(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車には、窓の開閉制御を行うためのパワーウインドウスイッチが備わっている。一般に、パワーウインドウスイッチは、手で操作する揺動自在な操作ノブと、この操作ノブの操作に応じた信号を出力する接点部が設けられた回路基板と、この回路基板を収納したケースと、このケースの下側の開口部に嵌合して当該開口部を覆う蓋体とを備えている。
【0003】
このようなパワーウインドウスイッチにあっては、開放した窓から入り込む雨水やこぼした飲料など(以下、これらを総称して「水」という。)が、ケース内へ浸入することがある。そして、ケース内へ浸入した水は、回路基板に付着して、電気回路の短絡や接点部の腐食などを惹き起こし、スイッチの誤動作の原因となる。このような水の浸入を防止するための構造が、後掲の特許文献1〜3に記載されている。
【0004】
特許文献1では、上ケースの側面に設けた孔に、下ケース(蓋体)の側面に設けた突起を嵌合させる構造を備えたパワーウインドウスイッチにおいて、上ケースの側面の孔を包囲するリブを設け、このリブにより、上ケースの上面から側面を伝って流下する水を下方へ誘導し排出するようにしている。しかし、この構造では、上ケースの上面から流下する水の量が多い場合、水がリブを乗り越えて孔の近傍まで流れて来るので、毛細管現象により孔から水が浸入してしまう恐れがある。
【0005】
この対策として、特許文献2では、下ケース(蓋体)の側面の突起周辺に、上ケースの側面から離間する窪みを設けて、下ケースの突起周辺と上ケースの孔との間に所定の間隔を確保している。これにより、上ケースの孔の近傍まで水が流れて来ても、前記の間隔が存在するために、毛細管現象による水の容器内への浸入が阻止される。
【0006】
特許文献3には、ケースの側部に備わるコネクタの上方をカバーするひさし部と、ひさし部の前縁に立設された上部水止め壁と、コネクタの両側方をカバーする側部水止め壁とを設けたパワーウインドウスイッチが示されている。このスイッチでは、ケースの上方からの水をひさし部で受けて、上部水止め壁により側部水止め壁へ導き、側部水止め壁に沿って流下させることで、コネクタ側への水の流れ込みを防止している。
【0007】
このように、上方から流下する水がケースの側面より内部へ浸入するのを防止する技術は、従来から種々提案されている。しかしながら、ケース内へ浸入する水には、ケースの側面から浸入する水だけでなく、ケースの裏側から浸入する水もある。ケースの裏側は蓋体で閉塞されているが、ケースと蓋体との間には微細な隙間があるため、この隙間を介して、毛細管現象により水が内部へ浸入する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ケースの裏側から内部へ水が浸入するのを防止できるスイッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、操作部と、この操作部の操作に応じて切り替えられる接点部が設けられた回路基板と、上側に操作部が設けられ、下側に開口部を有し、内部に回路基板が収納されたケースと、このケースの開口部に嵌合して当該開口部を閉塞する蓋体とを備えたスイッチ装置において、ケースの側壁の下端部に、薄肉のヒンジ部と、当該ヒンジ部と連続するフランジ部とを、側壁に沿ってケースと一体に形成し、フランジ部を
蓋体の中心に向かってヒンジ部で折り曲げて、ケースと蓋体との隙間を、
当該隙間よりも蓋体の中心側へ延びるフランジ部で覆う。
【0011】
このような構成によると、ケースと蓋体との隙間がフランジ部で覆われるので、ケースの裏側へ回り込んだ水が、上記隙間から毛細管現象によりケース内部へ浸入するのを、フランジ部によって阻止することができる。また、フランジ部は、ヒンジ部とともにケースと一体に形成されていて、折り曲げるだけでよいので、ケースと蓋体との隙間を別部材で封止する場合に比べて、組立作業が簡単で、部品点数も少なくて済む利点がある。
【0012】
本発明では、フランジ部は、ケースの4つの側壁の下端部にそれぞれ形成されており、各フランジ部を折り曲げた状態で、各フランジ部の端部が、隣接する側壁のフランジ部の端部と重なるようにしてもよい。これによると、フランジ部の端部が重なることで、当該端部において水が浸入しにくくなるので、防水効果を高めることができる。
【0013】
この場合、各フランジ部の端部同士が重なる部分に、薄肉部を形成することが好ましい。これによると、端部の重なり部分が厚くならないので、スイッチ装置の高さが増加するのを抑制することができる。
【0014】
本発明では、フランジ部を折り曲げた状態で、ヒンジ部が、ケースの側壁よりも側方へ突出するようにしてもよい。これによると、側壁から突出したヒンジ部が庇の役割を果たすため、ケースの側壁を伝って流下する水がケースの裏面へ回り込むのを防止することができる。
【0015】
この場合、側壁より突出するヒンジ部の上面が、傾斜面となっていることが好ましい。これによると、ケースの側壁を伝って流下する水が、ヒンジ部の傾斜面に沿って容易に側方へ排出されるので、ケース裏面への水の回り込みを一層効果的に防止することができる。
【0016】
本発明では、蓋体に、弾性を有するフックを設け、折り曲げたフランジ部を、このフックに引っ掛けて固定してもよい。これによると、フランジ部を折り曲げてフックに引っ掛けるだけで、簡単にフランジ部を固定できるので、組立作業の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ケースの裏側から内部へ水が浸入するのを防止できるスイッチ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には同一符号を付してある。また、矢印で示した「U」は上方向、「D」は下方向、「F」は前方向、「B」は後方向をそれぞれ表している。
【0020】
図面に示されているスイッチ装置100は、車両用のパワーウインドウスイッチであって、例えば、運転席のドアの内側に設けられているアームレスト(図示省略)に取り付けられる。
図1に示すように、スイッチ装置100は、ケース1と、このケース1の上側に設けられた複数の操作ノブ21〜26とを備えている。操作ノブ21〜26は、本発明における「操作部」の一例である。
【0021】
ケース1は、箱形に形成されていて、4つの側壁1a〜1d(
図4参照)を有している。ケース1の下側は開口しており、この開口部15には、
図2や
図7に示すように蓋体9が嵌合される。蓋体9によって、ケース1の開口部15が閉塞される。
【0022】
操作ノブ21〜24は、ケース1の上面に設けられた筒部10に、軸20を中心として揺動可能に支持されている。これらの操作ノブは、運転席、助手席、左後部座席、右後部座席の各窓を開閉する場合に操作される。
【0023】
操作ノブ25は、プッシュ型のノブであって、ケース1の上面に設けられた筒部11に、上下動可能に支持されている。この操作ノブ25は、助手席および後部座席の窓の開閉を禁止または禁止解除する場合に操作される。
【0024】
操作ノブ26は、シーソー型のノブであって、ケース1の上面に設けられた筒部12に、図示しない軸を中心として揺動可能に支持されている。この操作ノブ26は、各席のドアを施錠または解錠する場合に操作される。
【0025】
操作ノブ21〜26の構造や動作については、従来のものと変わるところがなく、本発明とも直接関係がないため、詳細な説明は省略する。
【0026】
図1に示すように、ケース1の上面には、溝部13が筒部10の近傍に位置して2箇所設けられている。これらの溝部13は、ケース1に上方から降りかかる水を排水するための排水溝である。このため、溝部13の一端は側方へ開放されている。
【0027】
ケース1の内部には、
図2に示すように、回路基板6が収納されている。回路基板6の上面には、操作ノブ21〜26の操作に応じて切り替えられる接点部7が実装されている。ここでは、接点部7は、容器内に接点が収納されたスライドスイッチ等から構成されているが、回路基板6に直接、接点部を形成してもよい。回路基板6の下面には、コネクタ8が実装されている。コネクタ8の内部には、図示しない接続端子が設けられている。
【0028】
図5に示すように、蓋体9は、板状の基台90と、この基台90と一体に形成されたコネクタカバー91とを備えている。基台90の裏面には、複数のフック92が一体に形成されており、基台90の側面には、複数の突起93が一体に形成されている。また、基台90は、その周縁に沿って切欠部94を有しているとともに、コネクタカバー91の位置に、コネクタ8が貫通する透孔95を有している。切欠部94は、蓋体9をケース1に嵌合したときに、両者の隙間における毛細管現象を緩和するために設けられている。
【0029】
図4や
図5に示すように、ケース1の側壁1dの内側には、複数の係合部14が形成されている。また、図には表れていないが、ケース1の側壁1bの内側にも、係合部14と同様の係合部が複数形成されている。蓋体9をケース1の開口部15に嵌合して、蓋体9の突起93をケース1の係合部14に係合させることにより、
図6に示すように、蓋体9がケース1に固定される。このとき、
図2に示すように、コネクタ8が蓋体9の透孔95を貫通し、コネクタカバー91内に収納される。
【0030】
コネクタ8には、スイッチ装置100から制御装置(図示省略)へ信号を送るためのケーブルを備えたコネクタ(図示省略)が接続される。これにより、操作ノブ21〜26の操作に応じた接点部7の出力信号が、ケーブルを介して制御装置へ送信され、制御装置において窓の開閉制御等が行われる。
【0031】
図3や
図4に示すように、ケース1の側壁1a〜1dの下端部に、薄肉のヒンジ部41〜44と、これらのヒンジ部と連続するフランジ部31〜34とが、側壁1a〜1dに沿ってケース1と一体に形成されている。ヒンジ部41〜44とフランジ部31〜34は、ケース1とともに樹脂で成形されている。
【0032】
図10は、
図3におけるフランジ部32のB方向側の端部の拡大断面図である。ケース1の側壁1bの下端部に、側壁1bと連続してヒンジ部42が形成され、このヒンジ部42と連続してフランジ部32が形成されている。ケース1は樹脂材料からなるので、薄肉のヒンジ部42は弾性を有している。ヒンジ部42の上面には、円弧状の傾斜面42aと切り込み42bが形成されている。他のヒンジ部41、43、44についても、
図3に示すように、円弧状の傾斜面41a、43a、44aと切り込み(図示省略)が同様に形成されている。
【0033】
フランジ部32は、
図3に示すように、ヒンジ部42とともに、側壁1bのF−B方向のほぼ全長にわたって設けられている。フランジ部32のB方向側の端部には薄肉部32aが形成されており、F方向側の端部には薄肉部32bが形成されている。他のフランジ部31、33、34も同様に、ヒンジ部41、43、44とともに側壁1a、1c、1dのほぼ全長にわたって設けられている(
図4参照)。
【0034】
図10において、フランジ部32を、ヒンジ部42の切り込み42bの箇所を中心としてZ方向に
(すなわち蓋体9の中心に向かって)180°折り曲げると、
図11に示す状態となる。この状態では、ヒンジ部42が、ケース1の側壁1bよりも側方へ幅wだけ突出している。また、突出したヒンジ部42の上面は、傾斜面42aとなっている。フランジ部32の薄肉部32aは、隣接する側壁1a(
図3)のフランジ部31の薄肉部31bと重なっている(詳細は後述)。
【0035】
他のフランジ部31、33、34も同様に、
図7に示すように、ヒンジ部41、43、44で
蓋体9の中心に向かって180°折り曲げられる。折り曲げられた各フランジ部31〜34は、蓋体9に設けられたフック92に引っ掛けられて固定される。フック92は、樹脂からなる基台90と一体に形成されており、弾性を有している。
【0036】
図8は、
図7のX部を拡大した図である。フック92は、爪部92aを備えており、この爪部92aには、傾斜面92bが形成されている。ヒンジ部43で折り曲げたフランジ部33を、フック92の上方から傾斜面92bに沿って押し込むことで、
図9に示すように、フランジ部33の端縁が爪部92aに引っ掛かり、フランジ部33が基台90に固定される。
【0037】
図7の状態では、
図5に示した蓋体9の切欠部94がフランジ部31〜34によって覆われるとともに、蓋体9をケース1に嵌合したときに生じる、蓋体9の外周面とケース1の内周面との隙間が、
当該隙間よりも蓋体9の中心側へ延びるフランジ部31〜34によって覆われる。また、フランジ部31の両端部に形成された薄肉部31a、31bが、フランジ部34、32の一方側の端部に形成された薄肉部34a、32aと重なる。さらに、フランジ部33の両端部に形成された薄肉部33a、33bが、フランジ部34、32の他方側の端部に形成された薄肉部34b、32bと重なる。すなわち、各フランジ部を折り曲げた状態で、各フランジ部の端部が、隣接する側壁のフランジ部の端部と重なる。
【0038】
以上のような構成からなるスイッチ装置100は、ケース1の開口部15から回路基板6を挿入し固定した後、蓋体9で開口部15を閉塞し、その後、各フランジ部31〜34を、各ヒンジ部41〜44で折り曲げて、蓋体9のフック92に引っ掛けて固定することにより組み立てられる(
図5〜
図7参照)。
【0039】
上述した実施形態によれば、ケース1と蓋体9との隙間がフランジ部31〜34で覆われるので(
図7参照)、ケース1の裏側へ回り込んだ水が、上記隙間から毛細管現象によりケース1の内部へ浸入するのを、フランジ部31〜34によって阻止することができる。また、フランジ部31〜34は、ヒンジ部41〜44とともにケース1と一体に形成されていて、折り曲げるだけでよいので、ケース1と蓋体9との隙間を別部材で封止する場合に比べて、組立作業が簡単で、部品点数も少なくて済む利点がある。
【0040】
また、上記実施形態によれば、折り曲げた各フランジ部31〜34の端部が、隣接する側壁のフランジ部の端部と重なるので、フランジ部31〜34の端部において水が浸入しにくくなり、防水効果を高めることができる。
【0041】
また、上記実施形態によれば、フランジ部31〜34の端部同士が重なる部分に、薄肉部31a〜34a、31b〜34bを形成したので、端部の重なり部分が厚くならず、スイッチ装置100の高さを抑制することができる。なお、各フランジ部31〜34の厚さは同じであるので、薄肉部31a〜34a、31b〜34bのそれぞれの厚みを、薄肉部以外の部分の厚みの半分とすれば、各フランジ部31〜34の面を同一面とすることができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、各フランジ部31〜34を折り曲げた状態で、ヒンジ部41〜44が、ケース1の側壁1a〜1dよりも側方へ突出するようにしている(
図1、
図11参照)。このため、側壁1a〜1dから突出したヒンジ部41〜44が庇の役割を果たすため、側壁1a〜1dを伝って流下する水がケース1の裏面へ回り込むのを防止することができる。特に、本実施形態では、排水用の溝部13が設けられているので、この溝部13から排出された水が側壁1a〜1dを流下するが、この水はヒンジ部41〜44により、ケース1の裏面への回り込みが阻止される。
【0043】
また、上記実施形態においては、ケース1の側壁1a〜1dより突出するヒンジ部41〜44の上面が、傾斜面41a〜44aとなっている。このため、
図11において、側壁1bを伝って流下する水は、破線矢印で示すように、傾斜面42aに沿って容易に側方へ排出される。他の側壁を流下する水についても同様である。これにより、ケース1の裏面への水の回り込みを一層効果的に防止することができる。
【0044】
さらに、上記実施形態においては、蓋体9に、弾性を有するフック92を複数個設け、このフック92にフランジ部31〜34を引っ掛けて固定している。このため、フランジ部31〜34をヒンジ部41〜44で折り曲げてフック92に引っ掛けるだけで、簡単にフランジ部31〜34を固定することができる。これにより、組立作業の効率化を図ることができる。
【0045】
本発明では、以上述べた実施形態以外にも、種々の実施形態を採用することができる。例えば、上記実施形態では、
図4のように、フランジ部31〜34をケース1の開口部15のほぼ全周にわたって設けたが、遮水の必要な箇所のみにフランジ部を設けてもよい。また、上記実施形態では、ヒンジ部41〜44を側壁1a〜1dのほぼ全長にわたって連続して設けたが、各ヒンジ部は間隔を置いて飛び飛びに設けてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、
図7のように、フランジ部31〜34の端部同士が重なる例を示したが、フランジ部31〜34の端部同士が重ならない構造を採用してもよい。また、
図11のような、フランジ部31、32の薄肉部31b、32aの厚さが均一な構造に限らず、
図12のような、薄肉部31b、32aがテーパー状に形成された構造を採用してもよい(他の薄肉部についても同様)。
【0047】
また、上記実施形態では、
図5のように、ケース1の側壁1b、1dの内側に設けた係合部14に、蓋体9の基台90の側面に設けた突起93を係合させることにより、蓋体9をケース1に固定する例を示した。これに代えて、従来と同様に、ケース1の側壁に設けた孔(図示省略)に、蓋体9の基台90の側面に設けた突起93を係合させることにより、蓋体9をケース1に固定してもよい。この場合、孔からの水の浸入対策としては、例えば特許文献1や特許文献2のような手段を講じることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、
図7のように、折り曲げたフランジ部31〜34を、蓋体9(基台90)に設けたフック92に引っ掛けて固定する例を示した。これに代えて、蓋体9にピン(図示省略)を設けるとともに、フランジ部31〜34に穴(図示省略)を設け、フランジ部31〜34を折り曲げたときに、蓋体9のピンをフランジ部31〜34の穴に圧入することで、フランジ部31〜34を蓋体9に固定してもよい。あるいは、接着や熱溶着により、フランジ部31〜34を蓋体9に固定してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、
図1のように、6個の操作ノブ21〜26を備えたスイッチ装置100を例に挙げたが、操作ノブの数は6個以外でもよい。また、操作ノブの構造も、図示したものに限定されない。例えば、回転式の操作ノブを備えたスイッチ装置にも、本発明を適用することができる。
【0050】
さらに、上記実施形態では、スイッチ装置100として、車両用のパワーウィンドウスイッチを例に挙げたが、本発明は、車両以外の用途に用いられるスイッチ装置にも適用することが可能である。