(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素膜は、粘度が1〜5000mPa・sの炭素膜の前駆体溶液を、前記多孔質支持体の前記セルの表面に成膜し、乾燥を行った後、炭化することによって形成されたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素膜構造体。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
(1)炭素膜構造体:
本発明の炭素膜構造体の一の実施形態は、
図1、
図2A及び
図2Bに示すように、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2が形成された筒状の多孔質支持体1と、多孔質支持体1に形成されたセル2の表面側に配設された炭素膜10と、を備えた炭素膜構造体100である。ここで、
図1は、本発明の炭素膜構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図であり、
図2Aは、
図1に示す炭素膜構造体のセルの延びる方向に垂直な断面を示す断面図であり、
図2Bは、
図2Aの一部拡大図である。
【0025】
そして、本実施形態の炭素膜構造体100Aは、
図2A及び
図2Bに示すように、複数のセル2が、多孔質支持体1のセル2の延びる方向に垂直な断面において、一のセル2aから、この一のセル2aに隣接する他のセル2bまでの距離Lが、それぞれ0.60
〜5.00m
mとなるように形成されたものである。即ち、本実施形態の炭素膜構造体100Aにおいては、多孔質支持体1に形成されたセル2(例えば、セル2a)の周縁から、最も近くに形成されたセル2(例えば、セル2b)の周縁までの距離Lが、それぞれ0.60
〜5.00m
mとなるように形成されている。
【0026】
このように構成することによって、
図3A及び
図3Bに示すように、炭素膜10を形成するための炭素膜前駆体の乾燥工程において、例えば、一のセル2aの表面に存在する炭素膜前駆体の溶液20a及びその表面から多孔質支持体1の内部に浸透した炭素膜前駆体の溶液20a(以下、「前駆体溶液」ということもある)が乾燥する際に、隣接する他のセル2bからの熱の影響(より具体的には、他のセル2bから、多孔質支持体1を伝わって一のセル2aにおける前駆体溶液20aに対する熱の影響)を受け難く、上記炭素膜前駆体20がセルの表面において均一に乾燥するため、最終的に得られる炭素膜10による分離性能が極めて優れたものとなる。ここで、
図3A及び
図3Bは、本実施形態の炭素膜構造体を製造する際における、炭素膜を形成するための炭素膜前駆体の乾燥工程を模式的に示す説明図である。なお、
図3A及び
図3Bにおいては、セルの延びる方向に垂直な断面を拡大した拡大断面図を示す。
【0027】
より具体的には、炭素膜を形成する際には、まず、例えば、前駆体溶液20aを、多孔質支持体1にディップ成膜し、多孔質支持体1に形成されたセル2の表面から多孔質支持体1の内部に染み込ませる。次に、前駆体溶液20aを染み込ませた多孔質支持体1の一方の端面から、熱風を送り、セル内に熱風を通風させる通風乾燥を行うことにより、前駆体溶液20aを乾燥させて、即ち、前駆体溶液20aの溶媒を蒸発させて、緻密化した樹脂層を得る。その後、熱処理を施し、炭化し、必要に応じて酸化加熱処理を施すことで最終的に炭素膜10を形成する。
【0028】
上述したように、前駆体溶液20aの溶媒が蒸発する際には、溶媒の蒸発に伴い、前駆体溶液20a中の溶質(即ち、炭素膜を形成する成分)も移動するため、溶質がセル2の表面側に移動して集中することにより緻密化し、セル2の表面側に緻密化した樹脂層を得ることができる。その後、熱処理を施し、炭化し、必要に応じて酸化加熱処理を施すことで最終的に炭素膜10が形成される。なお、例えば、前駆体溶液20aの溶媒はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等を用いることができ、溶質は、ポリアミド酸、フェノール樹脂等を用いることができる。
【0029】
例えば、
図4A及び
図4Bに示すように、多孔質支持体101に形成されたセル102(例えば、セル102a)の周縁から、最も近くに形成されたセル102(例えば、セル102b)の周縁までの距離が、0.60mm未満であると、隣接するセルからの熱の影響を受けて、炭素膜前駆体の特定箇所(より具体的には、セル102aとセル102bとの距離が0.60mm未満の領域周辺)が先に乾燥し、炭素膜前駆体の溶液120a中の炭素膜の成分121が集中することにより、一のセル102aの表面における炭素膜110が不均質となり、炭素膜110の分離性能が低下してしまう。即ち、
図4Aにおける、1個のセル(例えば、一のセル102a)の乾燥過程に注目すると、隣接するセル(例えば、
図4Aにおいては、一のセル102aに隣接する6個の他のセル102b)に近い部分ほど隣接する他のセル102bから熱の影響を受け、蒸発が盛んになる。その結果、
図4Bに示すように、隣接する他のセル102bに近い部分ほど溶質(炭素膜の成分121)が集中し、セル102aの周上(セル102aの水平方向)に溶質緻密化のムラが生じる。このムラが、炭素膜110のムラとなり、分離性能に影響を及ぼす。なお、本発明において、セルの表面とは、多孔質支持体のセルが形成されている内周面(内側面)のことを意味する。
【0030】
ここで、
図4A及び
図4Bは、従来の炭素膜構造体を製造する際における、炭素膜を形成するための炭素膜前駆体の乾燥工程を模式的に示す説明図である。なお、
図4A及び
図4Bにおいては、セルの延びる方向に垂直な断面を拡大した拡大断面図を示す。
【0031】
本実施形態の炭素膜構造体において、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの「距離L」とは、一のセルと隣接する他のセルとの最短距離のことを意味する。即ち、
図2A及び
図2Bに示すように、多孔質支持体1に形成されたセル2(例えば、セル2a)の周縁から、最も近くに形成されたセル2(例えば、セル2b)の周縁までの距離Lのことである。
【0032】
なお、本明細書中、多孔質支持体の断面にて、正方格子の各交点に対応する位置(相当する位置)に、各セルの中心が位置するように複数のセルが配置(形成)されている場合の、セルの配置状態のことを、「格子状」ということがある。また、多孔質支持体の断面にて、正三角形格子の各交点に対応する位置(相当する位置)に、各セルの中心が位置するように複数のセルが配置(形成)されている場合の、セルの配置状態のことを、「千鳥状」ということがある。例えば、
図2Aにおけるセルの配置状態のことを、「千鳥状」という。この千鳥状の配置状態においては、一のセル2aに対して、最も近くに形成された隣接する他のセル2bが、6個形成されることとなる。
【0033】
本実施形態の炭素膜構造体においては、
図5A及び
図5Bに示すように、円形のセル2が格子状に配置されていてもよい。ここで、
図5Aは、本発明の炭素膜構造体の他の実施形態のセルの延びる方向に垂直な断面を示す断面図であり、
図5Bは、
図5Aの一部拡大図である。このような炭素膜構造体100Bにおいては、一のセル2aに対して、最も近くに形成された隣接する他のセル2bが、4個形成されることとなる。なお、本発明の炭素膜構造体において、セルの配置状態は、上記「格子状」及び「千鳥状」に限定されることはなく、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、それぞれ0.60
〜5.00m
mとなるようなものであれば、その他の形状であってもよい。例えば、各セル間の距離Lが、全て0.60
〜5.00m
mであれば、各セルが不規則に配置されていてもよい。
【0034】
以下、本実施形態の炭素膜構造体の各構成要素について、更に詳細に説明する。
【0035】
(1−1)多孔質支持体:
多孔質支持体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが形成された筒状の多孔質体からなり、このセルの表面側に炭素膜を支持するための支持体(基材ともいう)として用いられる。このような複数のセルが形成された筒状の多孔質体のことを、モノリス基材ということがある。即ち、「モノリス基材」とは、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが形成されたレンコン状或いはハニカム状の基材(支持体)のことを意味する。
【0036】
多孔質支持体の材質は、強度、透過性能、耐食性等が十分であれば特に制限はなく、例えば、金属やセラミックス等を用いることができる。セラミックスからなる多孔質支持体を用いる場合には、アルミナ、シリカ、コージェライト、ジルコニア、ムライト、チタニア等を好適例として挙げることができる。
【0037】
多孔質支持体は、全て同じ材質、粒子から構成されていてもよいが、複数の材質、粒子から構成されていてもよい。例えば、多孔質支持体は、当該多孔質体の表面に他の材質、粒子から構成され得る中間層が配設され、更にその中間層の表面に更に他の材質、粒子から構成され得る表面層が配設されて構成されていてもよい。ここで、当該多孔質体を構成する粒子の平均粒子径より、中間層を構成する粒子の平均粒子径が小さい方が好ましい。更に、中間層を構成する粒子より、表面層を構成する粒子の粒子径が小さい方が好ましい。
【0038】
多孔質支持体は、例えば、平均粒子径が10〜100μmのアルミナ粒子を材料として、押し出し成形等により成形された成形体を、焼成することによって形成することができる。この多孔質支持体は、例えば、平均細孔径1〜30μmの複数の表裏間に通じる細孔を備えている。
【0039】
次に、必要に応じて配設される中間層及び表面層について説明する。中間層は、多孔質体の表面に、例えば、平均粒子径0.3〜10μmからなるアルミナ粒子を、例えば、ろ過成膜法により成膜し、得られた膜(層)を焼成することによって形成されたものである。この中間層は、例えば、平均細孔径0.1〜3μmの複数の細孔を備えている。表面層は、中間層の表面に、例えば、平均粒子径0.03〜1μmからなるアルミナ粒子を、例えば、ろ過成膜法により成膜し、得られた膜(層)を焼成することによって形成されたものである。この表面層は、例えば、平均細孔径0.01〜0.5μmの複数の細孔を備えている。
【0040】
多孔質支持体の全体形状については、特に制限はなく、セルの延びる方向に垂直な断面の形状が、円形又は多角形であることが好ましい。例えば、
図1においては、多孔質支持体1の全体形状が円柱状の場合の例を示しているが、
図6A及び
図6Bに示す炭素膜構造体100Cのように、多孔質支持体1の全体形状が四角柱状のものであってもよい。ここで、
図6Aは、本発明の炭素膜構造体の更に他の実施形態を模式的に示す斜視図であり、
図6Bは、
図6Aに示す炭素膜構造体のセルの延びる方向に垂直な断面を示す断面図である。
【0041】
多孔質支持体の中心軸方向の長さ(即ち、セルの延びる方向の長さ)は、炭素膜構造体の使用用途に応じて適宜設定することができるが、例えば、10〜2000mmが好ましく、40〜1000mmが更に好ましい。
【0042】
また、多孔質支持体の断面の形状が、円形の場合には、その半径が5〜150mmであることが好ましく、10〜100mmであることが更に好ましい。また、多孔質支持体の断面の形状が、多角形の場合には、その多角形における最大長さの対角線の半分の長さが、上記半径と同程度の長さであることが好ましい。なお、多孔質支持体の断面の大きさは、多孔質支持体に形成されるセルの数と、セル相互間の距離Lによっても好ましい範囲が決定されるべきである。
【0043】
また、多孔質支持体の気孔率は、25〜55%であることが好ましく、25〜40%であることがより好ましい。多孔質支持体の気孔率が25%未満では混合物から被分離成分を分離する際の透過性が低下することがあり、55%を超えると、多孔質支持体の強度が低下することがある。なお、「気孔率」は、アルキメデス法により測定した値である。
【0044】
また、本実施形態の炭素膜構造体に用いられる多孔質支持体は、多孔質支持体の両端面にガラスペーストを塗布し、所定温度で加熱することにより形成されたシール部を有していることが好ましい。このシール部は、多孔質支持体内から外部に、又は外部から多孔質支持体内に、ガス、液体、微粒子等が移動するのを防止するためのものであり、上述したガス、液体、微粒子等の移動を防止する部位に適宜形成することができる。
【0045】
また、本実施形態の炭素膜構造体に用いられる多孔質支持体は、多孔質支持体の長手方向(セルの延びる方向)と直交する方向に、多孔質支持体を貫通するように形成されたスリット状の隙間部(以下、「スリット」という)を設けたものであってもよい。例えば、
図7A〜
図7Dに示すように、複数のセル列のうちの一部のセル列において、セルの一部を外部空間と連通するように破断してスリット状の空隙部(スリット30)を形成することができる。多孔質支持体1の長手方向(セルの延びる方向)と直交する方向に、多孔質支持体1を貫通するように形成されたスリット状の隙間部(スリット30)が形成された場合の例を示している。
【0046】
ここで、外部空間と連通するように破断したセルについては、基材縁端の開口部を気密的に封止する必要がある。こうすることにより、被分離成分を含有する透過液に、被分離成分を含有する混合物液体が混入して汚染されることを防止できる。セルの封止は、例えば、基材と同一材料からなる目詰め部材をセル縁端部に充填した後、基材端面をガラス状物で被覆、焼成し、封止する方法等により行うことができる。なお、目詰め部材と封止のための部材は同一材質であってもよい。このようにスリット状の隙間部を設けた多孔質支持体は、被分離成分を分離する際の透過量を増加させることができる。ここで、
図7Aは、本発明の炭素膜構造体の更に他の実施形態を模式的に示す斜視図であり、
図7Bは、
図7Aに示す炭素膜構造体のセルの延びる方向に垂直な断面を示す断面図である。また、
図7Cは、本発明の炭素膜構造体の更に別の実施形態を模式的に示す斜視図であり、
図7Dは、
図7Cに示す炭素膜構造体のセルの延びる方向に垂直な断面を示す断面図である。
【0047】
なお、
図7A及び
図7Bに示す炭素膜構造体100Dにおいては、多孔質支持体1の一方の端面11側において、多孔質支持体1の一の外周面から他の外周面に貫通するスリット30が2個形成され、且つ、多孔質支持体1の他方の端面12側においても、多孔質支持体1の一の外周面から他の外周面に貫通するスリット30が2個形成された場合の例を示している。また、
図7C及び
図7Dに示す炭素膜構造体100Iにおいては、多孔質支持体1の一方の端面11側から他方の端面12側に向かう外周部分に、多孔質支持体1を貫通するスリット30が2個形成された場合の例を示している。なお、多孔質支持体1の形状や大きさ等に応じて、スリット30の形成位置や個数については適宜変更することが可能である。
【0048】
(1−2)セル:
多孔質支持体に形成された複数のセルは、その表面側に炭素膜が配設されており、このセル内に、被分離成分を含有する混合物を通過させ、炭素膜によって被分離成分を分離するものである。
【0049】
これまでに説明したように、本実施形態の炭素膜構造体においては、複数のセルが、多孔質支持体のセルの延びる方向に垂直な断面において、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、それぞれ0.60
〜5.00m
mとなるように形成されている。本実施形態の炭素膜構造体においては、一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、0.60〜5.00mmであ
り、0.80〜2.00mmであることが更に好ましい。上記距離Lを0.60〜5.00mmとすることにより、炭素膜の分離性能の低下を抑制しつつ、炭素膜の面積比率を可能な限り大きくして分離性能を向上させることができる。
【0050】
セルの形状については特に制限はなく、例えば、
図1及び
図2Aに示すような、セルの形状(即ち、断面におけるセルの開口形状)が円形のものであってもよいし、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形等の多角形や、楕円形等であってもよい。例えば、
図8A及び
図8Bに示す炭素膜構造体100Eは、四角形のセル2が千鳥状に形成された場合の例を示し、
図9A及び
図9Bに示す炭素膜構造体100Fは、四角形のセル2が格子状に形成された場合の例を示している。また、
図10A及び
図10Bに示す炭素膜構造体100Gは、六角形のセル2が格子状に形成された場合の例を示し、
図11A及び
図11Bに示す炭素膜構造体100Hは、六角形のセル2が千鳥状に形成された場合の例を示し、
図12A及び
図12Bに示す炭素膜構造体100Jは、円形のセル2が、
図2A及び
図2Bに示す炭素膜構造体100Aよりも、セル間の距離Lがより広い(長い)間隔で千鳥状に形成された場合の例を示している。ここで、
図8A、
図9A、
図10A、
図11A、
図12Aは、本発明の炭素膜構造体の更に他の実施形態のセルの延びる方向に垂直な断面を示す断面図であり、
図8B、
図9B、
図10B、
図11B及び
図12Bは、
図8A、
図9A、
図10A、
図11A又は
図12Aの一部拡大図である。
【0051】
各セルの大きさについては
、多孔質支持体のセルの延びる方向に垂直な断面における、セルの開口部分の最大径が
、1.4〜4.0mmであ
る。このように構成することによって、混合物から被分離成分を分離する際の透過性に優れた炭素膜構造体とすることができる。ここで、セル形状が円形でない場合、最大径とは、セル形状を内部に含む最小の円の直径を指す。
【0052】
多孔質支持体に形成されるセルの個数についても制限はなく、隣接するセル相互間の距離Lが、0.60
〜5.00m
mとなるように配置されていれば、多孔質支持体の断面の大きさに応じてセルの個数を適宜決定することができる。
【0053】
また、特に限定されることはないが、一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、複数のセルにおいて同一の長さであることが好ましい。即ち、全てのセルにおいて、最も近くに形成された隣接するセルまでの距離が同じ長さとなるように、それぞれのセルが配置されていることが好ましい。このように構成することによって、各セルの表面に配設された炭素膜の分離性能が均一となり、より分離性能に優れた炭素膜構造体とすることができる。
【0054】
(1−3)炭素膜:
炭素膜は、炭素を含有する前駆体溶液を乾燥させた炭素含有層(炭素膜の前駆体)を、酸素不活性雰囲気下で熱分解することにより炭化して得られ、実質的に炭素からなる分離膜である。このような炭素膜は、混合物から、ある特定の成分を分離可能な分離膜である。なお、本明細書において、「実質的に炭素からなる」とは、炭素を質量比において50%以上含むことを意味する。なお、本実施形態の炭素膜構造体に用いられる炭素膜は、炭素を質量比において、65〜100%含むものであることが好ましい。
【0055】
上記炭素含有層は、樹脂層であることが好ましい。熱分解により炭素膜とするための前駆体としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン、塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン樹脂(ポリスチレン)、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂等の炭素を含有する樹脂であれば特に制限はないが、ポリイミド系樹脂、及びフェノール系樹脂を好適例として挙げることができる。
【0056】
炭素膜は、セルの表面側に形成されたものであるが、炭素膜が形成される下地(即ち、多孔質支持体)の細孔径や表面粗さ、また、炭素膜の成膜条件により、形成される膜の状態が変わる。例えば、炭素膜は、多孔質支持体に形成されたセルの表面全体に形成される場合もあるし、セルの表面から内側部分(即ち、多孔質支持体の内部)に形成される場合もある。更に、セルの表面の一部に形成されるとともに、多孔質支持体の内部にも形成される場合がある。このように、炭素膜の配置状態は、所望の分離特性が発現するものであれば、セルの表面及びその内部のいずれであってもよい。
【0057】
炭素膜がセルの表面上に形成される場合、その膜厚は、0.01〜2μmであることが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。0.01μmより薄いと膜に欠陥が生じることがあり、2μmより厚いと、分離する際の透過性が低下することがある。炭素膜の平均細孔径は、0.2〜100nmであることが好ましく、0.2〜10nmであることが更に好ましい。
【0058】
また、炭素膜は、粘度が1〜5000mPa・sの炭素膜の前駆体溶液を、多孔質支持体のセルの表面に成膜し(より具体的には、ディップ成膜し)、乾燥することによって緻密化した樹脂層を得て、その後、熱処理を施し、炭化し、必要に応じて酸化加熱処理を施すことで形成されたものであることが好ましい。このような粘度の前駆体溶液を用いて炭素膜が形成される場合には、本実施形態の炭素膜構造体のように、一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが0.60mm以上の多孔質支持体を用いることにより、上記分離性能の低下を有効に防止することができる。
【0059】
上述した酸化加熱処理とは、酸化ガスを含む混合ガスを流通させた加熱炉に炭素膜を保持することをいう。例えば、この酸化加熱処理は、炭素膜が形成された炭素膜構造体を加熱炉に入れて行うことができる。
【0060】
酸化加熱処理に使用する酸化ガスとしては、水蒸気、二酸化炭素、又は、それらと窒素、アルゴン、ヘリウムなどの炭素に対して不活性なガスとの混合ガスを用いることができる。しかしながら、これらのガスの場合、酸素を用いた場合に比べて、効果を得るには高温を必要とするため、酸化ガスとしては酸素を含むガスがより好ましい。
【0061】
酸化加熱処理の温度は、250℃〜450℃が好ましく、300℃〜400℃がより好ましい。250℃未満では酸化加熱処理の効果が得られ難く、450℃を超えると酸化ガスにより炭素層が消失し、十分な分離性能を得ることができなくなることがある。酸化加熱処理時間は、0.1〜10時間が好ましい。
【0062】
なお、炭素膜の構成については、上述した炭素膜に限定されることはなく、従来公知の炭素膜、及び炭素膜構造体に使用される炭素膜を用いることができる。
【0063】
炭素膜の分離性能の評価は、混合物の組成を変化させることによって行うことができる。具体的な方法としては、例えば、混合物を液体で供給してガス透過させる方法(浸透気化法、パーベーパレーション法)でもよいし、液体を加熱により一旦全て気化して、ガス透過させる方法(ベーパーパーミエーション法)でもよい。また、液体の一部が気化する状態まで加熱してガス透過させてもよい。このような方法によって、炭素膜の分離性能の評価を行うことができる。
【0064】
(2)炭素膜構造体の製造方法:
次に、本発明の炭素膜構造体の製造方法の一の実施形態について具体的に説明する。本実施形態の炭素膜構造体の製造方法は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルが形成された筒状の多孔質支持体に、炭素膜を形成するための前駆体溶液を通すことにより、このセルの表面に、上記前駆体溶液からなる膜を成膜する成膜工程と、上記前駆体溶液からなる膜を熱風により通風乾燥を行う乾燥工程と、乾燥した上記膜を炭化させることによって炭素膜を形成する炭化工程と、を備え、上記成膜工程において、上記多孔質支持体の上記セルの延びる方向に垂直な断面における、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、それぞれ0.60
〜5.00m
mとなるように選択的に形成された多孔質支持体を用いる炭素膜構造体の製造方法である。
【0065】
(2−1)多孔質支持体の作製:
本実施形態の炭素膜構造体の製造方法は、上述した成膜工程と乾燥工程と炭化工程とを備えたものであるが、成膜工程においては、特定の多孔質支持体、即ち、一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、それぞれ0.60mm以上となるように選択的に形成された多孔質支持体を用いることが重要である。ここで、上記のようにセル間の距離が0.60
〜5.00m
mとなるように設計された特定の多孔質支持体を作製する方法について説明する。
【0066】
多孔質支持体の作製方法については、従来公知の多孔質のモノリス形状基材の製造方法に準じて作製することができるが、本実施形態の炭素膜構造体の製造方法においては、多孔質支持体のセルの配置が、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの距離Lが、0.60
〜5.00m
mとなるように設計を行って、多孔質支持体に形成されるセルの配置を決定する。
【0067】
より具体的な作製方法としては、まず、多孔質支持体を形成するための材料としてのセラミックス粉末(成形原料)に、バインダー、界面活性剤、及び必要に応じて造孔材等を適宜含有させ、更に分散媒としての水を加えて混練することによって、可塑性の坏土を得る。なお、分散媒としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース等を挙げることができ、界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じて含有させる造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素等を挙げることができる。
【0068】
次に、得られた坏土を、所定の口金を用いて押出成形し、所望形状のモノリス成形体を成形する。なお、乾燥、焼成を経て、更に炭素膜の成膜、乾燥、炭化を経て、炭素膜構造体となった時に、上記セル間の距離Lが、0.60〜5.00mmとなるように設計する
必要があり、0.80〜2.00mmとなるように設計することが更に好ましい。このように構成することによって、炭素膜による分離性能が極めて優れた炭素膜構造体を製造することができる。
【0069】
次に、得られたモノリス成形体を乾燥し、更に、焼成することによってモノリス形状の多孔質支持体を作製する。なお、モノリス成形体を乾燥させる方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。例えば、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることも好ましい。
【0070】
また、乾燥したモノリス成形体を焼成する前に、仮焼を行ってもよい。この仮焼は、脱脂のために行われるものであって、例えば、酸化雰囲気において550℃で、3時間程度で行うものが挙げられる。但し、これに限られるものではなく、モノリス成形体中の有機物(バインダー、分散剤、造孔材等)に応じて行われることが好ましい。一般に、バインダーの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、3〜100時間程度である。
【0071】
焼成(本焼成)は、成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するための加熱工程である。焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト原料を焼成する場合には、1410〜1440℃で焼成することが好ましい。また、仮焼と本焼成を一体化させ1回の焼成とすることもできる。このようにして所定形状の多孔質支持体を作製することができる。
【0072】
次に、このようにして作製された多孔質支持体の両端面にガラスペーストを塗布し、所定温度で加熱することによりシール部を形成する。ガラスペーストを塗布する部分は特に限定されず、多孔質支持体の表面の中で、多孔質支持体内から外部に、又は外部から多孔質支持体内に、ガス、液体、微粒子等が移動することを防止しようとする部分に塗布することが好ましい。
【0073】
ここで、本実施形態の炭素膜構造体の製造方法に用いられる多孔質支持体は、多孔質支持体の長手方向(セルの延びる方向)と直交する方向に、スリットを設けたものであってもよい。当該構造によれば、基材中心部近傍のセルで分離された被分離成分がスリットから速やかに流出されるので、炭素膜構造体全体の透過量を増加せしめ、透過量を向上させることが可能である。ここで、外部空間と連通するように破断したセルについては、基材縁端の開口部を気密的に封止する必要がある。こうすることにより、透過液に被処理液体が混入して汚染されることを防止できる。セルの封止は、例えば、基材と同一材料からなる目詰め部材をセル端部に充填した後、基材端面をガラスペーストで被覆し、焼成して、封止する方法等により行うことができる。なお、目詰め部材と封止のための部材は同一材質であってもよい。また、スリットの形成は、ガラスペーストの塗布によるシール部形成後に行ってもよい。
【0074】
(2−2)成膜工程:
次に、多孔質支持体に対して、分離膜とするための前駆体溶液からなる膜(樹脂層)を成膜する成膜工程を行う。この成膜工程において、多孔質支持体のセル内に前駆体溶液を通す方法としては、塗布が均一となる方法であればよい。特に限定するものではないが、好適な方法の一例として、ディップ成膜を挙げることができる。
【0075】
成膜工程において使用される前駆体溶液としては、これまでに説明した「熱分解により炭素膜とするための前駆体」を用いることができる。例えば、ポリアミド酸溶液を使用する場合には、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の適当な有機溶媒に溶解させたものを用いることができる。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は、特に制限はないが、溶液を成膜しやすい粘度とする観点から、1〜20質量%とすることが好ましい。例えば、フェノール樹脂溶液を使用する場合には、フェノール樹脂粉末を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エタノール等の適当な有機溶媒に溶解させたものを用いることができる。フェノール樹脂溶液中のフェノール樹脂の濃度は、特に制限はないが、溶液を成膜しやすい粘度とする観点から、1〜20質量%とすることが好ましい。
【0076】
例えば、ポリアミド酸溶液やフェノール樹脂溶液を用いて成膜を行う場合に、多孔質支持体のセル内にポリアミド酸溶液やフェノール樹脂溶液を通す方法としては、例えば、送液ポンプを使用し、ポリアミド酸溶液を各セルの一方の開口端から、0.3〜300cm/分程度の速度で、各セル内に送入するディップ成膜法を用いることができる。また、セル内の表面以外にポリアミド酸溶液やフェノール樹脂溶液が付着するのを防止するため、ケーシングに入れ、ガラスシール部で気密を取り、多孔質支持体の外周面から空気等の気体による加圧を行い、成膜を行うことが好ましい。
【0077】
(2−3)乾燥工程:
このようして、成膜を行った後、成膜されたポリアミド酸膜やフェノール樹脂膜の乾燥を、通風乾燥により行うことが好ましい。ポリアミド酸膜やフェノール樹脂膜の乾燥を、通風乾燥にて行うことによって、通風気体(熱風)と接触する膜の表面から、溶媒である例えばNMPの蒸発を促進させ、膜の表面にポリアミド酸やフェノール樹脂が集中して緻密化させることができるので、全てのセル表面にポリアミド酸膜やフェノール樹脂膜をムラ無く均一且つ緻密に作製することができる。
【0078】
次に、このように乾燥させたポリアミド酸膜やフェノール樹脂膜を、乾燥器中にて、200〜400℃で乾燥させてイミド化あるいは不溶化することにより、ポリアミド酸膜は、炭素膜の前駆体であるポリイミド膜を形成し、フェノール樹脂膜は、不溶化した膜を形成する。一般に、ポリアミド酸のイミド化反応には、200℃以上での加熱が必要となる。イミド化方法や不溶化方法は通風乾燥でもよい。
【0079】
(2−4)炭化工程:
次に、炭素膜の前駆体であるポリイミド膜やフェノール樹脂膜を、真空、或いは窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の酸素不活性雰囲気下において、400〜1000℃程度の温度範囲で熱分解することにより炭化させることで、炭素膜を形成する。このようにして本発明の炭素膜構造体を製造することができる。また、炭素膜の形成方法は一例であり、従来公知の炭素膜の形成方法によって、多孔質支持体に対して炭素膜を形成することができる。
【0080】
なお、上記熱分解において、400℃未満の温度で炭化を行うと、ポリイミド膜やフェノール樹脂膜が十分に炭化されず、分子ふるい膜としての選択性や透過速度が低下することがある。一方、1000℃を超える温度で炭化を行うと、細孔径が収縮することにより透過速度が減少することがある。なお、酸素不活性雰囲気は、炭素膜とするための前駆体が、上記温度範囲で加熱されても酸化されない雰囲気をいい、具体的には、窒素、アルゴン等の不活性ガス中や真空中等の雰囲気をいう。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
<多孔質支持体の作製>
多孔質支持体は、押出成形法による成形、及び焼成を経て、平均細孔径20μm、気孔率40%のモノリス形状アルミナ多孔質基材を作製した。ついで、得られた基材におけるセルの内壁面に、厚さ150μmのアルミナ中間層を形成した。そして、中間層の上に、更に、厚さ10μm、平均細孔径0.1μmのアルミナ表面層を形成し、多孔質支持体を得た。なお、実施例1においては、直径2.80mmのセルを、55個形成して、隣接するセルの間隔Lの長さを、0.60mmとした。なお、上記した「隣接するセルの間隔L」は、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの距離L(例えば、
図2B参照)のことであり、一のセルと隣接する他のセルとの最短距離のことを意味する。また、実施例1において、多孔質支持体の外径は30mm、セルの延びる方向の長さは160mmとした。このようにして作製された多孔質支持体の両端面にガラスペーストを塗布し、950℃にて3時間焼成することによりシール部を形成し、気密的に封止した。
【0083】
<炭素膜の作製>
まず、市販のポリイミド系樹脂(宇部興産社製の「U−ワニスA(商品名)」)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒としてポリアミド酸1〜20質量%に希釈した溶液(前駆体溶液)を調製した。このときの粘度は、25℃において、3mPa・s〜5000mPa・sとなった。
【0084】
次に、上記方法によって作製された多孔質支持体のセルの内面に、上述した前駆体溶液をディップコートし、コート層を形成した。その後、多孔質支持体のセルに温風を吹き込み、前駆体溶液の溶媒の大半を乾燥させた後、乾燥器にて大気中300℃で1時間乾燥させた。この工程を数回(実施例1においては、4回)繰返し、多孔質支持体のセルの内面に、樹脂層を形成した。この樹脂層が形成された多孔質支持体を、真空雰囲気中700℃で5時間熱処理(昇温速度25℃/h)し、樹脂層を炭化させることにより、多孔質支持体のセルの内面に炭素膜を形成して、炭素膜構造体を製造した。表1に炭素膜構造体の構成を示す。
【0085】
得られた炭素膜構造体における炭素膜の分離性能の評価を以下の方法で行った。なお、炭素膜の分離性能の評価は、
図13に示すような浸透気化装置を使用して行った。
【0086】
<炭素膜の分離性能の評価>
炭素膜構造体100を筒状の容器55内に収納し、炭素膜構造体100の両端外周部において、容器55内周面との隙間をシール材56によりシールした。恒温槽57に収容されたビーカー58内で所定温度に温められた供給液59を、循環ポンプ60により循環ライン71〜73に循環させ、この循環ラインの途中に配された前記容器55内の炭素膜構造体100のセル内を通過させる。
【0087】
このようにして、炭素膜構造体100のセルの表面に形成された炭素膜に供給液59を接触させながら、透過側である炭素膜構造体100の外側を、真空ポンプ64により、浸透気化ライン75、76を通じて、真空制御機70を用いて二次側圧力を調整しながら減圧(減圧調整)する。そして、炭素膜を透過した透過蒸気を、浸透気化ライン上の液体窒素77に浸された冷却トラップ78により透過液として捕捉した。
【0088】
なお、図中、符号89は供給液59の温度を測定するための温度計、符号90は供給液59を撹拌するための撹拌子、符号91はビーカー58上部に取り付けた冷却管である。供給液59には、水/エタノール比(質量比)が50/50である水/エタノール混合液を用い、当該供給液の温度を50℃として、真空制御機70により二次側圧力を6.67kPaに減圧調整し、炭素膜の水/エタノール分離性能を評価した。当該装置にて、浸透気化(パーベーパレーション)試験を行い、液体窒素トラップにて回収された透過蒸気の液化物を比重計にかけ、濃度換算することにより、透過蒸気の組成を定量し、膜の性能評価を実施した。
【0089】
この分離性能の評価には、下記数式(1)で表される水/エタノール分離係数α、及び、下記数式(2)で表される透過流速(Flux(kg/m
2・h))を用いた。なお、分離係数とは、供給側液組成比に対する透過側液組成比の比と定義される。下記数式(1)中、Perm(水)、Perm(エタノール)は、各々、膜を透過した水、エタノールの質量濃度(質量%)である。また、Feed(水)、Feed(エタノール)は、各々、供給液の水、エタノールの質量濃度(質量%)である。
【0090】
α=(Perm(水)/Perm(エタノール))/(Feed(水)/Feed(エタノール)) ・・・(1)
【0091】
Flux=Q/(A・t) ・・・(2)
(但し、上記式(2)において、Qは透過液質量(kg)を示し、Aは炭素膜の面積(m
2)を示し、tは時間(h)を示す。)
【0092】
(実施例2〜34)
<多孔質支持体の作製>
<炭素膜の作製>
表1〜表7に示すように、セル間距離(mm)(セル間距離は、一のセルから、この一のセルに隣接する他のセルまでの距離L)、成膜回数(回)、ポリアミド酸濃度(質量%)、粘度(mPa・s)、モノリス外形、セル形状、セルピッチ(mm)、セル径(mm)、セル数(個)、セル配置を変更した以外は、実施例1と同様にして炭素膜構造体を作製し、炭素膜の分離性能の評価を行った。評価結果を、表10〜表18に示す。なお、セルピッチ(mm)とは、隣接するセルのそれぞれの中心間の距離のことを意味する。また、表1〜表7においては、炭素膜構造体の形状に対する図面について、「炭素膜構造体の対応図面」として示し、この図面に示される形状の炭素膜構造体とした。なお、実施例21及び22のモノリス外形は、セルの延びる方向に垂直な断面が、一辺が30mmの正方形である。
【0093】
なお、実施例19及び20においては、多孔質支持体に
図7A及び
図7Bに示すようなスリットの形成を行った。具体的には、複数のセル列のうちの一部のセル列において、セルの一部を外部空間と連通するように破断してスリット状の空隙部を形成した。なお、このスリットは、多孔質支持体の焼成後に、ダイヤ電着カッターにより、スリットを形成すべきセル列を外部空間と連通するように破断して形成した。スリット形成列のセルは、濾過液内への原液の混入を防止するため基材縁端の開口部を目詰め部材により気密的に封止する構造をとった。その後、前述のガラスの溶融によるシールを施した。
【0094】
<炭素膜の分離性能の評価>
実施例31〜34では、供給液59(
図13参照)を変更して、エタノール/n−オクタン/o−キシレン比(質量比)が33.3/33.3/33.3であるエタノール/n−オクタン/o−キシレン混合液を用い、当該供給液の温度を50℃として、真空制御機70により二次側圧力を50Paに減圧調整し、炭素膜のエタノール/n−オクタン/o−キシレン分離性能も評価した。当該装置にて、浸透気化(パーベーパレーション)試験を行い、液体窒素トラップにて回収された透過蒸気の液化物をガスクロマトグラフィー分析にかけ、透過蒸気の組成を定量し、膜の性能評価を実施した。
【0095】
この分離性能の評価には、下記数式(3)で表されるエタノール/(n−オクタン+o−キシレン)分離係数α、及び、下記数式(4)で表される透過流速(Flux(kg/m
2・h))を用いた。なお、分離係数とは、供給側液組成比に対する透過側液組成比の比と定義される。下記数式(3)中、Perm(エタノール)、Perm(n−オクタン)、Perm(o−キシレン)は、各々、膜を透過したエタノール、n−オクタン、o−キシレンの質量濃度(質量%)である。また、Feed(エタノール)、Feed(n−オクタン)、Feed(o−キシレン)は、各々、供給液のエタノール、n−オクタン、o−キシレンの質量濃度(質量%)である。
【0096】
α=[Perm(エタノール)/{Perm(n−オクタン)+Perm(o−キシレン)}]/[Feed(エタノール)/{Feed(n−オクタン)+Feed(o−キシレン)}] ・・・(3)
【0097】
Flux=Q/(A・t) ・・・(4)
(但し、上記式(4)において、Qは透過液質量(kg)を示し、Aは炭素膜の面積(m
2)を示し、tは時間(h)を示す。)
【0098】
(実施例35〜40)
<多孔質支持体の作製>
実施例35においては、多孔質支持体は、実施例1と同様に作製した。なお、実施例35においては、直径2.80mmのセルを、55個形成して、隣接するセルの間隔Lの長さを、0.60mmとした。また、実施例35において、多孔質支持体の外径は30mm、セルの延びる方向の長さは160mmとした。このようにして作製された多孔質支持体の両端面にガラスペーストを塗布し、950℃にて3時間焼成することによりシール部を形成し、気密的に封止した。
【0099】
実施例36においては、表8に示すように、セル間距離(mm)、及びセル径(mm)を変更した以外は、実施例35と同様にして多孔質支持体を作製した。
【0100】
また、実施例37〜40においては、多孔質支持体に
図7C及び
図7Dに示すようなスリットの形成を行った。具体的には、複数のセル列のうちの一部のセル列において、セルの一部を外部空間と連通するように破断してスリット状の空隙部を形成した。なお、このスリットは、多孔質支持体の焼成後に、ダイヤ電着カッターにより、スリットを形成すべきセル列を外部空間と連通するように破断して形成した。スリット形成列のセルは、濾過液内への原液の混入を防止するためあらかじめ基材縁端の開口部を目詰め部材により気密的に封止する構造をとった。
【0101】
<炭素膜の作製>
市販の微粒子フェノール系樹脂粉末(エア・ウォーター株式会社製の「ベルパールS899(商品名)」)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒としてフェノール樹脂1〜20質量%に希釈した溶液(前駆体溶液)を調製した。このときの粘度は、25℃において、1.0mPa・s〜11.5mPa・sとなった。
【0102】
次に、上記方法によって作製された多孔質支持体のセルの内面に、上述した前駆体溶液をディップコートし、コート層を形成した。その後、多孔質支持体のセルに温風を吹き込み、前駆体溶液の溶媒の大半を乾燥させた後、乾燥器にて大気中300℃で1時間乾燥させた。この工程を数回(実施例35においては、5回)繰返し、多孔質支持体のセルの内面に、樹脂層を形成した。この樹脂層が形成された多孔質支持体を、真空雰囲気中550℃で1時間熱処理(昇温速度300℃/h)し、樹脂層を炭化させることにより、多孔質支持体のセルの内面に炭素膜を形成して、炭素膜構造体を製造した。表8及び表9に炭素膜構造体の構成を示す。
【0103】
次に、実施例37〜40においては、得られた炭素膜の酸化加熱処理を行った。酸化加熱処理とは、酸化ガスを含む混合ガスを流通させた加熱炉に炭素膜を保持することをいう。酸化加熱処理は、炭素膜が形成された炭素膜構造体を加熱炉に入れて行った。なお、実施例37〜40における混合ガスは、空気を用いた。また、酸化加熱処理の温度は350℃、時間は1時間とした。
【0104】
<炭素膜の分離性能の評価>
得られた炭素膜構造体における炭素膜の分離性能の評価を以下の方法で行った。なお、炭素膜の分離性能の評価は、
図13に示すような浸透気化装置を使用して行った。
【0105】
実施例35及び36では、実施例1と同様にして、炭素膜の水/エタノール分離性能を評価した。評価結果を、表19に示す。
【0106】
この分離性能の評価には、上記数式(1)で表される水/エタノール分離係数α、及び、上記数式(2)で表される透過流速(Flux(kg/m
2・h))を用いた。
【0107】
実施例37〜40では、実施例31〜34と同様にして、炭素膜のエタノール/n−オクタン/o−キシレン分離性能も評価した。評価結果を、表20に示す。
【0108】
この分離性能の評価には、上記数式(3)で表されるエタノール/(n−オクタン+o−キシレン)分離係数α、及び、上記数式(4)で表される透過流速(Flux(kg/m
2・h))を用いた。
【0109】
(比較例1〜28)
表1〜表9に示すように、セル間距離(mm)、成膜回数(回)、ポリアミド酸濃度(質量%)、フェノール樹脂濃度(質量%)、粘度(mPa・s)、モノリス外形、セル形状、セルピッチ(mm)、セル径(mm)、セル数(個)、セル配置を変更した以外は、実施例1と同様にして炭素膜構造体を作製し、炭素膜の分離性能の評価を行った。評価結果を、表10〜表20に示す。なお、比較例11、12及び27、28においては、実施例19、20及び37〜40と同様に多孔質支持体にスリットを形成した。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
【表9】
【0119】
【表10】
【0120】
【表11】
【0121】
【表12】
【0122】
【表13】
【0123】
【表14】
【0124】
【表15】
【0125】
【表16】
【0126】
【表17】
【0127】
【表18】
【0128】
【表19】
【0129】
【表20】
【0130】
本実施例1〜40の炭素膜構造体は、分離係数(α)が優れたものであった。一方、セル間の距離Lが0.40mm又は0.50mmの比較例1〜28は、本実施例の炭素膜構造体と比較して、分離係数(α)が劣るものであった。このため、セル間の距離Lを0.60mm以上とすることにより、透過性の優れた炭素膜構造体とすることができることが判明した。