(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669327
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】水性エマルジョン
(51)【国際特許分類】
C08F 2/22 20060101AFI20150122BHJP
C08F 267/06 20060101ALI20150122BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20150122BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20150122BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
C08F2/22
C08F267/06
C09D5/02
C09D151/06
C09D133/04
【請求項の数】18
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-543801(P2012-543801)
(86)(22)【出願日】2010年12月17日
(65)【公表番号】特表2013-514418(P2013-514418A)
(43)【公表日】2013年4月25日
(86)【国際出願番号】EP2010070136
(87)【国際公開番号】WO2011073417
(87)【国際公開日】20110623
【審査請求日】2013年11月20日
(31)【優先権主張番号】09179695.3
(32)【優先日】2009年12月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ナブース, ティス
(72)【発明者】
【氏名】オーヴァービーク, ゲラルドゥス コルネリス
(72)【発明者】
【氏名】スタブス, ジェフリー
【審査官】
繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公開第01001716(GB,A)
【文献】
米国特許第03321431(US,A)
【文献】
特開平02−120385(JP,A)
【文献】
特開昭60−092367(JP,A)
【文献】
特開平07−018003(JP,A)
【文献】
特表平09−512577(JP,A)
【文献】
特開平06−319573(JP,A)
【文献】
特表2013−514453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともビニルポリマーを含む水性エマルジョンであって、前記ビニルポリマーが、
a)式I:
【化1】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.1〜15重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と
、
を重合させた後に続い
て追反応用モノマー組成物を、モノマーの総重量の0.9〜54.9重量%
重合させて得られるものであり、
a)+b)+c)および前記追反応用モノマー組成物の合計が100%であり、かつ
前記水性エマルジョンが、遊離イタコン酸エステルを、前記水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、水性エマルジョン。
【請求項2】
少なくともビニルオリゴマーポリマーを含む水性エマルジョンであって、前記
ビニルオリゴマーポリマーが、
a)式I:
【化2】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.2〜21重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と
、
を重合させた後に続い
て追反応用モノマー組成物を、モノマーの総重量の0.8〜54.8重量%
重合させて得られるものであり、
a)+b)+c)および前記追反応用モノマー組成物の合計が100%であり、かつ
前記水性エマルジョンが、遊離イタコン酸エステルモノマーを、前記水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、水性エマルジョン。
【請求項3】
成分a)が、イタコン酸のジアルキルエステル、イタコン酸のジアリールエステル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1または2に記載の水性エマルジョン。
【請求項4】
成分b)が、イタコン酸、無水イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル、イタコン酸のモノアリールエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸β−カルボキシエチル、およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種またはそれ以上の酸官能性モノマーを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項5】
成分c)および/または追反応用モノマー組成物が、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、スチレン、およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種またはそれ以上のモノマーを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項6】
前記ビニルポリマーまたは前記ビニルオリゴマーポリマーが、ジアクリル酸エチレンジオールエステル、ジアクリル酸ブチレンジオールエステル、ジアクリル酸ヘキシレンジオールエステル、(メタ)アクリル酸アリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、およびこれらの組合せからなる群から選択される1種またはそれ以上の二−または三官能性ビニルモノマーをさらに重合させたものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項7】
前記ビニルポリマーまたは前記ビニルオリゴマーポリマーがさらに、ウレイド官能性モノマーを2〜12重量%重合させたものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項8】
前記ビニルポリマーまたは前記ビニルオリゴマーポリマーがさらに、接着性および/または架橋性官能基を有するモノマーを0.1〜10重量%重合させたものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項9】
前記ビニルポリマーまたは前記ビニルオリゴマーポリマーが、再生可能資源から誘導されたモノマーを少なくとも50重量%重合させたものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項10】
前記水性エマルジョンのVOC量が420g/L未満である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の水性エマルジョン。
【請求項11】
少なくともビニルポリマーを含む水性エマルジョンの作製方法であって、少なくとも、
I.a)式I:
【化3】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.1〜15重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と
を乳化重合させるステップと、
II.追反応用モノマー組成物のモノマー0.9〜54.9
重量%を、ステップIで得られ
たビニルポリマーの存在下に乳化重合させるステップと
を含み、
IおよびIIの前記モノマーの合計が100%であり、かつ前記水性エマルジョンが、式Iの遊離イタコン酸エステルモノマーを、前記水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、方法。
【請求項12】
前記ステップIで得られたビニルポリマーが多段重合体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記多段重合体が、Tgが−50℃〜+20℃の範囲にある相と、Tgが+30〜130℃の範囲にある他の相とを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくともビニルオリゴマーポリマーを含む水性エマルジョンの作製方法であって、少なくとも、
I.a)式I:
【化4】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.1〜15重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と
を含む成分を乳化重合させることによりオリゴマーを作製するステップと、
II.成分a)、b)、およびc)を含む不飽和モノマーを
、ステップIで得られたオリゴマーの存在下に乳化重合させることにより
ビニルオリゴマーポリマーを作製するステップであって、
ステップIの前記オリゴマーおよびステップIIの前記
ビニルオリゴマーポリマーのTgの差が少なくとも10℃であるステップと、
III.
ステップIIで得られ
たビニルオリゴマーポリマーの存在下に、追反応用モノマー組成物のモノマー0.9〜54.9
重量%を乳化重合させるステップと
を含み、
I、II、および
IIIの前記モノマーの合計が100%であり、かつ前記水性エマルジョンが、式Iの遊離イタコン酸エステルモノマーを、前記水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、方法。
【請求項15】
少なくともビニルオリゴマーポリマーを含む水性エマルジョンの作製方法であって、少なくとも、
I.
a)式I:
【化5】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.2〜21重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と、
を重合させて、酸官能性オリゴマーの水溶液または水性エマルジョンを調製するステップと、
II.前記オリゴマーの前記水溶液または水性エマルジョンの存在下に水性乳化重合
法により
追反応用モノマー組成物を0.8〜54.8重量%重合させて、疎水性ポリマーの水性エマルジョンを形成させるステップと
を含み
、
IおよびIIの前記モノマーの合計が100%であり、かつ前記水性エマルジョンが、式Iの遊離イタコン酸エステルモノマーを、前記水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性エマルジョンから得られるコーティング。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性エマルジョンを基材に適用し、前記エマルジョンの水性担体媒体を強制的または自然に除去することを含む、基材を塗工する方法。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の水性エマルジョンを基材に適用し、前記組成物の水性担体媒体を強制的または自然に除去することによって作製された、塗工された基材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、イタコン酸エステルモノマーから得ることができるビニルポリマーを含む水性エマルジョン、この種の水性エマルジョンの製造方法、水性エマルジョンから得られるコーティング、および塗工された基材に関する。
【0002】
再生可能資源を利用して環境に優しい製品や方法を得ることへの関心が高まっている。バイオマスから得られることが確認されている有益な化学物質の1つにイタコン酸およびそのエステル誘導体があり、これはコーティング剤用「グリーン」ポリマーの製造に関しても有用となる可能性がある。こうしたことから、塗料、ラッカー、インク、オーバープリントワニス、薄膜コーティング、または接着剤に使用することができる、イタコン酸エステルモノマー等の生物再生可能な(biorenewable)原料を高濃度で含有する樹脂および生物系資源をベースとするモノマーを高比率で含むエマルジョンを製造することが望まれている。
【0003】
ところが、イタコン酸およびそのエステルは有利な特性を有しているにも拘わらず重合に難点があり、これが商業的な発展を阻む重大な障壁となっていることが認識されている。このことはラジカル重合を行う場合に特に当てはまり、その結果として、イタコン酸およびそのエステルのポリマーへの転化率が低くなる。すなわち、これらのモノマーを使用して重合を行うと、実使用上の時間枠内ではその多くが未反応のままになる可能性がある。その原因の一部はこの種のモノマーの生長速度定数が低いことにある。コーティング剤中に遊離(未反応)モノマーが存在すると塗膜から放出される可能性があり、これは健康面でも環境面でも望ましいことではない。高い転化率を得るためには、最適な温度で反応させるために長時間加熱を行うかまたは処理時間を極めて長くすることが必要となる可能性があるが、このようなことは望ましくなく不経済である。
【0004】
米国特許出願公開第2009/0286947号明細書においては、ペンダントカルボン酸基、特にイタコン酸を含むビニルモノマーをベースとするポリマーの転化率に関する研究がなされていた。存在するカルボン酸基1モル当たり25〜85mol%程度のカルボン酸基を部分的に中和すると、モノマー転化率が50%以上になる。
【0005】
米国特許第3321431号明細書には、重合可能な構成成分の80重量%までの量のイタコン酸ジメチルと、エチレン性不飽和アミドと、他のエチレン性不飽和モノマーとを含む水性共重合体エマルジョンの調製方法であって、10重量%を超える濃度の水溶性有機溶媒中で重合を行う方法が開示されている。
【0006】
英国特許第1001716号明細書は、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびイタコン酸のモノアルキルエステルのエマルジョン共重合体、その塩、およびそれを用いたコーティングに関連するものである。
【0007】
英国特許第2017111号明細書は、イタコン酸ジアルキルおよびメタクリル酸アルキルを含む塩化ビニル樹脂組成物に関連するものである。
【0008】
イタコン酸および他の酸官能性モノマーは非常に親水性が高く、したがって水分の影響を受けやすいポリマーを生成させる可能性があるので、替わりにイタコン酸エステルモノマーを使用する方が有利である。さらに、環境への影響を少なくするためには、基本的に溶媒を含まない水性樹脂が得られる乳化重合の方が、溶媒系樹脂を生成させる他の重合機構よりも好ましい。
【0009】
本発明の目的は、イタコン酸エステルモノマーを高濃度で含有するビニルポリマーを含む水性エマルジョンであって、遊離イタコン酸モノマー含有量が低いエマルジョン組成を有する水性エマルジョンを提供することにある。
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、ビニルポリマーを形成するためのビニルモノマーも含む(イタコン酸エステルモノマーを含む)特定の組成物と、続いて添加される追反応用(chaser)モノマー組成物とを用いることによって、生長速度定数が低いにも拘わらず高いイタコン酸モノマー転化率が達成できることをここに見出した。
【0011】
そこで本発明を用いることにより、反応温度で長時間の加熱を行うことも極めて長時間の処理を行うことも必要とすることなく、イタコン酸エステルモノマーの高い転化率を達成することが可能となる。
【0012】
追反応用モノマー組成物を用いて転化を行った後に残留している遊離イタコン酸エステルモノマーの量は液体(LC)またはガスクロマトグラフィー(GC)のいずれかを用いて容易に測定される。
【0013】
本発明により、少なくともビニルポリマーを含む水性エマルジョンであって、上記ビニルポリマーが、
a)式I:
【化1】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.1〜15重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と、
モノマーa)、b)、およびc)を重合させた後に続いて添加および重合される追反応用モノマー組成物をモノマーの総重量の0.9〜54.9重量%と
を含み、
a)+b)+c)および追反応用モノマー組成物の合計が100%であり、かつ水性エマルジョンが、式Iの遊離イタコン酸エステルモノマーを、水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、水性エマルジョンが提供される。
【0014】
本発明による他の実施形態においては、少なくともビニルオリゴマー−ポリマーを含む水性エマルジョンであって、このオリゴマー−ポリマーが、
a)式I:
【化2】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.2〜21重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と、
モノマーa)、b)、およびc)を重合させた後に続いて添加および重合される追反応用モノマー組成物をモノマーの総重量の0.8〜54.8重量%と
を含み、
a)+b)+c)および追反応用モノマー組成物の合計が100%であり、かつ水性エマルジョンが、遊離イタコン酸エステルモノマーを、水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満含む、水性エマルジョンが提供される。
【0015】
本明細書において、遊離イタコン酸エステルモノマーとは、ビニルポリマーと、追反応用モノマー組成物を含むポリマー相とを形成させた後に残留している残りのイタコン酸エステルモノマーa)を意味する。
【0016】
好ましくは、水性エマルジョンは、遊離イタコン酸エステルモノマーを、水性エマルジョンの総重量を基準として0.2重量%未満、より好ましくは、遊離イタコン酸エステルモノマーを0.1重量%未満、最も好ましくは、遊離イタコン酸エステルモノマーを、水性エマルジョンの総重量を基準として0.07重量%未満含む。
【0017】
好ましくは、ビニルポリマーは、a)式I(式中、RおよびR’は、アルキルまたはアリール基である)に従うイタコン酸エステルモノマーを含む。よりさらに好ましくは、RおよびR’は同一である。最も好ましくは、RおよびR’はいずれも、メチル、エチル、ブチル、または2−エチルヘキシル基のうちの1種である。
【0018】
好適なイタコン酸エステルモノマーは、例えば、1種またはそれ以上のイタコン酸のジアルキルエステルおよびイタコン酸のジアリールエステルである。その例としては、これらに限定されるものではないが、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジ(2−エチルヘキシル)、イタコン酸ジベンジル、およびイタコン酸ジフェニルが挙げられる。イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、およびイタコン酸ジ(2−エチルヘキシル)が特に好ましい。
【0019】
好ましくは、ビニルポリマーは、イタコン酸エステルモノマーa)を、使用されるモノマーの総重量を基準として、50〜99重量%、より好ましくは50〜95重量%、よりさらに好ましくは60〜95重量%、その中でも特に好ましくは70〜95重量%、最も好ましくは90〜95重量%含む。
【0020】
イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーb)は、好ましくは、イタコン酸、無水イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル(好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸モノ(2−エチルヘキシル)、モノ−β−ヒドロキシエチルエステル等)、またはイタコン酸のモノアリールエステル(イタコン酸モノベンジル等)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸β−カルボキシエチル等の酸官能性モノマーである。最も好ましい酸官能性モノマーは、イタコン酸単位を含むもの(すなわち、式I中のRまたはR’がH原子であるもの)であり、その理由は、ビニルモノマー中にこの種のイタコン酸モノマーを組み込むことにより、再生可能資源に由来するモノマーの量をさらに増加させることができるためである。
【0021】
しかしながら、アクリル酸またはメタクリル酸単位を含む酸官能性モノマーもビニルポリマーの作製目的に適している。
【0022】
オレフィン性不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物である無水マレイン酸やフマル酸等は、成分b)として使用することができる他の例である。この種のカルボン酸官能性モノマーに由来するカルボキシル基をポリマーに結合させた後に一定の割合でイミノ化することによってアミノエステル基を形成して、鎖に懸垂したアミン基とすることができる。
【0023】
好ましくは、潜在的再生可能資源から誘導されたモノマーである例えばモノマーa)等と、例えばb)に属するモノイタコン酸エステルとの総量は、使用されるモノマーの総量の少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%である。
【0024】
酸モノマーを効果的に組み込むためには、重合の前または途中で中和される酸官能性モノマーを好ましくは25モル%未満とし、より好ましくは10モル%とし、最も好ましくは一切中和しない。酸モノマーを中和する場合は、当業者に周知の無機および有機塩基を用いて実施することができる。その例としては、例えば、これらに限定されるものではないが、アンモニア、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、ジメチルブチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられる。最も好ましい塩基はアンモニアである。
【0025】
ビニルポリマーの形成に使用することができる、成分a)およびb)とは異なる不飽和モノマーc)としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、VeoVa9やVeoVa10等のバーサチック酸のビニルエステル(VeoVaはShellの商標)等)、複素環式ビニル化合物、モノオレフィン性不飽和ジカルボン酸のアルキルエステル(マレイン酸ジ−n−ブチルやフマル酸ジ−n−ブチル等)、および、特に、式:
CH
2=CR
1COOR
2
(式中、R
1は、Hまたはメチルであり、R
2は、1〜20個の炭素原子(より好ましくは1〜8個の炭素原子)の任意選択的に置換されたアルキルまたはシクロアルキルである)のアクリル酸およびメタクリル酸のエステル、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等)、ならびにTone M−100(ToneはUnion Carbide Corporationの商標)等の、これらの変性された類縁体が挙げられる。他の有用なモノマーの例としては、(メタ)アクリルアミドおよびメチロール(メタ)アクリルアミド等のこれらの誘導体が挙げられる。
【0026】
特に好ましい不飽和モノマー(c)は、1種またはそれ以上の上に定義した式CH
2=CR
1COOR
2のモノマーを含む。本明細書において、この種のモノマーは、アクリル系モノマーと定義される。
【0027】
好ましくは、不飽和モノマーc)は、メタクリル系モノマー、アクリル系モノマー、スチレン、スチレン−アクリル樹脂、またはこれらの組合せである。より好ましくは、不飽和モノマーc)は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、スチレン、およびこれらの組合せである。
【0028】
本ビニルポリマーは、以下に記載する他の有用なモノマーも含むことができる。
【0029】
本発明によるビニルポリマーは、高分子量への生長を促す二−または多官能性モノマーを含むことができる。好ましくは、これらは、二−または三官能性ビニルモノマー、例えば、ジアクリル酸エチレンジオールエステル、ジアクリル酸ブチレンジオールエステル、ジアクリル酸ヘキシレンジオールエステル、(メタ)アクリル酸アリル、トリアクリル酸トリメチロールプロパンエステル、ジビニルベンゼン、およびこれらの組合せ等の多価不飽和ビニルモノマーである。しかしながら、この一覧をあらゆる多価不飽和モノマーに拡張することができ、ジ−もしくはトリアクリル酸エステルまたはジ−もしくはトリメタクリル酸エステルモノマーが好ましい。
【0030】
多くの用途において、特定の基材に対する接着力が改善されていることは性能の重要な指標となる。接着力の改善は、幾つかの方法を用いて、ポリマーエマルジョンの酸基をアジリジン(エチレンイミン、プロピレンイミンまたはブチレンイミン等)と反応させることによるか、またはウレイド官能性モノマー等の湿潤接着促進モノマー(例えば、EvonikからのPLEX 6852またはRhodiaからのSipomer WAM IもしくはII)を組み込むことにより行うことができる。特定の実施形態においては、ウレイド官能性モノマーを、モノマー組成物全体を基準として好ましくは2〜12重量%、より好ましくは4〜11重量%使用する。
【0031】
特に、金属基材に接着させるかまたは顔料の混和性を改善するために、SipomerPAM 1または2(Rhodiaから)等のリン酸エステル官能性モノマーを組み込むことを想定することができる。
【0032】
本ビニルポリマーは、多くの場合、結果として得られるポリマーコーティングに接着および/または架橋性官能基を付与するコモノマーを有利に含有させることができる。このようなものの例としては、その幾つかを既に上述したが、少なくとも1個の遊離ヒドロキシル、エポキシ、アセトアセトキシ、ケトン、またはアミノ基を有するアクリル系およびメタクリル系モノマー、例えば、アクリル酸およびメタクリル酸のアミド、ヒドロキシアルキルエステル、およびアミノアルキルエステル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アセトアセトキシエチル、メタクリル酸t−ブチルアミノエチル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等;複素環式ビニル化合物(ビニルピロリドンやビニルイミダゾール等)等の他の接着促進モノマーが挙げられる。
【0033】
この種の接着および/または架橋性官能基を有するモノマーは、好ましくは、モノマーの総重量の0.1〜10重量%、より一般的には0.1〜5重量%の量で使用される。
【0034】
ヒドロキシル基等の架橋性官能基を有するビニルポリマーは、ポリイソシアネート、メラミン、グリコールウリル等の架橋剤(crosslinking agent)(すなわち架橋剤(crosslinker))と架橋させることができる。ケトンまたはアルデヒドカルボニル基を、例えばポリアミドまたはポリヒドラジド(アジピン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソホロンジアミン、4,7−ジオキサデカン−1,10ジアミン等)と架橋させることができる。この種の架橋剤は共有結合を形成することにより架橋を行うことに留意されたい。
【0035】
イタコン酸エステルモノマー(成分a))は重合性が低いモノマーであり、したがって、ビニルポリマーの形成後に依然として水性エマルジョン中に利用可能な特定量の遊離イタコン酸エステルモノマーが存在するであろう。
【0036】
本明細書における追反応用モノマー組成物とは、モノマーa)、b)、およびc)を重合させた後に、イタコン酸エステルモノマーの転化を促進する目的で水性エマルジョンに添加されて重合される1種またはそれ以上のモノマーと定義される。その結果として、追反応用モノマー組成物と、成分a)、b)、およびc)を含むビニルポリマーを形成させた後に残留している遊離イタコン酸エステルモノマーとからさらなるポリマー相が形成される。
【0037】
追反応用モノマー組成物と、ビニルポリマー中に未反応のまま残留している任意の遊離イタコン酸エステルモノマーa)とが一緒になって、前段の重合段階で形成されるビニルポリマーとは異なる組成を有する別個の高分子鎖粒(crop)(すなわち別個のポリマー相)を形成するであろう。このような高分子鎖は、ビニルモノマーa)、b)、およびc)の重合で形成されるポリマー粒子と同じポリマー粒子の中に存在する場合もある。
【0038】
好適な追反応用モノマーは、(メタ)アクリル系モノマー、スチレン、および/またはこれらの組合せを含むことができる。好ましいモノマーは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、スチレン、およびこれらの組合せである。より好ましいモノマーは、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、またはアクリル酸ブチル、およびこれらの組合せである。アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、およびスチレン、ならびにこれらの組合せが最も好ましい。
【0039】
成分c)の不飽和モノマーには、上述した追反応用モノマーに好適なものも包含される。したがって、ビニルポリマー中の成分c)および追反応用モノマー組成物は、モノマー組成が同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、ビニルポリマー中の成分c)は、追反応用モノマー組成物とは異なる。ビニルポリマー中に存在する成分c)に使用される不飽和モノマーと追反応用モノマー組成物との大きな違いは、主として重合中に添加されるタイミングの違いにある。好ましくは、追反応用モノマー組成物は、成分a)、b)、およびc)を含むビニルポリマーの重合過程の終わり頃に添加され、より好ましくは追反応用モノマー組成物は、a)、b)、およびc)を含むビニルポリマーの重合過程の終了時点で添加される。
【0040】
好ましくは、追反応用モノマー組成物の量は、モノマー組成物全体の1〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、最も好ましくは、モノマー組成物全体を基準として2〜10重量%である。本明細書において、モノマー組成物全体とは、モノマーa)、b)、c)、追反応用モノマー組成物、および水性エマルジョンに添加されるさらなる任意のモノマーと理解される。オリゴマーポリマー等の多段ビニル重合体の場合、モノマー組成物全体には、すべての段階も(すなわち、オリゴマー形成用またはさらなる任意の段階のモノマーも)包含される。
【0041】
好ましくは、追反応用組成物は、成分a)のイタコン酸エステルモノマーを一切含まない。好ましくは、追反応用組成物はまた、成分b)に属するモノイタコン酸エステルモノマーも一切含まない。
【0042】
追反応用モノマー組成物は、好ましくは乳化重合混合物に所定の時間をかけて供給されるが、一度に添加することを除外するものではない。
【0043】
好ましくは、追反応用モノマー組成物は、5〜120分間、より好ましくは10〜90分間、最も好ましくは10〜70分間かけて添加される。
【0044】
本明細書において、ビニルポリマーとは、重合性炭素−炭素二重結合を有する少なくとも1種のオレフィン性不飽和モノマーの付加重合(ラジカルプロセスを用いるもの)により得られる単独または共重合体を意味する。したがって、本明細書におけるビニルモノマーとは、オレフィン性不飽和モノマーを意味する。
【0045】
本明細書において、ビニルポリマーとは、水を主成分とする液体担体媒体中でビニルモノマーをラジカル乳化重合させることにより得られるポリマーを意味する。好ましくは、液体担体媒体は、水を液体担体媒体の少なくとも50重量%、より好ましくは水を少なくとも90重量%含む)。ポリマーエマルジョン中に分散した粒子は、通常はコロイドサイズである。好ましい粒度範囲は、40〜400nm、より好ましくは、60〜220nm、最も好ましくは、70〜160nm。
【0046】
好ましくは、エマルジョンは有機溶媒を少量含み、より好ましくは溶媒を全く含まない。本発明によるエマルジョンは、好ましくは有機溶媒を5重量%未満、より好ましくは2重量%未満含み、最も好ましくは有機溶媒を全く含まない。
【0047】
通常、本発明の組成物中に使用されるビニルポリマーはすべて、水性ポリマーエマルジョン(あるいは、水性ポリマーラテックスと称される)を形成させる水性乳化重合法においてラジカル付加重合を用いることにより作製される。
【0048】
このような水性乳化重合法はそれ自体当該技術分野において周知であるため詳述する必要はない。この種の方法については、モノマーを水性媒体中に分散させ、フリーラジカルを生成させる開始剤を用いた重合を(通常は)適切な加熱(例えば、30〜120℃)および撹拌(かき混ぜ)を用いて実施することを含むと述べるだけで十分である。水性乳化重合は1種またはそれ以上の従来の乳化剤を用いて実施することができ、これらは界面活性剤である。アニオン性および非イオン性界面活性剤ならびにこれらの2種の組合せも使用することができ、カチオン性界面活性剤も使用することができる。分子量制御が所望される場合は連鎖移動剤(例えば、メルカプタンまたは好適なコバルトキレート錯体)を含有させることができる。
【0049】
本発明の他の実施形態によれば、少なくともビニルポリマーを含む水性エマルジョンを作製する方法であって、少なくとも、
I.a)式I:
【化3】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.1〜15重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と
を乳化重合させるステップと、
II.追反応用モノマー組成物のモノマー0.9〜54.9%を、ステップIで得られたビニルポリマーの存在下に乳化重合させるステップと
を含み、
IおよびIIのモノマーの合計が100%であり、かつ水性エマルジョンが、式Iの遊離イタコン酸エステルモノマーを、水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、最も好ましくは水性エマルジョンの総重量を基準として0.07重量%未満含む方法をさらに提供する。
【0050】
上の方法においては、追反応用モノマー組成物を添加する前にオリゴマーポリマーまたは他の多段ビニル重合体を作製するなどの他のステップも含むことも可能である。
【0051】
さらに、ステップIIは、追反応用モノマー組成物をステップIの終了時のみに添加することに制限されず、追反応用モノマー組成物をステップIの重合過程の終わり頃に添加することも包含される。したがって、本明細書において、遊離イタコン酸モノマー含有量の測定対象となる、結果として得られるエマルジョンとは、あらゆる可能な中間ステップを経た後に、遊離イタコン酸エステルモノマーの転化を促すための追反応用モノマー組成物と反応させた後に得られるエマルジョンを意味する。
【0052】
本明細書において、多段ビニル重合体とは、2種以上の別個のビニルモノマー混合物を逐次水性乳化重合させることによって2種以上のポリマーを調製する多段乳化重合法により形成されたビニルポリマー系を意味する。したがって、その最も簡素な(かつ好ましい)形態においては、まず最初に第1ポリマーラテックスが形成され(乳化重合による)、次いで第1ポリマーの存在下に乳化重合を行うことにより第2ポリマーが形成される(実際、第1、第2、および任意のさらなる段階の重合体は、成分a)、b)、およびc)を含むビニルポリマーの一部である)。
【0053】
第2ポリマーは、第1ポリマーが硬質である場合は軟質とすることができ、第1ポリマーが軟質である場合は硬質とすることができる。好ましくは、2段ビニル重合体の第1ポリマーのガラス転移温度は−50〜+20℃の範囲にある。好ましくは、2段ビニル重合体の第2ポリマーのガラス転移温度は+30〜130℃、より好ましくは+40〜125℃の範囲にある。いずれにせよ、両方の相のTg値の差は、好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは30℃、最も好ましくは50℃、その中でも最も好ましくは60℃である。硬質相がビニルポリマーの第1ポリマーである場合、軟質相を第2ポリマー中に一部混合することができる。
【0054】
より複雑な多段重合体の設計としては、2種以上の軟質ポリマーおよび/または2種以上の硬質ポリマーを有するものが挙げられ、その重合は任意の順序で実施される。多段重合体は、ランダム、分岐、およびブロック共重合体等の任意の好適な構造に配列したモノマーを含むことができる。
【0055】
ビニルポリマーを形成するためのビニルモノマーの乳化重合は様々な異なる方法で実施することができる。1種類のモノマーのみが供給される(可能であればシードポリマーを除く)単独(straight)エマルジョン、逐次重合体、パワーフィードまたはグラジエント重合体、およびオリゴマー−ポリマーエマルジョンを想定することができ、好ましくは1つのポリマー相が他の相よりもはるかに高い酸官能性を含む。
【0056】
ビニルポリマーを作製するための乳化重合は、「完全(all−in−one)」回分式方法(すなわち、使用される材料がすべて重合開始時点から重合媒体中に存在する方法)または使用される材料のうちの1種もしくはそれ以上(通常は、少なくともモノマーの1種)の全部もしくは一部が重合の途中で重合媒体に供給される半回分式方法を用いて実施することができる。使用される材料の2種以上をインライン混合することもできる。
【0057】
ビニルポリマーを作製するためのビニルモノマーは、好ましくはシードラジカル(seeded radical)重合を介して重合されるが、これは本発明を制限することを意図するものではない。シードはin−situで形成させることができ(これは、モノマー供給原料を多量に添加する前にまず最初にモノマー供給原料の一部を重合させることを意味する)、あるいは別々に調製することもできる。後者の場合、乳化重合または溶液−分散(solution−dispersion)重合のいずれかで調製されたエマルジョンもシードとして使用される。このシードを再生可能モノマーから作製することができることは明白である。
【0058】
シードを用いたビニルポリマーの形成においては、最初に形成されるポリマー相を形成させるための乳化重合はシードポリマーの存在下に実施され、好ましくは後段も乳化重合法を用いて作製される。多段重合法の第2またはその後の重合を開始する際にさらなるシードポリマーを添加することも可能である。
【0059】
シードポリマーは予め形成しておくことができ(すなわち、別個に形成し、逐次重合法に使用される槽に添加する)、あるいは、多段重合体を調製する前にin−situで形成させることができる(すなわち、逐次重合法に使用される槽と同一槽内で作製される)。
【0060】
シードポリマーの組成は、ビニルポリマー相のいずれかと類似していてもよいし、異なるものであってもよい。シードポリマーを作製することが可能なモノマーの量および種類は、無論、組成物中の具体的な多段重合体に依存するであろう。典型的には、使用される(コ)モノマーは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、スチレン、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸、およびメタクリル酸から選択されるであろう。
【0061】
シードポリマーはまた、イタコン酸エステルコポリマーからなるものであってもよいし、あるいはイタコン酸エステルコポリマーと上に列挙したシードポリマー用の任意のモノマーとの組合せからなるものであってもよい。しかしながら、ポリウレタン分散液、ウレタン−アクリル系エマルジョン、アルキドエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、ポリエポキシ樹脂分散液、およびこれらの混合物からなるシードも想定することができる。
【0062】
このシードは、好ましくは疎水性の性質を有する。換言すれば、in−situシードの場合は、好ましくは、シードポリマーを構成するモノマーの80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、最も好ましくは93重量%以上は、好ましくは18℃の水中における水溶性が2g/100ml水未満、より好ましくは1g/100ml未満、最も好ましくは0.5g/100ml水未満であるべきである。予め作製されたシードの場合は、上の水溶性は、シードポリマーを構成する個々のモノマーの説明ではなく、シードを構成するポリマーの説明となるべきである。
【0063】
シードポリマーは、ポリマーの質量全体(追反応用モノマー組成物を含むポリマー相を含む)の0.5〜25重量%、より好ましくは1.0〜15重量%、最も好ましくはポリマーの質量全体の2.5〜10重量%を構成することができる。
【0064】
シードポリマー(または各シードポリマー)の重量平均分子量Mwは、多くの場合、10,000〜6×10
6ダルトン、より好ましくは20,000〜1×10
6、最も好ましくは50,000〜800,000ダルトンの範囲内となるであろう。ポリマーの分子量は、THFを溶媒として使用し、500〜4,000,000グラム/molの範囲のポリスチレン標準等の既知の適切なポリマーを標準として用いて校正されたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0065】
本発明による水性エマルジョンはまた、通常の水性エマルジョン中におけるイタコン酸のシード重合、オリゴマー−ポリマーエマルジョン中におけるオリゴマー(好ましくは酸価の高いオリゴマー)を用いたイタコン酸のシード重合の両方に関連し、これらの両方のシード重合に、アルキド、ポリエステル、ポリウレタン、およびエポキシ樹脂を併用したものにも関連する。
【0066】
本明細書におけるポリマーのTgとはガラス転移温度を表し、ポリマーがガラス状の脆い状態からゴム状状態に変化する温度として周知である。ポリマーのTg値は、示差走査熱量分析(DSC)等の技法を用いて実験的に測定するか、あるいはFoxの式を用いて求めることができる。本明細書において供するTg値および範囲は、Foxの式を用いて求められたTgに基づく。
【0067】
コモノマーを「n」元共重合させた共重合体のケルビン単位のTgは、各種類のコモノマーの重量分率Wおよび各コモノマーから得られる単独重合体のTg(ケルビン)から、Fox式に従い与えられる:
【化4】
【0068】
ケルビン単位で求められたTgは容易に℃に変換することができる。
【0069】
好ましくは、ビニルポリマーの単相のTgの計算値は−30〜+125℃の範囲にある。
【0070】
逐次重合により得られたビニルポリマーには、オリゴマーを担体とする(oligomer−supported)エマルジョンを包含することができる。本発明の文脈におけるこのようなエマルジョンは、好ましくは、ポリマー相の酸価が独立に異なっているか、またはTgも一緒に異なっている。このようなエマルジョンにおいては、好ましくは、第1ポリマー相の酸価は0〜130mgKOH/g固体ポリマー、より好ましくは5〜100mgKOH/g固体樹脂、最も好ましくは15〜75mgKOH/g固体樹脂となる。この種のエマルジョンの場合、Tgの差は、好ましくは、パワーフィード重合に関し後述するものと類似している。
【0071】
多段重合体を提供する場合に言えることは、より低分子量のポリマー、すなわち通常はMwが80,000ダルトン以下(例えば、Mwが5,000〜80,000ダルトンの範囲内)のオリゴマーを、より高分子量のポリマー(例えば、Mwが少なくとも100,000〜6×10
6ダルトン)と一緒に使用できるということである。例えば、オリゴマーを硬質ポリマーとすることができ、より高分子量のポリマーを軟質ポリマーとすることができ、あるいはその逆であってもよい。
【0072】
本発明による他の実施形態においては、少なくともビニルオリゴマーポリマーを含む水性エマルジョンを作製するための方法であって、少なくとも、
I.a)式I:
【化5】
(式中、RおよびR’は、独立に、アルキルまたはアリール基である)を有するイタコン酸エステルモノマーを45〜99重量%と、
b)イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーを0.1〜15重量%と、
c)a)およびb)とは異なる不飽和モノマーを0〜54重量%と
を含む成分を乳化重合させることによりオリゴマーを作製するステップと、
II.成分a)、b)、およびc)を含む不飽和モノマーを乳化重合させることによりポリマーを作製するステップであって、ステップIのオリゴマーおよびステップIIのポリマーのTgの差が少なくとも10℃であるステップと、
III.結果として得られたビニルオリゴマーポリマーの存在下に追反応用モノマー組成物のモノマー0.9〜54.9%を乳化重合させるステップと
を含み、
I、II、およびIIにおけるモノマーの合計が100%であり、かつ水性エマルジョンが、式Iの遊離イタコン酸エステルモノマーを、水性エマルジョンの総重量を基準として0.5重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、最も好ましくは水性エマルジョンの総重量を基準として0.07重量%未満含む、方法が提供される。
【0073】
本発明による特定の実施形態においては、酸官能性オリゴマーが、疎水性の基本的に酸を含まない第2段重合体組成物のコロイド安定剤としての役割を果たす、オリゴマーで安定化されたポリマーエマルジョンについて記載する。この場合、エマルジョンは、好ましくは酸官能性オリゴマーを10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、最も好ましくは20〜50重量%と、疎水性第2段組成物を40〜90重量%、より好ましくは45〜85重量%、最も好ましくは50〜80重量%とを含む。
【0074】
オリゴマーの重量平均分子量は、好ましくは5,000〜100,000ダルトン、より好ましくは10,000〜80,000ダルトン、よりさらに好ましくは10,000〜50,000ダルトン、最も好ましくは12,000〜30,000ダルトンの範囲にある。
【0075】
好ましくは、オリゴマーのガラス転移温度(Tg)の計算値は、30〜150℃、より好ましくは50〜120℃、最も好ましくは70〜110℃の範囲にある。好ましくは、疎水性の基本的に酸を含まない第2段重合体組成物のTgは、−60〜+60℃、より好ましくは−50〜+50℃、最も好ましくは−30〜+45℃の範囲にある。オリゴマーおよび第2段組成物の好ましいTgの範囲を逆にすることも想定することができる。いずれにせよ、両方の相のTg値の差は少なくとも10℃、より好ましくは30℃、最も好ましい50℃、その中でも最も好ましくは60℃である。
【0076】
好ましくは、オリゴマーの酸価は、13〜230mgKOH/g固体オリゴマー、より好ましくは25〜165mgKOH/g、特に好ましくは40〜130mgKOH/g、最も好ましくは45〜85mgKOH/g固体オリゴマーの範囲にある。好ましくは、第2段組成物の酸価は、13mgKOH/g固体第2段組成物未満、より好ましくは6mgKOH/g未満、最も好ましくは0mgKOH/g固体第2段組成物である。
【0077】
他の好ましい実施形態においては、多段ビニル重合体は、オリゴマーおよびより高分子量のポリマーの組合せを含み、オリゴマーの酸価は0〜130mgKOH/g固体ポリマーである。
【0078】
好ましい酸官能性オリゴマーの量および第2段組成物の量の比は5/95〜60/40、より好ましくは10/90〜55/45、最も好ましくは15/85〜45/55、その中でも最も好ましくは20/80〜40/60である。
【0079】
オリゴマーポリマーエマルジョンは、疎水性第2段組成物を構成するモノマーを水性オリゴマー溶液に設定された時間供給することにより調製することもできるし、あるいはすべてのモノマーを一度に加え(またはバッチ毎に順次加え)、(逐次)回分式重合を実施することにより調製することもできる。追反応用モノマー組成物の濃度は、好ましくは、オリゴマーポリマーエマルジョンのモノマー組成物全体の0.8〜54.8重量%の範囲となる。イタコン酸エステルモノマーa)の含有量は、好ましくは、モノマー組成物全体の45〜99重量%の範囲となる。イオン性または潜在的イオン性不飽和モノマーb)全体の濃度は、好ましくは、0.2〜21重量%の範囲となる。(a)および(b)とは異なる不飽和モノマー(c)の濃度は、好ましくは、0〜54重量%の範囲となる。オリゴマーで安定化されたポリマーエマルジョンの場合、a)、b)、c)、および追反応用モノマーの合計は100%である。
【0080】
逐次またはパワーフィード乳化重合の場合、複数のポリマー相の間で、ガラス転移温度(Tg)、酸価、または他の官能性の含有量に差をつけることができる。ポリマー相のTgが異なる場合、相間の所望のTgの差は少なくとも15℃、より好ましくは30℃超、よりさらに好ましくは50℃超、最も好ましくは70℃超である。パワーフィードを介してグラジエント形態を作製する場合、このTgの差はDSCにより測定できないことに留意されたい。
【0081】
異なるポリマー相(シードを除く)の好ましい相の比率は、逐次およびパワーフィードビニル重合体の場合は、10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜70:30である。
【0082】
上述したビニルポリマーをアルキド、ポリエステル、ポリウレタン、またはポリエポキシ樹脂等の他の種類のポリマーと併用することができる。この併用は様々な方法により達成することができる。第1には、ポリマーエマルジョンを他の種類のポリマーのエマルジョンとブレンドすることができる。第2には、他のポリマーを本発明により調製されるポリマーエマルジョン中で乳化させることができる。第3には、他のポリマーを本発明によるポリマー重合用の疎水性シードとして使用することができる。後者の場合、他のポリマーは、水中に乳化されて存在する必要がある。
【0083】
ポリマーエマルジョンの調製において、アニオン性または非イオン性界面活性剤を使用することができるが、アニオン性/非イオン性界面活性剤混合物も確実に使用することができる。本発明の多段重合体ラテックスの作製に好ましいシード重合方法を用いることにより、この種のラテックスを作製する場合の界面活性剤の使用量を極めて少なくすることが可能である。好ましくは、この種のエマルジョンは、界面活性剤を、モノマーの総含有量を基準として1s/s%未満、より好ましくは0.5s/s%未満、最も好ましくは0.1s/s%未満含む。
【0084】
好ましくは、水性エマルジョンの固形分は、水性エマルジョンの総重量を基準として、30〜60重量%、より好ましくは35〜50重量%、最も好ましくは40〜45重量%である。しかしながら、特定の用途には、本発明による水性エマルジョンを、水性エマルジョンの総重量を基準として10重量%まで希釈することが可能である。
【0085】
本発明の水性エマルジョンは、増量剤(例えば、炭酸カルシウムやチャイナクレイ)、顔料分散助剤等の分散剤、界面活性剤、湿潤剤、増粘剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、殺生物剤、消泡剤、沈降防止剤、UV吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤等の様々な他の成分を含むことができる。
【0086】
本発明による水性エマルジョンは架橋させることもできる。架橋は常温1液硬化型(1 pack ambient cure)または2液で行うことができる。1液架橋の典型例としては、ジアセトンアクリルアミドをポリヒドラジドもしくはポリアミンと併用するかまたはアセトアセトキシ官能性をポリアミンと併用するシッフ塩基架橋;シラン架橋;または脂肪酸官能性モノマーを用いた自動酸化(Serad FX522(Elementisから)またはVisiomer MUMA(Evonikから)の存在下など)が挙げられる。エポキシ官能性ポリマーを脂肪酸で変性させることも想定することができる。2液架橋の場合の典型的な組合せには、ヒドロキシル官能性((メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルを組み込むことによる)およびポリイソシアネートまたは酸官能性およびポリアジリリンが含まれる。
【0087】
常温1液硬化の典型的な形態はイオン架橋である。これは、酸またはヒドロキシル官能基を、亜鉛、カルシウム、ジルコニウム、アルミニウム等の金属イオン錯体と組み合わせることにより実施することができる。
【0088】
これらのビニルポリマーまたは上述したポリマーの混合物は、低揮発性有機溶媒(VOC)用途、好ましくはゼロVOC用途に使用することが意図されている。これは、本発明による水性エマルジョンのVOC量が、好ましくは420g/L未満、より好ましくは125g/L未満、よりさらに好ましくは50g/L未満、最も好ましくは5g/L未満であることを意味する。
【0089】
本発明によるポリマーエマルジョンを、コーティング、塗料、ラッカー、インク、オーバープリントワニス、薄膜コーティング、または接着剤のバインダーとして使用することができる。特に、本発明の組成物は、建築または工業用塗料の形態とする(すなわち、そのように配合する)ことができる。
【0090】
本発明のコーティング組成物は、例えば、木材、紙、プラスチック、繊維、金属、ガラス、セラミック、プラスター、アスファルト、板、皮革、コンクリート等の多種多様な基材に適用することができる。適用は、刷毛塗り、浸漬塗り、流し塗り、スプレー塗り、ローラー塗り、およびパッド塗り(pad coating)等の任意の従来法を用いることができる。
【0091】
組成物を一旦適用したら、常温で自然乾燥させることもできるし、あるいは熱で加速させる乾燥工程を用いることも(実現可能であれば)できる。
【0092】
さらに本発明により、上に定義した水性コーティング組成物から得られるコーティングを提供する。
【0093】
本発明により、上に定義した水性コーティング組成物を基材に適用し、組成物の水性担体媒体を強制的または自然に除去することを含む、基材に塗工する方法をさらに提供する。
【0094】
本発明により、上に定義した水性組成物を基材に適用し、組成物の水性担体媒体を強制的または自然に除去することにより調製された、塗工された基材をさらに提供する。
【0095】
ここで以下の実施例を参照しながら本発明をさらに例示するが、これらをどのような形でも限定するものではない。特段の指定がない限り、部、百分率、および比率はすべて重量を基準とする。
【0096】
[試験方法]
[ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)]
GCMSにより遊離イタコン酸エステルモノマー含有量を測定した。ヘッドスペース用CTC combi Palロボティックオートサンプラーを備えたTrace GC−DSQ MS(Interscience,Breda,the Netherlands)を用いてGCMS分析を実施した。キャリアガスをヘリウムとし、CP Sil 5 lowbleed/MS、25m×内径0.25mm、1.0μm(CP nr.7862)カラムを使用した。
【0097】
GCオーブンのプログラムは、順次異なる昇温速度を用いて、50℃(5分)−5℃/分−70℃(0分)−15℃/分−220℃(0分)−25℃/分−280℃(最終温度)(10分)とした。ヘリウムを1.2ml/分の定流量とした。プログラム昇温気化(PTV)を用いて300℃で高温スプリット注入を行った。注入量を1μlとした。MSトランスファーラインおよびイオン供給源をいずれも250℃に維持した。単一イオン検出法(single ion monitoring)(SIM)を用いて試料の測定を行った。イタコン酸ジメチル(DMI)の特定の場合においては、質量127.0および59.0Daを用い、内部標準(アクリル酸イソブチル)については質量55.0および73.0を適用した。試料溶液は、内部標準液(アセトン中アクリル酸イソブチル)3ml中約500mgとした。0〜500ppmの5種類の異なる濃度で校正を行った。直線の検量線を用いてMicrosoft Excelで計算を行った。
【0098】
[実施例1−単相ポリマー]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、脱塩水339.0部、炭酸水素ナトリウム1.5部、およびラウリル硫酸ナトリウムの30重量%溶液25.5部を加えた。反応器の内容物を90℃に加熱した。50℃で、アクリル酸13.8部、メタクリル酸メチル45.1部、イタコン酸ジメチル137.6部、アクリル酸ブチル78.7部からなるモノマー供給原料の10%を、過硫酸ナトリウム1.5部および脱塩水58.7部からなる開始剤供給原料の15%と一緒に加えた。90℃でモノマーおよび開始剤供給原料の残りの供給を開始した。どちらの供給も210分間を要した。この混合物を90℃で30分間撹拌した後、スチレン22.3部およびアクリル酸ブチル8.3部からなる追反応用モノマー組成物を反応器に30分間かけて供給した。この供給が完了したら、供給槽を脱塩水3.6部で濯いだ。このバッチを90℃でさらに30分間撹拌し、次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.4部、脱塩水0.5部を加えた。i−アスコルビン酸0.2部の脱塩水3.6部中溶液を20分間かけて供給した。このエマルジョンを90℃に冷却し、25%アンモニア水溶液を用いてpHを8.0に調整した。脱塩水を用いて最終固形分を45%に調整した。
【0099】
最終エマルジョンの固形分は45%であり、イタコン酸の総濃度はモノマー全体の45%であり、遊離イタコン酸エステル含有量は132mg/Lであった。
【0100】
[実施例2−単相ポリマー]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、脱塩水339.0部、炭酸水素ナトリウム1.5部、およびラウリル硫酸ナトリウムの30重量%溶液25.5部を加えた。反応器の内容物をを90℃に加熱した。50℃で、アクリル酸5.5部、イタコン酸ジメチル123.9部、イタコン酸ジブチル68.8部、およびアクリル酸ブチル77.1部からなるモノマー供給原料の10%を、過硫酸ナトリウム1.5部および脱塩水58.7部からなる開始剤供給原料の15%と一緒に加えた。90℃でモノマーおよび開始剤供給原料の残りの供給を開始した。どちらの供給も210分間を要した。この混合物を90℃で30分間撹拌した後、スチレン30.6部からなる追反応用モノマー組成物を反応器に30分間かけて供給した。この供給が完了したら、供給槽を脱塩水3.6部で濯いだ。このバッチを90℃でさらに30分間撹拌した後、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.4部、脱塩水0.5部を加えた。i−アスコルビン酸0.2部の脱塩水3.6部中溶液を20分間かけて供給した。このエマルジョンを90℃に冷却し、25%アンモニア水溶液を用いてpHを8.0に調整した。脱塩水を用いて最終固形分を45%に調整した。
【0101】
最終エマルジョンの固形分は45%であり、イタコン酸の総濃度はモノマー全体の63%であり、遊離イタコン酸エステル含有量は4869mg/Lであった。
【0102】
[実施例3−オリゴマーポリマー]
[オリゴマー合成]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、脱塩水1582.2部、ラウリル硫酸ナトリウム30重量%溶液3.0部を装入した。この混合物を80℃に加熱した。60℃で、脱塩水303.3部、ラウリル硫酸ナトリウム30重量%溶液8.9部、ラウリルメルカプタン5.7部、3−メルカプトプロピオン酸2.8部、メタクリル酸メチル251.7部、イタコン酸ジメチル366.8部、メタクリル酸35.5部、およびジアセトンアクリルアミド56.9部からなるモノマー供給原料の5%を加えた。80℃で、過硫酸ナトリウム0.6部の脱塩水27.6部中溶液を加えた。10分後、過硫酸ナトリウム1.5部および脱塩水98.0部を含む触媒の供給を、モノマー供給原料の残りの供給と一緒に開始した。どちらの供給も360分間を要した。モノマー供給が完了したら、供給槽を脱塩水26.4部で濯いだ。温度を80℃で30分間維持した後、25%アンモニア水溶液38.3部および脱塩水42.0部の混合物を反応器に加えた。反応器の内容物を80℃で60分間撹拌した後、このオリゴマーを室温に冷却した。結果として得られた生成物の固形分を脱塩水で25%に修正した。最終生成物のpHは8.2であった。
【0103】
[オリゴマー−ポリマー合成]
冷却器、温度計、メカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、脱塩水103.9部およびオリゴマー504.3部を加えた。反応器の内容物を60℃に加熱した。60℃で、メタクリル酸ブチル46.5部、アクリル酸ブチル33.1部、イタコン酸ジメチル56.9部、およびイタコン酸ジブチル56.9部からなるモノマー供給原料の50%を加えた後、エマルジョンを5分間撹拌した。次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水1.0部を加えた後、i−アスコルビン酸0.7部の脱塩水13.2部中溶液の3分の1を加えた。温度が5分以内に上昇した。84℃付近でピーク温度に達した後、脱塩水6.9部を加えてエマルジョンの温度を80℃で30分間維持し、その後、バッチを60℃に冷却した。次いで、モノマー供給原料の残りを装入した後、反応器の内容物を5分間撹拌した。次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水1.0部の後、i−アスコルビン酸0.7部の脱塩水13.2部中溶液の3分の1。今度はピーク温度が約75℃となり、その後、バッチを75℃で30分間撹拌した。次いで、スチレン20.9部およびアクリル酸ブチル13.3部からなる追反応用モノマー組成物を加え、混合物を5分間撹拌した。t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水1.0部、次いでi−アスコルビン酸0.7部の脱塩水13.2部中溶液の最後の3分の1を加えた。温度が±67℃に上昇した。67℃で30分後、t−ブチルヒドロペルオキシド70重量%スラリー0.4部、脱塩水0.6部からなる後反応の後、i−アスコルビン酸0.3部の脱塩水4.4部中溶液を加えた。混合物全体を20分間撹拌し、30℃に冷却した。アジピン酸ジヒドラジド4.3部を加えた。このバッチを5分間撹拌した後、濾過した。
【0104】
最終エマルジョンの固形分は40%であり、イタコン酸の総濃度はモノマー全体の50%であり、遊離イタコン酸エステル含有量は597mg/Lであった。
【0105】
[実施例4−逐次重合体]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに脱塩水164.3部を加えて82℃に加熱した。次いで、炭酸水素ナトリウム0.2部、Surfagene FAZ109を13.0部、脱塩水12.6部、および25%アンモニア水溶液0.2部を加えた。5分後、過硫酸ナトリウム0.2部の脱塩水3.2部中溶液を装入し、直後に、脱塩水81.5部、炭酸水素ナトリウム0.2部、Surfagene FAZ109を15.7部、アクリル酸9.5部、アクリル酸ブチル70.1部、イタコン酸ジメチル43.3部、イタコン酸ジブチル65.0部、およびメタクリル酸メチル28.7部からなるモノマー供給原料の10%を装入した。温度は自然に約90℃まで上昇するであろう。90℃で、脱塩水16.4部、過硫酸ナトリウム0.8部、炭酸水素ナトリウム0.1部、およびSurfagene FAZ109を5.5部からなる開始剤の80%の供給ならびにモノマーの残りの供給を開始し、温度を90℃に維持した。どちらの供給も180分間を要した。モノマーの供給が完了したら、供給槽を脱塩水3.2部で濯いだ。両方の供給が完了したら、反応器の内容物を30分間撹拌しながら、25%アンモニア水溶液0.4部および脱塩水0.5部の混合物を反応器に加え、脱塩水6.4部を開始剤供給原料の残りに加えた。
【0106】
次いで、脱塩水16.7部、炭酸水素ナトリウム0.1部、Surfagene FAZ109を9.1部、アクリル酸2.7部、イタコン酸ジメチル24.4部、イタコン酸ジブチル2.7部、アクリル酸ブチル5.9部、およびメタクリル酸メチル18.4部からなる第2モノマーの供給を開始した。この供給に60分間を要した。同時に、開始剤供給原料の残りを90分間かけて供給した。モノマーの供給が完了したら、供給槽を脱塩水3.2部で濯いだ。開始剤供給完了から30分後、スチレン27.1部からなる追反応用モノマー組成物を30分間以内に加えた。反応器の内容物を30分間撹拌し、60℃に冷却した。次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水0.4部を加えながら、同時にi−アスコルビン酸0.2部の脱塩水13.4部中溶液の供給原料を供給した。この供給に20分間を要した。このバッチを60℃でさらに30分間撹拌し、30℃に冷却した。25%アンモニア水溶液を用いてエマルジョンのpHを8.0に調整し、脱塩水を用いて固形分を44%に調整した。
【0107】
最終エマルジョンの固形分は44%であり、イタコン酸の総濃度はモノマー全体の45%であり、遊離イタコン酸エステル含有量は314mg/Lであった。
【0108】
[実施例5−逐次重合体]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに脱塩水164.3部を加えて82℃に加熱した。次いで、炭酸水素ナトリウム0.2部、Surfagene FAZ109を13.0部、脱塩水12.6部、および25%アンモニア水溶液0.2部を加えた。5分後、過硫酸ナトリウム0.2部の脱塩水3.2部中溶液を装入し、直後に、脱塩水72.0部、炭酸水素ナトリウム0.2部、Surfagene FAZ109を15.7部、アクリル酸9.5部、アクリル酸ブチル67.8部、イタコン酸ジメチル43.3部、イタコン酸ジブチル65.0部、Plex 6852(Evonikから
*19.0部、およびメタクリル酸メチル21.6部からなるモノマー供給原料の10%を装入した。温度が自然に約90℃まで上昇するであろう。90℃で、脱塩水16.4部、過硫酸ナトリウム0.8部、炭酸水素ナトリウム0.1部、およびSurfagene FAZ109を5..5部からなる開始剤の80%の供給およびモノマーの残りの供給を開始し、温度を90℃に維持した。どちらの供給も180分間を要した。モノマーの供給が完了したら供給槽を脱塩水3.2部で濯いだ。両方の供給が完了したら反応器の内容物を30分間撹拌しながら、25%アンモニア水溶液0.4部および脱塩水0.5部の混合物を反応器に加え、脱塩水6.4部を残りの開始剤供給原料に加えた。
【0109】
次いで、脱塩水13.9部、炭酸水素ナトリウム0.1部、SurfageneFAZ109を9.1部、アクリル酸2.7部、イタコン酸ジメチル24.4部、イタコン酸ジブチル2.7部、Plex 6852
*を5.4部、アクリル酸ブチル5.3部、およびメタクリル酸メチル16.4部からなる第2モノマーの供給を開始した。この供給に60分間を要した。同時に、開始剤供給原料の残りを90分間かけて供給した。モノマーの供給が完了したら、供給槽を脱塩水3.2部で濯いだ。開始剤供給完了から30分後、スチレン27.1部からなる追反応用モノマー組成物を30分以内に供給した。反応器の内容物を30分間撹拌し、60℃に冷却した。次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水0.4部を加え、同時に、i−アスコルビン酸0.2部の脱塩水13.4部中溶液を供給した。この供給に20分間を要した。このバッチを60℃でさらに30分間撹拌し、30℃に冷却した。エマルジョンのpHを25%アンモニア水溶液を用いて8.0に調整し、固形分を脱塩水を用いて44%に調整した。
【0110】
最終エマルジョンの固形分は44%であり、イタコン酸の総濃度はモノマー全体の45%であり、遊離イタコン酸エステル含有量は685mg/Lであった。
【0111】
*Plex 6852は、水中50%のN−(2−メタクリロキシエチル)エチレン尿素(Evonikから)である。
【0112】
[実施例6−オリゴマーポリマー]
[オリゴマー合成]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、脱塩水1582.2部および30重量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液3.0部を装入した。この混合物を80℃に加熱した。60℃で、脱塩水303.3部、30重量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液8.9部、ラウリルメルカプタン5.7部、3−メルカプトプロピオン酸2.8部、メタクリル酸メチル251.7部、イタコン酸ジメチル366.8部、メタクリル酸35.5部、およびジアセトンアクリルアミド56.9部からなるモノマー供給原料の5%を加えた。80℃で、過硫酸ナトリウム0.6部の脱塩脱塩水27.6部中溶液を加えた。10分後、過硫酸ナトリウム1.5部および脱塩水98.0部を含む触媒の供給をモノマー供給原料の残りの供給と一緒に開始した。どちらの供給も360分間を要した。モノマーの供給が完了したら、供給槽を脱塩水26.4部で濯いだ。温度を80℃で30分間維持した後、25%アンモニア水溶液38.3部および脱塩水42.0部の混合物を反応器に加えた。反応器の内容物を80℃で60分間撹拌した後、このオリゴマーを室温に冷却した。結果として得られた生成物の固形分を脱塩水で25%に調整した。最終生成物のpHは8.2であった。
【0113】
[オリゴマー−ポリマー合成]
冷却器、温度計、およびメカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに脱塩水103.9部およびオリゴマー504.3部を加えた。反応器の内容物を60℃に加熱した。60℃で、アクリル酸ブチル79.6部、イタコン酸ジメチル34.1部、およびイタコン酸ジブチル79.6部からなるモノマー供給原料の50%を加えた後、エマルジョンを5分間撹拌した。次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水1.0部を加えた後、i−アスコルビン酸0.7部の脱塩水13.2部中溶液の3分の1を加えた。温度が5分以内に上昇した。84℃付近でピーク温度に達したら脱塩水6.9部を加え、エマルジョンの温度を80℃で30分間維持した後、このバッチを60℃に冷却した。次いで、モノマー供給原料の残りを装入し、反応器の内容物を5分間撹拌した。次いで、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水1.0部、次いでi−アスコルビン酸0.7部の脱塩水13.2部中溶液の3分の1を装入した。今度はピーク温度が約75℃となり、その後、バッチを75℃で30分間撹拌した。次いで、スチレン13.8部およびアクリル酸ブチル20.4部からなる追反応用モノマー組成物、そして混合物を5分間撹拌した。t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.3部、脱塩水1.0部、次いでi−アスコルビン酸0.7部の脱塩水13.2部中溶液の最後の3分の1を加えた。温度が±67℃に上昇した。67℃で30分後、t−ブチルヒドロペルオキシドの70重量%スラリー0.4部、脱塩水0.6部からなる後反応の後、i−アスコルビン酸0.3部の脱塩水4.4部中溶液を加えた。混合物全体を20分間撹拌した後、30℃に冷却した。アジピン酸ジヒドラジド4.3部を加えた。このバッチを5分間撹拌した後、濾過した。
【0114】
最終エマルジョンの固形分は40%であり、イタコン酸の総濃度はモノマー全体の50%であり、遊離イタコン酸エステル含有量は122mg/Lであった。