特許第5669375号(P5669375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669375
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】油圧緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/06 20060101AFI20150122BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20150122BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   F16F9/06
   F16F9/32 M
   F16F9/32 P
   B62K25/08 C
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-249505(P2009-249505)
(22)【出願日】2009年10月29日
(65)【公開番号】特開2011-94711(P2011-94711A)
(43)【公開日】2011年5月12日
【審査請求日】2012年7月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】青木 保博
【審査官】 柳楽 隆昌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−148546(JP,A)
【文献】 実開昭51−138686(JP,U)
【文献】 特開平06−109054(JP,A)
【文献】 特開2008−232325(JP,A)
【文献】 特開平08−145105(JP,A)
【文献】 特開2002−130354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F9/00−9/58
B62K25/00−27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブに車軸側チューブを摺動自在に挿入し、
前記車体側チューブの内部で該車体側チューブに連結したダンパのシリンダチューブに、前記車軸側チューブの内部で該車軸側チューブに連結したピストンロッドに設けたメインピストンを摺動自在に挿入し、このメインピストンにより前記シリンダチューブの内部をピストン側油室とロッド側油室に区画し、前記メインピストンの前記ピストン側油室と前記ロッド側油室を連絡する流路に伸側減衰バルブを設け、
前記シリンダチューブの内部で前記メインピストンより上部に該メインピストンと相対するサブピストンを設け、このサブピストンにより前記シリンダチューブの内部の前記ピストン側油室に対する上方にサブ油室を区画し、前記サブピストンの前記ピストン側油室と前記サブ油室を連絡可能にする流路に圧側減衰バルブを設け、
前記シリンダチューブの内部で前記サブピストンより上部に該サブピストンと相対するフリーピストンを移動自在に設け、
前記フリーピストンを前記サブピストンの側に向けて付勢する加圧スプリングを有してなる油圧緩衝器において、
前記サブピストンが前記シリンダチューブの上端部に取着される支持軸に保持され、前記フリーピストンが前記シリンダチューブと前記支持軸の間の環状空間に移動自在に設けられ、
前記フリーピストンの前記サブ油室に臨む側にエアクッション室を設け、前記エアクッション室は前記サブ油室に開口して該油室の油が出入り自在にされ
前記フリーピストンの前記サブ油室に臨んでその油中に突き出る外周スカート部と、前記フリーピストンにおける前記サブピストンの前記支持軸まわりにおいて前記サブ油室に臨む側に突き出る内周スカート部とにより、該外周スカート部と該内周スカート部との間で環状をなす前記エアクッション室を囲み形成し、該内周スカート部の下端側には前記サブピストンの前記支持軸に摺接する内周シール部材を設け、この内周シール部材を前記油室の油中に浸漬可能にし、油圧緩衝器の起立伸切状態で、前記サブ油室の油が前記エアクッション室の内部に一定レベルまで浸入し、前記エアクッション室の上部に一定容積のエアが確保されてなることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記フリーピストンの外周に設けた前記外周シール部材が前記シリンダチューブの内部を所定位置まで上昇したときに、前記フリーピストンと前記サブピストンの間の前記サブ油室を、前記シリンダチューブの外部のリザーバに連通する余剰油排出路を設けてなる請求項に記載の油圧緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車等に架装されて路面振動を吸収する油圧緩衝器として、特許文献1に記載の如く、ダンパのシリンダチューブの内部に形成される油室に、ピストンロッドに設けたピストンを該油室の下端側から摺動自在に挿入し、シリンダチューブの内部でピストンが収容される油室より上部に該油室を区画するフリーピストンを移動自在に設け、フリーピストンをピストンの側に向けて付勢する加圧スプリングを有してなるものがある。加圧スプリングによって付勢されているフリーピストンが圧側油室を常に加圧することにより、ピストンロッドが油室に進入する圧縮ストロークにおける圧側減衰力の立上り応答性を良くしようとするものである。
【0003】
特許文献1に記載の油圧緩衝器では、加圧スプリングのばね荷重を強くすると、圧縮初期ストロークのばね反力が過大になってピストンロッドの油室への進入を阻害し、二輪車等の乗心地を悪くする。逆に、加圧スプリングのばね荷重を柔らかくすると、圧縮後半ストロークでのばね反力が不足して踏ん張りが効かなくなって乗心地を損なう。
【0004】
他方、圧縮後半ストロークで所定のばね反力を確保できる加圧スプリングを用いながら、圧縮初期ストロークの乗心地も向上する油圧緩衝器として、特許文献2に記載の如く、加圧スプリングの上流側(油室の側)又は下流側に直列にエアばね機構を配置するものが提案されている。エアばね機構は、シリンダチューブ内に設けられるブラダによりエアクッション室を密閉形成するもの、又はシリンダチューブ内に摺動自在にされるフリーピストンによりエアクッション室を密閉形成するものにて構成される。圧縮初期ストロークの油室圧力によりブラダ又はフリーピストンが密閉形成するエアクッション室を収縮し、ピストンロッドの油室への進入を許容して乗心地の改善を図る。圧縮後半ストロークでは、上記エアクッション室の収縮が止まり、加圧スプリングの所定のばね反力により乗心地の維持を図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-30534
【特許文献2】特開2004-286137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の油圧緩衝器には以下の問題点がある。ブラダによりエアクッション室を密閉形成するものでは、圧縮初期ストロークの油室圧力がブラダをつぶす(収縮変形させる)荷重の大きさ(抵抗になる)に達するまで、エアクッション室が収縮開始しないから、ピストンロッドが油室へ進入することができず、乗心地を改善できない。フリーピストンによりエアクッション室を密閉形成するものでも、圧縮初期ストロークの油室圧力がフリーピストンのシール部で生ずるフリクション(抵抗になる)を超えるまで、エアクッション室が収縮開始しないから、ピストンロッドが油室へ進入することができず、乗心地を改善できない。
【0007】
本発明の課題は、油圧緩衝器において、圧縮後半ストロークで所定のばね反力を確保できる加圧スプリングを用いながら、圧縮初期ストロークの乗心地を圧縮の当初から確実に向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、車体側チューブに車軸側チューブを摺動自在に挿入し、前記車体側チューブの内部で該車体側チューブに連結したダンパのシリンダチューブに、前記車軸側チューブの内部で該車軸側チューブに連結したピストンロッドに設けたメインピストンを摺動自在に挿入し、このメインピストンにより前記シリンダチューブの内部をピストン側油室とロッド側油室に区画し、前記メインピストンの前記ピストン側油室と前記ロッド側油室を連絡する流路に伸側減衰バルブを設け、前記シリンダチューブの内部で前記メインピストンより上部に該メインピストンと相対するサブピストンを設け、このサブピストンにより前記シリンダチューブの内部の前記ピストン側油室に対する上方にサブ油室を区画し、前記サブピストンの前記ピストン側油室と前記サブ油室を連絡可能にする流路に圧側減衰バルブを設け、前記シリンダチューブの内部で前記サブピストンより上部に該サブピストンと相対するフリーピストンを移動自在に設け、前記フリーピストンを前記サブピストンの側に向けて付勢する加圧スプリングを有してなる油圧緩衝器において、前記サブピストンが前記シリンダチューブの上端部に取着される支持軸に保持され、前記フリーピストンが前記シリンダチューブと前記支持軸の間の環状空間に移動自在に設けられ、前記フリーピストンの前記サブ油室に臨む側にエアクッション室を設け、前記エアクッション室は前記サブ油室に開口して該油室の油が出入り自在にされ、前記フリーピストンの前記サブ油室に臨んでその油中に突き出る外周スカート部と、前記フリーピストンにおける前記サブピストンの前記支持軸まわりにおいて前記サブ油室に臨む側に突き出る内周スカート部とにより、該外周スカート部と該内周スカート部との間で環状をなす前記エアクッション室を囲み形成し、該内周スカート部の下端側には前記サブピストンの前記支持軸に摺接する内周シール部材を設け、この内周シール部材を前記油室の油中に浸漬可能にし、油圧緩衝器の起立伸切状態で、前記サブ油室の油が前記エアクッション室の内部に一定レベルまで浸入し、前記エアクッション室の上部に一定容積のエアが確保されてなるようにしたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記フリーピストンの外周に設けた前記外周シール部材が前記シリンダチューブの内部を所定位置まで上昇したときに、前記フリーピストンと前記サブピストンの間の前記サブ油室を、前記シリンダチューブの外部のリザーバに連通する余剰油排出路を設けてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
(請求項1)
(a)フリーピストンの油室に臨む側にエアクッション室を設け、エアクッション室は油室に開口して該油室の油が出入り自在にされる。従って、圧縮初期ストロークでは、圧側油室の油が直にエアクッション室のエアを圧縮開始して確実にエアばねを生成させ、フリーピストンを上昇させずに、ピストンロッドの進入を許容し、圧縮の当初から乗心地を向上させる。所定圧縮ストローク以降では、圧側油室の油がエアクッション室のエアを更に圧縮しながら、フリーピストンも上昇させて加圧スプリングを圧縮開始させ、圧縮後半ストロークでは、加圧スプリングによる所定のばね反力を確保し、乗心地を維持する。
【0015】
(b)フリーピストンの油室に臨んでその油中に突き出る外周スカート部によりエアクッション室を囲み形成し、油圧緩衝器の起立伸切状態で、油室の油がエアクッション室の内部に一定レベルまで浸入し、エアクッション室の上部に一定容積のエアが確保される。従って、上述(a)で圧側油室の油がエアクッション室のエアを圧縮するとき、エアクッション室の天井内にて加圧されるエアを外周スカート部により囲い込んで外部へ逃がさず、エアばねの安定的な生成を図る。
(c)フリーピストンがサブピストンの支持軸まわりにおいて油室に臨む側に突き出る内周スカート部を備え、前記外周スカート部と該内周スカート部との間で環状をなすエアクッション室を囲み形成する。これにより、上述(a)で圧側油室の油がエアクッション室のエアを圧縮するとき、エアクッション室の天井内にて加圧されるエアを外周スカート部及び内周スカート部により囲い込んで外部へ逃がさず、エアばねの安定的な生成を図る。このとき、内周スカート部の下端側にサブピストンの支持軸に摺接する内周シール部材を設け、この内周シール部材を油室の油中に浸漬することにより、内周シール部材を潤滑してエアクッション室を囲み形成するためのシール性能を維持する。
【0016】
(請求項
(d)フリーピストンの外周に設けた外周シール部材がシリンダチューブの内部を所定位置まで上昇したときに、フリーピストンとサブピストンの間のサブ油室を、シリンダチューブの外部のリザーバに連通する余剰油排出路を設ける。これにより、ピストンロッドの外周面に付着してリザーバからシリンダチューブの内部に持ち込んだ余剰油及び高圧を、圧縮ストロークの通常上昇端より更に上方の所定位置たる最上昇端で、上記余剰油排出路経由でリザーバに排出して解放できる。このとき、フリーピストンのエアクッション室の天井内にて加圧されているエアは、上述(b)のフリーピストンの外周スカート部により囲い込まれており、上記余剰油に随伴して上記余剰油排出路から排出されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は実施例1の油圧緩衝器を示す全体断面図である。
図2図2図1の下部断面図である。
図3図3図1の上部断面図である。
図4図4はフリーピストンの圧縮ストローク端を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施例1)(図1図4
フロントフォーク10(油圧緩衝器)は、図1図3に示す如く、車体側チューブ(アウタチューブ)11内に車軸側チューブ(インナチューブ)12を摺動自在に挿入し、両チューブ11、12の間に懸架スプリング13を介装するとともに、単筒型ダンパ14を倒立にして内装している。
【0020】
車体側チューブ11は車体側に支持され、車軸側チューブ12は車軸に結合される。
車体側チューブ11の上端部にはダンパ14のシリンダチューブ16(上シリンダチューブ16A)の上端部がOリングを介して螺着され、シリンダチューブ16の上部開口端はフォークボルト15により閉塞される。フォークボルト15は、Oリングを介して上シリンダチューブ16Aの内周に挿入されて螺着される。
【0021】
車軸側チューブ12の下端部には車軸ブラケット19が螺着され、車軸側チューブ12と車軸ブラケット19の間にオイルロックカラー17の基端部を挟持している。オイルロックカラー17は車軸側チューブ12の下端部内周にOリングを介して液密に嵌装されるとともに、車軸ブラケット19の内側の底面の上にOリングを介して液密に着座している。また、車軸ブラケット19にはボトムボルト18が外側からOリングを介して液密に螺着されている。このボトムボルト18にはダンパ14のピストンロッド(中空ロッド)20の基端部が螺着されるとともにロックナット18Aでロックされ、このピストンロッド20の先端部をシリンダチューブ16に挿入してある。ピストンロッド20は、シリンダチューブ16(下シリンダチューブ16B)の下端側の開口部に螺着したロッドガイド21のブッシュ21Aで支持され、シール部材21Bを貫通してシリンダチューブ16の内部に挿入されている。シール部材21Bは、シリンダチューブ16の後述する油室43Bを密封し、油室43Bの油がシリンダチューブ16の外に逃げ出すのを阻止する一方向性のシール機能をもつ。尚、ロッドガイド21の外周部にはオイルロックカラー22を設けてある。また、ロッドガイド21の内側端面にはリバウンドスプリング23が支持されている。尚、シリンダチューブ16A、16Bはパイプナット16Cで接続ロックされる。
【0022】
懸架スプリング13は、オイルロックカラー17の基端部外周段差面と、シリンダチューブ16(下シリンダチューブ16B)に外装して軸方向に係止した孔開きスプリングカラー25(多数の連通孔25Aを備える)の先端部に固定したスプリング受け26との間に介装されている。また、車体側チューブ11と車軸側チューブ12の内部で、ダンパ14の外側にはリザーバ30を構成する油室31と気体室32とが設けられ、油室31と気体室32とは自由界面を介して接触し、気体室32に閉じ込められている気体が気体バネを構成する。これらの懸架スプリング13と気体バネの弾発力が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
【0023】
ダンパ14は、メインバルブ装置(伸側減衰バルブ装置)40と、サブバルブ装置(圧側減衰バルブ装置)50とを有している。ダンパ14は、メインバルブ装置40とサブバルブ装置50の発生する減衰力により、懸架スプリング13と気体バネによる衝撃力の吸収に伴う車体側チューブ11と車軸側チューブ12の伸縮振動を抑制する。
【0024】
(メインバルブ装置40)
メインバルブ装置40は、ピストンロッド20の先端部にピストンホルダ41を装着し、このピストンホルダ41にメインピストン42を装着している。メインピストン42は、シリンダチューブ16の内部をピストンロッド20が収容されないピストン側油室43Aとピストンロッド20が収容されるロッド側油室43Bとに区画し、該シリンダチューブ16の内部を摺動する。メインピストン42は、伸側減衰バルブ44Aを備えてピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとを連絡可能とする伸側流路44と、圧側減衰バルブ(チェックバルブ)45Aを備えてピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとを連絡可能とする圧側流路45とを備える。
【0025】
また、メインバルブ装置40は、車軸ブラケット19に螺着してある前述のボトムボルト18に外部から回転操作できるアジャスタ46を設けている。メインバルブ装置40は、アジャスタ46に結合されている減衰力調整ロッド47をピストンロッド20の中空部に通し、アジャスタ46の回転操作により軸方向に進退する減衰力調整ロッド47の先端のニードル47Aにより、ピストンホルダ41に設けてあるピストン側油室43Aとロッド側油室43Bとのバイパス路48の流路面積を調整可能とする。
【0026】
(サブバルブ装置50)
サブバルブ装置50は、上シリンダチューブ16Aの上端部に螺着されている前述のフォークボルト15にガイドパイプ51(支持軸)を螺着し、ガイドパイプ51の先端部にピストンホルダ51Aを螺着し、このピストンホルダ51Aにナット51B等によりサブピストン52を保持している。サブピストン52はシリンダチューブ16の内部でメインピストン42に相対配置され、上シリンダチューブ16Aの小内径部71に液密に接し、前述のピストン側油室43Aの上方にサブ油室53を区画形成する。サブピストン52は、圧側減衰バルブ54Aを備えてピストン側油室43Aとサブ油室53とを連絡可能とする圧側流路54と、伸側減衰バルブ55Aを備えてピストン側油室43Aとサブ油室53とを連絡可能とする伸側流路55とを備える。また、ピストンホルダ51Aは、圧側流路54と伸側流路55とをバイパスしてピストン側油室43Aとサブ油室53とを連絡可能とするバイパス路56を備える。
【0027】
フォークボルト15に螺合された減衰力調整ロッド58は、アジャスタ59を備えるとともに、ガイドパイプ51に挿入され、アジャスタ59の回転操作により軸方向に進退する先端のニードル58Aによりバイパス流路56の流路面積を調整可能とする。尚、フォークボルト15は頭部端面の中央部にアジャスタ59とそのホルダ59Aを埋込み保持している。
【0028】
サブバルブ装置50は、上シリンダチューブ16Aの内部であって、上シリンダチューブ16Aとガイドパイプ51の間の環状空間にて、フリーピストン60を移動可能に設けるとともに、フリーピストン60とフォークボルト15との間に介装される加圧スプリング70を有する。加圧スプリング70は、圧縮コイルバネからなり、フリーピストン60をサブピストン52の側に向けて付勢する。シリンダチューブ16内にピストンロッド20が進入する圧縮時に、この加圧スプリング70が収縮し、このときの加圧スプリング70のばね荷重分だけ、シリンダチューブ16内の油室が加圧され、圧側減衰力の立上り応答性を良くするとともに、伸長時におけるシリンダチューブ16内の油のキャビテーションの発生を防止する。
【0029】
このとき、フリーピストン60は、底部61と筒部62を有する有底筒状体をなし、底部61の外周部に、サブ油室53に臨む側に突き出る外周スカート部63を備える。また、フリーピストン60は、底部61におけるサブピストン52のガイドパイプ51まわりにおいて、サブ油室53に臨む側に突き出る内周スカート部64を備える。
【0030】
フリーピストン60は、筒部62の中間部外周の環状溝に上ピストンリング65Uを設け、外周スカート部63の下部外周の環状溝に下ピストンリング65Lを設け、筒部62の上部外周の環状溝にオイルシール等の外周シール部材66を設ける。外周シール部材66は、筒部62の上部外周の環状溝に装填してあるOリング66Aの外側に装填され、Oリング66Aにより上シリンダチューブ16Aの内周に押圧される。また、フリーピストン60は、内周スカート部64の下部内周の環状溝にオイルシール等の内周シール部材67を設ける。
【0031】
フリーピストン60がダンパ14の伸縮に伴なってシリンダチューブ16に進入、退出するピストンロッド20の容積を補償するために上シリンダチューブ16Aとガイドパイプ51の間の環状空間を移動する通常移動域で、上ピストンリング65Uと下ピストンリング65Lと外周シール部材66は上シリンダチューブ16Aの小内径部71より上部の中内径部72を摺動し、内周シール部材67はガイドパイプ51のストレートな外周を摺動する。フリーピストン60は、上述の通常移動域で、外周シール部材66が上シリンダチューブ16Aの中内径部72を液密に摺動し、内周シール部材67がガイドパイプ51の外周を液密に摺動することにより、サブピストン52の側でピストン側油室43Aに連通しているサブ油室53と、フリーピストン60の背後の気体室(体積補償室)68とを区画する。
【0032】
尚、フリーピストン60にあっては、フリーピストン60が上シリンダチューブ16Aの内部を下方へと異常に大きく移動したとき、内周スカート部64の先端面がガイドパイプ51に螺着しているピストンホルダ51Aの肩部に先に衝合するように設定し、外周スカート部63の先端面が小内径部71と中内径部72の境界テーパ部に嵌まることのないようにしている。
【0033】
サブバルブ装置50は、上シリンダチューブ16Aの上端側に設けた貫通孔69でリザーバ30の気体室32とフリーピストン60の背後の気体室68とを連通している。フロントフォーク10の伸縮によって車体側チューブ11と車軸側チューブ12の摺動部からリザーバ30の気体室32、フリーピストン60の背後の気体室68に侵入した空気を排出するための排気プラグ34をフォークボルト15に設けてある。
【0034】
サブバルブ装置50は、フロントフォーク10のピストンロッド20がストロークする度に、該ピストンロッド20の外周面に付着した油室31の油をロッドガイド部21のシール部材21Bからシリンダチューブ16の内部に持ち込む。これにより、シリンダチューブ16の内部の油室43A、43B、53の作動油が徐々に増加し、それらの油室43A、43B、53の油圧が高圧化され、フリーピストン60が前述の通常移動域の上昇端(ダンパ14の圧縮ストロークの通常上昇端)より更に上方の所定位置たる最上昇端(図4)まで移動すると、フリーピストン60とサブピストン52の間のサブ油室53が、シリンダチューブ16の外部のリザーバ30に連通する余剰油排出路74を設ける。本実施例では、フリーピストン60が上述の最上昇端まで移動すると、フリーピストン60の外周シール部材66が、上シリンダチューブ16Aの中内径部72から、該中内径部72より上部の大内径部73の側に入って大内径部73との間にブロー通路を形成し、サブ油室53を大内径部73に開口している前述の貫通孔69の側に開口する。本実施例では、貫通孔69が上述の余剰油排出路74を構成する。これにより、ダンパ14の余剰油及び高圧がサブ油室53からフリーピストン60の外周、上シリンダチューブ16Aの貫通孔69経由でシリンダチューブ16の外のリザーバ30に排出され、解放される。
【0035】
しかるに、フロントフォーク10にあっては、圧縮後半ストロークで所定のばね反力を確保できる加圧スプリング70を用いながら、圧縮初期ストロークの乗心地を圧縮ストロークの当初から確実に向上するため、以下の構成を具備する。
【0036】
即ち、フロントフォーク10は、フリーピストン60のサブ油室53に臨む側にエアクッション室80を設け、エアクッション室80はサブ油室53に開口して該サブ油室53の油が出入自在にされる。本実施例のフロントフォーク10では、フリーピストン60の外周スカート部63と内周スカート部64との間に環状をなすエアクッション室80が囲み形成される。エアクッション室80の天井側(フリーピストン60の底部61)にエアAが収容され、その下部にサブ油室53の油Bが注入し、エアAと油Bが自由界面を介して接するものである。フロントフォーク10を組立てた起立伸切状態で、サブ油室53の油Bがエアクッション室80の内部に一定レベルまで浸入し、エアクッション室80の上部に一定容積のエアAが確保される。このとき、内周スカート部64の下端側に設けてある内周シール部材67はサブ油室53の油中に浸漬するように設定される。
【0037】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)フリーピストン60のサブ油室53に臨む側にエアクッション室80を設け、エアクッション室80はサブ油室53に開口して該サブ油室53の油Bが出入り自在にされる。従って、圧縮初期ストロークでは、圧側油室53の油Bが直にエアクッション室80のエアAを圧縮開始して確実にエアばねを生成させ、フリーピストン60を上昇させずに、ピストンロッド20の進入を許容し、圧縮の当初から乗心地を向上させる。所定圧縮ストローク以降では、圧側油室53の油Bがエアクッション室80のエアAを更に圧縮しながら、フリーピストン60も上昇させて加圧スプリング70を圧縮開始させ、圧縮後半ストロークでは、加圧スプリング70による所定のばね反力を確保し、乗心地を維持する。
【0038】
(b)フリーピストン60のサブ油室53に臨む側に突き出る外周スカート部63によりエアクッション室80を囲み形成する。従って、上述(a)で圧側油室53の油Bがエアクッション室80のエアAを圧縮するとき、エアクッション室80の天井内にて加圧されるエアAを外周スカート部63により囲い込んで外部へ逃がさず、エアばねの安定的な生成を図る。
【0039】
(c)フリーピストン60の外周に設けた外周シール部材がシリンダチューブ16の内部を所定位置まで上昇したときに、フリーピストン60とサブピストン52の間のサブ油室53を、シリンダチューブ16の外部のリザーバ30に連通する余剰油排出路74を設ける。これにより、ピストンロッド20の外周面に付着してリザーバ30からシリンダチューブ16の内部に持ち込んだ余剰油及び高圧を、圧縮ストロークの通常上昇端より更に上方の所定位置たる最上昇端で、上記余剰油排出路74経由でリザーバ30に排出して解放できる。このとき、フリーピストン60のエアクッション室80の天井内にて加圧されているエアAは、上述(b)のフリーピストン60の外周スカート部63により囲い込まれており、上記余剰油に随伴して上記余剰油排出路74から排出されることがない。
【0040】
(d)フリーピストン60がサブピストン52のガイドパイプ51まわりにおいてサブ油室53に臨む側に突き出る内周スカート部64を備え、前記外周スカート部63と該内周スカート部64との間で環状をなすエアクッション室80を囲み形成する。これにより、上述(a)で圧側油室53の油Bがエアクッション室80のエアAを圧縮するとき、エアクッション室80の天井内にて加圧されるエアAを外周スカート部63及び内周スカート部64により囲い込んで外部へ逃がさず、エアばねの安定的な生成を図る。このとき、内周スカート部64の下端側にサブピストン52のガイドパイプ51に摺接する内周シール部材67を設け、この内周シール部材67をサブ油室53の油中に浸漬することにより、内周シール部材67を潤滑してエアクッション室80を囲み形成するためのシール性能を維持する。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、二輪車等に架装されて路面振動を吸収する油圧緩衝器において、圧縮後半ストロークで所定のばね反力を確保できる加圧スプリングを用いながら、圧縮初期ストロークの乗心地を圧縮の当初から確実に向上することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 フロントフォーク(油圧緩衝器)
11 車体側チューブ
12 車軸側チューブ
14 ダンパ
16、16A、16B シリンダチューブ
20 ピストンロッド
30 リザーバ
42 メインピストン
43A ピストン側油室
43B ロッド側油室
44 伸側流路
44A 伸側減衰バルブ
51 ガイドパイプ(支持軸)
52 サブピストン
53 サブ油室
54 圧側流路
54A 圧側減衰バルブ
60 フリーピストン
63 外周スカート部
64 内周スカート部
66 外周シール部材
67 内周シール部材
68 気体室
69 貫通孔
70 加圧スプリング
74 余剰油排出路
80 エアクッション室
図1
図2
図3
図4