版20の底面開口部26を閉塞する別の止水装置について
図25を参照して説明する。
図25(a)(b)のように、止水装置40は、堤体11の底版20全体を覆うように形成された鋼板からなる止水板41と、その上に配置されたゴム材料等からなるパッキン42と、を備え、複数の底面開口部26を一括して閉塞できるようになっている。止水装置40の両端には、複数の基礎杭29a、29bが貫通するように複数の孔42aが形成されている。止水装置40は、複数箇所で
図3(c)と同様にして堤体11の埋め込みアンカーにボルト締めすることで取り付けることができる。
【0083】
上述の止水装置40で堤体11の複数の底面開口部26を閉塞し、堤体11の設置工程を行い、設置完了後、止水装置40を取り外し、回収せずに存置し、
図25(a)のように、水底Gに沈下させて水底Gを覆うことで、構築後の透過式海域制御構造物10において基礎杭29a、29bの周りの洗掘を防止することができる。
図25(a)(b)の止水装置40は上述の第1〜第4の構築方法において適宜適用可能である。
【0084】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本発明の構築方法を適用可能な透過式海域制御構造物は、
図1,
図2の構造に限定されず、他の構造であってもよいことはもちろんである。例えば、
図23(a)〜(c)のような海域制御構造物に対して適用可能である。
【0085】
すなわち、
図23(a)〜(c)の海域制御構造物は、内部が空洞化された箱形ブロック91が複数の杭90により水底に固定されるもので、箱形ブロック91は、複数の開口部93を有する前面側(沖側)の前面壁92と、複数の開口部95を有する後面側(陸側)の後面壁94と、複数の中間壁開口部97を有する中間壁96と、を備え、底版98に複数の開口部99を有し、頂版に開口部99と同様の複数の開口部を有する。後面壁94には平均海面から突出するよう上面側に突設部94aが設けられている。
図23(a)〜(c)の海域制御構造物は、上述の実施形態と同様にして各開口部を閉塞し、頂版の開口部を閉塞しない状態で、浮上させて運搬し沈下させることで設置することができる。なお、箱形ブロック91の両側面に開口部を設けていないが、設けてもよく、開口部を設けた場合には同様に閉塞する。
【0086】
また、本実施形態において堤体11の上面の上面開口部25は閉塞しなかったが、他の開口部と同様に止水装置30等により閉塞してもよい。
【0087】
また、
図3(a)の堤体11における止水装置30のバルブ33は、底版20で内側(空洞C側)に配置し、それ以外は外側に配置したが、これに限定されず、それぞれ反対側に配置するようにしてもよい。バルブ33を空洞C側に配置した場合、空洞C内でバルブ33の開閉操作ができる。
【0088】
また、
図1の堤体11は、前面側(沖側)に前面鉛直壁13と前面傾斜壁14とを有する構成であるが、前面全体を鉛直壁に構成してもよく、また、前面全体を傾斜壁に構成してもよい。