【0010】
同様に、2価鉄イオン及び還元剤を含む2価鉄イオン水溶液を調製する。2価鉄イオンとしてはFeCl
2を用いることができ、通常、FeCl
2・4H
2Oを純水等に溶解させて2価鉄イオン水溶液を得ることができる。さらに、この水溶液に還元剤を添加して2価鉄イオンの酸化を抑制する。還元剤としては水溶性還元剤が好ましく、水溶性還元剤としては、アスコルビン酸(C
6H
8O
6)、カテキン(C
15H
14O
6で表されるフラボノイド)が例示されるがこれらに限られない。特に、マグネタイトナノ微粒子を医療に応用できるようにするため、人体に無害なアスコルビン酸が好ましい。還元剤の濃度は特に限定されないが、数モル/L程度である(例えば、6.25モル/L)。
【0011】
そして、上記したアルカリ水溶液と2価鉄イオン水溶液とを混合、攪拌すると、2価の水酸化鉄からなるコアと、該コアを覆うアモルファスSiO
2からなるシェルを有する水酸化鉄微粒子を沈殿物として生成することができる。各水溶液の混合は常温で行うことができ、混合時間は特に限定されないが、1時間〜数時間程度である。混合時に上記した還元剤が存在するので、2価鉄イオンの酸化を抑制して水酸化鉄微粒子(ひいてはマグネタイトナノ微粒子)を安定して製造できる。
得られた沈殿物を、ろ過、遠心分離等によって混合液から分離回収し、純水等で適宜洗浄した後、乾燥させると、ガラス状の塊が得られる。そして、このガラス状の塊を粉砕することにより、水酸化鉄微粒子の粉末が得られる。
【0012】
次に、水酸化鉄微粒子を不活性ガス雰囲気下で焼成し、水酸化鉄を酸化物(Fe
3O
4)に変化させ、アモルファスSiO
2からなる上記シェルに覆われたマグネタイトナノ微粒子を生成する。不活性ガス雰囲気としては、例えば、アルゴン、窒素を例示できる。又、焼成温度は、473〜1373K(200〜1100℃)程度であり、600〜1100℃が好ましい。焼成時間は、数時間〜10時間程度である。焼成温度が1100℃以上になると、目的物質以外のαFe
2O
3やSiFe
2O
4が生成する。
焼成で得られるマグネタイトナノ微粒子の一次粒径は、1.3〜50nm程度であり、3.0〜50nmが好ましい。マグネタイトナノ微粒子の一次粒径は、シェラー(Scherrer)の式を用いて見積もることが出来る。なお、本発明では、シェラーの係数(K)を0.9とした。
【0014】
なお、マグネタイトナノ微粒子のコアが、アモルファスSiO
2からなるシェルで覆われていることの確認は、焼成後の粉末のX線回折を行うとアモルファスSiO
2とマグネタイトの回折線が観測されること、及びマグネタイトナノ微粒子の一次粒子径が上記X線回折の半値幅から予想される程度の値であること、から行うことができる。
水酸化鉄微粒子についても同様にして、表面がアモルファスSiO
2からなるシェルで覆われていることを確認することができる。又、水酸化鉄微粒子のコアが2価の水酸化鉄からなることは、X線回折のパターンでFe(OH)
2を同定することで確認できる。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】
500mlのフラスコに純水250mlを満たし、さらにアルカリとしてNa
2SiO
3・9H
2Oを5mモル加え、Na
2SiO
3水溶液(アルカリ水溶液)を作製した。又、純水80mlにFeCl
2・4H
2Oを5mモル加え、FeCl
2水溶液を得た。これに、還元剤としてC
6H
8O
6を2.5mモル加えることにより、還元作用を有する2価鉄イオン水溶液を得た。各水溶液をそれぞれスターラーにより約15分間攪拌した。
その後、上記アルカリ水溶液に2価鉄イオン水溶液を混合して約1時間攪拌し、水酸化鉄微粒子を沈殿物として生成させた。この沈殿物を遠心分離によって回収し、純水にて洗浄した。洗浄後、約80℃の乾燥炉にて乾燥させたところ、ガラス状の塊が得られた。このガラス状の塊を乳鉢で粉砕することにより、水酸化鉄微粒子の粉末を得た。
次に、この粉末をArガス雰囲気の電気炉中で焼成した。
図1に示すように600℃〜1100℃の間で焼成温度を、変化させ、焼成時間は各10時間とした。各焼成温度で得られた焼成粉末の粉末X線回折を行った結果、いずれの場合も、アモルファスSiO
2とマグネタイトの回折線が観測された。
【0018】
図1は、600℃〜1100℃の間の各焼成温度における焼成粉末の粉末X線回折パターンを示す。アモルファスSiO
2とマグネタイトの回折線が観測された。又、焼成温度の上昇に伴ってピークが鋭くなり、粒子径の成長が確認できた。
図2は、600℃〜1100℃の間の各焼成温度における焼成粉末の粉末X線回折パターンから、シェラーの式によって焼成粉末の一次粒径Dを求めた結果を示す。又、
図3は、
図2の各焼成温度と一次粒径Dとの関係を表にしたものである。焼成温度を600℃〜1100℃の間で調整することにより、3.5〜32nmの範囲で焼成粉末の一次粒径を制御することができた。
【0019】
図4は、850℃で焼成して得られたマグネタイトナノ微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。
図4の中央付近の黒丸がマグネタイトナノ微粒子を示す。
又、
図5は、
図4のTEM像の個々の黒丸(マグネタイトナノ微粒子)の粒径を測定した粒径分布を示す。画像解析によって黒丸を円に換算したときの直径を個々の粒子の粒径とし、500-1000個の粒子の粒径分布を得た。画像解析による粒径分布は、X線回折による半値幅から求めた粒径と同程度であった。TEM像から得られた粒径分布は正規分布で6.2±1.1nmであり、上記X線回折の半値幅から予想される値(6.5nm)に近似した。これらの結果から、得られたマグネタイトナノ微粒子は、アモルファスSiO
2に包含されたマグネタイトナノ微粒子であると判断することができる。
【0020】
又、SQUID磁束計を用い、それぞれ850℃、1000℃の各温度で焼成して得られたマグネタイトナノ微粒子の磁気測定を行った。その結果、それぞれ850℃、1000℃度で焼成したマグネタイトナノ微粒子の飽和磁化はそれぞれ83.1および95.1emu/gとなり、いずれもナノ微粒子であるにもかかわらす、バルクのマグネタイト結晶(粒径1μm以上)が持つ飽和磁化値に近い大きな値を示した。
なお、飽和磁化の測定は、以下の分子飽和磁気モーメントの測定によって行った。
分子飽和磁気モーメント:磁気ナノ微粒子分散体の粉末サンプルにつき、SQUID磁束計(超伝導量子干渉装置:Quantum Design社製のMPMS)で、印加磁場±3.95×10
6A/m(±50kOe)、温度範囲5K〜300Kで測定した。なお、粉末サンプルをアクリル製の内径4mmのサンプルケースに入れ、(アピエゾングリス)キムワイプで固定したのち、SQUIDのサンプルホルダーに取りつけた。このようにして、磁化−磁場曲線(M-H曲線)を測定し、曲線上の最大磁場におけるy軸(M:磁気モーメント)の最大値を分子飽和磁気モーメントとした。
【0021】
比較のため、FeCl
2水溶液に還元剤を加えずに2価鉄イオン水溶液を調製し、上記と同様に混合したところ、γ-Fe2O3が生成した。γ-Fe2O3が生成すると酸化が進行した状態であり、目的物であるFe
3O
4が得られない。
又、FeCl
2水溶液に、還元剤としてC
6H
8O
6の代わりにそれぞれNaOH,NH
3を2.5mモル加えて2価鉄イオン水溶液を調製し、上記と同様に混合したところ、やはりγ-Fe2O3が生成した。