【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、少なくとも2つのチャンバと、少なくとも1つの気体透過性且つ液体不透過性膜とを含み、前記チャンバが、膜(1又は複数)により互いに隔てられ、前記膜(1又は複数)の少なくとも片側が構造化され、前記構造化又は構造により前記膜上にチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかが形成されることを特徴とし、前記チャネル及び分岐構造の少なくともいずれかの壁が、500μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは150μm以下の間隔を有し、前記間隔を有するチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかを含む膜の表面積の比率が、前記膜の全表面積の少なくとも50%を占める、主クレームに係る気体輸送装置により、本発明によって達成される。
【0014】
本発明に係る気体輸送装置は、気体交換チャネル及び分岐構造の少なくともいずれかを備える特に有利な構造化膜を特徴とする。これに関して、「分岐構造」とは、接触面、及び膜の接触面側上に、液相又は気相のために形成される経路に関するものと理解すべきである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、気体輸送装置の少なくとも2つのチャンバのうちの少なくとも1つ、好ましくはチャンバそれぞれが、貫流チャンバとして構築されるべきである。従って、膜の構造化又は構造における「分岐構造」は、膜のそれぞれの側面上を又はチャンバを通じて液相又は気相を流すための分岐経路又は曲がりくねった経路である。分岐構造は、例えば、流れの方向に障害物として存在し、それぞれのチャンバを通じた流れをそらせる、及び/又は分裂若しくは細分させる膜構造中の点から構成され得る。この目的のために、構造の壁が膜の平面から突出する若しくは突き出る、及び/又はそれぞれの隣接するチャンバに突出する若しくは伸長するように、膜の少なくとも片側が構造化される。例えば、チャンバ内の液相又は気相が、これら壁の周りを流れ得る。膜の少なくとも片側に設けられる構造の壁は、例えば、立方形、菱形、円柱形、又は柱形等の、幾何学形状を有し得る突出部を形成し、膜の構造化された側面に分岐構造を形成する。これら壁は、同様に、膜の構造化された側面上のチャンバ内に液相又は気相を導くチャネル(例えば、分岐チャネル)を形成し得る。
【0016】
本発明に係る膜の構造化又は構造により、先行技術に提供されているように膜の寸法を大きくする必要なしに、(特に、拡散性の改善による)膜を通じた物質交換を改善することができる。一方、これは、構造化により膜の表面積が大きくなり、それが気体輸送に対して正の影響を与えるという事実によるものである。他方、構造化により膜上に形成されるチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかの壁の間隔を小さくして、膜を通じた拡散を加速させる。チャネル及び分岐構造の少なくともいずれかの間隔が小さいことにより、流れ耐性が著しく低下する。これは、例えば、生物学的液体等の液体にとって特に重要である。血液を用いる場合、「Fahraeus−Lindqvist効果」により、壁上に血漿膜が形成され、本発明に従って構造化されたチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかを通して細胞が前記壁上を摺動する。
【0017】
本発明によれば、チャンバを互いに隔てる、本発明に係る気体輸送装置の少なくとも1つの気体透過性且つ液体不透過性膜は、概して、少なくとも片側が構造化される。チャンバ(1又は複数)内で液体を用いる場合、膜の液体に面する側面が構造化されることが好ましい。気体輸送に対する構造化膜の利点(例えば、流れ抵抗の低減)は、液体の場合特に明らかである。
【0018】
本発明によれば、チャンバの少なくとも1つ、好ましくはチャンバそれぞれが、膜により又は膜構造により、少なくとも部分的に形成される。言い換えると、本発明の好ましい実施形態では、各チャンバは、少なくとも部分的に膜により境界が形成される、又は膜に取り囲まれる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも2つのチャンバは、生物学的液体を受容する又は通過させるための第1のチャンバと、気体を受容する又は通過させるための第2のチャンバとを含む。したがって、前記構造により形成されるチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかは、気体と生物学的液体との間で気体分子を輸送させるために機能する。
【0020】
本発明に係る気体輸送装置の更に好ましい実施形態では、前記装置が、気体透過性且つ液体不透過性膜により第2のチャンバから隔てられる複数の第1のチャンバを含むように、第1のチャンバを、複数のチャンバに細分する。同様に、前記装置が、気体透過性且つ液体不透過性膜により第1のチャンバから隔てられる複数の第2のチャンバを含むように、第2のチャンバも、複数のチャンバに細分することが好ましい。前記複数の第1のチャンバは、1列以上の列において互いに隣接して配置され得るか、複数の層において上下に配置され得るかの少なくともいずれかである。同様の方法で、前記複数の第2のチャンバは、1列以上の列において互いに隣接して配置され得るか、複数の層において上下に配置され得るかの少なくともいずれかである。更に、第1のチャンバ(1又は複数)の縦方向の配向は、例えば、第2のチャンバ(1又は複数)の縦方向の配向に対して横方向に、好ましくは直角にあり得る。したがって、各第1のチャンバは、第2のチャンバ(1又は複数)の流れの一般的な方向の逆方向に、又は前記一般的な方向に対して横方向に、入口から出口へと通過するよう構築されることが好ましい。同様に、各第2のチャンバも、第1のチャンバ(1又は複数)の流れの一般的な方向の逆方向に、又は前記一般的な方向に対して横方向に、入口から出口へと通過するよう構築されることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、膜は、有機材料又は無機材料からなってもよく、前記材料を含んでもよい。無機膜材料としては、ガラス、セラミクス(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、又は酸化ジルコニウム)、金属、シリコーン、又は炭素が挙げられる。有機膜材料としては、特に、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、他のハロゲン化炭化水素、及びセルロース等の高分子材料、並びに環状オレフィンコポリマー(COC)が挙げられる。有機膜材料は、純ポリマー、ポリマー複合材料(即ち、異なるポリマー又はコポリマーの混合物)、又は多層ポリマー(即ち、ポリマー積層体)のいずれかを含んでもよい。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、膜材料は、上述の材料から選択される有機材料である。更により好ましくは、膜材料は、上述のポリマー、ポリマー複合材料、又は多層ポリマーである。
【0023】
本発明の更に好ましい実施形態では、ポリマーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、若しくはポリペンテン等のポリオレフィン、又はこれらのメチル変異体である。膜材料は、ポリメチルペンテンからなる、又はポリメチルペンテンを含むことが最も好ましい。しかし、PDMSを用いてもよい。
【0024】
これに関連して特に好適な膜材料は、商品名TPX(登録商標)として流通している三井化学株式会社製のメチルペンテンポリマーである。多くの有利な特徴(例えば、優れた生体適合性)に加えて、TPX(登録商標)は、酸素透過性が特に高いことを特徴とする(例えば、24atm、25℃、相対湿度(RH)90%、及び膜厚25μmで1時間当たり47,000mL/m
2、即ち、25℃、相対湿度(RH)90%、及び膜厚25μmで、24時間(24h)当たり、圧力差1バールあたりの酸素透過性が47,000mL/m
2(即ち、47,000mL/m
2・24h・バール)である)。TPX(登録商標)は、更に、40℃及び相対湿度(RH)90%で、24時間以内に、1m
2当たり水110gという低い水分透過性、並びに低い窒素透過性を示す。したがって、TPX(登録商標)は、本発明に係る気体輸送装置用、特に酸素輸送に関する用途、例えば、血液の酸素化用の膜材料として特に好適である。
【0025】
選択される膜材料によって、構造化膜を作製するため、又は既存の膜を構造化するための様々な選択肢が存在する。有機膜及び無機膜を両方作製するための標準的な方法は、焼結であり、加圧法、押出成形、流延成形、沈降法、及びゾル−ゲル法等の複数の方法により、焼結材料を次々に製造することが可能である。例えば、延伸(押出成形の方向に対して直角にポリマーを伸長させる)、核飛跡法(放射線を照射した後エッチングを行う)、転相法(沈殿反応)、及び発泡(CO
2膨張による孔形成)等の、有機膜を作製する更なるプロセスが多数存在する。工業的には、一般に、有機膜の作製よりも無機膜の作製に注力されている。用いられる膜は、上述の方法のうちのいずれか1つ、又は先行技術から知られている他の方法を用いて作製又は構造化され得る。
【0026】
膜は、リソグラフィー法、特にLIGA技術を用いるリソグラフィー法により構造化されることが好ましい。LIGA(リソグラフィー、電気メッキ、及び複製成形の方法工程を示すドイツ語の略称)は、ディープリソグラフィー、電気メッキ、及びマイクロ複製成形の組み合わせに基づく方法である。LIGA法は、ウラン濃縮のための分離ノズル法の開発過程で1980年代前半に開発され、非常に小さな分離ノズルの製造を可能にした(E.W.Becker等,Naturwissenschaften69,520−523(1982))。前記方法を用いると、プラスチック、金属、又はセラミクス等の様々な材料から微細なサイズのマイクロ構造を作製することができる(E.W.Becker等,Microelectronic Engineering,4,35−56(1986))。特に、LIGA技術は、マイクロシステム工学の分野でも用いられる。
【0027】
リソグラフィー法で用いられる放射線によって、X線LIGAと紫外線LIGAとは区別される。LIGA法は、概して、連続して実施される以下の工程からなる:先ず、X線又は紫外線に対する感度の高い最高1mmの厚さのプラスチック材料(例えば、PMMA)の層を、導電性外層を備える基板上に置く。次いで、レジストに露光することにより、ディープリソグラフィーによる構造化を進行させる。次いで、好適な現像液を用いて、露光領域を溶解させ、電気メッキ工程で作製される金属構造のネガを残す。次の電気メッキ法では、現像中にレジストが除去された領域の基材上に金属を沈着させる。次いで、レジストを溶解させて、沈着した金属構造を残す。この金属構造は、特に有機膜(例えば、プラスチック膜)を作製し得るホットスタンピング及び射出成形等の複製成形技術のための複製成形用具として機能する。ホットスタンピング及び射出成形に加えて、複製成形には、ロールツーロール法又は真空熱成形を使用することもできる。成形型構築に用いられる技術の更なる例は、マイクロ精密ミリング及び超精密ミリングである。
【0028】
本発明によれば、気体輸送装置で用いられる膜は、少なくとも片側が構造化され、前記構造化は、マイクロ射出成形又はホットスタンピング法を用いて得られ得ることが好ましい。更なる実施形態では、膜は、両側が構造化され、同様に、射出成形又はホットスタンピング法を用いて得られ得ることが好ましい。
【0029】
LIGA法は、現在まで構造化膜材料の作製には用いられていなかった技術であるが、安価に且つ多数の製品を製造することができる。したがって、本発明は、同様に、LIGA法による構造化膜の作製方法、及び前記方法により得られる膜に関する。
【0030】
膜は、マイクロメートルの単位で構造化される。本発明によれば、構造化により前記膜上にチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかが形成され、前記チャネル及び分岐構造の少なくともいずれかの壁の間隔は、500μm以下であり、350μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下が更により好ましく、80μm以下が更により好ましい。これら壁の寸法又は高さ、特に膜の平面からの寸法又は高さは、概して、間隔と同じ桁であり、10μm〜350μmが好ましく、10μm〜200μmがより好ましく、10μm〜100μmが更により好ましい。本発明によれば、チャネル及び分岐構造の少なくともいずれかを有する膜の表面積の比率は、膜の全表面積の50%以上、好ましくは60%以上、更により好ましくは70%以上を占める。
【0031】
膜上の構造の形状は、随意変更し得る。したがって、例えば、生体肺の毛細管構造を模倣するチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかを、膜上の構造として用いてもよい。
【0032】
また、このようなチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかは、様々な幾何学形状を有するように膜を構造化することにより得ることもできる。有用な幾何学形状の例は、菱形、四角形、多角形、及び円形である。チャネルは、例えば、直線状であってもよいが、同様に、波状形状を想定した非直線状、又はミキサ構造であってもよい。
【0033】
上記のように、膜は、構造化により突出した隆起領域を備える。これら領域の高さは、約1μm〜約100μmが好ましく、約5μm〜約50μmが好ましく、約10μm〜約30μmが更により好ましく、約10μm〜約20μmが最も好ましい。
【0034】
膜上に形成されるチャネル及び分岐構造の少なくともいずれかは、全てが貫通通路から構成されて、一定量の媒体を流すことができる場合もあるが、行き止まりの分岐のみで構成されて、前記分岐に媒体が浸透し(気体輸送後、任意的に)同じ経路を再度戻る場合もある。前記膜は、チャネルを主に備えることが好ましく、チャネル及び分岐構造を主に備えることがより好ましい。
【0035】
本発明によれば、膜上のチャネルは、媒体が、チャンバへの流入方向に対して平行に、反平行に、又は別の方式(例えば、波状等)で、チャネルを通して摺動し得るように、媒体用の貫通通路を構成する。対照的に、本発明に係る分岐構造は、媒体が入ることはできるが、袋小路のように流入点以外の点を通って再度分岐から出ることはできない分岐である。分岐構造は、チャンバへの流入方向に対して平行又は垂直に配置され得る。また、分岐構造は、平行配置と垂直配置との間の如何なる所望の角度、即ち、0°〜90°の角度で配置されることも想定され得る。分岐構造は、流入方向に対して、好ましくは約10°〜約80°、より好ましくは約20°〜約70°、更により好ましくは約30°〜約60°、最も好ましくは約40°〜約50°の角度で配置される。チャンバへの流入方向に対する分岐構造のこのような配置では、分岐構造への入口は、主流に面する側面に位置する。この場合、分岐構造への流入は、主流に対して平行に、垂直に、又は上記角度のいずれか1つの角度をなして進む。分岐構造への流入が、主流に対して実質的に反平行に(即ち、反平行、又は反平行と垂直流入との間の任意の所望の角度で)進むように、垂直配置と平行配置との間の配置を生じさせる、流入方向に対する分岐構造の配置も、同様に考えられる。
【0036】
チャネル及び分岐構造の少なくともいずれかに利用可能な表面積は、膜の全表面積の50%超を占めることが特に有利であると証明されている。この比率は、膜の全表面積と、全表面積の値に対する構造が占める表面積(m
2)との差の値(m
2)を関連付けることにより、数学的に容易に算出することができる。
【0037】
本発明に係る気体輸送装置で用いられる膜は、優れた気体透過性を示す如何なる所望の材料からなってもよい。気体透過性の値は、特定の所望の気体(具体的には、例えば、酸素又は二酸化炭素等)に関する所望の目的によって、24atm、25℃、相対湿度(RH)90%、及び膜厚約30μmで、1時間当たり、例えば、100mL/m
2超、好ましくは1,000mL/m
2超、より好ましくは5,000mL/m
2超、更により好ましくは10,000mL/m
2超、最も好ましくは20,000mL/m
2超の値(即ち、雰囲気圧で24時間以内に20,000mL/m
2超)であるとき良好であると見なされる。更に、前記膜は、概して実質的に液体不透過性である、即ち、24時間、40℃、RH90%において、1,000g/m
2未満、好ましくは500g/m
2未満、より好ましくは100g/m
2未満、更により好ましくは10g/m
2(即ち、gH
2O/m
2)未満の透湿性を有する。
【0038】
一方、(気体)透過性膜は、多孔質膜、即ち、不連続な孔を含む膜であり得る。他方、前記膜は、ポリマーに対する透過物(即ち、気体)の溶解により物質移動が進行すると同時に、ポリマーに対する溶解度が異なることに基づいて分離も進行する、不連続な孔を有しない均質な溶解性膜であってもよい。前記膜は、非多孔質の浸透性膜であることが好ましい。気体交換は、対流性及び拡散性の物質交換によって進行し得る。気体交換は、拡散性であることが好ましく、膜の2つの側面における気体濃度の差により測定される。
【0039】
本発明の1つの特定の実施形態では、膜は、酸素及び二酸化炭素の少なくともいずれかに対して実質的に選択的透過性である。本発明に係る気体輸送装置の用いる場所によって、前記膜は、特定の気体に対して特に高い透過性を示すが、他の気体に対して限定的な透過性しか有しないことも可能である。例えば、気体輸送装置を血液中の気体交換のために用いる場合、酸素及び二酸化炭素の少なくともいずれかに対して高い透過性を有することが重要である(上記透過性値を参照)。
【0040】
別の特定の実施形態では、前記膜は、窒素不透過性であるか、又は僅かな窒素しか透過しない。例えば、気体交換で用いる場合、膜が僅かな窒素しか透過しないことが有利である。この場合、血液に気体を供給するために(純酸素の代わりに)空気を用いてもよい。
【0041】
本発明に係る気体輸送装置の他の用途では、前記膜は、他の気体に対して高い透過性を示す。例えば、反応器(例えば、生物反応器等)として又は反応器用に用いる場合、前記膜は、N
2、O
2、CO
2、H
2、NH
3、H
2S、CH
3、他の炭化水素、又は他の気体(例えば、希ガス等)から選択される1以上の気体に対して優れた透過性を示し得る。例えば、気体精製、気体分離、又は反応等、化学分野において本発明に係る気体輸送装置を使用する場合、特定の気体に対する膜の透過性は、単離される気体の性質、精製される気体の性質、反応に供給される気体の性質、又は反応から除去される気体の性質に依存する。
【0042】
本発明に係る気体輸送装置の所望の用途において、特定の気体(1又は複数)に対して好適な特定の透過性を有する膜材料を選択することは、当業者の裁量の範囲内である。多くの膜材料の透過性の値は、先行技術から知られている。
【0043】
本発明によれば、膜厚は、約1μm〜200μmであり、約5μm〜約200μmが好ましく、約10μm〜約100μmがより好ましく、約20μm〜約50μmがより好ましい。本明細書では、膜厚とは、構造化により得られた突出領域を含まない膜厚である。
【0044】
膜厚が薄いので、好適な支持材により膜を強化する必要がある場合もある。膜は、多孔質発泡体、セラミクス、ポリマーからなる群から選択される支持材により強化されることが好ましく、任意的にTPXの支持層によっても支持される。
【0045】
本発明の更なる実施形態によれば、前記膜は、積層膜の形態をとり得る。積層膜の使用は、概して、単層膜の使用に比べて少なくとも2つの利点を有する。1点は、気体交換に利用できる表面積が増えるにつれて、効率が上がることである。もう1点は、積層膜の強度が、単層膜よりも高いことである。対照的に、コンパクト設計の本発明に係る気体輸送装置が必要とされる用途では、例えば、小型化するために、積層膜の代わりに単層膜を選択することがより好ましい。
【0046】
前記膜は、自動的に又は用手的に積み重ねることができる。本明細書では、前記膜は、平行に積み重ねてもよく、互いに対して特定の角度ずらして交互に配置してもよい。特に好ましい積層膜は、互いに対して90°ずらして交互に配置される積層膜である。個々の膜は、膜の縁部及び隆起部の少なくともいずれかで互いに接合される。接着結合(例えば、UV接着剤等)、超音波溶接、熱溶接、結合、又は共有分子結合の形成(例えば、アミド結合を形成するためのNH
3−COOH等)等の方法を用いることができる。
【0047】
前記積層膜は、その構造化又は組成に関して同一である膜又は異なる膜のいずれかを含んでもよい。好ましい実施形態では、前記積層膜は、ナノ多孔質膜と交互に配置される構造化、透過性、非多孔質膜からなる。前記積層膜は、好ましくは約10枚、好ましくは約50枚、より好ましくは約100枚、更により好ましくは約100枚超、例えば、更には1,000枚超の膜からなる。
【0048】
本発明に係る気体輸送装置の耐用寿命に関わる重要な構成部品は、膜である。不所望の全身反応(炎症性免疫反応)を示した血液と接触する異種表面を用いる器官補助システムは、既に、広範囲に亘る臨床用途で用いることができる。長期間に亘って従来の血液接触表面を用いると、血漿タンパク質及び細胞の付着により、断面積が減少し、且つ血栓症が生じる。更に、長期間に亘る使用により、「新生内膜」として知られている増殖性内膜が形成される。この現象は、例えば、人工心肺等において肺の機能を補助するために用いられる酸素化装置で特に見られるが、人工心臓システム、心臓支援システム、又は血液透析器でも見られる。したがって、膜の耐用寿命は、様々な方法で改善することができ、また改善しなければならない。
【0049】
本発明の1つの実施形態では、膜は、プラズマ活性化により後処理され得る。
【0050】
本発明の更なる実施形態では、特に医療分野で本発明に係る気体輸送装置を使用する場合、膜に、細胞、好ましくは上皮細胞が定着し得る。(例えば、肺支援システム等として)医療分野で長期間に亘って使用できる本発明に係る気体輸送装置では、膜に細胞が定着することにより耐用寿命が延びる。その理由は、前記定着により、用いられる媒体から膜への物質の非特異的結合が阻止、又は強く阻害されるので、時間がたっても膜の気体透過性が全く又は殆ど損なわれないためである。
【0051】
本発明の更に別の実施形態では、前記膜は、例えば、(多)糖、好ましくは、ヘパリン、核酸、好ましくはDNA、RNA、若しくはPNA、タンパク質、好ましくはアルブミン、脂質、プロテオグリカン、又は有機ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール等から選択される生体物質でコーティングされるか、これら物質の組み合わせでコーティングされる。
【0052】
膜に細胞を定着させるために、又は膜を他の物質でコーティングするために、事前に膜の表面を改質することが有利であるか、又は必要である場合がある。膜を改質する方法は、先行技術から知られており、具体的な用途に基づいて当業者が選択することができる。例えば、接着性を改善するために、膜を物理的又は化学的に処理することにより、例えば、膜の疎水性/親水性/電荷密度を改質することが必要である場合がある。
【0053】
本発明は、上記のような構造化膜を含む気体輸送装置、また気体輸送装置における構造化膜の使用に関する。
【0054】
本発明によれば、「気体輸送装置」という用語は、気体供給装置、脱気装置、及び気体交換装置を含む。気体供給装置又は脱気装置では、逆方向の移動が全く生じることなく、あるチャンバから他のチャンバへ1以上の気体が通過する。対照的に、気体交換装置では、同じ気体、別の気体、又は複数の気体が、追加的に第1のチャンバに移動する。したがって、気体が互いに交換される。一方向に移動する気体の量は、本明細書では、反対方向に移動する気体の量と同一である必要はない。概して、輸送は、特定の濃度勾配に従って生じる。
【0055】
本発明に係る気体輸送装置の少なくとも2つのチャンバは、いずれの場合も、媒体、即ち、気体、液体、固体、又はこれらの混合物を受容する機能を有する。本発明に係る気体輸送装置の適用分野によって、前記チャンバは、特定の媒体を受容する機能を有する。気体を精製するための用途では、分離される気体は、チャンバの1つにおいて気体混合物又は液体として存在し、同様に、分離される気体が通過する別のチャンバも、気体又は液体を収容する。しかし、後者のチャンバは、気体輸送を促進するために、空であるか、より弱い又は強い減圧下にあってもよい。
【0056】
バイオテクノロジーにおいて用いる場合、チャンバの少なくとも1つが、液体、例えば、培養培地を受容する機能を有し、別のチャンバが、液体を通過する予定の気体を受容する機能を有することが好ましい。医療分野で酸素化装置として用いる場合、本発明に係る気体輸送装置は、少なくとも2つのチャンバを含み、前記チャンバのうちの1つが、液体を受容する機能を有し、更なるチャンバが、液体を通過する予定の気体を受容する機能を有することが好ましい。血液における気体供給又は気体交換に本発明に係る気体輸送装置を用いる場合、少なくとも1つのチャンバが液体、例えば、血液を受容し、少なくとも1つの更なるチャンバが、酸素又は酸素含有気体混合物を受容する。この場合、酸素は、あるチャンバから膜を通過して、血液で満たされたチャンバに入り、二酸化炭素は、任意的に、前記血液で満たされたチャンバから酸素を収容するチャンバに移動する。少なくとも1つの酸素収容チャンバへの二酸化炭素の輸送は、本明細書では、二酸化炭素が透過しないように膜を選択することにより、生じない場合もある。
【0057】
本発明に係る気体輸送装置の用途によって、チャンバは、如何なる所望の好適な材料から製造することもできる。例えば、チャンバは、プラスチック、金属、ガラス、セラミクス、又は他の材料、例えば、複合材料からなり得る。反応器用途では、鋼製チャンバを用いてもよい。好ましいチャンバ材料は、プラスチックである。しかし、本発明に係る気体輸送装置の特定の用途に好適なチャンバ材料を選択することは、当業者の裁量の範囲内である。本明細書では、異なるチャンバを同じ材料から製造してもよく、異なる材料から製造してもよい。化学的用途では、材料の安定性が特に重要であり、一方、バイオテクノロジー及び医療分野において使用する場合は、特に、チャンバ内で用いられる媒体との適合性に注意を払わなくてはならず、具体的には、医療用途における規格(滅菌等)に注意しなければならない。
【0058】
同様に、本発明に係る気体輸送装置の用途によって、チャンバの大きさは、好適な方法で選択することができる。本明細書では、チャンバは、同じ大きさであっても、異なる大きさであってもよく、また同一形状であっても、異なる形状であってもよい。例えば、1以上のチャンバは、(好ましくは、膜の構造化により)膜と(反対側の)チャンバ壁とが直接接触するほど小さくてもよい。他方、1又は複数のチャンバは、最大数メートルの寸法を有してもよい。例えば、(例えば、化学又はバイオテクノロジー分野において)反応器として使用する場合、チャンバの1つがそれ自体、例えば、最高約10mの幅を有し得る反応器の形態をとってもよい。チャンバの寸法が小さい前者の場合、チャンバの少なくとも1つは、好ましくは約1μm〜約1cm、より好ましくは約5μm〜約500μm、更により好ましくは約10μm〜約200μm、最も好ましくは約20μm〜約100μmの直径を有する。後者の場合、例えば、反応器として用いる場合、チャンバの少なくとも1つは、好ましくは約1cm〜約10m、より好ましくは約5cm〜約5m、更により好ましくは約10cm〜約2m、最も好ましくは約20cm〜約1mの直径を有する。少なくとも2つのチャンバが、上記直径を有することが特に好ましい。しかし、特定の用途に好適な本発明に係る気体輸送装置のチャンバの大きさを特定することは、当業者の裁量の範囲内である。これは、チャンバの長さ及び高さの寸法決めにも同様に適用される。
【0059】
いずれの場合も、本発明に係る気体輸送装置のチャンバは、媒体を受容するための少なくとも1つの開口部を含む。いずれの場合も、貫流チャンバの形態をとる場合、チャンバは、少なくとも1つの入口と少なくとも1つの出口を含むことが好ましい。チャンバの少なくとも1つが貫流チャンバの形態をとることが好ましく、全てのチャンバが貫流チャンバとして構築されることがより好ましい。更なるチャンバ又は設備との接続部を、入口及び出口の少なくとも1つに設けてもよい。媒体のチャンバへの導入、及び媒体の除去の少なくともいずれかの機能を有する管との接続部を、入口及び出口の少なくともいずれかに設けてもよい。少なくとも2つのチャンバが貫流チャンバの形態をとる場合、前記チャンバは、並流的に又は向流的に作動し得る。例えば、チャンバに媒体を通すためにポンプを用いることができる。媒体は、周囲圧、減圧、又は高圧下でチャンバを通過し得る。例えば、媒体は、100mbar〜10mbarの減圧下で、又は50mbar〜300mbarの高圧下で、チャンバを通過し得る。
【0060】
本発明の1つの実施形態では、本発明に係る気体輸送装置は、2超、好ましくは10超、より好ましくは20超、更により好ましくは50超、最も好ましくは100超のチャンバを含み、前記チャンバは、いずれの場合も、膜によって互いに隔てられる。
【0061】
本発明に係る気体輸送装置は、チャンバが、気体を吸収する媒体と、気体を放出する媒体か又は気体である媒体とを交互に収容するように構築されることが好ましい。
【0062】
更に、本発明に係る気体輸送装置は、本発明の他の実施形態では、チャンバが、好ましくは上下に(即ち、互いに平行に)配置される2以上の上記装置からなる。或いは、チャンバは、同心円上に、直列的に、又は互いの周囲に配置され得る。
【0063】
この場合においても、気体を吸収する媒体を収容するチャンバは、気体を放出する媒体を収容するチャンバと交互に配置されることが好ましい。
【0064】
2超のチャンバを含む装置は、2つのチャンバしか含まない装置よりも確実に高効率である。本発明に係る気体輸送装置の小型化を犠牲にすれば、効率が改善される。
【0065】
本発明によれば、気体輸送装置は、任意の所望の媒体(気体、液体、固体、これらの混合物等)における気体供給又は気体交換のために用いられる。
【0066】
化学分野では、本発明に係る気体輸送装置は、概して、例えば、気体/気体反応、気体/液体反応、又は気体/固体反応等の、気体が何らかの役割を果たす反応のために用いることができる。更に、本発明に係る気体輸送装置は、同様に、気体精製及び気体分離にも用いることができる。
【0067】
前記気体輸送装置は、バイオテクノロジー及び医療分野において用いられることが好ましい。バイオテクノロジーにおいては、具体的には、例えば、対象遺伝子を発現させるために、様々な細胞を培養するための生物反応器として、又は前記生物反応器内で用いられる。
【0068】
医療分野においては、本発明に係る気体輸送装置は、長期間に亘る治療のために、外科手術、例えば、患者が人工心肺につながれている移植手術中に、又は救急治療のために、特に肺不全又は他の肺疾患の患者において、血液に気体を供給するために用いられることが好ましい。
【0069】
特に好ましい用途では、本発明に係る気体輸送装置は、血液に気体を供給するために、又は血液中で気体を交換するために用いることができる。このように、前記気体輸送装置は、人工肺の機能を想定している。このような人工肺は、概して、外部装置の形態をとるが、患者に埋め込むこともできる。本発明に係る気体輸送装置が外部装置の形態をとるか、埋め込み型装置の形態をとるかによって、寸法が異なる。したがって、体内で使用可能な本発明に係る気体輸送装置は、例えば、患者の静脈に埋め込むのに特に適するように小型で作製される。
【0070】
本発明に係る気体輸送装置の用途によって、前記気体輸送装置の複数のチャンバは、異なる媒体を受容するよう機能してもよい。例えば、複数のチャンバに複数の気体を充填してもよい。同様に、チャンバの1つ又は全てのチャンバが1つの液体を受容するよう機能してもよい。
【0071】
医療又はバイオテクノロジー分野で用いられる場合、前記液体は、生物学的液体であることが好ましい。前記生物学的液体は、生体の体液である液体だけではなく、少なくとも1つの生物にとって生物学的に非毒性であるか、又は前記生物の成長に必要である液体をも意味すると解釈すべきである。本発明の1つの実施形態では、前記生物学的液体は、血液、血清、細胞懸濁液、細胞溶液、及び培養培地からなる群から選択される。本発明に係る気体輸送装置のチャンバの少なくとも1つが液体を受容する機能を有する場合、このチャンバを更なるチャンバから隔てる膜の液体側が上記のように構造化されることが好ましい。
【0072】
既に記載した通り、本発明に係る気体輸送装置の複数のチャンバは、異なる寸法であってもよい。したがって、前記チャンバは、非常に小さな寸法であり、且つ例えば、反応器(化学反応器又は生物反応器)内で用いるための貫流チャンバとして用いることもできる。前記チャンバは、本明細書では、好適な接続を介して、体内で又は体外で、反応器と接続することができる。例えば、ある割合の媒体を、好適な接続具(例えば、管)を介して反応器から引き出し、気体輸送装置のチャンバのうちの1つに導入することができる。反応器から液体に気体を放出する、又は気体を吸収する別の媒体を、(例えば、貫流チャンバの形態の)他のチャンバに充填してもよい。
【0073】
他方、チャンバの少なくとも1つは、それ自体反応器として機能するほど大きくてもよい。次いで、媒体は更なるチャンバを通過し、特定の気体を反応器の媒体に受容する又は放出するよう機能する。
【0074】
血液に気体を供給するための体外気体輸送装置の一例である実施形態は、ノヴァラング社製IL−1000−01ノヴァラング(Novalung)(登録商標)−iLA膜型人工呼吸器に基づいて製造することができる。この人工呼吸器は、アルブミン−ヘパリンコーティングを有する体外気体交換装置の分類に属する。このような人工呼吸器は、患者からバイパスされた血液に酸素を供給し、且つ前記血液から二酸化炭素を除去する機能を有する。前記システムは、気体輸送装置に相当する「人工肺」と、延長管を用いて前記装置へ/前記装置から血液を運ぶ機能を有する入口/出口ラインとからなる。このシステムは、非指向性であり、構造が対称的であるので、両側からの流入を受容することができる。前記システムの2つの入口/出口ライン及び延長管は、以下の部品で構成される:
−ねじれを防ぐための入口/出口曲がり管、
−雌迅速継手を備える3/8インチ×3/32インチのPVC管、
−雄/雌迅速継手を備える延長管。
【0075】
装置へ/装置から血液を運ぶ機能を有する入口/出口曲がり管は、管のねじれを防ぐために膜型肺の入口/出口領域に設置される。入口/出口ライン及び延長管への移行部は、流動領域におけるデッドゾーン、鋭い縁部等による血栓症のリスクを最低限に抑えるために、段ができないように構築される。
【0076】
ノヴァラング(登録商標)−iLA膜型人工呼吸器において先行技術に従って用いられる膜は、中空繊維膜であり、前記膜を通して酸素が血液中に放出され、(二酸化)炭素が血液から除去される。本発明によれば、前記中空繊維膜を、本発明において定義される構造化膜に置換してもよい。
【0077】
ノヴァラング(登録商標)製iLA膜型人工呼吸器システムは、以下の原理に従って機能する:血液は、大腿動脈から出て、ノヴァラング(登録商標)製の動脈カニューレであるノヴァポート(登録商標)を介して、供給用延長管及び入口ラインに入る。血液は、入口曲がり管を通過して、膜型肺の筐体に入る。下流のアンテチャンバでは、血液が分配され、上部で任意の流入空気が引き出される。脱気膜は、両側の膜型システムの頂点に設置される。これらは、気体物質は通過させるが、液体は保持する疎水性膜である。前記脱気膜は、前記方法中に空気の充填、脱気、及び永続的排出を促進する機能を有する。下流の主チャンバでは、上記のように気体交換が進行する。
【0078】
二酸化炭素が除去された血液及び酸素化された血液は、出口曲がり管、膜型システム、延長管を備える出口ライン、及びノヴァラング(登録商標)製カニューレノヴァポート(登録商標)を介して、患者の大腿静脈に供給される。
【0079】
更なる技術の詳細について、以下の表に記載する。
【表1】
【0080】
本発明に係る気体輸送装置は、更なる構成部品を更に含んでもよい。前記構成部品としては、例えば、任意の所望の材料から構築され得る筐体が挙げられる。
【0081】
更に、気体輸送装置が適切に機能するために必要であるか、又は適切に機能するように有効である更なる構成部品を本発明に係る気体輸送装置に接続してもよい。例えば、チャンバ内に存在する又はチャンバを通過する媒体の温度を制御するために、熱交換器を気体輸送装置に接続してもよい。更に、チャンバ内に存在する若しくはチャンバを通過する媒体の特定のパラメータをモニタする又は予め規定する装置を、同様に、本発明に係る気体輸送装置に接続してもよい。例えば、(媒体として気体を用いる場合)気圧をモニタする装置を気体輸送装置に接続してもよい。
【0082】
本発明は、同様に、人工肺又は生物反応器における、上記のような構造化膜の使用に関する。