特許第5669831号(P5669831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669831
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/10 20060101AFI20150129BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20150129BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150129BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   C10M137/10 A
   C10N10:04
   C10N30:06
   C10N40:25
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-514464(P2012-514464)
(86)(22)【出願日】2010年6月9日
(65)【公表番号】特表2012-529548(P2012-529548A)
(43)【公表日】2012年11月22日
(86)【国際出願番号】EP2010058085
(87)【国際公開番号】WO2010142724
(87)【国際公開日】20101216
【審査請求日】2013年6月7日
(31)【優先権主張番号】09162431.2
(32)【優先日】2009年6月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】エルビッジ ベンジャミン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュース マーク デビッド
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−207191(JP,A)
【文献】 特開平10−245579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00、
C10N40/25−40/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
(A) 過半比率の潤滑粘度の油、
(B) 組成物の50質量%未満の添加剤成分としての、ジチオリン酸の別々に調製された油溶性亜鉛塩、ここで、該ジチオリン酸は五硫化リンと一種以上のアルコールの反応生成物であり、その一種以上のアルコールの少なくとも50モル%が式ROH (式中、Rは線状のC18-C26二重結合不飽和ヒドロカルビル基である)を有する、及び
(C) 組成物の50質量%未満の添加剤成分としての、ジチオリン酸の別々に調製された油溶性亜鉛塩、ここで、該ジチオリン酸は五硫化リンと一種以上の脂肪族アルコール(これは一種以上のアルコールからなり、夫々が3個から8個までの炭素原子を有する二級脂肪族アルコールである)の反応生成物である、を含み、又は混合することによりつくられ、
(B)が、(B)および(C)の合計モル数の50モル%より多い、
有機摩擦改質剤を含まない潤滑油組成物。
【請求項2】
(B) 中、一種以上のアルコールの70〜100 モル%が前記式ROHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(B) 中、式ROH のアルコール以外の、一種以上のアルコールが式R1OH(式中、R1は3〜12個の炭素原子を有し、かつアルキル基又はアルケニル基である)を有する、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
式中、R1は3〜10個の炭素原子を有し、かつアルキル基又はアルケニル基である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
式中、R1は5〜8個の炭素原子を有し、かつアルキル基又はアルケニル基である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
式中R1はアルキル基である、請求項3〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
(B) 中、Rが線状C18 〜C22 不飽和ヒドロカルビル基である、請求項1からのいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
Rが線状C18 不飽和ヒドロカルビル基である、請求項記載の組成物。
【請求項9】
Rがオレイル基である、請求項記載の組成物。
【請求項10】
(C) 中、一種以上の二級脂肪族アルコールが4〜8個の炭素原子を有する、請求項1からのいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
(B) 及び(C) とは異なる、その他の添加剤成分が存在し、無灰分散剤、金属洗剤、腐食抑制剤、酸化防止剤、流動点降下剤、耐磨耗剤、解乳化剤、消泡剤及び粘度改質剤の一種以上から選ばれる、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
(B) 及び(C) が一緒になってリン原子として表して、0.02〜0.09質量%のリンを組成物に導入する、請求項1から11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
(B) 及び(C) が一緒になってリン原子として表して、0.02〜0.08質量%のリンを組成物に導入する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
(B) 及び(C) が一緒になってリン原子として表して、0.02〜0.06質量%のリンを組成物に導入する、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
自動車潤滑油組成物の摩擦改質特性を改良する方法であって、その方法がその組成物に少量の請求項1からのいずれかに記載の添加剤成分(B) を混入することを含む、前記方法。
【請求項16】
内燃チャンバーの燃焼チャンバーの表面をその運転中に潤滑する方法であって、その方法が
(i) 過半量の潤滑粘度の油中の、夫々組成物の50質量%未満の、請求項1からのいずれかに記載の亜鉛塩(B) 及び(C) を用意して潤滑油組成物をつくって、その組成物の摩擦改質特性を改良し、
(ii) その潤滑油組成物を燃焼チャンバー中に用意し、
(iii) 炭化水素燃料を燃焼チャンバー中に用意し、そして
(iv) その燃料を燃焼チャンバー中で燃焼することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車潤滑油組成物、更に特別にはピストンエンジン、特に、ガソリン(火花点火)及びディーゼル(圧縮点火)中の使用、クランクケース潤滑のための自動車潤滑油組成物(このような組成物はクランクケース潤滑剤と称される)に関する。特に、本発明は自動車潤滑油組成物中の摩擦改質特性を有する添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケース潤滑剤は内燃エンジンにおける一般の潤滑のために使用される油であり、この場合、オイル・サンプが一般にエンジンのクランクシャフトの下に配置され、それに循環油が戻る。添加剤を幾つかの目的のためにクランクケース潤滑剤中に含むことは公知である。
摩擦改質剤(また摩擦低減剤と称される)は、摩擦係数を低下することにより作用し、それ故、燃料経済性を改良する境界添加剤であり得る。摩擦改質剤としてのグリセロールモノエステルの使用が当業界で、例えば、米国特許第4,495,088号、同第4,683,069号、EP-A-O 092946、及びWO-A-01/72933に記載されていた。グリセロールモノエステル摩擦改質剤は商用されていたし、また商用されている。更に、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩の形態のリンが内燃エンジン用の潤滑油組成物中の極圧添加剤、耐磨耗添加剤及び酸化防止添加剤として使用されていた。その金属は亜鉛、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルもしくは銅であってもよい。これらのうち、ジヒドロカルビルジチオリン酸の亜鉛塩(ZDDP)が最も普通に使用されている。
有機摩擦改質剤はそれらが一層高い処理率で、潤滑剤中に使用される、金属洗剤コロイドと非相溶性になる傾向のために潤滑剤中の制限された処理率を有するかもしれない。米国特許第5,013,465号('465)は摩擦改質剤と組み合わせてZDDPを使用することの問題を説明している(1欄、24-39 行)。それは解決策、即ち、適当な比率の、単純なC4-C10アルコールと或る種の一層極性の置換アルコールの混合物を使用して、優れた取扱特性を有する摩擦改質ZDDPをつくることを提案している。'465は、通常、自動車液体油溶性製品を製造するために、モル基準で、極性置換アルコールよりも単純なアルコールが多いと記述している(2欄、57-59 行)。EP-A-2161326はモリブデン添加剤と組み合わせての同様の添加剤の使用を記載している。
DE 941 218 Cはオレイルアルコール/P2S5 反応生成物の亜鉛塩を記載しているが、それが潤滑剤摩擦改質特性を有することをいずれにも記載しておらず、また示唆していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
先に注目したように、'465の開示はZDDPに混入し得る摩擦改質物の量で制限される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は有機摩擦改質剤の実質的な、別々の添加を必要としないで摩擦改質特性を潤滑剤に与えることがわかった或る種のアルコールからZDDPを製造することにより上記問題を満足する。'465の解決策とは対照的に、本発明は単純なアルコールより極性ではないアルコールを単純なアルコールのモル比率より大きいモル比率で使用する。こうして、摩擦改質剤の極めて高い比率が混入されてもよく、しかも単純なアルコールが使用される必要がないかもしれない。
第一の局面に従って、本発明は
(A) 過半比率の潤滑粘度の油、
(B) 小比率の添加剤成分としての、ジチオリン酸の別々に調製された油溶性亜鉛塩、ここで、該ジチオリン酸は五硫化リンと一種以上のアルコールの反応生成物であり、その一種以上のアルコールの少なくとも50モル%が式ROH (式中、Rは線状のC18-C26飽和又は二重結合不飽和ヒドロカルビル基である)を有する、及び
(C) 小比率の添加剤成分としての、ジチオリン酸の別々に調製された油溶性亜鉛塩、ここで、該ジチオリン酸は五硫化リンと一種以上の脂肪族アルコール(一種以上のアルコールからなり、夫々が3個から8個までの炭素原子を有する)の反応生成物である、
を含み、又は混合することによりつくられ、有機摩擦改質剤を含まない潤滑油組成物を提供する。
【0005】
第二の局面に従って、本発明は潤滑油組成物の摩擦改質特性を改良する方法を提供し、その方法はその組成物に少量の本発明の第一の局面に特定された添加剤成分(B) を混入することを含む。
第三の局面に従って、本発明は内燃チャンバーの燃焼チャンバーの表面をその運転中に潤滑する方法を提供し、その方法は
(i) 過半量の潤滑粘度の油中の、夫々少量の、本発明の第一の局面に特定された亜鉛塩(B)及び(C) を用意して潤滑油組成物をつくって、その組成物の摩擦改質特性を改良し、
(ii) その潤滑油組成物を燃焼チャンバー中に用意し、
(iii) 炭化水素燃料を燃焼チャンバー中に用意し、そして
(iv) その燃料を燃焼チャンバー中で燃焼することを含む。
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合に、以下の特有の意味を有する。
【0006】
“活性成分”又は“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤を表す。
“含む”又は同義語は記述された特徴、工程、又は整数もしくは成分の存在を明記するが、一つ以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらのグループの存在又は追加を排除しない。“からなる”又は“実質的にからなる”という表現或いは同義語は“含む”又はその同義語の中に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特徴に実質的に影響しない物質の包含を許す。
“ヒドロカルビル”は水素原子及び炭素原子のみを含み、炭素原子を介して化合物の残部に直接結合されている化合物の化学基を意味する。
本明細書に使用される“油溶性”もしくは“油分散性”、又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又はあらゆる比率で油中で懸濁し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、これらの用語は、それらが、例えば、油が使用される環境でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度で油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、その他の添加剤の追加の混入がまた所望により一層高レベルの特別な添加剤の混入を許すかもしれない。
“過半量”は組成物の50質量%を超える量を意味する。
“少量”は組成物の50質量%未満を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
“リン含量”はASTM D5185により測定され、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定され、また
“硫酸塩灰分”はASTM D874 により測定される。
また、使用される種々の成分(必須のものだけでなく、最適のもの及び通例のもの)は、配合、貯蔵又は使用の条件下で反応してもよいこと、及び本発明がまたあらゆるこのような反応の結果として得られ、又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示される量、範囲及び比の上限及び下限は独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
適当な場合に、本発明の夫々の局面及び全ての局面に関する本発明の特徴が、今以下に更に詳しく説明されるであろう。
潤滑粘度の油(A)
潤滑粘度の油(しばしば“原料油”又は“ベースオイル”と称される)は潤滑剤の液体主成分であり、これに添加剤そしておそらくその他の油が、例えば、最終の潤滑剤(又は潤滑剤組成物)を生成するためにブレンドされる。
ベースオイルは濃厚物をつくるだけでなく、それから潤滑油組成物をつくるのに有益であり、天然(植物、動物又は鉱物)及び合成の潤滑油並びにこれらの混合物から選ばれてもよい。それは軽質蒸留鉱油から重質潤滑油まで、例えば、ガスエンジンオイル、潤滑鉱油、自動車オイル及びヘビーデューティディーゼルオイルの粘度の範囲であってもよい。一般に、油の粘度は100℃で、2Ws-1から30 Ws-1まで、特に5〜20Ws-1の範囲である。
【0008】
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶剤処理された潤滑鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルである。
合成潤滑油として、炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。これらのエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
【0009】
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール並びにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の組成物中に使用し得る。未精製油は更に精製処理しないで天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油、又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油はそれらが一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理された以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は既に商用された精製油に適用される、精製油を得るのに使用される方法と同様の方法により得られる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物の認可のための技術によりしばしば更に加工される。
ベースオイルのその他の例は合成軽油(gas-to-liquid(“GTL”))ベースオイルであり、即ち、ベースオイルはフィッシャー-トロプッシュ触媒を使用して水素及び一酸化炭素を含む合成ガスからつくられたフィッシャー-トロプッシュ合成炭化水素から誘導されたオイルであってもよい。これらの炭化水素は典型的にはベースオイルとして有益であるために更なる加工を必要とする。例えば、それらは、当業界で知られている方法により、水素異性化されてもよく、ハイドロクラッキングされ、水素異性化されてもよく、脱蝋されてもよく、又は水素異性化され、脱蝋されてもよい。
ベースオイルはAPI EOLCS 1509定義に従ってグループI〜Vにカテゴリー化されてもよい。
【0010】
潤滑粘度の油が濃厚物をつくるのに使用される場合、それは濃厚物生成量(例えば、30質量%から70質量%まで、例えば、40〜60質量%)で存在して、必要により一種以上の補助添加剤とともに、例えば、1〜90質量%、例えば、10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは20〜70質量%(活性成分)の本発明の一種以上の添加剤を含む濃厚物を与える。濃厚物中に使用される潤滑粘度の油は好適な油性の、典型的には炭化水素、キャリヤー液体、例えば、潤滑鉱油、又はその他の好適な溶媒である。潤滑粘度の油、例えば、本明細書に記載されたものだけでなく、脂肪族、ナフテン系、及び芳香族の炭化水素が、濃厚物に適したキャリヤー液体の例である。
濃厚物はそれらの使用の前に添加剤を取り扱うだけでなく、潤滑油組成物中の添加剤の溶解又は分散を促進するのに便利な手段を構成する。一種より多い型の添加剤(しばしば“添加剤成分”と称される)を含む潤滑油組成物を調製する場合、夫々の添加剤が、夫々濃厚物の形態で、別々に混入されてもよい。しかしながら、多くの場合、単一濃厚物中に一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものを含む所謂添加剤“パッケージ”(また“アドパック”と称される)を用意することが便利である。
潤滑粘度の油は、少量の本明細書に特定された添加剤成分、(B) 及び(C) 、また必要により、一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものと組み合わせて、過半量で用意されて潤滑油組成物を構成してもよい。この調製は添加剤を油に直接添加することにより、又はそれをその濃厚物の形態で添加して添加剤を分散もしくは溶解することにより達成されてもよい。添加剤はその他の添加剤の添加の前、同時、又はその後に当業者に知られているあらゆる方法により油に添加されてもよい。
潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、好ましくは55質量%より多く、更に好ましくは60質量%より多く、更に好ましくは65質量%より多い量で存在する。潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、好ましくは98質量%未満、更に好ましくは95質量%未満、更に好ましくは90質量%未満の量で存在する。
【0011】
本発明において、潤滑粘度の油は、夫々少量の成分(B) 及び(C) 、また必要により、一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものと組み合わせて、過半量で用意されて、潤滑油組成物を構成してもよい。この調製は添加剤を油に直接添加することにより、又はそれをその濃厚物の形態で添加して添加剤を分散もしくは溶解することにより達成されてもよい。添加剤はその他の添加剤の添加の前、同時、又はその後に当業者に知られているあらゆる方法により油に添加されてもよい。
本明細書に使用される“油溶性”もしくは“油分散性”という用語、又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又はあらゆる比率で油中で懸濁し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、これらは、それらが、例えば、油が使用される環境でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度で油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、その他の添加剤の追加の混入がまた所望により一層高レベルの特別な添加剤の混入を許すかもしれない。
本発明の潤滑油組成物は、特に内燃エンジン、例えば、火花点火又は圧縮点火2又は4ストローク往復エンジン中の、機械エンジン部品を、それにその組成物を添加することにより潤滑するのに使用されてもよい。それらはクランクケース潤滑剤であることが好ましい。
本発明の潤滑油組成物は油性キャリヤーと混合する前及び後に化学的に同じに留まってもよく、又は留まらなくてもよい特定成分を含む。本発明は混合の前、もしくは混合の後、又は混合の前及び後の両方で特定成分を含む組成物を含む。
濃厚物が潤滑油組成物をつくるのに使用される場合、それらは、例えば、濃厚物の質量部当り3〜100質量部、例えば、5〜40質量部の潤滑粘度の油で希釈されてもよい。
本発明の潤滑油組成物は低レベルのリン、即ち、組成物の合計質量を基準として、リンの原子として表して、0.09質量%以下、好ましくは0.08質量%まで、更に好ましくは0.06質量%までのリンを含んでもよい。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫黄を含んでもよい。潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、硫黄の原子として表して、好ましくは0.4質量%まで、更に好ましくは0.3質量%まで、最も好ましくは0.2質量%までの硫黄を含む。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫酸塩灰分を含んでもよい。潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、1.0質量%まで、好ましくは0.8質量%までの硫酸塩灰分を含むことが好ましい。
好適には、潤滑油組成物は4〜15、好ましくは5〜11の全アルカリ価(TBN) を有してもよい。
【0012】
添加剤成分(B)
(B) において、Rは、記述されたように、線状のC18-C26 飽和又は二重結合不飽和ヒドロカルビル基である。Rは好ましくはC18-C22 、更に好ましくはC18 基である。
飽和ヒドロカルビル基はアルキル基である。不飽和ヒドロカルビル基は一つ以上の二重結合不飽和の源を有し、こうしてそれは、例えば、アルケニル基又はアルカジエニル基であってもよい。
ステアリル基及びオレイル基、特にオレイルがRの注目に値する例である。
(B) は塩基性亜鉛化合物をジチオリン酸(五硫化リンを一種以上のアルコール(その少なくとも50モル%が式ROH を有する)と反応させることにより得られる)と反応させることにより得られる。例えば、一種以上のアルコールの60モル%から100 モル%まで、例えば、70〜100 モル%、例えば、75〜100 モル%、例えば、90〜100 モル%が式ROHを有してもよい。特に、一種以上のアルコールの全てが式ROH を有してもよい。
Rは本明細書に特定されたアルコールROH の混合物から誘導された混合物であってもよい。
式ROH のアルコール以外の、あらゆる一種以上のアルコールが式R1OH(式中、R1はアルキル基又はアルケニル基、好ましくはアルキル基であり、かつ3〜12個、例えば、3〜10個、例えば、5〜8個の炭素原子を有する)を有してもよい。
こうして、添加剤成分(B) は塩基性亜鉛化合物をジチオリン酸(五硫化リンを50モル%から100 モル%までの式ROH の一種以上のアルコールと、残部(存在する場合)としての式R1OHの一種以上のアルコールを含む混合物と反応させることにより得られる)と反応させることにより生成される。
ROH から得られるジチオリン酸は式(RO)2P(S)SHを有してもよく、それから得られる亜鉛塩は式[(RO)2P(S)S]2Znを有してもよい。
【0013】
添加剤成分(C)
添加剤成分(C) は専ら3-8 個の炭素原子を有する一種以上の脂肪族アルコールからつくられ、それ故、それに応じて小さい脂肪族基を含む。それは潤滑油組成物の耐磨耗性の如き性質を高めるために存在する。添加剤成分(C) の例が当業界で知られており、市販されている。脂肪族基、好ましくはアルキル基が全て二級もしくは全て一級又は二級と一級の両方であってもよい。それらは、例えば、4〜8個の炭素原子を含んでもよく、それらは同じであってもよく、また異なっていてもよい。
脂肪族基の少なくとも一部が二級脂肪族基を含むことが好ましい。例えば、脂肪族基の60モル%より大きく、好ましくは70モル%より大きく、更に好ましくは80モル%より大きく、更に好ましくは90モル%より大きく、例えば、全てが二級脂肪族基であってもよい。二級脂肪族基の例として、sec-ブチル及びα-メチル-2-ペンチルが挙げられるかもしれない。残りは一級脂肪族基であってもよい。
好適には、潤滑油組成物が0.02〜0.09質量%、好ましくは0.02〜0.08質量%、更に好ましくは0.02〜0.06質量%のリンをその組成物に導入する量の添加剤成分(B) 及び(C) を含む。
好適には、添加剤成分(B) 及び(C) が潤滑油組成物の合計質量を基準として、潤滑油組成物の0.1 〜10質量%、好ましくは0.1 〜5質量%、更に好ましくは0.1 〜2質量%の量で存在する。
好適には、(B) が(B) 及び(C) の合計モル数の50モル%より多く、例えば、70〜95モル%、例えば、75〜90モル%を構成する。
本発明の好ましい実施態様に従って、添加剤成分(B) 及び(C) が潤滑油組成物中の唯一のリン含有添加剤成分に相当する。
添加剤成分(B) 及び(C) の夫々の一種以上が存在してもよい。
有機摩擦改質剤が除かれる。除かれる有機摩擦改質剤の例は高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、グリセリルモノ-オレエート、長鎖ポリカルボン酸とジオールのエステル、例えば、二量体化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル、オキサゾリン化合物、並びにアルコキシル化アルキル置換モノ-アミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化牛脂アミン及びエトキシル化牛脂エーテルアミンである。
【0014】
補助添加剤
添加剤成分(B) 及び(C) と異なる、また存在してもよい補助添加剤が、代表的な有効量とともに、以下にリストされる。リストされた全ての値は活性成分質量%として記述される。
添加剤 質量% 質量%
(広い範囲) (好ましい範囲)
無灰分散剤 0.1-20 1-8
金属洗剤 0.1-15 0.2-9
摩擦改質剤 0-5 0-1.5
腐食抑制剤 0-5 0-1.5
金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート 0-10 0-4
酸化防止剤 0-5 0.01-3
流動点降下剤 0.01-5 0.01-1.5
消泡剤 0-5 0.001-0.15
補充耐磨耗剤 0-5 0-2
粘度改質剤(1) 0-6 0.01-4
鉱物又は合成ベースオイル 残部 残部
(1) 粘度改質剤はマルチグレードオイル中でのみ使用される。
典型的には添加剤又は夫々の添加剤をベースオイルにブレンドすることによりつくられた、最終潤滑油組成物は、5質量%から25質量%まで、好ましくは5〜18質量%、典型的には7〜15質量%の補助添加剤を含んでもよく、残部は潤滑粘度の油である。
上記補助添加剤が以下のように更に詳しく説明される。当業界で知られているように、或る種の添加剤は多くの効果を与えることができ、例えば、単一添加剤が分散剤及び酸化抑制剤として作用し得る。
【0015】
分散剤はその主たる機能が固体及び液体の汚染物を懸濁して保持し、それによりそれらを不動態化し、エンジン付着物を減少すると同時にスラッジ付着物を減少する添加剤である。例えば、分散剤は潤滑剤の使用中に酸化から生じる油不溶性物質を懸濁して維持し、こうしてスラッジ凝集及びエンジンの金属部分上の沈殿又は付着を防止する。
分散剤は、上記のように、通常“無灰”であり、金属を含み、それ故、灰を形成する物質とは対照的に、燃焼時に灰を実質的に形成しない非金属有機物質である。それらは極性頭部を有する長い炭化水素長鎖を含み、その極性は、例えば、O原子、P原子、又はN原子の組み込みから誘導される。その炭化水素は、例えば、40〜500個の炭素原子を有する、油溶性を与える親油性基である。こうして、無灰分散剤は油溶性ポリマー主鎖を含んでもよい。
オレフィンポリマーの好ましいクラスは、ポリブテン、特に、例えば、C4製油所流の重合により調製し得るような、ポリイソブテン(PIB)又はポリ-n-ブテンにより構成される。
分散剤として、例えば、長鎖炭化水素置換カルボン酸の誘導体が挙げられ、例は高分子量ヒドロカルビル置換コハク酸の誘導体である。分散剤の注目に値するグループは、例えば、上記酸(又は誘導体)を窒素含有化合物、有利にはポリアルキレンポリアミン、例えば、ポリエチレンポリアミンと反応させることによりつくられた、炭化水素置換スクシンイミドにより構成される。ポリアルキレンポリアミンとアルケニル無水コハク酸の反応生成物、例えば、米国特許第3,202,678号、同第3,154,560号、同第3,172,892号、同第3,024,195号、同第3,024,237号、同第3,219,666号、及び同第3,216,936号に記載されたものが特に好ましく、それらはそれらの性質を改良するために、後処理、例えば、ホウ化(米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に記載されたような)、フッ素化そしてオキシル化されてもよい。例えば、ホウ化はアシル窒素含有分散剤をホウ素酸化物、ホウ素ハロゲン化物、ホウ素酸及びホウ素酸のエステルから選ばれたホウ素化合物で処理することにより達成されてもよい。
【0016】
洗剤はエンジン中の、ピストン付着物、例えば、高温ワニス付着物及びラッカー付着物の生成を減少する添加剤である。それは通常酸中和特性を有し、微細な固体を懸濁して保つことができる。殆どの洗剤は金属“石鹸”をベースとし、これは酸性有機化合物の金属塩である。
洗剤は一般に長い疎水性尾部とともに極性頭部を含み、その極性頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は実質的に化学量論量の金属を含んでもよく、その場合にはそれらは通常又は中性の塩として通常記載され、典型的には0から80までの全アルカリ価即ちTBN(ASTM D2896により測定し得る)を有するであろう。多量の金属塩基が過剰の金属化合物、例えば、酸化物又は水酸化物と酸性ガス、例えば、二酸化炭素の反応により含まれる。得られる過塩基化(overbased)洗剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和された洗剤を含む。このような過塩基化洗剤は150以上、典型的には250から500以上までのTBNを有してもよい。
使用し得る洗剤として、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの油溶性の中性また過塩基化されたスルホン酸塩、フェネート、硫化フェネート、チオホスホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩並びにその他の油溶性カルボン酸塩が挙げられる。最も普通に使用される金属はカルシウム及びマグネシウムであり、これらは両方とも潤滑剤中に使用される洗剤中に、またカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物中に存在してもよい。
特に好ましい金属洗剤は50から450 までのTBN 、好ましくは50〜250 のTBN を有する中性及び過塩基化アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチル酸塩である。高度に好ましいサリチル酸塩洗剤として、アルカリ土類金属サリチル酸塩、特にマグネシウム及びカルシウム、特に、カルシウムサリチル酸塩が挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチル酸塩洗剤が潤滑油組成物中の唯一の洗剤であることが好ましい。予期しないことに、サリチル酸塩洗剤の使用がZDDP添加剤を含む潤滑油組成物、特に本発明の潤滑油組成物中の添加剤成分(B) のリン保持を改良することがわかった。
【0017】
金属含有(又は灰生成)摩擦改質剤が含まれてもよい。例として、油溶性有機モリブデン化合物が挙げられる。このような有機モリブデン摩擦改質剤はまた潤滑油組成物に酸化防止信用及び耐磨耗信用を与える。好適な油溶性有機モリブデン化合物はモリブデン-硫黄コアーを有する。例として、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド、及びこれらの混合物が挙げられる。モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートが特に好ましい。モリブデン化合物は2核又は3核である。
【0018】
本発明の全ての局面に有益な好ましい有機モリブデン化合物の一つのクラスは式Mo3SkLnQzの3核モリブデン化合物及びこれらの混合物であり、式中、Lはその化合物を油に可溶性又は分散性にするのに充分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立に選ばれたリガンドであり、nは1から4までであり、kは4から7まで変化し、Qは中性電子供与性化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルのグループから選ばれ、かつzは0から5までの範囲であり、非化学量論値を含む。少なくとも21個の合計炭素原子、例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が全てのリガンドの有機基中に存在すべきである。
モリブデン化合物は0.1〜2質量%の濃度で潤滑油組成物中に存在してもよく、又は少なくとも10ppm(質量基準)、例えば、50〜2,000ppmのモリブデン原子を与える。
モリブデン化合物からのモリブデンは潤滑油組成物の合計質量を基準として10ppmから1500ppmまで、例えば、20〜1000ppm、更に好ましくは30〜750ppmの量で存在することが好ましい。或る適用について、モリブデンが500ppmより大きい量で存在する。
酸化防止剤は酸化抑制剤と時折称される。それらは酸化に対する組成物の耐性を増大し、過酸化物と化合し、変性してそれらを無害にすることにより、過酸化物を分解することにより、又は酸化触媒を不活性にすることにより作用し得る。酸化劣化は潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニスのような付着物、及び増粘により証明し得る。
それらは遊離基脱除剤(例えば、立体障害フェノール、二級芳香族アミン、及び有機銅塩);ヒドロペルオキシド分解剤(例えば、有機硫黄添加剤及び有機リン添加剤);及び多機能剤(例えば、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(これらはまた耐磨耗添加剤として機能し得る)、及び有機モリブデン化合物(これらはまた摩擦改質剤及び耐磨耗添加剤として機能し得る)として分類し得る。
好適な酸化防止剤の例は銅含有酸化防止剤、硫黄含有酸化防止剤、芳香族アミン含有酸化防止剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、ジチオホスフェート誘導体、金属チオカルバメート、及びモリブデン含有化合物から選ばれる。
【0019】
(B) 及び(C) 以外のジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩が使用されてもよい。それらは耐磨耗剤及び酸化防止剤として頻繁に使用される。その金属はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、亜鉛、モリブデン、マンガン、ニッケル或いは銅であってもよい。亜鉛塩が潤滑油組成物の合計質量を基準として、例えば、0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%の量で潤滑油中に最も普通に使用される。それらは既知の技術に従って最初に通常一種以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応により、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより調製されてもよい。例えば、ジチオリン酸は一級アルコールと二級アルコールの混合物との反応によりつくられてもよい。また、一方の酸のヒドロカルビル基が特性上完全に二級であり、かつ他方の酸のヒドロカルビル基が特性上完全に一級である場合、多種のジチオリン酸が調製し得る。亜鉛塩をつくるために、あらゆる塩基性又は中性亜鉛化合物が使用し得るが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が殆ど一般に使用される。市販の添加剤は中和反応中の過剰の塩基性亜鉛化合物の使用のために過剰の亜鉛を頻繁に含む。
耐磨耗剤は摩擦及び過度の磨耗を減少し、通常硫黄もしくはリン又はその両方を含む化合物、例えば、多硫化物フィルムを関係する表面に付着することができる化合物をベースとする。ジヒドロカルビルジチオリン酸塩、例えば、本明細書に説明されたジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)が注目に値する。
無灰耐磨耗剤の例として、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、硫化脂肪酸エステル、及びジチオカルバメート誘導体が挙げられる。
【0020】
錆及び腐食抑制剤は表面を錆及び/又は腐食に対して保護するのに利用できる。錆抑制剤として、ノニオン性ポリオキシアルキレンポリオール及びこれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、並びに陰イオン性アルキルスルホン酸が挙げられる。
流動点降下剤(それ以外に、潤滑油流動性改良剤として知られている)は、油が流れ、又は注入し得る最低温度を低下する。このような添加剤は公知である。これらの添加剤の典型例はC8-C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー及びポリアルキルメタクリレートである。
ポリシロキサン型の添加剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンは発泡制御を与え得る。
少量の解乳化成分が使用されてもよい。好ましい解乳化成分がEP-A-330,522に記載されている。それはアルキレンオキサイドをビス-エポキシドと多価アルコールの反応により得られた付加物と反応させることにより得られる。解乳化剤は活性成分0.1質量%を超えないレベルで使用されるべきである。活性成分0.001〜0.05質量%の処理率が好都合である。
粘度改質剤(又は粘度指数改良剤)は高温及び低温運転性を潤滑油に付与する。分散剤としてまた機能する粘度改質剤がまた知られており、無灰分散剤について上記されたように調製されてもよい。一般に、これらの分散剤粘度改質剤は官能化ポリマー(例えば、無水マレイン酸の如き活性モノマーで後グラフトされたエチレン-プロピレンのインターポリマー)であり、これらがその後に、例えば、アルコール又はアミンで誘導体化される。
潤滑剤は通常の粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよく、また分散剤粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよい。粘度改質剤としての使用に適した化合物は一般に高分子量炭化水素ポリマー(ポリエステルを含む)である。油溶性粘度改質ポリマーは一般に10,000から1,000,000まで、好ましくは20,000〜500,000の重量平均分子量を有し、これはゲル透過クロマトグラフィー又は光散乱により測定し得る。
【実施例】
【0021】
今、本発明が以下の実施例(これらは特許請求の範囲を限定することを目的としない)に特別に記載される。
下記のZDDPを試験した。全てがジチオリン酸の油溶性亜鉛塩であり、これらの塩を米国特許第5,013,465号に実質的に記載されたようにつくった。
Z1:その酸はP2S5とオレイルアルコール(100 モル%)の反応生成物であった。
Z2f :その酸はP2S5とsec-C6アルコール(100 モル%)の反応生成物であった。
Z3:その酸はP2S5とsec-C6アルコール(47モル%)及びオレイルアルコール(53モル%)の混合物の反応生成物であった。
Z4f :その酸はP2S5とsec-C6アルコール(89モル%)及びオレイルアルコール(11モル%)の混合物の反応生成物であった。
Z5:その酸はP2S5とステアリルアルコール(100 モル%)の反応生成物であった。
Z6:その酸はP2S5とsec-C6アルコール(47モル%)及びステアリルアルコール(53モル%)の混合物の反応生成物であった。
Z7:その酸はP2S5と90モル%のsec-C4アルコール及び10モル%の一級C8アルコールの混合物の反応生成物であった。
*そのsec-C6アルコールは4-メチルペンタン-2-オールである。
fは比較例で使用されたZDDPを示す。
全てのその他のZDDPを本発明の実施例で使用したが、Z7をまた比較例で使用する。
Z1の調製を使用した調製方法の例示として以下に詳しく示す。
【0022】
DDPA合成
1リットルのじゃま板付きフランジフラスコにオレイルアルコール(アルドリッチから;MW=268.48)310.45g(1.156モル)を仕込んだ。そのフラスコにコイル状水冷冷却器、PTFEパドルとともにガラス棒を使用する機械撹拌機、窒素入口、熱伝対用の油を含むガラスポケット及び冷却器の上の窒素出口を取り付けた。その出口が水(800ml及び200ml)1リットルに溶解された水酸化ナトリウム32g(2.9当量)を含む二つのトラップ及び水150mlに溶解された過マンガン酸カリウム(13.6g)の一つのトラップに通じていた。撹拌機を400rpmにセットし、窒素流量を40-50ml/分にセットした。WEST制御マントルを使用してその混合物を20分間にわたって65℃に加熱した。27.70%のリン含量(=223.61のMW)を有する五硫化リン(ホスホラス・デリバティブズ社から)約61.56g(0.2753モル)を40分間にわたってスクリューフィードにより反応器に添加して35分後に軽度の発熱が外部加熱で起こることを可能にした。添加された実際の量=62.33-0.30g(スクリューフィード中)=62.03g。次いでその混合物を85℃で5時間24分にわたって熱ソーキングし、その間に固体の殆どが溶解し、圧縮空気で50℃に冷却した。計量した溶液を最後に真空で焼成ガラスロートによりその後の窒素スパージのための1リットルの3口丸底フラスコに濾過した。ポット中に残っている固体を濾過し、トルエンで洗浄してP2S5の未反応の質量を測定した。装置の一部に接着している固体をヘプタンで洗浄し、乾燥させ、ワイプオールによる除去の前後に計量した。この操作がその合成で消費されたP2S5の正確な質量を測定した。ポット中のP2S5=0.22g、装置中のP2S5=0.08g。
【0023】
トラップ1中の余分の質量=9.56g(理論量=9.41g)。トラップ2中に余分の質量なし。
DDPAの収量=361.54g-0.22g=361.32g(=99.6%)(理論量=362.77g)。
下記の式を使用して、DDPA生成物中のリンの質量%を計算した。
リンの質量%=消費されたP2S5の質量%xP2S5中のPの% =61.73x27.70/361.32
生成されたDDPAの質量
=4.7324(Pの%)
生成物355.95gを透明な緑色の液体として単離した。
【0024】
ZDDP合成
1リットルの3口丸底フラスコ中のDDPAを1時間にわたって磁気撹拌しながら300ml/分の窒素でスパージして残留H2Sを除去した。出口がDDPA調製で使用したのと同じトラップ系に通じていた。
1リットルのじゃま板付きフランジフラスコに亜鉛酸化物(GHケミカルズから)28.00g(0.34408モル)、酢酸亜鉛二水和物(アルドリッチから)0.763g(0.0034756モル)及びSN150(FAW)34.51gを仕込んだ。フラスコにコイル状水冷冷却器、ガラス棒とともにPTFEパドルを使用する機械撹拌機、窒素入口、熱伝対のための油を含むガラスポケット及び冷却器の上の窒素出口を取り付けた。その出口はDDPA調製で使用したのと同じトラップ系に通じていた。撹拌機を400rpmにセットし、窒素流量を300ml/分にセットした。一級C18(オレイル)DDPA(E00007-010)348gを500mlの圧力均等滴下ロートにより外部加熱なしでそのスラリーに添加した。仕込みの1/4を18分にわたって添加して温度を28.2℃に上昇させた。次いでWEST制御マントルを使用して20分にわたってその混合物の温度を85℃に上昇させ、DDPA添加速度を維持した。全添加時間は73分であった。その混合物を73分間にわたって85℃で熱ソーキングし、計量した生成物を2リットルのフラスコ中で真空で85℃で2時間にわたって回転蒸発させた。
粗収量=回転蒸発の前に407.96g(=99.2%)(理論値=411.27g)
回転蒸発後の質量損失=2.40g(生成物399.35gから)
全生成物からの推定質量損失=1.43g(水についての理論値=6.26g、アルコールについての理論値=14.24g C18)
トラップ質量の増加は実験操作の全体について観察されなかった。
セライト521 フィルター助剤の2質量%(7.96g)を生成物に添加し、数分にわたって大気圧で85℃でロータリーエバポレーターで回転させた。次いでSN150(FAW) 150 ml中でスラリーにされたセライト521 10g を80℃に予熱されたフィルタープレスに添加し、濾過してパッドを得た。生成物をこれに添加し、80psi(5.6kg/cm2)で13分間にわたって濾過した。
透明な淡黄色/緑色の油365.75gを得、これは冷却するとわずかに曇るようになった。
上記ZDDPの夫々を0.077質量%のリンがその配合に送出されることを可能にする処理率で潤滑油組成物にブレンドした。ZDDPの同一性は別にして、夫々の組成物が同じであり、粘度改質剤、流動点降下剤、原料油及びZDDPとブレンドされた洗剤、消泡剤、分散剤、酸化防止剤及び希釈剤からなるアドパックを含んでいた。配合物は有機摩擦改質剤を含んでいなかった。
【0025】
試験及び結果
第一の組
高周波数の往復リグを使用して上記組成物の夫々の摩擦係数を評価した。ステップ傾斜プロフィールを使用して実験を行なった:温度を20℃間隔で40℃から140℃に上昇する際に、摩擦係数を夫々の温度で5分間にわたって測定した。4N負荷を400gの重りにより適用し、上部の標本を40Hzの周波数で1mmの距離にわたって往復させた。
サンプル結果を下記の表に示し、表中、夫々の温度における代表的な摩擦係数値を示す。
【0026】
表1
【0027】
本発明のZDDPは一般に比較ZDDPよりも良好な(即ち、小さい)摩擦係数値を生じたことがわかる。
第二の組
同じ高周波数の往復リグを使用して潤滑油組成物の第二の組の摩擦係数を評価した。夫々のこのような組成物は当業界で知られている成分と一緒にZ1(オレイルアルコール)及びZ7(主として二級)の一方又は両方を含んでいた。それらは有機摩擦改質剤を含んでいなかった。これらの組成物はZ1及びZ7の存在及び量に関する以外は同じであった。
6種の組成物を試験した。
Z1質量%: 1.883 1.600 1.412 0.941 0.471 -
Z7質量%: - 0.144 0.241 0.481 0.722 0.963
サンプル結果(二つの実験の平均である)を、下記の表に示し、表中、夫々の温度における代表的な摩擦係数値を示す。
【0028】
表2
【0029】
表中の一層低い値は優れた性能を示し、殆どの有意差が一層高い温度、即ち、100℃、120℃及び140℃で得られた値について示されるべきである。何とならば、それらが、例えば、バルブトレイン中の作用温度にほぼ相当するからである。全てのZ1含有組成物がZ1を欠いた組成物(0/100)よりも良好に機能したことがわかる。これは有機摩擦改質剤の不在下のZ1の摩擦改質効果を説明する。アステリスク付きの組成物は一層高い比率のZ7を含む組成物よりも良好に機能し、50/50組み合わせは25/75組み合わせ及び0/100組み合わせよりも改良を与える。100/0組成物は試験で良く機能したが、Z7の添加は、当業界で知られているように、配合物の耐磨耗性を改良するであろう。