(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.0当量となる量である請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
ISO527による引張り強さが120MPa以上である請求項1〜4の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を樹脂材料とし、有機溶剤又はその蒸気に曝される用途に用いられるインサート射出成形品。
ISO527による引張り強さが120MPa以上である請求項1〜4の何れか1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の有機溶剤又はその蒸気に曝される部品。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で且つ耐ヒートショック性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品に関するものである。
背景技術
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、電気的性質、その他物理的、化学的性質に優れ、且つ加工性が良好であるがゆえにエンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品等の広範な用途に使用されている。特に、ガラス繊維等の繊維状充填剤を配合することで耐熱性と強度を向上させることができるので、繊維状充填剤で強化されて使用されることが多い。
【0003】
一方、自動車エンジンルーム等の温度昇降の激しい環境に設置される部品(インサート成形品)では、金属と樹脂の線膨張差から生じる歪によりクラックが発生することを防止するため、エラストマー等により靱性を改良することが多く、種々の組成物が提案されている。
【0004】
例えば、特開平3−285945号公報では、ポリブチレンテレフタレートにエチレンアルキルアクリレート等のエラストマーを添加することにより耐ヒートショック性が向上することが示されている。しかし、無添加のものに比べれば改善効果は認められるものの耐ヒートショック性としては十分でなく、耐熱水性も十分ではない。
【0005】
また、特開昭60−210659号公報では、ポリブチレンテレフタレートにエチレンアルキルアクリレート等のエラストマーとカルボジイミドを添加することにより、耐熱水性が向上することが示されている。しかし、この組成物では耐熱水性は向上するものの耐ヒートショック性は十分でない。
【0006】
更に、燃料蒸気に曝される部品にエラストマーを含むポリブチレンテレフタレート材料が使用されると、強度不足やエラストマー成分の膨潤や染み出しが問題となる場合がある。例えば、燃料吸気に使用されるバタフライバルブ等は、金属がインサート成形されるが、強度や摩耗の問題があり、エラストマー成分の膨潤や固着による作動不良が懸念される。このような燃料蒸気に曝され、インサート成形される部品としては他に蒸発燃料制御装置(エバポパージバルブ等)などがある。
発明の概要
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み案出されたものであり、燃料等の有機溶剤によるエラストマー成分の膨潤や染み出しがなく、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能を有し、更に耐加水分解性にも優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品の提供を目的とする。
【0008】
本発明者らは上記目的を達成し得るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得るため鋭意検討を行った結果、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を主体とし、これに特定量のカルボジイミド化合物及び繊維状充填剤を併用配合した組成物は、機械的物性の大きな低下や耐有機溶剤性の低下なしに、耐ヒートショック性および耐加水分解性に極めて優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
(A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、
(B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.5当量となる量
(C)繊維状充填剤;20〜100重量部
を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物を成形してなる成形品、特にインサート成形品である。
また、本発明は、
(A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部、
(B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.5当量となる量および
(C)繊維状充填剤;20〜100重量部
を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
さらに、本発明は、
(A)末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、
(B)カルボジイミド化合物;(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.5当量となる量
(C)繊維状充填剤;20〜100重量部
を配合することを含む上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法である。
さらに、本発明は、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成型することを含む、ISO527による引張り強さが120MPa以上である上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品またはインサート成形品を製造する方法である。
さらに、本発明は、ISO527による引張り強さが120MPa以上である上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の有機溶剤又はその蒸気に曝される部品としての用途である。
【0010】
本発明によれば、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提供される。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、エラストマー成分を含まないため、燃料(ガソリン、軽油等)等の有機溶剤の蒸気に曝されてもエラストマー成分の膨潤や染み出しがないため、このような用途(エバポパージバルブ等)に用いられるインサート成形品として有用である。
発明の詳細な説明
【0011】
以下、順次本発明の樹脂材料の構成成分について詳しく説明する。まず本発明の樹脂組成物の基礎樹脂である(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(低級アルコールエステルなど)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート系樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75〜95モル%程度)含有する共重合体であってもよい。
【0012】
本発明では、ポリブチレンテレフタレートの粉砕試料をベンジルアルコール中215℃で10分間溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、測定した末端カルボキシル基量が30meq/kg以下、好ましくは25meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂が用いられる。
【0013】
末端カルボキシル基量が30meq/kgを超えるポリブチレンテレフタレート樹脂を用いたのでは、カルボジイミド化合物の添加量を如何に制御しても耐ヒートショック性の向上効果が低下し、また湿熱環境下で加水分解による強度低下が大きくなる。
【0014】
また、末端カルボキシル基量の下限は特に限定されないが、一般的に5meq/kg未満のものは製造が困難であり、また5meq/kg未満のものではカルボジイミド化合物との反応が十分に進まず、耐ヒートショック性の向上効果が不十分なおそれがある。従って、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は5meq/kg以上が好ましく、特に好ましくは10meq/kg以上である。
【0015】
また、使用する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は0.67〜0.90dL/gであることが望ましい。固有粘度が0.90dL/gを超えるとインサート成形品に必要な成形時の流動性が得られない場合がある。異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、例えば固有粘度1.00dL/gと0.70dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、0.90dL/g以下の固有粘度を実現してもよい。尚、固有粘度は、例えば、o−クロロフェノール中、温度35℃の条件で測定できる。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などの、C
6〜C
12アリールジカルボン酸など)、脂肪族ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC
4〜C
16アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのC
5〜C
10 シクロアルキルジカルボン酸など)、またはそれらのエステル形成誘導体などが例示できる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0017】
好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸などのC
6〜C
10 アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸成分(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC
6〜C
12アルキルジカルボン酸)が含まれる。
【0018】
1,4 −ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分〔例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3 −オクタンジオールなどのC
2〜C
10アルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリオキシC
2〜C
4アルキレングリコールなど)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオールなど〕、芳香族ジオール成分〔ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族アルコール、ビスフェノールAのC
2〜C
4アルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体など)など〕、またはそれらのエステル形成誘導体などが挙げられる。これらのグリコール成分も単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特に、C
2〜C
6アルキレングリコール、ジエチレングリコールなどのポリオキシC
2〜C
3アルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール)が含まれる。
【0020】
前記化合物をモノマー成分とする重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート系重合体は、いずれも本発明の(A) 成分として使用できる。ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体との併用も有用である。
【0021】
本発明で用いられる(B)カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物の何れも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
【0022】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等が、脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド等が挙げられる。
【0023】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−p−メトキシフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド化合物が挙げられ、これらは2種以上併用することもできる。これらの中でも特にジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0024】
また、(B)カルボジイミド化合物としては、分子量が2000以上のものを使用することが好ましい。分子量が2000未満のものでは、溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合など、ガスや臭気が発生するおそれがある。
【0025】
(B)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3〜1.5当量となる量である。
【0026】
(B)成分が少なすぎると本発明の目的とする耐ヒートショック性改良効果が得られない。また多すぎると流動性の低下や、コンパウント時や成形加工時にゲル成分、炭化物の生成が起こりやすく、引張り強度や曲げ強さ等の機械特性が低下したり、湿熱下で急激な強度低下が起きる。これはポリブチレンテレフタレート樹脂と繊維状充填剤との密着性が(B)成分により阻害されるためである。好ましい配合量は、カルボジイミド官能基量が0.5〜1.5当量となる量、更に好ましくは0.8〜1.2当量となる量である。
【0027】
本発明で用いられる(C)繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられるが、ガラス繊維が好ましい。
【0028】
ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明では、ガラスの種類にも限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0029】
また、本発明では、繊維状充填剤と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された繊維状充填剤が特に好ましく用いられ、加熱減量値で示される有機処理剤量が1重量%以上であるガラス繊維が特に好ましく用いられる。かかる繊維状充填剤に用いられるアミノシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができ、本発明で繊維状充填剤の表面処理に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0030】
(C)繊維状充填剤は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し20〜100重量部が用いられる。かかる範囲より少ないと冷熱サイクルに伴う線膨張変化が大きく、耐ヒートショック性上好ましくない。かかる範囲を超えて配合されると、材料の許容歪量が低下し、耐ヒートショック性上好ましくない。好ましくは20〜80重量部、特に好ましくは30〜60重量部である。
【0031】
尚、本発明では、(C)成分のような繊維状の形態をなさない非繊維状充填剤、即ち、板状、粒状の無機充填剤やこれらの混合物等を併用配合してもよく、かかる非繊維状充填剤としてはガラスフレーク、ガラスビーズ、マイカ、タルク、カーボンブラック、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0032】
本発明組成物には更にその目的に応じ所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤や耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤、エポキシ化合物等を本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
特に、帯電防止剤や着色剤、滑剤、可塑剤はカルボキシル基や水酸基、アミノ基を含む場合が多いが、カルボジイミド基と反応する可能性があるため、なるべくこのような官能基を含まないものが望ましい。
本発明において、成形性向上のため、離型剤を添加することも可能である。いずれの離型剤も好ましく用いられるが、例えば、オレフィン系重合体、脂肪酸アミド化合物、脂肪酸エステル化合物などが挙げられる。特に好ましくは、カルボジイミド化合物との反応性が低いと推定されるオレフィン系重合体、油化学協会法2,4,9,2-71(ピリジン・無水酢酸法)により測定される水酸基価100以下の脂肪酸エステル化合物が用いられる。
カルボキシル基、水酸基またはアミノ基を含む添加剤は用いないことが好ましい。
【0033】
本発明で用いる樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
押出機により練り込みペレット化する場合、押出機中での樹脂温度が240〜300℃となるように押出機シリンダー温度を設定することが好ましい。さらに好ましくは250〜270℃である。240℃より低い場合は、ポリブチレンテレフタレートとカルボジイミドの反応が不十分で耐加水分解性、耐ヒートショック性が不足したり、溶融物の粘度が高いため繊維状充填剤が折れてしまい必要な機械物性が得られないおそれがある。300℃を超える場合は樹脂の分解が生じやすくなり、耐加水分解性、耐ヒートショック性が不足するおそれがある。
成形する場合も同様に、成形機中の樹脂温度が240〜300℃となるように押出機シリンダー温度を設定することが好ましい。さらに好ましくは250〜270℃である。この範囲外だと上記同様、諸物性の不足するおそれがある。また、射出成形時の金型温度は、好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは60〜90℃の範囲である。40℃より低いと後収縮が発生し歪が生じて目的の形状が得られなかったり、耐ヒートショック性が不足するおそれがある。100℃を超える場合は成形サイクルに長時間を要し、量産性が低下してしまう。
【0034】
また、(B)カルボジイミド化合物は、樹脂をマトリックスとするマスターバッチとして配合することも可能であり、マスターバッチを使用することが実際の取り扱いの面から容易なことも多い。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチが好適に用いられるが、他の樹脂によりマスターバッチとして調製されたものを使用してもかまわない。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチの場合、所定の配合量の範囲内になるように調整すればよい。マスターバッチは溶融混練時に予め投入し、均一ペレットとしてもよい。また、カルボジイミド化合物以外の成分を予め溶融混練等により均一ペレットとしておき、カルボジイミド化合物のマスターバッチペレットを成形時にドライブレンドしたペレットブレンド品を成形に用いてもよい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、ISO11443に準拠した温度260℃、剪断速度1000sec
-1における溶融粘度を300Pa・s以下とすることが可能である。さらには250Pa・s以下とすることも可能である。溶融粘度が300Pa・s以下でないと流動性が不足し、金型に樹脂が充填されない場合がある。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物によれば、ISO527による引張り強さ120MPa以上、特に130 MPa以上を達成することができる。
【0037】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、有機溶剤やその蒸気に曝される用途に用いられるインサート射出成形品に特に有用である。
実施例
【0038】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜10、比較例1〜6
表1に示す成分を秤量後ドライブレンドし、30mmφ2軸押出機((株)日本製鋼所製TEX-30)を用いて溶融混練しペレットを作成した(シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュー回転数150rpm)。次いで、このペレットから各試験片を作成し、各種物性を測定した。尚、実施例7においては、A-1とC-1を予め溶融混練して得たペレットに、B-5マスターバッチペレットを加えブレンドした後、ペレットブレンド品を射出成形して各種評価用の試験片を得た。結果をあわせて表1、2に示す。
【0039】
また、使用した成分の詳細、物性評価の測定法は以下の通りである。
(A) ポリブチレンテレフタレート樹脂
・(A-1) ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度0.69、末端カルボキシル基量24meq/kg
・(A-2) ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度0.70、末端カルボキシル基量44meq/kg
(B) カルボジイミド化合物
・(B-1) 芳香族カルボジイミド化合物;ラインケミージャパン(株)製、スタバックゾールP
・(B-2) 芳香族カルボジイミド化合物;ラインケミージャパン(株)製、スタバックゾールP100
・(B-3) 脂肪族カルボジイミド化合物;日清紡績(株)製、カルボジライトHMV8CA
・(B-4) 脂肪族カルボジイミド化合物;日清紡績(株)製、カルボジライトLA-1
・(B-5) 芳香族カルボジイミド化合物のポリブチレンテレフタレートマスターバッチ;ラインケミージャパン(株)製、スタバックゾールKE9193
・(B-6) 芳香族カルボジイミド化合物;ラインケミージャパン(株)製、スタバックゾールP400
(C) ガラス繊維
・(C-1) 日本電気硝子(株)製、ECS03-T127
(D) エラストマー成分
・(D-1) エチレンエチルアクリレート;三井・デュポンポリケミカル(株)製、エバフレックスEEA A713
(E) 離型剤
・(E-1) 脂肪族エステル;クラリアント(株)製、リコワックスE、水酸基価20以下
・(E-2) 脂肪族エステル;理研ビタミン(株)製、リケマールHT-10、水酸基価120〜160
[溶融粘度特性]
ISO11443に準拠しシリンダー温度260℃、剪断速度1000sec
-1で測定した。
[耐ヒートショック性]
ペレットを用いて、樹脂温度260℃、金型温度65℃、射出時間25秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦22mm、横22mm、高さ51mmの角柱内部に縦18mm、横18mm、高さ30mmの鉄芯をインサートする金型)に、一部の樹脂部の最小肉厚が1mmとなるようにインサート射出成形し、インサート成形品を製造した。得られたインサート成形品について、冷熱衝撃試験機を用いて140℃にて1時間30分加熱後、−40℃に降温して1時間30分冷却後、さらに140℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、成形品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
[プレッシャークッカーテスト]
ペレットを用いて、樹脂温度260℃、金型温度80℃、射出時間15秒、冷却時間15秒で、ISO3167引張り試験片を射出成形し、ISO527により引張り強さを測定した。次いで、引張り試験片をプレッシャークッカー試験機で121℃、100%RH条件で50hrおよび100hr暴露する。暴露前後の引張り強さから引張り強さ保持率を計算した。
【0040】
【表1】
【0041】
[耐膨潤性]
上記ISO引張り試験片(実施例1、比較例2及び比較例4)を用いて、80℃×1000hrの条件で燃料に浸漬させ、その時の厚みの寸法変化率を測定した。尚、燃料はレギュラーガソリン、軽油、灯油を使用した。
【0042】
【表2】
【0043】
表1に示すように、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂と特定量のカルボジイミド化合物を組み合わせた本願実施例の組成物は、高い耐ヒートショック性の向上効果を有する。中でも芳香族カルボジイミド化合物を用いた実施例1〜4、7は、プレッシャークッカー100hr経過後の引張り強さ保持率も高い数値を示す。
【0044】
通常、耐ヒートショック性向上のためには、比較例4に示すごとくエラストマーを添加するのが有効であるが、初期の引張り強さの低下が見られ、また表2に示したように有機溶剤に曝された場合に膨潤が確認された。