(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0006】
シリカでカプセル化されたコア−シェル型有機ナノ顔料は、一般に、シリカシェル中にカプセル化されたナノスケール有機顔料粒子組成物を含む。実施の形態の一つでは、ナノスケールの有機顔料粒子組成物は、一般に、立体的に嵩高い安定剤化合物由来の官能基に非共有結合で会合している有機アゾレーキ顔料を含む。会合安定剤が、コアの有機顔料粒子の合成に際して存在していると、粒子の成長と凝集の程度の制限に役立つので、ナノスケール粒子が得られる。表面シリカシェルが存在すると、コア有機顔料ナノ粒子の表面特性と官能特性の不動態化に役立ち、様々なインク担体組成物中に粒子を良好に分散させることが可能になる。さらに、表面に堆積されたシリカ層は、ナノスケールの厚さであり、光学的に透明であり、化学的に不活性である。
【0007】
本開示のコア−シェル型、シリカカプセル化された有機ナノ顔料が、他は一見同様なコア−シェル型有機顔料で、相違は、より大きいサイズの顔料をカプセル化したコア−シェル型有機顔料と区別されるのは、本実施の形態が、「ボトムアップ」粒子成長プロセスで調製されたナノスケール顔料に関するものであり、より大きなサイズ(例えば、μmサイズ)の顔料でもなく、あるいはサブミクロン粒径まで機械的に粉砕された顔料粒子でもないという事実である。この区別が重要であるのは、ナノ粒子の方が、より広い表面積を有し、所望のコア−シェル型組成物を得るには、相異なる処理方法、例えば、相異なる条件および/または添加物を使用して、同時にコアとなるナノ粒子自体の成長を防止するという処理方法を必要とするからである。その上、非共有結合的に会合された安定剤および/または表面添加剤の存在下に着色剤分子のアセンブリを制御するステップを含む「ボトムアップ」粒子成長プロセスで調製されるナノスケール顔料は、重合シリカまたは酸化チタンのシェル層のようなシェル型材料を容易に堆積可能にし得るカスタム設計の表面化学特性と表面ポテンシャルを備えたナノ粒子を提供する。つまり、本開示は、そのような目的を達成するプロセス、およびそのプロセスよって形成される製品を提供するものである。
【0008】
一般に、本開示のコア−シェル型、シリカカプセル化有機ナノ顔料は、有機ナノ顔料、すなわち、所望の粒子径と形状特性を有するナノメートルサイズ範囲の顔料粒子を、ナノメートルスケールの厚さの光学的に透明なシリカシェルの中にカプセル化したものから得る。従って、例えば、適切な有機ナノ顔料としては、以下を挙げ得るが、これらに限定されない。
・少なくとも一個の官能部分基を含む有機アゾレーキ顔料のナノスケール顔料粒子、および少なくとも一個の官能基を含む立体的に嵩高い安定剤化合物。この場合、有機顔料の官能部分基が、立体的に嵩高い安定剤の官能基と非共有結合で会合し、会合された安定剤の存在によって、粒子の成長と凝集の程度が制限され、ナノスケールサイズ顔料粒子が提供される。
・少なくとも一個の官能部分基を含む有機モノアゾレーキ顔料を含むナノスケール顔料粒子、および少なくとも一個の官能基を含む立体的に嵩高い安定剤化合物。この場合、モノアゾ染料分子を2価金属カチオンで処理してレーキ化(沈降させる)することによってモノアゾレーキ顔料を得る。有機モノアゾレーキ顔料の官能部分基が、立体的に嵩高い安定剤の官能基と非共有結合で会合し、会合された安定剤の存在によって、粒子の成長と凝集の程度が制限され、ナノスケール顔料粒子が提供される。
・ナノスケールフタロシアニン型顔料粒子であって、主成分として金属フタロシアニンまたは無金属フタロシアニン色原体構造(chromogen structure)、および副成分としてフタロシアニン色原体構造に非共有結合で会合している置換可溶性金属フタロシアニン染料を含むもの。この場合、置換可溶性金属フタロシアニン染料に一個以上の立体的に嵩高い置換基が存在することによって、顔料粒子の成長と凝集の程度が制限され、ナノスケール顔料粒子が提供される。
・少なくとも一個の官能部分基を有するキナクリドン顔料を含むナノスケール顔料粒子、および少なくとも一個の官能基を有する立体的に嵩高い安定剤化合物。この場合、顔料の官能部分基が、立体的に嵩高い安定剤の官能部分基と非共有結合で会合し、会合された安定剤の存在によって、粒子の成長と凝集の程度が制限され、ナノスケールサイズ顔料粒子が提供される。
【0009】
これらの出願の開示全体は、本明細書中に参考文献としてとして引用される。もちろん、明らかなことであるが、顔料粒子としては、これらの粒子に限定されない。所望に応じて、他の有機ナノ顔料も使用し得る。特に、モノアゾ顔料とジスアゾ顔料を含むアゾ型顔料、アゾナフトール、アゾ−メチン顔料、アゾピラゾロン、ジケトピローロピロール、ジアリーリド顔料、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、アントラピリミジン、イソインドリン顔料、トリアリールカルボニウム塩顔料がある。例の説明に対しては、以下の議論は、ナノスケール顔料粒子が有機モノアゾレーキ顔料とキナクドリン類有機顔料を含むものとして主に行われる。もっとも本開示は、これらに限定されない。
【0010】
キナクリドン顔料の全合成については、文献に幾つかの方法が報告されており、2,5−ジアニリノテレフタル酸(または、ジエステル)顔料先駆体の熱誘起または酸触媒のいずれかによる閉環によって、ペンタシクロキナクリドン骨格を形成する既知の化学変化を伴うものであり、下記式に示される通りである。この顔料先駆体は、出発原料として、コハク酸エステル、または2,5−ジハロ−テレフタル酸のいずれかを使用して調製される。
【0012】
キナクリドン有機顔料のナノスケール粒子は、次の二つの好ましい方法の一つで調製し得る。1)粗キナクリドン顔料を酸性液に可溶化し(「酸ペースト化」として通常知られる)、ナノ粒子として顔料を再沈殿させる方法、2)キナクリドン顔料のナノスケール粒子を高度(advanced)顔料先駆体の閉環によって合成する方法である。実施の形態では、キナクリドン顔料のナノスケール粒子は、様々な方法で調製し得るが、粗キナクリドン顔料、または顔料先駆体を酸性液に可溶化(「酸ペースト化」として通常知られる技法)して、その後に非溶媒混合物を急速冷却してナノ粒子またはナノ結晶として顔料を再沈殿させる方法を含むものである。
【0013】
「顔料先駆体(pigment precursor)」という用語で称される化学物質は、有機顔料の全合成において高度な中間体であるならどのようなものでもよい。実施の形態では、有機顔料と顔料先駆体は、同じ官能部分基を有していても、有していなくてもよい。実施の形態では、顔料先駆体は、着色化合物であっても、着色化合物でなくてもよい。実施の形態では、有機顔料と顔料先駆体が、構造上の特色または特性を共通にしている場合、有機顔料と顔料先駆体各々に同じ議論を繰り返さず、「有機顔料/顔料先駆体」という語句を便宜上使用する。
【0014】
本開示の実施の形態では、キナクリドン顔料のナノスケール粒子は、表面添加物として会合している立体的に嵩高い安定剤化合物を含む。立体的に嵩高い安定剤が機能を発揮するのは、安定剤自体が、水素結合、ファンデルワールス力、芳香族のπスタック、またはこれらの組み合わせのような多岐にわたるモードを使用して、非共有結合で顔料の官能部分基と会合することによってであり、その結果、適切な立体的に嵩高い安定剤の存在下に上記の方法でナノスケール顔料粒子の調製を行う際に、会合されている安定剤添加剤の作用によって、有機顔料ナノ粒子の結晶化が制御され、顔料粒子の成長が制限されるのである。安定剤化合物には、安定剤の機能が顔料粒径を調節可能にするに十分な立体的嵩高さを提供する炭化水素部分基が備わっていなければならない。実施の形態では炭化水素部分基は、主に脂肪族であるが、他の実施の形態では、芳香族基を導入することも可能で、一般に、少なくとも6個の炭素原子、例えば、少なくとも12個の炭素原子、または少なくとも16個の炭素原子、または約100個以下の炭素原子を含み得る。しかし、炭素原子の実際の数としてはこれらの範囲外のものでもよい。炭化水素部分基は、直鎖状でも、環式でも、分岐状でもよいが、実施の形態では好ましくは分岐状であり、シクロアルキル環または芳香族環のような環式の部分基を含んでも、含まなくてもよい。脂肪族の分岐鎖の長さは、各分岐に少なくとも2個の炭素原子、例えば、各分岐に少なくとも6個の炭素原子で、約100個以下の炭素原子を備えるものである。安定剤の炭化水素部分基は、十分に大きなものでなければならない。そうすれば、数個の安定剤分子が、化学種(顔料または先駆体)と非共有結合で会合するので、安定剤分子が一次顔料ナノ粒子に対する表面バリア剤として機能し、その結果として、これらの顔料ナノ粒子の成長が制限される。
【0015】
実施の形態における開示のプロセスでは、立体的に嵩高い安定剤または表面添加化合物が、最初に酸媒体中に可溶化または分散される。この酸媒体は、任意選択で所望の温度、例えば、約0℃〜約100℃、または好ましくは約20℃〜約80℃、または最も好ましくは約30℃〜約60℃に加熱および/または維持される。次いで、粗キナクリドン顔料、または顔料先駆体が、溶解された表面添加剤を含む強酸溶液に添加される。顔料材料がこの最初の酸性溶液に添加された後は、上記溶液は、所望のように保持され、好適かつ所望の混合が行われたり、添加物が顔料粒子の表面に付着したりが可能となるに要する時間だけ撹拌され得る。
【0016】
どのような好適な液媒体も、重合体ベースのカプセル化材の存在下にキナクリドン顔料の再沈殿を行って、会合している立体的に嵩高い化合物を表面に有しているナノスケール顔料粒子を得るのに使用し得る。好ましくは、再沈殿は、脱イオン水中で、そして任意選択で、顔料ナノ粒子や表面添加剤を溶解しない有機共溶媒液中で行い得る。ナノスケールのキナクリドン顔料粒子の形成は、激しい撹拌下に、例えば、高速機械的撹拌器またはホモジナイザまたは他の手段を使用して、溶解している顔料と表面添加剤とを含む第一の強酸溶液をこの第二の(再沈殿)溶液に加えることによって行い得る。
【0017】
別のプロセスでは、立体的に嵩高い安定剤化合物は、前に記載の有機共溶媒を含む好適な液媒体中に安定剤を溶解させるか、または細かく懸濁させるかのいずれかによって、再沈殿化溶液に分散させ得る。顔料再沈殿のプロセスは、表面会合性の安定剤を含んでいるキナクリドン顔料ナノ粒子の形成が可能となるに必要などのような所望の温度でも行い得る。
【0018】
再沈殿が完結すると、クエンチされた混合物は、強い酸性となるので、濃アンモニア水またはアンモニア水溶液のような好適な塩基をこの溶液に添加することによって中和し得る。他の好適な中和剤の例としては、NaOH、KOH、Na
2CO
3、K
2CO
3、および同様のもののような1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩を挙げ得る。中和が完結すると、キナクリドン顔料ナノ粒子は、従来の手段、例えば、真空濾過法または遠心分離法によって溶液から分離し得る。得られたナノ粒子は、また、既知の方法に従ってその後の使用のために処理し得る。
【0019】
顔料結晶化を制御してナノスケールのキナクリドン粒子の形成を可能にする表面添加物としての代表的な立体的に嵩高い安定剤としては、限定されないが、以下のものが含まれる。すなわち、a)パルミチン酸(SPAN(登録商標)40)、ステアリン酸(SPAN(登録商標)60)、およびオレイン酸(SPAN(登録商標)85)またはこれらの混合物とソルビットとのエステルで、酸の脂肪族鎖の炭素数は、少なくとも10以上のもの。b)直鎖、分岐、または環式のアルコール、例えば、シクロヘキサノールやIsofol20(サソール(Sasol)アメリカ社から入手可能)と酒石酸とのエステル。c)ロジン基剤の天然化合物と合成誘導体であって、ロジン、ロジンエステル、ロジン酸、ロジン塩、または同様のもののような官能基類を含み、顔料粒子をコーティングして顔料粒子または分子の自己アセンブリの程度を制限し、主としてナノスケールサイズの顔料粒子を製造する機能を備えるもの。ロジン化合物は、前述の種類のいずれに対しても水素化はしても、しなくてもよい。市販のロジン化合物の具体的な例としては、例えば、水素化ロジンエステル(荒川化学株式会社製造のPinecrystal KE−100またはKE−311など)、水素化ロジングリセロールエステル、レボピマール酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、アビエチン酸、脱水素アビエチン酸、第二級脱水素アビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ピマール酸とイソピマール酸、カルシウムレジネート、ナトリウムレジネート、亜鉛レジネート、マグネシウムレジネート、バリウムレジネート、鉛レジネート、コバルトレジネート、混合レジネート(例えば、カルシウムレジネートと亜鉛レジネートの混合物)、ロジンのナトリウム塩(例えば、ヘラクレス社(Hercules Paper Technology Group)製造のDRESINATE X(商標))、ロジンまたは水素化ロジンのアルキルエステル(例えば、HERCOLYM D(商標)、ヘラクレス社製造の水素化ロジンのメチルエステル、およびABALYN(商標)、ヘラクレス社製造のロジンのメチルエステル)、これらの混合物、および同様のものが挙げられる。
【0020】
実施の形態では、キナクリドン顔料のナノスケール粒子は、立体的に嵩高い安定剤の存在下に例示の条件を使用して適切に調製されたとき、粒径は超微細であり、望ましいものであった。例えば、粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)で得られた平均粒子径(長さ)として測定すると、望ましくも約100nm未満、例えば、約10nm〜約20nm、約40nm、約60nm、または約80nmの平均粒度を有する。ナノサイズの顔料粒子の形状は、棒状、小板状、針状、プリズム状、または略球状などの幾つかの形態学上の形の一つ以上で表し得る。ナノスケール顔料粒子の〔長さ:幅〕のアスペクト比は、1〜約10の範囲で、例えば、1〜5のアスペクト比を有し得る。しかし、実際の比は、これらの範囲の外にあってもよい。
【0021】
キナクリドン顔料のナノスケール粒子を製造する第二の方法は、キナクリドン顔料先駆体の閉環を伴うものである。この方法では、キナクリドン顔料組成物は、ナノ粒子の形成と並行的に合成される。その際、好適な立体的に嵩高い化合物が、
図1に示される酸触媒による閉環を伴うキナクリドン合成ルートの最終段階内で好適な添加量で導入される。
【0022】
有機モノアゾ「レーキ」顔料は、モノアゾ着色剤の不溶性金属塩着色剤であって、モノアゾ染料または顔料を含み得る。ある地域では、これらの顔料は「トナー」または「レーキ」とも称されている。金属塩とのイオン錯体化プロセス、つまり「レーキ化」プロセスが行われると、ノニオン系モノアゾ顔料の溶解度が低下することによって、モノアゾ顔料の色移り抵抗が増大し、熱安定特性が向上し、その結果、丈夫な性能を要する顔料、例えば、着色用プラスチックや屋外使用の耐熱ペイントに適用可能となる。式(1)は、モノアゾレーキ顔料の一般式を示す。これらは、イオン化合物で、構造的には、一個のアゾ(N=N)官能基で結合されているジアゾ基(Gdとして示される)と求核カップリング基(Gcとして示される)に、通常は金属塩であるカチオン(M
n+)が付加しているものである。GdとGcのいずれかまたは両基は、一個または複数個のイオンの官能部分基(FMとして示される)、例えば、スルホン酸塩またはカルボン酸塩のアニオンまたは同様のものを含み得る。
【0024】
一例として、有機顔料PR57:1(「PR」はピグメントレッドを示す)は、二種の相異なる官能基であるスルホン酸塩アニオン基(SO
3−M
n+)とカルボン酸塩アニオン基(CO
2−M
n+)とを有する。M
n+は、2価の対カチオン、例えば、Ca
2+、または他の2価の金属カチオンを示す。さらに、化合物中のアゾ基は、PR57:1に対して
図2に示されるように、一般に、二つの相異なる互変異性体を形成し得る。(N=N)リンケージを有する「アゾ」形式と、一方は(C=N−NH−)リンケージを有し、分子内水素結合で安定化されている「ヒドラゾン」形式とであり、ヒドラゾン互変異性体は、PR57:1に対する好ましい構造形であると知られている。
【0026】
提供されることは、式(1)が、そのような互変異性体両方を示すのに理解されることである。モノアゾレーキ顔料の構造的性質がイオンの塩であることから、顔料と非共有結合で会合する化合物、例えば、イオン結合または配位結合によって金属カチオンと会合し得る有機または無機のイオン化合物を有することが可能である。そのようなイオン化合物は、本明細書では「安定剤」と称される化合物の群に含まれ、顔料粒子の表面張力を減少させ、2種以上の顔料粒子または構造の間の誘引力を中和し、その結果、顔料の化学的構造および物理的構造を安定させる。
【0027】
有機顔料/先駆体の官能部分基(FMとして示される)は、安定剤の相補的官能基と非共有結合が可能などのような好適な部分基でもよい。有機顔料/先駆体の官能部分基の例としては、以下が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。すなわち、スルホン酸塩/スルホン酸、(チオ)カルボン酸塩/(チオ)カルボン酸、ホスホン酸塩/ホスホン酸、アンモニウムと置換アンモニウム塩、ホスホニウムと置換ホスホニウム塩、置換カルボニウム塩、置換アリーリウム塩、アルキル/アリール(チオ)カルボン酸エステル、チオールエステル、第一級または第二級アミド、第一級または第二級アミン、水酸基、ケトン、アルデヒド、オキシム、ヒドロキシルアミノ、エナミン(つまり、シッフ塩基)、ポルフィリン、(フタロ)シアニン、ウレタンまたはカルバメート、置換尿素、グアニジンとグアニジニウム塩、ピリジンとピリジニウム塩、イミダゾリウムと(ベンズ)イミダゾリウム塩、(ベンズ)イミダゾロン、ピローロ、ピリミジンとピリミジニウム塩、ピリジノン、ピペリジンとピペリジニウム塩、ピペラジンとピペラジニウム塩、トリアゾーロ、テトラゾーロ、オキサゾール、オキサゾリンとオキサゾリニウム塩、インドール、インデノン、および同様のものである。
【0028】
モノアゾレーキナノ顔料を作製するための顔料先駆体は、式(1)のジアゾ基Gdを形成する置換アニリン先駆体、式(1)のカップリング基Gcに至る求核または塩基カップリング化合物、および好ましくは金属(式(1)に図示のように「M」として示される)である2価カチオン塩を含む。
【0029】
実施の形態では、式(1)の対イオンMは、どのような好適な対カチオンでもよく、実施の形態では金属対カチオンM
n+である。ここで、Mは金属で、nは1,2,3、または4のような好適な酸化状態を有し得る。本開示に基づけば、モノアゾ分子(すなわち、染料先駆体)は、2価の金属カチオンのような金属カチオンでレーキ化される。またはモノアゾレーキの混合物が提供されるが、幾つかのモノアゾ分子は相異なる金属カチオンでレーキ化される。特に、見出されたことによると、ナノスケール顔料粒子を製造するのに、立体的に嵩高い安定剤化合物の使用と組み合わせて、モノアゾ分子のレーキ化のために特定の金属カチオンを選択すると、ナノスケール顔料粒子の特定のカラー選択が可能になる。このカラー選択は、二種以上の相異なるカチオンの組み合わせでレーキ化されるモノアゾ分子の組み合わせを使用することによって、一層機能アップし得る。
【0030】
有機顔料は、全構造の一部として対イオンを含み得る。例えば、そのような対イオンは、金属、またはN、P、S、および同様のものを含む非金属のカチオンまたはアニオン、または炭素ベースのカチオンまたはアニオンでよい。好適な金属カチオンの例としては、Ba、Ca、Cu、Mg、Sr、Li、Na、K、Cs、Mn、Cu、Cr、Fe、Ti、Ni、Co、Zn、V、B、Al、Ga、および他の金属イオンが挙げられる。非金属ベースの対カチオンの例としては、アンモニウムとホスホニウムのカチオン、モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−置換アンモニウムとホスホニウムのカチオンが挙げられる。この場合、置換基は、脂肪族アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ステリアル基、および同様のもの、並びにアリール基、例えば、フェニル基またはベンジル基および同様なものである。
【0031】
式(1)の、トビアス酸を含み得る置換アニリン先駆体(DCとして示される)と、求核カップリング成分(CCとして示される)と、対カチオンM
n+を提供する金属塩(Mとして示される)とから選択されて成るモノアゾレーキ顔料の代表例は、以下の表に記載される。他のレーキ顔料構造は、表に示されていないDC、CC、および金属カチオン塩(M)の他の組み合わせから生成し得る。
【0033】
安定剤の相補的官能基は、安定剤の官能部分基と非共有結合可能な、どのような好適な部分基の一種または複数種でよい。安定剤に付いている相補的官能基の例としては、以下が挙げられる。すなわち、スルホン酸塩/スルホン酸、(チオ)カルボン酸塩/(チオ)カルボン酸、ホスホン酸塩/ホスホン酸、アンモニウムと置換アンモニウムの塩、ホスホニウムと置換ホスホニウムの塩、置換カルボニウム塩、置換アリーリウム塩、アルキル/アリール(チオ)カルボン酸エステル、チオールエステル、第一級または第二級アミド、第一級または第二級アミン、水酸基、ケトン、アルデヒド、オキシム、ヒドロキシルアミノ、エナミン(つまり、シッフ塩基)、ポルフィリン、(フタロ)シアニン、ウレタンまたはカルバメート、置換尿素、グアニジンとグアニジニウム塩、ピリジンとピリジニウム塩、イミダゾリウムと(ベンズ)イミダゾリウム塩、(ベンズ)イミダゾロン、ピローロ、ピリミジンとピリミジニウム塩、ピリジノン、ピペリジンとピペリジニウム塩、ピペラジンとピペラジニウム塩、トリアゾーロ、テトラゾーロ、オキサゾール、オキサゾリンとオキサゾリニウム塩、インドール、インデノン、および同様のものである。
【0034】
安定剤は、顔料粒子または分子の自己アセンブリの程度を制約し、主としてナノスケールサイズの顔料粒子を作製する機能を備える、どのような化合物でもよい。安定剤化合物には、安定剤の機能が顔料粒径を調節可能にするに十分な立体的嵩高を提供する炭化水素部分基が備わっていなければならない。実施の形態では炭化水素部分基は、主に脂肪族であるが、他の実施の形態では、芳香族基を導入することも可能で、一般に、少なくとも6個の炭素原子、例えば、少なくとも12個の炭素原子、または少なくとも16個の炭素原子、または約100個以下の炭素原子を含み得る。しかし、炭素原子の実際の数としてはこれらの範囲外のものでもよい。炭化水素部分基は、直鎖状でも、環式でも、分岐状でもよいが、実施の形態では好ましくは分岐状であり、シクロアルキル環または芳香族環のような環式の部分基を含んでも、含まなくてもよい。脂肪族の分岐鎖の長さは、各分岐に少なくとも2個の炭素原子、例えば、各分岐に少なくとも6個の炭素原子で、約100個以下の炭素原子を備えるものである。
【0035】
理解されることであるが、「立体的に嵩高い」という用語は、非共有結合で会合する顔料または顔料先駆体のサイズとの比較に基づく相対語である。実施の形態では、「立体的に嵩高い」という語句は、顔料/先駆体の表面に配位されている安定剤化合物の炭化水素部分基が、3次元空間の容積を占有し、他の化学種(例えば、着色剤分子、一次顔料粒子または小さな顔料凝集体)が顔料/先駆体の表面に向かって接近したり、密に会合したりするのが防止される状況を意味する。したがって、安定剤に付いている炭化水素部分基は、十分に大きいものでなければならず、そうすれば、幾つかの安定剤分子が化学種(顔料または先駆体)と非共有結合で会合するとき、安定剤分子は、一次顔料粒子に対する表面バリア剤として機能し、一次粒子の周りを効果的に取り囲み、結果として顔料粒子の成長を制約し、顔料のナノ粒子だけを得るようにさせるのである。例えば、顔料先駆体リソールルビン(Lithol Rubine)と有機顔料ピグメントレッド(Pigment Red)57:1に対しては、安定剤に付いている次の例示的基が、適切な「立体的嵩高さ」を有しており、その結果、顔料の自己アセンブリまたは凝集の程度が制限され、顔料のナノスケール粒子が主に製造されると考えられる。
【0037】
顔料と非共有結合で会合する官能基、および立体的に嵩高い炭化水素部分基の両方を備える安定剤化合物の代表例は、以下の化合物である(しかし、これらに限定されはしない)、すなわち、
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
式中、mとnは繰り返されるメチレン単位の数を示し、mは1〜50の範囲、nは1〜5の範囲となり得るが、これらの範囲の外にもなり得る。
【0038】
さらなる実施の形態では、以前に記載したものと相異なる構造を有する他の安定剤化合物も、立体的に嵩高い安定剤化合物に加えて使用され、顔料粒子凝集の程度を防止、または制限する界面活性剤として機能させ得る。そのような界面活性剤の代表例としては、限定はされないが、ロジン天然物、例えば、アビエチン酸、脱水素アビエチン酸、ピマール酸、ロジン石鹸(ロジン酸の塩)、ロジンの水素化誘導体およびメタノール、グリセロールまたはペンタエリスリトールまたは他の炭化水素系アルコールから製造されたこれらのアルキルエステル誘導体、アクリルベースの重合体、例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリレート)、スチレンベースの共重合体、例えば、ポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム)とポリ(スチレン)−co−ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)、αオレフィンの共重合体、例えば、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−トリアコンテンおよび同様のもの、4−ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、およびビニルピロリジノンの共重合体、ポリエステル共重合体、ポリアミド共重合体、アセタールとアセテートの共重合体、例えば、共重合体ポリ(ビニルブチラール)−co−(ビニルアルコール)−co−(ビニルアセテート)が挙げられる。
【0039】
先駆体/顔料の官能部分基と表面安定剤の相補的官能基との間に起こり得る非共有結合による会合のタイプは、例えば、ファンデルワールス力、イオン結合または配位結合、水素結合、および/または、芳香族πスタック結合、またはこれらの組み合わせである。モノアゾレーキ顔料のケースでは、支配的な非共有結合による会合は、イオン結合であるが、水素結合と芳香族πスタック結合を、これらの安定剤化合物と先駆体/顔料に付いた官能部分基各々間の非共有結合の追加タイプまたは別のタイプとして含み得る。
【0040】
「平均」顔料粒径は、普通d
50として表されるが、これは、粒径分布百分位数の50番目にある中央粒径値と定義される。つまり、粒径分布において粒径の50%がd
50の粒径より大きく、粒径分布において粒径の他の50%がd
50の値より小さいということである。平均粒径は、ダイナミック光散乱法のような粒径を定める光散乱法を使って測定し得る。本明細書で使用される「粒径」という用語は、最も長い寸法の顔料粒子の長さを称し(針形状粒子のケース)、透過型電子顕微鏡(TEM)で得られた粒子の画像から導出される値である。
【0041】
ナノスケール顔料粒子は、実施の形態に概説された例示的条件と立体的に嵩高い安定剤を使用して適切に合成すると、粒径は超微細であり、望ましいものであった。例えば、平均粒子径は、約150nm未満、例えば、約10nm〜約25、約50、約75、または約100nmで望ましいものであった。実施の形態では、モノアゾレーキ顔料に対して得られたナノサイズの顔料粒子は、平均粒径d
50、すなわち、TEMで測定された平均粒径は、約10nm〜約200nm、例えば、約25nm〜約150nm、または約50nm〜約125nmの範囲となることができる。実施の形態では、粒径分布は、ダイナミック光散乱法で測定すると、幾何学的標準偏差として、約1.1〜約1.9または約1.2〜約1.7の範囲となることができる。ナノサイズの顔料粒子の形状は、形態学上の幾つかの形、例えば、棒状、小板状、針状、プリズム状、楕円体状または球状で表し得る。ナノサイズ顔料粒子のアスペクト比は、1:1〜約10:1の範囲、例えば、〔長さ:幅〕のアスペクト比は、1:1〜約7:1、より好ましくは、1:1〜5:1の範囲となることができる。しかし、実際の値は、これらの範囲の外になることもできる。
【0042】
モノアゾレーキ顔料のナノスケール粒子を作製する方法は、少なくとも一段または複数段のステップを含むプロセスである。ジアゾ化反応は、モノアゾレーキ顔料の合成にとってキーとなる反応ステップであり、好適なアニリン前駆体が、標準手順を使用して、先ずジアゾニウム塩に直接的または間接的に転化される。標準手順としては、亜硝酸HNO
2(例えば、希塩酸と亜硝酸ナトリウムを混合すことによってin situに生成される)またはニトロシル硫酸(NSA)のようなジアゾ化剤で処理する方法がある。NSAは、商業的に入手可能であるが、濃硫酸中で亜硝酸ナトリウムを混合することによっても調製される。得られたジアゾニウム塩の酸性混合物は、溶液または懸濁液のいずれかであり、実施の形態では、冷却状態に保たれ、これに金属塩(M
n+)水溶液が、任意選択で添加され、前表に記載のような所望のモノアゾレーキ顔料製品の特定の組成を規定することになる。得られたジアゾニウム塩溶液または懸濁液は、好適なカップリング成分の溶液または懸濁液中に移される。同溶液または懸濁液は、pHが酸性または塩基性であり、一般に、追加の緩衝液や、前に記載の立体的に嵩高い安定剤化合物を含む界面活性剤を含有して、主にナノスケール粒子として所望の有機顔料が作製される。同顔料は、水スラリ中に湿潤有色固体として得られる。
【0043】
実施の形態では、モノアゾレーキであるピグメントレッド57:1の超微細ナノ粒子の調製は、カルボン酸またはスルホン酸塩官能基を有する分岐状炭化水素、例えば、ジ〔2−エチルヘキシル〕−3−スルホコハク酸ナトリウムまたは2−ヘキシルデカン酸ナトリウム、および同様なものを有する好適な立体的に嵩高い安定剤化合物を追加的に使用することによってのみ、可能になる。安定剤化合物は、液中に溶液または懸濁液として導入される。液は、安定剤化合物の溶解に役立つように、主に水溶液であるが、任意選択で、極性の、水と混和し得る共溶媒、例えば、THF、イソプロパノール、NMP、DOWANOL、および同様のものを含むことができる。着色剤モルに対する安定剤化合物の相対量は、約5モル%〜約100モル%、例えば、約20モル%〜約80モル%または約30モル%〜約70モル%の範囲であるが、使用濃度は、これらの範囲の外でも、着色剤のモルに対して大過剰でもよい。
【0044】
小粒径を有するPR57:1のようなモノアゾレーキ顔料の顔料粒子は、立体的に嵩高い安定剤を使用せずに、界面活性剤(例えば、ロジン型界面活性剤)の使用のみで、使用される濃度やプロセス条件次第であるが、上記の2段法で調製可能であった。しかし、得られた顔料製品には、ナノスケール粒子が支配的には含まれず、粒子も一定の形の形態を示さなかった。立体的に嵩高い安定剤化合物を使用しない場合は、上記の1段法にしろ、2段法にしろ、平均粒径が200〜700nmで、しかも粒径分布が広い棒状の粒子凝集体が製造され、そのような粒子は、重合体被覆マトリクスに分散するのが困難で、一般に、カラー特性が劣ったものであった。実施の形態では、好適な立体的に嵩高い安定剤化合物、例えば、分岐状アルカンスルホン酸塩またはアルキルカルボン酸塩を、少量の好適な界面活性剤、例えば、ロジン型表面活性剤の誘導体と一緒に組み合わせて使用すれば、前記の合成法のいずれかを使用して、ナノメートル寸法の直径、より狭い粒径分布、および低いアスペクト比を有する最も微細な顔料粒子が得られるのである。これらの化合物の様々な組み合わせを、反応剤の化学量、濃度、添加量、温度、撹拌速度、反応時間、および反応後の生成物回収プロセスのようなプロセスパラメータの変化に加えて行えば、ナノスケール有機顔料粒子の形成が可能になる。
【0045】
無機ナノ粒子(例えば、銀、金、様々な金属酸化物)をシリカのシェルで覆うカプセル化は、当技術分野に既知である。しかし、シリカシェルカプセル化は、有機ナノ顔料に適用された実績は存在しない。シリカのシェルを用いると、顔料表面の特性が不動態化され、狭い粒径分布が得られ、球状の粒子形態(低アスペクト比)が示され、光学的に透明になるに好適な厚さのものとなる。また、シリカカプセル化は、特にインク印刷運転温度において熱安定性を示す。
【0046】
本開示では、コア−シェル型有機ナノ顔料を製作するプロセスは、ナノスケール厚さのシリカシェル層または被覆の形成を含む。有機顔料ナノ粒子は、広い表面積と高い表面ポテンシャルを有するので、これを分散して使用したり、後で表面処理したり、化学官能性を賦与したり、あるいはシェルを形成させたりするには相当程度の困難さが伴う。シリカの表面シェル層を粒子に堆積させてカプセル化を行うには、2つの一般的な方法が使用し得る。すなわち、1)コア粒子の表面にシリカ前駆体薬剤を加水分解して凝縮させるステップを含むゾル−ゲル法(しばしばStober法と称される)、および2)シランカップリング剤を使用して、先ずコア粒子の表面を被覆すると、これは、油/水マイクロ乳剤から得られたシリカミセルの中にコア粒子を固定するのに役立つので、滑らかで、連続したシリカシェルが形成されるマイクロ乳濁法である。実施の形態では、Stober法と同様のゾル−ゲル重合法が、ナノスケール有機顔料粒子のシリカによるシェルカプセル化に使用される。適用されるシリカシェル層の物理特性、例えば、厚さ、透明性、空隙度、および一般的形態は、詳細なプロセス条件、例えば、pH、触媒選択、温度、薬剤の化学量と濃度、反応時間、および撹拌によって、主に制御可能であり、調整可能である。もちろん、他の方法や一部修正も、本開示に基づいて明らかであろう。
【0047】
有機顔料ナノ粒子を調製し、さらに表面官能化、例えば、シリカや酸化チタンや同様のもののような無機酸化物によるシェル型カプセル化を行うには、ナノ粒子表面を「プライマ」剤で処理することが望ましい。「プライマ」剤は、シリカシェルを堆積するためのシリカ前駆体に固定するための顔料粒子表面の親和力を増すもので、通常、アルコキシシランまたは加水分解されたアルコキシシラン薬剤である。プライマ剤の使用は任意選択であり、プライマの組成は、使用されるプロセス条件に加えて、コア−シェル構造でカプセル化された顔料の中に含まれる有機顔料コアのタイプに依存する。しかし、大抵の実際的なケース、すなわち、コア有機顔料粒子の表面ポテンシャルが低く、極性も低い場合は、プライマ剤を使用すると、アルコキシシラン先駆体のゾル−ゲル重合化の成功が確実に行われ、シリカシェル層の堆積が良好に行われる。
【0048】
任意選択のプライマ剤は、小さな有機分子またはマクロ分子とすることができ、一般に、N、S、O、および/またはPのようなヘテロ原子を含む官能基を一個以上含み、多くの場合、この官能基は、弱から中の強度の電子供与性の求核基である。プライマ剤は、正にも負にも荷電したもので、例えば、イオン種または、ツィッターイオン種であり、あるいは荷電が中性なものでもよい。ノニオン系有機顔料ナノスケール粒子、特に、非正規系形状(小板状、針状)を有する粒子をカプセル化するには、プライマ剤は、有機ホモ重合体または共重合体であるのが好ましいが、前記ヘテロ原子を含む一個以上の官能基を有する小さな有機分子でもよい。ノニオン系有機顔料、例えば、ナノスケールキナクリドン顔料に使用し得るプライマ剤は、限定はされないが、重合体化合物と小さな有機化合物の以下の例から選択し得る。すなわち、ポリ(ビニルピロリドン)のホモ重合体と共重合体、ポリ(スチレン)またはポリ(スチレン−4−スルホネート)のホモ重合体と共重合体、ポリ(4−ビニルピリジン)のホモ重合体と共重合体、ポリ(ビニルイミダゾール)のホモ重合体と共重合体、ポリアルキレンイミンのホモ重合体と共重合体、ポリ(ビニルブチラール)のホモ重合体と共重合体、アルカン二酸単量体および/またはアルカンジオール単量体から各々調製されるポリエステル、アミド端末基のポリエステル、ポリアミド、およびエステル端末基のポリアミドのホモ重合体と共重合体、コハク酸ジエステル、コハク酸ジアミド、コハク酸無水物またはスクシニミドのホモ重合体と共重合体であってポリアルキレンアミンとポリイソブチレンのコハク酸無水物またはポリイソブチレンスクシニミドの反応生成物を含むもの、第一級と第二級アルキルアミンまたはアンモニウム塩のような多機能小分子、アルカンジアミンとこれらのアンモニウム塩、アルカンチオール、アルカンアミノチオール、アルカンアミノアルコール、アルカンアミノカルボン酸またはアルカンアミド/−アルカン(チオ)エステル/−アルキルアミジン/−アルキルイミン/−アルキルヒドラゾンのような誘導体であってアルキルまたはアルカン基が2個以上の炭素原子を含む直鎖、分岐、または環式アルキル基であるものである。
【0049】
実施の形態では、モノアゾレーキ顔料のようなイオン系有機顔料の表面処理は、1種以上の両親媒性重合体化合物を使用し、積層(Layer−by−Layer)技法を用いて行われる。この技法は、水性媒体中に有機顔料粒子を分散するステップ、イオン系両親媒性重合体化合物を含む第一溶液で処理して、連続した薄層を粒子表面に堆積させるステップを含む。その後、水で懸濁された有機顔料粒子が、第一堆積イオン系共重合体とは反対のイオン電荷を有する相異なる両親媒性重合体化合物を含む第二の溶液で処理される。反対に荷電された、イオン系両親媒性の重合体化合物の溶液を繰り返して堆積させると、顔料粒子表面に薄い重合性プライマ層が形成する。プライマ層が調製されたナノスケール顔料粒子表面は、その後、シリカシェル層に対する化学前駆体としてのアルコキシシラン剤との反応に供される。
【0050】
実施の形態では、モノアゾレーキ顔料のナノスケール微粒子の表面カプセル化は、顔料のスルホン酸塩官能基および/またはカルボン酸塩官能基に対して良好な結合親和力を備えたイオン系またはイオン化可能の官能基(正または負のいずれかに荷電)を有する両親媒性重合体化合物を使用して最も良好に達成される。アニオン系および/またはアニオンにイオン化可能の官能基を含む両親媒性重合体の好適な例は、限定するものではないが、以下の化合物を含む。すなわち、(メタ)アクリル酸タイプの重合体と共重合体、例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アルキルアクリレート−co−アクリル酸)、ポリ(スチレン−アルキルアクリレート−アクリル酸)、ポリ(スチレン−ブタジエン−アクリル酸)、ポリ(アルキルメタクリレート−アクリル酸)、ポリ(スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(アルキルアクリレート−アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(スチレン−ブタジエン−メタクリル酸)、ポリ(スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(スチレン−ブチルアクリレート−アクリル酸)、ポリ(スチレン−アルキルアクリレート−メタクリル酸)、ポリ(スチレン−アルキルアクリレート−β−カルボキシエチルアクリレート)、ポリ(4−スチレンスルホン酸)のナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩、ポリ(スチレン−co−4−スチレンスルホン酸)のナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩、ポリ(スチレン−ブタジエン−co−4−スチレンスルホン酸)のナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩、ポリ(アネソールスルホン酸、ナトリウム塩)、ポリ(4−スチレンスルホン酸−co−マレイン酸)のナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩、ポリ(アルキルメタクリレート−co−4−スチレンスルホン酸)のナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩、ポリ(スチレン−アルキルアクリレート−4−スチレンスルホン酸)のナトリウム、カリウム、リチウムまたはアンモニウム塩、および同様のものである。
【0051】
カチオン系および/またはカチオン系にイオン化可能の官能基を含む両親媒性重合体の好適な例は、限定するものではないが、以下の化合物を含む。すなわち、1)ビニルピリジンの重合体と共重合体、例えば、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−4−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−2−ビニルピリジン)、および同様のもの、2)ビニルピロリドンの重合体、例えば、ポリ(1−ビニルピロリジノン)、ポリ(4−ビニルピロリジノン)、および(i)α−オレフィン、例えば、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−トリアコンテンおよび同様のもので作製されたビニルピロリジノンの共重合体、(ii)置換スチレン、例えば、4−メチルスチレン、4−クロロスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アミノスチレン、4−カルボキシアルキルスチレン、および同様のもので作製されたビニルピロリジノンの共重合体、(iii)置換(メタ)アクリルレート、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、モノエチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、t−ブチルアミノエチルアクリレート、ピペリジノエチルアクリレート、ピペリジノエチルメタクリレート、モルホリノエチルアクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジプロピルアミノエチルアクリレート、2−ピロリジノエチルメタクリレート、3−(ジメチルアミノエチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−(ジメチルアミノエチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−アミノエチルメタクリレート、および同様のもので作製されたビニルピロリジノンの共重合体、(iv)ビニルまたはアリルエーテル、例えば、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、アミノエチルビニルエーテル、および同様のもので作製されたビニルピロリジノンの共重合体、3)ビニルイミダゾールの重合体と共重合体、および1−ビニルメチルイミダゾール、1−イミダゾリル−パラ−メチルスチレン、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、2−エチル−1−ビニルイミダゾール、2−プロピル−1−ビニルイミダゾール、2−ブチル−1−ビニルイミダゾール、2,4−ジメチル−1−ビニルイミダゾール、2,5−ジメチル−1−ビニルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−ビニルイミダゾール、2−エチル−5−メチル−1−ビニルイミダゾール、2,4,5−トリメチル−1−ビニルイミダゾール、4,5−ジエチル−2−メチル−1−ビニルイミダゾール、4−メチル−1−ビニルイミダゾール、4−エチル−1−ビニルイミダゾール、4,5−ジメチル−1−ビニルイミダゾール、5−メチル−1−ビニルイミダゾール、および2,4,5―トリエチル−1−ビニルイミダゾールから調製されたものの重合体および共重合体、4)ジアリルジアルキルハロゲン化アンモニウムの重合体および共重合体、例えば、ポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム)、ポリ(ジアリルジエチル塩化アンモニウム)、および同様なもの、5)ジアリキルアミノエチル(メタ)アクリレートの重合体および共重合体、例えば、ポリ(N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリジノン−co−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、および同様なもの、6)アンモニウム塩端末のポリエステル、例えば、酸端末基が端末のテトラメチルアンモニウムポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)、アミド端末のポリエステルのアンモニウム塩、例えば、2−アミノエチル−アミド端末のポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)のテトラメチルアンモニウム塩、およびそのようなアミド端末のポリエステルの他のテトラアルキルアンモニウム塩、例えば、選択されたSOLSPERSE(登録商標)分散剤重合体(Lubrizol Corporationから入手可能)に見出されるもの、7)アンモニウム塩端末のポリアミド、例えば、テトラメチルアンモニウム塩端末基を有するポリ(アルキレンジアミン−co−アルカン二酸、および酸端末のポリアミド、例えば、ポリ(アルキレンジアミン−co−アルカン二酸)およびポリ(アルキレンオキシジアミン−co−アルカン二酸)のテトラアルキルアンモニウム塩、および同様のもの、8)複素環式単量体基を含む重合体、例えば、末端のグラフト複素環式官能基を有するポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンオキシドで、少なくとも1個の窒素および/または1個の酸素および/または1個の硫黄原子を含有する複素環部分を含むものであって、そのような複素環式官能基の例としては、限定するものではないが、ピリジニル、ピロリル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ピペラゾリル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、イミダゾリノニル、ベンズイミダゾリノニル、オキサゾリニル、オキサゾリル、オキサゾリジノニル、ベンズオキサゾリニル、トリアジニル、インドリル、インデニル、ベンズインデニル、インデノニル、ベンズインデノニル、カルバゾリル、チアゾリル、チアゾリニル、ピリジノニル、ピリミジニル、ピリミジノニル、ピコリニル、アクリドニル、ベンズアクリドニル、キナクリドニル、ウレイド置換とアルキルカルバモイル−置換の複素環部分、例えば、ウレイドピリミジノン、ウレイドピリジノン、ウレイドトリアジン、および同様のものが挙げられるもの、9)スクシニミドまたはフタルイミド官能基を含むオリゴマと重合体、例えば、ポリイソブチレンスクシニミドまたはアルキレンスクシニミドであって、アルキレン基が4〜約20個の炭素原子を含み、スクシニミド窒素原子が、1〜約20個の炭素原子を含むアルキル基、アルキルアリール基、またはアリール基で置換されているものである。
【0052】
プライマ剤は、前記の再沈殿法に開示のように、再沈殿溶液に直接添加し得るし、あるいは別法として、有機顔料ナノ粒子が合成され、分離された後、有機顔料ナノ粒子の表面に導入し得る。後者の好ましいケースでは、プライマ剤は、好ましくは、重合体材料であるが、高速機械撹拌機またはホモジナイザまたは他の手段を使用するなどの激しい撹拌下に湿潤ナノスケール有機顔料の懸濁物に添加される。顔料ナノ粒子は、どのような好適または所望の液体でも湿潤し得る。このような液体としては、例えば、極性液体、例えば、水やアルコールや他の水と混和し得る液体、例えば、グリコールや同様のもの、あるいは非プロトン性の無極性液体、例えば、簡単なケトンやエステル、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシプロピルアセテート、N−メチルピロリジノン、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、および同様のもの、さらにエーテル、例えば、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールまたはジプロピレングリコールのモノアルキルエーテル、例えば、DOWANOL(登録商標)および同様のもの、およびそれらの混合物、さらに炭化水素液体、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、イソパー(Isopar)および同様のもの、およびそれらの混合液が挙げられる。
【0053】
重合体プライマ剤は、その後のシリカシェルカプセル化に好適な、どのような所望の量でも、ナノスケール顔料粒子の表面処理のプロセスに添加し得る。具体的な添加量は、約1wt%〜約100wt%、または約2wt%〜約75wt%、または好ましくは、約5wt%〜約50wt%である。もっとも、これらの範囲の外でも可能である。重合体プライマ剤でナノスケール有機顔料粒子の表面処理を行うのに使用される温度は、好ましくは、室温である。もっとも、この温度は、10℃〜約80℃、または約20℃〜約50℃の範囲、またはこの範囲の外のどのような温度でも可能である。
【0054】
好適なプライマ剤の例として追加されるのは、選択された有機小分子並びに重合体を含むものであるが、再沈殿によって顔料ナノ粒子を調製する合成プロセスの際にも、または顔料ナノ粒子の回収の後にも添加されるもので、限定するものではないが、具体的には以下が挙げられる。すなわち、タウリン塩化水素、4−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、および同様のものである。ポリ(1−ビニルピロリドン)、ポリ(1−ビニルピロリドン)−graft−(1−ヘキサデセン)、ポリ(1−ビニルピロリドン)−graft−(1−トリアコンテン)、ポリ(1−ビニルピロリドン−co−アクリル酸)、ポリ(1−ビニルピロリドン−co−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリ(スチレン−alt−無水マレイン酸)、ポリ(ビニルアルコール−co−ビニルアセテート−co−ビニルブチラール)三元重合体、Mowital(登録商標)B30HH(ヘキスト社から入手可能)として商業的に既知、スクシニミド基剤の市販重合体、例えば、ポリイソブチレンスクシニミド分散剤のOLOA(登録商標)群(Chevron Oronite社から入手可能)、スクシニミド基剤の分散剤、例えば、Ircosperse(登録商標)2153(オハイオ州クリーブランドのLubrizol社から入手可能)、ポリ(スチレン−co−4−ビニルピリジン)、ポリエステル基剤の分散剤、アミド端末のポリエステル、ポリアミドおよびエステル端末のポリアミド、例えば、Solsperse(登録商標)17000を含むSolsperse Hyperdispersants(登録商標)(Lubrizol社から入手可能)、および同様のものである。
【0055】
実施の形態では、両親媒性重合体プライマ剤は、顔料親和性の、イオン系、またはイオン化可能の基を含む単量体ユニットの1モル%〜約75モル%、または顔料親和性の、イオン系、またはイオン化可能の基を含む単量体ユニットの約1モル%〜約50モル%、または好ましくは、最大約30モル%有し得る。もっとも、実際の含有量は、この範囲の外のどの値でもよい。
【0056】
両親媒性重合体プライマ剤を構成し得る顔料非親和性の単量体ユニットの例としては、例えば、アクリレート基剤の単量体とスチレン基剤の単量体がある。そのような顔料非親和性の単量体ユニットの具体例としては、限定するものではないが、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、クロロスチレン、ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、ノルボルネン、イタコン酸、1−アルケン類(α−オレフィン)、例えば、1−エイコセン、1−オクタデセン、1−ヘキサデセン、1−ドデセン、1−デセン、1−オクテン、および同様のもの、アルキルアクリレート、アリールアクリレート、アルキルメタクリレート、アリールメタクリレート、1,3−ブタジエン、イソプレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、置換無水コハク酸、例えば、ポリイソブチレン無水コハク酸、および同様のものが挙げられる。所望ならば、2種以上の単量体の混合物も使用できる。
【0057】
実施の形態では、ナノスケールのモノアゾレーキ顔料粒子の表面処理は、最初に脱イオン水で粒子を洗浄して、顔料合成に使用された過剰の不要な塩または立体的に嵩高い安定剤添加剤を取り除くステップと、遠心分離または膜濾布を使用する細密濾過のいずれかで湿潤顔料を回収するステップとを含む。顔料粒子は、次に、再沈殿工程にかけられ、重合体プライマ剤、好ましくはイオン基を有する両親媒性であるもの、例えば、ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)またはポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム)または両者を一緒に含有する極性液または水溶液中に、撹拌下に導入される。極性液体または水溶液中の両親媒性イオン系重合体の濃度は、約0.1wt%〜約80wt%、または0.5wt%〜約50wt%、または好ましくは約1wt%〜約25wt%の範囲とし得る。もっとも、実際の濃度はこの範囲の外のどの値ともし得る。ある種のケースでは、唯一の液媒体としての水へのイオン系重合体の溶解または分散の温度は、室温より高いのが好ましく、例えば、約20℃〜約80℃、または〜約50℃、または〜約35℃とし得る。以降のシリカシェル層の堆積を容易にするための表面プライマ剤として使用されるイオン系重合体の全量は、重合体プライマの化学組成、イオン系またはイオン化可能の官能基の強度、および分子量に依存する。そのような重合体の好ましい分子量は、約1,000g/モル〜約500,000g/モル、または約3,000g/モル〜約300,000g/モルまたは約5,000g/モル〜約100,000g/モルの範囲とし得る。もっとも、所望のイオン系重合体に対する実際の分子量の値は、この範囲の外にもし得る。
【0058】
実施の形態では、有機ナノ顔料粒子に被膜されるシリカシェル層は、好適には、薄いもので、ナノメートルサイズの厚さを有し、光学的に透明で、顔料のカラー特性を実質的に変えたり、隠蔽したりはしないものである。通常、シェルの厚さは、約50nm未満、例えば、約5〜約50nmとし得る。もっとも、カプセル化効果が得られる限り、これより薄い、またはこれより厚いシェルも使用し得る。
【0059】
有機ナノ顔料粒子の表面にシリカシェルを被膜し得る様々なプロセスが存在しているが、そのような方法はどれも、本開示に基づく使用に好適である。これらの方法の大部分または全部は、水またはアルコール溶媒のいずれかの存在下でのシリカ前駆体薬剤、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)またはテトラメトキシシラン(TMOS)の加水分解、およびその後の塩基または酸の条件下にてのケイ酸中間体の縮合重合に基づくゾル−ゲル反応を含む。塩基性または酸性の触媒も、しばしば使用され、アルコール溶媒中のシリカ前駆体薬剤の加水分解の速度を顕著に増加させる。さらに、アンモニア水のような塩基性触媒は、球形粒子を製造したいとき、粒子形態を制御するために特に使用が望まれる。どのような従来のゾル−ゲル法も使用し得るが、望ましい方法は、前記のような有機ナノスケール顔料粒子製造法の多くで起こるpH変化の観点で、pHで調整される加水分解と縮合の方法である。実施の形態では、シリカ−カプセル化ナノスケール有機顔料粒子の形成は、一般に、2段プロセスであり、シェルは、有機ナノ粒子顔料形成の後に形成される。このプロセスは、pH制御が必ずしも容易ではないプロセスをも含んで、より広い範囲のプロセスから形成されるナノ粒子顔料に適用し得るという利点がある。
【0060】
一般的な2段プロセスでは、シリカのシェル形成またはカプセル化は、有機顔料ナノ粒子の形成の後で行われる。2段プロセスの第一ステップでは、有機顔料ナノ粒子は、所望の粒径と粒子形状で合成、または調製され、さらに粒子表面に非共有結合で会合された一種以上の立体的に嵩高い安定剤を有する。有機顔料ナノ粒子は、濾過または遠心分離のような標準方法で分離され、次に所望に応じて、洗浄され、その後、任意選択であるが、好ましくは重合体であり、実施の形態に記載のような顔料親和性の官能基を含む好適な両親媒性プライマ剤の溶液で表面処理される。
【0061】
プライマ剤で任意選択の表面処理を行った後、有機顔料ナノ粒子は、濾過または遠心分離によって分離し、所望に応じて洗浄し得る。次に、湿潤顔料ナノ粒子は、アルコール溶媒、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノールおよび同様のもの中で再懸濁し、第二段プロセスに備える。第二段プロセスでは、シリカカプセル化が、ストーバ(Stober)型のソル−ゲル重合プロセスでナノ粒子に適用される。アルコール懸濁物中における湿潤顔料固体の濃度は、カプセル化の目標を達成する限りどのような好適な量でもよく、約0.1〜約10wt%、そして好ましくは約0.1〜1.0wt%である。もっとも、これらの範囲外の量も使用し得る。水の量も、アルコキシシラン先駆体の加水分解を促進するのに重要である。実施の形態では、プロセスで用いられる湿潤顔料ナノ粒子は、顔料合成から、および/またはプライマ剤の水溶液での粒子の表面処理から得られる濾過ケーキとして得られるので、既に存在している水は、通常、カプセル化プロセスに十分なレベルにある。カプセル化段階に存在する[H
2O:アルコール]液の容積%比は、約0.1v/v%〜約25v/v%、好ましくは約1v/v%〜約10v/v%の範囲とし得る。もっとも、この量はこれらの範囲の外でもよい。
【0062】
2段プロセスの第二ステップでは、液体アルコール、例えば、エタノールの懸濁物中に懸濁される湿潤顔料ナノ粒子が、一般に、アルコキシシラン薬剤である好適なシリカ前駆体薬剤で処理され、ゾル−ゲル縮合および重合プロセスが起こる。親水性で、官能基が含まれないシリカ、SiO
2のシェル層を調製するのが所望ならば、好ましい先駆体薬剤は、テトラアルコキシシランであり、この場合アルコキシ基が、顔料の懸濁物を調製するのに使用されたアルコール溶媒に対応あるいはマッチングする。例えば、エタノール溶媒は、シリカ前駆体薬剤がテトラエトキシシラン(通常、テトラエチルオルソシリケートと称される)のときに、使用され、同様に、メタノール溶媒は、テトラメトキシシラン(つまり、テトラメチルオルソシリケート)との反応に使用される。シリカ前駆体薬剤のアルコキシル基に溶媒をマッチングさせる理由は、化学反応機構によるのであり、アルコキシシランの加水分解と縮合によって生成するケイ酸(酸性のpHで)、ケイ酸ナトリウム(アルカリ性のpHで)および/または部分的に加水分解されたアルコキシ−ヒドロキシシランが高速で得られるのを可能にするためである。このことは、前述の参考文献で詳細に議論されている。シリカ前駆体薬剤の計量は、通常、シリンジポンプまたは他の計量装置を使用して行われるが、計量して添加した後、懸濁液は、ある時間、常温で撹拌しておく。その後に次のステップとして酸触媒または塩基触媒のいずれかを添加すると、アルコキシシラン先駆体薬剤の加水分解と縮合の反応が促進される。実施の形態では、次にpHが、塩基触媒の添加によって7以上のpHレベルに調整され、重合シリカ粒子とシリカクラスタに至るシリカ種の多重縮合が促進される。これらのシリカ粒子またはクラスタこそ、シリカシェル層の「ゲル」ネットワークを構成するものであり、重合反応の進行の間に次第に濃密になる。この塩基触媒で促進された重縮合反応は、2時間〜24時間で起こり得るが、その終了後に、シリカでカプセル化された顔料ナノ粒子が、濾過や遠心分離などの標準方法を使用して回収され、洗浄され、乾燥され、さらなる特性化に供される。
【0063】
好適なシリカ前駆体材料を使用すると、ゾル−ゲル重合プロセスを用いて所望のシリカシェル層が提供される。例えば、本プロセスに使用するのに好適なアルコキシシリルまたはヒドロキシシリル基を含む既知の化合物としては、以下が挙げられる。すなわち、アルキルトリアルコキシシラン、例えば、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリフルオロプロピル−トリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリエトキシシリルイソブチル−POSS(POSS=ポリヘドラル・オリゴマ・シルセスキオキサン)、オクタ(トリクロロシリルエチル)−POSS、および同様なものである。テトラアルコキシシラン、例えば、テトラメトキシシラン(「TMOS」、テトラメチルオルソシリケートと通常称される)、テトラエトキシシラン(「TEOS」、テトラエチルオルソシリケートと通常称される)、およびTEOSのオリゴマ縮合物、例えば、エチルシリケート40、テトライソプロピルシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラブトキシシラン、および同様のものである。他のシロキサン化合物としては、限定はされないが、以下のものを含む。すなわち、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,9−ビス(トリエトキシシリル)ノナン、ジエトキシジクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、および同様のものである。他の好適な先駆体ゾル−ゲル材料としては、限定はされないが、チタニウム(IV)イソプロポキシド、チタニウム(IV)メトキシド、ジイソプロポキシビスエチルアセトアセタートチタネート、トリエタノールアミンチタネート、トリエタノールアミンジルコネート、アルミニウム−sec−ブトキシド、および同様のものが挙げられる。
【0064】
アルコキシシラン先駆体薬剤の量は、所望のコア−シェル粒子組成に対して変え得るもので、変えると、シェル層の特性、例えば、厚さや粒子形態に様々な効果を与える。実施の形態では、アルコキシシラン先駆体薬剤の濃度は、約1mM〜約50mM、好ましくは約5mM〜約30mMの範囲にし得る。もっとも、濃度は、この範囲の外にもし得る。さらに、[アルコキシシラン:顔料]のモル比は、シェル層の所望の厚さ、およびコーティングされるコア顔料ナノ粒子の表面積に依存して、大幅に変え得る。一般に、ナノスケールの厚さのシリカシェル層は、望ましくは、50nm未満であるが、[アルコキシシラン:顔料]のモル比約1:1〜約10:1の範囲を使用して得ることが可能である。もっとも、モル比の値は、この範囲の外にもし得る。
【0065】
アルコキシシラン薬剤のゾル−ゲル重合反応プロセスを行うとき、触媒が通常使用され、加水分解と縮合(重合)反応の両方の速度と程度が増加する。触媒の選択は、プロトン酸または塩基のいずれかで、特にアルコールと水に可溶性であるものについて行われる。使用できる好適な酸としては、好ましくは、強酸であって、限定はされないが、無機酸、例えば、塩化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、および同様のものが挙げられるが、同様に、有機酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、シュウ酸、ギ酸、グリコール酸、グリオキシル酸、および同様のもの、または重合体の酸、例えば、ポリ(アクリル酸)とその共重合体、および同様のもの、これらの混合物、および同様のものが挙げられる。酸性の触媒は、相異なる強度と濃度で使用し得るが、加水分解反応の動力学が、酸性の濃度に関して一次なので、酸濃度および/または酸強度は、高ければ高いいほど好ましい。これは、ゾル−ゲル重合プロセスが2以下の低pH値で行われる場合は、特に好ましい。単量体の(シリカ粒子を作製する)縮合の速度が酸濃度に比例するからである。
【0066】
実施の形態では、ゾル−ゲル重合プロセスは、2超のpHレベル、最も好ましくは7超のpHレベルで行われる。後者のレベルでは、アルコキシシラン単量体(または部分的に加水分解されたアルコキシシラン単量体)の縮合の速度は、塩基濃度には比例する。この状態を達成するため、実施の形態で開示されるプロセスは、プロセス全体を通じて塩基触媒のみを使用するか、または酸触媒を組み合わせて使用して、アルコキシシラン単量体の初期の加水分解を促進させ、その後は塩基触媒で促進される重合プロセス続けさせるか、のいずれかで行い得る。塩基触媒の好適な選択としては、一般に、ルイス塩基でなく、プロトン受容体であって、アルコールや水、例えば、アンモニア水に可溶性の1族または2族の水酸化物、並びに有機アミン塩基、例えば、N,N−ジエチルアミノエタノール、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピリジン、4−(N、N−ジメチルアミノ)ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、モルホリン、イミダゾール、および同様の複素環式または非芳香族の塩基がある。塩基触媒の量は、塩基強度と、アルコキシシラン先駆体薬剤に対する相対的モル比によって、大幅に変わり得る。実施の形態では、塩基触媒の濃度は、約0.02〜1.0M、好ましくは、約0.05〜0.75Mの範囲であり得るが、値はこの範囲の外にもなり得る。[塩基:アルコキシシラン]のモル比も、使用されるプロセス条件に依存して大幅に変わり得る。この比は、約1:1〜約20:1、または〜10:1の範囲となり得る。もっとも、実際の比は、これらの範囲の外にもなり得る。
【0067】
所望ならば、シリカシェルの表面には、さらに官能性を付与し、例えば、ある種のインクビヒクルまたはキャリア剤の分散特性を改良し得る。例えば、所望ならば、シリカシェルの表面に、好適なアルキル置換アルコキシシランまたはアルキル置換クロロシラン薬剤を使用して約1〜約20の炭素原子を有するアルキル基を付加して官能化し得る。また、そのような官能化は、本開示に基づいて明らかとなる他の既知の方法で達成し得る。実施の形態では、表面官能化は、疎水基を付加することによって行われ、シリカでカプセル化された有機顔料に疎水性の表面特性が付与される。
【0068】
実施の形態では、シリカでカプセル化された顔料ナノ粒子のスラリは、これ以上は、追加の加熱などで処理されることなく、代わりに膜濾布による真空濾過や遠心分離で分離される。シリカでカプセル化された顔料ナノ粒子は、脱イオン水で入念に洗浄され、過剰な塩や不必要な添加物を取り除き得る。シリカでカプセル化された顔料固体は、次に、高真空の下の凍結乾燥によって乾燥され、高品質かつ非凝集性顔料粒子が得られる。これらの顔料粒子は、TEM画像で見ると、直径約30nm〜約200nmで、主として約50nm〜約150nmの範囲の一次顔料粒子と小さな凝集体が示される。得られたシリカシェル層は、TEM画像では、部分的に拡散した表面テクスチャを有する電子高密度の連続層として、または凸凹のテクスチャを与えて顔料粒子表面に固着された円形のしっかりしたアレイとして識別される。シェル層の厚さは、変化に富み、寸法はナノメートルサイズで、約50nm未満であり、光学的に透明な表面が提供され、顔料のカラー特性は、隠蔽されない。
【0069】
洗浄され、乾燥されたナノサイズの顔料粒子の物理的組成および化学的組成の特性化を行うには、シリカ(特にサンプルに存在可能の)のような残留無機酸化物の測定値としては熱重量分析(TGA)で、シリコン分析に対しては誘導結合プラズマ分光分析(ICP)で、X線回折分光分析で、そして粒子表面を画像化する走査電子顕微鏡(SEM)分析を行うときはSiに対してはEDXA分析で行い得る。
【0070】
顔料粒子表面と、顔料分散物、例えば、インク、トナー、および同様のものの周囲のマトリクスとの間の界面相互作用の制御は、所望の顔料特性を得るのに極めて重要である。コア−シェル型シリカカプセル化ナノスケール顔料粒子を調製するための本発明の利点は、シリカカプセル化により、コアのナノ顔料材料を変えたり、調整したりして相異なるカラー特性、分散、または耐熱特性を得ることが可能であって、着色剤材料の変化のために全体のインクビヒクルを再処方する必要はなくなることである。すなわち、シリカカプセル化は、ある一つの着色剤材料を別の一つの着色剤材料に置き換えるときに生じ得る性能特性変化を不動態化する傾向がある。そういうものなので、インクビヒクル、添加剤、および同様のもののようなインク処方物は、相異なる着色剤の材料が使用されるときでも、再処方する必要がないのである。
【0071】
形成されたシリカカプセル化ナノスケール顔料粒子組成物は、例えば、従来のペン、マーカー、および同様のものに使用されるインク、インクジェットインク液組成物、固体または相変化インク組成物、および同様のものを含む様々な組成物、例えば、液体の非水インクビヒクル中の着色剤として使用し得る。例えば、着色されたナノ粒子は、多岐にわたるインクビヒクルに、具体的には非極性液体インク、相変化インク、溶融温度約60℃〜130℃を有する固形インクを含んで、さらに溶媒基剤の液体インクまたは放射硬化可能の、例えば、UV硬化可能な液体インクやアルキルオキシレート化単量体を含むUV硬化可能なゲルインク、および水性インクに処方し得る。そのような組成物の様々なタイプについて、以下に詳細に説明する。
【0072】
形成されたナノスケール顔料粒子組成物は、例えば、着色剤として相変化インク組成物に使用し得る。相変化インクジェットインク組成物は、通常、キャリア、着色剤、および1種以上の追加的添加剤を含む。そのような添加剤の例としては、例えば、溶媒、ワックス、酸化防止剤、粘着性付与剤、スリップエイド、硬化可能コンポーネント、例えば、硬化可能単量体および/または重合体、ギャラント(gallant)、開始剤、増感剤、保湿剤、殺菌剤、保存料、および同様のものを挙げ得る。コンポーネントの特定のタイプと量は、もちろんインク組成物の特定のタイプ、例えば、液体、硬化可能体、固体、ホットメルト、相変化体、ゲル、または同様のものに依存する。
【0073】
一般に、インク組成物は、1種以上の着色剤を含む。インク組成物には、染料、顔料と染料の混合物、顔料の混合物、染料の混合物、および同様のものを含む、どのような所望の、または有効な着色剤顔料も、使用し得る。実施の形態では、インク組成物に使用される着色剤全部が、形成されたナノスケール顔料成分を含む。しかし、他の実施の形態では、1種以上の従来の、または他の着色剤の材料と組み合わせて、ナノスケール顔料成分を使用し得る。この場合、ナノスケール顔料組成物は、着色剤の材料の実質的に大部分(例えば、約90重量%または約95重量%またはそれ以上)、または着色剤の材料の過半(例えば、少なくとも約50重量%以上)、あるいは着色剤の材料の小部分(例えば、50重量%未満)を形成し得る。圧電式インクジェット印刷の最終用途に適用の場合、ナノスケール顔料粒子は、信頼性あるインクジェット印刷を確実に行わせ、顔料粒子凝集に由来するジェット閉塞を防止するので、有利である。他の実施の形態では、ナノスケールサイズの顔料成分を他の多様の量でインク組成物に含ませ、インク組成物に着色特性および/または他の特性を提供し得る。
【実施例】
【0074】
<実施例1>
[ステップ1:ジアゾ化とカップリング]
機械撹拌機、温度計、および添加漏斗を備えた500mL丸底フラスコの中の0.5M KOH水溶液(135mL)に2−アミノ−5−メチルベンゼンスルホン酸(12.15g)を装入して溶解する。溶液は0℃に冷却される。亜硝酸ナトリウム(NaNO
2、4.52g、水30mLに溶解)の20wt%水溶液を、0℃以下の温度に維持しながら、徐々に前記第一溶液に添加する。濃HCl(19.5mL)を1時間かけて徐々に滴下し、その間、内部温度は0℃以下に維持する。得られた混合物は、薄茶色の懸濁液を形成するが、以降、さらに0.5時間撹拌する。
【0075】
別の2L樹脂ケトルの中で、水(130mL)に溶解したKOH(12.0g)の水溶液に3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(12.2g)を溶解する。追加の水350mLを添加し、次に、撹拌しながら、溶液を15℃に冷却する。次に前のジアゾニウム塩溶液の冷たい懸濁液を、激しく撹拌しながら、徐々にこのカップリング溶液に添加する。カラー変化が直ちに起こり、最初は暗赤色溶液に、最後は沈殿染料を含む黄赤(オレンジ)色スラリになる。得られた混合物を2時間撹拌すると、この間に温度は室温まで上がる。次に、真空濾過し、得られたケーキを脱イオン水約600mL中に再スラリ化する。なお、前記オレンジ色スラリは、本明細書では「リソールルビン−カリウム塩染料(Lithol Rubine−Posassium salt dyestuff)」と称され、約3.75wt%の固体含有量を有する。
【0076】
[ステップ2:ピグメントレッド57:1のナノスケール粒子を製造するレーキ化ステップ]
機械撹拌機と凝縮器を備えた1−L樹脂ケトルに、実施例1のステップ1で調製された約3.75wt%の固体含有量を有する「リソールルビン−カリウム塩染料」水スラリ265gを装入する。スラリのpHは、0.5M KOH溶液の添加により、最初は約9.0以上に調整され、染料は完全溶解する。ヘラクレス社(Hercules Corp.)から入手のDresinateXロジン型界面活性剤水溶液5wt%(20.0mL)を前の混合物に添加し、その後にジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(ウィスコンシン州ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から入手)4.8gを脱イオン水90:THF10混合液220mLに溶解した立体的に嵩高い表面添加剤を含む溶液を添加する。最後に、塩化カルシウム二水和物(0.5M溶液、65mL)の水溶液を、激しく撹拌しながら、スラリに滴状に添加する。赤色沈降物が直ちに形成され、塩化カルシウム液の添加終了後、この赤色スラリはさらに1時間撹拌される。得られた顔料スラリは、次に約30分間60℃に暖められ、その後直ちに冷浴で冷却される。顔料ナノ粒子は、次にVersapor(登録商標)−450膜濾布(カナダ、ミシソーガのPALL Corp.製)を使って高真空下に真空濾過され、次いで脱イオン水200mLで2度すすがれる。最終的に、濾液pHは約7.5以下、導電率は200μS/cm以下で、過剰な塩は取り除かれる。この段階で、湿潤ナノ顔料ケーキが、脱イオン水約200mLの中に再スラリ化される。一部は、実施例2に記載されるシリカカプセル化プロセス用に調製され、残部は、48時間にわたって凍結乾燥され、暗赤色粉末(12.75g)が得られる。乾燥ナノスケール顔料粉末の透過型電子顕微鏡画像が示すのは、小板状の粒子が支配的であり、粒径は50〜150nmの範囲で、アスペクト比は約3:1以下という結果であった。
【0077】
<実施例2>
脱イオン水中に再スラリ化された湿潤ナノスケール顔料PR57:1の一部(実施例1に記載のように調製されたもの)をシリカカプセル化のプロセスに使用する。固体含有量約3.3wt%のナノスケールPR57:1の水スラリ37.7g(顔料固体約1.2g、2.83ミリモル)を、0.45μmGHPポリプロピレン膜濾布(カナダ、ミシソーガのPALL Corp.から入手可能)を通して濾過する。顔料の濾過ケーキは、次にジオクチルスルホコハク酸ナトリウム表面添加剤の残りを除去するため、テトラヒドロフラン15mL中で軽く撹拌し、濾過し、95%エタノールで2度すすぐ。顔料濾過ケーキは、次に機械撹拌機と温度計を備えた3口丸底フラスコに装入され、95%エタノール(300mL)中で機械撹拌下に再分散される。このエタノール顔料スラリに、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)(1.75g、8.4ミリモル、米国ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から入手可能)を(シリンジポンプを使用して)室温で徐々に滴状に添加する。この間は窒素雰囲気下に400rpmで激しく撹拌する。スラリは、さらに3時間室温で撹拌される。この間、ガスが少々発生する。流量約0.2mL/分に設定したシリンジポンプを使用して、50%wt/wtNH
4OH水溶液6.5mLを顔料スラリ(約28ミリモル)中に添加し、次に得られた混合物を24時間アルゴン雰囲気下に撹拌する。スラリの最終pHは、8〜9である。顔料固体は、0.45μmGHPポリプロピレン膜濾布を通して濾過し、回収し、脱イオン水ですすぐ。湿潤顔料ケーキは、さらに3回脱イオン水(一回80mL)中に再分散し、濾過すると、明るい赤色の顔料ケーキが得られ、濾液pHは約7.0となる。最後に、顔料ケーキを水中に再スラリ化し、最終的に凍結乾燥すると、赤色粉末として0.8gの最終収量物が得られる。乾燥粒子のTEM顕微鏡画像が示すのは、100〜200nm範囲の粒径を有する小板状と棒状の顔料粒子で、殆どの粒子は、シリカと一致する電子密度の高い無数の表層堆積物を有し、これらの表面堆積物の平均厚さは5〜15nmという結果であった。乾燥粒子の熱重量分析(TGA)が、アルゴン雰囲気の下で10℃/分の温度サイクルを使って600℃まで加熱し、その後空気(周囲の)の下で900℃まで加熱をスイッチして行われ、残留物の40wt%が無機酸化物(SiO
2シリカが残留酸化物の中では支配的)であることが示された。ICP(誘導結合プラズマ)分光分析によるシリカカプセル化粒子の元素分析では、サンプルがSiを15.2wt%含むことが示された。
【0078】
<実施例3>
脱イオン水中に再スラリ化された湿潤ナノスケール顔料PR57:1の一部(実施例1に記載のように調製されたもの)をシリカカプセル化のプロセスに使用する。ナノスケールPR57:1の水スラリ36.0g(顔料固体約1.2g、2.83ミリモル)を、プライマ剤としてのポリビニルピロリドン(MW=55,000g/モル、米国ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から入手可能)10wt%水溶液の12mLで処理してシリカ前駆体薬剤の固定化を促進する。顔料スラリは、室温で3時間撹拌し、次に0.45μmのGHPポリプロピレン膜濾布(カナダ、ミシソーガのPALL Corp.から入手可能)を通して濾過し、脱イオン水ですすぐ。処理された顔料ケーキは、次に脱イオン水50mLの中に再分散し、室温で軽く撹拌する。顔料スラリに、ポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム)(PDADMAC、MW範囲100,000〜200,000g/モル、米国ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から20wt%溶液として入手可能)5wt%水溶液2.5mLを添加し、1時間、室温で撹拌する。顔料粒子は、0.45μmGHPポリプロピレン膜濾布(カナダ、ミシソーガのPALL Corp.から入手可能)を通して濾過し、95%エタノール200mL中に再分散する。
【0079】
エタノール顔料スラリが、温度計と機械的撹拌器とを備えた3口丸底フラスコに装入される。これに、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)(1.75g、8.4ミリモル、米国ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から入手可能)を(シリンジポンプを使用して)徐々に滴状に添加する。この間、窒素雰囲気下に400rpmで激しく撹拌する。スラリは、さらに2時間室温で撹拌する。この間、ガスが少々発生する。1M HCl水溶液約3mLを顔料スラリに滴下し、TEOSの加水分解を行い、混合物を1時間室温で撹拌する。この間、さらにガスが発生する。流量約0.2mL/分に設定したシリンジポンプを使用して、50%wt/wtNH
4OH水溶液6.5mLを顔料スラリ(約28ミリモル)の中に添加する。所望ならば、顔料スラリのpHは、50%wt/wtNH
4OH水溶液を顔料スラリに滴下してpH8〜9に調整する。顔料スラリは室温で16時間混合し、次いで、顔料固体を、0.45μmGHPポリプロピレン膜濾布を通して回収し、脱イオン水ですすぐ。湿潤顔料ケーキは、さらに2回脱イオン水(一回80mL)中に再分散し、濾過し、明るい赤色の顔料ケーキが得られ、濾液pHは約8.0となる。最後に、得られた顔料を水中に再スラリ化し、凍結乾燥すると、赤色粉末として1.1gの最終収量物が得られる。乾燥粒子の熱重量分析(TGA)が、アルゴン雰囲気の下で10℃/分の温度サイクルを使って600℃まで加熱し、その後空気(周囲の)の下で900℃まで加熱をスイッチして行われ、残留物の52wt%が無機酸化物(SiO
2シリカが残留酸化物の中では支配的)であることが示された。
【0080】
<実施例4>
機械撹拌機、凝縮器および温度プローブを備えた2L槽に濃硫酸(96〜98%)750gを装入する。撹拌機を始動した後、前記の酸に表面剤のKE−100Pine Crystal(荒川化学工業から)1.5g(3wt%)を加え、その後にピグメントレッド122(大日精化から入手)50gを30分かけて添加する。この混合物を、不活性ガス条件の下に30分で50℃まで加熱し、次に3時間50℃に保持し、顔料を完全に溶解する。P4撹拌翼を使用する機械撹拌機、凝縮器および温度プローブを備えた別の6L反応容器に、脱イオン水1,200gを装入し、次いで撹拌しながら5℃に冷却する。3時間の顔料溶解時間が前の2L反応槽で終了すると、顔料と表面剤の酸性溶液をこの冷却された脱イオン水に90分間にわたって極めて徐々に添加する。温度は5〜10℃に保持し、激しい撹拌下におく。すると、顔料がナノ粒子として再沈殿する。クエンチした混合物は、次いで、26〜30%アンモニア水溶液1,000gを90分間にわたって滴状に添加して中和する。中和操作の間、5〜15℃で反応温度に保持する。顔料は、0.5μmセラミック濾過エレメント装着のクロスフロー濾過ユニットを使用して濾過し、濃縮する。濃縮された顔料スラリに対して、クロスフロー(Cross flow)濾過ユニットを使用して、新鮮な脱オン水で洗浄/濃縮操作を繰り返して行い、最終的に濾液pHが約8になるようにする。濃縮された顔料スラリは、次に機械撹拌機と温度プローブを備えた2L槽に移され、スラリ(顔料、固体約7〜10wt%)中で脱イオン水約300mLに希釈しながら、温和に撹拌する。この段階で、顔料スラリは、以下のステップ2に記載のように調製して重合体カプセル化に使用したり、または別に50℃で真空オーブン乾燥にかけたりする。後者であれば、乾燥された顔料は、コーヒー挽き機で細かく砕かれ、約39gのマゼンタ顔料が得られる。HR−TEM顕微鏡画像が示すのは、約30〜70nmの長さ、約20〜30nmの幅、および約15〜30nmの高さを有する短い長方形のプリズム様粒子である。これらの顔料ナノ粒子で測定した典型的[長さ:幅]のアスペクト比は、約5未満で、多くは約3未満である。ナノスケール顔料の結晶格子d−間隔は、PR122のβ−キナクリドン多形結晶がこの方法で製造されることを示す。
【0081】
<実施例5>
実施例4に記載のように調製された湿潤顔料ケーキの一部をシリカ表面堆積に使用する。固形分含量4.3wt%を有する実施例4で調製された水すすぎ済みナノスケールPR122粒子の水溶液約14g(つまり、ナノスケール顔料固体約0.6g、1.76ミルモル)を、ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(MW=70,000g/モル、米国ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から入手可能)5wt%水溶液0.5mLで処理し、得られたスラリは、室温で3時間撹拌する。次いで顔料を、Versapor−800膜濾布(カナダ、ミシソーガのPALL Corp.から入手可能)を通して濾過し、脱イオン水ですすぐ。湿潤顔料ケーキは、撹拌しながら、脱イオン水30mL中に再分散し、ポリ(ビニルピロリジノン−co−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PVP−PDMEMA)(MW=1×10
6g/モル、米国ミルウォーキーのSigma−Aldrich社から入手可能)2wt%水溶液1.5mLで処理する。処理は、室温で1時間にわたって徐々に滴状に添加し、激しい撹拌下に行う。次にスラリは、Versapor−800膜濾布(カナダ、ミシソーガのPALL Corp.から入手可能)を通して濾過し、顔料濾過ケーキは95%エタノール200mLに再分散する。顔料が分散されたエタノールスラリに、アルゴン雰囲気の下で激しく撹拌しながら、シリンジポンプ(流量約0.2mL/分)を使用してテトラエチルオルソシリケート(TEOS)(1.1g、5.28ミリモル)を徐々に添加する。TEOSの添加に続いて、混合物は、3時間500rpmで室温で撹拌される。その間ガスが少し生成する。このスラリに、50%wt/wtNH
4OH水溶液4mL(約15.8ミリモル)をシリンジポンプで徐々に添加する。スラリは、室温で24時間よく撹拌し、最終スラリpHは約9とする。顔料粒子は、Versapor−800膜濾布を通す濾過で回収し、脱イオン水ですすぐ。湿潤顔料ケーキは、さらに二回脱イオン水(一回50mL)の中に再分散し、濾過すると、青味を帯びた赤い顔料ケーキが得られ、最終濾液pHは約8.0になる。顔料は、最終的に再スラリ化し、凍結乾燥すると、青味を帯びた赤色の粉末として0.8gの最終収量物が得られる。乾燥粒子の熱重量分析(TGA)が、アルゴン雰囲気の下で10℃/分の温度サイクルを使って600℃まで加熱し、その後空気(周囲の)の下で900℃まで加熱をスイッチして行われ、残留物の29.5wt%が無機酸化物(SiO
2シリカが残留酸化物の中では支配的)であることが示された。