(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るガス器具判断装置を含むガス供給システムの構成図である。ガス供給システム1は、ガスストーブ、ファンヒータ、ガス給湯器、床暖房及びガステーブルなどの複数のガス器具10と、ガス供給元の圧力調整器20と、配管31,32と、ガスメータ(ガス器具判断装置)40とを備え、圧力調整器20からガスメータ40を介して複数のガス器具10に燃料ガス(以下単にガスという)を供給するものである。なお、本実施形態においてガス器具判断装置は、ガスメータ40に内蔵されているが、これに限らず、別体として構成されていてもよい。
【0017】
圧力調整器20は上流からのガスを所定圧力に調整して第1配管31に流すものである。第1配管31は、圧力調整器20とガスメータ40とを接続するものである。第2配管32はガスメータ40とガス器具10とを接続する配管である。ガスメータ40は、ガスの流量を測定して積算流量を表示するものである。このようなガス供給システム1では、ガスメータ40内に第1配管31及び第2配管32とつながる流路が形成されており、圧力調整器20を通じて流れてきたガスは第1配管31からガスメータ40、及び第2配管32を通じてガス器具10に到達し、ガス器具10において燃焼されることとなる。
【0018】
図2は、
図1に示したガスメータ40の詳細を示す構成図である。
図2に示すようにガスメータ40は、圧力センサ41と、流量センサ42と、トリガ信号発生部43と、制御部44と、記憶部45とを有している。
【0019】
圧力センサ41は、圧力調整器20からガスメータ40間の流路内におけるガス圧力に応じた計測値の信号を出力するものであって、ピエゾ抵抗式や静電容量式などのセンサによって構成される。流量センサ42は、ガスメータ40を介して供給されるガス流量に応じた計測値の信号を出力するものであって、超音波センサやフローセンサなどで構成される。
【0020】
トリガ信号発生部43は、圧力センサ41及び流量センサ42の少なくとも一方により出力された信号が示す計測値の所定以上の変化時にトリガ信号を発生させるものである。このトリガ信号は、制御部44に送信される。このようなトリガ信号発生部43は、例えば微分回路を含んで構成されており、微分回路により所定以上の変化を検出する。具体的にトリガ信号発生部43は、ガス器具10が使用を開始されたときに、圧力が低下するときの変化、又は、流量が増加するときの変化を所定以上の変化としてとらえ、トリガ信号を出力する。
【0021】
制御部44は、ガスメータ40の全体を制御するものであって、流量センサ42からの計測値の信号に基づいて積算流量の表示制御を行ったり、ガス漏れ発生時等にガス遮断弁を閉動作させたりするものである。また、制御部43は、波形形成部(波形形成手段)44aと、補正部(補正手段)44bと、ガス器具判断部(ガス器具判断手段)44cとを備えている。
【0022】
波形形成部44aは、トリガ信号発生時から微小時間(例えば最大で2秒)が経過するまで、所定時間(例えば2m秒)毎に圧力センサ41からの信号を読み込み、読み込んだ信号から得られる圧力波形を形成するものである。ここで、波形形成部44aは、例えばトリガ信号発生時から200個のデータを収集し、200個のデータから波形を形成する。
【0023】
補正部44bは、波形成形部44aにより形成された圧力波形を補正するものである。記憶部45は、使用ガス器具10を判断するためのデータを記憶している。ガス器具判断部44cは、補正部44bにより補正された圧力波形と、記憶部45に記憶されるデータとに基づいて、使用ガス器具10を判断するものである。
【0024】
ここで、ガス器具判断部44cによる使用ガス器具10の判断の詳細について説明する。まず、本件発明者らは、ガス器具10の使用開始直後の微小時間(例えば最大で2秒)において圧力の計測値に振動が発生することを見出した。以下の判断手法では、この振動を解析することにより使用ガス器具10及びガス漏れを判断することとなる。なお、以下では、2つの判断手法を例示するが、判断手法は以下のものに限られるものではない。
【0025】
まず、第1の判断手法について説明する。第1の判断手法は、類似度推移を用いるものである。具体的に本実施形態において類似度推移とは連続NCCであり、連続NCCとは、連続的な正規相互相関(NCC:Normalized Cross Correlation)をいう。
【0026】
第1の判断手法において使用ガス器具10の判断にあたり、ガス器具判断部44cは、まず所定の波形を生成する。ここで、生成される波形は、例えばガス漏れ発生時に得られると予測されるガス漏れ発生時の振動波形である。なお、生成される波形は、ガス漏れ発生時の振動波形に限らず、給湯器やガステーブル等のガス器具10が使用されたときに得られる振動波形であってもよい。以下の説明では、ガス漏れ発生時の振動波形が生成される例を説明する。
【0027】
図3は、
図2に示したガス器具判断部44cにより生成されるガス漏れ振動波形の概略を示す図である。
図3に示すように、ガス器具判断部44cは、圧力が時間の経過と共に低下しながら振動するガス漏れ振動波形を生成する。このガス漏れ振動波形は、減衰振動の周波数、ゲイン、及び減衰比を含む2次遅れのステップ応答の式に基づいて生成された波形である。
【0028】
次いで、ガス器具判断部44cは、生成した所定の振動波形と、収集した200個のデータからなる波形との類似度推移を算出する。より具体的には、以下の式(1)により類似度R
NCCが求められる。ガス器具判断部44cは、この式(1)による類似度R
NCCの算出を連続的に行うことにより、類似度推移(すなわち、連続NCCという)を求める。
【数1】
【0029】
類似度推移の算出について詳細に説明する。
図4は、ガス器具使用開始時における圧力変化を示すグラフであって、(a)はガステーブル使用開始時における圧力変化を示し、(b)は小型湯沸器使用開始時における圧力変化を示し、(c)は給湯器使用開始時における圧力変化を示している。
【0030】
図4(a)に示すように、ガステーブルの使用開始時には圧力が2.9kPa程度で滑らかに振動する圧力波形が得られる。また、
図4(b)に示すように、小型湯沸器の使用終了時には圧力が2.93kPaを基準にして0.1kPa強振動する圧力波形が得られる。さらに、
図4(c)に示すように、給湯器の使用終了時には圧力が2.93kPaを基準にして小型湯沸器よりもやや粗い振動を示す圧力波形が得られる。
【0031】
図5は、
図2に示したガス器具判断部44cにより算出される連続NCCを示すグラフであって、(a)はガステーブル使用開始時における連続NCCを示し、(b)は小型湯沸器使用開始時における連続NCCを示し、(c)は給湯器使用開始時における連続NCCを示している。
【0032】
ガステーブルの使用が開始した場合、
図4(a)の振動波形が得られ、ガス器具判断部44cにより算出される連続NCCは
図5(a)に示すようになる。すなわち、連続NCCは、初期的に「1.0」程度を示し、その後「0.2」を下回り、約0.04秒において「0.95」まで復帰する。そして、連続NCCは、約0.1秒において「0.5」程度となり、その後「0.65」付近までゆっくりと上昇する。
【0033】
また、小型湯沸器の使用が開始した場合、
図4(b)の振動波形が得られ、ガス器具判断部44cにより算出される連続NCCは
図5(b)に示すようになる。すなわち、連続NCCは、初期的に「1.0」程度を示し、その後「0.2」を下回り、約0.04秒において「0.9」まで復帰する。そして、連続NCCは、再度「0.4」程度まで低下し、その後、「0.7」付近までゆっくりと上昇する。
【0034】
また、給湯器の使用が開始した場合、
図4(c)の振動波形が得られ、ガス器具判断部44cにより算出される連続NCCは
図5(c)に示すようになる。すなわち、連続NCCは、初期的に「0.8」弱を示し、その後「0.2」を下回り、約0.02秒において「0.7」まで復帰する。そして、連続NCCは、「0.6」程度まで低下し、次いで「0.7」程度まで復帰する。その後、連続NCCは再び「0.5」程度まで低下した後に、約0.1秒において「0.6」弱となる。以後、連続NCCは「0.65」付近までゆっくりと上昇していく。
【0035】
ここで、連続NCCはガス器具10毎に異なっている。このため、ガス器具判断部44cは、このような連続NCCのパターンから使用ガス器具10を判断する。具体的には記憶部45に、各ガス器具10の連続NCCのパターンを記憶させておく。すなわち、ガス器具判断部44cは、ガステーブルについて
図5(a)に示したような連続NCCのパターンを記憶し、小型湯沸器について
図5(b)に示したような連続NCCのパターンを記憶し、給湯器について
図5(c)に示したような連続NCCのパターンを記憶している。そして、ガス器具判断部44cは、記憶した連続NCCデータのうち、算出された連続NCCと最も近い連続NCCデータが示すガス器具10の使用が開始したと判断する。
【0036】
次に、ガス器具判断部44cによって生成される所定の振動波形の生成手法について説明する。ガス器具判断部44cは、以下のようにしてガス漏れ振動波形を生成する。まず、ガス器具判断部44cは以下の式(2)を記憶している。
【数2】
【0037】
ここで、y(t)は圧力の変化量を示し、Kはゲインを示し、ω
dは減衰振動の周波数を示し、ζは減衰比を示している。特に、ゲインK、減衰振動の周波数ω
d、及び減衰比ζは、圧力センサ41によって実際に計測された波形から求められるものである。次に、これらの算出方法について
図6を参照して説明する。
【0038】
図6は、圧力変化の一例を示す図である。ガス器具判断部44cは、以下の式(3)から、減衰振動の周波数ω
dを算出する。
【数3】
【0039】
ここで、Tpは行き過ぎ時間であり、
図6で示すように、圧力変化発生時から最初の極値V1(極小値V1)までの時間をいう。ガス器具判断部44cは、計測値データから最初の極値V1が確認されると、行き過ぎ時間Tpを求め、式(3)から減衰振動の周波数ω
dを算出する。
【0040】
なお、減衰振動の周波数ω
dは、式(3)から求める場合に限らず、圧力変化発生時から2つ目の極値M(極大点M)や、3つ目の極値V2(極小点V2)に基づいて算出してもよい。
【0041】
次に、ガス器具判断部44cは、以下の式(4)から、ゲインKを算出する。
【数4】
【0042】
このような式であるため、ガス器具判断部44cは、計測値データから極値V1,M,V2が確認されると、式(4)からゲインKを算出する。
【0043】
次いで、ガス器具判断部44cは、以下の式(5)から、減衰比ζを算出する。
【数5】
【0044】
ここで、δは対数減衰率であり、mは周期数である。式(5)の場合、周期数mは「0.5」となる。
【0045】
このような式であるため、ガス器具判断部44cは、計測値データから極値V1,Mが確認されると、式(5)から減衰比ζを算出する。
【0046】
以上のように、ガス器具判断部44cは、ゲインK、減衰振動の周波数ω
d、及び減衰比ζを算出し、式(2)より振動波形の式を求める。そして、ガス器具判断部44cは、求めた式と、計測値データ(圧力波形)とから、式(1)に従って連続NCCを求めることとなる。
【0047】
ここで、ガス器具判断部44cは、減衰振動の周波数ω
d、及び減衰比ζを以下のようにして算出するようにしてもよい。すなわち、
図6に示す振動波形は、発生する流量に依存する傾向にある。このため、ガス器具判断部44cは、流量値のみを変数に含む式を予め記憶し、この式に流量値を代入して、減衰振動の周波数ω
d、及び減衰比ζを求めるようにしてもよい。
【0048】
具体的にガス器具判断部44cは、以下の式(6)から減衰振動の周波数ω
d、及び減衰比ζを求める。
【数6】
【0049】
ここで、Lは流量値であり、a
1,a
2,b
1,b
2は定数である。このように、式(6)から求めることで演算量を減らして、算出処理の簡素化を図るようにしてもよい。なお、流量と圧力には一定の相関がある。このため、式(6)に代えて圧力値のみを変数に含む式を記憶し、この式から減衰振動の周波数ω
d、及び減衰比ζを求めるようにしてもよい。
【0050】
次に、第2の判断手法について説明する。第2の判断手法は、スペクトルデータを用いるものである。具体的に本実施形態に係るガス器具判断部44cは、振動波形をフーリエ変換することにより、スペクトルデータを算出する。なお、ガス器具判断部44cはフーリエ変換によりスペクトルデータを算出する場合に限らず、他の方法によってスペクトルデータを算出するようにしてもよい。
【0051】
図7は、
図2に示したガス器具判断部44cにより算出されるスペクトルデータを示すグラフであって、(a)はガステーブル使用開始時におけるスペクトルデータを示し、(b)は小型湯沸器使用開始時におけるスペクトルデータを示し、(c)は給湯器使用開始時におけるスペクトルデータを示している。
【0052】
図7(a)に示すように、ガステーブルの使用が開始した場合、得られる圧力波形には30Hz以下の周波数成分が多く、特に10〜20Hz付近において大きな振幅を示す傾向がある。また、
図7(b)に示すように、小型湯沸器の使用が開始した場合、圧力波形は150Hzまでの圧力成分を含んでおり、特に30Hz程度では非常に大きな振幅を示す傾向がある。さらに、
図7(c)に示すように、給湯器の使用が開始した場合、圧力波形は180Hzまでの圧力成分を含んでおり、特に20Hz程度では非常に大きな振幅を示す傾向がある。
【0053】
また、記憶部45は、
図7に示したようなスペクトルデータを記憶している。そして、ガス器具判断部44cは、このスペクトルデータに基づいて、使用ガス器具10を判断する。
【0054】
すなわち、ガス器具判断部44cは、算出したスペクトルデータと、記憶したスペクトルデータとを比較し、類似度が最も高いスペクトルデータを特定し、使用ガス器具10について判断する。ここで、類似度とは、上記したNCCであってもよいし、他の手法により算出された類似度であってもよい。
【0055】
しかし、上記のように使用ガス器具10を判断しようとしても使用ガス器具10の判断に誤りが生じてしまう場合がある。例えば、上記微小時間における振動波形は、同じガス器具10を使用した場合であっても常に一定とは限らず、ガス器具10の使用が開始される前の圧力値や配管系などに応じて異なってしまう。このため、使用ガス器具10の判断に誤りが生じてしまう可能性がある。
【0056】
そこで、本実施形態では以下の補正を行うことにより、誤判断を抑制するようにしている。
図8は、ガス器具の使用が開始される前の圧力値が異なる場合において、ガス器具が使用開始されたときの圧力変化を示すグラフであって、(a)はガステーブルが使用開始されたときの圧力変化を示し、(b)は瞬間湯沸器が使用開始されたときの圧力変化を示している。
【0057】
まず、ガステーブルや瞬間湯沸器の使用が開始される前の圧力値、すなわち閉塞圧力の値は、昼夜の気温差等によって発生する。このため、圧力調整器20が2.9kPaの圧力でガスメータ40側にガスを供給しようとしても、実際に閉塞圧力値は、4.1kPaや4.9kPaなどとなってしまう場合がある。
【0058】
図8(a)に示すように、閉塞圧力値が4.9kPaである場合、ガステーブルの使用が開始されると、圧力値は低下していき、約83秒が経過すると圧力2.9kPaで安定する。また、閉塞圧力値が4.1kPaである場合、ガステーブルの使用が開始されると、圧力値は低下していき、約50秒が経過すると圧力2.9kPaで安定する。一方、閉塞圧力値が2.9kPaである場合、圧力は低下することなく、略一定を保つ。
【0059】
このように、閉塞圧力値が高い場合、安定圧力に至るまで圧力降下が発生する。そして、この圧力降下によって微小時間における振動波形が異なってしまい、使用ガス器具10の判断に誤りが生じてしまう可能性がある。さらには、圧力降下量は、配管系等によって異なってしまう。よって、使用ガス器具10の判断に誤りが生じてしまう可能性がある。
【0060】
また、
図8(b)に示すように、閉塞圧力値が4.9kPa以上である場合、瞬間湯沸器の使用が開始されると、圧力値は低下していき、約28秒が経過すると圧力2.9kPaで安定する。同様に、閉塞圧力値が4.1kPaである場合、瞬間湯沸器の使用が開始されると、圧力値は低下していき、約15秒が経過すると圧力2.9kPaで安定する。一方、閉塞圧力値が2.9kPaである場合、圧力は低下することなく、略一定を保つ。なお、
図8(b)においては圧力センサ41の性能限界により4.9kPaより高い圧力が計測されなくなっている。
【0061】
ここで、
図8(a)と
図8(b)とに示すグラフを比較すると、両者の圧力降下量が異なっていることがわかる。この現象に対して本件発明者らは、ガステーブルと瞬間湯沸器との流量による相違であることを見出した。また、
図8(a)及び
図8(b)から明らかなように、圧力降下が発生して安定するための時間は閉塞圧力にも依存することを見出した。
【0062】
図9は、ガス器具の使用が開始される前の圧力値が異なる場合において、ガス器具が使用開始されたときの圧力変化を示すグラフであって、他の家庭等においてガステーブルが使用開始されたときの圧力変化を示している。
【0063】
図9に示すように、閉塞圧力値が4.3kPaである場合、ガステーブルの使用が開始されると、圧力値は低下していき、約2.2秒が経過すると圧力2.8kPaで安定する。また、閉塞圧力値が3.6kPaである場合、ガステーブルの使用が開始されると、圧力値は低下していき、約1.3秒が経過すると圧力2.8kPaで安定する。一方、閉塞圧力値が2.8kPaである場合、圧力は低下することなく、略一定を保つ。
【0064】
ここで、
図8(a)と
図9とに示すグラフを比較すると、同じガステーブルであっても圧力降下量が異なっている。この現象に対して本件発明者らは、圧力調整器20からガスメータ40間の配管長の相違であることを見出した。
【0065】
以上より、本件発明者らは、圧力降下量を、閉塞圧力、使用ガス器具10の流量、及び圧力調整器20からガスメータ40間の配管長から求められることを見出した。そして、本実施形態において記憶部45は、閉塞圧力、使用ガス器具10の流量、及び圧力調整器20からガスメータ40間の配管長を変数に含む演算式を記憶しており、補正部44bは、波形形成部44aにより形成された波形から、演算式により求められる圧力降下量を減じることで、波形を補正する。ガス器具判断部44cは、補正された波形から、上記した第1又は第2手法により使用ガス器具10を判断することとなる。
【0066】
より詳細に補正部44bは、波形形成部44aにより形成された圧力波形から、
【数7】
なる演算式より得られる圧力を減じることにより、波形形成部44aにより形成された圧力波形を補正する。なお、式(7)において、Qはガス流量(m
3/s)であり、Lは圧力調整器20からガスメータ40までの配管長(m)であり、tはトリガ信号発生からの時間(s)であり、vは物性値であってLPガスの場合に4.16×10
−6である。また、ηは補正係数であり、実際に使用されている配管の形態にあわせると、具体的には0.0021L−0.0053である。
【0067】
図10は、ガス器具10の使用が開始される前の圧力値が異なる場合において、ガス器具10が使用開始されたときの圧力変化を示すグラフであって、(a)は微小時間内の圧力変化を示し、(b)は補正後の圧力変化を示している。
【0068】
図10(a)に示すように、閉塞圧力値が4.3kPaと3.62kPaと2,9kPaのそれぞれの圧力振動波形を比較すると、僅かに波形が異なっている。これに対して補正後には、
図10(b)に示すように、4.3kPaと3.62kPaと2,9kPaのいずれの波形も似たものとなっている。よって、使用ガス器具10の誤判断を抑制することができる。
【0069】
次に、式(7)により補正式に至った理論について説明する。
【0070】
まず、ガス器具10の使用後に発生する単位時間当たりの圧力変化量をpとし、そのときの閉塞圧力をPとすると、ベルヌーイの式により、
【数8】
なる式(8)が成り立つ。
【0071】
ここで、初期条件としてt=0の場合、V
1=0、P
1=Pであり、t=tの場合、V
2=V、P
2=P
0となることから、
【数9】
なる式(9)が成り立つ。
【0072】
ここで、エネルギー保存の法則により単位時間当たりの圧力変化量pは、単位時間当たりの配管圧損と等しいことから、
【数10】
なる式(10)が成り立ち、式(10)に式(9)を代入して、
【数11】
なる式(11)が成り立つ。
【0073】
そして、式(11)に対して変数分離を行い、両辺を積分して、
【数12】
なる式(12)が成り立つ。
【0074】
また、初期条件としてt=0のとき、P=Pとなることから、
【数13】
なる式(13)が成り立つ。
【0075】
ここで、管摩擦係数λは層流と乱流とで値が異なるが、一般的に層流といわれるレイノルズ数2300に達成する場合の配管流量は、約5000L/hであるため、一般家庭において流れ場は層流といえる。よって、管摩擦係数λ=64/Reとなる。
【0076】
これを式(13)に代入して変形すると、
【数14】
なる式(14)が成り立ち、P
0=Pであるため、式(7)となる。
【0077】
なお、Qは流量(m
3/s)であり、Pは閉塞圧力(kPa)であり、Lは配管長(m)であり、tはトリガ信号発生からの時間(sec)であり、vは物性値(4.16E−0.6m
2/s)であり、ηは補正係数(0.0021L−0.0053)であるから、予め圧力調整器20からガスメータ40までの配管長Lを求めておき、記憶部45に記憶させておくことで、補正を行うことができる。
【0078】
図11は、本実施形態に係るガス器具判断方法を示すフローチャートである。なお、
図11に示すフローチャートにおいて制御部44は圧力センサ41からの計測値の信号を例えば2m秒間隔で読み込んでいるものとする。
【0079】
図11に示すように、まず、制御部44は、圧力センサ41からの信号に基づいて閉塞圧力を更新する(S1)。このとき、制御部44は、今回の測定した閉塞圧力の情報を記憶部45に記憶させると共に、前回測定した閉塞圧力の情報を記憶部45から消去する。なお、閉塞圧力の更新間隔は、数m秒や数秒毎であってもよいし、数分や数十分毎であってもよいし、それらより長い時間毎であってもよい。
【0080】
次いで、制御部44はトリガ信号発生部43からトリガ信号を受信したか否かを判断する(S2)。トリガ信号を受信していないと判断した場合(S2:NO)、処理はステップS1に移行する。一方、トリガ信号を受信したと判断した場合(S2:YES)、制御部44は、トリガ発生時点から圧力センサ41からの信号に基づく圧力データを記憶部45に記憶させていく(S3)。
【0081】
その後、制御部44は微小時間経過したか否かを判断する(S4)。微小時間経過していないと判断した場合(S4:NO)、処理はステップS3に移行し、制御部44は、微小時間が経過するまで、圧力データを記憶部45に蓄積させていく(S3)。
【0082】
微小時間経過したと判断した場合(S4:YES)、制御部44の波形形成部44aは、記憶部45に蓄積された圧力データに基づいて、微小時間における圧力振動波形を形成する(S5)。なお、ステップS5における圧力振動波形の形成処理とは、
図10(a)に示したような波形を形成する処理だけでなく、単に記憶部45に記憶された圧力データを読み出すだけの処理でもよい。
【0083】
波形形成後、制御部44は、流量センサ42からの信号に基づいて流量を計測する(S6)。そして、補正部44bは、補正処理を実行する(S7)。このとき、補正部44bは、ステップS5において形成された圧力波形から、式(7)なる演算式より得られる圧力を減じることにより、補正処理を実行する。なお、式(7)において、Lは圧力調整器20からガスメータ40までの配管長(m)は予めガスメータ40の設置時などに作業員により入力されているものとする。
【0084】
次いで、ガス器具判断部44cは、ステップS7において補正された圧力振動波形に基づいて、使用ガス器具10を判断するガス器具判断処理を実行する(S8)。このガス器具判断処理では、例えば、上記した第1又は第2手法が実行されることとなる。そして、使用ガス器具10が判断された後、
図11に示す処理は終了する。
【0085】
図12は、
図11に示したガス器具判断処理(S8)の詳細を示すフローチャートであって、第1の判断手法を示している。
図12に示すように、まず、ガス器具判断部44cは、微小時間中に得られた振動波形から、減衰振動の周波数ω
d、ゲインK、及び減衰比ζを決定する(S21)。このとき、ガス器具判断部44cは、減衰振動の周波数ω
d、ゲインK、及び減衰比ζを式(3)〜式(5)に基づいて算出してもよいし、式(6)から求めてもよい。
【0086】
次に、ガス器具判断部44cは、ステップS21により決定された減衰振動の周波数ω
d、ゲインK、及び減衰比ζから、2次遅れのステップ応答の式に基づいてガス漏れ振動波形を生成する(S22)。このとき、ガス器具判断部44cは、ステップS21により決定された減衰振動の周波数ω
d、ゲインK、及び減衰比ζを式(2)に代入することにより、ガス漏れ振動波形を生成する。
【0087】
そして、ガス器具判断部44cは、ステップS22において生成されたガス漏れ振動波形と、補正部44bにより補正された圧力振動波形とに基づいて、式(1)から連続NCCを算出する(S23)。
【0088】
次に、ガス器具判断部44cは、記憶部45に記憶しているガス器具10毎の類似度推移データを読み出す(S24)。次いで、ガス器具判断部44cは、ステップS24にて読み出したガス器具10毎の連続NCCデータのうち、ステップS23において算出した連続NCCと最も近いものを特定し、使用が開始したガス器具10を判断する(S25)。その後、
図12に示す処理は終了する。
【0089】
図13は、
図11に示したガス器具判断処理(S8)の詳細を示すフローチャートであって、第2の判断手法を示している。
【0090】
図13に示すように、まず、ガス器具判断部44cは、補正部44bにより補正された圧力振動波形をフーリエ変換し、スペクトルデータを算出する(S31)。その後、ガス器具判断部44cは、ガス器具10毎のスペクトルデータを読み出し(S32)、読み出したガス器具10毎のスペクトルデータと、ステップS31にて算出したスペクトルデータとの類似度を算出する(S33)。
【0091】
その後、ガス器具判断部44cは、類似度が最大となったスペクトルデータが示す種類のガス器具10の使用が開始したと判断する(S34)。そして、
図17に示す処理は終了する。
【0092】
このようにして、本実施形態に係るガス器具判断装置及び方法によれば、微小時間において得られた圧力波形を、所定以上の変化を示す前のガス圧力と、所定以上の変化を示した後のガス流量と、圧力調整器からガスメータまでの配管長とに基づく演算式(7)により、補正する。ここで、本件発明者らは、圧力降下量を、閉塞圧力、使用ガス器具10の流量、及び圧力調整器20からガスメータ40間の配管長から求められることを見出した。このため、これらに基づく式(7)にて補正することにより、使用ガス器具10の判断精度を高めることができる。従って、より短時間で且つより精度良く使用ガス器具10を判断することができる。
【0093】
また、上記式(7)から補正を行うため、ベルヌーイの法則に基づき、より適切に圧力波形を補正することができ、補正精度を高めることができる。
【0094】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせてもよい。
【0095】
例えば、上記実施形態において類似度推移を式(1)により算出しているが、これに限らず、他の方法で類似度推移を算出するようにしてもよい。
【0096】
また、上記実施形態においてガス器具判断部44cは、記憶した連続NCCデータのうち、算出した連続NCCと類似するものが存在しない場合、記憶された連続NCCデータが示すガス器具10に不足があると判断してもよい。
【0097】
また、本実施形態では最大で2秒の微小時間におけるガス漏れ振動波形に基づいて、ガス漏れ及び使用ガス器具10を判断している。特に、本実施形態では、圧力を計測する時間は2秒以内(望ましくは1秒以内)で充分であるが、予備的に2秒よりも長い時間の計測を行ってもよい。
【0098】
また、本実施形態において記憶部45は、ガス器具10毎の連続NCCデータを記憶している。この連続NCCデータは、1つのガス器具10に対して1つだけ記憶されていてもよいし、1つのガス器具10に対して複数記憶されていてもよい。例えば、ガス給湯器ではガス給湯器内の水温によって連続NCCが異なってくる。この場合、記憶部45に記憶される連続NCCデータが1つだけであると、ガス給湯器の水温に応じて使用ガス器具10の判断を誤ってしまう可能性がある。そこで、このようなガス器具10に対しては複数の連続NCCデータを記憶しておくことが望ましい。これにより、より精度良く使用ガス器具10を判断することができるからである。同様に、1つのガス器具10に対し、複数のスペクトルデータを記憶していてもよい。
【0099】
また、上記実施形態においてガス器具判断部44cは、スペクトルデータの全周波数域で類似度を算出しているが、これに限らず一部の周波数域のみで類似度を算出してもよい。例えば、ガス給湯器の使用終了時では100Hz以上の周波数域においてもスペクトルデータに大きな振幅が得られるという特徴があるため、100Hz以上の周波数域についてスペクトルデータの類似度を算出することによっても使用が終了したガス器具10を特定することができる。このように、一部の周波数域のみで類似度を算出して演算量を減らすこともできる。
【0100】
さらに、上記実施形態では、連続NCCを求めたり、スペクトルデータを求めたりすることで、使用ガス器具10を判断している。しかし、これに限らず、例えば、
図10(b)に示すような微小時間における補正後の圧力振動波形を直接記憶しておき、波形同士の類似度などから、使用ガス器具10を判断するようにしてもよい。さらには、波形の特定点など波形の直接の特徴から使用ガス器具10を判断するようにしてもよい。
【0101】
さらに、上記実施形態において、補正部44cは式(7)に基づいて波形補正を行っているが、これに限らず、例えば式(7)に近似する式などから、波形補正を行ってもよい。すなわち、補正部44cは、所定以上の変化を示す前に圧力センサ41により出力された信号が示すガス圧力と、所定以上の変化を示した後に流量センサ42により出力された信号が示すガス流量と、圧力調整器20からガスメータ40までの配管長とに基づく演算式を用いて波形補正を行っていればよい。