(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記岸壁または護岸がケーソンによる重力式の場合、前記シート材料を前記ケーソンの背面または前面の上端部まで敷設し、前記背面または前面の下端部において前記シート材料がたるむようにシート余裕部を設ける請求項1または2に記載の岸壁構造または護岸構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軽量混合処理土工法は、発泡ビーズ等の軽量化材を使用するため、材料費が高価となるという問題がある。また、斜底面工法は、ケーソン幅を小さくできるが、底面反力が大きくなるため基礎地盤や基礎マウンドを強固なものとする必要があり、この結果、施工コスト高となってしまう場合がある。グラウンドアンカーを用いる構造は支持地盤が深いとアンカー長が長くなってしまう。
【0006】
本発明は、岸壁・護岸における地震に対する安定性を保ちつつ、重力式岸壁・護岸の必要重量や矢板式岸壁・護岸に用いる矢板の断面性能を小さくすることの可能な岸壁構造または護岸構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、地震に対する岸壁や護岸の安定性を高めるために岸壁・護岸の海側の前面の水位と岸壁・護岸の陸側の背面の水位との水位差に着目し、海側の水圧を陸側に作用させることで岸壁や護岸における地震に対する安定性を保ちつつ重力式岸壁・護岸の必要重量や矢板式岸壁・護岸に用いる矢板の断面性能を小さくすることができるとの着想を得て本発明に至ったものである。
【0008】
本発明の原理について
図1を参照して説明する。
図1は岸壁・護岸における通常の構造を概略的に示す断面図(a)及び
図1(a)の構造において背面の水位を低下させた場合を示す同様の断面図(b)である。
【0009】
岸壁(または護岸)の堤体には、陸側の背面Rの水位と海側の前面Fの水位との差(水位差)に応じた水圧が作用するが、
図1(a)のように、陸側の残留水位が海側の水位よりも高い場合、堤体の背面Rに対し土圧とともに水位差による水圧が作用する。これに対し、
図1(b)のように、陸側の背面Rの水位を低下させ、海側の前面Fの水位よりも低くした場合、堤体の背面Rには土圧が作用する一方、堤体の前面Fに対し前面Fの水位と背面Rの水位との水位差による水圧が作用する。かかる水圧は、地震動による堤体の背面Rへの水平力と反対方向に作用するため、地震動による堤体に作用する水平力合力を低減させることができる。したがって、岸壁の海側と陸側との水位差を利用して海側から陸側へ水圧を作用させることにより、岸壁または護岸の地震時における安定性を保ちつつ重力式岸壁・護岸の必要重量や矢板式岸壁に用いる矢板の断面性能を小さくすることができる。
【0010】
上記目的を達成するための岸壁構造または護岸構造は、岸壁または護岸の背面に周囲の地盤との間で地下水の出入りを遮断するように遮水部を設け、
前記遮水部が、前記地下水の出入りを遮断するために前記地盤を覆うように敷設されるシート材料と、前記シート材料上に堆積される透水性材料と、を有し、前記シート材料の端部が不透水とされ、前記遮水部に排水手段を設置し、前記排水手段により前記遮水部における水位を
前記岸壁または護岸の前面の海面の水位よりも低く保つ
ことで前記岸壁または護岸が耐震性を有することを特徴とする。
【0011】
この岸壁構造または護岸構造によれば、岸壁または護岸の背面の陸側に設けた遮水部で周囲の地盤との間で地下水の出入りを遮断するとともに、排水ポンプ等の排水手段により
遮水部における水位を岸壁または護岸の前面の海面の水位よりも低く保つことで、水位差による水圧が地震動による堤体背面への水平力と反対方向に岸壁または護岸の前面に作用するので、地震動による岸壁または護岸に作用する水平力合力を低減させることができ、このため、岸壁や護岸における地震に対する安定性を向上させることができる。また、重力式岸壁・護岸の必要重量や矢板式岸壁・護岸に用いる矢板の断面性能を小さくすることができる。
【0013】
また
、前記遮水部が止水矢板を有し、前記止水矢板が前記岸壁または護岸の背面から所定距離だけ離れて配置されることが好ましい。
【0014】
また、前記岸壁または護岸がケーソンによる重力式の場合、前記シート材料を前記ケーソンの背面または前面の上端部まで敷設し、前記背面または前面の下端部において前記シート材料がたるむようにシート余裕部を設けることが好ましい。地震時にケーソンが移動してもシート材料はケーソンの下端部の余裕部で伸張するので、シート材料の破損を防止でき、遮水部による遮水性を維持できる。
【0015】
また、原地盤の不透水層を前記シート材料の代わりに用いるようにしてもよい。原地盤に粘土層等の不透水層がある場合、これをシート材料の代わりに用いることで材料費を削減することができる。
【0016】
なお、上記岸壁構造または護岸構造は、上述のように、岸壁または護岸の背面に加わる水位差による水圧
により岸壁や護岸における地震に対する安定性を保つことができるので、岸壁または護岸が耐震性を有する耐震構造に構成可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の岸壁構造または護岸構造によれば、岸壁・護岸における地震に対する安定性を保ちつつ重力式岸壁・護岸の必要重量や矢板式岸壁に用いる矢板の断面性能を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0020】
〈第1の実施形態〉
図2は第1の実施形態による矢板式岸壁に適用した岸壁構造の第1例を説明するための断面図である。
図3は同じく第2例を説明するための断面図である。
【0021】
本実施形態による第1例は、矢板式岸壁構造であり、
図2に示すように、この矢板式岸壁構造は、水底Gに打設した鋼管矢板11の背面(陸側)に遮水部12を設け、遮水部12における水位Hを設定水位以下に恒常的に保つために排水ポンプ18を設置したものである。
【0022】
遮水部12における設定水位は、遮水材料の強度やポンプの排水能力から定まる水位低下可能量と水位低下による水平力の低下に応じた岸壁(護岸)構造の経済性とを考慮して決定されることが好ましい。
【0023】
遮水部12は、水底Gを覆うように敷設された遮水シート14と、鋼管矢板11から陸側(図の右側)水平方向に所定距離だけ離れた位置に打設された止水矢板17と、遮水シート14上に堆積されて鋼管矢板11の背面に裏込された透水性の高い捨石13と、から構成される。
【0024】
遮水シート14は、鋼管矢板11の下端の水底Gから、止水矢板17の下端の水底Gまで、水底Gを覆っており、その一端側(海側)が水底Gに打設された水中コンクリート15で固定されて不透水とされ、その他端側(陸側)が止水矢板17側の水底Gに打設された水中コンクリート16で固定されて不透水とされている。遮水シート14は、捨石や地盤に接しても破損しないように上下の両面が
図9のように保護材14aで覆われている。止水矢板17は継手部にモルタルの充填や遮水材の塗布等を行い、水が浸入しないようにする。
【0025】
また、遮水部12の捨石13内へ排水ポンプ18から配管が延び、その先端の吸引口18aが捨石13内の設定水位よりも下方の位置にある。これにより、遮水部12の水位Hが設定水位を超えると排水ポンプ18を作動させ排水することで遮水部12の水位Hを設定水位以下に恒常的に保つことができる。
【0026】
遮水部12の上面には雨水の侵入を防ぐための不透水舗装20が施される。また、止水矢板17の背面側(陸側)には埋土Mが埋め戻される。
【0027】
埋土Mにおける残留水位(R.W.L)や海水面の水位HSが遮水部12の水位Hよりも大きいため、遮水シート14に上向きまたは斜め上向きの水圧が作用するが、上述のように、遮水シート14上に捨石13を堆積し、この捨石重量で水位差による水圧に抵抗する構造としている。
【0028】
また、遮水シート14に作用する水圧は、例えば水位低下が2mの場合には、2tf/m
2となるため、相応の強度に耐えるシート材料または遮水部構造とする必要がある。
【0029】
なお、遮水シート、止水矢板等の遮水材料や施工方法については廃棄物処分場で用いられる遮水シートや止水矢板と同様の技術を利用することができる。
【0030】
上述のように、
図2の矢板式岸壁では鋼管矢板11の背面に、捨石13と遮水シート14と止水矢板17とによる遮水部12が構築される。矢板式岸壁の背後において遮水シート14が砂層Nに対して地下水の出入りを遮断し、止水矢板17が埋土Mに対して地下水の出入りを遮断するとともに、捨石13が水をよく透過することで、遮水部12の水位Hを容易に低下させることができる。このようにして、矢板式岸壁の背後に遮水部12により水位低下範囲Aが構成される。
【0031】
以上のように、矢板式岸壁の背面において、遮水部12の遮水シート14と止水矢板17とにより周囲の地盤に対し地下水の行き来が生じない部分を構築し、水位低下範囲A内の水位Hが上昇したとき、排水ポンプ18により水位Hを設定水位以下に恒常的に保つことで水位が低下した状態が恒久的に持続する岸壁構造を構築することができる。
【0032】
また、雨水の侵入等により遮水部12の水位Hが上昇することがあっても、排水ポンプ18で排水することで、容易に再度水位Hを設定水位以下に低下させることができる。このように、水位低下範囲A内の水位Hが設定水位以下となるように排水ポンプ18で水位Hを制御することにより、海水面の水位HSと水位低下範囲A内の水位Hとの水位差はΔH(HS−H)となり、水位差ΔHによる水圧が鋼管矢板11の前面に恒常的に作用することになる。
【0033】
以上のように、
図2の矢板式岸壁構造によれば、岸壁において海側の前面から陸側の背面へと水圧を作用させることにより、矢板式岸壁の地震時における安定性を保ちつつ鋼矢板の断面性能を小さくし矢板長も小さくすることができる。
【0034】
また、遮水シート14や止水矢板17は変形性能が高いので、沈下等の経年変化等による岸壁や地盤の変位が生じても遮水部12における止水性を保つことができる。
【0035】
また、遮水部12への雨水の浸入や矢板継手からの浸水等によって水位低下範囲A内の水位Hが上昇するため日常的に水位Hを監視することが好ましく、この水位監視に基づいて排水ポンプ18により排水を行うことで、本実施形態の岸壁構造が有する耐震構造の信頼性が向上する。なお、遮水部12内に水位計を設置し、水位Hが設定水位に達したことを検知したら、この検知に基づいて自動的に排水ポンプ18を駆動するようにしてもよい。
【0036】
なお、従来、掘削工事において土留工施工時の水圧低減を目的としてポンプにより水位を低下させるディープウエル工法やウエルポイント工法等の水位低下工法等が知られているが、これらの工法は仮設工事に用いられ、永久構造物に用いられる技術ではない。
【0037】
次に、本実施形態による第2例は、矢板式岸壁構造であるが、
図3に示すように原地盤の粘性土層等の不透水層を遮水シートの代わりに利用し、遮水シートを省略した点が
図2と異なる。
【0038】
図3のように、原地盤が例えば砂層Kの上に不透水層である粘性土層Lを有する場合、鋼管矢板11を水底Gから打設し、鋼管矢板11から陸側(図の右側)水平方向に所定距離だけ離れた位置で止水矢板17を粘性土層Lに打設し、鋼管矢板11の背面と止水矢板17の前面との間で粘性土層L上に透水性の高い捨石13を堆積し裏込する。このようにして、遮水部22が止水矢板17と粘性土層Lと捨石13とにより構成される。排水ポンプ18により遮水部22における水位Hが設定水位以下に恒常的に保たれる。
【0039】
以上のように、矢板式岸壁の背後において、遮水部22の粘性土層Lと止水矢板17とにより周囲の地盤に対し地下水の行き来が生じない部分を構築し、水位低下範囲A内の水位Hが上昇したとき、排水ポンプ18により水位Hを設定水位以下に恒常的に保つことで水位が低下した状態が恒久的に持続する岸壁構造を構築することができる。
【0040】
図3のように原地盤に粘土層等の不透水層がある場合、不透水層を遮水シートの代わりに利用でき、遮水シートを省略できるので、材料費を削減することができる。また、条件が満足されれば既設の岸壁や護岸にも適用可能である。
【0041】
遮水部22の水位低下範囲A内の水位Hを、
図2と同様に設定水位よりも低くなるように排水ポンプ18で制御することにより、海水面の水位HSと水位低下範囲A内の水位Hとの水位差ΔHによる水圧が鋼管矢板11の前面に恒常的に作用することになる。
【0042】
以上のように、
図3の矢板式岸壁構造によれば、
図2と同様に海側から陸側へ水圧を作用させることにより、矢板式岸壁の地震時における安定性を保ちつつ鋼矢板の断面性能を小さくし矢板長も小さくすることができる。
【0043】
図9に第1の実施形態による矢板式岸壁に適用した岸壁構造の第3例を説明するための断面図を示す。
図9の矢板式岸壁構造は、
図2と基本的に同様の構造であるが、遮水部12が砂層Nの法面に遮水シート14を敷設して構成されている。
図9の矢板式岸壁構造により
図2と同様の効果を得ることができる。
【0044】
〈第2の実施形態〉
図4は第2の実施形態による重力式岸壁に適用した岸壁構造の第1例を説明するための断面図である。
図5は同じく第2例を説明するための断面図である。
図6は同じく第3例を説明するための断面図である。
【0045】
本実施形態による第1例は、重力式岸壁構造であり、
図4に示すように、この重力式岸壁構造は、水底Gに築かれた基礎捨石P上にケーソン31を設置し、ケーソン31の背面31b(陸側)に遮水部32を設け、遮水部32における水位Hを設定水位以下に恒常的に保つために排水ポンプ38を設置したものである。
【0046】
遮水部32は、
図2と同様に、基礎捨石P及び砂層Nを覆うように敷設された遮水シート34と、ケーソン31の背面31bから陸側(図の右側)水平方向に所定距離だけ離れた位置で砂層N内に打設された止水矢板37と、遮水シート34上に堆積されてケーソン31の背面31bに裏込された透水性の高い捨石33と、から構成される。
【0047】
遮水シート34は、ケーソン31の背面31bから下端の基礎捨石P、砂層Nの法面、さらに止水矢板37が打設された砂層Nの基礎捨石Pよりも高い部分まで延びて、ケーソン31の背面31bと基礎捨石Pと砂層Nとを覆っている。遮水シート34の一端34bは、ケーソン31の背面31bの上端まで延びて固定されて不透水とされ、その他端は止水矢板17の下端で捨石13により押さえ付けられるとともに止水矢板17に密着されて不透水とされている。一端34bの部分の遮水シートはケーソン31の目地部のみとしてもよい。遮水シート34は、捨石や地盤に接しても破損しないように上下の両面が保護材34aで覆われている。なお、保護材34aは、ケーソン31の背面31bでは省略されているが、設けてもよい。
【0048】
また、遮水部32の捨石33内へ排水ポンプ38から配管が延び、その先端の吸引口38aが捨石33内の設定水位以下の位置にある。これにより、遮水部32の水位Hを設定水位に恒常的に保つことができる。
【0049】
遮水部32の上面には不透水舗装40が施される。また、止水矢板37の背面側(陸側)には埋土Mが埋め戻される。
【0050】
以上のように、重力式岸壁の背後において、遮水部32の遮水シート34と止水矢板37とにより周囲の地盤に対し地下水の行き来が生じない部分を構築し、水位低下範囲A内の水位Hが上昇したとき、排水ポンプ38により水位Hを設定水位以下に恒常的に保つことで水位が低下した状態が恒久的に持続する岸壁構造を構築することができる。
【0051】
遮水部32の水位低下範囲A内の水位Hを、設定水位よりも低くなるように排水ポンプ38で制御することにより、海水面の水位HSと水位低下範囲A内の水位Hとの水位差はΔH(HS−H)となり、水位差ΔHによる水圧がケーソン31の前面31aに恒常的に作用することになる。かかる水圧は地震動によるケーソン31の背面31bへの水平力と反対方向に作用するため、地震動によるケーソン31の背面31bへの水平力を低減させ、ケーソンの必要重量を小さくすることができる。
【0052】
また、日常的に水位Hを監視し、この水位監視に基づいて排水ポンプ18により排水を行うことで、本実施形態の岸壁構造が有する耐震構造の信頼性が向上する。
【0053】
以上のように、
図4の重力式岸壁構造によれば、海側から陸側へ水圧を作用させることにより、重力式岸壁の地震時における安定性を向上させ、ケーソンの必要重量を小さくすることができる。
【0054】
また、本例のように重力式岸壁の場合には背面の水位低下によりケーソン等の提体に作用する浮力も小さくなり堤体重量が増すためさらに安定性が増加するという効果も得ることができる。
【0055】
次に、本実施形態による第2例は、重力式岸壁構造であるが、
図5に示すように止水矢板を省略し、遮水シートによって周囲の地盤に対し地下水の行き来が生じないように遮水部42を構成した点が
図4と異なる。
【0056】
すなわち、遮水部42の遮水シート34は、ケーソン31の背面31bから下端の基礎捨石P、埋土Mの法面、さらに地盤表面まで延びて、ケーソン31の背面31bと基礎捨石Pと埋土Mとを覆っている。遮水シート34の一端34bは、ケーソン31の背面31bの上端まで延びて固定されて不透水とされ、その他端34cは地盤表面で固定されて不透水とされている。
【0057】
以上のように、重力式岸壁の背後において、遮水部42の遮水シート34により周囲の地盤に対し地下水の行き来が生じない部分を構築し、水位低下範囲A内の水位Hが上昇したとき、排水ポンプ38により水位Hを設定水位以下に恒常的に保つことで水位が低下した状態が恒久的に持続する岸壁構造を構築することができる。
【0058】
遮水部42の水位低下範囲A内の水位Hを、
図2と同様に設定水位よりも低くなるように排水ポンプ38で制御することにより、海水面の水位HSと水位低下範囲A内の水位Hとの水位差ΔH(HS−H)による水圧がケーソン31の前面31aに恒常的に作用することになる。
【0059】
以上のように、
図5の重力式岸壁構造によれば、
図4と同様に海側から陸側へ水圧を作用させることにより、重力式岸壁の地震時における安定性を向上させ、ケーソンの必要重量を小さくすることができる。
【0060】
また、止水矢板を省略したことにより、止水矢板材料及びその打設が不要となるので、材料や工数のコスト減に寄与することができる。
【0061】
次に、本実施形態による第3例は、重力式岸壁構造であるが、
図6に示すように基本的な構成は
図5とほぼ同様であるが、遮水シートをケーソン31の前面31aの上端まで延長させて遮水部52を構成した点が
図5と異なる。
【0062】
すなわち、遮水部52の遮水シート34は、ケーソン31の前面31aから基礎捨石Pとケーソン31の底面との間、背面31bの下端の基礎捨石P、埋土Mの法面、さらに地盤表面まで延びて、ケーソン31の前面31aと基礎捨石Pと埋土Mとを覆っている。遮水シート34の一端34bは、ケーソン31の背面31bの上端まで延びて固定されて不透水とされ、その他端34cは地盤表面で固定されて不透水とされている。
【0063】
以上のように、重力式岸壁の背後において、遮水部52の遮水シート34により周囲の地盤に対し地下水の行き来が生じない部分を構築し、水位低下範囲A内の水位Hが上昇したとき、排水ポンプ38により水位Hを設定水位以下に恒常的に保つことで水位が低下した状態が恒久的に持続する岸壁構造を構築することができる。
【0064】
遮水部42の水位低下範囲A内の水位Hを、
図2と同様に設定水位よりも低くなるように排水ポンプ38で制御することにより、海水面の水位HSと水位低下範囲A内の水位Hとの水位差ΔH(HS−H)による水圧がケーソン31の前面31aに恒常的に作用することになる。
【0065】
以上のように、
図6の重力式岸壁構造によれば、
図4と同様に海側から陸側へ水圧を作用させることにより、重力式岸壁の地震時における安定性を向上させ、ケーソンの必要重量を小さくすることができる。
【0066】
また、ケーソン31の底面および海側の前面31aに遮水シートを設置する構造としたので、遮水シートの点検等が可能となる。
【0067】
次に、
図4〜
図6の重力式岸壁において遮水シートにシート余裕部を設けた例について
図7を参照して説明する。
図7は、
図4または
図5のケーソン背面の下端で遮水シートにシート余裕部を設けた例を示す部分図(a)及び
図6のケーソン前面の下端で遮水シートにシート余裕部を設けた例を示す部分図(b)である。
【0068】
図5の重量式岸壁において、
図7(a)のように、ケーソン31の背面31bの下端部に遮水シート34がたるむようにシート余裕部34dを遮水シート34に設ける。
【0069】
また、
図6の重量式岸壁において、
図7(b)のように、ケーソン31の前面31aの下端部において遮水シート34がたるむようにシート余裕部34eを遮水シート34に設ける。
【0070】
ケーソン式等の重力式岸壁の場合は地震発生時にケーソンが海側へ移動し、遮水シートが破損することが懸念されるが、
図7(a)(b)の構成によれば、地震時にケーソン31が海側に移動しても、遮水シート34はケーソン31の背面31bの下端部のシート余裕部34d、または、前面31aの下端部のシート余裕部34eにおいてたるみにより伸張することで、遮水シート34の破損を防止でき、遮水部42,52における遮水性を保つことができる。
【0071】
次に、水位低下による水平力の低下量について検討した。すなわち、
図8に、クーロンの土圧式による土圧と水圧の合力として算出した水平力の、水位低下による低下割合(%)を試算した結果を示す。天端高さDL+4.0m、内部摩擦角φ=40°の石材、水平震度0.2の地震時を想定したものである。比較として背後の地下水面上のみを軽量盛土(γ=12kN/m
3)に置き換えた場合では、水平力低下割合は、87%(水深16mの場合)程度となり、水位低下量を大きくすると水平力低減効果が高く、堤体の設計水平力を小さくすることができ、重力式岸壁の堤体幅を小さくしたり矢板式岸壁の矢板長を短くしたりすることができることがわかる。このように、水位低下量を大きくすると水平力が低下し岸壁(護岸)のコスト削減が可能である。
【0072】
なお、計算条件は次のとおりである。
・天端高さ DL+4.0m
・上載荷重 15kN/m
2
・土質条件
空中重量 18 kN/m
3
水中重量 10 kN/m
3
内部摩擦角φ=40°
壁面摩擦角15°
・水位条件
水位低下なし時:D.L.+0.67m(HWL:D.L.+2.0m,LWL:D.L.+0.0mとしたときの残留水位を想定)
水位低下時:LWLからの水位低下量
【0073】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施形態では岸壁構造について説明したが、本発明はこれに限定されず、護岸構造であってもよいことはもちろんである。
【0074】
また、本実施形態では、遮水部内の水位を岸壁の前面の海面よりも低くし、遮水部内の水位と岸壁の前面との水位差により海側から陸側へと岸壁の前面に水圧を作用させるようにしたが、本発明は必ずしもこれに限定されず、例えば、遮水部内の水位を陸側の残留水位(R.W.L)よりも低くすることで、少なくとも岸壁の背面への水圧が低下するので、地震動による岸壁に作用する水平力合力が低減し、岸壁の地震時における安定性を保つことができる。