特許第5669342号(P5669342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669342
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】坩堝台
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/08 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
   F27B14/08
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2008-63953(P2008-63953)
(22)【出願日】2008年3月13日
(65)【公開番号】特開2009-222239(P2009-222239A)
(43)【公開日】2009年10月1日
【審査請求日】2011年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100167852
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100101764
【弁理士】
【氏名又は名称】川和 高穂
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 重樹
【審査官】 近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−206026(JP,A)
【文献】 特開平10−115490(JP,A)
【文献】 特開2000−130948(JP,A)
【文献】 特開2005−016812(JP,A)
【文献】 特開2001−208480(JP,A)
【文献】 実開昭59−026599(JP,U)
【文献】 国際公開第2007/029416(WO,A1)
【文献】 特開2005−272153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/00〜14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を溶融及び/または精錬する坩堝を坩堝炉中に設置する時に用いられる円筒形の坩堝台であって、
前記坩堝台は、円筒形の耐火物部材が高さ方向に複数個積まれたものであり、
前記耐火物部材には、上下方向に該耐火物部材を貫通する中空部であって、該耐火物部材を高さ方向に積んだときに前記坩堝台を上下に貫通する中空部と、前記中空部と周端部の間を貫いている上面側凹溝と、前記上面側の凹溝と対向して合致できる位置に前記上面側の凹溝と同じ形状である下面側の凹溝と、が設けられており、
一方の前記耐火物部材の前記下面側の凹溝と、前記一方の耐火物部材の下面側に接する他方の前記耐火物部材の前記上面側の凹溝と、にて横方向の貫通孔が形成されている坩堝台。
【請求項2】
少なくとも最上段に位置する前記耐火物部材の上面側には、前記凹溝が複数配設されている請求項1に記載の坩堝台。
【請求項3】
前記最上段の耐火物部材が、炭化珪素質である請求項2に記載の坩堝台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を溶解および/または精錬する坩堝炉において、坩堝を設置する坩堝台に関する。
【背景技術】
【0002】
坩堝炉を用いて金属の溶融、精錬を行うには、通常、坩堝を載置するための坩堝台を坩堝炉内に設置する。これは、炉の下部に、ガス、重油、灯油等の燃料をバーナーで噴霧状に吹き込み燃焼させるため、炉内下部が燃焼室となっているためである。つまり、坩堝台を設置せずに坩堝を炉床に置くと、バーナーから吹き込まれた燃料の燃焼火焔が坩堝に局所的に直接あたり、坩堝自体に温度差が生じて割れや材質変化が発生しやすくなる。この割れから溶けた金属が炉内に洩れ出すと、炉の操業を停止せざるを得なくなる。そこで、この部位に坩堝台を置き、この坩堝台に坩堝を載置することで、バーナーからの火焔が坩堝に直接あたらないようにしている。
【0003】
しかし、この坩堝台に当接する坩堝の底部には直接バーナーからの火焔に触れることがないので、熱の伝わりが坩堝胴部に比べて坩堝底部は遅く、坩堝自体に大きな温度差が生じて熱歪による亀裂が発生しやすくなる。さらに、昇温効率も劣るので金属の溶融に時間がかかることとなる。そこで、坩堝台上面に、坩堝底部に対して開口状態となっている溝からなる空隙部を設けて、火焔が直接ルツボの底部に当る構造とした坩堝台が開示されている(特許文献1)。また、坩堝台の胴体に横方向に貫通する通気穴を1本形成し、この通気穴を通じて坩堝台自体に速やかに熱が伝達されるような構成とすることで、坩堝台に接する坩堝の底部中央の昇温が坩堝の底部側面に比べて遅れることを回避し、金属の溶融速度を高めることが開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平10−206026号公報
【特許文献2】特開平10−115490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した坩堝台はいずれも一体型であり、坩堝台内部は火焔の通りが少ないことから、坩堝台自体の昇温時間は遅く、よって、坩堝の昇温にも時間がかかってしまう。また、上記空隙部や通気穴を設けても、上記の通り坩堝台自体の昇温時間が遅いことから、坩堝台に接している坩堝底部における受熱量は依然として小さいが、その一方で、燃焼室部位の熱は坩堝の胴部を通り上部へと伝わって行くことから、坩堝の加熱による昇温は底部が遅く胴部上部が速くなってしまう。この温度差からくる熱歪により、坩堝に亀裂が発生して溶けた金属が炉内に洩れ出し、炉の操業を停止せざるを得なくなる場合がある。
【0005】
また、高い昇温効率が要求される坩堝台の材質は、通常、熱伝導率が高い黒鉛質が用いられているが、黒鉛は耐酸化性が弱いために、材質自体に酸化防止剤が添加されかつ坩堝台の表面に酸化防止剤が塗布されている。しかし、金属の溶解効率を高めるために熱伝導率の高い黒鉛坩堝を用いる場合、この黒鉛坩堝にも黒鉛質坩堝台同様に酸化防止剤が内在及び表面塗布されているため、炉の運転中に坩堝の酸化防止剤と坩堝台の酸化防止剤が軟化溶着してしまい、使用後に坩堝と坩堝台とを一緒に廃棄しなければならないことがある。また、坩堝台表面に酸化防止対策を施しても酸化損耗を完全に防ぐことはできず、坩堝台は載置された坩堝を支えきれずに炉の運転中にて傾き、正常な操業が出来ないばかりではなく坩堝も損傷させることがある。
【0006】
さらに、坩堝台が一体型であると、重量面から人力で炉内に坩堝台を設置することは困難であり、吊具を用意しなければならないという取り扱い作業上の問題がある。また、坩堝台が一体型であると、坩堝台の一部が損傷しただけでも台全体を交換しなければならず、炉の保全のコストが上昇してしまう。
【0007】
本発明は上記事情を鑑み、坩堝自体の温度差を小さくすることで、温度差からくる熱歪により坩堝に亀裂が発生して溶けた金属が炉内に洩れ出す問題を改善するとともに、金属を溶融する所要時間を短縮しつつ均質な溶湯を得られることで高効率な生産活動で品質の高い製品が得られ、さらに耐用寿命の長い坩堝台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、金属を溶融及び/または精錬する坩堝を坩堝炉中に設置する時に用いられる円筒形の坩堝台であって、前記坩堝台は、円筒形の耐火物部材が高さ方向に複数個積まれたものであり、前記耐火物部材には、上下方向に該耐火物部材を貫通する中空部であって、該耐火物部材を高さ方向に積んだときに前記坩堝台を上下に貫通する中空部と、前記中空部と周端部の間を貫いている上面側凹溝と、前記上面側の凹溝と対向して合致できる位置に前記上面側の凹溝と同じ形状である下面側の凹溝と、が設けられており、一方の前記耐火物部材の前記下面側の凹溝と、前記一方の耐火物部材の下面側に接する他方の前記耐火物部材の前記上面側の凹溝と、にて横方向の貫通孔が形成されている坩堝台である。つまり、本発明の坩堝台は凹溝を有する耐火物部材が積まれた構成なので、坩堝台の側面には開口部が穿設された態様となっている。なお、上面側とは、坩堝台を構成する耐火物部材の両表面のうちの坩堝側方向の表面であり、下面側とは、炉床側方向の表面である。
【0009】
本発明の第2の態様は、少なくとも最上段に位置する前記耐火物部材の上面側には、前記凹溝が複数配設されている坩堝台である。本発明の第3の態様は、前記最上段の耐火物部材が、炭化珪素質である坩堝台である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、坩堝台は、円筒形の耐火物部材が高さ方向に複数個積まれたものであり、坩堝台が水平方向に分割された形態となるので、坩堝台の一部が損傷した場合に、坩堝台全体を廃棄せずにその部分だけを取り替えるだけで済み、生産コストと廃棄物量を抑えることができる。また、坩堝台は一体型ではなく耐火物部材を積み重ねて形成されるので、人力でも坩堝台を設置することが可能であり取り扱いが容易である。
【0011】
さらに、各耐火物部材ごとに異なる材質にして坩堝台を組むことができるので、使用する炉内の状況に応じて坩堝台の各部位の材質を選択でき、また異なる厚さの耐火物部材を用意しておくと、炉の使用条件に応じて坩堝台の高さの選択が随時できるので、多種類の坩堝台を備えておく必要が無い。
【0012】
さらに、坩堝台には、側面の開口部から内部の中空部に貫通孔が設けられている。よって、バーナーからの火焔は凹溝を介して中空部に達し、火焔は中空部に沿って上方に導かれ他の凹溝や前記中空部から坩堝台の外に出ていくので、坩堝台内部全体に火焔が通って坩堝台の昇温が早くなり生産効率を高めることができる。また、底部からの加熱作用が優れていることから、坩堝に温度差が生じず、均質な溶湯を得ることができ、熱歪により亀裂が発生して溶けた金属が炉内に洩れ出す問題も解消できる。さらに、坩堝台の横方向の貫通孔は、耐火物部材の表面に凹溝を設ければよく、孔を穿設する必要はないので孔の作成が容易であり、またこの凹溝は吊具で吊り上げる際の引っかかり部としても使用できるので、人力で坩堝台を設置しない場合でも取り扱いが容易である。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、複数の凹溝に沿って火焔が出るので、火焔の流れが坩堝底部で拡散し、坩堝底部において、その中央部と周辺部との温度差が小さくなり、坩堝の昇温効率を向上させる。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、炭化珪素質は黒鉛質に次いで熱伝導率が良いので、加熱によって昇温し易く、坩堝台底面の昇温は、坩堝台に接している場所と接していない場所との間で差が少ない。また、炭化珪素質は黒鉛質のように酸化防止剤を内在及び表面塗布する必要がないので、その上部に黒鉛坩堝を載せて使用しても酸化防止剤同士の融着の問題が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態例に係る坩堝台を図面に基づいて説明する。図1は坩堝炉に坩堝及び坩堝台をセットした状態の概略断面図、図2の(a)図は坩堝台を構成する耐火物部材の上面側を示す平面図、同(b)図は(a)図のb−b線概略断面図、図3は坩堝台を構成する耐火物部材の下面側を示す底面図、図4図5図6は坩堝台を構成する耐火物部材の他の実施態様例であり、上面側を示す平面図である。
【0016】
本発明の実施形態例に係る坩堝台1は、図1に示すように、炉100の床上中央部に配置され、その上に坩堝101が載置される。炉100の側壁部の下部にバーナー口があり、そこに設けられたバーナー102から燃焼室103に向けて火焔104が噴射される。この実施形態例では、坩堝台1は、耐火物部材2を5段に積んで形成されている。
【0017】
図2の(a)図、(b)図に示すように、実施形態例に係る坩堝台1を構成する耐火物部材2は円筒形であり、その中央部にて中空部4が縦方向に貫通し、耐火物部材2の上面側3には、この中空部4から伸びる凹溝5と、凹溝5の無い部分に位置決め機構である凹部6とが配置されている。この凹部6は、後述するとおり、上面側3に接する他方の耐火物部材2の下面側8に設けられた凸部10と嵌合して、積まれた耐火物部材2の位置ずれを防止する。なお、(b)図では、前記凹溝5と凹部6、下面側8の凹溝9と凸部10の記載は省略した。
【0018】
前記耐火物部材2の寸法は特に限定されないが、一般的には直径が200mm〜400mm、厚さが50mm〜100mmである。また、中空部4の直径も特に限定されないが、火焔104の通り易さの点で、30mm〜120mmが好ましい。
【0019】
凹溝5は、火焔104を坩堝台1内部にも通して坩堝台1の昇温を早めたい場合に、適宜の本数を設ければよく、ここでは、凹溝5は4本設けられている。また、凹部6の個数は、炉100の使用中に坩堝台1を構成する耐火物部材2の位置がずれないように適宜設ければよく、2つあれば位置ずれは生じない。ここでは、炉床に接する最下段の耐火物部材2の下面側8に凸部10が設けられるので、坩堝台1設置時の安定性の点から、凹部6は4つ設けられている。
【0020】
凹溝5は、中空部4から接線方向に伸びて耐火物部材2の上面側3の周端部7に達している。この凹溝5の幅方向の断面形状は特に限定されるものではない。本実施形態例では、図示していないが、その底部の幅が開口部よりも狭い逆台形となっている。このため、耐火物部材2の周端部7には逆台形状の凹部が4つ形成されている。また、凹溝5の長さ方向の形状は、火焔が通りやすい形状であれば特に限定されるものではない。本実施形態例では、凹溝5を形成する2つの側壁部のうち、中空部4に近い側の側壁面は直線状であるが、中空部4から離れた側の側壁面は中空部4の近傍でくの字に曲げられた形状となっている。これにより、バーナー102から噴射された火焔104は、中空部4に入る前に円形である中空部4の側壁部に沿うように方向付けることができるので、坩堝台1の昇温効率が向上する。
【0021】
凹溝5は、上面側3に適宜の位置にて設けることができるが、本実施形態例では、隣接する凹溝5同士がほぼ直角であり、対向する凹溝5とはほぼ平行に配置されている。これにより、凹溝5を経て坩堝台外部から中空部4に入った火焔104は、他の凹溝5から燃焼室103に出るか中空部4の壁を伝って上方へ動き、坩堝台1は内面側も外面側も同時に昇温される。
【0022】
また、最上段に用いられる耐火物部材2には、その上面側3には、凹溝5が複数配設されているのが好ましい。凹溝5が複数あれば、火焔104の流れが坩堝底部で拡散し坩堝底部における温度差がより解消されるので、坩堝101の昇温効率を向上させ、かつ均一に昇温させることもできる。
【0023】
位置決め機構である凹部6は、凹溝5が配置されていない上面側3に設けられている。凹部6の形状は、台形や半球形など、特に限定されない。
【0024】
図3に示すように、耐火物部材2の下面側8には、上記中空部4から接線方向に伸びて耐火物部材2の下面側8の周端部11に達している凹溝9と、凹溝9の無い部分に位置決め機構である凸部10とが配置されている。下面側8の凹溝9も、上面側3の凹溝5と同様に、火焔104を坩堝台1内部にも通して坩堝台1の昇温を早めたい場合に、適宜の本数を適宜の位置に配置すればよい。本実施形態例では、下面側8の凹溝9は、上面側3の凹溝5と対向して合致できる位置に凹溝5と同じ形状にて、4本設けられている。このため、耐火物部材2を積んだ場合、下面側8の凹溝9と上面側3の凹溝5にて、横方向の貫通孔が坩堝台1に形成される。
【0025】
下面側8に設けられた凸部10は、下面側8に接する他方の耐火物部材2の上面側3に設けられた凹部6と嵌合して、積まれた耐火物部材2の位置ずれを防止する。従って、凸部10の位置、形状、本数は、凹部6と対応したものとなっている。ただし、凸部10の大きさは、凹部6の大きさよりもやや小さい方が、凸部10と凹部6を嵌合させ易いので、耐火物部材の積み上げ作業の効率は向上する。凸部10と凹部6が2対となっている場合には、坩堝台1の安定性の点から、最下段の耐火物部材2には、下側面8に凸部10は設けられなくてもよい。また、凹部と凸部の上下の位置関係を逆にして、耐火物部材2の下面側8に凹部が、上面側3に凸部が設けられてもよいが、最上面の場合は、坩堝台に載置される坩堝の安定性の点から凸部の無いものを用いてもよい。
【0026】
耐火物部材2の材質は、高耐火性で熱間荷重に耐えられるものならば特に限定しないが、例えば、炭化珪素(SiC)質、シリカ・アルミナ(SiO2−Al23)質などを挙げることができる。SiC質は熱伝導率が高く、酸化防止剤を塗布しないことから、黒鉛坩堝101の酸化防止剤と軟化溶着することがないため、坩堝101と接する最上段の耐火物部材2として使用するのが好ましく、また、組み立てられた坩堝台全体の昇温のために、最上段以外の段に用いてもよい。SiO2−Al23質は、酸化雰囲気で安定していることの他、価格的に安価である点で好ましく、最上段以外に多く用いるとよい。
【0027】
次に、図1の実施形態例に基づいて、本発明の坩堝台の使用方法を説明する。炉100が小さい場合は、腰をかがめて頭部を炉内に入れて人力で、炉100が大きい場合には、人間が炉内に入って吊具または人力で、耐火物部材2を炉床中央部に、例えば5段積み重ねて坩堝台1を組み立てる。坩堝台1は水平方向に5分割された構成となっているので、その設置に大きな力を要せず、作業効率が向上する。また、坩堝台1を組み立てる際、耐火物部材2の厚さや段数を選択することで坩堝台1の高さ調節ができ、さらに耐火物部材2ごとに材質を選択することで使用条件に応じて坩堝台1の各部位の材質を任意に選択できる利点がある。このとき、位置決め機構である凹部と凸部を嵌合させて積むことで、それぞれの耐火物部材2の位置ずれが防止される。
【0028】
図1に示すとおり、加熱バーナー102が炉100下部の側壁部に設けられているので、少なくとも上下面に配設された凹溝のいずれか1つに、バーナー102の火焔104が入る向きに耐火物部材2を積むのが好ましい。坩堝台1を組み立ててから、坩堝101を坩堝台1に載置して炉蓋を被せて炉100の運転を開始する。
【0029】
次に、本発明の他の実施形態例を説明する。上記した実施形態例では、上面側3にある4本の凹溝5と下面側8にある4本の凹溝9は、それぞれ、中空部4から離れた側の側壁面が中空部4の近傍でくの字に曲げられていたが、図4に示すとおり、両壁面が直線状の凹溝13や、図5に示すとおり、直線状の凹溝15が、中空部4から法線方向に伸びていてもよい。図5の実施形態例では、4本の凹溝15が十字状に配置されているので、火焔104が通り抜け易く、坩堝台1が均一に昇温できる。さらに、図6に示すとおり、円弧状の凹溝16であってもよい。このとき下側面の凹溝は、それぞれ、直線の凹溝13、15、円弧状の凹溝16に対向して合致できる位置に凹溝13、15、16と同じ形状にて配置されていてもよい。
【0030】
また、上記した実施形態例では、上面側3に凹部6が4つ設けられていたが、図4図5図6に示すとおり、上面側3の位置決め機構である凹部14、凹部17は、それぞれ2つであってもよい。このとき、図示していないが、下面側には凹部14、凹部17に対応する位置に凸部がそれぞれ2つ設けられる。
【0031】
さらに、上記した実施形態例では、凹溝5、凹溝9の幅方向の断面形状は逆台形であったが、火焔104が凹溝5と凹溝9を通り抜ければよいので、楕円形状、円形状、多角形などを半分割した形状など、その形状は特に限定されるものではない。同様に、上面側3の凹溝5及び下面側8の凹溝9の幅方向の断面形状は、火焔104が通り抜ければよいので、同一でなくてもよい。実施形態例では、火焔104が坩堝台1の周囲を円滑に回るようにすることで昇温効率を向上させるために、耐火物部材2は円筒形であったが、必要に応じて、円筒形に代えて円錐台形、多角形等としてもよい。
【実施例1】
【0032】
以下、本発明に係る坩堝台の実施例を説明する。実施例1〜3の耐火物部材には、SiO2−Al23質とSiC質のものを使用した。実施例1〜3の坩堝台の構成は、それぞれ、Φ290mm×高さ330mm×厚さ90mmの円形耐火物部材を最下段とし、そこにΦ290mm×高さ330mm×厚さ60mmの円形耐火物部材を上から1〜4段目まで積み重ねて、合計5段の耐火物部材からなる高さ330mmの円柱形の坩堝台として、これを炉床中央部に組み立てた。ここで、各耐火物部材は、中央部にΦ70mmの上下に貫通した中空部と、上面側、下面側のそれぞれに幅45mmである図5に示すような左右対称に配置された半円弧状の凹溝2本と、位置決め機構である2対の凹部・凸部とを備えている。そこに底部径Φ280mm×高さ650mmの坩堝を載置した。溶融金属にはアルミニウムを使用した。実施例で使用したSiO2−Al23質とSiC質の耐火物部材及び比較例で使用した黒鉛質の耐火物部材の品質中、特徴となる特性を、それぞれ表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例1では、1〜5段目全てに表1の材質1にあたるSiO2−Al23質の耐火物部材を用いて坩堝台を組み立て、アルミニウムの溶融開始までの所要時間、全量溶融時の湯温及び所要時間、及び耐用寿命を測定した。その結果を表2に示す。
【実施例2】
【0035】
実施例2では、最上段に表1の材質2にあたるSiC質の耐火物部材、2〜5段目に表1の材質1にあたるSiO2−Al23質の耐火物部材を用いて坩堝台を組み立て、アルミニウムの溶融開始までの所要時間、全量溶融時の湯温及び所要時間、及び耐用寿命を測定した。その結果を表2に示す。
【実施例3】
【0036】
実施例3では、最上段と上から3段目に、表1の材質2にあたるSiC質の耐火物部材、上から2、4、5段目に表1の材質1にあたるSiO2−Al23質の耐火物部材を用いて坩堝台を組み立て、アルミニウムの溶融開始までの所要時間、全量溶融時の湯温及び所要時間、及び耐用寿命を測定した。その結果を表2に示す。
【0037】
なお、比較例として、中実円柱形である一体型の坩堝台であり、表1の材質3にあたる黒鉛質の坩堝台を使用した場合のアルミニウムの溶融開始までの所要時間、全量溶融時の湯温及び所要時間、及び耐用寿命を測定した。その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すとおり、比較例である黒鉛質の一体型坩堝台のアルミニウム溶け落ち時間及び溶湯の温度調整時間を100%とすると、実施例のアルミニウム溶け落ち時間は64%〜78%、溶湯の温度調整時間は31%〜60%となり、炉の運転効率が向上した。また、比較例の全量溶け落ち時の湯温の温度差は52℃であるのに対し、実施例では27℃〜33℃となり、上下の温度差の小さい溶湯が得られた。さらに、実施例の耐用寿命は比較例の4倍以上となったので、生産コストを低減でき、保全のための停止や保全作業の回数も減らすことができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
坩堝台は耐火物部材を積み重ねて形成されるので、人力でも坩堝台を設置でき、その際に坩堝台の高さ選択も随時できるので、坩堝炉の分野で利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】坩堝炉に坩堝及び坩堝台をセットした状態の概略断面図である。
図2】(a)図は坩堝台を構成する耐火物部材の平面図、同(b)図は(a)図のb−b線概略断面図である。
図3】坩堝台を構成する耐火物部材の底面図である。
図4】坩堝台を構成する耐火物部材の第1の他の実施態様例を示す平面図である。
図5】坩堝台を構成する耐火物部材の第2の他の実施態様例を示す平面図である。
図6】坩堝台を構成する耐火物部材の第3の他の実施態様例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 坩堝台
2 耐火物部材
3 耐火物部材上面側
4 中空部
5 凹溝
6 凹部
7 周端部
8 耐火物部材下面側
9 凹溝
10 凸部
11 周端部
13 凹溝
14 凹部
15 凹溝
16 凹溝
17 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6