(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0014】
図1は本実施形態の無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。この車両は動力源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0015】
また、車両には、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12とが設けられている。
【0016】
各構成について説明すると、変速機4は、無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とは同動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0017】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、これらプーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比vRatioが無段階に変化する。
【0018】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。
【0019】
変速機コントローラ12は、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0020】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、変速機4の油温を検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ46の出力信号などが入力される。
【0021】
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0022】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比vRatio、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0023】
図3は変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。
【0024】
この変速マップ上では変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0025】
変速機4が低速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0026】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0027】
変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0028】
また、変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線(副変速機構30の1−2変速線)が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比に等しい。
【0029】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、変速機コントローラ12はモード切換変速制御を行う。このモード切換変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させる協調変速を行う。
【0030】
協調変速では、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioよりも大きい状態から小さい状態になったときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(以下、「1−2変速」という。)するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比大側に変化させる。逆に、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioよりも小さい状態から大きい状態になったときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(以下、「2−1変速」という。)するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比小側に変化させる。
【0031】
モード切換変速時、協調変速を行うのは、変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転の変化に伴う運転者の違和感を抑えるためである。また、モード切換変速をバリエータ20の変速比vRatioが最High変速比のときに行うのは、この状態では副変速機構30に入力されるトルクがそのときにバリエータ20に入力されるトルクのもとでは最小になっており、この状態で副変速機構30を変速すれば副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0032】
また、この変速マップに従えば、車両が停車する際、バリエータ20の変速比vRatioは最Low変速比となり、また、副変速機構30の変速段は1速となる。
【0033】
次に、運転者からの加速要求があったときに変速機コントローラ12が実行する変速制御について説明する。
【0034】
変速機コントローラ12は、車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO等の入力に基づいて、
図3に示す変速マップを参照して、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0035】
ここで、運転者によってアクセルペダルが大きく踏まれるなど、運転者からの加速要求があった場合に変速機コントローラ12が実行する制御を説明する。
【0036】
なお、本発明の実施形態では、後述するように、運転者からの加速要求があったときに行う変速制御は、変速比の変化を抑制した制御(第1の変速制御)と、変速比をステップ状にアップシフトさせる制御(第2の変速制御)とが繰り返されて、エンジン回転速度Ne(又はプライマリ回転速度Npri)の時間変化がノコギリの歯のような軌跡を辿る。この変速制御を、以降は「ノコギリ変速」と呼ぶ。
【0037】
図4は、本発明の実施形態の変速機コントローラ12の本発明に関する部分のみを描いた変速制御のブロック図である。
【0038】
変速機コントローラ12は、ノコギリ変速モード判定部50と、目標変速比設定部51と、アップシフト判定マップ52と、ノコギリ変速モード変速マップ53と、を備える。
【0039】
変速機コントローラ12には、車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO及びアクセル開速度dAPOが入力される。なおアクセル開速度dAPOはアクセル開度を時間微分した値を変速機コントローラ12が算出する。
【0040】
運転者が急加速を意図してアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合、例えば、アクセル開度APO及びアクセル開速度dAPOが増大した場合は、変速機コントローラ12のノコギリ変速モード判定部50は、運転者から加速要求があったと判断し、以降に説明するノコギリ変速モードを判定する。
【0041】
ノコギリ変速モードを判定した場合は、変速機コントローラ12は、
図3に示す変速マップではなく、ノコギリ変速モード変速マップ53と、アップシフト判定マップ52とに基づいた変速制御を行う。変速機コントローラ12の目標変速比設定部51は、これらマップに基づいて目標スルー変速比tRatioを設定する。変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するように油圧制御回路11に指令を行って、バリエータ20及び副変速機構30の変速比を制御する。
【0042】
次にノコギリ変速モードの詳細を説明する。
【0043】
運転者からの加速意図があった場合、アクセル開度APOの増大によってエンジン回転速度Neは上昇するが、油圧制御回路により制御される変速機4は、目標スルー変速比tRatioに対してスルー変速比Ratioが追従するまでに時間がかかり、エンジン回転速度Neの上昇の割に車速VSPの伸びが緩やかとなり、運転者に違和感を与える。
【0044】
この違和感を防止して運転者に軽快な加速感を与えるために、変速機コントローラ12は、運転者による加速意図が大きい場合は、ノコギリ変速モード変速マップ53を参照して、変速機4のスルー変速比Ratioを現在の実変速比と略一定にする等、変速比の変化を抑制して、エンジン回転速度Neの上昇に従って車速VSPが上昇する第1の変速制御を実行する。この第1の変速制御によって変速比の変化が抑制されると、エンジン回転速度Neの上昇に従って車速VSPが上昇することによって運転者に加速感を与えることができる。
【0045】
ここで、エンジン1の出力トルクは、エンジン回転速度Neが所定の回転速度を超えた領域では、エンジン回転速度の上昇に対して出力トルクが減少するという特性を有する。
【0046】
図5は、本発明の実施形態のエンジン回転速度Neとエンジン1の出力トルクとの関係を示す説明図である。なお、
図5において、アクセル開度APOが、2/8、4/8、6/8及び8/8である場合のエンジン回転速度Neとエンジン1の出力トルクとの関係を示す。
【0047】
エンジン1の出力トルクは、エンジン回転速度Neの上昇に伴って上昇する(図中L領域)そして、エンジン回転速度Neが所定の回転速度(図中に点線で示す)付近で出力トルクが最大となる。例えば、エンジン回転速度Neが4000〜6000[rpm]付近が出力トルクのピークである。一方、エンジン回転速度Neがこの所定回転速度を越えた領域(図中H領域)では、エンジン1の出力トルクは、エンジン回転速度Neが上昇するにもかかわらず、減少する。
【0048】
従って、エンジン回転速度Neが所定の回転速度を超えた場合は、エンジン回転速度Neの上昇にもかかわらずエンジンの出力トルクが減少するので、エンジン回転速度Neが上昇しても車速VSPの伸びが低下して加速感が減少する。
【0049】
そこで、運転者からの加速要求があったときに、加速感を減少させないために、エンジン回転速度Neに閾値を設定し、エンジン回転速度Neがこの閾値を超えたときに変速機4のスルー変速比Ratioをアップシフト側に所定の変速比までステップ状に変速させる。これによりエンジン回転速度Neが一端下降し、再びエンジン回転速度Neの上昇と共に車速VSPを上昇させことができる。
【0050】
より具体的には、変速機コントローラ12は、アップシフト判定マップ52を予め記憶している。そして、アクセル開度APOとプライマリ回転速度Npriとの関係に元づき、エンジン回転速度Neが閾値を超えたか否かを判定する。エンジン回転速度Neが閾値を超えた場合は、変速機4のスルー変速比Ratioをアップシフト側の所定の変速比までステップ状に変速させる第2の変速制御を行う。
【0051】
このように、変速比の変化を抑制した第1の変速制御と、変速比をアップシフトさせる第2の変速制御と行い、加速要求がある場合にこれを繰り返し実行することによって、運転者は、エンジン回転速度Neが上昇するに従って車速VSPが上昇するという加速感が得られる。
【0052】
図6は、本発明の実施形態の変速機コントローラ12が実行する実行するノコギリ変速モード制御のフローチャートである。
【0053】
この
図6に示すフローチャートは、変速機コントローラ12において、通常の変速制御と平行して、所定の周期(例えば10ms毎)に実行される。
【0054】
変速機コントローラ12は、アクセル開度APO、車速VSP及びプライマリ回転速度Npriを取得する(S101)。
【0055】
次に、変速機コントローラ12のノコギリ変速モード判定部50は、取得したアクセル開度APO、車速VSP及びプライマリ回転速度Npriから、ノコギリ変速モードであるか否かを判定するノコギリ変速判定を行う(S102)。具体的には、アクセル開度APOが所定開度(例えば5/8)以上であり、かつ、アクセル開速度dAPOが所定開速度(例えば5/8/s)以上である場合に、ノコギリ変速モードと判定する。
【0056】
ノコギリ変速モードと判定されなかった場合は、本フローチャートによる処理を終了し、通常の変速処理に戻る。
【0057】
ノコギリ変速モードと判定された場合は、ステップS103に移行し、変速機コントローラ12の目標変速比設定部51は、ノコギリ変速モード変速マップ53を参照して、目標スルー変速比tRatioを設定する。変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するように油圧制御回路11に指令を行って、バリエータ20及び副変速機構30の変速比を制御する。
【0058】
次に、ステップS104に移行して、アップシフト判定マップ52に基づいて、アップシフトを行うか否かのアップシフト判定を行う。具体的には、変速機コントローラ12は、予め記憶されているアップシフト判定マップ52を参照して、アクセル開度APOとプライマリ回転速度Npriとの関係に元づき、エンジン回転速度Neが閾値を超えたか否かを判定する。なお、ノコギリ変速モードにおけるアップシフト判定マップ52は、通常の変速と比較して、プライマリ回転速度Npriがより高回転速度側でアップシフトするように設定されている。
【0059】
アップシフトを行うと判定されなかった場合は、本フローチャートによる処理を終了し、通常の変速処理に戻る。
【0060】
アップシフトを行うと判定した場合は、ステップS105に移行して、変速機コントローラ12は、目標スルー変速比tRatioをアップシフト側に所定の変速比までステップ状に設定する。変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するように油圧制御回路11に指令を行って、バリエータ20及び副変速機構30の変速比を制御する。その後、本フローチャートによる処理を終了し、通常の変速処理に戻る。
【0061】
このような処理によって、ノコギリ変速が行われる。
【0062】
ところで、このようなノコギリ変速を行った場合に、次のような問題が発生する。
【0063】
前述のように、エンジン回転速度Neが所定の閾値(
図5における点線)を超えたとき、アップシフト判定マップ52に基づいてアップシフトを行う。
【0064】
ここで、エンジン1の出力トルクが比較的小さい小型のエンジンを搭載した小型車の場合は、アクセル開度APOが大きい場合にも、エンジン回転速度Neが所定の閾値となるまでの時間が長くなる。
【0065】
また、小型車では、エンジン回転速度Neが
図5における点線を越えたときにアップシフトを行うように制御するため、エンジン回転速度Neはアップシフト判定マップ52により所定の回転速度で頭打ちとなってしまう。このため、エンジン回転速度Neをさらに高い領域(例えばオーバーレブとなる寸前の領域)まで用いてトルクをさらに上昇させることができない。すなわち、エンジン回転速度Neの上昇に伴って車速が上昇するという運転状態の継続時間が短くなり、運転者に十分な加速感を与えることができないので、加速フィーリングが低下するという問題があった。
【0066】
そこで、本発明の実施の形態の変速機コントローラ12は、次のように制御を行うことにより、エンジン回転速度Neを可能な限り上昇させて、運転者に加速感を与え、加速フィーリングを向上した。
【0067】
図7は、本発明の実施形態のノコギリ変速モード変速マップ53の一例の説明図である。
【0068】
図7に示すノコギリ変速モード変速マップ53は、アクセル開度APO毎に、それぞれ目標スルー変速比tRatioとエンジン回転速度Neとの対応を示す変速線が示されている。なお、
図7では、アクセル開度APOが、2/8、4/8、6/8及び8/8である場合のみを示す。
【0069】
ノコギリ変速モード変速マップ53において、それぞれの変速線は、エンジン回転速度Neに対して目標スルー変速比tRatioが概ね一定であるが、エンジン回転速度Neが大きい領域(図中点線で示すよりも右側の領域)では、エンジン回転速度Neが上昇するにつれて目標スルー変速比tRatioが大きく、すなわち、Low側に変速比が変化するように設定されている。
【0070】
この点線よりも右側の領域は、
図5で前述したように、エンジン回転速度Neの上昇に対して、エンジン1の出力トルクが減少する領域(H領域)である。また、変速線のLow側への変速比の変化は、このH領域におけるトルクの落ち込みを補うような変化とする。
【0071】
具体的には、より高いエンジン回転速度Ne(
図5における点線より右側の領域、又は
図7における点線より右側の領域)でアップシフトするように、ノコギリ変速モードにおけるアップシフト判定マップ52を変更する。そして、ノコギリ変速モード変速マップ53に基づいた変速制御を行う。すなわち、エンジン回転速度Neが時間に比例して上昇するとした場合に、
図5におけるL領域のトルクの変化がH領域にも継続できるように、変速比をLow側に変速させてエンジン回転速度Neの変化速度を上昇させるように、H領域のトルクの落ち込みに対応した曲線で変速線を設定する。エンジン回転速度Neの変化速度を上昇させることにより、
図5における一点鎖線のようにトルクを上昇させることができる。
【0072】
ノコギリ変速モード変速マップ53をこのように設定することによって、エンジン回転速度Neの上昇に対してエンジン1の出力トルクが低下する領域において、エンジン回転速度Neをさらに上昇させることにより、エンジン1の出力トルクの落ち込み分を補って加速感を維持することができる。
【0073】
次に、このようなノコギリ変速モード変速マップに基づく変速制御を説明する。
【0074】
図8は、本発明の実施形態の変速機4における変速制御を示すタイムチャートである。
【0075】
図8において、アクセル開度APO、ノコギリ変速モード判定状態、エンジン回転速度Ne、目標プライマリ回転速度dNpri、変速比Ratio、車速VSP及び車両の加速度が、それぞれ時間を横軸としたタイムチャートとして示されている。なお、目標プライマリ回転速度dNpriは、エンジン回転速度Neと目標スルー回転速度tRatioとに基づいた制御値である。
【0076】
前述のように、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んで、アクセル開度APO及びアクセル開速度dAPOが所定条件を満たした場合に、変速機コントローラ12は、運転者からの加速意図が大きいと判断して、ノコギリ変速モードへと移行すると判定する(タイミングt1)。
【0077】
ノコギリ変速モードに移行した場合は、変速機コントローラ12は、ノコギリ変速モード変速マップ53を参照して、現在のアクセル開度APO及び車速VSPから、目標スルー変速比tRatioを決定する。変速機コントローラ12は、決定した目標スルー変速比tRatioに現在の実変速比Ratioが追従するように変速比を制御する。なお、ここでは、目標プライマリ回転速度dNpriを算出し、プライマリ回転速度Npriが目標プライマリ回転速度dNpriに追従するように、変速比を制御する。
【0078】
なお、ノコギリ変速モードを判定した最初の変速制御(タイミングt1〜t2)においては、車両の挙動が過剰とならないように、変速比を徐々に変化させた後、変速比を略一定に抑制する。
【0079】
その後、エンジン回転速度Neが上昇して、エンジン回転速度Ne及びアクセル開度APOに基づいて、アップシフト判定マップ52によってアップシフトを行うと判定した場合は、変速機コントローラ12は、このアップシフトに基づいた目標プライマリ回転速度dNpriを設定して、変速比Ratioを所定の変速比へとアップシフト制御を行う(第2の変速制御)。
【0080】
このとき、変速機コントローラ12は、変速比の変更の応答を高めるために、目標プライマリ回転速度dNpriを、低回転速度側に過渡的に設定して制御をアンダーシュートさせる。その後、ノコギリ変速モード変速マップ53に基づいた制御を行う。
【0081】
タイミングt2においてエンジン回転速度Neが一旦減少するが、その後、ノコギリ変速モード変速マップ53に基づいて、変速比Ratioを制御する。これにより変速比の変化が抑制されて、エンジン回転速度Neの上昇に伴って車速VSPが上昇するという加速感が得られる。
【0082】
また、ノコギリ変速モード変速マップ53において、変速比がLow側に変化する領域すなわち、
図7における点線よりも右側の領域となった場合は、このノコギリ変速モード変速マップ53に基づいて変速比がLow側に変化する(タイミングt3)。これによりエンジン回転速度Neが上昇されて、エンジン1の出力トルクが低下する領域においても、加速度が維持される。
【0083】
その後、再びアップシフト判定マップ52に基づいてアップシフトを行う第2の変速制御を行った後(タイミングt4)、ノコギリ変速モード変速マップ53に基づいて変速比を制御する第1の変速制御を行う(タイミングt4〜t6)。
【0084】
このように、第2の変速制御(タイミングt2、t4、t6、t8、t10)と、第1の変速制御(タイミングt2〜t4、t4〜t6、t6〜t8、t7〜t10)を繰り返すことによって、運転者は、アクセル開度APOに基づくエンジン回転速度Neの上昇(プライマリ回転速度Npriの上昇)につれて車速VSPが上昇する加速感を得ることができる。
【0085】
変速機コントローラ12は、アクセル開度APO又はアクセルペダルを戻したときの開速度(アクセル戻し速度−dAPO)に基づいて、ノコギリ変速を判定する。アクセル開度APOが所定開度を下回った場合、又は、アクセル戻し速度−dAPOが所定戻し速度を上回った場合に、ノコギリ変速モードを終了して
図3に示す変速マップに基づく通常の変速モードに戻る。
【0086】
なお、運転者がアクセルペダルの踏込み後のアクセルペダルを若干戻したとしても、ノコギリ変速モードは継続する。すなわち、運転者は車両の挙動(速度、加速度、エンジン音等)に反応してアクセルペダルの踏み込み量を細かく変化させている。そのため、アクセルペダルを大きく戻さない限りは、加速意図は継続しているものとして、ノコギリ変速モードを継続する。
【0087】
例えば、
図8において、タイミングt8においてアクセル開度APOが点線のように若干(例えばアクセル開度APOが0.5/8だけ)戻されたとしても、加速意図は継続していると判断して、ノコギリ変速モードは継続する。
【0088】
また、本実施形態では、
図7に示すように、エンジン回転速度Neの上昇に対してエンジン1の出力トルクが低下する領域において、変速比をLow側に変速させてエンジン回転速度Neの変化速度を上昇させるように、H領域のトルクの落ち込みに対応した変速線を設定している。なお、
図7の点線部分より右側の領域において、変速比の変化が、曲線状に変化するように変速線を設定してもよいし、変速比の変化が直線状に(リニアに)変化するように変速線を設定してもよい。
【0089】
エンジン1の出力トルクはエンジンの特性や走行状態によって変化するため、理想のトルク特性に必ずしも一致させる必要はなく、トルクの落ち込みに対してエンジン回転速度Neを上昇させる仕組みを持つことが本発明の特徴である。
【0090】
また、第2の変速制御において、目標スルー変速比tRatioをアップシフト側に所定の変速比までステップ状に設定するとした。このアップシフト量は、直後の第1の変速制御において運転者が加速感を得られるような適切な変速比へとアップシフトさせる。
【0091】
特に、運転者の加速意図が大きい場合は、よりHigh側へとアップシフトさせてエンジン回転速度Neをより低回転速度側に落とした後、第1の変速制御においてエンジン回転速度Neを上昇させるように制御することで、より大きな加速感を得ることができる。
【0092】
以上のように、本発明の実施形態では、車両に搭載され駆動力源としてのエンジン1の回転速度を無段階に変速して出力する無段変速機(バリエータ20)の変速比を制御する変速制御部としての変速機コントローラ12を備える変速制御装置であって、変速機コントローラ12は、車両の運転状態、例えば運転者からの加速要求に基づいて、変速比Ratioの変化を抑制する第1の変速制御と、変速比Ratioを所定の変速比へとアップシフトさせる第2の変速制御とを実行し、第1の変速制御において、変速比Ratioの変化を抑制させた後、第2の変速制御に移行する前に変速比をLow側へと変速させるように構成されている。
【0093】
このように、変速比の変化を抑制する第1の変速制御と、変速比を所定の変速比へとアップシフトさせる第2の変速制御とを行って、エンジン回転速度の上昇に伴い車速が増加するという加速感を与えることができる。さらに、第1の変速制御から第2の変速制御に移行する前に、変速比をLow側に変速させて、エンジン回転速度を大側に移行させるので、エンジン回転速度が上昇するにもかかわらずエンジンの発生トルクが減少する領域において、Low側に変速させてトルクが減少する分だけエンジン回転速度を上昇させるので、特に、出力が小さいエンジン1を搭載した小型車であっても、加速感が減少することがなくなる。これは請求項1の効果に対応する。
【0094】
また、変速機コントローラ12は、エンジン1の回転速度の上昇に対して出力トルクが下降する状態である場合に、前記第1の変速制御において、前記出力トルクの下降分に応じて、または、所定の変速速度で、前記変速比をLow側へと変速させるので、エンジン回転速度Neの上昇に対してエンジン1の出力トルクが低下する領域において、エンジン1の出力トルクの落ち込み分を補って加速感を維持することができるこれは請求項2及び3の効果に対応する。
【0095】
また、変速機コントローラ12は、第2の変速制御において、所定の変速比よりもHigh側の変速比へと過渡的に指令を行った後に、所定の変速比にアップシフトを行うので、変速初期における変速速度が速くなり、変速に要する時間が短縮されて、加速感を減少させることがない。これは請求項4の効果に対応する。
【0096】
また、変速機コントローラ12は、運転者の加速意図が大きいほど、前記第2の変速制御において、前記所定の変速比をよりHigh側へとアップシフトさせるので、エンジン回転速度Neをより低回転速度側に落とした後、第1の変速制御においてエンジン回転速度Neを上昇させるように制御することで、より大きな加速感を得ることができる。これは請求項5の効果に対応する。
【0097】
また、変速機コントローラ12は、車両のアクセル開度APOの戻し量が所定の戻し開度(例えば0.5/8)以上戻されていない、又は、アクセル戻し速度が所定の戻し速度(例えば0.5/8/S)以上戻されていない場合は、第1の変速制御と第2の変速制御とを継続するので、アクセルペダルの多少の戻しではノコギリ変速モードを終了せず継続することができる。これは請求項6の効果に対応する。
【0098】
また、変速機コントローラは、アクセル開度APOが所定開度以上かつアクセル開速度dAPOが所定開速度以上であるときに、ノコギリ変速モードに移行するので、運転者の加速意図があった場合に、運転者に加速感を与える運転状態を提供することができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0100】
上記実施形態では、エンジン回転速度Neの上昇によるトルクの落ち込みに対して、変速比をLow側に変速させるように制御したが、これに限られない。例えば、エンジン回転速度Neが低下してトルクが不足したときにも、変速比をLow側に変速させるように制御してもよい。また、エンジン回転速度Neとトルクとの乗算で表される駆動力の低下に対応させて、変速比をLow側に変速させるように制御してもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、バリエータ20としてベルト式無段変速機構を備えているが、バリエータ20は、Vベルト23の代わりにチェーンがプーリ21、22の間に掛け回される無段変速機構であってもよい。あるいは、バリエータ20は、入力ディスクと出力ディスクの間に傾転可能なパワーローラを配置するトロイダル式無段変速機構であってもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、副変速機構30は前進用の変速段として1速と2速の2段を有する変速機構としたが、副変速機構30を前進用の変速段として3段以上の変速段を有する変速機構としても構わない。また、副変速機構30を備えない構成であってもよい。
【0103】
また、副変速機構30をラビニョウ型遊星歯車機構を用いて構成したが、このような構成に限定されない。例えば、副変速機構30は、通常の遊星歯車機構と摩擦締結要素を組み合わせて構成してもよいし、あるいは、ギヤ比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成してもよい。
【0104】
また、プーリ21、22の可動円錐板を軸方向に変位させるアクチュエータとして油圧シリンダ23a、23bを備えているが、アクチュエータは油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。