(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5669977
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】心筋輪郭抽出技術
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20150129BHJP
【FI】
G01T1/161 D
【請求項の数】11
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2014-157272(P2014-157272)
(22)【出願日】2014年8月1日
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-177564(P2013-177564)
(32)【優先日】2013年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】浜田 一男
(72)【発明者】
【氏名】小林 和徳
【審査官】
南川 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−224460(JP,A)
【文献】
特開2011−043489(JP,A)
【文献】
特開2004−267393(JP,A)
【文献】
特表2012−501201(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/047496(WO,A1)
【文献】
特開2009−078122(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0291705(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−7/12
A61B 5/055
A61B 6/00−6/14
A61B 8/00−8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムの処理手段にコンピュータ可読命令が実行されることにより、該システムが遂行する方法であって:
(a)各々が心周期の異なる位相に対応する複数の3次元核医学画像データを、ピクセル毎に加算して加算3次元核医学画像データを作成することと;
(b)前記加算3次元核医学画像データにおいて心筋部に対応する画素を決定することと;
(c)前記加算3次元核医学画像データに基づいて複数のトレース方向を設定し、該トレース方向の各々において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定することと;
(d)前記位相の各々につき、対応する前記3次元核医学画像データに基づいて、前記複数のトレース方向の各々に対して位相別心筋中心基準点を決定することと;
(e)前記位相の各々の前記複数のトレース方向の各々に対して、前記心筋中心基準点と前記位相別心筋中心基準点との差を求めると共に、前記差に基づいて対応する前記心筋内膜基準点および前記心筋外膜基準点を移動することにより、位相別心筋内膜基準点および位相別心筋外膜基準点を決定することと;
を含む、方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)は、複数の3次元核医学画像データの少なくとも一部について所定の位置合わせ処理を行った後に前記加算を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)は、
前記加算3次元核医学画像データ中で心筋部に対応すると判定された画素の画素値を第1の値に,心筋部には対応しないと判定された画素の画素値を前記第1の値とは異なる第2の値とした、バイナリ画像データを作成することと;
前記バイナリ画像データに基づいて、前記トレース方向の各々において前記心筋中心基準点、前記心筋内膜基準点、前記心筋外膜基準点を決定することと;
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)で設定される前記複数のトレース方向は、
心尖部側においては、心室内部の所定の始点から3次元放射状に設定され、
心基部側においても、心室内部の別の所定の始点から3次元放射状に設定され、
心尖部と心基部の間の心筋中央部では、短軸断層像面内で2次元放射状に設定される、
請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(d)において、前記位相別心筋中心基準点は、対応する位相についての前記3次元核医学画像データだけではなく、その前後の位相の前記3次元核医学画像データにも基づいて決定される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記位相別心筋内膜基準点および前記位相別心筋外膜基準点を決定する前に、前記位相別心筋中心基準点の少なくとも一部の位置を、スライス間及び/又はスライス内で補正することを更に含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記位相別心筋内膜基準点および前記位相別心筋外膜基準点を決定する前に、前記位相別心筋中心基準点の少なくとも一部の位置を、位相間で補正することを更に含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(e)において、前記心筋内膜基準点の移動量は、前記心筋外膜基準点の移動量より大きい、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記位相別心筋内膜基準点および前記位相別心筋外膜基準点に基づいて、位相別に、前記3次元核医学画像データの全体に亘って心筋内膜点および心筋外膜点を決定することを更に含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
システムの処理手段に実行されると前記システムに請求項1から9のいずれかに記載の方法を実行させるように構成されるコンピュータ可読命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項11】
処理手段と、コンピュータ可読命令を格納する記憶手段とを備えるシステムであって、前記コンピュータ可読命令が、前記処理手段に実行されると前記システムに請求項1から9のいずれかに記載の方法を実行させるように構成されている、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書により開示される事項は、心筋核医学画像から心筋輪郭点を抽出する技術に関する。
【0002】
SPECT(Single Photon Emission Tomography:単一光子放射断層撮影法)やPET(Positron Emission Tomography: 陽電子放出断層撮影法)のような核医学イメージング技術は、放射性核種を含む医薬品を体内に投与し、その核種の崩壊に起因して放出されるガンマ線を検出器で捕らえて画像化する技術である。他の生体イメージング技術であるCTやMRIが、主に生体組織の形態の異常を調べるために利用されるのに対し、核医学イメージング技術は、投与された放射性医薬品の分布や集積量、経時的変化の情報から、臓器や組織の形態だけでなく、機能や代謝状態などを評価するために利用される。
【0003】
核医学イメージング技術の応用分野の一つに心筋血流イメージングがある。SPECTを用いる心筋血流イメージングでは、
201TlCl(塩化タリウム)や
99mTc-tetrofosmin(テトロホスミン)など、冠状動脈の血流に比例して心筋細胞内に取り込まれる性質を有する放射性物質をトレーサとして被験者に投与し、トレーサから生成されるガンマ線をSPECT装置で捕えて画像化する。この画像を観察することにより、例えば心筋中の虚血部位(画像上欠損部位として表示される)を探ることができる。心筋中の虚血部位の探索は、心筋梗塞や狭心症の診断、虚血性病変部位の鑑別などのために大変有用である。動きのある心臓をSPECTで画像化するために、一般的に、心電図によりゲートをかけてガンマ線の収集を行う。このため、SPECTを用いた心筋のイメージング技術を、心電図同期心筋SPECTということが多い。心電図同期心筋SPECTでは、通常、左心室心筋を画像化することが多い。
【0004】
心電図同期心筋SPECTにおける技術的課題の一つは、SPECTで得られた画像中において、どのようにして心筋部を特定するかということに関する。一つの方法は、各画像スライス中の心筋部と思われる部位の輪郭を、目視により手動でマーキングすることである。しかしこの手法は時間がかかりすぎるという決定を有する。そこで、心筋の輪郭点を抽出するソフトウェアがいくつか存在する。そのようなソフトウェアとして、米Cedars-Sinai Medical Centerで開発されたQGS(Quantitative Gated SPECT)、米エモリー大学の開発によるEmory Cardiac Toolbox、札幌医大で開発されたpFASTが知られている。また本願出願人も、WO2013/047496や特願2013−062441号明細書(本願出願時点では未公開)において、心筋輪郭を自動で抽出する優れたアルゴリズムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2013/047496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の心筋輪郭自動抽出法は、心周期の特定の位相の核医学画像を対象とするか、または位相を考慮せずに(すなわち心電図同期をかけずに)連続的に収集したデータから構成した核医学画像を対象として構築されていた。すなわち、心周期の前後の位相における心筋の位置関係を考慮せずに、さらに別の言葉でいえば心筋の動きを考慮せずに、輪郭の抽出を行っていた。このため、複数の位相間で抽出した心筋の画像を並べて眺めてみると、位相間の輪郭のばらつきが不自然に感じられる場合があった。
【0007】
本願発明はかかる課題を解決することを目的としてなされた発明であって、抽出された心筋輪郭の位相間変化が従来に比べて滑らかとなるような心筋輪郭抽出法を提供することを目的としたなされた発明である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好適な具現化形態は、
(a)各々が心周期の異なる位相に対応する複数の3次元核医学画像データを、ピクセル毎に加算して加算3次元核医学画像データを作成することと;
(b)前記加算3次元核医学画像データにおいて心筋部に対応する画素を決定することと;
(c)前記加算3次元核医学画像データに基づいて複数のトレース方向を設定し、該トレース方向の各々において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定することと;
(d)前記位相の各々につき、対応する前記3次元核医学画像データに基づいて、前記複数のトレース方向の各々に対して位相別心筋中心基準点を決定することと;
(e)前記位相の各々の前記複数のトレース方向の各々に対して、前記心筋中心基準点と前記位相別心筋中心基準点との差を求めると共に、前記差に基づいて対応する前記心筋内膜基準点および前記心筋外膜基準点を移動することにより、位相別心筋内膜基準点および位相別心筋外膜基準点を決定することと;
を含む。
【0009】
本発明の好適な具現化形態は、加算3次元核医学画像データに基づいて決定した心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点に基づいて、位相別の3次元核医学画像データにおける心筋内膜基準点や心筋外膜基準点を決定するため、心筋内膜基準点や心筋外膜基準点の位相変化が滑らかになるという効果を奏する。すなわち、位相間の心筋輪郭の変化が従来技術に比べて自然になるという効果を奏する。
【0010】
実施形態によっては、前記ステップ(a)は、複数の3次元核医学画像データの少なくとも一部について所定の位置合わせ処理を行った後に前記加算を行うことを含んでもよい。
【0011】
位置合わせ処理後に位相別3次元核医学画像データの加算を行うことにより、加算画像データの心筋輪郭が不必要に不鮮明になることを防ぐことができる。
【0012】
実施形態によっては、 前記ステップ(c)は、
・ 前記加算3次元核医学画像データ中で心筋部に対応すると判定された画素の画素値を第1の値に,心筋部には対応しないと判定された画素の画素値を前記第1の値とは異なる第2の値とした、バイナリ画像データを作成することと;
・ 前記バイナリ画像データに基づいて、前記トレース方向の各々において前記心筋中心基準点、前記心筋内膜基準点、前記心筋外膜基準点を決定することと;
を含んでもよい。
【0013】
バイナリ画像データ(すなわち2値化した画像データ)を用いることにより、心筋輪郭の判定が容易になり、ひいては心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点の決定が容易になる。
【0014】
実施形態によっては、前記ステップ(c)で設定される前記複数のトレース方向は、
・ 心尖部側においては、心室内部の所定の始点から3次元放射状に設定され、
・ 心基部側においても、心室内部の別の所定の始点から3次元放射状に設定され、
・ 心尖部と心基部の間の心筋中央部では、短軸断層像面内で2次元放射状に設定されてもよい。
【0015】
本願発明者は、トレース方向をこのように設定することにより、心筋輪郭抽出の品質を向上することができることを見出した。
【0016】
実施形態によっては、前記ステップ(d)において、前記位相別心筋中心基準点は、対応する位相についての前記3次元核医学画像データだけではなく、その前後の位相の前記3次元核医学画像データにも基づいて決定されてもよい。
【0017】
前後の位相のデータも考慮することで、抽出される心筋輪郭の位相変化がより滑らかになる。
【0018】
実施形態によっては、前記位相別心筋内膜基準点および前記位相別心筋外膜基準点を決定する前に、前記位相別心筋中心基準点の少なくとも一部の位置を、スライス間及び/又はスライス内で補正してもよい。
かかる補正処理を加えることで、抽出される心筋輪郭の品質が更に向上する。
【0019】
実施形態によっては、前記位相別心筋内膜基準点および前記位相別心筋外膜基準点を決定する前に、前記位相別心筋中心基準点の少なくとも一部の位置を、位相間で補正することを更に含んでもよい。
かかる補正処理を加えることで、抽出される心筋輪郭の位相変化が更に滑らかになる。
【0020】
実施形態によっては、前記位相別心筋内膜基準点および前記位相別心筋外膜基準点に基づいて、位相別に、前記3次元核医学画像データの全体に亘って心筋内膜点および心筋外膜点を決定してもよい。
【0021】
本発明の実施形態は、上記の少なくともいずれかの処理を含む方法や装置、コンピュータプログラムなどを含む。
【0022】
上述の処理の具体的な実施例は後に説明される。
【0023】
本願の特許請求の範囲には、出願人が現在特許を求める技術的構成が、請求項に区分されて、いくつか定義されている。しかし出願人は、現時点では特許請求の範囲に記載されていなくとも、本願明細書や図面から把握されうるあらゆる新規な技術的特徴について、将来的に特許を請求する可能性があることに注意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本明細書で開示される様々な処理を実行するための装置またはシステム100の主な構成を説明するための図である。
【
図1B】実施例として紹介する心筋輪郭抽出処理の基本的な流れを説明するための図である。
【
図2A】本実施例において心筋輪郭抽出処理の対象となる複数の3次元核医学画像データの心筋位置合わせ処理を説明するための図である。
【
図2B】本実施例の加算画像データを作成する処理を説明するための図である。
【
図3】本実施例の加算画像データに対して使用可能な心筋輪郭抽出法を説明するための図である。
【
図4】
図3のステップ308に適用可能な処理の具体例するための図である。
【
図5】
図3のステップ312に適用可能な処理の具体例するための図である。
【
図6】
図5のステップ512で作成される楕円体を説明するための図である。
【
図7A】
図3のステップ316に適用可能な処理の具体例するための図である。
【
図7B】
図7Aで例示する処理に関係する各情報の関係を説明するための図である。
【
図7C】
図7Aのステップ720に適用可能な処理の具体例するための図である。
【
図7D】
図7Cで例示する処理に関係する各情報の関係を説明するための図である。
【
図8】
図3のステップ320に適用可能な処理の具体例するための図である。
【
図8A】
図8のステップ812の処理を説明するための図である。
【
図8B】
図8に例示する処理に関係する各情報の関係を説明するための図である。
【
図9】
図1Bのステップ168に適用可能な処理の具体例を説明するための図である。
【
図10】
図9のステップ912で設定されうるトレース方向の具体例を紹介するための図である。
【
図11】
図9のステップ912で決定されうる参照心筋中心基準点、参照心筋内膜基準点、参照心筋外膜基準点の具体例を紹介するための図である。
【
図12】
図9の処理900で例示的に決定された参照心筋中心基準点の様子を示すための参考図である。
【
図13】
図1Bのステップ170に適用可能な処理の具体例を説明するための図である。
【
図14A】
図13のステップ1310で行われうるスムージング処理の一例を説明するための図である。
【
図14B】
図13のステップ1310で行われうるスムージング処理の一例を説明するための図である。
【
図15】
図13のステップ1314に適用可能な処理の具体例を説明するための図である。
【
図16】
図15のステップ1514における処理結果の一例を紹介した図である。
【
図17】
図1Bのステップ172に適用可能な処理の具体例を説明するための図である。
【
図18】
図1Bの処理160の完了により決定された心筋中心基準点,心筋内膜基準点,心筋外膜基準点の一例を紹介する参考図である。
【
図19A】各スライスへの心筋内外膜点補間処理の例を説明するための図である。
【
図19B】各スライスへの心筋内外膜点補間処理の例を説明するための図である。
【
図19C】各スライスへの心筋内外膜点補間処理の例を説明するための図である。
【
図20】決定した心筋内外膜点の表示方法の一例を紹介するための図である。
【0025】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態の例を具体的に説明する。
【0026】
図1Aは、本明細書で開示される様々な処理を実行するためのシステム100の主な構成を説明するための図である。
図1Aに描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102,主記憶装置104,補助記憶装置106,ディスプレイ・インターフェース107,周辺機器インタフェース108,ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。CPU102は主記憶装置104よりもさらに高速なアクセスを提供するキャッシュメモリ103を搭載していることができる。システム100は、単一の筐体にほぼ全ての構成要素が搭載される装置として提供されてもよいし、物理的に異なる複数の筐体から構成されるものであってもよい。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、補助記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやフラッシュメモリ、SSDなどを用いることができる。実施形態によっては、補助記憶装置106は、物理的に異なる複数の記憶装置から構成されている場合や、システム100とは物理的に異なる筐体に収められて適当なインタフェースでシステム100に接続された記憶システムである場合もある。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、情報入力のためのユーザインターフェースを接続することができ、これは周辺機器インタフェース108を介して接続される。かかるユーザ・インターフインターフェースは、例えばキーボードやマウス、タッチパネルであることができる。また周辺機器インタフェース108は、例えばUSBインタフェースであることができる。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。システム100の最も基本的な機能は、補助記憶装置106に格納されるオペレーティングシステム110がCPU102に読み込まれて実行されることにより提供される。また、補助記憶装置106に格納される各種のプログラムがCPU102に読み込まれて実行されることにより、オペレーティングシステム110で提供される機能以外の機能が提供される。
【0027】
本実施例における装置又はシステム100は、上記各種のプログラムとして、DICOMサポートプログラム111,スライス操作プログラム112,心筋輪郭抽出プログラム113の少なくとも3つを備えていることが好ましい。DICOMサポートプログラム111は、医用画像データのファイル形式や通信規格の事実上の標準となっているDICOMをサポートするためのプログラムである。本実施例において心筋輪郭抽出処理の対象となる心筋核医学画像データも、DICOMに準拠したファイル形式を有するものであってよく、DICOMサポートプログラム111によって、心筋核医学画像データの入出力や保存がサポートされる。スライス操作プログラム112は、3次元の心筋核医学画像データを自在の断面で切り出して2次元スライスを作成する、いわゆるリスライス機能を提供するプログラムである。かかる機能を有するプログラムも広く利用可能となっており、医用画像を扱うための多くのワークステーションに搭載されている。従って、本実施例においても、既存の適当なプログラムを適宜利用することにより、DICOMサポートプログラム111やスライス操作プログラム112を容易に実装することができる。
【0028】
心筋輪郭抽出プログラム113は、本実施例が提供する心筋輪郭自動抽出機能を実現するための中心的な要素である。本明細書で開示される様々な処理は、特に断わりのない限り、心筋輪郭抽出プログラム113の全て又は一部のコードがCPU102に読み込まれて実行されることにより実装されることができる。各処理において、CPU102は、心筋輪郭抽出プログラム113などの命令に従って、記憶装置からデータを読み出して演算を行い、得られた結果のデータをキャッシュメモリ103や主記憶装置104に格納する。格納されたデータは、心筋輪郭抽出プログラム113などの命令に従って、さらに別の処理に用いられたり、補助記憶装置106へ保存されたりする。補助記憶装置106は、本実施例による処理の対象となる3次元心筋SPECT画像データ131〜138や、処理の途中のデータ141、処理が完了したデータ140,142などを格納するための領域として使用することができる。キャッシュメモリ103や主記憶装置104も、処理すべきデータを一時的に格納するための記憶領域として使用されることができる。特に断わりのない限り、以下に説明される全ての処理において、CPU102と記憶装置103,104,106との間で、データや演算結果が同様にやり取りされる。
【0029】
実施例によっては、本実施例における装置又はシステム100は、上記各種のプログラムとして、心筋輪郭抽出プログラム113による心筋輪郭抽出結果を利用して各種の解析を行うプログラムを備えていてもよい。本実施例では、そのような解析プログラムとしてプログラム114及び115が補助記憶装置106に格納されている。
【0030】
心筋輪郭抽出プログラム113や解析プログラム114,115は、単一の実行可能ファイルとして実装される場合もあるが、複数の実行可能ファイルからなるプログラムセットとして実装される場合もある。また心筋輪郭抽出プログラム113や解析プログラム114,115は、必要に応じて、DICOMサポートプログラム111を呼び出して利用することができるように構成されてもよい。例えば、DICOMサポートプログラム111を呼び出して利用することにより、心筋核医学画像データを読み込んだり、また処理結果をDICOM形式に保存したりできるように構成されもよい。同様に心筋輪郭抽出プログラム113や解析プログラム114,115は、必要に応じて、スライス操作プログラム112を呼び出して利用することができるように構成されてもよい。例えば、スライス操作プログラム112を呼び出すことにより、短軸横断像の2次元画像データを入手したり、長軸断層像の2次元画像データを入手したりすることができるように構成されてもよい。実施形態によっては、心筋輪郭抽出プログラム113や解析プログラム114,115は、DICOMサポートプログラム111やスライス操作プログラム112の機能を含むプログラムであってもよい。プログラミングの手法は人によって様々であり、プログラム113−115のプログラミングの形態が本明細書や図面に紹介した例によって制限されることは決してないことを念のために記しておく。
【0031】
さらに実施形態によっては、これらプログラムによる処理の一部を専用のハードウェア回路やプログラマブルロジックなどによって実装してもよい。このような実施形態も、本発明の範囲に含まれるものである。
【0032】
図1Aにおいては、オペレーティングシステム110や心筋輪郭抽出プログラム113、画像データ131等が、全て同じ補助記憶装置106に格納されているように図示されている。しかし、実施形態によっては、これらの一つ又は複数のデータは、物理的に異なる記憶装置に格納されていてもよい。例えば実施形態によっては、心筋輪郭抽出プログラム113や解析プログラム114,115は、CD−ROMやDVD−ROMなどの光ディスクに格納されていてもよい。またこれらのプログラムは、光ディスク媒体やUSBメモリなどの持ち運びが容易な記憶媒体に格納されて、システム100とは別個に提供・販売されてもよい。またこれらのプログラムは、ネットワークを通じたダウンロードなどの形態で、提供・販売されてもよい。
【0033】
記憶装置106は、心筋輪郭抽出プログラム113や解析プログラム114,115による処理の対象となる画像データを複数格納していてもよい。
図1Aでは、例として8つの3次元SPECT画像データ131〜138が図示されている(画像データ134〜137は図示を省略されている)。例として、これら8つの画像データは、いずれも同一被験者に対するSPECT測定データから構築された画像データであるが、データ収集が行われた位相(心周期中の位相)が互いに異なっている。本例では、これら8つのSPECT画像データのセットで心周期一つ分のデータを構成するが、実施例によっては、一心周期を構成するデータセットに含まれる3次元SPECT画像データの数は、4や17など、他の数である場合もある。これらはむろん互いに異なる位相に対応している。
【0034】
システム又は装置100は、
図1Aに描かれた要素のほかにも、電源や冷却装置など、通常のコンピュータが備える装置と同様の構成を備えることができる。また、処理手段102や記憶手段104,106の実装形態には、物理的に単一のCPUや物理的に単一の記憶媒体を用いるものから、複数のCPUや複数の記憶媒体を用いるもの、これらをそれぞれ異なる筐体に収めて適当なインタフェースやネットワークを利用して接続して構成するもの、仮想化技術を用いて仮想的に実現するもの、など様々な実装形態が知られている。本発明を実施するコンピュータシステムの形態としては、これら既存の如何なる実装形態を利用してもよく、コンピュータシステムの形態によって本発明の範囲が制限されることは決してないことを念のために記しておく。一般的に、本発明は、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステム、などとして具現化されうる。また本発明を具現化したプログラムは、CD−ROMなどの媒体に格納されて販売されたり、ネットワークを通じたダウンロードなどの形態により販売されたりすることができる。
【0035】
図1Bは、本明細書で紹介する実施例としての心筋輪郭抽出処理160の基本的な流れを説明するための図である。ステップ162は処理の開始を示す。ステップ164では、各々が心周期の異なる位相に対応する複数の3次元SPECT画像データ(例えば画像データ131〜138)を、ピクセル毎に加算して加算3次元核医学画像データを作成する。加算3次元核医学画像データは、本明細書において、単に加算画像データと記載される場合もある。例えば位相p(p=1〜n)においてx方向でi番目,y方向でj番目,z方向でk番目(これを以下{i,j,k}番目と称する場合がある)の画素の画素値をVp
ijkと表し、加算3次元核医学画像データの{i,j,k}番目の画素の画素値をVs
ijkと表すとき、
[式1]
となるような計算を行う。
【0036】
しかし、上記の加算を行うには、各位相の3次元SPECT画像データにおける心筋の位置関係が整合していることが好ましい。そうでないと、加算画像データ中の心筋の輪郭が不必要に不鮮明になる可能性がある。そこで位置が合っていない場合には、位置合わせのための処理が必要になる。位置合わせ処理の例は後に紹介される。
【0037】
また、Vs
ijkの値は加算3次元核医学画像データのダイナミックレンジを超えてしまう場合がある。そこで、加算画像データを構成する画素の画素値の最大値がダイナミックレンジを超えないように、Vs
ijkを適当な値で割るなどして調節することが好ましい。例えばダイナミックレンジが8ビットの場合、加算画像データの全画素中の最大画素値をVmaxと表したとき、各Vs
ijkを(Vmax/255)で除算するなどの処理を行ってもよい。)
【0038】
ステップ166では、加算3次元核医学画像データにおいて心筋部に対応する画素を決定する。心筋部に対応する画素の決定は、既存の如何なる方法を用いてもよい。例えば本願出願人が、WO2013/047496や特願2013−062441号明細書(本願出願時点では未公開)において開示したアルゴリズムを使用することができる。その他、背景技術の欄に紹介した他の先行技術を用いて輪郭抽出を行ってもよい。
【0039】
ステップ168では、加算画像データにおいて心筋に関する特徴点を決定する。より具体的に、このステップでは、加算画像データに基づいて複数のトレース方向を設定し、該トレース方向の各々において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。処理の詳細は後に説明する。
【0040】
ステップ170では、心周期の異なる位相に各々対応する上記複数の3次元SPECT画像データ(例えば画像データ131〜138)のそれぞれについて、心筋に関する特徴点を決定する。より具体的に、このステップでは、加算画像に設定したトレース方向と同じトレース方向の各々に対して、位相毎に心筋中心基準点を決定する。ある位相における心筋中心基準点の決定は、少なくとも当該位相に関係する3次元SPECT画像データに基づいて行われる。処理の詳細は後に説明する。
【0041】
ステップ172では、位相別に心筋内膜基準点および心筋外膜基準点を決定する。これら心筋内膜基準点および心筋外膜基準点は、上記複数のトレース方向の各々に対して求められる。このステップではまず、あるトレース方向に対して加算画像データから決定された心筋中心基準点と、当該トレース方向に対してある位相のSPECT画像データから決定された位相別心筋中心基準点との差を求める。そして、この差に基づいて、加算画像データの心筋内膜基準点および心筋外膜基準点を移動することにより、当該位相及び当該トレース方向における位相別心筋内膜基準点および位相別心筋外膜基準点を決定する。処理の詳細は後に説明する。
【0043】
以下、各ステップをより詳細に説明する。
〔処理対象となる画像データ〕
【0044】
はじめに、本実施例で処理の対象となる画像データについて簡単に説明しておく。本実施例における心筋輪郭抽出処理の対象となる画像データは、例えばSPECTやPETのような核医学の手法により得られる3次元核医学画像データであることができる。核医学画像データは、被験者に投与した放射性トレーサの崩壊を起源として発生するガンマ線を装置で捉え、ガンマ線カウント数のデータを画像変換して得られるものである。このため核医学画像データの各画素の画素値は、当該画素に対応する被験者の部位から放出されたガンマ線のカウント数に関連する値を有している。このため本願明細書では、画像データの各画素の画素値をカウント値やカウント数,カウント,カウントデータなどと称する場合がある。但し補間処理や規格化処理などの影響により、画素値は必ずしも整数ではない。
【0045】
本実施例における心筋輪郭抽出処理の対象となる画像データは、例えば、
図1Aに例示される上述の画像データ131〜138のような、心筋を対象とした心電図同期SPECT法により得られる複数の3次元核医学画像データからなるセットであることができる。これらの複数のSPECT画像データの各々は、それぞれ、心周期の異なる位相で得られた放射線カウントデータから構築されたものであり、心電図に基づいて形成されるゲートから所定の時間経過後に所定の時間幅の間に計測されたガンマ線カウント数に基づいて構築されたデータである。各々異なる位相に関連付けられるこれらの画像データ131〜138を、以下において、位相画像データと称する場合がある。
〔ステップ164−加算画像データ作成ステップ〕
【0046】
図2Aおよび
図2Bは、
図1Bのステップ164に適用可能な具体的処理を説明するための図である。紹介される処理ステップは単なる例であり、
図2Aおよび
図2Bで紹介する全てのステップがステップ164にとっての必須の処理ではないことに留意されたい。実施形態によってはこれらのうち一つ以上が実装されない場合がある。また、図示されるステップの順番は、必ずこの順番で実行されなければならないというものではなく、実施形態によって、異なる順番で実行されたり複数のステップが並行的に実行されたり複数のステップが混合されて一体的に実行されたりする場合がある。同様のことは、本明細書に紹介する全ての処理ステップに適用される。各例示的ステップの処理は、心筋輪郭抽出プログラム113の少なくとも一部の命令に従って、CPU102が動作することにより遂行されるものである。また各処理を遂行するために、心筋輪郭抽出プログラム113の少なくとも一部の命令は、DICOMサポートプログラム111やスライス操作プログラム112を呼び出して利用するようにCPU102を動作させるように構成されていてもよい。
【0047】
図2Aに描かれる処理200は、本実施例において心筋輪郭抽出処理の対象となる、複数の3次元核医学画像データ(例えば位相画像データ131〜138)の心筋の位置を、互いに合わせるための処理である。
【0048】
ステップ202は処理の開始を示し、ステップ204と212で囲まれたループは、本実施例における心筋輪郭抽出処理の対象となる位相画像データの全てに対して同様の処理を行うことを表している。ステップ204においてpは位相画像データの識別番号(位相番号)を示し、1からNまで変化する。例えば画像データ131〜138で一心周期分のデータを構成している場合、N=8である。
【0049】
ステップ206は、例えば画像データ131〜138の各々について、その画素数や画素サイズを変更するステップである。現在市販されている多くのSPECT装置から得られる3次元画像データの画素数は、短軸断層像スライス(short axialスライス)あたり64×64や128×128であることが多い。また短軸断層像スライスの数、すなわち長軸方向の分解能は様々である。従って各画素が表す実際の大きさも様々である。ステップ206では、画像データ131〜138の全体に、例えば3重線形補間によるリサイズ処理を適用することにより、ユーザが所望する画素数や画素サイズに変更する。一例であるが、本ステップを経た後の画像データ131〜138の画素数や画像サイズは、いずれも短軸断層像スライスあたりの画素数が128×128で、各画素のサイズがaxial,coronal,sagittalの全方向とも2mmになるように調節されてもよい。このとき、所定の閾値以上または以下の画素値を有する画素は、所定の値に丸め込んでしまってもよい。例えば補間の結果0以下の値を有することになった画素の画素値は、0とするようにしてしまってもよい。
【0050】
ステップ208では、後段の処理のために「画像閾値」なる値を計算する。この値は次式:
[式2]
画像閾値={(最大カウント値−最小カウント値)×閾値率}+最小カウント値
によって定義される値である。ただし上記の最大カウント値および最小カウント値は、それぞれ、画像データ131〜138において画像化されている組織がほぼ心筋部に限られる可能性が高い領域に基づいて計算されることが好ましい。例えば、短軸断層像の全スライスでの上半分の最大カウント値および最小カウント値とすることができる。これは、短軸断層像における体の向きが事実上標準化されており、画像の下半分に肝臓や腸管が位置するような向きになっていることが多いからである。従って、短軸断層像において上半分に位置する画素のみを対象とすれば、主に心筋が画像化されている可能性の高い領域を対象として最大カウント値や最小カウント値を求めることができる。上記の式における閾値率は、ユーザが任意に設定することができる。心筋輪郭抽出プログラム113は、周辺機器インタフェース108を介して、上記の閾値率を設定するための入力を受け取ることができるように構成されていることが好ましい。
【0051】
また実施形態によっては、式[2]で定義される画像閾値は、本明細書で紹介する様々な処理例において使用されることがあり、処理例によっては用いられる閾値率や、計算に用いられるスライス又は画素範囲が異なる場合もありうる。そこでステップ208では、閾値率やスライス/画素範囲を変更して、複数の画像閾値を計算しておき、後の処理で呼び出して使えるようにRAM104や補助記憶装置106に格納しておいてもよい。
【0052】
ステップ210では、画像データ131〜138の各々について、全画素の平均座標である画像中心が計算されると共に、各画像データにおいて上記画像閾値以上のカウント値を有する全ての画素の平均座標である画像重心が計算される。そして、画像中心と画像重心との距離が、当該画像データの縦・横・奥行きいずれかの方向の長さの所定の割合を超える場合は、前記全画素の平均座標が前記画像重心に一致するように、当該画像データの各画素を平行移動する。
【0053】
このとき、上記画像閾値を計算するための閾値率は、ユーザが任意に定めることができるが、発明者が調べたところによれば、心筋輪郭抽出処理に好影響を与えるためには、30%程度であることが好ましい。また上記の所定の割合についても、心筋輪郭抽出処理に好影響を与えるためには、10%程度であることが好ましい。
【0054】
符号206〜210で表される処理は、実施形態によっては、画像データ131〜138に予め施されているだろう。つまり
図1Aにおいて補助記憶装置106に格納されている画像データ131〜138は、予めステップ206〜210の処理が施された画像データである場合がある。その場合はこれらのステップに係る処理を再度繰り返す必要はもちろんない。
【0055】
全ての位相画像データを処理し終えるとループを抜ける。214は処理の終了を示す。
【0056】
次に
図2Bを用いて、各位相画像データを加算して、加算画像データを作成する処理220を説明する。
【0057】
ステップ222は処理の開始を示す。ステップ224と228で囲まれたループでは、位相番号1の位相画像データにおいて画像重心が存在するスライスの番号と、他の位相番号の位相画像データにおいて画像重心が存在するスライスの番号との差が求められる。ここで「スライス」とは短軸断面像を含むスライスを意味する。前述のように、画像重心とは、画像閾値以上のカウント値を有する全ての画素の平均座標である。式[2]に示すように、この画像閾値は「閾値率」によって変化するが、例えばこの閾値率を50%としてもよい。位相番号pにおける上記スライス番号の差をd[p]とする。ステップ226は、このd[p]が求められるステップを表している。なおd[1]=0とすればよい。実施例によっては、スライス番号の差を求める基準となる位相番号が1以外でよいことはもちろんである。すなわちd[p]=0となるpは1以外であってもよい。
【0058】
ステップ232と236で囲まれたループでは、スライス毎に位相画像データの各ピクセルの積算が行われる。このとき、ステップ226で求めたd[p]が考慮される。例えば、加算画像データのi番目のスライスに含まれる画素をまとめてSummed_slice[i] 、位相番号pの位相画像データPhase_slice[p]のi番目のスライスをPhase_slice[p][i]と表すと、
[式3]
と表される。すなわち、加算は各位相画像のz方向(短軸断面像に垂直な軸方向)の画像重心が等しくなるようにスライス位置を調整した上で行われる。式[3]はステップ234で行われる処理を表したものである。ただしより正確には、加算は画素毎に行われるであることはいうまでもない。
【0059】
なお、一般的にはd[p]は0でないため、i+d[p]が0を下回ったりスライス番号の最大値を上回ったりする場合がある。そのような場合には、Phase_slice[p]の全ての画素の画素値を0とみなすこととしてもよい。あるいは、iの端部領域においては式[3]を計算せずに、Summed_slice[i]に属する画素の画素値を一律に0にしてしまってもよい。これは、iの端部領域においては心筋が存在しない可能性が極めて高いからである。
【0060】
ステップ238では、加算画像データの画素値の規格化または丸め込みが行われる。ステップ236の処理の結果、加算画像データの画素の中には画素値がダイナミックレンジを超えてしまう場合がある。そこでステップ238では、加算画像データを構成する画素の画素値の最大値がダイナミックレンジを超えないように各画素値を調節する。例えば加算画像データのダイナミックレンジが8ビットの場合、加算画像データの全画素中の最大画素値をVmaxと表したとき、各画素の画素値を(Vmax/255)で除算するなどの処理を行ってもよい。
【0061】
ステップ240は処理の終了を示す。この段階においては、後の処理に供せられうる加算画像データが完成しており、実施形態によっては、加算画像データ140として補助記憶装置106(
図1A参照)に格納されてもよい。
〔ステップ166−加算画像データに対する心筋輪郭抽出処理〕
【0062】
続いて
図1Bのステップ166における具体的な処理例の紹介を行う。このステップでは、加算3次元核医学画像データ(例えば加算画像データ140)に対して心筋輪郭抽出処理を行い、心筋部に対応する画素を決定する。また本実施例では特に、加算画像データ140に対して次の情報を求める。
・ 心筋輪郭
・ 心室中心スライス(心室中心が属する短軸断層像スライス)
・ 心室中心スライスにおける心室中心
・ 心基部開始スライス(心室中心側から見て心基部が始まる位置に位置する短軸断層像スライス)
・ 心基部開始スライスにおける心室中心
・ 中間スライス(心室中心スライスと心基部開始スライスとのちょうど中間に位置するスライス)。
・ 中間スライスにおける心室中心
【0063】
ステップ164で用いる心筋輪郭抽出法としては、既存の如何なる方法を用いてもよい。例えば本願出願人が、WO2013/047496や特願2013−062441号明細書(本願出願時点では未公開)において開示したアルゴリズムを使用することができる。その他、背景技術の欄に紹介した他の先行技術を用いて輪郭抽出を行ってもよい。本明細書では例として、特願2013−062441号明細書で本願出願人が開示したアルゴリズムの概要を紹介する。
【0064】
図3は、特願2013−062441号明細書に開示されている心筋輪郭抽出法の処理300の基本的な流れを説明するための図である。ステップ302は処理の開始を示す。ステップ304では、ステップ166で心筋輪郭抽出処理の対象となる画像データ140がロードされる。ステップ308では、画像データ140に画像化されている心室(通常は左心室)の中心を自動で決定するための処理が行われる。次のステップ312では、ステップ308で決定した心室中心に基づいて、心筋輪郭抽出処理を行うための基準となる楕円体の作成が行われる。ステップ316では、その楕円体に基づいて心筋輪郭抽出処理が行われる。すなわち、心筋輪郭点(心筋外膜点・心筋内膜点)の特定が行われる。ステップ320では、心基部を特定するための処理が行われる。そしてステップ324において、スライス別(短軸断層像スライス別)に心室中心の再決定が行われる。以下、これらのステップの具体例をより詳細に説明する。
<ステップ308−加算画像データに対する心室中心特定処理>
【0065】
まず
図4のフローチャートを用いて、ステップ308の心室中心決定処理の具体的な例を紹介する。
【0066】
ステップ400は処理の開始を示す。ステップ404では、心室中心の検索を開始するスライスの決定を行う。ここでいうスライスとは、これまでと同様に、短軸断層像を含む画像スライスである。画像データ140を短軸断層像スライスの集合であると考え、その中で心室中心が存在する可能性のあるスライスを検索開始スライスとする。例えば、所定の画像閾値(式2参照)以上のカウント値を有する全ての画素の平均座標(画像重心)を計算し、この画像重心が属する短軸断層像スライスを、検索開始スライスとする。発明者の検討によれば、ここで用いる閾値率は、例えば式2で閾値率を50%程度としたものを用いることが、多くの場合に好ましいようである。
【0067】
ステップ408以降では、検索対象スライスにおいて心室中心の検索が行われる。この処理においても、上に式2で定義した画像閾値が用いられる。ステップ408では、ステップ404で決定した検索対象スライスに対して当該画像閾値の初期値を設定する。すなわち式2における閾値率の初期値を設定する。この閾値率の初期値は任意に設定することができるが、発明者の検討によれば、30%程度とすることが推奨される。
【0068】
ステップ412は心室中心の検索を実行するステップである。心室中心の検索は、例えば次のような処理によって行うことができる。
【0069】
(サブステップ1)検索対象スライスにおいて、設定した画像閾値(今の場合はステップ408で設定された初期閾値)を上回る画素値を有する領域に対してラベリングを行う。また、そのうちサイズが最大となるラベルを特定する。なお、ラベリングとは、画像処理の分野でよく用いられる用語であり、連続する画素に対して同じ番号を割り振る処理のことをいう。サイズが最大となるラベルとは、ラベルに用いられる数字の大きさではなく、同じ数字(ラベル)を有する画素の数が多いラベルを意味する。例えば、ラベルとして1〜3が割り振られたケースであって、ラベル1が割り振られた画素が10個、ラベル2が割り振られた画素が40個、ラベル3が割り振られた画素が5個である場合、サイズが最大となるラベルはラベル2となる。
【0070】
(サブステップ2)サブステップ1で同定した、サイズが最大となるラベルの領域の中心を計算する。本明細書において、この中心を「最大ラベル中心」と称する場合がある。
【0071】
(サブステップ3)サブステップ1で同定した、サイズが最大となるラベルの領域内において、上記設定した閾値を下回る画素値を有する画素に対してラベリングを行う。このとき用いるラベルを、サブステップ1で行うラベリングに用いるラベルと区別するため、穴ラベルと称する。
【0072】
(サブステップ4)割り振られた穴ラベルのうち、次の条件の少なくとも一つを満たすラベルは後の処理から除外する。すなわち後の処理では使わない。
・ スライスの辺縁に近い領域に中心を有する穴ラベル。これは、スライスの端部には心室中心は存在しないと思われるからである。例えば、スライスの辺縁から40mm以内に中心を有する穴ラベルは除外する。なお穴ラベルの中心とは、抽出された穴ラベルの座標平均とすることができる。
・ 中隔領域に中心を有する穴ラベル。ただし中隔領域は適当な手段で推定しなければならない。これには例えば次のような方法がある。まずは検索対象スライスにおいて、上記画像閾値の初期値以上の画素値を有する画素についてラベリングを行う。そして、前壁が上側に位置するように表示した場合に、最も大きなサイズを有するラベルの平均座標より上側において、最も左側に位置するラベル座標より左側を中隔領域とする。なお、PETやSPECTの短軸断層像における心室(心臓)の向きは事実上標準化されており、短軸断層像における心室の向きは、ディスプレイに表示される時に前壁側が上側となり、中隔領域側が左側になるように画素配列されていることが一般的となっている。
・ ラベルのサイズが1cm
2未満である穴ラベル。
【0073】
(サブステップ5)サブステップ4までの処理において、残った穴ラベルの数が一つだけである場合、その穴ラベルの中心を心室中心と決定する。サブステップ4までの処理を行なっても複数の穴ラベルが残っている場合、残った穴ラベルのうち、サブステップ2で計算した最大ラベル中心に最も近い中心を有する穴ラベルの中心を、心室中心と決定する。決定された心室中心の座標データは、後続の処理に用いられるべく、プログラム113の命令に従うCPU102によって、主記憶装置104または補助記憶装置106に格納されてもよい
【0074】
ステップ416は、ステップ412において心室中心が決定できたか否かを判断する。心室中心が決定できていれば、さらに処理を行なうことなく、心室中心検索処理は終了となる(ステップ436)。しかし、心室中心が決定できていなければ、ステップ420に進み、ステップ412で用いる画像閾値を変更して、改めて心室中心の検索を実行する(ステップ424,412)。
【0075】
ステップ420で行われる閾値の変更は次のように行われる。
(1)初めは、処理ループがステップ420に戻るたびに画像閾値を上げていく。例えば、上記の例では、上記閾値率の初期値を30%としていたが、これを、処理ループがステップ420に戻るたびに、5%ずつ上昇させる。
(2)閾値率が所定の値、例えば50%に到達しても、まだ心室中心が決定できていなければ、閾値率を初期値より低い値に設定する。例えば、初期値である30%より低い28%に設定する。その後、処理ループがステップ420に戻るたびに、閾値率を所定の割合ずつ減少させる。例えば2%ずつ減少させる。
【0076】
ステップ424では、上記のように変更した検索閾値率が検索終了値未満になっているかどうかを調べる。検索終了値は任意に設定してもよく、例えば10%とすることができる。閾値率が検索終了値より低くなっている場合、ステップ428に進み、検索対象スライスを変更する。本例では、現在の検索対象スライスから所定枚数(例えば1枚)心基部側に離れたスライスを、次の検索対象スライスとする。いずれかの検索対象スライス及び画像閾値(閾値率)において心室中心が特定できれば、他のスライスについて心室中心特定処理を行なうことなく、処理を終了する(ステップ436)。ステップ408から432を繰り返し、検索終端スライスに到達して、なお心室中心の決定に失敗する場合は、エラーを出力する(ステップ440)。検索終端スライスは任意に設定することができる。例えば、上記閾値率を所定値(例えば30%)としたときの画像閾値を超える画素値を有さないスライスを、検索終端スライスとしてもよい。
【0077】
上記の説明においては、閾値率として50%や30%など、いくつかの数値が使用されているが、これらは全て例示に過ぎないことに留意されたい。後の説明においてもいくつかの具体的な数値が示されるが、本明細書で使用される数値は全て例示であり、本発明の実施形態のバリエーションには、これらとは異なる数値を使用したものも含まれる。
<ステップ312−近似楕円体作成処理>
【0078】
続いて
図5を用いて、
図3のステップ312の処理の具体例を説明する。このステップでは、次のステップ316において心筋輪郭抽出を行うための基礎となる近似楕円体を作成する。
【0079】
ステップ500は処理の開始を示す。ステップ504では、近似楕円体を求める基礎となる点をサンプリングするための基準となる中心点を決定する。実施例によっては、この中心点をユーザが好きなように設定したり、
図3のステップ308で決定した心室中心としたりすることができる。また実施例によっては、次のようにしてサンプリング中心点を決定してもよい。
【0080】
(サブステップ1)
図3のステップ308で決定した心室中心が属する短軸断層像において、心室中心から放射状に画素値の変化を調べ、各方向において画素値が最大となる点(画素)を特定する。
【0081】
(サブステップ2)サブステップ1で得られた、画素値が最大となる点の集合を近似する円を求める。
【0082】
(サブステップ3)サブステップ2で得られた近似円の中心をサンプリング中心点と決定する。
【0083】
近似円の導出は様々な方法で行うことができる。例えば、全ての画素値最大点の座標の平均値を中心座標とし、当該中心座標から各画素値最大点までの距離の平均値を半径とした円を近似円としてもよい。また、この近似円の中心座標や半径を少しずつ変化させ、それぞれ残差の二乗和を計算してこれが最小となる円を最終的な近似円としてもよい。
【0084】
ステップ508では、前のステップで決定したサンプリング中心点から球放射状に、すなわち3次元的に四方八方に、画像データ140をサンプリングし、画素値の変化を調べる。また、調べた各方向において、画素値が最大となる点を特定する(ステップ510)。ステップ512では、得られた画素値最大点の集合を近似する楕円体を計算する。
【0085】
本実施例において、ステップ508−512の処理は、より具体的に次のように行われることができる。
【0086】
(サブステップ1)サンプリング中心点を通り、心基部から心尖部へと延びる軸をZ軸とし、これを含む断面(長軸横断断面)において、心尖部を0°,心基部を180°として、サンプリング中心点を原点として例えば10°間隔で全周に亘ってサンプリング方向を設定し、各方向について画像データ140をサンプリングして画素値の変化を調べる。すなわち画素値のプロファイル(カウントプロファイル)を作成する。ただし、180°方向については、心筋が存在しない可能性があるので、画素値プロファイルの作成は行わない。また、調べた各方向において、画素値が最大となる点を特定する。サンプリング中心点とサンプリング方向、および作成される近似楕円の様子を
図6に示した。
【0087】
ところでZ軸は、実際には画像データ140における短軸断層像に垂直な軸などと決定することができる。この軸は、実際の心尖部方向や心基部方向とは若干ずれている可能性がある。しかし、このステップで使用される中心点や軸は、後の心筋内外膜点の判定トレースを行うための楕円体を求めるための中心点や軸であり、実際の心筋内外膜点の判定トレースに用いられるものではないので、多少の誤差があっても構わない。
【0088】
(サブステップ2)サブステップ1で得られた画素値最大点の集合を近似する楕円を求める。
【0089】
(サブステップ3)画素値プロファイルを作成する断面を、Z軸のまわりに例えば10°ずつ回転し、それぞれについて、サブステップ1,2と同様の処理を行なって近似楕円を求める。
【0090】
(サブステップ4)サブステップ1−3によって得られた18個(サブステップ3における回転間隔が10°であった場合)の近似楕円のパラメータ(中心座標、長辺、短辺等)の平均を、近似楕円体のパラメータ(中心座標、長軸、短軸長等)とする。例えば、近似楕円体の中心座標は上記18個の近似楕円の中心座標の平均座標とすることができる。また例えば、近似楕円体の長軸の方向は、上記18個の近似楕円の中心座標をこれらの平均座標に平行移動した後の、当該18個の近似楕円の長辺の平均方向とし、近似楕円体の長軸の長さは、上記18個の近似楕円の長辺の長さの平均値とすることができる。また例えば、近似楕円体の短軸の長さは、上記18個の近似楕円の短辺の長さの平均値とすることができる。したがって、得られる近似楕円体は回転楕円体、すなわち長軸の周りに円対称となる楕円体である。
【0091】
なお、これらのサブステップの順番は例示であることに留意されたい。例えば、上記の例のように特定の断面についてサンプリングと楕円近似を行なってから次の断面についてのサンプリングと楕円近似を行うのではなく、全ての断面についてサンプリングを行なってから、各断面について楕円近似を行うという流れで処理を行ってもよい。
【0092】
近似楕円の導出は様々な方法で行うことができる。例えば、全ての画素値最大点の座標の平均値を中心座標とし、当該中心座標から各画素値最大点までの距離の最大値を長辺の長さ、最小値を短辺の長さとする楕円を近似楕円としてもよい。また、この近似楕円の中心座標等を少しずつ変化させ、それぞれ実際の画素値最大点との残差の二乗和を計算して、これが最小となる楕円を最終的な近似楕円としてもよい。
<ステップ316−心筋輪郭点特定処理>
【0093】
続いて、
図7A〜
図7Dを用いて、
図3のステップ316の処理の詳細を説明する。このステップでは、その前のステップ312で求めた楕円体に基づいて、処理対象の画像データ140の画素のうち、心筋の外膜点や内膜点に対応する画素を特定する。
【0094】
ステップ700は処理の開始を示す。ステップ702では、
図2のステップ312で求めた楕円体について、その長軸を含む断面を一つ決定する。この断面は任意に設定してよい。例えば、長軸をZ軸とし、これに垂直にX軸、Y軸を設定したとき、Y軸に垂直な断面とすることができる。この断面は当然楕円となる。
【0095】
ステップ704以降では、ステップ702で得られた楕円を利用して、心筋輪郭点の抽出を行うトレース方向を設定していく。まずステップ704において、
図2のステップ312で求めた楕円体の中心を基準とし、Z軸方向において心尖部方向を0°、心基部方向を180°として複数の検索角度を設定する。そしてステップ706において、当該楕円中心から設定した検索角度方向へ延ばした直線と、楕円との交点を求める。本例では、最初の検索角度を10°とし、処理ループがステップ724を経てステップ704に戻るたびに角度を5°ずつ増していき、検索角度が170°に達したところでそれ以上は検索角度を増やさずに終了することとしている。すなわち
図7Aのステップ724に記載されている「検索終了角度」を170°としている。しかしながら、これらの数値は例示であり、最初の検索角度や検索終了角度、角度の増分ステップに、他の数値を採用してもよいことはもちろんである。
【0096】
ステップ710では、ステップ706で計算された交点における法線が求められる。すなわち交点における接線に垂直な直線が求められる。ステップ712においては、この法線とZ軸(すなわち楕円の長軸)との交点が計算され、この交点が現在の処理ループにおける心筋輪郭点判定のトレース中心と決定される。すなわち、心筋輪郭点判定のためのサンプリングの起点と決定される。
【0097】
ステップ716では、心筋輪郭点判定を行う最初のトレース方向(すなわちサンプリングの方向)が決定される。これは、ステップ712で決定されたトレース中心からステップ706で計算された交点へ向かう方向であると決定される。続く処理のために、この方向を向くベクトル(トレース方向ベクトル)が計算される。
【0098】
図7Bに、検索角度と、検索角度方向へ延びる直線と楕円との交点、当該交点の法線、法線とZ軸との交点、トレース方向ベクトルなどの関係を図示した。
【0099】
ステップ718では、トレース方向ベクトルをZ軸(すなわち楕円の長軸)の周りに回転させるための回転角度が設定される。本例では、処理ループがステップ722を経てステップ718に戻るたびに、0°から350°まで、10°ステップで回転角度を増すこととしている。すなわちZ軸の周りに初期方向ベクトルを一周させる。従ってトレース方向は、ステップ312で求めた楕円体の長軸上の点から当該楕円体の面に垂直な方向に向かって該長軸の周りに円錐放射状に等間隔に設定される。上記のステップ幅である10°はもちろん例示であり、実施形態によっては、角度の増分ステップを、例えば5°など他の値としてもよい。ステップ720では、ステップ718で設定された方向すなわち回転した方向ベクトルの方向で、画像データの心筋輪郭点判定処理が行われる。この処理については
図7Cを用いて後に詳細に説明する。
【0100】
ステップ722では、トレース方向ベクトルのZ軸の周りの回転角度が回転終了角度であるか否かが判定される。前述のように、本例ではこれを350°としている。回転終了角度になっていれば、ステップ724に進み、ステップ704で設定した現在の検索角度が検索終了角度であるか否かが判定される。前述ように、本例ではこれを170°としている。検索終了角度になっていれば、処理は終了する(ステップ726)。
【0101】
続いて
図7Cを用いて、
図7Aのステップ720の心筋輪郭点判定処理の一例を説明する。
【0102】
ステップ730は処理の開始を示す。ステップ732では、ステップ712で設定されたトレース中心から、ステップ722で設定されたトレース方向ベクトルの方向に、処理対象の画像データ140が走査され、画素値のプロファイルが作成される。すなわち位置に応じた画素値の変化が調べられる。このステップにおいて、有効な画素値について閾値を設けてもよい。例えば、このプロファイルにおける最大画素値の30%以下の画素値については、画素値を無効又は0としてもよい。または、前述の閾値率を30%として前述の画素閾値を定め、これを下回る画素値を有する画素を処理から除いてもよい。これは、ノイズを含む可能性のある画素を処理から除外するためである。
【0103】
ステップ734では、ステップ732で作成されたプロファイルにおける画素値が最大となる点(画素)が特定される。
【0104】
ステップ736では、次のステップ738で設定される判定ラインを計算するための「判定閾値」が初期値にセットされる。ステップ738ではその判定ラインが計算される。この判定ラインは、後述のように、次のステップ740において、心筋の内膜点及び外膜点を特定する基準となるものである。実施例によっては、この判定ラインは、ステップ732で作成された画素値プロファイルにおける最大画素値に基づいて決定されてもよい。実施例によっては次のように決定されてもよい。
【0105】
判定ライン=(最大値−最小値)× 判定閾値 + 最小値
【0106】
上の式において、最大値とは画素値プロファイルにおける最大画素値を表し、最小値とは画素値プロファイルにおける最小画素値を示す。判定閾値はステップ736で初期設定されると共に、必要に応じてステップ744で再設定される。判定閾値を再設定する場合についてはステップ742に関連して後述される。例示であるが、ステップ736でセットされる初期の判定閾値は、本例では75%である。実施例によっては、内膜点を判定する場合と外膜点を判定する場合とで判定閾値を変えてもよい。
【0107】
ステップ740においては、画素値プロファイルがこの判定ラインと交差する点の付近を心筋の内膜点や外膜点と判定する。実施例によっては、プロファイルにおける画素値最大点から見てトレース中心の側において該プロファイルが判定ラインと交差する点のうち、画素値最大点に最も近い点又はその近傍を、そのプロファイルにおける心筋の内膜点と判定する。例えば、画素値最大点からトレース中心の方へプロファイルカーブを下って行くとき、プロファイルが判定ラインを最初に下回った点(画素)を、そのプロファイルにおける心筋内膜点と判定する。同様に、実施例によっては、プロファイルにおける画素値最大点から見てトレース中心の反対側において該プロファイルが判定ラインと交差する点のうち、画素値最大点に最も近い点又はその近傍を、そのプロファイルにおける心筋の外膜点と判定する。例えば、画素値最大点からトレース中心とは反対側の方へ画素値プロファイルカーブを下って行くとき、プロファイルが判定ラインを最初に下回った点(画素)を、そのプロファイルにおける心筋外膜点と判定する。
【0108】
図7Dに、Z軸方向から見た、画像データのトレース面や、トレース中心、トレース方向、画素値プロファイル、判定ライン、画素値最大点、内膜であると判定した点や外膜であると判定した点などの関係を示してあるので参照されたい。画像データのトレース面は、ステップ704で設定される検索角度が90°未満の場合、実際にはZ軸方向に角度がついており、コーン状のトレース面を上から平面的に表しているものであることに注意されたい。
【0109】
ステップ742においては、ステップ740で特定された内膜点と外膜点との距離が計算され、この距離が所定の範囲内に収まっているかどうかが判定される。内膜点と外膜点との距離は、心筋の膜厚を反映していると考えられる。前述の所定の範囲は、例えば8mm以上32mm以下とすることができる。この範囲は例示ではあるが、発明者の研究によれば、心筋に異常がない者でも、何らかの異常を抱えているものでも、例えば心筋が薄くなるような疾患を抱えている者に対しても心筋輪郭点判定が最も良好に行われる範囲である。ステップ742で、内膜特定点と外膜特定点との距離が上記所定の範囲内にない場合は、ステップ744に進み、判定閾値を変更する。閾値の変更ステップは例えば5%などとすることができる。例えば、内膜特定点と外膜特定点との距離が8mm以下の場合、判定閾値を5%ずつ低下させることとしてもよい。また例えば、内膜特定点と外膜特定点との距離が32mm以上の場合、判定閾値を5%ずつ上昇させることとしてもよい。内膜特定点と外膜特定点との距離が所定の範囲内に収まる場合、内膜及び外膜の特定点を確定し、処理を終了する(ステップ748)。一定以上判定閾値を変化させても内膜特定点と外膜特定点との距離が所定の範囲内に収まらない場合(ステップ746)、エラーを出力(ステップ750)し、当該プロファイルにおいては内膜点及び/又は外膜点を特定できなかった旨が示される。なお、処理がエラー出力で終了する場合(ステップ750)であっても、例えば初期判定閾値に基づく判定ラインに基づいて特定された内膜点及び/又は外膜点を出力に含めることが好ましい。
【0110】
ところで、心尖部においては、輪郭点判定トレース領域(すなわちステップ704−722によって設定される円錐状の領域)が、心筋の膜内に入るか近づきすぎてしまい、心筋内膜点を特定できないことがある。そこで心尖部と思われるトレース領域においては、外膜点のみを特定し、内膜点は特定しないとしてもよい。その場合、判定ラインを変化させることは不要であるので、例えば、ステップ736で設定された初期判定閾値に基づく判定ラインに基づいて、上記のように外膜点を特定し、その点を該当プロファイルにおける外膜判定点と決定してもよい。
【0111】
トレース領域が心尖部に位置するか否かは、例えばステップ704において検索角度が所定範囲内、例えば15°以内の場合であるかによって決定することもできる。
【0112】
また、これまでの処理で特定された心筋外膜点を改めて楕円体で近似し、その近似楕円体の心尖部側の最先端部をもって、心尖部の最先端部としてもよい。
【0113】
心尖部の心筋の厚みは、他の部分の心筋の厚みと同じとみなしてもよい。例えば、
図2のステップ312で求めた楕円体の中心が属する短軸断層像スライスと、その前後例えば10枚の短軸断層像スライスにおいて、楕円体の長軸との交点を中心としてトレースを行って心筋内外膜点および膜厚を求め、その平均値を心尖部の心筋の厚みとしてもよい。
<ステップ320−心基部領域の特定>
【0114】
続いて、
図8を用いて、
図3のステップ320で示した、心基部領域を特定する処理の具体例を説明する。この処理においては、心基部側に位置する所定の範囲の短軸断層像において、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するか否かを調べ、その結果に基づいて心基部の開始位置を特定する。
【0115】
ステップ800は処理の開始を示す。ステップ804は、調査対象の画像データ140のうち、心壁の途切れを判定する最初の短軸断層像スライス(心基部判定開始スライス)を設定する。このスライスは、例えば、
図2のステップ312で求めた楕円体(第1の楕円体)を利用して設定することができ、例えば、第1の楕円体の長軸に垂直な面を表すスライスであって、長軸の心尖部方向を0°としたときに、例えば110°に位置するスライスとすることができる。
【0116】
ステップ808では、判定対象のスライスについて、内膜点及び外膜点の特定を行う。この処理は、例えば、上記第1の楕円体の長軸と判定対象スライスとの交点をトレース中心として当該スライス上で放射状にトレース方向を設定し、各方向について
図7Cで説明した手法などを利用して行うことができる。
【0117】
ステップ812では、ステップ808の処理結果から、判定対象のスライスにおいて、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するか否かを調べる。心壁の途切れの存在は、特定の画素値プロファイルにおいて有効な内膜点及び/又は外膜点が存在しないことをもって判断することができる。このような場合、当該画素値プロファイルに対応する角度領域は、心壁が途切れていると判断することができる。核医学イメージングで得られる短軸断層像においては、一般的に、画面の左方向が中隔側となっている。そこで、例えば、原点を各画素値プロファイルのトレース中心(例えば上記第1の楕円体の長軸と判定対象スライスとの交点)とし、画面右方向を0°とした場合の、150〜210°の範囲を中隔側と設定することができる。むろん、この範囲は例示に過ぎず、別の範囲を用いることもできる。参考のため、
図8Aに、本例における検索対象の角度範囲の様子を示した。ステップ812では、この角度範囲において、所定角度(例えば20°)以上の連続した心壁途切れが存在するかどうかを調べる。
【0118】
ステップ808及び812の処理は、心基部判定開始スライスから、それより心基部側に位置する後述する「調査スライス」と呼ばれるスライスまで、順々に行われる(ステップ816)。それによって、各スライスについて、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するか否かが調べられる。
【0119】
ステップ822では、心基部の開始スライスの決定が試みられる。これは次のように行われる。
【0120】
(a)調査スライスにおいて、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するスライスが連続しているかどうかが判定される。そのようなスライスが連続している場合、連続しているスライスのうち最も心尖部側のスライスを、心基部の開始スライスであると決定する。例えば、スライス番号と途切れ状態の判定結果が次のようであった場合、スライス54が心基部開始スライスとして決定される。
スライス番号 途切れ状態
50 なし 心基部判定開始スライス
51 あり
52 なし
53 なし
54 あり
55 あり
56 あり 調査スライス
【0121】
(b)調査スライスにおいて、上のような途切れが存在するスライスが連続していない場合は次のように処理を進める。
・ 調査スライスおよび調査スライスより心尖部側に位置するスライスの中で、上のような途切れが存在するスライスがないかを調べる。そのようなスライスがある場合、その中で最も心基部側のスライスを、心基部の開始スライスであると決定する。
・ 調査スライスおよび調査スライスより心尖部側に位置するスライスには、上のような途切れが存在するスライスがない場合は、ステップ822では心基部開始スライスを決定せず、次のステップに進む。
【0122】
ステップ824では、ステップ822において心基部の開始スライスが決定できたか否かが判定され、決定できていれば、ステップ848に進んで処理は終了する。決定できていなければ、ステップ828に進む。
【0123】
ステップ828以降では、調査スライスより心基部側に一つずつスライスを移動し、それぞれステップ808及び812と同様の処理によって、当該スライスに上記のような心壁の途切れがあるかないかを判定する(ステップ832)。ステップ836では、当該スライスに心壁の途切れが見つかったかどうかが判定され、見つかった場合は、当該スライスを心基部開始スライスと決定する(ステップ840)。見つからない場合は、判定終了スライスまでスライスを一つずつ移動し、さらに心壁途切れを有するスライスを検索する(ステップ844)。処理範囲終端スライスまで検索しても、上記のよう心壁途切れを有するスライスが見つからない場合は、エラーを出力して処理終了する(ステップ852)。
【0124】
これまでの処理において、「調査スライス」は、例えば、上記第1の楕円体の長軸の心尖部方向を0°としたときに、例えば135°に位置するスライスとすることができる。また、「処理範囲終端スライス」は、例えば150°に位置するスライスとすることができる。むろん、これらの角度は例示であり、実施形態によっては他の角度を用いてもよい。
【0125】
図8Bに、心基部判定開始スライスと調査スライス、判定対象スライス範囲、および処理範囲終端スライスの関係を例図によって示す。
<ステップ324−スライス別心室中心の決定>
【0126】
続いて、
図3のステップ324で示した、スライス別心室中心の決定処理の例について説明する。ここでいうスライスとは、これまでと同様に、短軸断層像を含む画像スライスである。
【0127】
一例として、ステップ312で決定した近似楕円体の長軸と、各スライスとの交点を、当該スライスの心室中心とすることができる。しかし、当該近似楕円体の中心を含むスライスから、ステップ320で決定した心基部開始スライスの直前のスライスの間においては、近似楕円体の長軸との交点をトレース中心として改めて当該スライス内で二次元的に心筋輪郭抽出を行い、特定された外膜点を円近似して、その中心を当該スライスの心室中心とした方が、その後の処理の結果が好ましい場合があることが判明している。本願発明の実施形態との関係では、いずれの手法を使っても構わない。
【0128】
心基部開始スライスから心基部側のスライスについては、心基部開始スライスの直前のスライスの心室中心を継承する。
【0129】
ステップ324を終えるとステップ300の処理は終了する(328)。
<ステップ166におけるその他の処理について>
【0130】
以上、特願2013−062441号明細書で本願出願人が開示した心筋輪郭抽出アルゴリズムの概要を紹介したが、特願2013−062441号明細書やWO2013/047496には、心筋輪郭抽出の精度を向上させうる補正や補間、整形のための様々な処理方法が記載されている。それらも必要に応じて参照されたい。特願2013−062441号明細書およびWO2013/047496の内容を知らなくとも本願請求項に係る発明は実施可能であるとはいえ、これらの文書は参照されることは望ましい。これらの文書は本願明細書の一部をなすものとして扱われたい。
〔ステップ168−加算画像データにおける心筋特徴点の決定〕
【0131】
続いて、
図1Bのステップ168に適用可能な処理の具体例を説明する。
図1Bのステップ168では、加算3次元核医学画像データ(例えば画像データ140)に基づいて複数のトレース方向を設定し、該トレース方向の各々において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定するが、この処理は例えば
図9のフローチャートに例示する処理900のように行われる。
【0132】
ステップ904は処理の開始を示す。ステップ908では、画像データ140中で、心筋部に対応すると判定された画素の画素値を例えば1に、心筋部には対応しないと判定された画素の画素値を0とした、バイナリ画像データを作成する。画像データ140中の特定の画素が心筋部に対応する画素であるかどうかの判定は、ステップ166の処理の結果に基づいて行うことができる。
【0133】
ステップ912では、このバイナリ画像に対して心尖部領域の画素値の変化を調べ、心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。本実施例では、心室全体の中心が属する短軸断層像スライス(心室中心スライス)における心室中心(スライス中心)を始点として、心尖部方向に3次元放射状に画素値の変化を調査するトレース方向を設定し、そのトレース方向の各々において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。心室中心スライスとしては、例えば、ステップ312で決定した近似楕円体の中心を含むスライスを採用することができる。この場合、当該スライス中の心室中心としては当該近似楕円体の中心を用いることができる。または例えば、心室中心スライス及びスライス中心として、ステップ308(ステップ416)で決定した心室中心を含むスライスおよび対応する心室中心を採用することができる。
【0134】
ステップ912におけるトレース方向は、上述のように、始点から心尖部方向に3次元放射状に設定してもよい。トレース方向の設定の例を
図10(a)(b)に示す。この例では、心室中心を通り短軸断層像スライスに垂直な軸をZ軸、その心尖部方向を0°として、Z軸に対して20°ステップでトレース方向を複数(例えば4つ)設定している。さらにこれらのトレース方向を、各々Z軸に垂直な方向にZ軸の周りに例えば45°ステップで360°回転させる。これによって、本例では、心室中心から心尖部方向に向けて3次元的に4×8=32本のトレース方向を設定している。
【0135】
図10(a)は、ステップ908で2値化した画像データ140の長軸水平断層像(Horizontal Long Axis)を用いてZ軸を含む面内のトレース方向を例示したものである。トレース中心1004(心室中心スライスにおける心室中心)から心筋部1002に向けて、8本のトレース方向1006が設定されていることが描かれている。なお4本ではなく8本のトレース方向1006が描かれている理由は、例えばZ軸に対して20°のトレース方向をZ軸の周りに180°回転すると、元のトレース方向と同じ面内(すなわちZ軸に対して−20°)にトレース方向が設定されるためである。
【0136】
図10(b)は、Z軸に対してある角度で設定されたトレース方向をZ軸の周りに回転させることにより設定した8本のトレース方向の様子を分かり易く示すために、これらをステップ908で2値化した画像データ140のある短軸断層像に投影したものである。図示されるように、心室中心1004から放射状に45°ステップでトレース方向1006が設定されている。
【0137】
各トレース方向における心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点は、例えば
図11に描かれるように決定してもよい。まず、トレース始点1004からトレース方向1006に沿って、ステップ908で作成したバイナリ画像の画素値の変化を調べ、心筋部1002の両端点を特定する。画素値がバイナリ化(2値化)されているので、この特定は容易である。この両端点の中心を心筋中心基準点1102として決定する。また、トレース始点1004からみて外側の端点を心筋外膜基準点1104として決定する。心筋内膜基準点は、トレース始点1004からみて内側の端点としてもよいが、発明者の検討によれば、それよりも少し心筋側に移動した点とした方が、最終的な結果に好影響を与えるようである。そこで本例では、トレース方向1006上で両端点の中心からみて、両端点の中心と内側の端点との間の距離の90%にあたる位置を、心筋内膜基準点1106として決定することとしている。ステップ912では、設定した全てのトレース方向について同様に心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。
【0138】
ステップ916では、心筋中央心部領域における心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。このステップでは、ステップ908で作成したバイナリ画像の心筋中央心部領域において複数のトレース方向を設定し、各トレース方向において画素値の変化を調べる。そしてステップ912と同様にそれぞれ心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。
【0139】
ステップ916で設定するトレース方向は、例えば、短軸断層像スライス面内で(すなわち短軸断層像面内)で、2次元放射状に設定することができる。トレース方向を設定するスライスは、例えば、心室中心スライス(例えばステップ312で決定した近似楕円体の中心を含む短軸断層像スライス)、心基部開始スライス(ステップ822で特定した心基部開始スライス)、これら2つのスライスの中間スライスの3つとすることができる。
【0140】
図10(c)は、ステップ916におけるトレース方向の設定の様子を図示したものである。
図10(a)と同様に、長軸水平断層像を用いて図示している。心室中心スライスの心室中心1004,心基部開始スライスの心室中心1008,これらのスライスの中間スライスの心室中心から、それぞれZ軸に垂直にトレース方向1010が設定されていることが図示されている。各短軸断層像スライスにおいて、トレース方向は、例えば、心室中心を始点として45°ステップで設定されることができる。従ってこの例では、3枚のスライスのそれぞれに8本のトレース方向が設定されるため、全部で3×8=24本のトレース方向が設定される。そして各トレース方向において画素値の変化を調べ、
図11を用いて説明した上述の方法によって、心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する
【0141】
ステップ920では心基部領域における各基準点の決定を行う。前のステップと同様に、ステップ908で作成したバイナリ画像に対して心基部に複数のトレース方向を設定し、各トレース方向において画素値の変化を調べ、前のステップと同様にそれぞれ心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。
【0142】
ステップ920で設定するトレース方向は、例えば、心室内部の所定の始点から心基部側に3次元放射状に設定することができる。当該所定の始点として、例えば、ステップ822で特定した心基部開始スライスにおいてステップ324で決定した心室中心を用いることができる。トレース方向は、例えば、当該始点を中心に心基部方向を0°として20°ステップで複数(例えば3つ)設定し、さらに各トレース方向をZ軸に垂直な方向にZ軸の周りに45°ステップで360°回転させることにより、3次元的に複数のトレース方向を設定することができる。
【0143】
図10(d)は、ステップ920におけるトレース方向の設定の様子を図示したものである。
図10(a)と同様に、長軸水平断層像を用いて図示している。心基部開始スライスの心室中心1008から放射状にトレース方向1012が設定されていることが描かれている。これら各トレース方向について、
図11を用いて説明した上述の方法によって、心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点が決定される。
【0144】
図10(e)は、心尖部、心筋中央部、心基部全てに設定された例示的トレース方向を、長軸水平断層像に重ね合わせて図示したものである。
【0145】
ステップ912〜920の処理が完了し、心筋部全体において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点が決定されると、処理900は終了する(924)。本明細書において、加算画像データに対して決定された心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を、それぞれ参照心筋中心基準点、参照心筋内膜基準点、参照心筋外膜基準点と称することがある。決定された参照心筋中心基準点の様子を示すために、これらを結線したものを参考として
図12に示した。
〔ステップ170−位相画像別の心筋中心点決定〕
【0146】
続いて、
図13を用いて、
図1Bのステップ170に適用可能な処理の具体例を紹介する。この例示的処理1300では、本実施例で処理の対象としている複数の3次元SPECT画像データ(例えば画像データ131〜138)の各々の位相について、対応する3次元SPECT画像データに基づいて、位相別に心筋中心基準点を決定する。
【0147】
ステップ1302は処理の開始を表す。ステップ1304〜1312のループは、本実施例における処理に関連する心周期位相の各々について、心筋中心基準点の決定を行うことを表している。例えば本例では、画像データ131〜138に対応して8つの位相が存在するため、ステップ1304においてp=1〜8である。
【0148】
ステップ1306では、心筋中心基準点の検出を行う画像データが作成される。これは単純には、例えば、ループ中の位相に対応する画像データ(例えば画像データ131〜138のいずれか)そのものであってもよい。しかし本実施例では、ループ中の位相に対応する画像データだけでなく、その前後の位相に対応する画像データを加味した画像データを検出の対象とする。これは、そうすることによって、検出される心筋中心基準点の位相間の変化が滑らかになるからである。例えば、ループ中の位相に対応する画像データの各画素の画素値に、前後の位相の画像データの対応する画素の画素値にそれぞれ例えば0.5を乗じた値を加算して、検出対象の画像データとしてもよい。ただし位相の最初または最後でそれより前また後の位相に対応する画像データが存在しない場合は、存在する方の画像データの画素値を加算したものを検出対象の画像データとすることとしてもよい。
【0149】
ステップ1308では、ステップ1306で作成した画像データに対して位相別心筋中心基準点の検出を行う。基準点の検出を行うトレース方向は、加算画像データ140に対して設定したトレース方向、すなわち
図9のステップ908で作成したバイナリ画像データに対して設定したトレース方向と同じであってもよい。すなわち、
図9のステップ912〜920で設定したトレース方向と同じであってよい。
【0150】
各トレース方向において、位相別心筋中心基準点は、例えばトレース上で画素値が最大となる点であると定めてもよい。
【0151】
実施形態によっては、各トレース方向において画素値の変化を調べる範囲は、当該トレース方向における参照心筋中心基準点(すなわち
図9の処理900で決定された心筋中心基準点)の周りに限定してもよい。例えば、当該トレース上で、加算画像データ140に対して決定された心筋中心基準点の例えば前後20mmに限定してもよい。実施形態によっては、トレース始点から見て参照心筋外膜基準点の外側については、位相別心筋中心基準点の検出範囲から除外してもよい。実施形態によっては、位相別心筋中心基準点の検出を行う範囲を、トレース上のみならず、その周辺に拡大してもよい。例えば、トレース方向に対して例えば、Z方向(例えば心筋の長軸方向)に例えば前後2ピクセルを検出範囲に含めてもよい。別の例では、トレース方向を軸として半径例えば3ピクセルの円柱状の範囲を位相別心筋中心基準点の検出範囲としてもよい。
【0152】
実施形態によっては、1つの画素の画素値によって位相別心筋中心基準点を決定するのではなく、周辺の画素の画素値を加味して位相別心筋中心基準点を決定してもよい。例えば、トレース上の例えば前後2画素の画素値を含めた合計値が最大となる画素を、位相別心筋中心基準点と決定してもよい。ここでさらに、例えば、検出範囲の画素数が少ない場合は、例えば前後1画素の画素値を含めた合計値に基づいて位相別心筋中心基準点と決定してもよい。
【0153】
ステップ1310では、ステップ1308で決定した位相別心筋中心基準点のスムージングを行う。このステップに示す位相別の心筋中心基準点の位置補正は、本願発明の実施形態に必須の処理ではないが、行うことによって、心筋輪郭の抽出結果か滑らかになるという効果を奏する。本実施例では次の2種類のスムージングを行う。
【0155】
図10(b)を用いて上に説明したように、本実施例では、Z軸に対してある角度を持たせてトレース方向を複数設定し、さらにこれらをZ軸の周りに回転させて更にトレース方向を設定する。従って、Z軸の周りの回転角度(即ちZ軸に垂直な面内における回転角度)が等しいトレース方向が複数存在し、その各々について位相別心筋中心基準点が特定されている。そこで、Z軸の周りの回転角度別に位相別心筋中心基準点のスムージングを行う。
【0156】
なお、
図10(e)に描かれるように、Z軸、すなわちトレース中心を通り短軸断層像スライスに垂直な軸の原点は、ステップ912,916,920でそれぞれ異なっているが、互いに平行であるのでその点は無視し、Z軸周りの回転角度だけを問題にして、同じ回転角度を有する位相別心筋中心基準点を集めてスムージングを行う。
【0157】
図14Aは、このようなスムージング処理を説明するための図である。横軸は、特定された位相別心筋中心基準点のスライス番号(短軸断層像スライスの番号)であり、縦軸は、位相別心筋中心基準点が属するスライスに投影したトレース中心から当該位相別心筋中心基準点までの距離を表す。黒色でダイヤ(◆)で示した点は、ステップ1308で特定された心筋中心基準点であり、折れ線1402はそれらを繋いだ線である。これに対して曲線1404は元の心筋中心基準点を平滑化スプラインによりフィッティングしたものであり、淡い色で四角(■)で示した点は、元の心筋中心基準点に対してフィッティングの結果を反映させたものである。図示されるように、淡い色で四角(■)で示した点はスライス番号の距離の変化が若干滑らかになっている。なお、紹介したスムージングは単なる例であるので、スムージングの手法やスムージング処理の有無によって本願発明の範囲が限定されることはない。
【0158】
(2)Z軸を軸とする円錐面内又はZ軸に垂直な面内でのスムージング
【0159】
繰り返しになるが、本実施例では、Z軸に対してある角度を有するトレース方向を、Z軸の周りに所定の角度毎に回転させて更にトレース方向を設定する。
図10(b)に描かれているように、本実施例では45°ステップで8本のトレース方向を設定した。これら、Z軸に対する角度の等しい複数のトレース方向において各々特定された複数の位相別心筋中心基準点に対してスムージング処理を適用する。
【0160】
図14Bは、このようなスムージング処理を説明するための図である。横軸はZ軸の周りの回転角度(即ちZ軸に垂直な面内における回転角度)で、縦軸はトレース中心から特定された位相別心筋中心基準点までの距離を表す。黒色でダイヤ(◆)で示した点は、ステップ1308で特定された心筋中心基準点であり、折れ線1422はそれらを繋いだ線である。これに対して曲線1424は元の心筋中心基準点をフーリエ級数近似によりフィッティングしたものであり、淡い色で四角(■)で示した点は、元の心筋中心基準点に対してフィッティングの結果を反映させたものである。図示されるように、淡い色で四角(■)で示した点は角度間の距離の変化が滑らかになっている。なお、紹介したスムージングは単なる例であるので、スムージングの手法やスムージング処理の有無によって本願発明の範囲が限定されることはない。
【0161】
本実施例における処理に関連する心周期位相の各々について、ステップ1306〜1310の処理を終えると、ステップ1314に進み、これまでに決定した位相別心筋中心基準点の位置を、さらに位相間の関係を考慮して補正する。
<ステップ1314−位相別心筋中心基準点の位相間補正>
【0162】
図15を参照して、
図13のステップ1314に示す処理、すなわち位相間の関係を考慮した位相別心筋中心基準点の位置補正の処理の例を紹介する。このステップに示す位相別心筋中心基準点の位相間位置補正は、本願発明の実施形態に必須の処理ではないが、行うことによって、心筋輪郭の位相間の変化が滑らかになるという効果を奏する。
【0163】
ステップ1502は処理の開始を示す。ステップ1504では、位相間補正を行うための基準となるED(拡張末期)位相とES(収縮末期)位相を決定する。本実施例では、この決定を、各位相別心筋中心基準点のトレース始点からの距離によって行う。
【0164】
前述のように、本実施例では、
図13のステップ1308において、本実施例で処理の対象となっている全ての位相について、加算画像データ140に対して参照心筋中心基準点等を決定したトレース方向と同じトレース方向において、位相別の心筋中心基準点を決定している。ステップ1504では、これらのトレース方向の各々について、トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離を調べ、トレース方向毎に基準点までの距離が最も長かった位相および最も短かった位相を決定する。そして、基準点までの距離が最も長いトレース方向を最も多く有する位相をED(拡張末期)位相と、基準点までの距離が最も短いトレース方向を最も多く有する位相をES(収縮末期)位相と決定する。
【0165】
ステップ1506から1520のループでは、上述のトレース方向の各々について位置補正の必要性が判断され(ステップ1508)、必要であると判断された場合には、当該トレース方向に属する各位相の位相別心筋中心基準点の補正が行われる(ステップ1510−1518)。すなわちこのループでは、位相別心筋中心基準点の集合についての補正の要否がトレース方向毎に判断され、トレース方向毎に補正される。
【0166】
ステップ1508では、ループ中の現在のトレース方向に関して各位相で特定された位相別心筋中心基準点の集合について、次の条件を満たすかどうかか調べられる。
(1)トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離が最も長い位相が、ED又はEDに隣接する位相ではない。
(2)トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離が最も短い位相が、ES又はESに隣接する位相ではない。
(3)トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離がEDからESに向かって(すなわち収縮期において)単調に減少せず、及び/又はESからEDに向かって(すなわち拡張期において)単調に増加しない。
【0167】
現在のトレースに関連する位相別心筋中心基準点の集合が条件(1)〜(3)のいずれかを満たす場合はステップ1510以降に進み、位置補正を行う。
【0168】
ステップ1510以降の位置補正では、現在のトレース方向に関連する位相別心筋中心基準点の位相間変化が規則性のある変化となるように、各位相別心筋中心基準点の位置が調節される。まずステップ1510では、補正の基準となる位相を決定する。この補正基準位相は次の順番で判定される。
(1)トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離が最も長い位相がED位相である場合、ED位相を補正基準位相とする。
(2)トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離が最も短い位相がES位相である場合、ES位相を補正基準位相とする。
(3)拡張期の中間位相と収縮期の中間位相のうち、トレース始点から位相別心筋中心基準点までの距離が近い方の位相を補正基準位相とする。
【0169】
補正基準位相においては位相別心筋中心基準点の位置補正は行わない。
【0170】
ステップ1512では、補正基準位相に隣接する位相の位相別心筋中心基準点について、位置補正の要否が判断される。この判断のために、補正基準位相の位相別心筋中心基準点のトレース始点からの距離L1と、補正基準位相に隣接する位相の位相別心筋中心基準点のトレース始点からの距離L2とが比較される。上記隣接位相が収縮期にある場合、L1>L2であることが求められる。もしL1>L2でないなら、ステップ1514に進み、L2=L1になるように、上記隣接位相の位相別心筋中心基準点の位置を補正する。一方、上記隣接位相が拡張期にある場合、ステップ1512において、L1<L2であることが求められる。もしL1<L2でなければ、同じくステップ1514に進み、L2=L1になるように、上記隣接位相の位相別心筋中心基準点の位置を補正する。
【0171】
ステップ1516では、現在のトレースに関する全ての位相について位置補正の要否が検討されたか否かが判断され、また検討されていなければ、ステップ1512−1514で判断・補正の対象となった位相を補正基準位相とし、ステップ1512に戻って更に隣の位相の補正の要否を判断する。
【0172】
図16はステップ1514における処理結果の一例を紹介したものであり、あるトレースに関する位相別心筋中心基準点の位置補正の結果を例示したものである。(a)は補正前、(b)は補正後の様子を示している。横軸は処理の対象となった心周期位相の識別情報(位相番号)を示し、便宜的にED位相を1、ES位相を4で表している。(a)は、2番目の位相から3番目の位相にかけて、収縮期にあるにも関わらず、トレース中心から心筋中心基準点までの距離が増加しており、また5番目の位相から6番目の位相にかけて、拡張期にあるにも関わらず、当該距離が減少している。しかし補正後は、(b)に示すように、収縮期にあるにも関わらず当該距離が増加したり(すなわちあたかも心筋が拡張するように動いたり)、拡張期にあるにも関わらず当該距離が減少したり(すなわちあたかも心筋が縮小するように動いたり)することがなくなっている。
【0173】
全てのトレース方向についてステップ1508〜1518の処理が完了すると、ループを抜けて処理は終了する(ステップ1522)。以上で
図1Bのステップ170で行われる処理の様々な具体例の紹介を終え、次は
図1Bのステップ172で行われる処理の具体例の説明に入る。
〔ステップ172−位相別の心筋内外膜基準点決定〕
【0174】
図1Bのステップ172では、ステップ168で決定した、加算画像データ140について決定した参照心筋中心基準点,参照心筋内膜基準点,参照心筋外膜基準点と、ステップ170で位相毎に決定した位相別心筋中心基準点とに基づいて、位相別に心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する。位相別の心筋内外膜基準点の決定は、ステップ168やステップ170で参照心筋中心基準点等や位相別心筋中心基準点を決定した時に用いたトレース方向の各々に対して行われる。
【0175】
図17を用いて
図1Bのステップ172の処理の具体例を紹介する。1704と1714で囲まれるループ及び1706と1712で囲まれるループは、本実施例で処理の対象となった心周期の位相毎に、上述のトレース方向の各々について、位相別心筋内外膜点決定が行われることを示している。ステップ1708では、現在の位相及びトレース方向について、対応する参照心筋中心基準点と、対応する位相別心筋中心基準点との差が求められる。この差に基づく情報を、例えば位置決定パラメータと呼ぶ。そしてステップ1710では、この位置決定パラメータに基づいて、対応する参照心筋内膜基準点及び参照心筋外膜基準点を移動することにより、現在の位相及びトレース方向における位相別心筋内膜基準点及び位相別心筋外膜基準点を決定する。
【0176】
実施形態によっては、上記位置決定パラメータは、参照心筋中心基準点と位相別心筋中心基準点との差の所定倍の大きさ、例えば1.7倍の大きさを有する。
【0177】
実施形態によっては、参照心筋内膜基準点の移動量は、参照心筋外膜基準点の移動量より大きい。実施形態によっては、上記位置決定パラメータの例えば0.7倍だけ参照心筋内膜基準点を移動し、上記位置決定パラメータの例えば0.3倍だけ参照心筋外膜基準点を移動する。
【0178】
実施形態によっては、上記位置決定パラメータDは方向を有するベクトル的な要素であり、例えばD=(dx, dy, dz)と表すことができる要素である。一例として、参照心筋中心基準点をR
0=(r
0x, r
0y, r
0z),位相別心筋中心基準点をP
0=(p
0x, p
0y, p
0z)としたとき、D=1.7×(R
0−P
0)すなわち(dx, dy, dz) = 1.7×{(r
0x, r
0y, r
0z) - (p
0x, p
0y, p
0z)} であってもよい。そして、参照心筋内膜基準点をR
1=(r
1x, r
1y, r
1z),参照心筋外膜基準点をR
2=(r
2x, r
2y, r
2z) と表すとき、位相別心筋内膜基準点P
1=(p
1x, p
1y, p
1z) ,位相別心筋外膜基準点P
2=(p
2x, p
2y, p
2z)は、それぞれ、P
1=R
1−0.7D,P
2=R
2−0.3D、すなわち、(p
1x, p
1y, p
1z) = (r
1x, r
1y, r
1z) - 0.7(dx, dy, dz),(p
2x, p
2y, p
2z) = (r
2x, r
2y, r
2z) - 0.3(dx, dy, dz)であってもよい。
【0179】
全ての位相及びトレース方向について位相別心筋内外膜基準点を決定すると、ループを抜けて処理を終了する(1716)。参考までに、これまでの処理で決定したある位相について、当該位相に係る心筋中心基準点,心筋内膜基準点,心筋外膜基準点を画像化したものを、
図18に示す。この図では、位相別心筋中心基準点を結線した表示がなされている。
【0180】
以上で
図1Bの処理160が終了する(ステップ174)。
処理160は、各々位相の異なる複数の3次元SPECT画像データを加算した加算画像データに基づいて、各位相の3次元SPECT画像データの心筋輪郭基準点を決定するため、心筋輪郭基準点の位相間変化が滑らかとなる。
【0181】
これまで
図1Bの処理160に関して様々な具体例を紹介してきたが、これらは全て例示であって、処理160の実装形態が紹介したものに限定されるわけではないことは理解されたい。紹介された各ステップは本発明の実施形態に必須のものであるとは限らず、またステップの順番も実施形態によって様々に異なりうる。実施形態によって、複数のステップが統合されて一体的に処理されたり、単一のステップが複数のサブステップから実行されたりするように実装されることもある。上の例では処理対象の画像データはSPECTで得られたものであったが、PETの画像データに対しても同様に適用できることはいうまでもない。上の例における処理対象の画像データのセットは、8位相分の画像データから構成されていたが、4位相や17位相など、他の位相数でも同様に適用できることもいうまでもない。処理160は本発明の実施形態の単なる一例であって、本発明の実施形態には様々なバリエーションが存在することはもちろんである。
【0182】
図18の例示からも理解されうるように、処理160が終了した段階では、位相別にまばらに心筋内外膜点(すなわち心筋内膜基準点や心筋外膜基準点)が特定されただけであるので、位相画像(例えば画像データ131〜138)の全体に亘って心筋内外膜点を決定するには更なる処理が必要である。例えば、位相別に、決定した心筋内外膜基準点に基づいて、位相画像における心尖部から心基部までの間に該当する全スライス(全ての短軸断層像スライス)に心筋内膜点、心筋外膜点の少なくとも一つが存在するように補間処理を行ってもよい。かかる補間処理には既存のどのような手法を用いてもよい。心筋内外膜基準点が位相変化に対して滑らかに変化するように決定されているので、これらの基準点に基づいて得られる補間点も、従来技術に比べて滑らかにその位置を変えるようになる。
【0183】
各スライスへの心筋内外膜点の補間処理として本願発明者が提案する新規な手法が存在する。この手法は、Z軸に平行な面における補間と、Z軸に垂直な面における補間との2つの段階が存在する。この手法を
図19A〜19Cを用いて紹介する。
<Z軸に平行な面における補間>
【0184】
図19Aに示した画像は、
図10(b)のものと同じである。
図10(a)(b)に関連して説明したように、処理160では、Z軸(トレース中心を通り短軸断層像スライスに垂直な軸)の周りに所定の角度ステップで(上述の実施例では45°ステップで)、心筋輪郭基準点を決定するためのトレース方向を設定したが、このZ軸の周りの回転角度別に位相別心筋内外膜点の補間を行う。このとき、
図19Aで(a)と(a'),(b)と(b')で示したように、180°異なる回転角の位相別心筋内外膜点を一組にして補間を行う。図示されるように、上の実施例では180°対抗する角度の組が4つあるので、これらの角度の組で定まる4つの平面において補間が行われる。
【0185】
なお、以前にも説明したように、Z軸の原点は、心尖部・心筋中央部・心基部でそれぞれ異なっているが、互いに平行であるのでその点は無視し、Z軸周りの回転角度だけを問題にして、同じ回転角度および180°異なる回転角度の位相別心筋内外膜点を集めて補間を行う。
【0186】
図19Bは、Z軸に平行な面における補間の実際の様子を説明するための図であり、ある位相およびある回転角に関する補間の様子を描いたものである。図中、黒い丸(●)で示した点1922は、上述の処理160によって位相別に決定された心筋外膜基準点である。
図19Bにおいて、横軸は短軸断層像スライスのスライス番号である。心筋外膜基準点に関して、縦軸の値は、心筋外膜基準点が属する短軸断層像スライスに投影したトレース中心から当該心筋外膜基準点までの距離を示す。正方向の値は、
図19Aに示した対抗する回転角の一方(例えば(a)や(b))に関する外膜基準点についての距離を示し、負方向の値はそれに対抗する回転角(例えば(a')や(b'))に関する外膜基準点についての距離を示している。
図19Bのグラフにおいて、淡い色の四角(■)で表した点1924は、心筋外膜基準点のスプライン補間によって決定された心筋外膜点である。図には補間点がそれほど多く記載されていないが、実際には、心尖部最先端部から心基部最後端部までの間に存在する全スライス(全ての短軸断層像スライス)において、図中の上側と下側のなるべく2カ所に心筋外膜点が存在するように補間が行われる。スライス番号50〜60の付近では、心基部の途切れのために心筋輪郭点が欠如しているが、実施形態によっては、次の補間処理(Z軸に垂直な面における補間処理)のために、最後の有効輪郭点(本例では点1926)を、スライス番号50〜60においても仮輪郭点としておいてもよい。心筋内膜点についても、心筋外膜点と同様に補間処理が行われる。
<Z軸に垂直な面における補間>
【0187】
図19Cは、ある位相のある短軸断層像スライス(すなわちZ軸に垂直な面)における補間の様子を説明するための図である。図中に黒い丸(●)で示した点1942は、処理160によって位相別に決定された心筋外膜基準点か、上述の<Z軸に平行な面における補間>によって決定された心筋外膜補間点である。一方、淡い色の四角(■)で表した点1944は、点1942のスプライン補間によって決定した心筋外膜補間点である。本例では、各短軸断層像スライスにおける心室中心(例えばステップ324で決定した心室中心)を中心として、10°ステップで心筋外膜補間点が存在するように、スプライン補間を行っている。心筋内膜点についても心筋外膜点と同様に補間処理が行われる。
【0188】
これらの処理によって、各位相画像(例えば画像データ131〜138の各々)について、心筋が存在する各スライスにおいて、心筋外膜点及び/又は心筋内膜点が決定される。
<心筋内外膜点の表示について>
【0189】
最後に、決定した心筋内外膜点の表示方法の一例を
図20を用いて紹介する。
図20の(a)は心尖部の心筋輪郭点を表示した例で、(b)は心筋中央部の心筋輪郭点を表示した例、(c)は心基部の心筋輪郭点を表示した例である。図示されるように、いずれも短軸断層像である。
【0190】
各短軸断層像スライスにおいて、心室中心(例えばステップ324で決定した心室中心)からみて、心筋外膜点が途切れる角度が20°未満の場合は、(a)や(b)に示されるように心筋外膜点を線形補間により結線して閉曲線を作成し、輪郭として表示する。同様に、心筋内膜点が途切れる角度が20°未満の場合は、(b)に示されるように心筋内膜点を線形補間により結線して閉曲線を作成し、輪郭として表示する。一方、心筋外膜点及び心筋内膜点が途切れる角度が20°以上の場合は、(c)に示すように、心筋外膜点が連続する領域のうち最も大きなものと、心筋内膜点が連続する領域のうち最も大きなものを線形補間により結線して閉曲線を作成し、輪郭として表示する。
【0191】
本発明の実施形態を好適な例を用いて説明してきたが、これらの例は本発明の範囲を限定するために紹介されたわけではなく、特許法の要件を満たし、本発明の理解に資するために紹介されたものである。本発明は様々な形態で具現化されることができ、本発明の実施形態には、ここに例示した以外にも多くのバリエーションが存在する。説明された各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。フローチャートで紹介された処理の順番も、必ず紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施するものの好みに応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したりするように実装してもよい。これらのバリエーションは全て本発明の範囲に含まれるものであり、例えば請求項に特定される処理の記載順は、実際の処理の順番を特定しているわけではなく、請求項に係る発明の範囲は異なる処理順をも包含するものである。現在の特許請求の範囲で特許請求がなされているか否かに関わらず、出願人は、本発明の思想を逸脱しない全ての形態について、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【符号の説明】
【0192】
100 システム
102 処理手段
103 キャッシュメモリ
104 主記憶装置
106 補助記憶装置
107 ディスプレイ・インターフェース
108 周辺機器インタフェース
109 ネットワーク・インターフェース
110 オペレーティングシステム
111 サポートプログラム
112 スライス操作プログラム
113 心筋輪郭抽出プログラム
131−138 位相別画像データ
140 加算画像データ
【要約】 (修正有)
【課題】心筋輪郭の位相間変化が従来に比べて滑らかとなるような心筋輪郭抽出法を提供する
【解決手段】各々が心周期の異なる位相に対応する複数の3次元核医学画像データをピクセル毎に加算して加算3次元核医学画像データを作成し164、加算3次元核医学画像データにおいて心筋部に対応する画素を決定し、加算3次元核医学画像データに基づいて複数のトレース方向を設定し、該トレース方向の各々において心筋中心基準点、心筋内膜基準点、心筋外膜基準点を決定する168。さらに、前記位相に対応する3次元核医学画像データに基づいて、前記複数のトレース方向の各々に対して位相別心筋中心基準点を決定し170、前記位相の各々のトレース方向の各々に対して、心筋中心基準点と位相別心筋中心基準点との差を求め、前記差に基づいて対応する心筋内膜基準点および心筋外膜基準点を移動して位相別心筋内膜基準点および位相別心筋外膜基準点を決定する172。
【選択図】
図1B