(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源と駆動輪との間に配置され、前記駆動源側のプーリと、前記駆動輪側のプーリと、2つの前記プーリの間に巻き掛けられた動力伝達部材とを有するバリエータを備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記バリエータにおける前記プーリと前記動力伝達部材とのスリップ量を検知するスリップ検知手段と、
スリップが生じている間、前記動力伝達部材と前記プーリとの間で発生する摩擦発熱量が前記スリップ量と前記動力伝達部材の挟持力とに基づいて規定される上限摩擦発熱量を超えないように前記動力伝達部材の挟持力をスリップが検知された時の前記動力伝達部材の挟持力よりも大きくする挟持力制御手段とを備える車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の変速比が車両の発進時などに使用される最大変速比である。「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る車両の制御装置を有する車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0013】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧PL」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0014】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0015】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板21a、22aと、この固定円錐板21a、22aに対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板21a、22aとの間にV溝を形成する可動円錐板21b、22bと、この可動円錐板21b、22bの背面に設けられて可動円錐板21b、22bを軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0016】
プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aに供給される油圧が小さい場合でもトルク容量が大きくなるように、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの受圧面積は大きくすることが望ましい。プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とは、プライマリプーリ21の受圧面積がセカンダリプーリ22の受圧面積よりも大きくなるよう設けられている。
【0017】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0018】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。
【0019】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれかの摩擦締結要素が締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、全ての摩擦締結要素が解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0020】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0021】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、
図2に示すように、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、入力信号演算部121と、ベルト滑り検知部122と、電動オイルポンプ指示演算部126と、制御部120と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。コントローラは、CPU、ROM、RAMなどによって構成され、CPUがROMに格納されたプログラムを読み出すことで、コントローラ12の機能が発揮される。
【0022】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、変速機4の出力回転速度(=セカンダリプーリ22の回転速度、以下、「セカンダリ回転速度」という。)を検出する回転速度センサ48、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧PLを検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号、Gセンサ47からの出力信号、プライマリプーリの位置を検出するストロークセンサ50の出力信号等が入力される。
【0023】
入力信号演算部121は、回転速度センサ42の出力信号からバリエータ20の入力回転速度を算出し、回転速度センサ48の出力信号からバリエータ20の出力回転速度を算出する。
【0024】
制御部120は、入力インターフェース123、入力信号演算部121などと接続しており、これらを含んだ車両を制御する。制御部120は、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、変速制御信号などを生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介して油圧制御回路11、エンジン1、電動オイルポンプ10eに出力する。
【0025】
制御部120は、燃料消費量を抑制するために、以下に説明するコーストストップ制御を行う。
【0026】
コーストストップ制御は、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する制御である。アクセルオフ時に実行される燃料カット制御とは、エンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、ロックアップクラッチを解放してエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路を絶ち、エンジン1の回転を完全に停止させる点において相違する。
【0027】
コーストストップ制御を実行するにあたっては、制御部120は、まず、例えば以下に示す条件a〜d等を判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0028】
a:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)。
b:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)。
c:車速が所定の低車速(例えば、15km/h)以下である。
d:ロックアップクラッチが解放されている。
【0029】
そして、これらのコーストストップ条件を全て満たす場合に、制御部120はコーストストップ制御を実行する。
【0030】
制御部120は、コーストストップ制御中に上記した条件a〜d等のいずれかが満たされなくなると、コーストストップ制御を終了し、エンジン1を再始動させる。
【0031】
コーストストップ制御が実行されると、エンジン1の回転が完全に停止するために、Lowブレーキ32、バリエータ20などに必要な油圧を電動オイルポンプ10eによって発生させる。電動オイルポンプ10eの駆動信号は、電動オイルポンプ指示演算部126によって出力され、制御部120は、駆動信号に基づいて電動オイルポンプ10eのドライバに指示を出す。これにより、電動オイルポンプ10eから所望の油圧が供給され、バリエータ20においてはプーリ21、22によってVベルト23を挟持する。
【0032】
以下において、コーストストップ制御が実行される場合の電動オイルポンプ10eの制御について詳しく説明する。
【0033】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図3に示すフローチャートに基づいて、Vベルト23とプーリ21、22との間のベルト滑り状態を検知する。
【0034】
ステップS100では、ベルト滑り検知部122は、バリエータ20におけるスリップ量であるベルト滑り速度を算出する。ベルト滑り検知部122は、プーリ21、22の位置を検出するストロークセンサ50からの出力信号に基づいて変速比を算出し、車速センサ43からの出力信号に基づいて車速を検出し、算出した変速比と車速とからベルト滑りが生じていない場合のプライマリプーリ回転速度(第1プライマリ回転速度とする。)と、セカンダリプーリ回転速度(第1セカンダリ回転速度とする。)を算出する。
【0035】
また、ベルト滑り検知部122は、回転速度センサ42からの出力信号に基づいて実際のプライマリ回転速度(第2プライマリ回転速度とする。)を検出し、回転速度センサ48からの出力信号に基づいて実際のセカンダリ回転速度(第2セカンダリ回転速度とする。)を検出する。そして、ベルト滑り検知部122は、第1プライマリ回転速度と第2プライマリ回転速度と比較し、第1セカンダリ回転速度と第2セカンダリ回転速度とを比較する。そして、ベルト滑り検知部122は、比較した結果、プライマリ回転速度、またはセカンダリ回転速度でずれが生じている場合には、ずれが生じている回転速度の偏差をベルト滑り速度とする。各回転速度でずれが生じていない場合には、ベルト滑り速度はゼロである。
【0036】
ステップS101では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが発生するかどうか判定する。具体的には、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑り速度がゼロであるかどうか判定する。ベルト滑り検知部122は、ベルト滑り速度がゼロの場合にはベルト滑りが発生していないと判定し、ステップS102へ進み、ベルト滑り速度がゼロではない場合には、ベルト滑りが発生していると判定し、ステップS103へ進む。
【0037】
ステップS102では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが発生していないので、第1の信号を出力する。
【0038】
ステップS103では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが発生しているので、第2の信号を出力する。
【0039】
ステップS104では、ベルト滑り検知部122は、ステップS100と同様にベルト滑り速度を算出する。
【0040】
ステップS105では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが収束したかどうか判定する。具体的には、ベルト滑り検知部122は、ステップS104によって算出したベルト滑り速度がゼロであるかどうか判定する。ベルト滑り検知部122は、ベルト滑り速度がゼロの場合にはベルト滑りが収束したと判定し、ステップS102へ進み、ベルト滑り速度がゼロではない場合にはベルト滑りが収束していないと判定し、ステップS103へ戻り上記制御を繰り返す。
【0041】
なお、ベルト滑り検知部122は、ステップS104によって算出したベルト滑り速度が、第1所定値よりも小さいかどうか判定し、ベルト滑り速度が第1所定値よりも小さい場合には、ベルト滑りが収束したと判定してもよい。第1所定値は、バリエータ20におけるベルト滑りが収束していると判定可能な値であり、予め設定された値である。
【0042】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、バリエータ20の状態を示す信号を出力する。
【0043】
電動オイルポンプ指示演算部126は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図4に示すフローチャートに基づいて、電動オイルポンプ10eの駆動信号を出力する。
【0044】
ステップS200では、電動オイルポンプ指示演算部126は、ベルト滑り検知部122から第1の信号が出力されているかどうか判定する。電動オイルポンプ指示演算部126は、第1の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生していないのでステップS201へ進み、第1の信号ではなく第2の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生しているのでステップS202へ進む。
【0045】
ステップS201では、電動オイルポンプ指示演算部126は、電動オイルポンプ10eの第1吐出圧に対応する第1駆動信号を算出する。第1吐出圧は、ベルト滑りが発生しない場合に設定される吐出圧であり、予め設定されている。
【0046】
ステップS202では、電動オイルポンプ指示演算部126は、
図5に示すマップに基づいてベルト滑り検知部122によって算出したベルト滑り速度に対する電動オイルポンプ10eの第2吐出圧を算出する。第2吐出圧は、ベルト滑り速度に対してVベルト23とプーリ21、22との間で摩擦発熱による溶着、または溶着による劣化が生じない圧である。
図5は、ベルト滑り速度と電動オイルポンプ10eの吐出圧との関係を示す図であり、上限摩擦発熱量を実線で示している。Vベルト23とプーリ21、22との間における摩擦発熱量は、ベルト滑り速度とプーリ21、22の推力、つまりVベルト23の挟持力との積によって求めることができる。電動オイルポンプ10eから供給される油圧によってVベルト23を挟持する場合には、プーリ21、22の挟持力は電動オイルポンプ10eの吐出圧から求めることができる。プーリ21、22とVベルト23との間で発生する摩擦発熱が増大するとプーリ21、22とVベルト23とが溶着し、動力伝達不能となる。上限摩擦発熱量は、プーリ21、22とVベルト23との間で溶着により動力伝達不能とならない摩擦発熱量の上限値である。上限摩擦発熱量は、ベルト滑り速度とVベルト23の挟持力とによって規定される。なお、上限摩擦発熱量は、摩擦発熱量の上限値とはせずに、所定の余裕代を持った値としてもよい。
図5において上限摩擦発熱量よりも上側の領域では摩擦発熱によってプーリ21、22とVベルト23とが溶着、Vベルト23またはプーリ21、22で溶着に起因する劣化が生じる。第2吐出圧は、上限摩擦発熱量を超えないようにベルト滑り速度に基づいて算出される。本実施形態においては、第2吐出圧は、摩擦発熱量が上限摩擦発熱量となるように算出される。
【0047】
ステップS203では、電動オイルポンプ指示演算部126は、第2吐出圧に対応する第2駆動信号を出力する。
【0048】
電動オイルポンプ指示演算部126は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、電動オイルポンプ10eの駆動信号を出力する。出力された駆動信号に基づいて電動オイルポンプ10eを駆動することで、駆動信号に対応する吐出圧が得られる。そして、電動オイルポンプ10eの吐出圧によってプーリ21、22がVベルト23を挟持する。
【0049】
次に、本実施形態における電動オイルポンプ10eの吐出圧などの変化を
図6のタイムチャートを用いて説明する。
【0050】
時間t0において、コーストストップ制御が開始されると、エンジン1への燃料噴射が停止するので、エンジン回転速度が低下する。また、コーストストップ制御中にエンジン回転速度が低下すると、メカオイルポンプ10mの吐出圧も低下する。そのため電動オイルポンプ10eが駆動される。ここではベルト滑りは発生しておらず、電動オイルポンプ10eの吐出圧は第1吐出圧となる。バリエータ20に供給される油圧は、供給源がメカオイルポンプ10mから電動オイルポンプ10eへ変わるので、徐々に減少し、その後電動オイルポンプ10eの第1吐出圧によって供給される油圧に保持される。
【0051】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれ、セカンダリ回転速度が急激に減少し、ベルト滑りが発生する。そのため、電動オイルポンプ10eの吐出圧はベルト滑り速度に応じて第2吐出圧となる。これによって、Vベルト23の挟持力が大きくなり、プライマリ回転速度が徐々に減少し、ベルト滑り速度が小さくなる。また、ベルト滑り速度が小さくなることで、
図5に示すように上限摩擦発熱量が大きくなるので、電動オイルポンプ10eの第2吐出圧は次第に大きくなる。
【0052】
時間t2において、ベルト滑りが収束すると、電動オイルポンプ10eの吐出圧を第1吐出圧とする。
【0053】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0054】
コーストストップ制御中に、Vベルト23とプーリ21、22との間でベルト滑りが発生した場合に、Vベルト23とプーリ21、22との間で発生する摩擦発熱量に基づいて電動オイルポンプ10eの吐出圧をベルト滑りが検知された時の吐出圧よりも大きくし、プーリ21、22によるVベルトの挟持力を大きくする。これにより、Vベルト23とプーリ21、22との間の摩擦発熱による溶着、Vベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0055】
ベルト滑り速度を検出し、ベルト滑り速度に基づいて摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないように電動オイルポンプ10eの吐出圧を大きくすることで、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、Vベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0056】
摩擦発熱量が上限摩擦発熱量となるように電動オイルポンプ10eの吐出圧を設定することで、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、Vベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制し、ベルト滑りを素早く収束させることができる。
【0057】
減少するベルト滑り速度に応じて、電動オイルポンプ10eの吐出圧を設定することで、ベルト滑りを素早く収束させることができる。
【0058】
メカオイルポンプ10mと比較して吐出圧の制御が容易な電動オイルポンプ10eを用いてベルト滑りを収束させることで、摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないように正確にVベルト23を挟持することができる。
【0059】
本実施形態では、
図5に示すマップに基づいて電動オイルポンプ10eの吐出圧を設定しているが、ベルト滑り速度を減少するための電動オイルポンプ10eの吐出圧を別途設定しておき、この吐出圧によってVベルト23を挟持した場合に摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えるかどうか判定してもよい。そして、摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超える場合に、上限摩擦発熱量を超えないような電動オイルポンプ10eの吐出圧を改めて設定してもよい。これによっても、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、Vベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0060】
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0061】
第2実施形態の車両は、第1実施形態のストロークセンサ50を備えていない。本実施形態のコントローラ12の概略構成図を
図7に示す。
【0062】
コントローラ12は、第1実施形態の構成に加えてエンジン始動判定部160を備える。以下において、第1実施形態と異なる箇所を中心に説明する。
【0063】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図8に示すフローチャートに基づいて、ベルト滑り状態を検知する。
【0064】
ステップS300では、ベルト滑り検知部122は、単位時間当たりのプーリ21、22への入力トルクの変化量を算出する。入力トルクの変化量は、例えばアクセル開度センサ41からの出力信号、またはブレーキ液圧センサ46からの出力信号に基づいて算出される。
【0065】
ステップS301では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが発生しているかどうか判定する。具体的には、ベルト滑り検知部122は、入力トルクの変化量と第2所定値とを比較する。ベルト滑り検知部122は、入力トルクの変化量が第2所定値よりも小さい場合にはベルト滑りが発生していないと判定し、ステップS302へ進み、入力トルクの変化量が第2所定値以上である場合にはベルト滑りが発生していると判定し、ステップS303へ進む。第2所定値は、バリエータ20でベルト滑りが発生していると判定可能な値であり、予め設定された値である。入力トルクの変化量は、例えばアクセルペダル、またはブレーキペダルの急激な踏み込みがあった場合、車両が悪路を走行している場合に大きくなる。
【0066】
ステップS302では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが発生していないので第1の信号を出力する。
【0067】
ステップS303では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが発生しているので第2の信号を出力する。
【0068】
ステップS304では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑り速度を算出する。ベルト滑り検知部122は、車速センサ43からの出力信号に基づいて車速を検出し、算出した車速におけるベルト滑り速度を算出する。ベルト滑り速度は、予め実験結果や計算結果によって車速に応じて設定されている。例えばベルト滑り速度は、検出された車速で生じ得る最大ベルト滑り速度である。本実施形態では、車速に基づいてベルト滑り速度を算出したが、トルク変化量を考慮しても良い。トルク変化量が大きくなると、ベルト滑り速度は大きくなる。
【0069】
ステップS305では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが収束したかどうか判定する。具体的には、ベルト滑り検知部122は、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度に対してベルト滑りが収束するまでの第1所定時間を予め実験結果や計算結果に基づいて設定し、ステップS304によってベルト滑り速度が算出されてから、第1所定時間が経過したかどうか判定する。ベルト滑り検知部122は、第1所定時間が経過するとステップS302へ進む。第1所定時間は、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度が大きいほど長くなる。
【0070】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、バリエータ20の状態を示す信号を出力する。
【0071】
電動オイルポンプ指示演算部126は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図9に示すフローチャートに基づいて電動オイルポンプ10eの駆動信号を出力する。
【0072】
ステップS400では、電動オイルポンプ指示演算部126は、ベルト滑り検知部122から第1の信号が出力されているかどうか判定する。電動オイルポンプ指示演算部126は、第1の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生していないのでステップS401へ進み、第1の信号ではなく第2の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生しているのでステップS402へ進む。
【0073】
ステップS401では、電動オイルポンプ指示演算部126は、電動オイルポンプ10eの第1吐出圧に対応する第1駆動信号を出力する。
【0074】
ステップS402では、電動オイルポンプ指示演算部126は、ベルト滑り速度に対する電動オイルポンプ10eの第2吐出圧を算出する。電動オイルポンプ指示演算部126は、まず、
図10に示すマップに基づいて、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度(
図10中でこのベルト滑り速度をAとする。)に対して上限摩擦発熱量となる初期第2吐出圧を算出する。その後、電動オイルポンプ指示演算部126は、初期第2吐出圧から、単位時間当たりの増加量が所定量となる第2吐出圧を算出する。所定量は、摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えない増加量である。ステップS304によって算出されたベルト滑り速度が小さい(
図10中速度A)場合の第2吐出圧の変化を
図10において破線で示し、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度が大きい(
図10中でこのベルト滑り速度をBとする。)場合の第2吐出圧の変化を一点鎖線で示す。これらの線は、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度における上限摩擦発熱量の接線である。
図10に示すように、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度が小さくなると、所定量が大きくなる。すなわち、ステップS304によって算出されたベルト滑り速度が小さくなると、電動オイルポンプ10eの吐出圧の増加量が大きくなる。その結果、Vベルト23とプーリ21、22との溶着、Vベルト23またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制しつつ、短い時間でVベルト23の挟持力を大きくすることができ、ベルト滑りを素早く収束させることができる。
【0075】
ステップS403では、電動オイルポンプ指示演算部126は、第2吐出圧に対応する第2駆動信号を出力する。
【0076】
電動オイルポンプ指示演算部126は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、電動オイルポンプ10eの駆動信号を出力する。出力された駆動信号に基づいて電動オイルポンプ10eが駆動することで、駆動信号に対応する吐出圧が得られる。
【0077】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図11に示すフローチャートに基づいてエンジン1の始動を制御する制御信号を出力する。
【0078】
ステップS500では、エンジン始動判定部160は、第1の信号が出力されているかどうか判定する。エンジン始動判定部160は、第1の信号が出力されている場合には、ベルト滑りが発生していないのでステップS501へ進み、第1の信号ではなく第2の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生しているのでステップS502へ進む。
【0079】
ステップS501では、エンジン始動判定部160は、ベルト滑りが発生していないので、第1エンジン制御信号を出力する。第1エンジン制御信号は、エンジン1の始動を許可する信号である。
【0080】
ステップS502では、エンジン始動判定部160は、ベルト滑りが発生しているので、第2エンジン制御信号を出力する。第2エンジン制御信号は、エンジン1の始動を禁止する信号である。
【0081】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、エンジン1の制御信号を出力する。出力された第1エンジン制御信号または第2エンジン制御信号に基づいてエンジン1が制御される。
【0082】
本実施形態における電動オイルポンプ10eの吐出圧などの変化を
図12のタイムチャートを用いて説明する。
【0083】
時間t0において、コーストストップ制御が開始されると、エンジン回転速度が減少する。また、コーストストップ制御が開始されると電動オイルポンプ10eが駆動する。ここではベルト滑りは発生しておらず、電動オイルポンプ10eの吐出圧は第1吐出圧となる。バリエータ20に供給される油圧は、徐々に減少し、その後電動オイルポンプ10eの第1吐出圧によって供給される油圧に保持される。
【0084】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれ、セカンダリ回転速度が急激に減少し、ベルト滑りが発生する。そのため、ベルト滑り速度に応じて電動オイルポンプ10eの吐出圧を第2吐出圧とする。これによって、プライマリ回転速度が徐々に減少する。また、電動オイルポンプ10eの第2吐出圧は単位時間当たり所定量増加する。また、第2エンジン制御信号が出力され、エンジン1の始動が禁止される。そのため、時間t2においてエンジン1の始動要求があった場合でも、エンジン1は始動しない。
【0085】
時間t3において、ベルト滑りが収束すると、電動オイルポンプ10eの吐出圧を第1吐出圧とし、第1エンジン制御信号が出力され、エンジン1の始動禁止が解除され、エンジン1が始動する。
【0086】
図12において、本実施形態を用いずにエンジン1の始動を禁止しない場合のエンジン回転速度、供給油圧を破線で示す。本実施形態を用いない場合には、時間t2においてエンジン1が始動するので、ベルト滑り速度が大きいにも関わらずバリエータ20への供給油圧が急激に大きくなり、プーリ21、22とVベルト23との間で発生する摩擦発熱量が増大し、Vベルト23とプーリ21、22とが溶着する、プーリ21、22またはVベルト23が溶着に起因して劣化するおそれがある。
【0087】
これに対して、本実施形態では、ベルト滑りが収束されるまでエンジン1の始動が禁止されるので、エンジン1の始動に伴いバリエータ20への供給油圧が急激に大きくなってもプーリ21、22とVベルト23との間で発生する摩擦発熱量を抑制し、Vベルト23とプーリ21、22との溶着、プーリ21、22またはVベルト23で溶着に起因する劣化が生じることを抑制することができる。
【0088】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0089】
ストロークセンサを有していない場合でも、ベルト滑り速度を推定し、推定された時のベルト滑り速度に基づいて、プーリ21、22とVベルト23との間で発生する摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないように電動オイルポンプ10eの吐出圧を設定することで、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0090】
ベルト滑りが発生すると推定された時のベルト滑り速度に基づいて設定された電動オイルポンプ10eの吐出圧を摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないように単位時間当たり所定量で増加させる。これにより、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制し、ベルト滑りを素早く収束させることができる。
【0091】
所定量をベルト滑りが発生すると推定された時のベルト滑り速度が小さいほど大きくする。これによって、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制し、ベルト滑りを素早く収束させることができる。
【0092】
コーストストップ制御を終了し、エンジン1が始動するとメカオイルポンプ10mも始動する。エンジン1が始動するとエンジン回転速度が吹け上がり、バリエータ20に供給される油圧が大きくなり、プーリ21、22とVベルト23との間で発生する摩擦発熱量が大きくなり、上限摩擦発熱量を超えるおそれがある。そのため、コーストストップ制御中にベルト滑りが発生する場合には、エンジン1の始動を禁止し、ベルト滑りが収束した後にエンジン1を始動する。これにより、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0093】
ベルト滑りが検知されてからの時間に基づいてエンジン1を始動することで、簡易な構成によって本実施形態の制御を実現することができる。
【0094】
ベルト滑りが検知された時のベルト滑り速度が大きいほど、エンジン1を始動するまでの時間を長くすることで、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を正確に抑制することができる。
【0095】
次に本発明の第3実施形態について説明する。
【0096】
以下において、第2実施形態と異なる箇所を中心に説明する。ベルト滑り検知部122は、
図13に示すフローチャートに基づいて、ベルト滑り状態を検知する。
【0097】
ステップS600からステップS604までの制御は、第2実施形態のステップS300からステップS304までの制御と同じ制御なのでここでの説明は省略する。
【0098】
ステップS605では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑り速度がエンジン1の始動を許可する許容値以下となったかどうか判定する。具体的には、ベルト滑り検知部122は、ステップS604によって算出されたベルト滑り速度に対してベルト滑り速度がエンジン始動可能速度まで低下するまでの第2所定時間を予め実験結果や計算結果に基づいて設定し、ステップS604によってベルト滑り速度が算出されてから、第2所定時間が経過したかどうか判定する。ベルト滑り検知部122は、第2所定時間が経過するとステップS606へ進む。許容値は、エンジン1を始動させてメカオイルポンプ10mから油が吐出され、メカオイルポンプ10mの吐出圧がバリエータ20に供給されてもVベルト23とプーリ21、22と間で発生する摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないベルト滑り速度である。
【0099】
ステップS606では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑り速度がエンジン1の始動を許可する許容値以下となったことを示す第3の信号を出力する。
【0100】
ステップS607では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが収束したかどうか判定する。ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが収束した場合には、ステップS602へ進む。
【0101】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、バリエータ20の状態を示す信号を出力する。
【0102】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図14に示すフローチャートに基づいてエンジン1の始動を制御する制御信号を出力する。
【0103】
ステップS700では、エンジン始動判定部160は、第2の信号が出力されているかどうか判定する。エンジン始動判定部160は、第2の信号が出力されている場合には、ステップS701へ進み、第1の信号または第3の信号が出力されている場合にはステップS702へ進む。
【0104】
ステップS701では、エンジン始動判定部160は、ベルト滑りが発生し、かつベルト滑り速度が許容値以下となっていないので、第2エンジン制御信号を出力する。
【0105】
ステップS702では、エンジン始動判定部160は、ベルト滑りが発生していない、またはベルト滑り速度が許容値以下となっているので、第1エンジン制御信号を出力する。
【0106】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、エンジン1の制御信号を出力する。出力された第1エンジン制御信号または第2エンジン制御信号に基づいてエンジン1が制御される。
【0107】
本実施形態における電動オイルポンプ10eの吐出圧などの変化を
図15のタイムチャートを用いて説明する。
【0108】
時間t0において、コーストストップ制御が開始されると、エンジン回転速度が減少する。また、コーストストップ制御が開始されると電動オイルポンプ10eが駆動する。ここではベルト滑りは発生しておらず、電動オイルポンプ10eは第1吐出圧を吐出する。バリエータ20に供給される油圧は、徐々に減少し、その後電動オイルポンプ10eの第1吐出圧によって供給される油圧に保持される。
【0109】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれ、セカンダリ回転速度が急激に減少し、ベルト滑りが発生する。そのため、ベルト滑り速度に応じて電動オイルポンプ10eの吐出圧を第2吐出圧とする。これによって、プライマリ回転速度が徐々に減少する。また、電動オイルポンプ10eの第2吐出圧は単位時間当たり所定量で増加する。また、第2エンジン制御信号が出力され、エンジン1の始動が禁止される。そのため、時間t2においてエンジン1の始動要求があった場合でも、エンジン1は始動しない。
【0110】
時間t3において、ベルト滑り速度が許容値になると、メカオイルポンプ10mの吐出圧をバリエータ20に供給しても、Vベルト23とプーリ21、22との間で発生する摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないので、エンジン1を始動する。
【0111】
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
【0112】
エンジン1の始動に伴うメカオイルポンプ10mの吐出圧をバリエータ20に供給しても、Vベルト23とプーリ21、22との間で発生する摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないベルト滑り速度である場合には、エンジン1を始動させる。これにより、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制しつつ、ベルト滑りが収束するよりも早くエンジン1を始動させることができるため、エンジン1による駆動力を素早く発生させ、車両の走行性を向上することができる。
【0113】
次に本発明の第4実施形態について説明する。
【0114】
以下において、第2実施形態と異なる箇所を中心に説明する。第4実施形態のベルト滑り検知部122は、
図16に示すフローチャートに基づいて、ベルト滑り状態を検知する。
【0115】
ステップS800からステップS804までの制御は、第2実施形態のステップS300からステップS304までの制御と同じ制御なので、ここでの説明は省略する。
【0116】
ステップS805では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りの収束が遅延しているかどうか判定する。ベルト滑りの収束遅延は、電動オイルポンプ10eが故障し、電動オイルポンプ10eから所望の吐出圧が吐出されていない場合などに生じる。ベルト滑り検知部122は、例えばライン圧センサ44からの信号によって検出されるライン圧が通常の場合に検出されるライン圧よりも低い、または回転速度センサ42からの信号によって検出されるプライマリ回転速度の減少量が通常の場合の減少量よりも小さい場合にベルト滑りの収束遅延が生じていると判定する。なお、通常時のライン圧などは予め設定されている。ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りの収束遅延が発生している場合にはステップS806へ進み、ベルト滑りの収束遅延が発生していない場合にはステップS807へ進む。
【0117】
ステップS806では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りの収束遅延が発生していることを示す第4の信号を出力する。
【0118】
ステップS807では、ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが収束したかどうか判定する。ベルト滑り検知部122は、ベルト滑りが収束した場合には、ステップS802へ進む。
【0119】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、バリエータ20の状態を示す信号を出力する。
【0120】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図17に示すフローチャートに基づいてエンジン1の始動を制御する制御信号を出力する。
【0121】
ステップS900では、エンジン始動判定部160は、第2の信号が出力されているかどうか判定する。エンジン始動判定部160は、第2の信号が出力されている場合には、ステップS901へ進み、第1の信号または第4の信号が出力されている場合にはステップS902へ進む。
【0122】
ステップS901では、エンジン始動判定部160は、ベルト滑りが発生しているので、第2エンジン制御信号を出力する。
【0123】
ステップS902では、エンジン始動判定部160は、ベルト滑りが発生していない、またはベルト滑りの収束遅延が発生しているので、第2エンジン制御信号を出力する。
【0124】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、エンジン1の制御信号を出力する。出力された第1エンジン制御信号または第2エンジン制御信号に基づいてエンジン1が制御される。
【0125】
本実施形態における電動オイルポンプ10eの吐出圧などの変化を
図18のタイムチャートを用いて説明する。ここでは、電動オイルポンプ10eが故障し、第1吐出圧以上の吐出圧を吐出できないものとする。
【0126】
時間t0において、コーストストップ制御が開始されると、エンジン回転速度が減少する。また、コーストストップ制御が開始されると電動オイルポンプ10eが駆動する。ここではベルト滑りは発生しておらず、電動オイルポンプ10eは第1吐出圧を吐出する。バリエータ20に供給される油圧は、徐々に減少し、その後電動オイルポンプ10eの第1吐出圧によって供給される油圧に保持される。
【0127】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれ、セカンダリ回転速度が急激に減少し、ベルト滑りが発生する。そのため、ベルト滑り速度に応じて電動オイルポンプ10eの吐出圧が第2吐出圧となるように制御される。しかし、電動オイルポンプ10eが故障しており、電動オイルポンプ10eが第2吐出圧を吐出することができないので、バリエータ20に供給される油圧が大きくならず、プライマリ回転速度の減少量は小さい。なお、第2エンジン制御信号が出力され、エンジン1の始動は禁止されている。そのため、時間t2においてエンジン1の始動要求があった場合でも、エンジン1は始動しない。
【0128】
時間t3において、ベルト滑りの収束が遅延していると判定されると、第1エンジン制御信号が出力され、エンジン1が始動する。これにより、メカオイルポンプ10mの吐出圧がエンジン回転速度の上昇と共に大きくなり、バリエータ20に供給される油圧が大きくなり、ベルト滑りが収束する。
【0129】
本実施形態では、ベルト滑りの収束が遅延している場合に、エンジン1を始動させたが、これに限られず、ベルト滑り速度に対して上限摩擦発熱量となる吐出圧が電動オイルポンプ10eの最大吐出圧よりも大きい場合に、エンジン1を始動させてもよい。
【0130】
本発明の第4実施形態の効果について説明する。
【0131】
電動オイルポンプ10eによって油圧をバリエータ20に供給しており、電動オイルポンプ10eの吐出圧による摩擦発熱量が、上限摩擦発熱量よりも小さい場合には、エンジン1を始動させる。エンジン1の回転速度が低い場合であってもメカオイルポンプ10mの吐出圧は、電動オイルポンプ10eの最大吐出圧よりも大きい。そのため、エンジン1を始動させることで、バリエータ20に供給する油圧を大きくすることができ、ベルト滑りを素早く収束させることができる。これによって、例えば電動オイルポンプ10eが故障し、電動オイルポンプ10eから油圧をバリエータ20に供給することができない場合でも、ベルト滑りを収束させて摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0132】
次に本発明の第5実施形態について説明する。
【0133】
第5実施形態の車両の概略構成図を
図19に示す。
【0134】
本実施形態の車両は、第1実施形態のストロークセンサ50を備えておらず、メカオイルポンプ10eの吐出油路とバリエータ20との間に、調圧バルブ51を備える。
【0135】
調圧バルブ51が開くと、メカオイルポンプ10mから吐出された全ての油は油圧制御回路11に供給されずに排出され、調圧バルブ51が閉じると、メカオイルポンプ10mから吐出された油は油圧制御回路11に供給される。つまり、調圧バルブ51が開くと、メカオイルポンプ10mからバリエータ20に油圧は供給されず、調圧バルブ51が閉じると、メカオイルポンプ10mからバリエータ20に油圧が供給される。
【0136】
本実施形態のコントローラ12の構成を
図20に示す。
【0137】
本実施形態のコントローラ12は、第1実施形態の構成に加えて、プーリ油圧指示演算部170を備える。
【0138】
プーリ油圧指示演算部170は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図21に示すフローチャートに基づいて、調圧バルブ51を制御する信号を出力する。
【0139】
ステップS1000では、プーリ油圧指示演算部170は、第1の信号が出力されているかどうか判定する。プーリ油圧指示演算部170は、第1の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生していないと判定し、ステップS1001へ進み、第1の信号ではなく第2の信号が出力されている場合にはベルト滑りが発生していると判定し、ステップS1002へ進む。
【0140】
ステップS1001では、プーリ油圧指示演算部170は、ベルト滑りが発生していないので、第1バルブ制御信号を出力する。第1バルブ制御信号は、メカオイルポンプ10mから吐出された油圧を運転状態に応じた油圧へと調圧し、調圧された油圧を油圧制御回路11に供給するように調圧バルブ51の開度を制御するための信号である。
【0141】
ステップS1002では、プーリ油圧指示演算部170は、ベルト滑りが発生しているので、第2バルブ制御信号を出力する。第2バルブ制御信号は、メカオイルポンプ10mから吐出された油圧が全て油圧制御回路11に供給されないよう調圧バルブ51の開度を制御するための信号である。
【0142】
プーリ油圧指示演算部170は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、調圧バルブ51の制御信号を出力する。出力された第1バルブ制御信号または第2バルブ制御信号に基づいて調圧バルブ51が制御される。
【0143】
本実施形態における電動オイルポンプ10eの吐出圧などの変化を
図22のタイムチャートを用いて説明する。
【0144】
時間t0において、コーストストップ制御が開始されると、エンジン回転速度が減少する。また、コーストストップ制御が開始されると電動オイルポンプ10eが駆動する。ここではベルト滑りは発生しておらず、電動オイルポンプ10eは第1吐出圧を吐出する。バリエータ20に供給される油圧は、徐々に減少し、その後電動オイルポンプ10eの第1吐出圧によって供給される油圧に保持される。
【0145】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれ、セカンダリ回転速度が急激に低下し、ベルト滑りが発生する。そのため、ベルト滑り速度に応じて電動オイルポンプ10eの吐出圧は第2吐出圧となる。これによって、プライマリ回転速度が徐々に低下する。また、電動オイルポンプ10eの第2吐出圧は単位時間当たり所定量増加する。さらに、ベルト滑りの発生をトリガとして第2バルブ制御信号が出力され、調圧バルブ51が第2バルブ制御信号に応じた開度に制御される。
【0146】
時間t2において、エンジン1の始動要求があると、エンジン1が始動する。そのため、エンジン回転速度の上昇に伴ってメカオイルポンプ10mの吐出圧が上昇するが、調圧バルブ51が開いているので、メカオイルポンプ10mからバリエータ20に油圧は供給されない。
【0147】
時間t3において、ベルト滑りが収束すると、電動オイルポンプ10eの吐出圧を第1吐出圧とする。また、第1バルブ制御信号が出力され、調圧バルブ51が第1バルブ制御信号に応じた開度に制御される。そのため、バリエータ20に供給される油圧は、メカオイルポンプ10mの吐出圧に従って大きくなる。
【0148】
本発明の第5実施形態の効果について説明する。
【0149】
ベルト滑りが発生すると、調圧バルブ51を開き、メカオイルポンプ10mからバリエータ20に油圧が供給されないようにする。そのためベルト滑りが発生した後に、エンジン1の再始動要求があり、エンジン1を再始動させても、エンジン1の始動とともに油が調圧バルブ51によって排出されて、エンジン1が始動してもメカオイルポンプ10mからバリエータ20に油圧が供給されない。これにより、エンジン1が始動してもメカオイルポンプ10mから吐出される油圧によってVベルト23とプーリ21、22との間で発生する摩擦発熱量が大きくなることを抑制することができ、運転者からのエンジン1の再始動要求を満たすと共に摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0150】
次に本発明の第6実施形態について説明する。
【0151】
第6実施形態の車両の概略構成図を
図23に示す。
【0152】
本実施形態の車両は、第5実施形態と比較して調圧バルブ52が異なっている。
【0153】
調圧バルブ52が開くと、メカオイルポンプ10mから吐出された油の一部はバリエータ20に供給されずに排出される。即ち、調圧バルブ52は、調圧バルブ52を完全に開いてもメカオイルポンプ10mの吐出された油を完全に排出することができないバルブである。
【0154】
ベルト滑り検知部122は、コーストストップ制御が実行される場合に、第3実施形態の
図13に示すフローチャートに基づいて、バリエータ20の状態を検知する。
【0155】
エンジン始動判定部160は、コーストストップ制御が実行される場合に、第3実施形態の
図14に示すフローチャートに基づいてエンジン1の始動を制御する制御信号を出力する。
【0156】
プーリ油圧指示演算部170は、コーストストップ制御が実行される場合に、
図24に示すフローチャートに基づいて、調圧バルブ52を制御する信号を出力する。
【0157】
ステップS1100では、プーリ油圧指示演算部170は、第2の信号が出力されているかどうか判定する。プーリ油圧指示演算部170は、第2の信号が出力されている場合には、ステップS1101へ進み、第1の信号、または第3の信号が出力されている場合にはステップS1102へ進む。
【0158】
ステップS1101では、プーリ油圧指示演算部170は、ベルト滑りが発生し、かつベルト滑り速度が許容値以下となっていないので、第2バルブ制御信号を出力する。ここで第2バルブ制御信号は、調圧バルブ52を完全に開かせるための信号である。本実施形態における許容値は、調圧バルブ52が完全に開いた状態となり、メカオイルポンプ10mから吐出された油の一部がバリエータ20に供給されても、プーリ21、22とベルト23との間の摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えないベルト滑り速度である。
【0159】
ステップS1102では、プーリ油圧指示演算部170は、ベルト滑りが発生していない、またはベルト滑りが発生していてもベルト滑り速度が許容値以下となっているので、第1バルブ制御信号を出力する。ここで、第1バルブ制御信号は、メカオイルポンプ10mから吐出された油圧を運転状態に応じた油圧へと調圧し、調圧された油圧を油圧制御回路11に供給するよう調圧バルブ52の開度を制御するための信号である。
【0160】
プーリ油圧指示演算部170は、コーストストップ制御が実行されている間は、上記制御を繰り返し行い、調圧バルブ52の制御信号を出力する。出力された第1バルブ制御信号または第2バルブ制御信号に基づいて調圧バルブ52が制御される。
【0161】
本実施形態における電動オイルポンプ10eの吐出圧などの変化を
図25のタイムチャートを用いて説明する。
【0162】
時間t0において、コーストストップ制御が開始されると、エンジン回転速度が減少する。また、コーストストップ制御が開始されると電動オイルポンプ10eが駆動する。ここではベルト滑りは発生しておらず、電動オイルポンプ10eは第1吐出圧を吐出する。バリエータ20に供給される油圧は、徐々に減少し、その後電動オイルポンプ10eの第1吐出圧によって供給される油圧に保持される。
【0163】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれ、セカンダリ回転速度が急激に減少し、ベルト滑りが発生する。そのため、電動オイルポンプ10eの吐出圧は第2吐出圧となる。これによって、プライマリ回転速度が徐々に減少する。また、第2エンジン制御信号が出力され、エンジン1の始動が禁止される。そのため、時間t2において、エンジン1の始動要求があった場合でも、エンジン1は始動しない。
【0164】
時間t3において、ベルト滑り速度が許容値以下となると、第1エンジン制御信号が出力され、エンジン1が始動する。また、第2バルブ制御信号が出力され、調圧バルブ52が開く。これにより、エンジン1が始動しても、メカオイルポンプ10mからバリエータ20に供給される油圧が低いので、Vベルト23とプーリ21、22との間で発生する摩擦発熱量が抑制される。
【0165】
時間t4において、ベルト滑りが収束すると、第1バルブ制御信号が出力され、調圧バルブ52が閉じる。そのため、バリエータ20に供給される油圧はメカオイルポンプ10mの吐出圧に従って大きくなる。
【0166】
本発明の第6実施形態の効果について説明する。
【0167】
ベルト滑りが発生している間にエンジン1を始動する場合に、調圧バルブ52を開いてメカオイルポンプ10mから供給される油の一部を排出することで、Vベルト23とプーリ21、22との間で発生する摩擦発熱量が上限摩擦発熱量を超えることを防止し、摩擦発熱によるVベルト23とプーリ21、22との溶着、またはVベルト23、またはプーリ21、22の溶着に起因する劣化を抑制することができる。
【0168】
本実施形態では、調圧バルブ52を用いたが、プレッシャーレギュレータ弁を用いても良い。プレッシャーレギュレータ弁は、フェールセーフの観点から、プレッシャーレギュレータ弁内のスプールが油の排出量が最大となる位置でスティックしても、油圧制御回路11に所定の油圧を供給できるようになっている。そのためプレッシャーレギュレータ弁を用いることで、新たなバルブを用いずに本実施形態を実現することができる。
【0169】
上記実施形態における「ベルト滑り状態の検知」とはVベルト23とプーリ21、22との間で実際に滑りが発生している状態、および滑りが発生することが予測される状態を含むものである。
【0170】
また、上記実施形態では、ベルト滑りが発生する一例としてブレーキペダルが踏み込まれた場合について説明したが、ベルト滑りの発生要件はこれに限られることはない。例えば悪路を走行している場合などの駆動輪7からバリエータ20へのトルク変動や、アクセルペダルの踏み込み量の変化などによるエンジン1からバリエータ20へのトルク変動が生じた場合に上記制御を実行してもよい。
【0171】
上記実施形態では、動力伝達部材としてVベルト23を用いて説明したが、これに限られず、例えば動力伝達部材としてチェーンを用いてもよい。
【0172】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0173】
本願は2011年6月23日に日本国特許庁に出願された特願2011−139099に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。