特許第5671005号(P5671005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671005
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】レーダシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20150129BHJP
   G01S 13/90 20060101ALI20150129BHJP
【FI】
   G01S7/02 F
   G01S13/90
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-506574(P2012-506574)
(86)(22)【出願日】2010年4月16日
(65)【公表番号】特表2012-524896(P2012-524896A)
(43)【公表日】2012年10月18日
(86)【国際出願番号】GB2010050635
(87)【国際公開番号】WO2010122327
(87)【国際公開日】20101028
【審査請求日】2013年4月8日
(31)【優先権主張番号】09275028.0
(32)【優先日】2009年4月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508330939
【氏名又は名称】アストリウム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・チャールズ・ランカシャー
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−523760(JP,A)
【文献】 特開平10−224138(JP,A)
【文献】 特開2003−018057(JP,A)
【文献】 特表2007−515104(JP,A)
【文献】 特表2004−535103(JP,A)
【文献】 特開昭63−099848(JP,A)
【文献】 特表2001−502152(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0109086(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0142015(US,A1)
【文献】 GARROD A,DIGITAL MODULES FOR PHASED ARRAY RADAR,PHASED ARRAY SYSTEMS AND TECHNOLOGY,米国,IEEE,1996年10月15日,P81-86
【文献】 Takahide Nishio, et al.,"A high-speed adaptive antenna array with simultaneous multibeam-forming capability",IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES,2003年12月 1日,vol. 51, no. 12,pages 2483-2494
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S13/00−13/95
G01S 3/00− 3/74
H01Q 3/00− 3/46
H01Q21/00−25/04
A61B 8/00− 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブアレイを有するフェーズドアレイによって受信された信号から走査受信ビームを形成するためのレーダシステムであって、
前記レーダシステムは、
1つまたは複数のサブアレイから前記信号を受け取るようにそれぞれが構成された複数の位相ユニットを有し、
各位相ユニットは、時間的に変化する位相シフトに対応する周波数を有するアナログ波形を発生するように構成された波形発生器を備え、
各波形発生器は、前記アナログ波形をデジタル的に発生するように構成され、
各位相ユニットは、前記受け取った信号と前記波形の比較を出力するように構成され、前記出力は前記時間的に変化する位相シフトを含み、
前記レーダシステムはさらに、
前記複数の位相ユニットからの出力を組み合わせて走査受信ビームを形成するように構成された組み合わせユニットを備えるレーダシステム。
【請求項2】
前記波形発生器が、直接デジタル合成によりデジタル的に制御されたアナログ波形を発生する、請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記直接デジタル合成を用いた波形発生器が、
必要な位相の一連のデジタル表現を発生するための論理機能部と、
前記必要な位相を前記アナログ波形に変換するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)と
を備える、請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記複数の位相ユニットはそれぞれ、前記受け取った信号を前記波形と比較するためのミキサを備え、各ミキサは、1つまたは複数のサブアレイからの前記信号を前記デジタル的に制御されたアナログ波形と混合するように構成される、請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記波形発生器は同期され、各波形は固有の周波数を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項6】
各位相ユニット内の前記波形発生器が、前記波形の開始位相をデジタル的に記憶し、それにより前記受信ビームは走査開始時に定義された方向を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項7】
前記デジタル的に制御されたアナログ波形が、前記波形発生器に共通な基本周波数と、時間的に変化する位相シフトに対応する印加されたオフセット周波数とから形成される周波数を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項8】
受信システムは、ある領域にわたって送信されたレーダ送信パルスのエコーを受信するように構成され、
発生された前記受信ビームは、前記領域の一部に焦点が合わされ、前記受信システムは、前記領域全体からの前記送信パルスのエコーにほぼ一致する速度にて前記領域にわたって前記受信ビームを走査するように構成される、
請求項1から7のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項9】
前記受信システムが、連続する送信パルスの間の時間よりも短い時間内で、前記領域にわたって前記受信ビームを走査するように構成される、請求項8に記載のレーダシステム。
【請求項10】
各アナログ波形の周波数が走査時に変化され、それにより前記受信ビームは時間と共に変化する角速度にて走査される、請求項1から9のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項11】
前記アナログ波形の周波数が走査時に変化され、それにより前記受信ビーム幅は時間と共に変化する、請求項1から10のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項12】
前記アナログ波形の周波数が走査時に一定であり、それにより前記受信ビームは一定の角速度にて、かつ一定のビーム幅で走査される、請求項1から9のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項13】
前記複数の位相ユニットのそれぞれが前記信号を、単一のサブアレイから、またはサブアレイのグループから受け取るように構成される、請求項1から12のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項14】
1つまたは複数の移動プラットフォーム内に搭載され、前記プラットフォームの移動の方向に垂直な側方の方向にて前記受信ビームを走査するように構成される、請求項1から13のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項15】
既存のレーダシステムに挿入するためのレーダシステムモジュールであって、
請求項1から14のいずれか一項に記載のレーダシステムと、
前記組み合わせユニットから出力される周波数を、前記アンテナによって受信される前記信号とほぼ同じ周波数に変換するように構成された周波数変換器と
を備えるモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェーズドアレイアンテナから信号を受け取るレーダシステムに関する。具体的にはレーダシステムは、ある領域にわたって走査するように受信ビームを制御する。
【背景技術】
【0002】
知られているレーダシステムは、レーダパルスを用いて広い領域に照射するために広いビームの送信アンテナを有する。信号は地面によって散乱され、結果としてレーダシステムによってエコー信号が受信される。レーダシステムに近い地上点からのエコーは、レーダシステムから遠い地上点からのものより前に受信される。通常は、近い地上点と遠い地上点からのエコーの間の時間遅延は、送信されるパルスの持続時間を超えることになる。したがって任意の時点において、エコーは照射された地上領域の一部のみから受信される。レーダエコーは、送信のために必要なものより狭いアンテナビームを用いて受信することができる。エコー信号の発生源の動きを追跡するために、時間と共に地上領域にわたって走査するように狭いビームを必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】FRONT END TECHNOLOGY FOR DIGITAL BEAMFORMING SAR Christoph Heer、Christian Fischer、Christoph Schaefer IGARSS 2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スイッチ型遅延線を用いて受信ビームを走査することが知られている。フェーズドアレイアンテナは、複数のアンテナサブアレイを備える。アレイを形成するアンテナサブアレイのそれぞれはスイッチ型遅延線を有し、レーダ信号はスイッチ型遅延線を通して受け取られる。スイッチ型遅延線は、受信ビームを走査するために離散的な値から選択することができる遅延を導入する。しかし遅延を切り換えるには、通常は数十ナノ秒の有限の時間を必要とする。切り換え時は、受信されたビームの特性は不定となる。さらに、受信ビームは、瞬時的なエコーの範囲を常にカバーすることを確実にするように十分広くなければならない。地上のある点は、ビーム走査が切り換わるたびに受信されるビームの利得パターン内の異なる点を見ることになる。エコーにおける切り換え点は、異なる地上位置に対して異なることになる。したがって、パルス持続時間にわたる利得補償は難しく、レーダシステムから離れる方向でのインパルス応答関数は悪化する。
【0005】
また、たとえばFRONT END TECHNOLOGY FOR DIGITAL BEAMFORMING SAR Christoph Heer、Christian Fischer、Christoph Schaefer IGARSS 2008年などの、アレイの各サブアレイから信号を別々に受け取り、量子化することができるデジタルビーム形成器を用いることが知られている。次いでデジタルビーム形成器は、必要な遅延/位相シフトをデジタル的に適用し、信号をデジタル的に組み合わせる。各サブアレイ(すなわち位相中心)は、それ自体のアンチエイリアスフィルタおよび量子化器を必要とし、これらは整合されなければならず、サンプルタイミングは各位相中心に対して信号チェーンにわたって同期化されなければならない。その結果としてかなり複雑なシステムとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の態様では、複数のサブアレイを有するフェーズドアレイによって受信された信号から走査受信ビームを形成するためのレーダシステムを提供し、このシステムは、1つまたは複数のサブアレイから前記信号を受け取るようにそれぞれが構成された複数の位相ユニットを備え、各位相ユニットは、時間的に変化する位相シフトに対応する周波数を有するアナログ波形を発生するように構成された波形発生器を備え、各波形発生器は、アナログ波形をデジタル的に発生するように構成され、各位相ユニットは、受け取った信号と波形の比較を出力するように構成され、この出力は時間的に変化する位相シフトを含んでおり、システムはさらに、複数の位相ユニットからの出力を組み合わせて走査受信ビームを形成するように構成された組み合わせユニットを備える。
【0007】
したがって本発明は、受信ビームを高速にかつ連続して走査することができる改良されたレーダシステムを提供する。
【0008】
本発明について、例示のみにより以下の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】走査された受信ビームの概略断面図である。
図2】本発明のレーダシステムの一部を形成するフェーズドアレイアンテナの概略平面図である。
図3】本発明の一実装形態を示す図である。
図4】本発明の一部を形成する直接デジタル合成発生器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、地面100上の地物を調べるように構成された、本発明によるレーダシステム1を示す。好ましくはレーダシステム1は、地面100に対して移動するプラットフォーム内に搭載され、具体的には衛星または航空機内に搭載することができる。好ましくはレーダシステム1は、側方すなわちレーダシステム1の移動方向に対して垂直に向く。レーダシステム1は、合成開口レーダとして用いることができる。
【0011】
図1に示されるように、レーダシステム1は、側方かつ下方向に向く。レーダシステム1は、ページ面に入る(またはページ面から出る)ように移動する。レーダシステム1は、一連のレーダパルスで地面の観測範囲102を照射する送信アンテナを含むことができる。送信アンテナは、比較的広いビームを有する。観測範囲102からの反射されたエコーを受信するために、レーダシステム1の受信ビームは、観測範囲102にわたって走査する。受信ビームは比較的狭いビームであり、比較的狭い領域104からエコーを受信する。受信ビーム領域104は、観測範囲102にわたって走査し、観測範囲102の近い部分で開始して、観測範囲102の遠い部分で終了し、矢印106によって示されるように移動する。観測範囲102にわたる受信ビームの走査は連続的であり、送信パルスの間の時間間隔内に完了する。受信ビームの移動速度は、受信されるエコーの発生源が観測範囲102にわたって移動する速度とほぼ一致する。受信ビームは、観測範囲幅102全体をカバーするビームよりも高い利得および速いロールオフを有する。具体的には受信ビームは、送信ビームよりも高い利得を有する。その結果として、機器の感度が改善され、範囲の曖昧さが低減される。受信ビーム領域104は、10から400μsの間の期間内に、観測範囲102にわたって走査することができる。
【0012】
図2は、レーダシステム1の一部を形成する、複数のサブアレイ6を備えるフェーズドアレイ4を示す。好ましくはフェーズドアレイ4は、5個から30個の間のサブアレイ6を備える。サブアレイ6は、エコーレーダ信号を受信し、任意選択でレーダ送信パルスを送信することもできる。サブアレイ6は、行に配置された細長い素子である。サブアレイ6は、一般にレーダシステム1の移動の方向に位置合わせされる長手方向軸を有する。図示のアレイ4の正面は側方に面し、好ましくは下向きに角度が付けられる。
【0013】
レーダシステムは、複数の位相ユニット8を備える。位相ユニット8は、各サブアレイ6に接続される。位相ユニット8は、各サブアレイ6から信号14を受け取る。位相ユニット8は、サブアレイ6が受け取った信号から、制御された幅と方向を有する受信ビームを形成する。位相ユニット8は、各サブアレイが受け取った信号に、実効的に位相シフトを導入する。位相シフトは、ある関数にてアレイ4全体にわたって制御される。具体的には、導入される位相シフトは、たとえば直線9によって示されるように、アレイ4内のサブアレイ6の位置の線形関数である。したがって位相ユニット8は、受信ビームを形成する。位相ユニット8は、導入される位相シフトを時間と共に変化させ、結果として時間と共にある領域にわたって走査する受信ビームを生じる。位相ユニット8は、それぞれが、隣接する位相ユニット8からの、時間と共に変化する特定の位相差を有する受け取った信号の一部を選択すると見なすことができる。位相ユニット8のさらなる詳細は、以下で述べる。
【0014】
ビーム走査位相シフトを有する受け取った信号は位相ユニット8から出力され、組み合わせユニット10によって組み合わせられる。組み合わせユニット10は、出力信号12を生じる。出力信号12は、以下に述べるようにさらに処理される。
【0015】
アレイ4は、中心の分離間隔dを有するN個の位相中心を定義する。各位相中心は、単一のサブアレイ6によって発生される。受信ビームは、アレイ4全体にわたってN個の位相中心に位相シフトΦnを適用することにより、角度の変化θを通じて走査することができる。位相シフトΦnは、次式に従う。
Φn=2πnsin(θ)d/λ、ただしλは帯域中心での波長、およびnは整数である。
【0016】
好ましくはビームは、時間と共に直線的に走査される。したがって、θ=ktであり、kはビーム走査速度を定義する定数である。
Φn=2πnsin(kt)d/λ
小さな走査角度に対しては、Φn≒2πnktd/λとなる。一般にΦは5°未満であるので、sin(kt)≒ktの近似が成り立つ。
【0017】
好ましくは各サブアレイ6は、等しい間隔で配置され、隣接するサブアレイ6と異なる位相を導入する位相中心を形成する。隣接するサブアレイ間の位相の差はアレイ4全体にわたって同じであり、Φn=2πnktd/λである。
【0018】
位相シフトΦnは、時間と共に直線的に変化し、したがって小さな周波数シフトfn=nkd/λと等価であり、これはオフセット周波数と呼ばれる。レーダシステム1は、観測範囲102にわたって受信ビームを走査するためにオフセット周波数を使用する。
【0019】
図3は、オフセット周波数fnを用いて受信ビームを形成するための装置を示す。サブアレイ6から複数の信号14が、位相中心ごとに1つの信号ずつ受け取られる。複数の位相ユニット8はそれぞれ、ミキサ16および局部発振器を備える。各信号14は、ミキサ16の第1の入力端に供給される。各ミキサ16の第2の入力端は、局部発振器波形を受け取る。局部発振器波形は、デジタル的に発生されたアナログ波形であり、好ましくは波形発生器18内で直接デジタル合成(Direct Digital Synthesis:DDS)を用いて発生される。直接デジタル合成は知られており、DDS波形発生器18の好ましい実施形態については以下で述べる。
【0020】
レーダシステム1は、各ミキサ16ごとに別個の直接デジタル合成発生器18を備え、それにより各ミキサ16は、固有の周波数を受け取ることができる。図2に関連して述べたように、ミキサ16およびDDS発生器18は共に位相ユニット8を形成する。
【0021】
アンテナ俯仰位相中心(elevation phase centre)からの信号14は、ミキサ16内で発生器18からのそれ自体の局部発振器周波数と混合されて、共通の公称中間周波数を生じる。
【0022】
各ミキサ16からの出力22は組み合わせユニット10内で組み合わせられ、そこでは出力信号22が合計される。組み合わせられた信号12は、ミラー除去フィルタ24に渡される。ミラー除去フィルタ24は、ミキサ16によって発生される望ましくない周波数を取り除く。用いられる共通の公称中間周波数は、好ましくは信号14と発生器18の周波数の差である。必要なビーム形成は、ミラー除去フィルタ24の出力にて達成されると見なすことができる。
【0023】
ミラー除去フィルタ24の出力は、受信器に渡される。受信器は、アンチエイリアスフィルタ26、およびアナログ-デジタル変換器(ADC)28を備える。受信ビームは、単一のチャネルとして量子化される。1つだけのアンチエイリアスフィルタ26およびADC28が必要なので、整合および同期化は必要ない。
【0024】
好ましくは、サブアレイ6によって発生される各アンテナ俯仰位相中心ごとに、別個のミキサが存在する。別法として、必要な走査角度は小さいので、複数のサブアレイ6のグループに1つのミキサ16を結合することにより、必要な位相シフトを数グループの位相中心に適用することによって十分な性能を得ることができる。グループ内の各サブアレイ6には、同じ位相シフトが適用されることになる。これにより、必要なミキサ16の数が低減される。一例として、位相中心を形成するサブアレイ6の5つまたは6つのグループで十分となり得る。
【0025】
次に、直接デジタル合成(DDS)を用いた波形発生器の機能について概要を述べる。複数のDDS発生器18は、それぞれ異なる周波数を発生する。隣接するサブアレイ6に結合されたDDS発生器18は、オフセット周波数fnであるところの一定の周波数だけ異なる周波数を発生する。したがっていずれのDDS発生器18も、中央の位相中心周波数から最小周波数オフセットfnの整数倍だけ異なる周波数を生じることになる。好ましくは、DDS発生器18によって発生される周波数は、対応するサブアレイ位置の線形関数である。
【0026】
直接デジタル合成発生器18は、ビーム掃引のために必要な印加されたオフセット周波数だけ基本周波数fLOからオフセットされた、周波数fLO,nを生じる。したがって、fLO,n=fLO+p・fn(または発生される局部発振器周波数が信号周波数より低い場合は、fLO,n=fLO-p・fn)となり、ただし、pは整数であり、中央の位相中心に対する位相中心の位置に関係する。
【0027】
各波形発生器18によって発生される周波数は単一の周波数であり、基本周波数fLOと印加されたオフセット周波数p・fnの和(または差)である。基本周波数fLOは、各発生器18に共通である。印加されるオフセット周波数は、好ましくは各発生器18に対して固有であり、したがって各波形発生器18によって発生される周波数は固有となる。各局部発振器の位相は、受信走査動作の開始時にリセットされなければならない。開始位相は、ビーム走査の中心にて、すなわちビームがその公称ボアサイト方向に向くときに、すべての局部発振器が同じ位相を有するように定義される。
【0028】
DDS発生器18によって発生される局部発振器波形は、互いに、およびレーダキャリアに対して同期される。局部発振器波形は精密に分離され、同期され、これはDDSを用いて有利に達成される。
【0029】
位相ユニット8は、時間的に変化する位相に対応する、サブアレイ6が受け取ったある幅の周波数の一部を選択すると見なすことができる。時間的に変化する位相は、デジタル的に制御されたアナログ波形のオフセット周波数によってもたらされる。時間的に変化する位相は、波形と受け取った信号とを比較することによって含まれるようになり、これは好ましくは各位相ユニット8内のミキサによって行われる。位相ユニット8の出力は、波形発生器18によってもたらされる時間的に変化する位相シフトを反映する。
【0030】
図4は、直接デジタル合成(DDS)発生器18の1つの可能な構成を示す。DDS発生器18は実質的に従来型であり、2つの主な機能を有しすなわち、必要な位相の一続きのデジタル表示を発生する論理機能部、および必要な位相をアナログ余弦信号に変換するためのデジタル-アナログ変換器(DAC)である。タイミングおよび制御ユニット36は、数Fがロードされた周波数レジスタ42を制御する。Fは、サイクル/サンプルでの出力周波数×2nを表す。好ましくはn=32であり、それにより232が1サイクル/サンプルを表す。
【0031】
加算器44は、クロックされたときに、周波数レジスタの内容Fを、フィードバック出力に加算する。加算器48は、位相オフセットレジスタ46からの位相オフセットを、加算器44の出力端での累積された位相に加算する。位相オフセットレジスタ46には、サイクル×2nでの必要な開始位相Φ0がロードされる。位相オフセットΦ0は、好ましくは16ビットワードとして記憶される。好ましくは、加算器48からの10個の最上位ビットは、余弦ルックアップテーブル50内のアドレスとして用いられる。210個の項目は、余弦波形の1サイクルに跨がる。加算器からのキャリービットは、これも1サイクルを表すので無視することができる。
【0032】
選択された余弦値は、デジタル-アナログ(DAC)変換器52に渡される。DAC52から出力される信号20は、図3に示されるように対応するミキサ16に供給される。
【0033】
タイミングおよび制御ユニット36は、DAC52によって、およびまた加算器44、48によって用いられるクロック信号を発生する。タイミングおよび制御ユニット36はまた、同期信号38を発生し、この同期信号38は、加算器44の出力端での累積された位相を「0」にリセットさせ、周波数レジスタ42および位相オフセットレジスタ46を再ロードする。ルックアップテーブル50から受け取った累積された位相ワードは、クロックサイクルと共に直線的に変化し、したがって単一の周波数トーンを表す。
【0034】
必要な各局部発振器波形のために、別個のDDS発生器が用いられる。各DDS発生器18は、同じクロックによりクロックされる。好ましくはクロックは、レーダ受信クロックであり、これはまた図3のADC28をクロックするために用いられる。各DDS発生器18は、ビーム走査の開始時に同じ同期パルスによってリセットされる。
【0035】
したがって各局部発振器の開始は、共通の同期時点で定義される。各DDS発生器18は、異なる周波数を生じるように構成される。具体的には、各DDS発生器18は、1つの隣接するサブアレイ6、またはサブアレイ6のグループに結合されたDDS発生器18から、固定のオフセット周波数fnだけ異なる周波数を生じる。これは各DDS発生器18の周波数レジスタ42に異なる値Fを用いることによって達成される。さらに、レジスタ46に記憶される位相オフセットは、DDS発生器の間で異なるようにして、受信ビームが最初に向けられる角度を決定することができる。
【0036】
典型的には、DDS発生器18は、500MHzクロックおよび32ビット周波数レジスタを使用し、それにより出力周波数を0.12Hzのステップで変化させることができる。複数のDDS発生器18は、複数の正確に制御され、近接した間隔で配置された周波数をもたらし、それら間の位相差は良好に制御される。これにより、受信ビームの高速で連続した走査が可能になる。
【0037】
DDS発生器18は、従来知られているように実装することができる。たとえばそれらは、専用のチップ内に実装することができる。別法として、デジタル位相発生はゲートアレイ内に実装することができ、次いでデジタル位相値は別個のデジタル-アナログ変換器に供給される。具体的には、デジタル位相発生器は、レーダ送信信号合成および/またはレーダタイミングおよび制御のために用いられるのと同じゲートアレイ内に実装することができる。
【0038】
好ましくは、直接デジタル合成によって発生されるアナログ波形は余弦波形である(位相シフトを有する正弦波形と等価である)。
【0039】
使用時にはレーダシステム1の一部を形成することができる、送信ユニットによって一連のレーダパルスが発生される。送信されたパルスは、領域102にわたる地物によって反射される。フェーズドアレイは反射を受信するが、いずれの時点でも領域102の一部のみから受信する。反射がその領域にわたって受信される領域104によって定義される受信ビームは、領域102の近い側から領域102の遠い側へ外向きに走査される。波形発生器18は、最初に開始位相を用いて受信ビームを領域102の近い側に向けるように構成される。直接デジタル合成によって発生された、波形発生器18の異なる周波数により、受信ビーム内に時間的に変化する位相シフトが導入され、これは受信ビームを時間と共に走査させる。後続する送信パルスの前に、受信ビームは停止し、波形発生器18は、領域104の近い側に向けて再び開始するようにリセットされる。
【0040】
レーダシステム1と地面の間の大きな距離により、送信パルスが発生されるのと、エコーを受信するように受信ビームが走査されるのとの間に遅延が存在し得る。さらにその遅延の間に、送信パルスが送信され得る。したがって、受信ビームは送信パルスの間に走査されることが好ましいが、必ずしも直前の送信パルスからのエコーが受信されるわけではない。
【0041】
上述の実施形態は、一定の幅を有し、時間と共に一定の角速度で走査する走査受信ビームをもたらす。別法として、ビーム幅および/または角速度は走査全体にわたって変化させることができる。レーダシステム1は、ビームがレーダシステム1から、より遠い地上点に向かって移動するにつれて受信ビーム幅が減少するように構成することができる。それに加えて、または別法としてレーダシステム1は、ビームがレーダシステム1から、より遠い地上点に向かって移動するにつれて角速度が減少するように構成することができる。ビーム幅および/または角速度の変化は、地面にわたって走査するときの受信ビームの改善された一様性をもたらす。特に、上記で用いられる直線近似よりも、エコーをそこから受け取る領域は、走査にわたってビームのフットプリントに対して、より一貫性がある。
【0042】
本発明の他の実施形態では、レーダシステム1は、時間の二次式で変化する走査角度を有する受信ビームを発生する。
走査角度θ=kt+ct2 ただし、kおよびcは走査速度を定義する定数である。
【0043】
上記の各位相中心nに対する位相シフトΦnの定義を用いると、
Φn=2πnsin(kt+ct2)d/λ
【0044】
したがって小さな角度に対しては、オフセット周波数fn=n(k+2ct)d/λとなる。
【0045】
各発生器18にて発生される周波数は、時間と共に直線的に増加して、時間の二次式で変化する走査角度を有する受信ビームを発生する。波形は、従来知られているように直接デジタル合成を用いて発生することができる線形FMランプ信号である。この実施形態では、上述の全体的な構成を用いたDDS発生器18を有する位相ユニット8を用いることができる。
【0046】
レーダシステム1は、時間と共に直線的に減少する幅を有する受信ビームを発生することができる。これはサブアレイ6全体にわたって二次式で変化する追加の位相重み付けδΦnにより、DDS発生器18のそれぞれを変更することによって達成される。俯仰位相中心nに対して、
δΦn=2πa(n-n0)2 ただし、n0は中央の位相中心、およびaは定数である。
【0047】
時間と共に直線的に広がるビームの場合は、
δΦn(t)=2πa(n-n0)2(t-t0) ただし、t0はビームがその時点で一様に重み付けされる時刻である。
【0048】
ビームが一様に重み付けされたときは、ビームは最も狭くなる。好ましくは、これは、走査すべき領域の最も遠い部分、すなわち遠い観測範囲に向けられるときである。
【0049】
追加の位相重み付けδΦnと、線形走査位相とを組み合わせることによって次式が得られる。
Φn(t)=2πmktd/λ+2πa(n-n0)2(t-t0) ただし、mは整数
Φn(t)=2π(mkd/λ+a(n-n0)2)t-2πa(n-n0)2t0
【0050】
それにより、
fn=mkd/λ+a(n-n0)2
【0051】
したがって、オフセット周波数fnを項a(n-n0)2だけ変更し、局部発振器の初期位相を項2πa(n-n0)2t0だけ変更することによって、ビーム幅は時間と共に直線的に減少させることができる。
【0052】
別法として、適当な位相重み付けを組み合わせることによって、ビーム幅と角度走査速度の両方を時間と共に変化させることができる。
【0053】
レーダシステム1について、時間の線形関数として減少する幅を有する受信ビームを発生するように述べてきた。別法としてビーム幅は、異なる時間の関数として減少または変化することができる。
【0054】
本発明のレーダシステム1を用いて、レーダシステムモジュールを形成することができる。レーダシステムモジュールは、既存のレーダの大幅な変更を必要とせずに、既存のレーダシステムに挿入するように構成される。モジュールは、上述のレーダシステムの実施形態、およびさらに周波数変換器を備える。周波数変換器は、ミラー除去フィルタ24の後に配置される。周波数変換器は、周波数を共通の公称中間周波数から、サブアレイによって受信され位相ユニットに渡される信号にほぼ一致する周波数に増加するように構成される。好ましくは、周波数変換器は、中央の位相中心からの波形発生器18を局部発振器として用いたミキサである。周波数変換器は、サブアレイ6によって受信されたものと同様な周波数を出力し、この出力は、サブアレイからの入力の代わりに従来型レーダシステムに供給することができる。モジュールによって行われるビーム形成は、従来型レーダシステムには透過的であり、従来型レーダシステムの他の動作には影響を及ぼさない。
【0055】
他の実施形態では、本発明は、上述のいずれかの実施形態において述べられたようなレーダシステムを含む衛星である。衛星は、好ましくは側方監視レーダとして、かつ好ましくは合成開口レーダとして機能するように搭載されたレーダシステムを有する。
【0056】
アンテナサブアレイ6は、信号を受信するための受信アンテナ、および信号を送信するための送信アンテナの両方を形成するために用いることができる。別法として、受信アンテナおよび送信アンテナとして別個のアンテナを用いることができる。別個の受信アンテナおよび送信アンテナは、好ましくは移動プラットフォームである同じプラットフォーム上に配置することができる。別法としてレーダシステムは、受信アンテナが送信アンテナとは異なるプラットフォーム上に配置されるバイスタティックレーダシステムとすることができる。受信アンテナを担持するプラットフォームおよび/または送信アンテナを担持するプラットフォームは移動型とすることができる。
【0057】
レーダシステム1について、地上の観測範囲を撮像するように述べてきた。レーダシステム1は、地上の任意の領域を、任意の方向で撮像することができる。別法としてレーダシステムは、地上を撮像しないように構成することができる。レーダシステムは、地面より上に受信ビームを走査するように構成することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 レーダシステム
4 フェーズドアレイ
6 サブアレイ
8 位相ユニット
9 直線
10 組み合わせユニット
12 信号
14 信号
16 ミキサ
18 DDS波形発生器
20 信号
22 信号
24 ミラー除去フィルタ
26 アンチエイリアスフィルタ
28 アナログ-デジタル変換器(ADC)
36 タイミングおよび制御ユニット
38 同期信号
40 クロック
42 周波数レジスタ
44 加算器
46 位相オフセットレジスタ
48 加算器
50 余弦ルックアップテーブル
52 デジタル-アナログ(DAC)変換器
100 地面
102 観測範囲
104 受信ビーム領域
106 矢印
図1
図2
図3
図4