特許第5669341号(P5669341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5669341光学ガラス、光学素子及び精密プレス成形用プリフォーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669341
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子及び精密プレス成形用プリフォーム
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/062 20060101AFI20150122BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20150122BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20150122BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20150122BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C03C3/062
   C03C3/064
   C03C3/066
   C03C3/068
   G02B1/00
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2008-49598(P2008-49598)
(22)【出願日】2008年2月29日
(65)【公開番号】特開2009-203140(P2009-203140A)
(43)【公開日】2009年9月10日
【審査請求日】2010年10月15日
【審判番号】不服2013-16103(P2013-16103/J1)
【審判請求日】2013年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】永岡 敦
【合議体】
【審判長】 真々田 忠博
【審判官】 中澤 登
【審判官】 河原 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−327926(JP,A)
【文献】 特開2007−99610(JP,A)
【文献】 特開2004−292299(JP,A)
【文献】 特開2009−40647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00- 1/08, 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、Biを85%以上91.28%以下含有し、
、SiO及びAlを合計含有量で2%以上10%以下含有し、
RO成分(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される一種以上)を1%以上5%以下含有し、
屈折率(nd)が2.15以上、アッベ数(νd)が20以下であり、
反射損失を含む分光透過率5%(10mm厚さ)における波長が470nm以下である事を特徴とする光学ガラス(但し、Gaを1モル%以上含有するものを除く)
【請求項2】
ガラス転移点(Tg)が500℃以下である事を特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で、
ZnO 0〜5%、
BaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
CaO 0〜5%、及
MgO 0〜5%、
O 0〜10%、
NaO 0〜10%、
O 0〜10%、及
CsO 0〜10%
ただしRnO(RnはLi,Na,K,Csからなる群より選択される一種以上)の合計含有量が0〜10%以下、及
0〜10%、
SiO 0〜10%、
Al 0〜10%、
TiO 0〜10%、
Nb 0〜10%、
WO 0〜10%、
Ta 0〜10%、
ZrO 0〜10%、
0〜10%、
La 0〜10%、
Gd 0〜10%、
Yb 0〜10%、
0〜10%、
Sb 0〜3%、及
Ge 0〜10%、の各成分を含有し
上記酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量が前記酸化物基準組成の100質量%を基準にしてF原子として計算した場合の質量%で表した場合の上限値が10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1からいずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の光学ガラスを含んでなる光学素子。
【請求項6】
請求項のプリフォームを精密プレスすることにより成形される光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Biを高含有するBi系光学ガラスに関し、更に詳しくは屈折率(nd)が2.1以上、アッベ数(νd)が20以下の光学恒数を有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を含む機器の集積化、高機能化が急速に進められており、光学系への高精度化、軽量化、小型化の要望が急速に高まっている。これらの要求に応える為には、レンズ枚数の削減に効果のあるレンズの非球面化や、レンズの薄型化に効果のある高屈折硝材の使用が必要になってきている。
【0003】
非球面レンズの製造には一般的に研削や研磨の不要な精密プレス成形を用いる。また、精密プレス成形で用いる光学ガラスは、研削・研磨して用いる光学ガラスよりも低温で軟化する低Tg光学ガラスである。ここで用いられる低Tg光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、低ければ低いほど、成形時間短縮、成形エネルギー低減、型材の長寿命化が可能となり、安価にレンズを製造する事が可能となる。
【0004】
高屈折率高分散領域かつガラス転移点(Tg)の低いガラスとして、Bi2O3を多量に含むガラスが開発されている。例えば非特許文献1,2には高屈折率のPbO−Bi2O3−(重金属)系のガラスが開示されているが、PbOやTl2Oの様な有害な物質を使用しており、光学ガラスとしては問題がある。
【0005】
また、非特許文献3,4にはTeO−Bi−WOやBi−Ga−(KO,CsO,NaO)といったガラスが開示されているが、いずれも480〜550nmの範囲で吸収端が存在し、光学ガラスとしては使用する事が難しい。
また、非特許文献1,2には物性の坩堝材依存性として、金坩堝・白金坩堝の実験結果が開示されている。白金坩堝の場合は溶融により白金が溶け込み、大幅に着色する。金坩堝の場合は、着色はしないが、金自体の融点が低いため、上限温度が限られて清澄が出来ず、光学ガラスに求められる品質を満足する事が難しい。上記の様に生産を考慮した場合、いずれのBi高含有組成も大きな課題が残ると言える。
【0006】
さらに特許文献1、2及び3にはB及びBiを多量に含有する高屈折率高分散ガラスが記載されている。しかしこれらの文献に記載されているガラスは屈折率が2.1を下回るものであり、屈折率が2.1を超えるまでBiを含有させると溶融時及び成形時の安定性が低下し、歩留まりが低下する等の不利益があった。
【非特許文献1】American Ceramic Society, P,1017 −24,Vol77,No4,1994
【非特許文献2】American Ceramic Society, P.2315, Vol.75, No.9,October 1992
【非特許文献3】American Ceramic Society Bulletin, P.1543, Vol.71, No.10, October 1992
【非特許文献4】Glass Technology , P.106, Vol.28, No.2, April 1987
【特許文献1】特開2006−327926号公報
【特許文献2】特開2007−106625号公報
【特許文献3】特開2002−201039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上記従来技術の有する諸欠点を総合的に解決し、屈折率(nd)が2.1以上、アッベ数(νd)が20以下の光学恒数を有し、ガラス転移点(Tg)が十分に低く、高い生産性を有する光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、Biを82%以上含有し、その他のフォーマーとしてB、SiO及びAlの1種以上含有するガラスにおいて、RO成分(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される一種以上)を所定量含有させ、RO成分とRn2O成分(RnはLi,Na,K,Cs,Rbからなる群より選択される1種以上)並びにRO成分とBi含有量とのバランスを所定の範囲に限定することにより、屈折率(nd)が2.1を超え、ガラス転移点(Tg)が十分に低く、かつ安定生産可能な所望の光学ガラスを得られる事を見出し、本発明を開発させるに至った。より具体的には以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)酸化物基準の質量%で、Biを82%以上含有し、
屈折率(nd)が2.1以上、アッベ数(νd)が20以下である事を特徴とする光学ガラス。
【0010】
(2)ガラス転移点(Tg)が500℃以下である事を特徴とする(1)に記載の光学ガラス。
【0011】
(3)酸化物基準の質量%で、RO成分(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される一種以上)及び/又はRnO成分(RnはLi,Na,K,Cs,Rbからなる群より選択される1種以上)を0.1%以上含有する(1)又は(2)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0012】
(4)酸化物基準の質量%で、RO成分(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される一種以上)0%を超え含有する(1)から(3)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0013】
(5)酸化物基準の質量%で、TeO成分及びSeO成分のいずれか一方又は両方を、0.1%〜10%含有することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0014】
(6)酸化物基準の質量%で、B、SiO及びAlの合計含有量が0.1%以上である(1)から(5)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0015】
(7)酸化物基準の質量%で、
ZnO 0〜15%、及び/又は
BaO 0〜15%、及び/又は
SrO 0〜15%、及び/又は
CaO 0〜15%、及び/又は
MgO 0〜15%、
ただしRO(RはZn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される一種以上)の合計含有量が0%を超え15%以下、及び/又は
LiO 0〜15%、及び/又は
NaO 0〜15%、及び/又は
O 0〜15%、及び/又は
CsO 0〜15%、
ただしRnO(RnはLi,Na,K,Csからなる群より選択される一種以上)の合計含有量が0〜15%以下、及び/又は
0〜15%、及び/又は
SiO 0〜15%、及び/又は
Al 0〜15%、及び/又は
TiO 0〜15%、及び/又は
Nb 0〜15%、及び/又は
WO 0〜15%、及び/又は
Ta 0〜15%、及び/又は
ZrO 0〜15%、及び/又は
0〜15%、及び/又は
La 0〜15%、及び/又は
Gd 0〜15%、及び/又は
Yb 0〜15%、及び/又は
0〜15%、及び/又は
Sb 0〜15%、及び/又は
Ge 0〜15%、の各成分を含有し
上記酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量が前記酸化物基準組成の100質量%を基準にしてF原子として計算した場合の質量%で表した場合の上限値が10%以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0016】
(8)反射損失を含む分光透過率5%(10mm厚さ)における波長が470nm以下である事を特徴とする(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(9)(1)から(8)いずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【0018】
(10)(1)から(8)のいずれかに記載の光学ガラスを含んでなる光学素子。
【0019】
(11)(9)のプリフォームを精密プレスすることにより成形される光学素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光学ガラスは、上記構成要件を採用する事により、屈折率(nd)が2.1以上、アッベ数(νd)が20以下であり、低いガラス転移点を有した高屈折率高分散光学ガラスを得ることができる。このガラスは高屈折率である為、レンズ厚みを薄くする事ができ、分散が特徴的である為、光学設計上の自由度が高くなり、光学機器の軽量化小型化を図る事ができる。また、前述のようにガラス転移点が十分に低いため、精密プレス成形用光学ガラスとして使用することができる。ガラス転移点が低い事で、精密プレス成形の温度を低く抑える事が可能となり、その結果、金型の長寿命化やガラスと離型膜との離型性向上に寄与する。
【0021】
さらに、RO成分を適量含有しつBi成分とのバランスをとることにより、ガラス安定性を向上させることが可能となる。また、アルカリ金属成分を含有させることで、安定なガラス状態を保ちつつ、十分に低いガラス転移点(Tg)を得る事ができるようになり、溶融温度を下げ、比較的低温での溶融を行う事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の光学ガラスの、具体的な実施態様について説明する。
【0023】
(ガラス成分)
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分は質量%にて表現する。なお、本願明細書中において質量%で表されるガラス組成は全て酸化物基準での質量%で表されたものである。ここで「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属フッ化物等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成であり、上記酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量とは、本発明のガラス組成物中に存在しうるフッ素の含有率を、前記酸化物基準組成100%を基準にして、F原子として計算した場合の質量%で表したものである。
【0024】
<必須成分、任意成分について>
Bi成分はガラスの安定性の向上、及び、高屈折率高分散化、低Tg化、化学的耐久性の向上に欠かせない成分である。しかし、その量が多すぎるとガラス自体の透過率を悪化させることがあり、また少なすぎると光学設計ニーズの高い光学定数を満たすことを困難にしやすい。したがって、Bi成分量は好ましくは82%以上、より好ましくは84%、最も好ましく85%を下限とする。
【0025】
TeO成分及びSeO成分は、Bi成分を多量に含有する光学ガラスにおいて、高い屈折率及び低いガラス転移点を維持しつつ、脱泡性向上に極めて有効な成分である。ただし過剰に含有させるとガラスの安定性を低下させやすい。またこれらの成分を含有させる事で、清澄工程の温度が下がり、金坩堝溶解を行う事が出来る。従って、これら成分の一方又は両方の合計は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%、最も好ましくは0.5%を下限とし、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは3%を上限とする。なお、各々の成分の含有量については、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは3%を上限とし、特に下限は設けない。
【0026】
RO成分(Rは、Zn,Ba,Sr,Ca,Mgからなる群より選択される1種以上)はガラスの溶融性の向上及び任意の光学恒数に調整するために含有させることができるが、過剰に含有させると安定性の低下、化学的耐久性の低下、透過率の低下を招きやすくなる。また、Bi含有量を大きくし、高屈折率化を図る際のガラス安定性を向上又は維持する効果がある。RO成分の合計含有量は好ましくは0%を超えて含有し、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とし、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0027】
なお、本発明のようなBiを多量に含有し、屈折率が2.1を超えるようなガラスにおいては、ガラス溶融時の安定性が低下しやすくなる。その場合Bi全含有量に対してROを所定の含有量にバランスをとることによって、安定性が大幅に向上する。従って、(ROの合計含有量)/(Biの含有量)の値が、好ましくは0.005、より好ましくは0.010、最も好ましくは0.015を下限とし、好ましくは0.100、より好ましくは0.090、最も好ましくは0.080を上限とする。
【0028】
ZnO成分はガラス安定性向上、溶融性向上、高分散化に効果のある成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0029】
BaO成分はガラス安定性向上、高屈折率化に効果のある成分であるが、その量が多すぎると化学的耐久性を下げ、ガラス安定性を低下させやすくする。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0030】
SrO成分はガラスを高屈折率高分散に保つ効果のある成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくする。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0031】
CaO成分はガラス安定性の向上、低分散化に効果のある成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性が低下しやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0032】
MgO成分は低分散化させる効果のある成分であるが、その量が多すぎるとプレス温度域での耐失透性低下をまねくことがある。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0033】
RnO成分(RnはLi,Na,K,Csからなる群より選択される1種以上)はガラスの溶融性向上及びガラス転移点の低下させるために含有させることができるが、過剰に含有させると化学的耐久性を低下させやすくなる。本発明において、RnO成分は含まなくとも所望の光学ガラスを得ることはできるが、上記効果を得るためには、RnO合計含有量が好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とし、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0034】
LiO成分は低Tg化、ガラス安定性、溶融性向上に効果のある成分であるが、その量が多すぎると化学的耐久性が低下しやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましく10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0035】
NaO成分は低Tg化、溶融性向上に効果のある成分である。しかし、その量が多すぎるとガラス安定性の低下、化学的耐久性が低下しやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましく10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0036】
O成分は低分散化、低Tg化の効果のある成分である。その量が多すぎるとガラス安定性の低下、化学的耐久性が低下しやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましく10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0037】
CsO成分は低Tg化の効果のある成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性の低下、化学的耐久性が低下しやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましく10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0038】
RO及びRnO成分の合計含有量は、ガラスの安定性向上、光学恒数の調整、ガラス転移点の低下等のために0.1%以上であることが好ましく、さらに好ましくは1%を超えて含有させ、最も好ましくは1.5%以上含有する。また、RO及びRnO成分の合計含有量が多すぎると液相温度の上昇や、化学的耐久性の低下が生じやすくなるため、その合計含有量は、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0039】
、SiO及びAl成分はガラス形成成分として有用な成分であり、透過率の向上や液相温度に対する粘性の向上、化学的耐久性を向上させることができる成分である。したがって、これら成分の1種以上の合計含有量が0.1%以上であることが好ましく、2%以上とすることがより好ましく、更に好ましくは4%以上含有する。ただし、これらの成分の合計含有量が多すぎるとTgが高くなる傾向があり、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限とする。また、この範囲の組成で生産を行うと、液相温度が低く安定したガラスである為、生産時の歩留まりを向上する事ができる。
【0040】
成分はガラス安定性を向上させる為に有用な成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性が悪化しやすくなる。B成分は、含有しなくとも本発明の目的とする光学ガラスを得ることは可能であるが、上記効果を奏するためには、0%を超えて含有することが好ましく、より好ましくは0.1%、最も好ましくは0.2%を下限とし、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0041】
SiO成分はガラス安定性を向上させ、ガラスの粘性を上げる為に有用な成分であるが、その量が多すぎると、屈折率(nd)が小さくなりやすくなる。SiO成分は、含有しなくとも本発明の目的とする光学ガラスを得ることは可能であるが、上記効果を奏するためには、0%を超えて含有することが好ましく、好ましくは0.1%、より好ましくは0.2%を下限とし、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0042】
Al成分はガラス安定性を向上させ、化学的耐久性や機械的強度を向上させる為に有用な成分ではあるが、その量が多すぎると、ガラス安定性が悪化しやすくなる。したがって、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限とする。なお、Alは含有しなくとも差し支えない。
【0043】
TiO成分は高屈折率高分散を得る為に効果のある任意成分であるが、その量が多すぎると透過率を低下させ、ガラス安定性を低下させやすくする。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0044】
Nb成分はガラスの高屈折率化を保つ為に効果のある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくする。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0045】
WO成分はガラスの高分散化を保つ為に効果のある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラス安定性の低下、透過率を悪化させやすくする。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0046】
Ta成分は高屈折率化を保つ為に効果のある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を悪化させる。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0047】
ZrO成分は化学的耐久性を向上させる成分として効果のある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を悪化させる。したがって、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0048】
、La、Gd、Ybの各成分は、ガラスの化学的耐久性の向上や高屈折率を維持する事に効果があり、任意に添加し得る成分であるが、その量が多いと耐失透性が低下しやすくなる。従って、上記成分の合計量の上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。なお、各成分においては、それぞれ10%以下であれば問題ない。
【0049】
成分は、ガラス安定性の向上に効果のある成分であり、任意に添加し得る成分である。しかしその量が多すぎるとガラスの分相傾向が強くなる。したがって、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。更に好ましくは含まない。
【0050】
Sb成分は脱泡剤、ガラスの酸化還元性調整、高分散化の効果のあり、任意に添加し得る成分である、その量が多すぎると溶融性の悪化、透過率を低下させやすくする。したがって、好ましくは3%、より好ましくは2%、最も好ましくは1%を上限とする。
【0051】
GeO成分はガラスの着色改善とガラス安定性の向上に効果のある成分であるが、高価であるために、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが好ましい。更に好ましくは含まない。
【0052】
Fは、ガラスの溶融性を高める効果があるが、屈折率を急激に下げ、耐失透性が悪化する為に任意に添加し得る成分である。したがって、上記酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量が前記酸化物基準組成100質量%基準にして、F原子として計算した場合の質量%で表した場合に上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0053】
<含有させるべきでない成分について>
本発明においては、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。したがって、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。ここで「実質的に含まない」とは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0054】
Th成分は高屈折率化又はガラスとしての安定性向上を目的として、Cd及びTl成分は低Tg化を目的として含有することができる。しかし、Th,Cd,Tl,Osの各成分は、近年有害な化学物質成分として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まない方が好ましい。
【0055】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなり、本発明のガラスに鉛成分を含有させるべきでない。
【0056】
As成分は、ガラス溶融の清澄性を向上させるために使用されている成分であるが、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、本発明のガラスにAsを含有させることが好ましくない。
【0057】
本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため直接的にmol%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のmol%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
Bi 40%以上、
SiO 0を超え30%以下、
0を超え50%以下、並びに
Al 0〜20%及び/又は
TiO 0〜20及び/又は
Nb 0〜20%及び/又は
WO 0〜10%及び/又は
Ta 0〜10%及び/又は
ZrO 0〜10%及び/又は
ZnO 0〜20%及び/又は
MgO 0〜30%及び/又は
CaO 0〜40%及び/又は
SrO 0〜40%及び/又は
BaO 0〜40%及び/又は
LiO 0〜30%及び/又は
NaO 0〜30%及び/又は
O 0〜30%及び/又は
0〜20%及び/又は
La 0〜20%及び/又は
Gd 0〜20%及び/又は
Yb 0〜20%及び/又は
0〜50%及び/又は
Sb 0〜1%及び/又は
GeO 0〜20%及び/又は
CeO 0〜5%及び/又は
TeO 0〜5%及び/又は
F 0〜10%及び/又は
【0058】
次に本発明の光学ガラスの物性について説明する。
本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、屈折率(n)が好ましくは2.10、より好ましくは2.12、最も好ましくは2.15を下限とし、好ましくは2.40、より好ましくは2.35、最も好ましくは2.30を上限とする。
【0059】
また、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、アッベ数(ν)が好ましくは10、より好ましくは11、最も好ましくは12を下限とし、好ましくは20、より好ましくは19、最も好ましくは18を上限とする。
【0060】
本発明の光学ガラスにおいては、ガラス転移点(Tg)が高くなりすぎると前述したように精密プレス成形を行う場合、成形型や型膜の劣化などが起こり易くなる。従って、本発明の光学ガラスのTgは好ましくは500℃、より好ましくは450℃、最も好ましくは400℃を上限とする。
【0061】
本発明の光学ガラスは、精密プレス成形をされ、典型的にはレンズ、プリズム、ミラー用途に使用することができる。前述のとおり本発明の光学ガラスはプレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、或いは溶融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォーム材の製造方法としては、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のような溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、またストリップ材を冷間加工して製造しても良い。
【0062】
なお、本発明の光学ガラスを用いて溶融ガラスを滴下させてプリフォームを製造する場合、溶融ガラスの粘度は、低すぎるとガラスプリフォームに脈理が入りやすくなり、高すぎると、自重と表面張力によるガラスの切断が困難になる。
【0063】
従って、高品質かつ安定した生産のためには、液相温度における粘度(dPa・s)の対数logηの値が好ましくは0.3〜2.0、より好ましくは0.3〜1.8、最も好ましくは0.3〜1.6の範囲である。
【0064】
本発明の光学ガラスはデジタルカメラやデジタルビデオカメラ用のレンズ等として使用されるのであるから、光線透過率が高いほうが好ましい、特に反射損失を含む分光透過率5%(10mm厚さ)における波長(λ5)が、好ましくは470nm、より好ましくは460nm、最も好ましくは455nmを上限とする。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0066】
表1に示す組成で、ガラス重量が400gになるように原料を秤量し、均一に混合した。石英坩堝、又は、金坩堝を用いて750℃〜950℃で2〜3時間溶解した後、700〜600℃程度に下げて、1時間くらい保温してから金型に鋳込み、ガラスを作製した。得られたガラス特性を表1に示す。
【0067】
屈折率(nd)、アッベ数(νd)については日本光学硝子工業会規格JOGIS 01−2003に基づいて測定した。なお、アニール条件は徐冷降下速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行った。
【0068】
反射損失を含む透過率5%の波長(λ5)についてはJIS Z 8722に準じた装置、測定方法にて測定した。
【0069】
ガラス転移点(Tg)については、得られた光学ガラスを粉末状にし、示差熱分析装置(ネッチゲレテバウ社製 STA 409 CD)を用いて測定した。サンプル粒度は425〜600μmとし、昇温速度は10℃/minとした。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
本発明の実施例のガラスは屈折率(nd)が2.1以上であり、ガラス転移点(Tg)が十分に低い光学ガラスを取得する事が可能である。比較例のガラスは光学特性上一般的な高屈折率ガラスである。
【0076】
実施例1〜20は屈折率(nd)が2.1以上であり、ガラス転移点(Tg)が十分に低い光学ガラスを安定に取得することができた。一方、比較例1は屈折率が2.1以下であり、ガラス安定性が不十分であり、これ以上のBi高含有による高屈折率化も困難である。比較例2は屈折率が2.1以下であり、かつ透過率λ5の値が大きく、光学ガラスとして使用するには不十分であった。