(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1分配弁よりも前記圧縮空気の流れ方向の上流側に設けられ、前記内燃機関の始動時に圧縮空気源から前記第1分配弁に至る圧縮空気流路を開放し、前記内燃機関の始動後に前記圧縮空気流路を閉塞する制御弁を更に備える請求項2又は3に記載の排気ガス再循環装置。
前記供給タイミングは、前記内燃機関の燃焼プロセスにおける圧縮行程の後半から膨張行程が始まる前のタイミングである請求項1から4のいずれかに記載の排気ガス再循環装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のEGR装置は、吸気側にEGRガスを環流させるための制御弁と、この制御弁を制御するコントローラーとを別途設ける必要がある。また、特許文献2の燃料噴射装置は、燃料噴射弁に送られるEGRガスの供給量を調整する制御弁や、この制御弁を制御するコントローラーを設ける必要があり、また、EGRガスを送出する圧縮機などの大型の付帯設備を設ける必要がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、制御弁やコントローラーを新たに設けなくても、簡単な構成で、EGRガスを吸気側に再循環させることが可能な排気ガス再循環装置、及びこの排気ガス再循環装置を備えた内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、圧縮空気供給弁と、バイパス流路と、逆止弁とを備える排気ガス再循環装置である。前記圧縮空気供給弁は、
入力ポートに導かれた圧縮空気を、空気始動方式の内燃機関の始動時に予め定められた供給タイミングで前記内燃機関の燃焼室
に供給する。前記バイパス流路は、前記燃焼室から排出された排気ガスを前記圧縮空気供給弁の入力ポートに導く。前記逆止弁は、前記バイパス流路に設けられ、前記バイパス流路から前記圧縮空気供給弁の入力ポートへ向かう一方向に前記排気ガスを流通させる。
【0007】
このように構成されているため、空気始動方式の内燃機関においては、EGRガスを所定の供給タイミングで燃焼室に供給するための機構として、空気始動に用いられる圧縮空気供給弁を兼用することができる。これにより、構成が簡略でありコンパクトな排気ガス再循環装置を実現することができる。また、この排気ガス再循環装置が備えられた内燃機関の付属装置を減少させることができる。
【0008】
(2) 前記圧縮空気供給弁は、前記内燃機関が備える複数の気筒ごとに設けられている。この場合、本発明の排気ガス再循環装置は、複数の気筒ごとに異なる前記供給タイミングで前記圧縮空気供給弁の入力ポートに前記圧縮空気を分配して供給する第1分配弁を更に備える。また、前記バイパス流路は、前記第1分配弁の入力ポートに接続されており、前記第1分配弁を介して前記圧縮空気供給弁の入力ポートに前記排気ガスを導く。
【0009】
この構成により、始動用の圧縮空気だけでなく、EGRガスを第1分配弁によって各気筒ごとに最適なタイミングで供給することができる。
【0010】
(3) 前記供給タイミングは、前記内燃機関の燃焼プロセスにおける圧縮行程の後半から膨張行程が始まる前のタイミングである。
【0011】
これにより、始動時に圧縮空気を燃焼室に供給するタイミングと、EGRガスを燃焼室に供給するタイミングを同じにして、内燃機関の始動及びEGRガスの供給を効率よく行うことができる。
【0012】
(4) 前記第1分配弁は、複数の出力ポートと、回転体と、移動部材とを有する。複数の出力ポートは、複数の前記圧縮空気供給弁それぞれの入力ポートに接続される。回転体は、前記内燃機関のカム軸に連結され前記カム軸の回転に伴い回転することにより前記第1分配弁の入力ポートからの流体を前記複数の出力ポートのいずれかに導く連通孔を有する。移動部材は、前記出力ポートと前記回転体との間で移動可能に設けられており、前記内燃機関の始動時に燃焼プロセスにおける膨張行程の開始タイミングで前記連通孔から前記出力ポートまでの中継流路を形成する第1位置に配置され、前記内燃機関の始動後に燃焼プロセスにおける圧縮行程の開始タイミングで前記中継流路を形成する第2位置に配置される。
【0013】
これにより、始動時に第1分配弁の入力ポートに圧縮空気が流入した場合に、その圧縮空気を前記膨張行程の開始タイミングで燃焼室に供給することができる。これにより、内燃機関を円滑に始動できる。また、始動後に第1分配弁の入力ポートにEGRガスが流入した場合に、そのEGRガスを前記圧縮行程の開始タイミングで燃焼室に供給することができる。これにより、オーバーラップのタイミングを外してEGRガスが燃焼室に供給される。つまり、EGRガスの抜けが無くなり、必要最小限のEGRガスを効率よく燃焼室に供給することができる。
【0014】
(5) 本発明の排気ガス再循環装置は、第1分配弁よりも前記圧縮空気の流れ方向の上流側に設けられ、前記内燃機関の始動時に圧縮空気源から前記第1分配弁に至る前記圧縮空気流路を開放し、前記内燃機関の始動後に前記圧縮空気流路を閉塞する制御弁を更に備える。
【0015】
この構成により、内燃機関の始動後に前記圧縮空気流路が制御弁によって閉塞されるため、EGRガスが圧縮空気流路の上流側へ逆流することが防止される。
【0016】
(6) 前記圧縮空気供給弁は、前記内燃機関が備える複数の気筒ごとに設けられている。この場合、本発明の排気ガス再循環装置は、複数の気筒ごとに異なる前記供給タイミングで前記バイパス流路から前記圧縮空気供給弁の入力ポートに前記排気ガスを分配して供給する第2分配弁を更に備える。
【0017】
この構成により、前記内燃機関の始動用に用いられる前記第1分配弁とは別の第2分配弁によって排気ガスが圧縮空気供給弁に供給されて、燃焼室に供給される。このため、前記第1分配弁による分配タイミングとは異なるタイミングで排気ガスを燃焼室に供給することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、構成部品を少なく、コンパクトな排気ガス再循環装置を実現することが可能である。また、排気ガス再循環装置を備える内燃機関の付属部品を減少させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。
【0021】
[内燃機関10]
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る内燃機関10は、船舶において発電用モータに回転力を供給する用途として使用されたり、船舶のプロペラ軸を回転させる用途として使用されるものであり、例えば、機関出力が数百kW〜数千kWの大型の4サイクルのディーゼルエンジンである。
【0022】
内燃機関10は、例えば複数の気筒が直列に配置されたものであり、主として、シリンダ14と、シリンダ14に沿って往復運動可能に支持されたピストン11と、シリンダ14の燃焼室15に燃料を噴霧するインジェクタ23と、クランク軸(不図示)に連結されたコンロッド13と、吸気マニホールド27を介してシリンダ14へ空気を送り込む過給機22と、過給機22から送り込まれた空気を冷却するためのインタークーラ24とを備えている。これらの各構成要素は、内燃機関10の筐体であるエンジン本体(不図示)やシリンダ14の上部に設けられたシリンダヘッド(不図示)に組み付けられている。
【0023】
図1に示されるように、過給機22はエンジン本体に取り付けられており、吸気流路29と排気ガス流路32とを連結するように設けられている。なお、吸気流路29は、空気の取り込み口である吸気口28から各シリンダ14の吸気バルブ18に至る気体(吸気ガス)の流路である。また、排気ガス流路32は、各シリンダ14の排気バルブ19から排気口30に至る気体(排気ガス)の流路である。過給機22は、タービン22A及びコンプレッサ22Bを有している。内燃機関10の運転時は、排気ガス流路32の排気ダクト31に設けられたタービン22Aが排気ガスの流れを受けて回転すると、吸気流路29の吸入ダクト33に設けられたコンプレッサ22Bが回転する。これにより、吸気口28から吸入した外部の吸気が圧縮されて燃焼室15へ送られる。
【0024】
吸気流路29において、過給機22よりも吸気方向下流側(以下、単に「下流側」と称する。)にインタークーラ24が設けられている。過給機22によって高温高圧にされた空気は、インタークーラ24へ送り込まれる。インタークーラ24を通過することによって、コンプレッサ22Bによって高温にされた空気が冷却される。
【0025】
吸気流路29において、インタークーラ24よりも下流側には、吸気マニホールド27が設けられている。インタークーラ24によって冷却された空気は、インタークーラ24の下流側に設けられた吸気マニホールド27に送られる。吸気マニホールド27は、エンジン本
体に組み込まれている。吸気マニホールド27から各シリンダ14の吸気バルブ18へ向けて複数の吸気ダクト34が形成されており、その吸気ダクト34を通じて各シリンダ14の燃焼室15へ空気が供給される。
【0026】
[空気始動装置40]
図2に示されるように、内燃機関10は、空気始動装置40を備えている。空気始動装置40は、シリンダ14の燃焼室15に圧縮空気を直接送り込み、その空気圧によってピストン11を動作させることによりクランク軸を回転させて、内燃機関10を着火速度まで回転させる装置である。この空気始動装置40は、主として、始動用の押しボタンスイッチ41と、始動用の電磁弁42と、自動弁43(本発明の制御弁の一例)と、圧縮空気を貯留する空気槽44(本発明の圧縮空気源の一例)と、分配弁45(本発明の第1分配弁の一例)と、始動弁46(本発明の圧縮空気供給弁の一例)とを備えている。
【0027】
電磁弁42は、およそ10MPaに圧縮された制御用の圧縮空気(以下「制御空気」という。)を自動弁43に供給するための電磁開閉弁である。電磁弁42は、押しボタンスイッチ41に電気的に接続されている。押しボタンスイッチ41は、内燃機関10に対して始動操作を行う際に押圧される。また、押しボタンスイッチ41は、内燃機関10に対する始動操作が行われないとき、或いは内燃機関10が始動した後に非押圧状態にされる。押しボタンスイッチ41が押圧されて、押しボタンスイッチ41から制御信号を受けると、電磁弁42は、自動弁43に続く空気流路を開放して、自動弁43に前記制御空気を供給する。なお、電磁弁42は、押しボタンスイッチ41が押圧されていないときは、自動弁43に続く空気流路を遮断する。
【0028】
自動弁43は、前記制御空気が供給されたときに動作する開閉弁である。自動弁43の入力ポートは、配管を介して空気槽44に接続されている。また、自動弁43の出力ポートには逆止弁43Aが接続されている。空気槽44には、30〜40MPaに圧縮された圧縮空気(以下「高圧空気」という。)が貯留されている。本実施形態では、自動弁43は、後述する空気流路55とバイパス流路61との接続部よりも前記高圧空気の流れ方向の上流側に設けられている。自動弁43の内部には、前記入力ポートと前記出力ポートとの間の内部流路を開閉する内部バルブが備えられている。自動弁43に前記制御空気が供給されているとき、前記内部バルブが動作して、前記入力ポートと前記出力ポートとの間の内部流路を開放し、空気槽44に貯留された前記高圧空気を前記出力ポートから流出させる。つまり、押しボタンスイッチ41が押圧されることにより内燃機関10に対して始動操作が行われた時(内燃機関の始動時)に、自動弁43に前記制御空気が供給されると、前記内部バルブは前記内部流路を開放する。一方、自動弁43に前記制御空気が供給されていないとき、前記内部バルブは動作せずに、前記入力ポートと前記出力ポートとの間の内部流路を閉塞した状態を維持する。つまり、内燃機関10に対する始動操作が終了したとき(内燃機関の始動後)に、自動弁43に前記制御空気が供給されなくなり、前記内部バルブは前記内部流路を閉塞する。
【0029】
逆止弁43Aは、自動弁43の出力ポートに燃焼室15からの燃焼ガスが逆流することを防止するものである。逆止弁43Aは、前記出力ポートから外部へ一方向に前記高圧空気を流通させる。逆止弁43Aは、配管などによって形成される空気流路55を介して分配弁45
の入力ポートに接続されている。したがって、自動弁43から流出された高圧空気は、空気流路55を通って分配弁45
の入力ポートに供給される。
【0030】
分配弁45は、複数の気筒ごとに異なる供給タイミングで前記高圧空気を始動弁46に分配するものである。詳細には、分配弁45は、入力された前記高圧空気を複数の出力ポートから所定の時間間隔をあけて複数の気筒ごとに設けられた複数の始動弁46それぞれへ向けて順次流出させるものである。各出力ポートには、内燃機関10の複数の気筒ごとに設けられた始動弁46が接続されている。分配弁45としては、例えば、内燃機関10のカム軸に連結された回転体がカム軸の回転に伴って回転することにより、
分配弁45の入力ポートに入力された高圧空気を複数の出力ポートに順番に分配して、各出力ポートから順次流出させる機械式の分配弁が適用可能である。この分配弁45によって、空気槽44から導かれた高圧空気が各始動弁46に周期的に供給される。これにより、各始動弁46が順次開閉し、空気槽44の高圧空気が始動弁46を介してシリンダ14の燃焼室15内に順次供給される。ここで、分配弁45に代えて、入力された制御信号が示すタイミングに応じて複数の出力ポートを順次開閉する複数の電磁弁からなる電気駆動式の分配弁を適用することも可能である。なお、本実施形態で用いられる機械式又は電気駆動式の単純な分配弁は、従来周知のものであるため、ここではその機構の詳細な説明は省略する。
【0031】
分配弁45による始動弁46への前記高圧空気の供給タイミングは、内燃機関10の燃焼プロセスにおける圧縮行程の後半から膨張行程が始まる前までのタイミングである。言い換えると、前記供給タイミングは、燃焼プロセスにおいて、燃焼室15内の燃焼混合気が圧縮される前記圧縮行程から前記膨張行程に移行するタイミングである。つまり、前記供給タイミングは、実際の燃焼プロセスにおいて圧縮行程が終わって膨張行程が始まるタイミングである。本実施形態では、内燃機関10の始動時に、前記膨張行程が始まるタイミングに対応する位置にピストン11が配置されているシリンダ14の燃焼室15に高圧空気が供給される。前記供給タイミングで分配弁45から始動弁46に前記高圧空気が供給されることにより、実際の燃焼プロセスにおける膨張行程に相当するタイミングで、始動弁46が開いて、始動弁46から圧縮空気が燃焼室15に供給されて、この圧縮空気がピストン11に作用する。その結果、ピストン11が往復運動することによりクランク軸が回転し、内燃機関10が回転する。なお、前記供給タイミングは、前記圧縮行程の後半から前記膨張行程が始まるまでの間のタイミングであればよく、このタイミングであれば、ピストン11に圧縮空気が作用してピストン11が円滑に往復運動することができる。
【0032】
始動弁46は、空気始動方式の内燃機関10の始動時に予め定められた前記供給タイミングで内燃機関10の燃焼室15に前記高圧空気を供給するものである。始動弁46は、2つの入力ポート48,49を備えている。入力ポート48
(本発明の第2入力ポートの一例)には、分配弁45から流出される前記高圧空気の空気流路56が接続されている。また、入力ポート49
(本発明の第1入力ポートの一例)には、空気流路55から分岐された分岐流路57が接続されている。ここで、空気流路56及び分岐流路57は、いずれも、配管などで構成されている。
【0033】
始動弁46は、ハウジング50の内部に形成された2つの空室51,52を有している。また、空室51と空室52とをつなぐ筒状の内孔に作動弁53がスライド可能に設けられている。作動弁53は、通常は、内部に設けられたバネ58の付勢力によって、空室52に連通する出力ポート54を閉塞する姿勢を維持している。そして、バネ58の付勢力に抗する方向に予め定められた設定値以上の力が作用されると、作動弁53は出力ポート54を開放する。具体的には、自動弁43が作動して前記高圧空気が空気流路55に流出されると、空気流路55及び分岐路57を経て前記高圧空気が入力ポート49に流入する。しかし、前記高圧空気が入力ポート49に流入しても、その高圧空気がバネ58の付勢力に抗する方向へ作用しないため、出力ポート54は開放されない。また、自動弁43が作動して前記高圧空気が空気流路55に流出されると、空気流路55から前記高圧空気が分配弁45に流入し、分配弁45によっていずれか一つの気筒に対応する始動弁46に前記高圧空気が分配される。このとき分配された前記高圧空気が入力ポート48に入力されると、前記高圧空気によってバネ58の付勢力に抗する方向の力が作動弁53に加えられる。このとき、入力ポート48に流入した前記高圧空気によって、前記設定値以上の力が作動弁53に加えられて、始動弁46の出力ポート54が開放される。これにより、入力ポート49に流入した前記高圧空気が出力ポート54から燃焼室15へ供給される。出力ポート54からの前記高圧空気が燃焼室15に流入すると、シリンダ14内のピストン11が動作して、クランク軸を回転させるとともにカム軸を回転させる。カム軸が回転することにより、分配弁45の複数の出力ポートが切り替えられる。これにより、所定の着火順序にしたがって各気筒のピストン11が動作されて、内燃機関10が回転される。
【0034】
[EGR装置60]
また、
図2に示されるように、内燃機関10は、本発明の実施形態に係る排気ガス再循環装置(EGR装置)60を備えている。EGR装置60は、空気始動方式の内燃機関10の燃焼室15から排出される排気ガスを空気始動装置40を利用して燃焼室15に再び環流させる装置である。このEGR装置60は、バイパス流路61(本発明のバイパス流の一例)と、逆止弁62(本発明の逆止弁の一例)と、これらに加えて前述した分配弁45及び始動弁46とによって構成されている。つまり、EGR装置60の構成要素のうち、分配弁45及び始動弁46は、空気始動装置40の構成要素が兼用されている。
【0035】
具体的には、バイパス流路61は配管などで構成されており、その一方端は、空気槽44から自動弁43を経て分配弁45や始動弁46に前記高圧空気を供給するための空気流路55に接続されている。また、バイパス流路61の他方端は、排気ガス流路32に接続されている。バイパス流路61は、内燃機関10の燃焼室15から排出されて排気ガス流路32を流れる排気ガスを空気流路55に導く流路である。本実施形態では、
図2に示されるように、バイパス流路61は、過給器22よりも排気ガスの流れる方向の上流側に接続されている。なお、環流される排気ガスの濃度を少なくする場合は、過給器22よりも下流側でバイパス流路61を接続するようにしてもよい。
【0036】
逆止弁62は、バイパス流路61に設けられている。逆止弁62は、空気流路55を流れる前記高圧空気が排気ガス流路32に逆流することを防止するものであり、バイパス流路61から空気流路55へ向かう一方向にバイパス流路61を流れる排気ガスを流通させる。
【0037】
[空気始動装置40及びEGR装置60の動作]
以下、空気始動装置40及びEGR装置60の動作について説明する。
図2に示されるように、停止中の内燃機関10を始動させる場合に、押しボタンスイッチ41が押圧される。これにより、電磁弁42に制御信号が送られて、電磁弁42は、自動弁43に前記制御空気を供給する。自動弁43に前記制御空気が供給されると、空気槽44に貯留されている前記高圧空気が空気流路55及び分岐路57に供給される。なお、逆止弁62が設けられているため、バイパス流路61から排気ガス流路32に前記高圧空気が供給されない。空気流路55を介して分配弁45に供給された前記高圧空気は、空気流路56及び入力ポート48を通じて、いずれかの始動弁46の空室51に流入する。また、分岐路57を介して全ての始動弁46の空室52に前記高圧空気が流入する。これにより、空室51に前記高圧空気が流入した始動弁46では、作動弁53が作動して出力ポート54が開放されるので、空室52から始動弁46の出力ポート54を経てシリンダ14の燃焼室15に前記高圧空気が前記供給タイミングで供給される。このため、ピストン11が動作されて内燃機関10のクランク軸が回転する。クランク軸が回転すると、ギヤなどを介して駆動力がカム軸に伝達されて、カム軸が回転する。そして、カム軸の回転を受けて、分配弁45は、始動弁46に供給される前記高圧空気の出力ポートを順次切り替える。これにより、所定の着火順序にしたがって内燃機関10の各気筒のピストン11が動作される。そして、カム軸の回転に伴って、燃料噴射ポンプ(不図示)による燃料の噴射が開始され、所定の着火順序にしたがって各気筒における圧縮着火が始まると、内燃機関10の始動が完了する。
【0038】
また、
図3に示されるように、内燃機関10の始動が完了すると、押しボタンスイッチ21の押圧が解除される。これにより、前記高圧空気が空気流路55及び分岐路57に供給されなくなる。一方、内燃機関10が回転駆動し始めると、内燃機関10の排気行程において排気バルブ19が開けられ、燃焼室15から高圧の排気ガスが排気ガス流路32に排出される。排気ガス流路32に排出された排気ガスの一部は、バイパス流路61を通って空気流路55及び分岐路57に流入する。ここで、バイパス流路61から空気流路55及び分岐路57に流入する排気ガスをEGRガスと呼ぶ。なお、空気流路55には逆止弁43Aが設けられているため、前記EGRガスはバイパス流路61から自動弁43の出力ポートに流入しない。空気流路55を介して分配弁45に供給された前記EGRガスは、分配弁45によって順次切り替えられる出力ポートからいずれかの始動弁46の空室51に流入する。また、分岐路57を介して全ての始動弁46の空室52に前記EGRガスが流入する。空室51に前記EGRガスが流入すると、空室51に流入した前記EGRガスの圧力によって始動弁46が作動して、出力ポート54が開放される。これにより、空室52から始動弁46の出力ポート54を経てシリンダ14の燃焼室15に前記EGRガスが前記供給タイミングで供給される。このとき、燃焼室15の燃焼混合気が爆発する前に、始動弁46からシリンダ14の燃焼室15に前記EGRガスが供給される。
【0039】
[実施形態の作用効果]
このように、本実施形態のEGR装置60は、空気始動装置40の分配弁45や始動弁46を利用して前記EGRガスを各気筒ごとに異なるタイミングで供給しているので、各気筒ごとに前記EGRガスを供給するための制御弁やコントローラーを設ける必要がない。これにより、EGR装置60の構成を簡略にすることができ、コンパクトなEGR装置60を実現することができる。また、このEGR装置60が備えられた内燃機関10であれば、内燃機関10の付属部品(付属装置)を減少させることができる。
【0040】
また、上述の実施形態では、前記供給タイミング(内燃機関10の燃焼プロセスにおける圧縮行程の後半から膨張行程が始まる前のタイミング)で前記EGRガスが供給される。このため、始動時に前記高圧空気を燃焼室15に供給するタイミングと、前記EGRガスを燃焼室15に供給するタイミングを同じにして、内燃機関10の始動及び前記EGRガスの供給を効率よく行うことができる。
【0041】
また、前記EGRガスが圧縮行程の後半から膨張行程が始まる前のタイミングで燃焼室15に供給される。このタイミングでは、排気バルブ19が閉じられているため、燃焼室15内に入り込んだ前記EGRガスが排気ダクト31へ抜け出ることはない。これにより、前記EGRガスの供給量が少なくて済む。したがって、分配弁45に供給される前記EGRガスの量が少量で済むため、本実施形態のように、バイパス流路61にブロアなどの圧縮機を設けなくても、分配弁45へ前記EGRガスを送り込むことができる。
【0042】
また、分配弁45が設けられているため、内燃機関10の始動時に用いられる前記高圧空気だけでなく、前記EGRガスを各気筒ごとに最適なタイミングで供給することができる。
【0043】
なお、上述の実施形態では、複数気筒を有する内燃機関10に適用されるEGR装置60について例示したが、単気筒の内燃機関にもEGR装置60を適用することも可能である。この場合、分配弁45は、1つの気筒に対して前記供給タイミングで前記高圧空気を供給する。また、前記制御空気によって作動する自動弁43を用いて前記高圧空気を空気流路55へ供給する構成を例示したが、自動弁43に代えて耐圧性の高い電磁弁を適用することも可能である。この場合、前記制御空気の供給を制御する電磁弁42は必要としない。
【0044】
[第2実施形態]
以下、
図4乃至
図6を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、上述の第1実施形態の分配弁45に代えて、
図4及び
図5に示される分配弁70(本発明の第1分配弁の一例)が用いられる。本実施形態は、分配弁70が用いられる点を除き上述の第1実施形態と構成が共通するため、共通する構成については、第1実施形態の構成に付した符号を付し示すことによりその説明を省略する。
【0045】
分配弁70は、複数の気筒ごとに異なる供給タイミングで前記高圧空気を始動弁46に分配するものである。詳細には、分配弁45は、入力された前記高圧空気を所定の時間間隔をあけて複数の気筒ごとに設けられた複数の始動弁46それぞれへ向けて順次流出させるものである。
図4及び
図5に示されるように、分配弁70は、本体71と、カバー72と、回転弁73(本発明の回転体の一例)と、蓋体74とを備えている。
【0046】
本体71は直方体形状に形成されており、内部には円柱状の内部空間が形成されている。本体71の外周壁には、内部空間に貫通する複数の出力ポート77が形成されている。出力ポート77は、内燃機関10が備える気筒数と同じ数だけ設けられている。例えば、内燃機関10が6気筒のディーゼルエンジンであれば、6つの出力ポート77が本体71に形成されている。全ての出力ポート77は、空気流路56を介して、内燃機関10の複数の気筒ごとに設けられた複数の始動弁46それぞれの入力ポート48に接続されている。
【0047】
カバー72は、本体71の一方側の開口部を閉塞するように本体71に固定されている。カバー72と本体71との間にはシール部材などが介在されており、接合面が気密状にされている。カバー72の内部に円柱状の空室78が形成されている。この空室78に連通するようにカバー72の側壁73Aに入力ポート81が形成されている。入力ポート81に空気流路55が接続されている。カバー72の空室78に円板状の回転弁73が回転可能に設けられている。本体71の他方側の開口部は蓋体74によって閉塞されている。蓋体74にはカム軸80が挿通可能な孔79が形成されている。孔79に内燃機関10のカム軸80が挿通されて、本体71の内部空間を通って空室78まで挿入されている。そして、空室78において回転弁73の中心部にカム軸80が連結されている。これにより、回転弁73は、カム軸80の回転に伴い回転可能となる。
【0048】
回転弁73には、分配弁70の入力ポート81から流入した気体(高圧空気又はEGRガス)を出力ポート77のいずれかに導く一つの連通孔82が形成されている。カム軸80の回転によって回転弁73が回転すると、連通孔82が回転方向へ移動して、その移動過程において、いずれかの出力ポート77に続く後述の中継流路83に連通孔82が対向する。連通孔82が中継流路83に対向したときに、入力ポート81から流入した気体が空室78、連通孔82、中継流路
83を順次経て出力ポート77に供給されて、出力ポート77から始動弁46へ流出される。
【0049】
本体71の内部空間には、切換部材75(本発明の移動部材の一例)が設けられている。切換部材75は、出力ポート77と回転弁73との間に設けられている。この切換部材75は、本体71の内部空間の内壁に摺接した状態で、カム軸80の中心軸を中心とする回転方向へ回動可能に設けられている。
図6(A)に示されるように、切換部材75には、連通孔82から複数の出力ポート77それぞれに至る複数の中継流路83が形成されている。
図6(A)では、6気筒の内燃機関10に対応して6つの中継流路83が示されている。本実施形態では、後述するように切換部材75が第1位置及び第2位置の間を移動しても中継流路83と出力ポート77とが連通するように、出力ポート77の中継流路83側が末広がり形状に形成されている。切換部材75の中心には、カム軸80を挿通する軸孔が形成されており、この軸孔を通じてカム軸80が回転弁73まで挿入されている。ここで、
図6(A)の左図は、
図5(B)における矢視A−Aの断面図である。また、
図6(A)の右図は、
図5(B)における矢視B−Bの断面図である。
【0050】
図6(A)に示されるように、切換部材75には、4つの切り欠き溝85が形成されている。また、本体71の内部空間の内面には、4つの切り欠き溝85に挿入される4つの突出部86が形成されている。切り欠き溝85は、突出部86よりも幅広に形成されている。突出部86は、切換部材75がカム軸80を中心に回動したときにその回動範囲を制限する役割を担っている。具体的には、切換部材75がカム軸80を中心に一方向(例えばカム軸80の回転方向と同方向)へ回動すると切り欠き溝85の一方の端壁85Aが突出部86に当接して停止する。また、切換部材75がカム軸80を中心に他方向(例えばカム軸80の回転方向とは反対の方向)へ回動すると切り欠き溝85の他方の端壁85Bが突出部86に当接して停止する。
【0051】
また、
図6(A)に示されるように、切り欠き溝85において、端壁85Aと突出部86との間にバネなどの弾性部材87が設けられている。弾性部材87は、突出部86から端壁85Aを離反させる方向へ弾性付勢している。このため、切換部材75に弾性部材87以外の外力が加えられていない状態で、切換部材75は、
図6(A)に示されるように、端壁85Bが突出部86に近接した第1位置に配置される。本実施形態では、前記第1位置は、内燃機関10の始動時に燃焼プロセスにおける膨張行程の開始タイミングで連通孔82から出力ポート77までの中継流路
83を形成する位置に設定されている。また、切換部材75に弾性部材87の弾性付勢力以上の外力が加えられた状態で、切換部材75は、
図6(B)に示されるように、端壁85Bが突出部86から離れて、端壁85Aが突出部86に近接した第2位置に配置される。本実施形態では、前記第2位置は、内燃機関10の始動時に燃焼プロセスにおける圧縮行程の開始タイミングで連通孔82から出力ポート77までの中継流路
83を形成する位置に設定されている。
【0052】
切換部材75に付与される前記外力としては、例えば、内燃機関10が始動したときの潤滑油の圧力を利用することができる。
図6(A)に示されるように、本体71に切り欠き溝85までの貫通孔88を形成し、この貫通孔88に潤滑油配管から分岐した配管を連結する。これにより、内燃機関10の始動時は、潤滑油が低圧であるため、切換部材75を回動させる外力は付与されず、切換部材75が前記第1位置を維持する。しかし、内燃機関10が始動されると、潤滑油の圧力が上昇するため、その圧力によって切換部材75が前記第1位置から前記第2位置へ回動する。なお、切換部材75に外力を付与する手段は、始動時後の潤滑油の圧力を利用するものに限られず、制御弁などによって圧縮空気を貫通孔88に供給する構成など、様々な構成を採用することが可能である。
【0053】
このように構成された分配弁70が用いられるため、本発明の第2実施形態においては、内燃機関10の始動時に分配弁70の入力ポート81に圧縮空気が流入した場合に、その圧縮空気を膨張行程の開始タイミングに対応する位置に配置されたピストン11の燃焼室15に供給することができる。これにより、内燃機関10を円滑に始動できる。また、始動後に分配弁70の入力ポート81にEGRガスが流入した場合に、そのEGRガスを圧縮行程の開始タイミングで燃焼室15に供給することができる。これにより、オーバーラップのタイミングを外してEGRガスが燃焼室15に供給されるから、EGRガスの抜けが無くなり、必要最小限のEGRガスを効率よく燃焼室15に供給できる。
【0054】
[第3実施形態]
以下、
図7を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。なお、上述の第1実施形態と共通する構成については、第1実施形態の構成に付した符号を付し示すことによりその説明を省略する。上述の第1実施形態では、内燃機関10を前記高圧空気で始動する際に用いられる分配弁45を利用して前記EGRガスを前記供給タイミングで燃焼室15に供給する実施例について説明したが、本発明はこの実施例に限られない。例えば、
図7に示されるように、既存の分配弁45を利用せずに、前記EGRガスを供給するためだけに用いられる別の分配弁90(本発明の第2分配弁の一例)を設け、この分配弁90にバイパス流路61を接続して、バイパス流路61からのEGRガスを燃焼室15に供給する構成であってもよい。この場合、バイパス流路61は分配弁45に接続されず、分配弁90の入力ポートに接続される。また、別途設けられた分配弁90の出力ポートは始動弁46の入力ポート48に接続される。このような構成であれば、分配弁90は、バイパス流路61からのEGRガスを分配して複数の気筒ごとに設けられた始動弁46に供給することができる。これにより、燃焼プロセスにおける圧縮行程の後半から膨張行程が始まる前のタイミングでEGRガスを始動弁46を通じて燃焼室15に供給することが可能である。
【0055】
なお、分配弁45とは別に分配弁90が設けられているため、この分配弁90による分配タイミングは任意に調整可能である。したがって、この分配弁90による前記EGRガスの供給タイミングは分配弁45による前記高圧空気の供給タイミングと異ならせてもよい。例えば、分配弁45による前記高圧空気の供給タイミングを燃焼プロセスにおける膨張行程の開始タイミングとし、分配弁90による前記EGRガスの供給タイミングを燃焼プロセスにおける圧縮行程の開始タイミングとしてもよい。これにより、オーバーラップのタイミングを外して前記EGRガスを燃焼室15に供給することができる。
【0056】
なお、上述の各実施形態では、バイパス流路61から空気流路55及び分岐路57へ供給されるEGRガスとして排気ガスを例示したが、これに限られない。排気ガスに代えて、窒素ガスなどの不活性ガス(イナートガス)を空気流路55及び分岐路57に供給して、燃焼室15へ送る構成であってもよい。窒素ガスなどの不活性ガスを供給する手段としては、例えば、船内などに設けられたボイラーの排気ガスを洗浄して冷却することにより生成された不活性ガスを供給する方式、専用のオイルバーナーの燃焼により排気ガスを作り、これを不活性ガスとして供給する方式、空気から窒素ガスを生成する窒素ガス生成装置によって生成された窒素ガスを不活性ガスとして供給する方式、などが適用可能である。このような不活性ガス供給手段を用いた場合は、燃焼プロセスの圧縮行程中に分配弁45や始動弁46を介して燃焼室15に不活性ガスが供給される。このため、オーバーラップ時に供給される場合に比べて不活性ガスの抜けが無くなり、不活性ガスを節約することができる。
【0057】
なお、上述の各実施形態では、バイパス流路61にブロアなどの圧縮機を設けない構成を例示したが、例えば、内燃機関10の規模如何によっては、必要に応じてバイパス流路61に圧縮機を設けて、バイパス流路61からEGRガスを供給するようにしてもよい。この場合で、仮に圧縮機が必要であるとしても、上述の各実施形態の構成では前記EGRガスの供給量が少なくて済むので、従来よりも容量の小さいコンパクトな圧縮機で対応することが可能である。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0059】
10:内燃機関
11:ピストン
14:シリンダ
15:燃焼室
18:吸気バルブ
19:排気バルブ
22:過給機
31:排気ガス流路
40:空気始動装置:
42:電磁弁
43:自動弁
44:空気槽
45:分配弁
46:始動弁
55,56:空気流路
57:分岐流路
60:EGR装置
61:バイパス流路
62:逆止弁
70,90:分配弁