特許第5669910号(P5669910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5669910
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】樹脂成形品のレーザ溶着装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20150129BHJP
   F21S 8/10 20060101ALI20150129BHJP
   B23K 26/32 20140101ALN20150129BHJP
   B23K 26/21 20140101ALN20150129BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20150129BHJP
   F21W 101/12 20060101ALN20150129BHJP
   F21W 101/14 20060101ALN20150129BHJP
   F21Y 101/00 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   B29C65/16
   F21S8/10 173
   F21S8/10 373
   !B23K26/32
   !B23K26/21 G
   F21W101:10
   F21W101:12
   F21W101:14
   F21Y101:00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-194106(P2013-194106)
(22)【出願日】2013年9月19日
(62)【分割の表示】特願2009-129901(P2009-129901)の分割
【原出願日】2009年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-37141(P2014-37141A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2013年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(72)【発明者】
【氏名】鉾田 和晃
(72)【発明者】
【氏名】財津 吉裕
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−334589(JP,A)
【文献】 特開昭61−199594(JP,A)
【文献】 特開2004−349123(JP,A)
【文献】 特開平10−156570(JP,A)
【文献】 特開2004−066739(JP,A)
【文献】 特開平11−348132(JP,A)
【文献】 特開2005−254618(JP,A)
【文献】 特開2006−205441(JP,A)
【文献】 特開平10−310676(JP,A)
【文献】 特開2001−243812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/16
F21S 8/10
B23K 26/21
B23K 26/32
F21W 101/10
F21W 101/12
F21W 101/14
F21Y 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出射するレーザビーム出射手段と;
前記レーザビーム出射手段から出射したレーザビームを走査するスキャンヘッドと;
吸光性樹脂部材を配置し、前記スキャンヘッドから出射したレーザビームが前記吸光性樹脂部材上に照射される治具と;
前記吸光性樹脂部材上に透光性樹脂部材を対向配置した状態で、前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材とを互いに接する方向に加圧する加圧手段と;
を有し、
前記スキャンヘッドは、前記レーザビーム出射手段から出射したレーザビームの焦点位置を調整できる焦点調整用光学系と、前記焦点調整用光学系から出射した焦点距離制御可能なレーザビームに対しガルバノミラを用いて2次元方向走査を行える走査手段と、前記焦点調整用光学系および前記走査手段を制御して、前記吸光性樹脂部材に照射するレーザビームの走査を制御する制御装置と、を有しており、
前記透光性樹脂部材の第1溶着領域と前記吸光性樹脂部材の第2溶着領域とを対向配置し、局所的なギャップの存在下で互いに接する方向で加圧状態とするように前記加圧手段にて圧力を印加し、前記スキャンヘッドから出射するレーザビームを前記透光性樹脂部材から入射させ、前記吸光性樹脂部材の第2溶着領域上に照射する状態で、前記制御装置は、前記焦点調整用光学系により前記第2溶着領域に対するレーザビームの焦点位置を調整しつつ、前記ガルバノミラによりレーザビームを2次元的に走査し、第2溶着領域の溶着ライン上をレーザビームを繰り返し照射し、溶着ライン全体を同時に加熱し、軟化点を過ぎ溶融前の状態で溶着領域全体を変形可能として加圧により平坦化し、ギャップを減少し、溶融状態として前記透光性樹脂部材も軟化溶融させ、前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材を溶着する、
樹脂成形品のレーザ溶着装置であって、
前記吸光性樹脂部材の第2溶着領域の形状が3次元構造を含み、入射レーザビームの入射角が位置により変化する場合、前記制御装置はレーザビームの走査速度を位置により変化させ、加熱温度を平均化させる、
樹脂成形品のレーザ溶着装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記焦点調整光学系を制御して、前記溶着ライン上のレーザビーム走査をデフォーカスさせて行う請求項1に記載の樹脂成形品のレーザ溶着装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記溶着領域の同一位置において、前記吸光性樹脂部材がガラス転移温度に達するまでの間に複数回のレーザビーム照射を行うように制御する請求項1または2に記載の樹脂成形品のレーザ溶着装置。
【請求項4】
前記加圧手段は、前記スキャンヘッドと、前記スキャンヘッドから出射したレーザビームが入射する前記透光性樹脂部材との間に配置された、透光性加圧板を含み、
前記透光性加圧板を通して前記溶着領域にレーザビームを照射する請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成形品のレーザ溶着装置。
【請求項5】
前記透光性加圧板の上方に前記スキャンヘッドが設けられており、
前記透光性加圧板の下方に前記吸光性樹脂部材および前記吸光性樹脂部材を設ける請求項に記載の樹脂成形品のレーザ溶着装置。
【請求項6】
前記スキャンヘッドが複数個のスキャンヘッドを含み、
前記複数のスキャンヘッドは、同一の治具に配置された吸光性樹脂部材の異なる位置に、同時にレーザビームを照射可能である請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形品のレーザ溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品のレーザ溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用灯具は、アクリロニトリロスチレンアクリレート(ASA)等の吸光性樹脂からなるハウジングと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート等の透光性樹脂からなるレンズを溶着した樹脂成形品を有することが多い。
【0003】
特開平10−310676号は、レンズとハウジングの間に熱板を挟み、熱板によってレンズとハウジングを加熱溶融し、熱板を外してレンズとハウジングを溶着する熱板溶着において、糸引き現象を抑制できるハウジング用樹脂組成物を提案している。
【0004】
特開2001−243812号は、レンズとランプボディ(ハウジング)を押圧状態とし、ロボットを用いてレーザ光をレンズ側から入射してランプボディ表面を加熱溶融し、ランプボディの溶融熱によってレンズ側のシール脚先端も溶融し、レーザ光をレンズの全周に亘って走査するレーザ溶着において、レーザ光が斜め入射するように接合面を傾ける方法を提案する。接合幅が拡がり、接合強度を高めることができると記載する。
【0005】
特開2004−349123号は、ハウジングと組み合わせるレンズの表面が曲面である場合を含め、レンズ表面上にレンズ形状に対応可能な弾性導光体と平坦な透明基材を配置し、圧縮加重を加えて弾性導光体とレンズを密着させ、透明基材側からレーザ光を入射し、弾性導光体、レンズを介してレンズとハウジングの接触部を加熱溶融してハウジングとレンズを溶着する方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−310676号公報
【特許文献2】特開2001−243812号公報
【特許文献3】特開2004−349123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザ光を用いて樹脂成形品を溶着する方法は、未だ十分開発されたとは言えない。
【0008】
レーザ光を用いて、密着性高く、外観に優れ、接合強度が高い溶着部を含む樹脂成形品を製造する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1観点によれば、
レーザビームを出射するレーザビーム出射手段と;
前記レーザビーム出射手段から出射したレーザビームを走査するスキャンヘッドと;
吸光性樹脂部材を配置し、前記スキャンヘッドから出射したレーザビームが前記吸光性樹脂部材上に照射される治具と;
前記吸光性樹脂部材上に透光性樹脂部材を対向配置した状態で、前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材とを互いに接する方向に加圧する加圧手段と;
を有し、
前記スキャンヘッドは、前記レーザビーム出射手段から出射したレーザビームの焦点位置を調整できる焦点調整用光学系と、前記焦点調整用光学系から出射した焦点距離制御可能なレーザビームに対しガルバノミラを用いて2次元方向走査を行える走査手段と、前記焦点調整用光学系および前記走査手段を制御して、前記吸光性樹脂部材に照射するレーザビームの走査を制御する制御装置と、を有しており、
前記透光性樹脂部材の第1溶着領域と前記吸光性樹脂部材の第2溶着領域とを対向配置し、局所的なギャップの存在下で互いに接する方向で加圧状態とするように前記加圧手段にて圧力を印加し、前記スキャンヘッドから出射するレーザビームを前記透光性樹脂部材から入射させ、前記吸光性樹脂部材の第2溶着領域上に照射する状態で、前記制御装置は、前記焦点調整用光学系により前記第2溶着領域に対するレーザビームの焦点位置を調整しつつ、前記ガルバノミラによりレーザビームを2次元的に走査し、第2溶着領域の溶着ライン上をレーザビームを繰り返し照射し、溶着ライン全体を同時に加熱し、軟化点を過ぎ溶融前の状態で溶着領域全体を変形可能として加圧により平坦化し、ギャップを減少し、溶融状態として前記透光性樹脂部材も軟化溶融させ、前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材を溶着する、
樹脂成形品のレーザ溶着装置であって、
前記吸光性樹脂部材の第2溶着領域の形状が3次元構造を含み、入射レーザビームの入射角が位置により変化する場合、前記制御装置はレーザビームの走査速度を位置により変化させ、加熱温度を平均化させる、
樹脂成形品のレーザ溶着装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
レーザビームを高速走査でき、溶着ライン全体を同時に加熱できるので、強固な溶着が得やすく、透光性樹脂部材と吸光性樹脂部材との間にギャップが残りにくい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】および
図1-2】図1A〜1Eは、平面上に配置された(2次元構造の)溶着領域にレーザビームを照射して、溶着を行なう場合を示すダイアグラム側面図、平面図、グラフ、およびダイアグラムである。
図2図2A〜2Eは、吸光性樹脂の温度に対する体積変化を示すグラフ、繰り返しレーザビーム照射による対向樹脂部材の変化を示す断面図、繰り返しレーザビーム照射の時間に対する、吸光性樹脂温度の変化を示すグラフである。
図3図3A、3Bは、3次元溶着領域に対する繰り返しレーザ照射による溶着を示す概略斜視図及び断面図、図3C,3Dは変形例を示す断面図及びダイアグラムである。
図4図4A〜4Cは、ロボットを用いたレーザ溶着に対して、本発明者らが行なった考察を示すレーザ溶着装置の側面図、溶着領域の上面図、溶着領域の断面図と温度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
透光性(透明)樹脂部材と吸光性(光吸収性、不透明)樹脂部材を加圧状態で対向、接触させ、透光性樹脂部材側からレーザビームを照射すると、レーザビームは透光性樹脂部材を透過して、吸光性樹脂部材に到達する。レーザビームが吸光性樹脂部材に吸収されると、吸光性樹脂部材を加熱し、軟化させ、さらには溶融する。透光性樹脂部材は、吸光性樹脂部材に加圧下で接しているので、吸光性樹脂部材の熱が透光性樹脂部材にも伝達される。従って、透光性樹脂部材も軟化し、溶融する。両部材が溶融状態になり溶着が行なわれる。本発明者らは、ロボットを用いたレーザ溶着方法について検討した。
【0013】
図4Aは、ロボットを用いたレーザ溶着装置の構成を示す側面図である。レーザ光源に接続された光ファイバ101の先端にはエキスパンダ、集光レンズを含む収束光学系102が接続され、収束するレーザビーム103を発射する。収束光学系102はロボット104に保持され、収束光学系の3次元位置及びレーザビームの進行方向を6次元制御する。架台105は、ロボット104を支持すると共に、ハウジング用の治具106を支持する。治具106は吸光性樹脂で形成されたハウジング108を支持する。ハウジング108の上には透光性樹脂で形成されたレンズ109が対向配置される。レンズ109とハウジング108は加圧状態に保持される。
【0014】
ロボット104が収束光学系102を所定のスタートポイントに位置付け、レーザビーム103を発射し、レンズ109を介してハウジング108に照射する。レーザビームを照射されたハウジング108表面部分は、レーザビームを吸収して加熱され、軟化し、溶融する。加熱されたハウジング108と接するレンズ109も加熱される。
【0015】
図4Bに示すように、レンズ109の周縁部に設定される溶着領域110は、通常ループ形状である。スタートポイントからレーザ照射を開始し、ロボット104によって収束光学系をループに沿って移動させ、1周して溶着工程は終了する。
【0016】
図4Cに示すように、レーザビームの進行と共に、ハウジング108(及びレンズ109)の溶着領域110には、溶融領域111とその前後の軟化(ガラス転移化)領域112,113が生じる。溶融領域では、レンズとハウジングの樹脂同士が溶けて僅かにつぶれた状態になる。レーザ溶着の場合、つぶれ領域の高さは0.1mm程度以下である。
【0017】
樹脂部材表面には成形による突き出し領域やウェルドラインのような凹凸が存在する場合も多い。ハウジング上面の凹凸領域を108r、レンズ下面の凹凸領域を109rで示す。通常突き出し段差は0.2mm程度ある。レーザビームが未だ通過していない領域では、樹脂は固相であり、突き出し段差もつぶれていない。突き出し段差の近傍では、レンズとハウジングの接触が妨げられ、ギャップが形成されうる。ギャップが消滅しないと、良好な溶着が行なわれない可能性がある。レーザビームが溶着領域を1周しても、溶着されない領域が残り、気密性のない溶着状態となる可能性がある。
【0018】
このような局所的溶着不良は、レーザ照射による加熱溶融が溶着領域内で局所的に行われるからと考えられる。熱板溶着のように溶着領域全体を加熱溶融できれば、局所的溶着不良を改善できるであろう。
【0019】
本発明者らは、レーザビームを用い、溶着領域全体を加熱溶融するためにレーザビームを高速走査することを検討した。溶着領域をレーザビームで繰り返し照射し、冷却前に次の照射を行えば、照射領域の温度は上昇するであろう。但し、ロボットを用いては、このような高速走査は困難であろう。レーザビームを高速走査できる構成としてガルバノスキャナがある。
【0020】
図1Aは、ガルバノスキャナを用いたレーザビーム溶着装置の構成を概略的に示すダイアグラムである。レーザ発振器に接続された光ファイバ11の先端から出射するレーザビーム12に対して、焦点調整用光学系13が配置される。焦点調整用光学系は、可動レンズを含み、光路上の焦点位置を調整することができる。焦点調整用光学系13から出射するレーザビームに対し、第1のガルバノミラ14が配置され、例えば加工面内のx方向走査を行なう。第1のガルバノミラ14で反射されたレーザビームに対して第2のガルバノミラ15が配置され、例えば加工面内のy方向走査を行なう。
【0021】
制御装置16は、ガルバノミラ14,15、焦点調整用光学系13の制御を行なう。出射レーザビーム12sは、ガルバノミラ14,15によって、xy面内で2次元走査が行えると共に、焦点調整用光学系13の調整により、焦点距離を制御してz方向に焦点位置を移動することもできる。即ち、レーザビームの焦合位置は3次元走査できる。ガルバノミラは軽量であり、高速走査が可能である。
【0022】
レーザ発振器としては、例えばYAG2倍波ないし3倍波のレーザ発振器、半導体レーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。2次元走査のみであれば、焦点調整光学系の代わりに、fθレンズを備えたスキャンヘッドを用いることもできる。
【0023】
図1Bは、2次元平面内に配置された溶着領域を有する加工対象物を概略的に示す断面図である。吸光性樹脂で形成され、容器形状のハウジング21の上に、透光性樹脂で形成され、ハウジング21の開口部を塞ぐように、レンズ22が対向配置される。レンズ22の下面には、溶着用のリブ23が形成されている場合を示す。なお、リブ23は必須の構成要件ではない。レンズ22の上に透光性加圧板25が配置され、圧力Pで、レンズ22の下面とハウジング21の上面を加圧接触させる。レーザビーム12sは透光性加圧板25、レンズ22を透過し、リブ23に接するハウジング21上面を照射する。ガルバノミラの駆動によりリブ(溶着領域)に沿って照射位置を走査する。溶着領域の配置された平面をxy平面とする。図1Aの構成において、第1のガルバノミラ14がx方向の走査を行ない、第2のガルバノミラ15がy方向の走査を行なう。
【0024】
図1Cは、2次元溶着領域27の形状例を示す。円形帯状で例示したループ形状である。レーザビームは、ループを繰り返し走査して照射される。加工対象物を設置してから、溶着対象の樹脂部材が設置時の温度から溶融状態に達するまでに、同一位置が複数回のレーザビーム照射を受ける。例えば、同一箇所が軟化温度(ガラス転移温度)に達するまでに複数回のレーザビーム照射を受け、さらに溶融状態になるまでに複数回のレーザビーム照射を受ける。吸光性樹脂を徐々に昇温させることにより、発泡を抑制することも可能となる。
【0025】
テストピースとして、円形帯状溶着領域の幅方向中央の溶着ライン1周の長さが15cmのサンプルを形成し、試験照射を行った。レンズはPMMAで形成し、ハウジングはASAで形成した。レンズとハウジングの間に熱電対を挟んで温度を測定した。レーザ出力は200W,走査速度4m/sec、連続した20周のレーザビーム照射を行った。1周の走査時間は37.5msecとなる。実製品では、溶着ライン1周が1mを超える場合も想定される。そのため、この試験においては、溶着ライン1周の照射を行った後に一定のインタバルを挿入することで、実製品の一部における溶着工程を模した試験とした。本試験においては、インタバルとして約0.8秒の挿入を行った。
【0026】
図1Dは、測定した温度tsの時間変化を示すグラフである。1回のレーザビーム照射に対して、温度は例えば40度程度上昇し、照射終了から下降を始める。照射前の温度まで降温する前に、次のレーザビームが照射し、温度が上昇する。繰り返しレーザビーム照射により、平均温度は次第に上昇している。平均温度が高くなると、1回のレーザビーム照射による温度上昇幅が減少し、上に凸の全体的形状となる。溶着領域内の位置を変えると、タイミングが僅かにずれた形で、同様の温度変化が生じると考えられる。溶着領域全体がほぼ均一に同時に加熱できることが明らかである。なお、熱電対の示す温度をそのまま示したが、テスト後、レンズとハウジングを壊して熱電対を取り出した。破壊試験において、レンズとハウジングは良好に溶着されており、実際の到達温度は、図示した温度より高く、240℃以上に達していたと想定される。
【0027】
図1Eは、ガルバノミラにおける反射を直進に置き換えた光学系を示すダイアグラムである。第1のガルバノミラ14へのレーザビーム入射位置を仮想光源の位置と考えることが可能であろう。ガルバノミラ14,15の回転により、2次元平面内でレーザ照射位置が走査される。仮想光源のxy面内位置を円形帯状溶着領域の中心に合わせると、円形帯状溶着領域のいずれの位置においても入射角θは一定となる。等速走査を行うと、円形溶着領域のいずれの位置においても、時間当たりの入射エネルギは一定となる。
【0028】
なお溶着領域の形状が、仮想光源からの距離を大きく変化させる形状となると入射角が変化し、照射面積も変化する。等速走査を行うと、位置により時間当たり、面積あたりの入射エネルギが変化し、到達温度も変化することになろう。このような場合は、入射角ないし仮想光源からの距離に応じて走査速度を制御し、入射エネルギ密度が低くなる位置では走査速度を下げ、溶着領域内の温度を均一化することが好ましい。このような制御は、制御装置16を介して行うことができる。
【0029】
図2Aは、ASA樹脂体積の温度に対する関係を示すグラフである。縦軸が体積を示し、横軸が温度を示す。室温からある温度範囲では、体積は温度と共にほぼリニアに、徐々に増大する。加重たわみ温度(熱変形温度)を過ぎると、体積増加率が増大し、ガラス転移温度(軟化温度)を過ぎた後、より急勾配のほぼリニアな体積増加率に遷移する。用いたASAは一般グレードであり、荷重たわみ温度は約95℃であり、240℃は流体域に属する。
【0030】
図2B〜2Dは、想定される溶着領域の変化を示す。図2Bは、軟化前の状態であり、ハウジング21、レンズ22の突き出し段差により、ハウジング21、レンズ22間に局所的なギャップが存在する。図2Cは軟化点を過ぎ溶融前の状態であり、溶着領域全体が変形可能になり、加圧により樹脂が平坦化され、ハウジング21、レンズ22間のギャップが減少する。図2Dは溶融状態であり、溶着ライン全体が溶融状態となる(少なくとも軟化状態と溶融状態の組み合わせになる)ので、ハウジング21、レンズ22間のギャップは消滅し、溶融した両樹脂21,22が互いに溶け合い、界面が消滅することが期待される。強固な溶着が得やすく、ハウジングとレンズ間にギャップが残りにくいであろう。
【0031】
図2Eは、温度の時間変化を概略的に示すグラフである。実線が繰り返しレーザビーム照射による温度変化を示す。時間t0からt1まで、レーザビームの繰り返し照射により、図1D同様に昇温、降温を繰り返しながら平均温度は上昇していく。時間t1からt2までは少なくとも昇温した状態では、吸光樹脂は溶融状態となり、両樹脂部材の押し込みが生じる。時間t2で溶着を完了し、自然放熱により降温させる。
【0032】
比較のため、ロボットにより溶着ラインに沿って1週のレーザ照射を行なう場合の温度変化を破線で示す。レーザビームの照射により、吸光樹脂の温度は一気に溶融温度まで上昇する。照射位置では樹脂が溶融状態になっても、他の位置ではレーザビームが未だ照射されず、または降温して樹脂は固相である。従って、樹脂の押し込みは制限され、局所的なギャップを完全に消滅することは困難であろう。
【0033】
同一溶着ライン上への繰り返しレーザビーム照射によれば、溶着ライン全体が同時に昇温され、軟化し、溶融するので、両樹脂部材が押し込まれ、局所的なギャップも効率的に消滅すると考えられる。
【0034】
図3Aは、3次元走査によるレーザビーム溶着を概略的に示すダイアグラムである。レーザ発振器10から発射するレーザビームが光ファイバ12を介してスキャンヘッド31に導入される。スキャンヘッド31は、図1Aに示した焦点調整用光学系、xガルバノミラ、yガルバノミラ、制御装置を含む構成である。治具36に吸光性樹脂からなるハウジング21が配置される。ハウジングの溶着領域は2次元平面には収まらない3次元構成を有する。ハウジング21の溶着領域と適合する溶着領域を有し、透光性樹脂からなるレンズ22がハウジング21上に両溶着領域を合わせて対向配置される。レンズ22、ハウジング21は互いに接する方向に圧力Pで加圧される。
【0035】
スキャンヘッド31は溶着領域に沿ってレーザビーム12sを走査し、繰り返し照射する。ガルバノミラ14,15によって2次元xy面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系によって、z方向焦点距離を制御し、一定の焦合状態を保つ。
【0036】
図3Bは、焦合状態の例を示す。収束するレーザビーム12sは、溶着領域27より後方に焦点位置を有する、いわゆる後ピン状態である。溶着領域からデフォーカスさせることにより、溶着領域の広い面積で溶融を生じさせ、強固な接合を得る。
【0037】
例として、3次元構造を有する車両用リアコンビネーション灯具の溶着を行なった。透光性樹脂部材で形成されたレンズと吸光性樹脂部材で形成されたハウジングを3次元構造の溶着領域で溶着する。溶着領域1周の長さは1m、レーザ出力150W,走査速度10m/sec、照射全長200m(200周)で溶着した。溶着後、破壊検査した結果全長にわたって剥離は生ぜず、材料破壊モードであり、強固な溶着ができたことを示した。
【0038】
3次元構造の溶着領域では、入射角が変化し、照射面積も変化する。吸光性樹脂部材表面の入射角が60度程度になることもある。垂直入射の場合と比較して、入射角60度の場合の照射面積は2倍になる。リブを用いる場合はリブ幅に余裕を持たせることが望まれる。リブ幅は2mm〜3mmとすることが好ましい。また溶かし込みのためにリブ高さは0.5mm以上が好ましい。リブ全高を溶かし込むとすると、照射エネルギ(レーザ出力)を抑制するため、リブ高さは1mm以下とすることが好ましい。この場合、リブ高さは、0.5mm〜1mmが好ましいことになる。例えば、リブ幅3mm、リブ高さ0.5mmで安定した良好な溶着を得た。
【0039】
レーザビームは、透光性樹脂部材を介して吸光性樹脂部材に照射される。透光性樹脂部材表面も光学的界面を形成し、反射を生じる。透光性樹脂部材表面の入射角が70度を超えると、樹脂部材内部への入射効率は大幅に低下し実用に耐えないことも多い。
【0040】
図3Cは、透光性樹脂部材22表面形状に適合する弾性透光部材33を介して、透光性加圧板25を配置し、透光性加圧板25からレーザビームを入射するモードを示す。弾性透光部材33は例えば透明シリコーン樹脂で形成する。弾性透光部材に関しては、特開2004−349123号の図1,2、段落0007〜0013の開示を参照できる。
【0041】
入射角度の範囲が70度を超える場合の対応について、以下に述べる。
【0042】
図3Dは、複数のスキャンヘッド31a、31bから複数のレーザビームを同時に照射するモードを示す。スキャンヘッド31a、31bは、別のレーザ光源からレーザビームを受けても、1つのレーザ光源からのレーザビームを分割した レーザビームを受けてもよい。照射領域を分割することにより、1つのスキャンヘッドが走査するレーザ照射領域が制限され、入射角の低下、レーザ照射領域の拡大が可能となる。
【0043】
以上実施例に沿って説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、透光性樹脂部材と吸光性樹脂部材の組み合わせはレンズとハウジングに限らない。宝石などの小型貴重品用ショーケースなどを作製してもよい。その他種々の用途が可能である。種々の変更、置換、改良、組合わせなどが可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0044】
11 レーザヘッド、
12 レーザ光、
13 焦点調節用光学系、
14 第1ガルバノミロラ、
15 第2ガルバノミラ、
21 吸光性樹脂部材、
22 透光性樹脂部材、
23 リブ、
25 透光性加圧板、
27 溶着領域、
101 光ファイバ、
102 収束光学系、
103 レーザ光、
104 ロボット、
105 架台、
106 治具、
108 ハウジング、
109 レンズ、
110 溶着領域、
111 溶融領域、
112 ガラス領域、
113 ガラス領域。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4