特許第5669215号(P5669215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669215
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】新規合成糖脂質およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/04 20060101AFI20150122BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C07H15/04 ECSP
   A61K31/7032
   A61P37/04
   A61P31/00
   A61P35/00
   A61P43/00 117
   A61P43/00 107
   A61K37/20
【請求項の数】21
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2011-552842(P2011-552842)
(86)(22)【出願日】2011年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2011052415
(87)【国際公開番号】WO2011096536
(87)【国際公開日】20110811
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-24859(P2010-24859)
(32)【優先日】2010年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】田代 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】森 謙治
(72)【発明者】
【氏名】汐崎 正生
(72)【発明者】
【氏名】谷口 克
(72)【発明者】
【氏名】渡会 浩志
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/119692(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/049819(WO,A1)
【文献】 特開2004−131481(JP,A)
【文献】 特開2005−263797(JP,A)
【文献】 特開平1−93562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
A61K
CAPLUS/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項2】
がa−D−ガラクトピラノシルである、請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
が置換基を有していてもよい炭素数1〜26の脂肪族炭化水素基であり、Rが水素原子である、請求項1又は2記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
が置換基を有していてもよい炭素数1〜21のアルキル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
Xが酸素原子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
Yが−CH(OH)−である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
下記一般式(2)で表される化合物又はその塩。
【化2】

[式中、R1aは6位水酸基がアルキル化されていてもよく、水酸基が保護されているアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OA)−又は−CH=CH−を示し、Aは水素原子又は水酸基の保護基を示す。]
【請求項8】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩及び薬理学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。
【化3】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項9】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、癌の予防又は治療剤。
【化4】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項10】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、NKT細胞活性化剤。
【化5】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項11】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、選択的IFN−γ産生誘導剤。
【化6】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項12】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、感染症の予防又は治療剤。
【化7】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項13】
癌の予防又は治療における使用のための、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化8】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項14】
NKT細胞活性化における使用のための、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化9】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項15】
選択的IFN−γ産生誘導における使用のための、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化10】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項16】
感染症の予防又は治療における使用のための、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【化11】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項17】
癌の予防又は治療剤の製造における、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
【化12】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項18】
NKT細胞活性化剤の製造における、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
【化13】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項19】
選択的IFN−γ産生誘導剤の製造における、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
【化14】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項20】
感染症の予防又は治療剤の製造における、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
【化15】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【請求項21】
下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【化16】

[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
(a)下記一般式(3):
【化17】

[式中、R1aは6位水酸基がアルキル化されていてもよく、水酸基が保護されているアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Y1aは−CH−、−CH(OA)−又は−CH=CH−を示し、Aは水酸基の保護基を示す。]で表される化合物又はその塩を、下記一般式(4)または(5):
【化18】

[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Lは脱離基を示す。]で表される化合物と反応させ、下記一般式(2’):
【化19】

[式中、各記号は前記と同義を示す。]で表される化合物又はその塩を得る;
(b)一般式(2’)で表される化合物又はその塩のAを脱保護して、下記一般式(2”):
【化20】

[式中、各記号は前記と同義を示す。]で表される化合物又はその塩を得る;及び
(c)一般式(2”)で表される化合物又はその塩のR1aの水酸基の保護基を脱保護して、一般式(1)で表される化合物又はその塩を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規合成糖脂質及びその用途に関し、詳細にはウレア結合を有する新規合成糖脂質、その製造方法、及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系には、生体において自己の正常細胞と異常細胞とを区別し、異常細胞のみを排除するための巧みな監視機能が存在する。しかしその監視機能が破綻すると、突然変異等によって生まれる異常細胞を排除することが出来ず、生体内での存在ならびに増殖を許してしまう。この増殖してしまった異常細胞塊が腫瘍、即ち癌である。
【0003】
癌の治療法は、外科手術による癌の摘出、あるいは抗癌剤の使用が主である。しかしながらこれらの治療法は患者にとって、摘出手術や抗癌剤の副作用による身体的な、あるいは手術痕による精神的な負担をかけることが少なくない。
【0004】
その様な背景の中、免疫療法による治療が注目を集めている。免疫療法では、患者自身の免疫細胞数を増やし、さらに活性化することにより癌細胞を攻撃するという治療法である。外科的手術に比べ、治療に伴う患者への身体的負荷は小さい上、治療に伴う患者の社会生活への影響は最小限に留めることが出来る。また、免疫療法と外科手術を併用する治療法も行われている。免疫療法によって腫瘍を小さくしてから摘出するため、患者への身体的負荷は軽減される。また手術痕もわずかで済むため、精神的な負担も大幅に軽減される。
【0005】
ナチュラルキラー(NK)T細胞は、他のリンパ球系列(T,B,NK細胞)と異なる特徴を示す、新規リンパ球系列に属する免疫細胞である。NKT細胞内には細胞障害性パーフォリン顆粒が存在することからNK細胞と類縁である(非特許文献1)。しかし、NKT細胞は、NK細胞マーカーのみならずT細胞受容体(TCR)をも発現していることから、決定的に異なる新たな細胞群であることが明らかとなっている(非特許文献2)。NKT細胞は、免疫賦活作用を亢進させるヘルパーT(Th)−1型細胞によって産生されるTh−1型サイトカイン[主にインターフェロン(IFN)−γ]と、免疫抑制作用を亢進させるTh−2型細胞によって産生されるTh−2型サイトカイン[主にインターロイキン(IL)−4]の両方を産生することができる(非特許文献3)。即ち、NKT細胞は免疫系の活性化も沈静化も誘導することができ、免疫系のバランス調節役を担っている可能性が示唆されている(非特許文献4)。従ってNKT細胞の働きを制御することによって、崩れた免疫系のバランスを調整し、監視機能を強化させて癌を治療することが可能となる。
【0006】
NKT細胞の特性として最も着目されているのは、NKT細胞に発現しているTCRのα鎖が、ある1つの種の間では全個体で同一であるという点である。これは即ち、同種間の生物が持つNKT細胞は全て、同一の物質によって活性化されるということを示している。このα鎖は、ヒトではVα24、ネズミではVα14であるが、両種間でも非常に高い相同性を持っている。また、そのα鎖と対を成すβ鎖も、ごく限られた種類しか知られていない。このため、このTCRは「不可変型TCR」とも呼ばれている。また、T細胞のTCRが蛋白断片を認識するのに対して、NKT細胞のTCRは糖脂質を認識することも特徴的である。
【0007】
生体内には、様々な種類のスフィンゴ糖脂質の存在が知られている。生体内の一般的なスフィンゴ糖脂質は、様々な糖あるいは糖鎖がセラミドにβ−結合したものであり、様々な器官の細胞膜中に存在している(非特許文献5)。
【0008】
一方、糖がセラミドにα−結合しているスフィンゴ糖脂質が、強力な免疫賦活作用および抗腫瘍活性を有することが知られている(非特許文献6)。アゲラスフィン類に代表されるα−ガラクトシルセラミドは、海綿の一種であるAgelas mauritianusの抽出液より単離された糖脂質であり、NKT細胞を強く活性化することが報告された(非特許文献7)。α−ガラクトシルセラミドは、樹状細胞(DC)などに代表される抗原提示細胞(APC)に取り込まれた後、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子に類似したCD1dタンパク質によって細胞膜上に提示される。NKT細胞は、こうして提示されたCD1dタンパク質とα−ガラクトシルセラミドとの複合体を、TCRを用いて認識することにより活性化され、様々な免疫反応が開始される。
【0009】
これまでに様々な類縁体が合成され、その構造と活性との相関関係が調査されてきている。一連の合成類縁体の中ではキリンビール株式会社によって開発されたKRN7000(化合物1、α−GalCer)が最も強い活性を示すこと、さらには、対応するβ−体(β−GalCer)には免疫賦活活性は見られないことが明らかとなっている。なおKRN7000は、スフィンゴシン塩基が長鎖脂肪酸によりアシル化されて形成されたセラミドに、ガラクトースがα−配置で結合したスフィンゴ糖脂質である(特許文献1、非特許文献8)。
【0010】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第98/44928号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/105769号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/099999号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2008/082156号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 1998, 95, 5690-5693
【非特許文献2】J. Immunol., 1995, 155, 2972-2983
【非特許文献3】J. Immunol., 1998, 161, 3271-3281
【非特許文献4】Science, 1997, 278, 1623-1626
【非特許文献5】Biochim. Biophys. Acta, 1973, 316, 317-335
【非特許文献6】Tetrahedron Lett., 1993, 34, 5591-5592
【非特許文献7】Science, 1997, 278, 1626-1629
【非特許文献8】J. Med. Chem., 1995, 38, 2176-2187
【非特許文献9】J. Exp. Med., 2003, 198, 1631-1641
【非特許文献10】Bioorg. Med. Chem., 2009, 17, 6360-6373
【非特許文献11】Tetrahedron Lett., 2008, 49, 6827-6830
【非特許文献12】Nature, 2007, 448, 44-49
【非特許文献13】Bioorg. Med. Chem., 2008, 16, 8896-8906
【非特許文献14】ChemMedChem, 2009, 4, 329-334
【非特許文献15】J. Med. Chem., 2007, 50, 585-589
【非特許文献16】Chem. Biodiversity, 2009, 6, 705-724
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、このようなNKT細胞の機能に着目し、α−GalCerを有効成分として含有する癌の治療薬が開発されている。しかしながら、α−GalCerの投与によって活性化されたNKT細胞は、癌治療のために有用であり免疫賦活活性を誘導するサイトカインであるIFN−γを産生すると同時に、免疫抑制作用を誘導するサイトカインであるIL−4も同時に産生してしまう。その結果、両者の働きが相殺されてしまい、癌治療に対する効果が十分に得られないという問題がある。
【0014】
辻らのグループは、マウスのNKT細胞を強力に活性化し、IFN−γを優先的に産生させる糖脂質、α−C−GalCerを開発した(化合物2、特許文献2、非特許文献9)。しかしながら、α−C−GalCerはヒトのNKT細胞に対してはin vitroで殆ど活性がないため臨床応用は難しい。
【0015】
一方、我々は独自に、カルバ糖を有する新規合成糖脂質RCAI−56(化合物3)が、NKT細胞を強力に活性化して多量のIFN−γの産生を誘導することを見出した(非特許文献10)。さらに我々は、糖脂質の糖部分の6−位水酸基を修飾した新規合成糖脂質RCAI−61(化合物4)が、RCAI−56よりも調製が容易で、かつ多量のIFN−γの産生を誘導することを見出した(非特許文献11)。RCAI−56やRCAI−61はマウスならびにヒト(in vitro)の系に於いても強い活性を示すことから臨床応用が期待されている。
【0016】
しかし、RCAI−56の合成は多段階を要し、RCAI−61の合成は煩雑な糖の修飾を伴うことから、より簡便に調製が可能でありながら、RCAI−56やRCAI−61と同等あるいはそれ以上の免疫賦活活性を有する新規類縁体の開発が望まれている。
【0017】
【化2】
【0018】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は癌治療に有効な新規化合物及び該化合物の合成に有用な中間体並びにそれらの製造方法を提供することにある。また、かかる新規化合物を含有する癌治療薬等の医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
2007年に、ヒトのCD1d−KRN7000−TCRの結晶構造解析が報告された。報告によると、KRN7000の糖部分はポケットの外に、TCRに向けて提示されており、一方セラミド部分はCD1dの大きな疎水性ポケットにはまりこんでいることが明らかとなった(非特許文献12)。さらに、KRN7000のアミド結合は、CD1dのThr154(マウスの場合はThr156)と水素結合を形成していることがわかった。従って、本発明者らは、糖脂質のアミド結合を他の官能基へと変換することで、Thr154を介してCD1d−糖脂質の複合体を安定化させることが出来ると考えた。
【0020】
これまでに、アミド結合をスルホンアミド結合に変換した類縁体:化合物5(非特許文献13、特許文献3)や、α,α−ジフルオロアミド結合へと変換した類縁体:化合物6(非特許文献14)、さらに1,2,3−トリアゾールへと変換した類縁体:化合物7(非特許文献15、特許文献4)などが報告されているが、それらはいずれもIL−4等のTh−2型に偏ったサイトカインの産生を誘導するものばかりであった。
【0021】
【化3】
【0022】
本発明者らは、その理由として、これらの類縁体ではアミド結合の水素がない、あるいは酸性度が高いためにCD1dのThr154と強固な水素結合を形成することが出来ず、長時間NKT細胞を刺激することが出来ないためではないかと考えた。すなわち、本発明者らは、アミド結合よりも水素の酸性度が低い類縁体を開発すれば、NKT細胞をKRN7000よりも長時間、より強力に刺激することが可能になると考えた。
【0023】
発明者らは、上記仮説に基づいて鋭意研究を重ねた結果、糖脂質の一種であるグリコシルセラミドの一般的骨格の一部であるアミド結合を、水素原子の酸性度がアミド結合よりも低いことが知られているウレア結合に変換したウレイド化合物の製造方法を開発した。そして、当該ウレイド化合物が、特異的な免疫調節能を有していること、癌ならびに感染症の治療に極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は以下を含む。
[1]下記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
【0024】
【化4】
【0025】
[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
【0026】
[2]Rがα−D−ガラクトピラノシルである、上記[1]記載の化合物又はその塩。
[3]Rが置換基を有していてもよい炭素数1〜26の脂肪族炭化水素基であり、Rが水素原子である、上記[1]又は[2]記載の化合物又はその塩。
[4]Rが置換基を有していてもよい炭素数1〜21のアルキル基である、上記[1]〜[3]のいずれか一に記載の化合物又はその塩。
[5]Xが酸素原子である、上記[1]〜[4]のいずれか一に記載の化合物又はその塩。
[6]Yが−CH(OH)−である、上記[1]〜[5]のいずれか一に記載の化合物又はその塩。
[7]下記一般式(2)で表される化合物又はその塩。
【0027】
【化5】
【0028】
[式中、R1aは6位水酸基がアルキル化されていてもよく、水酸基が保護されているアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OA)−又は−CH=CH−を示し、Aは水素原子又は水酸基の保護基を示す。]
【0029】
[8]上記一般式(1)で表される化合物又はその塩及び薬理学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。
[9]上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、癌の予防又は治療剤。
[10]上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、NKT細胞活性化剤。
[11]上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、選択的IFN−γ産生誘導剤。
[12]上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、感染症の予防又は治療剤。
[13]癌の予防又は治療における使用のための、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
[14]NKT細胞活性化における使用のための、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
[15]選択的IFN−γ産生誘導における使用のための、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
[16]感染症の予防又は治療における使用のための、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩。
[17]有効量の上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を哺乳動物に投与することを含む、癌の予防又は治療方法。
[18]有効量の上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を哺乳動物に投与することを含む、NKT細胞活性化方法。
[19]有効量の上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を哺乳動物に投与することを含む、選択的IFN−γ産生誘導方法。
[20]有効量の上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を哺乳動物に投与することを含む、感染症の予防又は治療方法。
[21]癌の予防又は治療剤の製造における、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
[22]NKT細胞活性化剤の製造における、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
[23]選択的IFN−γ産生誘導剤の製造における、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
[24]感染症の予防又は治療剤の製造における、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩の使用。
[25]下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【0030】
【化6】
【0031】
[式中、Rは6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示す。]
(a)下記一般式(3):
【0032】
【化7】
【0033】
[式中、R1aは6位水酸基がアルキル化されていてもよく、水酸基が保護されているアルドピラノース残基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜21の炭化水素基を示し、Xは酸素原子又は−CH−を示し、Y1aは−CH−、−CH(OA)−又は−CH=CH−を示し、Aは水酸基の保護基を示す。]で表される化合物又はその塩を、下記一般式(4)または(5):
【0034】
【化8】
【0035】
[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示し、Lは脱離基を示す。]で表される化合物と反応させ、下記一般式(2’):
【0036】
【化9】
【0037】
[式中、各記号は前記と同義を示す。]で表される化合物又はその塩を得る;
(b)一般式(2’)で表される化合物又はその塩のAを脱保護して、下記一般式(2”):
【0038】
【化10】
【0039】
[式中、各記号は前記と同義を示す。]で表される化合物又はその塩を得る;及び
(c)一般式(2”)で表される化合物又はその塩のR1aの水酸基の保護基を脱保護して、一般式(1)で表される化合物又はその塩を得る。
【発明の効果】
【0040】
発明者らにより開発されたウレア結合を有するウレイド糖脂質は、抗原提示細胞(APC)の持つCD1dタンパク質と、KRN7000よりも強固な複合体を形成することができる。
本発明によって開発されたウレア結合を有するウレイド糖脂質は、合成が非常に容易である上に、微量でもNKT細胞を強力に活性化することができる。従って、アミド結合を有する既存の化合物よりも大量のIFN−γを産生させることができるため、少量の投与で充分な薬効を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】合成糖脂質をマウスにin vivoで投与した後の、表示時間経過後におけるマウス血漿中のIFN−γの濃度を示す図である(試験例1)。
図2】合成糖脂質をマウスにin vivoで投与した後の、表示時間経過後におけるマウス血漿中のIL−4の濃度を示す図である(試験例1)。
図3】合成糖脂質をマウスにin vivoで投与した後の、表示時間経過後におけるマウス血漿中のIL−12の濃度を示す図である(試験例1)。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
先ず、本発明において使用する各式中の記号の定義を説明する。
【0043】
は6位水酸基がアルキル化されていてもよいアルドピラノース残基を示し、R1aは6位水酸基がアルキル化されていてもよく、水酸基が保護されているアルドピラノース残基を示す。ここで、アルドピラノース残基とは、アルドピラノースの還元末端水酸基を除いた残基を意味する。アルドピラノース残基としては、例えば、α−D−ガラクトピラノシル、α−D−グルコピラノシル、β−D−ガラクトピラノシル、β−D−グルコピラノシル等が挙げられる。中でも、薬理効果の点から、α−D−ガラクトピラノシルが好ましい。
「6位水酸基がアルキル化されていてもよく、水酸基が保護されているアルドピラノース残基」とは、アルドピラノース残基の6位水酸基がアルキル化されている場合は、残りの全ての水酸基が保護されており、6位水酸基がアルキル化されていない場合は、全ての水酸基が保護されていることを意味する。
【0044】
アルドピラノース残基の6位水酸基がアルキル化されている場合の当該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜16、更に好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜6)が挙げられ、好ましくは、メチル基である。
【0045】
アルドピラノース残基における糖の水酸基の保護基としては、アシル基、tert−ブチルジメチルシリル(TBS)基、トリメチルシリル(TMS)基、ベンジル(Bn)基、p−メトキシベンジル(PMB)基等が挙げられる。
【0046】
ここで、本明細書においてアシル基とは、ホルミル基;炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐状、若しくは炭素数3〜10の環状のアルキル−カルボニル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基);炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐状、若しくは炭素数3〜10の環状のアルケニル−カルボニル基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基);又は炭素数6〜14のアリール−カルボニル基(例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基)をいう。アリール−カルボニル基におけるアリール基とは、単環〜3環式芳香族炭化水素基を示し、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基が挙げられる。中でも、アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等が好ましく、アセチル基、ベンゾイル基がより好ましい。
アルドピラノース残基における糖の水酸基の保護基としては、ベンジル(Bn)基、p−メトキシベンジル(PMB)基が好ましい。
【0047】
は置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、例えば、置換又は非置換の、炭素数1〜26のアルキル基、炭素数2〜26のアルケニル基、炭素数2〜26のアルキニル基、炭素数3〜26のシクロアルキル基、炭素数3〜26のシクロアルケニル基等の脂肪族炭化水素、炭素数6〜14のアリール基等の芳香族炭化水素をも包含する概念であり、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を分子内及び末端のいずれに有していてもよい。中でも、置換又は非置換の炭素数1〜26の脂肪族炭化水素基が好ましく、置換又は非置換の炭素数1〜26のアルキル基がより好ましい。なお、Rの炭素数は1〜26であるが、好ましくは16〜26、より好ましくは20〜24である。炭素数が26を超えると、活性の選択性が低下する。
【0048】
また、該炭化水素基の置換基としては、ハロゲン(好ましくは塩素原子、フッ素原子);メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜16、更に好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜4);ビニル基、プロペニル基、ブテニル基等の鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルケニル基(好ましくは炭素数2〜24、より好ましくは炭素数2〜16、更に好ましくは炭素数2〜10、特に好ましくは炭素数2〜4);エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基等の鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキニル基(好ましくは炭素数2〜24、より好ましくは炭素数2〜16、更に好ましくは炭素数2〜10、特に好ましくは炭素数2〜4);フェニル基等のアリール基(好ましくは炭素数6〜14);メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜16、更に好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜4);フェノキシ基等のアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜14);水酸基;アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のモノ−又はジ−アルキル(アルキル基と同義)アミノ基等の電子供与性基、更にはカルボキシル基;アルコキシ(アルコキシ基と同義)カルボニル基;アシル基(好ましくは炭素数1〜24の直鎖、分岐鎖状又は環状のアルキル−カルボニル基);カルバモイル基;トリフルオロメチル基等の直鎖、分岐鎖状又は環状のハロアルキル基(好ましくは炭素数1〜24、より好ましくは炭素数1〜16、更に好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜4);アセトアミド基等のアルキル(アルキル基と同義)カルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアリール(好ましくは炭素数6〜14)カルボニルアミノ基等の電子吸引性基が挙げられる。上記アルキル基、アルコキシ基のアルキル部分、アリール基等は、上述したハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基及びアルキルアミノ基のうちの少なくとも1種で置換されていてもよく、またこれらの置換基同士が結合して環を形成していてもよい。
置換基の数は特に限定はなく、例えば、1〜4個から適宜選択できる。置換基の数が2個以上のときは、それらは、同一でも異なっていてもよい。
【0049】
は水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基を示す。「置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基」としては、Rの「置換基を有していてもよい炭素数1〜26の炭化水素基」と同様の基が挙げられる。Rとしては、水素原子が好ましい。
【0050】
は置換基を有していてもよい、炭素数1〜21の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、置換又は非置換の、炭素数1〜21のアルキル基、炭素数2〜21のアルケニル基、炭素数2〜21のアルキニル基、炭素数3〜14のシクロアルキル基、炭素数3〜14のシクロアルケニル基等の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜14のアリール基等の芳香族炭化水素基が挙げられ、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を分子内及び末端のいずれに有していてもよい。中でも、かかる炭化水素基としては、置換又は非置換の炭素数1〜21のアルキル基が好ましい。また、かかる炭化水素基の置換基としては上述したRの炭化水素基の置換基と同様の基が例示できる。置換基の数は特に限定はなく、例えば、1〜4個から適宜選択できる。置換基の数が2個以上のときは、それらは、同一でも異なっていてもよい。
としては、直鎖状のアルキル基が好ましい。なお、Rの炭素数は1〜21であるが、好ましくは1〜15、より好ましくは10〜15である。炭素数が21を超えると、本発明の効果が得難くなる。
【0051】
Xは酸素原子又は−CH−を示し、中でも酸素原子が好ましい。
【0052】
Yは−CH−、−CH(OH)−又は−CH=CH−を示し、中でも−CH(OH)−が好ましい。
は−CH−、−CH(OA)−又は−CH=CH−を示し、中でも−CH(OA)−が好ましい。
1aは−CH−、−CH(OA)−又は−CH=CH−を示し、中でも−CH(OA)−が好ましい。
【0053】
Aは水素原子又は水酸基の保護基を示し、水酸基の保護基としてはアシル基(上記と同義)、tert−ブチルジメチルシリル(TBS)基、ベンジル(Bn)基、p−メトキシベンジル(PMB)基、アセトナイド基等が挙げられる。中でも、Xが酸素原子の場合にはTBS基が好ましく、Xが−CH−の場合にはアセトナイド基が好ましい。
は水酸基の保護基を示し、水酸基の保護基としてはAの水酸基の保護基と同様の基が挙げられる。
【0054】
Lは脱離基を示し、脱離基としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、イミダゾリル基などが挙げられる。
【0055】
上記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」といい、各式で表される化合物を同様の方法で表記する。)には、アルドピラノース残基に由来するα−体とβ−体の構造異性体が存在するが、α−体、β−体又はこれらの混合物のいずれの形態であってもよく、薬理効果の点からα−体が好ましい。
【0056】
化合物(1)には、脂質部分の不斉炭素に由来する少なくとも4種の光学異性体が存在するが、本発明においては、単一の光学活性体であっても、2種以上の光学活性体の任意の割合の混合物(ラセミ体を含む)であってもよい。−NHC(=O)NR(R)が結合する不斉炭素はS配置が好ましく、OHが結合する不斉炭素は−NHC(=O)NR(R)が結合する不斉炭素とantiの関係にある配置が好ましい。Yが−CH(OH)−の場合、−CH(OH)−の中の不斉炭素はR配置が好ましく、この点についてはYおよびY1aも同様である。
【0057】
なお、化合物(2)、(2’)、(2”)及び(3)についても上記したものが好適なものとして例示される。
【0058】
また、化合物(1)の塩としては、薬理的に許容される塩が好ましく、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;コハク酸塩、フマル酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩等を挙げることができる。なお、化合物(2)、(2’)、(2”)及び(3)についても同様である。
【0059】
本発明における好適な化合物(1)の具体例を表1に示すが、これらに限定されるものではない。
【0060】
【表1】
【0061】
中でも、特に好適な化合物として、以下の化合物が挙げられる。
[1](2S,3S,4R)−1−(α−D−ガラクトピラノシルオキシ)−2−(テトラコサニルウレイド)−3,4−オクタデカンジオール(化合物F)
[2](2S,3S,4R)−1−(α−D−ガラクトピラノシルオキシ)−2−(ヘキサデカニルウレイド)−3,4−オクタデカンジオール(化合物G)
[3](2S,3S,4R)−1−(6−O−メチル−α−D−ガラクトピラノシルオキシ)−2−(テトラコサニルウレイド)−3,4−オクタデカンジオール(化合物H)
【0062】
次に、本発明に係る化合物の製造方法について好適な実施形態について説明する。本発明の化合物は種々の方法で製造することができるが、Xが酸素原子である化合物(1)は、例えば、下記Scheme 1に記載の方法にしたがって製造することが可能である。
【0063】
【化11】
【0064】
(式中、各記号は前記記載の通りである。)
すなわち、化合物(1)は、工程a〜cにより製造することができる。
(a)化合物(3)又はその塩を、化合物(4)または(5)と反応させ、化合物(2’)を得る;
(b)化合物(2’)又はその塩のAを脱保護して、化合物(2”)又はその塩を得る;及び
(c)化合物(2”)又はその塩のR1aの水酸基の保護基を脱保護して、化合物(1)又はその塩を得る。
【0065】
(工程a)
工程aは、化合物(3)をウレア化して化合物(2’)を得る工程である。具体的には、化合物(3)を溶媒中で、必要により塩基存在下で化合物(4)または(5)と反応させる。
溶媒としては、本反応を阻害しないものであれば特に限定さないが、例えばハロゲン溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム)が好適に使用される。
必要に応じて塩基を添加してもよい。化合物(5)を用いる場合には、好ましくは塩基が使用される。当該塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン等が挙げられ、ピリジンが好適である。
溶剤の使用量は、化合物(3)に対して通常5〜100倍容量、好ましくは20〜50倍容量である。
塩基の使用量は、化合物(3)に対して通常10〜50当量、好ましくは10〜20当量である。
化合物(4)または(5)の使用量は、化合物(3)に対して通常1〜20当量、好ましくは1〜10当量である。
反応温度は通常−20℃〜室温、好ましくは0〜4℃であり、反応時間は通常1〜24時間、好ましくは6〜12時間である。
反応終了後、化合物(2’)の単離精製は、常法により行うことができる。例えば、反応液を水で希釈し、ジエチルエーテル等のエーテル溶媒、酢酸エチル等のエステル溶媒等で抽出する。得られた有機層を、ピリジンを塩基として用いた場合は飽和硫酸銅水溶液で洗浄した後、水、飽和食塩水等で洗浄し、無水硫酸マグネシウム等で乾燥する。溶液をろ過後、ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー等により精製することにより化合物(2’)を得ることができる。
【0066】
(工程b)
工程bは、化合物(2’)における脂質部分の水酸基の保護基Aを脱保護して化合物(2”)を得る工程である。脱保護方法は保護基の種類により公知の方法から選択されるが、例えば、Aがtert−ブチルジメチルシリル(TBS)基の場合は、溶媒中で化合物(2’)をテトラブチルアンモニウムフルオリドまたは酸と反応させる。
酸としては、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸等の強酸が好適に使用される。酸の使用量は、化合物(2’)に対して通常触媒量〜10当量、好ましくは1〜2当量である。
テトラブチルアンモニウムフルオリドの使用量は、化合物(2’)に対して通常2当量〜20当量、好ましくは4〜10当量である。
反応温度は通常−20℃〜室温、好ましくは−10〜0℃であり、反応時間は通常1〜24時間、好ましくは2〜12時間である。
溶媒としては水溶性溶媒が好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。溶媒の使用量は、化合物(2’)に対して通常5〜100倍容量、好ましくは10〜50倍容量である。
反応終了後、化合物(2”)の単離精製は、常法により行うことができる。例えば、反応液を水で希釈し、ジエチルエーテル等のエーテル溶媒、酢酸エチル等のエステル溶媒等で抽出する。得られた有機層を水、飽和食塩水等で洗浄し、無水硫酸マグネシウム等で乾燥する。溶液をろ過後、ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー等により精製することにより化合物(2”)を得ることができる。
【0067】
(工程c)
工程(c)は、化合物(2”)におけるアルドピラノースの水酸基の保護基を脱保護して化合物(1)を得る工程である。脱保護方法は保護基の種類により公知の方法から選択されるが、例えば、ベンジル基の場合は、化合物(2”)を溶媒中で水素及び還元触媒の存在下に反応させる。
溶媒としては、アルコール溶媒とハロゲン溶媒との混合溶媒が好適であり、より好ましくはエタノールとクロロホルムとの混合溶媒である。溶媒の使用量は、化合物(2”)に対して通常10〜100倍容量、好ましくは10〜50倍容量である。
還元触媒としては、水酸化パラジウム、酸化白金、ラネーニッケル等が挙げられる。還元触媒の使用量は、化合物(2”)に対して通常触媒量で十分である。
反応時間は通常1〜24時間、好ましくは12〜24時間である。反応温度は0℃〜室温、好ましくは室温である。
反応終了後、反応液をろ過し、ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製することにより目的とする化合物(1)を収率よく得ることができる。
なお、得られた化合物(1)に異性体を含有する場合には、カラムクロマトグラフィーの際に極性の異なる溶媒を用いて異性体(α−体及びβ−体)を分離精製してもよい。また、工程(a)または(b)の各工程において異性体を分離精製し、例えば、単離したα−体を次工程の原料化合物として用いることで、化合物(1)のα−体を得てもよい。
【0068】
上記製造方法の中間体である化合物(2’)および(2”)は、まとめて、一般式(2):
【0069】
【化12】
【0070】
(式中、各記号は、上記の通りである。)で表すことができ、当該化合物(2)は、化合物(1)を製造するために有用な新規化合物である。
【0071】
上記Scheme 1の原料である化合物(3)は、Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2008, 16, 8896-8906に記載の方法、具体的には、下記Scheme 2に記載の方法に従って製造することが可能である。
【0072】
【化13】
【0073】
(工程1)
工程1は、アミノアルコール(a)の−XH及び水酸基を保護して化合物(b)を得る工程である。具体的には、アミノアルコール(a)を塩基の存在下、有機溶媒中で保護試薬と反応させる。塩基としては、ピリジン、2,6−ルチジン、トリエチルアミン等のアミノ化合物が挙げられる。保護試薬としては、有機ケイ素試薬が好適であり、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸tert−ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジメチルシリルクロリド等が使用できる。溶媒としては、本反応を阻害しない溶媒であればいずれを使用してもよく、例えば、ハロゲン溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム)が好適である。塩基の使用量は、アミノアルコール(a)に対して通常10〜50倍容量、好ましくは10〜20倍容量である。保護試薬の使用量は、アミノアルコール(a)の水酸基1個当り、通常1〜5当量、好ましくは1〜2当量である。反応温度は通常−20℃〜室温、好ましくは0〜4℃であり、反応時間は通常1〜48時間、好ましくは12〜24時間である。反応終了後、反応液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物(b)を高収率で得ることができる。
【0074】
(工程2)
工程2は、化合物(b)のアミノ基を保護して化合物(c)を得る工程である。なお、式(c)中のBは、アミノ基の保護基を示す。具体的には、化合物(b)を有機溶媒中でアミノ基保護試薬と反応させる。保護試薬としては、例えば、9−フルオレニルメチル スクシンイミジル カルボナート、ジtert−ブチル ジカルボナート、ベンジル クロロホルメートが挙げられる。保護試薬の使用量は、化合物(b)に対して通常1〜5当量、好ましくは1〜2当量である。溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒が好適であり、2種以上混合して使用してもよい。溶媒の使用量は、化合物(b)に対して通常10〜50倍容量、好ましくは20〜30倍容量である。反応温度は通常0℃〜室温、好ましくは室温であり、反応時間は通常1〜50時間、好ましくは12〜24時間である。反応終了後、反応液を水で希釈し、エーテル等の溶媒で抽出する。得られた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム等で洗浄し、無水硫酸マグネシウム等で乾燥後、ろ過する。ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物(c)を高収率で得ることができる。
【0075】
(工程3)
工程3は、化合物(c)の−XAにおける保護基Aを除去して化合物(d)を得る工程である。除去方法は保護基により選択されるが、例えば、溶媒中で化合物(c)と酸とを反応させる。酸としては、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸等の強酸が好適に使用される。酸の使用量は、化合物(c)に対して通常触媒量〜10倍容量、好ましくは1〜2倍容量である。反応温度は通常−20℃〜室温、好ましくは−10〜0℃であり、反応時間は通常2〜12時間、好ましくは2〜4時間である。溶媒としては水溶性溶媒が好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。溶媒の使用量は、化合物(c)に対して通常5〜100倍容量、好ましくは10〜50倍容量である。反応終了後、化合物(d)の単離精製は、常法により行うことができる。例えば、反応液を水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液で中和し、ジエチルエーテル等のエーテル溶媒で抽出する。得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水等で洗浄し、無水炭酸カリウム等で乾燥する。溶液をろ過後、ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0076】
(工程4)
工程4は、化合物(d)をアルドピラノシル化して化合物(e)を得る工程である。アルドピラノシル化は、例えば、化合物(d)を溶媒中で活性化剤の存在下、水酸基が保護されたアルドピラノシルハライド(R1a−X、Xはハロゲン)と反応させて行なう。活性化剤としては、例えば塩化スズと過塩素酸銀の組み合わせや、トリフルオロメタンスルホン酸銀等が挙げられる。さらに、本反応は、モレキュラシーブス等の脱水剤存在下で行うことが望ましい。活性化剤の使用量は、化合物(d)に対して通常2〜4当量、好ましくは2〜3当量である。脱水剤の使用量は、化合物(d)に対して通常2〜10倍重量、好ましくは3〜5倍重量である。水酸基が保護されたアルドピラノシルハライドとしては、2,3,4,6位の水酸基がベンジル(Bn)基で保護されているものが好ましく、またハロゲンとしてはフッ素原子が好ましい。水酸基が保護されたアルドピラノシルハライドの使用量は、化合物(d)に対して通常2〜4当量、好ましくは2〜3当量である。反応温度は通常−20℃〜室温であり、反応時間は通常2〜12時間、好ましくは2〜4時間である。溶媒としては非プロトン性溶媒が好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。溶媒の使用量は、化合物(d)に対して通常10〜100倍容量、好ましくは20〜50倍容量である。反応終了後、反応液をろ過し、ろ液を飽和食塩水等で洗浄して、無水硫酸マグネシウム等で乾燥する。溶液をろ過後、ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物(e)を得ることができる。
【0077】
(工程5)
工程5は、化合物(e)のアミノ基の保護基Bを除去して化合物(3)を得る工程である。除去方法は保護基により選択されるが、例えば、化合物(e)を溶媒中で塩基存在下に反応させる。溶媒としては、例えば非プロトン性溶媒が挙げられ、DMFが好適である。塩基としては、モルホリン、ピペリジン等が好適に使用される。溶媒の使用量は、化合物(e)に対して通常10〜200倍容量、好ましくは20〜50倍容量である。また、塩基の使用量は、化合物(e)に対して通常10〜200当量、好ましくは100〜200当量である。反応温度は通常−20℃〜室温であり、好ましくは室温である。反応時間は通常0.5〜12時間、好ましくは5〜10時間である。反応終了後、必要により反応液の溶媒を置換し、水、飽和食塩水等で洗浄して、無水炭酸カリウム等で乾燥する。溶液をろ過後、ろ液を減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物(3)を高収率で得ることができる。
【0078】
また、上記Scheme 1の原料である化合物(4)または(5)は、自体公知の方法により製造することができる。
例えば、RCOHで表されるカルボン酸をCurtius転位反応に付することにより化合物(4)を製造することができる。具体的には、(1)RCOHで表されるカルボン酸を塩化チオニル、塩化オキサリル等のハロゲン化剤と反応させて酸ハライドとし、次いで、ナトリウムアジド等のアジド塩と反応させるか、または(2)RCOHで表されるカルボン酸をトリエチルアミン等の塩基の存在下、ジフェニルホスホリルアジドと反応させて、酸アジドとし、次いで加熱等して転位反応を進行させることにより、化合物(4)を製造することができる。
【0079】
また、RNHおよびR(R)NHで表されるアミンを、トリホスゲンまたはカルボニルジイミダゾールと自体公知の方法により反応させることにより、化合物(4)および(5)をそれぞれ製造することができる。
【0080】
また、Xが−CH−である化合物(1)は、例えば、Tetrahedron Lett., 2005, 46, 5043-5047に記載の方法にしたがってXが−CH−である化合物(3)を得、次いで上記工程aと同様の方法で化合物(2’)を得、次いで、工程bと同様の方法で化合物(2’)における脂質部分の水酸基の保護基Aを除去して化合物(2”)を得、そして上記工程cと同様の方法により、Xが−CH−である化合物(1)を得ることができる。
【0081】
また、アルドピラノース残基の6位水酸基がアルキル化された化合物(1)は、例えば、Tetrahedron Lett., 2008, 49, 6827に記載の方法にしたがってアルドピラノース残基の6位水酸基がアルキル化された化合物(3)を得、次いで上記工程aと同様の方法で化合物(2’)を得、次いで、工程bと同様の方法で化合物(2’)における脂質部分の水酸基の保護基Aを除去して化合物(2”)を得、そして上記工程cと同様の方法により、アルドピラノース残基の6位水酸基がアルキル化された化合物(1)を得ることができる。
【0082】
次に、本発明の癌又は感染症等の予防又は治療剤、NKT細胞活性化剤、選択的IFN−γ産生誘導剤について説明する。
【0083】
本発明に係る化合物(1)又はそれらの塩(以下、「化合物(1)等」という)を投与することにより、NKT細胞を活性化してIFN−γ産生を選択的、優先的に誘導し、しかもα−ガラクトシルセラミドとは異なりIL−4の産生を抑制することができるため、病状を悪化させることなく癌又は感染症等の予防又は治療が可能になる。化合物(1)等は、ウレア結合を有するためにアミド結合の水素原子よりも酸性度が低く、その結果APCのもつCD1dタンパク質のThr154と強固な水素結合を形成して、強固な複合体を形成することができ、NKT細胞を長時間かつ強力に活性化させることが可能である。さらに、α−ガラクトシルセラミドに比べて、少量の投与でもNKT細胞を強力に活性化でき、IFN−γの産生量を増大させることが可能である。
なお、化合物(1)等としては、α−体若しくはβ−体を単独で又はこれらを混合して使用することができるが、薬理効果の点からα−体が好ましい。
【0084】
本発明に係る化合物(1)等により予防又は治療可能な疾患としては、IFN−γの産生増大によって直接的または間接的に予防又は治療的効果が期待されるものであれば特に限定はなく、例えば、哺乳動物(例えば、マウス、ネコ、ウシ、イヌ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト)の各種癌(例えば、乳癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、卵巣癌、皮膚癌、血液腫瘍(例、成人T細胞白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫など)など);各種感染症、例えば、ウイルス性疾患(例、B型肝炎ウイスル、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎、ヘルペス症、後天性免疫不全症候群(AIDS)など)、細菌感染症(例、薬剤耐性結核、非定形抗酸菌感染症など)、真菌症(例、カンジダ症など)等が挙げられる。
【0085】
また、本発明の化合物(1)等は、その薬効を損なわない限り、他の薬剤、例えば、既存の抗癌剤、抗ウイルス薬、抗菌剤、抗真菌剤などと併用することができる。この際、投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、化合物(1)等と併用薬の配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせ等に応じて適宜選択することができる。
【0086】
既存の抗癌剤としては、例えば、化学療法剤、ホルモン療法剤、免疫療法剤などが挙げられる。
化学療法剤としては、例えばアルキル化剤(例、サイクロフォスファミド、イフォスファミド、ニムスチン、ラニムスチン、カルボコン等)、代謝拮抗剤(例、メソトレキセート、5−フルオロウラシル、テガフール、カルモフール、UFT、ドキシフルリジン、シタラビン、エノシタビン、メルカプトプリン、メルカプトプリンリボシド、チオグアニン等)、抗癌性抗生物質(例、マイトマイシン、アドリアマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、イダルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、アクチノマイシン等)、植物由来抗癌剤(例、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、エトポシド、カンプトテシン、イリノテカン等)、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラムスチン等が挙げられる。
【0087】
ホルモン療法剤としては、例えば副腎皮質ホルモン薬(例、プレドニゾロン、プレドニゾン、デキサメタゾン、酢酸コルチゾン等)、エストロゲン薬(例、エストラジオール、エチニルエストラジオール、ホスフェストロール、クロロトリアニセン等)、抗エストロゲン薬(例、エピチオスタノール、メピチオスタン、タモキシフェン、クロミフェン等)、黄体ホルモン薬(例、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、ジドロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、ノルエチステロン、ノルエチンドロン等)、LHRH誘導体(例、酢酸リュープロレリン等)等が挙げられる。
【0088】
免疫療法剤としては、例えば微生物又は細菌成分(例、ムラミルジペプチド誘導体、ピシバニール等)、免疫増強活性のある多糖類(例、レンチナン、シゾフィラン、クレスチン等)、遺伝子工学的手法で得られるサイトカイン(例、インターフェロン、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン12(IL−12)、腫瘍壊死因子(TNF)等)、コロニー刺激因子(例、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン等)等が挙げられる。
【0089】
抗ウイルス薬としては、例えば、核酸合成阻害型抗ウイルス薬(例:アシクロビル、ガンシクロビル、ビダラビン、ホスカルネット、ジドブジン、ラミブジン、ジダノシン等)、細胞内進入抑制型抗ウイルス薬(例:アマンタジン、ザナミビル、オセルタミビル等)、宿主感染防御能亢進型抗ウイルス薬(例:インターフェロン、イソプリノシン等)等が挙げられる。
【0090】
抗菌剤としては、例えば、ペニシリン系抗生物質(例:サワシリン、パセトシン、ヤマシリン、バカシル、ビクシリン、ペントレックス等)、セフェム系抗生物質(例:ケフレックス、ケフラール、セフゾン、トミロン、セフスパン、パンスポリン等)、マクロライド系抗生物質(例:エリスロシン、クラリス、クラリシッド、ルリッド、ジョサマイシン等)、テトラサイクリン系抗生物質(例:ミノマイシン、ビブラマイシン、ヒドラマイシン、レダマイシン等)、ホスホマイシン系抗生物質(例:ホスミシン、ユーコシン等)、アミノグリコシド系抗生物質(例:カナマイシン等)、ニューキノロン系抗菌剤(例:クラビット、タリビッド、バクシダール、トスキサシン、オゼックス等)等が挙げられる。
【0091】
抗真菌薬としては、例えば、ポリエン系抗真菌薬(例:トリコマイシン、アムホテリシンB、ナイスタチン等)、イミダゾール系抗真菌薬(例:エコナゾール、ミコナゾール、クロトリマゾール等)、トリアゾール系抗真菌薬(例:フルコナゾール、イトラコナゾール等)、アリルアミン系抗真菌薬(例:ブテナフィン、塩酸テルビナフィン等)、フルシトシン(5−FC)系抗真菌薬(例:フルシトシン等)等が挙げられる。
【0092】
本発明に係る化合物(1)等をヒトに投与する場合、それ自体又はそれを薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等と混合し、経口投与剤(例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤)、非経口投与剤(例えば、注射剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)等の医薬組成物として経口的又は非経口的に安全に投与することができる。これらの製剤は、従来公知の方法により製造することができる。
【0093】
注射剤としては、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射又は点滴剤等が挙げられる。注射剤は、化合物(1)等を可溶化剤(例えば、β−シクロデキストリン類)、分散剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム)、保存剤(例,メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖)等とともに常法にしたがって水性注射剤にすることもできる。また、植物油(例えば、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、綿実油、コーン油)、プロピレングリコール等に溶解、懸濁又は乳化して油性注射剤にすることもできる。
【0094】
経口投与剤は、化合物(1)等に、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン)、崩壊剤(例えば、デンプン、炭酸カルシウム)、結合剤(例えば、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)又は滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール)等を適宜添加して圧縮成形し、次いで必要に応じてヒドロキシプロピルメチルセルロース等のコーティングを施すことにより製造することもできる。坐剤は、化合物(1)等と、非刺激性の賦形剤(例えば、ポリエチレングリコール、高級脂肪酸のグリセライド)とを混合して製造することができる。
【0095】
化合物(1)等の投与量は、年齢、体重、症状、剤形、投与方法、投与期間などにより異なるが、例えば、患者(成人、体重約60kg)一人あたり、通常、1日0.1〜1mg/kg、好ましくは0.5〜1mg/kg、より好ましくは0.8〜1mg/kgを1回から数回に分けて経口又は非経口投与される。
【実施例】
【0096】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
実施例1:化合物Fの合成
合成行程は下記スキームに記載されている通りである。
【0098】
【化14】
【0099】
<a>化合物Bの合成
市販の化合物A(310 mg,0.810 mmol)の無水ベンゼン(5 mL)懸濁液を60℃に加熱して溶解させた。得られた溶液に、塩化オキサリル(1.0 mL, 12 mmol)を60℃下で加えた。反応混合物を60℃下で2時間撹拌した後に減圧下で濃縮し、酸塩化物を得た。
得られた酸塩化物をテトラヒドロフラン(5 mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(2 mL)の混合溶媒に溶かし、0℃に冷却した。アジ化ナトリウム(107mg, 1.65 mmol)の水(1mL)溶液を0℃下でゆっくりと加えた後、0℃下で2時間撹拌した。反応混合物をベンゼンで希釈し、これを水、飽和食塩水で順に洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を70℃下で2時間撹拌した後、減圧濃縮して溶媒を留去した。残渣をヘキサンで希釈し、不溶物を濾過により除去した。濾液を減圧濃縮することにより、化合物B(187 mg, 61%)を無色固体として得た。得られた化合物Bは、これ以上精製することなく次の反応に用いた。
IR (film): νmax = 2335 (s, N=C=O) cm-1.
【0100】
<b>化合物Dの合成
化合物Cは、Bioorganic & Medicinal Chemistry, 2008, 16, 8896-8906に記載の方法に従って調製した。化合物C(211 mg, 0.197 mmol)のクロロホルム(3 mL)溶液に、化合物B(187 mg, 0.493 mmol)のクロロホルム(2mL)溶液を氷冷下で加えた。反応混合物を、室温下で終夜撹拌した後、水を加えた。混合物を酢酸エチルで希釈し、分け取った有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧濃縮して溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20 g, ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製し、化合物D(276 mg, 97%)を無色油状として得た。
【0101】
nD25= 1.5010.
[α]D26= +26.1 (c = 1.33, CHCl3).
IR (film): νmax = 3380 (m, NH), 1680 (m, C=O), 1660 (m, C=O), 1540 (m), 1255 (m, t-Bu, Si-Me), 1100 (br s, C-O), 1060 (br s, C-O), 835 (s), 755 (br s), 700 (m) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ= 7.38-7.23 (20H, m), 4.93 (1H, d, J = 12 Hz), 4.89 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.83 (1H, d, J = 4.0 Hz), 4.80 (1H, d, J = 12 Hz), 4.79 (1H, d, J = 12 Hz), 4.72 (1H, d, J = 12 Hz), 4.63 (1H, d, J = 12 Hz), 4.55 (1H, d, J = 12 Hz), 4.46 (1H, d, J = 12 Hz), 4.43 (1H, d, J = 12 Hz), 4.34 (1H, br s), 4.04 (1H, dd, J = 9.5, 3.5 Hz), 3.97 (1H, t, J = 6.0 Hz), 3.95 (1H, dd, J = 11, 6.5 Hz), 3.90 (1H, dd, J = 11, 3.5 Hz), 3.89 (1H, s), 3.87 (1H, dd, J = 6.0, 1.5 Hz), 3.81 (1H, dd, J = 11, 3.5 Hz), 3.81-3.75 (1H, m), 3.72 (1H, dt, J = 6.0, 1.5 Hz), 3.57 (1H, dd, J = 9.5, 6.5 Hz), 3.38 (1H, dd, J = 9.5, 6.0 Hz), 2.98-2.87 (2H, m), 1.69 (2H, br s), 1.50 (2H, br q, J = 7.0 Hz), 1.44-1.16 (66H, m), 0.90 (9H, s), 0.884 (9H, s), 0.879 (6H, t, J = 7.0 Hz), 0.08 (3H, s), 0.06 (3H, s), 0.05 (3H, s), 0.03 (3H, s) ppm.
13C-NMR (126 MHz, CDCl3): δ= 158.4, 138.7, 138.52, 138.48, 137.8, 128.5, 128.38, 128.37, 128.2, 127.9, 127.84, 127.83, 127.7, 127.6, 127.5, 127.4, 100.5, 78.9, 76.9, 76.4, 75.14, 75.12, 74.7, 73.6, 73.4, 73.1, 71.2, 70.0, 69.7, 52.5, 40.2, 32.7, 31.92, 31.91, 30.4, 30.0, 29.72, 29.70, 29.69, 29.66, 29.65, 29.42, 29.36, 29.35, 26.9, 26.2, 26.1, 26.0, 22.7, 18.4, 18.2, 14.1, -3.76, -3.84, -4.7, -4.91 ppm.
HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C89H151N2O9Si2): 1448.0953; found: 1448.0943.
【0102】
<c>化合物Eの合成
化合物D(174 mg, 0.120 mmol)のテトラヒドロフラン(5 mL)溶液に、テトラブチルアンモニウムフルオリドのテトラヒドロフラン溶液(1.0 M, 1.2 mL, 1.2 mmol)を室温下で加えた。反応混合物を、室温下で終夜撹拌した後、水を加えた。混合物を酢酸エチルで希釈し、分け取った有機層を水、飽和食塩水で順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧濃縮して溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20g, ヘキサン:酢酸エチル=3:2)により精製し、化合物E(136 mg, 93%)を白色固体として得た。
【0103】
[α]D22= +23.2 (c = 1.10, CHCl3).
IR (KBr): νmax = 3360 (br s, OH, NH), 1630 (br s, C=O), 1570 (br s), 1110 (br s, C-O), 1040 (br s, C-O), 730 (br s), 695 (s) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ= 7.38-7.24 (20H, m), 5.32 (1H, d, J = 7.5 Hz), 4.92 (1H, d, J = 12 Hz), 4.85 (1H, d, J = 12 Hz), 4.83 (1H, d, J = 4.0 Hz), 4.78 (1H, d, J = 12 Hz), 4.73 (1H, d, J = 12 Hz), 4.66 (1H, d, J = 12 Hz), 4.56 (1H, d, J = 12 Hz), 4.48 (1H, d, J = 12 Hz), 4.39 (1H, d, J = 12 Hz), 4.35 (1H, t, J = 5.5 Hz), 4.17 (1H, d, J = 7.0 Hz), 4.04 (1H, dd, J = 10, 4.0 Hz), 3.99-3.92 (4H, m), 3.88-3.83 (2H, m), 3.54 (1H, dd, J = 9.5, 6.5 Hz), 3.55-3.49 (2H, m), 3.45 (1H, dd, J = 9.5, 6.0 Hz), 3.08-2.97 (2H, m), 2.39 (1H, d, J = 5.0 Hz), 1.66-1.58 (1H, m), 1.52-1.44 (1H, m), 1.42-1.20 (68H, m), 0.88 (6H, t, J = 7.0 Hz) ppm.
13C-NMR (126 MHz, CDCl3): δ= 158.3, 138.4, 138.3, 138.0, 137.3, 128.51, 128.49, 128.4, 128.26, 128.25, 128.1, 128.0, 127.9, 127.7, 127.6, 127.4, 99.2, 79.1, 76.4, 76.2, 74.7, 74.6, 74.0, 73.7, 73.3, 72.9, 70.4, 69.9, 69.5, 51.2, 40.5, 33.5, 31.9, 30.2, 29.74, 29.71, 29.70, 29.65, 29.64, 29.62, 29.37, 29.354, 29.347, 26.9, 26.0, 22.7, 14.1 ppm.
HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C77H123N2O9): 1219.9223; found: 1219.9212.
【0104】
<d>化合物Fの合成
化合物E(105 mg, 0.0861 mmol)をエタノール(8 mL)とクロロホルム(2 mL)の混合溶媒に溶かし、そこへ水酸化パラジウム-活性炭(20%,wet, 40 mg)を室温下で加えた。懸濁液を水素雰囲気下で終夜撹拌した後、クロロホルムとメタノールの混合溶媒(5:1)で希釈した。濾過後、濾液を減圧濃縮して溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10g, クロロホルム:メタノール=25:3)により精製し、化合物F(58 mg, 78%)を白色粉末として得た。
【0105】
[α]D26= +46.5 (c = 0.30, pyridine).
IR (KBr): νmax = 3360 (br s, OH, NH), 1635 (br m, C=O), 1570 (br m), 1070 (br s, C-O) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, pyridine-d5): δ= 6.79 (1H, t, J = 6.0 Hz), 6.75 (1H, d, J = 9.0 Hz), 6.44-5.90 (6H, m), 5.54 (1H, d, J = 4.0 Hz), 5.09-5.04 (1H, m), 4.60 (1H, dd, J = 9.5, 4.0 Hz), 4.58 (1H, dd, J = 11, 5.0 Hz), 4.48 (1H, br d, J = 4.0 Hz), 4.46-4.36 (3H, m), 4.34 (1H, dd, J = 11, 5.0 Hz), 4.32 (1H, dd, J = 9.5, 3.0 Hz), 4.28-4.23 (2H, m), 3.48 (1H, ddt, J = 13, 7.5, 6.0 Hz), 3.40 (1H, ddt, J = 13, 7.5, 6.0 Hz), 2.28-2.21 (1H, m), 1.91-1.78 (2H, m), 1.68-1.58 (1H, m), 1.55 (2H, quint., J = 7.5 Hz), 1.44-1.16 (64H, m), 0.85 (6H, t, J = 7.0 Hz) ppm.
13C-NMR (126 MHz, pyridine-d5): δ= 159.5, 101.6, 77.4, 73.0, 72.8, 71.6, 70.9, 70.2, 69.7, 62.7, 51.9, 40.6, 34.7, 32.1, 31.0, 30.3, 30.1, 30.01, 30.00, 29.98, 29.96, 29.93, 29.91, 29.89, 29.7, 29.59, 29.58, 27.4, 26.5, 22.9, 14.3 ppm.
HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C49H99N2O9): 859.7345; found: 859.7346.
【0106】
実施例2:化合物Gの合成
【0107】
【化15】
【0108】
実施例1と同様の方法により、化合物Gを合成した。
[α]D26= +55.7 (c = 0.30, pyridine).
IR (KBr): νmax = 3320 (br s, OH, NH), 1630 (br s, C=O), 1570 (br s), 1070 (br s, C-O), 1030 (br s, C-O) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, pyridine-d5): δ= 6.81 (1H, t, J = 5.5 Hz), 6.79 (1H, d, J = 9.5 Hz), 6.66-5.70 (6H, m), 5.54 (1H, d, J = 4.0 Hz), 5.10-5.05 (1H, m), 4.61 (1H, dd, J = 9.5, 3.5 Hz), 4.59 (1H, dd, J = 11, 4.5 Hz), 4.48 (1H, d, J = 3.0 Hz), 4.47-4.42 (2H, m), 4.41-4.33 (2H, m), 4.37 (1H, dd, J = 11, 6.0 Hz), 4.28-4.23 (2H, m), 3.48 (1H, ddt, J = 13, 7.5, 5.5 Hz), 3.40 (1H, ddt, J = 13, 7.5, 5.5 Hz), 2.28-2.21 (1H, m), 1.92-1.78 (2H, m), 1.66-1.56 (1H, m), 1.55 (2H, quint., J = 7.5 Hz), 1.43-1.15 (48H, m), 0.84 (6H, t, J = 7.0 Hz) ppm.
13C-NMR (126 MHz, pyridine-d5): δ= 159.5, 101.6, 77.4, 73.0, 72.8, 71.6, 70.9, 70.2, 69.7, 62.7, 52.0, 40.6, 34.7, 32.1, 31.0, 30.4, 30.1, 30.01, 29.98, 29.92, 29.91, 29.7, 29.6, 27.4, 26.5, 22.9, 14.3 ppm.
HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C41H83N2O9): 747.6093; found: 747.6091.
【0109】
実施例3:化合物Hの合成
【0110】
【化16】
【0111】
実施例1と同様の方法により、化合物Hを合成した。
[α]D25= +50.2 (c = 0.29, pyridine).
IR (KBr): νmax = 3340 (br s, OH, NH), 1640 (br s, C=O), 1570 (br s), 1070 (br s, C-O), 1035 (br s, C-O) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, pyridine-d5): δ= 7.04 (1H, br s), 6.77 (1H, t, J = 5.5 Hz), 6.68 (1H, d, J = 9.0 Hz), 6.63 (1H, br s), 6.29 (2H, br s), 6.01 (1H, d, J = 5.5 Hz), 5.51 (1H, d, J = 4.0 Hz), 5.09 (1H, dq, J = 8.5, 4.0 Hz), 4.60 (1H, dd, J = 11, 5.5 Hz), 4.57 (1H, dd, J = 10, 4.0 Hz), 4.42-4.36 (2H, m), 4.33-4.21 (4H, m), 3.95 (1H, dd, J = 10, 5.5 Hz), 3.90 (1H, dd, J = 10, 7.0 Hz), 3.48 (1H, ddt, J = 13, 7.0, 5.5 Hz), 3.40 (1H, ddt, J = 13, 7.0, 5.5 Hz), 3.32 (3H, s), 2.29-2.21 (1H, m), 1.92-1.78 (2H, m), 1.67-1.58 (1H, m), 1.56 (2H, quint., J = 7.0 Hz), 1.44-1.17 (64H, m), 0.84 (6H, t, J = 7.0 Hz) ppm.
13C-NMR (126 MHz, pyridine-d5): δ= 159.3, 101.5, 77.3, 72.9, 72.8, 71.3, 70.7, 70.6, 70.0, 69.6, 58.8, 51.8, 40.6, 34.8, 32.1, 31.0, 30.3, 30.1, 30.01, 30.00, 29.98, 29.96, 29.94, 29.93, 29.91, 29.90, 29.7, 29.60, 29.59, 27.4, 26.4, 22.9, 14.3 ppm.
HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C50H101N2O9): 873.7502; found: 873.7503.
【0112】
実施例4:化合物I合成
【0113】
【化17】
【0114】
実施例1と同様の方法により、化合物Iを合成した。
[α]D22= +56.5 (c = 0.32, pyridine).
IR (KBr): νmax = 3360 (br s, OH, NH), 1640 (br s, C=O), 1570 (br s, C=O), 1070 (br s, C-O) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, pyridine-d5): δ= 7.02 (1H, br s), 6.80 (1H, t, J = 6.0 Hz), 6.76 (1H, d, J = 9.0 Hz), 6.63 (2H, br s), 6.37 (1H, br s), 6.34 (1H, br s), 6.05 (1H, br s), 5.55 (1H, d, J = 4.0 Hz), 5.15-5.06 (1H, m), 4.61 (1H, dd, J = 8.0, 4.0 Hz), 4.59 (1H, dd, J = 10, 4.5 Hz), 4.49 (1H, d, J = 3.0 Hz), 4.47-4.35 (3H, m), 4.37 (1H, dd, J = 10, 5.5 Hz), 4.33 (1H, dd, J = 10, 3.0 Hz), 4.30-4.22 (2H, m), 3.46 (1H, ddt, J = 13, 7.0, 6.0 Hz), 3.39 (1H, ddt, J = 13, 7.0, 6.0 Hz), 2.30-2.22 (1H, m), 1.91-1.78 (2H, m), 1.66-1.56 (1H, m), 1.52 (2H, quint., J = 7.0 Hz), 1.42-1.08 (32H, m), 0.84 (3H, t, J = 7.0 Hz), 0.79 (3H, t, J = 7.0 Hz) ppm.
13C-NMR (126 MHz, pyridine-d5): δ= 159.5, 101.6, 77.4, 73.0, 72.8, 71.6, 70.9, 70.2, 69.7, 62.7, 52.0, 40.6, 34.7, 32.1, 32.0, 31.0, 30.4, 30.1, 30.01, 30.00, 29.97, 29.96, 29.90, 29.59, 29.58, 29.5, 27.3, 26.5, 22.9, 22.8, 14.3, 14.2 ppm.HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C33H67N2O9): 635.4841; found: 635.4841.
【0115】
実施例5:化合物Jの合成
【0116】
【化18】
【0117】
実施例1と同様の方法により、化合物Jを合成した。
[α]D25= +58.4 (c = 0.31, pyridine).
IR (KBr): νmax = 3360 (br s, OH, NH), 1640 (br s, C=O), 1570 (br s, C=O), 1070 (br s, C-O), 700 (m) cm-1.
1H-NMR (500 MHz, pyridine-d5): δ= 7.29 (2H, ddt, J = 7.5, 1.5, 1.0 Hz), 7.21-7.14 (3H, m), 7.02 (1H, br s), 6.80 (1H, t, J = 5.5 Hz), 6.75 (1H, d, J = 9.0 Hz), 6.34 (2H, br s), 6.37 (1H, br s), 6.34 (1H, br s), 6.07 (1H, br s), 5.56 (1H, d, J = 3.5 Hz), 5.11-5.06 (1H, m), 4.62 (1H, dd, J = 10, 4.0 Hz), 4.60 (1H, dd, J = 10, 5.0 Hz), 4.49 (1H, d, J = 2.0), 4.47-4.36 (3H, m), 4.38 (1H, dd, J = 10, 6.0 Hz), 4.33 (1H, dd, J = 10, 4.0 Hz), 4.30-4.22 (2H, m), 3.42 (1H, ddt, J = 13, 7.0, 5.5 Hz), 3.36 (1H, ddt, J = 13, 7.0, 5.5 Hz), 2.45 (2H, t, J = 7.0 Hz), 2.30-2.22 (1H, m), 1.91-1.78 (2H, m), 1.66-1.56 (1H, m), 1.52 (2H, quint., J = 7.0 Hz), 1.47 (2H, quint., J = 7.0 Hz), 1.42-1.17 (24H, m), 0.84 (3H, t, J = 7.0 Hz) ppm.
13C-NMR (126 MHz, pyridine-d5): δ= 159.4, 143.0, 128.8, 128.6, 126.0, 101.6, 77.4, 73.0, 72.7, 71.5, 70.9, 70.2, 69.6, 62.6, 51.9, 40.4, 36.0, 34.7, 32.1, 31.5, 30.8, 30.3, 30.1, 29.99, 29.98, 29.95, 29.94, 29.88, 29.6, 26.9, 26.4, 22.9, 14.2 ppm.
HR-ESIMS: Calcd for [M+H]+(C36H65N2O9): 669.4685; found: 669.4685.
【0118】
試験例1:合成糖脂質のNKT細胞に対するサイトカイン産生に対する影響
α−GalCer(KRN7000)、化合物FおよびHのそれぞれについて、1 mg/mLの濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を調製した。1匹のマウスにつき200 μLを尾静脈内に投与した際、投与量が100 μg/kg体重になるように、上記のDMSO溶液を0.5%のtween20(Bio−Rad)を含有する生理食塩水(大塚製薬株式会社製)を用いて希釈した。
1群5匹のC57BL/6マウスに、調製した化合物FおよびHの溶液200 μLをそれぞれ尾静脈内に注射した。対照物質としてα−GalCer(KRN7000)を用い、同様の方法により投与量が100 μg/kg体重となるように調製したα−GalCer(KRN7000)の溶液200μLを尾静脈内に注射した。媒体である0.5%のtween20を含有する生理食塩水200 μLを投与した群をネガティブコントロールとした。投与直前、および投与後の図1〜3に記載する表示時間経過後の血液を眼下静脈叢より80 μL採取し、血漿を調製した。
【0119】
投与直前および投与後の図1に記載する表示時間経過後の血漿中のIFN−γの含有量を、ELISA法の1つであるCytometric Bead Array システム (BD Biosciences)で測定した。IFN−γ産生量の測定結果(平均値)及びその標準偏差(STDEV)を図1に示す。
投与直前および投与後の図2に記載する表示経過後の血漿中のIL−4の含有量を、ELISA法の1つであるCytometric Bead Array システム (BD Biosciences)で測定した。IL−4産生量の測定結果(平均値)及びその標準偏差(STDEV)を図2に示す。
投与直前および投与後の図3に記載する表示経過後の血漿中のIL−12の含有量を、ELISA法の1つであるCytometric Bead Array システム (BD Biosciences)で測定した。IL−12産生量の測定結果(平均値)及びその標準偏差(STDEV)を図3に示す。
【0120】
上記結果より、化合物FおよびHはα−GalCer(KRN7000)よりも大量のIFN−γを選択的に産生誘導した。即ち、α−GalCer(KRN7000)のアミド結合をウレア結合へと変換することによって、IFN−γに偏ったサイトカインの産生を誘導できる新規化合物が開発された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は癌または感染症治療に有効な薬剤の製造方法およびその用途を提供する。
【0122】
本発明は、日本に出願された特願2010−24859を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含される。
図1
図2
図3