特許第5671091号(P5671091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5671091陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5671091
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月18日
(54)【発明の名称】陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20150129BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20150129BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150129BHJP
【FI】
   C22C21/00 C
   C22F1/04 L
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-86410(P2013-86410)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-237926(P2013-237926A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-96734(P2012-96734)
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100071663
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 保夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】浅野 峰生
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕介
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187308(WO,A1)
【文献】 特開平09−143602(JP,A)
【文献】 特開2006−052436(JP,A)
【文献】 特開2011−179094(JP,A)
【文献】 特開2009−256782(JP,A)
【文献】 特開平06−025808(JP,A)
【文献】 特開昭57−051249(JP,A)
【文献】 特開昭58−011769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04−1/057
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムに対して包晶反応を示す包晶元素としてTi:0.001%(質量%、以下同じ)〜0.1%、Cr:0.0001%〜0.4%のうちの1種または2種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる、陽極酸化処理皮膜を形成すべきアルミニウム合金板であって、該アルミニウム合金板の最表層部における固溶状態の包晶元素の濃度が、アルミニウム合金板の幅方向において0.05mm以上の幅の帯として変化し、隣り合う帯における濃度の差が0.008%(質量%、以下同じ)以下であることを特徴とする陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金板が、Ti:0.001%〜0.1%、Cr:0.0001%〜0.4%のうち1種または2種を包晶元素として含有し、さらに、Mg:0.3%〜6.0%、Cu:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Fe:0.4%以下、Si:0.3%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1記載の陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金板を製造する方法であって、鋳塊の圧延面に存在する結晶粒の中心部の直径5μm領域部と該結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の包晶元素の濃度の差が0.040%以下の鋳塊を用い、熱間圧延、冷間圧延を経て製造することを特徴とする陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化処理後に帯状の筋模様が発生しない陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用内装部品、家電用外板へのアルミニウム合金板の適用が増加しているが、いずれも製品になった際に優れた表面品質が求められる。これらの製品は陽極酸化処理を施して使用されることが少なくなく、例えば、家電用外板の場合、陽極酸化処理後に帯状の筋模様が発生することがあり、筋模様欠陥を生じないアルミニウム合金板が要望されている。
【0003】
これまでも、前記の筋模様を防止するための検討は種々行われており、化学成分、最終板の結晶粒径、析出物の寸法および分布密度などを制御する方法が提案されているが、これらの方法では改善できない帯状筋模様が発生することもあり、この問題を十分に解決したとはいえないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−273563号公報
【特許文献2】特開2006−52436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、陽極酸化処理後における帯状の筋模様の発生には、固溶状態で存在するアルミニウムに対して包晶反応を示す元素の存在状態が影響することを見出し、この知見に基づいて試験、検討を行なった結果としてなされたものであり、その目的は、陽極酸化処理後に帯状の筋模様が生じない陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1による陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板は、アルミニウムに対して包晶反応を示す包晶元素としてTi:0.001%〜0.1%、Cr:0.0001%〜0.4%のうちの1種または2種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる、陽極酸化処理皮膜を形成すべきアルミニウム合金板であって、該アルミニウム合金板の最表層部における固溶状態の包晶元素の濃度が、アルミニウム合金板の幅方向において0.05mm以上の幅の帯として変化し、隣り合う帯における濃度の差が0.008%以下であることを特徴とする。以下の説明において、合金元素の含有量および包晶元素の濃度の差は、いずれも質量%として示す。
【0008】
請求項による陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板は、請求項1において、前記アルミニウム合金板が、Ti:0.001%〜0.1%、Cr:0.0001%〜0.4%のうち1種または2種を包晶元素として含有し、さらに、Mg:0.3%〜6.0%、Cu:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Fe:0.4%以下、Si:0.3%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0009】
請求項による陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、請求項1または2に記載のアルミニウム合金板を製造する方法であって、鋳塊の圧延面に存在する結晶粒の中心部の直径5μm領域部と該結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の包晶元素の濃度の差が0.040%以下の鋳塊を用い、熱間圧延、冷間圧延を経て製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、陽極酸化処理後に帯状の筋模様が生じることがない陽極酸化処理後の表面品質に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アルミニウムに対して包晶反応を示す包晶元素としてTi、Crのうちの1種または2種を含有するアルミニウム合金板を、常法に従って熱間圧延、冷間圧延を経て製造した場合、製造されたアルミニウム合金板の表層部においては、固溶状態の包晶元素が板の長さ方向(圧延方向)に延びる帯として存在し、その帯における固溶状態の包晶元素の濃度は板幅方向において帯毎に変化する。
【0012】
本発明は、アルミニウム合金板の最表層部における固溶状態の包晶元素の濃度が、アルミニウム合金板の幅方向において0.05mm以上の幅、最大5mm程度の帯として変化し、隣り合う帯における濃度の差が0.008%以下であることを特徴とし、この特徴をそなえたアルミニウム合金板を陽極酸化処理すると、帯状の筋模様が発生しない表面品質の優れた陽極酸化処理アルミニウム合金板を得ることができる。隣り合う帯における濃度の差が0.008%を超える場合には、陽極酸化処理後、目視で筋模様を判別できるようになり、優れた表面品質が得られなくなる。
【0013】
陽極酸化処理後、包晶元素は固溶状態で陽極酸化皮膜に取り込まれ、上記の特徴を有するアルミニウム合金板を陽極酸化処理した場合には、陽極酸化処理されたアルミニウム合金板においても、陽極酸化皮膜に取り込まれた固溶状態の包晶元素の濃度は、板幅方向において0.05mm以上の幅、最大5mm程度の帯として変化し、隣り合う帯における濃度の差が0.005%以下となる。
【0014】
固溶状態の包晶元素の濃度は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、10μmピッチで電子線を照射して発生する蛍光X線から濃度を測定する線分析を行い、隣り合う帯における濃度の差を求める。
【0015】
包晶元素として含有させるTiおよびCrについて説明する
Tiは、鋳造組織の粗大化を抑制するよう機能する元素として用いられ、好ましい含有量は0.001%〜0.1%であり、下限値未満では鋳造組織の粗大化を抑制できなくなり、上限値を超えると、粗大な金属間化合物が生成して、陽極酸化処理後に金属間化合物を原因とした筋模様が発生し易くなる。
【0016】
Crは、強度を高め、結晶粒を微細化するよう機能する元素として用いられる。好ましい含有量は0.0001%〜0.4%の範囲であり、0.0001%未満では、高純度地金を使用しなければならないため、製造コストが高くなり、工業用材料として現実的でなくなる。Crのさらに好ましい含有範囲は0.003〜0.4%である。0.4%を超えて含有すると、粗大な金属間化合物が生成して、陽極酸化処理後に金属間化合物を原因とした筋模様が発生し易くなる。
【0017】
本発明においては、上記の包晶元素以外の添加元素として以下の合金元素の1種または2種以上を含有させることができる。
Mg:
Mgは強度を高めるよう機能する。好ましい含有量は0.3%〜6.0%であり、下限値未満では強度を高める効果が得られず、上限値を超えると、熱間圧延時に割れが発生し易くなり、圧延が困難になる。
【0018】
Cu:
Cuは強度を高め、陽極酸化処理後の皮膜全体の色調を均質にするよう機能する。好ましい含有量は0.5%以下であり、0.5%を超えるとAl−Cu系の析出物を形成し、この金属間化合物に起因して筋模様や皮膜の混濁が発生する。
【0019】
Mn:
Mnは強度を高め、結晶粒を微細化するよう機能する。好ましい含有量は0.5%以下であり、0.5%を超えるとAl−Mn−Si系の晶出物や析出物を形成し、この金属間化合物に起因して筋模様や皮膜の混濁が発生する。
【0020】
Fe:
Feは強度を高め、結晶粒を微細化するよう機能する。好ましい含有量は0.4%以下であり、0.4%を超えるとAl−Fe−Si系、Al−Fe系の晶出物や析出物を形成し、これらの金属間化合物に起因して筋模様や皮膜の混濁が発生する。
【0021】
Si:
Siは強度を高め、結晶粒を微細化するよう機能する。好ましい含有量は0.3%以下であり、0.3%を超えるとAl−Fe−Si系の晶出物やSiの析出物を形成し、これらの金属間化合物に起因して筋模様や皮膜の混濁が発生する。
【0022】
本発明のアルミニウム合金板には、不可避的不純物として、Znなどの元素が必然的に含有されるが、これらの不可避的不純物がそれぞれ0.25%以下であれば本発明の効果に影響を与えることはない。
【0023】
すなわち、本発明は、Ti、Crのような包晶元素を含有した純アルミニウム系(1000系)、Al−Mn系(3000系)、Al−Mg系(5000系)、Al−Mg−Si系(6000系)のアルミニウム合金に適用される。
【0024】
以下、本発明のアルミニウム合金板の製造方法について説明する。鋳塊として、鋳塊の圧延面における結晶粒の中心部の直径5μm領域部とこの結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の包晶元素の濃度の差が0.040%以下の鋳塊を用い、熱間圧延、冷間圧延を経てアルミニウム合金板を製造する。上記の鋳塊を用いて製造されたアルミニウム合金板は陽極酸化処理後に筋模様が無く、表面品質に優れたものとなる。
【0025】
通常の半連続鋳造により鋳造され、均質化処理された鋳塊について、鋳塊の圧延面において鋳造時に形成される結晶粒を見ると、平均粒径50〜500μmの結晶粒からなる鋳塊組織が観察される。例えば、鋳塊の上下圧延面の数か所の結晶粒について、結晶粒の中心部の直径5μm領域部とこの結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部について、EPMAを用いて電子線を照射して発生する蛍光X線から濃度を測定する点分析を行い、包晶元素の濃度差を求め、濃度差が0.040%以下であることを確認し、この鋳塊を用いて陽極酸化すべきアルミニウム合金板を製造する。
【0026】
包晶元素を含むアルミニウム合金溶湯を造塊し、均質化処理された鋳塊の圧延面に存在する結晶粒の中心部の直径5μm領域部とこの結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の包晶元素の濃度の差が0.040%以下の鋳塊を得るには、造塊された鋳塊について、各アルミニウム合金の固相線温度未満、望ましくは(固相線温度−50℃)以上の温度域で3hを超える時間均質化処理を行うのが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造により造塊した。得られた鋳塊(横方向断面寸法:厚さ500mm、幅1000mm)を表に示す条件で均質化処理した後、室温まで冷却し、鋳塊の上下圧延面および左右側面を各20mm面削した。この鋳塊の圧延面に存在する5か所の結晶粒についてEPMAを用いて点分析を行い、固溶Tiと固溶Crの分布状態を調査し、結晶粒の中心部の直径5μm領域部とこの結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差を求めた。
【0029】
上記均質化処理後の鋳塊を480℃まで再加熱して熱間圧延を開始し、厚さ5.0mmまで圧延した。熱間圧延の終了温度は250℃とした。続いて、1.0mmまで冷間圧延した後、400℃で1hの軟化処理を行った。
【0030】
得られた板材の幅方向の任意の5か所について、EPMAを用いて、各々10mm長さの線分析を行い、固溶Tiと固溶Crの分布状態を調査し、隣り合う帯における固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差を求めた。10mm長さの線分析を行うと、複数の帯を測定することになり、濃度差の値も複数得られるが、各か所で隣り合う帯の濃度差の最も大きい値を代表値とした。5か所の代表値を用いて平均値を算出した。
【0031】
上記の板材をショットブラストにより粗面化仕上げした後、燐酸および硫酸による化学研磨を行い、その後、硫酸による陽極酸化処理により、10μm厚さの陽極酸化皮膜を形成した。得られた陽極酸化処理材について、目視にて帯状筋模様の発生有無を確認し、また、陽極酸化処理材の幅方向の5か所について、筋模様の発生しているものは筋模様の部分を、筋模様の発生していないものは任意の部分について、EPMAを用いて、各々10mm長さの線分析を行い、固溶Tiと固溶Crの分布状態を調査し、隣り合う帯における固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差を求めた。10mm長さの線分析を行うと、複数の帯を測定することになり、濃度差の値も複数得られるが、各か所で隣り合う帯の濃度差の最も大きい値を代表値とした。5か所の代表値を用いて平均値を算出した。
【0032】
得られた結果を表2、表3に示す。表2に示すように、本発明に従う試験材1〜10は、均質化処理後の鋳塊において、結晶粒の中心部の直径5μm領域部とこの結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差は0.040%以下であり、陽極酸化処理前の板材において、隣り合う帯における固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差は0.008%以下であった。
【0033】
また、表3に示すように、試験材1〜10においては、陽極酸化処理後に帯状筋模様が発生せず、優れた表面品質を有していた。また、陽極酸化処理材において、隣り合う帯における固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差は0.005%以下であることが確認された。
【0034】
これに対して、試験材11〜15は、低温で均質化処理を行なったことに起因して、表2に示すように、均質化処理後の鋳塊において、結晶粒の中心部の直径5μm領域部とこの結晶粒の粒界から2.5μm離れた粒界近傍部の直径5μm領域部の固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差は0.040%を超え、また、陽極酸化処理前の板材において、隣り合う帯における固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差も0.008%を超えており、表3に示すように、いずれも陽極酸化処理後に帯状筋模様が発生し、陽極酸化処理材において、隣り合う帯における固溶Tiと固溶Crの濃度の総和の平均値の差は0.005%を超えていることが確認された。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】