(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、前記適応部のフィルタ次数を所定数増加させることにより、前記適応部で除去する振動成分の周波数領域を変化させるように構成されている請求項1に記載のデジタル秤用デジタルフィルタ。
前記固定部は、入力されたデジタル計量信号のうち、被計量物を計量するデジタル秤の重量センサの固有振動数を除去するように構成されている請求項1に記載のデジタル秤用デジタルフィルタ。
前記固定部は、前記FIRフィルタに入力されたデジタル計量信号を濾波処理し、前記適応部は、前記固定部で濾波処理されたデジタル計量信号を濾波処理するように構成されている請求項1に記載のデジタル秤用デジタルフィルタ。
振動成分を含むデジタル計量信号を濾波処理するFIRフィルタと、前記FIRフィルタで濾波処理されたデジタル計量信号に含まれる振動成分の振幅が所定の許容減衰範囲内であるか否かを1計量サイクル中のデジタル計量信号の所定サンプリングごとに判定する判定手段と、制御手段と、を備え、前記FIRフィルタは、所定の周波数領域の振動成分を除去する固定部と、変化させることが可能な周波数領域の振動成分を除去する適応部とを有し、前記制御手段は、前記判定手段の判定結果に応じて前記適応部のフィルタ係数を変更するように構成されているデジタル秤用デジタルフィルタを用いた濾波処理方法であって、
固定部のフィルタ係数をデジタル秤の重量センサの固有振動数に応じた正弦波に基づいて演算するステップと、
適応部の格子型フィルタのフィルタ係数を前記固定部で濾波処理されたデジタル計量信号に基づいて演算するステップと、
前記デジタル計量信号を前記デジタル秤用デジタルフィルタに入力するステップと、
入力された前記デジタル計量信号を前記固定部及び前記適応部においてそれぞれ演算されたフィルタ係数に基づいて濾波処理するステップと、を含み、
前記判定手段が、所定の計量サイクルの後、前記フィルタ係数を変更すべきと判断した場合、前記制御手段が、前記適応部のフィルタ係数を前記固定部で濾波処理されたデジタル計量に基づいて演算し、更新する濾波処理方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0028】
まず、本発明の一実施形態に係るデジタル秤用デジタルフィルタが適用されたデジタル秤の概略構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るデジタル秤用デジタルフィルタが適用されたデジタル秤の概略構成を示すブロック図である。
【0029】
本実施形態のデジタル秤1は、
図1に示すように、被計量物を計量する重量センサ2を備えている。重量センサ2には、例えば、ロードセルが用いられる。重量センサ2は、制御装置3に接続されており、重量センサ2で検出された重量は、増幅器4で増幅された上で制御装置3に送信される。なお、増幅器4には、不要な高周波成分を減衰させるためのローパスフィルタが設けられていてもよい。
【0030】
制御装置3は、各種演算を行う制御部30及び各種演算の結果を記憶する記憶部34を有している。制御装置3は、例えば、制御部30及び記憶部34が実装された制御基板(図示せず)により構成される。制御装置3は、例えば、マイクロコンピュータを備えており、制御部30には、例えばこのマイクロコンピュータのCPUが用いられる。記憶部34には、例えばこのマイクロコンピュータの内部メモリが用いられる。制御部30と記憶部34とは相互に接続されている。記憶部34には濾波処理等のための各種制御プログラムが格納されている。さらに、記憶部34はフィルタ係数等の各種データを記憶する。また、制御部30は、記憶部34に格納された制御プログラムを読み出して実行することにより、演算等の処理や制御を行う。なお、制御部30は、デジタル秤1に設けられるホッパ等の駆動制御を行うマイクロコンピュータを用いてもよいし、駆動制御用のマイクロコンピュータとは別に、デジタルフィルタにおける濾波処理専用のマイクロコンピュータ又はDSP(デジタルシグナルプロセッサ)を用いてもよい。
【0031】
制御装置3は、アナログ計量信号をデジタル化するA/D変換器35を有している。A/D変換器35は、増幅器4で増幅されたアナログ計量信号をデジタル化し、デジタル計量信号として制御部30に入力する。このデジタル計量信号には、被計量物の重量に相当する直流成分の他に種々の振動成分が含まれている。
【0032】
また、デジタル秤1は、制御装置3の処理結果等を表示する表示部5と、制御装置3の各種設定入力等を行う操作部6と、外部のコンピュータ10と通信可能な通信部7とを備えている。表示部5、操作部6及び通信部7と制御部30とは、入出力インターフェイス36を介して信号の授受を行う。
【0033】
制御部30は、A/D変換器35、操作部6及び通信部7から信号を受け取り、これらの信号に基づいてフィルタ係数演算モード及び濾波処理モードを起動する。制御部30は、濾波処理モードにおいては、フィルタ演算処理及び判定処理を行い、フィルタ係数演算モードにおいては、判定処理の結果に応じてフィルタ次数及びフィルタ係数を変更する制御を行い、これらの処理結果を記憶部34に記憶する。換言すると、制御部30は、FIR(有限インパルス応答)フィルタ31、判定手段32及び制御手段33として機能する。従って、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタは、FIRフィルタ31、判定手段32及び制御手段33として機能する制御部30によって実現される。
【0034】
なお、本実施形態においては1つの制御基板で制御装置3を構成しているが、本発明は同様の制御を行い得る限りこれに限られない。即ち、例えば、各種制御に応じて複数の制御基板を設け、その複数の制御基板で制御装置3を構成してもよい。また、この制御装置3を、必ずしもデジタル秤1に備える必要はなく、例えば、パソコン等を外部の制御装置3として接続することにより当該外部の制御装置3で制御することとしてもよい。
【0035】
本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタにおいて、FIRフィルタ31として機能する制御部30は、A/D変換器35から入力される振動成分を含むデジタル計量信号を濾波処理する。
【0036】
より詳しくは、FIRフィルタ31は、所定の周波数領域の振動成分を除去する固定部311と、変化させることが可能な周波数領域の振動成分を除去する適応部312とを有している。従って、A/D変換器35から入力されるデジタル計量信号は、固定部311においてデジタル秤の固有振動数等の予め想定される所定の振動成分が除去され、適応部312において例えば、デジタル秤1である組合せ秤に設けられたホッパの開閉や外的要因によって計量中に生じた様々な振動成分が除去される。
【0037】
また、判定手段32として機能する制御部30は、FIRフィルタ31で濾波処理されたデジタル計量信号に含まれる振動成分の振幅が所定の許容減衰範囲内であるか否かを1計量サイクル中のデジタル計量信号の所定サンプリングごとに判定する。そして、制御手段33は、判定手段32の判定結果に応じて、適応部312において除去する振動成分の周波数成分を変更することにより、入力されたデジタル計量信号に含まれる振動成分のうち、固定部311で除去されない振動成分を除去する。なお、本実施形態においては、1計量サイクルとは、ある被計量物の重量を検出することによって得られたデジタル計量信号が入力されてから当該被計量物の計量終了処理(排出処理)が行われるまでの間を意味する。
【0038】
このように、入力されるデジタル計量信号のうち、予め想定される振動成分の周波数領域については、計量中に演算を行うことなく固定部311で除去しつつ、随時発生する振動成分の周波数領域についてのみ、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を変化させる演算を行うため、計量精度が低下することを防止しつつ、適応部312における濾波処理の演算量を減少させ、演算時間を短縮することができる。以上のように、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタによれば、計量精度を保持しつつ適応させるフィルタの演算時間を短縮することができる。
【0039】
本実施形態においては、制御部30は、濾波処理後の振動成分の振幅が許容減衰範囲内でない場合に、適応部312のフィルタ次数を所定数増加させることにより、適応部312で除去する振動成分の周波数領域を変化させる。これにより、適応部312における濾波処理の演算量を低減させることができる。適応部312は、後述する単位フィルタがm個接続されて構成されており、当該単位フィルタの接続数mがフィルタ次数に相当している。
【0040】
ここで、FIRフィルタ31の構成について、より詳細に説明する。
図2から
図4は、
図1に示すデジタル秤のデジタル秤用デジタルフィルタに設けられたFIRフィルタの具体例を示すブロック図である。
図2は固定部を示すブロック図であり、
図3は適応部を示すブロック図であり、
図4は適応部の単位フィルタを示すブロック図である。なお、前述したように、
図2から
図4に示すFIRフィルタは、電気回路や電子回路等により構成される現実のフィルタ回路を意味するものではなく、記憶部34に記憶された制御プログラムに基づいて制御動作する制御部30によって構成されるものである。
【0041】
まず、
図3に示す適応部312について説明する。適応部312は、仮想的には
図4に示す単位フィルタ310がm個直列接続されて構成されている。ここで、単位フィルタ310がm個直列接続されているとは、制御部30が単位フィルタ310における演算をフィルタ係数(本実施形態においては後述する反射係数k
m)をフィルタ次数mに応じて変化させつつ(k
1,k
2,…,k
m)m回繰り返すことを意味する。本実施形態の単位フィルタ310は、格子型FIRフィルタにより構成されている。格子型FIRフィルタを採用することにより適応部312における濾波処理の演算誤差を少なくすることができる。
【0042】
適応部312においては、単位フィルタ310である格子型FIRフィルタがm個直列接続されている。格子型FIRフィルタは、2つの入力f(n)
(m−1)及びg(n)
(m−1)に対し、前向き予測誤差f(n)
(m)及び後ろ向き予測誤差g(n)
(m)を出力するものである。このような単位フィルタ310を直列接続することで、前向き予測誤差f(n)
(m)及びg(n)
(m)のそれぞれが次段の単位フィルタ310に入力される。さらに、単位フィルタ310は、所定の反射係数k
mを有している。即ち、適応部312は、仮想的には、同じ構成を有し且つ反射係数k
mが接続数(フィルタ次数)mに応じて異なる単位フィルタ310がm個接続されて構成されている。
【0043】
反射係数k
m、前向き予測誤差f(n)
(m)及び後向き予測誤差g(n)
(m)の関係式は、以下の式(1)から式(4)で表される。なお、x(n)は、デジタル計量信号(入力信号)を示し、n(n=0,1,2,…,N)は、サンプリング数を示している。単位フィルタ310の接続数m(m=1,2,…,M)は、以下の式におけるフィルタ次数として示される。
【0044】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0045】
適応部312は、所定のフィルタ係数a
i(m)を有している。適応部312の伝達関数F(z)をフィルタ係数a
i(m)を用いて表すと、以下の式(5)が得られる。
【0046】
【数5】
【0047】
このフィルタ係数a
i(m)と反射係数k
mとは、以下の式(6)に示す関係を有している。
【0048】
【数6】
【0049】
そして、式(5)に示す伝達関数F(z)を用いて濾波処理された適応部312の出力信号y(n)
(m)は、以下の式(7)で表される。
【0050】
【数7】
【0051】
このように、式(1)から式(4)及び式(7)を演算することにより、入力されるデジタル計量信号x(n)(本実施形態においては後述するy’(n)
(m’))に対する適応部312の出力y(n)
(m)を得ることができる。なお、本実施形態の単位フィルタ310は、乗算器によって前向き予測誤差f(n)
(m)及び後向き予測誤差g(n)
(m)に予め1/(1+k
m)が乗算されて出力されるため、定常ゲインが1となる。従って、単位フィルタ310の接続数(フィルタ次数m)に拘わらず、適応部312の定常ゲインを、1で一定とすることができる。ただし、本発明はこれに限られず、例えば、このような乗算器を単位フィルタ310のそれぞれに接続せずに、最終的に出力された前向き予測誤差f(n)
(m)及び後向き予測誤差g(n)
(m)にそのときのフィルタ次数mに対応する乗算値を乗算することとしてもよい。
【0052】
さらに、式(5)に示すように、フィルタ次数、即ち、単位フィルタ310の接続数mが変化することにより、適応部312の伝達関数F(z)が変化する。また、フィルタ係数a
i(m)が変化することによっても、適応部312の伝達関数F(z)が変化する。なお、フィルタ係数a
i(m)が変化することは反射係数k
mが変化することと同じ意味を持つ。このように、フィルタ次数m及び/又はフィルタ係数a
i(m)(反射係数k
m)を変化させることにより、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を変化させることができる。なお、伝達関数F(z)のタップ数Lは、L=m+1である。
【0053】
次に、
図3に示す固定部311について説明する。固定部311は、適応部312と同様に、
図4に示す単位フィルタ310と同様の格子型FIRフィルタがM’個(m=1,2,…,M’)接続されて構成されている。格子型FIRフィルタを採用することにより固定部311における濾波処理の演算誤差を少なくすることができる。
【0054】
固定部311のフィルタ係数a’
i(m)及び反射係数k’
mの関係も上記適用部312で求めたのと同様に求められる。従って、同様にデジタル計量信号x(n)に対する固定部311の出力y’(n)
(m)を得ることができる。
【0055】
このようなデジタル秤1は、例えば、組合せ秤に適用され得る。この場合、組合せ秤は、複数の重量センサ2と、これに対応する複数の増幅器4と、複数の増幅器4の出力信号が入力されるマルチプレクサ(図示せず)と、制御装置3とを備えている。複数の重量センサ2で検出されたアナログ計量信号は、対応する増幅器4で増幅され、マルチプレクサを介して制御装置3のA/D変換器35に入力される。A/D変換器35に入力されたアナログ計量信号は、デジタル化され、デジタル計量信号x(n)として出力される。デジタル計量信号x(n)は、制御部30に入力され、FIRフィルタ31として機能する制御部30において濾波処理される。制御部30は、濾波処理された出力信号y(n)
(m)を出力する。この濾波処理された出力信号y(n)
(m)は、制御部30において重量値に変換される。変換された重量値は、記憶部34に記憶され、表示部5に表示される。
【0056】
続いて、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタ及びこれを用いた濾波処理方法における濾波処理の流れについて詳しく説明する。
図5は、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタのフィルタ係数演算モードにおける制御動作を示すフローチャートであり、
図6は、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタの濾波処理モードにおける制御動作を示すフローチャートである。
【0057】
まず、濾波処理を行う前に、固定部311及び適応部312の反射係数k’
m,k
mを設定するために、制御部30は、
図5に示すフィルタ係数演算モードを実行する。フィルタ係数演算モードでは、まず、制御部30は、FIRフィルタ31の固定部311の反射係数k’
mを演算し、記憶部34に記憶する(ステップSA1)。具体的には、デジタル秤の重量センサ2の固有振動数に応じた正弦波をサンプル信号として反射係数演算用フィルタに入力することにより、制御部30は、固定部311の反射係数k’
mを演算する。
【0058】
また、制御部30は、FIRフィルタ31の適応部312の反射係数k
mを演算し、記憶部34に記憶する(ステップSA2及びSA3)。具体的には、デジタル計量信号に関するサンプルデータx
s(n)を取得し(ステップSA2)、当該サンプルデータx
s(n)を反射係数演算用フィルタに入力することにより、制御部30は、適応部312の反射係数k
mを演算する(ステップSA3)。サンプルデータx
s(n)は、例えば、被計量物又は被計量物のサンプルを実際に計量した際に得られたデジタル計量信号でもよいし、複数の被計量物又は被計量物のサンプルを実際に計量した際に得られた複数のデジタル計量信号を足し合わせ、平均した積算計量信号でもよいし、当該デジタル計量信号又は積算計量信号を何らかのフィルタで濾波処理した信号でもよい。
【0059】
図7は、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタにおける反射係数演算用フィルタを示すブロック図である。なお、本実施形態においては反射係数演算用フィルタを濾波処理用のフィルタとは別に用いているが、濾波処理用のフィルタ(即ち、
図2及び
図3に示すフィルタ)に基づいて各反射係数を演算してもよい。
【0060】
ここで、適応部312の反射係数k
mを演算する例を説明する。
図7に示す反射係数演算用フィルタ330は、
図5に示す単位フィルタ310から前向き及び後向き双方における出力側の乗算器を取り除いたものをm個接続したもの(フィルタ次数がmとなるもの)である。反射係数演算用フィルタ330の伝達関数をH(z)とし、サンプルデータx
s(n)の離散時間系列における差分値Δx
s(n)=x
s(n)−x
s(n−1)を
図7に示す反射係数演算用フィルタ330に入力したときの前向き予測誤差をu(n)
(m)、後ろ向き予測誤差をv(n)
(m)とすると、反射係数k
m及びフィルタ係数a
i(m)は、以下の式のような関係を有する。
【0061】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【0062】
式(12)に示す伝達関数H(z)は、サンプルデータx
s(n)に含まれる持続的な振動成分が存在する周波数領域に対して大きい減衰率でフィルタリングすることができるため、濾波処理におけるフィルタ次数mを比較的少なくすることができる。
【0063】
以上の式(8)から式(14)に基づいて適応部312の反射係数k
m(m=1,2,…,M)が演算される。固定部311の反射係数k’
m(m=1,2,…,M’)も入力信号をデジタル秤の重量センサ2の固有振動数に応じた正弦波に変えることにより同様に演算される。このときのフィルタ次数mの最大値M、M’は特に限定されないが、ある程度大きな値まで演算することが好ましい。例えば、M=40,M’=20に設定する。このようにして演算された反射係数k
m,k’
mは記憶部34に記憶される。
【0064】
なお、固定部311及び/又は適応部312の反射係数k’
m,k
mは、
図1に示すように、デジタル秤1の通信部7を通じて接続された外部コンピュータ10において演算されてもよい。
【0065】
以上のように反射係数k’
m,k
mが設定された固定部311及び適応部312を用いて濾波処理が行われる。濾波処理においては、初期設定として後述する計量サイクル数j=1及びカウンタc=1が設定される(ステップSA4)。制御部30は、このような計量サイクル数j及びカウンタcを用いて以下に示す濾波処理モードを実行する(ステップSA5)。濾波処理モードは、作業者のモード切替操作を受けてから実行することとしてもよいし、制御部30が自動的に実行することとしてもよい。
【0066】
濾波処理モードにおいては、
図6に示すように、初期設定として適応部312のフィルタ次数m=p及びサンプリング数n=1が設定される(ステップSB1)。適応部312のフィルタ次数mの初期設定値pは、特に限定されないが、例えば、p=20に設定される。また、図示しないが、固定部311のフィルタ次数mも所定値M’(固定値)に設定される。固定部311のフィルタ次数mの固定値M’も特に限定されないが、例えば、M’=20に設定される。
【0067】
制御部30は、デジタル入力信号x
j(n)(j=1,2,…)を取得する(ステップSB2)。ここで、計量サイクル数jは、重力センサ2から送られてくる複数の入力信号の順番を意味するべく便宜的に付与したものである。即ち、計量サイクル数jが1増加することは、次の計量サイクルに移行することを意味する。制御部30は、取得したデジタル入力信号x
j(n)をFIRフィルタ31の固定部311に入力し、出力信号y’
j(n)
(m)を演算して出力する(ステップSB3)。即ち、制御部30は、固定部311において、取得したデジタル入力信号x
j(n)、設定された反射係数k’
m及びフィルタ次数m’に基づいて、式(1)から式(4)及び式(7)を演算し、出力信号y’
j(n)
(m)を出力する。
【0068】
さらに、制御部30は、固定部311から出力された信号y’
j(n)
(m)を適応部312に入力し、出力信号y
j(n)
(m)を演算して出力する(ステップSB4)。即ち、制御部30は、適応部312において、入力信号y’
j(n)
(m)、設定された反射係数k
m及びフィルタ次数mに基づいて、式(1)から式(4)及び式(7)を演算し、出力信号y
j(n)
(m)を出力する。制御部30は、適応部312から出力された信号y
j(n)
(m)を記憶部34に記憶し、入出力インターフェイス36を介して表示部5に表示させる(ステップSB5)。
【0069】
続いて、制御部30は、判定手段32として機能する。即ち、制御部30は、FIRフィルタ31で濾波処理されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)に含まれる振動成分の振幅が所定の許容減衰範囲V内であるか否かを判定する(ステップSB6,SB7)。具体的には、まず、適応部312から出力されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)と前回のサンプリングにおいて適応部312から出力されたデジタル計量信号y
j(n−1)
(m)から変動量Δy
j(n)
(m)を演算する(ステップSB6)。本実施形態において、変動量Δy
j(n)
(m)は、以下の式(15)で表される。ここで、変動量Δy
j(n)
(m)は、サンプリング数nに基づいた所定の幅u(u=0,1,2,…,w)を有している。
【0070】
【数15】
【0071】
なお、変動量Δy
j(n)
(m)を式(15)により算出する代わりに、例えば、デジタル計量信号y
j(n)
(m)の移動平均を加算して算出してもよい。
【0072】
制御部30は、記憶部34に記憶されている所定の許容減衰範囲Vを読み出し、演算された変動量Δy
j(n)
(m)と比較する(ステップSB7)。変動量Δy
j(n)
(m)が許容減衰範囲Vより小さい場合、即ち、濾波処理されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)が十分減衰されたと判断された場合(ステップSB7でYes)、制御部30は、計量終了処理(組合せ秤においては排出処理)が行われたか否かを判定する(ステップSB8)。計量終了処理が行われた場合(ステップSB8でYes)は、濾波処理モードを終了し、計量終了処理が行われなかった場合(ステップSB8でNo)は、サンプリング数nに1を加えて(ステップSB9)、次のデジタル計量信号x
j(n)(n=n+1)のサンプリングを行う(ステップSB2)。以降、計量終了処理が行われるまで(ステップSB8がYesとなるまで)、ステップSB2からステップSB9が繰り返される。組合せ秤の場合、記憶部34に逐次記憶される信号y
j(n)
(m)に基づいて組合せ演算が行われる。
【0073】
変動量Δy
j(n)
(m)が許容減衰範囲Vより大きい場合、即ち、濾波処理されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)が十分に減衰されていないと判断された場合(ステップSB7でNo)、制御部30は、フィルタ次数mが最大値M以上か否かを判定する(ステップSB10)。フィルタ次数mが最大値M未満である場合(ステップSB10でNo)、制御部30は、制御手段33として機能し、適応部312のフィルタ次数mを所定数q(例えば、q=1)だけ増加させる(ステップSB11)。そして、次回のサンプリング(サンプリング数n=n+1)においては、フィルタ次数がm+qとなった適応部312によってステップSB4の濾波処理が行われる。フィルタ次数mが最大値M以上である場合(ステップSB10でYes)、制御部30は、それ以上適応部312のフィルタ次数mを増やすことなく計量終了処理が行われるまで、次回以降のサンプリングを行う(ステップSB8,SB9)。このように、濾波処理されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)に含まれる振動成分の振幅が所定の許容減衰範囲V内であるか否かに応じて適応部312のフィルタ次数m(即ち、適応部312における単位フィルタ330の接続数m)を変化させることにより除去する振動成分を変化させるため、適応部312における濾波処理の演算量を低減させることができる。なお、図示していないが、フィルタ次数mが最大値M以上となってから所定数のサンプリングを繰り返しても許容減衰範囲Vより小さくならない場合には、反射係数k
mの更新が必要であるとしてエラー報知する。
【0074】
計量終了処理が行われた場合(ステップSB8でYes)、制御部30は、モード切替操作を受けて又は自動的に濾波処理モードを終了し、フィルタ係数演算モードに復帰する。制御部30は、
図5に示すように、当該濾波処理モードで演算処理したデジタル計量信号y
j(n)
(m)について適応部312のフィルタ次数mが最大値M以上となったか否かを判定する(ステップSA6)。適応部312のフィルタ次数mが最大値M以上となっていない場合(ステップSA6でNo)には、制御部30は、カウンタcをリセットし、c=1の状態で計量サイクル数jを1増やし(ステップSA8)、次に入力されるデジタル計量信号x
j(n)(j=j+1)について濾波処理を行う(ステップSA5)。なお、次回の計量サイクルの開始時において、適応部312のフィルタ次数mは、初期設定値pに再設定される(ステップSB1)。
【0075】
適応部312のフィルタ次数mが最大値M以上となった場合(ステップSA6でYes)には、制御部30は、カウンタcを1増やし(ステップSA9)、当該カウンタcが所定値Cになったか否かを判定する(ステップSA10)。即ち、制御部30は、予め設定された回数Cの計量サイクルで連続して適応部312のフィルタ次数mが最大値M以上となったか否かを判定する。カウンタcが所定値Cになっていない場合(ステップSA10でNo)には、カウンタcをリセットせずに計量サイクル数jを1増やす(ステップSA8)。
【0076】
カウンタcが所定値Cになった場合(ステップSA10でYes)、制御部30は、制御手段33として機能し、適応部312のフィルタ係数a
i(m)を変更することにより、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を変化させる(ステップSA11,SA12)。より詳しくは、制御部30は、適応部312のフィルタ係数a
i(m)を前回の計量サイクルにおけるデジタル計量信号x
j(n)に基づいて演算する。具体的には、制御部30は、デジタル計量信号x
j(n)の離散時間系列における差分値Δx
j(n)=x
j(n)−x
j(n−1)を
図7に示す反射係数演算用フィルタ330に入力し、式(8)から式(14)に基づいて適応部312の反射係数k
mjを演算する(ステップSA11)。そして、制御部30は、演算された反射係数k
mjを適応部312の反射係数k
mとして設定し(ステップSA12)、次回(j=j+1)の計量サイクルを実行する(ステップSA8,SA5)。
【0077】
このように、適応部312のフィルタ係数a
i(m)を変更することにより、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を大きく変えることができる。従って、判定手段32による所定の計量サイクルの判定結果により濾波処理されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)が許容減衰範囲V内になり難いと判断された際、制御手段33が適応部312のフィルタ係数a
i(m)を変更することにより、より確実且つ早期に次回以降の計量サイクルにおけるデジタル計量信号x
j(n)の振動成分を減衰させることができる。このように、判定手段32による判定結果に応じて必要なときのみフィルタ係数a
i(m)が変更されるため、フィルタ係数a
i(m)の演算回数を減少させることができる。なお、本実施形態においては、デジタル計量信号x
j(n)を1回サンプリングするごとに判定手段32が判定することとしているが、本発明はこれに限られず、例えば、所定回数のサンプリングごとに濾波処理されたデジタル計量信号y
j(n)
(m)について判定することとしてもよい。
【0078】
以上のように、入力されるデジタル計量信号x
j(n)のうち、予め想定される振動成分の周波数領域については、1計量サイクル中に演算を行うことなく固定部311で除去しつつ、随時発生する振動成分の周波数領域についてのみ、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を変化させる演算を行うため、計量精度が低下することを防止しつつ、FIRフィルタ31における濾波処理の演算量を減少させ、演算時間を短縮することができる。
【0079】
また、本実施形態においては、前述した通り、入力されるデジタル計量信号x
j(n)に対し、固定部311で濾波処理された後、適応部312で濾波処理される。これにより、デジタル計量信号x
j(n)に含まれる振動成分のうち、予め想定される振動成分が固定部311において除去された後、残りの振動成分を除去するために、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を変化させるための演算が行われるため、適応部312における演算量をより低減させることができる。
【0080】
さらに、固定部311のフィルタ係数(反射係数k’
m)がデジタル秤1の重量センサ2の固有振動数に基づいて演算されるため、予め想定される振動成分のうち、最も大きい振動成分であるデジタル秤1の重量センサ2の固有振動数に基づく振動成分が固定部311で除去される。また、適応部312のフィルタ係数(反射係数k
m)が所定の積算計量信号に基づいて演算されるため、FIRフィルタ31が適応部312で除去する周波数成分を実際に発生し得る振動成分に即した周波数領域に設定することができる。さらに、フィルタ係数を更新する際、当該フィルタ係数が前回の計量サイクルにおけるデジタル計量信号に基づいて演算されるため、実際に発生している振動成分を適応部312において確実に除去することができる。これにより、デジタルフィルタを用いて濾波処理する際に、適応部312においてフィルタ係数の更新する回数を減少させることができる。従って、計量精度を保持しつつ適応させるフィルタの演算時間を短縮することができる。
【0081】
ここで、本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタを用いて濾波処理したデジタル計量信号の例を示す。まず、適応部312においてフィルタ次数mを変更した場合の濾波処理の効果について説明する。
図8は本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタに入力されるデジタル計量信号x(n)の一例を示すグラフであり、
図9は
図8に示すデジタル計量信号x(n)を濾波処理した後のデジタル計量信号y(n)
(m)の一例を示すグラフである。さらに、
図10は
図9に示すグラフを拡大して示した図である。
【0082】
図8に示すデジタル計量信号x(n)は、40gの被計量物を計量したものであり、サンプリング時間Tは、5ミリ秒である。固定部311のフィルタ次数m’は20、適応部312のフィルタ次数mは、初期設定値p=20及び最大値M=40としている。固定部311は、被計量物を計量するデジタル秤1の重量センサ2の固有振動数を除去するように、反射係数k’
mが設定されている。
【0083】
ここでは、適応部312の反射係数k
mは、当該入力されたデジタル計量信号x(n)から演算されている。より具体的には、
図8に示すグラフにおいて被計量物のデジタル秤1への投入が終了した状態を示す所定のデータサンプル時間Dにおけるデジタル計量信号x(n)をサンプルデータx
s(n)としている。
図8において、データサンプル時間Dは、サンプリング数n=50から250の間を採用している。
【0084】
図9及び
図10においては、ドット線が入力信号x(n)、破線が固定部311の出力信号y’(n)
(m’)、実線が適応部312においてフィルタ次数m=20で固定した場合の出力信号y(n)
(20)、鎖線が適応部312においてフィルタ次数m=40で固定した場合の出力信号y(n)
(40)、及び、丸印が適応部312において本発明が適応された制御に基づいてフィルタ次数mを変更しつつ濾波処理された出力信号y(n)
(m)をそれぞれ示している。
【0085】
図10に特に示されるように、本発明が適応された制御に基づいて濾波処理された出力信号y(n)
(m)は、サンプリング数n=70まではフィルタ次数m=20のフィルタとして機能する適応部312によって濾波処理されたものであり、サンプリング数n=90からはフィルタ次数m=40のフィルタとして機能する適応部312によって濾波処理されたものであることが示されている。そして、サンプリング数n=70から90の間では適応部312のフィルタ次数mが20から40まで順次増加していることが示されている。これにより、濾波処理された出力信号y(n)
(m)の信号波形を短時間で減衰させつつ演算量の増加を抑えることができる。
【0086】
続いて、適応部312においてフィルタ係数a
i(m)を変更した場合の濾波処理の効果について説明する。
図11及び
図12は本実施形態のデジタル秤用デジタルフィルタで濾波処理したデジタル計量信号y(n)
(m)のフィルタ係数の変更前後における変化を例示するグラフである。
図11はフィルタ係数の変更前を示し、
図12はフィルタ係数の変更後を示している。
図11及び
図12のいずれにおいても、同じデジタル計量信号入力x(n)(図示せず)に対して得られた出力信号を示しており、破線が固定部311の出力信号y’(n)
(m)、実線が適応部312においてフィルタ次数m=20で固定した場合の出力信号y(n)
(20)、鎖線が適応部312においてフィルタ次数m=40で固定した場合の出力信号y(n)
(40)、及び、丸印が適応部312において本発明が適応された制御に基づいてフィルタ次数mを変更しつつ濾波処理された出力信号y(n)
(m)をそれぞれ示している。
【0087】
図11の例において、フィルタ次数m=40における出力信号y(n)
(40)の波形は、サンプリング数nが増えても所定の範囲で振動してしまっているため、
図8から
図10に示す例と同様に、フィルタ次数mをサンプリング数n=70から90の間で増加させても濾波処理後のデジタル計量信号y(n)
(m)を所定の許容減衰範囲V内に抑えることができない。このようなデジタル計量信号入力x(n)に対しては、適応部312のフィルタ係数a
i(m)(反射係数k
m)を変更することにより、適応部312において除去する振動成分の周波数領域を変化させる(前述したステップSA11,SA12)。これにより、同じデジタル計量信号x(n)であっても、
図12に示すフィルタ次数m=40における出力信号y(n)
(40)は、
図11の波形に比べて減衰した波形を得ることができる。さらに、適応部312のフィルタ係数a
i(m)(反射係数k
m)を変更することにより、
図8から
図10に示す例と同様に、フィルタ次数mをサンプリング数n=70から90の間で増加させることで、デジタル計量信号y(n)
(m)を迅速に許容減衰範囲V内に減衰させて出力することができる。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、本実施形態においては、固定部311として適応部312と同様の格子型フィルタを適用しているが、本発明はこれに限られず、例えば、移動平均フィルタ、ノッチフィルタ等のデジタルフィルタも適用可能である。また、固定部311は、装置固有の振動成分に応じて複数設けられてもよい。
【0089】
また、本実施形態においては、1計量サイクル中にフィルタ係数a
i(m)(反射係数k
m)を演算することはないが、これに限られず、例えば、判定手段32が1計量サイクル中にフィルタ次数mが最大値M以上になった際、フィルタ係数a
i(m)を演算、更新した上で、再度当該デジタル計量信号x
j(n)を更新されたフィルタ係数a
i(m)で濾波処理し直すこととしてもよい。
【0090】
さらに、デジタル計量信号の濾波処理において、本実施形態においては、固定部311及び適応部312の処理を直列的に行っているが、並列的に処理してもよい。また、直列的に処理する場合は、固定部311及び適応部312の何れを先に処理させてもよいが、本実施形態のように、固定部311の後に適応部312で処理させる方が適応部312における演算量を低減させるために好ましい。
【0091】
また、本実施形態においては、デジタル秤用デジタルフィルタをデジタル秤である組合せ秤に適用した例について主に説明しているが、本発明はこれに限られず、例えば、重量センサ2を1つだけ有するデジタル秤等にも適用可能である。