特許第5669211号(P5669211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669211
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】プロジェクタ及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20150122BHJP
   G02B 26/02 20060101ALI20150122BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150122BHJP
   G02F 1/133 20060101ALI20150122BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   G03B21/14 Z
   G02B26/02 B
   G02F1/13 505
   G02F1/133 535
   G03B21/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-505744(P2011-505744)
(86)(22)【出願日】2009年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2009056063
(87)【国際公開番号】WO2010109621
(87)【国際公開日】20100930
【審査請求日】2011年8月1日
【審判番号】不服2013-20784(P2013-20784/J1)
【審判請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】300016765
【氏名又は名称】NECディスプレイソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 厚志
【合議体】
【審判長】 伊藤 昌哉
【審判官】 土屋 知久
【審判官】 北川 清伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−205814(JP,A)
【文献】 特開2005−134563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B21/00-21/10
G03B21/12-21/13
G03B21/134-21/30
G03B33/00-33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源からのレーザー光束を画像変調デバイスに照射し、該画像変調デバイスに形成される画像をズームレンズにより拡大投射するプロジェクタであって、
前記ズームレンズの光出射面上に現れる前記レーザー光束のエネルギー密度を所定の値と同じかそれ以下に保つように、前記ズームレンズの焦点距離の変更により変化する前記ズームレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさに応じて前記レーザー光束のエネルギー量を制御する制御手段を有し、
前記所定の値は、前記ズームレンズの焦点距離を最短に設定した場合における、前記ズームレンズの光出射面上に現れる前記レーザー光束のエネルギー密度であり、
前記制御手段は、前記ズームレンズの焦点距離が最短の場合に前記エネルギー量を一番大きくし、前記ズームレンズの焦点距離が最長の場合に前記エネルギー量を一番小さくし、さらに前記ズームレンズの焦点距離の全域にわたり常に前記レーザー光束のエネルギー密度が前記所定の値を超えないように前記レーザー光束のエネルギー量を制御し、
前記ズームレンズの焦点距離を最短に設定した場合における、前記ズームレンズの光出射面上に現れる前記レーザー光束のエネルギー密度が、プロジェクタのレーザー安全クラスを満足する被曝放出限界値(AEL値)となっていることを特徴とするプロジェクタ。
【請求項2】
前記制御手段は、前記レーザー光束のエネルギー量を制御するために、前記ズームレンズの焦点距離の変更に従って前記レーザー光源の出力を変える、請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記レーザー光束のエネルギー量を制御するために、前記レーザー光源から出たレーザー光束が通過する光量を変えられる開口を有する可変絞りを用い、前記レーザー光源の出力を一定にしたままで、前記ズームレンズの焦点距離の変更に従って前記可変絞りの開口の大きさを変える、請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項4】
前記ズームレンズの焦点距離を変更するための変更手段をさらに備えた請求項1からのいずれか1項に記載のプロジェクタ。
【請求項5】
前記変更手段は、前記ズームレンズの鏡筒に回転可能に取り付けられ、回転することで内部レンズ群の一部を光軸に沿って移動させて前記ズームレンズの焦点距離を決めるズームリングであり、
前記プロジェクタは、前記ズームリングの回転角に応じて、前記焦点距離を決める前記内部レンズ群の一部の位置を検出するズーム位置検出手段をさらに有する、請求項に記載のプロジェクタ。
【請求項6】
レーザー光源からのレーザー光束を画像変調デバイスに照射し、該画像変調デバイスに形成される画像をズームレンズにより拡大投射するプロジェクタにおいて、前記ズームレンズの光出射面上に現れる前記レーザー光束のエネルギー密度を所定の値と同じかそれ以下に保つように、前記ズームレンズの焦点距離の変更により変化する前記ズームレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさに応じて前記レーザー光束のエネルギー量を制御する、プロジェクタの制御方法であって、
前記所定の値を、前記ズームレンズの焦点距離を最短に設定した場合における、前記ズームレンズの光出射面上に現れる前記レーザー光束のエネルギー密度とし、
前記ズームレンズの焦点距離が最短の場合に前記エネルギー量を一番大きくし、前記ズームレンズの焦点距離が最長の場合に前記エネルギー量を一番小さくし、さらに前記ズームレンズの焦点距離の全域にわたり常に前記レーザー光束のエネルギー密度が前記所定の値を超えないように前記レーザー光束のエネルギー量を制御し、
前記ズームレンズの焦点距離を最短に設定した場合における、前記ズームレンズの光出射面上に現れる前記レーザー光束のエネルギー密度が、プロジェクタのレーザー安全クラスを満足する被曝放出限界値(ALE値)となる、プロジェクタの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源に用いたプロジェクタ及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタについては、性能の向上および、小型化や低コスト化を目指して、放電ランプに替わる固体光源を使った商品の研究開発が盛んに行われている。例えば、LED光源を利用したリアプロTVやポケットプロジェクタが商用化されている。
【0003】
プロジェクタ用固体光源としては、LEDと並んでレーザー光源が有望視されている。レーザー光源は、光源としての潜在能力の高さは誰もが認めるところであるが、それを用いたプロジェクタの実用化にはまだ至っていない。その理由として、緑色を発光する安価な半導体レーザーが実用化されていないことはもとより、レーザービームがもつ特性から種々の規制が必要なことが挙げられる。
【0004】
レーザービームをMEMSスキャナなどを用いて、水平および垂直に走査して映像を表示するビームスキャン型のプロジェクタは、既存のプロジェクタと比して考えられないほどの小型化が図れる。しかし、国際レーザー安全規格IEC60825などに規定されている安全規格を遵守しなければならない。このIEC60825によるクラス分けにおいて、光源の光出力が小さく規制される。そのため、プロジェクタとして実用十分な明るさや、放電ランプを使った従来のプロジェクタと同等の明るさを実現することは難しいとされている。なお、各クラスではレーザービームが眼に直接入射しても安全な照度が規定され、レーザービームを見る条件により規定が異なっている。
【0005】
一方で、レーザービームを直接スキャンするのではないフロント投射型プロジェクタが知られている(例えば特開2008-58454号公報)。これは、液晶ライトバルブやDMD(デジタルミラーデバイス)などの2次元のマイクロディスプレイにレーザー光を照射し、そのマイクロディスプレイ上に表示される画像を投射レンズなどの光学系を用いて拡大投射するタイプである。
【0006】
このタイプのプロジェクタはビームスキャン型に対して、より高輝度なプロジェクタを実現できると考えられている。
【0007】
ところで、レーザー光源を用いたフロント投射型プロジェクタを使用する際、安全上で一番危険な状態は、人間の眼が投射レンズ(プロジェクションレンズ)に最接近したときと考えることができる。
【0008】
通常、1インチ以下程度のマイクロディスプレイが使われることが多いので、投射レンズの一番出口側、すなわち人間が一番近づく側のレンズを通過する光束の大きさは、人間の眼の瞳の平均サイズであるΦ7mmよりも大きくなると考えてよい。そのため、このΦ7mmに入りうるレーザー光束のパワーの安全性を議論すればよい。したがって、算出されるAEL(被曝放出限界(Accessible Emission Limit))と、プロジェクタとして満足したい安全クラスとの整合をつければよい。
【0009】
レーザー光源を使ったプロジェクタにおいて、特にフロント投射型のプロジェクタの場合には、ユーザーの使い勝手の良さや商品の優位性の観点から、投射レンズとしてズームレンズがしばしば搭載される。例えばスクリーンの大きさに見合ったプロジェクタ設置距離が十分にとれない場合、ズームレンズのズーム倍率を変えれば、スクリーンへの投影画面をスクリーンの大きさに合わせることができる。本明細書では、所定サイズの画面を投影するときにスクリーンとの投写距離を最短にできるようなズームレンズの焦点距離fの設定状態を“ワイド”と呼び、ワイド時と同じ画面サイズを投影するときにスクリーンとの投写距離を最長にできるようなズームレンズの焦点距離fの設定状態を“テレ”と呼ぶ。
【0010】
通常、プロジェクタのズームレンズは、ワイドからテレへの変更過程で、レンズの光出射面を通過する光線の位置と角度が変化する。したがって、前記レンズの光出射面の光って見える領域(レーザー光束が通過する部分の面積)はズームレンズの倍率調整とともに変化する。この領域の大きさはワイドの方が大きく、「テレ」の方が小さい(図1参照)。
【0011】
その結果、光源のレーザー出力が一定である条件下では、ワイドとテレとで安全性の違い、具体的にはAELの違いが発生する。
【0012】
人の眼に危険なのは、ワイドの方よりもレーザーパワー密度の高くなるテレの方である。そのため、テレの方で安全クラスを満足するAEL以下にレーザー出力を設計すれば、ズームレンズの倍率変更領域の全域に対して、その安全クラスを補償することができる。しかし、この対策では、AELに対して余裕があるワイドの方のポテンシャルが最大限に生かされていない。すなわち、ワイドの方は合法的にもっと高輝度になるのに、輝度を上げられない。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決することができるプロジェクタ及びその制御方法を提供することを目的とする。その目的の一例は、もっとも高輝度化が狙えるズームレンズワイド側でレーザー出力設計を行うことができ、しかもズームレンズの変倍領域全域にわたり安全性を確保できる、レーザー光源を利用したプロジェクタを実現することである。
【0014】
本発明は、レーザー光源と、2次元画像変調デバイスを用い、ズームレンズにより画像を拡大投射するレーザープロジェクタに係わる。とりわけ本発明は、ズームレンズの変倍領域の全域にわたって、ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束領域でのエネルギー密度が所定の被曝放出限界(AEL)以下となるプロジェクタを提供する。
【0015】
そして本発明の一の態様によるプロジェクタは、ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束のエネルギー密度を所定の値と同じかそれ以下に保つように、ズームレンズの焦点距離の変更により変化するズームレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさに応じてレーザー光束のエネルギー量を制御する制御手段を有し、
その所定の値は、ズームレンズの焦点距離を最短に設定した場合における、ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束のエネルギー密度であり、
上記の制御手段は、ズームレンズの焦点距離が最短の場合に該エネルギー量を一番大きくし、ズームレンズの焦点距離が最長の場合に該エネルギー量を一番小さくし、さらにズームレンズの焦点距離の全域にわたり常に該レーザー光束のエネルギー密度が上記の所定の値を超えないように該レーザー光束のエネルギー量を制御し、
ズームレンズの焦点距離を最短に設定した場合における、ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束のエネルギー密度が、プロジェクタのレーザー安全クラスを満足する被曝放出限界値(AEL値)となっていることを特徴とする。

【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】プロジェクタのズームレンズの光出射面におけるレーザー光束領域の大きさ(ワイドとテレの状態)を説明するための図である。
図2】本発明の第1の実施の形態の構成を説明するための図である。
図3】本発明の第1の実施の形態の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本発明は、液晶パネルやDMDなどの2次元のマイクロディスプレイを画像変調デバイスとして用い、この画像変調デバイスに赤(R),緑(G),青(B)の色光の光を照射して、投射レンズにより拡大投射を行うプロジェクタに関する。特に本発明は、光源がレーザー光源で、かつ投射レンズにズームレンズを備えたプロジェクタを対象にしている。
【0019】
まず、本発明の基本概念について詳述する。
【0020】
既存の放電ランプの代替としてレーザーをプロジェクタ用光源に用いる場合、レーザービームの安全基準(IEC60825やJIS C6802など)を遵守し、許容される安全クラスの中で、いかに実用十分で且つより高い輝度を達成できるかが、商品競争力の鍵である。2008年4月に開催された、社団法人レーザー学会主催の、レーザー技術特別セミナーにおいて講演された、「高出力赤色半導体レーザーとレーザープロジェクタ応用」(ソニー株式会社)の中では、レーザーを光源に用いたフロントプロジェクタの安全性の考え方が次のように示された。
【0021】
マイクロディスプレイ方式では、光源のレーザービームのビーム径が、フライアイレンズやロッドレンズなどのインテグレータ光学系でマイクロディスプレイの大きさ相応に拡大されてマイクロディスプレイに照射される。マイクロディスプレイ以降の照明光のたどる経路は、放電ランプベースのプロジェクタと同様であるので、このマイクロディスプレイ相応に拡大された光束が光源であると見なせる。したがって、この光束が投射レンズを通過するときのパワー密度を求めてその値が所定の安全クラスのAEL(被曝放出限界)値以下であれば安全と考えることができる。さらに、レーザーが危険を及ぼす放射持続時間は0.25sec以上と定めている。
【0022】
レーザープロジェクタに関して人間がもっとも危険となるケースは、眼をプロジェクタの投射光の出口である投射レンズの直前にもってきてしまった場合である。このとき、スクリーンに最も近い側の投射レンズ面に現れるレーザー光束領域の部分(投射レンズの光出射面上に光って見える部分)の面積が人間の瞳の直径Φ7mmよりも大きくなる場合がある。この場合には、そのレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度(W/mm^2)(エネルギー密度ともいう)の値が安全クラス基準を満足するようにメーカーは光源のレーザー出力を設計することが必要になる。
【0023】
しかし、ズームレンズを備えたレーザープロジェクタの場合、ズームレンズの焦点距離fが最長の状態(すなわちテレ)と、ズームレンズの焦点距離fが最短の状態(すなわちワイド)ではズームレンズの光出射面に現れるレーザー光束領域(投影画面)の大きさが異なる。
【0024】
例えば、液晶やDLP(登録商標)などの方式のフロント投射型プロジェクタに使われているズームレンズをワイドとテレにそれぞれ調整したとき、ズームレンズにおける最もスクリーンに近い側にあるレンズの光出射面上の、レーザー光束領域の大きさは、ワイドの方がテレよりも大きい(図1(a)(b)参照)。
【0025】
なぜなら、ズームレンズの本質であるからである。当然、ワイドとテレの中間部分については、ワイドからテレに調整するのに従ってレンズ出射面上のレーザー光束領域の大きさが小さくなると考えて差し支えない。
【0026】
このように、ズームレンズの焦点距離の調整、すなわちズーム倍率の調整に伴って、ズームレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさが変わることでレーザーパワー密度が変化する。したがって、メーカーが何らかの対策を講じておかないと、安全上の問題が起こることになる。
【0027】
ここで、ワイドとテレとでレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさが違うとなぜ問題なのかを述べる。また、それを補償することによって得られる利益についても述べる。
【0028】
ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束領域は、あたかもそこに、その大きさのレーザー光源があると見なされる。したがって、そのレーザー光束領域の大きさが違うということは、そこでのレーザーパワー密度(W/mm^2)が異なるということを意味する。ここでは、レーザー安全基準で定められるレーザークラスのうち、所定のレーザー安全クラスを、話を分かりやすくするために仮に“クラス1”とする。
【0029】
プロジェクタを設計する際は、ズームレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさから決まるエネルギー密度がクラス1の基準以下になるように、装置内部のレーザー光源の出力を決めることになる。そうしないと法的に問題となるからである。その範囲内、つまりクラス1の範囲内で、できるだけ大きな出力のレーザーを持ってくれば、最終的にプロジェクタとして得られる投射像は安全規格の中で最高の輝度を有するものとなる。
【0030】
明るい画像を投射できるプロジェクタを実現するには、投射レンズの光出射面上のレーザー光束領域におけるエネルギー密度がクラス1の範囲内で最高となる出力を持つレーザー光源を使おうとするのが設計者の心理である。
【0031】
しかしながら、その場合に一つ問題が生じる。ワイドとテレとで比べると、ズームレンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさはワイドの方が大きい。そのため、同じレーザー出力の光源では、言い換えればレーザー光源が一定の駆動条件の下では、ワイドの方がテレよりも、前記レーザー光束領域におけるエネルギー密度(レーザーパワー密度)が小さくなる。
【0032】
したがって、仮にクラス1の安全基準をズームレンズの倍率変更範囲の全域にわたってクリアしようとすると、テレの方での、前記レーザー光束領域におけるエネルギー密度をクラス1の安全基準以下に規定することになる。この結果、ワイドの方はテレよりも安全クラス上のエネルギー密度の余裕が生まれる。つまり、ワイドの方は合法的にもっと高輝度になるのに、そのポテンシャルを最大限に生かしきれていないことになる。
【0033】
そこで、高輝度化に有利なワイドの方でクラス1の安全基準を確保できるレーザー光源が用意される。そして、ズームレンズがワイド以外に設定されている場合には、そのときの投射レンズの光出射面上のレーザー光束領域の大きさから決まるエネルギー密度に応じて、クラス1の安全基準を満たすレベルまでレーザー光源の出力が抑制される。あるいは、当該レベルまで投射レンズの光出射面に到達する光量を減衰させるための減光手段がプロジェクタ内部に備えられる。このように、レーザー光束のエネルギー量を制御すれば、安全問題を解決でき、合法的なプロジェクタを商品化することができる。
【0034】
本発明によれば、安全クラスを満たすレーザー光源の出力値が、ズームレンズのワイド時において規定される。そして、ワイド以外の設定では、何も講じないと安全基準が満足できなくなるために、レーザー光源の出力が抑制される。あるいは、プロジェクタ内部の光源以外の箇所に設けられる減光手段によって、安全基準以内まで投射レンズの光出射面上の光パワー密度が減衰される。
【0035】
このような発明の場合、ズームレンズのワイド時に得られる、プロジェクタの光出力[W]は最大であり、テレ時では最小の光出力[W]となる。つまり、ズームレンズの倍率変更範囲の全域にわたってプロジェクタから同じ光出力(または放出光量[ルーメン])は得られない。しかし、それは高輝度なプロジェクタを実現すると言う意味では支障にはならない。なぜなら、何もせずに、ズームレンズのテレ時に安全基準を満足するように設計されたプロジェクタに比べて、本発明に係るプロジェクタの方が、ズームレンズのワイド時で高輝度になるからである。しかもズームレンズの倍率変更範囲の全域にわたって合法的に安全だからである。
【0036】
(発明の実施の形態)
以下、本発明に係るプロジェクタの実施形態例について図面を参照しながら説明する。
【0037】
図2は本発明による第1の実施形態の構成を説明するための図である。本実施形態のプロジェクタは、レーザー光源101と、画像変調デバイス105と、ズームレンズ106と、ズーム位置検出部107と、光源駆動制御部108とを備える。さらに、レーザー光源101と画像変調デバイス105との間には、レーザー光源101からのレーザー光束(レーザービーム)を画像変調デバイス105の大きさ相応に拡大するためのレンズ系が配されている。レンズ系は、レーザー光束の進行方向に沿ってレンズ102、インテグレータ103、およびレンズ104の順番で構成されている。
【0038】
レーザー光源101は半導体レーザーや固体レーザーなどを利用することができる。赤や青の色光を発するレーザー光源としては、DVDやブルーレイなどの為にすでに大量に生産されている半導体レーザーなら比較的安価なものが入手可能である。また、緑色を発するレーザーとしては、SHG(second harmonic generation)素子により波長変換により得られるレーザー光源を利用することが出来る。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
レンズ系102,104およびインテグレータ103は光学素子である。画像変調デバイス105は2次元画像を形成するマイクロディスプレイであり、例えば透過型の液晶ライトバルブや、DMD(デジタルミラーデバイス)あるいはLCOS(反射型液晶素子)などが用いられる。
【0040】
ズームレンズ106は、2次元画像変調デバイス105で形成された像を不図示のスクリーンや白い壁などに結像させるものである。
【0041】
ズーム位置検出部107は、ズームレンズ106の焦点距離の変更、すなわちズーム倍率変更に応じたズーム位置を検出するものである。ここでいうズーム位置とは、ズームレンズ106を構成する内部レンズ群の一部を光軸に沿って移動させてズームレンズ106の焦点距離(スクリーンとの投写距離もしくはズーム倍率)を決める際の、当該内部レンズ群の一部の位置をいう。
【0042】
ズーム位置を検出する装置例を挙げると、ズームレンズ106の鏡筒に、鏡筒中心軸回りに回転することで前記ズーム位置を変更するズームリングが設けられる。このようなズーム位置変更手段であるズームリングに、該ズームリングの回転角を検出するポジションセンサーがズーム位置検出部107として取り付けられる。
【0043】
前記ズームリングの回転角と、ズームレンズ106の内部レンズ群の一部の位置と、当該位置で決まるズームレンズ106の焦点距離(スクリーンとの投写距離もしくはズーム倍率)との対応関係を予め求めておけば、該ポジションセンサーで検出される前記ズームリングの回転角から、スクリーンとの投写距離もしくはズーム倍率に相当する現在のズーム位置が分かる。
【0044】
この場合のズームリングは回転範囲が制限されている。そしてズームレンズ106は、前記ズームリングを回転範囲の一方の端まで回転させると最短焦点距離の状態、すなわち“ワイド”になり、他方の端まで回転させると、最長焦点距離の状態、すなわち“テレ”になる。勿論、本発明のプロジェクタには上記ズームリングとは異なる他のズーム位置変更手段を適用してもよい。
【0045】
光源駆動制御部108は、レーザー光源101を駆動するための電力供給を担っており、ズーム位置検出部107の検出結果にもとづいてレーザー光源101に供給する電力量を制御する。
【0046】
なお、図2の構成図は、略図として示したものである。したがって、光源や画像変調デバイスなどが1つ示されているだけであるが、3色の光源で構成すればレーザーは3個必要になるし、3個の空間光変調器を使うこともできる。もちろん、LCOSやDMDなどの反射型の画像変調デバイスを使った場合には、光学系のレイアウトは反射光学系になることは言うまでもない。またさらに、インテグレータもフライアイレンズなどを用いることもできる。つまり、投射レンズの光出射面でのレーザー光束領域の大きさの違いに起因して変わるAEL値を設定値に対し常に超えないように制御することができれば、光学系の構成はどのような構成でも構わない。
【0047】
次に、本プロジェクタの動作について説明する。
【0048】
ユーザーが、ズームレンズ106の倍率変更をズームリングの操作によって行う。すなわち、スクリーン上の投影画像の拡大または縮小を行うと、その操作によりズーム位置検出部107からそのときのズーム位置情報が検出される。
【0049】
このとき、そのズーム位置に基づきズームレンズの光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさが分かる。該レーザー光束領域の大きさ(面積)は、ズームレンズ106の仕様が判明しているので、光路追跡によりあらかじめ詳細に知ることができる。例えば、ズームレンズ106を含めた照明系のシミュレーションをもとに算出可能である。そのため、あらゆるズーム位置に対応する、光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさ(面積)が予め計算され光源駆動制御部108等に記憶されている。また、プロジェクタの安全クラスを満足するAEL値[W/mm^2]が分かっているので、ズーム位置に応じた前記レーザー光束領域の大きさ[mm^2]を知ることによって、許容可能なレーザー出力値[W]は容易に算出可能である。
【0050】
本発明では、光出射面106a上のレーザー光束領域が最も大きくなるワイドの状態にズームレンズ106が調整されているとき、光出射面106a上のレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度がAEL値になるように、レーザー光源101の出力値が設定される。本実施形態例の場合は、そのようなレーザー出力値となるように、光源駆動制御部108によりレーザー光源101への電力供給が制御される。
【0051】
ズームレンズ106がワイドからテレへ調整されるに従い光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさは小さくなっていくので、レーザー出力設定がそのままであると、光出射面106a上のレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度はAEL値を超えてしまう。
【0052】
そのため、テレへのズーム調整に応じて前記レーザー光束領域の大きさが減少した分だけレーザー光源101の出力を低下させるように、光源駆動制御部108はレーザー光源101を駆動する。これにより、ズーム位置が変わっても、光出射面106a上のレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度をAEL値と同じかそれ以下に保つことができる。
【0053】
一方、初期状態としてズームレンズ106がテレに設定され、その状態からワイドへズーム調整が実施されたときには、ズーム位置検出部107により現在のズーム位置が検出され、検出された現在のズーム位置情報から、ズームレンズの光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさも判明する。そして、そのレーザー光束領域の大きさから、AEL値まで増加が許されるレーザー出力に相当する電力情報が光源駆動制御部108で計算される。これを基に光源駆動制御部108はレーザー光源101への投入電力を増加させる。
【0054】
補足すると、本プロジェクタは、ズームレンズ106がワイドの設定であるときの、光出射面106a上のレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度を、プロジェクタの安全基準であるAEL値と同等にしている。さらに、現在のズーム位置をズーム位置検出部107で検出すると、その検出されたズーム位置に対応する前記レーザー光束領域の大きさが分かるようになっている。そして、当該ズーム位置に応じたレーザー光束領域の大きさと、AEL値とを用いて、設定すべきレーザー光源101の出力値を算出し、当該出力値になるようにレーザー光源101に電力供給が行われている。
【0055】
このように本発明は、現在のズーム位置を知ることにより、設定した安全クラス(ワイド時でのAEL値)がズームの変倍領域全域にわたり常に超えない、投射像の明るい安全なプロジェクタを提供できる。
【0056】
(第1の実施形態の変形例)
図3に第1の実施形態の変形例の構成を示す。ここでは、上記第1の実施形態と同一の構成要素には同一符号を付し、その構成要素については上記の説明と同じとする。
【0057】
ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束のエネルギー密度(パワー密度)を所定のAEL値以下に保つ方法して、上記第1の実施形態では、光源駆動制御部108によりレーザー光源101に供給する電力が制御されている。これに対して、下記に述べる変形例では、ズームレンズ106内部に電気的又は機械的に開口を変化させられる可変絞り201を設け、これによりズームレンズ106の光出射面に到達するレーザー光束の光量を減衰させるという方法を示す。
【0058】
図3に示すように、ズームレンズ106内部に設けられた可変絞り201を駆動制御する可変絞り制御部202が備えられている。可変絞り制御部202は、ズーム位置検出部107の検出結果に基づいて可変絞り201の光通過量を制限する。
【0059】
本変形例の動作について説明する。
【0060】
ユーザーがズームレンズ106のズーム調整を実施すると、ズーム位置検出部107からそのときのズーム位置情報が検出される。この検出結果に基づき、ズームレンズの光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさ(面積)が得られる。そのため、あらゆるズーム位置に対応する、光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさ(面積)が予め計算され可変絞り制御部202等に記憶されている。
【0061】
光出射面106a上のレーザー光束領域が最も大きくなるワイドの状態において、光出射面106a上のレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度がAEL値になるように、レーザー光源101の出力値が設定されている。本変形例では、少なくともズーム操作の間、レーザー光源101の出力値が変わらないよう、レーザー光源101は一定の電力で駆動される。また、そのワイドの状態では、レーザー光源101から出力されたレーザー光束のエネルギーが減衰しないでズームレンズ106の光出射面106aに達するように、可変絞り201が制御されている。
【0062】
ズーム調整が実施されている間、検出されたズーム位置に対応する、光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさ[mm^2]と、設定されたレーザー光源101の出力値[W]とを用いて、当該レーザー光束領域におけるレーザーパワー密度[W/mm^2]が算出される。
【0063】
ワイドからテレへズーム調整が実施されるに従い光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさが小さくなっていく。このとき、レーザー光源101のレーザー出力が一定であるため、何もしないと、光出射面106a上のレーザー光束領域におけるレーザーパワー密度はAEL値を超えてしまう。
【0064】
そのため本例では、その算出されたレーザーパワー密度[W/mm^2]がAEL値と同じかそれ以下になるように、レーザー光源101から出てズームレンズ106の光出射面106aに達するまでのレーザー光束の光量(エネルギー量)を制限する。すなわち、いかなるズーム位置においても、算出されたレーザーパワー密度[W/mm^2]がAEL値以下になるように、可変絞り制御部202により可変絞り201の開口部の大きさ(光通過量)が制御される。
【0065】
一方、初期状態としてズームレンズがテレに設定され、その状態からワイドへズーム調整が実施されたときには、ズーム位置検出部107により現在のズーム位置が検出され、検出された現在のズーム位置情報から、投射レンズの光出射面106a上のレーザー光束領域の大きさも判明する。そして、そのレーザー光束領域の大きさから、AEL値まで増加が許されるレーザー出力に相当する可変絞り201での光通過量が可変絞り制御部202で計算される。これを基に可変絞り制御部202は可変絞り201の開口の大きさ(光通過量)を増加させる。
【0066】
本例の方法においても、ズームレンズの光出射面上に現れるレーザー光束のパワー密度を所定のAEL値以下に保つことができ、安全なプロジェクタを提供できる。さらに、AEL値の基準をズームレンズのワイド設定側で定めることで、ワイド時の投射像の輝度を最大限まで上げることができる。
【0067】
以上、実施形態例を示して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態例に限定されるものではない。本願発明の形や細部には、本願発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
図1
図2
図3