【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生分解性の射出成形可能なポリマー組成物であって、乾燥重量基準で、
a)デンプンおよび/または高アミロース加工デンプン50〜85重量%;
b)ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、およびエチレンとビニルアルコールのコ
ポリマーから選択され、溶融状態のデンプン成分と適合する融点を有する、水溶性ポリマ
ー4〜13重量%;
c)ポリオール可塑剤10〜35重量%;
d)ポリエチレンオキシドまたはポリエチレングリコール0.5〜10重量%;
e)C
12〜22脂肪酸または脂肪酸塩0〜1.5重量%;および
f)食品等級の乳化剤0.25〜3重量%;
を有する組成物を提供する。
【0010】
記載された該組成物は、尿サンプルコレクタおよびタンポンアプリケーターなどの医療
用具を含む射出成形製品を形成するのに適している。加工デンプン含量の上限は、そのコ
ストによって決まる。この成分は、良好な凝集性および伸長特性、良好な光学特性、なら
びに劣化(後退;retrogradation)に対する抵抗を含む構造上の利点を、結果として得ら
れる材料に与える。劣化(後退;retrogradation)という用語は、加熱および冷却操作の
後に貯蔵中のデンプン成分によって結晶性に戻ることを表現するために使用されている。
この過程は、ステーリング(staling)と一般に呼ばれるもので、デンプンをベースとす
る食品の長期間の貯蔵中の硬化(hardeningまたはstiffening)を説明する。ヒドロキシ
プロピル化は、結晶性を抑えるのに役立つ。代表的のな加工デンプンとしては、ヒドロキ
シC
2〜6アルキル基を有するものまたはジカルボン酸の無水物との反応により変性した
デンプンが挙げられる。好ましい成分は、ヒドロキシプロピル化したアミロースである。
ヒドロキシエーテル置換を形成するその他の置換基は、ヒドロキシエチルまたはヒドロキ
シブチルであってよく、あるいはエステル誘導体を生成するためには、無水マレイン酸、
無水フタル酸または無水オクテニルコハク酸などを使用することができる。置換度(1構
成単位中の置換されているヒドロキシル基の平均数)は、好ましくは0.05から2であ
る。好ましいデンプンは、高アミローストウモロコシデンプンである。好ましい成分は、
Penford Australiaにより市販されている、ヒドロキシプロピル化され
た高アミロースデンプンA939である。使用されるヒドロキシプロピル化の最低水準は
、6.0%である。代表的な値は、6.1〜6.9%である。
【0011】
コスト節減および特性最適化の理由のため、このデンプンの一部を次のものに置き換え
ることができる:
1)より高いかまたはより低いレベルにヒドロキシプロピル化したもの。
2)より高いレベルの非加工デンプン。これは、特に加工デンプンのヒドロキシプロ
ピル化のレベルが増大される場合に可能であり得る。
3)より高い度合いの疎水性を有する無水オクテニルコハク酸(OSA)で変性した
デンプン。この加工デンプンの添加は、置換度の増加と共に耐水性を増加させる。OSA
デンプン中のアセチル結合は、その材料が水および生物活性のある環境に接近した際の生
分解性を保持することを保証する。
4)好ましくはデンプンがグラフトしているスチレンブタジエンからなるデンプンコ
ポリマー。この材料は、製品の衝撃抵抗を改善する。
【0012】
その他のデンプン成分は、任意の市販のデンプンである。これは、小麦、トウモロコシ
、ポテト、米、オートムギ、クズウコン、エンドウ豆などを起源として誘導することがで
きる。
【0013】
一般に含水率(ウェット基準;wet basis)は約5〜15%である。非加工デンプンは
、最終製品のバリヤー特性に寄与する再生可能な資源からの安価な生分解性原料であり、
したがってこの用途には極めて魅力的である。しかしながら、その使用は、劣化(後退(
retrogradation);脆性をもたらす結晶化)の発生、結果として形成された製品の限定さ
れた視覚的透明性、限定されたフィルム形成性および限定された引き伸ばしに対する弾力
性によって制限される。高アミロースデンプンは、劣化(後退)に対する感度が低い(な
ぜなら劣化(後退)は加熱処理したデンプン中のアミロペクチンの結晶化と主として関係
すると見られるためである)。デンプンの全体量の分率としての非加工デンプンの好まし
い濃度範囲は、0〜50%である。
【0014】
組成物のポリマー成分b)は、デンプンと相容性であり、水溶性、生分解性であり、デ
ンプンに対する処理温度と適合する低融点を有することが好ましい。ポリビニルアルコー
ルが好ましいポリマーであるが、エチレン−ビニルアルコール、エチレン酢酸ビニルのポ
リマーまたはポリビニルアルコールとのブレンドを使用することもできる。選択したポリ
マーの水溶性は、好ましくは室温条件で起こってはならない。PVOHは、優れたフィル
ム形成性およびバインダー特性、良好な弾性の組合せを提供し、デンプンをベースとする
配合物の処理加工を助ける。PVA(ポリビニルアルコール)は、酢酸ビニルモノマーの
重合によって製造されるポリ酢酸ビニルを加水分解することによって製造される。完全に
加水分解した等級のものは、残留アセテート基はあってもわずかであるが、部分的に加水
分解した等級のものは、いくらかの残留アセテート基を保有している。完全に加水分解し
た等級のものは熱水(93.3℃(200°F))に溶解し、室温まで冷却したときも溶
液のままである。PVOHの好ましい等級のものとしては、DuPontのElvano
l 71−30およびElvanol 70−62が挙げられる。それらの特性を表1に
記載する。
【0015】
【表1】
【0016】
分子量が高い等級のものほど、脆性およびおそらく感水性も減少するようである。最大
量は主としてコストによって決まる。PVOHの量が増すことによってヤング率が著しく
下がる。6%未満ではフィルム形成は困難である。射出成形材料のための好ましい濃度範
囲は6〜13%である。
【0017】
好ましい可塑剤は、ポリオール、特に、ソルビトールと、1つまたは複数のその他のポ
リオール類、特にマルチトール、グリセロール、マンニトールおよびキシリトールとの混
合物であるが、エリトリトール、エチレングリコールおよびジエチレングリコールもまた
適切である。可塑剤は三重の役割を果たし、それは、押出し配合工程のためおよび射出成
形工程に適するレオロジーを提供し、一方でまた製品の機械的性質にもプラスに作用する
。コスト、食品との接触または皮膚/粘膜の膜との接触が、適切な可塑剤の選択における
重要な課題である。最終製品の加工処理性能、機械的性質および保管寿命は、ポリオール
混合物の正確な組成に依存する。ゼロまたは非常に低い水分含量において、可塑剤含量は
、好ましくは10%から35%、より好ましくは20%である。使用される可塑剤(1つ
または複数)の種類によって、射出成形した製品の平衡含水率は、標準的な水分平衡法に
より測定しておよそ2〜5%である。
【0018】
ソルビトール、マルチトールおよびグリセロールのブレンドは、キシリトールならびに
キシリトールのソルビトールとグリセロールとのブレンドと同様に、配合物の機械的性質
を修正するために特に適する。ソルビトールおよびキシリトールは特に良好な湿潤剤であ
る。しかしながら、グリセロールを、特にある一定の基準点未満で使用する場合、可塑剤
の存在によってポリマー鎖が一時的に移動性を増すために、結晶化または少なくとも高度
の秩序化が起こり、非可塑化デンプン配合物と比較して、これらの配合物の剛性および脆
性を増す原因となる逆可塑化が起こり得る。
【0019】
さらにソルビトールはそれだけで使用される場合結晶化が見られる。いくつかのポリオ
ール類(特にソルビトールおよびグリセロール)は、表面への移行を示すことがあり、ソ
ルビトールの場合は不透明な結晶性フィルムを、あるいはグリセロールの場合は油状のフ
ィルムを形成することがあり得る。さまざまなポリオールをブレンドすることによってこ
の影響はさまざまな程度まで阻止される。安定化は、乳化剤としてグリセロールモノステ
アレートおよびステアロイル乳酸ナトリウムを添加することによって高めることができる
。さらに、塩との相乗効果により機械的性質に対してより強力な効果がもたらされる。
【0020】
代わりの可塑剤は、5%から10%のエポキシ化アマニ油である。好ましくは乳化シス
テムによって安定化されているこの可塑剤は、加工処理を助けるが、ヤング率のさらなる
著しい低下をもたらすことはない。
【0021】
配合処理中は適切なデンプンのゼラチン化を確保するために水を存在させる。過剰の水
は、通気(venting)またはオン/オフラインのペレット乾燥を用いて配合の途中で除去
することができ、さらに射出成形する前に例えばホッパー乾燥を用いて望ましい水準に調
節することができる。選択したポリオールのブレンドの湿潤特性は、製品の適切で安定し
た含水率に影響する。利用したポリオールブレンドによって、可塑剤含量は、好ましくは
10〜35%であり、水含量は、10〜0%である。高度に柔軟性の射出成形成分に対し
て、可塑剤含量は、硬い射出成形品またはシート製品に対するよりも好ましくは高い。
【0022】
ポリエチレンオキシドおよびポリエチレングリコールは、交互にまたは共に、組成物が
生体適合性であり、尿サンプルコレクタおよびタンポンアプリケーターを含む粘膜組織と
の接触を有する医療用具に使用することができることを確保する。好ましいポリエチレン
オキシドは、20,000より上の分子量を有するものである。医療用に対して配合物は
、細胞毒性(Cytoxicity)試験(ISO 10993−5)、感作試験(IS
O 10993−10)および刺激性試験(ISO 10993.10)に合格しなけれ
ばならない。好ましい添加剤は、ポリエチレンオキシド(分子量210,000のPEG
−5000)であり、ステアリン酸の代わりに0.57%または2%加えると、細胞毒性
試験で細胞溶解(lysis)ゼロの結果をもたらし、0.57%のステアリン酸に加えて5
%を添加した場合も、ゼロの細胞溶解の結果を生じる。ポリエチレンオキシドおよびポリ
エチレングリコールは、交互にまたは共に、さらに耐水性の増大を配合物に与え、特に多
層構造(MLS)の層間剥離を生じ得る過剰な膨潤を防ぐ。
【0023】
脂肪酸または脂肪酸塩成分は、0.5〜1.5%の濃度で存在するのが好ましい。ステ
アリン酸が好ましい成分である。ステアリン酸のナトリウム塩およびカリウム塩も使用す
ることができる。この場合もやはりコストがこの成分の選択の要因であり得るが、ラウリ
ン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸およびベヘン酸はすべて適する。ステア
リン酸は、それがデンプンとのより良好な相容性を示しているため潤滑剤として好ましい
。ステアリン酸と同様にステアリン酸カルシウムなどの塩を使用することができる。ステ
アリン酸は、デンプン系ポリマーの表面に移行するようである。
【0024】
デンプンは脂肪酸と複合体を形成するものと考えられる。デンプングルコピラノシド(
グルコース)は、「いす形」立体配置をした6員環である。環の周囲は親水性であるが、
その面は疎水性である。そのデンプン鎖は、1回転当たり約6個の残基を有するらせんを
形成している。その結果、親水性の外面と疎水性の内面とを備えた中空のシリンダーとな
っている。内側の空間は、直径が約4.5オングストロームであり、ステアリン酸のよう
な直鎖アルキル分子がその中にうまくおさまり得る。同様にしてGMSなどの乳化剤の脂
肪酸部分は、ゼラチン化したデンプンと複合体を形成してデンプンの結晶化を抑制し、そ
れによってステーリング(staling)の進行を遅らせることができる。アミロース(デン
プン中の線状成分)と、およびアミロペクチン(デンプン中の分岐成分)と複合体化する
モノグリセリドの量は、乳化剤の脂肪酸部分の飽和度に依存する。不飽和脂肪酸は、脂肪
酸鎖中の二重結合によってもたらされる屈曲(bend)を有しており、それがそれらの複合
体を形成する能力を制限する。ステアリン酸は処理加工助剤として特に有用であるが、P
EOまたはPEGの存在下では、必要がないことがある。適切な処理加工助剤の選択は、
必要なMLSの層間剥離に対する抵抗によって大きく制限される。
【0025】
乳化剤は、好ましくは食品等級の乳化剤であり、脂質および親水性成分の組成物中での
均一な分散を維持する助けをする。一般的にその選択はHLB(親水性親油性バランス)
値による。好ましい乳化剤は、HLB数が2と10の間の食品等級の乳化剤から選択され
、プロピレングリコールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、グリセロール
モノステアレート、アセチル化モノグリセリド(ステアレート)、ソルビタンモノオレエ
ート、プロピレングリコールモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ステアロイ
ル−2−乳酸カルシウム、グリセロールモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、
大豆レシチン、モノグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリ
ウム、ソルビタンモノラウレートが挙げられる。ステアロイル乳酸ナトリウムおよびグリ
セロールモノステアレートがデンプン系で通常使用される。
【0026】
【表2】
【0027】
1〜1.5%の範囲の量で添加されたグリセロールモノステアレートは、機械的性質を
安定化させ、ブレンドの均一性を増す乳化剤として作用する。0.25%から1.5%で
可塑剤系に添加されたステアロイル乳酸ナトリウムは、機械的性質をさらに安定化させ、
ブレンドの均一性を増加させる。ステアロイル乳酸は(ナトリウムまたはカリウム塩とし
て)生地補強剤としても通常使用され、それ故、劣化(後退)防止剤として作用すること
ができる。グリセロールモノステアレートとステアロイル乳酸ナトリウムとを組み合わせ
ることにより特性のより早い安定化が得られる。HLB値は、加成則に従い、SSLとG
MSの適当な混合物については4〜10程度のものである。
【0028】
水は、デンプンを「ゼラチン化」(脱構造化または融解とも呼ばれる)してポリマーの
ゲル構造にするために加えられる。水は、また、最終生成物中で可塑剤のように作用し、
材料を軟化させ、すなわち弾性率を低下させる。材料の含水率は、水分活性または30%
未満または75%を超える相対湿度(RH)で変動し得る。多くの応用において材料が暴
露されるその場所のRHは、最大90%の値まで到達し得る。安定した機械的性質、ラミ
ネーション特性およびあらゆる温度での処理加工の容易さのためには不揮発性の可塑剤が
望ましい。それ故、いくらかの量またはすべての量の水を、配合段階の途中または後およ
び/またはその後の射出成形もしくはフィルム形成の供給段階中に蒸発させるのがよいこ
とがある。これは押出し器の容器(barrel)を脱気し、かつ/またはペレットをオンライ
ン乾燥することにより達成することができる。可塑化されていない配合物の押出し加工は
10%の低さの水濃度で可能であり、ポリオール可塑剤を含む配合物は射出成形前に遊離
水0%まで乾燥させることができる。好ましい含水率は、水分吸収実験によって測定され
た最終生成物の使用中のRH範囲における配合物の平衡含水率である。これは配合物の固
有の組成によるが、3〜12%の範囲である。
【0029】
タンポンアプリケーターに対して、乾燥重量基準での好ましい配合は、以下のものであ
る:
a)50〜100%が加工デンプンであるデンプン50〜70重量%;
b)ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、およびエチレンとビニルアルコールのコ
ポリマーから選択され、溶融状態のデンプン成分と適合する融点を有する、水溶性ポリマ
ー5〜13重量%;
c)ポリオール可塑剤15〜35重量%;
d)分子量が20,000より上のポリエチレンオキシド0.5〜5重量%;
e)C
12〜22脂肪酸または脂肪酸塩0〜1重量%;および
f)食品等級の乳化剤0.25〜1.5重量%。
タンポンアプリケーターの含水率は約2〜4重量%である。