【実施例1】
【0027】
実施例1では、テンプレートとしてSBA−15−100を、銅前駆体として酢酸銅を、ならびに、硫黄前駆体としてチオ尿素を用い、本発明の多孔性硫化銅を製造した。酢酸銅(Cu(ac)
2・4H
2O)、チオ尿素(Tu)およびSBA−15の除去用の水酸化ナトリウム(NaOH)は、nacalai tesqueから購入した。これらCu(ac)
2・4H
2O、TuおよびNaOHは、さらなる高純度化等の処理をすることなく製造に用いた。
【0028】
参考例1で得たSBA−15−100と、Cu(ac)
2・4H
2OおよびTuを含有する前駆体溶液を混合した(
図2のステップS210)。具体的には、SBA−15−100 500mgを、脱イオン化水7mlに2MのCu(ac)
2・4H
2Oを溶解させた溶液に添加し、次いで、これに、2MのTuを添加し、連続的に混合し、前駆体溶液をSBA−15−100のメソ孔に十分に分散させた。これによりSBA−15−100内に前駆体溶液が分散した混合物を得た。
【0029】
次に混合物を加熱した(
図2のステップS220)。具体的には、ペトリ皿に移した混合物を、電気オーブンにて、100℃で6時間加熱し、次いで、160℃で6時間加熱した。これにより、Cu(ac)
2・4H
2Oの銅と、Tu中のSとが反応し、CuSが生成され、メソ孔にCuSが充填されたSBA−15−100の複合体が得られた。
【0030】
ここで、SBA−15−100のメソ孔を完全にCuSで充填させるため、前駆体溶液を(脱イオン化水7mlに溶解した2MのCu(ac)
2・4H
2Oおよび2MのTu)、複合体に追加し、SBA−15−100のメソ孔を完全にCuSおよび前駆体溶液で充填させた。再度、これを電気オーブンにて100℃で6時間、次いで、160℃で6時間加熱し、メソ孔にCuSが完全に充填されたSBA−15−100の複合体を得た。
【0031】
次に、複合体をアルカリで処理し、SBA−15−100を除去した(
図2のステップS230)。アルカリには希釈したNaOHを用いた。濾過した後、エタノールで数回洗浄し、100℃で乾燥させ、多孔性硫化銅を得た。実施例1で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−100と称する。
【0032】
M−CuS−100の粉末X線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折計(Cu Kα、λ=1.5406Åを使用)を用いて測定した。2θのステップサイズを0.01°、ならびに、ステップ時間を10sとし、0.6°〜10°の2θ範囲を測定した。結果を
図4に示す。
【0033】
M−CuS−100のTEM像およびHRTEM像を、TEM JEOL JEM−2000EX2を用いて観察した。エタノールで分散させ、超音波処理したM−CuS−100を銅グリッド上に堆積させた試料をHRTEM解析に用いた。観察時の加速電圧は200kVであった。結果を
図5および
図6に示す。
【0034】
M−CuS−100のモルフォロジを、HITACHI高解像度FE−SEMを用いて、観察した。結果を
図7に示す。
【0035】
M−CuS−100の窒素吸脱着等温線を、Quantachrome Autosorb 1吸着アナライザを用いて−196℃で測定した。また、比表面積を、Brunauer−Emmett−Teller(BET)法により算出した。M−CuS−100の細孔径分布(BJH法)を、窒素吸脱着等温線の吸着ブランチおよび脱着ブランチから求めた。結果を
図9および
図10に示す。また、窒素吸脱着等温線から孔容量を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0036】
M−CuS−100のUV−visスペクトルを、Perkin Elmer LAMPDA750を用いて反射モードで測定した。測定は、室温にて200nm〜800nmの範囲について行った。また、得られたUV−visスペクトルから光学バンドギャップを算出した。これらの結果を
図11および
図12に示す。
【0037】
M−CuS−100の電流電位(C−V)曲線を、CHI 760 C電気化学ワークステーションを用いて、室温にて標準三電極式セルにより測定した。電極には、作用電極としてM−CuS−100、カウンタ電極としてプラチナ箔、参照電極としてAg/AgClをそれぞれ用いた。
【0038】
なお、M−CuS−100からなる作用電極は、次の手順で調整した。剥き出しのグラッシーカーボン電極(GCE)を0.05MのAl
2O
3スラリーで鏡面研磨し、再蒸留水で洗浄した。作用電極の材料となるM−CuS−100(10mg/mL)をメタノール水溶液に分散させ、スラリーを形成し、10分間超音波処理した。次いで、マイクロピペットを用いて、20μLのスラリーをGCE電極表面に塗布した。その後、溶媒を蒸発させ、電極表面をイオン電導性ポリマーであるナフィオン(登録商標)溶液5μLでコーティングし、70℃1時間乾燥させ、溶媒を蒸発させた。
【0039】
電流電位(C−V)曲線の測定は、サイクリックボルタンメトリ法により1MのNa
2SO
4電解液中で行われた。測定条件は、−0.2Vから0.25Vの電位領域を電位掃引速度20mV/sで掃引した。結果を
図13および
図14に示す。
【実施例3】
【0044】
実施例3は、テンプレートとしてSBA−15−150を用いた以外、実施例1と同様である。実施例3で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−150と称する。
【0045】
M−CuS−150のXRDパターン、TEM像、HRTEM像、SEM像、窒素吸脱着等温線、BJH細孔径分布、孔容量、UV−visスペクトル、光学バンドギャップおよびC−V曲線を、実施例1と同様に観察・測定した。結果を
図4〜
図7、
図9〜
図14および表1に示す。
【0046】
また、M−CuS−150の元素マッピング(EDXスペクトル)を、EDXを備えたFE−SEMにより測定した。結果を
図8に示す。
【0047】
次に、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の観察・測定結果について詳述する。
【0048】
図4は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のXRDパターンを示す図である。
【0049】
いずれのXRDパターンも1つのシャープなピークと2つの強度の低いピークとを有した。これらのピークは、p6m対称性を有する六方晶配列した構造に特有の(100)、(110)および(200)面の回折ピークに相当する。このことから、実施例1〜3で得られたM−CuS−100、130および150は、テンプレートであるSBA−15の構造の完全なレプリカであり、SBA−15と同様に規則的に配列した多孔性材料であることが分かった。
【0050】
図4の挿入図は、実施例2のM−CuS−130の高角XRDパターンを示す。このXRDパターンは、六方晶銅藍相の硫化銅のXRDパターン(JCPDS No.06−0464)における回折ピークに良好に一致した。以上より、本発明の製造方法により、空間群P63/mmcを有する硫化銅(銅藍CuS)からなる多孔性材料が得られることが確認された。
【0051】
第一銅イオンの形成は、硫化物イオンによるCu(II)の還元に起因している。このCu(II)の還元により硫化物イオンは硫黄へと酸化される。したがって、本発明の製造方法により、構造的および組成的にもCuSと異なるCu
xSの生成が想定され得るが、
図4のXRDパターンによれば、Cu
2SまたはCu
2O等の不純物による回折ピークは一切見られなかった。以上より、本発明の製造方法により、空間群P63/mmcを有する硫化銅単体からなる多孔性材料が得られることが確認された。
【0052】
さらに、例えば、M−CuS−100のブロードな回折ピークは、生成されたM−CuS粒子がナノスケールであることを示唆している。Schererの式により(100)面の回折ピークから算出した粒径は、5.48nmであった。
【0053】
図5は、実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のTEM像を示す図である。
【0054】
図5の挿入図はいずれも、配列したチャネルに相当する回折パターン(SAED)である。M−CuS−100および150のいずれも、メゾスコピックな領域において、多孔性シリカテンプレートであるSBA−15に一致する良好に配列した多孔性構造を示した。詳細には、M−CuS−100および150のいずれも、線状の多孔性チャネルが良好に配列している様子を示す。
【0055】
図6は、実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のHRTEM像を示す図である。
【0056】
M−CuS−100および150のいずれも、粒子内において多数のメソチャネルが互いに結合し、良好に配列していることを示す。また、
図6(B)から算出した格子フリンジはd=0.315nmであった。これらの結果は、
図4のXRD回折の結果をサポートしており、本発明による製造方法により、良好に配列した多孔性材料が得られることが示された。なお、図示しないが、M−CuS−130についても同様のTEM像およびHRTEM像が得られた。
【0057】
図7は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のSEM像を示す図である。
【0058】
図7(A)〜(B)はM−CuS−100のSEM像であり、
図7(C)〜(D)はM−CuS−130のSEM像であり、
図7(E)〜(F)はM−CuS−150のSEM像である。
【0059】
M−CuS−100、130および150のいずれも、多孔性シリカテンプレートであるSBA−15のレプリカであることを確認した。また、
図7によれば、CuSナノ粒子がSBA−15のメゾスコピックなチャネル内を完全に充填した結果、ロッド状のCuSが良好に配列している様子を示す。以上より、本発明の製造方法により、SBA−15のレプリカであるロッド状の多孔性材料が得られることが示された。
【0060】
図8は、実施例3のM−CuS−150のEDXスペクトルを示す図である。
【0061】
EDXスペクトルは、CuおよびSに相当する明瞭なピークを示した。このことから、ステップS230のSBA−15を除去後、生成物には残留するシリカはなく、CuS単相が得られたことが確認された。この結果は、
図4のXRDパターンの結果と同様であった。
【0062】
図8の挿入図はCuおよびSの元素マッピングを示す。コントラストの明るく示される部分が、各元素が存在していることを示す。元素マッピングによれば、CuおよびSは、生成物全体に均一に分散していることが分かった。
【0063】
図9は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図10は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の細孔径分布を示す図である。
【0064】
いずれの窒素吸脱着等温線も、IUPAC分類のIV型であり、H1型ヒステリシスループを示した。このことから、本発明の製造方法により、メソ多孔性材料が得られることが確認された。
【0065】
図10によれば、M−CuS−100、130および150の細孔径が、4nm〜8.5nmの範囲に分布していることが分かる。
【0066】
図9の各窒素吸脱着等温線から比表面積(BET表面積)、比孔容量および孔径を算出した。それらの結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1によれば、BET表面積は、M−CuS−100、M−CuS−130およびM−CuS−150の順に増大した。すなわち、M−CuSのBET法面積は、テンプレートであるSBA−15の製造におけるエージング温度の増大につれて増大した。一方、比孔容量および孔径は、M−CuS−130においてもっとも大きかった。
【0069】
以上より、製造時に適宜SBA−15を選択することによって、得られるM−CuSの組織的特性(比表面積、比孔容量および孔径)を制御することができることが示された。
【0070】
図11は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のUV−visスペクトルを示す図である。
【0071】
いずれのUV−visスペクトルも約600nm付近に顕著な吸収端を示した。これは、価電子帯から非占有状態へのバンド間遷移をする銅藍(CuS)の形成に起因する基礎吸収端である。硫化銅は、カルコサイト(Cu
2S)から硫黄リッチな銅藍(CuS)まで多くの安定な相を有するが、各安定な相は、特有の光学特性を有することが分かっている。例えば、銅藍(CuS)は近赤外領域(約920nm)に特徴的な広い吸収帯を有するが、この吸収帯は、硫化銅中の硫黄含有量が増大するにつれて減少する。以上より、本発明の製造方法により得られた多孔性材料が、CuSで表される銅藍であることが確認された。
【0072】
図12は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の(αhν)
2とhνとの関係を示す図である。
【0073】
図12は、M−CuSの光学バンドギャップを算出するために、
図11より(αhν)
2とhνとの関係をプロットした図である。光学バンドギャップは、直接遷移の場合には(αhν)
2とhν(h:プランク定数、ν:周波数)との関係から、あるいは、許容間接遷移の場合には(αhν)
1/2とhνとの関係との関係から算出される。
図12によれば、(αhν)
2とhνとの関係において、可視領域の高エネルギー側の主要な部分が、直線で良好にフィッティングされた。このことから、M−CuSの遷移の種類は直接遷移であることが分かった。M−CuS−100、130および150のそれぞれのプロットにフィッティングした直線から得られる光学バンドギャップ(eV)は、2.08、2.06および2.04であった。これは、バルク状のCuSの光学バンドギャップ(1.85eV)よりもわずかに大きな値であったが、実質的に同様の光学バンドギャップであった。なお、この光学バンドギャップにおける差は、サイズ効果によるものである。このことからも、本発明の製造方法により得られた多孔性材料が、CuSであることが確認された。
【0074】
以上、
図4〜
図12より、本発明の製造方法により、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有する、多孔性硫化銅が得られることが示された。
【0075】
図13は、実施例1〜3のM−CuS−100(a)、130(b)および150(c)のCV曲線を示す図である。
【0076】
いずれのCV曲線も一対の酸化還元ピークを明瞭に示した。このことは、本発明によるM−CuSはファラデー過程による酸化還元を示し、測定された容量が、可逆な電気化学反応によって生じる疑似容量によることを示唆する。以上より、本発明の製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタに適用可能であることが分かった。中でも、M−CuS−130のCV曲線(b)下の領域が、M−CuS−100(a)および150(c)のそれよりも増大していることから、M−CuS−130の比容量がもっとも増大したことを示している。すなわち、M−CuS−130を電極としたスーパーキャパシタは、M−CuS−100および150のそれよりも著しく高い比容量を示し、シュードキャパシタにより好適であることが分かった。
【0077】
このようなM−CuS−130における高い比容量は、高い表面積および大きな孔径に起因しており、これにより、M−CuSのチャネル内にて高速でイオン輸送パスを提供することができる。
【0078】
図14は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の比容量、比表面積および孔径の関係を示す図である。
【0079】
図14によれば、比表面積および孔径が増大するにつれて、比容量も増大することが分かる。M−CuS−100、130および150の電位走査速度2mV/sにおける最大比容量(F/g)は、それぞれ、282.14、382.14および339.28であった。この結果は、
図13のM−CuS−130のCV曲線(b)が、他のCV曲線(a)および(c)と比べて、CV曲線下に広い領域を示し、より顕著なキャパシタ挙動を示したことに一致する。
【0080】
図15は、実施例2のM−CuS−130の電気化学安定性を示す図である。
【0081】
図15によれば、10000回掃引後のM−CuS−130のCV曲線と、1回掃引後のそれとは大きな変化を示さなかった。具体的には、10000回後のM−CuS−130の比容量は、1回目のそれよりわずかに減少しているものの、1回目のそれの93%にとどまっていた。このことから、本発明の製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタ用の電極に適用した際に電気化学安定性を有しており、耐久性に優れていることが示された。
【0082】
図16は、実施例2のM−CuS−130のクロノポテンショグラムを示す図である。
【0083】
充放電時、曲線は2つの変動範囲を示す。具体的には、電極/電解液の界面における電荷分離に起因する、電位軸に平行な電位(−0.25V〜−0.15V)対時間の直線状の変動、および、電位(−0.15V〜0.25V)対時間のスロープ状の変動の2つの変動範囲である。このような変動範囲は、電極/電解液の界面において電気化学的な酸化還元反応による典型的な疑似容量の挙動である。例えば、3mA/cm
2の高電流密度を用いた場合であっても、理想的なキャパシタ挙動である三角形状の対称的な充放電特性が得られた。このことから、M−CuS−130は、極めて小さいオーミックドロップを伴い電荷を高速で伝播させることが示された。
【0084】
さらに、放電曲線の形状は、電気二重層キャパシタではなく、シュードキャパシタの特性を示しており、
図13のCV曲線の結果に一致した。放電曲線における電位減少から、M−CuS−130の種々の電流密度に対する比エネルギー(SE)、比出力(SP)およびクーロン効率(%η)を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2より、電流密度の増加に伴い、比出力は増加し、比エネルギーは減少することが分かった。また、クーロン効率は、電流密度に依存しないことが確認された。
【0087】
図17は、実施例2のM−CuS−130電極のNyquistプロットを示す図である。
【0088】
図17によれば、高周波領域に対して半球と、低周波数領域に対して直線とからなるNyquistプロットが得られた。半球の始まり部分におけるZ’
rの切片が0でない理由は、電解液の電気抵抗R
e(平均1.02オームcm
2)に起因することに留意されたい。半球の直径は、ファラデー抵抗と呼ばれる界面電荷輸送抵抗(R
ct)に相当し、シュードキャパシタの出力密度に対する制限ファクタとなり得る。M−CuS−130のファラデー抵抗R
ctは、14.02オームcm
2であり、このような低いファラデー抵抗は、シュードキャパシタによって生成される出力密度を顕著に増大させることができる。このことからも、本発明による製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタ用の電極に好適である。