【文献】
Szymanska and Galas ,Enzyme. Microb. Technol.,Vol.15,p.317-320(1993)
【文献】
Cheng et al.,Appl. Microbiol. Biotechnology,Vol.86,p.853-861(2010.05)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オーレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans) S−2株の変異株であって、炭素源としてグルコース及びマルトースを含む培地で培養したときの培養物に含まれるプルラン以外の夾雑糖質の量がS−2株の半分以下である変異株を、グルコース及びマルトースを含むデキストロース・イクイバレントが50乃至90である糖質を炭素源とする培地で培養して得られる培養物から、夾雑糖質を除去する工程を経ることなく製造された、下記(1)乃至(3)の特徴を有するプルラン含有粉末:
(1)75容積%水性メタノールに不溶のプルラン画分と可溶の夾雑糖質画分とからなる;
(2)アントロン−硫酸法に基づいて求められる、粉末全体に含まれる全糖質含量に対する夾雑糖質画分に含まれる夾雑糖質含量の割合が3質量%以下である;及び
(3)マンニトールを含有する。
オーレオバシディウム・プルランス S−2株の変異株が、変異株MA446株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−11250)である請求項1記載のプルラン含有粉末。
オーレオバシディウム・プルランス S−2株の変異株が、変異株MA446株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−11250)である請求項6記載のプルラン含有粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のプルラン含有粉末は、前述したとおり、オーレオバシディウム・プルランスに属する微生物の変異株を、炭素源としてグルコース及びマルトースを含む培地で培養して得られる培養物から、夾雑糖質を除去する工程を経ることなく製造されたプルラン含有粉末であり、75容積%水性メタノールに不溶のプルラン画分と可溶の夾雑糖質画分とからなり、粉末全体に含まれる全糖質含量に対する夾雑糖質含量の割合が3質量%以下であるとともに、マンニトールを含有することを特徴とするプルラン含有粉末である。なお、75容積%水性メタノールとは、水とメタノールを容積比1:3で混合した混液を意味する。
【0026】
オーレオバシディウム・プルランスに属する微生物の変異株は、その培養物から、夾雑糖質を除去する工程を経ることなく、本発明のプルラン含有粉末を製造することができる限り、どのような変異株であっても良い。用いる親株としては、例えば、「上田誠之助、『工業化学雑誌』、第67巻、757−760頁、1964年」に記載されたプルラン産生菌であるプルラリア(Pullularia sp.) S−2株を用いることができる。なお、プルラリア属は、現在、オーレオバシディウム(Aureobasidium)属として分類されており、オーレオバシディウム属には、オーレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)1種のみが知られている。S−2株は、プルランを産生し、また、後述するとおり、オーレオバシディウム・プルランスと極めてよく一致する培養性状を有することから、オーレオバシディウム・プルランスに属する微生物であると同定され、茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターにおいて、平成22年6月28日付で、受託番号FERM BP−11261として寄託されている。
【0027】
本発明で用いるオーレオバシディウム・プルランスに属する微生物の変異株を得るには、上記S−2株に、例えば、「杉山純多等編、『新版微生物化学実験法』、株式会社講談社サイエンティフィック、1999年3月20日発行、126−133頁」に記載された、紫外線照射や変異剤による薬剤処理などの斯界にて通常行なわれる突然変異処理を施して変異株を得、得られた変異株について、炭素源としてグルコース及びマルトースを含む培地中で培養したときに培養物中に含まれるプルラン以外の夾雑糖質の含量を指標にスクリーニングを行い、その含量が親株であるS−2株よりも有意に少ないものを選択すれば良い。後述する実験1には、スクリーニングの手法の一例が詳述されている。本発明に用いる変異株としては、炭素源としてグルコース及びマルトースを含む選択培地で培養した場合に、培養物中に含まれるプルラン以外の夾雑糖質の含量が、親株であるS−2株を同培地で培養した場合よりも下回るものが望ましく、より好ましくは、親株であるS−2株を同培地で培養した場合の50%以下となるものが望ましい。
【0028】
上記のとおり、本発明のプルラン含有粉末は決して特定の変異株の培養物から製造されるものに限られるわけではないが、本発明のプルラン含有粉末を製造することができる好適な変異株の具体例としては、上記オーレオバシディウム・プルランス S−2株に突然変異を施して得られた変異株オーレオバシディウム・プルランス MA446株を挙げることができる。変異株MA446株は、親株であるS−2株と同様、プルランを産生し、また、後述するとおり、オーレオバシディウム・プルランスと極めてよく一致する培養性状を有することから、オーレオバシディウム・プルランスに属する微生物であると同定され、茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターにおいて、平成22年4月30日付で、受託番号FERM BP−11250として寄託されている。
【0029】
因みに、親株であるS−2株及び変異株MA446株の培養性状は以下のとおりである。
<S−2株及び変異株MA446株の培養性状>
ポテトデキストロース寒天培地(ポテト浸出液末4.0g、ブドウ糖20.0g、寒天15.0g、精製水1,000ml、pH5.6)上で27℃で好気的に生育し、暗黒色の色素を産生する。変形して移動する様子や子実体の形成は認められない。有性生殖は観察されず、菌糸に隔壁が認められる。生育約4日以降に、単性房状出芽型の分生子を形成し、直鎖状の菌糸先端もしくは中間から出芽型分生子を生じる。成熟した分生子は単胞として存在し、無色、滑面。
【0030】
変異株の培養に用いる培地としては、基本的に、培養後に培地に含まれる夾雑糖質の含量が少なく、培養物から夾雑糖質の除去工程を経ずに、本発明のプルラン含有粉末を製造することができる限り特に制限はなく、プルラン産生のためにオーレオバシディウム・プルランスに属する微生物を培養するのに用いられる培地と同様に、炭素源、窒素源、有機栄養源、無機物質などを適宜含有した培地を使用することができる。
【0031】
炭素源としては、グルコース及びマルトースを含有する糖質混合物が用いられ、望ましくは、グルコース及びマルトースを含有するデキストロース・イクイバレント(以下、「DE」と表す)50乃至90の糖質、さらに望ましくは、グルコース及びマルトースをそれぞれ無水物換算で10質量%以上含有する糖質を用いるのが望ましい。炭素源としてグルコース又はマルトースのいずれか又は双方を欠く場合には、培養物の夾雑糖質の含量がそれほど低くならず、本発明のプルラン含有粉末を製造することが困難になる。また、炭素源として用いる糖質のDEが50未満又は90超である場合には、プルランの生成が少なくなって得られるプルラン含有粉末におけるプルランの含量が低下し、相対的に夾雑糖質の含量が増加するので、好ましくない。なお、培地中の炭素源の濃度は5乃至20質量/容積%とするのが望ましい。
【0032】
窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素源またはグルタミン酸塩、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカーなどの有機窒素源などから選ばれる1種または2種以上が用いられる。他に無機物質として燐酸塩、マグネシウム塩、鉄塩などが適宜用いられる。培養は通気しながら撹拌又は振盪して好気的に行なうのが望ましい。培養温度としては、オーレオバシディウム・プルランスの生育に適する27℃が好適である。培養時間としては、炭素源が消費されてプルランの産生量がほぼ最大となり夾雑糖質の含量が低下してほぼ一定となるまで行なうのが望ましい。また、必要により、プルランの産生量を増大させたり所望の分子量とするために、培地に適宜のpH調節剤を添加したり、間歇的または連続的に培養液を抜出しつつ新鮮な栄養培地を適宜供給・補足することにより培養液の希釈速度を調整しながら連続培養を行なうことも随意である。
【0033】
上記のようにして得られた培養物から、遠心分離や濾過などの慣用されている適宜の方法で菌体を除去することにより、プルランを含む培養上清を得ることができる。得られた培養上清を、常法により、脱色、脱塩、濃縮、乾燥、粉末化することによって、本発明のプルラン含有粉末を得ることができる。
【0034】
脱色処理としては、通常、粉末活性炭を用いた濾過が行なわれる。また、脱塩処理には、通常、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂が用いられる。カチオン交換樹脂としては、例えば、『ダイヤイオンPK218』(三菱化学株式会社製造)や、『ダイヤイオンSK−1B』(三菱化学株式会社製造)など、アニオン交換樹脂としては、『ダイヤイオンWA30』(三菱化学株式会社製造)や、『アンバーライトIRA411』(オルガノ株式会社販売)などの市販のイオン交換樹脂を適宜用いることができる。
【0035】
乾燥及び粉末化は、常法に基づいて行えば良く、例えば、乾燥後、得られたブロックを粉砕して粉末化しても良いし、噴霧乾燥法によって、乾燥と粉末化を同時に行うようにしても良い。
【0036】
上記のようにして得られる本発明のプルラン含有粉末は、粉末全体に含まれる全糖質含量に対する夾雑糖質含量が3質量%以下、換言すれば、プルラン含量が97質量%以上と安定しており、より好ましくは、粉末全体に含まれる全糖質含量に対する夾雑糖質含量が1質量%以下、換言すれば、プルラン含量が99質量%以上と極めて安定しており、かつ、マンニトールを含有している。
【0037】
因みに、本発明のプルラン含有粉末において、夾雑糖質画分における夾雑糖質には、グルコース重合度3乃至90の糖質が含まれている。グルコース重合度3乃至90の糖質とは、具体的には、後述する実験4に記載のとおり、プルラン含有粉末の75容量%水性メタノールに可溶な夾雑糖質画分をゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略称する)に供した際に、グルコース重合度3乃至90に相当する分子量、すなわち、GPCにより求められる平均分子量には一定の誤差が含まれることを考慮して、分子量500乃至15,000ダルトンの範囲に検出される成分である。
【0038】
本発明のプルラン含有粉末においては、上記のグルコース重合度3乃至90の糖質の含量は、粉末全体に含まれる全糖質含量の2質量%以下が望ましい。グルコース重合度3乃至90の糖質の含量が2質量%を超えると、フィルムに成形したときに、所期の突刺し破断強度が得られない場合があるので好ましくない。因みに、上記グルコース重合度3乃至90の糖質は、これにプルラナーゼを作用させた場合に、主成分としてマルトトリオースと少量のマルトテトラオースを生成することから、基本的にマルトトリオースがα−1,6結合により重合したプルラン様の構造を有する糖質であると考えられる。ただし、この糖質はプルラン様の構造を有するものの、75容積%水性メタノールに可溶な低分子量の糖質である。
【0039】
前述したとおり、培地に用いる炭素源の種類にもよるが、オーレオバシディウム・プルランスに属する微生物の培養物には、通常、当該微生物の代謝産物であるマンニトールが含まれている。マンニトールは75容積%水性メタノールに可溶であり、溶媒沈殿などによって夾雑糖質の除去を行わない限り、上記培養物から製造されるプルラン含有粉末に含まれることになる。したがって、プルラン含有粉末中にマンニトールが含まれていることは、当該プルラン含有粉末が溶媒沈殿などによる夾雑糖質の除去工程を経ずに製造されたものであることを示している。前述したとおり、マンニトールはアントロン−硫酸法では検出されないが、プルラン含有粉末中のマンニトールの量は、例えば、後述する実験4で用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって求めることができる。本発明のプルラン含有粉末におけるマンニトールの量は、無水物換算で、通常、プルラン含有粉末の0.04質量%以上であり、2質量%を超えることはない。
【0040】
本発明のプルラン含有粉末の主成分であるプルランの分子量は、フィルムに成形したときに所期の突刺し破断強度が得られる限りにおいて特に制限はないが、GPC分析に基づく質量平均分子量(以下、Mwと表す)として約50,000乃至1,000,000ダルトンが望ましく、約50,000乃至500,000ダルトンがより望ましい。Mwが50,000ダルトンを下回るとフィルムに成形するのが困難となるので好ましくなく、また、1,000,000ダルトンを上回るとその水溶液の粘度が高くなり過ぎて取り扱い難いという問題を生じる場合がある。
【0041】
また、オーレオバシディウム・プルランスに属する微生物の培養物から、脱色、脱塩、濃縮、乾燥、及び粉末化工程を経て、溶媒沈殿などの夾雑糖質の除去工程を経ることなく製造されるプルラン含有粉末においては、分子量分布の指標となるプルランの数平均分子量(以下、Mnと表す)に対するMwの値(すなわちMw/Mn)は、通常、約10乃至70となる。本発明のプルラン含有粉末において、Mw/Mnの値は、フィルムに成形したときに所期の突刺し破断強度が得られる限りにおいて特に制限はないが、100以下が好適であり、より好適には約10乃至70の範囲が良い。Mw/Mnの値が100を超えるもの、すなわち分子量分布がより広い場合は、造膜性が不安定でフィルムに成形した場合に安定して突き刺し破断強度の高いものが得られにくい。
【0042】
本発明のプルラン含有粉末は、白色で粉末としての流動性に優れ、従来のプルラン含有粉末と同様、水に対して良好な溶解性を示す。本発明のプルラン含有粉末は、用途に応じて、その他の材料、例えば、プルラン以外の多糖類、増量剤、賦形剤、充填剤、増粘剤、界面活性剤、発泡剤、消泡剤、pH調節剤、安定剤、難燃剤、離形剤、抗菌剤、着色剤、着香剤、栄養物、嗜好物、呈味物、薬効物質及び生理活性物質から選ばれる1種または2種以上の、食品、医薬品、医薬部外品及び化粧品分野で一般に使用される成分と混合して使用することも随意である。また、本発明のプルラン含有粉末は成形物の具体例としてフィルムに成形した場合に突刺し破断強度に優れ、従来のプルラン含有粉末と同様の良好な溶解性を有しながらフィルムとしての使用耐性に優れたものであるので、食品、医薬品、及び化粧品等の分野において用いられるフィルム、シートやコーティングの原材料として有利に利用できる。なお、本発明のプルラン含有粉末をフィルム等に成形する場合、剥離剤としてショ糖脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステルを含む界面活性剤を用いることができる。
【0043】
また、本発明のプルラン含有粉末は、上記のとおり、水に対する良好な溶解性とフィルム等に成形されたときの高い強度とを併せ持ち、しかも、全糖質中の夾雑糖質含量が3質量%以下でプルラン含量が97質量%以上とプルラン純度が高く、糖質組成がほぼ一定しており、しかも、含まれるプルラン自体の分子量分布が安定して一定の範囲内にあるので、これを成形物に用いる場合には、当該成形物に常に一定した強度や溶解速度、崩壊速度をもたらすことを期待できる。したがって、本発明のプルラン含有粉末は、食品のみならず、医薬品添加物として、有効成分の体内動態が常に一定であることが要求される医薬品、医薬部外品、化粧品などに用いることができ、フィルムはもとより、シート、ガーゼや手術糸などに用いられる繊維などの成形物として、或いは、錠剤や顆粒剤を調製する際の賦形剤、結着剤又はコーティング剤などとして、さらには、液剤として用いるための要時溶解型の固体製剤とすることができる。このようにして得られた化粧品、医薬品、及び医薬部外品においては、製品毎にばらつきのない安定的で恒常的な一定の品質を有し、特に医薬品においては、溶解性や崩壊性のばらつきなどにより有効成分の体内動態に影響を及ぼす恐れがない。
【0044】
本発明のプルラン含有粉末を少なくとも原料の一部に用いて製造される成形物には、本発明のプルラン含有粉末以外に、それぞれの分野で汎用されている各種成分を適宜配合することができる。上記成形物が化粧品又はその中間製品である場合には、パック、マスク、浴用剤、口中清涼フィルムなどの形態とすることができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、ペンタンジオールなどの防腐剤、アルブチン、エラグ酸、テトラヒドロクルクミノイド、ビタミンPなどの美白剤、グリチルリチン酸、カンゾウ抽出物などの抗炎症剤、ラクトフェリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、感光素101号、感光素301号などの細胞賦活剤、エラスチン、ケラチン、尿素、セラミドなどの保湿剤、スクワラン、ワセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸セチルなどの油剤、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、ローカストビーンガム、カルボキシビニルポリマーなどの水溶性高分子、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトールなどのアルコール類などを、それぞれ1種又は2種以上、単独又は適宜組み合わせて、配合することができる。
【0045】
また、上記成形物が医薬品又は医薬部外品或いはその中間製品である場合には、顆粒、錠剤、糖衣錠などの形態とすることができ、例えば、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、メソトレキサート、タクロリムス水和物、ブスルファンなどの免疫抑制剤、カペシタビン、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、ドセタキセル、イマチニブメシル酸塩、5−フルオロウラシル、アナストロゾール、タキソール、タモキシフェン、ドテタキセル、ヒドロキシカルバミドなどの抗がん剤、アバカビル硫酸塩、ザルシタビン、ジダノシン、ファムシクロビル、リバビリンなどの抗ウイルス剤、アモキシシリン、タランピシリン、セフィキシム、スルファミチゾール、レボフロキサシン水和物、セフカペンピボキシル塩酸塩水和物、セフシトレンピボキシル、クラリスロマイシンなどの抗生物質、アセトアミノフェン、アスピリン、エテンザミド、サリチル酸メチルなどの解熱鎮痛剤、プレドニゾロン、デキサメサゾン、ベタメサゾンなどのステロイド剤、インターフェロン−α、−β、インスリン、オキシトシン、ソマトロピン、などの蛋白又はペプチド、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物学的製剤、レチノール、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、シアノコバラミン、L−アスコルビン酸、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロール、ビオチン、カルシトニン、コエンザイムQ、α−リポ酸、ニコチン酸、メナキノン、ユビキノン、ピロロキノンキノリンなどのビタミン剤やそれらの誘導体、高麗人参エキス、アロエエキス、プロポリスエキス、カンゾウエキス、ケイヒエキス、センブリエキスなどの生薬エキスなどを、それぞれ1種又は2種以上、単独又は適宜組み合わせて、配合することができる。
【0046】
上記の化粧品、医薬品、及び医薬部外品などを各種成形物又はその中間製品には、本発明の効果を逸脱しない範囲において、柔軟性や強度をさらに改善することを目的として、必要に応じて、化粧品、医薬品、及び医薬部外品などの分野で通常使用される他の高分子物質、適宜の可塑剤、又は賦形剤等の他の成分を本発明のプルラン含有粉末と併用することも随意であり、他の賦形剤を主体とする成形物においては本発明のプルラン含有粉末を結着剤として用いることも可能である。高分子物質としては、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、セルロース、ヘミセルロース、アラビアガム、グアガム、カラギナン、ペクチン、キチン、アガロース、デキストリン、アミロース及び化工澱粉を含む澱粉などの多糖類又はそれらの誘導体、ゼラチン又はカゼインなどの蛋白質などが挙げられる。可塑剤としては、ソルビトール、マルチトール、トレハロース、グリセロール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール又はプロピレングリコールなどの多価アルコールを用いることができる。賦形剤としては、マルチトール、マンニトール、マルチトール、スクロース、マルトース、ラクトース、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、アラビアゴム、コーンスターチ、結晶セルロースなどの糖質、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、カオリン、タルクなどの無機物を用いることができる。とりわけ、α,α−トレハロースは、有効成分の酸化分解などによる変性を抑制し、活性を安定に保つ作用を有するので、安定化剤としても有利に利用できる。
【0047】
以下、実験により本発明について詳細に説明する。
【0048】
<実験1:プルラン産生菌の変異株の取得>
オーレオバシディウム・プルランス S−2株の分生子に紫外線照射による突然変異処理を施したものを、ポテトデキストロース寒天平板に播種し、27℃で培養して生育したコロニーを変異株として分離した。分離した変異株及び親株であるS−2株を、それぞれ、酸糖化水飴(DE48、無水物換算でグルコースを約27%、マルトースを約17%含有、株式会社林原商事販売)を固形分として10.0質量/容積%、リン酸水素2カリウム0.2質量/容積%、ペプトン0.2質量/容積%、塩化ナトリウム0.2質量/容積%、硫酸マグネシウム7水和物0.04質量/容積%、及び硫酸第一鉄7水和物0.001質量/容積%を含有する液体選択培地(pH7.0)に植菌し、27℃で3日間振盪培養した。それぞれの培養物から遠心分離にて菌体を除去して得た培養上清を水で10倍希釈した。それぞれの一部をとり、それらに3倍量のメタノール(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を加えて75容積%水性メタノールとし、よく混和することによりプルランを沈殿させた後、遠心分離して得た上清をさらに水で10倍希釈したものを夾雑糖質測定用の試験液とした。なお、該試験液は、培養上清が400倍に希釈されたものである。別途、濃度0.01質量/容積%のグルコース水溶液を標準液として用意し、水をブランク対照として、各試験液について、『食品添加物公定書』(第8版)、日本食品添加物協会発行、2007年、572−573頁(『プルラン』の項)に記載の方法に準じてアントロン−硫酸法に基づく呈色反応を起こさせ、分光光度計を用いて波長620nmにおける吸光度を測定し、下記の式1により、培養上清における夾雑糖質濃度(%)を求めた。また、上記の培養上清の10倍希釈液をさらに水で100倍希釈したものを全糖質測定用の試験液とし、上記と同様にアントロン−硫酸法に基づく呈色反応を起こさせ、波長620nmにおける吸光度を測定して、下記の式2により、培養上清における全糖質濃度(%)を求めた。下記の式3により、全糖質濃度から夾雑糖質濃度を減じることによりプルラン濃度(%)を求めた。
【0049】
式1:
夾雑糖質濃度(%)
=[{(Ak−Ao)×400}/{(As−Ao)×100}]×100
ただし、Ak:夾雑糖質測定用の試験液の吸光度、As:標準液の吸光度、Ao:水(対照)の吸光度。
【0050】
式2:
全糖質濃度(%)
=[{(Az−Ao)×1000}/{(As−Ao)×100}]×100
ただし、Az:全糖質測定用の試験液の吸光度、As、Aoは式1におけると同じ。
【0051】
式3:
プルラン濃度(%)=全糖質濃度(%)−夾雑糖質濃度(%)
【0052】
別途、菌体接種前の培地の全糖質濃度をアントロン−硫酸法により測定して炭素源濃度(%)を求め、培地の炭素源濃度(%)に対する夾雑糖質濃度(%)及びプルラン濃度(%)を、それぞれ、下記の式4、5に基づいて、夾雑糖質率(%)及びプルラン対糖収率(%)として求めた。
【0053】
式4:
夾雑糖質率(%)
={夾雑糖質濃度(%)/培地の炭素源濃度(%)}×100
【0054】
式5:
プルラン対糖収率(%)
={プルラン濃度(%)/培地の炭素源濃度(%)}×100
【0055】
上記のようにして求めた夾雑糖質率を指標に、夾雑糖質率が親株よりも少ないと判断された変異株群(分離株のおよそ1%)を選択した。選択された変異株のうち、特に夾雑糖質率が低く、親株の半分以下となった5株を表1に示す。表1に示すとおり、これらの変異株においては、プルラン対糖収率は親株であるS−2株とほぼ同程度であったものの、夾雑糖質率は、いずれも3.0%以下であり、親株であるS−2株(夾雑糖質率6.6%)の半分より低く、プルラン対糖収率(%)に対する夾雑糖質率(%)の比率は、いずれも0.05以下であり、この値も親株であるS−2株における比率(0.101)の半分未満となっていた。表1に示すこれらの変異株は、プルラン対糖収率が親株と同程度でありながら、夾雑糖質率が低く、それらの培養物から溶媒による沈殿分別等の精製工程を経ずにプルラン含有粉末を製造しても、従来のものと比較して夾雑糖質が少なく、安定した一定組成のプルラン含有粉末が得られることが大いに期待できる。中でも、MA446株が、得られた変異株のうち夾雑糖質率が最も低く、プルラン対糖収率と夾雑糖質率の比率も最も低かったので、この株を選択し、以下の実験を行なった。なお、上述した突然変異、培養、スクリーニングの手法に基づけば、少なくともS−2株を親株として、本発明のプルラン含有粉末を製造することができる変異株を、過度の試行錯誤を要することなく、適宜、得ることができる。
【0057】
<実験2:MA446株を用いたプルラン含有粉末の調製>
<実験2−1:プルラン産生培地に用いる炭素源の検討>
MA446株を、DEの異なる炭素源を用いた培地1乃至5でそれぞれ培養してプルラン含有粉末を製造し、その性質を調べた。培地1乃至5で用いた炭素源はそれぞれ以下のとおりである。なお、用いた酸糖化水飴には、無水物換算でグルコースが約25質量%、マルトースが約16質量%含まれている。
・培地1:「水飴」(酸糖化水飴、株式会社林原商事販売、DE約42)
・培地2:グルコース(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)(以下、培地3乃至5において同じ)、マルトース(「マルトースHHH」、純度99%以上、林原生物化学研究所製)(以下、培地3乃至4において同じ)、及び水飴(酵素糖化水飴『マルトラップ』、株式会社林原商事販売、DE47を固形分の質量比1:1:3で混合したもの(混合物のDEは約58)
・培地3:グルコース、マルトース、及び水飴(酵素糖化水飴『マルトラップ』、株式会社林原商事販売、DE47)を固形分の質量比1:1:1で混合したもの(混合物のDEは約66)
・培地4:グルコース、マルトース、及び水飴(酵素糖化水飴『マルトラップ』、株式会社林原商事販売、DE47)を固形分の質量比4:1:1で混合したもの(混合物のDE約83)
・培地5:グルコースのみ(DE約100)
【0058】
<実験2−2:プルラン含有粉末の調製>
ポテトデキストロース寒天スラント上で27℃で培養したMA446株を、スクロース10.0質量/容積%、リン酸水素2カリウム0.2質量/容積%、ペプトン0.2質量/容積%、塩化ナトリウム0.2質量/容積%、硫酸マグネシウム7水和物0.04質量/容積%、及び硫酸第一鉄7水和物0.001質量/容積%を含有する液体培地(pH7.0)で27℃、230rpmで48時間回転振盪培養したものを種培養液とした。
【0059】
プルラン産生培地として、上記それぞれの炭素源を無水物換算で10.0質量/容積%含有し、リン酸水素2カリウム0.2質量/容積%、ペプトン0.2質量/容積%、塩化ナトリウム0.2質量/容積%、硫酸マグネシウム7水和物0.04質量/容積%、及び硫酸第一鉄7水和物0.001質量/容積%を含有する培地1乃至5を、30L容培養槽1基あたり20L調製し、pH7.0に調整後、121℃、15分間滅菌した。上記種培養液をそれぞれ培養槽1基に対して1,000ml接種し、通気量5.0L/分、撹拌速度400rpmの条件で、27℃、3日間、本培養を行なった。
【0060】
それぞれの培養物を8,000rpmで遠心分離して菌体を除去して培養上清を得、活性炭ろ過による脱色処理を行ない、次いで、カチオン交換樹脂(H
+型)『ダイヤイオンSK1B』(三菱化学株式会社製造)、及びアニオン交換樹脂(OH
−型)『ダイヤイオンWA30』(三菱化学株式会社製造)を用いて脱塩処理を行なった。活性炭を用いて仕上げろ過を行なった後、減圧条件下で固形分濃度約25質量%まで濃縮を行い、得られた濃縮液を噴霧乾燥し、プルラン含有粉末を得た。また、親株であるS−2株を培地1で上記と同様に培養し、同様に処理してプルラン含有粉末を得、これを対照のプルラン含有粉末とした。因みに、S−2株を培地1で上記と同様に培養、処理して得られるプルラン含有粉末は、前述した『食品添加物プルラン』と、プルラン含量及び夾雑糖質含量がほぼ同じであり、上記対照のプルラン含有粉末はこれに対応するものである。
【0061】
<実験2−3:プルラン含有粉末におけるプルラン含量及び夾雑糖質含量の測定>
上記培地1乃至5を用いて製造したプルラン含有粉末、及び対照のプルラン含有粉末のそれぞれについて、前述した『食品添加物公定書(第8版)』、日本添加物協会発行、2007年、572−573頁(『プルラン』の項)に記載の純度試験に準じた下記の方法により、夾雑糖質含量及び、プルラン含量を求めた。すなわち、各プルラン含有粉末0.8gを水100mlに溶解し、試料原液とした。各試料原液1mlに水を加えて50mlとしたものを標準原液とした(試料原液は50倍に希釈されている)。また、各試料原液1mlに塩化カリウム飽和溶液0.1mlを添加した後、メタノール3mlを添加してよく混和し、4℃で15,700g×10分間遠心分離して得られた上清を試料液とした(試料原液は4.1倍に希釈されている)。上記のようにして調製した標準原液、試料液、及び対照の水についてアントロン−硫酸法による反応を起こさせ、620nmにおけるそれぞれの吸光度(それぞれ、At、As及びAоとする)を測定し、下記式により、夾雑糖質含量、すなわち、75容積%水性メタノールに可溶である夾雑糖質画分中に含まれアントロン−硫酸法に基づいて求められる夾雑糖質含量、及びプルラン含量を求めた。測定結果を表2に示した。なお、本実験においては、夾雑糖質含量及びプルラン含量は、各試料液と各標準原液の吸光度の比に基づいて求められたものであり、D−グルコースを標準物質として用いることによりD−グルコース換算量として求められたものではないが、D−グルコース換算量として求められた値と一致するので、それぞれの含量を質量%で表記した。
【0062】
式6:
夾雑糖質含量(%)
=[{(At−Ao)×4.1}/{(As−Aо)×50}]×100
={(At−Ao)/(As−Aо)}×8.2
ただし、At:試料液の吸光度、As:標準原液の吸光度、Ao:水(対照)の吸光度。
【0063】
式7:
プルラン含量(%)=100(%)−夾雑糖質含量(%)
【0065】
表2に示すとおり、MA446株を、培地2乃至4を用いて培養した場合には、得られたプルラン含有粉末におけるプルラン含量は、いずれも97質量%を上回り、親株であるS−2株におけるプルラン含量93.2質量%よりも顕著に高い値となった。また、夾雑糖質含量は2.2質量%以下と3質量%を下回り、S−2株における夾雑糖質含量6.8質量%よりも顕著に低い値となった。一方、培地1で培養した場合の夾雑糖質含量は6.8質量%であり、親株であるS−2株における夾雑糖質含量をやや下回るにとどまった。また、MA446株を炭素源がグルコースのみのDE100の培地5で培養した場合には、プルラン含量は95.5質量%、夾雑糖質含量は4.5質量%となり、親株であるS−2株を培地1で培養した場合におけるよりもプルラン含量は増加し、夾雑糖質含量は減少したが、その差は培地2乃至4の場合ほど顕著ではなかった。
【0066】
以上の結果から、MA446株を、炭素源としてグルコースとマルトースを含み、DEが約50乃至90、好ましくは約55乃至85である培地で培養した場合に、特にプルラン含量が高く、夾雑糖質含量が顕著に低いプルラン含有粉末が得られることが判明した。
【0067】
<実験2−4:各プルラン含有粉末を成形したフィルムの強度>
実験2−2で得られた各プルラン含有粉末及び対照のプルラン含有粉末を、それぞれ脱イオン水に溶解して20質量/容積%の水溶液とし、62.5℃にて静置し、脱泡した。これら脱泡した各水溶液を、それぞれ適量、塩化ビニル製の平板上に滴下して流延させ、25℃にて相対湿度30%の雰囲気で一夜乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを成形した。成形したフィルムを上記平板から剥離し、直径19mmの円形に切り取り、これを被験試料とし、室温で相対湿度22%の条件下で5日間置いて調湿したのち、突刺し強度試験に供した。
【0068】
突刺し強度試験は、装置に断面積1mm
2の突刺し試験用アダプターを装着した『レオメーター CR−500DX』(サン科学社製)を用いて行ない、装置に固定した上記フィルムの中心部にアダプターを50mm/分の速度で垂直に押し付けた時に破断を生じた時の応力を求め、突刺し破断強度とした。それぞれのプルラン含有粉末から成形されたフィルムについて、各10枚の被験試料の突刺し破断強度を測定し、その平均値を求めた。また、破断後の被験試料について、ひび割れの有無を目視にて観察し、試験した各10枚の被験試料に対するひび割れの生じた被験試料の枚数の割合(%)を求め、ひび割れ発生率(%)とした。結果を表3に示した。
【0070】
表3に示されるとおり、MA446株を培地2乃至4で培養して得た培養物から製造されたプルラン含有粉末を成形して得られたフィルムは、いずれも、20MPaを超える突刺し破断強度を示した。この強度は、S−2株を培地1で培養した対照のプルラン含有粉末から成形されたフィルムの突刺し破断強度17.1MPaに比べて、有意に高い値であった。また、培地2乃至4で培養した場合のフィルムのひび割れ発生率は、いずれも0%であり、対照であるS−2株を培地1で培養した場合のひび割れ発生率50%に比べて、顕著に低い値であった。なお、ひび割れ発生率が低いということは、破断が生じた場合でも、破断がその破断箇所から周辺に広がることが少ないことを意味しており、MA446株を培地2乃至4で培養して得た培養物から製造されたプルラン含有粉末を成形して得られたひび割れ発生率が0%であるフィルムは、強度的に優れた性質を有するものである。
【0071】
一方、MA446株を培地1で培養した場合には、突刺し破断強度は16.6MPa、ひび割れ発生率は40%であり、対照であるS−2株を培地1で培養した場合とほぼ同程度であった。また、MA446株を培地5で培養した場合には、突刺し破断強度及びひび割れ発生率の双方において、対照であるS−2株を培地1で培養した場合に比べて若干の改善が見られたが、その差は顕著ではなかった。
【0072】
以上の結果は、プルラン含量及び夾雑糖質含量を求めた表2の結果とよく整合しており、夾雑糖質含量が3質量%以下、換言すれば、プルラン含量が97質量%以上の場合には、突刺し破断強度が、対照であるS−2株を培地1で培養した場合を有意に上回るとともに、ひび割れ発生率が顕著に低く、強度的に優れたフィルムを得ることができると判断された。特に、MA446株を培地3及び4で培養した場合に見られるとおり、夾雑糖質含量が1質量%以下、換言すれば、プルラン含量が99質量%以上の場合には、より高い突刺し破断強度が得られ、より好ましいことが分かった。なお、上記したフィルムは、いずれも、室温において水に対して良好な溶解性を示した。
【0073】
<実験3:異なる菌株により得られたプルラン含有粉末の比較>
実験2−3において、MA446株を培養したときにプルラン含量が比較的高いプルラン含有粉末が得られた培地である培地2、3、4を用い、親株であるS−2株、及び公知の菌株であるオーレオバシディウム・プルランス IFO6353株を実験2−3におけると同様に培養し、同様に培養物を処理して、プルラン含有粉末を製造した。製造された各プルラン含有粉末におけるプルラン含量及び夾雑糖質含量を実験2−3と同様にして測定するとともに、実験2−4におけると同様にして、各プルラン含有粉末を成形して得たフィルムについて、その突刺し破断強度及びひび割れ発生率を求めた。結果を表4に示した。なお、表4におけるMA446株についての値は、表2及び表3の対応する欄から転記したものである。
【0075】
表4にみられるとおり、S−2株やIFO6353株を培地2乃至4で培養して得られる培養物から製造されたプルラン含有粉末は、いずれもプルラン含量が95質量%を下回るとともに、夾雑糖質含量は約6質量%以上となり、MA446株を培養した培養物から製造されるプルラン含有粉末と比較して、プルラン含量は顕著に低く、夾雑糖質含量は顕著に高かった。
【0076】
また、S−2株又はIFO6353株を培地2乃至4で培養して得たプルラン含有粉末を成形したフィルムは、突刺し強度試験において18MPaを下回る応力で破断し、その突刺し破断強度は、MA446株を培地2乃至4で培養して得たプルラン含有粉末を成形したフィルムの21MPaを上回る突刺し破断強度に比べて、顕著に低かった。また、S−2株又はIFO6353株を培地2乃至4で培養して得たプルラン含有粉末を成形したフィルムは、ひび割れ発生率が30%以上と高く、破断が生じたときに、破断が周囲に広がり易いことを示している。
【0077】
<実験4:MA446株を培地3で培養して得た培養物から製造されたプルラン含有粉末の分析>
実験2−4において、突刺し破断強度が最も高いフィルムが得られたプルラン含有粉末、すなわち、MA446株を培地3で培養して得た培養物から製造されたプルラン含有粉末を被験粉末とし、この被験粉末について、GPCによる分子量分布の測定を行なった。また、被験粉末について、その75容積%水性メタノールに可溶の夾雑糖質を調製し、そのGPC分析を行なった。さらに、被験粉末に含まれるマンニトールの含量をHPLCにより測定した。併せて、市販されている汎用のプルラン含有粉末である『食品添加物プルラン』(株式会社林原商事販売)を対照粉末とし、この対照粉末について同様の測定及び分析を行った。なお、対照粉末については、プルラン含量及び夾雑糖質含量を上記実験2−3におけると同様にアントロン−硫酸法で測定し、その結果を表5に示した。表5中、被験粉末についてのプルラン含量及び夾雑糖質含量は、表2の対応する欄から転記したものである。各測定の詳細は以下のとおりである。
【0078】
<平均分子量及び分子量分布の測定>
被験粉末及び対照粉末を、それぞれ、2質量/容積%の水溶液とし、等量の20mMリン酸緩衝液pH7.0を加え、メンブランフィルターにて濾過したものを、GPC分析に供した。GPC分析は、カラムにTSK−GEL α−M(内径7.8mmφ×長さ300mm、東ソー株式会社製)を2本直列に繋いだもの、溶離液に10mMリン酸緩衝液pH7.0、検出器に示差屈折計を用いて、温度40℃、流速0.3ml/分にて行なった。GPC溶出パターンからプルランの質量平均分子量及び数平均分子量を算出した。分子量と溶出時間との関係は、グルコース、マルトトリオース、及び分子量測定用プルラン標準品P−2、P−3、P−5、P−10、P−20、P−50、P−100、P−200、P−400、P−800、P−1600、及びP−2500(昭和電工株式会社販売)を用いて求めた。被験粉末及び対照粉末のGPC溶出パターンを、それぞれ、
図1及び
図2に示した。また、質量平均分子量およびMw/Mnの値を表5に示した。
【0079】
図1にみられるとおり、被験粉末のGPC溶出パターンは、保持時間約50分に頂点があるプルランの単一のピークからなっており、保持時間が40分未満及び60分超の成分は殆ど認められず、プルラン純度が高い粉末であることが分かる。これに対し、
図2に示す対照粉末の溶出パターンにおいては、同様に、保持時間約50分に頂点があるプルランのピークが認められるものの、保持時間が60分を超えた部分にも幾つかのピークが認められ、プルラン以外に、プルランよりも低分子量の夾雑糖質が多く含まれていることが分かる。
【0080】
<夾雑糖質画分のGPC分析>
各粉末について、75容積%水性メタノールに可溶の夾雑糖質画分は以下のようにして調製した。すなわち、被験粉末及び対照粉末を、それぞれ10質量/容積%の水溶液とし、それに3倍量のメタノールを加えて直ちによく撹拌し、4℃で15,700g×10分間の条件で遠心分離した。上清をエバポレータで乾固したのち、精製水を加えて溶解し乾固する操作を2回繰り返してメタノールを除去した後、再度精製水に溶解し、0.45μmのメンブランフィルターにて濾過したものを、75容積%水性メタノール可溶の夾雑糖質画分として得た。得られた夾雑糖質画分を適宜希釈し、上記分子量分布の分析と同じ条件でGPC分析を行なった。被験粉末及び対照粉末の夾雑糖質画分のGPC溶出パターンを、それぞれ
図3及び
図4に示す。
【0081】
図3にみられるとおり、被験粉末の夾雑糖質画分には幾つかのピークが認められるものの、いずれもその面積は小さく、量的にはわずかであった。一方、
図4にみられるとおり、対照粉末の夾雑糖質画分には保持時間が約60乃至70分にかけてブロードで大きなピークが認められ、これが夾雑糖質の主要成分であると判断された。保持時間約60乃至70分は、分子量範囲としては約500乃至15,000に相当し、マルトトリオースがα−1,6結合により鎖状に結合したプルラン様構造を有する糖質としては、グルコース重合度3乃至90(マルトトリオース単位で1(分子量504)乃至30(分子量14,598))にほぼ相当する。
【0082】
なお、
図3及び
図4において保持時間約71分に認められるピークは、被験粉末及び対照粉末においてプルランの生成に用いたMA446株及びS−2株の代謝生成物であるマンニトールである。このように、被験粉末及び対照粉末の夾雑糖質画分にはマンニトールが含まれ、このことは、被験粉末及び対照粉末のいずれもが、溶媒沈殿による夾雑糖質の除去工程を経ずに製造されたものであることを示している。
【0083】
<グルコース重合度3乃至90の糖質の含量の測定>
なお、前述のとおりマンニトールはアントロン−硫酸法により測定されないため夾雑糖質には含まれないが、夾雑糖質画分のGPC分析においては保持時間約71分に認められるピークとして表れる。よって、
図3及び
図4において得られた溶出区分全体の面積からマンニトールに相当するピークの面積を除いたものを、アントロン−硫酸法により測定される夾雑糖質の面積とし、この面積に対するグルコース重合度3乃至90の糖質に相当するピークの面積の割合を求め、アントロン−硫酸法により測定される夾雑糖質中のグルコース重合度3乃至90の糖質の含量(「夾雑糖質中のDP3−90の糖質含量(%)」)として、表5に示した。さらに、この「夾雑糖質中のDP3−90の糖質含量(%)」に、別途、アントロン−硫酸法で求められた粉末全体に含まれる全糖質含量に対する夾雑糖質含量(%)を乗じて、「プルラン含有粉末中のDP3−90の糖質含量(%)」とし、併せて、表5に示した。すなわち、表5における「プルラン含有粉末中のDP3−90の糖質含量(%)」の値は、表5に示すGPC分析によって得られた「夾雑糖質中のDP3−90の糖質含量(%)」の値に、同じく表5に示すアントロン−硫酸法によって得られた夾雑糖質含量(%)の値を乗じることによって計算で求められた数値である。
【0084】
<プルラン含有粉末中のマンニトール含量の測定>
被験粉末及び対照粉末を、HPLCにより分析し、プルラン含有粉末中のマンニトールの含量を求めた。HPLC分析は、カラムにMCI GEL CK08EC(内径8mmφ×長さ300mm、三菱化学株式会社製)、溶離液に精製水、検出器に示差屈折計を用いて、温度75℃、溶離液の流速0.6ml/分の条件にて行ない、濃度既知のマンニトールを標準とし、ピーク面積からプルラン含有粉末中のマンニトール含量を、無水物換算で求めた。結果を、表5に示す。
【0086】
表5に示すとおり、MA446株の培養物から製造された被験粉末は、対照粉末と比較して、プルランの平均分子量や分子量分布に大きな差異は認められなかった。夾雑糖質中のグルコース重合度3乃至90の糖質含量は、被験粉末においては24.2質量%(プルラン含有粉末中のグルコース重合度3乃至90の糖質含量は0.1質量%)であり、対照粉末の85.1質量%(プルラン含有粉末中のグルコース重合度3乃至90の糖質含量は6.5質量%)よりも低かった。プルラン含有粉末中のマンニトール含量は、無水物換算で、被験粉末では0.35質量%、対照粉末では0.51質量%であった。夾雑糖質含量の低い被験粉末においては、対照粉末と比較して、夾雑糖質中のグルコース重合度3乃至90の糖質の含量も少なかった。
【0087】
<実験5:プルラン含有粉末中の夾雑糖質含量とフィルム強度との関係>
実験4で使用した被験粉末と対照粉末とを、表6に示す割合で混合することにより、夾雑糖質含量の異なる被験試料1乃至10を調製した。各被験試料におけるプルラン含量、夾雑糖質含量及びグルコース重合度3乃至90の糖質の含量を、表6に示した。各被験試料を用いてフィルムを成形し、その強度を比較した。フィルムの成形、並びに突刺し破断強度の測定は、実験2−4におけると同様の方法で行なった。結果を表7に示す。
【0090】
表6、表7にみられるとおり、プルラン含量が97質量%以上であり、夾雑糖質含量が3質量%以下である被験試料1乃至4を用いて成形したフィルムは、対照粉末のみからなる被験試料10を用いて成形したフィルムと比較して、高い突刺し破断強度を示し、20MPaの応力を加えても破断を生じなかった。これに対し、プルラン含量が97質量%を下回り、夾雑糖質含量が3質量%を超える被験試料5乃至9では、20MPaを下回る応力により破断した。この結果は、突刺し破断強度は、夾雑糖質含量、及び夾雑糖質の主成分であるグルコース重合度3乃至90の糖質含量が増加するにつれて低下する傾向にあることを示している。また、プルラン含量が97質量%以上で、夾雑糖質含量が3質量%以下である被験試料1乃至4においては、フィルムの破断時にひび割れが生じなかったのに対し、プルラン含量が97質量%を下回り、夾雑糖質含量が3質量%を超える被験試料5乃至10のフィルムにおいては、破断箇所周辺にひび割れの発生が認められ、ひび割れが生じる割合は夾雑糖質含量が増加するとともに多くなる傾向が認められた。なお、夾雑糖質含量が2.7質量%と3質量%を下回る被験試料4において、粉末中のグルコース重合度が3乃至90の糖質成分の含量は2質量%以下であり、高い突刺し破断強度と低いひび割れ発生率を得るには、グルコース重合度が3乃至90の糖質成分の含量は2質量%以下であることが好ましいと判断された。
【0091】
<実験6:放射光によるプルランフィルムの分析>
MA446株を実験2に記載の方法で培地3を用いて培養して得たプルラン含有粉末2gを、18gの脱イオン水で加熱溶解し、それを平板上に流延し、30℃で乾燥し、さらに相対湿度22%の雰囲気下で24時間調湿して、厚さが約500μmのフィルムを成形した。得られたフィルムを、シンクロトロン放射光を線源に用いたX線小角散乱(SAXS)分析を行なった。測定は、大型放射光施設「SPring−8」(兵庫県佐用郡佐用町光都1−1−1)内の「兵庫県ビームライン(BL08B2)」を用い、下記の条件で行なった。特に、散乱角が0.1°以下の散乱を観測するため、カメラ長を長くした条件でも測定した(下記の<SAXS(Long)>)。
<SAXS(Long)>
波長:1.50Å
カメラ長:6114mm
検出器:イメージングプレート
画素サイズ:200μm
測定角度:0.001乃至0.1°
露光時間:300秒
標準試料:コラーゲン
データ処理装置:Rigaku R−AXIS
<SAXS(Short)>
波長:1.00Å
カメラ長:1342mm
検出器:イメージングプレート
画素サイズ:200μm
測定角度:0.01乃至2°
露光時間:300秒
標準試料:ベヘン酸銀
データ処理装置:Rigaku R−AXIS
【0092】
上記分析により得られた回折パターンを
図5、6に示す。SAXS分析で得られる回折パターンにおいては、通常、回折角(2θ)の増加に伴い急峻に立ち上がった後、ゆるやかに減衰する散乱曲線が観察される。試料中に長周期構造や密度揺らぎが存在する場合、それらに起因する散乱により、散乱曲線が一様になめらかに減衰せず、試料によっては折れ曲がった形状となることが知られている。
図5及び
図6に見られるとおり、いずれの回折パターンにおいても、散乱曲線は折れ曲がりなどを示すことなく、滑らかに減衰していた。これらの結果は、MA446株を培養して得られる夾雑糖質含量が3質量%以下と低分子量の成分が極めて少ない本発明のプルラン含有粉末のフィルムにおいて、長周期構造や密度揺らぎが存在しないことを示しており、当該フィルムは、応力を加えた場合に特定の箇所の歪みが大きくなるような構造上の不均一性を有さない点でも、強度的に優れたものであることを物語っている。
【0093】
<実験7:プルラン分子中のマルトテトラオース構造の含量>
MA446株を実験2に記載の方法で培地3を用いて培養して得たプルラン含有粉末、及び実験4で用いた対照のプルラン含有粉末を、それぞれ10質量/容積%の水溶液とし、それに3倍量のメタノールを加え直ちによく撹拌し、4℃で15,700g×10分間遠心分離した。沈殿を再度水に溶解した後、上記操作を再度行なった。得られた沈殿を乾燥後、1質量/容積%となるように20mM酢酸緩衝液pH5.0に溶解したものに、プルラナーゼ『アマノ 3』(アマノエンザイム製)をプルラン含有粉末1g当たり5単位添加し、53℃で48時間反応させた。反応液を脱塩後適宜希釈し、HPLC分析により、マルトトリオース及びマルトテトラオースの生成量を求めた。HPLC分析は、カラムにMCI GEL CK04SS(内径8mmφ×長さ300mm、三菱化学株式会社製)、溶離液に精製水、検出器に示差屈折計を用いて、温度75℃、流速0.6ml/分の条件にて行ない、得られたクロマトグラムにおけるマルトトリオース及びマルトテトラオースそれぞれのピーク面積からそれぞれの含量を算出し、その値からモル比を求めた。結果を表8に示した。
【0095】
表8にみられるとおり、MA446株を培養して得たプルラン含有粉末(被検粉末)中のプルラン分子に含まれるマルトテトラオース構造の存在比率(G4/G3)は対照のプルラン含有粉末(対照粉末)中のプルラン分子と同程度であった。S−2株及びその変異株が産生するプルランにおいては、マルトトリオース構造に対し、マルトテトラオース構造がモル比で1乃至3%程度の割合で存在する。上記のとおり、MA446株の培養物から得たプルラン含有粉末は、対照のプルラン含有粉末と比べて、マルトトリオース構造に対するマルトテトラオース構造の割合において大差が無い。このことは、従来のプルラン含有粉末のフィルムに比べ、本発明によるプルラン含有粉末のフィルムにおいて突刺し破断強度が高くひび割れ発生率が低いということが、プルラン分子についての構造上の違いによるものではなく、夾雑糖質含量の違いによるものであることを物語っている。
【0096】
以下、本発明のプルラン含有粉末の製造方法、及び、それにより得られたプルラン含有粉末、並びにそれを原料又は原料の一部として製造したプルランフィルムをはじめとする各種成形物について、実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0097】
<プルラン含有粉末>
炭素源としてグルコース50質量部、マルトース50質量部、水飴(酵素糖化水飴『マルトラップ』、固形分80%、DE約47、株式会社林原商事販売)50質量部を含み(炭素源としてのDE約67)、リン酸水素2カリウム2質量部、ペプトン2質量部、塩化ナトリウム2質量部、硫酸マグネシウム7水和物0.4質量部、及び硫酸第一鉄7水和物0.01質量部及び水を加えて計1,000質量部とした培地(pH7.0)に、同培地にて27℃で48時間種培養したオーレオバシディウム・プルランス MA446株菌体を接種し、通気・撹拌しながら27℃で72時間培養した。炭素源として用いた糖質に対するプルラン対糖収率は72.1質量%であった。得られた培養物から遠心分離により菌体を除去後、活性炭を用いた脱色濾過、イオン交換樹脂による脱塩により精製し、濃縮、乾燥及び粉末化を行い、白色で粉末としての流動性に優れたプルラン含有粉末を得た。
【0098】
本プルラン含有粉末は、プルラン含量が99.2質量%、夾雑糖質含量が0.8質量%であり、グルコース重合度3乃至90の糖質の含量は0.3質量%であった。さらにプルラン含有粉末に対し無水物換算で0.2質量%のマンニトールを含んでいた。また、本プルラン含有粉末の質量平均分子量は428,000ダルトンであり、Mw/Mnの値は35.3であった。当該プルラン含有粉末は、フィルムに成形することにより、破断強度に優れたプルランフィルムが得られる。また、本プルラン含有粉末は、特に夾雑糖質が少なく、分子量分布の広がりの指標となるMw/Mnも35.3と10乃至70の範囲内にあることから、成形物の強度や溶解速度、崩壊速度などの物性面において安定した性質を示すことが期待され、食品のみならず、化粧品、医薬品、医薬部外品等に用いることができ、特に医薬品においては溶解性や崩壊性のばらつきにより有効成分の体内動態に影響を与えることがないことから、医薬品添加物として好適に用いることができる。
【実施例2】
【0099】
<プルラン含有粉末>
炭素源として、グルコース20質量部、マルトース20質量部、及び水飴(酸糖化水飴、固形分75%、DE約42、株式会社林原商事販売)100質量部(炭素源としてのDE約54)を用いた以外は、実施例1と同様にして、プルラン含有粉末を得た。炭素源として用いた糖質に対するプルラン対糖収率は70.4質量%であった。得られた培養物から遠心分離により菌体を除去後、活性炭を用いた脱色濾過、イオン交換樹脂による脱塩により精製し、濃縮、乾燥及び粉末化を行い、白色で粉末としての流動性に優れたプルラン含有粉末を得た。
【0100】
本プルラン含有粉末は、プルラン含量が97.9質量%、夾雑糖質含量が2.1質量%であり、グルコース重合度3乃至90の糖質の含量は、0.7質量%であった。さらにプルラン含有粉末に対し無水物換算で0.6質量%のマンニトールを含んでいた。また、本プルラン含有粉末の質量平均分子量は401,000ダルトンであり、Mw/Mnの値は41.1であった。当該プルラン含有粉末は、フィルムに成形することにより、破断強度に優れたプルランフィルムが得られる。また、本プルラン含有粉末は、夾雑糖質が少なく、分子量分布の広がりの指標となるMw/Mnも41.1と10乃至70の範囲内にあることから、成形物の強度や溶解速度、崩壊速度などの物性面において安定した性質を示すことが期待され、食品のみならず、化粧品、医薬品、医薬部外品等に用いることができ、特に医薬品においては溶解性や崩壊性のばらつきにより有効成分の体内動態に影響を与えることがないことから、医薬品添加物として好適に用いることができる。
【実施例3】
【0101】
<プルランフィルム>
脱イオン水750質量部に、実施例1で調製したプルラン含有粉末を250質量部、剥離剤として界面活性剤(ショ糖モノラウレート)を0.5質量部溶解してプルランフィルム原料水溶液を作製し、減圧脱泡した。この原料水溶液を合成プラスチックフィルム上に流延し、温度35℃、相対湿度33%の環境下で乾燥させ、厚さ50μmのプルランフィルムを得た。得られたプルランフィルムは、3.5質量%の水分を含有していた。
【0102】
本プルランフィルムは、破断応力に対する耐性に優れた高い強度を有するとともに、水に対する溶解性も良好で、製造ロットごとにばらつきの少ない安定した溶解速度を示すので、食品、化粧品、医薬品等に有利に利用できる。
【実施例4】
【0103】
<口中清涼フィルム>
常法にしたがって、脱イオン水69.25質量部に、実施例1の方法で調製したプルラン含有粉末22質量部、カラギーナン1質量部、キサンタンガム0.15質量部、ローカストビーンガム0.15質量部、マルチトール0.8質量部、糖転移ヘスペリジン(林原生物化学研究所株式会社販売、商品名「αGヘスペリジン」)3質量部、乳化ミントオイル2.6質量部、プロポリスエキス0.5質量部、スクラロース0.3質量部、及びクエン酸0.25質量部を加え、90℃で3時間撹拌して溶解し、2×10mのステンレス板上に均質に流延し、60℃で4時間乾燥して、厚さ約200μm、幅約200cm、長さ10m、水分含量約8%、100cm
2当たりの質量が約2.2gのフィルム状成形物を得た。このフィルムを1×2cmに裁断して、20枚ずつ携帯用の容器に充填して、口中清涼フィルムを調製した。
【0104】
本品は、適度な強度を有すると共に口中で速やかに溶解する可食性のフィルムであり、糖転移ヘスペリジン、プロポリスエキスを含有することから、口腔の健康の維持・増進を目的に使用することができる口中清涼フィルムである。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造された可食性フィルムであるので、口中での溶解速度がほぼ一定しており、糖転移ヘスペリジンなどの有効成分の溶け出す速度が常に安定した可食性フィルムである。
【実施例5】
【0105】
<プルランシート>
実施例2で調製したプルラン含有粉末を300質量部、カルボキシメチールセルロースを30質量部、L−アスコルビン酸2−グルコシドを10質量部、感光素401号を0.1質量部、α−グルコシルルチンを3質量部、1,2−ペンタンジオールを5質量部、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウムを2.5質量部、水酸化カリウムを1質量部、エデト酸三ナトリウムを0.3質量部、クエン酸三ナトリウムを0.3質量部、クエン酸を0.2質量部、イオン交換水1000質量部を含むプルランシート原料水溶液を調製し、起泡した。この原料水溶液を合成プラスチックフィルム上に連続して流延し、50℃の熱風中を通して乾燥し、厚さ100μmのプルランシートを調製した。
【0106】
本プルランシートは、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、破断強度に優れ取り扱いが容易であるとともに、製品ごとにばらつきのない一定の溶解速度が期待でき、L−アスコルビン酸2−グルコシドやα−グルコシルルチンなどの有効成分を安定した速度で肌へ作用させることのできる化粧用パックの加工原材料などとして好適に利用できる。
【実施例6】
【0107】
<被覆膜>
実施例1の方法で製造したプルラン含有粉末1質量部及びアラビアガム0.2質量部を水100質量部に溶解した水溶液を調製した。このプルラン含有水溶液に産卵後10時間以内の新鮮な鶏卵を30秒間浸漬した後、取り出して、30℃の温度で2時間乾燥して卵殻表面上にプルランの被覆膜を形成させた。
【0108】
この被覆膜を形成させた鶏卵を、室温(15〜25℃)で保存して、その可食期間を対照の無処理鶏卵(プルラン被覆膜無し)と比較したところ、プルラン被覆膜を形成させた鶏卵の可食期間は、無処理鶏卵(プルラン被覆膜無し)の約5〜10倍にも延長された。このプルラン被覆膜は、食品工業などの原材料に用いるための鶏卵を保存するのに有利に利用できる。
【実施例7】
【0109】
<糖衣錠>
質量150mgの素錠を芯剤とし、これに結晶マルチトール50質量部、実施例2の方法で製造したプルラン含有粉末を濃度10w/w%水溶液としたもの20質量部、水15質量部、タルク25質量部および酸化チタン3質量部からなる下掛け液を用いて錠剤質量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じ結晶マルチトール65質量部、同じ10w/w%濃度のプルラン水溶液10質量部および水25質量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢のある外観の優れた糖衣錠を得た。
【0110】
本品は、プルランを含む糖衣によって被覆された糖衣錠であり、耐破壊強度に優れ、搬送や包装時の損傷が少なく、芯剤に含まれる有効成分の品質を長期間維持することができる糖衣錠である。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、摂取後の溶解速度や芯剤との結着力がほぼ一定しており、素錠に含まれる有効成分を安定した速度で吸収させることのできる糖衣錠である。
【実施例8】
【0111】
<錠剤>
実施例1の方法で調製したプルラン含有粉末5質量部、プロポリスエキス粉末30質量部、ラクトスクロース含有粉末(商品名『乳果オリゴ』LS−55P 株式会社林原商事販売)20質量部、乳酸カルシウム10質量部、L−アスコルビン酸5質量部、α−グリコシルルチン1質量部、第三リン酸カルシウム1質量部、ショ糖脂肪酸エステル1質量部及び適量の粉末香料を均一に混合した後、直径6mmの杵を装着した打錠機により打錠して錠剤(約300mg/錠)を得た。
【0112】
本品は、打錠時のひび割れもなく、適度な強度を有するとともに水に対する良好な溶解性を示す飲み易い錠剤であり、α−グリコシルルチン、プロポリスエキスに加えて、ラクトスクロース及びプルランを含有していることから、健康増進のための経口摂取物として好適である。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、プルラン含有粉末によってもたらされる結着力がほぼ一定しており、一定の成分を一定の条件で打錠することによって、常に安定した形状及び強度の錠剤とすることができる優れた錠剤である。さらに、本品は、摂取後の溶解速度や崩壊性がほぼ一定しており、投与した場合、有効成分を安定した速度で吸収させることのできる錠剤である。
【実施例9】
【0113】
<錠剤>
常法に従って、マルトース68質量部、α,α−トレハロース15質量部、実施例2の方法により調製したプルラン含有粉末5質量部、パルミチン酸レチノール5質量部、エルゴカルシフェロール5質量部、塩酸フルスルチアミン10質量部、リボフラビン5質量部、塩酸ピリドキシン10質量部、酢酸トコフェロール10質量部、ニコチン酸アミド30質量部、シアノコバラミン0.01質量部、パントテン酸カルシウム40質量、アスコルビン酸2−グルコシド(商品名『AA2G』 株式会社林原生物化学研究所販売)60質量部、香料1質量部、及びモノフルオロリン酸ナトリウム1質量部を均一に混合した後、混合物を打錠して錠剤(200mg/1錠)を得た。
【0114】
本品は、打錠時のひび割れもなく、適度な強度を有するとともに水に対する良好な溶解性を示し、ビタミン剤として有用な錠剤である。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、プルラン含有粉末によってもたらされる結着力がほぼ一定しており、一定の成分を一定の条件で打錠することによって、常に安定した形状及び強度の錠剤とすることができる優れた錠剤である。さらに、本品は、溶解速度や崩壊性がほぼ一定しており、投与した場合に有効成分であるビタミンを安定して吸収させることのできる錠剤である。
【実施例10】
【0115】
<錠剤>
常法により、エテンザミド450質量部、アセトアミノフェン300質量部、カフェイン50質量部、マルチトール25質量部、α,α−トレハロース25質量部、スクロース200質量部、キシリトール400質量部、コーンスターチ500質量部、ポリエチレングリコール20質量部、実施例1の方法で調製したプルラン含有粉末6質量部、アラビアガム6質量部、α−グルコシルステビオシド(商品名「αG−スイート」 東洋精糖株式会社販売)1質量部を混合した後、水を40ml加えて混練し、打錠機により打錠して錠剤(約300mg/錠)を得た。
【0116】
本品は、打錠時のひび割れもなく、適度な強度を有するとともに水に対する良好な溶解性を示し、口腔内で溶解させながら摂取することができる舌下剤型の風邪薬として用いることができる。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、プルラン含有粉末によってもたらされる結着力がほぼ一定しており、一定の成分を一定の条件で打錠することによって、常に安定した形状及び強度の錠剤とすることができる優れた錠剤である。さらに、本品は、口腔内での溶解速度がほぼ一定しており、エテンザミドやアセトアミノフェンなどの有効成分の溶け出す速度が安定し、それらを高効率で作用させることができる錠剤である。
【実施例11】
【0117】
<顆粒剤>
ラクトスクロース含有糖質(商品名「LS−90P」 塩水港精糖株式会社販売。固形物換算でラクトスクロース約90質量%含有)1質量部、実施例2の方法で調製したプルラン含有粉末0.1質量部、糖転移ヘスペリジン(商品名「αGヘスペリジン」 林原生物化学研究所株式会社販売)0.5質量部、α−グルコシルステビオシド(商品名「αG−スイート」 東洋精糖株式会社販売)0.2質量部を均一に混合し、顆粒成形機にかけて、顆粒状の散剤を得た。
【0118】
本品は、プルランを含んでいるため顆粒としてのまとまりが良く、安全で、溶解性に優れた飲み易い顆粒剤であり、さらに糖転移ヘスペリジンを含有することから、健康の維持・増進のための健康食品として有用である。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、プルラン含有粉末によってもたらされる結着力がほぼ一定しており、一定の成分を一定の条件で顆粒成形機にかけることによって、常に安定した形状及び強度の顆粒とすることができる優れた顆粒剤である。さらに、本品は、溶解速度がほぼ一定しており、投与した場合に、糖転移ヘスペリジンなどの有効成分を安定して吸収させることのできる顆粒剤である。
【実施例12】
【0119】
<繊維>
実施例1の方法で製造したプルラン含有粉末を水に溶解して濃度40w/w%とし、これに固形物当り1.5w/w%のアルギン酸及び0.02w/w%のローカストビーンガムを溶解して紡糸原液とし、これを液温60℃に調整して、直径0.3mm、長さ1mmの円筒状ノズルより圧力3kg/cm
2をかけて室温の空気中にストランドを押し出し、水分を蒸散乾燥させつつ、巻取機にて巻き取った。
【0120】
得られた繊維の太さは、約25μmで、この繊維は撚ることも、編むことも、織ることもできる。しかも、適度の強度と親水性を有すると共に、プルランを原料としているので基本的に無毒であり、皮膚への刺激がないという特徴を有しており、例えば、手術糸、ガーゼ等にも好適である。また、本品は、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を原料に用いて製造されているので、プルラン含有粉末によってもたらされる結着力や溶解性がほぼ一定しており、一定の紡糸条件下で、強度や溶解性等の品質の揃った繊維状成形物とすることができるという優れた利点を備えた繊維である。
【実施例13】
【0121】
濃度約0.01w/v%、比活性約1.5×10
8単位のインターフェロン−α溶液1質量部に、実施例1の方法で得たプルラン含有粉末を100質量部加え、無菌濾過した後、常法によりパイロジェンフリーとし、2ml容バイアルに3,000,000単位ずつ分注し、常法により凍結乾燥を行なった。
【0122】
本品は、室温下においても長期に安定であり、製造ロットごとのばらつきの少ない糖質組成のほぼ一定した本発明のプルラン含有粉末を含んでいるので、水に対して速やかに溶解し、有効成分であるインターフェロン−αの体内動態にも影響を及ぼすことがなく一定したものとなることから、注射薬、検査用試薬などとして有利に使用できる。