特許第5670064号(P5670064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5670064フェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5670064
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】フェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20150129BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20150129BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   C21D9/00 101D
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-36155(P2010-36155)
(22)【出願日】2010年2月22日
(65)【公開番号】特開2011-168866(P2011-168866A)
(43)【公開日】2011年9月1日
【審査請求日】2013年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】香月 淳一
(72)【発明者】
【氏名】広田 龍二
(72)【発明者】
【氏名】森田 一成
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−193221(JP,A)
【文献】 特開昭62−056517(JP,A)
【文献】 特開2000−336462(JP,A)
【文献】 特開2004−167546(JP,A)
【文献】 JISハンドブック鉄鋼I,財団法人日本規格協会,2007年 1月19日,第1129−1131頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.020%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.050%以下、Ni:1.2%以下、Cr:11.0〜25.0%、Mo:0(無添加を含む)〜1.0%、N:0.020%以下、Ti:0.25%以下、Al:0.10%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト単相系ステンレス鋼を連続鋳造してスラブとし、
連続鋳造したスラブを復熱最高温度が670℃に達しないように水冷し、
水冷したスラブを常温まで空冷する
ことを特徴とするフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法。
【請求項2】
連続鋳造したスラブを5分以上水冷する
ことを特徴とする請求項記載のフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に割れが発生しにくいフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、連続鋳造にて鋳造されたステンレス鋼のスラブは、加熱炉に装入されて高温にて加熱保持され、その後の熱間圧延が施される。また、多くの場合、加熱保持に要するエネルギを軽減することを目的として、鋳造後のスラブは温度が低下しないうちに加熱炉に装入される。
【0003】
しかしながら、熱間圧延工程での操業トラブルなどの製造工程上のトラブルによって長時間にわたり製造ラインが停止した場合には、鋳造後すぐにスラブを加熱炉に装入できなくなり、スラブが常温まで冷却されてしまうことがある。
【0004】
そして、例えば、SUS304やSUS430などの一般的なステンレス鋼は、スラブが常温まで冷却されても品質上の問題は生じないものの、SUS430LXやSUS436Lなどのフェライト単相系ステンレス鋼は、スラブが常温まで低下してしまうと、靭性が低下してスラブ表面に割れが発生してしまうことがある。
【0005】
図6に示すスラブは、表面に割れが発生している。この割れは、スラブの鋳造方向に対して略垂直方向にのびている。このように割れが発生したスラブを熱間圧延すると、熱延鋼帯に破断や穴あきが発生してしまう。
【0006】
そして、熱延鋼帯に破断や穴あきが発生すると、一旦操業が停止されたり、歩留まりが低下したりして、生産性が著しく低下してしまう。
【0007】
近年、連続鋳造にて鋳造されたスラブを他のメーカや事業所に供給し、鋳造とは異なる工場で熱間圧延を行うというケースが増加している。この場合は、船舶などにて運搬するが、上述のようにフェライト単相系ステンレス鋼スラブは温度が常温まで低下すると靭性が低下するので、靭性が低下する温度域まで冷却せずに運搬する必要がある。このため、フェライト単相系ステンレス鋼スラブは、鋳造後に加熱炉にて保持して高温にて保たれた後、保温カバを装着した船舶に積載されて温度の低下を抑制した状態で運搬されていた。このような工程は、フェライト単相系ステンレス鋼を製造する際のコストの高騰や工程の煩雑化につながっていた。
【0008】
また、同様に製造コストの高騰や工程の煩雑化につながるものの、フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける割れの発生を防止する方法としては、スラブを鋳造後、熱間圧延の際の再加熱までの間、低炭素鋼または極低炭素鋼の温片スラブをフェライト単相系ステンレス鋼スラブの上下に配置して重ねることにより、スラブの冷却速度を遅延させ、熱応力を軽減して割れの発生を防止する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4007166号公報(第2−4頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のいずれの方法であっても、製造する際のコストの高騰や工程の煩雑化につながるだけでなく、熱間圧延工程でのトラブルや運搬などにて長時間放置されてしまった場合などには、スラブの温度が徐々に低下して常温まで冷却されてしまい、靭性が低下して割れが発生してしまう可能性が考えられ、常温まで冷却しても割れが発生しにくいフェライト単相系ステンレス鋼スラブが求められていた。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、常温まで冷却しても割れの発生を防止できるフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
求項に記載されたフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法は、質量%で、C:0.020%以下、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.050%以下、Ni:1.2%以下、Cr:11.0〜25.0%、Mo:0(無添加を含む)〜1.0%、N:0.020%以下、Ti:0.25%以下、Al:0.10%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト単相系ステンレス鋼を連続鋳造してスラブとし、連続鋳造したスラブを復熱最高温度が670℃に達しないように水冷し、水冷したスラブを常温まで空冷するものである。
【0013】
請求項に記載されたフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法は、請求項記載のフェライト単相系ステンレス鋼スラブの製造方法において、連続鋳造したスラブを5分以上水冷するものである。
【発明の効果】
【0014】
求項に記載された発明によれば、連続鋳造したスラブを復熱最高温度が670℃に達しないように水冷することにより、FeTiPの析出を抑制できるので、常温まで冷却しても割れの発生を防止できるフェライト単相系ステンレス鋼スラブを容易に製造できる。
【0015】
請求項に記載された発明によれば、連続鋳造したスラブを5分以上水冷することにより、FeTiPの析出を抑制できるので、常温まで冷却しても割れの発生を防止できるフェライト単相系ステンレス鋼スラブを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るフェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける水槽冷却時間と割れの発生の有無の関係を示すグラフである。
図2】同上フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける水槽冷却時間とDBTTとの関係を示すグラフである。
図3】(a)は同上フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける水槽冷却時間が1分の場合のTEM写真であり、(b)は同上フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける水槽冷却時間が5分の場合のTEM写真である。
図4】同上フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける析出P量とDBTTとの関係を示すグラフである。
図5】同上フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおける水槽冷却後の温度履歴を示すグラフである。
図6】従来のフェライト単相系ステンレス鋼のスラブに発生した割れを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態の構成について図1ないし図5を参照しながら詳細に説明する。なお、各元素の含有量は、特に記載しない限り質量%とする。
【0018】
フェライト単相系ステンレス鋼スラブは、0.020%以下のC、2.0%以下のSi、2.0%以下のMn、0.050%以下のP、1.2%以下のNi、11.0〜25.0%のCr、0(無添加を含む。)〜1.0%のMo、0.020%以下のN、0.25%以下のTi、0.10%以下のAlを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。また、フェライト単相系ステンレス鋼スラブは、FeTiPとして析出される析出P量が質量%で0.007%より少ないものである。
【0019】
このようなフェライト単相系ステンレス鋼スラブは、上記組成のフェライト単相系ステンレス鋼の溶鋼を連続鋳造設備にて連続鋳造して板状のスラブとし、この連続鋳造したスラブを復熱最高温度が670℃以上にならないように5分以上水槽冷却などにて水冷し、この水冷したスラブを常温(以下、常温とは20℃とする。)まで空冷して製造される。
【0020】
フェライト単相系ステンレス鋼スラブの成分元素について説明する。
【0021】
C(炭素)は、オーステナイト生成元素であるとともに、靭性を低下させる元素である。したがって、Cの含有量は、少ない方が好ましく0.020%以下とした。
【0022】
Si(ケイ素)およびMn(マンガン)は、鋼の脱酸に必要な元素であるが、過度に添加すると製造コストが高騰してしまう。したがって、SiおよびMnの含有量はそれぞれ2.0%以下とした。
【0023】
P(リン)は、FeTiP析出により靭性を著しく低下させる元素である。また、基地に固溶した場合であっても靭性を低下させる。したがって、Pの含有量は、少ない方が好ましく0.050%以下とした。
【0024】
Ni(ニッケル)は、靭性の向上に有効に作用する元素であるが、オーステナイト生成元素であるため、過剰に添加するとフェライト単相組織が得られなくなる。したがって、Niの含有量は1.2%以下とした。
【0025】
Cr(クロム)は、耐食性を付与するために必要な元素である。しかし、過度に添加すると靭性の低下および製造コストの高騰を招く。したがって、Crの含有量は11.0%以上25.0%以下とした。
【0026】
Mo(モリブデン)は、耐食性を向上させる元素であるが、過度の添加は靭性を低下させる。したがって、Moの添加量は0%(無添加を含む。)以上1.0%以下とした。なお、無添加の場合も不純物として含有されることが多い。
【0027】
N(窒素)は、オーステナイト生成元素であるとともに、靭性を低下させる元素である。したがって、Nの含有量は少ない方が好ましく0.020%以下とした。
【0028】
Ti(チタン)は、CおよびNと結合して炭窒化物を生成し、フェライト単相組織を得ることに寄与するが、過剰の添加は靭性を低下させる。したがって、Tiの含有量は0.25%以下とした。
【0029】
Al(アルミニウム)は、鋼の脱酸に必要な元素であるが、靭性を低下させる元素である。したがって、Alの含有量は0.10%以下とした。
【0030】
フェライト単相系ステンレス鋼スラブの割れと割れ発生を防止する条件について説明する。
【0031】
一般的にフェライト単相系ステンレス鋼は、靭性が低下することにより割れが発生するものと考えられている。すなわち、フェライト単相系ステンレス鋼は、延性破壊を示す最低温度である延性−脆性遷移温度(DBTT)以下まで温度が冷却されると、脆化し、冷却される際に発生する熱応力や、運搬される際に受ける応力などにより割れが発生する。
【0032】
ここで、通常のフェライト単相系ステンレス鋼のDBTTは、ASTM E399にて規定された破壊靱性試験法である3点曲げ試験により測定した場合、フェライト単相系ステンレス鋼の温度が常温より高く200℃より低い範囲にある。
【0033】
したがって、常温まで冷却しても割れが発生しにくいフェライト単相系ステンレス鋼スラブを製造するには、DBTTを常温より低下させることが重要である。
【0034】
そこで、DBTTを下げるには連続鋳造の後のスラブを水冷により急冷することが有効であるので、通常の連続鋳造後のスラブは、そのまま熱間圧延するか、または保温された状態にするものであるが、本実施の形態では、連続鋳造後のスラブを水冷する。
【0035】
ここで、連続鋳造したフェライト単相系ステンレス鋼のスラブを、水槽内の水に浸漬して冷却する水槽冷却により所定時間水冷し、この水冷したスラブを水槽から引き上げ常温まで空冷して、スラブの割れ有無を目視にて確認した。なお、水槽冷却時間を1分、3分、5分、10分、14分で変化させて、水冷時間による割れの発生を確認した。図1には、各水槽冷却時間におけるスラブの割れの有無を示し、割れが発生していたものを×とし、割れが発生していなかったものを○とした。
【0036】
図1に示すように、水槽冷却時間が1分および3分の場合には割れが発生し、水槽冷却時間が5分以上の場合には割れが発生しなかった。
【0037】
また、水冷時間によるDBTTの変化を確認するため、上記割れの有無を確認したスラブの表層近傍から破壊靭性試験用の試験片を採取してDBTTを測定した。この結果を図2に示す。
【0038】
図2に示すように、水槽冷却時間が1分の場合はDBTTが約70℃であり、水槽冷却時間が3分の場合はDBTTが約40℃であり、いずれもDBTTが常温以上であった。一方、水槽冷却時間が5分以上の場合はDBTTが約0℃であり常温より低下した。
【0039】
これら図1にて示す水冷時間による割れの発生の有無の結果と、図2に示す水冷時間によるDBTTの変化の結果とから、水冷時間が1分または3分の場合には、DBTTが常温以上であり、スラブの温度が常温まで低下すると、スラブが脆化して割れが発生することが分かる。また、水冷時間が5分以上の場合には、DBTTが常温より低く約0℃であるので、スラブの温度が常温になってもスラブが脆化せず割れが発生しないことが分かる。
【0040】
さらに、割れの要因を調べるため、割れの有無を確認した水槽冷却時間1分のスラブから試料(a)を採取し、水槽冷却時間5分のスラブから試料(b)を採取して、これら試料(a)および試料(b)のTEM組織を観察した。これら試料(a)および試料(b)のTEM写真を図3に示す。
【0041】
図3(a)に示すように、試料(a)では微細析出物が多数分散していることが分かる。これに対して図3(b)に示すように、試料(b)では微細析出物は観察されなかった。また、試料(a)から観察された微細析出物をEDX分析した結果、この微細析出物は、FeTiPと同定された。
【0042】
これらの結果から、スラブにFeTiPが析出している場合には、DBTTが常温以上になり、スラブが常温まで冷却されると、スラブに割れが発生するものと考えられる。
【0043】
そこで、FeTiPとして析出する析出P量(質量%)とDBTTとの関係を確認した。水冷時間による割れの有無を確認した各スラブから試料を採取し、各試料を電気溶解した後、メンブレンフィルタにて残渣を抽出し、残渣中のP量をICP発光分析法にて分析して値を各試料の析出P量とした。各試料の析出P量とDBTTとの関係を図4に示す。
【0044】
図4に示すように、水槽冷却時間が短くなるにしたがって析出P量が増加し、析出P量の増加にともなってDBTTが上昇している。また、フェライト単相系ステンレス鋼スラブは、析出P量が0.007%の際にDBTTが20℃(常温)になる。すなわち、析出P量が0.007%より少なくなると、DBTTが20℃(常温)より低下する。
【0045】
したがって、フェライト単相系ステンレス鋼スラブのFeTiPとして析出される析出P量は、0.007%より少ないものとした。
【0046】
さらに、FeTiPの析出について調査を重ねた結果、FeTiPの析出温度は、670℃以上800℃以下であることを見出した。
【0047】
そこで、連続鋳造後に水冷したスラブは復熱するものであるが、水槽冷却後における表面の復熱最高温度がFeTiP析出領域の下限である670℃に達しないように水冷すると、FeTiPの析出を抑制できる。
【0048】
したがって、フェライト単相系ステンレス鋼スラブを製造する際には、連続鋳造後に、復熱最高温度が670℃に達しないように水冷するものとした。
【0049】
さらに、スラブの水冷時間と水冷後の表面温度との関係を確認した。図5には、連続鋳造したスラブに1分、5分、10分の水槽冷却を施した場合のスラブ表面の温度履歴を示す。
【0050】
図5に示すように、水槽冷却時間が1分の場合は、水槽冷却終了後の表面の復熱最高温度がFeTiP析出領域まで上昇している。これに対して水槽冷却時間が5分の場合は、水槽冷却終了後の表面の復熱最高温度は約520℃までしか上昇せず、FeTiP析出領域には達しない。また、水槽冷却時間10分の場合は、水槽冷却終了後の表面の復熱最高温度は、水槽冷却時間5分の場合より低く、FeTiP析出領域には達しない。
【0051】
ここで、連続鋳造後に連続鋳造設備から出てきたスラブは、通常、厚さ150〜200mm、幅790〜1280mmであり、表面温度が810〜860℃の範囲でばらつく。したがって、表面の復熱最高温度を670℃に達しないようにするためには、連続鋳造したスラブを5分以上水冷すると好ましい。
【0052】
なお、連続鋳造したスラブを水冷する際には、復熱最高温度が670℃に達しないように水冷できればよく、5分以上水冷する方法に限定されない。
【0053】
そして、このようなフェライト単相系ステンレス鋼スラブによれば、FeTiPとして析出される析出P量が0.007%より少ないので、DBTTを常温より低くでき、フェライト単相系ステンレス鋼スラブの表面温度を常温まで冷却しても割れの発生を防止できる。
【0054】
また、フェライト単相系ステンレス鋼スラブを製造する際に、連続鋳造したスラブを復熱最高温度が670℃に達しないように水冷することにより、フェライト単相系ステンレス鋼スラブにおけるFeTiPの析出を抑制できるので、FeTiPとしての析出P量が0.070%より少なくしやすく、常温まで冷却しても割れの発生を防止できるフェライト単相系ステンレス鋼スラブを容易に製造できる。
【0055】
さらに、フェライト単相系ステンレス鋼スラブを製造する際に、連続鋳造したスラブを5分以上水冷することにより、フェライト単相系ステンレス鋼スラブの復熱最高温度が670℃より上昇しにくく、FeTiPの析出を抑制できるので、析出P量が0.007%より少なくしやすく、常温まで冷却しても割れの発生を防止できるフェライト単相系ステンレス鋼スラブを容易に製造できる。
【0056】
また、常温まで冷却してもフェライト単相系ステンレス鋼スラブの割れの発生を防止できることにより、製造後、保温などをする必要がなくそのまま運搬できるので、保温などを施すことによるコストの高騰や工程の煩雑化を防止できるとともに、常温状態で運搬できるので、取り扱いが容易である。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0058】
表1に供試鋼の成分組成を示す。A−1ないしA−4は、各元素の含有量が本発明にて規定した上記範囲内にある成分組成を有する本実施例のフェライト単相系ステンレス鋼である。B−1は、PおよびTiの含有量が上記範囲より多く含有された比較例である。B−2は、P、TiおよびAlの含有量が上記範囲より多く含有された比較例である。
【0059】
【表1】
【0060】
まず、表1に示す各成分組成の供試鋼を連続鋳造設備にて連続鋳造して、厚さ200mm、幅1040mmのスラブとした。この連続鋳造したスラブを長さ約7mで溶断して試験片とし、各試験片を種々の冷却条件にて常温まで冷却した。冷却の際に水冷を行う場合は、水槽冷却を行った。この水槽冷却は水温が約70〜80℃である。
【0061】
そして、各試験片について、試験片表面における復熱最高温度の測定、FeTiPとしての析出P量の測定、割れの発生の有無の観察を行った。表2には、各試験片の冷却条件および結果を示す。なお、表2では、割れが発生したものを×とし、割れが発生しなかったものを○とした。
【0062】
【表2】
【0063】
No.1ないしNo.9の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成を有するA−1ないしA−4のいずれかの供試鋼を用いたもので、それぞれ5分以上水冷した後、常温まで空冷した。これらNo.1ないしNo.9の試験片は、それぞれ水冷後の復熱最高温度が670℃より低く、析出P量が0.007%より少なかった。そして、No.1ないしNo.9の試験片には割れが発生していなかった。
【0064】
比較例であるNo.10の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成を有するA−1の供試鋼を用いたもので、1分水冷した後、常温まで空冷した。このNo.10の試験片は、水冷後の復熱最高温度が700℃であり、析出P量が0.024%であった。そして、No.10の試験片には割れが発生していた。
【0065】
比較例であるNo.11の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成を有するA−1の供試鋼を用いたもので、3分水冷した後、常温まで空冷した。このNo.11の試験片は、水冷後の復熱最高温度が680℃であり、析出P量が0.018%であった。そして、No.11の試験片には割れが発生していた。
【0066】
比較例であるNo.12の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成を有するA−2の供試鋼を用いたもので、水冷せず、そのまま常温まで空冷した。このNo.12の試験片は、析出P量が0.024%であった。そして、No.12の試験片には割れが発生していた。
【0067】
比較例であるNo.13の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成を有するA−2の供試鋼を用いたもので、2分水冷した後、常温まで空冷した。このNo.13の試験片は、水冷後の復熱最高温度が690℃であり、析出P量が0.022%であった。そして、No.13の試験片には割れが発生していた。
【0068】
これらNo.10ないしNo.13の各試験片は、本発明で規定した成分組成を有するものの、水冷が不十分であり、復熱最高温度が670℃以上になったため、FeTiPが析出しやすく、析出P量が0.007%を超え、FeTiPに起因して割れが発生してしまったと考えられる。
【0069】
比較例であるNo.14の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成ではないB−1の供試鋼を用いたもので、5分水冷した後、常温まで空冷した。このNo.14の試験片は、水冷後の復熱最高温度が510℃であり670℃より低いものの、析出P量が0.012%であった。そして、このNo.14の試験片には割れが発生していた。
【0070】
比較例であるNo.15の試験片は、本発明にて規定した範囲の成分組成ではないB−2の供試鋼を用いたもので、8分水冷した後、常温まで空冷した。このNo.15の試験片は、水冷後の復熱最高温度が400℃であり670℃より低いものの、析出P量が0.014%であった。そして、このNo.15の試験片には割れが発生していた。
【0071】
これらNo.14およびNo.15の各試験片は、水冷後の復熱最高温度が670℃より低く、十分に水冷されていたものの、PおよびTiが本発明にて規定した範囲より多く含有されていたため、FeTiPが析出しやすく、析出P量が0.007%を超え、FeTiPに起因して割れが発生してしまったと考えられる。
図1
図2
図4
図5
図3
図6