特許第5669276号(P5669276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5669276金属ナノ粒子配列構造体、その製造装置及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669276
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子配列構造体、その製造装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20150122BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20150122BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150122BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20150122BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20150122BHJP
   C25D 13/02 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   B01J19/00 321
   B01J19/08 F
   B22F1/00 K
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   C25D13/02 Z
【請求項の数】25
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-512708(P2012-512708)
(86)(22)【出願日】2011年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2011054965
(87)【国際公開番号】WO2011135924
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2012年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-101980(P2010-101980)
(32)【優先日】2010年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 第57回応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」(2010年3月3日発行)第03−225頁に発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】三木 一司
(72)【発明者】
【氏名】落合 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 知弥
(72)【発明者】
【氏名】日塔 光一
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169669(JP,A)
【文献】 特表2003−511251(JP,A)
【文献】 特開2004−269922(JP,A)
【文献】 特開2008−057011(JP,A)
【文献】 特開2003−282626(JP,A)
【文献】 特開2003−089896(JP,A)
【文献】 特開平11−070358(JP,A)
【文献】 寺西利治,金原正幸,ボトムアップのナノテクノロジー〜金属ナノ粒子の自在配列制御と電子・磁気物性〜,表面技術,日本,(社)表面技術協会,2005年,第56巻7号,p.367-372
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00,23/52
B82B 1/00,3/00
C25D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液槽と、
前記液槽の開口部を覆う蓋部と、
前記液槽の内部に対向配置可能な2つの電極部と、
前記2つの電極部に配線を介して接続された電源部と、を有し、
前記液槽に満たす反応液の液面の前記電極部に対する位置を移動可能な液面位置移動手段が備えられている金属ナノ粒子配列構造体の製造装置であって、
前記液面位置移動手段が、前記蓋部に設けられ、開口径を変えることが可能な孔部であることを特徴とする金属ナノ粒子配列構造体の製造装置。
【請求項2】
液槽と、
前記液槽の開口部を覆う蓋部と、
前記液槽の内部に対向配置可能な2つの電極部と、
前記2つの電極部に配線を介して接続された電源部と、を有し、
前記液槽に満たす反応液の液面の前記電極部に対する位置を移動可能な液面位置移動手段が備えられている金属ナノ粒子配列構造体の製造装置であって、
前記液面位置移動手段が、前記2つの電極部のうちの一の電極部を前記蓋部方向に引き上げ可能とする引き上げ部であることを特徴とする金属ナノ粒子配列構造体の製造装置。
【請求項3】
金属ナノ粒子を溶媒に分散して反応液を調整した後、前記反応液を液槽に満たし、前記反応液に浸漬させた2つの電極部を対向配置させる第1工程と、
前記2つの電極部に配線を介して接続した電源部から、前記2つの電極部に電圧を印加するとともに、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させて、前記一の電極部の一面に金属ナノ粒子配列を形成する第2工程と、を有することを特徴とする金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項4】
前記電極部に対する前記反応液の液面の位置の移動速度が0.02mm/s以下であることを特徴とする請求項3に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項5】
第1工程で、前記溶媒として揮発性溶媒を用いるとともに、
第2工程で、電圧の印加の際に前記揮発性溶媒を揮発させて、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させることを特徴とする請求項3又は4に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項6】
前記揮発性溶媒が水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ハロゲン系溶媒、脂肪族炭化水素類、または芳香族炭化水素類、あるいはそれらの混合物のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項7】
前記揮発性溶媒が、無機塩、有機塩、あるいはその両方を含むことを特徴とする請求項5に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項8】
第2工程で、電圧の印加の際に、前記2つの電極部のうちの一の電極部を前記蓋部方向に引き上げて、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項9】
粒径が1〜100nmの間の一の粒径の金属ナノ粒子を用いることを特徴とする請求項3〜8のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項10】
有機分子によって修飾された金属ナノ粒子を用いることを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項11】
2つの電極部のうちの一の電極部として固定化層を備えた基板を用い、前記固定化層の一面側を他の電極部に対向させて配置することを特徴とする請求項3〜10のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項12】
前記基板が導電性基板からなることを特徴とする請求項3〜11のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項13】
前記基板が、一面側に導電性薄膜が形成されてなる絶縁性基板からなることを特徴とする請求項3〜11のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項14】
前記他の電極部として炭素電極を用いることを特徴とする請求項3〜13のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項15】
第2工程後、前記金属ナノ粒子配列を30〜80℃の温度範囲でアニール処理することを特徴とする請求項3〜14のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法。
【請求項16】
基板と、
前記基板の一面に形成された固定化層と、
前記固定化層の一面に形成された金属ナノ粒子配列と、を有する金属ナノ粒子配列構造
体であって、
前記金属ナノ粒子配列は、複数の金属ナノ粒子が等間隔となるように配列されてなり、
前記金属ナノ粒子同士は、その表面に備えられた修飾部により互いに接合されるとともに、前記金属ナノ粒子が前記固定化層の一面に化学結合により固定化されており、
前記固定化層および前記修飾部はそれぞれ、互いに異なる有機分子で形成されていることを特徴とする金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項17】
前記金属ナノ粒子の間隔が1〜10nmの間の一の間隔であることを特徴とする請求項16に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項18】
前記金属ナノ粒子の粒径が1〜100nmの間の一の粒径であることを特徴とする請求項17に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子が金からなることを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項20】
前記修飾部がチオール基を有する有機分子であり、前記チオール基が前記金属ナノ粒子に接合されていることを特徴とする請求項16〜19のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項21】
前記修飾部の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有していることを特徴とする請求項20に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項22】
前記固定化層が少なくとも2つのチオール基を有する有機分子からなり、前記固定化層の一面側と他面側にそれぞれ少なくとも1つのチオール基が配置されており、
前記他面側のチオール基が前記基板に接合されていることを特徴とする請求項16〜21のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項23】
前記固定化層の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有していることを特徴とする請求項22に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項24】
前記基板が、導電性基板であることを特徴とする請求項16〜23のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【請求項25】
前記基板が、一面に導電性薄膜が形成されてなる絶縁性基板からなることを特徴とする請求項16〜23のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子配列構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子配列構造体、その製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノスケールの大きさを持つ材料を集積化することで新たな機能を発現させることができる。このため、集積化技術や集積化構造体は注目すべき技術や材料となっている。
【0003】
例えば、1〜100nmの粒径の金属ナノ粒子は、その半径に相当する大きさの局在光(以下、近接場光)を発生させることができる。そのため、金属ナノ粒子同士の間隔を1〜10nmとして、2次元状に配列した金属ナノ配列を基板上に備えた金属ナノ粒子配列構造体は、金属ナノ粒子の間隙中に大きな電場や非常に明るい近接場光を発生させることができる。
【0004】
この金属ナノ粒子配列構造体は、光導波路、光化学反応リアクター、光デバイス、高感度センサー、触媒へ応用が期待されている。これらへ応用するためには、金属ナノ粒子の大きさ、形状、間隔が揃った金属ナノ粒子配列構造体を用いることが必要とされるので、金属ナノ粒子の大きさ、形状、間隔を制御することが技術的な鍵となる。
【0005】
金属ナノ粒子配列構造体の作製技術については、既にいくつかの報告がある。例えば、ナノスフィアリソグラフィ―(非特許文献1〜3)、電子ビームリソグラフィ(非特許文献4)が従来的な手法によるものであるが、リソグラフィ装置が高価な点と大規模な構造を作製するのは困難である点が課題となっている。
【0006】
自己組織化手法による作製も試みられている。外圧を用いる手法としては、ラングミュラ―法(非特許文献5〜8)、ラングミュラ―・ブロジェット法(非特許文献9〜10)、ディップコーティング法(非特許文献11)、固液界面の利用(特許文献1)がある。また、外場を利用する方法としては、電気泳動法(非特許文献13、特許文献3)、溶媒蒸発法(非特許文献12、特許文献2)がある。しかし、これらの手法は、金属ナノ粒子配列構造体と固定基板との間に化学結合などの強い固定化手段を持たないので、金属ナノ粒子配列構造体が固定基板から容易に剥がれるなどの課題がある。
【0007】
化学結合などの基板上への固定化手段に注目した技術としては、チオール結合(非特許文献14〜15)、CN結合(非特許文献16)、配位結合(非特許文献17〜18)がある。しかし、これらの方法では、高い被覆率を有する金属ナノ粒子配列構造体が得られていない。
【0008】
なお、被覆率とは特定の面積内において金属ナノ粒子配列構造体が占める面積の割合である。
【0009】
従って、現状では、金属ナノ粒子の大きさ、形状、間隔が揃った金属ナノ粒子配列構造体であって、化学結合等で堅固に基板上に固定され、かつ高い被覆率を有するものは技術的に達成されていない。
【特許文献1】特開2006−192398号公報
【特許文献2】特開2007−313642号公報
【特許文献3】特開2009−6311号公報
【非特許文献1】Wang,W.;Wang,Y.;Dai,Z.;Sun,Y.; Sun,Y.Appl.Surface Sci.2007,253,4673−4676.
【非特許文献2】Shen,H.;Cheng,B.;Lu,G.;Ning,T.; Guan,D.;Zhou,Y.;Chen,Z.,Nanotechnology,2006,17,4274−4277.
【非特許文献3】Tan,B.J.Y.;Sow,C.H.;Koh,T.S.;Chin,K.C.;Wee,A.T.S.;Ong,C.K.,J.Phys.Chem.B 2005,109,11100−11109.
【非特許文献4】Felidj,N.;Aubard,J.;Levi,G.Appl.Phys.Chem.2003,82,3095−3097.
【非特許文献5】Liao,J;Agustsson,J.S.;Wu,S.;Schoenenberger,C.;Calame,M.;Leroux,Y.;Mayor,M.;Jeannin,O.;Ran,Y.−F.;Liu,S.−X.;Decurtins,S.Nano Lett.2010,10,759−764.
【非特許文献6】Chiang,Y,−L;Chen,C.−W;Wang,C.−H.;Hsein,C.−Y;Chen,Y.−T;Appl.Phys.Lett.,2010,96,041904−1 − 041904−4.
【非特許文献7】Kim,B.;Tripp,S.L.;Wei,A.J.Am.Chem.Soc.2001,123,7955−7956.
【非特許文献8】Kim,B.;Sadtler,B.;Tripp,S.L.Chem.Phys.Chem.,2001,12,743−745.
【非特許文献9】Park,Y.−K.;Yoo,S.−H.;Park,S.Langmuir,2008,24,4370−4375.
【非特許文献10】Brown,J.J.;Porter,J.A.;Daghlian,C.P.;Gibson,U.J.Langmuir,2001,17,7966−7969.
【非特許文献11】Dai,C.−A.;Wu,Y.−L.;Lee,Y.−H.; Chang,C.−J.;Su,W.−F.J.Cryst.Growth,2006,288,128−136.
【非特許文献12】Wang,H.;Levin,C.S.;Halas,N.J.J.Am.Chem.Soc.,2005,127,14992−14993.
【非特許文献13】Peng,Z.;Qu,X.;Dong,S.Langmuir,2004,20,5−10.
【非特許文献14】Kaminska,A.;Inya−Agha,O.;Forster,R.J.;Keyes,T.E.Phys.Chem.Chem.Phys.,2008,10,4172−4180.
【非特許文献15】Grabar,K.C.;Smith,P.C.;Musick,M.D.;Davis,J.A.;Walter,D.G.;Jackson,M.A.;Guthrie,A.P.;Natan,M.J.J.Am.Chem.Soc.,1996,118,1148−1153.
【非特許文献16】Chan,E.W.L.;Yu,L.Langmuir,2002,18,311−313.
【非特許文献17】Wanunu,M.;Popovitz−Biro,R.;Cohen,H.;Vaskevich,A.;Rubinstein,I.J.Am.Chem.Soc.,2005,127,9207−9215.
【非特許文献18】Zamborini,F.P.;Hicks,J.F.;Murray,R.W.J.Am.Chem.Soc.2000,122,4514−4515.
【非特許文献19】Hartling,T.;Alaverdyan,Y.;Hille,A;Wenzel,M.T.;Kall,L.M.,Optics.Express,2008,16,12362−12371.
【非特許文献20】Raffa,P.;Evangelisti,C.;Vitulli,G.;Salvadori,P.Tetrahedron Lett.2008,49,3221−3224.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、大きさ、形状が揃った複数の金属ナノ粒子の間隔が揃った金属ナノ粒子配列を備え、前記金属ナノ粒子配列が化学結合等で堅固に基板上に固定され、かつ、前記金属ナノ粒子配列の被覆率が高い金属ナノ粒子配列構造体、その製造装置及び製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の金属ナノ粒子配列構造体、その製造方法及び製造装置を提供する。
【0012】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、基板と、前記基板の一面に形成された固定化層と、前記固定化層の一面に形成された金属ナノ粒子配列と、を有する金属ナノ粒子配列構造体であって、前記金属ナノ粒子配列は、複数の金属ナノ粒子が等間隔となるように配列されてなり、前記金属ナノ粒子同士は、その表面に備えられた修飾部により互いに接合されるとともに、前記金属ナノ粒子が前記固定化層の一面に化学結合により固定化されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記金属ナノ粒子の間隔が1〜10nmであることを特徴とする。
【0014】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記金属ナノ粒子の粒径が1〜100nmであることを特徴とする。
【0015】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記金属ナノ粒子が金からなることを特徴とする。
【0016】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記修飾部がチオール基を有する有機分子であり、前記チオール基が前記金属ナノ粒子に接合されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記修飾部の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有していることを特徴とする。
【0018】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記固定化層が少なくとも2つのチオール基を有する有機分子からなり、前記固定化層の一面側と他面側にそれぞれ少なくとも1つのチオール基が配置されており、前記他面側のチオール基が前記基板に接合されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記固定化層の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有していることを特徴とする。
【0020】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記基板が、導電性基板であることを特徴とする。
【0021】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記基板が、一面に導電性薄膜が形成されてなる絶縁性基板からなることを特徴とする。
【0022】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造装置は、液槽と、前記液槽の開口部を覆う蓋部と、前記液槽の内部に対向配置可能な2つの電極部と、前記2つの電極部に配線を介して接続された電源部と、を有し、前記液槽に満たす反応液の液面の前記電極部に対する位置を移動可能な液面位置移動手段が備えられていることを特徴とする。
【0023】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造装置は、前記液面位置移動手段が、前記蓋部に設けられ、開口径を変えることが可能な孔部であることを特徴とする。
【0024】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造装置は、前記液面位置移動手段が、前記2つの電極部のうちの一の電極部を前記蓋部方向に引き上げ可能とする引き上げ部であることを特徴とする。
【0025】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、金属ナノ粒子を溶媒に分散して反応液を調整した後、前記反応液を液槽に満たし、前記反応液に浸漬させた2つの電極部を対向配置させる第1工程と、前記2つの電極部に配線を介して接続した電源部から、前記2つの電極部に電圧を印加するとともに、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させて、前記一の電極部の一面に金属ナノ粒子配列を形成する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0026】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、前記反応液の液面の移動速度が0.02mm/s以下であることを特徴とする。
【0027】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第1工程で、前記溶媒として揮発性溶媒を用いるとともに、第2工程で、電圧の印加の際に前記揮発性溶媒を揮発させて、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させることを特徴とする。
【0028】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、前記揮発性溶媒が水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ハロゲン系溶媒、脂肪族炭化水素類、または芳香族炭化水素類、あるいはそれらの混合物のいずれかであることを特徴とする。
【0029】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、前記揮発性溶媒が、無機塩、有機塩、あるいはその両方を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第2工程で、電圧の印加の際に、前記2つの電極部のうちの一の電極部を前記蓋部方向に引き上げて、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させることを特徴とする。
【0031】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、粒径が1〜100nmである金属ナノ粒子を用いることを特徴とする。
【0032】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、有機分子によって修飾された金属ナノ粒子を用いることを特徴とする。
【0033】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、2つの電極部のうちの一の電極部として固定化層を備えた基板を用い、前記固定化層の一面側を他の電極部に対向させて配置することを特徴とする。
【0034】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、前記基板が導電性基板からなることを特徴とする。
【0035】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、前記基板が、一面側に導電性薄膜が形成されてなる絶縁性基板からなることを特徴とする。
【0036】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、前記他の電極部として炭素電極を用いることを特徴とする。
【0037】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第2工程後、前記金属ナノ粒子配列を30〜80℃の温度範囲でアニール処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、基板と、前記基板の一面に形成された固定化層と、前記固定化層の一面に形成された金属ナノ粒子配列と、を有する金属ナノ粒子配列構造体であって、前記金属ナノ粒子配列は、複数の金属ナノ粒子が等間隔となるように配列されてなり、前記金属ナノ粒子同士は、その表面に備えられた修飾部により互いに接合されるとともに、前記金属ナノ粒子が前記固定化層の一面に化学結合により固定化されている構成なので、金属ナノ粒子の間隔をナノスケールで一定に制御すると共に、前記基板との化学結合を形成し易くすることができ、大きさ、形状が揃った複数の金属ナノ粒子の間隔が揃った金属ナノ粒子配列を備え、前記金属ナノ粒子配列が化学結合等で堅固に基板上に固定され、かつ、前記金属ナノ粒子配列の被覆率が高い金属ナノ粒子配列構造体を提供することができる。
【0039】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、前記修飾部がチオール基を有する有機分子であり、前記チオール基が前記金属ナノ粒子に接合されている構成なので、金属ナノ粒子同士を強固に結合するとともに、金属ナノ粒子の間隔を1〜10nmのナノスケールで一定に制御して、大きさ、形状が揃った複数の金属ナノ粒子の間隔が揃った金属ナノ粒子配列を備え、前記金属ナノ粒子配列の被覆率が高い金属ナノ粒子配列構造体を提供することができる。
【0040】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造装置は、液槽と、前記液槽の開口部を覆う蓋部と、前記液槽の内部に対向配置可能な2つの電極部と、前記2つの電極部に配線を介して接続された電源部と、を有し、前記液槽に満たす反応液の液面の前記電極部に対する位置を移動可能な液面位置移動手段が備えられている構成なので、液面を移動させて露出される気液界面部に金属ナノ粒子の2次元配列化の核を形成し、容易に、化学結合等で堅固に基板上に固定され、かつ、被覆率が高い金属ナノ粒子配列を有する金属ナノ粒子配列構造体を提供することができる。
【0041】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、金属ナノ粒子を溶媒に分散して反応液を調整した後、前記反応液を液槽に満たしてから、前記反応液に完全に浸漬させた2つの電極部を対向配置させる第1工程と、前記2つの電極部に配線を介して接続した電源部から、前記2つの電極部に電圧を印加するとともに、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させて、前記一の電極部の一面に金属ナノ粒子配列を形成する第2工程と、を有する構成なので、反応液中の帯電状態の金属ナノ粒子を電極部の一面へ電界移動させ、電気的相互作用により化学結合形成を促進して、金属ナノ粒子配列が堅固に基板上に固定され、かつ、前記金属ナノ粒子配列の被覆率が高い金属ナノ粒子配列構造体を提供することができる。
【0042】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第1工程で、前記溶媒として揮発性溶媒を用いるとともに、第2工程で、電圧の印加の際に前記揮発性溶媒を揮発させて、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させる構成なので、揮発性溶媒を蒸発させることにより、気液界面周辺に金属ナノ粒子の2次元配列化の核を形成し、金属ナノ粒子の間隔がほぼ一定とされた金属ナノ粒子配列が化学結合等で堅固に基板上に固定され、かつ、前記金属ナノ粒子配列の被覆率が高い金属ナノ粒子配列構造体を提供することができる。
【0043】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第2工程で、電圧の印加の際に、前記2つの電極部のうちの一の電極部を前記蓋部方向に引き上げて、前記電極部に対する前記反応液の液面の位置を移動させる構成なので、気液界面周辺に金属ナノ粒子の2次元配列化の核を形成し、金属ナノ粒子の間隔がほぼ一定とされた金属ナノ粒子配列が化学結合等で堅固に基板上に固定され、かつ、前記金属ナノ粒子配列の被覆率が高い金属ナノ粒子配列構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の一例を示す図であって、図1(a)は平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A’線における断面図であり、図1(c)は図1(a)のB部の拡大図であり、図1(d)は図1(b)のC部の拡大図である。
図2】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の拡大概念図であり、図2(a)は図1(d)のC部の概念図であり、図2(b)は図1(a)のB部の概念図である。
図3】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の別の一例を示す平面図である。
図4】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法の一例を示す工程図である。
図6】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置の別の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法の別の一例を示す工程図である。
図8】実施例1の金属ナノ粒子配列構造体のSEM像である。
図9】実施例2の金属ナノ粒子配列構造体のSEM像である。
図10】実施例3の金属ナノ粒子配列構造体のSEM像である。
図11】実施例1〜3の金属ナノ粒子配列構造体の小角散乱スペクトルである。
図12】実施例1〜3の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルである。
図13】実施例2と実施例4の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルである。
図14】実施例7の金属ナノ粒子配列構造体のSEM像である。
図15】実施例5〜7の金属ナノ粒子配列構造体の小角散乱スペクトルである。
図16】実施例6,実施例8,実施例9の金属ナノ粒子配列構造体の小角散乱スペクトルである。
図17】実施例5〜7の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルである。
図18】実施例6,実施例8,実施例9の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルである。
図19】実施例2の金属ナノ粒子配列を触媒としたシランとアルコールの脱水素シリルエーテル化反応の触媒メカニズムである。
図20】実施例2の金属ナノ粒子配列を触媒としたジメチルフェニルシランのシリルエーテル化反応効率のアルコール置換基依存性である。
図21】実施例2の金属ナノ粒子配列を触媒としたブタノール中でのシリルエーテル化反応効率のシラン置換基依存性である。
図22】実施例2の金属ナノ粒子配列を触媒としたジメチルフェニルシランのブチルエーテル化反応の繰り返し触媒活性である。
図23】実施例2の金属ナノ粒子配列を触媒としたジメチルフェニルシランのブチルエーテル化反応における温度依存性である。
【符号の説明】
【0045】
1…基板、1a…一面、2…固定化層、2a…一面、2b…他面、3…金属ナノ粒子配列、4…金属ナノ粒子、5…修飾部、6…導電性薄膜、7…絶縁性基板、7a…一面、8…ドメイン部、10、11…金属ナノ粒子配列構造体、21…溶媒、22…反応液、22a…液面、23…液槽、23c…開口部、23d…内部、24…蓋部、24c、24d…孔部、25、26…電極部、25a…一面、27…配線、28…電源部、29…気液界面部、30、31…製造装置、35…引き上げ部、36…支持線、39…液面位置移動手段、Fm…粒径、Gm…間隙距離(間隔)、Lm…粒子間距離、O…中心、Ls…粒子基板間距離、Gs…固定化層厚
【発明を実施するための形態】
【0046】
(本発明の第1の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体を説明する。
【0047】
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の一例を示す図であって、図1(a)は平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A’線における断面図であり、図1(c)は図1(a)のB部の拡大図であり、図1(d)は図1(b)のC部の拡大図である。
【0048】
図1(a)に示すように、本発明の第1の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10は、固定化層2上に、複数の金属ナノ粒子4が規則性を有して配列されて概略構成されている。規則性を有して配列された複数の金属ナノ粒子4を金属ナノ粒子配列3と呼称する。また、同じ規則性を有して配列された金属ナノ粒子配列3からなる領域をドメイン部8と呼称する。図1(a)に示すドメイン部8では、金属ナノ粒子4が等間隔となるように配列されている。
【0049】
図1(b)に示すように、金属ナノ粒子配列構造体10は、基板1と、基板1の一面1aに形成された固定化層2と、固定化層2の一面2aに規則性を有して複数の金属ナノ粒子4が配列されてなる金属ナノ粒子配列3とから構成されている。
【0050】
基板1としては、導電性基板を用いることができる。これにより、固定化層2を強固に、かつ、容易に接合できる。なお、基板1として、導電性薄膜と絶縁性基板とからなる基板を用いてもよい。導電性薄膜に固定化層2を強固に接合させることにより、基板1と固定化層2を強固に接合できる。
【0051】
図1(c)に示すように、表面に修飾部5を備え、粒径がFmの金属ナノ粒子4が配列されて、金属ナノ粒子配列3が構成されている。
【0052】
修飾部5により、金属ナノ粒子4同士が互いに強固に結合されるとともに、金属ナノ粒子4の間の間隙距離Gm及び隣接する金属ナノ粒子4の中心Oの粒子間距離Lmはほぼ一定とされる。
【0053】
金属ナノ粒子4の間隙距離Gmは1〜10nmとすることが好ましく、1〜5nmとすることがより好ましい。これにより、金属ナノ粒子4同士を強固に結合することができる。
【0054】
金属ナノ粒子4の粒径Fmは1〜100nmとすることが好ましく、1〜50nmとすることがより好ましい。これにより、金属ナノ粒子配列の規則性を高めることができ、ドメイン部8の面積を広くして、被覆率を向上させることができる。
【0055】
図1(d)に示すように、基板1上に固定化層厚Gsの固定化層2が形成されている。固定化層2の一面2aに金属ナノ粒子4が規則性を有して配列されて、金属ナノ粒子配列3が構成されている。
【0056】
基板1の一面1aから金属ナノ粒子4の中心Oまでの距離(粒子基板間距離)Lsはほぼ一定とされる。
【0057】
金属ナノ粒子4の材料としては金を用いることが好ましい。金は、均一な形状及び均一な粒径の粒子を入手しやすく、また、金にはチオール基などを有する有機分子などの修飾部5を接合させやすいためである。
【0058】
修飾部5は、アルカンチオールなどのチオール基を有する有機分子とすることが好ましい。チオール基は金属ナノ粒子4に接合しやすく、金属ナノ粒子4同士を強固に接合することができるためである。特に金属ナノ粒子4として金ナノ粒子を用いた場合、接合をより強固にできる。
【0059】
また、有機分子を用いることにより、金属ナノ粒子4同士の結合に有機分子間の分子間相互作用を利用することができ、金属ナノ粒子4の間の間隙距離Gm及び隣接する金属ナノ粒子4の中心Oの粒子間距離Lmをほぼ一定に保つことができる。
【0060】
また、金属ナノ粒子4間の所定の有機分子を選択することにより、間隙距離Gm及び隣接する粒子間距離Lmを制御できる。
【0061】
修飾部5の有機分子は6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有していることが好ましい。取り扱いやすく、所望の金属ナノ粒子配列構造体を容易に形成できるためである。
【0062】
固定化層2は、アルカンジチオールなどの少なくとも2つのチオール基を有する有機分子からなることが好ましい。
【0063】
複数の有機分子を基板1の一面1aに略垂直に配列することにより、固定化層2の固定化層厚Gs及び金属ナノ粒子4の中心Oから基板1の一面1aまでの粒子基板間距離Lsを一定にすることができる。
【0064】
また、基板1として、導電性基板を用いた場合には、固定化層2の他面2b側とした各有機分子の少なくとも一のチオール基を、基板1の一面1aに強固に接合させることができる。基板1として、導電性薄膜を形成した絶縁性基板を用いた場合には、導電性薄膜に固定化層2のチオール基を強固に接合させることができる。
【0065】
固定化層2の一面2a側とした各有機分子の少なくとも一のチオール基は、金属ナノ粒子4の修飾部5の有機分子と置換して、金属ナノ粒子4に化学結合により強固に接合することができる。
【0066】
前記固定化層の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有していることが好ましい。取り扱いやすく、所望の金属ナノ粒子配列構造体を容易に形成できるためである。
【0067】
図2は、図1(c)及び図1(d)の修飾部5及び固定化層2をより具体的に示した概念図である。
【0068】
図2(b)では、複数の一本鎖状のアルカンチオール(有機分子)からなる修飾部5が、金からなる金属ナノ粒子4の表面から外側に伸びるように形成されている。なお、図では省略しているが、各アルカンチオールのチオール基は金からなる金属ナノ粒子4に接合されている。
【0069】
図2(a)に示すように、基板1は、一面7aに導電性薄膜6が形成された絶縁性基板7が用いられている。基板の一面1a、すなわち、導電性薄膜6の表面に固定化層2が形成されている。
【0070】
固定化層2は、基板1の一面1aに略垂直に形成された複数のアルカンジチオールから構成されている。これにより、固定化層2の固定化層厚Gsはほぼ一定に保たれている。
【0071】
各有機分子の少なくとも一のチオール基は固定化層2の一面2a側に配置され、固定化層2の他面2b側に配置された各有機分子の別のチオール基は固定化層2の他面2b側に配置されている。他面2b側のチオール基は基板1の一面1a、すなわち、導電性薄膜に接合されている。これにより、固定化層2は基板1に強固に接合される。
【0072】
また、固定化層2の一面2a側に配置された各有機分子の少なくとも一のチオール基は金属ナノ粒子4に接合されている。これにより、金属ナノ粒子4は固定化層2に強固に接合される。
【0073】
図3は、本発明の実施形態の金属ナノ粒子配列構造体の別の一例を示す平面図である。金属ナノ粒子配列構造体11は、11個のドメイン部8を有して構成されている。
【0074】
図1(c)及び図1(d)で説明したように、金属ナノ粒子配列3は最近接構造が制御される。理想的には、第2近接位置、第3近接位置と遠方に及んでもこの秩序状態が維持される。この場合、図1に示す理想的な金属ナノ粒子4の2次元構造の金属ナノ粒子配列3が形成される。
【0075】
しかし、金属ナノ粒子配列の製造条件を変えると、第2近接位置、第3近接位置又はそれ以上の遠方の秩序状態が維持できない場合もある。この場合、図3に示すように、秩序状態が保たれたドメイン部8が複数形成される場合が発生する。
【0076】
このように複数のドメイン部8を有する金属ナノ粒子配列構造体11であってもよい。この場合でも、一定の被覆率以上の金属ナノ粒子配列構造体を形成できる。
(本発明の第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置30を説明する。
【0077】
図4は、本発明の第2の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置30の一例を示す断面模式図である。
【0078】
図4に示すように、金属ナノ粒子配列構造体の製造装置30は、液槽23と、液槽23の開口部23cを覆う蓋部24と、液槽23の内部23dに対向配置された2つの電極部25、26と、2つの電極部25、26に配線27を介して接合された電源部28と、を有して概略構成されている。
【0079】
蓋部24には、液槽23に満たす反応液22の液面22aの電極部25に対する位置を移動可能な液面位置移動手段39となる開口径d可変の孔部24cが設けられている。一の電極部25は、基板1の一面25aが他の電極部26に向けられて配置されている。また、一の電極部25として、固定化層2が積層された基板1が用いられている。
(本発明の第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法を説明する。
【0080】
本発明の第3の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、金属ナノ粒子4を溶媒に分散して反応液を調整した後、前記反応液を液槽に満たしてから、2つの電極部を前記反応液に完全に浸漬させるように前記液槽の内部に対向配置させる第1工程と、前記2つの電極部に配線を介して接続した電源部から、前記2つの電極部に電圧を印加することにより、前記金属ナノ粒子を電界移動させて、前記2つの電極部のうちの一の電極部の一面に金属ナノ粒子配列を形成する第2工程と、を有する。
【0081】
図5は、本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法の一例を示す工程図である。
【0082】
図5(a)は、第1工程の終了時点の工程断面図であって、金属ナノ粒子4を溶媒21に分散して反応液22を調整した後、反応液22を液槽23に満たしてから、2つの電極部25、26を反応液22に完全に浸漬させるように液槽23の内部23dに対向配置させた時点を示す図である。
【0083】
溶媒21としては揮発性溶媒を用いる。また、金属ナノ粒子4は予め有機分子からなる修飾部5により覆った状態としている。
【0084】
一の電極部25には、固定化層2を形成した基板1を用いている。基板1としては導電性基板を用い、固定化層2を他方の電極部26に向けて配置している。
【0085】
2つの電極部25、26を反応液22に完全に浸漬させるような位置に、反応液22の液面22aが設定されている。
【0086】
揮発性溶媒21は、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ハロゲン系溶媒、脂肪族炭化水素類、または芳香族炭化水素類、あるいはそれらの混合物のいずれかであることが好ましい。これにより、金属ナノ粒子の組織構造形成における速度論的および熱力学的パラメータを制御することができる。
【0087】
揮発性溶媒21が、無機塩、有機塩、あるいはその両方を含むことが好ましい。これにより、金属ナノ粒子の電気泳動における電界から受ける力を制御することができる。
【0088】
第2工程は、電源28から2つの電極部25、26に電圧を印加して反応液22に直流を流しながら、反応液22の溶媒21を揮発させる工程である。
【0089】
反応液22に直流を流すと、反応液22中の金属ナノ粒子4は帯電しているので、電界移動を始め、いずれか一方の電極部に集まり始める。
【0090】
例えば、マイナスに帯電した金属ナノ粒子4を用いた場合には、その逆のプラスの電位であるアノード電極に集まる。そのため、アノード電極として一の電極部25を用いれば、一の電極部25上に金属ナノ粒子4が集まる。
【0091】
このように、金属ナノ粒子配列を形成させる基板(導電性基板)1をアノード電極とするか、カソード電極にするかは、金属ナノ粒子4の帯電電位により決定する。
【0092】
金属ナノ粒子4は、電界×移動距離×帯電価数からなるイオンエネルギーを持つ。このためイオンエネルギーにより、金属ナノ粒子4は、エネルギー障壁を超えて基板(導電性基板)1に化学吸着する。このイオンエネルギーが無ければ、エネルギー障壁を超えて化学吸着をすることができず、物理吸着に留まる。
【0093】
図5(b)は、第2工程の途中時点の工程断面図である。
【0094】
電圧を印加している途中、液面22aより蓋部24側の空間は、蓋部24の孔部24cを通して外部と繋がっているので、孔部24cを介して揮発性溶媒が蒸発する。
【0095】
これにより、反応液22の液面22aが若干降下して、基板(導電性基板)1の蓋部24側を液面22aから露出させる。
【0096】
液面22aの低下とともに、固定化層2の一面上の部分であって、液面22a近傍の液面22aから露出された部分(気液界面部29)の位置も低下する。
【0097】
気液界面部29では、金属ナノ粒子4の濃度が飽和に達し、過飽和状態での金属ナノ粒子4の2次元配列の核形成が生じる。金属ナノ粒子4の2次元配列の核形成速度が、反応液22の揮発性溶媒21の蒸発速度より早いと、金属ナノ粒子配列3の被覆率を100%に近い状態にすることができる。これにより、露出された基板(導電性基板)1上の固定化層2上に、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0098】
揮発性溶媒21の揮発速度は、孔部24cの開口径dと長さ及び揮発性溶媒の蒸気の粘性で決まる流体力学的な抵抗(粘性×長さ/開口径)を調整する事により制御することができる。これにより、液面22aの下降速度を制御できる。
【0099】
固定化層2への金属ナノ粒子4の化学吸着は、金属ナノ粒子4の2次元配列の核形成と同時に生じることになる。
【0100】
前記イオンエネルギーが大き過ぎなければ、化学吸着を起こす前に、核形成に必要なエネルギー的に安定な物理位置に出会うだけの時間が十分にあることになり、化学吸着と2次元配列化は両立することができる。
【0101】
図5(c)は、第2工程の終了時点の工程断面図である。基板(導電性基板)1は完全に液面22aの上に出て、基板(導電性基板)1上の固定化層2上に金属ナノ粒子配列3が形成されている。
【0102】
被覆率が高く、金属ナノ粒子4が固定化層2に強固に接合した金属ナノ粒子配列構造体が形成される。
【0103】
更に、第2工程が終了した後に、基板(導電性基板)1上の固定化層2上のナノ粒子配列3を例えば、55℃程度でアニールしてもよい。これにより、金属ナノ粒子4と固定化層2との化学結合をより強固にすることができる。アニール温度は、用いる金属ナノ粒子4の種類、固定化層2の種類により、適切な温度が異なる。金ナノ粒子とアルカンジチオール分子の場合には、適切なアニール温度は40−70℃の範囲にある。金属ナノ粒子及び固定化層の変更により、適切なアニール温度は30−80℃の範囲になる。
【0104】
その後、基板(導電性基板)1の表面を流水洗浄や適当な溶媒中で超音波洗浄することにより、基板(導電性基板)1と化学結合していない金属ナノ粒子4を除去することができる。
(本発明の第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置31を説明する。
【0105】
図6は、本発明の第4の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置31の一例を示す断面模式図である。
【0106】
図6に示すように、本発明の第4の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置31は、蓋部24に別の孔部24dが設けられるとともに、別の孔部24dの上部に引き上げ部35を設置し、引き上げ部35と一の電極部25とを結ぶ支持線36を備えた構成とした他は製造装置30と同様の構成とされている。
【0107】
支持線36は別の孔部24dを通って引き上げ部35に接続されており、引き上げ部35で支持線36を巻き取ることにより、一の電極部25を蓋部24方向に引き上げることができる構成とされている。引き上げ部35は、液槽23に満たす反応液22の液面22aの電極部25に対する位置を移動可能な液面位置移動手段39として機能する。
(本発明の第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法を説明する。
【0108】
図7は、本発明の第5の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法の一例を示す工程図である。
【0109】
図7(a)は、第1工程の終了時点の工程断面図であって、金属ナノ粒子4を溶媒21に分散して反応液22を調整した後、反応液22を液槽23に満たしてから、2つの電極部25、26を反応液22に完全に浸漬させるように液槽23の内部23dに対向配置させた時点を示す図である。
【0110】
溶媒21としては揮発性溶媒を用いる。また、金属ナノ粒子4は予め有機分子からなる修飾部5により覆った状態としている。
【0111】
一の電極部25には、固定化層2を形成した基板1を用いている。基板1としては導電性基板を用い、固定化層2を他方の電極部26に向けて配置している。
【0112】
2つの電極部25、26を反応液22に完全に浸漬させるような位置に、反応液22の液面22aが設定されている。
【0113】
第2工程は、電源28から2つの電極部25、26に電圧を印加して反応液22に直流を流しながら、引き上げ部35で支持線36を巻き取ることにより、一の電極部25を蓋部24方向に引き上げる工程である。
【0114】
反応液22に直流を流すと、反応液22中の金属ナノ粒子4は帯電しているので、電界移動を始め、いずれか一方の電極部に集まり始める。
【0115】
例えば、マイナスに帯電した金属ナノ粒子4を用いた場合には、その逆のプラスの電位であるアノード電極に集まる。そのため、アノード電極として一の電極部25を用いれば、一の電極部25上に金属ナノ粒子4が集まる。
【0116】
このように、金属ナノ粒子配列を形成させる基板(導電性基板)1をアノード電極とするか、カソード電極にするかは、金属ナノ粒子4の帯電電位により決定する。
【0117】
金属ナノ粒子4は、電界×移動距離×帯電価数からなるイオンエネルギーを持つ。このイオンエネルギーにより、金属ナノ粒子4は、エネルギー障壁を超えて基板(導電性基板)1に化学吸着する。このイオンエネルギーが無ければ、エネルギー障壁を超えて化学吸着をすることができず、物理吸着に留まる。
【0118】
図7(b)は、第2工程の途中時点の工程断面図である。
【0119】
電圧を印加している途中、引き上げ部35により、一の電極部25を蓋部24方向に引き上げて、基板(導電性基板)1の蓋部24側を液面22aから露出させる。
【0120】
基板(導電性基板)1の引き上げとともに、反応液22の液面22aが接している基板(導電性基板)1上の固定化層2の表面部分(気液界面部29)の位置も低下する。
【0121】
気液界面部29では、気液界面近傍29で生じる溶媒の蒸発により金属ナノ粒子4の濃度が飽和に達し、過飽和状態での金属ナノ粒子4の2次元配列の核形成が生じる。金属ナノ粒子4の2次元配列の核形成速度が、基板の引き上げ速度より早いと、金属ナノ粒子配列3の被覆率を100%に近い状態にすることができる。これにより、露出された基板(導電性基板)1上の固定化層2上に、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0122】
引き上げ速度は、引き上げ部35で調整して制御することができる。
【0123】
固定化層2への金属ナノ粒子4の化学吸着は、金属ナノ粒子4の2次元配列の核形成と同時に生じることになる。
【0124】
前記イオンエネルギーが大き過ぎなければ、化学吸着を起こす前に、核形成に必要なエネルギー的に安定な物理位置に出会うだけの時間が十分にあることになり、化学吸着と2次元配列化は両立することができる。
【0125】
図7(c)は、第2工程の終了時点の工程断面図である。基板(導電性基板)1は完全に液面22aの上に出て、基板(導電性基板)1上の固定化層2上に金属ナノ粒子配列3が形成されている。
【0126】
被覆率が高く、金属ナノ粒子4が固定化層2に強固に接合した金属ナノ粒子配列構造体が形成される。
【0127】
この後、30〜80℃の温度範囲でアニール処理をすることが好ましい。これにより、金属ナノ粒子4を固定化層2により強固に接合できる。
【0128】
なお、揮発性溶媒を揮発させながら、引き上げる工程を用いてもよい。これにより、基板1の一面を露出させる速度をより正確に、かつ、精密に制御することができる。
【0129】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、基板1と、基板1の一面1aに形成された固定化層2と、固定化層2の一面2aに形成された金属ナノ粒子配列3と、を有する金属ナノ粒子配列構造体であって、金属ナノ粒子配列3は、複数の金属ナノ粒子4が等間隔となるように配列されてなり、金属ナノ粒子4同士は、その表面に備えられた修飾部5により互いに接合されるとともに、前記金属ナノ粒子4が固定化層2の一面2aに化学結合により固定化されている構成なので、金属ナノ粒子4の間隔をナノスケールで一定に制御すると共に、前記基板1との化学結合を形成し易くすることができ、大きさ、形状が揃った複数の金属ナノ粒子4の間隔が揃った金属ナノ粒子配列3を備え、金属ナノ粒子配列3を化学結合等で堅固に基板1上に固定し、かつ、前記金属ナノ粒子配列3の被覆率を高くできる。
【0130】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、金属ナノ粒子4の間隔が1〜10nmである構成なので、金属ナノ粒子4同士を強固に結合することができる。
【0131】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、金属ナノ粒子4の粒径が1〜100nmである構成なので、金属ナノ粒子配列の高い規則性を担保でき、ドメイン部8の面積が広くても、高い被覆率が得られる。
【0132】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、金属ナノ粒子4が金からなる構成なので、均一な形状及び均一な粒径の金属ナノ粒子4を入手しやすいだけでなく、また、金属ナノ粒子4にはチオール基などを有する有機分子などの修飾部5を容易に接合することができる。
【0133】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、修飾部5がチオール基を有する有機分子であり、前記チオール基が金属ナノ粒子4に接合されている構成なので、金属ナノ粒子同士の接合及び固定化層2への接合を強固にすることができる。
【0134】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、修飾部5の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有している構成なので、取り扱いやすく、所望の金属ナノ粒子配列構造体を容易に形成できる。
【0135】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、固定化層2が少なくとも2つのチオール基を有する有機分子からなり、前記固定化層の一面側と他面側にそれぞれ少なくとも1つのチオール基が配置されており、他面側のチオール基が基板1に接合されている構成なので、金属ナノ粒子配列構造体10が共有結合によって強固に基板1に固定化されている。
【0136】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、固定化層2の有機分子が6以上20以下の炭素を備えたアルキル鎖を有している構成なので、液晶のような動的挙動はなく、固体表面上と同様に安定に固定化されている。
【0137】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、基板1が、導電性基板である構成なので、固定化層2の各有機分子の少なくとも一のチオール基を、基板1の一面1aに強固に接合させることができる。
【0138】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体10、11は、基板1が、一面に導電性薄膜6が形成されてなる絶縁性基板7からなる構成なので、導電性薄膜6に固定化層2のチオール基を強固に接合させることができる。
【0139】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置30は、液槽23と、液槽23の開口部23cを覆う蓋部24と、液槽23の内部23dに対向配置可能な2つの電極部25、26と、2つの電極部25、26に配線27を介して接続された電源部28と、を有し、液槽23に満たす反応液22の液面22aの電極部25に対する位置を移動可能な液面位置移動手段39が備えられている構成なので、所定の速度で電極部25に対する反応液22の液面22aの位置を移動させて、固定化層2の一面上の部分であって、液面22a近傍の液面22aから露出された部分(気液界面部29)を徐々に露出させ、気液界面部29近傍で、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0140】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置30は、液面位置移動手段39が、蓋部24に設けられ、開口径を変えることが可能な孔部24cである構成なので、所定の揮発速度で前記揮発性溶媒を揮発させて、電極部25に対する反応液22の液面22aの位置の移動速度を制御することができ、気液界面部29を徐々に露出させ、気液界面部29近傍で、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0141】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造装置31は、液面位置移動手段39が、2つの電極部25、26のうちの一の電極部25を蓋部24方向に引き上げ可能とする引き上げ部35である構成なので、所定の引き上げ速度で基板1を引き上げて、電極部25に対する反応液22の液面22aの位置の移動速度を制御することができ、気液界面部29を徐々に露出させ、気液界面部29近傍で、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0142】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、金属ナノ粒子4を溶媒21に分散して反応液22を調整した後、反応液22を液槽23に満たし、反応液22に浸漬させた2つの電極部25、26を対向配置させる第1工程と、2つの電極部25、26に配線27を介して接続した電源部28から、2つの電極部25、26に電圧を印加するとともに、電極部25に対する反応液22の液面22aの位置を移動させて、一の電極部25の一面に金属ナノ粒子配列を形成する第2工程と、を有する構成なので、気液界面部29を徐々に露出させるとともに、一の電極部25に金属ナノ粒子4を集積させて、金属ナノ粒子配列を形成することができる。
【0143】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、電極部25に対する反応液22の液面22aの位置の移動速度が0.02mm/s以下である構成なので、気液界面部29を徐々に露出させ、金属ナノ粒子配列3の被覆率を高くすることができる。
【0144】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第1工程で、溶媒21として揮発性溶媒を用いるとともに、第2工程で、電圧の印加の際に揮発性溶媒を揮発させる構成なので、電極部25に対する反応液22の液面22aの位置を移動させて、気液界面部29を徐々に露出させ、気液界面部29近傍で、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0145】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、揮発性溶媒が水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ハロゲン系溶媒、脂肪族炭化水素類、または芳香族炭化水素類、あるいはそれらの混合物のいずれかである構成なので、溶媒の種類を変えることで、金属ナノ粒子4の組織化における速度論的および熱力学的パラメータを制御することができる。
【0146】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、揮発性溶媒が、無機塩、有機塩、あるいはその両方を含む構成なので、電気泳動において金属ナノ粒子4が電界から受ける力を制御することができる。
【0147】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第2工程で、電圧の印加の際に、2つの電極部25、26のうちの一の電極部25を蓋部24方向に引き上げる構成なので、電極部25に対する反応液22の液面22aの位置を移動させて、気液界面部29で、金属ナノ粒子の2次元配列化の核を形成し、金属ナノ粒子配列3を被覆率高く形成することができる。
【0148】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、粒径が1〜100nmである金属ナノ粒子を用いる構成なので、金属ナノ粒子配列の高い規則性を担保でき、ドメイン部8の面積が広くても、高い被覆率が得られる。
【0149】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、有機分子によって修飾された金属ナノ粒子4を用いる構成なので、金属ナノ粒子4の間隙距離Gmを一定にすることができる。
【0150】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、2つの電極部25、26のうちの一の電極部25として固定化層2に備えた基板を用い、固定化層2の一面側を他の電極部26に対向させて配置する構成なので、固定化層2の一面2aに均一に電界を印加することができ、効率よく金属ナノ粒子配列構造体を製造できる。
【0151】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、基板1が導電性基板からなる構成なので、固定化層2を強固に接合でき、効率よく金属ナノ粒子配列構造体を製造できる。
【0152】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、基板1が、一面7a側に導電性薄膜6が形成されてなる絶縁性基板7からなる構成なので、固定化層2を強固に接合でき、効率よく金属ナノ粒子配列構造体を製造できる。
【0153】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、他の電極部26として炭素電極を用いる構成なので、2つの電極部25、26に効率よく電界を印加でき、効率よく金属ナノ粒子配列構造体を製造できる。
【0154】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体の製造方法は、第2工程後、一の電極部25に形成した金属ナノ粒子配列3を30〜80℃の温度範囲でアニール処理する構成なので、基板1と固定化層2との接合及び固定化層2と金属ナノ粒子4との接合の強度をより高めることができる。
【0155】
本発明の実施形態である金属ナノ粒子配列構造体、その製造装置及び製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0156】
(実施例1)
<金属ナノ粒子配列構造体の製造プロセス>
まず、粒径Fmが9〜10nmの金ナノ粒子を用意した。
【0157】
次に、この金ナノ粒子の表面にヘキサンチオール分子(HEX)を修飾した。
【0158】
次に、n−ヘキサンからなる揮発性溶媒に、ヘキサンチオール分子で修飾した金ナノ粒子を濃度5.7×1013/mlで分散させて、反応液を調整した。
【0159】
次に、ガラス基板(基板の大きさ15mm×15mm)上に金からなる導電性薄膜(以下、金薄膜)を形成した。
【0160】
次に、金薄膜の表面を1,6ヘキサンジチオールによって修飾して、固定化層を形成した。
【0161】
次に、液槽の内部を前記反応液で満たした。
【0162】
次に、一の電極部として固定化層及び金薄膜を形成したガラス基板を配置し、他の電極部として炭素電極を用いて、これらを前記反応液に完全に浸漬した。固定化層を炭素電極に向けて配置するとともに、2つの電極部の間隔は1.2mmとした。
【0163】
次に、液槽の開口部を覆うように蓋部を取り付け、蓋部に設けられた孔部の径を調整した。
【0164】
次に、金薄膜をカソード、炭素電極をアノードとして1.0Vの電圧を印加して、常温常圧(1気圧、25℃)で、2時間放置した。
【0165】
放置後、揮発性溶媒が蒸発し、固定化層の一面に金属ナノ粒子配列が形成されてなる金属ナノ粒子配列構造体が形成された。
(実施例2)
ヘキサンチオール分子の代わりに、ドデカンチオール(DOD)を用いた他は実施例1と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(実施例3)
ヘキサンチオール分子の代わりに、ヘキサデカンチオール(HEXD)を用いた他は実施例1と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(比較例1)
ガラス基板(基板の大きさ15mm×15mm)上に金からなる導電性薄膜(以下、金薄膜)を形成した後、金薄膜の表面を1,6ヘキサンジチオールによって修飾して、固定化層を形成した。
【0166】
次に、HEXで修飾した金ナノ粒子を用い、固定化層及び金薄膜を形成したガラス基板の固定化層上に、公知のラングミュア手法により、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(実施例4)
粒径Fmが29〜30nmの金属ナノ粒子を用いた他は実施例2と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(実施例5)
ガラス基板(基板の大きさ15mm×15mm)上に金からなる導電性薄膜(以下、金薄膜)を設ける代わりに透明導電性金属酸化物のITO基板(InTiO)を用いた他は実施例1と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。用いたITO基板はジオマテック社製のEL仕様のもので、導電性は10Ω/□である。
【0167】
実施例1同様に、液槽の開口部を覆うように蓋部を取り付け、蓋部に設けられた孔部の径を調整した。実施例1に比べて溶媒の蒸発速度を小さくするために調整穴は小さくなった。
(実施例6)
ヘキサンチオール分子の代わりに、ドデカンチオール(DOD)を用いた他は実施例5と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(実施例7)
ヘキサンチオール分子の代わりに、ヘキサデカンチオール(HEXD)を用いた他は実施例5と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(比較例2)
透明導電性金属酸化物のITO基板(InTiO)の表面を1,6ヘキサンジチオールによって修飾して、固定化層を形成した。
【0168】
次に、HEXで修飾した金ナノ粒子を用い、固定化層を形成したITO基板の固定化層上に、公知のラングミュア手法により、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(実施例8)
粒径Fmが29〜30nmの金属ナノ粒子を用いた他は実施例6と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
(実施例9)
粒径Fmが49〜50nmの金属ナノ粒子を用いた他は実施例6と同様にして、金属ナノ粒子配列構造体を形成した。
<金属ナノ粒子配列構造体の評価>
図8〜10は、実施例1〜3の金属ナノ粒子配列構造体のSEM写真である。図14は、実施例7の金属ナノ粒子配列構造体のSEM写真である。部分的に欠陥が見られるが、等間隔に配置された金属ナノ粒子からなる金属ナノ粒子配列が被覆率高く形成されていた。
【0169】
図8を解析して、実施例1の金属ナノ粒子配列において、金ナノ粒子の粒径Fmは9nm、金属ナノ粒子間距離Lmは10.6nm、金属ナノ粒子間の間隙距離Gmは1.6nmであった。被覆率は58%であった。
【0170】
図9を解析して、実施例2の金属ナノ粒子配列において、金ナノ粒子の粒径Fmは9nm、金属ナノ粒子間距離Lmは11.4nm、金属ナノ粒子間の間隙距離Gmは2.4nmであった。また、金属ナノ粒子配列の被覆率は95%以上であった。基板の大きさ15mm×15mmのほぼ全域に亘って、この被覆率が達成された。
【0171】
図10を解析して、実施例3の金属ナノ粒子配列において、金ナノ粒子の粒径Fmは9nm、金属ナノ粒子間距離Lmは11.9nm、金属ナノ粒子間の間隙距離Gmは2.9nmであった。被覆率は82%であった。
【0172】
図14を解析して、実施例7の金属ナノ粒子配列において、金ナノ粒子の粒径Fmは9.0nm、金属ナノ粒子間距離Lmは11.9nm、金属ナノ粒子間の間隙距離Gmは2.9nmであった。被覆率は92%であった。
【0173】
何れも最近接では六方最密充填構造をとっていた。
【0174】
図11は、実施例1〜3の金属ナノ粒子配列構造体の小角散乱スペクトルの測定結果である。図15は、実施例5〜7の金属ナノ粒子配列構造体の小角散乱スペクトルの測定結果である。図16は、実施例6、実施例8、実施例9の小角散乱スペクトルの測定結果である。それぞれほぼ同じ位置にスペクトルピークが見られた。
【0175】
図11の結果より、ヘキサンチオール分子、ドデカンチオール分子、ヘキサデカンチオール分子に対して粒子間距離がそれぞれ、10.8nm、11.0nm、11.8nmであることが分かった。これらの結果は、アルカン分子の長さが長くなるに従い、粒子間距離が長くなることを示している。
【0176】
図15の結果より、ヘキサンチオール分子、ドデカンチオール分子、ヘキサデカンチオール分子に対して粒子間距離がそれぞれ、9.8nm、10.7nm、11.0nmであることが分かった。これらの結果は、アルカン分子の長さが長くなるに従い、粒子間距離が長くなることを示している。
【0177】
これは、金ナノ粒子の粒子間の間隙距離Gmが、修飾分子の選択によって制御できることを意味し、特に、アルカンチオール分子の炭素数と粒子間の間隙距離Gmが比例することが実証されていることになる。
図16の結果より、10nm、30nm、50nmの粒径Fmに対して粒子間距離がそれぞれ、10.7nm、31.4nm、50.6nmであることが分かった。
【0178】
これは、金ナノ粒子の粒子間の間隙距離Gmが、粒径Fmによって制御できることを意味し、走査型顕微鏡の結果を別個に検証した事になる。
【0179】
更に、金ナノ粒子からなる金属ナノ粒子配列の場合、金ナノ粒子を散乱体とする局所プラズモン共鳴の周波数を制御することが可能となる。
【0180】
この周波数は、金ナノ粒子の粒子間の間隙距離Gmと、金ナノ粒子の粒径Fmによって決まるためである。
【0181】
図12は、実施例1〜3の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルの測定結果であって、局所プラズモン共鳴の周波数の粒子間の間隙距離Gm依存性を示すグラフである。また、図17は、実施例5〜7の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルの測定結果である。
【0182】
図12に示すように、粒径Fmを10nmに固定した状態で、粒子間の間隙距離Gmを1.6nmから3.0nmの変化させた場合には、局所プラズモン共鳴の周波数のピークは599nmから630nmへ変化した。しかし、その変化は小さく、修飾部に用いた有機分子の分子鎖の長さは、消光ピーク位置を微小にレッドシフトさせることが分かった。
【0183】
図17に示すように、粒径Fmを10nmに固定した状態で、粒子間の間隙距離Gmを1.6nmから3.0nmの変化させた場合には、局所プラズモン共鳴の周波数のピークは582nmから615nmへ変化した。しかし、その変化は小さく、修飾部に用いた有機分子の分子鎖の長さは、消光ピーク位置を微小にレッドシフトさせることが分かった。
【0184】
また、図13は、実施例2及び実施例4の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルの測定結果であって、局所プラズモン共鳴の周波数の粒径Fm依存性を示すグラフである。図18は、実施例6、実施例8、実施例9の金属ナノ粒子配列構造体の消光スペクトルの測定結果であって、局所プラズモン共鳴の周波数の粒径Fm依存性を示すグラフである。
【0185】
図13に示すように、粒子間の間隙距離Gmを固定した状態で、粒径Fmを10nmから50nmの変化させた場合には、局所プラズモン共鳴の周波数のピーク位置は599nmから880nmへ変化した。つまり、金属ナノ粒子の粒径を大きくすると、消光ピークは大きくレッドシフトすることが分かった。
【0186】
なお、これらの依存性は非特許文献19でも示唆されており、本実施例によって簡単に実施できるようになった。
【0187】
図18に示すように、粒子間の間隙距離Gmを固定した状態で、粒径Fmを10nmから50nmの変化させた場合には、局所プラズモン共鳴の周波数のピーク位置は592nmから850nmへ変化した。つまり、金属ナノ粒子の粒径を大きくすると、消光ピークは大きくレッドシフトすることが分かった。
【0188】
また、導電性基板への化学結合による、金ナノ粒子と導電性基板(ガラス基板上の金薄膜)との間の機械的強度を溶媒中超音波洗浄(24.8kHz、5分)により確かめた。
【0189】
比較例1の金属ナノ粒子配列構造体は、18%しか残留しなかった。一方、本実施例1の金属ナノ粒子配列構造体は、71%残留した。
【0190】
本実施例5の金属ナノ粒子配列構造体は、90%残留した。
【0191】
以上の結果から、絶縁性基板上に導電性膜を形成したものであっても、透明性電極の様なITO基板であっても導電性基板表面であれば、金属ナノ粒子配列構造体形成が実施できたこと分かった。
(触媒効果の評価)
実施例2の金属ナノ粒子配列の触媒効果を、図19に示すシランとアルコールを用いたシリルエーテル化反応を使って確かめた。
【0192】
触媒反応はアルコールにシランを溶解させた溶液に実施例2の金属ナノ粒子配列を浸漬させ、撹拌子によって溶液を撹拌することで反応を行い、一定時間後にガスクロマトグラフィーによって生成物の反応収率を確かめた。
【0193】
図20に示すように、エタノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノール、tert-ブタノール、ベンジルアルコールの溶媒中でジメチルフェニルシランに対して高い触媒効果があることが分かった。
【0194】
従来の金属ナノ粒子では100℃もの高温を必要とした反応(非特許文献20)が室温条件下で効率よく進行することが分かった。
【0195】
また、従来の金属ナノ粒子ではほとんど反応が進行しなかったtert-ブタノールでも反応が進行することは本発明による金属ナノ粒子配列の高い触媒活性を示すものである。
【0196】
さらに、アルコールの置換基の長さに応じて触媒活性が変化することから、金属ナノ粒子表面を覆うアルカンチオール分子層が疎水反応空間としてアルコール基質の取り込み機能を有することが分かった。
【0197】
図21に示すように、溶媒1−ブタノール中で、トリフェニルシラン、ジフェニルメチルシラン、ジメチルフェニルシラン、トリヘキシルシラン、トリエチルシランといった多様なヒドロシランに対して触媒効果があることが分かった。
【0198】
かさ高い置換基を有するトリイソプロピルシランおよびトリストリメチルシロキシシランはほとんど反応が進行しないことから、アルカンチオールによって形成される疎水反応場に取り込まれにくいことが分かった。
【0199】
また、トリアルキルシランよりもアリール置換基を有するシランが非常に効率よく反応することから、金属ナノ粒子表面のアルカンチオールが形成する疎水反応空間が芳香族系化合物の取り込みに有意に働くことが分かった。
【0200】
図22に示すように、本触媒は繰り返し利用しても触媒活性が低下しない。6回の利用では概ねほぼ同じ触媒活性が維持されていることが分かった。
【0201】
図23は、溶媒1−ブタノール中での、ジメチルフェニルシランに対しての触媒活性の温度依存性を示したものである。25℃辺りでピークを持つような温度依存性を持つ事から、金属ナノ粒子の修飾分子であるアルキル基で構成される疎水空間に、ジメチルフェニルシランが取り込まれると考えられる。そのため25℃程度の低温でも高い触媒活性を持つ。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明の金属ナノ粒子配列構造体は、数ナノメートル間隔で緊密に配列化された金ナノ粒子間で局在表面プラズモンが強め合いの相互作用を起こすことで、構造体表面に非常に強い電磁場を発生することができる。これらのプラズモンカップリング現象は、通常の光照射によって容易に引き起こすことができるため、光導波路、光化学反応リアクター、光デバイス、や高感度センサー、触媒などに利用可能性がある。また、本発明の金属ナノ粒子配列構造体は金属ナノ粒子のサイズと表面修飾分子のアルキル鎖長を変えることで、局在プラズモンの波長を自在に変えることができるため、目的に合わせて多様性に富んだ構造体を作製することが可能である。金属ナノ粒子表面のアルカンチオールが形成する疎水空間は有機分子の取り込み機能を有することから、表面修飾分子のアルキル鎖長を変えることで基質取り込み能を制御することもできるため、疎水空間と金属ナノ粒子の特性を活かした触媒および高感度センサーとして利用できる。さらに、本発明では金属ナノ粒子配列構造体を大面積上に高い被覆率で作製することができるため、従来の微小領域のみの金属ナノ粒子配列とは異なり、人間の実生活に適したサイズで種々のデバイスを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図11
図12
図13
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図8
図9
図10
図14