(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
図1は、この発明の実施の形態による冷却装置の構成を示す模式図である。本実施の形態に係る冷却装置は、内燃機関であるエンジンと、電動機である駆動ユニットとを動力源とするハイブリッド車両に適用され、ハイブリッド車両に搭載される電気機器の冷却に用いられる。
【0019】
図1を参照して、冷却装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10(以下、単に「冷凍サイクル10」とも称する。)を備える。冷凍サイクル10は、例えば、ハイブリッド車両の車内の冷房を行なうために、ハイブリッド車両に搭載される。冷凍サイクル10を用いた冷房は、例えば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的にハイブリッド車両の室内の温度を設定温度になるように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。
【0020】
冷凍サイクル10は、圧縮機12と、第1凝縮器14と、第2凝縮器15と、膨張弁16と、熱交換器18とを含む。冷凍サイクル10は、第1凝縮器14と第2凝縮器15との間の冷媒の経路に並列に設けられた経路上に配置されたタンク40を含む。
【0021】
圧縮機12は、ハイブリッド車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、冷凍サイクル10の作動時に熱交換器18から流通する冷媒を吸入圧縮して、冷媒通路21に高温高圧の気相冷媒を吐出する。圧縮機12は、冷媒通路21に冷媒を吐出することで、冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
【0022】
第1凝縮器14および第2凝縮器15は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された高圧の気相冷媒は、第1凝縮器14および第2凝縮器15において周囲に放熱し冷却されることによって凝縮(液化)する。第1凝縮器14および第2凝縮器15の各々は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と凝縮器周囲の空気との間で熱交換するためのフィンとを含む。
【0023】
第1凝縮器14および第2凝縮器15は、冷却風と冷媒との間で熱交換を行なう。冷却風は、エンジン45を冷却するための冷却回路46に設けられたラジエータファン42からの強制送風によって第1凝縮器14および第2凝縮器15に供給されてもよい。また、ラジエータファン42からの強制送風により、エンジン45とラジエータ43との間でウォーターポンプ44により循環する冷却水が冷却される。なお、冷却風は、ハイブリッド車両の走行によって発生する自然の通風によって第1凝縮器14および第2凝縮器15に供給されてもよい。第1凝縮器14および第2凝縮器15における熱交換によって、冷媒の温度は低下し、冷媒は液化する。
【0024】
膨張弁16は、冷媒通路25を流通する高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温かつ低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、第1凝縮器14および第2凝縮器15によって凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。なお、冷媒液を減圧するための減圧器は、絞り膨張する膨張弁16に限られず、毛細管であってもよい。
【0025】
熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。空調機器は、膨張弁16によって減圧された冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、ハイブリッド車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、ハイブリッド車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気がハイブリッド車両の室内に再び戻されることによって、ハイブリッド車両の室内の冷房が行なわれる。冷媒は、熱交換器18において周囲から吸熱し加熱される。
【0026】
熱交換器18は、冷媒を流通するチューブと、フィンとを含む。フィンは、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンである。チューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流通する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由してハイブリッド車両の室内の空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって蒸発し、さらに顕熱によって過熱蒸気になる。気化した冷媒は、冷媒通路27を経由して圧縮機12へ流通する。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。
【0027】
冷凍サイクル10は、圧縮機12と第1凝縮器14とを連通する冷媒通路21と、第1凝縮器14と第2凝縮器15とを連通する冷媒通路22,24と、第2凝縮器15と膨張弁16とを連通する冷媒通路25と、膨張弁16と熱交換器18とを連通する冷媒通路26と、熱交換器18と圧縮機12とを連通する冷媒通路27とをさらに含む。
【0028】
冷媒通路21は、冷媒を圧縮機12から第1凝縮器14に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路21を経由して、圧縮機12と第1凝縮器14との間を、圧縮機12の出口から第1凝縮器14の入口へ向かって流れる。冷媒通路21には、エジェクタ140が設けられる。冷媒通路21は、エジェクタ140よりも上流側の冷媒通路21aと、エジェクタ140よりも下流側の冷媒通路21bとに二分割される。冷媒通路22〜25は、冷媒を第1凝縮器14から膨張弁16に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路22,24および冷媒通路23,34,36を経由して、第1凝縮器14から第2凝縮器15へ流れる。
【0029】
冷媒通路26は、冷媒を膨張弁16から熱交換器18に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路26を経由して、膨張弁16と熱交換器18との間を、膨張弁16の出口から熱交換器18の入口へ向かって流れる。冷媒通路27は、冷媒を熱交換器18から圧縮機12に流通させるための通路である。冷媒は、冷媒通路27を経由して、熱交換器18と圧縮機12との間を、熱交換器18の出口から圧縮機12の入口へ向かって流れる。
【0030】
冷凍サイクル10は、圧縮機12、第1凝縮器14、冷却部30、第2凝縮器15、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜27によって連結されて構成される。なお、冷凍サイクル10の冷媒としては、例えば、二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニア、フロン類または水などを用いることができる。
【0031】
タンク40は、第1凝縮器14から流入する冷媒が気液二相状態である場合、冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する気液分離器として機能する。タンク40の内部には、液相冷媒である冷媒液と、気相冷媒である冷媒蒸気とが蓄蔵されている。タンク40には、冷媒通路22から分岐した冷媒通路23と、冷媒通路34とが連結されている。
【0032】
第1凝縮器14の出口側において冷媒は、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液二相状態の湿り蒸気の状態にある。第1凝縮器14から流出した冷媒は、冷媒通路22および冷媒通路23を通ってタンク40へ供給される。冷媒通路23からタンク40へ流入する気液二相状態の冷媒は、タンク40の内部において気相と液相とに分離される。タンク40は、第1凝縮器14によって凝縮された冷媒を液体状の冷媒液とガス状の冷媒蒸気とに分離して、一時的に蓄える。
【0033】
分離された冷媒液は、冷媒通路34を経由して、タンク40の外部へ流出する。タンク40内の液相中に配置された冷媒通路34の端部は、液相冷媒のタンク40からの流出口を形成する。分離された冷媒蒸気は、冷媒通路23を経由して、タンク40の外部へ流出する。タンク40内の気相中に配置された冷媒通路23の端部は、気相冷媒のタンク40からの流出口を形成する。タンク40から導出された気相の冷媒蒸気は、第2凝縮器15において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮する。
【0034】
タンク40の内部では、冷媒液が下側、冷媒蒸気が上側に溜まる。タンク40から冷媒液を導出する冷媒通路34の端部は、タンク40の底部に連結されている。冷媒通路34を経由して、タンク40の底側から冷媒液のみがタンク40の外部へ送り出される。タンク40から冷媒蒸気を導出する冷媒通路23の端部は、タンク40の天井部に連結されている。冷媒通路23を経由して、タンク40の天井側から冷媒蒸気のみがタンク40の外部へ送り出される。これにより、タンク40は、気相冷媒と液相冷媒との分離を確実に行なうことができる。
【0035】
第1凝縮器14の出口から膨張弁16の入口へ向かって流れる冷媒が流通する経路は、第1凝縮器14の出口側から後述する弁28へ連結される冷媒通路22と、冷媒通路22から分岐してタンク40へ至る冷媒通路23と、弁28から第2凝縮器15の入口側へ連結される冷媒通路24と、第2凝縮器15の出口側から冷媒を膨張弁16へ流通させる冷媒通路25とを含む。
【0036】
第1凝縮器14と第2凝縮器15との間を流通する冷媒の経路は、冷媒通路22から分岐してタンク40へ連結される冷媒通路23と、タンク40と冷却部30とを連通する冷媒通路34と、冷却部30と冷媒通路24とを連通する冷媒通路36とを含む。冷媒通路34を経由して、タンク40から冷却部30へ冷媒液が流れる。冷却部30を通過した冷媒は、冷媒通路36を経由して、冷媒通路24へ戻る。冷却部30は、第1凝縮器14から第2凝縮器15へ向けて流れる冷媒の経路上に設けられている。
【0037】
図1に示すD点は、冷媒通路24と冷媒通路36との連結点、すなわち、冷媒通路36の下流側の端部を示す。
【0038】
冷却装置1は、弁28と並列に配置された冷媒の経路を備え、冷却部30は、当該冷媒の経路上に設けられている。冷却部30は、ハイブリッド車両に搭載される電気機器であるHV(Hybrid Vehicle)機器31と、冷媒が流通する配管である冷媒通路32とを含む。HV機器31は、発熱源の一例である。冷媒通路32の一方の端部は、冷媒通路34に接続される。冷媒通路32の他方の端部は、冷媒通路36に接続される。
【0039】
弁28と並列に接続された冷媒の経路は、冷媒通路22から分岐してタンク40へ連結される冷媒通路23と、冷却部30よりも上流側(タンク40に近接する側)の冷媒通路34と、冷却部30に含まれる冷媒通路32と、冷却部30よりも下流側(第2凝縮器15に近接する側)の冷媒通路36とを含む。冷媒通路34は、タンク40から冷却部30に液相の冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路36は、冷却部30からD点に冷媒を流通させるための通路である。
【0040】
タンク40から流出した冷媒液は、冷媒通路34を経由して、冷却部30へ向かって流通する。冷却部30へ流通し、冷媒通路32を経由して流れる冷媒は、発熱源としてのHV機器31から熱を奪って、HV機器31を冷却させる。冷却部30は、タンク40において分離され冷媒通路34を経由して冷媒通路32へ流れる液相の冷媒を用いて、HV機器31を冷却する。冷却部30において、冷媒通路32内を流通する冷媒と、HV機器31とが熱交換することにより、HV機器31は冷却され、冷媒は加熱される。冷媒は、冷媒通路36を経由して冷却部30からD点へ向かって流通し、冷媒通路24を経由して第2凝縮器15へ至る。
【0041】
冷却部30は、冷媒通路32においてHV機器31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。本実施の形態においては、冷却部30は、例えば、HV機器31の筐体に冷媒通路32の外周面が直接接触するように形成された冷媒通路32を有する。冷媒通路32は、HV機器31の筐体と隣接する部分を有する。当該部分において、冷媒通路32を流通する冷媒と、HV機器31との間で、熱交換が可能となる。
【0042】
HV機器31は、冷凍サイクル10の第1凝縮器14から第2凝縮器15に至る冷媒の経路の一部を形成する冷媒通路32の外周面に直接接続されて、冷却される。冷媒通路32の外部にHV機器31が配置されるので、冷媒通路32の内部を流通する冷媒の流れにHV機器31が干渉することはない。そのため、冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、HV機器31を冷却することができる。
【0043】
代替的には、冷却部30は、HV機器31と冷媒通路32との間に介在して配置された任意の公知のヒートパイプを備えてもよい。この場合、HV機器31は、冷媒通路32の外周面にヒートパイプを介して接続され、HV機器31から冷媒通路32へヒートパイプを経由して熱伝達することにより、冷却される。HV機器31をヒートパイプの加熱部とし冷媒通路32をヒートパイプの冷却部とすることで、冷媒通路32とHV機器31との間の熱伝達効率が高められるので、HV機器31の冷却効率を向上できる。例えば、ウィック式のヒートパイプを使用することができる。
【0044】
ヒートパイプによってHV機器31から冷媒通路32へ確実に熱伝達することができるので、HV機器31と冷媒通路32との間に距離があってもよく、HV機器31に冷媒通路32を接触させるために冷媒通路32を複雑に配置する必要がない。その結果、HV機器31の配置の自由度を向上することができる。
【0045】
HV機器31は、電力の授受によって発熱する電気機器を含む。電気機器は、例えば、直流電力を交流電力に変換するためのインバータ、回転電機であるモータジェネレータ、蓄電装置であるバッテリ、バッテリの電圧を昇圧させるための昇圧コンバータ、バッテリの電圧を降圧するためのDC/DCコンバータなどの、少なくともいずれか一つを含む。バッテリは、リチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池等の二次電池である。バッテリに代えてキャパシタが用いられてもよい。
【0046】
熱交換器18は、空気が流通するダクト90の内部に配置されている。熱交換器18は、冷媒とダクト90内を流通する空調用空気との間で熱交換して、空調用空気の温度を調節する。ダクト90は、ダクト90に空調用空気が流入する入口であるダクト入口91と、ダクト90から空調用空気が流出する出口であるダクト出口92とを有する。ダクト90の内部の、ダクト入口91の近傍には、ファン93が配置されている。
【0047】
ファン93が駆動することにより、ダクト90内に空気が流通する。ファン93が稼働すると、ダクト入口91を経由してダクト90の内部へ空調用空気が流入する。ダクト90へ流入する空気は、外気であってもよく、ハイブリッド車両の室内の空気であってもよい。
図1中の矢印95は、熱交換器18を経由して流通し、冷凍サイクル10の冷媒と熱交換する空調用空気の流れを示す。冷房運転時には、熱交換器18において空調用空気が冷却され、冷媒は空調用空気からの熱伝達を受けて加熱される。矢印96は、熱交換器18で温度調節され、ダクト出口92を経由してダクト90から流出する、空調用空気の流れを示す。
【0048】
冷媒は、圧縮機12と第1凝縮器14と第2凝縮器15と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜27によって順次接続された冷媒循環流路を通って、冷凍サイクル10内を循環する。冷凍サイクル10内を、
図1に示すA点、B点、C点、D点、E点およびF点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と第1凝縮器14と第2凝縮器15と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。
【0049】
図2は、冷凍サイクル10の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
図2中の横軸は、冷媒の比エンタルピーを示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力を示す。比エンタルピーの単位はkJ/kgであり、絶対圧力の単位はMPaである。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
【0050】
図2中には、第1凝縮器14の出口の冷媒通路22から冷媒通路23およびタンク40を経由して冷媒通路34へ流入し、HV機器31を冷却し、冷媒通路36からD点を経由して第2凝縮器15の入口の冷媒通路24へ戻る、冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,C,D,EおよびF点)における冷媒の熱力学状態が示される。このときの冷媒が流れる経路、すなわち冷媒通路21、冷媒通路22、冷媒通路23、冷媒通路34、冷媒通路36および冷媒通路24〜27は、第1通路を形成する。
【0051】
図2に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は第1凝縮器14へと流れる。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、第1凝縮器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。第1凝縮器14における外気との熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。第1凝縮器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、第1凝縮器14において等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる。気液二相状態である冷媒のうち、凝縮した冷媒は飽和液の状態である(C点)。
【0052】
冷媒はタンク40において気相冷媒と液相冷媒とに分離される。気液分離された冷媒のうち、液相の冷媒液が、タンク40から冷媒通路34を経由して冷却部30の冷媒通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。冷却部30において、第1凝縮器14を通過して凝縮された飽和液状態の液冷媒に熱を放出することで、HV機器31が冷却される。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。冷媒は、HV機器31から潜熱を受け取って一部気化することにより、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気となる(D点)。
【0053】
その後冷媒は、第2凝縮器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、第2凝縮器15において外気と熱交換して冷却されることにより再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却された過冷却液になる(E点)。その後冷媒は、冷媒通路25を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。
【0054】
膨張弁16から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路26を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由してハイブリッド車両の室内の空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。その後冷媒は、冷媒通路27を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。
【0055】
冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
【0056】
冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、蒸発器として作用する熱交換器18において蒸発する際に気化熱をハイブリッド車両の室内の空気から吸収して、車室内の冷房を行なう。加えて、第1凝縮器14から流出しタンク40で気液分離された高圧の液冷媒が冷却部30へ流通し、HV機器31と熱交換することでHV機器31を冷却する。冷却装置1は、ハイブリッド車両に搭載された発熱源であるHV機器31を、ハイブリッド車両の室内の空調用の冷凍サイクル10を利用して、冷却する。なお、HV機器31を冷却するために必要とされる温度は、少なくともHV機器31の温度範囲として目標となる温度範囲の上限値よりも低い温度であることが望ましい。
【0057】
熱交換器18において被冷却部を冷却するために設けられた冷凍サイクル10を利用して、HV機器31の冷却が行なわれるので、HV機器31の冷却のために、専用の水循環ポンプまたは冷却ファンなどの機器を設ける必要はない。そのため、HV機器31の冷却装置1のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純にできるので、冷却装置1の製造コストを低減することができる。加えて、HV機器31の冷却のためにポンプや冷却ファンなどの動力源を運転する必要がなく、動力源を運転するための消費動力を必要としない。したがって、HV機器31の冷却のための消費動力を低減することができる。
【0058】
第1凝縮器14では、冷媒を湿り蒸気の状態にまで冷却すればよく、気液混合状態の冷媒はタンク40により分離され、飽和液状態の冷媒液のみが冷却部30へ供給される。HV機器31から蒸発潜熱を受け取り一部気化した湿り蒸気の状態の冷媒は、第2凝縮器15で再度冷却される。湿り蒸気状態の冷媒を凝縮させ完全に飽和液にするまで、冷媒は一定の温度で状態変化する。第2凝縮器15は、ハイブリッド車両の室内の冷房のために必要な程度の過冷却度にまで、液相冷媒をさらに過冷却する。冷媒の過冷却度を過度に大きくする必要がないので、第1凝縮器14および第2凝縮器15の容量を低減することができる。したがって、車室用の冷房能力を確保でき、かつ、第1凝縮器14および第2凝縮器15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、冷却装置1を得ることができる。
【0059】
タンク40から膨張弁16へ向かう冷媒が流通する経路として、冷却部30を通過しない経路である冷媒通路22,24と、冷却部30を経由してHV機器31を冷却する冷媒の経路である冷媒通路32,34,36とが並列に設けられる。そのため、第1凝縮器14から流出した冷媒の一部のみが、冷却部30へ流れる。HV機器31の冷却のために必要な量の冷媒を冷却部30へ流通させ、HV機器31は適切に冷却される。したがって、HV機器31が過冷却されることを防止できる。
【0060】
第1凝縮器14から直接第2凝縮器15へ流れる冷媒の経路と、第1凝縮器14から冷却部30を経由して第2凝縮器15へ流れる冷媒の経路とを並列に設け、一部の冷媒のみを冷媒通路34,36へ流通させることで、HV機器31の冷却系に冷媒が流れる際の圧力損失を低減することができる。全ての冷媒が冷却部30に流れないので、冷却部30を経由する冷媒の流通に係る圧力損失を低減することができ、それに伴い、冷媒を循環させるための圧縮機12の運転に必要な消費電力を低減することができる。
【0061】
膨張弁16を通過した後の低温低圧の冷媒をHV機器31の冷却に使用すると、熱交換器18における車室内の空気の冷却能力が減少して、車室用の冷房能力が低下する。これに対し、本実施の形態の冷却装置1では、冷凍サイクル10において、圧縮機12から吐出された高圧の冷媒は、第1凝縮器14と、第2凝縮器15と、の両方によって凝縮される。圧縮機12と膨張弁16との間に第1凝縮器14および第2凝縮器15を配置し、HV機器31を冷却する冷却部30は、第1凝縮器14と第2凝縮器15との間に設けられている。第2凝縮器15は、冷却部30から膨張弁16に向けて流れる冷媒の経路上に設けられている。
【0062】
HV機器31から蒸発潜熱を受けて加熱された冷媒を第2凝縮器15において十分に冷却することにより、膨張弁16の出口において、冷媒は、ハイブリッド車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、熱交換器18において冷媒が蒸発するときに外部から受け取る熱量を十分に大きくすることができる。このように、冷媒を十分に冷却できる第2凝縮器15の放熱能力を定めることにより、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、HV機器31を冷却することができる。したがって、HV機器31の冷却能力と、車室用の冷房能力との両方を、確実に確保することができる。
【0063】
第1凝縮器14から冷却部30へ流れる冷媒は、HV機器31を冷却するときに、HV機器31から熱を受け取り加熱される。冷却部30において冷媒が飽和蒸気温度以上に加熱され冷媒の全量が気化すると、冷媒とHV機器31との熱交換量が減少してHV機器31を効率よく冷却できなくなり、また冷媒が配管内を流れる際の圧力損失が増大する。そのため、HV機器31を冷却した後に冷媒の全量が気化しない程度に、第1凝縮器14において十分に冷媒を冷却するのが望ましい。
【0064】
具体的には、第1凝縮器14の出口における冷媒の状態を飽和液に近づけ、典型的には第1凝縮器14の出口において冷媒が飽和液線上にある状態にする。このように冷媒を十分に冷却できる能力を第1凝縮器14が有する結果、第1凝縮器14の冷媒から熱を放出させる放熱能力は、第2凝縮器15の放熱能力よりも高くなる。放熱能力が相対的に大きい第1凝縮器14において冷媒を十分に冷却することにより、HV機器31から熱を受け取った冷媒を湿り蒸気の状態に留めることができ、冷媒とHV機器31との熱交換量の減少を回避できるので、HV機器31を十分に効率よく冷却することができる。HV機器31を冷却した後の湿り蒸気の状態の冷媒は、第2凝縮器15において効率よく再度冷却され、飽和温度を下回る過冷却液の状態にまで冷却される。したがって、車室用の冷房能力とHV機器31の冷却能力との両方を確保した、冷却装置1を提供することができる。
【0065】
第1凝縮器14の出口において気液二相状態にある冷媒は、タンク40内において、気相と液相とに分離される。タンク40で分離された気相冷媒は、冷媒通路23,24を経由して流れ直接第2凝縮器15に供給される。タンク40で分離された液相冷媒は、冷媒通路34を経由して流れ、冷却部30に供給されてHV機器31を冷却する。この液相冷媒は、過不足の全くない真に飽和液状態の冷媒である。タンク40から液相の冷媒のみを取り出し冷却部30へ流すことにより、第1凝縮器14の能力を最大限に活用してHV機器31を冷却することができるので、HV機器31の冷却能力を向上させた冷却装置1を提供することができる。
【0066】
タンク40の出口で飽和液の状態にある冷媒をHV機器31を冷却する冷媒通路32に導入することにより、冷媒通路34,36および冷媒通路32を含むHV機器31の冷却系を流れる冷媒のうち、気相状態の冷媒を最小限に抑えることができる。そのため、HV機器31の冷却系を流れる冷媒蒸気の流速が早くなり圧力損失が増大することを抑制でき、冷媒を流通させるための圧縮機12の消費電力を低減できるので、冷凍サイクル10の性能の悪化を回避することができる。
【0067】
タンク40の内部には、飽和液状態の冷媒液が貯留されている。タンク40は、その内部に液状の冷媒である冷媒液を一時的に貯留する蓄液器として機能する。タンク40内に所定量の冷媒液が溜められることにより、負荷変動時にもタンク40から冷却部30へ流れる冷媒の流量を維持できる。タンク40が液だめ機能を有し、負荷変動に対するバッファとなり負荷変動を吸収できるので、HV機器31の冷却性能を安定させることができる。
【0068】
再び
図1を参照して、冷却装置1は、切り替え装置52を備える。切り替え装置52は、弁28と、弁57と、弁58とを含む。
【0069】
第1凝縮器14から第2凝縮器15へ冷媒を流す経路は、第1経路と、第1経路に並列に設けられた第2経路とを含む。第1経路は、第1凝縮器14から第2凝縮器15へ直接冷媒を流す。第2経路は、第1凝縮器14から第2凝縮器15へ冷却部30を経由して冷媒を流す。弁28は、第1経路上に設けられる。弁28は、その弁開度を変動させ、冷媒通路22から冷媒通路24へ流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路22から冷媒通路24へ直接流れる冷媒の流量と、冷媒通路32を含むHV機器31の冷却系を流れる冷媒の流量とを任意に調節する。
【0070】
例えば、弁28を全閉にして弁開度を0%にすると、第1凝縮器14を出た冷媒の全量がタンク40から冷媒通路34へ流入する。弁28の弁開度を大きくすれば、第1凝縮器14から弁28を経由して第2凝縮器15へ直接流れる流量が大きくなり、冷媒通路34を経由して冷媒通路32へ流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなる。弁28の弁開度を小さくすれば、第1凝縮器14から弁28を経由して第2凝縮器15へ直接流れる流量が小さくなり、冷媒通路32を経由して流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなる。
【0071】
弁28の弁開度を大きくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなり、HV機器31の冷却能力が低下する。弁28の弁開度を小さくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなり、HV機器31の冷却能力が向上する。弁28を使用して、HV機器31に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、HV機器31の過冷却を確実に防止することができ、加えて、HV機器31の冷却系の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
【0072】
冷却装置1は、連通路51をさらに備える。連通路51は、圧縮機12と第1凝縮器14との間を冷媒が流通する冷媒通路21と、冷却部30に冷媒を流通させる冷媒通路34,36のうち冷却部30に対し下流側の冷媒通路36と、を連通する。冷媒通路36は、連通路51との分岐よりも上流側の冷媒通路36aと、連通路51との分岐よりも下流側の冷媒通路36bとに二分割される。
【0073】
冷媒通路36には、冷媒通路36の連通状態を切り換える弁57が設けられている。連通路51には、連通路51の連通状態を切り換える弁58が設けられている。弁57,58を使用して冷媒の経路を切り換えることにより、HV機器31を冷却した後の冷媒を、冷媒通路36b,24を経由させて第2凝縮器15への経路、または、連通路51および冷媒通路21bを経由して第1凝縮器14への経路、のいずれかを任意に選択して、流通させることができる。
【0074】
より具体的には、冷凍サイクル10の冷房運転中には、弁58を全閉(弁開度0%)とし、弁28および弁57の弁開度を冷却部30に十分な冷媒が流れるように調整する。これにより、HV機器31を冷却した後の冷媒通路36aを流通する冷媒を、冷媒通路36bを経由させて、確実に第2凝縮器15へ流通させることができる。
【0075】
一方、冷凍サイクル10の停止中には、弁58を全開とし弁57を全閉とし、さらに弁28を全閉とする。これにより、HV機器31を冷却した後の冷媒通路36aを流通する冷媒を、連通路51を経由させて第1凝縮器14へ流通させ、圧縮機12を経由せずに冷却部30と第1凝縮器14との間に冷媒を循環させる環状の経路を形成することができる。
【0076】
図3は、冷凍サイクル10の運転中の、HV機器31を冷却する冷媒の流れを示す模式図である。
図4は、冷凍サイクル10の停止中の、HV機器31を冷却する冷媒の流れを示す模式図である。
図5は、冷却装置1の運転モード毎の切り替え装置52(弁28,57,58)の開度を示す図である。
図5中に示す運転モードのうち「エアコン運転モード」とは、
図3に示す冷凍サイクル10を運転させる場合、すなわち圧縮機12を運転させて冷凍サイクル10の全体に冷媒を流通させる場合を示す。一方「ヒートパイプ運転モード」とは、
図4に示す冷凍サイクル10を停止させる場合、すなわち、圧縮機12を停止させ、冷却部30と第1凝縮器14とを結ぶ環状の経路を経由させて冷媒を循環させる場合を示す。なお、ヒートパイプ運転モードにおいて、ドライアウトが発生する場合に、圧縮機12が一時的に動作する場合がある。これにより、第2通路内の冷媒量を増加させてドライアウトを抑制することができる。
【0077】
図3および
図5に示すように、圧縮機12を駆動させ冷凍サイクル10が運転している「エアコン運転モード」のときには、弁28および弁57は、冷却部30に十分な冷媒が流れるように、弁開度を調整される。弁58は、全閉にされる。このように、切り替え装置52は、冷媒を冷却部30から第2凝縮器15を経由して膨張弁16へ流通させるように操作される。これにより、冷媒が冷却装置1の全体を流れるように冷媒の経路が選択される。そのため、冷凍サイクル10の冷却能力を確保できるとともに、HV機器31を効率よく冷却することができる。
【0078】
図4および
図5に示すように、圧縮機12を停止させ冷凍サイクル10が停止している「ヒートパイプ運転モード」のときには、冷媒を冷却部30から第1凝縮器14へ循環させるように切り替え装置52を操作する。すなわち、弁57を全閉にし弁58を全開にし、さらに弁28を全閉にすることで、冷媒は冷媒通路36aから冷媒通路36bへは流れず連通路51を経由して流通する。これにより、第1凝縮器14から、冷媒通路22と冷媒通路23と冷媒通路34とを順に経由して冷却部30へ至り、さらに冷媒通路36a、連通路51、冷媒通路21bを順に経由して第1凝縮器14へ戻る、閉じられた環状の経路が形成される。このときの冷媒が流れる経路、すなわち冷媒通路21b、冷媒通路22、冷媒通路23、冷媒通路34、冷媒通路36aおよび連通路51は、第2通路を形成する。
【0079】
この環状の経路を経由して、圧縮機12を動作することなく、第1凝縮器14と冷却部30との間に冷媒を循環させることができる。冷媒は、HV機器31を冷却するとき、HV機器31から蒸発潜熱を受けて蒸発する。HV機器31との熱交換により気化された冷媒蒸気は、冷媒通路36a、連通路51および冷媒通路21を順に経由して、第1凝縮器14へ流れる。第1凝縮器14において、ハイブリッド車両の走行風、または、ラジエータファン42からの通風により、冷媒蒸気は冷却されて凝縮する。第1凝縮器14で液化した冷媒液は、冷媒通路22,23,34を経由して、冷却部30へ戻る。
【0080】
このように、冷却部30と第1凝縮器14とを経由する環状の経路によって、HV機器31を加熱部とし第1凝縮器14を冷却部とする、ヒートパイプが形成される。したがって、冷凍サイクル10が停止しているとき、すなわちハイブリッド車両用の冷房が停止しているときにも、圧縮機12を起動する必要なく、HV機器31を確実に冷却することができる。HV機器31の冷却のために圧縮機12を常時運転する必要がないことにより、圧縮機12の消費動力を低減してハイブリッド車両の燃費を向上することができ、加えて、圧縮機12を長寿命化できるので圧縮機12の信頼性を向上することができる。
【0081】
図3および
図4には、地面60が図示されている。地面60に対して垂直な鉛直方向において、冷却部30は、第1凝縮器14よりも下方に配置されている。
【0082】
この場合、冷却部30で加熱され気化した冷媒蒸気は、環状の経路内を上昇して第1凝縮器14へ到達し、第1凝縮器14において冷却され、凝縮されて液冷媒となり、重力の作用により環状の経路内を下降して冷却部30へ戻る。つまり、冷却部30と、第1凝縮器14と、これらを連結する冷媒の経路(すなわち第2通路)とによって、サーモサイフォン式のヒートパイプが形成される。ヒートパイプを形成することでHV機器31から第1凝縮器14への熱伝達効率を向上することができるので、冷凍サイクル10が停止しているときにも、動力を加えることなく、HV機器31をより効率よく冷却することができる。
【0083】
再び
図1を参照して、冷却装置1は、エジェクタ140をさらに備える。エジェクタ140は、圧縮機12と第1凝縮器14との間に設けられる。エジェクタ140は、圧縮機12から第1凝縮器14に冷媒が流れるときに、第2通路から冷媒を吸引する吸引力を発生し、圧縮機12から吐出された冷媒に第2通路を流れる冷媒を合流させる。
【0084】
ヒートパイプ運転モードのとき、HV機器31を保護するために必要とする放熱量に対し、第2通路内の冷媒量が不足すると冷媒のすべてが乾いてしまうドライアウトという現象が発生する場合がある。ドライアウトが発生すると、HV機器31を冷却する能力が低下してしまい、HV機器31の温度が上昇してしまうおそれがある。そこで、圧縮機12を一時的に運転することで、エジェクタ140を経由して第2通路内に冷媒を供給する。これにより、第2通路内の冷媒量を増加させることができる。
【0085】
エジェクタ140は、圧縮機12から第1凝縮器14に冷媒が流れるときに、第2通路から冷媒を吸引する吸引力を発生する。これにより、第1凝縮器14と冷却部30との間に形成されたヒートパイプサイクル内での冷媒の循環を促しながら、ヒートパイプサイクル内の冷媒量を増加させることができる。よって、単なる合流弁を用いる場合に比べて、効果的にドライアウトを抑制できる。
【0086】
図6は、
図1に示すエジェクタ140の構造の一例を示す図である。
図6を参照して、エジェクタ140は、第1管150と、第2管160と、合流部151と、接続部180とを含む。
【0087】
第1管150は、一端が冷媒通路21aに接続され、圧縮機12から吐出された冷媒を他端から噴出する。第2管160は、第1管150の外周側に形成され、一端が第1管150の外周に接合され、他端が冷媒通路21bに接続される。すなわち、第2管160は、第1管150の端部152を覆うような閉空間を形成する。接続部180は、第2管160に連通路51が接続される部分である。連通路51からの冷媒は、接続部180を経由して第2管160の内部に吸入される。第2管160の内部に吸入された連通路51からの冷媒は、合流部151で第1管150を流れる圧縮機12からの冷媒に合流する。接続部180は、合流部151よりも上流側に配置される。
【0088】
圧縮機12で圧縮された冷媒は、第2管160内で第1管150から噴出され、流速が高まるとともに圧力が低下する。これにより、上記閉空間内の圧力が低下し、連通路51から第2管160へ冷媒を吸引する吸引力が発生する。この吸引力により、第2通路を流れる冷媒の循環が促される。
【0089】
このように、エジェクタ140を設けることにより、第2通路における冷媒の循環を促進しながら、第2通路内の冷媒量を増加させることができる。よって、ドライアウトを抑制することができる。したがって、HV機器31の温度上昇を抑制することができる。
【0090】
また、エジェクタ140の接続部180が合流部151よりも上流側に配置されることにより、圧縮機12で圧縮された冷媒の流れ方向が連通路51から第2管160へ吸入された冷媒の流れ方向に沿った状態で2つの冷媒の流れを合流させることができる。このため、圧縮機12で圧縮された冷媒が接続部180へ逆流することを防止することができる。よって、第2通路における冷媒の循環をより促進することができる。
【0091】
再び
図1を参照して、切り替え装置52としては、上述した弁57,58に代えて、冷媒通路36と連通路51との分岐に配置された三方弁を使用してもよい。この場合、二つの弁57,58を配置するよりも三方弁の配置に要する空間はより小さいため、三方弁を使用することにより、より小型化され車両搭載性に優れた冷却装置1を提供することができる。
【0092】
冷却装置1は、逆止弁54をさらに備える。逆止弁54は、冷媒通路21aに配置されている。逆止弁54は、圧縮機12から第1凝縮器14へ向かう冷媒の流れを許容するとともに、その逆向きの冷媒の流れを禁止する。このようにすれば、
図4に示すヒートパイプ運転モードのとき、第1凝縮器14と冷却部30との間に冷媒を循環させる閉ループ状の冷媒の経路を、確実に形成することができる。
【0093】
逆止弁54を備えることによって、連通路51から圧縮機12側へ向かう冷媒の流れを確実に禁止できるので、環状の冷媒経路で形成するヒートパイプを使用した、冷凍サイクル10の停止時のHV機器31の冷却能力の低下を防止できる。したがって、ハイブリッド車両の車室用の冷房が停止しているときにも、HV機器31を効率よく冷却することができる。
【0094】
図7は、冷却装置1の制御方法の一例を示すフローチャートである。なお、その制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0095】
図7に示すように、まずステップ(S10)において、エアコンがオンにされているか否かが判断される。エアコンのオン/オフの切替は、ハイブリッド車両の車内前方の計器盤に設けられた空調用のコントロールパネルを乗員が操作することによって行なわれる。
【0096】
ステップ(S10)でエアコンがオンであると判断された場合は、ステップ(S20)に進み、冷却装置1は、エアコン運転モードにてHV機器31を冷却する。すなわち、切り替え装置52の開閉を指令する信号を弁28,57,58へ伝送して、弁58を全閉にし、弁57および弁28の開度を調整する。これにより、圧縮機12から吐出された冷媒のうち、HV機器31の冷却のために十分な量の冷媒を、冷却部30へ流通させる。第1凝縮器14で外気と熱交換し冷却された後の冷媒を冷却部30に流通させ、冷媒通路32を流れる冷媒とHV機器31との間で熱交換することにより、HV機器31を冷却する。
【0097】
なお、ハイブリッド車両の乗員がコントロールパネルを操作してエアコンをオンにする場合のほか、エアコン運転モードでのHV機器31の冷却が必要であると判断された場合に、エアコン運転モードにてHV機器31を冷却してもよい。例えば、外気温度が所定の温度(例えば25℃)よりも高いとき、空調用空気が所定の温度(例えば20℃)よりも高いとき、または、タンク40内の冷媒液の量が所定の量よりも少ないとき、圧縮機12を起動してもよい。
【0098】
または、例えば登坂走行時などのHV機器31の発熱量が大きくなるような状況でハイブリッド車両が走行する場合にも、エアコン運転モードにてHV機器31を冷却してもよい。冷却装置1がHV機器31を冷却する冷却能力は、圧縮機12を運転させるエアコン運転モードの方が、ヒートパイプ運転モードに比較して相対的に大きい。そのため、HV機器31の発熱量が大きい場合には、エアコン運転モードで冷却装置1を運転してHV機器31を冷却することにより、HV機器31の過熱を確実に防止することができる。
【0099】
ステップ(S10)でエアコンがオフであると判断された場合は、ステップ(S30)に進み、冷却装置1は、ヒートパイプ運転モードにてHV機器31を冷却する。すなわち、切り替え装置52の開閉を指令する信号を弁28,57,58へ伝送して、弁57を全閉、弁58を全開にし、さらに弁28を全閉にする。これにより、冷却部30と第1凝縮器14との間に冷媒を循環させる環状の経路を形成して、サーモサイフォン式のヒートパイプを形成する。第1凝縮器14において冷却された液相の冷媒を重力の作用により冷却部30へ流通させ、冷媒通路32を流れる冷媒とHV機器31との間で熱交換することにより、HV機器31を冷却する。冷却部30で加熱され気化した冷媒蒸気は、環状の経路内を上昇して再度第1凝縮器14へ到達する。
【0100】
続いてステップ(S40)において、ドライアウトの発生が検出されたか否かが判断される。例えば、冷却装置1は、HV機器31の発熱部品の温度を検出するセンサが検出した温度が上限値を超えた場合に、ドライアウトが発生したと判断する。また、冷却装置1は、冷却部30に流れ込む冷媒の温度と、冷却部30から流れ出る冷媒の温度との差に基づいて、ドライアウトの発生を判断してもよい。さらに、冷却装置1は、冷却部30の表面温度を検出するセンサが検出した温度が上限値を超えた場合に、ドライアウトが発生したと判断してもよい。この場合、温度センサは、冷媒流路と発熱部品との近傍に設置してもよい。
【0101】
ステップ(S40)でドライアウトが発生したと判断された場合は、ステップ(S50)に進み、冷却装置1は、圧縮機12を一時的に運転する。これにより、圧縮機12で圧縮された冷媒がエジェクタ140を経由して第2通路内に供給される。このとき、エジェクタ140が設けられていることにより、第2通路における冷媒の循環を促進しながら、不足した冷媒を第2通路に供給することができる。よって、ドライアウトを抑制することができる。したがって、HV機器31の温度上昇を抑制することができる。
【0102】
ステップ(S40)でドライアウトが発生していないと判断された場合は、ステップ(S60)に進み、冷却装置1は、圧縮機12を停止する。
【0103】
以上のように、この実施の形態においては、空調が行われる「エアコン運転モード」と空調が停止する「ヒートパイプ運転モード」との両方の運転モードで、発熱源であるHV機器31を冷却できる。ヒートパイプ運転モードでは、ヒートパイプサイクルによりHV機器31を冷却できるので、HV機器31の冷却のために圧縮機12を常時運転する必要はない。そのため、圧縮機12の消費動力を低減してハイブリッド車両の燃費を向上することができ、加えて、圧縮機12を長寿命化できるので圧縮機12の信頼性を向上することができる。そして、冷却装置1は、圧縮機12と第1凝縮器14との間に設けられたエジェクタ140を備える。エジェクタ140は、圧縮機12から第1凝縮器14に冷媒が流れるときに、第2通路から冷媒を吸引する吸引力を発生する。これにより、第1凝縮器14と冷却部30との間に形成されたヒートパイプサイクル内での冷媒の循環を促しながら、ヒートパイプサイクル内の冷媒量を増加させることができる。したがって、この実施の形態によれば、ドライアウトを抑制することができる。
【0104】
また、圧縮機12が停止した後も、エジェクタ140の第1管150内における冷媒が慣性力により流れるときに、連通路51から第2管160へ冷媒を吸引する吸引力が発生する。このため、短時間の圧縮機12の駆動でドライアウトを解消することができる。
【0105】
また、この実施の形態においては、エジェクタ140の接続部180は、合流部151よりも上流側に配置される。これにより、圧縮機12で圧縮された冷媒の流れ方向が連通路51から第2管160へ吸入された冷媒の流れ方向に沿った状態で2つの冷媒の流れを合流させることができる。このため、圧縮機12で圧縮された冷媒が接続部180へ逆流することを防止することができる。よって、第2通路における冷媒の循環をより促進することができる。
【0106】
また、この実施の形態においては、冷却装置1は、空調の作動または停止に合わせて、切り替え装置52の開閉状態を制御する。これにより、エアコン運転モードとヒートパイプ運転モードとの切り換えをさらに確実に行なうことができ、各運転モード毎の適切な経路に冷媒を流通させることができる。
【0107】
また、この実施の形態においては、冷却装置1は、第1凝縮器14から圧縮機12への冷媒の流れを遮断する逆止弁をさらに備える。これにより、ヒートパイプ運転モードのとき、第1凝縮器14と冷却部30との間に冷媒を循環させる閉ループ状の冷媒の経路を、確実に形成することができる。
【0108】
また、この実施の形態においては、冷却部30は、第1凝縮器14よりも鉛直方向下側に配置される。これにより、冷却部30で加熱され気化した冷媒蒸気は、環状の経路内を上昇して第1凝縮器14へ到達し、第1凝縮器14において冷却され、凝縮されて液冷媒となり、重力の作用により環状の経路内を下降して冷却部30へ戻る。このため、ヒートパイプを形成することでHV機器31から第1凝縮器14への熱伝達効率を向上することができるので、冷凍サイクル10が停止しているときにも、動力を加えることなく、HV機器31をより効率よく冷却することができる。
【0109】
また、この実施の形態においては、冷却装置1は、第1凝縮器14から冷却部30へ流れる液状の冷媒を貯留するタンク40をさらに備える。これにより、タンク40から液相の冷媒のみを取り出し冷却部30へ流すことができる。このため、第1凝縮器14の能力を最大限に活用してHV機器31を冷却することができるので、HV機器31の冷却能力を向上させた冷却装置1を提供することができる。
【0110】
なお、本発明の冷却装置は、エンジンと電動機とを動力源とするハイブリッド車両のみならず、電動機のみを動力源とする電気自動車や燃料電池車にも適用可能である。
【0111】
なお、これまでの実施の形態においては、HV機器31を例としてハイブリッド車両に搭載された電気機器を冷却する冷却装置1について説明した。電気機器としては、少なくとも作動によって熱を発生させる電気機器であれば、インバータ、モータジェネレータなどの例示された電気機器に限定されるものではなく、任意の電気機器であってもよい。
【0112】
なお、これまでの実施の形態においては、逆止弁54を備える冷却装置1について説明したが、逆止弁54を備えない構成であってもよい。
【0113】
なお、上記において、HV機器31は、この発明における「発熱源」の一実施例に対応し、タンク40は、この発明における「蓄液器」の一実施例に対応する。また、弁28は、この発明における「第1弁」の一実施例に対応し、弁57は、この発明における「第2弁」の一実施例に対応し、弁58は、この発明における「第3弁」の一実施例に対応する。
【0114】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。