(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(111)方位の単結晶シリコンである下地基板の上に、前記下地基板の基板面に対し(0001)結晶面が略平行となるようにIII族窒化物層群を形成してなる、半導体素子用のエピタキシャル基板であって、
前記下地基板の上に形成された、AlNからなる第1のIII族窒化物層と、
前記第1のIII族窒化物層の上に形成され、AlpGa1−pN(0≦p<1)からなる第2のIII族窒化物層と、
前記第2のIII族窒化物層の上にエピタキシャル形成され、AlqGa1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表される第3のIII族窒化物層と、
前記第3のIII族窒化物層の上にエピタキシャル形成された少なくとも1つの第4のIII族窒化物層と、
を備え、
前記第1のIII族窒化物層が、柱状あるいは粒状の結晶もしくはドメインの少なくとも一種から構成される、平均膜厚が40nm以上200nm以下の多結晶欠陥含有性層であり、
前記第1のIII族窒化物層と前記第2のIII族窒化物層との界面が3次元的凹凸面であり、
前記界面においては、AlNの(10−11)面もしくは(10−12)面が側壁を成す前記第1のIII族窒化物層の凸部が、5×109/cm2以上5×1010/cm2以下の密度および45nm以上140nm以下の平均間隔にて存在しており、
前記第3のIII族窒化物層が、前記第2のIII族窒化物層との第1の境界部分から前記第4のIII族窒化物層との第2の境界部分に向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が連続的に小さくなる傾斜組成層として形成されてなる、
ことを特徴とする半導体素子用エピタキシャル基板。
(111)方位の単結晶シリコンである下地基板の上に、前記下地基板の基板面に対し(0001)結晶面が略平行なIII族窒化物層群を形成してなる半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、
前記下地基板の上にAlNからなる第1のIII族窒化物層を形成する第1形成工程と、
前記第2のIII族窒化物層の上にAlpGa1−pN(0≦p<1)からなる第2のIII族窒化物層を形成する第2形成工程と、
前記第2のIII族窒化物層の上にAlqGa1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表される第3のIII族窒化物層をエピタキシャル形成する第3形成工程と、
前記第3のIII族窒化物層の上に少なくとも1つの第4のIII族窒化物層をエピタキシャル形成する第4形成工程と、
を備え、
前記第1形成工程においては、前記第1のIII族窒化物層を、柱状あるいは粒状の結晶もしくはドメインの少なくとも一種から構成され、表面が三次元的凹凸面であり、平均膜厚が40nm以上200nm以下の多結晶欠陥含有性層であって、前記表面においては、AlNの(10−11)面もしくは(10−12)面が側壁を成す凸部が5×109/cm2以上5×1010/cm2以下の密度および45nm以上140nm以下の平均間隔にて存在するように形成し、
前記第3形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層を、前記第2のIII族窒化物層との第1の境界部分から前記第4のIII族窒化物層との第2の境界部分に向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が連続的に小さくなる傾斜組成層として形成する、
ことを特徴とする半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、サファイア基板やSiC基板を用いる場合に比較して、シリコン基板上に良質な窒化物膜を形成することは、以下のような理由で非常に困難であることが知られている。
【0009】
まず、シリコンと窒化物材料とでは、格子定数の値に大きな差異がある。このことは、シリコン基板と成長膜の界面にてミスフィット転位を発生させたり、核形成から成長に至るタイミングで3次元的な成長モードを促進させる要因となる。換言すれば、転位密度が少なく表面が平坦である良好な窒化物エピタキシャル膜の形成を阻害する要因となっている。
【0010】
また、シリコンに比べると窒化物材料の熱膨張係数の値は大きいため、シリコン基板上に高温で窒化物膜をエピタキシャル成長させた後、室温付近に降温させる過程において、窒化物膜内には引張応力が働く。その結果として、膜表面においてクラックが発生しやすくなるとともに、基板に大きな反りが発生しやすくなる。
【0011】
このほか、気相成長における窒化物材料の原料ガスであるトリメチルガリウム(TMG)は、シリコンと液相化合物を形成しやすく、エピタキシャル成長を妨げる要因となることも知られている。
【0012】
特許文献1ないし特許文献3および非特許文献1に開示された従来技術を用いた場合、シリコン基板上にGaN膜をエピタキシャル成長することは可能である。しかしながら、得られたGaN膜の結晶品質は、SiCやサファイアを下地基板として用いた場合と比べると決して良好なものではない。そのため、従来技術を用いて例えばHEMTのような電子デバイスを作製した場合には、電子移動度が低かったり、オフ時のリーク電流や耐圧が低くなったりするという問題があった。
【0013】
また、非特許文献3に開示の方法は、HEMT素子の耐電圧の向上には一定の効果があるが、膜厚増加に伴い基板と障壁層/チャネル層界面との距離が離れ、結果として裏面フィールドプレートの効果が小さくなることが知られている。
【0014】
非特許文献4に開示の方法を用いた場合、膜厚を大きく増やすことなくHEMT素子の耐電圧の向上を図れる可能性があるが、二次元電子ガスが走行する部分も混晶化合物となるため、いわゆる合金散乱による電子移動度の低下が起こり、ひいてはオン抵抗の増加を招くという問題がある。
【0015】
非特許文献5に開示の方法を用いた場合、二次元電子ガスの移動度低下を抑えながらHEMT素子の高耐電圧化を図れる可能性があるが、GaNとAlGaNを積層したことによるバンド不連続性や格子不連続に伴い、高電界印加時に電界集中が起きる部位が生じ、結果としてオフ時の耐電圧の低下や漏れ電流が増えるという問題がある。
【0016】
また、そもそも非特許文献3ないし非特許文献5に開示されているのは、シリコン基板上に窒化物膜を形成する事例ではない。窒化物膜を形成する場合においても上述したような耐電圧向上の効果が得られるようにするには、その前提として、シリコン基板上に良質な窒化物膜を形成する必要があるが、非特許文献3ないし非特許文献5のいずれにおいても、窒化物膜の品質確保と耐電圧性向上を両立・整合させる手法について、何らの開示も示唆もなされてはいない。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、シリコン基板を下地基板とし、耐圧の高いHEMT素子を実現できるエピタキシャル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、(111)方位の単結晶シリコンである下地基板の上に、前記下地基板の基板面に対し(0001)結晶面が略平行となるようにIII族窒化物層群を形成してなる、半導体素子用のエピタキシャル基板であって、前記下地基板の上に形成された、AlNからなる第1のIII族窒化物層と、前記第1のIII族窒化物層の上に形成され、Al
pGa
1−pN(0≦p<1)からなる第2のIII族窒化物層と、前記第2のIII族窒化物層の上にエピタキシャル形成され、Al
qGa
1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表される第3のIII族窒化物層と、前記第3のIII族窒化物層の上にエピタキシャル形成された少なくとも1つの第4のIII族窒化物層と、を備え、前記第1のIII族窒化物層が、柱状あるいは粒状の結晶もしくはドメインの少なくとも一種から構成される、平均膜厚が40nm以上200nm以下の多結晶欠陥含有性層であり、前記第1のIII族窒化物層と前記第2のIII族窒化物層との界面が3次元的凹凸面であり、前記界面においては、AlNの(10−11)面もしくは(10−12)面が側壁を成す前記第1のIII族窒化物層の凸部が、5×10
9/cm
2以上5×10
10/cm
2以下の密度および45nm以上140nm以下の平均間隔にて存在しており、前記第3のIII族窒化物層が、前記第2のIII族窒化物層との第1の境界部分から前記第4のIII族窒化物層との第2の境界部分に向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が連続的に小さくなる傾斜組成層として形成されてなる、ことを特徴とする。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1に記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層におけるAlの存在比率
qの変化率が0.13%/nm以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層の厚みをt1(nm)とし前記第4のIII族窒化物の厚みをt2(nm)とするとき、t2≦40e
0.0017t1であることを特徴とする。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層の厚みが1μm以上3μm以下であることを特徴とする。
【0022】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第4のIII族窒化物層が、前記第3のIII族窒化物層と隣接する層としてGaNからなる層を備え、前記第3のIII族窒化物層の前記第2の境界部分がGaNからなる、ことを特徴とする。
【0023】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層の前記第1の境界部分においてq=qaとするとき、0.8≦qa≦1である、ことを特徴とする。
【0024】
請求項7の発明は、請求項6に記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層の前記第1の境界部分がAlNからなる、ことを特徴とする。
【0025】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、複数の前記第3のIII族窒化物層が積層形成されてなる、ことを特徴とする。
【0026】
請求項9の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層と前記第4のIII族窒化物層との間に、AlNからなる層をさらに備える、ことを特徴とする。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第2のIII族窒化物層と前記第3のIII族窒化物層との間に、相異なる組成の2種類以上のIII族窒化物層を周期的に積層した超格子構造層をさらに備える、ことを特徴とする。
【0028】
請求項11の発明は、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第3のIII族窒化物層に、アクセプタ元素がドープされてなることを特徴とする。
【0029】
請求項12の発明は、請求項11に記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記アクセプタ元素がMgであることを特徴とする。
【0030】
請求項13の発明は、請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記第2のIII族窒化物層に、ドナー元素がドープされてなることを特徴とする。
【0031】
請求項14の発明は、請求項13に記載の半導体素子用エピタキシャル基板であって、前記ドナー元素がSiであることを特徴とする。
【0032】
請求項15の発明は、半導体素子を、請求項1ないし請求項14のいずれかに記載のエピタキシャル基板を用いて作製することを特徴とする。
【0033】
請求項16の発明は、(111)方位の単結晶シリコンである下地基板の上に、前記下地基板の基板面に対し(0001)結晶面が略平行なIII族窒化物層群を形成してなる半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記下地基板の上にAlNからなる第1のIII族窒化物層を形成する第1形成工程と、前記第2のIII族窒化物層の上にAl
pGa
1−pN(0≦p<1)からなる第2のIII族窒化物層を形成する第2形成工程と、前記第2のIII族窒化物層の上にAl
qGa
1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表される第3のIII族窒化物層をエピタキシャル形成する第3形成工程と、前記第3のIII族窒化物層の上に少なくとも1つの第4のIII族窒化物層をエピタキシャル形成する第4形成工程と、を備え、前記第1形成工程においては、前記第1のIII族窒化物層を、柱状あるいは粒状の結晶もしくはドメインの少なくとも一種から構成され、表面が三次元的凹凸面であり、平均膜厚が40nm以上200nm以下の多結晶欠陥含有性層であって、前記表面においては、AlNの(10−11)面もしくは(10−12)面が側壁を成す凸部が5×10
9/cm
2以上5×10
10/cm
2以下の密度および45nm以上140nm以下の平均間隔にて存在するように形成し、前記第3形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層を、前記第2のIII族窒化物層との第1の境界部分から前記第4のIII族窒化物層との第2の境界部分に向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が連続的に小さくなる傾斜組成層として形成する、ことを特徴とする。
【0034】
請求項17の発明は、請求項16に記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては、Alの存在比率
qの変化率が0.13%/nm以下となるように前記第3のIII族窒化物層を形成することを特徴とする。
【0035】
請求項18の発明は、請求項16または請求項17に記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3のIII族窒化物層の厚みをt1(nm)とし前記第4のIII族窒化物の厚みをt2(nm)とするとき、t2≦40e
0.0017t1となるように前記第3のIII族窒化物層と前記第4のIII族窒化物層とを形成することを特徴とする。
【0036】
請求項19の発明は、請求項16ないし請求項18のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層を1μm以上3μm以下の厚みに形成することを特徴とする。
【0037】
請求項20の発明は、請求項16ないし請求項19のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層の前記第2の境界部分をGaNにて形成し、前記第4形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層と隣接する層をGaNにて形成する、ことを特徴とする。
【0038】
請求項21の発明は、請求項16ないし請求項20のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層の前記第1の境界部分においてq=qaとするとき、0.8≦qa≦1であるように前記第3のIII族窒化物層を形成する、ことを特徴とする。
【0039】
請求項22の発明は、請求項21に記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては、前記第3のIII族窒化物層の前記第1の境界部分をAlNにて形成する、ことを特徴とする。
【0040】
請求項23の発明は、請求項16ないし請求項22のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては複数の前記第3のIII族窒化物層を積層形成する、ことを特徴とする。
【0041】
請求項24の発明は、請求項16ないし請求項22のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程の後、前記第3のIII族窒化物層の上にAlNからなる層を形成し、前記第4形成工程においては、前記AlNからなる層の上に前記第4のIII族窒化物層を形成する、ことを特徴とする。
【0042】
請求項25の発明は、請求項16ないし請求項22のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第2形成工程の後、前記第2のIII族窒化物層の上に、相異なる組成の2種類以上のIII族窒化物層を周期的に積層した超格子構造層を形成し、前記第3形成工程においては、前記超格子構造層の上に前記第3のIII族窒化物層を形成する、ことを特徴とする。
【0043】
請求項26の発明は、請求項16ないし請求項25のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第3形成工程においては、アクセプタ元素をドープしつつ前記第3のIII族窒化物層を形成することを特徴とする。
【0044】
請求項27の発明は、請求項26に記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記アクセプタ元素がMgであることを特徴とする。
【0045】
請求項28の発明は、請求項16ないし請求項27のいずれかに記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記第2形成工程においては、ドナー元素をドープしつつ前記第2のIII族窒化物層を形成することを特徴とする。
【0046】
請求項29の発明は、請求項28に記載の半導体素子用エピタキシャル基板の製造方法であって、前記ドナー元素がSiであることを特徴とする。
【0047】
請求項30の発明は、半導体素子用エピタキシャル基板を、請求項16ないし請求項29のいずれかに記載のエピタキシャル基板の製造方法を用いて作製したことを特徴とする。
【0048】
請求項31の発明は、半導体素子が、請求項16ないし請求項29のいずれかに記載のエピタキシャル基板の製造方法を用いて作製した半導体素子用エピタキシャル基板を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
請求項1ないし請求項31の発明によれば、第1のIII族窒化物層を結晶性の劣った多結晶欠陥含有性層として設けることによって、下地基板と第2のIII族窒化物層との格子ミスフィットが緩和される。また、第1のIII族窒化物層と第2のIII族窒化物層との界面を三次元的凹凸面とすることによって、第1のIII族窒化物層で発生した転位は当該界面で屈曲されて第2のIII族窒化物層において合体消失することになる。これらにより、単結晶シリコン基板を下地基板として用いた場合であっても、サファイア基板またはSiC基板を用いた場合と同程度の品質および特性を有するIII族窒化物機能層を備えたエピタキシャル基板を実現することができる。
【0050】
加えて、第3のIII族窒化物層を、第2のIII族窒化物層との第1の境界部分から第4のIII族窒化物層との第2の境界部分に向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が連続的に小さくなる傾斜組成層として形成することで、クラックフリーでかつ反りが抑制されてなり、転位密度が低減されたエピタキシャル基板を実現することができる。
【0051】
係るエピタキシャル基板を用いることで、例えばHEMTのような半導体素子を、サファイア基板またはSiC基板を用いた場合よりも低コストでかつ提供することができるとともに、高耐電圧化することができ、あるいはさらにリーク電流の低減も実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
<第1の実施の形態>
<エピタキシャル基板の概略構成>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10の構成を概略的に示す模式断面図である。
【0054】
エピタキシャル基板10は、下地基板1と、初期層3と、第1中間層4と、機能層5と、傾斜組成層6とを主として備える。また、エピタキシャル基板10は、
図1に示すように、下地基板1と初期層3の間に界面層2を備える態様であってもよい。界面層2については後述する。なお、以降においては、下地基板1の上に形成した各層を、エピタキシャル膜と総称することがある。また、III族元素中のAlの存在比率のことを、便宜上、AlNモル分率とも称する場合がある。
【0055】
下地基板1は、(111)面の単結晶シリコンウェハーである。下地基板1の厚みに特段の制限はないが、取り扱いの便宜上、数百μmから数mmの厚みを有する下地基板1を用いるのが好ましい。
【0056】
初期層3と、第1中間層4と、機能層5と、傾斜組成層6とは、それぞれ、ウルツ鉱型のIII族窒化物を(0001)結晶面が下地基板1の基板面に対し略平行となるように、エピタキシャル成長手法によって形成した層である。これらの層の形成は、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により行うのが好適な一例である。
【0057】
初期層3は、AlNからなる層(第1のIII族窒化物層)である。初期層3は、下地基板1の基板面に略垂直な方向(成膜方向)に成長した多数の微細な柱状結晶等(柱状結晶、粒状結晶、柱状ドメインあるいは粒状ドメインの少なくとも一種)から構成される層である。換言すれば、初期層3は、エピタキシャル基板10の積層方向への一軸配向はしてなるものの、積層方向に沿った多数の結晶粒界もしくは転位を含有する、結晶性の劣った多欠陥含有性層である。なお、本実施の形態においては、便宜上、ドメイン粒界あるいは転位も含めて、結晶粒界と称することがある。初期層3における結晶粒界の間隔は大きくても数十nm程度である。
【0058】
係る構成を有する初期層3は、c軸傾き成分についてのモザイク性の大小もしくはらせん転位の多少の指標となる(0002)面のX線ロッキングカーブ半値幅が、0.5度以上1.1度以下となるように、かつ、c軸を回転軸とした結晶の回転成分についてのモザイク性の大小もしくは刃状転位の多少の指標となる(10−10)面のX線ロッキングカーブ半値幅が0.8度以上1.1度以下となるように、形成される。
【0059】
一方、第1中間層4は、初期層3の上に形成された、Al
pGa
1−pN(0≦p<1)なる組成のIII族窒化物からなる層(第2のIII族窒化物層)である。なお、詳細は後述するが、本実施の形態に係るエピタキシャル基板10においては、第1中間層4の前後において、エピタキシャル膜の結晶品質と歪みエネルギーの蓄積状態とが異なっている。
【0060】
機能層5は、傾斜組成層6の上に形成された、III族窒化物により形成される少なくとも1つの層であり、エピタキシャル基板10の上にさらに所定の半導体層や電極などを形成することで半導体素子を構成する場合において、所定の機能を発現する層である。それゆえ、機能層5は、当該機能に応じた組成および厚みを有する1または複数の層にて形成される。
【0061】
図1においては、エピタキシャル基板10がHEMT素子の基板として用いられる場合を想定して、機能層5として、高抵抗のGaNからなるチャネル層5aと、AlNからなる第1スペーサ層5bと、AlGaNやInAlNなどからなる障壁層5cとが形成される場合を例示している。チャネル層5aは数μm程度の厚みに形成されるのが好適である。第1スペーサ層5bは1nm程度の厚みに形成されるのが好適である。ただし、HEMT素子を構成するにあたって第1スペーサ層5bは必須の構成要素ではない。障壁層5cは、数十nm程度の厚みに形成されるのが好適である。係る層構成を有することにより、チャネル層5aの障壁層5c(あるいは第1スペーサ層5b)とのヘテロ接合界面近傍には、自発分極効果やピエゾ分極効果などによって二次元電子ガス領域が形成される。
【0062】
そして、障壁層5cの上に、図示を省略するゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極を形成することで、HEMT素子が得られる。これらの電極形成には、フォトリソグラフィープロセスなどの公知の技術を適用可能である。
【0063】
あるいは、機能層5として、1つのIII族窒化物層(例えばGaN層)を形成し、その上に図示を省略するアノードとカソードとを形成することで、同心円型ショットキーバリアダイオードが実現される。これらの電極形成にも、フォトリソグラフィープロセスなどの公知の技術を適用可能である。
【0064】
傾斜組成層6は、第1中間層4と機能層5の間に形成された、III族窒化物からなる層である。ただし、傾斜組成層6は、第1中間層4との境界部分6aから機能層5との境界部分6bに向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が連続的に小さくなるように形成されてなる。つまりは、第1中間層4に近いほどAlリッチであり、機能層5に近いほどGaリッチであるように、形成されてなる。
【0065】
より具体的には、傾斜組成層6がAl
qGa
1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表されるとし、さらに、第1中間層4との境界部分6aにおいてはq=qa、機能層5との境界部分6bにおいてはq=qbであるとするとき、少なくとも、qb<qaなる関係をみたすように形成されてなる。エピタキシャル成長方向におけるAlの存在比率qの変化の割合(組成変化率)は一定である必要はなく、位置ごとに異なっていてもよいが、最大の組成変化率が0.13%/nm以下であることが必要である。本実施の形態においては、係る要件を満たす場合に、III族元素中のAlの存在比率が「連続的に」小さくなるように傾斜組成層6が形成されてなるものとする。
【0066】
傾斜組成層6は、100nm〜3μm程度の厚みに形成されるのが好適である。より好ましくは、1μm〜3μm程度の厚みに形成される。なお、傾斜組成層6は、残留ドナーによりn型の導電型を呈する。傾斜組成層6の詳細については後述する。
【0067】
<初期層と中間層の詳細構成とその効果>
初期層3と第1中間層4との界面I1(初期層3の表面)は、初期層3を構成する柱状結晶等の外形形状を反映した三次元的凹凸面となっている。界面I1がこのような形状を有することは、
図2に例示する、エピタキシャル基板10のHAADF(高角散乱電子)像において、明瞭に確認される。なお、HAADF像とは、走査透過電子顕微鏡(STEM)によって得られる、高角度に非弾性散乱された電子の積分強度のマッピング像である。HAADF像においては、像強度は原子番号の二乗に比例し、原子番号が大きい原子が存在する箇所ほど明るく(白く)観察される。
【0068】
エピタキシャル基板10においては、初期層3はAlNからなるのに対して、第1中間層4は、上記の組成式が示すように、少なくともGaを含むとともにAlNとは異なる組成を有する層である。Gaの方がAlよりも原子番号が大きいので、
図2においては、第1中間層4が相対的に明るく、初期層3が相対的に暗く観察される。これにより、
図2からは、両者の界面I1が、三次元的凹凸面となっていることが容易に認識される。
【0069】
なお、
図1の模式断面においては、初期層3の凸部3aが略等間隔に位置するように示されているが、これは図示の都合にすぎず、実際には必ずしも等間隔に凸部3aが位置するわけではない。好ましくは、初期層3は、凸部3aの密度が5×10
9/cm
2以上5×10
10/cm
2以下であり、凸部3aの平均間隔が45nm以上140nm以下であるように形成される。これらの範囲をみたす場合、特に結晶品質の優れた機能層5の形成が可能となる。なお、本実施の形態において、初期層3の凸部3aとは、表面(界面I1)において上に凸の箇所の略頂点位置のことを指し示すものとする。なお、本発明の発明者の実験および観察の結果、凸部3aの側壁を形成しているのは、AlNの(10−11)面もしくは(10−12)面であることが確認されている。
【0070】
初期層3の表面に上記の密度および平均間隔を満たす凸部3aが形成されるには、平均膜厚が40nm以上200nm以下となるように初期層3を形成することが好ましい。平均膜厚が40nmより小さい場合には、上述のような凸部3aを形成しつつAlNが基板表面を覆い尽くす状態を実現することが難しくなる。一方、平均膜厚を200nmより大きくしようとすると、AlN表面の平坦化が進行し始めるために上述のような凸部3aを形成することが難しくなる。
【0071】
なお、初期層3の形成は、所定のエピタキシャル成長条件のもとで実現されるが、初期層3をAlNにて形成することは、シリコンと液相化合物を形成するGaを含まないという点、および、横方向成長が比較的進みにくいので界面I1が三次元的凹凸面として形成されやすいという点において好適である。
【0072】
エピタキシャル基板10においては、下地基板1と第1中間層4との間に、上述のような態様にて結晶粒界を内在する多欠陥含有性層である初期層3を介在させることにより、下地基板1と第1中間層4との間の格子ミスフィットが緩和され、係る格子ミスフィットに起因する歪みエネルギーの蓄積が抑制されている。上述した初期層3についての(0002)面および(10−10)面のX線ロッキングカーブ半値幅の範囲は、この結晶粒界による歪みエネルギーの蓄積が好適に抑制される範囲として定まるものである。
【0073】
ただし、係る初期層3が介在することで、第1中間層4には、初期層3の柱状結晶等の結晶粒界が起点となった非常に多数の転位が伝播する。本実施の形態においては、初期層3と第1中間層4との界面I1を上述のように三次元的凹凸面とすることで、係る転位を効果的に低減させてなる。
図3は、エピタキシャル基板10における転位の消失の様子を模式的に示す図である。なお、
図3においては後述する界面層2を省略している。
【0074】
初期層3と第1中間層4との界面I1が三次元的凹凸面として形成されていることにより、初期層3で発生した転位dのほとんどは、
図3に示すように、初期層3から第1中間層4へと伝播する(貫通する)際に、界面I1で屈曲される。より具体的には、界面I1のうち下地基板1に略平行な箇所を伝播する転位d(d0)については第1中間層4の上方にまで達しうるが、界面I1のうち下地基板1に対して傾斜している箇所を伝播する転位d(d1)は、第1中間層4の内部において合体消失する。結果として、初期層3を起点とする転位のうち、第1中間層4を貫通する転位はごく一部となる。
【0075】
また、
図3にその様子を模式的に示すように、第1中間層4は、好ましくは、その成長初期こそ初期層3の表面形状に沿って形成されるものの、成長が進むにつれて徐々にその表面が平坦化されていき、最終的には、10nm以下の表面粗さを有するように形成される。なお、本実施の形態において、表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)により計測した5μm×5μm領域についての平均粗さraで表すものとする。ちなみに、第1中間層4が、横方向成長が比較的進みやすい、少なくともGaを含む組成のIII族窒化物にて形成されることは、第1中間層4の表面平坦性を良好なものとするうえで好適である。
【0076】
また、第1中間層4の平均厚みは、40nm以上とするのが好適である。これは、40nmより薄く形成した場合には、初期層3に由来する凹凸が十分に平坦化しきれないことや、第1中間層4に伝播した転位の相互合体による消失が十分に起こらない、などの問題が生じるからである。尚、平均厚みが40nm以上となるように形成した場合には、転位密度の低減や表面の平坦化が効果的になされるので、第1中間層4の厚みの上限については特に技術上の制限はないが、生産性の観点からは数μm以下程度の厚みに形成するのが好ましい。
【0077】
上述のような態様にて形成されてなることで、第1中間層4は、少なくとも表面近傍において(傾斜組成層6との界面近傍において)、転位密度が好適に低減されてなるとともに良好な結晶品質を有する。これにより、傾斜組成層6さらにはその上に形成された機能層5においても、良好な結晶品質が得られる。あるいは、第1中間層4、傾斜組成層6、および機能層5の組成や形成条件によっては、機能層5を第1中間層4よりも低転位に形成することもできる。例えば、転位密度が6×10
9/cm
2以下(うち、らせん転位の密度は2×10
9/cm
2以下)であり、(0002)面、(10−10)面のX線ロッキングカーブ半値幅がともに1000sec以下であるという、優れた結晶品質の機能層5を形成することができる。すなわち、機能層5は、低転位でかつ非常に良好な結晶性を有するとともに、初期層3に比べてモザイク度が非常に小さい層として形成される。
【0078】
MOCVD法によりサファイア基板またはSiC基板上に低温GaNバッファ層などを介して同じ総膜厚のIII族窒化物層群(エピタキシャル膜)を形成した場合の転位密度の値は、おおよそ5×10
8〜1×10
10/cm
2の範囲であるので、上述の結果は、サファイア基板を用いた場合と同等の品質を有するエピタキシャル基板が、サファイア基板よりも安価な単結晶シリコンウェハーを下地基板1として用いて実現されたことを意味している。
【0079】
<界面層>
上述のように、エピタキシャル基板10は、下地基板1と初期層3の間に界面層2を備える態様であってもよい。界面層2は、数nm程度の厚みを有し、アモルファスのSiAl
xO
yN
zからなるのが好適な一例である。
【0080】
下地基板1と初期層3との間に界面層2を備える場合、下地基板1と第1中間層4などとの格子ミスフィットがより効果的に緩和され、第1中間層4、傾斜組成層6、および機能層5の結晶品質がさらに向上する。すなわち、界面層2を備える場合には、初期層3であるAlN層が、界面層2を備えない場合と同様の凹凸形状を有しかつ界面層2を備えない場合よりも内在する結晶粒界が少なくなるように形成される。特に(0002)面でのX線ロッキングカーブ半値幅の値が改善された初期層3が得られる。これは、下地基板1の上に直接に初期層3を形成する場合に比して、界面層2の上に初期層3を形成する場合の方が初期層3となるAlNの核形成が進みにくく、結果的に、界面層2が無い場合に比べて横方向成長が促進されることによる。なお、界面層2の膜厚は5nmを超えない程度で形成される。このような界面層2を備えた場合、初期層3を、(0002)面のX線ロッキングカーブ半値幅が、0.5度以上0.8度以下の範囲となるように形成することができる。この場合、(0002)面のX線ロッキングカーブ半値幅が800sec以下であり、らせん転位密度が1×10
9/cm
2以下であるという、さらに結晶品質の優れた機能層5を形成することができる。
【0081】
なお、初期層3の形成時に、Si原子とO原子の少なくとも一方が初期層3に拡散固溶してなる態様や、N原子とO原子の少なくとも一方が下地基板1に拡散固溶してなる態様であってもよい。
【0082】
<傾斜組成層>
次に、傾斜組成層6についてより詳細に説明する。
【0083】
傾斜組成層6は、上述したように第1中間層4との境界部分6aから機能層5との境界部分6bに向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率qが小さくなるように形成されてなる。これにより、エピタキシャル基板10においては、境界部分6aおよび境界部分6bにおいて隣接する第1中間層4および機能層5との組成差が小さくなるように傾斜組成層6が形成されていることになる。換言すれば、エピタキシャル基板10においては、組成が異なる(すなわち格子定数が本来的に異なる)第1中間層4と機能層5とを、両者の間に実質的なヘテロ界面を生じさせることなく積層した状態が実現されてなる。これは、傾斜組成層6の形成過程において、傾斜組成層6を構成するAl
qGa
1−qNなるIII族窒化物の結晶が、直前に形成された格子定数のより小さい(Alリッチな)結晶格子に整合しようとしながら成長することで実現されたものである。係る場合、第1中間層4の上に機能層5が直接に形成されたことによってヘテロ界面を備えるエピタキシャル基板とは異なり、格子ミスフィット転位に伴う歪みエネルギーの解放がなされることなく、第1中間層4から機能層5までが形成されていることになる。
【0084】
別の見方をすれば、傾斜組成層6の形成は、下地基板1との間の格子ミスフィットに起因した歪みエネルギーの蓄積を抑制しつつ優れた結晶性を有するように形成された第1中間層4の上に、歪みエネルギーを蓄積させる態様にて行われたものともいえる。このことは、傾斜組成層6および機能層5の側からみれば、第1中間層4が、歪みが少なく結晶性の優れた下地層となっているともいえる。
【0085】
第1中間層4との境界部分6aから機能層5との境界部分6bに向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率qが小さくなるように成長が進むことから、傾斜組成層6においては、後から形成されたところほど(第1中間層4から離れたところほど)面内方向に強い圧縮応力が作用するようになる。そして、これに続く機能層5の形成も、係る圧縮応力が作用する状態で進むことになる。なお、エピタキシャル基板10の作製過程においては、機能層5の形成後、下地基板1とエピタキシャル膜との熱膨張係数の差に起因した引張応力が面内方向に作用するが、本実施の形態においては、これら圧縮応力と引張応力とが互いに相殺・軽減しあう結果、エピタキシャル基板10は残留引張応力が良好に低減されたものとなっている。これにより、エピタキシャル基板10においては、数μm程度という大きな膜厚にてエピタキシャル膜が形成されてなる場合であっても、反りや、表面におけるクラックの発生が好適に抑制されてなる。
【0086】
図4は、傾斜組成層6および機能層5の膜厚と、クラックの有無との関係を例示する図である。具体的には、傾斜組成層6を、qa=1、qb=0であり、かつ第1中間層4との境界部分6aから機能層5との境界部分6bの間の組成変化(濃度勾配)が直線的に(一次関数的に)変化するように種々の厚みに形成する一方、機能層5はGaNにて種々の厚みに形成したエピタキシャル基板についての、評価結果を示している。なおクラックが存在しない場合の機能層5の表面はいずれも鏡面となっていた。
図4に示す結果からは、傾斜組成層6の膜厚t1(nm)と機能層5の膜厚t2(nm)との関係が、次の(1)式を満たすように傾斜組成層6および機能層5を形成することで、機能層5においてクラックが発生しないエピタキシャル基板10が得られるといえる。
【0087】
t2≦40e
0.0017t1・・・・(1)
さらに、上述のように傾斜組成層6を形成した場合、第1中間層4から伝播した転位は傾斜組成層6の内部で消滅する。傾斜組成層6の形成は、その上に形成する機能層5の転位密度を低減させる効果もある。
【0088】
傾斜組成層6における上述のような圧縮応力導入の効果は、傾斜組成層6において第1中間層4との境界部分6aと機能層5との境界部分6bとの組成差が大きいほど、大きくなる。従って、qaの値は1に近いほど、qbの値は0に近いほどよい。
【0089】
例えば、エピタキシャル基板10が、高抵抗のGaNからなるチャネル層5aと、AlNからなる第1スペーサ層5bと、AlGaNやInAlNなどからなる障壁層5cとをこの順に備える機能層5を有する、HEMT素子の基板として用いられる場合であれば、傾斜組成層6は、0.8≦qa≦1、qb=0となるように形成されるのが好適である。
【0090】
なお、残留応力導入の効果をさらに高めるべく境界部分6bにおける格子定数をより大きくしたい場合は、境界部分6bをqの値が0に近いAl
qGa
1−qNにて形成するようにする代わりに、InNやInGaNなどにて形成するようにしてもよい。ただし、基板温度の設定や雰囲気ガスの選択など、Inを含むIII族窒化物を形成するための成長条件は、Al
qGa
1−qNを形成する場合と大きくなる点に留意が必要である。
【0091】
<傾斜組成層とデバイス特性との関係>
HEMT素子のような電子デバイスの作成に用いるエピタキシャル基板10に、上述のように傾斜組成層6を設けることには、以下のような利点がある。
【0092】
まず、傾斜組成層6の上に残留応力が少なく良質な結晶からなる機能層5が形成されることは、電子デバイスの高性能化(低オン抵抗、低リーク電流、高耐圧)に寄与している。
【0093】
また、第1中間層4と機能層5との間に傾斜組成層6を介在させることによってエピタキシャル基板10がクラックフリーでかつ反りが小さい状態で厚膜化されることも、電子デバイスの高耐圧化に寄与している。加えて、本実施形態の場合は、傾斜組成層6を、その直上に形成されるチャネル層5aを構成するGaNよりもバンドギャップが大きく、絶縁破壊強度の高いAl
qGa
1−qNなるIII族窒化物によって形成している。つまりは、傾斜組成層6それ自体が耐圧保持機能を有する層である。すなわち、エピタキシャル基板10において、傾斜組成層6は耐圧保持層であるともいえる。これにより、本実施の形態においては、傾斜組成層6を設けることで、単に厚膜化することによる耐圧性の確保のみならず、傾斜組成層6自体の耐圧保持機能もが、高耐圧化に寄与していることになる。ゆえに、エピタキシャル基板10においては、単に膜厚をかせぐことのみを目的として介在させる場合に比して、より効果的に高耐圧化が実現されてなる。
【0094】
また、連続的に組成が変化し、実質的なヘテロ界面が形成されていない傾斜組成層6においては、ヘテロ界面で発生しやすい電界集中が起こりにくくなっている。このことは、高耐圧化および低リーク電流化に寄与している。
【0095】
さらには、傾斜組成層6の上に2元混晶であるGaNからなるチャネル層5aを形成することで、合金散乱による電子移動度の低下を抑制し、窒化物HEMTに特有の低いオン抵抗が維持されてなる。
【0096】
<エピタキシャル基板の製造方法>
次に、MOCVD法を用いる場合を例として、エピタキシャル基板10を製造する方法について概説する。
【0097】
まず、下地基板1として(111)面の単結晶シリコンウェハーを用意し、希フッ酸洗浄により自然酸化膜を除去し、さらにその後、SPM洗浄を施してウェハー表面に厚さ数Å程度の酸化膜が形成された状態とする。これをMOCVD装置のリアクタ内にセットする。
【0098】
そして所定の加熱条件とガス雰囲気のもとで各層を形成する。まず、AlNからなる初期層3は、基板温度を800℃以上、1200℃以下の所定の初期層形成温度に保ち、リアクタ内圧力を0.1kPa〜30kPa程度とした状態で、アルミニウム原料であるTMA(トリメチルアルミニウム)バブリングガスとNH
3ガスとを適宜のモル流量比にてリアクタ内に導入し、成膜速度を20nm/min以上、目標膜厚を200nm以下、とすることによって、形成させることができる。
【0099】
なお、シリコンウェハーが初期層形成温度に達した後、初期層3の形成に先立って、TMAバブリングガスのみをリアクタ内に導入し、ウェハーをTMAバブリングガス雰囲気に晒すようにした場合には、SiAl
xO
yN
zからなる界面層2が形成される。
【0100】
第1中間層4の形成は、初期層3の形成後、基板温度を800℃以上1200℃以下の所定の中間層形成温度に保ち、リアクタ内圧力を0.1kPa〜100kPaとした状態で、ガリウム原料であるTMG(トリメチルガリウム)バブリングガスとTMAバブリングガスとNH
3ガスとを、作製しようとする第1中間層4の組成に応じた所定の流量比にてリアクタ内に導入し、NH
3とTMAおよびTMGとを反応させることにより実現される。
【0101】
傾斜組成層6の形成は、第1中間層4の形成に続いて、基板温度を800℃以上1200℃以下の傾斜組成層形成温度に保ち、リアクタ内圧力を0.1kPa〜100kPaとした状態で、リアクタ内に導入するNH
3ガスとIII族窒化物原料ガス(TMA、TMGのバブリングガス)との流量比を、傾斜組成層6において実現しようとする組成変化(濃度勾配)に応じて、徐々に変化させるようにすればよい。
【0102】
機能層5の形成は、傾斜組成層6の形成後、基板温度を800℃以上1200℃以下の所定の機能層形成温度に保ち、リアクタ内圧力を0.1kPa〜100kPaとした状態で、TMIバブリングガス、TMAバブリングガス、あるいはTMGバブリングガスの少なくとも1つとNH
3ガスとを、作製しようとする機能層5の組成に応じた流量比にてリアクタ内に導入し、NH
3とTMI,TMA、およびTMGの少なくとも1つとを反応させることにより実現される。
図1のように、機能層5を組成の異なる複数の層から構成する場合は、それぞれの層組成に応じた作製条件が適用される。
【0103】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、安価で大口径のものを入手容易なシリコン基板を下地基板とし、かつ、クラックフリーで反りが少なく、結晶品質の優れたエピタキシャル基板を、得ることができる。より詳細には、シリコン基板上に凹凸構造を有するとともに多欠陥含有性層である初期層を形成した上で、中間層その他の層(機能層など)を形成することで、シリコン基板と中間層等との間の格子ミスフィットを抑制する一方、中間層と機能層との間に面内圧縮応力が作用する傾斜組成層を介在させることで、転位低減と残留応力低減とが実現される。これにより、エピタキシャル膜が厚膜化されたエピタキシャル基板が実現される。係る厚膜化は、エピタキシャル基板の耐圧性を向上させる。
【0104】
さらに、本実施の形態によれば、エピタキシャル基板をHEMT素子などの電子デバイス用の基板として構成する場合、傾斜組成層自体を、耐圧保持機能を有するように形成できるので、上述した厚膜化による耐圧性の向上効果に、係る耐圧保持機能がさらに重畳することになる。これにより、従来に比して耐圧性の極めて優れた電子デバイスが実現される。
【0105】
<第2の実施の形態>
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るエピタキシャル基板20の構成を概略的に示す模式断面図である。
【0106】
エピタキシャル基板20は、複数の傾斜組成層6が積層形成されてなる点で、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10と相違する。それぞれの傾斜組成層6は、第1の実施の形態と同様に形成されてなる。
図5においては、複数の傾斜組成層6として、第1単位傾斜組成層61と第2単位傾斜組成層62とを積層してなる場合を例示している。
【0107】
より具体的には、第1中間層4の上に、第1単位傾斜組成層61が、第1中間層4との境界部分61aから第2単位傾斜組成層62との境界部分61bに向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が小さくなるように形成されてなる。そしてその上に、第2単位傾斜組成層62が、第1単位傾斜組成層61との境界部分62aから機能層5との境界部分62bに向かうにつれてIII族元素中のAlの存在比率が小さくなるように形成されてなる。
【0108】
係る構成を有するエピタキシャル基板20においては、Gaリッチな境界部分61bとAlリッチな境界部分62aとの界面で組成の不連続があるものの、第1単位傾斜組成層61が面内に圧縮応力が作用する態様にて形成されてなるので、第2単位傾斜組成層62は、第1単位傾斜組成層61と整合を保って結晶成長してなる。
【0109】
その結果、第2単位傾斜組成層62の上に形成された機能層5においては、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10の機能層5と同様、圧縮応力が作用してなる。これにより、エピタキシャル基板20は、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10と同様、残留引張応力が低減されたものとなっており、反りが抑制されてなる。
【0110】
また、エピタキシャル基板20は、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10よりも総膜厚が大きいので、これを用いた電子デバイスにおいては、反りを抑制しつつエピタキシャル基板10を用いた場合よりもさらに高い高耐圧化が実現される。
【0111】
<第3の実施の形態>
図6は、本発明の第3の実施の形態に係るエピタキシャル基板30の構成を概略的に示す模式断面図である。
【0112】
エピタキシャル基板30は、傾斜組成層6と機能層5との間に、第2中間層7を備える点で、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10と相違する。
【0113】
第2中間層7は、AlNにて1nm〜数十nm程度の厚みを有するように形成するのが好適である。
【0114】
係る構成を有するエピタキシャル基板30においては、傾斜組成層6のGaリッチな境界部分6bの上にAlリッチな第2中間層7が形成されてなることで、両者の界面で組成の不連続があるものの、傾斜組成層6が面内に圧縮応力が作用する態様にて形成されてなるので、第2中間層7は、傾斜組成層6と整合を保って結晶成長してなる。
【0115】
その結果、第2中間層7の上に形成された機能層5においては、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10と同様、強い圧縮応力が作用してなる。これにより、エピタキシャル基板30は、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10よりもさらに残留引張応力が低減されたものとなっており、エピタキシャル基板10よりもさらに、反りが抑制されてなる。
【0116】
<第4の実施の形態>
図7は、本発明の第4の実施の形態に係るエピタキシャル基板40の構成を概略的に示す模式断面図である。
【0117】
エピタキシャル基板40は、第1中間層4と傾斜組成層6との間に、超格子構造層8を備える点で、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10と相違する。
【0118】
超格子構造層8は、相異なる組成の2種類のIII族窒化物層である第1単位層8aと第2単位層8bとを繰り返し交互に積層することにより形成されてなる。ここで、1つの第1単位層8aと1つの第2単位層8bとの組をペア層とも称する。
【0119】
超格子構造層8は、下地基板1である単結晶シリコンウェハーとIII族窒化物との膨張係数差に起因して第1中間層4の面内方向に生じる歪をさらに緩和し、傾斜組成層6への歪の伝播をより抑制する作用を有している。
【0120】
超格子構造層8を備えるエピタキシャル基板40は、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10に比してエピタキシャル膜の総膜厚が大きいので、エピタキシャル基板10よりもさらに高い耐圧性を有してなる。
【0121】
なお、超格子構造層8を介在させたとしても、形成条件が好適に設定されていれば、傾斜組成層6および機能層5の結晶品質は十分良好な程度に(超格子構造層8を有さない場合と同程度に)確保される。
【0122】
超格子構造層8は、第1単位層8aをGaNにて数十nm程度の厚みに形成し、第2単位層8bをAlNにて数nm程度の厚みに形成するのが好適な一例である。
【0123】
ペア層の形成を繰り返すことによって、第1中間層4に内在する歪を第1の実施の形態よりもさらに十分に開放させたうえで、傾斜組成層6および機能層5を形成してなることで、エピタキシャル基板40においては、下地基板1とIII族窒化物層群との熱膨張係数の差に起因するクラックや反りの発生がさらに好適に抑制される。換言すれば、超格子構造層8は、エピタキシャル基板10において、傾斜組成層6および機能層5に対する歪の伝播を緩和する歪緩和能を有してなるといえる。また、エピタキシャル基板40は、第1の実施の形態に係るエピタキシャル基板10よりも総膜厚が大きいので、これを用いた電子デバイスにおいては、反りを抑制しつつエピタキシャル基板10を用いた場合よりもさらに高い高耐圧化が実現される。
【0124】
<変形例>
上述の各実施の形態においては、傾斜組成層6は残留ドナーによってn型の導電型を呈するが、その形成時にアクセプタ元素を補償ドーピングすることで、傾斜組成層6が高抵抗化されてなる態様であってもよい。例えば、1×10
18/cm
3〜(1×10
20/cm
3程度のMgをドープするのが好適な一例である。MOCVD法でエピタキシャル基板を形成する場合であれば、Mgのドープは、Cp
2Mgバブリングガスを原料ガスとすることで実現される。
【0125】
傾斜組成層6にアクセプタ元素がドープされたエピタキシャル基板をショットキーバリアダイオードの形成に用いた場合、逆方向リーク電流がより低減される。
【0126】
また、第1中間層4の形成時にドナー元素をドーピングするようにしてもよい。例えば、1×10
16/cm
3〜1×10
17/cm
3程度のSiをドープするのが好適な一例である。MOCVD法でエピタキシャル基板を形成する場合であれば、Siのドープは、SiH
4バブリングガスを原料ガスとすることで実現される。
【0127】
第1中間層4にドナー元素がドープされたエピタキシャル基板をショットキーバリアダイオードの形成に用いた場合、電圧印加時にショットキー電極から拡がる空乏層の端部を傾斜組成層6の内部に留まらせることができる。すなわち、下地基板1への空乏層の伸長(いわゆるパンチスルー)が防止される。これにより、ショットキーバリアダイオードの耐電圧性がより向上する。
【実施例】
【0128】
(実施例1、比較例1、および比較例2)
実施例1として、Al
qGa
1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表される傾斜組成層6の形成条件を違えた5種のエピタキシャル基板10(試料a−1〜a−5)を作製した。また、比較例1として、傾斜組成層6を備えない2種のエピタキシャル基板(試料b−1〜b−2)を作製した。さらに、比較例2として、傾斜組成層6に代え、同じくAl
qGa
1−qN(0≦q≦1)なる組成式で表されるものの、階段状に組成が変化してなる層(不連続組成層と称する)を設けたほかは、実施例1と同様の手順によって、2種のエピタキシャル基板(試料c−1〜c−2)を作製した。ただし、いずれの試料においても、界面層2の形成は省略した。
【0129】
第1中間層4までの形成は各試料とも同様の手順で行った。まず、下地基板1として直径が4インチで基板厚みが525μmの(111)面単結晶シリコンウェハー(以下、シリコンウェハー)を用意した。用意したシリコンウェハーに、フッ化水素酸/純水=1/10(体積比)なる組成の希フッ酸による希フッ酸洗浄と硫酸/過酸化水素水=1/1(体積比)なる組成の洗浄液によるSPM洗浄とを施して、ウェハー表面に厚さ数Åの酸化膜が形成された状態とし、これをMOCVD装置のリアクタ内にセットした。次いで、リアクタ内を水素・窒素混合雰囲気とし、リアクタ内圧力を15kPaとして、基板温度が初期層形成温度である1100℃となるまで加熱した。
【0130】
基板温度が1100℃に達すると、リアクタ内にNH
3ガスを導入し、1分間、基板表面をNH
3ガス雰囲気に晒した。
【0131】
その後、TMAバブリングガスを所定の流量比にてリアクタ内に導入し、NH
3とTMAを反応させることによって表面が三次元的凹凸形状を有する初期層3を形成した。その際、初期層3の成長速度(成膜速度)は20nm/minとし、初期層3の目標平均膜厚は100nmとした。
【0132】
初期層3が形成されると、続いて、基板温度を1100℃とし、リアクタ内圧力を15kPaとして、TMGバブリングガスをリアクタ内にさらに導入し、NH
3とTMAならびにTMGとの反応により、第1中間層4としてのAl
0.3Ga
0.7N層を平均膜厚が50nm程度となるように形成した。
【0133】
なお、以上の工程までを行った試料についてTEM(透過型電子顕微鏡)およびHAADF(高角散乱電子)像による構造分析を行った結果、初期層3たるAlN層が三次元的な表面凹凸形状を有する態様にて堆積されていることが確認された。また、凸部3aの密度が1×10
10/cm
2程度であり、凸部3aの平均間隔が100nm程度であることが確認された。なお、AlN層のX線ロッキングカーブの半値幅を測定したところ、(0002)面、(10−10)面ともに0.8度(2870sec)程度であった。
【0134】
また、Al
0.3Ga
0.7N層の転位密度を評価したところ、層全体の平均値としては約1×10
11/cm
2程度(らせん転位は1×10
10/cm
2程度)であったが、Al
0.3Ga
0.7N層表面においては、1×10
10/cm
2程度(らせん転位は約2×10
9/cm
2程度)となっていた。すなわち、多くの転位がAlGaN膜の成長過程において合体、消失していることが確認された。
【0135】
第1中間層4が形成されると、続いて、実施例1および比較例2に係る試料については、基板温度を1100℃とし、リアクタ内圧力を15kPaとして、傾斜組成層6または不連続組成層を2μmの厚みに形成した。
図8に、実施例1および比較例2の各試料についての、傾斜組成層6の厚み方向位置とAlNモル分率との関係、つまりは濃度勾配を示している。なお、
図8に示した各試料についてのAlNモル分率は、試料断面をTEMによって観察した際にEDS(エネルギー分散型X線分光分析)スポット分析を行うことによって得た値である。
【0136】
図8に示したように、傾斜組成層の第1中間層4との境界部分の組成は、試料a−5を除いてAlNであるようにした。試料a−5のみAl
0.8Ga
0.2Nとした。一方、機能層5との境界部分の組成はいずれの試料においてもGaNであるようにした。また、試料a−1〜a−5、およびb−1〜b−2の最大組成変化率はそれぞれ、約0.05%/nm、約0.1%/nm、約0.13%/nm、約0.13%/nm、約0.04%/nm、約0.98%/nm、約0.6%/nmである。
【0137】
実施例1および比較例2に係る試料については傾斜組成層6または不連続組成層の形成後、比較例1に係る試料については第1中間層4の形成後直ちに、基板温度を1100℃とし、リアクタ内圧力を30kPaとして、TMGとNH
3を反応させて機能層5としてのGaN層を形成した。GaN層は、試料b−2のみ800nmの厚みに形成し、他の試料については、1μmの厚みに形成した。これによりエピタキシャル基板が得られた。
【0138】
得られたエピタキシャル基板のGaN層について、表面クラックの有無の評価と転位密度の測定とを行った。また、エピタキシャル基板の反り量も測定した。なお、エピタキシャル基板の反り量は、レーザー変位計によって測定した。
【0139】
図9に、得られたエピタキシャル基板におけるエピタキシャル膜の総膜厚と、上記の評価の結果を一覧にして示す。
図9に示すように、試料b−1およびc−1においてはGaN層の表面(つまりはエピタキシャル膜の表面)にクラックが観察されたが、傾斜組成層6を備えた試料a−1〜a−5においては、クラックは観察されなかった。また、傾斜組成層6を備えた試料a−1〜a−5の方が、これを備えない試料b−1、b−2、c−1、c−2よりも、反りが小さかった。係る結果は、傾斜組成層6を設けることが、エピタキシャル基板のクラック抑制と反り低減に効果的であることを指し示している。
【0140】
なお、比較例1と比較例2とをみると、クラックの発生した試料の方が、クラックが発生していない試料よりも反りが小さいが、これは、クラックの発生によって応力がある程度解放されたためであると解される。
【0141】
GaN層の転位密度についてみると、傾斜組成層6を備えた試料a−1〜a−5では1×10
9/cm
2程度であり、傾斜組成層6を備えない試料b−1、b−2、c−1、c−2の1/4〜1/5程度の小さい値が得られている。この結果は、傾斜組成層6を設けることが、エピタキシャル膜の低転位化に効果的であることを指し示している。
【0142】
次に、GaN層にクラックが生じていた試料b−1、c−1を除き、それぞれのエピタキシャル基板にフォトリソグラフィープロセスによりGaN層の上にアノード電極としてPt電極を形成するとともにカソード電極としてTi/Alオーミック電極を形成して、電極間隔10μmの同心円型ショットキーバリアダイオードを得た。係るショットキーバリアダイオードについて、シリコンウェハーとカソード電極とをともに接地した状態で、逆方向電流−電圧特性として、印加電圧100V時のリーク電流と、ダイオード素子が破壊に至る電圧である耐電圧とを評価した。これらの評価結果も併せて
図9に示している。
【0143】
図9に示すように、傾斜組成層6を備える試料a−1〜試料a−5のリーク電流は、比較例2に係る試料c−2の1/100程度であった。これは、上述したエピタキシャル膜の低転位化の効果であるといえる。
【0144】
また、耐電圧についてみれば、傾斜組成層6を備える試料a−1〜試料a−5においては、900V以上という高い耐電圧が得られたのに対し、総膜厚が同じであるものの傾斜組成層6ではなく不連続組成層を備える比較例2に係る試料c−2の耐電圧は620Vに留まっていた。また、総膜厚が小さい比較例1に係る試料b−2の耐電圧の値は、さらに小さい180Vであった。係る結果は、単に総膜厚を大きくするだけではなく、耐圧保持機能を有する傾斜組成層6により厚膜化を図ることが、高耐電圧化に効果的であることを示している。
【0145】
以上に示した実施例1、比較例1、および比較例2の対比より、傾斜組成層を備えるエピタキシャル基板を用いることが、リーク電流の低減および高耐電圧化という、ショットキーバリアダイオードの逆方向特性の向上に効果があるといえる。
【0146】
(実施例2)
傾斜組成層6と機能層5としてのGaN層の膜厚を種々に違えたほかは、実施例1と同様の手順で10種のエピタキシャル基板(試料d−1〜d−10)を作製した。なお、傾斜組成層6における組成変化率は実施例1の試料a−1と同じ約0.05%/nmとなるようにした。また、試料d−1〜d−7については、傾斜組成層6と機能層5の膜厚が(1)式の関係をみたすようにした。
【0147】
得られたエピタキシャル基板のGaN層について、表面クラックの有無の評価と転位密度の測定とを行った。また、エピタキシャル基板の反り量も測定した。
【0148】
さらに、表面にクラックの発生しなかったものについては、やはり実施例1と同様に、同心円型ショットキーバリアダイオードを作製した。係るショットキーバリアダイオードについて、実施例1と同様に印加電圧100V時のリーク電流と耐電圧とを評価した。
【0149】
図10は、各試料についての、傾斜組成層6の膜厚、機能層の膜厚、およびエピタキシャル膜の総膜厚と、上記の各評価結果とを、一覧にして示す図である。なお、
図10においては、試料a−1についての値も併記している。
【0150】
図10に示すように、(1)式をみたす試料d−1〜d−7においては、クラックが発生しなかったが、(1)式をみたさない試料d−8〜d−10にはクラックが発生していた。
【0151】
一方、エピタキシャル基板の反り量は、最も値が大きい試料d−1でも比較例1より小さく、概ね実施例1と同等あるいはそれ以下であった。係る結果も、実施例1と同様、傾斜組成層6を設けることでエピタキシャル基板の反りが抑制されることを指し示している。
【0152】
GaN層の転位密度については、傾斜組成層6の厚みによって差異があり、傾斜組成層6の厚みが1μm以上である試料d−1〜d−5およびd−8〜d−10は当該厚みが1μm未満の試料d−6〜d−7よりも転位密度が小さかった。これは、傾斜組成層6を厚く形成するほど、傾斜組成層6さらにはGaN層に伝播した転位が消失することを示す結果である。また、これに対応して、試料d−1〜d−5は試料d−6〜d−7よりもショットキーバリアダイオードにおけるリーク電流の値が小さかった。以上の結果は、(1)式をみたし、かつ、傾斜組成層6を1μm以上の厚みに形成することで、エピタキシャル膜の低転位化と、ショットキーバリアダイオードにおけるリーク電流の抑制が実現されることを示している。
【0153】
さらに、
図10からは、(1)式をみたしかつ傾斜組成層の厚みを4μm以上とすることで、1300V以上という、実施例1よりもさらに高い耐電圧が実現されることがわかる。
【0154】
(比較例3)
比較例3として、下地基板にSiCウェハーを用いたエピタキシャル基板を作製した。
【0155】
具体的には、まず、下地基板として(111)面のn型導電性である4インチ径単結晶6H−SiCウェハーを用意した。用意したSiC基板をMOCVD装置のリアクタ内にセットした。次いで、リアクタ内を水素・窒素混合雰囲気とし、リアクタ圧力を15kPaとし、基板温度がバッファ層形成温度である1100℃となるまでSiCウェハーを加熱した。
【0156】
基板温度が1100℃に達すると、リアクタ内にNH
3ガスとTMAバブリングガスを導入し、いわゆるバッファ層として、厚さ200nm程度のAlN層を形成した。
【0157】
AlNからなるバッファ層が形成されると、次いで基板温度を1100℃とし、リアクタ内圧力を30kPaとして、TMGとNH
3を反応させて機能層に相当するGaN層を3μmの厚さで形成した。これによりエピタキシャル基板が得られた。エピタキシャル基板にクラックは確認されなかった。作製したエピタキシャル基板の総膜厚は、3.2μmであった。
【0158】
続いて、得られたエピタキシャル基板を用いて、実施例1と同様の手順にてショットキーバリアダイオード素子を作製し、そのリーク電流と耐電圧とを測定した。その結果、印加電圧100V時の逆方向リーク電流は1×10
−6A/cm
2であり、耐電圧は885Vであった。
【0159】
(比較例3と実施例1との対比)
図9に示した実施例1に係るエピタキシャル基板の評価結果と上述した比較例3に係るエピタキシャル基板の評価結果とを対比すると、実施例1に係るエピタキシャル基板が、比較例3に係るエピタキシャル基板と同等あるいはそれ以上の特性を有していることが明らかである。特に、両者の総膜厚はほぼ同程度であるのに関わらず、実施例1に係るエピタキシャル基板を用いたショットキーバリアダイオードにおいては、より高い耐電圧が得られている。係る結果は、SiCウェハーよりも安価なSiウェハーを用いて、より特性の優れたエピタキシャル基板を提供することができることを示している。
【0160】
実施例1においては、傾斜組成層6を、その直上に形成されるGaNからなる機能層よりもバンドギャップが大きく、絶縁破壊強度の高いAl
qGa
1−qNなるIII族窒化物によって形成しているので、エピタキシャル膜の総膜厚の差異がほとんどないにもかかわらず耐電圧に大きな差異が生じているということは、傾斜組成層6それ自体の耐圧保持機能が高耐圧化に寄与していることを指し示すものといえる。
【0161】
(実施例3および比較例4)
実施例3として、GaN層の形成までは実施例1の試料a−1と同様に行い、続いて、基板温度を1100℃、リアクタ内圧力を10kPaとして、TMA、TMG、NH
3をリアクタ内に導入し、障壁層としてのAl
0.2Ga
0.8N層を25nmの厚みに形成した。
【0162】
また、比較例4として、GaN層の形成までを比較例3と同様に行い、続いて、基板温度を1100℃、リアクタ内圧力を10kPaとして、TMA、TMG、NH
3をリアクタ内に導入し、障壁層としてのAl
0.2Ga
0.8N層を25nmの厚みに形成した。
【0163】
以上の手順により作製されたそれぞれのエピタキシャル基板のAlGaN/GaN積層構造について、電子移動度と2次元電子密度を測定したところ、いずれも、エピタキシャル基板の電子移動度は約1500cm
2/Vsであり、2次元電子密度は約1×10
13/cm
2であった。この結果は、下地基板にSiウェハーを用いた実施例3に係るエピタキシャル基板は、下地基板にSiCウェハーを用いた比較例4に係るエピタキシャル基板と同等の特性を有することを指し示している。
【0164】
(実施例4)
実施例4として、単位体積あたりのMg濃度が10
18/cm
3程度となるように、傾斜組成層6の形成中にCp
2Mgのバブリングガスを導入したこと以外は、実施例1の試料a−1と同様にエピタキシャル基板を作製した。さらには、実施例1と同様にショットキーバリアダイオードを作製した。
【0165】
作製したショットキーバリアダイオード素子の逆方向特性を評価したところ、耐電圧は実施例1の各試料と同程度の975Vであったが、逆方向リーク電流は試料a−1よりもさらに少ない2×10
−7A/cm
2という値が得られた。この結果は、Mgのドープが、残留ドナーによりn型伝導層を示す傾斜組成層を高比抵抗化させる効果があることを示すものといえる。
【0166】
(実施例5)
実施例5として、第1中間層としてのAl
0.3Ga
0.7N層における単位体積あたりのSi濃度が、7×10
16/cm
3程度となるように、Al
0.3Ga
0.7N層の形成中にSiH
4ガスを導入したこと以外は、実施例1の試料a−1と同様にエピタキシャル基板を作製した。さらには、実施例1と同様にショットキーバリアダイオードを作製した。
【0167】
作製したショットキーバリアダイオード素子の逆方向特性を評価したところ、逆方向リーク電流は実施例1と同等程度の1×10
−6A/cm
2であったが、耐電圧は、実施例1よりも高い1025Vという値が得られた。この結果は、第1中間層にドナー元素をドーピングすることが、電圧印加時にショットキー電極から拡がる空乏層のSi下地基板へのパンチスルーを防止し、n型の導電型を呈する傾斜組成層の内部に空乏層端を留めるという効果があることを示している。
【0168】
(実施例6)
実施例6においては、第2の実施の形態に係るエピタキシャル基板を作製した。具体的には、傾斜組成層6の形成を実施例1の試料a−1と同様に2回繰り返した後、その上に実施例1と同様に、機能層としてのGaN層を1μmの厚みに形成した。得られたエピタキシャル基板の総膜厚は、5.15μmであった。
【0169】
得られたエピタキシャル基板に対し、実施例1と同様に、表面クラックの有無の評価と転位密度の測定とを行った。また、エピタキシャル基板の反り量も測定した。その結果、クラックは観測されなかった。反り量は67μmであり、比較例1よりは小さい値が得られていた。また、GaN層の転位密度は1×10
9/cm
2であった。
【0170】
さらに、実施例1と同様の手順でショットキーバリアダイオードを作製し、そのリーク電流と耐電圧とを測定した。その結果、印加電圧100V時の逆方向リーク電流は1×10
−6A/cm
2と実施例1と同程度であったが、耐電圧は、実施例1に係るエピタキシャル基板に比して高い、1660Vという値が得られた。係る結果は、複数の傾斜組成層6を積層形成することにより、ウェハーの反りを抑制しつつ総膜厚を増加させることができ、これによって耐電圧を大幅に向上させることができることを示している。
【0171】
(実施例7)
実施例7においては、第3の実施の形態に係るエピタキシャル基板として、第2中間層7としてのAlN層の厚みが異なる3種のエピタキシャル基板を作製した。AlN層の目標膜厚はそれぞれ、5、10、20nmとした。具体的には、傾斜組成層6の形成までは実施例1と同様に行い、続いて、目標膜厚のAlN層を形成した後、その上に機能層としてのGaN層を1μmの厚みに形成した。作製したエピタキシャル基板の総膜厚は、3.15μm前後であった。
【0172】
得られた3種のエピタキシャル基板のGaN層について、実施例1と同様に、表面クラックの有無の評価と転位密度の測定とを行った。また、エピタキシャル基板の反り量も測定した。その結果、3種のエピタキシャル基板のいずれにもクラックは観測されなかった。また、反り量は各々42、43、42μmと、第2中間層7の厚みによらずほぼ同様であったが、いずれも実施例1よりも値は小さかった。GaN層の転位密度はいずれも1×10
9/cm
2であり、実施例1と同程度であった。
【0173】
続いて、得られたエピタキシャル基板を用いて、実施例1と同様の手順にてショットキーバリアダイオード素子を作製し、そのリーク電流と耐電圧とを測定した。
【0174】
その結果、印加電圧100V時の逆方向リーク電流は、いずれの試料についても実施例1と同程度の1×10
−6A/cm
2であった。また、耐電圧も、それぞれ980V、975V、977Vと、第2中間層の厚みによらず実施例1とほぼ同程度であった。係る結果は、傾斜組成層と機能層の間に第2中間層を挿入することで、特性を変動させることなくエピタキシャル基板の反りをさらに抑制することができることを示している。
【0175】
(実施例8)
実施例8においては、第4の実施の形態に係るエピタキシャル基板を作製した。具体的には、第1中間層4の形成までは実施例1と同様に行った後、続いて、第1単位層8aをGaN層とし、第2単位層8bをAlN層とするペア層を40周期分形成することにより、超格子構造層8を形成した。その際、AlN層の目標膜厚を5nm、GaN層の目標膜厚を20nmとした。得られた超格子構造層の厚みは、1μmであった。係る周期構造層の上に、傾斜組成層6と機能層5としてのGaN層とを実施例1の試料a−1と同様に形成した。得られたエピタキシャル基板の総膜厚は、4.15μmであった。
【0176】
得られたエピタキシャル基板のGaN層について、実施例1と同様に、表面クラックの有無の評価と転位密度の測定とを行った。また、エピタキシャル基板の反り量も測定した。その結果、クラックは観測されなかった。エピタキシャル基板の反り量は62μmであり、比較例1よりは小さい値が得られていた。また、GaN層の転位密度は1×10
9/cm
2であった。
【0177】
続いて、得られたエピタキシャル基板を用いて、実施例1と同様の手順にてショットキーバリアダイオード素子を作製し、そのリーク電流と耐電圧とを測定した。その結果、印加電圧100V時の逆方向リーク電流は1×10
−6A/cm
2と実施例1と同程度であったが、耐電圧は、実施例1に係るエピタキシャル基板に比して高い、1180Vであった。係る結果は、超格子構造層を形成することにより、ウェハーの反りを抑制しつつ総膜厚を増加させることができ、これによって耐電圧を大幅に向上させることができることを示している。