(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記アイドルモードの期間の少なくとも一部において、前記クライオパネルを冷却するために該クライオパネルに熱的に接続される前記冷凍機の冷却ステージを17K以上20K未満に冷却するように前記冷凍機を制御することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るイオン注入装置1及びクライオポンプ10を模式的に示す図である。目標にビームを照射するためのビーム照射装置の一例としてのイオン注入装置1は、イオン源部2、質量分析器3、ビームライン部4、及びエンドステーション部5を含んで構成される。
【0011】
イオン源部2は、基板表面に注入されるべき元素をイオン化し、イオンビームとして引き出すように構成されている。質量分析器3は、イオン源部2の下流に設けられており、イオンビームから必要なイオンを選別するよう構成されている。
【0012】
ビームライン部4は、質量分析器3の下流に設けられており、イオンビームを整形するレンズ系、及びイオンビームを基板に対して走査する走査システムを含む。エンドステーション部5は、ビームライン部4の下流に設けられており、イオン注入処理の対象すなわち照射目標となる基板8を保持する基板ホルダ(図示せず)、及びイオンビームに対して基板8を駆動する駆動系等を含んで構成される。ビームライン部4及びエンドステーション部5におけるビーム経路9を模式的に破線の矢印で示す。
【0013】
また、イオン注入装置1には、真空排気系6が付設されている。真空排気系6は、イオン源部2からエンドステーション部5までを所望の高真空(例えば10
−5Paよりも高真空)に保持するために設けられている。真空排気系6は、クライオポンプ10a、10b、10cを含む。
【0014】
例えば、クライオポンプ10a、10bは、ビームライン部4の真空チャンバの真空排気用にビームライン部4の真空チャンバ壁面のクライオポンプ取付用開口に取り付けられている。クライオポンプ10cは、エンドステーション部5の真空チャンバの真空排気用にエンドステーション部5の真空チャンバ壁面のクライオポンプ取付用開口に取り付けられている。なお、ビームライン部4及びエンドステーション部5はそれぞれ、1つのクライオポンプ10によって排気されるように真空排気系6が構成されていてもよい。また、ビームライン部4及びエンドステーション部5がそれぞれ複数のクライオポンプ10によって排気されるように真空排気系6が構成されていてもよい。
【0015】
クライオポンプ10a、10bはそれぞれゲートバルブ7a、7bを介してビームライン部4に取り付けられている。クライオポンプ10cは、ゲートバルブ7cを介してエンドステーション部5に取り付けられている。なお以下では適宜、クライオポンプ10a、10b、10cを総称してクライオポンプ10と称し、ゲートバルブ7a、7b、7cを総称してゲートバルブ7と称する。イオン注入装置1の動作中はゲートバルブ7は開弁されており、クライオポンプ10による排気が行われる。クライオポンプ10を再生するときはゲートバルブ7は閉じられる。
【0016】
なお、真空排気系6は、さらに、イオン源部2を高真空とするためのターボ分子ポンプ及びドライポンプを備えてもよい。また、真空排気系6は、ビームライン部4及びエンドステーション部5を大気圧からクライオポンプ10の動作開始圧まで排気するための粗引きポンプをクライオポンプ10と並列に備えてもよい。
【0017】
ビームライン部4及びエンドステーション部5に存在する気体及び導入される気体がクライオポンプ10によって排気される。この被排気気体の大半は通常水素ガスである。クライオポンプ10のクライオパネルを使用してビーム経路9から水素ガスを含む被排気気体が排気される。なお被排気気体には、ドーパントガスや、イオン注入処理における副生成ガスが含まれてもよい。
【0018】
イオン注入装置1は、当該装置を制御するためのメインコントローラ11を備える。また、クライオポンプ10には、クライオポンプ10を制御するためのクライオポンプコントローラ(以下では簡潔のため「CPコントローラ」という)100が設けられている。メインコントローラ11は、CPコントローラ100を介してクライオポンプ10を統括する上位のコントローラであると言える。メインコントローラ11及びCPコントローラ100はそれぞれ、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備える。メインコントローラ11とCPコントローラ100とは互いに通信可能に接続されている。
【0019】
CPコントローラ100は、クライオポンプ10とは別体に設けられており、複数のクライオポンプ10をそれぞれ制御する。各クライオポンプ10a、10b、10cにはそれぞれ、CPコントローラ100と通信する入出力を処理するためのIOモジュール50(
図3参照)が設けられていてもよい。なお、CPコントローラ100は、各クライオポンプ10a、10b、10cのそれぞれに個別に設けられてもよい。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す断面図である。クライオポンプ10は、真空チャンバ80に取り付けられている。真空チャンバ80は、例えばビームライン部4またはエンドステーション部5(
図1参照)の真空チャンバである。
【0021】
クライオポンプ10は、第1の冷却温度レベルに冷却される第1のクライオパネルと、第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される第2のクライオパネルと、を備える。第1のクライオパネルには、第1の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。例えば基準蒸気圧(例えば10
−8Pa)よりも蒸気圧が低い気体が排気される。第2のクライオパネルには、第2の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。第2のクライオパネルには、蒸気圧が高いために第2の温度レベルにおいても凝縮しない非凝縮性気体を捕捉するために表面に吸着領域が形成される。吸着領域は例えばパネル表面に吸着剤を設けることにより形成される。非凝縮性気体は、第2の温度レベルに冷却された吸着領域に吸着されて排気される。非凝縮性気体は、水素を含む。
【0022】
図2に示されるクライオポンプ10は、冷凍機12とパネル構造体14と熱シールド16とを備える。冷凍機12は、作動気体を吸入して内部で膨張させて吐出する熱サイクルによって寒冷を発生する。パネル構造体14は複数のクライオパネルを含み、これらのパネルは冷凍機12により冷却される。パネル表面には気体を凝縮または吸着により捕捉して排気するための極低温面が形成される。クライオパネルの表面(例えば裏面)には通常、気体を吸着するための活性炭などの吸着剤が設けられる。熱シールド16は、パネル構造体14を周囲の輻射熱から保護するために設けられている。
【0023】
クライオポンプ10は、いわゆる縦型のクライオポンプである。縦型のクライオポンプとは、熱シールド16の軸方向に沿って冷凍機12が挿入されて配置されているクライオポンプである。なお、本発明はいわゆる横型のクライオポンプにも同様に適用することができる。横型のクライオポンプとは、熱シールド16の軸方向に交差する方向(通常は直交方向)に冷凍機の第2段の冷却ステージが挿入され配置されているクライオポンプである。なお、
図1には横型のクライオポンプ10が模式的に示されている。
【0024】
冷凍機12は、ギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)である。また冷凍機12は2段式の冷凍機であり、第1段シリンダ18、第2段シリンダ20、第1冷却ステージ22、第2冷却ステージ24、及び冷凍機モータ26を有する。第1段シリンダ18と第2段シリンダ20とは直列に接続されており、互いに連結される第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサの内部には蓄冷材が組み込まれている。なお、冷凍機12は2段GM冷凍機以外の冷凍機であってもよく、例えば単段GM冷凍機を用いてもよいし、パルスチューブ冷凍機やソルベイ冷凍機を用いてもよい。
【0025】
冷凍機12は、作動気体の吸入と吐出を周期的に繰り返すために作動気体の流路を周期的に切り替える流路切替機構を含む。流路切替機構は例えばバルブ部とバルブ部を駆動する駆動部とを含む。バルブ部は例えばロータリーバルブであり、駆動部はロータリーバルブを回転させるためのモータである。モータは、例えばACモータまたはDCモータであってもよい。また流路切替機構はリニアモータにより駆動される直動式の機構であってもよい。
【0026】
第1段シリンダ18の一端に冷凍機モータ26が設けられている。冷凍機モータ26は、第1段シリンダ18の端部に形成されているモータ用ハウジング27の内部に設けられている。冷凍機モータ26は、第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサのそれぞれが第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20の内部を往復動可能とするように第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサに接続される。また、冷凍機モータ26は、モータ用ハウジング27の内部に設けられている可動バルブ(図示せず)を正逆回転可能とするように当該バルブに接続される。
【0027】
第1冷却ステージ22は、第1段シリンダ18の第2段シリンダ20側の端部すなわち第1段シリンダ18と第2段シリンダ20との連結部に設けられている。また、第2冷却ステージ24は第2段シリンダ20の末端に設けられている。第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24はそれぞれ第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20に例えばろう付けで固定される。
【0028】
モータ用ハウジング27の外側に設けられている気体供給口42及び気体排出口44を通じて冷凍機12は圧縮機102に接続される。冷凍機12は、圧縮機102から供給される高圧の作動気体(例えばヘリウム等)を内部で膨張させて第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24に寒冷を発生させる。圧縮機102は、冷凍機12で膨張した作動気体を回収し再び加圧して冷凍機12に供給する。
【0029】
具体的には、まず圧縮機102から冷凍機12に高圧の作動気体が供給される。このとき、冷凍機モータ26は、気体供給口42と冷凍機12の内部空間とを連通する状態にモータ用ハウジング27内部の可動バルブを駆動する。冷凍機12の内部空間が高圧の作動気体で満たされると、冷凍機モータ26により可動バルブが切り替えられて冷凍機12の内部空間が気体排出口44に連通される。これにより作動気体は膨張して圧縮機102へと回収される。可動バルブの動作に同期して、第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサのそれぞれが第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20の内部を往復動する。このような熱サイクルを繰り返すことで冷凍機12は第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24に寒冷を発生させる。
【0030】
第2冷却ステージ24は第1冷却ステージ22よりも低温に冷却される。第2冷却ステージ24は例えば10K乃至20K程度に冷却され、第1冷却ステージ22は例えば80K乃至100K程度に冷却される。第1冷却ステージ22には第1冷却ステージ22の温度を測定するための第1温度センサ23が取り付けられており、第2冷却ステージ24には第2冷却ステージ24の温度を測定するための第2温度センサ25が取り付けられている。
【0031】
冷凍機12の第1冷却ステージ22には熱シールド16が熱的に接続された状態で固定され、冷凍機12の第2冷却ステージ24にはパネル構造体14が熱的に接続された状態で固定されている。このため、熱シールド16は第1冷却ステージ22と同程度の温度に冷却され、パネル構造体14は第2冷却ステージ24と同程度の温度に冷却される。熱シールド16は一端に開口部31を有する円筒状の形状に形成されている。開口部31は熱シールド16の筒状側面の端部内面により画定される。
【0032】
一方、熱シールド16の開口部31とは反対側つまりポンプ底部側の他端には閉塞部28が形成されている。閉塞部28は、熱シールド16の円筒状側面のポンプ底部側端部において径方向内側に向けて延びるフランジ部により形成される。
図2に示されるクライオポンプ10は縦型のクライオポンプであるので、このフランジ部が冷凍機12の第1冷却ステージ22に取り付けられている。これにより、熱シールド16内部に円柱状の内部空間30が形成される。冷凍機12は熱シールド16の中心軸に沿って内部空間30に突出しており、第2冷却ステージ24は内部空間30に挿入された状態となっている。
【0033】
なお、横型のクライオポンプの場合には、閉塞部28は通常完全に閉塞されている。冷凍機12は、熱シールド16の側面に形成されている冷凍機取付用の開口部から熱シールド16の中心軸に直交する方向に沿って内部空間30に突出して配置される。冷凍機12の第1冷却ステージ22は熱シールド16の冷凍機取付用開口部に取り付けられ、冷凍機12の第2冷却ステージ24は内部空間30に配置される。第2冷却ステージ24にはパネル構造体14が取り付けられる。よって、パネル構造体14は熱シールド16の内部空間30に配置される。パネル構造体14は、適当な形状のパネル取付部材を介して第2冷却ステージ24に取り付けられてもよい。
【0034】
また熱シールド16の開口部31にはバッフル32が設けられている。バッフル32は、パネル構造体14とは熱シールド16の中心軸方向に間隔をおいて設けられている。バッフル32は、熱シールド16の開口部31側の端部に取り付けられており、熱シールド16と同程度の温度に冷却される。バッフル32は、真空チャンバ80側から見たときに例えば同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。なお、バッフル32と真空チャンバ80との間にはゲートバルブ7(
図1参照)が設けられている。
【0035】
熱シールド16、バッフル32、パネル構造体14、及び冷凍機12の第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24は、ポンプケース34の内部に収容されている。ポンプケース34は径の異なる2つの円筒を直列に接続して形成されている。ポンプケース34の大径の円筒側端部は開放され、真空チャンバ80との接続用のフランジ部36が径方向外側へと延びて形成されている。またポンプケース34の小径の円筒側端部は冷凍機12のモータ用ハウジング27に固定されている。クライオポンプ10はポンプケース34のフランジ部36を介して真空チャンバ80の排気用開口に気密に固定され、真空チャンバ80の内部空間と一体の気密空間が形成される。ポンプケース34及び熱シールド16はともに円筒状に形成されており、同軸に配設されている。ポンプケース34の内径が熱シールド16の外径を若干上回っているので、熱シールド16はポンプケース34の内面との間に若干の間隔をもって配置される。
【0036】
クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプを用いて真空チャンバ80内部を1Pa〜10Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。冷凍機12の駆動により第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24が冷却され、これらに熱的に接続されている熱シールド16、バッフル32、パネル構造体14も冷却される。上述の第1クライオパネルは熱シールド16及びバッフル32を含み、第2クライオパネルはパネル構造体14を含む。
【0037】
冷却されたバッフル32は、真空チャンバ80からクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。バッフル32の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はバッフル32を通過して熱シールド16内部へと進入する。進入した気体分子のうちパネル構造体14の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えばアルゴンなど)は、パネル構造体14の表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、パネル構造体14の表面に接着され冷却されている吸着剤により吸着されて排気される。このようにしてクライオポンプ10は真空チャンバ80内部の真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0038】
図3は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10に関する制御ブロック図である。複数のクライオポンプ10のうち1つについて本実施例に関連する構成要素を示し、他のクライオポンプ10については同様であるので図示を省略する。同様に、圧縮機102についての詳細は省略する。
【0039】
CPコントローラ100は上述のように、各クライオポンプ10のIOモジュール50に通信可能に接続されている。IOモジュール50は、冷凍機インバータ52及び信号処理部54を含む。冷凍機インバータ52は外部電源例えば商用電源から供給される規定の電圧及び周波数の電力を調整し冷凍機モータ26に供給する。冷凍機モータ26に供給されるべき電圧及び周波数はCPコントローラ100により制御される。
【0040】
CPコントローラ100はセンサ出力信号に基づいて制御出力を決定する。信号処理部54は、CPコントローラ100から送信された制御出力を冷凍機インバータ52へと中継する。例えば、信号処理部54はCPコントローラ100からの制御信号を冷凍機インバータ52で処理可能な信号に変換して冷凍機インバータ52に送信する。制御信号は冷凍機モータ26の運転周波数を表す信号を含む。また、信号処理部54は、クライオポンプ10の各種センサの出力をCPコントローラ100へと中継する。例えば、信号処理部54はセンサ出力信号をCPコントローラ100で処理可能な信号に変換してCPコントローラ100に送信する。
【0041】
IOモジュール50の信号処理部54には、第1温度センサ23及び第2温度センサ25を含む各種センサが接続されている。上述のように第1温度センサ23は冷凍機12の第1冷却ステージ22の温度を測定し、第2温度センサ25は冷凍機12の第2冷却ステージ24の温度を測定する。第1温度センサ23及び第2温度センサ25はそれぞれ、第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24の温度を周期的に測定し、測定温度を示す信号を出力する。第1温度センサ23及び第2温度センサ25の測定値は、所定時間おきにCPコントローラ100へと入力され、CPコントローラ100の所定の記憶領域に格納保持される。
【0042】
CPコントローラ100は、クライオパネルの温度に基づいて冷凍機12を制御する。CPコントローラ100は、クライオパネルの実温度が目標温度に追従するように冷凍機12に運転指令を与える。例えば、CPコントローラ100は、第1クライオパネルの目標温度と第1温度センサ23の測定温度との偏差を最小化するようにフィードバック制御により冷凍機モータ26の運転周波数を制御する。冷凍機モータ26の運転周波数に応じて冷凍機12の熱サイクルの周波数が定まる。第1クライオパネルの目標温度は例えば、真空チャンバ80で行われるプロセスに応じて仕様として定められる。この場合、冷凍機12の第2冷却ステージ24及びパネル構造体14は、冷凍機12の仕様及び外部からの熱負荷によって定まる温度に冷却される。
【0043】
第1温度センサ23の測定温度が目標温度よりも高温である場合には、CPコントローラ100は、冷凍機モータ26の運転周波数を増加するようIOモジュール50に指令値を出力する。モータ運転周波数の増加に連動して冷凍機12における熱サイクルの周波数も増加され、冷凍機12の第1冷却ステージ22は目標温度に向けて冷却される。逆に第1温度センサ23の測定温度が目標温度よりも低温である場合には、冷凍機モータ26の運転周波数は減少されて冷凍機12の第1冷却ステージ22は目標温度に向けて昇温される。
【0044】
通常は、第1冷却ステージ22の目標温度は一定値に設定される。よって、CPコントローラ100は、クライオポンプ10への熱負荷が増加したときに冷凍機モータ26の運転周波数を増加するように指令値を出力し、クライオポンプ10への熱負荷が減少したときに冷凍機モータ26の運転周波数を減少するように指令値を出力する。なお、目標温度は適宜変動させてもよく、例えば、目標とする雰囲気圧力を排気対象容積に実現するようにクライオパネルの目標温度を逐次設定するようにしてもよい。またCPコントローラ100は、第2クライオパネルの実温度を目標温度に一致させるように冷凍機モータ26の運転周波数を制御してもよい。
【0045】
典型的なクライオポンプにおいては、熱サイクルの周波数は常に一定とされている。常温からポンプ動作温度への急冷却を可能とするように比較的大きい周波数で運転するよう設定され、外部からの熱負荷が小さい場合にはヒータにより加熱することでクライオパネルの温度を調整する。よって、消費電力が大きくなる。これに対して本実施形態においては、クライオポンプ10への熱負荷に応じて熱サイクル周波数を制御するため、省エネルギー性に優れるクライオポンプを実現することができる。また、ヒータを必ずしも設ける必要がなくなることも消費電力の低減に寄与する。
【0046】
ところで、イオン注入装置1には、複数の運転状態がある。これを以下では運転モードと呼ぶことにする。イオン注入装置1の複数の運転モードには、照射モードとアイドルモードとが含まれる。照射モードにおいては、イオン注入装置1はイオン注入のためにイオンビームを基板8に照射する。イオン注入装置1のメインコントローラ11は、イオン注入処理のために設定される目標イオンビーム強度に従ってイオンビームを制御する。
【0047】
アイドルモードにおいては、イオン注入装置1はイオンビームを曲げることにより照射目標例えば基板8から逸らしてもよい。つまり、イオン注入装置1はイオンビームの照射を継続しつつ、基板外に向けて照射してもよい。イオンビームの強度レベルは照射モードと同じレベルとされていてもよい。アイドルモードにおいては、イオンビームは目標から逸らされてビーム待避またはビーム待機のためのビーム受け部例えば炭素板に照射されてもよい。ビーム受け部はビームライン部4またはエンドステーション部5に設けられていてもよく、例えば基板8を保持するための基板ホルダまたはその近傍に設けられていてもよい。
【0048】
アイドルモードにおいては、イオン注入装置1は照射モードよりも弱いレベルでイオンビームをビーム経路9に存続させてもよい。アイドルモードにおいては、照射モードに比べて強度を低下させたイオンビームの照射を継続してもよい。イオンビームを完全に遮断することに代えて、ごく弱いイオンビームがビーム経路9に保持される。弱い強度のイオンビームは目標に照射されてもよいし、目標から逸らされてビーム受け部例えば炭素板に照射されてもよい。
【0049】
例えば照射モードと次の照射モードとの合間に、運転モードがアイドルモードに切り替えられる。イオン注入処理がなされた基板8を次に処理する新たな基板8と交換する際に、アイドルモードが選択されてもよい。アイドルモードにおいてビーム経路9の末端に通常は基板8は存在していないが、存在していてもよい。
【0050】
こうした運転モードの切替はメインコントローラ11が担う。メインコントローラ11は状況に応じて運転モードを切り替える。メインコントローラ11は、選択されている運転モードを表す制御信号をCPコントローラ100に送信する。CPコントローラ100は、イオン注入装置1からその運転モードを表す制御信号を受信可能であり、その制御信号に基づいてクライオポンプ10を制御する。CPコントローラ100は、クライオパネル温度を制御するために、運転モードを表す制御信号に基づいて冷凍機12を制御する。
【0051】
イオン注入装置1のためのクライオポンプ10は上述のように、主として水素ガスを排気する。イオン注入装置1のイオン注入処理のスループットを高めるために、高速に水素ガスを排気することのできるクライオポンプ10が求められている。
【0052】
図4は、一実験例における水素ガスを排気するためのクライオパネルの温度と水素ガスの排気速度とを表すグラフである。温度値は
図4の右側の縦軸に示す。左側の縦軸は水素ガスの排気速度を示す。横軸は時間を示す。以下に詳しく述べるように、本願発明者は、水素ガスを排気するためのクライオパネル及び冷却ステージの温度増分と水素ガスの排気速度の低下量との間にある関係があることを見出した。
【0053】
本実験例では比較的小型のクライオパネル構造体を使用し、第2冷却ステージ24の設定温度を2Kずつ段階的に上げたときの水素ガス排気速度の挙動を確認した。第2冷却ステージ24の目標温度の初期値は12Kであり、以後順に、14K、16K、18K、20K、22Kと上げている。ステージ温度T2の測定値はこれに連動して段階的に上昇している。
【0054】
以下の説明では便宜上、各目標温度XKにある期間をXK期間と呼ぶことにする。つまり、本実験例は12K期間から始まり、それに14K期間、16K期間、18K期間、20K期間、22K期間が順次続く。なお、
図4に示されるように、各期間の長さが期間ごとに異なっているが、それによって本実験例の結果及び分析が左右されるものではない。
【0055】
図4には、ステージ温度T2の測定値に加えて、本実験例で使用した第2クライオパネルの末端部分(即ち、ステージから離れた比較的高温の部位)の測定温度も示す。パネル末端部分の温度もステージ温度と同様に段階的に高くなる。しかし、クライオパネルの末端部分は冷却ステージから離れているので、冷却ステージよりいくらか高温となる。本実験例では、このパネル温度測定値はステージ温度T2に比べて約1.5Kだけ高温である。なお、
図4に示す温度測定値には微小な(最大で約0.2K程度の)振動が見られるが、この程度の変動は実際上一定温度であるとみなすことができる範囲にある。
【0056】
経験的に、小型のクライオパネル構造体ではパネルの末端部分の温度はステージ温度よりも約1K高く、大型のクライオパネル構造体では約2K高くなると見積もられる。イオン注入装置を用途とするクライオポンプに想定される最大のクライオパネル構造体においては、その末端部分の温度がステージ温度よりも約3K高いこともあり得る。
【0057】
図4からわかるように、12K期間から16K期間までは、ステージ温度が上昇しても、水素ガス排気速度は当初の高レベル(例えば約1500L/s程度)に維持されている。クライオパネルの高温部位の温度(
図4におけるパネル温度)は16K期間において最大17.5K程度である。よって、水素ガスの高速排気のためには、クライオパネルの高温部位の温度を約17.5K以下に抑えることが好ましいと言える。ステージ温度で言えば、本実験例では水素ガスの高速排気のためには約16K以下に抑えることが好ましいことになる。
【0058】
18K期間においては水素ガス排気速度が約1400L/s程度へと、16K期間に比べて若干低下している。この排気速度は実用上充分である場合もあるが、イオン注入装置1の高スループットを追求するうえでは必ずしも充分ではないこともありうる。18K期間においてはクライオパネル末端の高温部位の温度は約19.5Kである。20K期間に移行すると、排気速度は約1000乃至1100L/sへと更に大きく低下している。20K期間のクライオパネルの高温部位の温度は約21.5Kである。22K期間においては状態が不安定となったため実験は中止されている。クライオパネルの少なくとも高温部位において水素ガスを吸着保持可能な温度範囲を超えたためであると考えられる。
【0059】
よって、温度による排気速度の変化という観点から冷却ステージ温度を3つの温度領域に区分することができる。第1の温度領域は、充分に高速の排気速度が保証される低温の温度領域である。
図4の実験例においては12K、14K、16Kがこの温度領域に含まれる。18Kもこの温度領域に含まれると考えてもよい。第2の温度領域は、実用上排気をなし得ないとみなすことのできる高温の温度領域である。パネル表面に捕捉した気体の再気化が生じている。
図4の実験例では22Kがこの温度領域に含まれる。
【0060】
第3の温度領域は、これら第1及び第2の温度領域の中間の温度領域である。この温度領域においては、最高レベルの排気速度を提供することはできないものの、クライオパネル表面に捕捉した気体分子を安定して保持することができる。すなわち、クライオパネル表面に新たに気体分子を吸着する能力には限界があるが、既に吸着されている気体分子の保持は継続することができる。
図4の実験例においては20Kがこの温度領域に含まれる。18Kもこの温度領域に含まれるとみなすこともできる。
【0061】
冷却ステージの温度が第1温度領域に留まる限りは排気速度が高レベルに維持される一方、その温度領域を超えると排気速度が低下する。第1温度領域は高速排気可能温度範囲である。この高速排気可能温度範囲においては温度増分あたりの排気速度低下量は実質的にないか十分に小さいのに対し、それを超える温度においては温度増分あたりの排気速度低下量が顕著となる。しかし、第1温度領域を過度に超えない第3温度領域であれば、クライオパネルに付着した気体の安定した保持が可能である。
【0062】
ところで、イオン注入装置1のアイドルモードでのイオンビームによってクライオポンプ10に生じる熱負荷が十分に弱いと見込まれる場合には、クライオポンプ10の運転を停止してもよい。そうすればシステムの消費電力を小さくすることができる。しかし一般には、アイドルモードとはいえビームが存在する以上、クライオポンプにある程度の熱負荷が生じる。よって、そうした熱負荷によるクライオパネル温度の上昇を抑え、捕捉した水素をクライオパネルから放出しないために、クライオポンプ10の運転をアイドルモードにおいても継続することが好ましい。
【0063】
イオン注入装置1のスループットの観点から照射モードにおいてはクライオポンプ10により十分な排気速度で水素ガスを排気することが好ましい一方、アイドルモードにおいてはそれほどの高速排気は必ずしも要求されないことも考えられる。クライオポンプ10の排気速度と消費電力とは関連し、高速排気であるほど電力を消費する傾向にある。
【0064】
そこで、本発明の一実施形態においては、クライオポンプ10は、イオン注入装置1のアイドルモードの期間の少なくとも一部において照射モードよりも排気速度、例えば水素ガスの排気速度を低くする。そのために、一実施例に係るクライオポンプ10の制御方法においては、CPコントローラ100は、冷凍機12の冷却能力または冷凍出力を小さくする。
【0065】
一実施例においては、CPコントローラ100は、照射モード及びアイドルモードのいずれにおいても、クライオパネルが捕捉した気体分子を保持する冷却温度以下に冷却されるよう冷凍機12を制御する。クライオパネルは水素ガスを吸着可能である吸着剤を備えており、CPコントローラ100は、吸着剤に水素ガスを保持する温度範囲にクライオパネルが冷却されるよう冷凍機12を制御する。CPコントローラ100は、その冷却温度範囲内で、アイドルモードの期間の少なくとも一部においてクライオパネル冷却温度を照射モードよりも高くすることを許容する。
【0066】
図5は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の制御処理を説明するためのフローチャートである。CPコントローラ100は、クライオポンプ10が取り付けられているイオン注入装置1の運転モードを判別し、その運転モードに応じて第2冷却ステージ24の目標温度を切り替える。この処理はクライオポンプ10の運転中に繰り返し実行される。
【0067】
図5に示されるように、CPコントローラ100は、クライオポンプ10の取付先の装置例えばイオン注入装置1の運転モードを判別する(S10)。CPコントローラ100は、イオン注入装置1のメインコントローラ11から受信した制御信号に基づいて、イオン注入装置1が上述の照射モードにあるか否か、及びアイドルモードにあるか否か、を少なくとも判別する。
【0068】
CPコントローラ100は、判別した運転モードに応じて、第2クライオパネルの冷却温度、例えば第2冷却ステージ24の目標温度を切り替える(S12)。前回の処理と運転モードが同一の場合には、その目標温度を継続する。この目標温度設定により本処理は終了する。CPコントローラ100は、その目標温度に基づいてクライオポンプ10を制御する。具体的には例えば上述のように冷凍機12の運転周波数を調整する。
【0069】
この目標温度設定において、CPコントローラ100は例えば、第2クライオパネルの冷却温度、具体的には例えば第2冷却ステージ24の目標温度を、クライオパネル上の吸着剤に水素ガスを保持する温度範囲から選択される温度、好ましくはその水素保持温度範囲の上限値に設定する。この上限値は例えば、上述の第3の温度領域の最大温度である。第3の温度領域は、17K以上20K未満であり、好ましくは18K以上20K未満である。よって、CPコントローラ100は、アイドルモードにおいて第2冷却ステージ24の目標温度を例えば20Kに設定する。節電のためには目標温度をなるべく高温に設定することが好ましい。
【0070】
その一方、CPコントローラ100は、照射モードにおいては第2冷却ステージ24の目標温度を上述の第1温度領域または高速排気可能温度範囲、例えば10K以上17K未満の温度範囲から選択される目標温度に設定する。好ましくは、CPコントローラ100は、10K以上15K未満の温度範囲から選択される目標温度に設定する。
【0071】
こうした温度切替によって、アイドルモードにおいては照射モードよりも高温の例えば17K以上20K未満に第2冷却ステージ24を昇温することができる。目標温度を上げることにより冷凍機12の運転周波数が小さくなるからである。このようにして、照射モード及びアイドルモードを通じて共通の低温に冷却する場合に比べて消費電力を小さくすることができる。
【0072】
一例として、4台のクライオポンプ10の同時運転で第2冷却ステージ24の目標温度15Kの場合に比べて目標温度18Kの場合には、消費電力が約10.2kWから約9kWへと約12%低減された。こうして、アイドルモードの期間の消費電力を小さくすることにより、真空排気システムのトータルの電力消費を少なくすることができる。
【0073】
また、17K以上20K未満に第2冷却ステージ24を昇温することにより、クライオパネル末端の高温部位の温度は、小型のクライオパネル構造体の場合で約18K以上21K未満となり、大型のクライオパネル構造体の場合で約19K以上22K未満となると予測される。こうした温度レベルであれば、
図4に示す実験例からわかるように、付着した水素ガスをクライオパネルに安定的に保持することができる。
【0074】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0075】
上述の実施例において、イオン注入装置1における運転モードの切替のタイミングと、CPコントローラ100による目標温度の切替のタイミングとが必ずしも完全に一致していなくてもよい。CPコントローラ100は例えば、アイドルモードの期間の少なくとも一部において照射モードよりも目標温度を上げるようにしてもよい。イオン注入装置1においてアイドルモードから照射モードに復帰するのに先行してクライオパネルを冷却するために、CPコントローラ100は、照射モードへの復帰前に目標温度をもとに戻してもよい。
【0076】
第2冷却ステージ24の目標温度設定を変更することに代えて、CPコントローラ100は、第1冷却ステージ22の目標温度設定を変更してもよい。2つの冷却ステージの温度は連動するので、第1冷却ステージ22の目標温度の変更によって第2冷却ステージ24の温度を調整することも可能である。
【0077】
CPコントローラ100は、温度設定を変更する代わりに、冷凍機12の運転周波数の設定を運転モードに応じて直接変更してもよい。例えば、アイドルモードに対応する冷凍機12の運転周波数が予め固定値として定められていてもよく、CPコントローラ100は、アイドルモードにおいてその固定運転周波数で冷凍機12を制御してもよい。あるいは、複数の運転モードごとに異なる運転周波数範囲が定められていてもよい。
【0078】
上述の実施例はイオン注入装置を例に挙げて説明しているが、本発明の適用はイオン注入装置には限られず、目標にビームを照射するためのビーム照射装置に適用可能である。例えば、一実施例に係るクライオポンプは、患部に粒子線を照射して治療をするための粒子線治療装置におけるビーム経路の真空排気をするためのクライオポンプであってもよい。