特許第5669718号(P5669718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669718
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】金属溶湯濾過装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/02 20060101AFI20150122BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20150122BHJP
   C22B 21/06 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
   C22B9/02
   B22D43/00 C
   !C22B21/06
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-287736(P2011-287736)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136812(P2013-136812A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2013年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】津山 辰己
(72)【発明者】
【氏名】川口 一彦
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03747765(US,A)
【文献】 米国特許第03524548(US,A)
【文献】 特開平06−057342(JP,A)
【文献】 特開平10−263798(JP,A)
【文献】 特開平04−193916(JP,A)
【文献】 特開平07−216465(JP,A)
【文献】 特開2009−233700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/02
C22B 21/06
B22D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有し、かつ他端が閉じている1本又は複数本の多孔質セラミックス製濾過チューブを、その長手方向が、水平面に対して交差する方向を向くように、金属溶湯を貯留する缶体部内に配した金属溶湯濾過装置であって、
前記缶体部を覆う上蓋に、該缶体部の全体を覆う覆い部と、該缶体部内に貯留する金属溶湯の容量を減少させるように該缶体部の上方部分を塞ぐ閉塞部を設け
前記閉塞部は、前記覆い部の底面を缶体部内に向けて膨出させて形成したものである金属溶湯濾過装置。
【請求項2】
前記濾過チューブは、該前記濾過チューブの長手方向が水平面に対して略直交する方向を向くように配置されている請求項1に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項3】
前記濾過チューブは、該濾過チューブの長手方向が、支持板の板面に対して略直交するように、該濾過チューブの少なくとも一方の端部において該支持板に取り付けられており、それによって濾過ユニットが形成されており、
前記濾過ユニットは、前記支持板の板面が水平面と略一致するように、前記缶体部内に配置されている請求項2に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項4】
前記濾過ユニットにおいては、前記濾過チューブが、該濾過チューブの一方の端部において、前記支持板に取り付けられており、
前記濾過チューブが前記支持板から下方に向けて垂下するように、前記濾過ユニットが、前記缶体部内に懸下されている請求項3に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項5】
前記濾過ユニットにおいては、前記支持板の側面が、該支持板の上面から下面に向けて内向きに傾斜したテーパー面からなり、
前記缶体部において、前記濾過ユニットを懸下する部位が、前記支持板の側面のテーパー面と相補形状になっているテーパー面からなる請求項4に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項6】
前記濾過ユニットにおいては、前記濾過チューブが、該濾過チューブの双方の端部において、一対の前記支持板に取り付けられており、
前記缶体部の底部に設けられた載置部に、一方の前記支持板が当接するように、前記濾過ユニットが該載置部上に載置されている請求項3に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項7】
前記濾過チューブの下端部と、前記缶体部の底部との間に、ヒーターが配置されている請求項1ないし6のいずれか一項に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項8】
前記缶体部の下部から上部に向けて熱風が流通するように構成されている請求項1ないし6のいずれか一項に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項9】
前記閉塞部の下端面が、入湯口の底面よりも下方に位置する請求項1ないし8のいずれか一項に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項10】
前記閉塞部を、前記缶体部を覆う上蓋と一体的に形成した請求項1ないし9のいずれか一項に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項11】
下状態の前記濾過ユニットにおいては、該濾過ユニットにおける前記支持板の上面に、金属溶湯の濾過を開始するときに浮力によって該濾過ユニットが浮き上がらないようにするための錘が載置されている請求項4に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項12】
記濾過ユニットにおける上方側に位置する前記支持板に、鉛直方向に延びる押圧部材が当接しており、
前記押圧部材は下方に向けて付勢されており、それによって前記濾過ユニットが該押圧部材によって下方に向けて押し付けられる構造になっている請求項6に記載の金属溶湯濾過装置。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか一項に記載の金属溶湯濾過装置を用い、金属の溶湯中に存在する介在物を除去する金属溶湯の濾過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやアルミニウム合金を始めとする各種の金属の溶湯中に存在する介在物等を除去する金属溶湯濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属からなる溶湯は、これに介在物等が含まれていると、鋳造などをした場合に鋳造物に欠陥等が生じる原因となるので、該溶湯を濾過して介在物等を取り除くことが行われている。このような金属溶湯の濾過を行う濾過装置としては、例えば1本又は複数本の多孔質セラミックス製の濾過チューブを、溶湯の貯留部内に横向きに配した装置が知られている。かかる濾過装置においては、金属溶湯をこの濾過チューブの外側から内側に流すことによって、金属溶湯中の介在物等を除去し、金属溶湯の品質を高めることができるので、例えばアルミニウム製品の圧延キズを減らすことができる。そのような濾過装置としては、例えば特許文献1及び2に記載のものが知られている。
【0003】
図5には、そのような従来の濾過装置110の構造が模式的に示されている。濾過チューブ141は、その双方の端部が、鏡板と呼ばれる一対の支持板142
に指示されており、それによって濾過ユニット140が形成されている。濾過ユニット140は、くさび板190によって濾過装置110の缶体部120内に押し付けられ、それによって金属溶湯に対するシール性が保たれている。なお同図中、符号150はヒーターを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−195101号公報
【特許文献2】特開平9−137235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、くさび板190を押し込む程度は、作業者の作業の熟練の程度によって異なる場合があり、それに起因して濾過ユニット140のシール性にばらつきが生じる場合がある。また、くさび板190によって押し付けられる濾過チューブ141が横向きに配置されていることに起因して、該濾過チューブ141の長手方向に沿って応力が生じる。更に濾過チューブ141は、金属溶湯を濾過している間に高温に晒されて熱膨張し、そのことに起因しても該濾過チューブ141の長手方向に沿って応力が生じる。これらの応力によって、濾過チューブ141が損傷を受けやすくなる。応力を低くする目的で、くさび板190の押し込みの程度を小さくすると、シール性が低下して金属溶湯の漏れが起こることがある。ひとたび金属溶湯の漏れが起こると、その復旧に時間と手間がかかり、多大な損失が発生してしまう。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る金属溶湯濾過装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一端に開口部を有し、かつ他端が閉じている1本又は複数本の多孔質セラミックス製濾過チューブを、その長手方向が、水平面に対して交差する方向を向くように、金属溶湯を貯留する缶体部内に配した金属溶湯濾過装置であって、
前記缶体部を覆う上蓋に、該缶体部の全体を覆う覆い部と、該缶体部内に貯留する金属溶湯の容量を減少させるように該缶体部の上方部分を塞ぐ閉塞部を設け
前記閉塞部は、前記覆い部の底面を缶体部内に向けて膨出させて形成したものである金属溶湯濾過装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濾過ユニットをシールしたときに濾過チューブが応力を受けにくくなるので、濾過チューブが破損しにくくなる。また濾過ユニットを過度にシールしなくても、金属溶湯の漏れが起こりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の金属溶湯濾過装置の第1実施形態を、上蓋を外して上から見た平面図である。
図2図2は、図1に示す濾過装置において上蓋を取り付けた状態でのII−II線断面図である。
図3図3は、図1及び図2に示す濾過装置の分解斜視図である。
図4図4は、本発明の金属溶湯濾過装置の第2実施形態の構造を示す断面図である。
図5図5は、従来の金属溶湯濾過装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の金属溶湯濾過装置(以下、単に「濾過装置」とも言う。)の第1実施形態を、上蓋を外して上から見た平面図が示されている。図2は、図1に示す濾過装置において上蓋を取り付けた状態でのII−II線断面図である。図3は、図1及び図2に示す濾過装置の分解斜視図である。図1ないし3に示す濾過装置10は、缶体部20と、該缶体部20を覆う上蓋30とを有している。缶体部20及び上蓋30はいずれも、例えば鉄等の金属からなるケーシングと、耐火物の内張とから構成される。
【0011】
缶体部20は、金属溶湯を貯留する貯留部としての缶体下部槽21と、該缶体下部槽21の上に配置される中蓋22とを有している。缶体下部槽21は、平面視して矩形をしている底面部21aと、該底面部の四辺から起立した4つの壁面部21bを有している。4つの壁面部21bは互いに連設されている。これによって、缶体下部槽21は、その内部に直方体の空間を有し、かつその上部が開口した形状となっている。この空間内には、後述する濾過ユニット40が配置される。また、この空間は、金属溶湯の濾過時には、該溶湯によって満たされる。4つの壁面部21bのうちの一つには、濾過すべき金属溶湯を入湯する入湯口23が設けられている。入湯口23には入湯樋24が設けられている。濾過すべき金属溶湯は、この入湯樋24に案内されて、入湯口23を通じ缶体下部槽21へと流入する。更に、4つの壁面部21bのうちの一つには、底面部21a付近に、該壁面部21bを貫通する貫通孔(図示せず)が設けられている。この貫通孔は、缶体下部槽21内に開口している。この貫通孔は、金属溶湯の濾過操作の終了後に、缶体部20内に残留している金属溶湯を外部に抜き出すために用いられる。
【0012】
缶体下部槽21における4つの壁面部21bの上面は面一になっており、該上面に中蓋22が配置される。中蓋22は、その横断面視での形状が、先に述べた缶体下部槽21の横断面視での形状と略同一になっている。ただし、図2に示すとおり、中蓋22の内壁22aは、缶体下部槽21の内壁21b’よりも内方に延出している。
【0013】
中蓋22には、濾過した金属溶湯を出湯する出湯口25が設けられている。出湯口25には出湯樋26が設けられている。出湯口25は、入湯口23が形成されている壁面部21bと対向する位置に設けられている。しかし、入湯口23と出湯口25との配置位置は、これに限定されるものではない。後述する濾過ユニット40によって濾過された金属溶湯は、出湯口25を通じて出湯し、出湯樋26に案内されて次工程へと導かれる。
【0014】
中蓋22及び缶体下部槽21を有する缶体部20の上部は、上蓋30によって覆われている。缶体部20と上蓋30とは、図2及び図3に示すとおり、中蓋22の上面に配置されたパッキン27によって液密に封止されている。この封止は、上蓋30の自重によって達成される。パッキン27は、例えば繊維状のアルミナ等から構成されている。
【0015】
缶体部20内には、濾過ユニット40が配されている。濾過ユニット40は、複数本の濾過チューブ41と支持板42とを備えている。支持板42は金属溶湯と反応しづらいセラミックス製である。一方、濾過チューブ41は、多孔質セラミックス製であり、金属溶湯の流通及び濾過が可能な細孔を有するものである。濾過チューブ41は、その一端41aに開口部43を有し、かつ他端41bが閉じている有底筒状の形状をしている。濾過チューブ41においては、その外周面側から内部に向けて金属溶湯が浸透し、内部に達した金属溶湯が開口部43から流出するように構成されている。濾過チューブ41は、その横断面の形状が一般には円環状であるが、これに限られない。
【0016】
濾過チューブ41は、金属溶湯と反応しづらい耐火物から形成されている。金属溶湯が例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる場合には、濾過チューブ41を、炭化珪素系セラミックス、窒化珪素系セラミックス、アルミナ系セラミックス、ジルコニア系セラミックス等から構成することができる。好ましくは濾過チューブ41は、アルミナ系セラミックス製である。
【0017】
濾過ユニット40においては、支持板42に、その厚み方向を貫通する複数の開口部44が設けられている。また、濾過ユニット40においては、各濾過チューブ41は、該濾過チューブ41の長手方向が、支持板42の板面に対して略直交するように、該濾過チューブ41の一方の端部41a、すなわち開口部43を有する側の端部41aにおいて、該支持板42に取り付けられている。各濾過チューブ41が支持板42に取り付けられる位置は、該支持板42に設けられた開口部44の位置と一致している。したがって、濾過ユニット40を、支持板42の上面側から見ると、支持板42に設けられた開口部44と、濾過チューブ41の中空部位とが連通している。濾過チューブ41を支持板42に取り付けるための手段としては、例えばアルミナ系セメント等のセラミックスセメントを用いればよい。
【0018】
このように構成された濾過ユニット40は、図2に示すとおり、各濾過チューブ41が、支持板42から下方に向けて垂下するように、金属溶湯の貯留部である缶体下部槽21内に懸下されている。したがって、各濾過チューブ41は、その長手方向が、水平面に対して交差する方向を向くように缶体部20内に配されている。具体的には、各濾過チューブ41は、その長手方向が水平面に対して略直交する方向、すなわち略鉛直方向を向くように缶体部20内に配されており、各濾過チューブ41の開口部43は、略鉛直方向の上方に向けて開口している。この懸下状態においては、濾過ユニット40は、支持板42の板面が水平面と略一致するように缶体下部槽21内に配置されている。また、懸下状態においては、濾過ユニット40における支持板42の上面47aに錘45が載置されている。錘45は、支持板42のうち、開口部44が形成されていない位置に載置されている。錘45は、金属溶湯の濾過を開始するときに、浮力によって濾過ユニット40が浮き上がらないようにするために用いられる。
【0019】
濾過ユニット40が、図2に示すとおりの懸下状態になっていることによって、該濾過ユニット40に備えられた濾過チューブ41に外力が加わらない状態で金属溶湯の濾過を行うことができる。しかも、金属溶湯の有する熱によって濾過チューブ41が膨張したとしても、膨張による体積の増加分を、濾過チューブ41の長手方向に逃がすことができるので、濾過チューブ41に加わる熱応力を最小限にとどめることができる。これらの作用によって、濾過チューブ41が破損しにくくなる。
【0020】
缶体部20内における濾過ユニット40の懸下は次のようにして達成される。すなわち、図3に示すとおり、濾過ユニット40においては、支持板42の各側面46が、支持板42の上面47aから下面47bに向けて内向きに傾斜したテーパー面からなっている。一方、缶体部20において、濾過ユニット40を懸下する部位である中蓋22の内壁面22aは、支持板42の側面46のテーパー面と相補形状になっているテーパー面からなっている。したがって、濾過ユニット40を、その濾過チューブ41を下方に向けた状態で、缶体部20内に落とし込むと、支持板42の側面46と、中蓋22の内壁面22aとが当接した状態になり、それ以上の落とし込みが規制される。その結果、濾過ユニット40が缶体部20内で懸下された状態が維持される。濾過ユニット40の懸下状態を安定的に維持するためには、支持板42の4つの側面46のすべてがテーパー面であることが有利であるが、これに代えて、少なくとも対向する一対の側面46のみがテーパー面になっていてもよい。また、各側面46のテーパー面における角度はいずれも同じであるが、これに代えて角度を異ならせてもよい。
【0021】
以上のとおりの構成によって濾過ユニット40が懸下状態になることで、濾過ユニット40の自重及び支持板42上に載置された錘45の重みで、該濾過ユニット40と缶体部20とがシールされる。したがって、必要最小限の力で濾過ユニット40をシールすることができ、濾過ユニット40を過度にシールしなくても、金属溶湯の漏れが起こりにくくなる。シールを一層確実に行う目的で、錘45に代えて、又は錘45に加えて、棒状体等の押圧部材(図示せず)を用いて、濾過ユニット40の支持板42をその上面から押さえつけるようにしてもよい。同様の目的で、テーパー面になっている支持板42の側面46と、缶体部20における中蓋22の内壁面22aとの当接面の間に、例えばアルミナ繊維状のパッキン(図示せず)を挟み込んでもよい。あるいは、支持板42の側面46にテーパー面を設けることに代えて、該側面46に段差を設け、その段差と嵌め合い形状となる段差を、缶体部20における中蓋22の内壁面22aに設けてもよい。
【0022】
図2に示すとおり、濾過チューブ41の下端部41bと、缶体部20の底部との間には、ヒーター50が配置されている。ヒーター50は、その長手方向を、水平面と略一致させて、缶体部20の底面から若干離れた位置に横置きされている。ヒーター50は、濾過装置10内に金属溶湯を流通させる前に、該装置10全体を予熱する目的で用いられる。同図においては、複数のヒーター50が用いられている状態が示されているが、ヒーター50の本数はこれに限られず、ヒーター50の発熱能力や、濾過装置10の大きさ等によっては、ヒーター50を1本のみ用いてもよい。ヒーター50はその周囲がヒーターカバー51によって被覆されており、それによってヒーター50が金属溶湯によって損傷を受けること等を防止している。濾過チューブ41の下端部41bと、缶体部20の底部との間にヒーター50を配置することで、濾過チューブ41及び缶体部20に近接した位置からこれらを加熱することができるので、予熱時間を短縮化できて有利である。これまで知られている金属溶湯の濾過装置では、例えば図5に示すとおり、濾過チューブ141から離れた位置にヒーター150が設置されていたので、予熱に長時間を要していた。従来の濾過装置では、濾過チューブ141を横置きにしていたので、濾過チューブ141と缶体部121の底部との間に十分な空間を確保することができず、そのために濾過チューブ141と缶体部121の底部との間にヒーターを設置することができなかった。
【0023】
濾過ユニット40が配置された缶体部20を覆う上蓋30は、該缶体部20の全体を覆う板状の覆い部31と、缶体部20内に貯留する金属溶湯の容量を減少させるように該缶体部20の上方部分を塞ぐ閉塞部32とを有している。覆い部31と閉塞部32とは一体的に形成されている。尤も、両者を別体で製造し、その後、所定の手段で両者を結合させてもよい。
【0024】
閉塞部32は、板状をしている覆い部31の底面を、略逆截頭錐体形状に膨出させ、缶体部20における中蓋22の内壁22aに沿うように形成してある。閉塞部32の底面32aは、濾過ユニット40における支持板42の上面47aから若干離間して該上面47a上に位置している。金属溶湯を濾過している状態では、閉塞部32の底面32aと、缶体部20内に貯めた金属溶湯の湯面とは、略同じ位置になっている。
【0025】
閉塞部32は、金属溶湯と反応しづらい定形又は不定形耐火物から形成されている。金属溶湯が例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる場合には、閉塞部32を、窒化珪素結合炭化珪素耐火物、窒化珪素耐火物、アルミナ系耐火物、ジルコニア系耐火物等から構成することができる。この場合、閉塞部32の外面を金属製のケーシングで被覆してもよい。
【0026】
上蓋30に閉塞部32を設けることで、缶体部20内の金属溶湯の容量を減少させることができ、残湯量を減少させることができる。また、金属溶湯の湯面が、大気中の酸素に接触する面積が減少するので、金属溶湯の酸化を抑制することができる。この結果、鋳造等に用いられる金属溶湯の量を増やせると同時に、廃棄される金属酸化物の量を抑制でき、溶湯の歩留り向上と省資源化を図ることができる。また、金属溶湯の湯面上部で、大気が対流することに起因して熱が奪われることを、閉塞部32によって防ぐこともできる。
【0027】
本実施形態の濾過装置10を用いた金属溶湯の濾過においては、まずヒーター50を加熱して、缶体部20及び濾過チューブ41を所定の温度まで予熱する。次いで、図2に示すとおり、濾過すべき金属溶湯が入湯樋24に案内されて、入湯口23を通じ缶体下部槽21へと流入する。缶体下部槽21へ流入した金属溶湯は、濾過チューブ41の外周面側から内部に向けて浸透する。濾過チューブ41の内部に達した金属溶湯は、該濾過チューブ41の内部を上昇し、該濾過チューブ41の開口部43及び支持板42の開口部44を通じて濾過ユニット40の外部に流出することで濾過される。濾過ユニット40の外部に流出した金属溶湯は、支持板42の上面47aと、上蓋30における閉塞部32の下面32aとの間の空隙を流れ、出湯口25を通じて出湯し、出湯樋26に案内されて次工程へと導かれる。
【0028】
次に、本発明の濾過装置の第2実施形態を、図4を参照しながら説明する。第2実施形態については、先に説明した第1実施形態と異なる点について説明し、特に説明しない点については、第1実施形態において詳述した説明が適宜適用される。また、図4において、図1ないし図3と同じ部材には同じ符号を付してある。
【0029】
図4に示す実施形態の濾過装置10における濾過ユニット40は、複数本の濾過チューブ41を備えている。各濾過チューブ41は、該濾過チューブ41の双方の端部において、一対の支持板42a,42bに取り付けられている。各濾過チューブ41は、先に述べた実施形態と同様に、その一端41aに開口部(図示せず)を有し、かつ他端41bが閉じている有底筒状の形状をしている。濾過ユニット40においては、一方の支持板42aに、その厚み方向を貫通する複数の開口部(図示せず)が設けられている。各濾過チューブ41が支持板42aに取り付けられる位置は、該支持板42aに設けられた開口部(図示せず)の位置と一致している。したがって、濾過ユニット40を、支持板42aの下面側から見上げると、該支持板42aに設けられた開口部(図示せず)と、濾過チューブ41の中空部位とが連通している。もう一方の支持板42bに関しては、該支持板42bの面のうち、支持板42a対向する面に複数の凹部(図示せず)が設けられている。この凹部に、濾過チューブ41の他端41bが嵌合している。このようにして、一対の支持板42a,42b間に、複数本の濾過チューブ41が固定されている。
【0030】
図4に示すとおり、濾過ユニット40においては、濾過チューブ41は、その長手方向が略鉛直方向を向くように配置されている。そして各濾過チューブ41の開口部(図示せず)は、略鉛直方向の下方に向けて開口している。濾過ユニット40は、一対の支持板42a,42bのうち、支持板42aが下方に位置し、支持板42bが上方に位置するように、缶体部20の底部に設けられた載置部28上に載置されている。したがって、支持板42aが載置部28と当接している。載置部28は、缶体部20をその上方から見下ろしたとき、支持板42aの輪郭の形状と略同形状をした環状になっている。したがって、支持板42aに設けられた開口部(図示せず)は、載置部28によって閉塞されていない。載置部28は、缶体部20の底部から上方に突出して設けられているので、缶体部20の底部と、支持板42aの下面との間には空間Sが形成されている。
【0031】
一方、濾過ユニット40における上方側に位置する支持板42bに関しては、該支持板42bの平面視における略中央域に、押圧部材60が当接している。押圧部材60は、鉛直方向に延びる棒状のものであり、下方に向かうに連れて横断面が拡径した形状をしている。押圧部材60下端面は平坦になっており、該下端面が、支持板42bの上面に当接し、濾過ユニット40全体を下方に向けて押圧するようになっている。金属溶湯が例えばアルミニウム又はアルミニウム合金である場合、押圧部材60は、アルミニウムに対して耐食性の高い材料から構成されていることが好ましい。
【0032】
押圧部材60は、上蓋30における閉塞部32が設けられた部位において、該上蓋30をその厚み方向に貫通する貫通孔内に挿入されている、押圧部材60の上部60aは、上蓋30の上面から上方に突出している。この上部60aには、上蓋30の上面近傍の位置に鍔部60bが設けられている。更に、上部60aにはバネ61が取り付けられている。バネ61は、その下端部が鍔部60bの上面と当接しており、その上端部が、バネ押さえ部材62と当接している。バネ押さえ部材62は、上蓋30の上面に固定されている。このような構造を採用することによって、押圧部材60はバネ61の作用で下方に向けて付勢される。その結果、濾過ユニット40が押圧部材60によって下方に向けて押し付けられ、濾過ユニット40における支持板42aと載置部28との間がシールされる。しかも、この構造によれば、作業者の作業の熟練の程度に依存せずに、常に一定の押圧力を濾過ユニット40に付与することができる。その上、バネ61の力を調整することで、押圧力を容易に調整することができる。
【0033】
図4に示すとおり、本実施形態の濾過装置10では、上蓋30における閉塞部32の下端面32aが、入湯口23の底面よりも下方に位置している。
【0034】
濾過装置10においては、該濾過装置10から離れた位置に、例えば上蓋30の上方に、ガスバーナー等の空気加熱循環装置70が配置されている。空気加熱循環装置70からは、熱風の供給管71が延びている。この供給管71は、濾過装置10における出湯口25の近傍において、該濾過装置10と接続されており、該濾過装置10内に熱風を供給できるようになっている。更に空気加熱循環装置70からは、熱風の回収管72が延びている。この回収管72は、濾過装置10における入湯口23の近傍において、該濾過装置10と接続されており、該濾過装置10内を通過してきた熱風を回収できるようになっている。空気加熱循環装置70を運転すると、該装置によって所定温度に加熱された熱風が供給管71を通じて濾過装置10内に供給される。図4には、熱風の流通経路が点線の矢印で示されている。濾過装置10内に供給された熱風は、缶体部20の下部から上部に向けて上昇し、濾過チューブ41内を流通した後、入湯口23を通じて、回収管72によって回収される。回収された熱風は、空気加熱循環装置70によって再び所定の温度まで加熱された後、供給管71を通じて濾過装置10内に供給される。このように、金属溶湯を濾過するのに先立ち、缶体部20の下部から上部に向けて熱風を流通させることで、該缶体部20及び濾過ユニット40の濾過チューブ41を効率的に予熱することができるので、予熱時間の短縮化を図ることができる。
【0035】
空気加熱循環装置70に加えて、濾過装置10にはヒーター50が設置されている。ヒーター50は、金属溶湯の濾過中に、該金属溶湯の溶融状態を保持するために用いられる。ヒーター50は、上蓋30の直下の位置であって、かつ先に述べた閉塞部32に隣接した位置に設置されている。ヒーター50は、その長手方向を水平面と略一致させて横置きされている。
【0036】
本実施形態の濾過装置10を用いた金属溶湯の濾過においては、まず空気加熱循環装置70を運転して、缶体部20内に熱風を供給し、缶体部20及び濾過チューブ41を所定の温度まで予熱する。上述したとおり、熱風は、缶体部20の下部から上部に向けて流通する。また、ヒーター50を発熱させておく。次いで、図4に示すとおり、濾過すべき金属溶湯が入湯樋24に案内されて、入湯口23を通じ缶体部20へと流入する。缶体部20へ流入した金属溶湯は、濾過チューブ41の外周面側から内部に向けて浸透する。濾過チューブ41の内部に達した金属溶湯は、該濾過チューブ41の内部を降下し、該濾過チューブ41の開口部(図示せず)及び支持板42aの開口部(図示せず)を通じて濾過ユニット40の外部に流出することで濾過される。濾過ユニット40の外部に流出した金属溶湯は、出湯口25を通じて出湯し、出湯樋26に案内されて次工程へと導かれる。濾過中は、ヒーター50の発熱によって金属溶湯の溶融状態が保持される。
【0037】
以上の各実施形態の濾過装置10によって濾過される金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金が代表的なものとして挙げられるが、それ以外の金属溶湯の濾過にも、本発明の濾過装置を用いることができる。
【0038】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の各実施形態においては、濾過ユニット40に備えられた濾過チューブ41は複数本であったが、これに代えて1本の濾過チューブ41を用いてもよい。
【0039】
また、前記の各実施形態においては、濾過チューブ41はその長手方向が略鉛直方向を向いていたが、該長手方向が水平面に対して交差する方向である限り、該長手方向が略鉛直方向を向いていることを要しない。例えば、濾過チューブ41の長手方向と水平面とのなす角が好ましくは45度以上、更に好ましくは55度以上、一層好ましくは80度以上であれば、本発明の効果は十分に奏される。
【0040】
また、第1実施形態においては、濾過ユニット40における支持板42の側面46をテーパー面とすることで、該濾過ユニット40を缶体部20内に懸下させたが、これ以外の構造、例えば先に述べたとおりの嵌め合い構造を採用して濾過ユニット40を懸下させてもよい。
【0041】
予熱形態としては、第1実施形態においては、ヒーター50を用いる代わりに、第2実施形態で用いた熱風を用い、缶体部20の下部から上部に向けて熱風が流通するように濾過装置10を構成してもよい。逆に、第2の実施形態において、熱風による加熱に代えて、第1実施形態で用いたヒーター50を、濾過ユニット40と、缶体部20の底部との間に配置してもよい。
【0042】
更に、第1実施形態において、上蓋30における閉塞部32の下端面32aを、入湯口23の底面よりも下方に位置させてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 金属溶湯濾過装置
20 缶体部
21 缶体下部槽
30 上蓋
32 閉塞部
40 濾過ユニット
41 濾過チューブ
42 支持板
50 ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5