(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
棒状の陽極と、前記陽極を取り囲むように設けられ、前記陽極との間の領域に放電空間を有する陰極と、前記陰極の外周に設けられた磁石と、を有する冷陰極電離真空計に用いる放電開始補助電極であって、
カーボンナノチューブ層が形成され、外周には前記陰極に着脱可能に取り付けるための支持爪を有することを特徴とする放電開始補助電極。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。以下に説明する部材、配置等は本発明を具体化した一例であって、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変できることは勿論である。
【0013】
(第1の実施形態)
図1乃至4は本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置及びその真空処理装置に取り付けられた冷陰極電離真空計を説明する図である。即ち、
図1は本発明に係る冷陰極電離真空計を備えた真空処理装置の断面概略図、
図2は本発明に係る冷陰極電離真空計の横断面模式図である。
図3は
図2のF−F線から見た断面模式図、
図4は
図2のE部を拡大して示す拡大図である。なお、
図5は補助電極保護板(陰極補助電極保護板)を用いた適用例を示す図である。
【0014】
図1に示すように真空処理装置Sを構成する公知の真空容器の壁面(斜線部)に冷陰極電離真空計が取り付けられている。即ち、冷陰極電離真空計は真空容器の壁面の開口部に気密を保持した状態で取り付けられている。なお、図中符号1は冷陰極電離真空計を構成する測定子容器(陰極)、符号8は接続フランジ、符号13は真空計動作回路を示す。
【0015】
本願明細書では、真空処理装置Sとしてスパッタリング装置を例に挙げて説明するが、本発明はこの限りではない。例えば、他のPVD装置やCVD装置などの成膜装置、若しくはアッシング装置やドライエッチング装置などにも、本発明に係る冷陰極電離真空計は好適に適用可能である。
【0016】
図2は、本実施形態に係る冷陰極電離真空計の横断面模式図である。なお、
図2では
図1と同一部分には同一符号を付している。冷陰極電離真空計は逆マグネトロン型真空計であり、陰極(カソード)である測定子容器1と、棒状の陽極2(アノード)と、陰極である測定子容器1の外周に配置された磁場を作る磁性手段としての磁石3と、を主要な構成要素としている。
【0017】
測定子容器1(陰極)は略円筒状若しくは略管状の金属部材であり、内部の一方側に放電空間9が形成されている。測定子容器1は放電空間9側の一端部が開口され、その逆側の一端部が絶縁部材6によって封止されている。開口された放電空間9側の一端部には接続フランジ8とフィルター8aが配置されている。フィルター8aはステンレスなどで形成され、絶縁部材6はアルミナセラミックなどの絶縁石を含んでいる。絶縁部材6には電流導入棒4が気密を保った状態で貫通して固定されている。
【0018】
測定子容器1の接続フランジ8を真空容器の開口部に取り付けることにより、フィルター8aを介して真空容器内の空間と測定子容器1内の放電空間9とが通気可能な状態になり、真空容器の内部空間の圧力を測定することができる。磁石3は、測定子容器1の外周を取り囲むようにリング状に形成して取り付けられている。磁石3としてはフェライト磁石などが好適に用いられる。
【0019】
陽極2は棒状のアノード電極であり、測定子容器(陰極)1の内部に形成された放電空間9内に配置され、一端部側で電流導入棒4に接続されている。電流導入棒4は、測定子容器1の外側で真空計動作回路13に接続されている。真空計動作回路13には、電圧を印加する高圧電源11と、真空計動作回路13に流れる放電電流を測定する放電電流検出部12が設けられている。なお、後述するが、棒状の陽極2には放電開始補助電極5(放電開始補助電極板7)が電気的に接続された状態で取り付けられている。ここで、放電開始補助電極とは、陽極や陰極に設けられた電極であって、設けられた電極と同電位になり、電界集中が起こり易くする機能を有するものを含んでいる。また、電気的接続とは、導線を介した接続や、補助電極を陰極や陽極に直接接続することを含む。
【0020】
図3は放電開始補助電極5の冷陰極電離真空計への取り付け状態を示す模式図であって、
図2のF−F線から見た断面模式図である。
図4は放電開始補助電極5と測定子容器(陰極)1の壁面との関係を示すために
図2のE部を拡大して示す。
図3、
図4では
図2と同一部分には同一符号を付している。
【0021】
放電開始補助電極5は放電開始補助電極板7を有している。放電開始補助電極板7は略リング状の部材であり、SUS304等のステンレス鋼、ニッケル合金、高融点材料などの耐食性の高い金属薄板で形成されている。放電開始補助電極板7の厚さは100μm以下が好ましく、特に1μm〜10μmに形成するのが望ましい。厚さは薄い方が、低い電圧で電子を引き出す効果が高い。
【0022】
放電開始補助電極板7は、
図4に示すように中心部分の開口部に陽極2を圧入して取り付けられているため、その開口部の直径は陽極2の直径よりも僅かに小さく形成されている。放電開始補助電極板7と測定子容器(陰極)1の壁面との距離は、特に制限されるものではないが、0.2mm以上とするのが好ましい。また、圧入に替えて締結部材を用いて、放電開始補助電極板7を陽極2に固定してもよい。
【0023】
放電開始補助電極板7の絶縁部材6側(真空容器との接続部である接続フランジ8と対向する側)には、カーボンナノチューブ層10が形成されている。放電空間9側の反対側(絶縁部材6側)にカーボンナノチューブ層10を形成することで、真空容器側から侵入する荷電粒子による衝撃やスパッタ膜の付着によるカーボンナノチューブ層10の損傷を防ぐあるいは低減することができる。カーボンナノチューブ層10は放電開始補助電極板7の外縁部、即ち、測定子容器(陰極)1に対向する位置にもカーボンナノチューブ層が存在するように形成されている。このように構成することで、接続フランジ8側から侵入してくるパーティクルを放電開始補助電極板7がブロックすることになり、パーティクルのカーボンナノチューブ層10への付着を防ぐあるいは低減することができる。
【0024】
なお、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube)は炭素によって作られる6員環ネットワークが単層或いは多層の同軸管状に結合された物質である。カーボンナノチューブは、一般的に、直径がナノメートルオーダーの筒状の形状、鋭い先端、大きなアスペクト比を有し、導電性を示し、電子のトンネル効果を誘発しやすい。本発明においては、カーボンナノチューブ層は電界集中を起こさせる微小な突起電極として用いられている。カーボンナノチューブ先端部への電界集中に起因して、放電の誘発を短時間で行うことが可能な本発明の優れた効果が生じる。
【0025】
また、
図5に示すように、放電開始補助電極5の直径より小さな内径が形成された補助電極保護板29(陰極補助電極保護板29)を、放電空間9内部の測定子容器1の底部に取り付けることで、真空容器側から飛来する粒子の衝突や付着によるカーボンナノチューブ層10の損傷を効果的に防ぐあるいは低減することができる。補助電極保護板29は、略円板状若しくは矩形状の板状の部材であり、中心部分に円形の開口29aが形成されている。この開口29aの中央部分に陽極2を差し込むように配設されている。補助電極保護板29に形成された開口29aの内径は、放電開始補助電極5の直径よりも小さいため、真空容器側から侵入した荷電粒子などは、補助電極保護板29に最初に衝突し、カーボンナノチューブ層10に直接衝突することが低減される。
【0026】
さらに、後述するように第10の実施形態(
図16参照)で使用される補助電極保護板30(陽極補助電極保護板30)を、本実施形態に係る冷陰極電離真空計に適用してもよい。この場合、放電開始補助電極5より大きな直径の補助電極保護板30を、放電開始補助電極5よりも真空容器側の陽極2に取り付けることで、真空容器側から侵入した荷電粒子などを、補助電極保護板30に最初に衝突させることで、カーボンナノチューブ層10に直接衝突することを抑制することができる。
【0027】
ここで、放電開始補助電極板7は導電性物質であってもよい。さらに、放電開始補助電極板7は、カーボンナノチューブを支持し、カーボンナノチューブが当該放電補助電極板が取り付けられた電極に接触する構成をとることができれば、絶縁体や半導体の部材であってもよく、放電開始補助電極板7に導電性物質を使用した場合と同様の効果が得られる。例えば、放電開始補助電極板7の代わりに絶縁体や半導体を用いる場合は、該絶縁体や半導体に対して所定の方向にカーボンナノチューブが配向するような処理を施し、絶縁体や半導体上にカーボンナノチューブ層を上記所定の方向に配向させれば良い。そして、絶縁体や半導体上に形成されたカーボンナノチューブ層を陽極2および陰極としての測定子容器1の少なくとも一方に電気的に接続すれば良い。
【0028】
このように、本実施形態では、放電開始補助電極板7といったカーボンナノチューブ層10が形成される部材は導電性である必要は無く、カーボンナノチューブ層10を支持できる支持部材であればいずれであっても良い。
【0029】
さて、本実施形態では、陽極2および陰極としての測定子容器1とを近づけたり、陽極2に高電圧を印加しなくても放電を短時間で開始させるために、陽極2および測定子容器1により形成される放電空間9内において局所的に電界集中させることを本質としている。そして、該電界集中のために、放電開始補助電極5を設けており、該放電開始補助電極5による電界集中効果をさらに高めるために、放電開始補助電極5がカーボンナノチューブ層10を含むようにし、さらに該カーボンナノチューブ層10を陽極2(あるいは、後述のように陰極としての測定子容器1、およびその双方)に電気的に接続させている。
【0030】
すなわち、本発明の一実施形態では、放電開始補助電極がカーボンナノチューブ層を有しているので、唯でさえ電界集中を実現可能な放電開始補助電極を、ナノオーダーの突起電極の集合体とすることができる。従って、陽極と陰極との間の距離を長くしたり、電極間への印加電圧をより低くしても、短時間で放電を誘発することができる。
【0031】
このように、本発明の一実施形態では、放電開始補助電極がカーボンナノチューブ層を有することが大きな特徴の一つである。従って、放電開始補助電極5が放電開始補助電極板7を有することは必ずしも必要ではない。何故ならば、上述のように、放電開始補助電極5がカーボンナノチューブ層10を有することで、電界集中効果をさらに高めることができるからである。従って、放電開始補助電極板7といったカーボンナノチューブ層10を支持する機能を有する部材を用いなくても、例えばカーボンナノチューブ層10を所定の方向に配向するように構成することは原理的に可能であるので、カーボンナノチューブ層10を支持する部材(例えば、放電開始補助電極板7)を有さないように、カーボンナノチューブ層のみで放電開始補助電極5を構成しても良い。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、放電開始補助電極の構成が
図3、
図4と異なっている。それ以外の冷陰極電離真空計や真空処理装置の構成は
図1、
図2と同様である。
図6(a)は本実施形態に係る放電開始補助電極25を示す平面図、
図6(b)はその側面図である。
【0033】
図6(a)に示すように放電開始補助電極25を構成する放電開始補助電極板27には中心部分に棒状の陽極2を挿通するための開口部が設けられている。その開口部の内周に沿って陽極2に取り付けるための弾性を有する支持爪23が放射状に設けられている。支持爪23を有することで放電開始補助電極板27を陽極2に取り付ける際の挿入圧力を均一にでき、組み立てが容易となる他、放電開始補助電極板27の取り付け位置の精度を向上させることができる。
【0034】
また、
図6(b)に示すように放電開始補助電極25は、カーボンナノチューブのコーティング層(カーボンナノチューブ層10)を覆うように保護部材としてのコーティング保護円盤26を貼付けて一体構造に構成されている。コーティング保護円盤26はカーボンナノチューブ層10の表面を保護し、更には余分な電界電子放出を抑えて安定した持続放電電流を得ることを可能とするものである。
【0035】
更に、放電開始補助電極25の着脱の際にカーボンナノチューブ層のコーティング面に損傷が生じることを防ぎあるいは低減し、組み立てや修理の際の取扱いが容易となる。コーティング保護円盤26は、放電開始補助電極板27と同じ材質で形成でき、厚さは放電開始補助電極板27と同等以下とするのが好ましい。
【0036】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では同様に放電開始補助電極の構成が
図3、
図4と異なっている。それ以外の冷陰極電離真空計や真空処理装置の構成は
図1、
図2と同様である。
【0037】
図7(a)は本実施形態に係る放電開始補助電極35を示す平面図、
図7(b)はその側面図、
図7(c)はその断面図である。本実施形態に係る放電開始補助電極35は、2つの部材を有する放電開始補助電極板37を備えている。つまり、放電開始補助電極板37は、インナ電極部材38と、その外周側に固着されたアウタ電極部材39を有する。
【0038】
即ち、放電開始補助電極板37は、陽極2に取り付ける部分(インナ電極部材38)の外周側に、上記実施形態に示す放電開始補助電極板7,27としての機能を有する電極板(アウタ電極部材39)を固着した構造を有している。このように2重構造とすることで、厚さ0.2〜5μm程度の放電開始補助電極板(アウタ電極部材39)を、陽極2に容易に取り付けができるようになる。アウタ電極部材39には
図6と同様にカーボンナノチューブ層10が形成されている。
【0039】
インナ電極部材38は、
図7(c)に示すように中心部分に陽極2を挿通して取り付ける開口部を有するリング状の部材であり、アウタ電極部材39はインナ電極部材38よりも大きな直径を有するリング状の部材である。本実施形態では、
図7(a)に示すようにインナ電極部材38には、
図6に示した放電開始補助電極板27と同様に弾性を有する支持爪23が形成されているが、支持爪23を形成せずに開口部に陽極2を圧入する構成としても良い。
【0040】
アウタ電極部材39は、インナ電極部材38の絶縁部材6側にスポット溶接などによって取り付けられ、カーボンナノチューブ層10はアウタ電極部材39の絶縁部材6側に形成されている。
【0041】
ここで、アウタ電極部材39は、厚さが薄いためにカーボンナノチューブ層10が形成されない状態であっても外周の縁部分にある程度の電界集中が生じると考えられる。また、アウタ電極部材39を更に薄く形成し、若しくは外周の縁部分に突起を有する形状とすることで、より強い電界集中効果が期待できる。
【0042】
(第4の実施形態)
次に、本発明に係る放電開始補助電極の作製方法を説明する。まず、放電開始補助電極板7,27,37(アウタ電極部材39)は、フォトエッチング加工、プレス加工、レーザー加工などにより一定の厚さを有する薄板から所定形状に形成する。カーボンナノチューブ層10は、放電開始補助電極板7,27,37の一つの面にカーボンナノチューブを溶かした溶媒を噴霧して、乾燥させることによって形成する。
図6に示す保護部材であるコーティング保護円盤26は放電開始補助電極板27のカーボンナノチューブ層10が形成された面にスポット溶接などによって固着する。
【0043】
なお、
図6のコーティング保護円盤26は
図7など他の実施形態の放電開始補助電極に適用しても良い。その場合には、同様に保護部材であるコーティング保護円盤26を放電開始補助電極板のカーボンナノチューブ層10が形成された面にスポット溶接などによって固着すれば良い。
【0044】
また、カーボンナノチューブ層10は上記方法(噴霧法)以外にも、カーボンナノチューブを溶かした溶媒に放電開始補助電極板7,27,37を浸漬させる方法や、ニッケルなどの金属メッキプロセスを利用する方法によっても形成することができる。メッキプロセスを利用する場合には、カーボンナノチューブを溶かした電解漕でメッキ処理を行うことで、カーボンナノチューブが分散されたメッキ層(カーボンナノチューブ層10)を得ることができる。
【0045】
次に、放電開始補助電極5,25,35(放電開始補助電極板7,27,37)の測定子容器1内の陽極2への取り付け方法を説明する。ここでは、放電開始補助電極5を陽極2に取り付ける例を説明するが、他の放電開始補助電極の場合も同様である。放電開始補助電極5を測定子容器1内の陽極2に取り付ける際には、フィルター8aを取り外した状態で測定子容器1の開口部から放電開始補助電極5を挿入し、放電開始補助電極5の中心部分の開口部に陽極2が挿通するようにして取り付ける。これにより、
図2、
図4に示すように陽極2に放電開始補助電極5が固定された状態となる。
【0046】
この際、放電開始補助電極5はカーボンナノチューブ層10が絶縁部材6側になるように挿入する。これはカーボンナノチューブ層10を荷電粒子による衝撃やスパッタ膜の付着から保護するためである。放電開始補助電極5は
図2に示すように放電空間9の底部付近の位置まで挿入する。フィルター8aは最後に装着する。
【0047】
放電開始補助電極25のように内周側に支持爪23が形成されている場合の取り付け方法も同様である。この場合には、支持爪23を測定子容器1の開口部側に折り曲げた状態で挿入する。折り曲げた支持爪23は、板ばねと同様の作用により陽極2を常時内方に向けて付勢するため、放電開始補助電極25を陽極2に対して安定的に固定することが可能となる。
【0048】
陽極2に取り付けた放電開始補助電極を取り出すときには、ペンチやピンセット等の一般工具を用いて放電開始補助電極を陽極2から取り外す。支持爪23を有する放電開始補助電極板27の場合は、支持爪23をペンチやピンセット等の一般工具を用いて内側に起こして陽極2から取り外す。
【0049】
なお、
図2に示すように放電開始補助電極5は、測定子容器1の内部に形成された放電空間9の底部と絶縁部材6との間の位置に支持されているが、放電開始補助電極5の設置場所は放電空間9内であって陽極2の存在範囲内であっても良い。その他の放電開始補助電極25や35の場合も同様である。
【0050】
本発明の冷陰極電離真空計によれば、陽極2にカーボンナノチューブ層10をコーティングした放電開始補助電極を取り付けることにより、装置が複雑化することなく、放電の誘発を短時間で行うことが可能となる。また、放電開始補助電極は冷陰極電離真空計に交換可能に取り付けているため、放電開始補助電極の劣化により放電が誘発されにくくなったとしても、新たな放電開始補助電極に交換することにより放電が誘発されにくい状態を解消することができる。
【0051】
(第5の実施形態)
図8乃至10は本発明の第5の実施形態に係る真空処理装置に取り付けられた冷陰極電離真空計を説明する図である。即ち、
図8は本発明に係る冷陰極電離真空計の横断面模式図である。また、
図9は
図8のa−b線から見た断面模式図、
図10は
図8のC部を拡大して示す拡大図である。
【0052】
図8は本実施形態に係る冷陰極電離真空計の横断面模式図である。本実施形態を含む第5〜10の実施形態は、放電開始補助電極が陰極である測定子容器1に取り付けられている点で、上述した第1〜4の実施形態とは異なっている。それ以外の冷陰極電離真空計や真空処理装置の構成は第1〜4の実施形態と同様である。
図8では
図2と同一部分に同一符号を付した。
【0053】
本実施形態における放電開始補助電極46は、中央部に開口部45aを有する略矩形状の板材である放電開始補助電極板45を有する。放電開始補助電極板45は、SUS304等のステンレス鋼、ニッケル合金、高融点材料などの耐食性の高い金属薄板で形成してもよい。放電開始補助電極板45の厚さは100μm以下が好ましく、特に、開口部45aの周囲の厚さは5〜10μm程度に形成するのが望ましい。厚さは薄い方が、低い電圧で電子を引き出す効果が高い。
【0054】
放電開始補助電極板45の外周側には、測定子容器(陰極)1に取り付けるための弾性を有するように形成された支持爪24が設けられている。支持爪24は弾性的に変形するものであり、放電開始補助電極板45の外周から若干飛び出すように形成されている。支持爪24は、測定子容器(陰極)1の内壁と接触することで、放電開始補助電極板45を保持し、放電開始補助電極板45に陰極と同じ電位を提供する。
【0055】
放電開始補助電極板45は、外周部分に設けられた支持爪24が測定子容器(陰極)1の内側に接した状態で取り付けられている。即ち、弾性を有する支持爪24が測定子容器(陰極)1の内面を外方へ付勢することで放電開始補助電極板45が測定子容器(陰極)1内に保持されている。放電開始補助電極板45と陽極2との距離は、特に制限されるものではないが、0.2mm以上とすることが好ましい。
【0056】
また、放電開始補助電極板45の絶縁部材6側には、
図10に示すようにカーボンナノチューブ層10が形成されている。絶縁部材6側にカーボンナノチューブ層10を形成することで、真空容器側から侵入する荷電粒子による衝撃やスパッタ膜の付着によるカーボンナノチューブ層10の損傷を防ぐあるいは低減することができる。
【0057】
カーボンナノチューブ層10は放電開始補助電極板45の開口部45aの内側縁部から5mm程度の幅でリング状にカーボンナノチューブを付着させることで形成されている。即ち、カーボンナノチューブ層10は陽極2に対向する位置に存在する。
【0058】
なお、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube)は炭素によって作られる6員環ネットワークが単層或は多層の同軸管状に結合された物質である。カーボンナノチューブは、一般的に、直径がナノメートルオーダーの筒状の形状、鋭い先端、大きなアスペクト比を有し、導電性を示し、電子のトンネル効果を誘発しやすい。本発明では、カーボンナノチューブ層は電界集中を起こさせる微小な突起電極として用いている。カーボンナノチューブ先端部への電界集中に起因して、放電の誘発を短時間で行うことが可能な本発明の優れた効果が生じる。
【0059】
次に、本発明に係る放電開始補助電極板45の作製方法について説明する。放電開始補助電極板45はフォトエッチング加工、プレス加工、レーザー加工などにより薄板から所定形状に形成する。カーボンナノチューブ層10は、放電開始補助電極板45の一方側の面にカーボンナノチューブを溶かした溶媒を噴霧して乾燥させることによって形成する。
【0060】
カーボンナノチューブ層10は上記方法(噴霧法)以外にも、カーボンナノチューブを溶かした溶媒に放電開始補助電極板45を浸漬させる方法や、ニッケルなどの金属メッキプロセスを利用する方法によっても形成することができる。メッキプロセスを利用する場合には、カーボンナノチューブを溶かした電解漕でメッキ処理を行うことで、カーボンナノチューブが分散されたメッキ層を得ることができる。
【0061】
次に、放電開始補助電極板45の測定子容器(陰極)1内への取り付け方法について説明する。放電開始補助電極板45はフィルター8aを取り外した状態で測定子容器(陰極)1の開口側(接続フランジ8側)から取り付ける。放電開始補助電極板45の開口部45aに陽極2を挿通させた状態で、
図8に示すように放電空間9の底部付近の位置まで挿入する。フィルター8aは最後に装着する。
【0062】
この際、放電開始補助電極板45は
図10に示すようにカーボンナノチューブ層10が測定子容器(陰極)1の絶縁部材6側の段差部分(絶縁部材側の測定子容器1の壁面)1aと僅かに離間若しくは接するように配置するのが好ましい。これは、カーボンナノチューブ層10を荷電粒子による衝撃やスパッタ膜の付着から保護するためである。
【0063】
また、放電開始補助電極板45を測定子容器(陰極)1に取り付ける場合には、支持爪24が測定子容器(陰極)1の開口部側に折り曲げられた状態で取り付けられる。折り曲げた支持爪24は板ばねと同様の作用により測定子容器(陰極)1の内壁を常時外方に向けて付勢するため、放電開始補助電極板45を測定子容器(陰極)1内の所定位置に安定的に保持することが可能となる。こうして放電開始補助電極板45は測定子容器(陰極)1内の所定位置に保持された状態となる。
【0064】
測定子容器(陰極)1に取り付けられた放電開始補助電極板45を取り出すときには、ペンチやピンセット等の工具を用いて放電開始補助電極板45を測定子容器(陰極)1から取り外す。この際、支持爪24を工具によって内側に起こしてから取り外す。なお、放電開始補助電極板45は測定子容器(陰極)1の段差部分1aと僅かに離間又は接した位置に配置しているが、放電開始補助電極板45の設置場所は陽極2の存在範囲内であればよい。
【0065】
次に、本発明に係る放電開始補助電極板45を用いた場合の効果について説明する。測定子容器(陰極)1にカーボンナノチューブがコーティングされた放電開始補助電極板45を取り付けることにより、陽極2に高電圧を印加した際に陽極2に対向するカーボンナノチューブ層10の一部から電界放出により電子が引き出される。これは、放電開始補助電極板45の開口部45aの周囲に存在するカーボンナノチューブ先端が測定子容器(陰極)1のどの場所よりも電界集中が起こり易い条件となるため、電界電子放出の閾値が下がることに起因するものである。
【0066】
即ち、カーボンナノチューブをコーティングした放電開始補助電極板45を用いることで、陽極2と測定子容器(陰極)1との距離を近づけた場合と同様の効果若しくは陽極2に印加する電圧を高めた場合と同様の効果を得ることができる。従って、電界放出や二次電子放出は陽極2への高電圧印加時に発生するため、放電開始のトリガーとなる電子を効率良く供給することができる。その結果、測定子容器(陰極)1と陽極2との間に高圧電源11による高電圧印加から持続放電開始までの時間を短縮することができる。
【0067】
このように本実施形態の冷陰極電離真空計によれば、測定子容器(陰極)1側にカーボンナノチューブ層10をコーティングした放電開始補助電極板45を取り付けることで、より短時間で放電を誘発させることが可能となる。更に、放電開始補助電極板45は冷陰極電離真空計に交換可能に取り付けられているため、放電開始補助電極板45の劣化により放電が誘発されにくくなったとしても、新たな放電開始補助電極板45に交換することで放電が誘発されにくい状態を解消することができる。
【0068】
(第6の実施形態)
図11(a)は本発明の第6の実施形態に係る放電開始補助電極を示す側面図、
図11(b)はその断面図、
図11(c)はその正面図である。以下の実施形態においても、第5の実施形態と同様の効果が得られ、各放電開始補助電極50,55,60,65は第5の実施形態と同様の製造方法及び取扱いをすることができるものとする。
【0069】
また、以下の実施形態に示す全ての放電開始補助電極50,55,60,65は
図8に示すように測定子容器(陰極)1の内部に着脱可能に取り付けられる。
図11では
図8乃至10と同様の部材、配置等には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。本実施形態に係る放電開始補助電極50は、上述した放電開始補助電極板45の開口部45aの内側に陽極2側に尖った鋭角突起21を形成したものである。
【0070】
鋭角突起21の表面にカーボンナノチューブをコーティングすることにより、カーボンナノチューブによる電界電子放出効果と鋭角な突起形状による電界電子放出効果との相乗効果により、高電圧を印加してから持続放電開始までの時間を更に短縮できる。符号24は弾性を有する支持爪である。
【0071】
(第7の実施形態)
図12(a)は本発明の第7の実施形態に係る放電開始補助電極を示す側面図、
図12(b)はその断面図、
図12(c)はその正面図である。
図12では
図11と同一部分には同一符号を付している。本実施形態に係る放電開始補助電極55は
図11に示す放電開始補助電極50の鋭角突起21を屈曲させたものである。
図13は
図12(a)に示すように放電開始補助電極のD部付近を拡大して示す。
【0072】
放電開始補助電極55は
図13に示すように放電開始補助電極55に対して45度程度の角度で鋭角突起22を屈曲させているが、90度以内の任意の角度において鋭角突起22の先端が棒状の陽極2の中心を向くため先端から放電を誘発することができる。この際、カーボンナノチューブの一部が陽極2に対向する位置に来るように鋭角突起22の陽極2に対向する面にカーボンナノチューブ層10が形成されている。
【0073】
図13に示すように鋭角突起22が陽極2の軸方向に向かって屈曲していることから、鋭角突起22の先端から引き出された電子は陽極2の軸方向に平行な磁力線に絡みやすくなり、相対的に飛行距離が伸びると考えられる。そのため、放電開始のトリガーとなる電子を効率良く供給することができる。符号24は支持爪を示す。
【0074】
(第8の実施形態)
図14(a)は本発明の第8の実施形態に係る放電開始補助電極を示す側面図、
図14(b)はその断面図、
図14(c)はその正面図である。
図14では
図11と同一部分には同一符号を付している。本実施形態に係る放電開始補助電極60は、
図11の放電開始補助電極50にカーボンナノチューブ層10を保護する保護部材としてのコーティング保護板28を取り付けて一体構造としたものである。
【0075】
コーティング保護円盤28は放電開始補助電極60のカーボンナノチューブ層10が形成された面にスポット溶接などによって固着されている。放電開始補助電極60の着脱の際にはカーボンナノチューブ層10の保護に気を使う必要がなくなり、取扱いが容易となる。勿論、保護部材のコーティング保護円盤28は上述の放電開始補助電極板45、55などに取り付けることで同様の効果を得ることができる。また、保護部材は後述する放電開始補助電極65に取り付けても良い。
【0076】
(第9の実施形態)
図15(a)は本発明の第9の実施形態に係る放電開始補助電極を示す側面図、
図15(b)はその断面図、
図15(c)はその正面図である。
図15では
図11、
図12、
図14と同一部分には同一符号を付している。本実施形態に係る放電開始補助電極65はアウタ電極部材66の開口66aの周囲にインナ電極部材67が取り付けられている。即ち、測定子容器(陰極)1に取り付けるアウタ電極部材66の開口66aの内縁部を覆うようにインナ電極部材67が取り付けられている。
【0077】
インナ電極部材67の中心部分の開口67aは陽極2を通すための開口であり、アウタ電極部材66はインナ電極部材67の外周側に固着されている。アウタ電極部材66の外周には
図15(c)に示すように測定子容器(陰極)1の内側に着脱可能に取り付けるための支持爪24が形成されている。
【0078】
インナ電極部材67は上述の放電開始補助電極板45,50などと同様の機能を有するが、更に薄い板厚の部材から形成されている。このように2重構造とすることで、電子が放出される放電開始補助電極65のエッジ部分(開口部67aの内縁部)の厚さを0.2〜5μm程度と、非常に薄く構成することができる。
【0079】
インナ電極部材67は、陽極2よりも大きな直径の開口部67aを有するリング状の部材であり、アウタ電極部材66はインナ電極部材67の開口部67aよりも大きな直径の開口66aを有するリング状の部材である。本実施形態では、上述のようにアウタ電極部材66の外周側には
図9に示すような放電開始補助電極板45と同様の支持爪24が形成されている。また、インナ電極部材67はアウタ電極部材66の絶縁部材6側にスポット溶接などによって取り付けられ、カーボンナノチューブ層10はインナ電極部材67の絶縁部材6側に形成されている。
【0080】
なお、インナ電極部材67は非常に薄いためにカーボンナノチューブ層10が形成されない状態であっても外周の縁部分にある程度の電界集中が生じると考えられる。インナ電極部材67を更に薄く形成することでより強い電界集中効果を期待できる。勿論、放電開始補助電極65に保護部材のコーティング保護円盤28を取り付け、若しくはインナ電極部材67の開口部67aに鋭角突起21を設けた構成としてもよい。
【0081】
(第10の実施形態)
図16は本発明に係る冷陰極電離真空計において放電開始補助電極の他に補助電極保護板を用いた実施形態を示す図である。
図16は
図8に示す冷陰極電離真空計の測定子容器(陰極)1に放電開始補助電極板45と補助電極保護板30を取り付けた状態を示すものであり、
図16(a)はその際に
図8のa−b線から見た断面模式図、
図16(b)は
図8のC部を拡大して示す。
【0082】
本実施形態では、
図16に示すように陽極2に補助電極保護板30(陽極補助電極保護板30)が取り付けられ、測定子容器(陰極)1側には
図8と同様に放電開始補助電極46が取り付けられている。補助電極保護板30は、放電開始補助電極板45の開口部45aよりも大きな直径を有し、放電開始補助電極板45よりも真空容器側に取り付けられている。そのため、真空容器側から侵入した荷電粒子などは、補助電極保護板30に最初に衝突し、カーボンナノチューブ層10に直接衝突することがなくなる。
【0083】
従って、衝撃やスパッタ膜の付着によるカーボンナノチューブ層10の損傷をより効果的に防ぐあるいは低減することができる。勿論、放電開始補助電極50,55,60,65を備えた場合の冷陰極電離真空計に対しても補助電極保護板30を用いることで同様の効果を得ることができる。なお、
図16では棒状の陽極2、補助電極保護板30、放電開始補助電極46などを示しているが、その他の構成は
図8と同様である。
【0084】
以上のように本発明は、装置が複雑化することなく、放電の誘発を短時間で行うことができる。