(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669843
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】改良型単一散乱モード検出を有する、複雑流体の動的光散乱型マイクロレオロジー
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20150129BHJP
G01N 15/14 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
G01N11/00 A
G01N15/14 P
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-525210(P2012-525210)
(86)(22)【出願日】2010年8月17日
(65)【公表番号】特表2013-502568(P2013-502568A)
(43)【公表日】2013年1月24日
(86)【国際出願番号】GB2010051354
(87)【国際公開番号】WO2011021032
(87)【国際公開日】20110224
【審査請求日】2013年7月23日
(31)【優先権主張番号】61/274,480
(32)【優先日】2009年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307747
【氏名又は名称】マルバーン インストゥルメンツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】レガ カルロス アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】アミン サミウル
【審査官】
▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/090562(WO,A1)
【文献】
特開2008−175723(JP,A)
【文献】
特開2003−065930(JP,A)
【文献】
特開2002−501622(JP,A)
【文献】
特許第2911877(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00−11/16
G01N 15/00−15/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロレオロジー測定方法であって、
プローブ粒子を複雑流体試料に埋め込む工程と、
前記複雑流体試料をコヒーレント光で照射する工程と、
前記複雑流体試料中のプローブ粒子によるコヒーレント光の散乱から後方散乱光子を検出する工程であって、該検出は、前記検出される後方散乱光子における多重散乱光の影響を実質的に低減するように、前記コヒーレント光の光軸に十分に近接し、かつ、前記複雑流体試料に十分に近接した位置から行われる、工程と、
前記検出された後方散乱光子を表す検出信号に相関演算を実行する工程と、
前記相関演算の結果から、前記複雑流体試料の少なくとも1つのレオロジー特性を導出する工程と、
を有するマイクロレオロジー測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記相関演算は自己相関演算である、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
検出の工程は、さらに、光周波数応答の領域を伸長するために、前方透過モードにおいてプローブ粒子により散乱されたコヒーレント光を検出する工程を含む、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
散乱光は、173度から13.5度までにわたる様々な異なる角度で検出され、前記相関演算実行の工程、および前記導出の工程は、前記様々な角度で検出された散乱光に実行される、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、
取得される周波数を伸長するために、および/または必要なプローブ粒子の量を調整することで多重散乱を最小限に抑えるために、検出の工程は、30ナノメートルから1マイクロメートルまでにわたる様々な異なるプローブサイズを利用して実行される、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、
検出の工程は、前記複雑流体試料との相互作用を最小限に抑えるように選択された様々な異なるプローブ化学を利用して実行される、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の方法であって、
前記複雑流体試料から受けた散乱光を第1および第2部分に分割する工程と、
前記散乱光の前記第1部分からの光子を検出する工程と、
前記散乱光の前記第2部分からの光子を検出する工程と、を有し、
前記相関演算は、前記第1部分における前記後方散乱光子を表す第1検出信号と、前記第2部分における前記後方散乱光子を表す第2検出信号との間での相互相関演算であり、前記レオロジー特性は、粘弾性または粘性である、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の方法であって、
前記複雑流体試料は、1.5ミリメートル以下の光路長を介してコヒーレント光で照射され、前記レオロジー特性は、粘弾性または粘性である、
マイクロレオロジー測定方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の方法であって、
前記プローブ粒子は、プローブ粒子による散乱が優位となるような濃度で前記複雑流体試料に埋め込まれる、
マイクロレオロジー測定方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、コロイド複
雑流体や複
雑生体液のような、複
雑流体の粘弾性パラメータを取得するための方法および装置に関する。
[発明の背景]
粘弾性とは、1つの素材において、粘性的性質と弾性的性質とが同時に存在することを意味する。複
雑流体及び構造化された流体の多くは、粘弾性特性を示し、つまり、弾性体のようにエネルギーを蓄積可能であることに加え、粘性流体のようにエネルギーを消散することも可能である。圧力がそういった粘弾性流体に付与されると、粘弾性流体は、全エネルギー入力を熱として消散する代わりに、エネルギー入力の一部を蓄積する。また、圧力が取り除かれると、粘弾性流体のひずみの一部が回復する。
【0002】
弾性係数またはG´は、弾性エネルギーの蓄積を意味し、損失係数G´´は、弾性エネルギーの粘性消散を意味する。大部分の複
雑流体にとって、G´およびG´´の大きさは、特性が測定される際の時間スケールや周波数に依存する。複
雑流体において存在する応力緩和メカニズムによっては、複
雑流体は、異なる周波数で異なる挙動(G´>G´´、またはG´´>G´、またはG´=G´´のいずれか)を示す。粘弾性応答を広範囲の周波数帯域にわたって測定可能であることは、複
雑流体における応力緩和メカニズムに対する見識をもたらし、このことは複
雑流体の基底構造に関連しているので複
雑流体の基底構造に対する見識も得られうる。
【0003】
現在のところ、高性能な回転型レオメーターが、これら粘弾性特性を測定するのに使用されるが、測定される周波数によっては、測定時間が極めて長くなりうる。また、次の試料投入前に行われる、レオメーターのステージの洗浄や試験準備に、かなりの時間を割くことがあり、高速大量処理測定が極めて難しい。回転型レオメーターの他の不利益は、極めて限られた周波数帯域へのアクセスをもたらすこと、一般的には1ミリリットルを超える大きな試料容量を必要とする点である。
【0004】
光学的なマイクロレオロジー手法も、複
雑流体の粘弾性特性の測定に使用されている。この手法は、対象の粘弾性流体(高分子溶液、界面活性剤溶液など)へのプローブ粒子の埋め込み、およびプローブ粒子の熱運動への追従を伴う。複
雑流体中に懸濁するコロイド球の熱駆動ランダム運動は、純粘性流体(例えば、単純なニュートン流体)中に懸濁する同様の球体の拡散ブラウン運動とは大きく異なる。コロイド球が弾性を示す複
雑流体中に懸濁している場合、プローブ粒子は副拡散運動を示し、または、弾性が顕著になると、プローブ粒子は局所的に結合する可能性がある。微細構造がゆっくりと緩和するにつれて、粒子がこの弾性力のある「ケージ」から抜けることができる。時間関数としてのプローブ粒子のこの運動は、動的光散乱(DLS)実験により求められる電場の自己相関関数から得られるプローブ粒子の平均2乗変位<Δr
2(t)>から得られる。
【0006】
平均2乗変位<Δr
2(t)>が一旦得られると、平均2乗変位<Δr
2(t)>は、複
雑粘弾性率 G
*、弾性G´、および粘性係数 G´´に関連し得る。
【0010】
この解析は、2つの主要な仮定に基づく。
・系が単一散乱を示す。系で多重散乱が発現すると、この解析はもはや有効ではない。
・全原理が、埋め込まれたプローブ粒子の運動への追従に基づくため、散乱は、埋め込まれたプローブ粒子による影響が最も大きい。
【0011】
均一で普通のレベルの濃度の複
雑流体の多くは、散乱光の信号に顕著に影響する。プローブ粒子が散乱に支配的であることを確かにするために、プローブ粒子は、適度に高い濃度(しかしそれでも0.5vol%未満)で加えられる必要がある。これらの適度な濃度領域でプローブ粒子を加えることで、系が非常に不透明となる可能性があり、また多重散乱が大きな問題となる可能性がある。
【0012】
こういった系では、プローブ粒子の濃度が更にあげられることとなり、結果、強多重散乱領域に入りうる。一方、解析を、上記に示す物から、マイクロレオロジー解析で多重散乱された光を使用するのに開発された
ロジックに変えてもよい。よって、これは、拡散波分光(DWS)として知られる手法に発展する。この手法に関する重要事項は、解析が本質的に複雑であり、データ解釈を極めて困難にする。DWSから得られるデータの、機械的データとの一致性が極めて乏しく、再測定を必要とする。
[発明の概要]
本発明のいくつかの態様が、本出願にて開示される。
【0013】
本発明による装置は、非常に少容量の試料に基づいて高度レオロジー特性が得られうるという点において有利でありうる。更に、本装置では、極めて高周波な(短時間)動力学を利用可能である。
【0014】
本発明による装置は、様々な適用分野にて、粘弾性測定を向上させることを許容しうる。これらは、学術研究、個人医療、化学品、および食品の分野の複
雑流体の高周波数レオロジー特性を含んでも良い。その分野において、本発明による装置は、ピエゾ手法(PAV/PRV)およびDWSの代替手段を提供可能である。さらに、本発明による装置は、溶液内に在るタンパク質や他の生物高分子の高度レオロジー特性などの、生命科学に適用して使用することが可能である。化学品や特殊化学品の分野において、本発明による装置は、新規合成高分子化合物や他の化学品の高度レオロジー特性向けに使用されてもよい。
【0015】
また、本発明による装置は、学術研究、薬学研究、個人医療、および化学品など、様々な分野での高速大量処理に適用して使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明によるマイクロレオロジー流体特性測定装置のブロック図。
【
図3】同一の試料に関しての機械的流量計結果が示される、
図1の装置での、0.5重量%のPEO溶液に関するDLS型マイクロレオロジーデータの一例である。
【
図4】同一の試料に関しての機械的流量計結果が示される、
図1の装置での、1.0重量%のPEO溶液に関するDLS型マイクロレオロジーデータの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照すると、本発明によるマイクロレオロジー流体特性測定装置10の例の実施形態は、レーザーなどのコヒーレント光源12、試料セル14、少なくとも1つの検出器20、および相関器22を有する。相関器は、ハードウェア、および/またはソフトウェアに組み込まれる自己相関
ロジックを含むことができ、検出器からの信号に自己相関関数を適用する。上記の粘弾性パラメータ導出のような単一散乱解析は、試料の1つまたは複数の流体パラメータ特性を抽出するための相関演算の結果に、適用されてもよい。相関関数の一例が
図2に示される。
【0018】
試料セル14は、直径1.5ミリメートル以下の毛細管のような、短光路セルであってもよい。そのような短光路セルの使用によって、透過幾何学での相関関数への多重散乱の影響を最小限に抑えることができる。また、装置が少量の試料に基づいて測定することが可能である点でも効果的であり、これは、タンパク質や低分子薬物のように、試料がとりわけ小さくなりうる生体分子にとって、特に重要である。このことは、本装置が、高速大量処理スクリーニングシステムの一部として使用されることを許容し得る。
【0019】
この装置は、前方散乱測定、後方散乱測定のいずれか、または両方を実施可能である。非侵入性後方
散乱(NIBS)手法を採用した後方散乱検出の利用は、相関関数への多重散乱寄与の効果を最低限に抑えるのに役立つ。この手法は、180度付近(例えば、173度)での後方散乱測定を伴い、本出願が援用する、米国特許番号6016195、ドイツ特許番号19725211、および日本特許番号2911877に記載されている。正確なNIBS検出器の配置および角度は、試料の特性、試料容器の材質、および要求精度など、様々な要因によって決まる。
【0020】
装置10は、ファイバー16、50:50のスプリッターのようなスプリッター18、および第2検出器20Aも更に有し得る。相関器24は、装置が、2つの検出器からの信号間で相互相関処理を実施できるようにする、相互相関
ロジックを含んでも良い。この相関演算により、最短の自己相関時間を決定する検出器の不感時間の影響が、低減するであろうため、散乱が乏しく、および/またはサイズが小さい(数ナノメートル)試料の粒子サイズであっても、本装置によって、より正確に抽出可能となる。相互相関演算は、アフターパルスのような検出器間で相関の無い検出器ノイズに影響を受けにくいという点でも効果的である。また、相互相関演算は、高周波G´およびG´´の計算精度を高め、相関器が、相関関数のゼロ時間相関(妨害)を直接的に決定できるようにする。
【0021】
上記の通り、本発明による装置は、様々なタイプの高速大量処理スクリーニングシステムの一部として使用されることが可能である。これらシステムは、一般に、スキャニングミラーやロボット型X−Yステージに基づくシステムのような、大型試料管理システムを含む。例えば、マルバーンゼータサイザーAPSは、産業界標準の96−もしくは384−wellプレート内の試料を、簡単、便利に自動測定できる。流体のバルク特性を検出するために、試料容器は、複
雑流体試料のドメインサイズよりも実質的に大きく、およびバルク散乱効果が、複
雑流体試料に関する表面効果を実質的に上回るのに十分な大きさの、限度容量を有していなければならない。正確な試料容器体積は、試料の特性および要求精度レベルなど、様々な要因によって定まる。
【0022】
本発明による装置は、照射されたコヒーレント光との相互作用の後に複雑流体試料から後方散乱される光を受ける光ファイバーを備え、該光ファイバーは、後方散乱光における多重散乱光の影響を実質的に低減するように、コヒーレント光の光軸に十分に近接し、かつ、前記複雑流体試料に十分に近接した位置に配置される。
本発明による装置は、散乱光が、173度から13.5度までのような、様々な異なる角度に
わたって検出されるように、構成可能である。また、装置は、周波数応答の領域を伸長するために、後方散乱モードまたは透過モードの両方で測定できるように、構成可能である。これらの課題は、1つの検出器が移動できるようにする、または2つ以上の検出器を供給する、など様々な方法で達成可能である。また、取得した周波数を伸長し、および/または必要なプローブ粒子の量を調整することで多重散乱を最小限に抑えるために、30ナノメートルから1マイクロメートルまでに渡る多くの異なるプローブサイズを利用した測定が可能である。更に、対象の複
雑流体との相互作用を最小限に抑えるために、多くの異なるプローブ化学を利用した測定も実施可能である。
【0023】
[例1]
上記のアプローチを実証するために、DLS型光マイクロレオロジーが、ゼータサイザーナノ(Malvern Instruments Limited)で、ハードウェアを変更することなく実施された。ゼータサイザーナノが、NIBS式手法を実行するように設計されている点は、注目すべきである。例えば、ゼータサイザーナノは、本出願が援用する、米国仮出願番号61/206,688に記載されている。
【0024】
調査された系は、多数の異なる濃度における、分子量が2MのPEO(ポリエチレンオキサイド)製法であった。この系は、低濃度(0.5重量%)においてさえ、すでに極めて混濁しており、散乱光の信号に顕著に影響していた。プローブ粒子(直径700ナノメートル、ポリエチレン粒子、デューク科学(Duke Scientific))
による散乱
が確実に優位になるように、プローブ粒子が比較的高濃度で追加され、これにより、系が、やや多重散乱したレジームに入る。試料が明らかに、極めて混濁した場合、この系に関しては、従来のDLS型マイクロレオロジーを用いた測定を行なうことはきわめて困難であろう。
【0025】
図3および4は、ゼータサイザーから得たマイクロレオロジーデータ、および高性能な回転式機械レオメーター(ボーリン ジェミニ エイチアール ナノ、マルバーン インストゥルメンツ(Bohlin Gemini HR Nano、Malvern Instruments Limited))についての比較データを示す。データは、低周波数重複領域にて、機械的データと明らかに一致しており、広範な周波数域にて粘弾性応答が取得されたことも示す。DLS型高周波数データは、この系に予想される物理特性(ジムルイス(Zimm & Rouse)動力学)を適切にキャプチャーする。
【0026】
この例において、相関演算は、専用のDSPボードにおいて装置に搭載されて(on board)形成され、汎用のワークステーション上で実行される専門ソフトを利用した単一散乱の解析が実行される。また、装置は、これら演算を実行するのに、専用のハードウェア、またはソフトウェアと専用のハードウェアとの組み合わせなど、他のアプローチを用いることも可能である。本発明は、いくつかの特定の実施形態にて説明された。しかし、本発明の範囲に含まれるとして熟考される様々な変更や改良は、当業者には明確であるはずである。よって、本発明の範囲は、添付の請求の範囲によってのみ限定されることを目的としている。さらに、請求項の提示の順序は、請求項内の特定の用語の範囲を限定するように解釈されてはならない。